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眼瞼温罨法の眼瞼および涙液層に対する効果の検討

2017年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(1):115.119,2017c眼瞼温罨法の眼瞼および涙液層に対する効果の検討佐々木美帆*1,2鎌田さや花*1,2木下茂*3鈴木智*1,2*1京都市立病院機構*2京都府立医科大学眼科学教室*3京都府立医科大学感覚器未来医療学講座EvaluationofWarmCompressionE.ectsonEyelidsandTearFilmMihoSasaki1,2),SayakaKamada1,2),ShigeruKinoshita3)andTomoSuzuki1,2)1)KyotoCityHospitalOrganization,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:眼瞼非接触式温罨法の眼瞼,マイボーム腺および涙液に対する効果を検討した.方法:健常な男女各6名を対象に,眼瞼に接触せず閉鎖空間で加温が可能な電気機器[目もとエステR(Panasonic)]を用いて,40℃で10分間,14日間連日温罨法を施行した.開始前および15日目の自覚症状(DEQS),サーモグラフィーによる上下眼瞼皮膚温度および角膜温度,涙液層破壊時間(BUT),SchirmerI法,涙液スペキュラー検査(DR-1R)について検討した.結果:単回使用によって上下眼瞼皮膚温度,角膜温度は平均0.8℃.1.7℃上昇し,DR-1Rのgradeが1段階上昇した.開始前,15日目においてDEQSは有意に改善し(平均5.2±3.7→1.9±2.2点,p<0.05),BUTは延長し(平均5.1±3.8が6.2±3.5秒,p=0.053),Schirmer値は有意に低下した(21.2±7.7が17.3±7.4mm,p<0.05).結論:今回の眼瞼温罨法は,自覚症状,BUT,涙液油層の厚みの改善に有用と考えられた.Purpose:Toevaluatethee.ectsofanon-contact,warmcompressiondeviceoneyelids,meibomianglandsandtear.lm.SubjectsandMethods:Inthisstudy,12healthyvolunteers(6malesand6females)wereenrolled.Anon-contact,warmcompressiondevice(MemotoEstheTM,Panasonic)wasappliedat40°Cfor10minutes,oncedailyfor14days.Subjectivesymptomassessmentusingthedryeyequalityoflifescore(DEQS),temperaturesoftheupperandlowereyelidaswellasthecentralcornea,.uoresceinbreak-uptime(BUT,inseconds)oftear.lm,SchirmerItestandDR-1TM(Kowa)tear.lmlipidlayer(TFLL)interferometrywereevaluatedbeforeandafter14daysofwarmcompression.Results:AftertheinitialMemotoEstheTMapplication,meaneyelidandcorneatem-peratureswereelevatedby0.8.1.7°CandDR-1TMgradewaselevatedonegrade.After14-days’application,theDEQSsigni.cantlyimproved(5.2±3.8to1.9±2.2,p<0.05),meanBUTwasprolonged(5.1±3.8to6.2±3.5sec,p=0.05)andmeanSchirmerItestvaluewassigni.cantlydecreased(21.2±7.7to17.3±7.4mm,p<0.05).Conclu-sion:OurresultssuggestthatwarmcompressionviaMemotoEstheTMimprovessubjectivesymptoms,BUTandTFLLthickness.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(1):115.119,2017〕Keywords:眼瞼温罨法,マイボーム腺,マイボーム腺機能不全,涙液層破壊時間,涙液油層.eyelidwarmcom-pression,meibomianglands,meibomianglanddysfunction(MGD),break-uptimeoftear.lm(BUT),tear.lmlipidlayer.はじめにマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)は,「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」と定義される1).MGDのうち日本人で頻度の高い閉塞性MGDでは,マイボーム腺導管内に過剰角化物が蓄積し,マイボーム腺脂(meibum)の分泌が低下し,腺房の萎縮が徐々に進行する2).閉塞性MGDでは,meibumの粘度上昇・固形化などが生じることで涙液油層が菲薄化し,涙液蒸発亢進型ドライアイを生じる3).最近の疫学調査では,60歳以上〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町1-2京都市立病院機構Reprintrequests:TomoSuzuki.,M.D.,Ph.D.,KyotoCityHospitalOrganization,Higasitakadacho1-2,Nakagyou-ku,Kyoto604-8845,JAPAN図1a目もとエステRの内側給水プレートを装着することでスチーム効果が得られる表1Day0およびDay15の京都市立病院における検査手順Day0(当院)1)DR-1TM(涙液スペキュラー検査)2)スリットランプ(BUTの測定)3)ドライアイQOL質問表(DEQS)の記載4)SchirmerI法(反射性涙液分泌の測定)5)サーモグラフィー(上下眼瞼皮膚温/角膜中央表面温度の測定)6)サーモグラフィー7)DR-1TMDay1.14(自宅)Day15(当院)Day0と同じの日本人の62%がMGDを有しており4),高齢者で眼不快感を訴える患者の65%がMGDを合併している5),VDT作業従事者のドライアイの重症度にはMGDの程度が関与している6)という報告などがあり,MGDが高齢者の眼不快感やドライアイの主要な原因であることが示唆されている.閉塞性MGD患者のmeibumの融点はおよそ35℃で健常者より約3℃高く,眼瞼温罨法による治療が有効とされている7).過去に報告されている温罨法の機器のほとんどは直接眼瞼皮膚に接触して加温する接触式であるが,接触式温罨法では角膜形状に変化を与える可能性が報告されている8,9).そこで,筆者らは,非接触式温罨法の効果を検討するため,目もとエステREH-SW52(Panasonic)(図1)を使用し眼瞼,マイボーム腺および涙液に対する影響について検討した.この機器は,眼瞼皮膚に接触せず,閉鎖空間で一定温度を保ち,両眼の上下眼瞼を同時に加温することが可能である.なお,本研究は京都市立病院倫理委員会の承認を得て施行した.I対象および方法対象は,屈折異常以外の眼科的疾患および全身疾患を有さない健常者12例12眼(男性6例,女性6例)で,全例右眼のデータを使用した.なお,今回の対象者には涙液層破壊時間(break-uptimeoftear.lm:BUT)は5秒未満であるが,角結膜上皮障害がなく自覚症状もない症例を含んでいる.MGD確定診断例は含んでいない.また,コンタクトレンズ使用者や使用歴のある者は除外した.平均年齢は39.1±5.4歳(平均±SD,29.46歳),男性:36.5±4.0歳,女性:41.7±5.5歳である.目もとエステREH-SW52(Panasonic)を使用し,40℃で10分間,1日1回,連日14日間眼瞼温罨法を施行した.温罨法施行にあたって対象者を湿熱群と乾熱群の2群に分け,湿熱群は給水プレートを使用して蒸気によるスチーム効果を併用した.一方,乾熱群は給水プレートを使用せず,温熱のみで温罨法を行った.検査項目および手順は,表1に示すとおりである.具体的には,温罨法開始前日(Day0),京都市立病院(以下,当院)にて,1)DR-1Rによる涙液スペキュラー検査,2)BUTの測定,3)ドライアイQOL質問票(DEQS:DryEye-relatedQualityofLifeScore10))の記載,4)SchirmerI法による反射性涙液分泌の測定,5)サーモグラフィー(Ebx40R,FLIR)による上下眼瞼皮膚温度(眼瞼縁中央から2mm)および角膜中央表面温度の測定を施行し,ついで目もとエステRによる眼瞼温罨法(40℃×10分)を施行した後,ただちに再度5)サーモグラフィー,1)DR-1Rの順で施行した.翌日より,14日間各自自宅で1日1回眼瞼温罨法を行い,15日目(Day15)にDay0と同様の項目を同様の手順で測定した.自宅での温罨法施行にあたっては,対象者が毎日行っていることを口頭にて確認した.今回,涙液油層の観察装置としてDR-1Rを用いたが,この装置の観察原理は,角膜上の涙液表面に白色光を投射すると,涙液油層薄膜の表面と裏面からの反射光の光路差から干表2各群のDay0とDay15における検査結果の比較検査項目Day0Day15p値DEQS全体男性5.2±3.72.7±3.51.9±2.20.7±0.8<0.050.20女性7.7±2.73.2±2.4<0.05湿熱4.7±3.11.8±2.4<0.05乾熱5.7±4.22.0±1.90.08温度変化(℃)上眼瞼.+0.8±0.9+1.1±1.20.63角膜.+1.5±1.2+1.8±1.50.58下眼瞼.+1.7±1.2+2.2±1.50.49BUT(秒)全体男性5.1±3.87.0±3.86.2±3.57.6±4.20.050.35女性3.3±2.64.8±1.60.11湿熱5.8±3.66.1±4.00.47乾熱4.4±3.86.3±2.90.08Schirmer値(mm)全体男性21.2±7.722.8±9.617.3±7.418.7±9.6<0.050.20女性19.5±4.515.8±3.70.05湿熱23.6±6.021.0±8.90.34乾熱19.5±8.914.0±4.70.06DR-1R(grade)施行前施行後1.6±0.6*2.3±0.41.8±0.8**2.3±0.60.080.67*p<0.01**p<0.05ただし,DR-1Rの平均gradeについては,温罨法単回施行前後における比較も行った.*:p<0.01(Day0),**:p<0.05(Day15).渉像が得られることに基づいており,涙液油層所見を非侵襲的に観察することが可能である.DR-1Rによる涙液油層所見は,5つのgradeに分類される.Grade1は,干渉色が灰色一色で縞模様が認められないもの,Grade2は,干渉色は灰色一色だが縞模様が認められるもの,Grade3は灰色以外の干渉色が認められるもの,Grade4は観察視野全体に多彩な干渉色が認められるもの,Grade5は角膜表面の少なくとも一部が露出しているものであり,ドライアイのスクリーニングや重症度の評価に有用である11).なお,統計学的検討にはt-testを用い,有意水準0.05%未満を有意差ありと評価した.II結果結果のまとめを表2に示す.DEQSは,14日間の温罨法によって平均5.17±3.74点(Day0)から1.92±2.18点(Day15)へ有意な改善を認めた(p<0.05).男女別では女性群のほうが,湿熱群と乾熱群では,湿熱群のほうが改善が大きかった.DEQSの15項目のうちDay0に頻度が高かったのは,「目が乾く」「目が痛い」「目が疲れる」「目を開けていられない」の4項目であったが,とくに「目が乾く」「目が痛い」の2項目についてはDay15で有意な改善を認めた(p<0.05).温罨法単回施行前後の平均温度変化は,Day0では上眼瞼:+0.80±0.91℃,角膜:+1.5±1.17,下眼瞼:+1.73±1.23℃であったが,Day15では上眼瞼:+1.07±1.21℃,角膜:+1.80±1.48℃,下眼瞼:+2.22±1.50℃であった.Day0とDay15を比較すると1回の目もとエステRによる変化量は有意差がなかったものの,すべての部位においてDay15のほうが大きかった.さらに温度上昇幅は下眼瞼がもっとも大きく,ついで角膜,上眼瞼の順であった.また,この温度上昇幅は,Day0においてはいずれの部位でも女性群および湿熱群のほうが大きかった.BUTは,12例中11例で延長を認め,平均5.1±3.8秒(Day0)から6.2±3.5秒(Day0)に変化した(p=0.053).男女別にみると,男性では平均7.0±3.8秒から7.6±4.2秒に,女性では平均3.3±2.6秒から4.8±1.6秒に変化した.また,湿熱群では平均5.8±3.6秒から6.1±4.0秒に,乾熱群では平均4.4±3.8秒から6.3±2.9秒に変化した.Schirmer値は,平均21.2±7.7mm(Day0)から17.3±7.4mm(Day15)に有意に低下した(p<0.05).12例の内訳は低下9例,不変1例,増加2例であった.男女別にみると,男性では平均22.8±9.6mmから18.7±9.6mmに変化し,女性では19.5±4.5mmから15.8±3.7mmへ低下した(p=0.05).また,湿熱群では平均23.6±6.0mmから21.0±8.9mm,乾熱群では平均19.5±8.9mmから14.0±4.7mmに変化した.温罨法1回施行前後におけるDR-1Rの平均gradeは,Day0では1.58±0.64から2.25±0.43に有意に上昇し(p<0.01),Day15では1.83±0.80から2.33±0.62に有意に上昇した(p<0.05).また,温罨法施行前のgradeはDay0に比べてDay15のほうが高い傾向にあった(p<0.1).なお,性別および湿熱・乾熱には有意差を認めなかった.III考按閉塞性MGDの治療として,抗菌薬を用いた薬物療法12)や閉塞した開口部のプロービング13),瞼縁の清拭とともに眼瞼温罨法の有効性がこれまでに報告されている14,15).眼瞼温罨法はマイボーム腺の温度を上げて内容物の脂質を柔らかくして排出する温熱療法であり,Olsonら15)によると,閉塞性MGD患者に対し5分間蒸しタオルによる温罨法を行うことで涙液油層の厚みが80%以上増加し,15分間行うとさらに20%増加すると報告されている.この報告ではスペキュラーマイクロスコープを用いて干渉色のパターンから涙液油層の厚みを算出しており,涙液油層の厚みの増加により自覚症状が著明に改善したと考察している.温罨法の機器は現在複数市販されているが,各々の機器の発熱の原理は異なっている.鉄の酸化反応を利用したもの16),温熱器による加熱とアイカップによる加圧を併用したもの17),赤色光照射によって血行を促進するもの18)などがあるが,これらはいずれも直接眼瞼皮膚に接触してマイボーム腺を温める接触式機器である.有田ら19)は,複数の温罨法機器の健常者およびMGD患者に対する効果を比較検討している.このなかで,接触式・乾熱型機器の代表例であるアズキノチカラRによって,BUT,瞼結膜温度,マイボグラフィー所見が目もとエステRなどの湿熱式機器に比べ有意な改善を認めたとしている.有田らの検討では,機器の使用時間が一律5分間であるが,目もとエステRは設定温度に到達するまでに2分間を要するため,5分間では十分な温罨法効果が得られなかった可能性が推測される.今回の筆者らの検討では,被験者に40℃に到達するまでの2分間を含め,計12分間目もとエステRを装着することで十分な温罨法効果を得られた結果,非接触式・湿熱式である目もとエステRでも,自覚症状(DEQS),眼表面温度,涙液油層所見の改善を認めることができたと考えられる.既報の多くが接触式機器を用いて眼瞼温罨法の効果を検討しているが,接触式機器は,角膜形状に変化を与え,視力や屈折値に影響を及ぼす可能性が示唆されている8,9).一方,今回筆者らが眼瞼温罨法に用いた目もとエステRは,40℃×10分間の加温とともに,蒸気による保湿が可能なゴーグル型であり,直接眼瞼皮膚には接触しない機器である.目もとエステRによる眼瞼温罨法を1回施行することで上下眼瞼皮膚温および角膜温が有意に上昇した.動物モデルでは,水晶体蛋白は40℃の熱に2分間直接接触すると変性を生じ始めることが報告されている20).また,44.4.45℃で30分間温罨法を施行した場合,角膜上皮障害(Fischer-Schweitzerpolygonalre.ex)や一過性の視力低下を生じるとされている21).さらに皮膚に関しては,45℃に35.5分間直接接触し続けると組織浮腫が生じるという報告22)がある.今回の対象症例では角膜表面温度が37.9℃を超えるものはなく,眼瞼皮膚温度が38.5℃を超えるものもなく,施行前後で視力変化の訴えもなかったことから,目もとエステRを用いた温罨法は安全に施行できると考えられた.さらに,温罨法を2週間継続することで「眼が乾く」「眼が痛い」「眼が疲れる」といった眼症状に関する自覚症状が有意に改善し,QOLの向上につながる可能性が考えられた.有田ら23)は,涙液油層と水層が相補的な関係にあり,MGD患者では涙液分泌が増加していることを報告している.今回,Day15ではDay0に比べて有意にSchirmer値が低下する一方で,DR-1Rのgradeは上昇していた.DR-1Rのgrade上昇は,マイボーム腺からのmeibumの分泌が増加し,結果として涙液油層の厚みが増加した可能性が推測される.今回のSchirmer値の低下は涙液水層の減少と捉えられるが,温罨法に伴う涙液油層の増加と相補的な関係にある変化と考えられる.また,涙液油層の厚みが増加して涙液の蒸発が抑制されることによりBUTが延長し,その結果,自覚症状が改善した可能性が示唆された.今回の検討の対象は正常者であるが,MGD患者に対して目もとエステRを用いた温罨法を行った場合も涙液油層が増加することで自覚症状,BUT,涙液油層の厚みを改善する効果が期待できると考えられた.利益相反:佐々木美帆,鎌田さや花,鈴木智:利益相反公表基準に該当なし.木下茂:利益相反公表基準に該当あり(目もとエステR機器の供与を得た)文献1)天野史郎,有田玲子,木下茂ほか:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20102)小幡博人,堀内啓,宮田和典ほか:剖検例72例におけるマイボーム腺の病理組織学的検討.日眼会誌98:765-771,19943)BronAJ,Ti.anyJM.:Thecontributionofmeibomiandis-easetodryeye.OculSurf2:149-164,20044)UchinoM,DogruM,YagiYetal:ThefeaturesofdryeyediseaseinaJapaneseelderlypopulation.OptomVisSci83:688-693,20065)ShimazakiJ,SakataM,TsubotaK.:Ocularsurfacechang-esanddiscomfortinpatientswithmeibomianglanddys-function.ArchOphthalmol113:1266-1270,19956)WuH,WangY,DongNetal:Meibomianglanddysfunc-tiondeterminestheseverityofthedryeyeconditionsinvisualdisplayterminalworkers.PLosOne9:e105575,20147)McCulleyJP,ShineWE:Thelipidlayeroftears:depen-dentonmeibomianglandfunction.ExpEyeRes78:361-365,20048)McMonniesCW,KorbDR,BlackieCA:Theroleofheatinrubbingandmassage-relatedcornealdeformation.ContLensAnteriorEye35:148-154,20129)SolomonJD,CaseCL,GreinerJVetal:WarmcompressinducedvisualdegradationandFischer-Schweitzerpolyg-onalre.ex.OptomVisSci84:580-587,200710)SakaneY,YamaguchiM,YokoiN:Developmentandvali-dationoftheDryEye-RelatedQuality-of-LifeScoreques-tionnaire.JAMAOphthalmol131:1331-1338,201311)YokoiN,TakehisaY,KinoshitaS:Correlationoftearlipidlayerinterferencepatternswiththediagnosisandseverityofdryeye.AmJOphthalmol122:818-824,199612)FoulksGN,BorchmanD,YappertMetal:Topicalazithro-mycinandoraldoxycyclinetherapyofmeibomianglanddysfunction:acomparativeclinicalandspectroscopicpilotstudy.Cornea32:44-53,201313)MaskinSL:Intraductalmeibomianglandprobingrelievessymptomsofobstructivemeibomianglanddysfunction.Cornea29:1145-1152,201014)GotoE,MondenY,TakanoYetal:Treatmentofnon-in.amedobstructivemeibomianglanddysfunctionbyinfraredwarmcompressiondevice.BrJOphthalmol86:1403-1407,200215)OlsonMC,KorbDR,GreinerJV:Increaseintear.lmlipidlayerthicknessfollowingtreatmentwithwarmcom-pressesinpatientswithmeibomianglanddysfunction.EyeContactLens29:96-99,200316)MoriA,ShimazakiJ,ShimmuraSetal:Disposableeye-lid-warmingdeviceforthetreatmentofmeibomianglanddysfunction.JpnJOphthalmol47:578-586,200317)DavidF,JasminH,ClaudiaKetal:Evaluationofanauto-matedthermodynamictreatment(LipiFlowR)systemformeibomianglanddysfunction:Aprospective,randomized,observer-maskedtrial.OcularSurface12:146-154,201418)MoriA,OguchiY,GotoEetal:E.cacyandsafetyofinfraredwarmingoftheeyelids.Cornea18:188-193,199919)AritaR,MorishigeN,ShirakawaRetal:E.ectsofeyelidwarmingdevicesontear.lmparametersinnormalsub-jectsandpatientswithmeibomianglanddysfunction.OculSurf13:321-330,201520)WolbarshtML:Damagetothelensfrominfrared.ProcSocPhotoopticInstEngrs,229:121-142,198021)SolomonJD,CaseCL,GreinerJVetal:WarmcompressinducedvisualdegradationandFischer-Schweitzerpolyg-onalre.ex.OptomVisSci84:580-587,200722)DespaF,OrgillDP,NeuwalderJ:Therelativethermalstabilityoftissuemacromoleculesandcellularstructureinburninjury.Burns31:568-77,200523)AritaR,MorishigeN,KohSetal:Increasedtear.uidproductionasacompensatoryresponsetomeibomianglandloss.Amulticentercross-sectionalstudy.Ophthal-mology122:925-933,2015***

My boom 60.

2017年1月31日 火曜日

自己紹介加茂純子(かも・じゅんこ)甲府共立病院眼科熊本の稲田晃一朗先生から引き継ぎました.ロービジョン学会でいろいろ教えていただいています.被災された熊本の方々には心よりお見舞い申し上げます.私の趣味は,細々ながらですがバイオリン演奏(4歳より,浜松医大のオーケストラ創設),ガーデニング,お菓子作り,最近ではポケモンgoしながらのウォーキング(日に6千歩は必ず),テニス(錦織ブームで30年ぶりに),古代エジプト考古学,などいろいろありますが,眼科医としては,「山梨県視覚障害を考える会」を創設し,ロービジョンケアについて海外の方法を紹介するのが今のmyboomなので,紹介させていただきます.2006年ごろから,視機能の国際基準であるFunction-alVisionScoreを日本の基準にできないかと論文を書いてまいりました.現行の制度では救われない人が確実に救われる理論的な制度で,諦めずに広めたいと思っております.今は,すでに雇用されている視能訓練士はもとより,理学療法士,作業療法士,さらには盲学校の先生を巻き込んで,視覚リハビリの勉強会をしています.Whittaker著“LowVisionRehabilitation”(SlackIncorporated)の400ページの教科書(写真1)を2015年12月から隔月に2章進むペースで翻訳しつつ,症例検討をする会をもっております(「山梨県視覚障害を考える会」のHPやFacebookをご参照ください).2015年のロービジョン学会で,日本の視覚障害者に対する制度は医師にも患者にも複雑で,英国ではどうなっているのか学習したことを述べました.その中で,英国にはある診断をされて心理的に参っている患者様をサポートして,心理ケア,制度の説明,リハビリにつなげ写真1Whittaker著“LowVisionRehabilitation”る制度があることを知りました.そして成人中途失明者向けの「10のアウトカム」があることも知りました(表1).ほとんどノーマライゼーションをめざすアウトカムを目標としているが,心理ケアをして,ロービジョンケアやリハビリ,歩行訓練,また行政のサービスなどにつなげる最初の役割をEyeClinicLiaisonO.cer(ECLO:エクロ)がする.その資格を得るための講習会があることを知り,2016年当初からRoyalNationalInstitutefortheBlind(RNIB)にメールし続けたのですが,返事がなく,25年ほど前に留学したDundeeのNinewellsHospitalで当時コンサルタント(講師クラス)だったDr.CarrieMcEwenがなんと英国眼科学会の理事長に表1英国の成人中途失明者に対する戦略の10のアウトカム1.私の眼の状態と登録の過程を理解する.2.だれか話す人がいる.3.私は自分,自分の健康,自分の家,自分の家族を世話することができる.4.私は必要なベネフィット,情報とサポートを受けることができる.5.私は自分のもっている視覚を最大限活用できる.6.テクノロジーを最大限活用して,情報にアクセスできる7.外出し,あちこち歩くことができる.8.コミュニケートするツールと,技術と,自信を持っている.9.私には教育と生涯教育への平等なアクセスがある.10.私は仕事とボランティアもすることができる.(95)あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017950910-1810/17/\100/頁/JCOPY写真2CathedralofBirminghamで朝8時から写真3RNIBの入り口写真4ECLOコースの分厚い資料の礼拝に参加と副読本写真5参加メンバー写真6ratatouille写真7chocolatecovered.apjackあたるPresidentofRoyalCollegeofOphthalmologistになっているのを知り,返事がないことを言うとすぐに対応してくださり,交渉して空きを作ってくださいました.こうしたら行かないわけにいかず,4日間ランチ込みで750ポンド(約10万円)というお高いコースで,しかも錆びついた英語でついて行けるか不安もありましたが,腹をくくって行くことにいたしました.Birminghamはロンドンからコーチで3時間ちょっとのところにある人口110万人ほどの美しい市でした(写真2).RNIBはコーチステーションからも鉄道駅からも4分と近いところにありました(写真3).行くと,講師のStevieJohnson(オプトメトリスト)はじめ4人の講師から,眼科医の参加は初めて,日本からの参加も初めてで,光栄ですとあいさつされました.クラスメートは12名で,ロービジョンや全盲の方も3人おられました.テキストは分厚いバインダーに綴じられていて(版権はLondonCityUniversityにあり,複写できない),また副読本として“SightLoss:Whatweneededtoknow”と“PracticeassessmentguideforECLOservice”が渡されました(写真4).これは翻訳許可が得られたので,後日どこかでご紹介したいと思っています.内容は1日目:自己紹介とコースの紹介,ECLOの役割,アイケアの旅,ランチ,ただ二つの眼ではない,2日目:視力測定,お茶,視野測定,ランチ,眼科にECLOを統合する,お茶,登録とECLO,3日目:視覚96あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017インペアメントのある子どもと若い成人のニードを合わせる,お茶,視覚喪失の原因と機能的影響,ランチ,視覚喪失の原因と機能的影響,お茶,さあ,働かせよう(雇用のセッション),4日目:視覚喪失のインパクトとサポートスキル,お茶,データとインパクト,ランチ,法的権利のセッション,ゴール・目的,試験とケーススタディの情報.講義は講師が質問を投げかけ,参加者が次々と意見を言うインターラクティブなものでした(写真5).ランチも教室の向かいがキッチンで,時刻になると良い匂いがしてきます(写真6).また英国らしく,1時間半するとお茶の時間が来て,それぞれにお菓子が振舞われます(写真7).8週間後にケーススタディと3時間の試験を受けると,ECLOの正式な視覚とマスターの単位も与えられる素敵なシステムでした.日本には医師に対する視覚障害用補装具適合判定医師研修会がありますが,心理ケアや制度の案内もできるスタッフを育てる,こんな制度と講習会があると良いなと思いました.次回は障害者スポーツに熱心で,国際視覚障害のクラシファイアの大野建治先生にお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(96)

二次元から三次元を作り出す脳と眼 8.輪郭を強調するしくみ

2017年1月31日 火曜日

雲井弥生連載⑧二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに両眼立体視の機序を視覚伝導路に沿って考える.今回は網膜である.網膜のON型細胞とOFF型細胞のしくみにより,像のコントラストを強調して脳に送り出すことができる.ON型双極細胞との関連でMARについてふれる.ON型細胞とOFF型細胞1,2)網膜の神経節細胞では,興奮によりスパイク発火頻度が増加し,抑制により発火頻度が減少をする(図1a).ある神経節細胞に微小電極を刺しこんだまま,細胞体を含むように小さな円形のスポット光を照射するとスパイク発火頻度は増加し(a),消灯すると減少する(b).スポット光を大きくしていくと,ある大きさで細胞の反応が最大になり(a),それ以上大きくすると反応は逆に弱くなる(c).最大反応の得られるスポットの大きさを中心野とよぶ.次に中心野には光を当てず,周辺にドーナツ型の光を照射すると細胞の発火頻度は減少する(d).ドーナツ型の光を消すと発火頻度が増加する(e).つまり細胞の中心野と周辺部分(周辺野とよぶ)で光に対する反応が逆になっている.中心野と周辺野を合わせて受容野,上記のような反応を示す細胞をON型とよぶ.反対に中心野照射で減少(f),周辺野照射で増加する(g)細胞もあり,OFF型とよぶ.照射・消灯時いずれにも反応する細胞をON-OFF型とよぶ.光を受ける範囲に比例して反応が強まるのではなく,中心野と周辺野の明暗の差や照射・消灯の時間的な変化に対して強く反応する形になっている.網膜に映る像のコントラストを強調し,物の輪郭や明暗をつかみやすくして脳に送り出している.網膜内のしくみ(図1b)2)光情報は視細胞(錐体・杆体)→双極細胞→神経節細胞へと進む.錐体・杆体とも光により過分極する.双極(93)細胞の段階で同心円型の受容野をもつON型,OFF型の2種類に分かれる.ON型双極細胞→ON型神経節細胞へ(ア),OFF型双極細胞→OFF型神経節細胞へ(イ),ONとOFFの二つの情報が並列して進むしくみになっている.情報の受け渡しもON型は内網状層内層,OFF型は外層でと,異なる深さで行われる.中心野の大きさは細胞の樹状突起の広がりを表す.周辺野の形成には水平細胞(H)やアマクリン細胞(A)がかかわっている.杆体→杆体双極細胞へ情報が進むが,こちらはON型のみである(ウ).やや細かくなるが,杆体双極細胞は神経節細胞とは直接つながらず,アマクリン細胞を介してON型・OFF型神経節細胞とつながる.明所では錐体,暗所では杆体が優位に働くが,薄暗いところでは両方が働く.それに対応するための構造かと推測するが,詳細は不明である.メラノーマ関連網膜症(MAR)ON型双極細胞との関連でメラノーマ関連網膜症(melanomaassociatedretinopathy:MAR)について述べる.癌関連網膜症(cancerassociatedretinopathy:CAR)は癌患者において網膜に存在する蛋白が癌組織に異所性に発現し,それに対する自己抗体が出現することで網膜の機能障害を生じるものである.夜盲,視野狭窄,光視症など網膜色素変性症と似た症状を呈するが,進行が早い.初期には眼底に異常を認めないが,視細胞障害を反映してOCTで網膜外層の菲薄化,ERGでa波・b波の振幅の著しい減弱を認める.特殊なものにMARがある.悪性黒色腫患者においてON型双極細胞に対する自己抗体が出現し機能障害を生じるものである.原因抗原の一つにTRPM1(transientreceptorpotentialcationchannelsubfamilyMmember1)という陽イオンチャネルがある.TRPM1は当初メラノサイトに発現する蛋白として報告されたが,後にON型双極細胞の陽イオンチャネルそのものであることが判明した3).症状はやはあたらしい眼科Vol.34,No.1,2017930910-1810/17/\100/頁/JCOPYa受容野刺激ON型細胞OFF型細胞中心野照射abfg全体照射c周辺野照射deba:神経節細胞の電気生理学的特徴.ON型は中心野照射により興奮し,周辺野照射により抑制される.OFF型は反対の反応を示す.b:網膜内のしくみ.(ア)錐体(cone)→ON型双極細胞(ONbipolarcell)→ON型神経節細胞(ONganglioncell).(イ)錐体(cone)→OFF型双極細胞(OFFbipolarcell)→OFF型神経節細胞(OFFganglioncell).(ウ)杆体(rod)→杆体双極細胞(rodbipolarcell)→アマクリン細胞(amacrinecell)→ON型・OFF型神経節細胞へ(青矢印で示す).H:水平細胞A:アマクリン細胞.り夜盲,光視症だが,視力は正常であることが多い.障ON型双極細胞のみのため,夜盲を呈する.害部位がON型双極細胞と局所的であるため,OCTでは異常を認めず,ERGが診断に必要である.所見はa文献波正常,b波減弱による陰性型,暗順応下での杆体反応1)Ku.erS:Dischargepatternsandfunctionalorganizationofmammalianretina.JNeurophysiol16:37-68,1953消失などである.2)福田淳・佐藤宏道:網膜内神経回路における情報処理.先天性疾患である完全型停在性夜盲も,ON型双極細脳と視覚─何をどう見るか,p48-68,共立出版,2002胞の機能不全により起こる.TRPM1遺伝子の変異が病3)KoikeC,ObaraT:TRPM1isacomponentoftheretinalONbipolarcelltransductionchannelinthemGluR6cas-因と報告された.いずれの疾患も杆体につながるのがcade.ProNatlAcadSciUSA107:332-337,201094あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017(94)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 164.糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の核白内障(研究編)

2017年1月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載164164糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の核白内障(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●硝子体手術後の核白内障50歳以上では硝子体手術後に核硬化が進行しやすく,近視化することはよく知られている1).一方,増殖糖尿病網膜症(PDR)の硝子体術後では,核白内障の進行が非糖尿病者より緩徐であるとする報告が散見される2,3).このparadoxicalと思える現象について過去に筆者らは,50歳以上のPDRに対する水晶体温存硝子体手術後の核硬化の進行を,術後の屈折値をもとにレトロスペクティブに検討し報告したことがある4).●糖尿病網膜症に対する硝子体手術後は核白内障が進行しにくい対象は,水晶体温存硝子体手術を施行し,術後2年以上経過観察ができた50歳以上のPDR13例14眼(DR群)である.対照群は年齢をマッチさせた他疾患14例14眼(網膜静脈閉塞症6眼,網膜.離3眼,黄斑円孔2眼,黄斑上膜2眼,加齢黄斑変性1眼)とした.DR群の術後屈折値は平均で術6カ月後+0.28D,12カ月後+0.27D,24カ月後+0.37Dとやや遠視化傾向で,核硬化の進行は軽度であった(図1).一方,非DR群では6カ月後.4.56Dと全例で近視化,核硬化が進行し,24カ月後までに13眼が白内障手術を受けた.●糖尿病網膜症で核白内障が進行しにくい理由硝子体手術後の眼内酸素濃度の上昇が核硬化進行の原因であるとの報告5)がなされているが,糖尿病患者では非糖尿病患者に比べ有意に硝子体中の酸素分圧が低いとする報告がある6).低酸素分圧では活性酸素が発生しにくく,糖尿病患者では水晶体核硬化の進行が抑制されている可能性がある7).しかし,この説が正しいのかは今後検討する必要がある.日本では50歳以上の有水晶体眼の硝子体手術において,水晶体切除術が併施される傾向にある.とくに(91)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1DM群の硝子体手術前後の細隙灯顕微鏡所見a:術前,b:術2年後.核白内障の進行はほとんど認めていない.PDR症例では,水晶体切除を行うことで術後の血管新生緑内障の発症頻度が増加する可能性があり,白内障を認めない症例に対する同時手術の適応については,今一度再考する必要があるかもしれない.文献1)OguraY,TakanashiT,IshigookaHetal:Quantitativeanalysysoflenschangesaftervitrectomyby.uorophoto-metory.AmJOphthalmol111:179-183,19912)SmiddyWE,FeuerW:Incidenceofcataractextractionafterdiabeticvitrectomy.Retina24:574-581,20043)NovakMA,RiceTA,MichelsRGetal:Thecrystallinelensaftervitrectomyfordiabeticretinopathy.Ophthalmol-ogy91:1480-1484,19844)IkedaT,MinamiM,NakamuraKetal:Progressionofnuclearsclerosisbasedonchangesinrefractivevaluesafterlens-sparingvitrectomyinproliferativediabeticreti-nopathy.ClinOphthalmol8:959-963,20145)HolekampNM,ShuiYB,BeebeDC:Vitrectomysurgeryincreasesoxygenexposuretothelens:apossiblemecha-nismfornuclearcataractformation.AmJOphthalmol139:302-310,20056)ShonatRD:Oxygendeliverytotheretinaandrelatedvisualpathology:BriefReview.AdvExpMedBiol510:249-254,20037)HolekampNM,BaiF,ShuiYBetal:Ischemicdiabeticretinopathymayprotectagainstnuclearscleroticcataract.AmJOphthalmol150:543-550,2010あたらしい眼科Vol.34,No.1,201791

弱視と斜視のABC 5.両眼視と複視の検査

2017年1月31日 火曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保5.両眼視と複視の検査横山吉美JCHO中京病院眼科両眼視機能とは何か,また両眼視機能検査の原理およびその特徴を理解すると,結果の解釈が容易となる.両眼視とは両眼視機能とは,左右眼の網膜上に別々に投影された視印象が視覚中枢において単一なものとして認知される機能である1).両眼視は同時視,融像,立体視から成り立ち,この順でより高度な能力となる.立体視は同時視と融像の成立した条件下で発揮される視機能である2).同時視~融像の検査Bagolini線条レンズ検査が有用である.これ一つで同時視~融像までが確認できる(図1).偏光眼鏡を使用しないため,日常視に近い状態を判定できることが特徴である.また,遠見,近見とも評価でき,9方向で検査すれば融像可能な範囲をも確認できる.立体視の検査偏光眼鏡を使用しないものとしてLangStereotest,偏光眼鏡を使用するものとしてTitmusStereoTest(TST)やRandotStereotest(RST)などがある(図2).抑制LR右眼抑制左眼抑制同時視RLRL内斜視外斜視融像RL図1Bagolini線条レンズ検査線の見え方で抑制か同時視があるか,融像できているかを判定する.右側は患者(正常対応)が見た図.右眼に135°の斜線,左眼に45°の斜線が見えるようにレンズを装用する.(89)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYそれぞれ両眼視差をつけた図形が描かれている.検査距離は40cmにて行う.両眼視差とは注視点より手前や奥にある像は,両眼の網膜の上で中心窩からずれた場所に投影される.左右の網膜におけるこの像のずれが両眼視差である.網膜における像のずれは距離であるが,通常,立体視の検査では結果を秒で表し,この場合の秒は角度の単位である.両眼視差を角度で表すと,図3のq×2が両眼視差となる.計算するとq×2=b.aとなり,輻湊角の差に等しくなる.ヒトの両眼視差の検出閾値は,良い照明条件下において数秒~10秒とされており,57cm先の0.2mm,10m先の8cmの奥行き差を見分けることができる3).実質図形パターンとランダムドットパターン立体視の検査で用いられる視標は2種類あり,実質図偏光眼鏡を使用しない偏光眼鏡を使用するLangStereotestⅠ,ⅡTitmusStereoTest(TST)(circle1視標)RandotStereotest(RST)(写真はLangⅡ)(circle1視標)図2立体視検査LangStereotestI,IIはシート上にかまぼこ型の回折格子(1912年にHessが発明)が埋め込んであり,偏光眼鏡なしで両眼分離が可能.TitmusStereoTest(TST)とRandotStereotest(RST)は偏光眼鏡を使用する.あたらしい眼科Vol.34,No.1,201789形パターン(solidpattern)とランダムドットパターンとがある.実質図形パターンはTSTに代表される視標で,視差をつけた図形を視標とするものである.ランダムドットパターンはLangStereotestに代表される視標であり,1959年にBelaJulezが考案したドットの分布に両眼視差をつけ,立体感を出す方法である.RSTでは,右側は完全なランダムドットパターン,左側のサークルと動物は実質図形パターンであるが,背景がランダムドットパターンとなっている.このため,背景と視標の境目がわかりにくく,TSTに比べると単眼手がかり(monocularcue)が少なくなる.実質図形パターンでは,図2のcircle1視標の拡大写真のように実際の図形が視差をつけて描かれるため,視差が大きいと像のずれから単眼でも区別できてしまうため,TSTのcircle1~4,RSTでもcircle1~2までは単眼でも識別可能であるとされている4).完全なランダムドットパターンでは,そのような単眼手がかりは生じない4).複視の検査複視の有無を評価する際には,Bagolini線条レンズ検図4両眼単一視野(BSV)上段左:正常者の一例.上段右:右後天性ブラウン症候群.右下方にBSVがあるため,患者はfaceturntoLおよびchinupの頭位をとる.下段右:両滑車神経麻痺(プリズム眼鏡装用時).プリズム眼鏡がないとBSVは得られない.プリズム眼鏡装用にて狭いがBSVが中心に得られる.査と赤フィルタ検査が有用である.前者はより日常視に近い結果を示し,後者は潜在的な複視を検出するのに役立つ.また,複視の範囲を調べるということは,両眼単一視野(binocularsinglevision:BSV)を測定することでもある.BSVの測定はGoldmann視野計を用いて行い,明視できる最小の視標を用いて行う.当院では,1974年のFeibelらの報告に基づいてIII-4eの視標を用いて測定している.正常者のBSVの範囲は各方向で約45度とされている5).両眼視できる範囲および場所が判定でき,治療前後で測定することで治療効果を定量的に測定できる(図4).文献1)矢ケ﨑悌司:立体視検査法.臨眼52:25-29,19982)矢ケ﨑悌司:両眼視機能検査.眼臨紀2:39-49,20093)藤田一郎:立体視の成り立ち.両眼視(大月洋編),すぐに役立つ眼科診療の知識,p15-18,金原出版,20074)FawcettSL:Anevaluationoftheagreementbetweencontour-basedcirclesandrandomdot-basednearstereo-acuitytests.JAAPOS9:572-578,20055)平井淑江:視野障害と両眼視.両眼視(大月洋編),すぐに役立つ眼科診療の知識,p126-130,金原出版,2007☆☆☆90あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017(90)

眼瞼・結膜:翼状片と偽翼状片

2017年1月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人宇野敏彦22.翼状片と偽翼状片白井病院翼状片手術は簡便なものと捉えられがちであるが,整容的な改善を望まれることが多く,慎重かつ丁寧な手術が求められる.偽翼状片は結膜組織下の角膜の状態を見極めることが大切である.●はじめに翼状片は血管豊富な球結膜組織が,角膜のおもに鼻側に三角形の形状で侵入したものである.赤道地域,野外労働者に多くみられるため,日光あるいは紫外線への暴露が原因の一つと考えられている.偽翼状片は角膜潰瘍の治癒瘢痕期に,結膜組織が角膜内に二次的に侵入したものである.●整容的問題と視機能的問題小さな翼状片が角膜周辺部にとどまっている段階では視機能に与える影響は少ないが,充血などが強い場合は整容上問題となる.翼状片が瞳孔領に近づくと角膜を牽引する力が働き,乱視を惹起する.非対称性の不正乱視は眼鏡矯正視力の低下を招くため,手術の適応となる場合が多い.ときに瞳孔領を覆いつくすまで拡大した翼状片に遭遇することもある.外科的に切除しても中央部角膜に瘢痕や凹凸不整を残す可能性が高く,注意が必要である.●治療方針視機能に影響を及ぼしている翼状片が手術適応となる.角膜内への侵入がわずかでも充血が強いなど,整容面の改善を希望する場合も適応となりうるが,結膜.の再建を丁寧にするなど,術者の高い技量が要求されることを肝に銘ずる必要がある.翼状片手術の術式はこれまで実に多くのものが提案されている1).このことは術者のポリシー,術式の難易度,術後の結果など多面的な要素がからみ,術式が集約化されていないことを示している.マイトマイシンの術中使用についても意見の分かれているところである.いずれにしても,以下の要素を満たして翼状片の手術に臨む必要がある.・再発(結膜組織の角膜への再侵入)を防ぐ.(87)・角膜上の翼状片組織を丁寧に除去するとともに,角膜実質を損傷することなく平滑な角膜表面を再建させる.・結膜を丁寧に再建し,瞼裂部を充血の少ない状態にもちこむ.結膜.の短縮は起こしてはならない.●術式の一例筆者は,これまでの遊離結膜弁および羊膜移植を主体とする術式から,有茎結膜弁を用いる術式に変遷した.有茎弁は遊離弁と比較して翼状片部以外への侵襲がやや大きいのが欠点であるが,結膜弁の扱いが容易である.翼状片手術をマスターしていくうえで,まず取り組むべき術式であろう.また,血流を保ったままで移植を行うことも一つの利点である.ここでは術式の一例を示す.まず翼状片を頭部から丁寧に.離する(図1,2).頭部の固くなった,また伸展性を失った部分のみを切除する.結膜下組織をある程度切除したのち,症例によってはマイトマイシン(0.05%)を翼状片体部に相当する結膜下に作用させる.その後,上方に向かって有茎弁を作製する.有茎弁の幅を広めにとることで結膜.を深く形成でき,美容的な面で有利である(図3).結膜弁下のTenon.をある程度.離除去することにより,弁の進展性が向上する.有茎弁先端を下方にスライドさせ,強膜とともに縫合する.まず角膜輪部側を固定し,続いて結膜.側をなるべく結膜弁が伸びた状態になるように固定する.先端部の縫合が終了したら,順次縫合を上方に進めていく.筆者は9-0バイクリル糸を使用し,術後約3週で抜糸を行っている.術中の眼位はとても重要である.輪部に牽引糸を置き,眼位をコントロールすることで幅広く再建が可能となり,患者に与えるストレスを大幅に軽減できる.あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017870910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1角膜中央部に達する巨大な翼状片(術中所見)図3有茎弁移植後結膜弁は幅広く伸展させ,結膜.に近い部分まで縫着している.図1と同症例.●術後管理遊離弁・有茎弁いずれを用いても術後数日.約1カ月の結膜充血と浮腫は避けられない.この期間は消炎に努めることが大切である.眼圧に留意しながら約3カ月はステロイド点眼を使用する.術後すぐに綺麗になるといった過剰な期待をもたれないよう,事前の説明が大切である.術式にもよるが,術後約1カ月は結膜浮腫や充血が目立つことが多く,また縫合糸による異物感は避けられない.図2翼状片組織を.離した状態このあと余剰と思われる翼状片頭部を切除(破線)し,手前(上方)で有茎弁を作製する(矢印).図1と同症例.図4偽翼状片角膜内に侵入した結膜組織下に強い角膜実質混濁を認める.●偽翼状片下の角膜の状態を把握する偽翼状片では結膜組織下に強い角膜混濁が隠れていることがある(図4).偽翼状片下の角膜を入念に観察することが大切であり,疑わしい場合には術後に角膜混濁の残存がありうることを了解してもらう.文献1)山口達夫:翼状片手術総論.眼手術学5角膜・結膜・屈折矯正(大鹿哲郎編),文光堂,p245-255,2013☆☆☆88あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017(88)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対して10年視力維持をめざす抗VEGF療法

2017年1月31日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二36.加齢黄斑変性に対して10年視力維持を永井紀博慶應義塾大学医学部眼科学教室めざす抗VEGF療法加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は抗VEGF療法により視力予後は改善したが,数年にわたって治療を要し,結局,視力低下してしまう症例も多い.視力を低下させないためには,再発する症例に対しては根気よく治療を続ける.抗VEGF療法に対する反応性が低下した場合は,薬剤の変更が有効な場合がある.また,治療に抵抗する症例を見きわめ,光線力学的療法をときに検討する.それでも,初診時より視力不良で治療しても改善しない症例や,大きな漿液性色素上皮.離(PED)からの網膜色素上皮裂孔の発生などで視力低下する症例など,視力改善,維持が困難な症例も存在する.本稿では抗VEGF療法による長期視力維持のためのヒントとして,経過良好例と不良例を示す.治療頻度が乏しい症例(症例1)58歳,女性.2011年8月に右眼の変視を自覚し,2011年9月に当科初診となった.右眼の黄斑に網膜下液と網膜下出血,ポリープ状病巣を認め,ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と診断された(図1a).2011年10月よりラニビズマブの硝子体内注射を施行した.導入期の3回連続毎月投与により網膜下液と網膜下出血は消退し,視力は投与前の(1.0)から(1.2)に改善した.その後,網膜下液の再発に対しラニビズマブの投与を必要時に施行し,滲出性変化は消退した.2012年12月に網膜図1症例1の眼底所見初診時(a),アフリベルセプト投与後(a)の眼底写真とIA所見.アフリベルセプト投与前(b),アフリベルセプト投与後(d)のOCT所見.アフリベルセプト投与後にIAでポリープが消失している.下液の再発があり,ラニビズマブを2回投与するも網膜下液は遷延した(図1b).ラニビズマブに対する反応性の低下と考え,アフリベルセプトに変更した.アフリベルセプト硝子体内注射2回施行後に網膜下液は消退し,その後2年半は網膜下液の再発はなかった.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)ではポリープ状病巣が消失していた(図1c,d).2015年12月,2016年6月にわずかな網膜下液の再発があり,アフリベルセプト硝子体内注射を施行した.2016年8月の右眼の視力は(1.2)で,眼底に滲出性変化を認めていない.筆者は良好な経過が得られている症例でも病態のわず(85)あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017850910-1810/17/\100/頁/JCOPYかな変化を見逃さないために,12カ月おきに蛍光眼底造影検査を行うとともに,診察時には初診時の眼底所見を見直すように心がけている.治療に抵抗する症例筆者らは,AMDに対するラニビズマブ1),アフリベルセプト2)投与の無効症例とその予測因子について検討した.薬剤の投与は導入期の3回連続毎月投与の後PRN(prorenata)投与とした.12カ月間の治療後における眼底所見の無反応は13~17%でみられた.そしてラニビズマブでは線維血管性網膜色素上皮.離(PED)とI型脈絡膜新生血管が,アフリベルセプトでは漿液性PEDが投与前の無効症例予測因子であった.漿液性PEDに対するアフリベルセプトの治療効果を検討したところ,網膜下液を合併する漿液性PEDでは7例中6例で滲出性変化が消退したのに対し,網膜下液を合併しない漿液性PED(5例)では滲出性変化が消退しなかった2).アフリベルセプトはポリープの閉塞率が高いことが報告されており3),PCVやラニビズマブの無効症例予測因子であったI型脈絡膜新生血管を有する典型AMDにはアフリベルセプトがよいと考えられる.ただし網膜下液を合併しない漿液性PEDは治療に抵抗しやすいため,投与前に注意を要する.一方,II型脈絡膜新生血管を有する典型AMDは,ラニビズマブによる治療を考慮してよいと考える.治療しても視力改善,維持がむずかしい症例(症例2)72歳,男性.2011年9月に右眼の中心暗点を自覚し,近医で右眼のAMDと診断された.2012年2月に当科86あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017図2症例2の眼底所見網膜色素上皮裂孔を生じる直前(a)と4年後(b)の眼底写真とOCT所見.初診となった.右眼の視力は(0.07)で,漿液性PEDと網膜下出血,網膜下液,黄斑浮腫を認めた.IAでは中心窩上鼻側にポリープ状病巣を認め,PCVと診断された.2012年3月よりラニビズマブの硝子体内注射を開始した.導入期3回投与によってPEDの範囲は減少し,網膜下液は減少した.3回投与後の視力は(0.07)であった.その後PEDと網膜下液の増悪があり(図2a),4回目のラニビズマブ硝子体内注射を施行した.ラニビズマブ投与1カ月後の受診時,網膜下病変の収縮と黄斑下側に色素上皮裂孔を生じた.その後,新生血管の収縮により網膜色素上皮裂孔はやや拡大し,新生血管膜は瘢痕化した(図2b).2016年8月の右眼の視力は(0.09)となっている.網膜色素上皮裂孔はPED内部の血管線維組織が収縮し,網膜色素上皮が断裂を起こして生じる.背の高い大きなPEDは網膜色素上皮裂孔のリスクファクターであり,治療時に考慮する必要がある.文献1)SuzukiM,NagaiN,Izumi-NagaiKetal:Predictivefac-torsfornon-responsetointravitrealranibizumabtreat-mentinage-relatedmaculardegeneration.BrJOphthal-mol98:1186-1191,20142)NagaiN,SuzukiM,UchidaAetal:Non-responsivenesstointravitreala.ibercepttreatmentinneovascularage-relatedmaculardegeneration:implicationsofserouspig-mentepithelialdetachment.Scienti.creports6:29619,20163)InoueM,YamaneS,TaokaRetal:A.iberceptforpolyp-oidalchoroidalvasculopathy:Asneededversus.xedintervaldosing.Retina36:1527-1534,2016(86)

緑内障:緑内障とミトコンドリア

2017年1月31日 火曜日

●連載199監修=岩田和雄山本哲也199.緑内障とミトコンドリア三宅誠司瀧原祐史福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学近年,中枢神経系の神経変性疾患であるParkinson病,Alzheimer病,筋萎縮性側索硬化症などに加え,視神経変性においてもその病態にミトコンドリアの機能不全が関係しているのではないかと考えられるようになった.そこで本稿では,緑内障を網膜神経節細胞とミトコンドリア障害の関係から解説する.●はじめにミトコンドリアはATP供給,カルシウムイオン濃度の調整,レドックス,アポトーシス制御など多様な細胞内プロセスに関与する重要な細胞小器官である.そのため,ミトコンドリアの機能異常や不全が網膜神経節細胞の生死に直結していることが明らかとなってきた(図1).●緑内障と活性酸素ミトコンドリアがエネルギーを合成すると,その副産物として活性酸素が発生する.適切な量の活性酸素は抗菌や細胞保護などの生体防御作用を発揮するが,過剰になると酸化ストレスの原因となり,細胞を傷害してしまう.そこで,細胞は抗酸化物質を利用したり抗酸化タンパク質を発現させたりすることで,活性酸素量を一定に保っている(図2).活性酸素の産生が増加する原因として加齢,組織・細胞の低酸素状態,虚血などが知られている.これらは緑内障の危険因子とも共通しており,活性酸素に起因する細胞傷害が,網膜神経節細胞の軸索変性や細胞体の消失の原因の一つとして考えられている.●アポトーシスとミトコンドリア視神経傷害や慢性高眼圧などの動物モデルや原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)では,網膜神経節細胞でアポトーシス経路が活性化されていることが知られている(図3).さまざまな刺激によってミトコンドリアの膜透過性のバランスが崩れると,ミトコンドリアからアポトーシス関連タンパク質が放出され,カスパーゼ依存・非依存的に細胞死が誘導される1).生命活動に不可欠なエネルギーを産生するミトコンドリアが細胞死の制御に関与しているのは,細胞の異常による過剰な活性酸素の放出を抑制にするための積極的な生体保護システムといえる.●細胞傷害におけるミトコンドリアDNAと核DNAの影響ミトコンドリアは独自の環状DNAをもっている.その中には37個の遺伝子が含まれており,そのうち13ミトコンドリア網膜神経節細胞の細胞死図1ミトコンドリア障害と細胞死ミトコンドリアに起因するさまざまな障害によって網膜神経節細胞が細胞死に至ると考えられている.生理状態の破綻生理状態の破綻恒常性が維持されている(83)あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017830910-1810/17/\100/頁/JCOPY細胞外シグナル(神経栄養因子の欠乏など)アポトーシス誘導経路の活性化細胞質図3アポトーシスの誘導とミトコンドリア神経栄養因子の欠乏などのシグナルによってアポトーシス誘導経路が活性化されると,ミトコンドリア膜透過性が亢進し,ミトコンドリアから種々の因子が放出される.シトクロムcはカスパーゼ依存的(左)に,エンドヌクレアーゼG(EndoG)・アポトーシス誘導因子(AIF)は非依存的(右)にアポトーシスを誘導する.個が電子伝達系の構成成分である.ミトコンドリアは活性酸素の発生源でもあるため,マトリクスに存在するDNAが活性酸素による塩基修飾や脱塩基を起こしやすい状況にある.しかし,核DNAよりも修復効率が低いとされ,異常タンパク質が供給されると活性酸素が上昇してしまう.また,核DNAの中にもミトコンドリア機能にかかわる遺伝子が約1,500あるとされ,そのうち200以上の遺伝子の異常がミトコンドリアの状態に影響している2).POAGでは,それぞれのDNAにコードされたミトコンドリアの形態制御や抗酸化に関わる遺伝子の変異,一塩基多型がミトコンドリア機能に影響していることが報告されている3).●ミトコンドリアの品質管理ミトコンドリアは,分裂と融合を繰り返すことで不要なミトコンドリアを隔離・分解し,その品質を保っている.緑内障モデルマウスでは眼圧の上昇によってミトコンドリアの分裂促進と融合抑制が進むことが報告されており4),網膜神経節細胞の細胞死の原因の一つとして,ミトコンドリアの品質管理機構の機能低下が明らかにされた.さらに,網膜神経節細胞に特異的なtransmitophagyという新しい概念も提唱されている5).視神経乳頭領域の軸索に局在するミトコンドリアは,細胞体まで輸送されることなく,軸索周囲に存在するアストロサイトへ細胞膜を介して引き渡されリサイクルされる.網膜神経節細胞は独自の品質管理機構を備えることで,恒常性の維持と高いエネルギー要求性を達成している.視神経乳頭領域の血液循環不良による虚血Muller細胞アストロサイト視神経乳頭篩状板放出ミトコンドリア機能の低下二次的要因細胞傷害の誘発細胞死図4網膜神経節細胞の細胞死を誘導する二次的要因虚血は網膜神経節細胞だけではなく,視神経乳頭領域に局在するアストロサイトやMuller細胞にも影響を与える.網膜神経節細胞のミトコンドリア機能が低下するだけでは細胞死は誘導されず,アストロサイトやMuller細胞が放出する種々の因子や,光・遺伝的背景などの多様な二次的要因が必要であるとの考えも提唱されている.●おわりに最近では,網膜神経節細胞の細胞死に種々の二次的要因の関与も示唆されている6)(図4).ミトコンドリア異常が先なのか,それともさまざまな要因がミトコンドリア異常を誘導するのか,解明すべき問題は多い.しかし,緑内障の病態にミトコンドリアが直接的,間接的に関与していることは間違いない.診療において,緑内障が発症する前段階での診断法の確立が急務とされる中で,ミトコンドリアの分裂・融合の状況やATPの産生量,活性酸素放出量などの非侵襲的な定量化が,網膜神経節細胞の運命を予測するための有用な診断マーカーとなる可能性があり,ライブイメージングを応用した今後の技術開発が期待されている.文献1)AlmasiehM,WilsonAM,MorquetteBetal:Themolecu-larbasisofretinalganglioncelldeathinglaucoma.ProgRetinEyeRes31:152-181,20122)KoopmanWJ,WillemsPH,SmeitinkJA:Monogenicmito-chondrialdisorders.NEnglJMed366:1132-1141,20123)LascaratosG,Garway-HeathDF,WilloughbyCE:Mito-chondrialdysfunctioninglaucoma:understandinggeneticin.uences.Mitochondrion12:202-212,20124)JuWK,KimKY,LindseyJDetal:Intraocularpressureelevationinducesmitochondrial.ssionandtriggersOPA1releaseinglaucomatousopticnerve.InvestOphthalmolVisSci49:4903-4911,20085)BurdettTC,FreemanMR:Neuroscience.Astrocyteseye-ballaxonalmitochondria.Science345:385-386,20146)OsborneNN,Nunez-AlvarezC,JoglarBetal:Glauco-ma:Focusonmitochondriainrelationtopathogenesisandneuroprotection.EurJPharmacol787:127-133,201684あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017(84)

屈折矯正手術:SMILEを安全に行う器具

2017年1月31日 火曜日

監修=木下茂●連載200大橋裕一坪田一男200.SMILEを安全に行う器具中村友昭名古屋アイクリニックSMILEはフェムトセカンドレーザーにて角膜実質を光切断して屈折矯正を行う新しい手術である.わずか2mmの切開創で行うことができるが,小切開からの手術ゆえ,多少の技量を要する.そこで,安全かつ簡便にSMILEを行うことができるよう数種の器具を考案した.これによりSMILEのラーニングカーブを短縮させ,早期の視機能の回復にも寄与できるものと思われる.●はじめにSMILE(smallinsicionlenticuleextraction)はフェムトセカンド(femtosecond:FS)レーザーにて角膜実質を光切断して屈折矯正を行う新しい手術である.現在はCarlZeissMeditec社(以下,CZM社)のFSレーザー「VisuMax」のみで行うことができる新技術で,2010年に開発された1,2).レーシックのように角膜実質をエキシマレーザーによって蒸散させて切除するのではなく,FSレーザーによって光切断し,レンチクルとして摘出することにより屈折矯正を行う.フラップを作らず,最小2mmの切開創で手術が完了する.そのためフラップに起因する合併症が皆無であり,角膜強度が保たれ,角膜の知覚神経が温存できることからドライアイになりにくい3).いわゆるminimuminvasivesurgeryである.ただし,小切開からの手術ゆえ,その手技において多少の技量を要することも否めない.今回,独自に開発した数種の器具により,安全かつ簡便にSMILEを行うことができるようになったので紹介する.●SMILEの術式(図1)①まず最深部であるレンチクル後面を切断する.②その後,レンチクル前面を切断する.③下方ないし側方に2.0~4.0mmのサイドカットを行う.④レンチクルをスパーテルで分離した後,鑷子にて除去する.●新器具による手術の簡便化通常はレーシックやフラップ作製後にFSレーザーで角膜実質を切除するFLEx(femtosocondlenticuleextraction)で,ある程度角膜屈折矯正手術を修練した(81)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY1.Fs-2.レンチクル後面作製のレンチクル前面のための深い切開を行う切開を行う3.サイドカットを行う小さな切開創からレンチクルを取る図1SMILEの術式角膜実質をフェムトセカンドレーザーにより光切断し,レンチクルとして切除することにより屈折矯正を行う.後,SMILEを行う.ラーニングカーブがあるものの,最初から比較的安全に手術を行うことができる.今回紹介する専用器具を用いることにより,より簡便に,より確実に手術を行うことができるようになった.①光切断されたレンチクルはある程度癒着している.それをスパチュラにて.離するが,できるだけ小さな力で効率よく.離し分離するためには眼球固定が重要であり,そのため二股の鑷子(ASICOAE-4158)を開発した(図2).これにより角膜輪部を把持するが,形状から想像されるような痛みはほとんど感じないようである.②レンチクルの断端を確実に見つけることが重要である.レーザー付属の顕微鏡下で,分離し.離するためのきっかけを作るが,レーザー直後は断端は比較的見つけやすいが,レーザーのエネルギーや個体差によりほとんどわからなくなることもある(図3).断端を見つけることが困難な場合,スパチュラにて仮道を作ってしまい,さらに分離がむずかしくなる場合がある.そこで,挿入あたらしい眼科Vol.34,No.1,201781図2眼球固定鑷子(ASICOAE.4158)できるだけ小さな力で効率よく.離し分離するために,この鑷子でしっかり眼球を固定をする.図4レンチクルセパレーター(GeuderG.SO3832)「シールはがし」を模したもので,挿入するだけで安全に断端の下に到達することができる.図6レンチクル摘出鑷子(EyetechnologyP437A)小さな切開創からでも,創に負担をかけることなくレンチクルを摘出することができるよう,サイズと開きを工夫した.するだけで安全に断端の下に到達するレンチクルセパレーター(GeuderG-SO3832)を考案した(図4).これは,文房具の「シールはがし」を模したもので,小切開から対応可能なようにその幅は0.5mmとした.また,先端は鈍として仮道を作らないよう工夫した.③.離に関しては,角膜形状に合わせた適切な湾曲とともに,先端形状の工夫により,小さな力で.離できるようレンチクルスパチュラ(ASICOSP-121079)を開発した(図5).④2mmの切開創からでも創に負担をかけることなくレンチクルを摘出することができる鑷子(Eyetechnolo-gyP437A)を開発した(図6).●結果手術時間に関し,専用器具がないSMILE開始初期20例と最近の20例とを比較した.レーザー後にレンチクルを摘出する時間は,平均198.6±42.8秒から103.3±14.8秒へと有意に短縮した(p<0.0001,Mann-Whitney82あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017図3レーザー直後不透過性気泡層とともに切開創が確認できる.ただしレンチクルの断端は不明瞭である.図5レンチクルスパチュラ(ASICOSP.121079)角膜形状に合わせた適切な湾曲とともに,先端形状について工夫し,小さな力で.離できるよう,鳥のくちばしをイメージしたデザインとした.Test).仮道を作るなどの合併症も皆無であった.創へのダメージも少ないことにより,術後の角膜所見もクリアである.●おわりにFSレーザーにより角膜屈折矯正手術は飛躍的に安全となり,またSMILEへと発展してきた.専用器具の使用により,SMILEのラーニングカーブを短縮させ,術後の合併症も少なく,早期の視機能の回復にも寄与できるものと思われる.今後,究極の角膜屈折矯正手術として,切開創をほとんど作らない組織内切除が可能になる日が訪れることは,それほど遠くないことかもしれない.文献1)ShahR,ShahS,SenguptaS:Resultsofsmallincisionlen-ticuleextraction:all-in-onefemtosecondlaserrefractivesurgery.JCatractRefractSurg37:127-137,20112)SekundoW,KunertKS,BlumM:Smallincisioncornealrefractivesurgeryusingthesmallincisionlenticuleextraction(SMILE)procedureforthecorrectionofmyo-piaandmyopicastigmatism:resultsofa6monthpro-spectivestudy.BrJOphthalmol95:335-339,20113)KobashiH,KamiyaK,ShimizuK:Dryeyeaftersmallincisionlenticuleextractionandfemtosecondlaser-assist-edLASIK:meta-analysis.Cornea2016(82)

眼内レンズ:成熟白内障に対するFLACSによる前嚢切開

2017年1月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋362.成熟白内障に対するFLACSによる杉田征一郎眼科杉田病院前.切開フェムトセカンドレーザー白内障手術(femtosecondlaser-assistedcataractsurgery:FLACS)では,正確なサイズの正円の前.切開を再現性高く作製することが可能である.通常より前.切開がむずかしい成熟白内障においても,FLACSを併用することで安全性の向上が期待できる.●FLACSによる前.切開の特徴FLACSによる前.切開(femtosecondlasercapsulot-omy:FLC)では,電子顕微鏡レベルでみると,マニュアル操作の方法に比べて前.切開縁が不整であるものの(図1),正確なサイズの正円の前.切開を再現性高く行うことができる.成熟白内障の場合,レーザーはほとんど核まで到達しないためFLCのみを行う.FLCでは前.の全周をほぼ同時に切開することができるため,レーザー照射中に切開縁が流れてtearが生じる心配はない.本稿でとりあげた機種はアルコン社の眼科用レーザー手術装置「LenSx」である.2013年にpatientinterface(PI)の修正とソフトウェアのアップデートが行われ,レーザー精度のさらなる向上が得られた.その結果,現在市販されているフェムトセカンドレーザーの中では,LenSxがマニュアル切開にもっとも近い滑らかな前.切開ができるようになった1).また,同社の画像ガイドシステム「VERION」を導入することにより,スリット写真を元にした縮瞳時の瞳孔中心や視軸中心など,任意の位置にセンタリングを自動で合わせることが可能になった.とくに付加価値IOLを挿入する際などには非常に心強いオプションとなっている.●FLACSにおける注意事項FLACSにおいては,レーザー装置とのドッキング時の傾きや手術時の前.に関する注意事項など,いくつか把握すべき点があり,ラーニングカーブが存在する2).FLACSのレーザー照射の際にもっとも大切なことは,正しい眼位でドッキングすることである.きちんとしたドッキングができればおおむねよい結果が得られるが,眼位が傾いてドッキングした場合,一部が切れていないなどの不完全な前.切開になりやすい(図2a).また,白内障手術中に注意すべき点は,レーザー照射後の前.切開縁の確認である.筆者の施設では全例でトリパンブルーによる前.染色を併用しているが,しばし(79)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYab図1前.切開縁の電子顕微鏡写真a:マニュアルで作製した前.切開縁.b:フェムトセカンドレーザー(LenSx)で作製した前.切開縁(バージョンアップ前).ばレーザー照射時に水晶体.内から噴き出た皮質で前.縁が確認できないケースがある(図2b).先に灌流・吸引(irrigationandaspiration:I/A)を行うなどして前.切開縁に問題ないことが確認できれば,その後は通常の白内障手術が可能である.FLACSでは,前.切開縁が一見問題ないように見えても,tag(図3)とよばれる前.縁の不整が生じていることがあり,I/Aの際にtearが生じるきっかけとなり得る2).成熟白内障では,通常の白内障と比べてtagが生じる割合が高いため3),とくにI/Aの前.裏面の研磨においては慎重な操作を心がけたい.●術後成績海外の文献によると,FLCを行った成熟白内障50眼の24%にtagが,12%に一部がまったく切れていない不完全な前.切開が確認されており,これは通常の白内障83眼に対するFLCの結果(tag9.6%,不完全な前.切開1.2%)と比べて有意に多い.とくに成熟白内障の中でも,前.が大きく膨隆した症例で不完全な前.切開が多かったと報告されている.一方で,前.にtearが生じたのは成熟白内障の2%に過ぎず,破.は生じていない3).筆者の施設の初期の自検例48眼(術者6名)では,あたらしい眼科Vol.34,No.1,201779図2レーザー照射中のモニター画面a:眼位が傾いてドッキングした場合.OCTで撮影された前.縁を表すライン(→)が波線を示している.b:比較的良好なドッキングの場合.前.縁のライン(→)は直線に近い.前.の膨隆が強い症例では,レーザー照射中に皮質が前房内に噴き出し,その後の視認性が悪くなる.図3Tagの模式図このような前.縁の不整な部分を不用意に触れると,tearが生じるきっかけになる.手術終了時に前.切開が正円でかつコンプリートカバーが得られたのが83%であり,術中の手術操作により前.切開に多少の変形やtearが生じたものが15%であった.核硬度の非常に硬い高齢の過熟白内障の症例1例で,術中に破.した症例がみられた.初期の自検例だけをみると,安全性としてはまだ十分とはいえないが,多少の経験を積み修正を行うことでさらなる成功率の向上が見込めると感じている.●おわりにFLACSを併用することにより,成熟白内障の前.切開をより安全に行うことが可能になってきたといえる.一般術者の心理的ストレスの軽減にも少なくない効果があるものと実感している.しかし,FLACSで作製した前.切開縁は多少脆弱な印象があり,通常の白内障手術とは異なる部分があることは,多少の経験を積み,理解しなければならない.成熟白内障に対するFLCの安全性をさらに高めるためには,照射するレーザーのパワーや照射間隔の設定をどうするのが最適かなど,まだいくつか検討すべき課題がある.今後の新たな報告や検証に期待したい.文献1)BalaC,XiaY,MeadesK:Electronmicroscopyoflasercapsulotomyedge:Interplatformcomparison.JCataractRefractSurg40:1382-1389,20142)NagyZZ,TakacsAI,FilkornTetal:Complicationsoffemtosecondlaser-assistedcataractsurgery.JCataractRefractSurg40:20-28,20143)AsenaBS,KaskalogluM:Comperisonofthee.cacyandsafetyoffemtosecondlasercapsulotomybetweenmatureandnon-maturecataracts.LaserSurgMed48:590-595,2016