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緑内障:視神経乳頭の外縁

2017年6月30日 金曜日

●連載204監修=岩田和雄山本哲也204.視神経乳頭の外縁山下高明鹿児島大学病院眼科視神経乳頭外縁は,検眼鏡的な輪郭,光干渉断層計(OCT)で自動検出されるBruch膜開口部,OCT断層像における強膜リングの3者で異なる.この違いはコーヌス,乳頭周囲網膜神経線維隆起などの近視性変化に起因している.視神経乳頭外縁の違いを理解して視神経乳頭の評価を行う必要がある.緑内障診療ガイドラインにおける視神経乳頭外縁の定義は,「検眼鏡的に観察される乳頭周囲の白色の強膜リング(Elschnigの強膜リング)の内側」である1).すなわち視神経が強膜を貫く領域を視神経乳頭としている.図1は検眼鏡的な視神経乳頭外縁と,画像解析装置における視神経乳頭外縁が一致している眼である.一方で,「ただし,ここでのパラメータは臨床観察における定義であり,近年開発された画像解析装置における定義とは異なる」との記載もある.これは検眼鏡的な視神経乳頭の外縁と,画像解析装置における視神経乳頭の外縁が一致していないことを示している.近年の光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)の進歩は著しく,画像取得のスピードが格段に向上した.そのため,視神経乳頭は三次元画像で撮影され,視神経乳頭周囲網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)厚の測定円の位置決めや,視神経乳頭面積の算出が自動で行われるようになった.これらの自動化のためには,視神経乳頭外縁をOCTが自動認識する必要がある.現行のほとんどのOCTは,Bruch膜断端を視神経乳頭外縁として認識している(図2d,赤○印).つまり,視神経乳頭の断層像を得られるOCTでは,視神経が強膜を貫く領域,すなわち強膜の断端(Elschnigの強膜リング)を特定することができるが,あえてそこを視神経乳頭の外縁としなかったのである.その理由はおもに三つあり,一つ目は,最近の高深達で深い部分まで画像化できるOCTでは強膜の断端は確認できるが,従来のOCTでは不明瞭な症例が多かったこと,二つ目は,Bruch膜は眼球伸長に伴って伸長しにくいため,元々の円形の視神経乳頭外縁をもっとも反映していると考えられているからである.三つ目は,緑内障診断で用いられる視神経乳頭周囲RNFL厚の測定円の位置決めをする際に,Bruch膜断端で形成される円または楕円の中心を測定円の中心としたほうが,近視眼でみられる上下耳側網膜神経線維の耳側へのシフトの影響を軽減でき,正常眼データベースと比較しやすくなる利点(77)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYがあげられる2).上述したようにOCTではBruch膜断端を視神経乳頭外縁としているが,Bruch膜の断端を検眼鏡的に確認できるのであろうか.コーヌスの耳側境界(図2,黒矢印)や検眼鏡的視神経乳頭の辺縁(図2,緑○印,緑矢印)などの検眼鏡的に見える所見とBruch膜の断端が一致していれば確認できるであろうが,実際は一致してない2).Bruch膜,脈絡膜,視細胞層の断端は眼球伸長に伴って乖離していくと考えられている.成長期の眼球伸長は,出生時約16mmから成人時24mmと長さにして約1.5倍,体積にすると約3倍も大きくなる3).さらに,眼球伸長は後眼部全体が均一ではなく(後部ぶどう腫),一部の眼では成人後も眼球伸長が継続し,程度が強ければ病的近視となる.視神経乳頭周囲では視神経が固定されているため,眼球壁が後方に伸長していくと,視神経乳頭の耳側ではBruch膜や視細胞層が元来の乳頭縁から離れていき,コーヌスを生じる4).しかしながら,コーヌスの耳側境界は視細胞層(ellipsoidzoneまたはIS/OSline)の断端(図2f,黒矢印)であり,Bruch膜の断端(図2f,赤矢印1)と一致していない.つまり,Bruch膜の断端はコーヌス内に位置しており,コーヌス内にあるBruch膜の断端を検眼鏡的に確認できない眼がほとんどである.コーヌスのある眼において,検眼鏡的な視神経乳頭の耳側境界は,ほとんどの症例で強膜断端と一致している.すなわち,視神経乳頭の耳側では,検眼鏡的視神経乳頭辺縁とElschnigの強膜リングはほぼ一致している(図2f,緑矢印2)が,OCTで視神経乳頭と自動認識されるBruch膜の断端(図2f,赤矢印1)とは乖離している.では,鼻側はどうであろうか.視神経が固定されている状態で眼球が後方に伸長すれば,耳側のコーヌスとは逆に,鼻側は網膜神経線維が視神経乳頭に乗り上げてくるはずである.筆者らは,若年健常眼で,おもに鼻側で網膜神経線維が視神経乳頭に乗り上げている眼(図2f,青矢印)が珍しくないことを報告し,これを乳頭周囲網あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017835図1検眼鏡的視神経乳頭外縁とElschnigの強膜リングおよびBruch膜開口部がほぼ一致している眼a:カラー眼底写真,b:SLO眼底画像,c:OCT断層像.膜神経線維隆起(peripapillarynerve.berelevation:pNFE)と命名した5).pNFEをもつ眼では,検眼鏡的な視神経乳頭の外縁(図2f,緑矢印4)は,Bruch膜や強膜の断端(図2f,赤矢印3)より外側にあり,検眼鏡的な視神経乳頭がElschnigの強膜リングより大きく見える.乖離している部位は三日月状で,通常の視神経乳頭の色調よりもやや白っぽく見える(図2).白っぽく見える原因は,白色調である神経線維が盛り上がって厚くなっているためではないかと推察している.ただし,OCT画像と一緒に取得されるSLO(scanninglaserophthalmoscopy)眼底画像では,pNFEは視神経乳頭の一部とは映らないため,SLO眼底画像の視神経乳頭は,検眼鏡的視神経乳頭より小さく見える(図2b).pNFEのある眼では,視神経乳頭の陥凹が過小評価されてしまい,他の近視性変化と相まって,検眼鏡的な視神経乳頭で緑内障をスクリーニングしようとすると,緑内障を見逃してしまう可能性がある.視神経乳頭の鼻側では,OCTで視神経乳頭と自動認識されるBruch膜の断端はElschnigの強膜リングとほぼ一致している(図2f,赤矢印3)が,pNFEのある眼では,検眼鏡的視神経乳頭辺縁(図2f,緑矢印4)はElschnigの強膜リングと乖離しているといえる.このように視神経乳頭の辺縁は,OCTで自動認識されるBruch膜断端,検眼鏡的な色調による所見,Elschnigの強膜リングの3者で乖離していることが判明した.辺縁同士がほぼ一致していると書いたが,「ほぼ」としたのは,一致しているとした辺縁同士も実は微妙に乖離しているからである2).また,コーヌスが視神経乳頭の全周にある眼では,上述した耳側コーヌスの変化が,耳側だけでなく全周に認められる.臨床診察や疫学調査で用いられるC/D比をはじめとする視神経乳頭に関するパラメータは,どの視神経乳頭の辺縁を選択するかで異なる.どの辺縁が,緑内障診断,進行判定に有効かはいまだ不明であり,今後検討する必要がある.これらの知見から現時点でいえる臨床上の注意点は,OCTによる視神経乳頭パラメータは検眼鏡的な評価と836あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017図2検眼鏡的視神経乳頭外縁とElschnigの強膜リングおよびBruch膜開口部が一致していない眼a・d:カラー眼底写真,b・e:SLO眼底画像,c・f:OCT断層像.aとd,bとe,cとfはそれぞれ同一画像.視神経乳頭の耳側は検眼鏡的外縁(○印)と強膜リングがほぼ一致している(↑2)が,Bruch膜開口部(○印)すなわちOCTの視神経乳頭外縁(↑1)は一致していない.視神経乳頭の鼻側はBruch膜開口部,すなわちOCTの視神経乳頭外縁と強膜リングはほぼ一致している(↑3)が,検眼鏡的外縁(↑4)は一致していない.この鼻側の乖離部がperipapillarynerve.berele-vation(pNFE)であり,検眼鏡的には視神経乳頭の一部に見えるが,三日月状でやや白色調である.は乖離しており,pNFEやコーヌスを認める近視眼底の眼ではC/D比などの視神経乳頭パラメータの評価はむずかしく,網膜神経線維束欠損で緑内障を診断したほうが良いということである.本稿では詳述できないが,後部ぶどう腫を伴う病的近視眼では眼球伸長の程度が強いため,さらに大きく,複雑な視神経乳頭辺縁の変形を生じる.日本人は若年になるほど近視眼が多いため6),pNFE,コーヌスなどの視神経乳頭周囲の近視変化を理解することは,今後の緑内障診療に必須である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20122)ChauhanBC,BurgoyneCF:Fromclinicalexaminationoftheopticdisctoclinicalassessmentoftheopticnervehead:aparadigmchange.AmJOphthalmol156:218-227,20133)所敬,大野京子:近視.基礎と臨床.金原出版,20124)KimTW,KimM,WeinrebRNetal:Opticdiscchangewithincipientmyopiaofchildhood.Ophthalmology119:21-26,20125)YamashitaT,SakamotoT,YoshiharaNetal:Peripapil-larynerve.berelevationinyounghealthyeyes.InvestOphthalmolVisSci57:4368-4372,20166)SawadaA,TomidokoroA,AraieMetal:RefractiveerrorsinanelderlyJapanesepopulation:theTajimistudy.Ophthalmology115:363-370,2008(78)

屈折矯正手術:トリフォーカル眼内レンズ

2017年6月30日 金曜日

監修=木下茂●連載205大橋裕一坪田一男205.トリフォーカル眼内レンズ三木恵美子南青山アイクリニックトリフォーカル眼内レンズは遠方,近方,中間に焦点が合うようになることから,従来の2焦点眼内レンズより眼鏡依存度が減少する.レンズデザインが改良され,多焦点による不具合も軽減されるなど,ヨーロッパを中心に海外の学会で良好な成績が報告されている.●中間視力もいい多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を使用することで,白内障治療と同時に老視の矯正も行えるようになった.多焦点といっても2焦点のものが主流であり,遠方に加えて近方も見えることで老眼鏡の使用頻度は少なくなっているが,多焦点IOLに伴うハロー,グレア,waxyvision(視力はいいが見づらい)などのphotopicphenomenaや中間視力の不足が問題になることもある.トリフォーカル(3焦点)IOLは遠方,近方に加え中間も見えるようにした多焦点IOLであり,ヨーロッパを中心に使用されている.焦点深度曲線の二峰性がスムーズになり,広範囲で焦点が合うようになることから(図1),2焦点IOLより眼鏡装用率は減ると報告されている1,2).ヨーロッパ白内障・屈折矯正手術学会(Euro-peanSocietyofCataractandRefractiveSurgeons:ESCRS)でも,遠方と近方の視力は損なわず中間距離の視力が改善され,また光エネルギーロス(どこにも焦点を結ばない光の割合)を減らすことによりグレアが軽減するという良好な成績が報告されており,今後,使用症例が増えていくと思われる.CEマークを取得している3種類のトリフォーカルIOL3)をここで紹介する(表1).いずれも回折型であり,光学部デザインを改良し,見え方の瞳孔依存性を軽減している.ハロー,グレアを減らすためにそれぞれの工夫がある.多焦点IOLでは後発白内障発症が懸念されるが,光学部のスクエアエッジで後発白内障抑制を図っている.国内では未承認であり,医師の責任のもと,十分な説明とともに慎重な扱いが必要とされる.●FineVision(PhysIOL)MicroFとPodFの2種類あり,PodFはトーリックにも対応している.近用加入+3.50D,中間加入+1.75Dのレンズで,アポダイズド回折型である.回折格子先端をスムーズにしてグレア,ハロー,waxyvisionを減らしている.回折構造による若干のコントラストの低下とハローはあるものの,グレアは少ないと報告されている1).光のエネルギー配分は瞳孔径によって変化し,瞳孔径3mmで遠方43%,中間15%,近方28%(各レンズとも報告により若干の違いがある).また,PodFは支持部のdoubleC-loopのデザインから軸ズレが少ないとされている.●ATLISAtri(Zeiss)ATLISAtri839MPと,乱視に対応したATLISAtritoric939MPがある.プレート型で近用加入+3.33D,BifocalIOLTrifocalIOLBifocalIOLTrifocalIOLVisualAcuity(logMAR)-0.2-0.10.00.10.20.30.40.50.60.70.8VisualAcuity(logMAR)-0.2-0.10.00.10.20.30.40.50.60.70.8-5.0-4.5-4.0-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.0-5.0-4.5-4.0-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.0Defocus(D)Defocus(D)図1焦点深度曲線(両眼,術後3カ月)左:明所視,右:薄明視.(文献1より転載)(75)あたらしい眼科Vol.34,No.6,20178330910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1トリフォーカル眼内レンズ比較表FineVisionATLISAAcrySofIQPanOptixメーカーPhysIOLZeissAlconモデルMicroFPodFATLISAtri839MPATLISAtritoric939MPTFNT00PodFT種類アポダイズド回折・1P・非球面回折・プレート・球面回折・1P・球面素材親水性アクリル親水性アクリル,表面は疎水性疎水性アクリル近方加入3.5D3.33D3.25D中間加入1.75D1.66D2.17D形状光学径6.156.06.06.0全長10.7511.4011.013.0回折zoneすべてtrifocal中心4.3mmtrifocal4.3~6.0mmbifocal中心4.5mmtrifocal周辺はmonofocal色着色クリア着色範囲S+10.0~+35.0D+6.0~+35.0D0~+32.0D+10.0~+28.0D+13.0~+34.0DC─1.0~6.0D─1.0~4.0─光エネルギー遠方43%43%44%中間15%17%22%近方28%26%22%loss14%14%12%*光エネルギーは文献によりデータの違いがある.中間加入+1.66Dで,レンズの中心4.34mmはトリフォーカル,その周辺4.34~6.0mmはバイフォーカルにすることで,瞳孔径が大きくなる暗所では遠方優位となり夜間のコントラスト感度低下を軽減している.回折構造によるステップをスムーズにし散乱を抑え,光エネルギー配分は遠方50%,中間20%,近方30%.光学部のスクエアエッジで後発白内障抑制を図っている.●AcrySofIQPanOptix(Alcon)2015年6月にCEマークを取得した.近用加入+3.25D,中間加入+2.17Dで,光学部は4.5mmとReSTORり大きくなり,回折ゾーンも大きくなったので,暗所など瞳孔径による影響は少なくなった.先の2種のIOLに比較しても遜色ない視機能,見え方の質が期待でき,加入度数の違いで60cmの見え方がよいことが特徴である4).トーリックには対応していないが,AcrySofIQシリーズは国内で取り扱いに慣れた術者が多いと思われるので,期待されるIOLである.●おわりにトリフォーカルIOLが加わって多焦点IOLの選択肢834あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017が増えた.中間距離の視力の落ち込みが少なくなり,より自然な見え方に近づいたが,多焦点に伴う見え方の不具合は軽度と報告され,なくなったわけではない.当院ではFineVisionPodFを使用している.最初の6例は翌日の裸眼視力が遠方1.17,中間(70cm)1.04,近方0.94と全距離で満足できる視力が得られ,ハロー,グレアなどの訴えは軽く,良好な結果を得ている.慎重に症例を選びながら,今後も長期経過を検討していきたい.文献1)JonkerSM,BauerNJ,MakhotkinaNYetal:Comparisonofatrifocalintraocularlenswitha+3.0DbifocalIOL:Resultsofaprospectiverandomizedclinicaltrial.JCata-ractRefractSurg41:1631-1640,20152)MarquesEF,FerreiraTB:Comparisonofvisualout-comesof2di.ractivetrifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg41:354-363,20153)CarsonD,XuZ,AlexanderEetal:Opticalbenchperfor-manceof3trifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg42:1361-1367,20164)LeeS,ChoiM,XuZetal:Opticalbenchperformanceofanoveltrifocalintraocularlenscomparedwithamultifo-calintraocularlens.ClinOphthalmol10:1031-1038,2016(76)

眼内レンズ:白内障手術中に生じたChoroidal effusionの対処法

2017年6月30日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋367.白内障手術中に生じたChoroidale.usion中茎敏明藤田眼科の対処法白内障手術中に脈絡膜滲出(choroidale.usion)が生じると後.が膨隆し,手術続行が困難となる.手術を無理に継続すると後.破損や脈絡膜出血などの危険性が高まるため,choroidale.usionの消失を待って手術を再開することが重要である.また,infusionmisdirectionsyndromeとの鑑別には,眼底検査を行う必要がある.●はじめに白内障手術中に発生する脈絡膜滲出(choroidale.usion)は脈絡膜出血および駆逐性出血の前段階と考えられているが,小切開手術が一般的となった近年,その発症をみることはまれである.今回,白内障手術中にchoroidale.usionによる後.の膨隆を認め,手術続行が困難となった症例を経験したので,その対処法について報告する.●症例患者は,82歳の女性で,現病歴として高血圧,高脂血症がある.術前視力は,右眼0.4p(0.4×+0.50Dcyl.0.75DAx80°),左眼0.1(0.6×+2.25Dcyl.1.25DAx120°),眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHg,眼軸長は右眼21.85mm,左眼21.72mmと短眼軸眼で,両眼に白内障(Emery-Little分類III)を認めるほかに,特記すべき異常所見はなかった.●術中所見左眼白内障手術は,術直前の血圧が163/85mmHgと高めであったが,とくに問題なく終了した.その1週間後,右眼白内障手術を施行した.術直前の血圧は右眼手術時と同様に162/77mmHgと高めであった.超音波乳化吸引術まではなんら異常を認めなかったが,超音波チップを前房から抜去し,ついで灌流吸引チップを前房に挿入した時点で後.が膨隆していたため(図1),皮質吸引が行えず手術を中断した.この時の眼圧は13mmHgであり,疼痛は認めなかった.術直後の前眼部写真(図2)で,後.は角膜裏面近くまで膨隆していた.眼底検査では,耳下側周辺部網膜にchoroidale.usionによる隆起を認めた(図3).約2時間中断後,後.の膨(73)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1灌流吸引チップ挿入時の術中写真後.は前房内に膨隆し,灌流吸引チップ,スリーブに接触していた.隆が改善したため皮質吸引を再開し,困難ながらも皮質をすべて吸引した.しかし,再び後.が膨隆し,前房内に粘弾性物質注入を試みるも,ほとんどが眼外へ圧出され,水晶体.の拡張は困難となり眼内レンズ挿入は中止した.眼底検査ではchoroidale.usionの増悪が確認された(図4).術直後の眼圧は25mmHgと上昇していたが,疼痛は認めなかった.●術後経過術翌日,眼圧は21mmHgと低下し,後.の膨隆は改善し,耳下側周辺部網膜にあったchoroidale.usionもかなり改善した.3日目には眼圧は17mmHgとさらに低下し,choroidale.usionは完全に消失した.1週間後に眼内レンズ挿入を行ったが,問題なく手術を遂行でき,視力1.2(矯正不能)と改善した.●Choroidale.usionとは脈絡膜血管透過性の異常亢進により血漿成分が急激にあたらしい眼科Vol.34,No.6,2017831図2超音波乳化吸引術直図3超音波乳化吸引術終了直後の眼底図4皮質吸引術終了直後の眼底後の前眼部写真耳下側周辺部網膜にchoroidale.usionによる隆耳下周辺部網膜にあったchoroidale.usionは後.は角膜裏面近くまで起を認めた.さらに悪化を認めた.前方に膨隆していた.表1Choroidale.usionの危険因子全身因子:高齢*・高血圧*・動脈硬化眼局所因子:緑内障・長眼軸長眼・短眼軸長眼*術中因子:高眼圧からの急激な眼圧下降*・咳嗽*本症例に関連する危険因子上脈絡膜腔に貯留する状態であり,脈絡膜出血および駆逐性出血の前段階とされる.脈絡膜血管が脆弱化している場合,血管(おもに短後毛様動脈)が破綻すると駆逐性出血となると考えられる.Choroidale.usionでは一般的に疼痛はなく,出血では疼痛を伴うことが多いとされる1).危険因子としては,表1に示す因子などが考えられている2,3).●白内障手術中の後.膨隆時の対処法4)1)手術を中断し眼底チェック・後.が膨隆した場合,infusionmisdirectionsyn-dromeあるいはchoroidale.usionが起こっていると考えられ,両者の鑑別のために眼底検査を行う.・後.が膨隆した状態で無理に手術続行すると,破.のリスクが高まる可能性がある.破.をきっかけに脈絡膜出血,さらには駆逐性出血に進行する危険度が高まるため,手術を中止する.2)手術再開のタイミング・Choroidale.usionでは,今回の症例のように数時間後の再開では再び手術続行困難となる可能性があるため,choroidale.usionの消失を待って手術を再開する.・Infusionmisdirectionsyndromeでは,数時間待って後.の膨隆が改善したら再開は可能である.3)Choroidale.usionの治療・Choroidale.usionは自然吸収されるので,強膜を切開し滲出液を排出する必要はない.文献1)増田寛次郎編:眼科学大系9,p265-266,中山書店,19932)MaumeneeAE,SchwartzMF:Acuteintraoperativecho-roidale.usion.AmJOphthalmol100:147-154,19853)RuizRS,SalmonsenPC:Expulsivechoroidale.usion.Acomplicationofintraocularsurgery.ArchOphthalmol94:69-70,19764)金川知子,藤田善史:超音波白内障手術中に発症し手術続行が困難であった上脈絡膜滲出液貯留の2例.臨眼62:1103-1106,2008

コンタクトレンズ:コンタクトレンズによる紫外線対策

2017年6月30日 金曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一32.コンタクトレンズによる紫外線対策丸山邦夫ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社●はじめに前号において,紫外線(ultraviolet:UV)が眼に与える影響について概説されているように,UVは,皮膚だけでなく眼に対しても悪影響を与えるため,その対策が必要となる.眼に対するUV対策として,帽子,UVカット付き眼鏡やサングラスだけでなく,UVカットコンタクトレンズ(CL)も効果が期待できる.本稿では,UVカットCLに着目し,UVカットCLに期待されること,CLのUVカット技術に触れながら,UVカットCLの有効性について考えてみる.●紫外線をカットするコンタクトレンズに期待されること1.コロネオ現象の軽減眼のUV対策としてUVカット付きのサングラスが一般的である.サングラスの特性として,眼の正面から入射するUVに対しては防御ができるが,眼と眼鏡の隙間から侵入するUVに対して注意が必要である.図1に示すように,耳側から入射するUVが角膜周辺部で屈折した後,眼の鼻側の角膜輪部に20倍になって集中する現象(コロネオ現象)が知られている1).この現象により,サングラス装用時は,角膜輪部のUVの防御も必要と考えられる.そのためには,角膜輪部のUVを防御する目的でUVカットCLをサングラスと併用することで,鼻側の角膜輪部に集中するUVを抑えることが期待できる.UVカットサングラスのみの場合ビジョンケアカンパニー学術部2.子どもに対するUVカットCLへの期待環境省は,生涯に浴びるUV量の大半は18歳までに浴びるという事実をそのホームページで公開している2).また,世界保健機構は,子どもに対するUV対策の必要性を訴えている3).一方で,部活動を行う中学生に対してUVの影響を調査した報告では,屋内に比べて,屋外で部活動をしている中学生のほうが瞼裂斑の発症率が高かった2).中学校への入学を機に,CLを始める方が多いが,とくにサッカーや野球などの屋外での部活動を行う際には,UVカットCLを選択することで眼への影響を軽減することが期待できるかもしれない.3.老眼発症の遅延赤道に近い国,すなわち,よりUVの曝露を受けやすい国の人たちは老眼になりやすいと推察をしている報告がある5).UV曝露は白内障の発症原因の一つにもなりえるため,UVの曝露量の多い赤道近郊の国においては水晶体の硬化が進みやすく,その結果,老眼が早期に発症しやすくなることも容易に想像できる.このようなUV被曝量の多い国に対しては,CLの処方時にUVカットCLを選択することで老眼発症時期の遅延が期待される.●コンタクトレンズの紫外線カット技術UVカットCLの製造方法としては,CLの成形時にベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系などのUV吸UVカットサングラスとUVカットCLの併用の場合図1コロネオ現象(左図)とCL装用によるコロネオ現象対策(右図)(71)あたらしい眼科Vol.34,No.6,20178290910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2波長違いによる紫外線透過率.3.00D(中心厚0.07mm)のレンズ中央部3~5mm部分での測定.(J&JVisionCareInc.のデータより)透過率(%)収剤を配合する方法がある.このUV吸収剤をCL素材に組み込む技術は比較的むずかしい.なぜならば,近年のソフトCLの製造方法は,モノマーという液体に光(とくにUV)を照射し硬化してポリマーにするレンズ成形方法が取られているが,UV吸収剤をモノマーに配合すると,UV吸収剤がUVを吸収してレンズ成形がむずかしくなるという課題がある.各CLメーカーは,UV吸収剤の種類や成形時に照射する光の種類などを検討し,UVカットするCLの開発に取り組んできているが,UVカットしないCLもまだ存在し,かつUVカット率もCLメーカーや製品により異なる.ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)ビジョンケアカンパニーのアキュビューRは全製品,高いUVカット特性を有している注).その製品のUV透過性(波長に対する光線透過率)の例を図2に示すが,UV領域で透過率が低いことがわかる.注)UV吸収剤を配合したコンタクトレンズは,UV吸収サングラスなどの代わりにはなりません.本品の使用と,紫外線に起因する眼障害リスク低減の関係については,臨床試験において確認されておりません.●おわりにUVは,眼に対して短期的もしくは長期的に影響を及ぼし,眼疾患を引き起こすこともある.そのため,UV対策が必要であり,その方法としては,サングラスだけではなく,UVカットCLも大切な選択肢となる.とくに中学生や高校生にとってはサングラスという選択がむずかしい場合もあるので,視力矯正を目的として装用するCLがUVカットすることが望ましい.また,UVカットCLを選択する際には,UVカット率にも注意する必要がある.文献1)CoroneoM:Ultravioletradiationandtheanterioreye.EyeContactLens37:214-224,20112)https://www.env.go.jp/chemi/matsigaisen2015/full/matsigaisen2015_full.pdf3)http://www.who.int/uv/publications/en/primaryteach.pdf4)柴田奈央子,初坂奈津子,田村美華ほか:中学生を対象とした紫外線蛍光撮影法による瞼裂斑の検討.第65回日本臨床眼科学会総会展示9-14,20115)https://www.env.go.jp/chemi/matsigaisen2015/full/matsigaisen2015_full.pdfhttp://www.who.int/uv/publications/en/primaryteach.pdfMirandaMN:Thegeographicfactorintheonsetofpres-byopia.Trans.AmOphthalmolSoc77:603-621,1979ZS982

写真:輪郭デルモイドに対する表層角膜移植術

2017年6月30日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦397.輪部デルモイドに対する表層角膜移植術福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図1輪部デルモイドに対する表層角膜移植後眼(術後約2年)図3図1のフルオレセイン染色画像上皮欠損などはなく経過良好である.図4輪部デルモイド術前のスリット写真角膜輪部耳下側の黄白色の隆起した腫瘍表面に毛髪を認める.(69)あたらしい眼科Vol.34,No.6,20178270910-1810/17/\100/頁/JCOPY輪輪部デルモイドは,角膜と強膜にまたがって発生する充実性の隆起病変である.色調は黄白色で角膜輪部耳下側に好発する.先天性の腫瘍であり,乳幼児期から存在する.組織学的には分離腫とされ,しばしば外胚葉由来である角化上皮,脂腺,毛髪などの組織と,中胚葉由来の線維性組織,血管組織,脂肪組織などからなる1).輪部デルモイドの解剖学的なグレードは大きく3分類される.直径5mm未満のものをグレード1,角膜の大半を覆うがDescemet膜までは含んでいないものをグレード2,角膜全体を含み眼表面上皮から虹彩色素上皮まで影響を及ぼしているものをグレード3としている.大半の症例はグレード1に相当する2).腫瘍の隆起や異所性の毛髪による涙液の異常,dellenによる異物感を症状とすることがある3).輪部デルモイドは,全身疾患を伴うことがしばしばある.副耳・耳瘻孔を伴い,常染色体優性の遺伝形式を示すものをGoldenharsyndromeとよぶ.他の全身疾患としては,第一,第二鰓弓に由来する脊椎異常,歯牙欠損,下顎骨欠損や眼瞼欠損を伴うこともあるため,輪部デルモイドを診断した場合,前述の合併症を念頭に置いた全身検査が必要である.輪部デルモイドを診断する際に注意すべきことは,弱視の有無である.腫瘍は出生時より存在していると考えられることや,腫瘍の大きさが大きいほど角膜乱視が大きく,等価球面度数が僚眼と比較し遠視傾向が強いとの報告があり,早期の屈折異常弱視や不同視弱視の治療が必要である4).具体的には,乳幼児期からの1日数時間程度の健眼遮閉,可能であれば屈折矯正のための眼鏡処方を行い,弱視の程度に応じて健眼遮蔽時間を変更する.外科的治療は,表層角膜移植術が第一選択である.単純切除のみでは,術後に偽翼状片が発生するためである.手術は腫瘍全体をカバーし,かつ瞳孔領にかからないサイズの角膜移植用トレパンを使用し,サイド面に切開を入れた後,サージカルスリットで角膜の厚みと腫瘍の深さを見ながらゴルフメスで表層切除を行い,欠損部分に保存角膜を移植する.外科的治療には角膜乱視軽減効果を期待できないこと5),乳幼児では周術期の形態覚遮断弱視の危険性があることなどにより手術を急ぐ必要はなく,おもに整容的な目的で小学校入学前に手術に踏み切ることが多い.整容面を気にしない場合には,10代後半以降に局所麻酔で手術を行ってもよい.海外からは,保存角膜を用いる替わりに多重の羊膜移植を行う報告6),自己結膜輪部(角膜上皮ステムセル)移植7),偽翼状片予防にマイトマイシンCを術中使用する報告8),角膜部位へ侵入した腫瘍部位への入墨術7)などの報告がある.文献1)MansourAM,BarberJC,ReineckeRDetal:Ocularcho-ristomas.SurvOphthalmol33:339-358,19892)MannI:Developmentalabnormalitiesoftheeye.2nded,Lippincott,Philadelphia,p357-364,19573)RobbRM:Astigmaticrefractiveerrorsassociatedwithlimbaldermoids.JPediatrOphthalmolStrabismus33:241-243,19964)羽藤晋,横井匡,東範行ほか:角膜輪部デルモイドの屈折異常と弱視に関する検討.あたらしい眼科27:1149-1152,20105)外園千恵,井田直子,西田幸二ほか:冷凍保存角膜を用いた輪部デルモイドと弱視の治療.臨眼51:179-182,19976)PirouzianA,HolzH,MerrillKetal:Surgicalmanage-mentofpediatriclimbaldermoidswithsuturelessamnioticmembranetransplantationandaugmentation.JPediatrOphthalmolStrabismus49:114-119,20127)JeongJ,SongYJ,JungSIetal:Newsurgicalapproachforlimbaldermoidsinchildren:simpleexcision,cornealtattooing,andsuturelesslimboconjunctivalautograft.Cor-nea34:720-723,20158)LangSJ,BohringerD,ReinhardT:Surgicalmanage-mentofcorneallimbaldermoids:retrospectivestudyofdi.erenttechniquesanduseofMitomycinC.Eye(Lond)28:857-862,2014

蛍光眼底造影と光干渉断層血管撮影

2017年6月30日 金曜日

蛍光眼底造影と光干渉断層血管撮影ComparisonbetweenFluorescein,IndocyanineGreenAngiogaphyandOCTangiography白神千恵子*辻川明孝**I蛍光眼底造影の概要フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:ICGA)には,網脈絡膜血管の循環時間や血流動態の把握,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の脈絡膜新生血管(cho-roidalneovascularization:CNV)の検出,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)のポリープ状病巣の確認など,さまざまな用途がある.FA,ICGAでは動画撮影が可能な機種を用いることにより,造影開始後1分間の造影早期の動画の中に各疾患における多くの情報が凝縮してみられる.造影検査はAMDだけでなく,網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)や,糖尿病網膜症(diabeticretinopa-thy:DR),ぶどう膜炎など,多種疾患において大変重要な検査である.HRA2はFA,ICGAを撮影する共焦点走査レーザーシステムで,FA,ICGA単独,もしくは同時に実行することができる.レーザー光源は3種類がある.FAでは固体ブルーレーザー(488nm)が励起光となり,500nmのバリアフィルタが励起光と蛍光を分離する.また,同じ波長がレッドフリーの反射画像用に使用される.ICGAでは波長795nmのダイオードレーザーが励起光で,810nmのバリアフィルタが励起光と蛍光を分離する.また,もう一つの波長830nmのダイオードレーザーが赤外反射画像を取り込むために使用される.II造影剤によるアレルギー反応おもな眼底疾患の診療に造影検査は欠かせないものではあるが,造影剤のアレルギー反応による副作用のリスクも伴っている.フルオレセインの場合,軽度なものとして,悪心(3.8%),嘔吐(0.43%),迷走神経反応(1.18%),皮膚の腫脹,紅斑,痒みなどのアナフィラキシー反応(1.48%),高度なものとして,高血圧急性増悪,胸骨後部痛(0.27%)などがみられ,蘇生術が必要であった症例(0.03%)もある.また,初回検査時の副作用発現は1.45%で,初回検査時に副作用のあった症例の再検査での副作用発現率は59.22%と跳ね上がる1).IIIOCTAのメリット蛍光眼底造影による蛍光漏出と組織染は,脈絡膜毛細血管のドロップアウトや新生血管の境界を不明瞭にする.さらに,これらの技術は,獲得したイメージの二次元の性質のために,深さ情報をほとんど得ることができない.眼の血管構築を視覚化する,造影剤を使用しない方法を開発するために,光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)の機能を拡張した光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiogra-phy:OCTA)が開発された.OCTAは,流れる血球に起因するOCT信号の変化を評価することによって静的組織から血管を対比しようとするものである.*ChiekoShiragami:香川大学医学部眼科学講座**AkitakaTsujikawa:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕白神千恵子:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1香川大学医学部眼科学講座0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(63)821図1ポリープ状脈絡膜血管症の症例a:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA),造影早期.オカルトCNVの所見を示す.b:インドシアニングリーン蛍光造影(ICGA),造影早期.ポリープ状病巣()とその右上測に異常血管網(.)を認める.c:FA造影後期.病巣部位より淡い蛍光漏出がみられる.d:ICGA造影晩期.ポリープ状病巣()と異常血管網(.)の淡い組織染を認める.e:OCTA画像.ポリープ状病巣()とその右上測に明瞭な異常血管網(.)を認める.f:OCT画像.2本のピンクの点線(RPEのラインとBruch膜のライン)の間のOCTA画像をeに示している.図2網膜静脈分枝閉塞症の症例a:OCTA画像.網膜の無灌流領域が低輝度に描出されている.b:フルオレセイン蛍光眼底造影所見.網膜無灌流領域の低蛍光と網膜血管からの蛍光漏出を認める.c:OCT(vertical)所見.中心窩から上方の網膜に強い浮腫を認める.図3糖尿病網膜症の症例a:カラー眼底写真.網膜出血斑が散在してみられる.b:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA).網膜無灌流領域の低蛍光と網膜毛細血管からの蛍光漏出を認める.c:網膜浅層のOCTA画像.FAの無灌流領域と同様の部位に低輝度所見を認める.d:網膜深層のOCTA画像.網膜毛細血管の無灌流領域が低輝度所見としてみられる.

光干渉断層血管撮影の緑内障領域への応用

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の緑内障領域への応用ApplicationofOCTangiographyinGlaucomaStudy千原悦夫*はじめに光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)の理論とその発展および将来への展望はGaoの総説に詳しい1).従来,眼底の血管異常や循環障害を調べる方法はフルオレセインとインドシアニングリーンなど,造影のための色素を使った蛍光眼底撮影が標準的なものであったが,このような色素を使うことなく,しかも組織の層別に血管を毛細血管レベルの画像まで高い再現性で描出できる技術ができたことは,血管閉塞,血管新生などを調べるうえで非常に有用であり,網膜の研究者にとっては画期的なことである.臨床家にとっても,注射などの身体侵襲を伴わず,薬剤アレルギーも心配することはないうえに,わずか数秒で再現性の良い血管画像が得られる技術は貴重で,今後この技術を使った機器は臨床現場で重宝されることになると考えられる.臨床研究においても従来はレーザースペックル法,超音波ドップラ法,microsphere法,水素クリアランス法などを用いて調べるほかになかった血管の密度,血流量などの情報を,網膜や神経の層別に情報化し,数値化することができるようになった.今後このOCTAを使って多くの研究データが報告されるようになるであろうことは想像にかたくない.OCTA本体およびその周辺機器やソフトウエアの開発は,現在多くの機械メーカーがしのぎを削っており,画像撮影範囲の拡大,撮影時間の縮小,projectionarti-factをはじめとするアーチファクトの削減のための開発が行われ,また同時に臨床的な需要に応じるためのソフトウエアの開発が行われているが,現在までに開発された技術だけでも十分に素晴らしいもので,今後臨床研究にも革命的な変革を起こすと予測されている.I視神経の萎縮とOCTAOCTAの技術は網膜.脈絡膜の血管病変を調べるうえで一大革命をもたらしたことは前述したとおりである.しかし,応用は網膜.脈絡膜だけにとどまるものではない.緑内障は視神経の萎縮をきたす疾患であるが,視神経の萎縮は必ず血管の脱落を伴うものであり,それを解析する目的でOCTAへの興味をもつものが緑内障専門家の中にも増えてきた.緑内障眼のOCTA所見では乳頭周囲の放射状傍乳頭毛細血管(radialperipapillarycap-illary:RPC)の欠損,乳頭内の血管密度や血流量が注目を集めている.緑内障性視神経萎縮の原因についてはいくつかの仮説があるが,代表的なものは機械的障害説2)と血管障害説3)であり,それぞれの理論を支持する多くの論文が執筆され,学会での議論が続いている.II緑内障と循環障害緑内障はその眼圧水準によって高眼圧を示すものと正常眼圧を示すものがあり,高眼圧のものは眼圧による神経線維の機械的障害の重要性が指摘され,正常眼圧のも*EtsuoChihara:千原眼科医院〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山50-1千原眼科医院0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(57)815図1Decorrelationと血流量の関係Interscantimeを短くするとdecorrelationと血流量との間の相関関係が成り立つ領域は広くなるが,血流の少ない部分のシグナルは失われ,画質の低下が危惧される.(文献8より改変)図2緑内障患者におけるRPC(放射状傍乳頭毛細血管)の脱落とenface画像で見た網膜神経線維層欠損a:OCTA,b:enface画像.OCTAでは毛細血管レベルの血管脱落を優れた解像力で描出できる(円は乳頭縁から700μm).(文献9より転載)図3高度近視眼における網膜神経線維層のひび割れ(cleavage)所見高度近視,網膜前膜など神経線維の走行から垂直方向に牽引がかかる状況では神経線維層の離断が起こる.このような所見は従来無赤光撮影で報告されてきたが撮影はむずかしかった.OCTAのenface画像ではこの所見が簡単かつ鮮明にわかる.ひび割れ部位に相当してRPCも欠損していることが理解できる.(文献11より転載)図5Enface画像でみたOCTAにおける.owindex測定領域乳頭表面から50.250μmの範囲をとると篩状板前域をほぼカバーすることがわかる.この領域の単位体積当たり.owindexを調べることで組織の虚血の程度を調べることができる.図4でハイライトされたものはこの部位に含まれる血管像である.(文献9より転載)図4Elschnigscleralring内で乳頭表面から50~250μmの範囲の血管をハイライトしたものこの領域の血管は篩状板前域の血管をほぼ網羅し,単位体積当たりの血管密度や.owindexはこの部位の虚血状態を反映すると考えられる.(文献9より転載)たものであり,図5はその描出部位の矢状断図を示したものである.視神経における障害が血管の障害で起こるのであれば,病理学的に最初の障害部位である篩状板前域で率先して血管障害が起こるはずである.しかしながら,実際のデータをみると最初に起こる循環障害は乳頭の表層であり,深層はむしろautoregulationによって保護されるという結果が得られた9).OCTAで認められる毛細血管の脱落は網膜神経線維層欠損の部位に起こり,RPCの脱落についてもこれを組織脱落に続発的なものであるとする論調もみられ19),今後この点に関する議論が再び注目を集めるかもしれない.V近視乳頭のOCTA所見OCTAの乳頭所見で,最近,乳頭内あるいは乳頭周囲の血管と視神経の脆弱性との関連を示す一連の報告がみられるようになってきた.近視は緑内障発症の危険因子であり,近視眼に緑内障が発症するとその視野進行が早いことが指摘されてきた20.22).近視乳頭は変形とともに退色が認められ,乳頭周辺ではしばしば脈絡膜萎縮が随伴している.米国からの報告であるが,近視と緑内障を合併する眼をOCTAで調べると,篩状板の欠損と周辺血管脱落との関係や,bPPAにおける深層血管の脱落がみられた23).OCTAでは傍乳頭脈絡膜萎縮内の脈絡膜血管は明らかに減少しているように見え,また近年OCTやOCTAで報告される近視眼における篩状板の変形,菲薄化,血管密度の減少などの所見はどの報告をみても視神経の脆弱性と結びついた所見となっている.これらOCTやOCTAで報告される所見は組織病理で報告される視神経支持組織の脆弱性とも一致しており,これらの所見が臨床的な緑内障の経過とどのように関連しているのかという点については,今後さらに検討してゆかねばならないであろう.おわりにOCTAは新しく開発された将来有望な検査機器である.今後,網膜,緑内障などの領域で眼科の血管病変の臨床と研究に大きな貢献をすると予測される.文献1)GaoSS,JiaY,ZhangMetal:Opticalcoherencetomogra-phyangiography.IOVS57:OCT27-OCT36,20162)QuigleyHA,AddicksEM:Chronicexperimentalglauco-mainprimates.II.E.ectofextendedintraocularpressureelevationonopticnerveheadandaxonaltransport.IOVS19:137-152,19803)FlammerJ,Moza.ariehM:Whatispresentpathogeneticconceptofglaucomatousopticneuropathy?SurvOphthal-molSuppl2:S162-S173,20074)BudenzDI,AndersonDR,FeuerWJetal:Detectionofprognosticsigni.canceofopticdischemorrhageduringocularhypertensiontreatmentstudy.Ophthalmology113:2137-2143,20065)ShigaY,KunikataH,AizawaNetal:Opticnerveheadblood.ow,asmeasuredbylaserspeckle.owgraphy,issigni.cantlyreducedinpreperimetricglaucoma.CurrEyeRes41:1447-1453,20166)千原悦夫:緑内障眼循環障害とOCTangiography.第27回日本緑内障学会抄録集シンポジウム17,p201,20167)LiuL,JiaY,TakusagawaHLetal:Opticalcoherencetomographyangiographyoftheperipapillaryretinainglaucoma.JAMAOphthalmol133:1045-1052,20158)ChoiW,MoultEM,WaheedNKetal:Ultrahigh-speed,sweptsourceopticalcoherencetomographyangiographyinnon-exudativeage-relatedmaculardegenerationwithgeographicatrophy.Ophthalmology122:2532-2544,20159)ChiharaE,DimitrovaG,AmanoHetal:Discriminatorypowerofsuper.cialvesseldensityandprelaminarvascu-lar.owindexineyeswithglaucomaandocularhyperten-sionandnormaleyes.IOVS58:690-697,201710)ChiharaE,ChiharaK:Apparentcleavageoftheretinalnerve.berlayerinasymptomaticeyeswithhighmyopia.GraefesArchClinExpOphthalmol230:416-420,199211)ChiharaE:Myopiccleavageofretinalnerve.berlayerassessedbySSADAOCT.JAMAOphthalmology133:e152143,201512)WangL,CullGA,PiperCetal:Anteriorandposterioropticnerveheadblood.owinnonhumanprimateexperi-mentalglaucomamodelmeasuredbylaserspeckleimag-ingtechniqueandmicrospheremethod.IOVS53:8303-8309,201213)JiaY,WeiE,WangXetal:Opticalcoherencetomogra-phyangiographyofopticdiscperfusioninglaucoma.Oph-thalmology121:1322-1332,201414)WangX,JiangC,KoTetal:Correlationbetweenopticdiscperfusionandglaucomatousseverityinpatientswithopen-angleglaucoma:anopticalcoherencetomographyangiographystudy.GraefesArchClinExpOphthalmol253:1557-1564,201515)HenkindP:Newobservationsontheradialperipapillarycapillaries.InvestOphthalmol6:103-108,1967(61)あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017819

光干渉断層血管撮影の網膜静脈閉塞症への応用

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の網膜静脈閉塞症への応用ApplicationofOCTangiographyinRetinalVeinOcclusion平野佳男*はじめに網膜静脈閉塞症は,網膜静脈内の血栓形成などにより網膜静脈が閉塞し,静脈がうっ滞,灌流圧が上昇し,網膜・網膜下出血,黄斑浮腫,網膜無灌流領域,網膜血管・毛細血管拡張,側副血管,毛細血管瘤,網膜新生血管などの多彩な微小血管異常をきたす.光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)は造影剤を使用せず,網脈絡膜の血管構造を層別に表示することができる新しい技術である.この新しい技術を用いて得られるそれらの所見を,従来のフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)所見と比較しながら解説する.I網膜無灌流領域,中心窩無血管帯網膜無灌流領域,中心窩無血管帯の描出に関しては,OCTAのほうがFAよりも鮮明で,両者の境界も明瞭である1,2)(図1).これはOCTAが造影剤の影響を受けないこと,また解像度が高いためである.OCTAは層別評価も可能とする1,2)(図1,2).さらに網膜無灌流領域,中心窩無血管帯などの面積を測定することも可能である3,4)(図2).筆者らはこれらの技術を使い,網膜静脈閉塞症においては,網膜無灌流領域,中心窩無血管帯ともに,網膜表層よりも網膜深層のほうが広いと報告4)した.最近では,視力とOCTAで評価した構造的変化との関連について多く報告されており,網膜深層の中心窩無血管帯の拡大3),傍中心窩血管密度5),傍中心窩無灌流領域6)などが視力と相関すると報告されている.それらの報告は,OCTAによる構造評価が機能評価にも結びつく可能性を示している.II毛細血管拡張,側副血管網膜静脈閉塞症では,静脈圧の上昇に伴う毛細血管拡張が認められる.毛細血管拡張は,網膜表層・深層ともに認められるが,深層においてより高率かつ広範囲に認められる1,2)(図3).側副血管は静静脈吻合で,蛍光造影による動的映像で確認するのが確実であるが,OCTAでも十分検出できる(図4).III毛細血管瘤毛細血管瘤はその内部に血流を伴っていないものはOCTAでは検出されないため,検出率はFAに劣る1).また,OCTAでは網膜浮腫などの影響によるセグメンテーションエラーで,屈曲した血管が毛細血管瘤のように見えることがあるため,本当に毛細血管瘤であるかを確かめるためには,B-scan画像で確認したり,FA画像と対比したり,浮腫消退時に再評価するなどの工夫が必要である.毛細血管瘤の検出率はFAに劣るものの,OCTAは毛細血管瘤の局在の層別評価が可能(図5)である.IV網膜新生血管OCTAでは蛍光漏出がないため,FAよりも鮮明に血*YoshioHirano:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学教室〔別刷請求先〕平野佳男:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(51)809図1網膜静脈分枝閉塞症患者のフルオレセイン蛍光造影(FA)とOCTA所見(RTVueXRAvantiOCT,オプトビュー社,3mm×3mm)a:FA所見.b:aの黄色部分の拡大像.c,d:OCTA所見.c:網膜表層血管叢.d:網膜深層血管叢.OCTAでは網膜無灌流領域が網膜表層・深層血管叢の層別に鮮明に描出される.(文献15より改変)図2網膜静脈分枝閉塞症患者のOCTA所見(3mm×3mm)a,c:網膜表層血管叢.b,d:網膜深層血管叢.a:手動で中心窩無血管帯を囲み,中心窩無血管域の面積を測定した(黄色線).0.386mm2.b:中心窩無血管帯:0.423mm2.c:non-.owモードで無灌流領域の部分をクリックし選択すると,その部分の合算面積が測定できる.無灌流領域:1.001mm2.d:無灌流領域:0.887mm2.(文献15より改変)図3網膜静脈分枝閉塞症患者のOCTA所見(3mm×3mm)a:網膜表層血管叢.b:網膜深層血管叢.毛細血管拡張が深層では表層よりも広範囲に認められる.(文献15より改変)図4網膜静脈分枝閉塞症患者のフルオレセイン蛍光造影(FA)とOCTA所見(3mm×3mm)a:FA所見.b:aの黄色部分の拡大像.c:同範囲のOCTA所見.:側副血管.(文献15より改変)BaselineMonth1Month3図5網膜静脈分枝閉塞症患者のフルオレセイン蛍光造影(FA)とOCTA所見(3mm×3mm)a:FA所見.b:aの黄色部分の拡大像.c:同範囲のOCTA所見(網膜表層血管叢).d:OCTA所見(網膜深層血管叢).毛細血管瘤()が表層にも深層にも認められる.(文献15より改変)Month6DeepLayerSuper.cialLayer図6網膜静脈分枝閉塞症患者のOCTA所見(3mm×3mm)発症時から経時的にOCTAを撮影した.発症後6カ月目に毛細血管瘤()が網膜深層に認められる.(文献11より改変)図7網膜静脈分枝閉塞症患者のOCTAとフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)所見a:OCTA所見(RTVueXRAvantiOCT,Optovue,6mm×6mm).b:OCTAパノラマ画像(DRIOCTTriton,Topcon).c:広角FA造影所見(OptosCalifornia,Optos).すべて同一患者.OCTAも固視点を移動し,複数枚撮影して重ね合わせることで広範囲なパノラマ画像が作成できる.また自動でパノラマ画像を作成する機種もある.—

光干渉断層血管撮影の糖尿病網膜症への応用

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の糖尿病網膜症への応用ApplicationofOCTangiographyinDiabeticRetinopathy石羽澤明弘*はじめにフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangi-ography:FA)は糖尿病網膜症における網膜血管障害を鮮明に描出でき,病期を適切に判定するうえできわめて有用な検査である.では,糖尿病網膜症の診療においてOCTangiography(OCTA)が有用かと聞かれれば,今日の回答は当然イエスである.造影検査とは原理がまったく異なるものの,OCTAはFAと類似した画像を非侵襲的かつ簡便に得ることができる.造影剤合併症のリスクが皆無のため,全身状態が不良なケースが少なくない糖尿病患者であっても,安全に施行して経過を追うことができる.また,当初問題であった画角の狭さは解消されつつあり,血管アーケードより周辺の撮影も可能となってきている.さらにOCTAの強みは,網膜の毛細血管を表層,深層に分けて詳細に解析できることであり,とくに深層血管障害が糖尿病黄斑浮腫の病態に関与していることが報告されてきている.血管透過性を評価できないという本質的な問題は残っているが,OCTA所見の特徴を理解すれば,造影剤の蛍光漏出や貯留といった所見が得られずとも病状を把握できる可能性もみえてきた.本稿では,糖尿病網膜症における特徴的な病変について,FAと対比しながら,OCTAの読影のポイントと臨床活用法について考察する.I毛細血管瘤毛細血管瘤(microaneurysm:MA)は糖尿病性網膜血管障害の初期変化として臨床的に重要な所見である.OCTAでMAは,.状や紡錘状,また屈曲しコイル状となった局所的毛細血管拡張として観察される(図1)1~4).検眼鏡的に網膜症が明らかではない,またはごく軽度の網膜症と診断されても,OCTAを撮影すると,MAが多数発見されることがある.過去の病理学的所見と一致して,OCTAでは表層より深層に多く観察され,77.3%が深層のMAであるとの報告がある2).また,浮腫領域にあるMAの91.3%は深層のMAであり,.胞様黄斑浮腫で有意に浮腫内のMA密度が高いとも報告されている2).一方で,MAのOCTAでの判定については,議論の余地もある.FAでみられる血管瘤がもれなくOCTAで描出されるわけではなく1),OCTAのMA検出率は41%3)や62%4)程度にすぎないとの報告もある.瘤内の血流がきわめて緩徐,乱流の存在,瘤内に赤血球がなく血漿成分のみであるなどの要因が考えられるが,FAでの点状過蛍光が必ずしもMAを表すわけではなく,毛細血管からの局所漏出をみている可能性もある.前述の通り,FAとOCTAは原理が異なる検査であることを念頭に置いた解釈が必要である.また,補償光学適応眼底走査型レーザー検眼鏡(adaptiveopticsscan-ninglaserophthalmoscope:AO-SLO)を用いたFAで詳細にMA形態を分類した報告があるが5),OCTAではこのレベルでの形態観察は困難であり,浮腫の原因となるMAの形態的特徴などは現時点では報告されていない.*AkihiroIshibazawa:旭川医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕石羽澤明弘:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1-1-1旭川医科大学眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(43)801図1毛細血管瘤(MA)のフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)とOCTAの比較FAで確認されるMAは,OCTA表層(青◯)または深層(黄◯)に.状または紡錘状の毛細血管拡張として描出されているが,FAでMAと判定されてもOCTAでは認めないものや(白),OCTAでのみMAのように見えるものもある(→)(文献1より許可を得て改変のうえ転載)図2増殖糖尿病網膜症のパノラマOCTA(Triton,9×9mmの5枚から合成)42歳,男性,透析患者.造影検査は禁忌ではないが,OCTAによって非侵襲的にアーケード外の無灌流領域や網膜内最小血管異常,新生血管が鮮明に描出され,病期を適切に判定しえた.abFlowDensityカラーコードマップ(表層)SectionFlowDensity(%)Fovea20.56ParaFovea44.17-Tempo42.90-Superior45.23-Nasal43.54-Inferior45.0247.6449.7542.4843.6823.3242.5049.2545.8543.61Grid-baseFlowDensity(%)図3OCTAの定量的解析a:中心窩無血管帯(FAZ)は境界明瞭であり,面積を層別に求めることができる.本症例の表層FAZは0.477mm2,深層FAZは0.692mm2と定量することができ,FAZの拡大が明らかとなる.b:いくつかのOCTA機種では,血管密度(FlowDensity)を表示可能である.カラーコードマップにより,non-.owarea(寒色で表示)の判別が容易になり,領域のごとの.owdensityを定量化できる.ab緑線部のOCTB-scanc青線部のOCTB-scan図4OCTAにおける新生血管(NVE)と網膜内最小血管異常(IRMA)の鑑別a:増殖糖尿病網膜症の9×9mmOCTA.黄色い丸で囲まれた領域に異常血管を認める.b:aの緑点線部のOCTB-scan.黄色い丸で囲まれた血管に相当する部位は,網膜上の硝子体皮質付着部に赤い.owsignal()を認め,NVEであると確認できる.c:aの青点線部のOCTB-scan.黄色い丸で囲まれた血管に相当する.owsignalは網膜内にあり(),これはIRMAであるとわかる.a:未治療増殖糖尿病網膜症(PDR)の新生血管.微小な異常血管が生い茂るように増殖した領域(exu-berantvascularproliferation:EVP)を認める.b:汎網膜光凝固が1年前に施行された既治療PDRの新生血管.新生血管はフィラメント状に剪定されたような形態で,分岐が少ないループ構造のみであり,EVPを認めない.(文献14より許可を得て改変のうえ転載)aEVP(+)bEVP(-)abd図6治療前後の新生血管のOCTAa:58歳男性のPDR眼.2年前に近医でPRPを受けたが,その後未受診だった.光凝固斑はまばらで,網膜前出血,硝子体出血,増殖膜を認める.b:本患者のFA早期像.とくに視神経乳頭部に旺盛な蛍光漏出を認め(黄色丸),活動性の高い新生血管である.c:この新生血管のOCTA(4.5×4.5mm).乳頭上と上方アーケードから絡むように増殖した微細な異常血管を認め,EVP領域(黄色丸)はFAでの旺盛な蛍光漏出部位に一致している.d:PRPを追加して3カ月後の新生血管.EVP領域は減少し,剪定された構造に変化した.–

強度近視眼における光干渉断層血管撮影

2017年6月30日 金曜日

強度近視眼における光干渉断層血管撮影OCTangiography:EyeswithHighMyopia石田友香*大野京子*IOCTAとは光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)は,同じ場所の断層面をOCTで2回以上撮影し,変化している部分(=赤血球が動いている部分)のみの信号を取り出してソフトウェアで再構成した,血流のある血管を観察する最新のツールである.従来,血流状態は,蛍光眼底造影検査を行わなければ把握することができなかったが,造影剤を使用せず,数十秒で撮影が可能なOCTAは画期的な技術である.また,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiogra-phy:FA)でも,ごく早期にきれいに撮れた場合には毛細血管レベルまで観察することが可能ではあったが,OCTAを用いると,常に毛細血管レベルまでクリアに観察することができる.さらに,FA検査はおもに網膜血管を,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)検査はおもに脈絡膜血管を観察するものと認識してきたが,OCTAでは,網膜の浅層,深層,網膜色素上皮付近,脈絡毛細血管板など,層別に見たい部位の血流を観察することができる.その一方,OCTAの弱点としては,蛍光眼底造影検査はwide.eldでの撮影が可能となり,周辺部までクリアに観察することが可能となってきたのに対し,OCTAは大きいサイズのもので9mm×9mmと撮影範囲が狭いことである.その他,トラッキング機能が向上したものの,あまり固視不良すぎる患者ではきれいな画像が得られないこと,白内障が強い,近視が強すぎるなどでOCT断層画像がはっきりと撮れなければ,アンギオグラフィーも判定困難となることがある.SD(spectraldomain)-OCTを使用したものよりは,SS(sweptsource)-OCTを使用したアンギオグラフィーのほうが,白内障や強度近視に特有の硝子体の軽度の濁りによる影響を受けにくい印象がある.強度近視眼の撮影については,機種により撮影可能な屈折範囲がさまざまであり,当院のように強度近視患者の多い施設においては,.30Dなどの屈折がよくあることなので,屈性範囲の広い機種が重宝される.その他に強度近視眼の撮影において特徴的なこととして,OCTがうまく撮影できたとしても,網膜の構造が正常からの逸脱の大きい眼では,機械が自動的に判定してくれる層別構造の判別がきちんと行われず,間違った層を解析してしまう場合がある.とくに強い網脈絡膜萎縮部位や,domeshapedmacularのような変形部位で,機械が間違ったラインで層構造を認識している場合があり,手動で補正が必要となる.手動で補正する際は,OCTのB-scan(断面像)において,血流を示す信号を重ね合わせて,自分の目的としている層にきちんと血流が存在しているか確認が必要(アーチファクトではないことの確認が必要)なので,B-scanの重ね合わせを必ず見る必要がある.近視性脈絡膜新生血管の検出におけるOCTAの有用*TomokaIshida&*KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕石田友香:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(35)793性はMiyataら1)やQuerquesら2)がすでに報告している.強度近視眼においてOCTAが有用であると思われる状況は,①単純出血と近視性脈絡膜新生血管の判別,②点状脈絡膜内層症(punctateinnerchoroidopathy:PIC)における脈絡膜新生血管の検出がおもなものと思われる.さらに,強度近視眼の脈絡膜新生血管の治癒後の新生血管周囲の網脈絡膜萎縮が最終的な視力予後に大きくかかわる因子であることから,その成り立ちに筆者らは注目しているが,その萎縮性変化もOCTAでは早期にとらえることができる.本稿では,強度近視眼のOCTAの撮り方のコツと,典型的な所見について述べる.II強度近視眼におけるOCTAの撮り方のコツ強度近視に限らないが,顔の高さに無理があると位置がずれやすい.とくにSD-OCTのアンギオグラフィーは,一度フレームアウトしてしまうと,網膜レベルはよくても,それより深い層の層構造の認識に支障をきたす症例が多いため,顎台の高さが無理のないよう準備をすることはコツの一つと思う.また,強度近視眼の患者は,コンタクトレンズ使用者が多いため,ドライアイの人が多い.OCTAの撮影はOCT撮影の割には長い.トラッキングが付いていれば瞬きはしてもよいが,機種によっては,瞬きが入りすぎたり長すぎると,強度近視眼の正常からかけ離れた構造を認識できず層構造がおかしくなることが多い.そのため,筆者はベノキシール点眼をする.事前に説明として,撮影時間が長いので,瞬きは軽く,最小限にしてくださいと話しておくようにしている.また,SD-OCTの場合にはOCTのラインが患者に見えるので,上から(視野の下から)撮影していっているときはよいのに,真ん中から下に(視野では上に)ラインが移動するときに患者がつられて眼球を動かしやすい.トラッキングがあっても,大きく動くとあまりきれいに撮影できないため,ラインにつられないよう説明が必要である.とくに強度近視眼で後極に萎縮が多発しているような場合に,見える部分に急にラインが出てくるとそれを追いかけてしまう患者が多いように思う.また,強度近視眼においては,固視がむずかしい例も多いが,指標を大きくするなどの工夫で大きな萎縮がある人でも撮影が可能な場合も多い.また,強度近視眼では,後部ぶどう腫がある人が多く,後極のカーブが異常に急な場合もある.4.5mmや6mmでもフレームアウトしてしまったり,血流を読むラインの設定が端から端まで,一様に正確な位置を示すのがむずかしい場合が多い.そのうえ,近視性脈絡膜新生血管は小型な場合も多く,強度近視眼では,4.5mmや6mmでは新生血管を見落とすことがあるため,筆者はかならず4.5mmでスクリーニングし,3mmで確認している.強度近視眼の患者を撮影すると,初診の脈絡膜新生血管がまだ小さいうちはほぼ全員撮影可能である.治療後まもなくの瘢痕化している眼もわりとよく撮影可能であるが,大きな萎縮が出現してくると,撮影可能な人は機種にもよるが平均的には10人に1人くらいと思われる.撮影がきれいにできても,そのまま自動的に機械の作成してくれたOCTAのenface画像をうのみにしないほうがよい.OCTAは各層別にenface画像を作成してくれるが,層を機械が判定し,ラインをひいているため,網膜も脈絡膜も薄い強度近視眼では,層の判定が今一つで,新生血管がアーチファクトの中に埋もれてしまっている場合がある.よって,B-scanに血流を重ねた画像を必ず上から下まで動かして見ていき,新生血管らしき異常構造の中に血流が入っていることを確認する必要がある.アーチファクトの例を図1に示す.図1ではBruch膜レベルでのenface画像で,3カ所の血流部位があるようにみえるが,1カ所のみが真の脈絡膜新生血管であり,残りの2カ所はアーチファクトである.Bruch膜レベルのenface画像において,強度近視眼によくある強膜の凹凸部位(たとえばdomeshapedmacu-lar)や,網膜分離などによって網膜の構造のラインが追いにくい部分で,白いもやもやした構造物として現れるので,実際の血流の有無をB-scanにアンギオグラフィーを重ねたもので確認する必要がある.また,enface画像では新生血管は曲線で引いたような血管ラインがみえるので,ある程度判別が可能であるが,アーチファクトのように見えても,よく見ると瘢痕化した新生血管で内部に細い血流が多発している場合もある.そのような例は,大抵,網膜色素上皮が不整となっていて,まったくの正常ではない.そして,その網膜色素上皮の軽度の794あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017(36)図1近視性脈絡膜新生血管のOCTAのアーチファクト例(70歳,女性.眼軸31.6mm)a:カラー眼底写真.瘢痕期の近視性脈絡膜新生血管にて出血などはみられず,脈絡膜新生血管は判別しにくい.b:OCT像.瘢痕化した脈絡膜新生血管がみられる().c:FA早期.脈絡膜新生血管の組織染が見られる().d~i:OCTAのBruch膜レベルでのenface画像,dとgでは脈絡膜新生血管部位にB-scanを合わせている.dのOCTAでは網目状の血流成分を示しており,gのB-scanでは脈絡膜新生血管の内部に赤で血流成分が示されている.eとfでは,OCTAのenface画像において,その下方にある白く描出されている部分は網目状にはみえない.hとiで示したそれぞれのB-scanにおいては,該当部位に脈絡膜新生血管の形状はなく,異常な血流信号もないことからアーチファクトと判断できる.図2活動期脈絡膜新生血管(68歳,女性.眼軸30.9mm)a:カラー眼底写真では出血がみられる.b:FA早期では脈絡膜新生血管の過蛍光がみられ,出血部位がブロックされている.c:FA後期では脈絡膜新生血管の漏出が確認できる.d:IA所見では特記事項なし.e:OCTでは脈絡膜新生血管とその周囲の網膜下液がみられる.f:bのFAの黄色い四角に一致するOCTA像.網目状の脈絡膜新生血管がみられる.g:fの脈絡膜新生血管のB-scanでは,脈絡膜新生血管内部に赤で血流成分が示されている.図3瘢痕期脈絡膜新生血管(57歳,男性.眼軸26.82mm)a:カラー眼底写真では瘢痕化した脈絡膜新生血管が黄白色病変としてみられる.b:OCTでは上皮化した脈絡膜新生血管が観察される.周囲に滲出はない.c:OCTAではいびつな形状の網目状の血管成分が観察される.d:cのB-scanでは脈絡膜新生血管内部に血流成分が示される.e:脈絡膜レベルでのOCTAでは脈絡膜新生血管周囲の毛細血管板は正常に保たれている.f:eのB-scan.図4瘢痕期から萎縮期への移行期(57歳,男性.眼軸28.9mm)a:カラー眼底写真では出血などなく,脈絡膜新生血管が瘢痕化しているのがわかる.鼻側に軽度の萎縮が広がりはじめている.b:OCTでは脈絡膜新生血管周囲に滲出はなく,周囲の網膜色素上皮がやや萎縮している.c:OCTA像.網目状の脈絡膜新生血管がみられる.e:B-scanでは,脈絡膜新生血管内部に赤で血流が示されている.d:OCTA像.脈絡膜レベルでは脈絡膜新生血管から離れた部分は毛細血管板がみられるが,脈絡膜新生血管の鼻側では毛細血管が脱落し,その下の脈絡膜血管がみられる.f:dのB-scanを示した.緑が脈絡膜レベルの血流成分.図5萎縮期(72歳,女性.眼軸28.2mm)a:カラー眼底写真では黄斑部に円形の網脈絡膜萎縮がみられる.b:眼底自発蛍光では,萎縮部位は低自発蛍光である.c:FAでは萎縮部位は低蛍光となり,その内部に過蛍光の脈絡膜新生血管成分がみられる.d:OCTでは萎縮部位に網膜外層の萎縮,網膜色素上皮の脱落,脈絡膜の萎縮がみられる.また,脈絡膜新生血管が塊状でみられる.e,f:OCTAとそのB-scanでは脈絡膜新生血管部位に血流がみられる.g,h:脈絡膜レベルでのOCTAとそのB-scanでは萎縮部位は脈絡膜の毛細血管が消失し,わずかに残存した脈絡膜血管が観察される.