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コンタクトレンズ:コンタクトレンズ表面の摩擦

2017年1月31日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一27.コンタクトレンズ表面の摩擦丸山邦夫ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社●はじめにコンタクトレンズ(CL)は,眼表面に装用されると,少なからず眼表面に影響を与えるとともに,さまざまな自覚症状を発症する.自覚症状の中でも,とくに乾燥感は多くのソフトCL(SCL)装用者が経験しており1),ドロップアウトの原因にもなっている.この乾燥感が発症する原因の一つとして,眼表面とSCLとの間で生じる物理的な摩擦が関係していると考えられている.この物理的な摩擦は,SCLのエッジと球結膜で生じるもの,SCL内面と角膜とで生じるもの,SCL外面と上眼瞼とで生じるものが想定される.その中でも,本稿ではとくに,SCL表面(外面)と上眼瞼とで生じる摩擦に着目して概説する.●ソフトコンタクトレンズ表面と上眼瞼縁との摩擦眼表面にSCLが装用されると,上述のように,SCL上の涙液層は不安定となり,とくに外的環境により涙液層は容易に破綻して,視力低下や乾燥感の発症を伴うことがある.低温低湿2)やVDT(visualdisplayterminal)作業3)などの環境の影響を受けやすく,さらに涙液の不安定化を引き起こす.涙液が不安定になると,涙液という潤滑剤を欠くSCLの表面が露出し,1日に2万回以上1)も行われる瞬目により,上眼瞼とSCLの表面で摩擦が生じやすくなる.上眼瞼の縁と露出したSCL表面とビジョンケアカンパニー学術部で生じる摩擦によりlid-wiperepitheliopathy(LWE)4)(図1)という上眼瞼縁の結膜の障害を引き起こすことがある.リサミングリーンで染色すると容易に観察できる.このLWEは,SCL装用者に生じる乾燥感との関連性があり,SCL表面と上眼瞼縁の結膜との摩擦を,乾燥感という自覚症状として認識していることが推測される.●ソフトコンタクトレンズ表面の摩擦係数の計測LWEやそれに伴う乾燥感は,SCLの表面と上眼瞼縁の結膜との摩擦で生じているようであるが,その摩擦の程度を知ることで,LWEの発症メカニズムの解明やSCLの製品開発に有益な情報となりえる.Robaら5)は,眼表面に装用されたSCLに近い環境を再現した実験系において,SCL表面の摩擦係数を測定している.SCLを半球状の樹脂製の治具に固定して,それを人工涙液で満たし,プレートを押し当てて横方向に往復スライドさせ,プレートにかかる応力をSuSoS社製マイクロトライボメーターで検出するものである(図2).なお,人工涙液は,ヒトの涙液を模倣して調製したものであり,リン酸緩衝剤,蛋白質,リゾチーム,希釈血清,脂質を配合し,浸透圧を300mOsmにしたものである.SCLの表面をこするプレートはガラス製で,眼組織表面を模倣するために,プレート表面をプラズマ処理とヘキサメチルジシラザンで前処理をして,ウシ顎下腺由来のムチンの溶液に30分浸漬してプレート図1Lid.wiperepitheliopathy図2トライボメーター(77)あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017770910-1810/17/\100/頁/JCOPY0.5000.4500.4000.3500.3000.2500.2000.1400.1200.1000.0200.000Eta.lconAEta.lconAうるおい成分(-)うるおい成分(+)図4うるおい成分を固定したSCLの摩擦係数の測定結果摩擦係数0.080摩擦係数0.0600.1500.1000.0400.0500.000Somo.lconAEta.lconANara.lconBNara.lconAEta.lconANal.lconAOma.lconAOcu.lconBNel.lconA図3各種SCLの摩擦係数の測定結果(文献5より改変引用)表面に固定した.こするガラスプレートは,スピード0.1mm/s,スライド移動距離1mm,一方向にスライドさせた.また,スライドの荷重は上眼瞼の圧力の測定値をもとに,2kPaに設定した.その結果,各種SCLの摩擦係数の測定値には違いがあることがわかった(図3).この測定手法は,SCLの表面の摩擦特性をより眼に近い環境で評価することが可能であり,今後,さまざまなSCLの評価や自覚症状との関連を調査するうえでも利用価値は高いと考えられる.●ソフトコンタクトレンズ表面の摩擦を減らすためにSCL表面と上眼瞼縁との摩擦を減らす方法として,SCL表面の水濡れ性を改善する方法,潤滑剤としての補涙液の点眼および涙液成分の分泌を促す点眼といった方法があげられる.とくにSCL表面の水濡れ性を改善する方法は,近年めざましく発展している.SCL表面の水濡れ性を向上させることを目的とした表面改質や,うるおい成分をレンズ素材である高分子のマトリックス内に固定する技術も注目されている.後者のうるおい成分をレンズ内に固定する方法では,うるおい成分であるポリビニルピロリドンをSCL基材(素材名:Eta.lconA)に固定したものと,固定していないものの摩擦係数を測定した結果5),うるおい成分をSCL基材に固定した(文献5より改変引用)ものは摩擦係数が小さいことがわかった(図4).うるおい成分をSCLの高分子のマトリックス内に保持することで,そのレンズ表面ではうるおい効果を発揮し,摩擦を低減していると推察される.●おわりに眼表面にとってSCLの存在は異物であり,状況によって機械的な摩擦を生じ,眼障害を引き起こすこともある.それらを軽減するためにも,摩擦の少ない表面をもつSCLが必要である.文献1)濱野孝,小谷摂子,光永サチ子:コンタクトレンズ装用と乾燥感.臨眼53:1053-1056,19992)MaruyamaK,YokoiN,TakamataAetal:E.ectofenvi-ronmentalconditionsonteardynamicsinsoftcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci45:2563-2568,20043)佐藤直樹,山田昌和,坪田一男:VDT作業とドライアイの関係.あたらしい眼科9:2103-2106,19924)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepithe-liopathyanddry-eyesymptomsincontactlenswearers.CLAOJ28:211-216,20025)RobaM,DuncanEG,HillGAetal:Frictionmeasure-mentsoncontactlensesintheiroperatingenvironment.TribologyLetters44:387-397,2011ZS977

写真:アデノウイルス結膜炎後の角膜混濁

2017年1月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦392.アデノウイルス結膜炎後の角膜混濁粥川佳菜絵*外園千恵***バプテスト眼科クリニック**京都府立医科大学眼科図1初診時の左眼前眼部所見点状~斑状の多発性上皮下混濁を認める.矯正視力は0.6であった.図3ステロイド点眼開始4カ月後の左眼前眼部所見わずかに上皮下混濁の残存を認めるものの,矯正視力は1.2まで改善した.図4ステロイド点眼を中止し3カ月後の左眼前眼部所見(初診から1年3カ月後)多発性上皮下混濁の再発を認める.矯正視力は1.0であった.(75)あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017750910-1810/17/\100/頁/JCOPY症例は43歳,女性,半年前に結膜炎に罹患した後に視力低下を自覚した.近医にてジクアソホルナトリウム点眼およびレバミピド点眼を処方されるも改善しないため,京都府立医科大学附属病院に紹介となった.初診時,両眼に点状ないし斑状の多発性角膜上皮下混濁を認めた.とくに左眼は強い混濁により視力低下をきたしており(図1,2),初診時の矯正視力は右眼1.0,左眼0.6であった.病歴と前眼部所見よりアデノウイルス結膜炎後の角膜混濁と診断し,0.02%フルオロメトロン点眼2回/日を開始した.徐々に上皮下混濁は軽減し,初診から4カ月後には混濁はほぼ消失,左眼の矯正視力は1.2まで改善した(図3).初診から1年後に治癒と判断して点眼を終了したところ,点眼中止から3カ月後に再び強い角膜上皮下混濁を生じて来院した(図4).0.02%フルオロメトロン点眼2回/日を再開すると,徐々に混濁は軽減した.その後は,0.02%フルオロメトロン点眼を週に2回継続し,現在まで1年以上,混濁の再発を認めていない.アデノウイルス結膜炎は,アデノウイルスというDNAウイルスによって生じる結膜炎で,重症化すると角膜上皮下混濁を生じることが知られている.発症頻度は,アデノウイルス8型の院内感染例では35%であったとの報告がある1).この混濁は通常2~3週間程度で治癒することが多いが,視力低下の原因となり,症例によっては数カ月から数年にわたって残存する場合がある.混濁の発症機序は明確ではないが,角膜実質の最表層において,アデノウイルス抗原に対する遅延型アレルギー反応が起こることにより生じると考えられている2).この混濁はスクレラルスキャッタリングで見ると明瞭となり,細胞浸潤であると考えられ,治療にはステロイド点眼が有効である.高力価のステロイドを用いる必要はなく,低濃度のステロイド点眼を長く継続するのが望ましい.治療期間は症例によって異なるが,数カ月を要する場合も少なくない.ステロイドによる眼圧上昇に注意しながら,根気よく点眼を続ける.ステロイド点眼の減量もしくは中止,あるいは患者による点眼コンプライアンス不良により,混濁が再発する症例がしばしば存在する.今回筆者らは,結膜炎治癒後1年以上が経過しているにもかかわらず,ステロイドの中止により強い角膜混濁が再発した症例を経験した.過去には,いったん混濁が消失した後に異なる血清型のアデノウイルスによる上気道感染を契機に角膜混濁が再発する症例も報告されており3,4),アデノウイルス抗原が長期にわたり角膜内に残存している可能性が示唆されている.アデノウイルス結膜炎後の角膜上皮下混濁は,日常の臨床でもしばしば遭遇するが,発症時すでに結膜炎から数カ月経過していることもあり,結膜炎との関連に気づかれない場合がある.このような多発性の角膜上皮下混濁を診た際には,ウイルス性結膜炎の晩発性合併症の可能性を考慮し,十分に問診を行うことが重要である.またいったん混濁が消失しても,ステロイド点眼の中止などにより再発する可能性があるため,投薬終了後も注意して経過観察する必要があると考えられた.文献1)ColonLE:Keratoconjunctivitisduetoadenovirustype8:reportonalargeoutbreak.AnnOphthalmol23:63-65,19912)TrousdaleMD,NobregaR,WoodRLetal:Studiesofadenovirus-inducedeyediseaseintherabbitmodel.InvestOphthalmolVisSci36:2740-2748,19953)伊藤恵子,松浦範子,内尾英一ほか:再発性角膜上皮下混濁sineadenovirusの1例.臨床眼科12:1823-1827,20004)HodgeW,WohlT,WhitcherJPetal:Cornealsubepitheli-alin.ltraterecurrencesineadenovirus.Cornea14:324-325,1995

眼科の先達に学ぶ 2.三島 濟一 先生

2017年1月31日 火曜日

三島濟一先生の業績と教え澤充(公益財団法人一新会理事長/日本大学名誉教授)はじめに木下茂京都府立医科大学教授から「近年の眼科医,とくに若い眼科医が,世界の眼科の牽引役として貢献してこられた日本の眼科医の業績およびその人となりについてほとんど知らない状況になっている.ついては『あたらしい眼科』で著明な眼科医について取り上げる企画をしているので,三島先生の著書,業績と写真などを通して三島先生の人となりを彷彿とさせる原稿を書いてもらいたい」との依頼があった.私自身は眼科医として多くの薫陶を三島先生から受けたのは事実である.ただし,東大眼科の特異性ではないかと思うが,三島先生とは研究・臨床を通してのつながりが主体であるため,写真などが少ないのが実情である.また,三島先生がご存命であればあらためて教えをいただくことや,内容の確認をしていただくことも可能であるが,現実には不可能である.そこで三島先生の業績に関しては『三島教授退官記念誌(以下,退官記念誌)』(東大眼科教室)および論文検索を東大眼科の相原一教授に資料をお願いすることとした.また,三島先生の人となりは「論語」と孔子との関係のごとく,私どもが三島先生から教えられた内容を記すことで本企画に対しての対応とさせていただく.■三島先生の略歴と業績■略歴と業績については三島先生が情熱を注いで執筆されたKeelerCRandMishimaS:InternationalBiogra-(57)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(退官記念誌から転載)phyandBibliographyofOphthalmologistsandVisionScientists(IBBO)(WayenborghJP,Belgium,2002)から以下に抜粋引用する(図1).三島先生は1927年,眼科医家系の5代目として淡路島で生誕,1949年東京大学卒業,1957年学位取得(Thesis:Thee.ectsofthedenervationofthesympa-theticandthetrigeminalnerveonthemitoticrateof図1InternationalBiographyandBibliographyofOphthalmologistsandVisualScientists(IBBO)の表紙thecornealepitheliuminrabbit.JpnJOphthalmol1:65,1957).BritishCouncilScholarshipを得てInstituteofLondonでDavidM.Mauriceと研究(1959-1960),その後Dun-phyFellowshipを得てRetinaFoundation(Boston,USA)でC.H.Dohlmanと研究(1960-1961).短期間の帰国ののち,RetinaFoundationのResearchAssoci-ate(1963-1965)を経て,ColumbiaUniversity(NewYork)で講師を務める(1965-1968).帰国後,東京大学眼科学教室講師(1968-1971),同眼科学教室主任教授(1971-1987),またこの間,同医学部付属病院病院長(1980-1983),医学部長(1983-1986)を務める.その後,東京厚生年金病院病院長(1987-1997)を務めた.1987年から東京大学名誉教授,NormanBethuneMedicalUniversity,Changchun,China名誉教授.1.学会および社会活動a.国内日本眼科学会評議員(1968-1989),同理事長(1977-1981),第92回日本眼科学会総会長.日本眼光学学会常務理事(1968-1992),同第8回学会長(1972).日本眼薬理学会設立者,同理事(1971-1988).眼科手術学会常務理事(1978-1987),日本緑内障学会設立者,同会長(1990-1998).日本アイバンク協会常務理事(1976-1995).日本医師会副会長(1986-1992),読売光と愛の事業団常務理事(1988-2003).行政機関の各種委員.全国医学部長病院長会議会長(1983).b.国外第23回国際眼科学会(InternationalCongressofOphthalmology)事務局長(1978),国際眼科学会の緑内障国際委員会(InternationalCommitteeofGlauco-ma)常務理事(1974-1990),第6回国際コンタクトレンズシンポジウム(InternationalContactLensSympo-sium)名誉会長(1986),アジア太平洋眼科学会(Asia-Paci.cAcademyofOphthalmology:APAO)会長(1991-1993),第13回APAO会長(1991),国際眼研究学会(InternationalSocietyforEyeResearch(lSER)創立メンバーおよび副会長(1974-1980),AcademiaOphthalmologicaInternationalis会員(1977-1996).アジアオセアニア医学連合会(ConfederationMedicalAssociationsofAsiaandOceania:CMAAO)評議員(1988-1992),世界医師連盟(WorldMedicalAssocia-tion:WMA)評議員会議長(1987-1992).2.学術誌編集委員編集長JapaneseJournalofOphthalmology(JJO)(1971-1991),臨床眼科(1971-1987).編集委員:ExperimentalEyeResearch(1970-1980),OphthalmicResearch(1970-1980),Graefe’sArchiveofClinicalExperimentalOphthalmology(1982-1992),SurveyofOphthalmology(1982-1992),CoreJournalsinOphthalmology(1977-1992),Asia-Paci.cJournalofOphthalmology(1989-),HistoriaOphthalmologicaIntemationalis(1997-).3.名.誉.会.員日本眼科学会,日本緑内障学会,AmericanAcade-myofOphthalmology,ISER,ContactLensAssociationofOphthalmologists(CLAO),AsianOceanicGlauco-maSociety,AcademiaOphthalmologicaInternationalis4.臨床・研究特筆すべき臨床業績:眼科における顕微鏡手術のパイオニア.日本での眼科顕微鏡手術,三島式顕微鏡手術用器具,トプコン手術用顕微鏡の開発.最初の眼科顕微鏡手術書出版(医学書院,1979).研究,臨床領域:角膜,緑内障,眼生理学・薬理学,Behcet病.5.招待講演・特別講演(図2)日本眼科学会特別講演:Physiologyandpathologyofthecornealendothelium.JJpnOphthalmolSoc77:1736,1973ConradBerensMemorialLecture:Pharmacologyofophthalmicsolutions.ContactIntraocularLensMedJ4:22,1978第8回FrederickVerhoe.Lecture:Behcet’sdis-easeinJapan,ophthalmologicaspects.TransAmOph-thalmolSoc77:225,1979ProctorLecture:Clinicalpharmacokineticsoftheeye.InvestOphthalmolVisSci21:504,1981DiagnosisandmanagementofglaucomaShahidDr.AlimMemorialLecture(TransOphthalmolSocBangl9:1,1981)第38回EdwardJacksonMemorialLecture:Clini-calinvestigationsonthecornealendothelium.AmJOphthalmol93:1,1982第12回JulesSteinLecture:Oculare.ectsofbeta-adrenergicagents.SurvOphthalmol127:187,1982CastroviejoLecture:Biomicroscopyusingpolarizedlight.Cornea1:187,1982deOcampoLecture:Pharmacologyofophthalmicsolutions.AsiaPaci.cJOphthalmoll:1,1989JulesFrancoisLecture:Cornealphysiologyincon-tactlenswear.JJpnContactLensSoc29:23,1987JulesFrancoisMedalAwardLecture:Codeofeth-icsanditspracticeinOphthalmology.JJpnOphthal-molSoc95:3,19916.その他東大退官後:三島濟一記念基金創設(1987)日本眼科学会百周年記念誌「日本眼科の歴史」(1997)編集.日本失明予防協会会長(1990-2000)7.上記の略歴ならびに業績についての補則三島先生は上述のごとくInstituteofLondon(ロンドン,イギリス)に留学され,Maurice先生と研究をされた.この際は単身赴任で日夜,英語の勉強に励まれ,風呂に入りながらも英語の勉強をされたそうである.ちなみに,私と新家眞先生が初めてAssociationforResearchinVisionandOphthalmology(ARVO)に参加した際,三島先生から紹介いただいてMaurice先生にお会いし,英語の不得手な私がどうしたらうまく発表できるかと質問したところ,「海にむかって原稿を100回読め」との回答であった.Maurice先生の英語は大変聞き取りづらいので,三島先生は必然的に英語の勉強をせざるを得なかったものと考えられる.その後,Colum-biaUniversityに異動された.この時点で,Dohlman先生をはじめ海外からの先生が米国で尊敬と地位を得られていることから,米国での研究生活を継続することを選択されたと考えられ,先生は日本眼科学会の会員継続を止められた.その後,鹿野信一東大眼科教授が定年を迎えられ,鹿野先生は「三島の海外での業績は素晴らし図2招待講演・特別講演での受賞メダル(退官記念誌から転載)①く,彼はそのまま米国での研究が良いとしているが,彼を渋る三島先生を説得して三島先生が鹿野教授の後任と以外には自分の後任としての東大眼科教授はいない」して着任された.当時,東大は大学紛争の終結に向かっ(鹿野先生から直接伺った表現のまま)ということで,帰国ていたとはいえ,三島先生はこうした大学を取り囲む状図2招待講演・特別講演での受賞メダル(退官記念誌から転載)②況に魅力を感じなかった可能性がある.東大眼科教授就た.三島先生の教室員指導は教授就任から病院長就任ま任後は東大医学部附属病院病院長,医学部長を歴任されでの期間であったようで,病院長就任以降は教室員指導(61)あたらしい眼科Vol.34,No.1,201761の時間が減少したとのことで,私自身は病院長就任以降は“JapaneseJournalofOphthalmology”などを介しての指導を受けたのみである.■研.究.業.績■三島先生の研究業績は角膜に関するものが主体となっているが,これらの根底には物理(光学),生理学,薬理学などの医学および数学の知識があった.三島先生以前の眼科研究は,眼科領域の知識に限定された基盤の上で構築されていたといっても良いのではないかと考えられる.角膜の厚み,透明性に関してはMaurice先生の角膜に関する研究があるものの,三島先生の研究は光学物理(屈折,反射,複屈折,偏光,屈折など),生理学,薬理学的知識を結集したものである.また,測定値,結果の検証には統計学を駆使している.ちなみに1950年代の日眼会誌の論文には,データの平均値,標準偏差および有意差検定結果がほとんど示されていなかった.■研.究.指.導■1.研究員の会私自身は昭和48年秋に東大眼科に入局した.当時の学会,臨床の状態は現在と大きく異なるものであった.臨床に関しては後述するが,paternalismが主体であり,研究倫理の概念はほとんどなかった.日本眼科学会での発表は学位論文の発表の場としての位置づけで,演題数は100演題を超える程度であり,各大学から概ね1演題,多い場合で2演題であった.東大眼科においては入局直後に文部教官となり,2年程度医局において外勤なしで月曜日から土曜日まで外来,病棟の両者で臨床研修を行い,その後,関連病院で臨床を継続する一方で,学位取得をめざして大学の研究員として研究を行うというシステムであった.すなわち,無給医局員はおらず,関連病院での勤務の間をぬって大学に戻って研究を行う.三島先生は「臨床が十分にできない人間には研究する意味がない.一方で研究は論理的でなければならないので,研究を行うことで臨床も論理的に考えることが可能となる」というお考えで,研究テーマを先生が与えるのではなく,せいぜい示唆する程度であった.研究のテーマ,方法に関しては角膜,緑内障,ぶどう膜炎,神経眼科などを専門とする助教授,講師の下で進めるシステムであった.一方で,研究員が参加する「研究員の会」を毎月開催し,毎回1名程度,研究員に何を行っているのかを発表させ,研究内容への助言および全体に共通する研究手法,実験方法に関しての講義を先生が自らされた.a.実験動物の扱い研究のモラルとして,動物の保護,虐待防止を重要視された.それらの内容は以下のごとくである.①家兎の実験では家兎を固定するためのステンレスの筒を使用してはいけない.これは筒の中で家兎が暴れると腰骨骨折を生じ,排尿困難から死亡することになるためとし,腰骨骨折を生じた場合には速やかに安楽死させること.したがって家兎はマニラ麻袋に入れて固定すること(麻袋で固定して麻酔を行うことなどは実際に行っていたようであるが必ずしも守られていなかった).②麻酔をかけた動物のそばから離れてはいけない.覚醒した際に動物が怪我をする可能性があるので,覚醒を確認してからケージに戻すこと.③失明状態で覚醒させてはいけない.失明した状態では覚醒前に安楽死させること.b.実.験.精.度研究員の会および実際の研究,論文作成に関しては以下のことを常に強調されておられた.①実験方法の適応と限界を知ること.②実験結果には一定の誤差があること,および再現性について常に考慮すること.すなわち,実験方法には測定原理に基づく解像度,精度があり,それについて考慮すること.たとえばGoldmannアプラネーショントノメータに関してはImbert-Ficklawを基本原理とし角膜曲率,角膜厚み,涙液量など一定の条件のもとでのみ適正な眼圧測定が行いうること,およびSchoetz眼圧計との比較を含めて説明された.また,こうした測定方法の優れた点としてキャリブレーション法が付随していることをあげられた.こうした内容は私(当時は医局員でresearchworkにはまだ距離があったが)にとっても非常に印象深く,その後の勉強になった.現在,我々が使用している装置の多くはdigital化されているが,その計測方法はほとんどblackboxであり,またキャリブレーション方法がない.ちなみにノンコンタクトトノメータはGolamannアプラネーショントノメータ測定値に近似するようにプログラム補正されている.Goldmannアプラネーショントノメータでの測定精度は1mmHgであり,5回程度測定した場合に平均±標準偏差に関する統計値として10.1mmHgで表示が可能となることも講義のなかで示された.統計処理に関しては前述のごとく,当時,平均±標準偏差,c2検定などが導入されはじめた時代である.有意差検定を行う場合,母集団が正規分布しているとの前提条件の下で可能な統計処理であり,2群間の比較では両群の分布が同じであることの検定(F検定)を行う必要がある.c2検定を含めて少数例の場合,欠損値の扱いなどもあってむずかしい講義であった.したがって,講義のあとは自分でとにかく勉強せざるを得なかった.こうしたデータ処理,統計処理に関しても基本から学ぶことの重要性を三島先生は繰り返し講義された.c.論文の作成我々はいわゆる論文博士として学位を取得した.その学位論文は自分で取りあえずは書くことは書いたが,結果的にすべて三島先生が引用文献をもとに作成してJJOに掲載または日眼会誌に掲載されて学位授与を受けた.論文の書き方についても研究員の会で講義があり,かつ,こうした論文指導のなかで論文作成について非常に多くのことを学ぶことができた.論文構成はさまざまな形式があるが三島先生流はある意味で単純明快である.論文構成を①諸言,②対象と方法,③結果,④考按に分けるのは通常どおりである.①諸言では,現在まで解明されていることおよび未解明の点を記載し,その未解明のどの部分を解明するために研究を行ったのかについて簡潔に記載する.②対象と方法では,対象の選択,方法をわかりやすく順序立てて記載する.この「順序立て」というのは実際に行った実験などの順番ではなく,目的を解明するのに適した順序立てという意味である.③結果では,方法で記載した実験の順番にしたがって記載する.本文と図表の記載の重複は可能な限り行わず,結果を図表にわかりやすくまとめ,そのまとめを本文に記載する.④考按では,対象と研究方法が研究目的に合致したものであること,研究方法の適応の妥当性として精度(誤差),限界を記載し,得られた結果が既報とどのように同じであるのか,異なるのかを記載し,結果として新知見とそれにより研究目的を達成できたことを明確に記載する.ちなみに論文作成の順番は②③④①の順で考えるのが良いとするものである.すなわち①諸言はもっともむずかしい部分であり,②対象と方法,および③結果は実験ノートを基に記載すれば良いので容易である.④考按は本来,研究を始める前に既報を十分に検討し(文献整理),研究仮説,研究デザインを整理しておき,結果により事前の研究仮説の修正を行う作業ということになる.もちろんこうした論文指導に際しては,略語の扱い,図表の作成法など細かい点にまで講義があった.さらに,negativedataの研究結果は論文にはできないというのが三島先生のお考えであった.その理由としては得られた結果が科学的「真」ではない可能性がある場合や研究方法の精度,妥当性に問題がある場合などがあることをあげられた.一方でnegativedataはそれ自体意味があるとの考え方もしばしばあり,私自身はnegativedataからなる論文の扱いには常に悩むところである.d.講.演.発.表講演は参加者の時間を束縛しているので,無駄なく割当て時間内で発表を終えること.発表内容は,①目的,②方法,③結果と解釈,④結論にまとめ,研究内容を網羅的に述べるのではなく,聴衆に聴いてもらいたい内容に絞り込む.内容の絞り込みの重要性とコツとして,①発表内容は最低3分で1つテーマとし,それ以上のテーマを盛り込まない.②1枚のスライドは6.8行以内とし,スライドに記載した内容はすべて読むようにする(したがってスライド枚数は講演時間7分であれば10枚前後).③略語は必ずスライド内に小さい文字でよいので記載する.これは会場で略語の説明を聞き洩らした場合でも略語の意味がわかるようにとの配慮である.④スライドにはnegativedata(正常範囲にある項目,数値なども含む)を記載せず,目的,結論に直結するpositivedataのみで構成する.これらを厳守することでスマートな発表となる,とされた.学会予演会(必ずしも三島先生が出席することはないが,毎週水曜日の朝の医局カンファランスにはよほどのことがない限り欠席されなかった)では上記の事項に関して厳しい指導があった.後日譚.三島先生が日本眼科学会百周年記念講演をされる際に,事前にスライドを拝見する機会があった.講演時間に対してスライド枚数が多く,そのことを申し上げたところ(生意気なことをいうな,という表情もされずに)「実はそうなんだ.家人を相手に何度か予行をしてみたが,どうしても枚数を削れないので,学会に申し出て時間の延長を依頼してある」とのお話.私の不躾な物言いに不愉快な対応もされず,かつ三島先生がご家庭で予行をされておられたということで,私はあらためて「偉い方は違う」と得心をした.図3Mishima.Hedbys法の角膜厚測定器(トプコン社製)私も自分としてはそれなりに注意して文章を書いてはいるが,他人からの修正意見に対して,不快に思うことがあるときもあるが,他人はそのように思っている,受け取っているのだと冷静に受け止め,再度,検討するように努力するようになった.2.実験装置の開発研究はそれまで解明されていないことを解明することが目的であるので場合により,実験装置そのものを考案することも必要であるという教えであった.自身がEyeResearchInstitute(Boston,MA,USA)におられた頃,Instituteには実験器具を工作する部門があり,そこで旋盤などを使い器具を試作したりしておられたとのことである.後年,私自身がEyeResearchInstituteに留学した際には,まだ工作部門があり,全眼球状態のドナーの角膜内皮細胞を観察する「ホールアイチェンバー」を実際に試作することができた.実際,三島先生は自分の研究目的に合せて器具を開発されてきておられる.そのいくつかを紹介する.その根幹には非または低侵襲性検査法の開発,精度の向上という概念が常にあった.a.角膜厚測定に関するMishima.Hedbys法(図3)Mishima-Hedbys法はHaag-Streit社のDepthmeter(角膜厚みおよび前房深度測定の2器具がある)の角膜厚測定器が角膜中央へのアライメントを可能にするように改良したものである.これによるcornealthicknessに関するreviewは現在でも角膜厚を研究する場合の必読書である.角膜厚測定法としてはスペキュラーマイクロスコピー,そして近年の共焦点生体顕微鏡,前眼部光断層計(AS-OCT)による光学測定法と超音波測定法とに大別されるが,それらの測定法に内在する測定精度(解像度),シグナル処理法を理解したうえで測定結果を扱う必要性があることをこのreviewは教えてくれる.b.Specularmicroscope角膜内皮面と房水との密度の異なる部位で光が全反射する現象により角膜内皮細胞が細隙灯顕微鏡で観察できることはA.Vogt先生のアトラスで示されている.この原理に基づいてMaurice先生がSpecularmicroscopeを発表した.三島先生は臨床に応用しやすい装置の開発を研究員であった佐藤孜先生とトプコンに指示された.本装置の開発により,屈折矯正手術としての角膜表裏面切開術(佐藤氏手術:放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)後の10数年後に高頻度で晩発性水疱性角膜症を発症する病態,白内障術後(当時は水晶体.内摘出術)の角膜内皮障害の病態が明らかになり,角膜内皮細胞の臨床研究分野でわが国は大きな貢献をした.c.Fluorophotometer角膜にフルオレセインを投与し,前房内のフルオレセイン濃度を経時的に計測し眼内の生理学を検討する方法がMaurice先生,三島先生らにより海外で行われていた.使用されていた装置での眼内フルオレセイン濃度の測定値は電流計のようなメーターで出力され,使用しにくいものであった.この装置の原理に基づいて,前眼部フルオロフォトメータを私と新家先生とトプコンで近代的なdigital出力機能を有する装置の開発とフルオセイン内服による検査法の開発を行うことの指示があった.検査方法としては角膜へのイオントフォレーシス法があった.この方法はフルオレセインが無機のまま代謝されない点で単純であるが,角膜にフルオレセインを直接投与することでの臨床的問題と,投与部に高濃度のフルオレセインが貯留していることの問題があり,この点をクリアするうえで内服法が優れているというのが三島先生の考えである.しかし,着手してみると,内服法での問題は,内服されたフルオレセインが代謝され,ほとんどがグルクロナイドフルオレセインとなるため,角膜に直接投与されたフルオレセインと異なり,蛍光強度の違い(グルクロナイドフルオレセインとフリーのフルオレセインとでは蛍光強度が10倍程度前者が弱い),さらに両者の眼内動態での変化を検討する必要があること.測定変数と求めたい眼内物質の生理学的移行に関する係数(移行係数など:正解肢)の数が後者のほうが一つ多いために,眼内薬理動態の理論式にあてはめつつも正解肢が得られないなどの問題があった.この研究を通して筆者らはフルオレセインの希釈,代謝に関する技術と知識,および薬理動態理論式に基づく正解肢を近似値として求めるために東大大型計算機センターの利用を含めて学ぶことができた.こうした研究方法の開発により新たなデータが得られた.d.薬物動態の検討,自律神経作動薬を利用した研究瞳孔反応が自律神経によって支配されていることは眼科医にとってはあたり前の知識である.一方で点眼薬は眼科医の専門分野であり,点眼薬の眼内移行は治療のうえで大事な因子である.点眼薬が眼内に取り込まれるには眼表面で涙液に溶解し,おもに角膜を透過して眼内に移行する.三島先生は涙液の研究および角膜の研究を通して豊富な知識を有しておられた.角膜前涙液層は油層,漿液層,ムチン層で構成され,角膜は上皮層と内皮層とが脂溶性,実質が水溶性の性質を有している.こうした薬物親和性に基づいて点眼薬は眼内に移行するが,点眼薬の眼内移行をどのように検討するかについて,三島先生は自律神経作動薬を使用し,点眼後の瞳孔反応を赤外線フィルムを用いて計測することで評価する方法を開発された.これは長滝先生,菅谷先生らがピロカルピンの濃度,粘性を変化させて瞳孔の反応量(曲線)を計測することで新知見を得た.すなわち,薬物の眼内移行には薬物の濃度と薬物の眼表面との接触時間とが重要な因子であり,濃度を上げると瞳孔反応曲線のピークが上昇するが,ピークに達するまでの時間(ピークタイム)は変化しない.一方,薬物の粘性を上げて角膜との接触時間を延長すると,反応曲線のピークタイムはグラフの右側にシフトしかつ反応量(areaunderthecurve)が結果として増大するとの結論である.したがって,眼内移行濃度を増大させるのには薬剤の濃度を上げるのか,溶解液の粘性を上げるのかを薬剤によって選択することの理論的裏付け,重要性が明確になった.また,5分間隔以上あけての点眼により反応量を効果的に増加させうることなどが明らかになった.■臨.床.指.導■1.成書に基づく知識の整理臨床で大事なことは基礎的知識であり,そのためには成書を読むことが重要であることを力説された.成書としてはたとえば,“Adler’sPhysiologyoftheEye”,“SirDuke-ElderAtextbookofOphthalmology”などである.Adlerはその内容に理解できない箇所も多かったが読み通すことはできた.さすがにDuke-Elderの通読は無理であるが,外来などで遭遇した症例に関してはDuke-Elderで確認しておき,関連があるときに,「これこれの記載でした」と申し上げると納得していただけた.三島眼科教室では入局年次に関係なく,出典,根拠さえ明確に示すことができれば入局1年生であっても意見を申し述べ,かつ尊重していただけた.これは小澤助教授,大庭,谷島,増田各講師も同様で,何となく生意気なことをいっていると思われている感じはあったが,とにかく受入れてくださり,頭ごなしに否定されるようなことはなかった.こうした教室の雰囲気が若い医局員に成書や原著論文を読む動機づけになったと考えられる.2.診療東大眼科にはpaternalismを基盤とする石原忍先生の教えがある.その内容は優れたものであり,三島先生も概ねそれに沿って臨床を実践され,我々を導いておられた.患者に対して丁寧に対応をされるが,毅然とした態度で従わせる面があった.また,患者の病状を優先させるが,患者の社会的背景にも十分に配慮した診察を実践された.3.手術適応,術式手術適応,術式に関しては正しい根拠に基づいていれば,手術結果,成績が悪い場合でも許容されるべきであるとの教えである.1例として,ぶどう膜炎患者で白内障を合併し,白内障術後,水晶体皮質の残存が多くあった症例では,病変があるからといって追加手術などを考えると失明,眼球癆に陥ることがあるということを教えられた.その患者は私がその後30年程度拝見することとなったが,何とか光覚弁は維持できていた.■臨床での新しい取組み■1.顕微鏡手術の導入a.手術用顕微鏡の開発(図4)昭和45年(1960)前後頃はまだ顕微鏡下手術は一般的ではなく,鹿野教授は手術用手袋をすると感覚が鈍るということで,素手で手術をされておられたと伺っている.三島先生は私が入局した昭和48年(1973)前後かaら顕微鏡手術に舵をきられ,当時Zeissの手術用顕微鏡で手術を行う一方で,トプコンと手術用顕微鏡の開発に着手された.三島先生曰く,ergonomicsに基づく装置を開発する必要がある.すなわち,日本人の体格にあった装置ということである.日本人は腕が短いので接眼レンズと対物レンズの焦点の距離を短くする(図4b),瞳孔距離も58mm以下に対応できるようにするなどである.b.顕微鏡手術用器具の開発(図5,6)欧米ではすでに顕微鏡手術が導入され,それに対応する手術器具が開発されていた.三島先生はいわゆる三島bc図4手術用顕微鏡(TOPCONOMS.100)a:手術は水晶体.内摘出術で白内障をクライオ装置で摘出している状態.b:日本人の体格にあわせてworkingdistanceを短く設計していることを示している.c:手術は先天白内障に対する三島先生考案の水晶体吸引術.術者は三島先生,助手は筆者.(TOPCON手術用顕微鏡OMS-100カタログより引用)図5顕微鏡手術用器具上が結膜ユーティリティー,下が角膜鑷子.式角膜鑷子,結膜鑷子,角膜剪刀,結膜剪刀,レザーホルダーなどをはんだやを中心に作製させ,東大眼科で使用していた.・水晶体吸引装置軟性白内障に対する水晶体吸引装置を試作された.吸引器具と前房内灌流器具による2手法である.吸引器具は比較的シンプルなもので,手術室に配管されている陰圧装置を減圧し,さらに吸引器具の側面に空けた穴を指で調節して陰圧のコントロールをする.どの程度の陰圧が適切かということで配管陰圧,減圧瓶などでの陰圧を測定し,調節して使用するものである.眼科の知識の乏しい私などは外回りとして吸引圧などの調査,調整をさせられた記憶がある.水晶体吸引に必要な陰圧は50.100mmHg程度であったと記憶しているが,実際に手術室配管の陰圧はその10倍以上であったような記憶がある.■病態生理,とくに術後の病態生理■術後を中心とした病態生理の臨床研究は,手術を単に技術として捉える従来の考え方とは異なるものであり,わが国の眼科が世界に貢献できた分野であると考えられる.この新たな臨床病態に関する考え方と,三島先生の下での新たな非侵襲的臨床検査法との組合せにより得られる結果はすべて新知見であり,この時期医局に在籍した者は苦労せずに論文作成が可能であった.1.プロスタグランジン(PGs)などの炎症伝達物質(chemicalmediators)と非ステロイド性消炎薬(NSAIDs)三島先生の下,プロスタグランジン(PGs)と非ステ図6顕微鏡手術用器具上図は水晶体吸引器具.下図は水晶体吸引術中顕微鏡写真.ロイド性消炎薬(NSAIDs)に関する臨床研究は,現在の内眼手術の進歩に大きな貢献をした.PGsは当初虹彩炎などの研究でIrinとよばれ,伊沢保穂先生らが研究対象とされその後,これがPGsと同一のものであるとされた.a.水晶体吸引術とNSAIDsIrin=PGsは縮瞳作用があり,術中に縮瞳を生じると手術操作が困難となる軟性白内障に対する水晶体吸引術での術中縮瞳を抑制するために,PGs生合成阻害薬であるNSAIDsとして最初にアスピリンの術前内服療法を行った.ただし,アスピリンの眼内移行が悪いのか,薬理作用が悪いのか,いずれにせよ,有効性は得られなかった.ついでインドメタシンの点眼による臨床試験を行うこととなった.インドメタシンは水溶性が低いために,ひまし油に懸濁(東大病院薬剤部が調整)して術前にアトロピン,ミドリン点眼と併用することとした.術中縮瞳率の測定は前房深度が一定に保持できないためにむずかしく,また対象が小児であるため術後の瞳孔の癒着の程度なども含めて有効性の評価を行い,有効であるとの結果を得た.図7JAPANESEJOURNALOFOPHTHALOLOGY創刊号の表紙b.白内障術後炎症に対するインドメタシン点眼の臨床試験軟性白内障手術でのインドメタシンの有効性の結果を受けて,インドメタシン術前点眼の有用性を増田寛次郎先生の下,望月學先生と私とが薬理効果の仮説も理解できないまま担当した.インドメタシン点眼薬の実薬とプラセボーの割り付けは増田先生が行い(このため点眼瓶には.と記載されたためにマルM点眼とよばれた),術前術後の眼内炎症について細隙灯顕微鏡でのフレアとセル評価を望月先生,角膜厚測定と赤外線フィルムによる瞳孔径測定を澤が担当した.術後1週間2人で毎日これらの検査と行ったために2人とも約1年間は東京を離れたことはなかったと記憶している.この臨床研究により,三島先生の非侵襲的検査法の意義が示された.瞳孔径測定は現像したフィルムを使用してコンパレータとよばれる実体顕微鏡で測定を行う.この臨床研究は現在,内眼手術で汎用されているNSAIDs点眼の世界初の報告である.c.フルオロフォトメトリーによる臨床研究フルオレセイン内服法による角膜内皮透過性,房水産生に関する生理学的研究では,房水中へのフルオセイン漏出と希釈の時系列解析による術後炎症の評価,緑内障薬の薬理効果などに関して高瀬正彌先生,新家先生らを中心に新たな知見が得られることとなった.d.スペキュラーマイクロスコープによる臨床研究スペキュラーマイクロスコープによる角膜移植,白内障術後の角膜内皮細胞の病態生理に関しては,Mishi-ma-Hedbys法による角膜厚測定と組み合わせることにより,谷島輝雄先生を中心とする角膜グループ(木村内子,佐藤孜,矢野眞知子,澤,神鳥高世ら)により多くの新知見が報告された.■日本の眼科の育成,海外への情報発信■“JapaneseJournalofOphthalmology”(JJO)(図7)の創刊は1957年(当時の東大眼科は萩原朗教授)である.三島先生はJJO中興の祖ともいうべき存在である.先生は海外での研究生活を通して,英語で発表しない限り業績として通用しないとの信念を有しておられた.(ちなみに,当時病歴は日本語とともにドイツ語的単語と英語の混じった記載があったが,日本語と英単語で記載するように指導された)したがって,わが国の優れた邦文論文を海外に紹介する手段としてJJOを考えておられた.私どもの学位論文の多くは前述のごとく三島先生の口述を筆記し,清書してJJOに掲載することで作成されていた.また,他大学の眼科教授も三島先生の英文の口述を基にJJO掲載論文を作成し得ていた.こうした口述筆記は概ね,休日の教授室で行われており,その英文のeditingはMrs.BettyParkerが長年担当されておられた.筆者ら下っ端の医局員はMrs.Parkerから文献探し(当時はPubMedなどというものはなく,IndexMedicusという文献集が唯一であり,それらを丹念に調べる必要があった)の依頼があったり,ときに三島先生が不在のときに眼科的記載の妥当性などを尋ねられるということがあった.Mrs.Parkerは米国で新聞社勤務の経験があり,結婚後,夫君の仕事でインドでの生活経験のほか,戦後早くから日本での生活を送られ,美智子妃殿下との軽井沢でのテニスの経験などをその後伺うことができた.Mrs.Parker一家の戦後の日本の生活がテレビ番組で放映されたことがある(日眼にはそのビデオがあるのではないかと思う).私がお会いしたころはある程度,お歳を召しておられたが美人であり,若い時代の映像ではより美人であった.余談になるが,その後,三島先生没後,ご夫婦が晩年,体調不良になった折など,阪大の田野教授も受診に際していろいろ配慮してくださったことを記させていただく.三島先生はJJOの発刊がせまると(当時季刊誌),日常の多忙に加えてさらに忙しくなり,険しい顔でMrs.Parkerと教授室で取り組まれ,しばしば面会謝絶の札をかけられていた.このJJOの仕事は病院長,医学部長になられても継続されておられた.謝辞:本稿執筆の機会を賜った木下茂京都府立医科大学教授,資料の提供をいただいた相原一東大眼科教授,伊沢保穂先生,杉井杏里紗,磯部真純東大眼科秘書に深謝申し上げます.三島先生関連の文献(三島先生は教授就任以後は共著者になることをかなり控えておられた.以下は三島先生退官記念誌などからのものである.)三島先生論文リスト(抜粋)和文論文1)三島済一:家兎角膜上皮の細胞分裂について.日本眼科学会雑誌58:1678-1683,19542)三島済一:角膜に対する三文神経支配の意義について第一報.第一部.頭蓋腔内に於ける三又神経第一枝の切断法及びその後の眼変化について.日本眼科学会雑誌59:201-205,19553)三島済一:角膜に対する三叉神経支配の意義について第一報,第二部,三文神経第一枝が切断された場合の角膜創傷治癒機転について.日本眼科学会雑誌59:205-213,19554)三島済一:角膜に対する三文神経支配の意義について第二報.家兎角膜上皮の細胞分裂に対する神経の影響について.日本眼科学会雑誌59:1073-1083,19555)三島済一:角膜に対する交感神経支配の意義について;家兎角膜上皮の細胞分裂に及ぼす影響.日本眼科学会雑誌61:137-143,19576)三島済一:眼の生体顕微鏡検査に対する偏光の応用について.日本眼科学会雑誌61:461-465,19577)三島済一:偏光を用いた生体顕微鏡による健常人眼の観察其のI.角膜の所謂黒十字及び干渉色について.日本眼科学会雑誌62:38C-384,19588)三島済一:偏光を用いた生体顕微鏡による健常人眼の観察其の2.角膜の線維構造について一.日本眼科学会雑誌62:492-497,19589)三島済一:偏光を応用した眼の生体顕微鏡検査の理論その1.標準観察法と装置.臨床眼科52:926-928,195810)三島済一:偏光を応用した眼の生体顕微鏡検査の理論その2.等方性媒質の観察.臨床眼科53:140-142,195911)三島済一:偏光を応用した眼の生体顕微鏡検査の理論その3.透明な異方性結晶の薄片の観察.臨床眼科53:257-260,195912)三島済一:偏光を応用した眼の生体顕微鏡検査の理論その4.結合組織繊維の観察.臨床眼科53:364-367,195913)三島済一:偏光を用いた生体顕微鏡による健常人眼の観察其の3.角膜輪部及び結膜下組織.臨床眼科53:688-691,195914)三島済一:角膜の透過性について.眼科紀要19:1231-1240,196815)三島済一:角膜の厚さ維持の機構.眼科紀要19:1241-1249,196816)三島済一:コンタクトレンズと角膜の生理(第14回日本コンタクトレンズ学会特別講演).日本コンタクトレンズ学会誌12:138152,197017)三島済一,高瀬正弥:抗コリンエステラーゼ剤UBRETID点眼後の眼内移行と前房蛋白量変化について.臨床眼科64:406-411,197018)三島済一,服部英二,山内秀泰:生体内での角膜透過性の測定.日本眼科学会雑誌75(鹿野記念号):198-203,197119)三島済一:角膜実質の電解質量とその実質膨潤時の変化.日本眼科学会雑誌75(鹿野記念号):224-235,197120)三島済一,MauriceDM:生体内角膜内皮のフレオレスセインに対する透過性の測定法.日本眼科学会雑誌75(鹿野記念号):236-243,197121)山内秀泰,三島済一:摘出家兎角膜酸素消費速度に及ぼす5-AMP及びFADの影響.日本眼科学会雑誌75(鹿野記念号):244-251,197122)増田寛次郎,渋谷英美,三島済一:Behcet病前房水中の多核白血球滋走活性の経時的変化.臨床眼科66:734-737,197223)三島済一:試作したMicrosurgery用手術器具とその使用法について.日本眼科学会雑誌77:273-280,197324)三島済一:角膜内皮細胞層の生理と病理.日本眼科学会雑誌77:1736-1759,197325)三島済一:網膜色素変性症の臨床・病因・疫学に関する研究.厚生省特定疾患・網膜色素変性症調査研究班(班長).昭和49年度研究報告書.197526)三島済一:網膜色素変性症の臨床・病因・疫学に関する研究.厚生省特定疾患・網膜色素変性症調査研究班(班長).昭和50年度研究報告書.197627)三島済一:眼科顕微鏡手術のための器具設計について.医科器械学雑46:390-393,197628)三島済一:網膜色素変性症の臨床・病因・疫学に関する研究.厚生省特定疾患・網膜色素変性症調査研究班(班長).昭和51年度研究報告書,197729)三島済一,北澤克明,堀江武,他:PilocarpineOcusertの臨床評価ピロカルピン点眼剤との同一患者の左右眼での比較.臨床眼科72:810-815,197830)三島済一,土方清乃,伊沢保穂,他:Behcet病の視力予後免疫抑制剤の効果.厚生省特定疾患Behcet病調査研究班.昭和53年度研究業績.119-125,197831)三島済一:軟性白内障の吸引.眼科顕微鏡手術148-152,編集:三島済一,医学書院,197932)三島済一,東郁郎,相沢束,他:Pilocarpineにより眼圧調整されている高眼圧症および原発開放隅角緑内障患者に対するTimololの臨床評価.二重盲検試験による検討.臨床評価8:789-820,198033)三島済一,東郁郎,高瀬正弥:Bupranolol点,眼液による緑内障治療成績.臨床眼科74:1170-1185,198034)三島済一:角膜に関する最近の知見.眼科紀要32:13-21,198135)三島済一:角膜涙液の生理学.眼科MOOK15:22-31,金原出版,198136)江口甲一郎,三宅謙作,三島済一,他:インドメタシン油性点眼の術後炎症消炎効果二重盲検法による白内障全摘出術後の消炎効果について.日本眼科学会雑誌86:2198-2212,198237)小室優一,松元俊,白土城照,三島済一:前房内浮遊物の自動計測装置の開発.日本眼科学会雑誌89:556-561,1985英文論文1)MishimaS:Thee.ectsofthedenervationandthestimu-lationofthesympatheticandthetrigeminalnerveonthemitoticrateofthecornealepitheliumintherabbit.JpnJOphthalmol1:65-73,19572)MishimaS:Thebiomicroscopyofthehumaneyeusingpolarizedlight:Findingsinnormalcornea.JpnJOphthal-mol2:182-192,19583)MishimaS,MauriceDM:Theoilylayerofthetear.lmandevaporationfromthecornealsurface.ExpEyeRes1:39-45,19614)MishimaS,MauriceDM:Thee.ectofnormalevapora-tionontheeye.ExpEyeRes1:46-52,19615)MauriceDM,MishimaS:Evaporationfromthecornealsurface.JPhysiol155:49-50,19616)HedbysBO,MishimaS:Flowofwaterinthecornealstroma.ExpEyeRes1:262-275,19627)DohlmanCH,HedbysBO,MishimaS:Theswellingpres-sureofthecornealstroma.InvestOphthalmol1:158-162,19628)HedbysBO,MishimaS,MauriceDM:Theimbibitionpressureofthecornealstroma.ExpEyeRes2:99-111,19639)MishimaS:Somephysiologicalaspectsoftheprecornealtear.lm.ArchOphthalmol73:233-241,196510)BrownSI,MishimaS:Thee.ectofintralamellarwater-impermeablemembranesoncornealhydration.ArchOph-thalmol76:702-708,196611)HedbysBO,MishimaS:Thethickness-hydrationrela-tionshipofthecornea.ExpEyeRes5:221-228,196612)MishimaS,GassetA,KlyceSDetal:Determmationoftearvolumeandtear.ow.InvestOphthalmol5:264-276,196613)StanleyJA,MishimaS,KlyceSDJr:Invivodetermina-tionofendothelialpermeabilitytowater.InvestOphthal-mol5:371-377,196614)MishimaS,HedbysBO:Thepermeabilityofthecornealepitheliumandendotheliumtowater.ExpEyeRes6:10-32,196715)MishimaS,KudoT:InvitroincubationofrabbitcorneaInvestOphthalmol6:329-339,196716)Baum,JL,MishimaS,Borucho.A:OnthenatureofDel-len.ArchOphthalmol79:657-662,196817)MishimaS,HedbysBO:Measurementofcornealthick-nesswiththeHaagStreitpachometer.ArchOphthalmol80:710-713,196818)MishimaS,HedbysBO:Physiologyofthecornea.InternOphthalmolClinics8:527-560,196819)MishimaS,TrenberthSM:Permeabilityofthecornealendotheliumtononelectrolytes.InvestOphthalmol7:34-43,196820)TrenberthSM,MishimaS:Thee.ectofouabainontherabbitcornealendothelium.InvestOphthalmol7:44-52,196821)KayeGI,MishimaS,ColeJDetal:Studiesonthecornea.VII.E.ectsofperfusionwithaCa++-freemediumonthecornealendothelium.InvestOphthalmol7:53-66,196822)MishimaS:Cornealthickness.SurvOphthalmol13:57-96,196823)MishimaS,KayeGI,TakahashiGHetal:Thefunctionofthecornealendotheliumintheregulationofcornealhydration.THECORNEA・Amacromolecularorganizationofaconnectivetissue207-235,edt.M.E.Langham,JohnsHopkinsPress,BaltimoreandLondon,196924)FarrisRL,KubotaZ,MishimaS:Epithehaldecompensa-tionwithcornealcontactlenswear.ArchOphthalmol85:651-660,197125)MishimaS,HattoriE,YarnanouchiH:Invivodetermina-tionofthecornealpermeability.JpnJOphthalmol15:183-191,197126)TakaseM,MishimaS:Proteincontentoftheaqueoushumorofthelivingrabbit.JpnJOphthalmol16:67-76,197227)MasudaK,IzawaY,MishimaS:Prostaglandinsanduve-itis:Apreliminaryreport.JpnJOphthalmol17:166-170,197328)MasudaK,MishimaS:E.ectsofprostaglandinsonin.owandout.owoftheaqueoushumorinrabbits.JpnJOph-thalmol17:300-309,197329)OtaY,MishimaS,MauriceDM:Endothelialpermeabilityofthelivingcorneato.uorescein.InvestOphthalmol13:945-949,197430)YoshidaS,MishimaS:Apharmacokineticanalysisofthepupilresponsetotopicalpilocarpineandtropicamide.JpnJOphthalmol19:121-138,197531)MasudaK,IzawaY,MishimaS:Prostaglandinsandglau-comatocycliticcrisis.JpnJOphthalmol19:368-375,197532)NagatakiS,MishimaS:Aqueoushumordynamicsinglaucomato-cycliticcrisis.InvestOphthalmol15:365-370,197633)MishimaS:ApharmacokineticanalysisofthepupilresponsestopilocarpineandtropicamideTHESOFTCONTACTLENSES.TheSecondInternationalMedicalSymposium.edt.MishimaS.,110-ll7,197634)TamuraT,UenoK,MishimaS:E.ectsoftopicalisopro-terenolontheciliaryepitheliumofrabbiteye;anelectronmicroscopicstudy.THESTRUCTUREOFTHEEYEIII,111-118,edt.Yamada,E.andMishima,S.,PublishedbyJpnJOphthalmol197635)MishimaS,OtaY,TanishimaT:ThecornealulcersinJapan:EtiologyandManagement.TransAsia-Paci.cAcadOphthalmol6:225-229,197636)SawaM,MasudaK,MishimaS:Topicalindomethacininsoftcataractaspiration.TransAsia-Paci.cAcadOphthal-mol6:359-362,197637)TaninoT,OhbaN,MishimaS:UntersuchungenzurReti-nopathiaPigmentosa(StatistischeAnalysevonPerimeter-befunden).KlinMblAugenheilk170:808-813,197738)MishimaS,TakizawaS:Developmentinmicroscopedesigns.AdvOphthalmol37:4-10,197839)MishimaS,NagatakiS:Pharmacologyofophthalmicsolu-tions.(ConradBerensMemorialLecture)ContactIntraocu-larLensMedJ4:22-46,197840)MochizukiM,MishimaS:Theadrenergice.ectsoncyclicAMPandtensionofthesphincterpupillaeoftherabbit.DocumOphthalmolProcSeries18:353361,197941)SatoT,OtaY,KimuraCetal:Theendotheliumofthecornealgraft:Morphologicalandfunctionalaspects.DocumOphthalmolProcSeries20:73-81,197942)MishimaS,TamuraT,TakaseMetal:E.ectsofadren-ergicdrugsontheeye:Someexperimentalstudies.Glau-comaUpdate,159-168,edt.Krieglstein,G.K.andLeyd-hecker,W.,Springer・Verlag,Berlin,Heidelberg,197943)MishimaS,MasudaK:Prostaglandinsandtheeye:Areviewonclinicalimplications.MetabolPediatOphthalmol3:179-186,197944)MishimaS,MasudaK,IzawaYetal:Behcet’sdiseaseinJapan:Ophthalmologicaspects.(The8thFrederickH.Verhoe.Lecture)TransAmOphthalmolSoc77:225-279,197945)NagatakiS,MishimaS:Pharmacokineticsofinstilleddrugsinthehumaneye.InternOphthalmolClinics20:33-49,198046)AraieM,SawaM,NagatakiSetal:Aqueoushumordynamicsinmanasstudiedbyoral.uorescein.JpnJOphthalmol24:346-362,198047)MishimaS:Injuriestotheirisandcornealendotheliuminintraocularsurgeries.DevOphthalmol1:29-41,198148)MishimaS:Clinicalpharmacokineticsoftheeye.(ProctorLecture)InvestOphthalmolVisSci21:504-541,198149)MishimaS:Diagnosisandmanagementofglaucoma.(Sha-hidDr.AlimMemorialLecture)TransOphthalmolSocBang9:1-6,198150)MishimaS:Currentsurgeryforopenangleglaucoma.TransAsia-Paci.cAcadOphthalmol8:138-142.198151)MishimaS:Clinicalinvestigationsofthecornealendothe-lium.(XXXVIIIEdwardJacksonMemorialLecture)AmJOphthalmol93:1-29,198252)MishimaS:Clinicalinvestigationsonthecornealendothe-lium.Ophthalmology89:525-530,198253)MishimaS:Oculare.ectsofbeta-adrenergicagents.(XIIJulesSteinLecture)SurvOphthalmol27:187-208,198254)MishimaS:Biomicroscopyusingpolarizedlight.(Castro-viejoLecture)Cornea1:187-194,198255)ShiratoS,KitazawaY,MishimaS:Acriticalanalysisofthetrabeculectomyresultsbyaprospectivefollow-updesign.Jpn.J.Ophthalmol26:468480,198256)MishimaS:Treatmentofopen-angleglaucoma.TransAsia-Paci.cAcadOphthalmol9:139-146,198357)MishimaS,TakaseM,AraieMetal:Beta-adrenergicagonistsandantagonists:Clinicalpharmacokinetics.Glau-comaUpdateII.1114,edt.KrieglsteinGKandLeydheck-erW,Springer-Verlag,198358)MauriceDM,MishimaS:Ocularpharmacokinetics.Phar-macologyoftheEye:HandbookofExperimentalPharma-cology69:19-116,edt.Sears,M.L.,Springer-Verlag,Ber-lin,Heidelberg,198459)MishimaS:Cornealendotheliumandpenetratingkerato-plasty.EyeScience2:12-15,1986.三島濟一先生の思い出松元俊(東京逓信病院眼科部長)はじめに三島済一東京大学名誉教授の教えおよびその人となりについて私の経験したことを中心に記載する.まず,三島「さいいち」の名前の表記であるが,通常は「済」の字を使っておられたのだが,文献によっては「濟」の字が使われている1).正式には後者のようだが,生前にご本人にお聞きしたところ,「『済』でよい」とのことであった.ワープロの漢字変換機能が不十分だった頃のことなので,実利を取られたのだろうが,陋習に囚われない合理的な考えの持ち主であった.先生の業績は一冊の本では書ききれないほど多く,その分野も多岐にわたっているので,ここでは,合理的思考を彷彿とさせる,英語論文と眼科手術の開発について紹介したい.■英.語.論.文■“JapaneseJournalofOphthalmology”(JJO)は1957年に萩原朗教授が創刊した2)わが国唯一の英文眼科雑誌であるが,この編集は歴代の東大眼科教授に引き継がれ,三島先生も1971.1992年の教授在職中に編集長の任に当たっていた.当時,BettyParker女史が英語表現の手助けをしていたが,三島先生自身も英語に堪能で,掲載が決まった論文の英文を著者と膝を交えて修正する光景が良く見られた.これは大学眼科教授が著者であっても例外ではなく,教授室で面談しては投稿時の英文を容赦なく修正していた.その意図は,「せっかく内容の高い論文なので,英文表現の問題で評価が低くなることは何としてでも避けたい」というものであったのだろう.もちろん東大眼科教室員に対してはもっと厳しく,一応英文で原稿を書いて持って行っても,「ディクテーション」の一言で英文の口述筆記となり,論文の構成から表現まで根底から手直しされるのが常であった.外国語で論文を一から口述できるということは,相当論理的思考能力が高いということである.私が論文を書き始めたころは,三島先生は日本語の論文は校閲しなかったので,英語論文の「ディクテーション」を通じて論文の書き方を学ぶことになった.このようにして日本全国の眼科研究者に英文での論文発表を啓発していった結果,次第にJJOに国内から投稿される論文が増加し,事務局を務めていた東大眼科の作業量はどんどん増加していった.昭和55年頃は,送られてくる原稿は英文タイプがようやく主流になっていたが,中にはタイプはされているもののダブルスペースで打たれていないものや手書きのものもあり,編集作業にあたって,英文タイプをダブルスペースで打ち直すこともあった.編集作業が膨大になってきたため,当時としては最新鋭のIBMのワードプロセッサを導入した.今のようにハードディスクが発達していなかったので,8インチの巨大なフロッピーディスクを出し入れして作業を行った.現在からみると非常に旧式で巨大な装置であったが,それまではダブルスペースで行間を広く取った余白に修正文を赤ペンで書き込んで,最終稿ができたらそれをまたタイプライターで打ち直してから印刷所へ送っていたので,編集作業は格段に楽になった.当時数百万円はしたであろうと噂されていたが,明確な目的の下に高額な投資を行って成功に導くという手法は論理的思考力に優れていなければできなかったであろう.編集長の努力と厳格な査読により,JJOの国際的な評価は高くなり,三島編集長時代に“ExcerptaMedica”の選ぶ「世界の主要眼科雑誌12」の一つに数えられるようになった.このように三島先生は日本から質の高い論文を発信することを追及した一方,当時,わが国の一部に根強く残っていた「論文は質より量」という考え方には批判的で,「医学論文には,世の中の役に立つ論文(薬のようなもの),害を与える論文(毒のようなもの),毒にも薬にもならない論文の3種類がある.毒にも薬にもならない論文が一番悪い.だから,そんな論文は書くな」と医局員を指導していた.■眼科顕微鏡手術発展への貢献■三島先生は「研究の人」というイメージが強いが,実は臨床にも関心が高かった.しかし,そのアプローチの方法は少し常人と違っていて,手術に関していえば大向こうをうならせるような名人芸の手術はめざしていなかったようである.それよりも「誰がやっても必ずうまくいく」眼科手術を追及しており,そのための周辺機器の開発や,周術期の眼生理や眼薬理も研究していた.その基本的なシステムとして眼科顕微鏡手術には早くから取り組んでおり,1970年には,杉田慎一郎,永田誠,林文彦,湖崎弘,小暮文雄の5名とともに世話人となり「眼科顕微鏡手術の会」を組織した.この会はclosedの会であったため,後に発展解消して日本眼科手術学会となる.第7回日本眼科手術学会は那覇で行われたが,このときの特別講演を三島先生が担当し,「手術と眼組織反応」というタイトルで,単なる手術方法や技術を論じるだけでなく,基礎的な問題も学問的裏付けをもって研究し,その結果手術を成功に導くという,その後の眼科手術学会の方向性を示した3).現代眼科手術の基本である眼科手術用顕微鏡は,当時カールツァイス社が先行して開発を行っていたが,体格の小さな日本人には使いにくいものであった.そこで,トプコンと共同で日本人の体格に合った眼科手術用顕微鏡を開発したことは別項で澤充氏が詳しく述べている.当時の眼科顕微鏡手術の会のメンバーは,単に顕微鏡手術に習熟するだけでなく,顕微鏡下でも使いやすい手術器具の開発も盛んに行っていた.三島先生も顕微鏡手術に特化した手術器具をいくつか開発しており,その名称には「三島式○○」と冠名がついている(図1).顕23図1三島式顕微鏡手術用器具1.三島式スパーテル,2.三島式モスキート開瞼器,3.三島式角膜剪刀,4.三島式角膜鑷子,5.三島式結膜鑷子.(株式会社イナミ手術器械総合カタログ1998年版より引用改変)微鏡手術以前は外科で用いるような大きな器具が用いられていたが,顕微鏡下の狭いワーキングディスタンスではともすれば顕微鏡と接触して不潔になる.そこで,顕微鏡下でも邪魔にならないように器具を小型化しただけでなく,人間工学を応用して狭いスペースでも自由に動かせる器具を開発したのである.これらの成果や手術術式の改良によって,隣で肉眼での白内障手術が5分で終わるのを横目に見ながら2時間もかかって黙々と行っていた創成期の顕微鏡下白内障手術は,現在みられるような安全で確実な手術に変貌したのである.もちろん,これらの器具を正しく使えないようでは安全確実な手術はできない.手術台と術者の椅子の高さの調整,顕微鏡の視度調整,術者の肘当の調整,鑷子類の持ち方など,手術で最高のパフォーマンスを発揮するために細かく医局員を指導していたことも忘れてはならない.おわりにこれまで紹介したような三島先生の多彩な研究活動を支えていた才能はなんだったのであろうか.しいてあげるとすれば,理科系特有の論理的思考力と良いものは慣習にとらわれずにどんどん取り入れる合理性が根幹にあったと思われる.しかし,論理や合理の「理」一辺倒ではなく情を大切にする一面もあった.一例をあげれば,当時教室員とその家族を対象にして年に一度行われていた「ガーデンパーティー」が思い浮ぶ.これは,留学時代に欧米の研究者が家族ぐるみでホームパーティーに呼び合うのを経験して,帰国後も日本でこんなパーティーができないかなと考えたが,日本の住宅事情では多くの教室員やその家族を呼ぶことはできない.そこで,ご自宅近くの小金井公園で開催することを思いつかれたようである.好天に恵まれれば広々とした公園で持ち寄った料理を皆で食べ,普段はお会いできない先輩教室員のご家族とも知り合えて有意義な会であった.当日は三島先生ご夫妻が七面鳥を準備するのが慣例となっており,教授自ら参加者ににこにこしながら取り分けておられたのを思い出す.教室員の家族,とくに夫人への気配りは大変なもので,当時の教室員の奥さんは三島ファンが多かった.古き良き時代の公私ともに尊敬できる上司であった.文献1)鉄門倶楽部名簿2015年版2)MishimaS:ThehistoryofophthalmologyinJapan.Thehistoryofophthalmology:Themonographs,vol10,Way-enborghJP,Belgium,20043)日本眼科学会百周年記念誌編纂委員会編:日本眼科の歴史3昭和(後)平成編,日本眼科学会,1997☆☆☆

総説:糖尿病網膜症-診断・治療の新しいアプローチ(網膜血管検査法を中心に)

2017年1月31日 火曜日

あたらしい眼科34(1):49.56,2017c第21回日本糖尿病眼学会総会特別講演糖尿病網膜症─診断・治療の新しいアプローチ(網膜血管検査法を中心に)NewApproachesforDiagnosingandTreatingDiabeticRetinopathy(FocusonRetinalVascularImaging)寺﨑浩子*はじめに糖尿病網膜症は依然としてわが国の主要な中途失明の原因である.しかしながら,その診断・治療には最近新しい動きがみられる.誌面の関係で,ここでは網膜血管検査法の進歩を中心に述べる.I超広角眼底カメラと蛍光眼底造影糖尿病網膜症の診断や経過観察には,眼底カメラによる眼底写真やフルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)が行われてきた.近年,超広角眼底カメラによる眼底撮影ならびに蛍光眼底造影を用いて,眼底全体の無灌流領域などを一度に記録できるようになり,とくに本疾患においてその有益性が取り上げられている(図1).米国では,1980年代から「糖尿病網膜症の早期治療の研究」(EarlyTreatmentDiabeticReti-nopathyStudy:ETDRS)が始まり,今もいろいろなStudyが引き続き行われているが,これらの治験において使われる7枚の眼底写真で評価される領域が眼底の30%程度であるのに対し,この超広角眼底カメラでは,一度に80%以上の眼底が撮影される(図2).その有用性と糖尿病網膜症の評価の意義について,米国ジョスリン糖尿病センター(JoslinDiabetesCenter)の研究グループは,従来のETDRSで使用したのと同等の眼底カメラと,超広角眼底カメラを比較して,103人の糖尿病患者を対象に網膜症の重症度を判定する研究を行った1).その結果,超広角眼底カメラによる撮影と眼底カメラでは20%に相違があり,出血などの眼底病変の3分の1は眼底カメラ検査の撮影部位より周辺の病変図1超広角眼底カメラによる周辺部の広範な無血管領域の描出図2画角200°超広角眼底撮影7つの輪で囲まれた領域は,ETDRSで,ステージ判定のために用いられる30°眼底カメラ撮影7枚の範囲.*HirokoTerasaki:名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座〔別刷請求先〕寺﨑浩子:466-8550名古屋市昭和区鶴舞町65名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(49)49abcNPA=5.2DAb/a=1.29cNPA=121DAb/a=0.625c1.81.61.41.210.80.60.40.20補正無灌流領域(cNPA)であり,10%の患者でカメラでの分類より網膜症のレベルが重症であったことがわかった.さらに前向き観察研究検査を行ったところ,網膜周辺の病変が認められていた人では,4年後の判定で,網膜症が進行するリスクが約3.2倍も高かったことがわかった.さらに進行した状態である「増殖性網膜症」となるリスクは4.7倍高かった2).進行の背景として,超広角眼底カメラを用いて捉えた周辺部分の所見は,網膜周辺部の無灌流領域の存在と関連があり,より進行した網膜症を示している可能性に注意すべきことを示唆している3).筆者らは,以前,術中内視鏡を用いた蛍光眼底造影を用いて鋸状縁を含む網膜周辺部の蛍光眼底造影を行い,b/a比050100150200250図3OptosRFAの無灌流領域の定量とERGの関係OptosRを用いた蛍光眼底造影において円内の無灌流領域を青色で示し,既報(文献6)に従い,補正した無灌流領域(cNPA)を乳頭面積で示した.a:66歳,男性.RV=(0.5).黄斑浮腫のために視力低下あり.cNPAはわずかで,ERGでは律動様小波の減弱がある.b:54歳,男性.RV=(1.0).虚血領域は広くERGは陰性型を示している.c:OptosRを用いた蛍光眼底造影と,白色閃光ERGを同日に施行した未治療の糖尿病網膜症14例14眼をretorospec-tiveに調べた.無灌流領域(NPA)の面積をImageJを用いて計測し,面積を既報に従い補正し(cNPA),cNPA面積の合計と,b/a比の関係を検討した.増殖糖尿病網膜症においては最周辺部眼底の評価が重要であることを強調し,とくに虹彩新生血管が発生するような症例においては,鋸状縁の微小血管の透過性亢進がみられると報告した4,5).画像診断で判定された虚血領域が,実際,網膜全体の虚血を示すと考えられる網膜電図にどの程度反映されているかを調べるために,超広角眼底カメラOptosRで撮影した蛍光眼底造影120°範囲の無灌流領域(既報6)によりImageJにより測定した面積を補正)と白色閃光網膜電図(ERG)を比較検討したところ,14症例の無灌流域(0.13.22.8乳頭面積で平均8.53±8.05乳頭面積)は,ERG最大応答のb/a比(0.63.1.33で平均1.09±0.24)と有意に相関していた(p=0.041,r=.0.56,Spear-man’sranktest)(図3).相関は中等度であるが,このII光干渉断層計血管撮影(OCTangiography)範囲であれば,網膜全体の虚血を代表していると考えて血管内の輝度変化を捉えて血管を認識するOCTangi-よいかもしれない.ography(OCTA)は,急速に普及の傾向がみられるabSuper.cialLayerDeepLayerFAcSuper.cialLayerDeepLayerFA図4増殖糖尿病網膜症の画像所見a:33歳,男性.増殖糖尿病網膜症にて右眼手術予定.視力右眼0.6,左眼1.0.OCTangiographyによる黄斑部3×3mmの撮影画像.b:右眼.c:左眼.FAOCTA深層FA・OCTA両方で写るMA1個FAのみorOCTAのみで写るMA4個図5FAとOCTAで毛細血管瘤の検出を比較HealthyMildNPDRSevereNPDRPDR図6解析ソフトを用いた病期別の血管解析SD-OCTangiographyによる糖尿病網膜症の定量評価.上段:最初に出力されるOCTangiography.中段:これを二値化した画像.下段:血管をスケルトン化,つまり血管の太さの要素を排除してすべての血管を1本の線として表現した画像.上段,中段,下段,どの方式の画像によっても網膜症の進行により毛細血管の減少,FAZの拡大が明瞭である.上段の黄色のリングは二値化のために直径50ピクセルでFAZ内を3回マニュアルでピックアップした部分を示す.(文献7より許可を得て転載引用)図7PanoramicOCTangiographyとOptosRとの比較(49歳,男性.視力0.3)a:6×6mm9枚の合成によるpanoramicOCTangiograpy.b:現在のところでは依然として限られた範囲であることがわかる.OCTによる新しい血管検査手法であり,FAとの所見と比較していくことで,その特徴が捉えられる.さらに,OCTAでは,網膜脈絡膜血管を層別に解析できるため,網膜浅層血管網,深層血管網,脈絡膜血管と分離して糖尿病網膜症の血管変化を捉えることができ,新たな病態の解明に役立つことが期待される.糖尿病網膜症の黄斑部において,中心窩無血管野(fovealavascularzone:FAZ)の観察は,従来の蛍光眼底造影よりもクリアであり(図4).網膜浅層血管網よりも網膜深層血管網のほうに障害が強いという報告がある7).黄斑浮腫症例において,毛細血管瘤は,網膜深層血管網に多いと報告されている8).実際,FAで見られた毛細血管瘤をOCTAで比較検出してみると,網膜浅層血管網では,両方で見つかるもののほかに,どちらかでしか見つからないものがある.網膜深層血管網においては,OCTAだけで明らかになる毛細血管瘤もあり,FAとどちらが優れているとはいいがたい(図5).概して,FAのみで見つかる毛細血管瘤のサイズは小さい.OCTAは,定量的血管解析のためのソフトウエアも整備されつつあり,網膜血管層別の血管密度や,総血管長などを用いた糖尿病網膜症の病期比較などが報告され,疾患解析に役立つツールとして利用できようになってきている9)(図6).さらに,現在の観察範囲は3.6mm四方であり,黄斑部付近の毛細血管瘤,無灌流領域の観察が主であるが,筆者らはパノラマ方式に6mmの画像を合成することを行っており(図7),今後,自動的に画像合成が行われるようソフトが搭載される機種もあり,超広角蛍光眼底とまではいかないが,臨床において造影の代わりとなる場面も想定されるほどの存在価値が示唆される.新生血管において漏出がわかりにくいという点においては,網膜表面の内境界膜とそれより硝子体側数十ミクロンを選択する切片(硝子体網膜境界面モード)を用いることにより,網膜より突き出た─すなわち新生血管を見事に描出することもできる(図8).III補償光学を用いた細胞レベルの詳細な眼底検査の可能性補償光学は,天体観察の分野で開発された揺らぎによる画像のぼやけを取り除く電子鏡の装置である.補償光学を眼底カメラにつけた装置は市販されており,眼底中央部の4°四方を錐体視細胞のレベルまで撮影することができる(図9).何枚も合成すれば範囲を広げることができ,視細胞の解析には有用なツールである10,11).また,走査レーザー検眼鏡に取り付けた研究用装置では,さらに1枚の観察視野が狭いものの,より鮮明な眼底画像を撮影することができ,とくに直接反射光を一部遮って輪郭をシャープにするo.-setapertureモードで血管撮影を行った場合,中小血管の血管壁(図10)や新生血管(図11),血管内を流れる血流(図12)が観察できた.Vitreo-RetinalInterfaceenfacemodeRetinalmode図8Vitreo.retinalinterfacemodeによる網膜新生血管の描出33歳,男性.視力0.8乳頭上に増殖膜,下方に硝子体出血を認める.OCTangiographyに比較し,血管像は鮮明であるが,眼底カメラでは画角4°四方と,長さでいうと1mm四方にも満たなく,走査レーザー検眼鏡では画角2°程度と,さらに一度に写す撮影範囲が狭いため,ある一定の範囲の解析には莫大な時間と手間を要することが欠点である.水晶体の混濁や眼内レンズでは画像が得られないことから,糖尿病網膜症への臨床使用は,当面は年齢の若い有水晶体眼に限られるであろう.図9補償光学を用いた眼底カメラによる正常者の画角4°四方の眼底画像40枚の画像の合成である.中心窩(星マーク)に近い画像の拡大(右黄色枠)では,遠い方(青色枠)に比べ,錐体細胞密度が高い.図1044歳,男性.高血圧眼底直径100μm以下の動脈の画像では血管径の不整,壁の肥厚と不整がみられる.血管の周囲にみられる線状の画像は網膜神経線維層.左上は26歳,女性.正常者の血管壁.IVレーザースペックルフローグラフィ眼循環研究の重要なターゲットである糖尿病網膜症の研究では,レーザースペックルフローグラフィ(laserspeckle.owgraphy:LSFG)により,眼循環の評価が一般臨床で簡単に比較的安定してできるようになったことから,今後の成果集積が期待されている.LSFGの原理は,血管に当てられたレーザー光に対して生じたスペックルノイズを解析して血流を測定するもので,血流速度の相当する値をはじめとして,多くのパラメータが解析可能で,血管評価の指標となる.測定時間は5分程度であり,患者への負担が少ないのも特徴である.以前から緑内障分野では視神経乳頭血流の測定に用いられていたが,眼底の測定位置を一定にするアイトラッキング機能が充実し,正確に,また時間や日を変えて比較することができるようになったことで,網膜の分野で盛んに使われるようになった.ただし,眼循環には男女差10),日内変動や血圧による変動13)などの因子があるため,解析には注意を要する.脈絡膜血流についても評価が可能であり,今後,網膜症の進行程度やレーザー光凝固の影響などの解析が進められる(図13).血管内の循環を示すLSFGと血管そのものを映し出す補償光図1133歳,女性.増殖糖尿病網膜症視神経乳頭周囲の乳頭新生血管の一部を四角で囲った.正常眼図12図11と同一部分の補償光学眼底写真a:血管壁と血管腔が観察される.b:さらにその中の上方1/3を拡大したもの.動画では血球が流れているのが観察される(これは静止画).糖尿病網膜症眼網膜血流低下脈絡膜血流著明低下図13レーザースペックルフローグラフィによる眼循環測定寒色になるほど血流は低下している.学眼底カメラでは,動脈において異なる血管像を示すことから14),LSFGでは血管内においても,血流速度の部位による違いを詳細に観察できている可能性があると考えられた.利益相反:寺﨑浩子(カテゴリーP,カテゴリーF:株式会社ニデック)文献1)SilvaPS,CavalleranoJD,SunJKetal:Peripherallesionsidenti.edbymydriaticultrawide.eldimaging:distribu-tionandpotentialimpactondiabeticretinopathyseverity.Ophthalmology120:2587-2595,20132)SilvaPS,CavalleranoJD,HaddadNMetal:Peripherallesionsidenti.edonultrawide.eldimagingpredictincreasedriskofdiabeticretinopathyprogressionover4years.Ophthalmology122:949-956,20153)SilvaPS,DelaCruzAJ,LedesmaMGetal:Diabeticreti-nopathyseverityandperipherallesionsareassociatedwithnonperfusiononultrawide.eldangiography.Oph-thalmology122:2465-2472,20154)TerasakiH,MiyakeY,AwayaS:Fluoresceinangiogra-phyofperipheralretinaandparsplanaduringvitrectomyforproliferativediabeticretinopathy.AmJOphthalmol123:370-376,19975)TerasakiH,MiyakeY,MoriMetal:Fluoresceinangiog-raphyofextremeperipheralretinaandrubeosisiridisinproliferativediabeticretinopathy.Retina19:302-308,19996)OishiA,HidakaJ,YoshimuraN:Quanti.cationoftheimageobtainedwithawide-.eldscanningophthalmo-scope.InvestOphthalmolVisSci55:2424-2431,20147)IshibazawaA,NagaokaT,TakahashiAetal:Aopticalcoherencetomographyangiographyindiabeticretinopa-thy:Aprospectivepilotstudy.AmJOphthalmol160:35-44,20158)HasegawaN,NozakiM,TakaseNetal:Newinsightsintomicroaneurysmsinthedeepcapillaryplexusdetectedbyopticalcoherencetomographyangiographyindiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci57:348-355,20169)KimAY,ChuZ,ShahidzadehAetal:Quantifyingmicro-vasculardensityandmorphologyindiabeticretinopathyusingspectral-domainopticalcoherencetomographyangi-ography.InvestOphthalmolVisSci57:362-370,201610)NakanishiA,UenoS,KawanoKetal:Pathologicchangesofconephotoreceptorsineyeswithoccultmaculardys-trophy.InvestOphthalmolVisSci56:7243-7249,201511)UenoS,KawanoK,ItoYetal:Near-infraredre.edtanceimagingineyeswithacutezonaloccultouterretinopathy.Retina35:1521-1530,201512)YanagidaK,IwaseT,YamamotoKetal:Sex-relateddi.erencesinocularblood.owofhealthysubjectsusinglaserspeckle.owgraphy.InvestOphthalmolVisSci56:4880-4890,201513)IwaseT,YamamotoK,RaEetal:Diurnalvariationsinblood.owatopticnerveheadandchoroidinhealthyeyes:diurnalvariationsinblood.ow.Medicine(Baltimore)94:e519,201514)IwaseT,RaE,YamamotoKetal:Di.erencesofretinalblood.owbetweenarteriesandveinsdeterminedbylaserspeckle.owgraphyinhealthysubjects.Medicine(Baltimore)94:e1256,2015☆☆☆

次世代MIGS-脈絡膜上腔からの流出をめざすタイプ

2017年1月31日 火曜日

次世代MIGS─脈絡膜上腔からの流出をめざすタイプMIGSNextGeneration─GDDsTargetingSuprachoroidalDrainageRoute谷戸正樹*I脈絡膜上腔をターゲットとした眼圧下降手術眼圧下降を目的として行われる手術は,房水排出促進を目的とする術式と房水産生抑制を目的とする術式(毛様体破壊術など)に大別される.前者はさらに,結膜下やTenon.下への房水濾過を目的とする手術(トラベクレクトミーなど)と経Schlemm管房水流出促進を目的とする術式(トラベクロトミーなど)に分類され,これまで施行されてきた.わが国において認可されているエクスプレスシャント,バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブといったglaucomadrainagedevice(GDD)は,すべて房水濾過を目的としたGDDである.これら従来の術式とは異なる,ぶどう膜・強膜経路(脈絡膜上腔)からの房水流出促進を目的としたGDDが,米国・欧州を中心に開発されている.サル眼を用いた検討で,前房内圧(眼圧15mmHg)と比較して,前部の脈絡膜上腔は0.8mmHg,後部の脈絡膜上腔は3.7mmHg低圧であり,眼圧の上昇とともに,前房内と脈絡膜上腔の圧格差が拡大することが示されている1).脈絡膜上腔をターゲットとする術式では,前房と脈絡膜上腔をバイパスする位置(虹彩根部)にGDDが移植され,前房と脈絡膜上腔の圧格差により房水が脈絡膜上腔に誘導されることで眼圧下降が図られる.脈絡膜上腔から経強膜的な結膜下への濾過効果についても議論されている2)が,臨床的に検出可能な濾過胞表1脈絡膜上腔からの房水流出を目的としたGDDの特徴・濾過胞に依存しない眼圧下降が期待できる濾過胞関連合併症がない過剰濾過少ない?濾過手術不成功例でも効果が期待できる?・チューブ型のGDDでは低侵襲手術が可能・新規手術であるため効果・合併症に関して不明眼圧下降効果適応疾患持続性長期安全性は形成されないため,濾過胞に依存する手術と比較して,過剰濾過や術後感染の頻度が少ないなどの利点が期待される(表1).これらのGDDによる手術は,従来の緑内障手術と比較して眼球への侵襲を軽減することを目的とする場合が多く,より早期の緑内障への適応,あるいは薬物治療の代替手段としての適否についても議論されている.しかしながら,国外においても,医療材料として認可されているGDDは少なく,多くは治験段階であるため,今後の臨床成績の蓄積が待たれる.脈絡膜上腔をターゲットとしたGDDは,さらに,チューブ形状のGDDとプレート形状のGDDに大別される.チューブ形状のGDDは,前房側から移植(abinterno)されるが,プレート形状のGDDは強膜フラップを作製して移植される(abexterno)ため,前者のほうが後者より眼への侵襲は少ない.*MasakiTanito:松江赤十字病院眼科〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒690-8506島根県松江市母衣200松江赤十字病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(45)45図1CyPassと10セント硬貨の比較(TranscendMedical社のホームページより転載引用)図2CyPassが留置される場所の模式図(TranscendMedical社のホームページより転載引用)図3iStentSupraの外観(GlaukosCo.より提供)~脈絡膜上腔側前房側図4SOLXGoldShuntの外観(SOLXInc.より提供)図5SOLXGoldShuntが留置される場所の模式図(SOLXInc.より提供)図6眼内に留置されたSOLXGoldShunt(.)図7前眼部OCTによるSOLXGoldShuntの観察図8STAR.oと1ユーロセント硬貨の比較(iSTARMedicalSAより提供)

次世代MIGS-Schlemm管からの流出をめざすタイプ

2017年1月31日 火曜日

次世代MIGS─Schlemm管からの流出をめざすタイプNext-GenerationMIGS─TargetingAqueousOutflowfromSchlemm’sCanal小野岳志*結城賢弥**はじめに今まで緑内障手術は,線維柱帯切開術に代表される流出路再建術と線維柱帯切除術に代表される濾過手術が一般的であった.流出路再建術は濾過手術に比べ重篤な合併症が少ない反面,濾過手術より眼圧下降効果は劣り,眼圧を10mmHg台前半など低めに維持したい場合などは濾過手術を選択することが一般的である.流出路再建術の適応疾患もわが国ではステロイド緑内障,発達緑内障,落屑緑内障および中期までの原発開放隅角緑内障といわれているが,海外においては発達緑内障に対する手術という印象が強かった.近年,緑内障手術においても小切開から施行される低侵襲な手術が注目されてきており,MIGS(minimallyinvasiveglaucomasurgery)という概念が定着してきている.MIGSの報告としては,濾過手術のタイプや上脈絡膜腔に房水を流出させるタイプがあるが,Schlemm管からの流出にターゲットを置くものが多い.また,MIGSは簡便さから白内障手術と同時に施行できることも魅力の一つとして考えられている.今後は,適応症例の拡大,手術施行時期の早期化なども期待されている.MIGSは房水流出先で分類される(表1).まず,濾過手術系としてXEN,Schlemm管からの流出をめざすタイプとして360-degreesuturetrabeculotomyabinter-no(S-LOTabinterno:線維柱帯切開術眼内法),microhookabinternotrabeculotomy(μLOT),Trabec-tome,iStent,abinternocanaloplasty(AbiC),HydrusMicrostent,KahookDualBlade,エキシマレーザートラベクロトミー(excimerlasertrabeculotomy:ELT),TRAB360,VISCO360などがあり,上脈絡膜腔からの流出をめざすタイプとしてiStentsupra,CyPassMicro-Stentなどがある.Trabectome,iStentについては別項に詳しく記載してあるので,本稿ではそれ以外のSchlemm管からの流出をめざすタイプに関して,最近の発展も含めて検討してみた.IS.LOTabinterno(GATT)強膜弁を作製し線維柱帯を全周切開する方法は,S-LOTabexternoとして1995年にBeckらが発達緑内障に施行したとして報告された1).その後2012年にChinらが成人の開放隅角緑内障(open-angleglauco-ma:OAG)に対するmodi.ed360-degreesuturetra-beculotomy(S-LOTabexterno北大変法)を報告した2).OAG43眼にS-LOT,対照群としてOAG35眼にLOT(trabeculotomy:線維柱帯切開術)を施行し,術前眼圧はS-LOT群27.8±12.2mmHg,LOT群25.8±9.9mmHgで,術後1年ではS-LOT群13.1±2.9mmHg,LOT群15.2±4.2mmHgであった.術後1年で眼圧が術前より30%以上低下し18mmHg以下に維持できた割合は,原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglau-coma:POAG)ではS-LOT群84%,LOT群31%,続発開放隅角緑内障(secondaryopen-angleglaucoma:SOAG)ではS-LOT群89%,LOT群50%とS-LOT群*TakeshiOno:JCHO埼玉メディカルセンター眼科/慶應義塾大学医学部眼科学教室**KenyaYuki:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕小野岳志:〒330-0074埼玉県さいたま市浦和区北浦和4-9-3JCHO埼玉メディカルセンター眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(37)37表1MIGSの分類手術アプローチ術式房水流出先abinternoXEN結膜下iStentsupraCyPassMicro-Stent上脈絡膜腔trabeculotomyabinterno(S-LOTabinterno)microhookabinternotrabeculotomy(μLOT)TrabectomeiStentMicro-BypassStentabinternocanaloplasty(AbiC)HydrusMicrostentKahookDualBladeエキシマレーザートラベクロトミー(excimerlasertrabeculotomy:ELT)TRAB360VISCO360Schlemm管図1360.degreesuturetrabeculotomyabinterno隅角手術用の柄付きのプリズムレンズを使用.耳側に角膜切開を作製しアプローチする.写真はa,bともにゴニオプリズムレンズにて直視下で見た鼻側の隅角写真.a:耳側角膜に切開創を作製し,前房内を粘弾性物質にて置換する.27G鋭針にて線維柱帯を一部切開し,切開部からSchlemm管内に粘弾性物質を注入し,拡張する.写真は熱加工した5-0ナイロン糸を前.鑷子で把持しながらSchlemm管内に糸の先端を挿入しているところである.b:360°全周通糸すると,対側のSchlemm管からナイロン糸が出てくる.写真は360°通糸できた糸を前.鑷子で把持するところである.その後糸を把持し眼外に引き出しながら線維柱帯を全周切開する.図2μLOTに使用するマイクロフック図3Microhookabinternotrabeculotomyシンスキーフック(Inami社)の先端を尖ら写真は隅角手術用の柄付きのプリズムレンズを使用し,耳せたマイクロフックを使用する.側からのアプローチで,フックにて鼻側の線維柱帯を切開(文献8より転載引用)しているところである.図4Canaloplasty不成功症例に対する眼内アプローチ以前のcanaloplastyで留置されていた縫合糸を前房内アプローチにより12時で鑷子にて把持し引き出すことで線維柱帯を切開している.(文献12より転載引用)図5HydrusMicrostent全長8mmでSchlemm管を広げるための骨格(7mm)と線維柱帯を貫き前房とを結ぶ入り口(1mm)からなっている.(文献15より転載引用)WashOut後の平均眼圧29272523211917図8KahookDualBlade15Abinternotrabeculectomyに使用するDualBradeDevice.CS(文献18より転載引用)Hydrus+CS図7術前後の眼圧変化の比較(文献16より改変引用)眼圧(mmHg)図6Schlemm管内に留置されたHydrusMicrostent全長8mmで7mmはSchlemm管内腔内に留置され,1mmは前房内に出ている.(文献16より転載引用)図9KahookDualBladeの先端拡大図*が先端で線維柱帯とSchlemm管内壁を一部切開する.矢印は両端の2枚刃を示し,それにより線維柱帯とSchlemm管内壁を切除する.(文献17より転載引用)レーザー虹彩図10前房内のエキシマレーザープローブ(組織学的画像)(文献19より転載引用)瞳孔図11ELTのレーザー照射後ELT成功時の逆流性出血と気泡形成を示している.(文献20より転載引用)図12TRAB360(http://sightsciences.com/us/trab.phpより転載引用)’’—

次世代MIGS-濾過手術の改良タイプ

2017年1月31日 火曜日

次世代MIGS─濾過手術の改良タイプNewly-ImprovedAqueousDrainageDeviceforFiltrationSurgery藤代貴志*はじめに近年,MIGSとよばれる低侵襲の緑内障手術が話題となっており,とくに海外ではさまざまなデバイスの開発が進められている.緑内障手術のゴールドスタンダードは依然として濾過手術すなわちトラベクレクトミーであるが,とくにMIGS系の手術は白内障との同時手術で,安全に簡便に行えることから注目を集めており,流出路再建術をターゲットとしているものが多い.流出路再建をターゲットとするiStentは,これまでの稿で述べられてきているので,海外で使用・報告をされている濾過手術の改良タイプを紹介する.濾過手術は,濾過胞により眼圧下降をめざすもので,デバイスを用いて手術を行うものは,現在わが国では,アルコン社のEX-PRESSが代表的かつ唯一のデバイスである.海外においては,これから述べる2社から2つの製品が開発,使用されている.インフォーカス社のMicroShuntとアラガン社のXENGelStentである.2016年11月時点では,日本において使用できるものはなく,海外において開発,使用中のため,今後の技術進歩やパイロットスタディの結果,製品の概要が変更される可能性が高いことなどはご了承いただきたい.Iインフォーカス社MicroShunt1.使用基準緑内障の初期から後期までどの病期においても使用可能なデバイスであり,病型は原発開放隅角緑内障であれば,手術の適応であるとされている.手術は,緑内障の単独手術でも,白内障手術との併術でもよいデバイスである.手術時間は,術式が簡便なため短時間で行え,トラベクレクトミーと類似の濾過胞を作製する手術方式をとるので眼圧下降が得られやすいというメリットがある.2.基本構造MicroShuntの写真を図1に示す.長さは8.5mmで,内腔の直径は0.07mmのチューブ状の構造物であり,中心付近に1mm程度の羽根状の突起物がある.素材はpolystyrene-block-isobutylene-block-styrene(SIBS)という化合物でできている.MicroShuntはSIBSで100%構成されているデバイスである.SIBSは,循環器科の領域では13年間の生体内への留置で問題がないことが確認され,眼科領域においても7年間の留置で問題がないことが確認されており,安全性の確認がすでにとれている素材である.MicroShuntは眼圧が5mmHg以上あれば持続的な房水の流出を維持できるとされ,流出量は2μl/分である1).3.手術方法基本的な手術方法はアルコン社のEX-PRESSの挿入の方法に似ているが,一部異なるところもあるので,手術の手順を解説する(図2).1.麻酔を結膜下へ注射する.*TakashiFujishiro:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学〔別刷請求先〕藤代貴志:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(29)29a12345678図2手術の模式図(文献3より転載引用)図1MicroShunta:写真.b:眼球に留置した模式図.眼球の外の先端は結膜下に留置され,眼球内の先端は,線維柱帯を貫通して留置している.(文献3より転載引用)IntraocularPressure(mmHg)35.030.025.020.015.010.05.00.0N=914914914914914914914914914913913TimePost-Operatively図3眼圧の経過のグラフ(文献3より転載引用)Year-1Year-2Year-3図4濾過胞の形状の術後変化下段の→はMicroShuntの前房側の端である.(文献3より転載引用)表1合併症のまとめNo.eyesreceivingMicroShunt14923NATubeincontactwithiris30313.0Transienthypotony(<5mmHg)afterday1─resolvedbyday9003313.0Shallowor.atanteriorchamber(resolvedwithoutintervention)12313.0Hyphema1128.7ExposedTenon’scapsule2028.7Choroidale.usionordetachment0228.7ElevatedIOPrequiringremovalof.brininanteriorchamber0114.3ElevatedIOPrequiringlate-stageneedlingofbleb1014.3Tubeobstructionbyiris,blood,.brin,etc.(latercorrected)1014.3Vitreoushemorrhage0114.3Blebleak<1mo1014.3Correctivesurgery(failure)1014.3Totals111021Thereported21adverseeventsoccurredin7patientswithsomeexperiencingmultipleadverseevents.IOPindicatesintraocularpressures.レクトミーやエクスプレスと同様の合併症がみられる.(文献3より転載引用)図5インジェクターの写真図6他の緑内障インプラントとの比較(アラガン社ホームページより)上が他の緑内障インプラントで,下がXENGelStent.(アラガン社ホームページより)~図7眼球に挿入されたXENGelStent~結膜下に留置をされている.(文献9より転載引用)図8手術手技の流れ

トラベクトーム手術

2017年1月31日 火曜日

トラベクトーム手術TrabectomeSurgery笠原正行*庄司信行*はじめにトラベクトーム手術とは,眼内からアプローチして線維柱帯を焼灼切開する術式である.術後得られる平均眼圧は15mmHg前後と,従来の眼外からアプローチするトラベクロトミーと同程度であるが,小切開創から施行ができ,手術時間が短く(5.10分程度),手技が比較的容易であり,結膜が温存できるために将来のトラベクレクトミーに備えることができる.2004年に米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)の承認を得て,日本でも2010年に承認され,minimally(micro)invasiveglaucomasurgery(MIGS)のひとつとして国内でも広く普及してきている.ハンドピースの先端は19.5G(ゲージ)であり,単独手術であれば1.7mmの小角膜切開で行うことができる.ハンドピース先端にはフットプレート(ガイド)がついており,集合管を保護するように設計がなされている(図1).フットペダルを踏むことで先端部に電気が流れる仕組みになっており,隅角鏡で確認しながら先端部をSchlemm管内へ挿入し,外壁に沿わせるようにして線維柱帯を挟み込むように焼灼切開を進めていく(図2).直接隅角を確認しながら手技が行える点や,線ではなく帯状に線維柱帯を切開,もしくは切除できる点もメリットのひとつである.I手術適応術中に隅角の観察ができることが必須であり,隅角開大度はSha.er2.4度であること,切開を予定する鼻側に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)がないことが望ましい.ただし,少量のテント状のPASであれば,ハンドピースの先端でPASを解除しながら切開を進めていくことも可能である.従来のトラベクロトミーと同様に上強膜静脈圧を下回る眼圧値までの下降はむずかしく,術後の平均眼圧は15.16mmHg程度であるため,20mmHgを超える症例が好適応と思われる.ただし,10台の眼圧であっても点眼,内服のアドヒアランスや副作用,眼圧変動などを考慮して手術適応とする場合もある.たとえば,高齢で認知症などもあり点眼アドヒアランスが悪い場合,点眼により著明な角膜炎,眼瞼炎をきたしている場合,全身倦怠感や食欲不振,尿路結石の既往などでアセタゾラミド内服の継続が困難である場合,眼圧変動が大きく,夜間に10mmHgを超えて眼圧上昇をきたす場合などにも行うことがある.反対に,点眼は問題なくできていて,眼圧がlowteen.middleteenでも視野障害が進行するような症例や,highteenで経過していて視野障害の程度が後期以降の症例などに対しては積極的な適応はなく,むしろトラベクレクトミーの適応と思われる.II手術手順1.術前の準備自然瞳孔下や散瞳下でも手術は可能であるが,トラベクトーム手術を単独で行う場合は隅角の視認性をより向*MasayukiKasahara&*NobuyukiShoji:北里大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕笠原正行:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(23)23図1トラベクトーム(提供:NeoMedixCorporation)図2挿入時のSchlemm管内のシェーマハンドピース先端部を外壁に沿わせるようにして,線維柱帯を挟み込むように切開する.(提供:NeoMedixCorporation)図3手術時の体勢患者の頭を術者から離れるように約30°傾け,顕微鏡は術者のほうに倒れるように傾けて鼻側の隅角が見えやすい環境を整える.図4線維柱帯切開右利きの術者であれば,鼻側中央の挿入部から反時計回りに約60°を焼灼切開していく.反対部分も同様に約60°切開して,合計約120°の範囲の切開を行う.図5手術翌日の前眼部写真鼻側の切開部付近に少量の凝血塊を認める.表1トラベクトーム手術の成績ShojiN2016117POAG+SG31.6±9.915.4±3.367.45.0±1.73.8±1.8YidirimY201670POAG+SG28.8±5.317.1±2.970.03.3±1.01.6±1.2生存の定義:下降率30%以上MizoguchiT201582POAG+SG22.3±6.815.1±3.264.12.8±0.82.7±0.8AhujaY2013246POAG+SG21.6±8.615.1±4.463.83.1±1.12.0±1.4TingJL2012450POAG25.5±7.916.8±3.962.92.7±1.32.2±1.3POAG:primaryopen-angleglaucoma,SG:secondaryopen-angleglaucoma100806040200monthsaftersurgeryA(insurviving)11787714737241180B(insurviving)1177359382919870C(insurviving)1176347261912440(eyes)図6117眼を対象としたKaplan.Meier法による生存曲線生存の定義は次の通り.定義A:術後眼圧が21mmHg以下,眼圧下降率20%以上,緑内障の再手術を行っていない.定義B:術後眼圧が18mmHg以下,眼圧下降率20%以上,緑内障の再手術を行っていない.定義C:術後眼圧が16mmHg以下,眼圧下降率20%以上,緑内障の再手術を行っていない.術後1年目の生存率は,定義Aでは67.4±4.4%,定義Bでは56.6±4.6%,定義Cでは44.8±4.7%で,定義AとCの間には統計学的有意差を認めた(p=0.001:ログランク検定).定義AとB,BとCの間には有意差は認めなかった.(文献1より転載引用)successprobability(%)0612182430364248以下とした場合は44.8±4.7%であり,stageが後期でlowteenをめざすような症例や,もともと低眼圧の症例には,術後の一過性眼圧上昇などのリスクも考慮すると,最初からトラベクレクトミーを選択したほうがよい場合もあり,術式の選択は慎重に行う必要がある.病型別に分けた生存率は,術後1年目において原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)で53.9±7.5%,続発緑内障で77.2±5.4%と,続発緑内障のほうが成績がよかった(p=0.024).続発緑内障の中には落屑緑内障やステロイド緑内障が多く含まれており,これらは病変が線維柱帯に限局されるのに対し,POAGはそれ以降の流出路に変化をもたらしている可能性がある.トラベクトーム手術は線維柱帯をターゲットとした術式であるため,続発緑内障で成績がよかった可能性が考えられる.Tingらも落屑緑内障はPOAGと比較して有意に眼圧下降効果が高いと報告している6).また,続発緑内障の中にはぶどう膜炎によるものも含まれているが,落屑緑内障やステロイド緑内障と同程度に成績がよかった.Antonらも,ぶどう膜炎による続発緑内障に対して本術式が有効であったと報告している7).トラベクトーム単独手術と白内障同時手術との比較では,有意差はないものの,白内障同時手術のほうが成績がよい傾向であった.同様に白内障同時手術のほうが眼圧下降効果が高い4)とする報告がある一方,変わらないとする報告もある8).白内障手術による眼圧下降効果に加え,同時手術においては閉創前にI/Aでしっかりと前房内の粘弾性物質や逆流性出血を洗浄することができる点や,超音波乳化吸引術を行う際に,前房内圧が上昇してSchlemm管内腔が拡張するため眼圧下降効果が高いのではないのかと考えている.点眼スコアは,緑内障点眼1剤を1点,合剤を2点,アセタゾラミド内服1錠を1点とした場合,術前が5.0±1.7点,術後1年目で3.8±1.8点と,約1点減少した.他の報告でもだいたい1点程度の減少であり,術後の緑内障点眼は減らせても1本程度と考える.合併症としては,術後の逆流性出血は必発であるが,その他の重篤なものはみられない.角膜内皮細胞密度についても,Maedaらは術後1年目までに有意な変化は28あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017みられなかったとしている9).おわりにトラベクトーム手術は,10台後半.20mmHg程度をめざした手術としては比較的成績のよい手術である.安全性が高く,将来の濾過手術に備えることができる点も魅力的である.しかし,約2割の症例においては追加濾過手術が必要となることを事前に説明しておくことが重要である.また,成績良好例の中には術後にずっとlowteenで経過している症例も少なからず存在し,今後,その背景因子がわかれば適応も拡大していくものと考える.文献1)ShojiN,KasaharaM,IijimaAetal:Short-termevalua-tionofTrabectomesurgeryperformedonJapanesepatientswithopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol60:156-165,20162)AhujaY,MaKhinPyiS,MalihiMetal:Clinicalresultsofabinternotrabeculotomyusingthetrabectomeforopen-angleglaucoma:theMayoClinicseriesinRoches-ter,Minnesota.AmJOphthalmol156:927-935,20133)YildirimY,KarT,DuzgunEetal:Evaluationofthelongtermresultsoftrabectomesurgery.IntOphthalmol36:719-726,20164)MizoguchiT,NishigakiS,SatoTetal:ClinicalresultsofTrabectomesurgeryforopen-angleglaucoma.ClinOph-thalmol9:1889-1894,20155)JeaSY,MosaedS,VoldSDetal:E.ectofafailedtrabec-tomeonsubsequenttrabeculectomy.JGlaucoma21:71-75,20126)TingJL,DamjiKF,StilesMC;TrabectomeStudyGroup:Abinternotrabeculectomy:outcomesinexfolia-tionversusprimaryopen-angleglaucoma.JCataractRefractSurg38:315-323,20127)AntonA,HeinzelmannS,NeBTetal:TrabeculectomyabinternowiththeTrabectomeRasatherapeuticoptionforuveiticsecondaryglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol253:1973-1978,20158)ParikhHA,BusselII,SchumanJSetal:Coarsenedexactmatchingofphaco-trabectometotrabectomeinphakicpatients:Lackofadditionalpressurereductionfromphacoemulsi.cation.PLosOne11:e0149384,20169)MaedaM,WatanabeM,IchikawaKetal:Evaluationoftrabectomeinopen-angleglaucoma.JGlaucoma22:205-208,2013(28)

iStent-手術成績

2017年1月31日 火曜日

iStent─手術成績OutcomesofTrabecularMicro-bypassStentSurgery芝大介*はじめにわが国では,iStentの使用法は,中期までの緑内障眼の白内障手術併施で1本のステント挿入とされている1).この使用法に関しては米国の治験データがもっとも近い条件であると考えられる.また,単独手術で用いることも原理的には可能であり,いくつかのスタディでは単独手術の眼圧下降が研究されている.本稿ではわが国での使用に際した実践的な内容を中心に述べるが,このデバイスによりどれほどの眼圧下降が得られるのか興味を持たれる読者も多いと考えられるので,いくつかの代表的なスタディの結果も紹介する.I米国での治験わが国での使用に際して,FDAの承認に向けて行われたスタディがもっとも参考になると考えられる2,3).このスタディは,軽度の開放隅角緑内障で白内障手術適応のある240眼を対象としている.無作為に白内障単独手術群と,白内障手術に加えiStentの1本挿入を行った群(ステント群)とで,術後の眼圧下降治療の状況を比較している.わが国での今後の使用状況に類似していると考えられる.II患者背景患者の平均年齢は73歳で,人種構成は白人71%,アフリカ系14%であり,アジア系は1眼のみと少ない点に注意する必要がある.病型は落屑緑内障が14眼(6%),色素緑内障が7眼(3%)と報告されており,他は原発開放隅角緑内障と推測される.組み入れ時の緑内障点眼治療薬は1.5±0.6剤であり,60%が単剤治療であった.処方薬の内訳はプロスタグランジン関連薬が75%,交感神経b受容体遮断薬が37%,炭酸脱水素酵素阻害薬が24%,交感神経a受容体刺激薬が14%であった.そのような治療下での眼圧は18.4.mmHgであった.ウォッシュアウト後の眼圧は25.4±3.6.mmHgと正常眼圧緑内障眼はほとんど存在しなかったようである.わが国ではもっと眼圧が低い症例が多くなると推測される.MD値は.3.74±3.47dBで,中期緑内障も相当数含まれていたようである.III手術成績ステント群に割り当てられた117眼のうち,4眼は白内障手術の合併症によりステント挿入が行われず,1眼はステント挿入が不可能であり,さらに1眼はスタディの治療前にドロップアウトしている.ステント挿入時の合併症は虹彩接触が8眼(7%),角膜内皮接触が1眼などとなっている.承認前の多施設試験のため,ラーニングカーブ上の術者が多かったと想定されるが,結果的にステントの挿入自体には大きな問題はなかったようである.手術後の経過観察は術後1,2週,3,6,12,18,24カ月に行われ,視野検査が6,12,24カ月に行われた.点眼薬の追加は,眼圧21mmHgを超えた場合と視野・*DaisukeShiba:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕芝大介:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(17)17%ofpatients10080604020013612LOCFMonth■ステント群■白内障単独手術群=図1白内障単独手術とiStent併用白内障手術による眼圧21mmHg以下の達成率各検査時点とlastobservationcarriedforward(LOCF)法による最終観察時の達成率が示されている.常に20%程度ステント群のほうが眼圧正常化達成率が高くなっている.白内障単独手術群でもそれなりに高い達成率が得られている点にも注意する必要がある.(文献2より転載引用)==その他の外科的介入として注目したいのは,追加の眼圧下降介入率である.レーザー線維柱帯形成術,deepsclectomy/sclerostomyが行われているが,術後24カ月に白内障単独手術群で3眼,ステント群で1眼行われており,大きな差はないようである.V結果の解釈米国での治験のデータをみるかぎり,諸手をあげて歓迎するようなデバイスではなさそうであるが,この結果を正しく解釈することは非常にむずかしい.まず,主要評価項目が点眼数の削減であり,従来の眼圧下降量(下降値および下降率)を評価項目に入れていない点に注意が必要である.従来の緑内障手術とはスタディデザインがまったく異なるのである.また,240眼を集めているが29施設からなるデータであり,半数はコントロールである.したがって,各施設でステントを入れたのは5眼程度である.隅角癒着解離術,ゴニオトミーやトラベクトーム手術といった隅角手術に習熟した術者は米国ではまれであったため,新しい術式の習得途上の術者が多数であったようである.ある程度習熟した術者でも一度のトライで正しくステントを設置できる率は62%と報告されている4).再トライとなった場合,初回に切開した部位は線維柱帯やSchlemm管の機能を減じたり,虹彩前癒着を生じた可能性も考えられる.ステントが脱落しなくても,ステントがSchlemm管内でなく線維柱帯内に留置され,きちんとバイパスされていない可能性もある.また,スタディの詳細を今後増えるであろう実臨床でのデータを注意してみる必要がある.VI白内障と同時の2本のステント挿入それでは,白内障手術と同時に挿入するiStentを2本にするとどうなるであろうか?これに関しては新規緑内障手術の導入に積極的なスペインの研究グループから2010年に非常に興味深い論文が発表されている4).この研究では,白内障手術が必要となった開放隅角緑内眼と高眼圧症眼合計33眼に対して,白内障単独手術と,白内障手術に加えiStent2本挿入の併用手術とを比較している.眼圧の組み入れ基準は点眼治療下で18.30mmHg,ウォッシュアウト後22.34mmHgであった.無作為に白内障単独手術群とステント群の2群に無作為割り付けされ,手術が行われた.右眼の場合,ステントは時計表示で5時半と2時半の2カ所にインプラントされた.術後の緑内障点眼の開始はプロトコールがあったようであるが,公表はされていない.術前眼圧(薬剤数)は白内障単独手術群23.6±1.5mmHg(1.2±0.7),ステント群24.2±1.8mmHg(1.1±0.5)であり,両者に有意な差はなかった.術後眼圧(薬剤数)は,術後半年では白内障単独手術群19.6±4.0mmHg(0.5±0.7),ステント群15.6±3.3mmHg(0.1±0.5)であった.術後1年では白内障単独手術群19.8±2.3mmHg(0.7±1.0),ステント群17.6±2.8mmHg(0±0)であり,半年および1年後では,ステント群のほうが有意に少ない点眼薬であるにもかかわらず,眼圧も有意に低かった.眼圧値でも有意な差があったことより,米国の治験データより眼圧下降作用が強いと推測される.前項でも少し触れたが,本論文ではステント挿入および留置されたステントの経過の詳細も記載されている.iStent挿入経験がある程度ある2名の術者が合計34本のステントを設置したが,21本(62%)が最初の試みで成功し,2回目で11本(32%)が成功し,残りは3度目に成功している.ステントの設置不良は6眼(18%)に起きていたが,とくに有害事象につながったものはなかったとされる.これらの設置不良を含むかどうか明記されていないが,経過観察中のステントの脱落が6例報告されている.脱落したステントは虹彩根部にとどまり,有害事象にはつながらなかったと記載されている.VII単独手術の眼圧下降とステント数本来は白内障同時手術を想定され開発されたiStentだが,単独で用いることは原理的に可能であり,その眼圧下降能力を調べる研究もいくつか行われている.そのうち,無作為に1,2,3本のiStentを挿入したスタディを紹介する5).もちろん,本研究はわが国で承認された使用法ではないが,この手術の眼圧下降作用の理論的側面を理解するには重要と考える.アルメニアで行われた本研究の対象は119人の白人の原発開放隅角緑内障患者であった.眼圧の組み入れ基準は,点眼治療下で18(19)あたらしい眼科Vol.34,No.1,201719%ofeyes100755025IOPreduction.20%01-stent(n=37)2-stent(n=41)3-stent(n=38)図2術後12カ月の時点での各ステント数群の目標眼圧達成率(ウォッシュアウト後)ステント数が多いほど達成率が高い傾向があるが,15mmHg以下に目標眼圧を設定するとステント数群間の差が顕著になっている.狭義の原発開放隅角緑内障対象で点眼なしでの眼圧15mmHg以下の達成は3ステント群では92%もあり,眼圧下降の単独手術としても評価に値する可能性がある.(文献5より転載引用)

iStent-基本構造と手術法

2017年1月31日 火曜日

iStent─基本構造と手術法iStent─StructureandSurgicalProcedure福地健郎*はじめにこの項ではiStent1~5)の基本構造と手術法について解説する.IiStentの基本構造iStentは非磁性体であるチタン合金による眼内ステントで,表面はブタ腸粘膜に由来するヘパリン(ステアルコニウム・ヘパリン)でコーティングされている.一体型のデザインで,Schlemm管内に留置する半円筒(ハーフパイプ)部と房水が流入するための前房内に突出するシュノーケル部に分けられる(図1).ハーフパイプ部の長さは1.0mm,高さは0.33mm,一方,シュノーケル部の長さは0.25mm,内径120μm(公称)で,併せaて重さは60μgである.体内に留置するステントとしてはもっとも小さいものの一つである.ハーフパイプ部はSchlemm管内壁側に挿入する部分で,先端は線維柱帯をスムーズに穿孔し,Schlemm管に刺入しやすいように鋭角に切断されている.また,ハーフパイプ部には3本の返しが付けられており,挿入後にこの返しがSch-lemm管外壁に引っかかる形で固定され,脱落を防いでいる.iStentには右眼用のGTS100Rと,左眼用のGTS100Lがある.iStentはディスポーザブルの専用インサータ(図2a)にセットされた状態で滅菌されており,そのままの状態で使用可能である.インサータの先端はiStentシュノーケル部を把持している(図2b).iStentをSchlemmb図1iStentの構造と大きさa:iStentの構造.b:iStentの大きさ.(Glaucos社より提供)*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8520新潟市中央区旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(13)13a図2iStentとインサータa:iStentとインサータ.b:インサータに充.されたiStent.(Glaucos社より提供)図3iStent手術法の実際a:iStentを角膜切開創から挿入し,鼻側虹彩全面に近づける.改めて隅角鏡に載せ,iStentの位置,隅角と線維柱帯部を確認する.b:線維柱帯色素帯に沿うように近づけ,先端をSchlemm管内に挿入する.c:さらに押し込んでSchlemm管内に全幅を挿入する.スムーズに挿入できない場合は先端がSchlemm管外壁に引っかかっている可能性が高い.d:iStentの挿入により隅角からしばしば出血が逆流する.e:粘弾性物質で出血をよけ,iStentを視覚的に確認する.