LaserTrabeculoplasty(LTP)新田耕治*I選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の登場Argonlasertrabeculoplasty(ALT)は,1979年に原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)に対するレーザー治療方法としてWiseが初めて報告し1),GlaucomaLaserTrial(GLT)とGLTFol-low-upStudyでPOAG患者のレーザー治療としてその有用性が報告された2).しかし,ALTは一過性眼圧上昇(6.3~53%),周辺虹彩前癒着(12~47%),ぶどう膜炎などを比較的高率にきたすことが報告されており,またALTは線維柱帯を損傷させるために再照射が不可能であるなどの欠点がある3).1983年にAndersonとParrishが短時間の照射により,色素を含んだ細胞を選択的に障害し,その周囲の組織を温存できるselectivephotothermolysis(選択的光加熱分解)を見出し4),LatinaとParkが線維柱帯の色素細胞にのみ選択的にレーザーを照射することが可能であることを報告した5).その後,波長532nmQ-switchedNd:YAGレーザー,3ns,400μmの選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)機器が1995年に世界中に導入された.IISLTの作用機序SLTの作用機序はまだ解明されていないが,Chenら6)はレーザー照射により活性化されたフリーラジカルがマクロファージの貪食能を高めることによって,またAlvaradoら7)はレーザー照射により放出されたサイトカインがSchlemm管内皮細胞の房水透過性を向上させることによって,眼圧が下降するという仮説を提唱している.選択的な色素細胞の障害による炎症反応の過程で,線維柱帯細胞や貪食細胞が活性化され,線維柱帯の機能的再構築が行われて房水流出抵抗が減弱した結果,眼圧が下降するのではないかと考えられている.IIISLTの適応SLTの適応となる緑内障病型は,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)を含めた広義POAG,および落屑緑内障,高眼圧症である.これらの病型は隅角が広く,線維柱帯への照射も容易である.徳田らは,SLT(全周)施行後12カ月以上経過観察できた46眼(ステロイド緑内障10眼,POAG16眼,落屑緑内障10眼,混合緑内障10眼)の治療成績を検討した結果,眼圧下降率はステロイド緑内障群35.9%,POAG群13.2%,落屑緑内障群10.7%,混合緑内障群6.9%で,ステロイド緑内障群は他の病型と比較して有意な眼圧下降率を示したと報告した.また,累積生存率(手術療法を施行またはSLT前と同等もしくは上回る眼圧が2回連続した場合に死亡と定義)は,ステロイド緑内障群80.0%,POAG群56.3%,落屑緑内障群50.0%,混合緑内障群40.0%であり,ステロイド緑内障もSLTを試してみる価値のある病型であるとしている8).一方,SLT*KojiNitta:福井県済生会病院眼科〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(41)183図1レーザー線維柱帯形成術の照射シェーマALTはサイズ50μmで線維柱帯色素帯中央に照射し,SLTは線維柱帯色素帯に2~3発につき1度程度気泡が生じるエネルギーで照射スポットが重ならない程度に詰めて照射する.網膜光凝固のように照射斑は生じないため注意を要する.L)SLT図2第一選択治療としてSLTを施行した長期経過症例2008年8月19日に左眼にSLT(全周)を施行.2014年までは明らかに左眼のほうが眼圧は低く,SLTが奏効しているように思われたが,その後SLTの効果は減衰したと思われる.MD(HFA)TD(HFA)VFI(HFA)図3図2の症例の視野検査経過Humphrey視野に進行を認めず,SLT初回施行から8年以上緑内障が進行していない症例である.2年後の眼圧は12.6mmHg(11.5%下降),眼圧下降20%未満で緑内障点眼を再開することとした場合に,SLT2年後の薬剤数は0.9剤(薬剤使用症例は41.1%)になったと報告している.VIISLT照射範囲の違いによる治療比較90°に25発,180°に50発照射して32例をprospec-tiveに眼圧下降効果を検討したChenの報告6)では,両群に眼圧下降効果の差は認めなかったが,Chenは別のretrospectivestudyで長期間の経過をみると,90°照射のほうが作用持続期間は短かったので,90°と180°では180°照射を推奨している.同様に180°と360°照射を比較した報告34,35)では,両者に有意差がないとする報告がある一方で,360°照射のほうが眼圧下降効果は優れているとする報告も多い19,30,36~38).森藤らは,半周照射と全周照射とを比較して,眼圧下降率は半周群10.9±12.6%が全周群18.3±11.8%で全周群が有意に高く,Kaplan-Meier生存分析による2年生存率は半周群44.0%,全周群58.0%と全周群のほうが高かったと述べている19).このような結果から,最近ではSLTを施行する場合には,360°全周に照射するのが主流と思われる.VIIISLTの治療効果予測SLTを施行しても眼圧下降がほとんど得られないnon-responderが3割程度存在するので10),どのような症例がnon-responderになりやすいか施行前からわかっていれば有用と思われるが,SLT治療の効果と年齢,性別,内眼手術の既往,水晶体の有無には関連性が認められず,緑内障点眼治療状況や糖尿病の有無もSLTによる治療効果とは無関係と報告されている39,40).ALTでは隅角色素が多い症例が反応しやすいという報告41,42)があるので,山崎ら43)は色素沈着の程度とSLTの眼圧下降効果に関して検討したが,隅角の色素と眼圧下降に有意差を認めなかったと報告している.また,隅角の色素沈着の程度や緑内障の病型とも関連性は認めていない40).よって,施行前に眼圧下降効果が得られない可能性があることを説明し,了承を得るようにすべきである.Leeらは,SLTの眼圧下降効果の両眼一致性について検討している44).この場合の成功の定義は,SLT1カ月後にSLT前より20%以上の眼圧下降を得た場合とし,両眼ともにSLTによる眼圧下降治療が成功となったのは.42.9%,両眼ともに不成功となったのは,38.1%であり,両眼一致性は8割以上であった.つまり,片眼で効果があった場合は反対眼もSLTを試す価値があり,逆に片眼で効果がなかった場合,反対眼はSLT以外の治療方法を考えたほうがよいことになる.IXSLTの合併症SLT施行後の合併症として,前房出血・虹彩炎・黄斑浮腫・角膜浮腫などの報告45~49)があるが,筆者の検討対象では結膜充血,霧視,重圧感などの合併症の出現頻度は26/40(65.0%)と高率であったが,すべて数日間で消失し,重篤な合併症は経験していない31).SLT第一選択治療での合併症の報告としては,McIl-raithら(下半周照射)9)はSLT1時間後にcell1+程度の前眼部炎症を48%で認めたが,次回の受診日にも炎症が持続していたものはなかったと報告した.Melamedら(鼻側半周照射)26)は,SLT照射1日以内に結膜充血や軽微な前房炎症を67%に,58%で眼痛を認めたと報告した.一過性眼圧上昇に関しては,SLT第一選択治療の場合,Melamedら26)はSLT後1時間以内に5mmHg以上の眼圧上昇が11%,2~5mmHgの上昇が7%であった.追加治療としてのSLT治療の場合,筆者の施設では2/113(1.8%)の頻度にてSLT照射後に5mmHg以上の眼圧上昇を認め,SLT治療後に線維柱帯切除術を施行せざるをえなかった1症例を経験した(unpublisheddata).森藤ら19)は,5mmHg以上の眼圧上昇が6.7%,上野ら21)は4.1%と報告した.いずれにしてもSLTを照射した直後には眼圧上昇をきたす可能性があるので,照射して1時間後には必ず眼圧の確認が必要であると考えられる.XSLT再照射の有効性SLTは理論上,線維柱帯の構造には影響を与えないとされており,反復照射が可能とされている50).自験例を呈示する.1998年11月に初診した43歳の女性であ(45)あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017187図4第一選択治療としてSLTを施行し再照射を繰り返した長期経過症例初回SLT(2008年施行)は2010年には眼圧下降効果が減衰したと考えられ,SLT再照射を2010年2月23日に施行.同様に2011年3月22日に再々照射を施行.2013年2月26日からは,プロスタグランジン(PG)点眼も開始した.この間,Humphrey視野に明らかな増悪を認めなかった.■用語解説■アプラクロニジン:アイオピジンR.a2受容体に選択的に作動する.アデニル酸シクラーゼ活性を抑制し,サイクリックAMP産生を減少させて房水産生を抑制する.その他,上強膜静脈圧低下やプロスタグランジン誘導作用による房水流出促進機序もいわれている.SLT,LI,後発白内障による後.切開術後の一過性眼圧上昇を抑制できる.長期投与にて約1/3にアレルギー反応や薬剤耐性が生じるために,国内では単回使用に限定されている.パターンスキャンレーザー線維柱帯形成術:PSLTは波長532nmのグリーンか,波長577nmのイエローを使用して,スポットサイズは50μmでパターンスキャンレーザーを線維柱帯に照射するlasertrabeculo-plastyである.総照射数は1,200発前後で,暴露エネルギーは1.5~2.3mJで閾値下凝固であり,細胞障害性が低い照射方法のひとつである.レーザー照射により発生する温熱効果を利用し,房水流出の抵抗を軽減させ,眼圧下降効果を得ることが可能で,コンピュータ制御によるAuto-advance&rotationを実用化しているため,正確かつスムーズに照射が可能.LaserTrial(GLT)andglaucomalasertrialfollow-upstudy:7.Results.AmJOphthalmol120:718-731,19953)FinkAI,JordanAJ,LaoPNetal:Therapeuticlimitationsofargonlasertrabeculoplasty.BrJOphthalmol72:263-269,19884)AndersonRR,ParrishJA:Selectivephotothermolysis:precisemicrosurgerybyselectiveabsorptionofpulsedradiation.Science220:524-527,19835)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,19956)ChenC,GolchinS,BlomdahlS:Acomparisonbetween90degreesand180degreesselectivelasertrabeculoplas-ty.JGlaucoma13:62-65,20047)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:Anewinsightintothecellularregulationofaqueousout.ow:howtra-becularme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