硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載173173特発性黄斑上膜の発症機序(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに特発性黄斑上膜(idiopathicCepiretinalCmembrane:ERM)は,後部硝子体皮質前ポケットの後壁の硝子体ゲルを基盤とし,その部位に細胞増殖や細胞外基質の蓄図1網膜硝子体疾患の硝子体中トリプターゼ活性特発性黄斑円孔(MH)と特発性黄斑上膜(ERM)が有意に高値を呈した.PDR:増殖糖尿病網膜症,RRD:裂孔原性網膜.離.(文献C2より引用)積が生じることが主因とされている1)が,生化学的な研究はきわめて少ない.筆者らは過去に本疾患について二つの生化学的なデータを得て,発症機序を考察したことがある.C●ERMとセリンプロテアーゼ筆者らはCERMの硝子体中に,セリンプロテアーゼの一つであるトリプターゼの活性が高いことを見いだした2).トリプターゼは組織の線維化やリモデリングに関与することが報告され,その産生源である肥満細胞は眼球では脈絡膜,毛様体,結膜,強膜などに存在する.硝子体中のトリプターゼが眼内のどの組織から産生されるのかは現時点では不明である.トリプターゼはまた,matrixCmetalloproteinase-2(MMP-2)を介して,基底膜の主成分であるIV型コラーゲンを分解したり3),血管内皮細胞を傷害する4)ことが報告されている.C●ERMと抗II型コラーゲン抗体筆者らはまた,ERM患者の血清中に抗CII型コラーゲン抗体価が上昇していることを見いだした2).上記のトリプターゼの作用により血液網膜関門(blood-retinalbarrier:BRB)が破綻することで,血清中の抗CII型コラーゲン抗体が硝子体中のCII型コラーゲンと接触し,免疫反応をきたすことがCERMの病態に関与している可能性がある.CII型コラーゲンが存在する軟骨組織と硝子体は共に無血管組織であることから,CII型コラーゲンは全身の血液をめぐる免疫細胞の監視を逃れた隔絶抗原としての性質をもっており,免疫学的寛容の状態にあるとされている5,6).つまり,ERM患者ではなんらかの機序で肥満細胞が活性化され,そこから産生されるトリプターゼがCM.ller細胞の基底膜である内境界膜を破綻させ,感覚網膜中のグリア細胞の遊走を促進させるとともに,BRBを形成する血管内皮細胞機能を傷害して抗CII型コ(87)C0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2特発性黄斑上膜(ERM)患者血清中の抗2型コラーゲン抗体価ERMがコントロールと比較して有意に高値を呈した.(文献C2より引用)ラーゲン抗体の硝子体腔内への拡散を促進し,網膜硝子体界面を足場とした免疫反応を惹起している可能性が考えられる7).文献1)KishiCS,CShimizuCK:OvalCdefectCinCdetachedCposteriorChyaloidCmembraneCinCidiopathicCpreretinalCmacularC.brosis.CAmJOphthalmolC118:451-456,19942)IkedaT,NakamuraK,OkuHetal:Theroleoftryptaseandanti-typeIIcollagenantibodiesinthepathogenesisofidiopathicCepiretinalCmembranes.CClinCOphthalmolC9:C1181-1186,C20153)YamamotoCK,CKumagaiCN,CFukudaCKCetCal:ActivationCofCcornealC.broblast-derivedCmatrixCmetalloproteinase-2CbyCtryptase.CurrEyeResC31:313-317,C20064)M.yr.np..CMI,CHeikkil.CHM,CLindstedtCKACetCal:DesC-quamationCofChumanCcoronaryCarteryCendotheliumCbyhumanCmastCcellCproteases:implicationsCforCplaqueCero.sion.CoronArteryDisC17:611-621,C20065)SonodaCKH,CSakamotoCT:TheCanalysisCofCsystemicCtoler.anceelicitedbyantigeninoculationintothevitreouscavi-ty:vitreousCcavity-associatedCimmuneCdeviation.CImmu.nologyC116:390-399,C20056)CookCAD,CRowleyCMJ,CMackayCIRCetCal:AntibodiesCtoCtypeIIcollageninearlyrheumatoidArthritis.Correlationwithdiseaseprogression.ArthritisRheumC39:1720-1727,C19967)池田恒彦:黄斑上膜の成因.あたらしい眼科C32:1515.1521,C2015あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C1425