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点状表層角膜症を有する緑内障患者における実用視力

2018年1月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(1):144.148,2018c点状表層角膜症を有する緑内障患者における実用視力湖崎淳前田直之湖崎亮湖崎眼科CFunctionalVisualAcuityofGlaucomaPatientswithSuper.cialPunctateKeratopathyJunKozaki,NaoyukiMaedaandRyoKozakiCKozakiEyeClinic目的:緑内障点眼は長期にわたり使用し,点状表層角膜症(SPK)が起こる可能性が高い.そこで,SPKが視機能にどのように影響するかを,緑内障点眼を使用しCSPKのみられたC22名C40眼で調査した.方法:視機能を評価するため,実用視力を測定し,スタート時視力より何段階低下したかで評価した.SPKの及ぶ範囲で,中央群と非中央群のC2群に分けた.結果:中央群はC19眼で非中央群はC21眼であった.中央群のうちスタート時視力に対して,実用視力がC3段階低下したものがC78.9%,4段階低下したものがC78.9%,5段階低下したものがC57.9%であった.平均低下はC4.6段階であった.非中央群ではそれぞれC47.6%,33.3%,4.8%であり,平均低下はC2.7段階であった.結論:SPKが強い場合や角膜中央部に及ぶ場合は,実用視力が低下する可能性がある.視力や視野がそれほど悪くなくても,視機能低下を訴える患者の場合は,角膜上皮障害にも注意を払い,点眼を選択する必要があると思われた.TheCe.ectCofCsuper.cialCpunctateCkeratopathy(SPK)onCfunctionalCvisualCacuity(FVA)wasCevaluatedCinC40Ceyesof22glaucomapatientswhohadSPKduetoglaucomaeyedrops.In19eyes,SPKwasfoundatthecentralzoneofthecornea(Centergroup)andoutsidethecentralzonein21eyes(Non-centergroup).TheincidencesoflossofaverageFVAat3,4and5linesormorefromthebaselinewere78.9,78.9and57.9%intheCentergroup(Meanloss:4.6lines),and47.6,33.3and4.8%intheNon-centergroup(Meanloss:2.7lines),respectively.TheresultsCsuggestCthatCFVACeasilyCdeterioratesCwhenCSPKCisCinCtheCcentralCzoneCofCtheCcornea.CAttentionCshouldCbeCpaidCtoCtoxicCkeratopathyCwhenCpatientsCclaimCdeteriorationCofCvisionCwithoutCtheClossCofCvisualCacuityCorCvisualC.eld.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(1):144.148,C2018〕Keywords:緑内障点眼,点状表層角膜症,視機能,実用視力.glaucomaeyedrops,super.cialpunctatekeratop-athy(SPK),visualfunction,functionalvisualacuity.はじめに緑内障点眼は長期にわたり使用するため,薬剤による細胞毒性や組織毒性により点状表層角膜症(super.cialpunctatekeratopathy:SPK)が生じる可能性が高い1.6).以前,筆者が調査したところ,緑内障点眼を使用している患者C882眼のうちC47.5%にCSPKがみられた4).そのほとんどがCAD分類7)でA+D<3の軽症例であったが,A+D>4の重症例は12.8%にみられた4).SPKの影響として,異物感,易感染性,そして視機能障害が考えられる.SPKが広範囲や高密度に発生している例では高次収差の悪化がみられるが(図1),視力への影響は不明である.SPKによる視機能障害のなかには通常の視力検査では検出できない実用視力の低下がある.人が集中してものを見るとき,瞬きが抑制される.このような状態での視機能を評価しようとしたのが実用視力である8).通常の視力検査で得られた視力をスタート時視力とし,1.5秒ごとに視標が提示される.正答誤答によって視標の大きさが変わりC1分間の平均視力と視力維持率が測定される.これは,注視していると徐々に視力が低下することを評価している.実用視力の経時的な低下は,新聞などを見ていると霞んでくる,などの自覚症状に該当し,実臨床の現場でしばしば遭遇する.SPKが広範囲,高密度のドライアイ眼では高次収差の悪化,実用視力の低下がみらることが報告さC〔別刷請求先〕湖崎淳:〒545-0021大阪府大阪市阿倍野区阪南町C1-51-10湖崎眼科Reprintrequests:JunKozaki,M.D.,Ph.D.,KozakiEyeClinic,1-51-10Hannan-cho,Osaka545-0021,JAPAN144(144)れている9.11)が緑内障眼での報告はない.そこで,今回は緑内障点眼を使用しCSPKが発生している患者の実用視力について調査した.CI対象および方法平成C28年C10月からのC1カ月間で,当院で緑内障点眼を投与しCSPKのみられたC22例C40眼(平均年齢C69.8C±10.6歳,男性C4例,女性C18例,MD:C.5.34±4.64CdB)の実用視力を測定した.症例内訳は原発開放隅角緑内障C14人,正常眼圧緑内障C7人,高眼圧症C1人であった.視力はすべて矯正0.9以上で,視機能に影響を及ぼす可能性のある緑内障手術後,角膜混濁のある症例,眼圧がC20CmmHg以上の症例は省いた.実用視力はコーワ社製特殊視力検査装置CAS-28を用いて測定した8).この装置は視力の経時的変動を記録し,1分間の平均視力を表示する.視標の提示時間はC3秒とした.通常の視力検査で得られた矯正視力をスタート時視力として入力した.SPKの及んでいる範囲で,中央群と非中央群に分けて検討した.CII結果予備調査として,緑内障点眼を使用しているがCSPKがない緑内障症例C13眼(平均年齢C69.0C±8.4歳,平均CMD:C.10.78±6.70dB,スタート時視力:1.0.1.2,平均C1.2C±0.06)の実用視力を測定した.SPKがみられない群での視野障害(Humphrey視野計の)MD値とスタート時視力と平均視力の低下段階との決定係数はCrC2=0.011で,中心視野障害がなく,SPKのみられない緑内障患者においては,視野障害と実用視力の低下の間には有意な相関を認めなかった.角膜中央部にCSPKが及んでいない症例(非中央群)はC21眼(平均年齢C67.9C±10.6歳,MD:C.5.44±5.15CdB,スタート時視力:0.9.1.2,平均C1.1C±0.1),角膜中央部にCSPKが及んでいる症例(中央群)はC19眼(69.8C±9.7歳,MD:C.5.23CdB±3.90CdB,スタート時視力:0.9.1.2,平均C1.1C±0.1)であった.スタート時視力は両群に差はなかった.非中央群のうち,平均視力がスタート時視力よりC3段階以上低下している症例はC10眼C47.6%,4段階以上低下がC7眼C33.3%,5段階低下がC1眼C4.8%であった.非中央群の代表症例を図2と図3に示す.中央群ではC3段階以上低下している症例はC15眼C78.9%であった.4段階以上低下もC15眼C78.9%,5段階低下はC11眼C57.9%であった.中央群の代表症例を図4と図5に示す.いずれも,両群間に有意差がみられた(Fisher検定).また,平均視力低下量は非中央群ではC2.7段階,中央群ではC4.6段階で両群間に有意差がみられた(Mann-WhitnetUtest)(表1).両群のスタート時視力と平均視力の分散図を図6に示す.C6秒7秒8秒9秒10秒RMS:rootmeansquare:収差量を数量的に表示図1SPK発症例の高次収差68歳,女性.プロスタグランジン製剤点眼使用.10秒後の高次収差が悪化.CIII考按緑内障点眼を使用している患者にはCSPKがよくみられる4).原因は緑内障点眼なのか,ドライアイが影響しているのかは不明であるが,緑内障点眼が悪化要因にはなっていると思われる.緑内障点眼によりCSPKが発生または増悪すると,涙液層に異常をきたし,涙液層の安定性が低下すると考えられる.その視機能を評価するのに高次収差の連続測定が有用であるとCKohら9)は報告している.しかし,高次収差は視機能の質の評価はできても,視力の変動を直接測定することはできない.今回筆者らは,視機能の動的な変動を評価するために実用視力を用いた.実用視力は,ドライアイによる角膜障害のみならず,他の疾患の視機能の評価にも応用されている12).今回の測定で,毎回の視標の提示時間はC3秒とした.日常視においては視力検査時のように目標物を固視することは少なくC2.3秒ごとに視線が動いていると考えたからである.その結果,角膜中央にCSPKのある症例では,実用視力がより低下する傾向があった.Kohら10)も角膜中央にCSPKのある例は,中央にCSPKのない例より高次収差は大きいと報告している.また,Kaidoら11)はドライアイの症例で角膜染色が高度になるに従って実用視力は低下し,視力維持率も低下するとしている.今回の筆者らの緑内障の症例でも,角膜中央にCSPKのある症例ではC78.9%でC4段階の視力低下,57.9%でC5段階の視力低下がみられた.緑内障点眼で図2非中央群の代表症例65歳,女性,プロスタグランジン製剤点眼,炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤を両眼に使用.SPKは中央部に及んでいない.図3非中央群の代表症例(図2)の平均視力右眼スタート視力C1.2,平均視力C1.16.左眼スタート視力C1.2,平均視力C1.12.スタート時視力と平均視力の差はない.図4中央群の代表症例62歳,男性.プロスタグランジン製剤点眼,アドレナリンCa2受容体作動薬点眼,炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤を両眼に使用.SPKは中央部に及んでいる.図5中央群の代表症例(図4)の平均視力右眼スタート視力C1.0,平均視力C0.46.左眼スタート視力C1.0,平均視力C0.54.右眼はC5段階低下.左眼はC4段階低下.C表1スタート視力と平均視力(実用視力)との差3段階以上視力低下4段階以上視力低下5段階視力低下平均低下段階非中央群2C1眼中央群1C9眼10眼C47.6%15眼C78.9%p<C0.05Fisher検定7眼3C3.3%15眼C78.9%p<C0.01Fisher検定1眼C4.8%11眼C57.9%p<C0.01Fisher検定C2.7段階4.6段階p<C0.05Mann-WhitneyUtest平均視力非中央群と中央群では視力低下に有意差がみられる.1.210.8中央群0.6非中央群0.40.2000.20.40.60.811.2スタート時視力図6中央群と非中央群のスタート時視力と平均視力の分散図中央群(◆)のほうが,非中央群(〇)より平均視力の低下していることがわかる.SPKが発生しても,ドライアイと同じようにCSPKによる収差ないし散乱が増加したためと思われた.緑内障患者で視力や視野が良好でも,なんとなく風景が霞んで見えたり,物を見つめていると視力が下がったような気がする患者には,角膜上皮障害にも注意を向け,薬剤毒性角膜症による視機能への影響を考え,防腐剤フリーの点眼に変更するか,配合剤に変更し点眼本数を減らすなどを考慮する必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,C19892)小室青,横井則彦,木下茂:ラタノプロストによる角膜上皮障害.日眼会誌104:737-739,C20003)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績―眼表面への影響―.あたらしい眼科C26:101-104,C20094)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼C64:729-732,C20105)山崎仁志,宮川靖博,目時友美ほか:トラボプロスト点眼液の点状表層角膜症に対する影響.あたらしい眼科C27:C1123-1126,C20106)薮下麻里江,三宅功二,荒川明ほか:角膜上皮に対するタフルプロスト点眼液の影響.臨眼67:1129-1132,C20137)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,C19948)海道美奈子:新しい視力計:実用視力の原理と測定方法.あたらしい眼科24:401-408,C20079)KohCS,CMaedaCN,CHiroharaCYCetCal:SerialCmeasurementsCofChigher-orderCaberrationsCafterCblinkingCinCnormalCsub-jects.InvestOphthalmolVisSciC47:3318-3324,C200610)KohCS,CMaedaCN,CHiroharaCYCetCal:SerialCmeasurementsCofhigher-orderaberrationsafterblinkinginpatientswithdryeye.InvestOphthalmolVisSciC49:133-138,C200811)KaidoCM,CIshidaCR,CDogruCMCetCal:TheCrelationCofCfunc-tionalCvisualCacuityCmeasurementCmethodologyCtoCtearCfunctionsandocularsurfacestatus.JpnJOphthalmolC55:C451-459,C201112)石田玲子:実用視力の臨床応用:ドライアイから白内障まで.あたらしい眼科24:409-413,C2007***

血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績

2018年1月31日 水曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):140.143,2018c血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績野崎祐加富安胤太野崎実穂森田裕吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学CClinicalExperiencewithBaerveldtGlaucomaImplantinNeovascularGlaucomaYukaNozaki,TanetoTomiyasu,MihoNozaki,HiroshiMorita,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対して施行した,バルベルト緑内障インプラント(BGI)手術の術後成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:BGI手術(前房タイプC2眼,硝子体タイプC10眼)を施行した10例C12眼を対象とした.術前後の眼圧,点眼スコア,合併症について検討した.結果:平均年齢C52.2歳,術後経過観察期間はC26.7±13.2カ月で,平均眼圧は術前C31.3±102.mmHgから術後C6カ月C13.9±4.6CmmHgと有意に低下し(p<0.05),平均点眼スコアは術前C4.2±0.8から術後C1.8±1.9と有意に減少した(p<0.05).術後C1カ月以内の早期合併症は,一過性高眼圧(7眼),硝子体出血(3眼),脈絡膜.離(2眼)であった.後期合併症はC3眼で硝子体出血,プレート周囲の線維性増殖組織による高眼圧を認めた.結論:血管新生緑内障に対するCBGI手術は,短期的には良好な眼圧下降効果を認めた.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.cacyCofCtheCBaerveldtCglaucomaCimplant(BGI)inCneovascularCglaucoma(NVG)CassociatedCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CPatientsandMethod:TenCpatients(12Ceyes)whoCunderwentBGIwereevaluated.Outcomeassessmentswereintraocularpressure(IOP),numberofglaucomamedicationsandcomplications.Results:Meanagewas52.2yearsandaveragefollow-upperiodwas26.7months.MeanIOPwassigni.cantlydecreased,from31.3±10.2CmmHgto13.9±4.6CmmHg(p<0.05).Thenumberofglaucomamedicationswasalsosigni.cantlydecreased,from4.2±0.8CtoC1.8±1.9(p<0.05).ComplicationsincludedhighIOP(7eyes),vit-reoushemorrhage(3eyes),choroidaldetachment(2eyes)within1monthofsurgery.Latecomplicationswerevit-reousChemorrhage(3Ceyes)andChighCIOP(3Ceyes).CTheCsuccessCrateCwasC90.1%CatCmonthC6.CConclusion:BGIise.ectiveincontrollingIOPelevationassociatedwithNVG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(1):140.143,C2018〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,血管新生緑内障,増殖糖尿病網膜症,術後合併症,点眼スコア.CBaerveldtglaucomaimplant,neovascularglaucoma,proliferativediabeticretinopathy,postoperativecomplications,Cnumberofglaucomamedications.Cはじめに血管新生緑内障に対する治療は,開放隅角期では,網膜虚血を改善させるために,汎網膜光凝固や血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬などが用いられるが,虚血を改善しても眼圧が下降しない場合や,閉塞隅角期には,線維柱帯切除術が多く施行されてきた.しかし,血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の手術成績は,術後の出血や炎症による瘢痕形成のため,他の緑内障に対する成績よりも不良である1,2).VEGF阻害薬を併用することにより血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の成績は良好になるという報告3)もあるが,長期手術成績はCVEGF阻害薬併用有無で変わらないともいわれている4).また,血管新生緑内障の約三分の一は,糖尿病網膜症が原因と報告されているが5),糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障の特徴としては,比較的年齢が若いこと,硝子体手術を含む複数回の手術既往がある場合が多い点があげられる.〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,Nagoya467-8601,JAPAN140(140)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(140)C1400910-1810/18/\100/頁/JCOPY若年者,硝子体手術既往は,線維柱帯切除術の予後不良因子としても知られていることから2,6),糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対して,線維柱帯切除術以外の術式が望まれている.一方,バルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglauco-maimplant:BGI)は,複数回の緑内障手術が無効であった症例や結膜瘢痕症例など,難治性緑内障に対して,眼圧下降効果が期待されており7),血管新生緑内障に対する有効性も国内からいくつか報告されている8.10).2012年C4月から,わが国でCBGI手術が保険収載され,名古屋市立大学病院でもC2012年から血管新生緑内障に対するCBGI手術を施行している.今回,術後C6カ月以上経過を追えた,増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対するCBGIの手術成績について,後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2012年C12月.2016年C3月に,名古屋市立大学病院で増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し,BGI手術を施行し,術後C6カ月以上経過観察できたC10例C12眼(男性C7眼,女性C5眼,平均年齢C52.2C±12.2歳)であった(表1).術前,術後の眼圧,術前・術後の点眼スコア(緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠内服をC2点とした),早期(術後C1カ月以内)・後期(術後C1カ月以降)の術後合併症について検討した.今回使用したCBGIデバイスは,硝子体手術既往眼ではプレート面積がC350CmmC2でチューブにCHo.manCelbowをもつBG102-350を使用し,硝子体手術未施行眼ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250を挿入した(現在は当院で用いていない).術式は,強膜半層弁を作製し,チューブをC7-0あるいはC8-0バイクリル糸で完全閉塞するまで結紮し,術前に炭酸脱水酵素阻害剤内服下でも眼圧が20CmmHg以上の症例では,9-0ナイロン糸でCSherwoodスリットを作製した.強膜弁はC9-0ナイロン糸で縫合し,結膜はC8-0バイクリル糸で縫合した.チューブ内へのステント留置は行わなかった.生存(手術成功)の定義は,①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものとした.生存率をCKaplan-Meier法で解析した.数値は平均値C±標準偏差で記載し,統計学的検定にはCWilcoxon検定を用いCp<0.05を有意差ありとした.CII結果10例C12眼のうち,使用したCBGIデバイスは,前房タイプがC2眼,経毛様体扁平部タイプがC10眼であった.治療の既往として,汎網膜光凝固,白内障手術は全例C12眼で施行されており,硝子体手術はC10眼,線維柱帯切除術はC4眼で既往がありC4眼中C2眼は複数回線維柱帯切除術が施行されていたが,硝子体手術は未施行だった(表1).BGI手術までに,汎網膜光凝固術を除いて平均C2.6回の手術既往があった.術前にCVEGF阻害薬の硝子体注射を行ったのはC12眼中C1眼のみであった.術後経過観察期間は平均C26.7C±13.2(6.54)カ月であった.全症例における術前平均眼圧はC31.3C±10.2CmmHg,術翌日にはC13.0C±10.3CmmHgまで低下を認めた.1週間後にはC10.4±3.3CmmHg,1カ月後にはC15.9C±7.6CmmHg,3カ月後にはC14.3C±3.7CmmHg,6カ月後にはC13.9C±4.6CmmHgと有意な低下を認めた(p<0.05)(図1).また,平均点眼スコアは術前のC4.2C±0.8から,術後C6カ月の時点でC1.8C±1.9と有意な減少を認めた(p<0.05)(図2).LogMAR視力は,術前C1.5C±0.7,術後C6カ月の時点でC1.4C±0.7と有意差は認めなかった(p=0.82).角膜内皮細胞密度は,全例では経過を追えなかったが,術前C2579.5C±315.0/Cmm2,術後C6カ月でC2,386.2C±713.4/mm2(n=6)と有意な減少はみられなかった.術後C1カ月以内の早期合併症は,硝子体出血をC3眼に認め,2眼に硝子体手術を施行した.さらに低眼圧による脈絡膜.離をC2眼に認め,そのうちC1眼にチューブ結紮を追加施行した.チューブ先端に硝子体が嵌頓していたC1眼を含むC7眼で一過性高眼圧を認め,1眼にCSherwoodスリット追加,1眼に硝子体手術を施行しチューブ先端の硝子体嵌頓を解除した.術後C1カ月以降の後期合併症は,3眼に硝子体出血を認め,硝子体手術を施行した.また,プレート周囲の線維性増殖組織(被膜)形成による高眼圧をC3眼で認め,線維性被膜を切開除去し,マイトマイシンCCを使用しプレート周囲の癒着を解除した.生存率は術後C6カ月後でC90.1%,1年後でC68.2%,3年生存率はC68.2%であった(図3).緑内障の追加手術を必要とした症例は,前房型CBGIを挿入したC38歳のC1例C2眼と,硝子体型CBGIを挿入したC52歳のC1眼のC3眼に認めた.前房型CBGIを挿入した症例では,右眼は術後C1カ月後には眼圧がC33CmmHgまで上昇したため,点眼薬C3剤,炭酸脱水酵素阻害薬内服を開始したが,その後も眼圧がC22CmmHgを超えており,この症例がC6カ月時点での死亡例となった.2年後にマイトマイシンCCを併用したプレート上の線維性増殖組織を除去したが,その後も再度眼圧上昇を認めたため,2年C7カ月後に硝子体手術を行いCBGI経毛様体扁平部タイプを再挿入した.左眼は術後C10カ月に眼圧が再上昇したため,右眼と同様にマイトマイシンCCを併用しプレート周囲の線維性増殖組織除去を施行し,以後は点眼のみで眼圧は安定していた.もうC1眼はC52歳の症例であり,術後眼圧コントロ(141)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C141表1対象の内訳症例性別年齢周辺虹彩前癒着HbA1c(%)白内障手術硝子体手術線維柱帯切除術C1男C65なしC8.6〇〇(1)C2女C7580%C6.3〇〇(1)C3女C38100%C6.2〇〇(3)C4女C38100%C6.5〇〇(2)C5男C4325%C5.7〇〇(2)〇(1)C6女C5850%C7.1〇〇(1)C7女C58なしC7.1〇〇(2)〇(1)C8男C52なしC6.6〇〇(2)C9男C50なし不明〇〇(1)C10男C3910%C9.6〇〇(1)C11男C6725%C11.1〇〇(1)C12女C56なしC6.4〇〇(1)全例で白内障手術が施行されており,2眼を除いてC10眼で硝子体手術の既往があった.45405353041500術前術翌日1週間後1カ月後3カ月後6カ月後術前術後図1術前・術後での平均眼圧の推移図2術前・術後での平均点眼スコアの推移平均眼圧は術前と比較して術翌日,1週間後,1カ月後,3カ月術前のC4.25本から術後C6カ月の時点でC1.8本と後,6カ月後の時点で有意に下降していた(p<0.05).C有意な減少を認めた(p<0.05).C平均眼圧(mmHg)25点眼スコア320*15210ールは良好だったが,10カ月後に眼圧が再上昇したため,マイトマイシンCCを併用したプレート上線維性増殖組織除去を行ったものの,その後も高眼圧が続くため,レーザー毛様体破壊術を施行した.CIII考按今回筆者らは増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対してCBGI手術を施行し,6カ月以上経過観察できたC1220406080100120140160180眼について,後ろ向きに検討し,生存率はC6カ月でC90.1%,1年でC68.2%,2年でもC68.2%であった.BGI手術成績を,非血管新生緑内障と血管新生緑内障に分けて検討した海外の報告では,BGI手術成功率(1年)は非血管新生緑内障ではC79%であったが,血管新生緑内障では40%で有意に低く,自然消退しない硝子体出血がもっとも多い(17%)合併症であった12).2012年にわが国でもCBGI手術が承認されてから,国内からも血管新生緑内障を含む難治緑内障に対するCBGI手術成績がいくつか報告されている8.11).生存率の定義が多少異なるものもあり,今回の筆者らの検討のように増殖糖尿病網膜週数図3Kaplan.Meier生存曲線生存の基準を①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わないの3条件を満たすものとした.生存率は術後C6カ月後(n=12)で90%,1年後(n=11)でC68.2%,2年生存率(n=11)はC68%であった.C症に続発する血管新生緑内障に限定はされていないが,成功率はC76.2.90.1%(1年),90.1.93.3%(2年)と非常に良好な成績が報告されている8.11).(142)今回の筆者らの検討では,硝子体出血を術後早期にも晩期にもC12眼中C3眼(25%)に認めている.東條らの報告では,35眼中C27眼(77.1%)に術前にCVEGF阻害薬の硝子体内注射を行っており,術後の硝子体出血はC35眼中C2眼(6%)に認めたのみであった.晩期の硝子体出血の原因は,汎網膜光凝固が不十分でCVEGF産生が抑えられていなかったことも原因と思われるが,筆者らの検討した症例のうち,術前にVEGF阻害薬の硝子体内注射を行ったのはC1眼のみであったことから,今後CBGI手術前にCVEGF阻害薬の硝子体内注射を併用すれば,術後早期の硝子体出血は減らせる可能性も考えられる.また,緑内障手術の追加が必要となったC3眼は,プレート周囲に線維性被膜が形成され眼圧が再上昇しており,3眼中C2眼は前房タイプのCBGI手術を施行していた.当院ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250を当初使用していたが,今回検討したC2眼を含め術後の眼圧コントロール不良例が多い印象があり,現在はプレート面積C350CmmC2のCBG101-350を使用している.線維柱帯切除術やチューブシャント手術は,Tenon.下に房水を導く濾過手術であり,房水はCTenon.下では被膜に覆われるが,過剰に被膜形成が進むと眼圧上昇が起こる.国内の他の施設からは,プレート周囲の線維性被膜形成の報告はみられていないが,Rosentreterらは,プレート周囲の被膜による眼圧再上昇症例に対して,プレート周囲の被膜切開を施行した群と,緑内障インプラントの追加手術を行った群を比較し,被膜切開群では,有意に術後の眼圧が高く,さらに追加の手術が必要な症例がみられたと報告し,被膜切開では長期に眼圧下降させられないとしている13).今回の筆者らの検討した症例でも,3眼中C2眼はマイトマイシンCCを併用してプレート周囲の線維性被膜切開をしても眼圧の再上昇があり,1眼では硝子体手術および経毛様体扁平部タイプのCBGIを追加,もうC1眼は視力が術前(0.02)から光覚弁となったため毛様体破壊術を追加した.プレート周囲の被膜を免疫組織学的に検討した報告では,眼圧上昇を伴う被膜のほうが,より多くのフィブロネクチン,テネイシンやラミニン,IV型コラーゲンを認め,活動性の高い創傷治癒機転が働いていることが示唆されている14)ことから,BGI後いったん被膜が形成され眼圧上昇した際には,マイトマイシンCCを併用した被膜切開でも無効になる可能性が高く,初めからCBGIの追加含め,他の手術の追加を考慮するべきかもしれない.しかし,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障では,輪状締結術がすでに施行されている症例や,複数の象限で線維柱帯切除術が施行されている症例もあり,追加の手術の選択にも難渋することが少なくない.今後,できるだけ過剰な被膜形成を惹起しないCBGI手術の術式や薬物併用などの確立が,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するCBGI手術の治療成績を上げるうえで重要になると思われた.(143)利益相反:小椋祐一郎(カテゴリーCF:ノバルティスファーマ株式会社),吉田宗徳(カテゴリーCF:ノバルティスファーマ株式会社)文献1)KiuchiCY,CSugimotoCR,CNakaeCKCetCal:TrabeculectomyCwithmitomycinCfortreatmentofneovascularglaucomaindiabeticpatients.OphthalmologicaC220:383-388,C20062)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularCglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20093)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Bene.ciale.ectsofpreoperativeCintravitrealCbevacizumabConCtrabeculectomyCoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmolC88:C96-102,C20104)TakiharaCY,CInataniCM,CKawajiCTCetCal:CombinedCintra-vitrealCbevacizumabCandCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCversustrabeculectomywithmitomycinCaloneforneo-vascularglaucoma.JGlaucomaC20:196-201,C20115)BrownCGC,CMagargalCLE,CSchachatCACetCal:NeovascularCglaucoma.CEtiologicCconsiderations.COphthalmologyC91:C315-320,C19846)InoueT,InataniM,TakiharaYetal:Prognosticriskfac-torsforfailureoftrabeculectomywithmitomycinCaftervitrectomy.JpnJOphthalmolC56:464-469,C20127)植田俊彦,平松類,禅野誠ほか:経毛様体扁平部CBaer-verdt緑内障インプラントの長期成績.日眼会誌115:581-588,C20118)小林聡,竹前久美,杉山祥子:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの治療成績.臨眼C79:C1251-1257,C20169)宮城清弦,藤川亜月茶,北岡隆:経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの手術成績と合併症.あたらしい眼科33:1183-1186,C201610)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌121:138-145,C201711)石塚匡彦,忍田栄紀,町田繁樹:無硝子体眼におけるバルベルト緑内障インプラントを用いたチューブシャント手術の短期成績.臨眼71:605-609,C201712)CampagnoliCTR,CKimCSS,CSmiddyCWECetCal:CombinedCparsCplanaCvitrectomyCandCBaerveldtCglaucomaCimplantCplacementCforCrefractoryCglaucoma.CIntCJCOphthalmolC8:C916-921,C201513)RosentreterCA,CMelleinCAC,CKonenCWWCetCal:CapsuleCexcisionandOlogenimplantationforrevisionafterglauco-madrainagedevicesurgery.GraefesArchClinExpOph-thalmolC248:1319-1324,C201014)ValimakiCJ,CUusitaloCH:ImmunohistochemicalCanalysisCofCextracellularmatrixblebcapsulesoffunctioningandnon-functioningglaucomadrainageimplants.ActaOphthalmolC92:524-528,C2014あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C143

日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体 注射の長期治療成績

2018年1月31日 水曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):136.139,2018c日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の長期治療成績清水広之*1村松大弐*1若林美宏*1上田俊一郎*2馬詰和比古*1八木浩倫*1阿川毅*1川上摂子*1山本香織*1渡邉陽子*1塚原林太郎*2三浦雅博*2後藤浩*1*1東京医科大学眼科学分野*2東京医科大学茨城医療センター眼科IntravitrealInjectionofRanibizumabforDiabeticMacularEdemainJapan:Long-termOutcomeHiroyukiShimizu1),DaisukeMuramatsu1),YoshihiroWakabayashi1),ShunichiroUeda2),KazuhikoUmazume1),HiromichiYagi1),TsuyosiAgawa1),SetsukoKawakami1),KaoriYamamoto1),YokoWatanabe1),RintaroTsukahara2),MasahiroMiura2)andHiroshiGoto1)1)TokyoMedicalUniversity,DepartmentofOphthalmology,2)TokyoMedicalUniversity,IbarakiMedicalCenter,DepartmentofOphthalmology目的:日本人を対象とした糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するラニビズマブ硝子体注射(IVR)の長期治療成績の報告.対象および方法:DMEにCIVRを行い,12カ月以上観察が可能であったC68眼を対象に後ろ向きに調査した.初回IVR後C6,12,18カ月の視力と中心網膜厚,追加治療について検討した.結果:観察期間は平均C19.2カ月であった.治療前視力の平均ClogMAR値はC0.37で,治療後C6カ月でC0.25,12,18カ月後では,それぞれC0.23,0.24と有意な改善を示した.治療前の平均中心網膜厚はC477Cμmで,治療6,12,18カ月後にはC387,368,312Cμmと全期間で有意な改善を示した.治療開始後C18カ月後までのCIVR回数は平均C3.3回であり,経過中に光凝固はC23眼(33%)に,トリアムシノロンアセトニドのCTenon.下注射はC15眼(22%)に併用された.全経過観察期間中にC63眼(91%)で浮腫の再発がみられた.結論:日本人においても,IVRは長期にわたりCDMEの軽減と視機能の改善に有効であるが,再発例も多く,複数回の投与と追加治療を要する.CPurpose:Toreportthelong-terme.cacyofintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)inJapanesepatientswithdiabeticmacularedema(DME).Casesandmethods:Inthisretrospectivecaseseries,68eyesof54patientswithCDMECreceivedC0.5CmgCIVR.CCasesCwereCfollowedCupCforC12CmonthsCorClonger.CBestCcorrectedCvisualCacuity(BCVA;logCMAR)andCcentralCretinalCthickness(CRT)wereCtheCmainCoutcomeCassessments.CResults:MeanCfol-low-upperiodwas19.2months.BaselineBCVAandCRTwere0.37and477Cμm,respectively.At6months,BCVAhadCimprovedCtoC0.25CandCCRTChadCsigni.cantlyCdecreasedCtoC387Cμm,CcomparedCtoCbaseline(p<0.01).CAtC12monthsand18months,BCVAhadsigni.cantlyimprovedto0.23(p<0.01)and0.24(p<0.01),respectively;CRThaddecreasedto368Cμm(p<0.01)and312Cμm(p<0.01),respectively.TheaveragenumberofIVRwas3.3times.Amongallcases,63eyes(92%)experiencedrecurrentmacularedema.Conclusion:Intravitrealinjectionofranibi-zumabisane.ectivetreatmentforDME.However,multipleinjectionsandadditionaltreatmentsarerequired,duetofrequentrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(1):136.139,C2018〕Keywords:ラニビズマブ,糖尿病黄斑浮腫,光凝固,トリアムシノロンアセトニド,抗CVEGF抗体.ranibizum-ab,diabeticmacularedema,photocoagulation,triamcinoloneacetonide,anti-VEGF.C〔別刷請求先〕清水広之:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学眼科学分野Reprintrequests:HiroyukiShimizu,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1NishishinjukuShinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN136(136)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(136)C1360910-1810/18/\100/頁/JCOPYはじめに糖尿病網膜症は日本の視覚障害者の主原因疾患の一つであり,なかでも糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularCedema:DME)は糖尿病網膜症における視力障害の主要因子である.DMEの病態には血管内皮増殖因子(vascularCendothelialgrowthCfactor:VEGF)が関与していることが知られており1),VEGFの抑制がCDMEの制御にとってきわめて重要である.DMEに対する治療は,近年では抗CVEGF療法が治療の主体となりつつあり2,3),抗CVEGF抗体の一種でヒト化モノクローナル抗体のCFab断片であるラニビズマブは,大規模研究であるCRISE&RIDEstudyによって,偽注射に対して治療の優位性が証明された4).また,同様の大規模研究であるアジア人種を対象としたCREVEALstudy5)によって光凝固治療に対しても優位性が証明された.しかし,これらの研究の対象には厳しい組み入れ基準があるため,実臨床とは乖離している一面があり,また薬剤の投与についても臨床研究のためきわめて数多くの注射が行われているため,実臨床における反応性や効果についてはいまだに不明な点も残されている.以上の背景をもとに,2014年C2月からわが国においてもDMEへのラニビズマブ治療が認可され,広く使用されるようになってきたことから,日本人症例に対して筆者らが行ってきた治療の長期成績について報告する.CI対象および方法対象はC2014年C3月.2014年C12月に,東京医科大学ならびに東京医科大学茨城医療センターで,DMEに対してラニビズマブ0.5mgの硝子体注射(intravitrealCinjectionCofranibizumab:IVR)で治療を開始し,12カ月以上経過観察が可能であったC54例C68眼(男性C41例,女性C13例)で,全例,日本人症例であった.治療時の年齢分布はC39.81歳で,平均年齢±標準偏差はC64.8C±10.2歳である.治療歴として,ベバシズマブからの切り替え症例がC20眼(29%)あった.また,初回CIVR施行眼はC48眼(71%)であり,これらのうちC19眼はまったくの無治療,29眼(43%)は光凝固やトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-tenonCinjec-tionCofCtriamcinoronCacetonide:STTA)による治療歴があった.治療プロトコールとして,IVRの後に毎月観察を行い,その後は必要に応じて再治療を行った(proCreCnata:PRN).再治療は,2段階以上の視力低下,もしくはC20%以上の中心網膜厚(centralCretinalCthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合に原則としてCIVRを行った.浮腫の悪化がみられてもCIVRの同意が得られなかった場合や,IVR後の浮腫の改善が不十分な場合はCSTTAを施行した.全症例のうち,蛍光眼底造影で無灌流域や黄斑部毛細血管瘤を認めたC17眼に対しては,IVRの後,1.2週の時点で計画的に光凝固(汎網膜光凝固,血管瘤直接凝固,もしくはCtargetedCretinalCphotocoagulation:TRP6))を行い,残るC51眼はCIVR単独で治療を開始し,適宜追加治療を行った.これらC51眼のうちC19眼については,眼所見が安定するまで治療開始からC1カ月ごとにC2.3回の注射を行うCIVR導入療法を施行し,その後は必要時投与とした.検討項目は,IVR後C6,12,18カ月における完全矯正視力,および光干渉断層計3D-OCTC2000(トプコン)もしくはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditech)を用いて計測したCCRTで,そのほかにも再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期について診療録をもとに後ろ向きに調査した.統計処理はStatViewを使用して,t-検定(Bonferroni補正),c2検定を行い,有意水準5%以下を有意と判断した.CII結果全C68眼の平均観察期間はC19.2C±4.0カ月(12.27カ月)であった.全症例おける治療前の平均CCRTはC476.5C±121.8Cμmであったのに対し,IVR後C6カ月の時点ではC387.2C±119.0Cμmと減少していた.CRTはC12カ月の時点でC367.6C±118.5Cμm,18カ月の時点でC312.6C±83.7Cμmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定)(図1).全症例における治療前の視力のClogMAR値の平均はC0.37C±0.26であった.視力はCIVR後C6カ月でC0.25C±0.21へ改善し,IVR後C12,18カ月の時点でそれぞれC0.23C±0.23,0.24C±0.26であり,いずれの時点においても治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定)(図2).治療前後の視力変化をClogMAR0.2区切りで検討すると,治療前と比較してCIVR後C6カ月の時点で改善例はC21眼(31%),不変例はC43眼(63%),悪化例はC4眼(6%)であり,12カ月の時点で改善例はC26眼(38%),不変例はC37眼(55%),悪化例はC5眼(7%),18カ月の時点で改善例はC18眼(40%),不変例はC25眼(56%),悪化例はC2眼(4%)であり,経時的に視力改善例が増加していた.治療前の小数視力が0.5以上を示した症例はC39眼(57%)存在したが,IVR後C6カ月ではC50眼(73%),12カ月でC49眼(72%),18カ月後でC35眼(78%)と,視力良好例の占める割合も増加していた(各々p<0.05,Cc2検定).一方,全経過観察期間中にC63眼(91%)で黄斑浮腫の再発がみられた.初回の注射施行後,最初に黄斑浮腫が再発するまでの期間は平均C3.9C±3.8カ月で,中央値はC2.5カ月であった.また,再注射後もC37眼(79%)がC2回目の再発をきたした.2回目の再発までの期間は平均C3.6C±3.2カ月で,中央値はC2.5カ月であった.初回治療後C6カ月までの平均CIVR回数はC2.3C±1.2回,12カ月までではC3.0C±1.9回,18カ月までではC3.3C±2.5回であ(137)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1375000.20中心網膜厚(μm)400logMAR0.30300治療前6カ月後12カ月後18カ月後n=68n=68n=68n=45図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化12カ月時点までの全C68眼および,追跡期間がC18カ月に達したC45眼についての各時点における中心網膜厚を示す.注射C6カ月で網膜厚は大きく減少し,その後もC12,18カ月と治療前と比較し有意に網膜厚は減少している.†p<0.01.Cった.また,全経過観察期間中に,黄斑浮腫の改善目的や網膜無灌流領域に対し光凝固を併用した症例はC23眼(33%)黄斑浮腫の改善目的にCSTTAを併用した症例はC15眼(22%),存在した.今回の症例には,光凝固を併用した群と,IVR単独で治療した群が存在し,さらにCIVR単独群は,導入を行った群と,初回投与後CPRNで治療した群が存在したが,IVRの回数と,視力改善度,平均網膜厚の変化についてC3群に分けて再検討すると,12カ月の時点での平均CIVR回数は,併用群でC2.8C±1.8回,導入群でC4.1C±2.2回,初回投与後CPRN群でC2.2±1.4回と,導入群で他のC2群よりも有意に多く(p<0.01,ANOVA検定CBonferroni補正),18カ月の時点では,併用群でC3.0C±1.9回,導入群でC4.6C±2.9回,初回投与後CPRN群でC2.5C±1.9回と,導入群で他のC2群よりも有意に多かった(p<0.05,ANOVA検定CBonferroni補正).視力改善度,網膜厚の変化についてはC12,18カ月,いずれの時点でもC3群間に有意差は認めなかった(ANOVA検定CBonferroni補正).観察期間中に,眼内炎や網膜.離などの眼局所の重篤な合併症はきたさなかった.一方,脳梗塞,心筋梗塞,急性腎不全の発症および,ネフローゼ症候群の増悪をそれぞれC1例ずつ認めた.IVRから発生までの期間は,脳梗塞および急性腎不全はそれぞれC1カ月,ネフローゼの増悪はC3カ月,心筋梗塞はC14カ月であった.脳梗塞を発症した症例では,内科と連携したうえで,その後合計C4回のCIVRを行ったが,以降脳梗塞の再発は認めなかった.CIII考按無作為二重盲検試験であるCRISEC&CRIDECstudyにより,DMEに対するラニビズマブ治療の有効性が証明されたが4),この研究における治療プロトコールでは当初のC24カ月は毎0.40治療前6カ月後12カ月後18カ月後n=68n=68n=68n=45図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のClogMAR値を示す.注射C6カ月で視力は上昇し,18カ月の時点まですべての時点において,治療前と比較し有意に上昇している.†p<0.01.C月ラニビズマブ注射を行っており,多数回に及ぶ注射を要したうえでC12文字の視力改善が得られていた.その後,アジア人を対象として行われた光凝固との比較試験であるREVEALCstudyにおいては,当初のC3カ月は毎月ラニビズマブ注射を行い,それ以降はC1カ月ごとの観察を継続し,必要に応じて再治療を行っている.その結果,治療開始後C12カ月の時点において平均C7.8回の注射を要したがC6.6文字の改善を得ており,1.8文字の改善に留まった光凝固との比較において,その優位性が報告された5).当院における治療方針では,25%(n=17)の症例ではIVR後C1.2週後に毛細血管瘤に対する直接光凝固や汎網膜光凝固を計画的に併用する方法で治療した.28%(n=19)の症例ではC1カ月ごとにC2.3回の注射で導入療法を行い,その後は毎月観察を行って再発,悪化時に再投与を行う方法で臨み,47%(n=32)の症例ではC1回の注射の後にCPRNとし,12カ月間で平均C3.0回,治療後C18カ月までにC3.3回の注射を行った.治療成績については,ラニビズマブ治療の開始直後から網膜浮腫は減少し,視力も治療前と比較して治療後18カ月まで有意な向上が得られた.視力のデータをCETDRSの文字数に換算すると,12カ月の時点でC6.8文字,18カ月の時点においてC7.2文字の改善が得られた.この改善度はRISE&RIDEstudyの結果には及ばなかったが,REVEALstudyとはほぼ同等であった.なお,REVEALCstudyは組み入れ基準で治療前視力はCETDRSの文字数C39文字からC78文字までの症例に限っていたが,本研究の治療前の小数視力はC0.05.1.2までの症例を含んでおり,REVEALCstudyと比較して,より治療前視力の良好な例や,不良な例を多く含んでいたので,治療前視力が,REVEALと同等の症例のみ抽出して再検討すると,視力改善文字数はC12カ月の時点で7.3文字であり,改善度は全症例における検討よりもより良(138)好な結果となった.今回の筆者らの施設の検討で,少ない注射回数にもかかわらずCREVEALstudyと同等程度の視力改善効果を得られた理由としては,経過観察中に必要応じて積極的に毛細血管瘤への直接光凝固やCTRPと称される部分的な無灌流域に対する選択的光凝固を施行したことが考えられる.REVEALstudyにおいてもラニビズマブと光凝固の併用療法を行っている群があるが,ラニビズマブ単独治療群と比較して視力改善度はわずかに劣り,1年間の注射回数もラニビズマブ単独群で平均C7.8回であったのに対し,光凝固併用群でもC7.0回とやや少ない結果に留まっていた.しかし,この報告では光凝固の適応や凝固条件が明記されておらず,詳細は不明である.国外での臨床研究における光凝固は,後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であり,これが筆者らの治療成績との差異につながった可能性も考えられる.その他の要因として,適宜STTAを併用したことも関係している可能性が考えられる.DMEの病態進展にはCVEGFのみならず,炎症が関与することが報告されている7.10).DMEに対してフルオシノロンアセトニド徐放剤の硝子体投与の効果を検討したCFAMECstudy11)においても,DMEの網膜厚減少や視力改善などの効果が確認されている.また,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固時における黄斑浮腫の発生をCSTTAによって抑制可能とする報告もあることから12),本研究におけるステロイドの併用がCVEGF以外の黄斑浮腫惹起因子を抑制していた可能性もある.今回の検討では,約C8週間でC8割以上の症例が再発を繰り返していた.今後もCIVRを行う際には厳密な経過観察とともに必要に応じた追加治療が必要と考えられ,適宜,光凝固やCSTTAなどの代替え治療も必要であると考えられた.また,DMEに対するラニビズマブ治療は加齢黄斑変性や静脈閉塞症への治療と比較して改善に時間を要するため,単回の注射のみで治療効果を判断しないことも肝要である13).以上,日本人のCDMEに対するラニビズマブ治療の長期成績も良好と考えられたが,本研究は後ろ向き研究であり症例数も十分とは言いがたい.また,DMEを含む糖尿病網膜症の発症にはさまざまな全身的な要因も関与するし,因果関係ははっきりしないものの,本研究でも全身的な合併症もみられたことから,今後も長期にわたる経過観察と治療データの蓄積が必要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FunatsuCH,CYamashitaCH,CIkedaCTCetCal:VitreousClevelsC(139)ofCinterleukin-6CandCvascularCendothelialCgrowthCfactorCareCrelatedCtoCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC110:1690-1696,C20032)ShimuraCM,CYasudaCK,CYasudaCMCetCal:VisualCoutcomeCafterCintravitrealCbevacizumabCdependsConCtheCopticalCcoherenceCtomographicCpatternsCofCpatientsCwithCdi.useCdiabeticmacularedema.RetinaC33:740-747,C20133)村松大弐,三浦雅博,岩﨑琢也ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績.あたらしい眼科C33:111-114,C20164)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetCal;RIDECandRISECResearchCGroup:Long-termCoutcomesCofCranibi-zumabCtherapyCforCdiabeticCmacularCedema:the36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIICtrials:RISECandCRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C20135)IshibashiT,LiX,KohAetal;REVEALStudyGroup:TheCREVEALCStudy:ranibizumabCmonotherapyCorCcom-binedCwithClaserCversusClaserCmonotherapyCinCAsianCpatientsCwithCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC122:1402-1415,C20156)TakamuraCY,CTomomatsuCT,CMatsumuraCTCetCal:TheCe.ectCofCphotocoagulationCinCischemicCareasCtoCpreventCrecurrenceCofCdiabeticCmacularCedemaCafterCintravitrealCbevacizumabCinjection.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:C4741-4746,C20147)WakabayashiCY,CUsuiCY,COkunukiCYCetCal:IncreasesCofCvitreousmonocytechemotacticprotein1andinterleukin8levelsCinCpatientsCwithCconcurrentChypertensionCandCdia-beticretinopathy.RetinaC31:1951-1957,C20118)MuramatsuCD,CWakabayashiCY,CUsuiCYCetCal:CorrelationCofcomplementfragmentC5awithin.ammatorycytokinesCinthevitreousofpatientswithproliferativediabeticreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:15-17,C20139)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:AqueoushumorlevelsCofCcytokinesCareCrelatedCtoCvitreousClevelsCandCpro-gressionofdiabeticretinopathyindiabeticpatients.Grae-fesArchClinExpOphthalmolC243:3-8,C200510)AdamisCAP,CMillerCJW,CBernalCMTCetCal:IncreasedCvas-cularCendothelialCgrowthCfactorClevelsCinCtheCvitreousCofCeyesCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOph-thalmolC118:445-450,C199411)CampochiaroCPA,CBrownCDM,CPearsonCACetCal;FAMEStudyCGroup:SustainedCdeliveryC.uocinoloneCacetonideCvitreousCinsertsCprovideCbene.tCforCatCleastC3CyearsCinCpatientsCwithCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC119:2125-2132,C201212)ShimuraCM,CYasudaCK,CShionoCT:PosteriorCsub-TenonC’sCcapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalCphotocoagulation-inducedCvisualCdysfunctionCinCpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.OphthalmologyC113:381-387,C200613)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal;ANCHORStudyGroup:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNCEnglCJCMedC355:C1432-1444,C2006Cあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C139

八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と 糖尿病眼手帳に関する意識調査結果の推移

2018年1月31日 水曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):131.135,2018c八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と糖尿病眼手帳に関する意識調査結果の推移大野敦粟根尚子梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CChangesinResultsofConsciousnessSurveyonCooperationbetweenOphthalmologistandInternist,andDiabeticEyeNotebookatOphthalmologyClinicinHachiojiCityAtsushiOhno,NaokoAwane,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的・方法:八王子市内の眼科診療所との糖尿病患者の眼科・内科連携をめざすために,両科の連携と糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する意識を,2002年,2010年,2016年に調査し,その結果の推移を検討した.結果:内科医から臨床情報を得るもっとも多い手段は「糖尿病連携手帳を見る」で,その回答率はC3年ともC80%以上であった.通院しやすい眼科選択のための八王子市内の地図作成時の掲載許可は,いずれもC80%を超えていて,その情報をもとに地図を改訂した.眼手帳を患者に渡すことへの抵抗感は経年的に減少を認めた.眼手帳を渡したい範囲は,「すべての糖尿病患者」との回答の比率が経年的に増えていた.眼手帳は「眼科医が渡すべき」との回答が減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答が増加した.結論:2002年に比べてC2010年とC2016年は,各アンケート項目において眼科・内科連携に積極的な施設が増えていた.眼手帳を渡すことへの抵抗感は減少し,より早期に渡すようになり,眼科医が渡すことへのこだわりが減っていた.CPurpose・Methods:ToCfosterCcooperationCbetweenCophthalmologistsCandCinternistsCwithCdiabeticCpatientsCinHachiojiCity,wesurveyedcooperationbetweenfamiliesandawarenessoftheDiabeticEyeNotebook(EyeNote-book)in2002,2010and2016,andexaminedthetrendinresults.Results:ThemostcommonmeansofobtainingclinicalCinformationCfromCinternistsCwasCviaCtheCdiabetesCcooperationCnotebook;theCresponseCrateCwasCmoreCthan80%forthe3years.ThepermissionofpublishingatthetimeofcreatingaHachiojiCitymapforeasierophthal-mologyclinicchoicewasmorethan80%;themapwasrevisedbasedonthatinformation.ResistancetodeliveringtheCEyeCNotebookCtoCtheCpatientCdecreasedCoverCtime.CInCtheCrangeCthatCICwantedCtoCpassCtheCEyeCNotebook,CtheCresponserateforalldiabeticpatientsincreasedovertime.ResponsesindicatingthattheEyeNotebookshouldbehandedCoverCbyCtheCophthalmologistCdecreased,CandCresponsesCindicatingCthatCinternistCorCeitherCshouldCdoCsoCincreased.CConclusion:InC2010CandC2016,CasCcomparedCwithC2002,CophthalmologyCclinicsCpressingCforCcooperationCbetweenCophthalmologistsCandCinternistsCwereCincreasingCforCeachCquestionnaireCitem.CResistanceCtoCsharingCtheCEyeNotebookhasdecreased,theNotebookwashandedoverearlier,andtheattentiontoophthalmologistshandeddownwasdecreasing.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(1):131.135,C2018〕Keywords:眼科・内科連携,糖尿病眼手帳,アンケート調査.cooperationbetweenophthalmologistandinter-nist,DiabeticEyeNotebook,questionnairesurvey.Cはじめに高尾駅からもバス便であるため,自家用車での通院患者の割筆者らの所属する東京医科大学八王子医療センターは,八合が高い.しかし,眼科受診の際には自家用車での受診は困王子市のなかでも山梨県や町田市との境に位置し,最寄りの難であり,そのため眼科への定期受診の間隔があいてしまう〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPAN患者もまれではない.そこで糖尿病・内分泌・代謝内科(以下,当科)では,糖尿病患者の診療において,通院しやすい地元の眼科開業医との連携を重要視してきた1).上記の方針のもと,当科では八王子市内の眼科診療所との積極的な眼科・内科連携をめざし,両科の連携と連携のツールとしての糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の位置付けに対する意識調査を,眼手帳発行C6カ月目のC2002年C11月,発行C8年目のC2010年C6月に施行し報告した2,3).今回,眼手帳発行14年目のC2016年C5月に再度同様な調査を施行した4)ので,本稿では意識調査結果の推移を報告する5).CI対象および方法アンケートの対象は,八王子市内で開業中の眼科診療所で,アンケートの配布施設数,回答施設数,回答率は,2002年C20施設,12施設,60%,2010年C25施設,20施設,80%,2016年C27施設,22施設,81.5%と,回答率の上昇を認めた.回答者のプロフィールを表1に示すが,性別はC3年とも男性がC3/4を占めた.年齢は,2002年,2010年がC40歳代,2016年はC50歳代がそれぞれもっとも多く,3群間に有意差を認めた.一方,眼科医としての臨床経験年数は,2002年,2010年がC11.20年,2016年はC21.30年の回答が最多であったが,3群間に有意差を認めなかった.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者がアンケートを持って各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,回答後直接回収する方式で行った.今回,アンケートの配布と回収という労務提供を眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者に依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担うことになり倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓発を同時に行いたいと考え,そのためには眼手帳の協賛企業に協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにアンケートデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,御了承のほどお願い申し上げます」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.誌面の制約上,本稿での報告対象としたアンケート項目は,下記のとおりである.I.糖尿病患者の眼科・内科連携について1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得る主な手段2.内科との連携手段3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望II.眼手帳について4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか6.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいか上記のC6項目に対するC2002年,2010年,2016年に施行したアンケート調査結果について比較検討した.3回の回答結果の比較にはCc2検定を用い,統計学的有意水準はC5%とした.表1回答者のプロフィール性別2002年2010年2016年男性75%(9名)75%(1C5名)77.3%(C17名)C女性25%(3名)25%(5名)22.7%(5名)年齢2002年2010年2016年30歳代25%(3名)C40歳代50%(6名)50%(1C0名)27.3%(6名)50歳代25%(5名)50%(1C1名)60歳代16.7%(2名)20%(4名)13.6%(3名)70歳代8.3%(1名)5%(1名)9.1%(2名)臨床経験年数2002年2010年2016年.1C0年8.3%(1名)C11.2C0年41.7%(5名)45%(9名)27.3%(6名)21.3C0年33.3%(4名)35%(7名)50%(1C1名)31年.16.7%(2名)15%(3名)22.7%(5名)無回答5%(1名)c2検定Cp=0.98c2検定Cp=0.01c2検定Cp=0.48II結果1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段(表2)3年とも「患者持参の糖尿病(連携)手帳を見る」がC80%以上の回答率でもっとも多く,ついで「患者から直接聞く」がC60.70%台であった.C2.内科との連携手段(表3)2002年は市販の,2010年とC2016年は自院のオリジナルの診療情報提供書の利用がそれぞれもっとも多い傾向を認めた.C3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望(表4)「掲載して欲しい」と「どちらでもかまわない」を合わせると,2002年C83.3%,2010年C100%,2016年C95.5%といずれもC80%を超えていた.最新のC2016年の結果において,回答されたC22施設のうち閉院予定のC1施設を除くC21施設から掲載許可が得られたので,その情報をもとに地図を改訂した.C4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(表5上段)有意差は認めないが,2010年とC2016年の方が眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感は少なかった.C5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか(表5中段)眼手帳を渡したい範囲は,有意差は認めないものの「すべての糖尿病患者」と回答した割合が,2002年よりもC2010年・2016年はC60%台に増えていた.C6.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか(表5下段)「眼科医が渡すべき」との回答がC2002年よりもC2010年・2016年は減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答が約C85%に増加した.CIII考按1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段今回の結果より,血糖コントロール状況を把握する方法として,内科医の発行する糖尿病(連携)手帳の利用が最多ではあったが,手帳を持参されない患者においては血糖値やHbA1c値を聞くとの回答がC60.70%台を占めていた.この背景には,糖尿病(連携)手帳の発行がまだ十分とはいえない状況が考えられるため,手帳の普及も今後の課題である.C2.内科との連携手段今回の検討において,筆者らが作成にかかわった糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書6,7)の利用率は,表2内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段2002年2010年2016年1)2)患者持参の糖尿病(連携)手帳を見る患者から直接聞く91.7%75%80%70%81.8%63.6%3)内科医に手紙や電話で連絡をとる16.7%15%0%4)その他の手段10%9.1%無回答(5%)複数回答者ありc2検定:p=0.62表3内科との連携手段表4自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための2002年2010年2016年1)自院のオリジナルの診療情報提供書を主に用いている33.3%50%50%2)市販の診療情報提供書を主に用いている50%30%27.3%3)糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書を主に用いている33.3%5%4.5%4)その他の手段25%13.6%無回答(5%)(4C.5%)C八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望2002年2010年2016年1)掲載して欲しい66.7%75%81.8%2)どちらでもかまわない16.7%25%13.6%3)掲載して欲しくない16.7%4.5%Cc2検定:p=0.31c2検定:p<0.1表5眼手帳に関する3つのアンケート結果眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感2002年2010年2016年1)まったくない41.7%75%72.7%2)ほとんどない50%15%27.3%3)多少ある8.3%10%0%4)かなりある0%C眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか2002年2010年2016年1)すべての糖尿病患者41.7%65%68.2%2)網膜症の出現してきた患者58.3%35%31.8%3)正直あまり渡したくない0%Cc2検定p=0.14c2検定p=0.29眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいか2002年2010年2016年1)眼科医が渡すべきである33.3%15%13.6%2)内科医から渡してもかまわない16.7%35%13.6%3)どちらでも良い41.7%50%72.7%無回答(8C.3%)C2002年にC33.3%認めたものの,2010年とC2016年はC5%以下にとどまり,自院のオリジナルの診療情報提供書の利用が50%で最多であった.連携に熱心な眼科医ほどオリジナルの紹介状を持っている可能性は高く,糖尿病患者専用の提供書をわざわざ利用する必要性を感じないこともうなずける.また眼科医の記入する部分は,糖尿病専門医として欲しい情報が多く含まれており,眼科が発信元になる場合にその記入する部分の多さは負担になることが予想される.それに比べて眼科医がもらえる情報量は多いとはいえず,患者数が多く外来の忙しい眼科医ほど現在の提供書には魅力を感じないかもしれない.そこで日常臨床では,病状が比較的安定している際の両科の連携手段として,糖尿病連携手帳と糖尿病眼手帳の併用を頻用しており,これにより外来での時間的負担を軽減したうえで,より細やかな連携が可能である.C3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望2010年とC2016年の掲載許可は,全回答施設から得ることができ,その情報をもとに作成したマップの利用により,自家用車でないと当センターに来院困難な糖尿病患者に通院しやすい地元の眼科診療所を紹介することが容易になった.また院内の眼科においても,より重症患者を中心の診療が可能になり,待ち時間の短縮も期待される.C4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感多摩地域の眼科医における眼手帳に対するアンケート調査c2検定p=0.21C結果の推移において,眼手帳発行C2年目以降「まったくない」と「ほとんどない」を合わせてC80%を超えていた8)が,今回の八王子の結果はさらにその比率が高かった.外来における時間的余裕ならびに眼手帳の配布時と記載時のコメディカルスタッフによるサポート体制が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果といえる.C5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか眼手帳を「すべての糖尿病患者に渡したい」との回答が,眼手帳発行半年後のC2002年C11月にC41.7%占めた.前述の多摩地域での検討では,同回答が半年目でC27.1%にとどまり8),船津らの発行C1年目の調査でもC24.8%であった9)ことより,八王子市内の眼科診療所における眼手帳発行直後からの「すべての糖尿病患者」の選択率の高さが浮き彫りにされた.またC2010年とC2016年は同回答がC60%台に増えていたが,この結果も多摩地域での検討8)におけるC7年目C45.6%,10年目C51.9%,船津らの検討でのC6年目の調査9)でのC31.8%を上回っていた.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる.C6.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか「眼科医が渡すべき」との回答がC2002年はC33.3%認めたが,2010年とC2016年はC15%以下に減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答がC85%以上に増加した.先の多摩地域での検討8)では,7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目に前者が著減し後者が有意な増加を示した.先の設問C4とC5の結果を合わせて年次推移をみると,八王子市内の眼科診療所における眼手帳の早期からの広範囲の有効利用による眼科・内科連携への積極的な取り組みが浮き彫りにされた.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました八王子市内の眼科診療所の医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦:眼科と内科の診療連携.月刊糖尿病C7:53-60,C20152)大野敦,齋藤由華,旭暢照ほか:眼科診療所に対する眼科・内科連携ならびに糖尿病眼手帳に関するアンケート調査.日内会誌92((臨時増刊号):177,20033)大野敦,梶明乃,梶邦成ほか:八王子市内の眼科診療所に対する糖尿病眼科・内科連携と糖尿病眼手帳に関する意識調査.網膜C2010講演抄録集:119,20104)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:八王子市内の眼科診療所における糖尿病患者の眼科・内科連携と糖尿病眼手帳第C3版の位置付けに関する意識調査.糖尿病合併症C30(Supplement-1):191,20165)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と眼手帳に関する意識調査結果の推移.糖尿病合併症30(Supplement-1):246,20166)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20027)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20028)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMed34:1657-1663,C20149)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C2005***

基礎研究コラム 8.細胞の老化現象

2018年1月31日 水曜日

細胞の老化現象細胞老化とは細胞老化とは,細胞に対するいろいろなストレスが原因で,不可逆的に細胞が増殖できなくなってしまうプロセスのことです.老化や老化に関係する疾患の原因である可能性があることから,治療のターゲットになるのではないかと注目されています.細胞老化に関しての初めての報告はC1961年のCHay.ickらによるもので,培養細胞は一定回数の分裂を繰り返したらもう分裂することができなくなるというものでした1).これは染色体の端にあるテロメアという構造が細胞分裂とともに短くなり,使い果たされると分裂できなくなるという現象によるものでした.このようなテロメア依存性の細胞老化以外にも,テロメア非依存性の細胞老化もあることが知られています.たとえば,DNA損傷,紫外線,活性酸素種などがトリガーとなって細胞老化プログラムを進めるstress-inducedCprematureCsenescenceとよばれるタイプの細胞老化があります.老化細胞の特徴老化細胞を見わける特異的なマーカーはありませんが,いくつかの特徴的なサインがあります.たとえば,細胞が大きくなる,SA-b-GALという酵素の活性が高まる,細胞周期を止める因子であるCp16やCp21が増加する,などです.さらには,老化細胞は炎症性サイトカイン,増殖因子,マトリックスメタロプロテアーゼなどを分泌することが明らかになり,このような現象はCsenescence-associatedCsecretoryphenotype(SASP)とよばれ,注目されています(図1).細胞老化制御の臨床への応用老化細胞は生体にとってとくに二つの面で悪いと考えられています2).一つ目は細胞分裂ができないために組織修復ができなくなってしまうということです.二つ目はCSASPにより生理活性物質が分泌されることで,動脈硬化,糖尿病,癌などさまざまな疾患の発生,増悪に関係したり,組織の線維化を生じたりするということです.そこで,薬などで体から老化細胞を取り除くことで個体の老化を治したり,老化に関係する疾患の治療をしたりすることができるのではないかと研究が進められています.現在までのところ,そのような治療は行われていませんが,将来的にはもしかすると飲み薬で,体の中から老化細胞だけを取り除くことができる夢のよ奥村直毅同志社大学生命医科学部AutocrineによりParacrineによるテロメア短縮化さらなる細胞老化近くの細胞を細胞老化DNA障害紫外線活性酸素種細胞培養細胞老化SASP・細胞分裂の停止・SASPによる生理活性物質の分泌図1細胞老化の模式図テロメア依存性またはテロメア非依存性(DNA損傷,紫外線,活性酸素種など)の細胞老化が誘導される.老化した細胞は,細胞分裂の停止やCsenescence-associatedsecretoryphenotype(SASP)などの特徴を示す.うな治療が可能になるということも,ありえない話ではないかもしれません.再生医療と細胞老化制御最後に,筆者らが開発している培養角膜内皮細胞移植のことを紹介させていただきます.ヒトの角膜内皮細胞の培養は困難で,培養できても細胞密度がC500個/mmC2くらいで増殖を止めてしまいます.この現象は培養のストレスによる細胞老化ではないかと考え,調べたところ,上述の老化細胞のマーカーがいくつも陽性でした.そこで細胞老化が進むときに活性化するCp38CMAPKシグナルの経路を止める薬を培養液に加えたところ,細胞老化は起こらず,高い密度の細胞の培養に成功しました3).現在までにC35名以上の患者さんの治療を行いましたが,移植した細胞はこの方法で細胞老化を制御したものです.案外,細胞老化の制御の臨床応用は,再生医療の分野で一番に進んでいくのかもしれません.文献1)Hay.ickL,MoorheadPS:Theserialcultivationofhumandiploidcellstrains.ExpCellCResC25:585-621,C19612)ChildsCBG,CDurikCM,CBakerCDJCetCal:CellularCsenescenceinCagingCandCage-relatedCdisease:fromCmechanismsCtoCtherapy.NatMedC21:1424-1435,C20153)HongoA,OkumuraN,NakaharaMetal:Thee.ectofap38mitogen-activatedproteinkinaseinhibitoroncellularsenescenceCofCcultivatedChumanCcornealCendothelialCcells.CInvestOphthalmolVisSciC58:3325-3334,C2017(113)Cあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1130910-1810/18/\100/頁/JCOPY

二次元から三次元を作り出す脳と眼 20.逆さめがね・視覚の三次元地図

2018年1月31日 水曜日

雲井弥生連載⑳二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに外界の景色が反転せず網膜に映る「逆さめがね」をかけると,当初世界は倒立して見えるが,徐々に正立して認識できるようになる.私たちが生後体得した視覚の三次元地図と脳の適応力について考える.逆さめがね外界の景色は網膜に上下左右反転して映るが,私たちが認識するのは正立の景色である.もし反転せず網膜にそのまま映ったらどのように見えるだろうか.Strattonは100年ほど前に実験を行っている1).彼は凸レンズやプリズムを組み合わせて網膜に正立の像が映るような眼鏡を作り,自分で試した.その様子が『動物は世界をどう見るか』(鈴木光太郎著,新曜社,1995)2)に詳しく記載されているので引用する(一部省略).「逆さメガネとは,プリズムや鏡などを使って網膜に正立の(そして左右も逆転していない)像を映し出すしかけだ.このメガネをかけると,当然ながら,外界は上下左右とも逆転して見える.…右足を踏み出せば,足が視野の中で左側の向う側からこちらに向かって踏み出されるように見え,右に見えるものに目を向けようとすると,視線は思いもよらず,左に行ってしまう.視覚的な位置や方向は,実際の位置や方向と対応関係が逆になって,混乱した状態に陥ってしまう.ところがである.このメガネをかけたまま1週間や数十日といった期間生活してゆくと,逆さの世界が不自然ではなく感じられてくるのだ.自分の手足が視野のなかでどの位置にあり,どう動かせばどの方向に動くという対応関係がふたたび身につくようになれば,世界は逆さではないように見えてくるのである.」つまり網膜に映る反転像をもう一度反転させて認識していたが,そのやり方が通用しなくなったため,反転せずに認識するやり方を脳が始めたのである.逆さめがねの世界は,実は眼科医にとって身近なものである.倒像鏡を使いレンズを通して浮かぶのはちょうど逆さめがねの世界なので,その感覚に慣れていく過程を思い出していただければどうだろう.(111)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1視覚に基づく三次元地図XYZ軸方向の情報を統合して視覚による三次元地図を脳内に再現し,物の位置を定める.F:中心窩.視覚に基づく三次元の地図自分を原点としてXYZ軸方向に広がる三次元の空間を,私たちは両眼の網膜像をもとに再現している(図1).基準となるのが固視点と両眼中心窩Fを結ぶ線であるが,両眼を合成したような一つの目を両眼の間に想定する方がイメージしやすい.このような一つの眼を重複眼とよぶ.重複眼の中心窩と固視点を結ぶ線はZ軸と一致し,「真正面」の基準となる.網膜に像の映る場所が位置情報となり,XY平面での位置を定める.Z軸方向の位置を定めるのが,両眼情報として両眼視差や輻湊角,単眼情報として単眼の手がかりや運動視差(連載⑥参照),水晶体による調節などの要素である.両眼視差については,融像による凸凹の感覚以外に,たとえば生理的複視のような融像できないほどの大きな視差も奥行き情報として利用される(連載③参照).これが視覚に基づく三次元の地図である.その他の感覚(聴覚・体性感覚・前庭平衡感覚など)についてもそあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018111れぞれの地図があり,それらが頭頂連合野で統合され(連載⑲参照),違和感なく行動できる.逆さめがねをかけると視覚地図が反転し,他の感覚と乖離してしまう.しかしその世界で体を動かし周囲に働きかけていくと,他の感覚地図とのすり合わせが進み,やがて正立した像を得られるようになる.三次元地図の体得自分が使っている視覚の三次元地図は,その存在も知らされず誕生と同時にこの世界に放り出され,無我夢中で一から体得したものである.その作業は逆さめがねの世界に慣れるより,もっと困難なものだっただろう.視覚地図の体得には,実際に動き回り,物に働きかけることが鍵となると以下の実験で示された3).生直後から約10週間暗室で育てた2匹のネコをメリーゴーランドのような装置につなぐ(図2).1匹は自由に動ける.もう1匹はバスケットに入れられ自分では動けないが,もう1匹のネコの動きに連動して運ばれる.2匹とも1日3時間を装置で,残りの時間を暗室で自由に動き回れる環境で数日から数週間過ごさせる.バスケットネコは,たとえば眼前の机の角に前肢を伸ばすような動作が正確にできず,障害物をうまく避けて歩けないなど,視覚による行動の制御ができなかった.自分の手足や体の動きとそれによる網膜像の変化とを対応づけて行動することを「視覚・運動協応」とよぶ2,3).能動的に周囲に働きかけられる環境が大切である.固視・定位脳内に三次元空間を再現し物の位置を定めるには,安定した固視が必要である.眼・頭・身体が動いても目の前の景色が揺れないように補正する前庭系との協調が必112あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018a.中心窩固視b.傍中心窩固視c.傍黄斑固視d.周辺固視e.固視不良f.固視不良図3固視の分類重度の弱視で固視不良状態(e・f)であっても,早期治療によりd→c→b→aと改善する例もある.要である.「見たい物に目を向ける・対象物を両眼の中心窩でとらえる」という普通のことが実は訓練を要することなのだ.強度の弱視では自分の中心窩がどこを向いているかがわからない.そのため意識的に眼を動かすことができず,眼球は小刻みに揺れ内転したままとなる.早期発見と治療により固視は改善する(図3).治療が遅れると視力は改善しても不安定な固視が残り,視覚地図の基準が定まらず,空間知覚にも影響を及ぼす.文献1)StrattonGM:Visionwithoutinversionoftheretinalimage.PhycholRev4:341-360,463-481,18972)鈴木光太郎:ものの位置を知る.動物は世界をどう見るか,p219-246,新曜社,19953)HeldR,HeinA:Movement-producedstimulationinthedevelopmentofvisuallyguidedbehavior.JComp&Physi-olPsychol56:872-876,1963(112)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 176.梅毒性ぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)

2018年1月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載176176梅毒性ぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに梅毒性ぶどう膜炎は梅毒第C2,3期にみられ,臨床症状は多彩で特徴的な所見に乏しい.後眼部病変としては網脈絡膜炎が一般的で,ごま塩眼底(pepper-and-saltfundus)は鎮静化した脈絡膜炎の所見としてよく知られている.筆者らは,過去に網脈絡膜炎から広範な網膜虚血をきたし,増殖性網膜症,硝子体出血をきたした非典型的梅毒性ぶどう膜炎に対して硝子体手術を施行し,報告したことがある1).C●症例38歳,女性.初診時視力はCRV=0.04(0.05),LV=0.3(1.5).右眼底は耳上側の血管アーケードから黄斑部にかけての網膜出血と,軟性白斑および滲出性変化を伴う網膜静脈炎を認めた.フルオレセイン蛍光眼底検査(.uoresceinCangiography:FA)では,右眼耳上側に閉塞性網膜血管炎を認めた.血清梅毒反応でCRPR陽性,TP抗体陽性(RPRC8倍,TP抗体C8.8COI),FTA-ABS-IgM抗体陽性であった.皮膚科所見として,4カ月前に外陰部に無痛性の湿疹様所見あるも自然軽快していた.HIVは陰性であった.網膜血管炎に対して抗凝固薬投与,梅毒感染に対して広域感性ペニシリン製剤による駆梅療法を開始したが,新生血管からの硝子体出血をきたし(図1a),FAでは乳頭上新生血管と周囲の網膜無灌流域の拡大認めた(図1b).その後,硝子体出血が増強したため硝子体手術を施行した.乳頭新生血管膜は硝子体カッターで切除し,その後,周辺部まで人工的後部硝子体.離を作製し,網膜無灌流領域に眼内光凝固を施行した.術中に採取した硝子体液の梅毒定量検査では,ガラス板法C1倍,TPHA5,120倍で,梅毒性ぶどう膜炎と確定診断した.術後,眼底の視認性は改善し(図2a),網膜血管からの蛍光漏出は著明に減少し(図2b),矯正図1術前の眼底写真(a)とフルオレセイン蛍光眼底写真(b)上耳側に網膜出血および硝子体出血を認める.FAでは広範囲の網膜無灌流域を認める.(文献C1より引用)図2術後の眼底写真(a)とフルオレセイン蛍光眼底写真(b)眼底の視認性は改善し,網膜血管からの蛍光漏出は著明に減少した.(文献C1より引用)C視力はC0.3に改善した.C●梅毒性ぶどう膜炎に対する硝子体手術梅毒性ぶどう膜炎に対して硝子体手術を施行した過去の報告では,硝子体混濁例が多いが,なかには本提示例と同様に閉塞性網膜血管炎による増殖性変化に対して硝子体手術が有効であったとする報告もみられる2,3).このような劇症型の梅毒性ぶどう膜炎では,網膜虚血により惹起される増殖性変化のみならず,網膜壊死による裂孔原性網膜.離の発症にも注意をする必要がある.原因不明の閉塞性網膜血管炎に起因する増殖性網膜症をみた場合,原因疾患として梅毒性ぶどう膜炎も念頭に入れて,早期に全身精査を施行する必要がある.また,本症例のように全身所見に乏しく,梅毒の確定診断が困難な症例に対しては,硝子体手術時に採取した検体による血清学的検査が診断に有用である.文献1)KobayashiCT,CKatsumuraCC,CShodaCHCetCal:ACCaseCofCsyphiliticuveitisinwhichvitreoussurgerywasusefulfortheCdiagnosisCandCtreatment.CCaseCRepCOphthalmolC8:C55-60,C20172)QueirozRdeP,DinizAV,Vasconcelos-SantosDV:Fulmi-nantCproliferativeCvitreoretinopathyCinCsyphiliticCuveitis.CJOphthalmicIn.ammInfectC6:6,C20163)HaugSJ,TakakuraA,JumperJMetal:RhegmatogenousretinalCdetachmentCinCpatientsCwithCacuteCsyphiliticCpanu-veitis.OculCImmunolIn.ammC24:69-76,C2016(109)Cあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1090910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:睫毛内反と眼瞼内反の相違

2018年1月31日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人34.睫毛内反と眼瞼内反の相違小幡博人埼玉医科大学総合医療センター眼科逆さまつげと聞くと,睫毛乱生,睫毛内反,眼瞼内反などが想起されるが,睫毛内反と眼瞼内反の病態の違いを認識しておく必要がある.睫毛内反は,瞼縁の皮膚が余剰のため,睫毛が眼表面側に向いてしまう状態で,先天性のもので東南アジアの小児に多い.一方,眼瞼内反は,眼瞼皮膚や瞼板を含む眼瞼全層が内反し,睫毛が眼表面に触れている状態で,多くが退行性変化であり高齢者に多い.C●睫毛内反とは睫毛内反は,瞼縁に近い眼瞼の皮膚が余剰のため(贅皮),睫毛が眼表面側に向いてしまう状態で,先天性のもので東南アジアの小児に多い1,2)(図1).点状表層角膜症を生じていることが多く,そのために羞明がおもな症状である.先天性のため知覚が鈍麻しているためか,疼痛の訴えはない.角膜不正乱視や角膜炎(角膜潰瘍)の原因となり,視力低下を生じることがある.顔面の発達とともに自然治癒することもあるとされるが,必ずしもそうではない(図2).C●眼瞼内反とは眼瞼内反は,眼瞼皮膚や瞼板を含む眼瞼の全層が内反し,睫毛が眼表面に触れている状態である(図3).おもな症状は異物感だが,角膜潰瘍を生じることがある.眼瞼内反のもっとも多い原因は加齢に伴う退行性変化であ図1睫毛内反6歳,女児.左下眼瞼の鼻側の瞼縁皮膚が余剰となり,睫毛が内反している.その部分の瞼縁のラインは隠れて見えない.る.病態は,瞼板を支える下眼瞼牽引筋腱膜の脆弱性による上下方向の弛緩と,外眼角と内眼角の靭帯の弛緩による水平方向の弛緩,これらに瞼板上の眼輪筋の作用が加わった結果と考えられている3,4).加齢に伴う眼窩脂肪の萎縮による眼球陥凹も内反に加担する.MRIの矢状断像で,下眼瞼牽引筋腱膜が眼球から離れていて,瞼板が内方へ回旋しているのが観察されている5).C●睫毛内反と眼瞼内反の違い両者の病態については前述の通りだが,もっとも大きな違いは,瞼板の位置が正常か,内方に回旋しているかである(図4).C●治療眼瞼の手術にはいろいろな方法がある.睫毛内反にはHotz変法が一般的に行われている6)(図5).退行性下眼瞼内反の手術は,下眼瞼牽引筋腱膜を前転して瞼板に縫着するCJones法が一般的である(図6).Jones法は再発することがあり,水平方向の弛緩を治すClateralCtarsalstripやCtranscanthalCcanthopexyを併用する術式が報告されている7,8).図2睫毛内反の自然経過a:小学C1年生の男児.右下眼瞼内側に睫毛内反がある.Cb:小学C6年時で自然寛解はない.(107)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1070910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3退行性下眼瞼内反70歳,男性.下眼瞼の瞼板を含む眼瞼全層がロールしたように内反している.瞼縁は隠れて見えない.C図5眼瞼内反の術前後12歳,男児.Ca:Hotz変法の術前.Cb:術後.●用語の問題日本眼科学会の『眼科用語集』第C6版によると,眼瞼内反はCentropionCofCeyelid,睫毛内反はCcilialCentropionと訳されている.海外では睫毛内反はCepiblepharonとよばれることが多いが,用語集でCepiblepharonを調べると眼瞼贅皮と訳されている.このような複数の用語と病態の理解不足が今日まで睫毛内反と眼瞼内反という言葉の混乱を招いていると思われる.文献1)NodaCS,CHayasakaCS,CSetogawaCT:EpiblepharonCwithCinvertedCeyelashesCinCJapaneseCchildren.CI.CIncidenceCandCsymptoms.CBrJOphthalmolC73:126-127,C19892)SundarG,YoungSM,TaraSetal:EpiblepharonineastasianCpatients:theCSingaporeCexperience.COphthalmologyC117:184-189,C20103)KakizakiCH,CZakoCM,CKinoshitaCSCetCal:PosteriorClayerC瞼板LER正常LER睫毛内反眼瞼内反図4睫毛内反と眼瞼内反の違い睫毛内反は,瞼縁の眼瞼皮膚が余剰となり,瞼縁に乗っかる(override)状態となり(→),睫毛が内反する.下眼瞼内反は,下眼瞼牽引筋腱膜(LER)が脆弱となり,瞼板を支える力がなくなる.眼瞼の水平方向の弛緩とあいまって,眼瞼全層が内反する.図6下眼瞼内反の術前後88歳,女性.Ca:下眼瞼牽引筋腱膜前転術の術前.b:術後.advancementCofCtheClowerCeyelidCretractorCinCinvolutionalCentropionCrepair.COphthalCPlastCReconstrCSurgC23:292-295,C20074)NishimotoCH,CTakahashiCY,CKakizakiCH:RelationshipCofChorizontalClowerCeyelidClaxity,CinvolutionalCentropionCoccurrence,CandCageCofCAsianCpatients.COphthalCPlastCReconstrSurgC29:492-496,C20135)KakizakiCH,CZakoCM,CMitoCHCetCal:MagneticCresonanceCimagingCofCpre-andCpostoperativeClowerCeyelidCstatesCinCinvolutionalCentropion.CJpnCJCOphthalmolC48:364-367,C20046)KakizakiH,SelvaD,LeibovitchI:Cilialentropion:surgiC-calCoutcomeCwithCaCnewCmodi.cationCofCtheCHotzCproce-dure.OphthalmologyC116:2224-2229,C20097)LeeH,TakahashiY,IchinoseAetal:Comparisonofsur-gicalCoutcomesCbetweenCsimpleCposteriorClayerCadvance-mentCofClowerCeyelidCretractorsCandCcombinationCwithCaClateralCtarsalCstripCprocedureCforCinvolutionalCentropionCinCaCJapaneseCpopulation.CBrCJCOphthalmolC98:1579-1582,C20148)IshidaCY,CTakahashiCY,CKakizakiCH:PosteriorClayerCadvancementCofClowerCeyelidCretractorsCwithCtranscanthalCcanthopexyCforCinvolutionalClowerCeyelidCentropion.CEyeC30:1469-1474,C2016C108あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(108)C

抗VEGF治療:VEGF阻害薬の作用機序

2018年1月31日 水曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二48.VEGF阻害薬の作用機序安藤亮野田航介北海道大学大学院医学研究院眼科学教室現在,わが国で眼科領域において使用されているCVEGF阻害薬にはベバシズマブ,ペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトのC4種類がある.実臨床ではそれぞれの特性を理解したうえで選択,使用されるべきである.本稿では各薬剤の特性と作用機序について概説する.はじめに現在の眼科治療において,血管内皮細胞成長因子(vas-cularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬はもはや欠かせないものとなっている.いくつもの臨床試験によってその投与方法は確立しているといえるが,実臨床ではさまざまな患者背景,既往全身疾患,経済的状況などによって治療法を変更せざるをえないことがある.本稿では各薬剤の特性と作用機序について概説する.阻害薬の種類と特性現在,わが国で眼科領域において使用認可されているVEGF阻害薬にはベバシズマブ,ペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトのC4種類がある.それぞれの薬剤特性により,阻害する分子には差異がある(表1,図1).ベバシズマブはC2007年に大腸癌に対する抗癌薬として国内で認可された,VEGF-Aを阻害することで血管新生を抑制するヒト化モノクローナル抗体である.分子量はC150,000とC4種類のなかでもっとも大きく,半減期も長い.眼科領域においては,他のCVEGF阻害薬が登場するまで眼内血管新生疾患,とくに滲出型加齢黄斑変性に広く使用されていたが,オフラベル投与であった.現在でも眼疾患に対しての適応はないものの,特発性脈絡膜新生血管,未熟児網膜症,Coats病,網膜血管増殖性腫瘍,血管新生緑内障など,他のCVEGF阻害薬でも適応となっていない眼疾患に対して使われることがある.ペガプタニブは,2008年に国内初の滲出型加齢黄斑変性に対する薬剤として承認された.核酸(RNAやDNA)以外の物質に作用する核酸医薬品のことをアプタマーとよぶが,ペガプタニブはCVEGF-Aに結合し阻害するC1本鎖CRNAアプタマーである.VEGF-Aにはその分子量によっていくつかのアイソフォームが存在するが,生理的な作用にはCVEGF-ACが強く関与しており,病的血管新生や血管透過性亢進な121ど病理的な作用にはCVEGF-AC165が強く関与している.ペガプタニブはこのCVEGF-ACのみを選択的に阻害する唯一の薬剤である.治療効果は165他のCVEGF阻害薬に及ばないが,添付表1VEGF阻害薬の特性と比較薬剤名分子量阻害分子Fc領域平衡解離定数KC(pM)DVEGF-A165CPlGFCVEGF-BベバシズマブC150,000CVEGF-A有C58CNBCNBペガプタニブC50,000CVEGF-A165C─C─C─C─ラニビズマブC50,000CVEGF-A無C46CNBCNBアフリベルセプトC115,000CVEGF-ACPlGFCVEGF-B有C0.49C38.9C1.92NB:nobinding.(105)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1050910-1810/18/\100/頁/JCOPY文書上,4剤のなかで唯一血栓塞栓症に対する慎重投与の記載がなく,安全性が高いと考えられる.ラニビズマブはC2009年に国内で承認されたヒト化モノクローナル抗体CFab断片である.ベバシズマブが抗体製剤であるのに対して,ラニビズマブは抗原と結合するCFab領域のみとなっており,さらにCVEGFとの結合親和性を増強して製品化されている.アフリベルセプトはC2012年に国内で承認されたVEGF受容体(VEGFR)融合蛋白である.VEGFR-1とVEGFR-2の細胞外ドメインをヒトCIgGのCFc領域に融合させていることがこの製剤の特性で,このためVEGFR-1とCVEGFR-2に結合する蛋白質すべてを阻害することができる.VEGF-Aのほかにも,VEGF-Bや胎盤成長因子(placentalCgrowthCfactor:PlGF)を阻害する.PlGFも滲出型加齢黄斑変性1)や糖尿病黄斑浮腫1)に関与していると考えられており,効果の増強が期待できる.薬剤間の比較それぞれの阻害薬はCVEGF-ACへの親和性も異なる2).平衡解離定数は,その数値が低いほ165ど親和性が高く,分子と結合しやすいことを示すが,アフリベルセプトは表1のとおりベバシズマブやラニビズマブよりもC100倍ほどCVEGF-ACに結合しやすい.また,VEGFR-1とVEGFR-2の平165衡解離定数はC9.33CpMとC88.8CpMであり,アフリベルセプトのほうがより結合しやすいことがわかる.では,全身への影響はどうだろうか.151名の滲出型加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症患者における各種CVEGF阻害薬の全身薬物動態を調査した報告では,硝子体注射後の血漿中の遊離CVEGF濃度はアフリベルセプト,ベバシズマブ,ラニビズマブの順で低かった3).ラニビズマブでは投与前と比べてほとんど変化がなかったのに対し,アフリベルセプトではC1週間後まで検出感度以下となった.この動態の違いはCVEGFへの親和性の違いや分子量に由来するだけでなく,血管内皮細胞に存在するCFcRn-mediatedCrecyclingというFc部分をもつ蛋白質の分解に対する抑制機構の影響も考えられる.この機構によってCFc部分をもつアフリベルセプトとベバシズマブでは,Fc部分のないラニビズマブと比較して,全身循環からのクリアランスが低いと考えられるためである.新規の阻害薬VEGF阻害薬治療では,治療回数の多さが一つの問106あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018題であり,それが患者にとっても医療者にとっても負担となっている.現在でもさらに新しいCVEGF阻害薬が開発され治験が行われているが,その一つがCbroluci-zumabである.これはCVEGF-Aを阻害するヒト化C1本鎖抗体断片であり,分子量はC26,000と他のCVEGF阻害薬と比べて一番小さい.このためC50Cμlの注射でC6Cmgを投与でき,モル濃度で換算でき,アフリベルセプト2CmgのC12倍,ラニビズマブC0.5CmgのC22倍に匹敵する.高容量を投与できるため眼内からの排出期間も長くなり,実際,滲出型加齢黄斑変性の患者に投与したところ,追加投与が必要になるまでの平均期間はラニビズマブよりもC30日長かった.第CII相試験では,滲出型加齢黄斑変性を対象にアフリベルセプトとの比較がされている4).2カ月ごとの投与の結果,40週までの視力は両者に差はなかったが,brolucizumabのほうが中心網膜厚が薄くなり,網膜内浮腫,網膜下液が回復した割合も多かった.第CIII相試験(HAWK試験,HARRIER試験)が終了しており,実臨床への導入が期待される.おわりに以上のように,ベバシズマブとラニビズマブはCVEGF-A165へ同程度の親和性をもつが,ラニビズマブは血中CVEGFへの影響が非常に少ない.ペガプタニブは,添付文書上,4剤のなかで唯一血栓塞栓症に対する慎重投与の記載がない.アフリベルセプトは親和性が高く,VEGF-A以外の標的分子ももち,効果が強いが,血中CVEGFへの影響も大きい.それぞれの薬剤特性を知ることは,症例に応じたより適切な薬剤の選択につながると考えられる.文献1)AndoR,NodaK,NambaSetal:AqueoushumourlevelsofCplacentalCgrowthCfactorCinCdiabeticCretinopathy.CActaCOphthalmolC92:e245-246,C20142)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetCal:BindingCandCneutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andCrelatedCligandsCbyCVEGFCTrap,CranibizumabCandbevacizumab.AngiogenesisC15:171-185,C20123)AveryRL,CastellarinAA,SteinleNC:Systemicpharma-cokineticsCandCpharmacodynamicsCofCintravitrealCa.ibercept,Cbevacizumab,CandCranibizumab.CRetinaC37:C1847-1858,C20174)DugelPU,Ja.eGJ,SallstigPetal:Brolucizumabversusa.iberceptCinCparticipantsCwithCneovascularCage-relatedmaculardegeneration:Arandomizedtrial.OphthalmologyC124:1296-1304,C2017(106)

緑内障:眼球の剛性と緑内障

2018年1月31日 水曜日

●連載211監修=岩田和雄山本哲也木内良明211.眼球の剛性と緑内障広島大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学(眼科学)眼圧による機械的な障害,循環障害に加えて角膜,強膜,篩状板の剛性も緑内障の発症あるいは進行に関与する危険因子の一つと考えられている.空気式眼圧計に高速シャインプルーフカメラを搭載したCCorvisCSTは眼圧測定中の角膜挙動の変化を詳細にとらえることができる.CorvisSTを用いた緑内障研究が進んでいる.C●緑内障の危険因子緑内障は多因子性の疾患と考えられている.古くから機械障害説と循環障害説が提唱されてきた1).さらに,疫学的な研究からも緑内障発症あるいは進行の危険因子が明らかにされている.わが国で行われたCTajimiCStudy2)では,高眼圧,高年齢,近視であることが緑内障発症の危険因子として示された.薄い中心角膜厚や乳頭出血が緑内障発症の危険因子としてあげられることもある3).加齢に伴いコラーゲン線維間の架橋が増えることで篩状板や角膜の剛性が変化する.近視では強膜が進展されて眼球の剛性が変化する.角膜の厚さも眼球の剛性に影響することは容易に理解できる.眼圧,循環障害に続いて,眼球壁の剛性も緑内障の危険因子ではないかと考えられるようになった.C●空気式非接触眼圧計と高速カメラ眼球の剛性の測定方法には,摘出眼球から得られた組織を用いて物理的な剛性を測定する,白内障手術のときに一定量の人工房水を前房に注入して眼圧を上昇させて測定する5),などの方法がとられてきた.しかし,このような方法は臨床の場で実際に応用することはできない.筆者らは,空気式眼圧計で眼圧を測定する際に,角膜が変位する量や変位に要する時間を測定して角膜(眼球)の剛性を測定しようと試みてきた.初期のころは高速カメラと眼圧計を直角の位置に配置して,得られた画像から変位量を手作業で解析していた(図1).角膜の中央部の初期変位量は眼圧が高いほど,年齢が若いほど,また男性よりも女性のほうが少ないということが示された6).眼圧が高いほど角膜の変位量が少ないということは直感的に理解できる.しかし,男性の組織のほうが女性より,また高齢者の組織が若年者より硬いと予測されるために,男性や高齢者の角膜変位量(103)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYが大きくなるという結果の解釈ができなかった.そこで測定初期と後期のC2時点における変位量を,角膜中央部だけでなく,空気噴流で角膜の変形を生じない部位でも求めた.その結果,眼圧測定中は角膜だけでなく,眼球自体(眼球のどこまでが変位するかはわかっていない)が後方に変位することがわかった.その全体変位は高齢者ほど大きく,とくに高齢の女性の変位が大きいことがわかった.眼球全体の後方変位が少ないことが若さの特徴と考えられた.高齢者は眼球全体の後方変位が大きくなる.とくに女性において高齢になると後方変位量が極端に増大する.つまり女性の眼球変位量は男性よりも年齢の影響を受けやすいことがわかった7).C●高速シャインプルークカメラを搭載した非接触眼圧計高速シャインプルークカメラを搭載したCCorvisCST(OCULUS社)は角膜の変形する様子を撮影し,画像から角膜や眼球変位のパラメータを自動的に提示することあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C103yDeformationAmplitudeMaxLargerDeformationAmplitudeMaxSameA2andA2timeforce図2角膜の物理学的特性a:角膜はばねとダンパーの組み合わせでできている.b:上方から力が加わり,図の下方にむけて変位するとき(loading)と元に戻るとき(unloading)では,同じ力が加わっていても変位する量は異なっている.LoadingとCunloadingのときの角膜先端の動きをプロットするとCbのようになる.loadingとCunload-ingで囲まれた面積がChysteresisとよばれ,このエネルギーの差は熱に変換される.Cができる.一般的な空気式眼圧計は,眼圧測定値が得られたときから角膜に吹き付ける空気噴流圧を下げる.一方,CorvisSTは眼圧値と関係なく一定量の空気を一定の圧で毎回噴出させる.また,CorvisSTは全体の動きを除外した真の角膜中央部の変化を示すパラメータを表示してくれる.したがって眼球の動きの変化を理解しやすい.角膜の先端部はばねとダンパーの組み合わせで,その物理的な性質を示すことができる(図2).その先端の動きを線でつなげると,陥凹するときと元の形に戻るときにずれを生じる(hysteresis曲線)8).このChystere-sis曲線に囲まれた部分の面積が角膜のChysteresis〔Ocu-larCResponseCAnalyzerで得られるCcornealChysteresis(CH)とは異なる〕である.白内障術後のChysteresis曲線は,術前と比べて最大押し込み量が増えて,元の位置に戻るときに左方変位していることがわかる.角膜の物理特性を表現するばねとダンパーの両者が弱くなっている状態といえる9)(図3).C●眼球剛性と緑内障プロスタグランジン関連薬は眼球の剛性に影響を与えることがわかっている10).緑内障群と非緑内障群のCorvisCSTのパラメータの違いを検討した報告はあるが,緑内障患者にはプロスタグランジン関連薬が点眼されていることが多いために,緑内障群と非緑内障群の剛性の違いを述べることはむずかしい.一方,緑内障の進行速度と関連するCCorvisCSTのパラメータを調べると,空気噴流が当たるとすぐ変形して,その後にすぐ元の形104あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018ForceSameA1andA1ProbableloadingandunloadinglinetimeforceaftercataractsurgeryxDisplacementSameA1andA1DefLargerA2thanA2Def図3超音波白内障手術前後のhysteresiscurveの違い青い線が術前,赤いドットが術後の予想曲線である.両者の差はCunloadingのときに顕著になる.A1time,A2time,A1Def,A2DefはCCorvisSTのパラメータである.C状に戻るような眼球は,緑内障の進行速度が速いことが予測されている11).文献1)YanagiM,KawasakiR,WangJJetal:Vascularriskfac-torsCinCglaucoma:aCreview.CClinCExpCOphthalmolC39:C252-258,C20112)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-angleCglaucomaCinCaCJapaneseCpopulation:theCTajimiCStudy.Ophthalmology113:1613-1917,C20063)GordonCMO,CBeiserCJA,CBrandtCJDCetCal:TheCOcularHypertensionTreatmentStudy:baselinefactorsthatpre-dicttheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOph-thalmol120:714-720,C20024)AlbonJ,PurslowPP,KarwatowskiWSetal:AgerelatedcomplianceCofCtheClaminaCcribrosaCinChumanCeyes.CBrCJOphthalmolC84:318-323,C20005)PallikarisIG,KymionisGD,GinisHSetal:Ocularrigidityinlivinghumaneyes.InvestOphthalmolVisSciC46:409-414,C20056)KiuchiY,KanekoM,MochizukiHetal:Cornealdisplace-mentduringtonometrywithanoncontacttonometer.CJpnJOphthalmolC56:273-279,C20127)NakakuraS,KiuchiY,KanekoMetal:Evaluationofcor-nealCdisplacementCusingChigh-speedCphotographyCatCtheCearlyCandClateCphasesCofCnoncontactCtonometry.CInvestCOphthalmolVisSciC54:2474-2482,C20138)IshiiCK,CSaitoCK,CKamedaCTCetCal:ElasticChysteresisCinChumanCeyesCisCanCage-dependentCvalue.CClinCExpCOph-thalmolC41:6-11,C20139)KatoCY,CNakakuraCS,CAsaokaCRCetCal:CataractCsurgeryCcausesCbiomechanicalCalterationsCtoCtheCeyeCdetectableCbyCCorvisSTtonometry.PLoSOneC12:e0171941,C201710)WuCN,CChenCY,CYuCXCetCal:ChangesCinCcornealCbiome-chanicalCpropertiesCafterClong-termCtopicalCprostaglandinCtherapy.PLoSOneC11:e0155527,C201611)MatsuuraCM,CHirasawaCK,CMurataCHCetCal:UsingCCor-visSTCtonometryCtoCassessCglaucomaCprogression.CPLoSCOneC12:e0176380,C2017(104)