‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

難治性糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績

2017年2月28日 火曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):264.267,2017c難治性糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績石田琴弓加藤亜紀太田聡平野佳男野崎実穂吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Short-termOutcomeofIntravitrealA.iberceptforDiabeticMacularEdemaKotomiIshida,AkiKato,SatoshiOta,YoshioHirano,MihoNozaki,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の治療効果を検討した.対象および方法:糖尿病黄斑浮腫に対しアフリベルセプト硝子体内投与を行い,6カ月以上経過観察できた11例15眼(非増殖糖尿病網膜症7例9眼,増殖糖尿病網膜症4例6眼)を対象とした.平均年齢は58.3歳,平均観察期間は8.7カ月であった.必要に応じて追加投与を行い,矯正視力,中心網膜厚,黄斑体積を検討した.結果:平均投与回数は2.9回であった.最終受診時において,投与前と比較して平均視力はlogMAR視力で0.49から0.38(p<0.05)に,中心網膜厚は526μmから433μmに(p<0.05),黄斑体積は13.6mm3から12.3mm3(p<0.01)にいずれも有意に改善を示した.結論:糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与は,視力および黄斑浮腫の改善に有効であった.Purpose:Toreportthee.cacyofintravitreousinjectionofa.ibercept(IVA)forthetreatmentofdiabetimacularedema.PatientsandMethod:Enrolledwere15eyeswithdiabeticmacularedema(9eyeswithnon-pro-liferativediabeticretinopathy,6eyeswithproliferativevitreoretinopathy)thatunderwentIVAandwerefollowedupfor6monthsorlonger.Meanagewas58.3years;averagefollow-upperiodwas8.7months.Alleyesunder-wentIVAintheprorenata(PRN)regimenandbest-correctedvisualacuity(BCVA)measurement;centralreti-nalthickness(CRT)andmaculavolume(MV)onopticalcoherencetomographyweremeasuredperiodically.Results:ThemeanIVAfrequencywas2.9times.Atlastvisit,logMARBCVAsigni.cantlyimprovedfrom0.49to0.38(p<0.05),CRTdecreasedfrom526μmto433μm(p<0.05)andMVdecreasedfrom13.6mm3to12.3mm3(p<0.01),comparedtobaseline.Conclusion:Intravitrealinjectionofa.iberceptisane.ectivetreatmentfordiabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):264.267,2017〕Keywords:アフリベルセプト,抗血管内皮増殖因子,糖尿病黄斑浮腫,光干渉断層計.a.ibercept,antivascularendothelialgrowthfactor,diabeticmaculaedema,opticalcoherencetomographyはじめに糖尿病網膜症は先進国において主要な成人の失明原因である.わが国においても,若生ら1)の視覚障害の原因調査で糖尿病網膜症は2位(15.6%)を占めている.糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症の重症度にかかわらず発症し,直接視力低下の原因となるため,その治療は重要である.糖尿病黄斑浮腫に対しては毛細血管瘤に対する直接凝固や,閾値下凝固を含む格子状凝固,あるいはステロイド局所投与,硝子体手術が施行されてきたが,治療に抵抗することも少なくない.2014年に抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)製剤であるラニビズマブとアフリベルセプトが相次いで糖尿病黄斑浮腫の治療薬として承認され,重要な役割を果たしている.ラニビズマブはVEGFに対する中和抗体のFab断片で2),アフリベルセプトはVEGF受容体-1およびVEGF受容体-2の細胞外ドメインとヒトIgG1のFcドメインからなる遺伝子組換え融合糖蛋白質であり,VEGF-A,VEGF-B,胎盤成長因子などのVEGFファミリーに高い親和性を有するとされている3).〔別刷請求先〕加藤亜紀:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:AkiKato,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN264(122)今回筆者らは糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内注射後の視力,滲出性変化への影響を評価したので報告する.I対象および方法対象は2014年11月.2015年3月に名古屋市立大学病院で,他の治療で改善が困難な糖尿病黄斑浮腫に対し,アフリベルセプト2mg硝子体内注射を施行し,6カ月以上経過観察できた11例15眼である.投与前視力が小数視力で1.2以上の症例,無硝子体眼は対象から除外した.平均年齢58.3±3.3歳,平均観察期間8.7±0.3カ月(6.10カ月)であった.病型の内訳は非増殖糖尿病網膜症7例9眼,増殖糖尿病網膜症4例6眼であった.全例において糖尿病黄斑浮腫に対して治療歴があり,トリアムシノロン後部Tenon.下投与11例13眼,網膜光凝固12例14眼,(毛細血管瘤に対する直接凝固11眼,格子状閾値下凝固2眼,汎網膜光凝固7眼)ラニビズマブ硝子体内注射5例6眼であった(重複含む).初回アフリベルセプト投与後は原則毎月診察を行い,矯正視力,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)(シラスHD-OCT,ZEISS社)から,小数視力で2段階以上の視力低下あるいはOCTで黄斑部浮腫の残存または増悪が認められた場合はアフリベルセプトの追加投与を行った(prorenata:PRN投与).また症例によっては他の治療法を併用した.矯正視力およびOCTによる中心網膜厚,黄斑体積を後ろ向きに検討した.視力変化は,小数視力をlogarithmofminimalangleofresolution(logMAR)視力に換算したうえで0.3以上の差を改善または悪化とし,それ以外を不変とした.またCRTは20%以上の変化を改善,悪化とした.logMAR視力,中心網膜厚,黄斑体積の投与前と投与後の統計的比較には,Dunnett’stestを用いて,p<0.05を有意差ありとした.II結果平均投与回数は2.9±0.32であった.アフリベルセプト投与前後の最高矯正視力の変化を図1に示す.平均logMAR視力は,投与前0.49±0.08に対し,投与後最高時では0.26±0.08で有意に改善を認めた.また投与後最高視力においては,視力が改善した症例5眼(33%),不変が10眼(67%)で悪化した症例はなかった.投与後1カ月,3カ月,6カ月,最終受診時ではそれぞれ,0.34±0.05,0.36±0.06,0.39±0.08,0.39±0.08で,いずれの時点においても術前と比較して有意に改善を認めた(図2).最終受診時における視力変化は改善2眼(13%),不変13眼(87%)で悪化した症例はなかった(図3).平均中心網膜厚は投与前526±37μm,投与後1カ月,3カ月,6カ月,最終受診時ではそれぞれ,353±21μm,431±50μm,473±45μm,443±47μmで,投与前と比較し1カ月と最終受診時で有意に改善を認めた(図4).投与後最良中心網膜厚は改善が11眼(73%),不変が4眼(26%)で悪化した症例はなかった.最終受診時の中心網膜厚は改善7眼(47%),不変7眼(47%)で悪化1眼(6%)であった.平均黄斑体積は投与前13.6±0.46mm3,投与後1カ月,3カ月,6カ月後,最終受診時はそれぞれ11.9±0.31mm3,12.2±0.53mm3,12.1±0.53mm3,12.3±0.50mm3で,いずれの時点においても術前と比較して有意に改善を認めた(図4).経過観察中に,黄斑浮腫に対してアフリベルセプト以外の治療を行った症例は7例8眼で,トリアムシノロン後部Tenon.下注射2例2眼,トリアムシノロン硝子体内注射1例1眼,毛細血管瘤に対する直接凝固4例4眼,格子状閾値下凝固1例2眼,硝子体手術1例1眼(重複含む)であった.経過観察中に浮腫が消失し,その後再発しなかった症例は3例3眼で,2例はアフリベルセプト投与直後に毛細血管瘤に対する直接凝固を併用した症例,1症例はアフリベルセプト投与の2週間前に直接凝固を施行していた症例であった.6例9眼は浮腫が一度は消失したが,経過観察中に浮腫が再発し追加治療を行った.3例3眼は経過観察中,一度も浮腫の改善が得られなかった.経過観察中に,眼内炎,水晶体損傷,網膜.離,網膜裂孔など,直接アフリベルセプト硝子体内投与が関与したと思われる合併症はみられなかった.両眼加療中の患者1例で経過観察中に網膜中心動脈閉塞症を発症した.左眼へのアフリベルセプト投与3日後,右眼へのアフリベルセプト投与2カ月後に急に右眼視力が光覚弁にまで低下,蛍光眼底造影検査で右眼の著明な動脈の灌流遅延を認めた.その後視力は発症前程度にまで改善した.この症例は血糖値のコントロールが不安定で,前増殖型ではあったが,比較的無灌流領域の広い症例であった.またその他の重篤な有害事象は認めなかった.III考按今回筆者らは他の治療で改善が困難な難治性糖尿病黄斑浮腫に対してアフリベルセプト硝子体内投与を施行した.約9カ月間での平均投与回数は約3回で,アフリベルセプト後,最高視力はlogMAR視力で0.49から0.26に有意に改善,また33%の症例で視力が0.3以上改善した.経過観察中の平均視力は投与前と比較し有意に改善していた.中心網膜厚は最良時において73%が投与前と比較して改善し,平均中心網膜厚は最終受診時において投与前と比較して有意に改善していた.また平均黄斑体積も視力と同様,経過観察中投与前と比較し有意に改善していた.経過観察中浮腫の再発を認めなかったのは3眼(20%)で,9眼(60%)は浮腫が再発し,1.201.000.800.600.400.20アフリベルセプト投与後最高視力投与前136最終受診時(カ月)0.200.400.600.801.001.20図2アフリベルセプト投与後の視力の推移(logMAR)矯正視力は投与前と比較していずれの時点においても有意に改善を認めた(**p<0.01,*p<0.05,Dunnett’stest,bar±SE).アフリベルセプト投与前視力(logMAR)図1アフリベルセプト投与前視力と投与後最高視力(logMAR)全症例のアフリベルセプト投与前と投与後の最高視力を示す.60015.0526中心網膜厚黄斑体積13.6473431433*12.3**353**12.2**12.1**11.9**中心網膜厚(μm)黄斑体積(mm3)50014.0最高視力40013.0最終視力30012.020011.0投与前136最終受診時(カ月)図4アフリベルセプト投与後の中心網膜厚・黄斑体積の推移中心網膜厚は投与前と比較して1カ月,最終受診時,有意に改善を認めた.黄斑体積は投与前と比較していずれの時点においても有意に改善を認めた(**p<0.01,*p<0.05,Dunnett’stest,bar±SE).ト2mgを4週間ごとに5回投与後,8週ごとに連続投与した群では100週目で10文字程度改善し(VISTA11.1文字,VIVID9.4文字),15文字以上改善を維持していた割合は(VISTA33%VIVID31%)であったとしている.一方でRESTOREstudy6)やREVEALstudy7)ではPRN投与方式でラニビズマブ単独投与と黄斑部に対する網膜光凝固の併用の比較をしている.いずれも1年後において視力改善は6文字程度(RESTORE:IVR単独群6.1文字,併用群5.9文字,REVEAL:IVR単独群6.6文字,併用群6.4文字)で,ラニビズマブ投与回数は7回であったとしている.また網膜光凝固を併用した群と,しなかった群では結果に差はなかったと報告している.今回の筆者らの検討では,logMARでの0.02の変化をETDRS視力の1文字と換算したとき,最高視力は0.23改0%20%40%60%80%100%図3最高視力時・最終受診時における視力改善度logMAR視力で0.3以上の変化を改善・悪化としたとき,最高視力時は改善が33%,最終受診時は改善13%,残りは不変で悪化した症例はなかった.残りの3眼(20%)は経過観察中浮腫が残存した.糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬の有効性はすでに大規模臨床試験で示されている.わが国で最初に承認されたラニビズマブ0.5mg硝子体内投与については,RISEandRIDE試験4)として知られる毎月ラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumab:IVR)の有効性を評価した報告で,24カ月後においてETDRS視力で12文字(RIDE12.0文字,RISE11.9文字)の改善を認め,36カ月後でも11文字(RIDE11.4文字,RISE11.0文字)程度の改善を認めたとしている.また36カ月後15文字以上の改善を維持していた割合は約40%(RIDE40.2%,RISE41.6%)であったとしている.アフリベルセプトにおいても連続投与に関する報告がされており,VISTAandVIVID試験5)においてアフリベルセプ善で約11.5文字改善しており,0.3以上の改善すなわち15文字以上の改善がえられた症例は33%で,最高視力時だけを比較すると,アフリベルセプトの連続投与での改善度に近いが,最終視力はlogMARで0.1の改善,ETDRSに換算すると5文字の改善にとどまり,15文字以上改善した症例も13%になり,PRN投与による既報と同等かそれ以下であると考えられる.投与回数も1年で約4回の計算になり,他の試験と比較すると少ない.実臨床においてたとえPRN方式であったとしても,医師が必要と判断したときに必ずしも患者が治療を希望するとは限らない.患者によっては金銭的な理由からステロイドの局所投与や,網膜光凝固を選択する場合も少なくない.よって可能な限り治療回数と,治療費を抑えることが必要になる.当院では以前から,インドシアニングリーン蛍光眼底造影を利用した毛細血管瘤の直接凝固8)を積極的に行っており,今回追加治療の必要なかった症例はいずれも治療の前後に直接凝固の治療歴があった.網膜光凝固の併用は差がないとの報告も多いが6,7),近年追尾システムを導入した網膜光凝固機器による網膜光凝固の併用でラニビズマブの投与回数を少なくできたとの報告がされており9),抗VEGF治療に毛細血管瘤に対する直接凝固を併用することは糖尿病黄斑浮腫の治療に有用であると思われる.今回の症例では5例6眼にラニビズマブ硝子体内投与の既往があった.糖尿病黄斑浮腫の治療において,現在わが国で認可されているどちらの薬剤の治療効果が高いかは興味深いところであるが,ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプト3剤の治療効果を比較したprotocolTとよばれる検討10,11)においては,治療開始後1年目では視力が20/50以下の群ではアフリベルセプトは他の群と比較して有意に視力改善がみたれたが,2年目では,3群の視力改善度も投与回数もともに差はなく,また合併症についても3群間で大きな差はみられなかったとしており,今回の症例においても長期経過を検討する必要があると思われる.今回,網膜中心動脈閉塞症と思われる所見を呈した症例が1例あった.両眼治療中で,左眼へのアフリベルセプト投与3日後,右眼へのアフリベルセプト投与2カ月後に右眼に症状が出現し,その後無治療で視力は発症前程度にまで改善したことから,動脈の完全閉塞が生じていたかどうかは定かではないが,抗VEGF薬による加療は眼内炎,網膜裂孔,水晶体損傷など眼への直接的な侵襲によるもののみならず,全身の血流,あるいは今回のように眼局所の血流にも影響を及ぼす可能性があり,注意深い経過観察が必要である.アフリベルセプトは糖尿病黄斑浮腫に対して他の治療に抵抗する症例においても浮腫の改善に有効であった.しかし効果は一時的で,大部分の症例において浮腫が再発し,追加治療が必要であった.視力改善を維持するためには投与回数を増やしたほうが良いとも思われるが,実臨床の場ではむずかしい部分もあり,併用療法も含め今後さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,20142)FerraraN,GerberHP,LeCouterJ:ThebiologyofVEGFanditsreceptors.NatMed9:669-676,20033)HolashJ,DavisS,PapadopoulosNetal:VEGF-Trap:aVEGFblockerwithpotentantitumore.ects.ProcNatlAcadSciUSA99:11393-11398,20024)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:Long-termoutcomesofrenibizumabtherapyfordiabeticmaculaedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20135)BrownDM,Schmidt-ErfurthU,DoDVetal:Intravitreala.iberceptfordiabeticmacularedema:100-weekresultsfromtheVISTAandVIVIDstudies.Ophthalmology122:2044-2052,20156)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal:TheRESTOREstudy:ranibizumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20117)IshibashiT,LiX,KohAetal:TheREVEALStudy:Ranibizumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyinasianpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology122:1402-1415,20158)OguraS,YasukawaT,KatoAetal:Indocyaninegreenangiography-guidedfocallaserphotocoagulationfordia-beticmacularedema.Ophthalmologica234:139-150,20159)LieglR,LangerJ,SeidenstickerFetal:Comparativeevaluationofcombinednavigatedlaserphotocoagulationandintravitrealranibizumabinthetreatmentofdiabeticmacularedema.PLoSONE9:e113981,201410)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:A.iber-cept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema.NEnglJMed372:1193-1203,201511)WellsJA,GlassmanAR,AyalaARetal:A.ibercept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema:Two-yearresultsfromacomparativee.ectivenessran-domizedclinicaltrial.Ophthalmology123:1351-1359,2016***

日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の6 カ月治療成績

2017年2月28日 火曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):259.263,2017c日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の6カ月治療成績村松大弐*1若林美宏*1上田俊一郎*2馬詰和比古*1八木浩倫*1木村圭介*1川上摂子*1飯森さやか*1根本怜*1阿川毅*1塚原林太郎*2三浦雅博*2後藤浩*1*1東京医科大学眼科学分野*2東京医科大学茨城医療センター眼科IntravitrealInjectionofRanibizumabforDiabeticMacularEdemainJapan:6Months’OutcomeDaisukeMuramatsu1),YoshihiroWakabayashi1),ShunichiroUeda2),KazuhikoUmazume1),HiromichiYagi1),KeisukeKimura1),SetsukoKawakami1),SayakaIimori1),ReiNemoto2),TsuyoshiAgawa1),RintaroTsukahara2),MasahiroMiura2)andHiroshiGoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,IbarakiMedicalCenter,TokyoMedicalUniversity目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するラニビズマブ硝子体注射(IVR)の効果を検討する.対象および方法:DMEにIVRを行い,6カ月以上観察が可能であった78眼を対象に,後ろ向きに調査した.初回IVR後1,3,6カ月と最終受診時の視力と中心網膜厚,追加治療について検討した.初回注射の後は毎月観察を行い,必要に応じて再治療を行った.結果:観察期間は平均9.9カ月であった.治療前視力の平均logMAR値は0.4で,治療1カ月で0.32と改善傾向を示し,3,6カ月後および最終受診時には,それぞれ0.29,0.26,0.27と有意な改善を示した(p<0.05).治療前の網膜厚は488μmで,治療1,3,6カ月後,および最終受診時には388,404,392,372μmと全期間で有意な改善を示した(p<0.05).最終観察時までのIVR回数は平均2.9回であり,経過中に光凝固は22眼(28%)に,トリアムシノロンTenon.下注射は9眼(12%)に併用された.視力が改善(logMAR0.2以上)した症例の割合は全体の36%であり,74%の症例は最終時に小数視力0.5以上となった.結論:IVRはDMEの軽減と視機能の改善に有効であるが,再発も多く,複数回の投与と追加治療を要する.Purpose:Toassessthee.cacyofintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)inJapanesepatientswithdia-beticmacularedema(DME).Casesandmethods:Inthisretrospectivecaseseries,78eyesof63patientswithDMEreceived0.5mgIVR.Caseswerefollowedupfor6monthsorlonger.Bestcorrectedvisualacuity(BCVA;logMAR)andcentralretinalthickness(CRT)werethemainmeasurements.Results:Meanfollowupperiodwas9.9months.BaselineBCVAandCRTwere0.4and488μm,respectively.At1month,BCVAhadimprovedto0.32andCRThadsigni.cantlydecreasedto388μmcomparedtobaseline(p<0.01).At6monthsand.nalvisit,BCVAhadsigni.cantlyimprovedto0.26(p<0.05)and0.27(p<0.05),respectively;CRThaddecreasedto392μm(p<0.01)and372μm(p<0.01),respectively.AverageIVRincidencewas2.9times.Visualacuityindigitswas0.5oroverin74%ofpatients.Conclusion:Intravitrealinjectionofranibizumabisane.ectivetreatmentforDME.However,multipleinjectionsandadditionaltreatmentsarerequired,duetofrequentrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):259.263,2017〕Keywords:ラニビズマブ,糖尿病黄斑浮腫,光凝固,トリアムシノロンアセトニド,抗VEGF.ranibizumab,dia-beticmacularedema,photocoagulation,triamcinoloneacetonide,anti-VEGF.〔別刷請求先〕村松大弐:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学分野Reprintrequests:DaisukeMuramatsu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPANはじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病網膜症における視力障害の主要因子の一つであり,病態には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が関与していることが知られている.わが国における糖尿病網膜症の有病率は,久山町研究1)によると40歳以上の人口の15%,舟形町研究2)によると35歳以上の人口の14.6%と高率であり,糖尿病網膜症は日本の視覚障害者の主原因疾患の一つであるため,その制御はきわめて重要である.DMEに対する治療は,近年では抗VEGF療法が治療の主体となりつつある3.5).抗VEGF抗体の一種であり,ヒト化モノクローナル抗体のFab断片であるラニビズマブはDMEの治療にも適応が拡大され,大規模研究であるRISE&RIDEstudyによって,偽注射に対して治療の優位性が証明された6).また,同様の大規模研究であるRESTOREstudyにより,光凝固への優位性も証明された7).しかし,これらの研究の対象は約95%が白人やアフリカンアメリカン人種であることに加え,薬剤の投与についても臨床研究のため多数の注射が行われており,日本人をはじめとするアジア人における実臨床における反応性や効果についてはいまだに不明である.2014年2月からわが国においてもDMEへのラニビズマブ治療が認可され,広く使用されるようになってきたことから,日本人患者に対して行われた治療成績を報告する.I対象および方法対象は2014年3月.2014年12月に,東京医科大学病院ならびに東京医科大学茨城医療センター眼科において加療したびまん性黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症で,ラニビズマブ0.5mgの硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizum-ab:IVR)で治療を行い,6カ月以上の観察が可能であった日本人症例73例78眼(男性50例,女性23例)である.治療時の年齢は43.83歳,平均(±標準偏差)は66.4±9.9歳である.治療前の光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)による浮腫のタイプ8)は網膜膨化型が50眼(64%),.胞様浮腫が35眼(45%),漿液性網膜.離が22眼(28%)であり,これらの所見は同一症例で混合している場合もあった.治療歴として,ベバシズマブからの切り替え症例が23眼あった.また,初回抗VEGF抗体治療眼は55眼(71%)であり,これらのうち20眼はまったくの無治療,35眼(45%)は光凝固やトリアムシノロンアセトニドテノン.下注射(sub-Tenoninjectionoftriamcinoronacetonide:STTA)による治療歴があった.治療プロトコールとして,IVRの後に毎月観察を行い,その後は必要に応じて再治療を行った(prorenata:PRN).再治療は,2段階以上の視力低下,もしくは20%以上の中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合に原則IVRを行った.浮腫の悪化があってもIVRに同意されなかった場合や,IVR後の浮腫改善が不十分な場合はSTTAを施行している.全症例のうち,蛍光眼底造影で無灌流域や網膜毛細血管瘤を認めた18眼に対しては,IVRの後,1.2週の時点で計画的に光凝固(汎網膜光凝固や血管瘤直接凝固)を行い,残りの60眼はIVR単独で治療を開始して,適宜追加治療を行った.これら60眼のうち23眼においては,眼所見が安定するまで1カ月ごとに2.3回の注射を行うIVR導入療法を施行し,その後はPRNとした.検討項目は,IVR後,1,3,6カ月ならびに最終来院時における完全矯正視力,および光干渉断層計3D-OCT2000(トプコン)もしくはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditech)を用いて計測したCRTで,そのほかにも再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期について診療録を基に後ろ向きに調査した.II結果全78眼の平均観察期間は9.9±2.4カ月(6.14カ月)であった.全症例における治療前の平均CRTは488.1±131.3μmであったのに対し,IVR後1カ月の時点では388.0±130.1μmと減少していた.CRTは3カ月の時点で404.1±145.9μm,6カ月では392.1±117.3μm,最終来院時では372.8±120.1μmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定Bonferroni補正)(図1).全症例における治療前の視力のlogMAR値の平均は0.39±0.28であった.視力はIVR後1カ月で0.32±0.25,IVR後3カ月では0.29±0.50と有意に上昇した.その後6カ月,最終来院の時点で,それぞれ0.26±0.54,0.27±0.22であり,IVR後3,6カ月,および最終来院時において有意な改善を示した(p<0.05,t-検定Bonferroni補正)(図2).全症例の治療前後の視力変化をlogMAR0.2で区切って検討すると,IVR後1カ月の時点で改善例は17眼(22%),不変例は60眼(77%),悪化例は1眼(1%),3カ月の時点で改善例は23眼(29%),不変例は51眼(65%),悪化例は4眼(5%),6カ月の時点で改善例は25眼(32%),不変例は48眼(62%),悪化例は5眼(6%),最終来院時には改善例は28眼(36%),不変例は46眼(59%),悪化例は4眼(5%)であり,経時的に視力改善例が増加していた(表1).全症例のうち,治療前の小数視力が0.5以上を示した症例は41眼(53%)存在したが,IVR後1カ月では50眼(64%)3カ月で51眼(65%),6カ月で51眼(65%),最終来院時,で58眼(74%)と,これら視力良好例においても経時的に視力改善例の占める割合が増加していた(表2).520IVR(n=0)0.22500PC(n=12)0.24STTA(n=1)0.26480IVR(n=32)0.28††*†400†中心網膜厚(μm)0.3460PC(n=5)logMAR0.324400.34PC(n=2)4200.360.380.4†380360340治療前1カ月3カ月6カ月最終図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化全症例の各時点における中心網膜厚を示す.注射1カ月で網膜厚は大きく減少し,その後も3,6カ月,最終時と治療前と比較し有意に網膜厚は減少している.†p<0.01.経過中の追加治療の内訳と施行眼数を示す.PC:光凝固,IVR:ラニビズマブ硝子体注射,STTA:トリアムシノロンアセトニドテノン.下注射.表12段階以上の視力変化の割合改善不変悪化1カ月17眼(22%)60眼(77%)1眼(1%)3カ月23眼(29%)51眼(65%)4眼(5%)6カ月25眼(32%)48眼(62%)5眼(6%)最終28眼(36%)46眼(59%)4眼(5%)表3最終視力との関連因子関連因子眼数最終視力0.5以上の割合p値治療前視力あり40眼98%(39眼)0.5以上なし38眼50%(19眼)p<0.01あり34眼82%(28眼).胞様浮腫なし44眼68%(30眼)p=0.24あり22眼73%(16眼)漿液性.離なし56眼75%(42眼)p=0.99あり48眼71%(34眼)網膜膨化なし30眼80%(24眼)p=0.52c2検定経過中に浮腫が完全に消失したことがある症例は41眼(53%)であった.このうち,初回注射後1カ月の時点での完全消失は20眼(26%)であり,6カ月以内に完全消失した例は32眼(41%)であった.最終来院時まで浮腫の完全消失が持続した症例は4眼(5%)のみであった.浮腫消失が持続した例における個別の背景として,1例は白内障手術に起因して発生した急性期の浮腫であり,2回のIVRで寛快した.もう1例は光凝固直後に発生した急性期浮腫に対し,20.420.44治療前1カ月3カ月6カ月最終図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のlogMAR値を示す.注射1カ月で視力は上昇し,その後も経時的に向上している.3,6カ月,最終時にはおいては治療前と比較し有意に改善している.*p<0.05,†p<0.01.表2治療前後の各時点における小数視力0.5以上の割合治療前41眼(53%)1カ月50眼(64%)3カ月51眼(65%)6カ月51眼(65%)最終58眼(74%)回のIVRを施行して寛快しており,さらに別の1例は血管瘤への直接光凝固の併用例であった.経過観察中には浮腫の再発を63眼(81%)で認めた.注射後から浮腫再発までの期間の平均値は10.4±8.8週であったが,その幅は4.48週とさまざまであり,再発までの中央値は8週であった.注射を施行しても無反応だった症例が5眼(6%)に存在した.初回治療後6カ月までの平均IVR回数は2.2±2.3回(1.6回),最終観察時までのIVR回数は2.9±1.8回(1.8回)であった.また,光凝固を追加した症例は22眼(28%),STTAを追加した症例は9眼(12%)存在した.今回の症例には,光凝固やSTTAを併用した群と,IVR単独で治療した群が存在したが,IVRの回数について両群について比較すると,初回治療後6カ月までの平均IVR回数は併用療法群では1.9±1.1回であり,IVR単独群では2.4回±1.2回であり,最終観察時までのIVR回数は併用療法群では2.3±1.3回であり,IVR単独群では3.2回±1.9回であり,最終観察時において有意な差を認めた(p<0.05,pairedt-検定).最終視力が0.5以上得られた場合の術前因子をc二乗検定で解析すると,術前視力が0.5以上あることが有意な関連因子であったが,術前の浮腫タイプなどとは関連性がなかった(表3).III考按無作為二重盲検試験であるRISE&RIDEstudyにより,糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ治療の有効性が証明されたが6),この研究における治療プロトコールでは,当初の24カ月は毎月ラニビズマブ注射を行っており,多数の注射を要したうえで12文字の視力改善が得られていた.その後に行われた光凝固との比較試験であるRESTOREstudyにおいては,当初の3カ月は毎月ラニビズマブ注射を行い,それ以降は1カ月ごとの観察を通じて,必要に応じた再治療を行っている.そして12カ月の時点において6.1文字の改善を得ており,0.9文字の改善に留まった光凝固との比較において優位性が報告された7).今回は,23%(18眼)の症例ではIVR後1.2週のちに毛細血管瘤に対する直接光凝固や汎網膜光凝固を計画的に併用する方法で治療した.29%(23眼)の症例では1カ月ごとに2.3回の注射で導入療法を行い,その後は毎月観察を行って再発,悪化時に再投与を行うPRNで治療を行い,47%(37眼)の症例では1回の注射の後にPRNとし,6カ月間で平均2.2回,最終来院時までに2.9回の注射を行った.治療成績については,ラニビズマブ治療の開始直後から網膜浮腫は劇的に減少し,視力も治療前と比較して最終来院時には有意な向上が得られた.視力のデータをETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)の文字数に換算すると,最終来院時において7文字の改善が得られた結果となった.この改善度はRISE&RIDEstudyには及ばなかったが,RESTOREstudyの結果とは同等であった.本研究において,少ない注射回数にもかかわらずRESTOREstudyと同等程度の視力改善効果を得られた理由として,観察期間が短いことが大きな理由の一つと考えられる.したがって今後,治療期間の延長とともに注射回数も増加していく可能性はある.少ない注射回数であったもう一つの理由として,本研究においては積極的に毛細血管瘤への直接光凝固や無灌流域への選択的光凝固を併用,追加していることがあげられる.RESTOREstudyにおいてもラニビズマブと光凝固の併用療法を行っている群があるが,ラニビズマブ単独治療群と比較して視力改善度はやや劣り,1年間の注射回数もラニビズマブ単独群で平均7回であったのに対し,光凝固併用群でも6.8回とそれほど大きな差が認められなかった.しかし,この報告では光凝固の適応や凝固条件が明記されておらず,詳細は不明である.米国における光凝固は,後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であり,わが国で一般的に行われている網膜毛細血管瘤に対する直接光凝固や,targetedretinalphotoco-agulation(TRP)とも称される9)部分的な無灌流域に対する選択的光凝固は行われていないため,これが本研究の治療成績との差異につながった可能性も考えられる.また近年では,眼底に凝固斑が出現しない,より低侵襲な光凝固による良好な治療成績も報告されており10),今後はこういった新しい低侵襲光凝固をラニビズマブと併用することにより,黄斑浮腫への治療効果もよりいっそう向上していくかもしれない.もう一つの理由として,適宜トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射を併用していることも関係している可能性が考えられる.糖尿病網膜症やDMEの病態進展にはVEGFのみならず,炎症が関与することが報告されている11.15).また,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固時における黄斑浮腫の発生をトリアムシノロンアセトニドテノン.下注射によって抑制可能とする報告もあるので16),本研究におけるステロイドの併用がVEGF以外の浮腫を惹起する因子を抑制していた可能性もある.IVRを行う時期に関する一つの知見として,RISE&RIDEstudyにおいては偽注射群も研究開始後2年目からIVRを施行されたが,初回から治療した群と比較して視力改善率が低かったことが重要であると思われる.本研究においても前報と同様に治療後の良好な視力に有意に関連する事象として,治療前の視力が良好であることが示された.これらを考え併せると,黄斑浮腫が遷延化し,視細胞に障害が出現して視力が低下する前,すなわち浮腫発生後,早い段階でラニビズマブ治療を開始したほうが良好な治療成績が得られる可能性が高いのかもしれない.また今回の検討では,約8週間で8割以上の症例が再発をきたしていたので,今後IVRを行う際には,厳密なチェックならびに追加治療が必要であると考えられ,それが不可能な場合には早急に光凝固やトリアムシノロンテノン.下注射などの代替治療が必要であると考えられる.以上,日本人に対するラニビズマブ治療も短期的には有効と考えられたが,本研究は後ろ向き研究であり,症例数も十分とは言い難い.また,糖尿病網膜症にはさまざまな全身的な要因も絡むため,今後も長期にわたる経過観察と治療データの蓄積が必要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)安田美穂:世界の眼科の疫学研究のすべて久山町研究.あたらしい眼科28:25-29,20112)田邉祐資,川崎良,山下英俊:世界の眼科の疫学研究のすべて舟形町研究.あたらしい眼科28:30-35,20113)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdi.usediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20134)志村雅彦:糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,20135)村松大弐,三浦雅博,岩﨑琢也ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績.あたらしい眼科33:111-114,20166)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchGroup:Long-termoutcomesofranibi-zumabtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20137)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREstudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20118)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmac-ularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol127:688-693,19999)TakamuraY,TomomatsuT,MatsumuraTetal:Thee.ectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,201410)稲垣圭司,伊勢田歩美,大越貴志子:糖尿病黄斑浮腫に対する直接凝固併用マイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績の検討.日眼会誌116:568-574,201211)WakabayashiY,UsuiY,OkunukiYetal:Increasesofvitreousmonocytechemotacticprotein1andinterleukin8levelsinpatientswithconcurrenthypertensionanddia-beticretinopathy.Retina31:1951-1957,201112)WakabayashiY,KimuraK,MuramatsuDetal:Axiallengthasafactorassociatedwithvisualoutcomeaftervitrectomyfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci54:6834-6840,201313)MuramatsuD,WakabayashiY,UsuiYetal:CorrelationofcomplementfragmentC5awithin.ammatorycytokinesinthevitreousofpatientswithproliferativediabeticreti-nopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol251:15-17,201314)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:Aqueoushumorlevelsofcytokinesarerelatedtovitreouslevelsandpro-gressionofdiabeticretinopathyindiabeticpatients.Grae-fesArchClinExpOphthalmol243:3-8,200515)AdamisAP,MillerJW,BernalMTetal:Increasedvas-cularendothelialgrowthfactorlevelsinthevitreousofeyeswithproliferativediabeticretinopathy.AmJOph-thalmol118:445-450,199416)ShimuraM,YasudaK,ShionoT:Posteriorsub-Tenon’scapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalphotocoagulation-inducedvisualdysfunctioninpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.Ophthalmology113:381-387,2006***

My boom 61.

2017年2月28日 火曜日

自己紹介大野建治(おおの・けんじ)上野原市立病院眼科私は平成4年に東京慈恵会医科大学を卒業しました.平成9年から2年間,米国ミネソタ州にあるMayoClinicに角膜リサーチフェローとして留学しました.その後は,角膜の臨床を中心に行ってきました.以来,患者さんに満足していただくように,最良の医療をめざしています.それでも,見えなくなってしまう患者さんも出てきます.そういった理由もあり,ここ10年位はロービジョンに注目するようになりました.念願の視覚障害者用補装具適合判定医の研修会を平成21年に受け,目からウロコが落ちる体験をしました.それからは,角膜とロービジョンが私の診療の二つの柱になっています.人生も半世紀を超え,仕事と遊びのどちらも,自分がワクワクすることを続けていきたいと思っています.働く時間はしっかり働く.そして,勤務時間以外は遊びに専念し,家族との時間も大切にするというのが理想です.そのためには,時間が必要です.経済的な裕福さ以上に,自由度を優先して予定を組んでいます.地位,名誉,役職などには興味ありません.Myboom:視覚障害者スポーツロービジョンに関連して,一昨年(平成27年)の3月に国際視覚障害者スポーツクラシファイアという資格をとりました.約5年前から行っていた視覚障害者スポーツ分野での地道な活動が花開いた形です.どんなことをするのか,以下説明します.障害者スポーツには,「クラス分け」という特徴的なシステムがあります.障害が軽い選手と重い選手が一緒(103)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYに競えば,軽い選手が有利に決まっています.なので,同じ位の障害程度の選手を選んで,競い合うグループ作りをします.それがクラス分けです.視覚障害のある選手たちのクラス分けをする国際資格が,国際クラシファイアです.パラリンピックを仕切っているIPCと国際的に視覚障害者スポーツを仕切っているIBSAから出されている資格です.現在,日本には4名,世界には約60名の視覚障害の国際クラシファイアがいます.世界各地で開催される視覚障害者のスポーツ大会があると,現地に呼ばれる可能性があります.その資格を取得してから,リトアニアと韓国のピョンチャンに行きました.来月はトルコのアンタルヤに行く予定があります.あまり,観光や国際学会で行かないような所に行かれるのも楽しみです.また,クラス分けに関連して,視覚障害者スポーツ団体を支援しているので,パラリンピックをめざしているコーチや選手たちと交流しています.医者と患者の関係性と違って,友人のような水平な関係で,コーチや選手と飲みながら話をするのが楽しみの一つです.Myboom:モス(写真1)ここ数年はまっている遊びがモスです.モスは一人乗りの小さなヨットですが,すごい特徴があります.それは,風の力だけで飛ぶヨットなのです.飛ぶというのは正確ではありませんが,水中翼船のように船体のほとんどが空中に浮かんでいるので,水の抵抗が少なく,すごいスピードがでます.初めてこのモスの動画を見たときは,あまりのすごさに自分がぶっ飛びました.ぜひYouTubeで「モス,ヨット」で検索して,動画を見てみてください.見たことがない先生は驚くはずです.モスは車でいえばF1のようなもので,乗りこなすのが難しい船です.風がある程度ないと,浮かないので遅くてマヌケな船です.一方で,風が強すぎると操船困難になり,初心者の私は乗れあたらしい眼科Vol.34,No.2,2017245写真1モスという名の1人乗りの小型ヨット風の力だけで宙に浮かぶ.船体への水の抵抗がないため,最初は恐怖を感じるほどのスピードが出る.ません.ただでさえ海に行く機会がそれ程ないのに,条件が合わず,ただボーっと陸から海を眺めているだけという時も多くあります.全然うまくなれませんが,それでも,楽しいのです.モスとは違いますが,大型のヨットレース,アメリカズカップでは,日本のソフトバンクチームが挑戦しています.これも動画で検索してみてください.今,ヨットは飛ぶ時代なのです.Myboom:スキー(写真2)これは,はまっているというか,ライフワーク化しています.中学高校とスキー部で競技スキーをしていました.それ以来,ずっとスキーは続けています.スキーシーズンになれば,週末は毎週スキーに行きたいのですが,仕事や学会,家族の行事もあり,隔週で行くくらいが精一杯です.スキーでは,何といっても楽しいのが深雪,新雪です.雪質がいい深雪を滑っているときは,脳内麻薬が出ているかのような快感があります.深雪滑走中の,雲の中にいるような浮遊感がたまりません.以前参加したカナダでのヘリスキーのツアーに,また行くのが目標です.「CMHへリスキー」で検索していただくと,すごい写真が出てきますよ.Myboom:シュタイナー教育と田舎暮らし私は3人の子供に恵まれました.3人ともシュタイナー教育という教育を受けています.神奈川県の藤野という相模湖の近くの田舎町に,そのシュタイナー学園があります.シュタイナー教育はドイツのルドルフ・シュ写真2志賀高原にて何年続けていてもスキーは楽しい.寒い季節になってくると,ワクワクしてくる.タイナーの人間観に基づいた教育で,その教育を実践するシュタイナー学校は世界中にあります.子供の発達段階に応じた,知性,感情,意思を育てるための芸術的な教育を行っています(短く説明できないので,もし興味あればこれも検索してみてください).親たちの集まりが多く,お父さんの集まりも盛んです.また,藤野はもともと芸術家が多く集まる町でした.古くから住んでいる人たちと新しく移住してきた人たちがフュージョンして,面白くて活気ある町になっています.ここでは,トランジション藤野(これもぜひネット検索を)という地域活動が行われています.この町で日常的に行われている会合,飲み会も楽しみの一つです.おわりに現在まで,人との出会いを大切にしながら,流れのまま忙しく生きてきましたが,ようやく最近,自分らしい生活が送れるようになってきました.今まで多くのすばらしい人たち,先生方と出会えたおかげで,今の自分があると思っています.その素晴らしい先輩の一人,吉田希望先生を紹介します.先生は秋田大館出身ではないのに大館に住み,大館の町の発展に尽力し,秋田の子供たちのために,貴重な小児眼科の診療も行っています.次回をお楽しみに.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.246あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017(104)

二次元から三次元を作り出す脳と眼 9.神経節細胞の役割分担

2017年2月28日 火曜日

雲井弥生連載⑨二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに網膜神経節細胞は形態学的あるいは電気生理学的特徴からa(Y),b(X),g(W)の3種類に分類される1).a(Y)は野球の外野手のように大きな守備範囲から光の動きをいち早くとらえ,b(X)は球を投げ続ける投手のように静止した光のコントラスト情報を持続的にとらえる.神経節細胞は,自らが扱いを得意とする情報を光から抽出して次に伝えるという役割分担を行うことで,処理能力を上げている.投手Xと外野手Y1960年代後半に電気生理学者はネコの網膜神経節細胞に反応の異なる3種類の細胞を発見した.これらは8章で述べたON型やOFF型の性質をもちながら,さらに別の反応を示す(図1a).細胞に電極を刺入し,照射する光の形や動きを変化させて反応をみる.ある細胞はその上でスポット光を速く動かすと,一過性に強く反応する(図1a①).しかし,その後は照射が続いてもほとんど反応しない.反応の得られる範囲である受容野は比較的広い.細胞の軸索である視神経に電極を入れ,伝導速度を測ると秒速30~40mと速い.情報を送ると何事もなかったかのように元に戻る.まるで野球の外野手のように広い守備範囲(受容野)をもち,球(光刺激)が飛んでくるときだけ一過性に反応し,次に送るとあとはゆっくりしている.当時の研究者はこれをY細胞と名付けた(ここでは外野手Yとする).別の細胞は,スポット光の早い動きには反応しないが,細胞上で静止させると照射中ずっと反応している(図1a②).光が少し離れると反応がなくなり,受容野が狭いことがわかる.伝導速度も秒速15~23mとY細胞より遅い.野球の投手のようにずっと持続して球を投げているが,守備範囲は狭く,球がその範囲外へ飛ぶと動きがなくなる.研究者はX細胞と名付けた(ここでは投手Xとする).X細胞より守備範囲は広いものの伝導(101)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY速度は逆に遅い細胞もあり,W細胞と名付けられた.これらの研究と平行して形態学的特徴も調べられ,やはり3種類に分類された.細胞体が大きく,アンテナである樹状突起の広がりも大きく,軸索も太いa細胞,細胞体も樹状突起の広がりも小さく,軸索も細いb細胞,細胞体がもっとも小さい一方で樹状突起の広がりは大きいg細胞である(図1a①②③).軸索が太い=伝導速度が大きい,受容野が広い=樹状突起の広がりが大きい,と考えられることから,a細胞=Y細胞,b細胞=X細胞,g細胞=W細胞と推測されてはいたが,実際に証明されたのは随分のちのことである.g(W)については反応の異なる何種類かのサブタイプが存在し,a(Y)やb(X)のような均一な集団ではないと今日考えられている.神経節細胞がいくつかのタイプに分かれるのにはどのような意味があるのだろうか.光情報には,その動きや速さ・コントラスト・色などさまざまな要素が混ざっている.外野手Yは大きな守備範囲から光の動きをいち早くとらえ,投手Xは静止した光のコントラスト情報をゆっくり確実にとらえる.次の中継地点である外側膝状体への伝達もYがXより速い.膨大な量の光情報から,自らが扱いを得意とするものを抽出して伝達することで処理能力を上げることができる.霊長類の神経節細胞1,2)1970年代後半,サルを使った実験で,神経節細胞にネコのa(Y),b(X),g(W)に形態学的にも電気生理学的にもよく似た細胞が認められ,Pa,Pb,Pgとよばれるようになった(図1b).Pはprimateの頭文字である.細胞体の形からPaはparasol,Pbはmidgetともよばれるが,ここではわかりやすいようにPa(Y),Pb(X)を用いる.霊長類では,色情報がネコより格段に増え,ONやOFFの反応,XやYの反応にさらに色の要素が加わる.あるPb(X)では受容野中心野を赤のスポット光で刺激あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017243a.ネコb.霊長類電気生理学的特徴形態学的特徴特徴投射部位機能①外野手Y細胞a細胞①Pa(Y)細胞大細胞系(M系)(周辺野もつ細胞あり?)図1網膜神経節細胞の分類a:ネコ.形態学的あるいは電気生理学的特徴からa(Y),b(X),g(W)の3種類に分類される.b:霊長類.Pa(Y)は大きな物体の動きや光のちらつきを,Pb(X)は小さな物体のコントラストや色の情報を抽出して脳内へと伝達する.近年発見されたK系は青色の情報に関係すると考えられる.するとON,周辺野を緑のドーナツ型の光で刺激するとOFFの反応など,色によって異なる反応が認められる(図1b②).Pa(Y)では色による反応差は認められない(図1b①).*刺激光の色(波長)によってON,OFFなど対立する反応を示すような細胞を色対立細胞(coloroppo-nentcell:C-Ocell)とよぶ.Pb(X)は色対立を示す.*Pa(Y)は刺激光の色(波長)にかかわりなく,ON・OFFの反応を示す.これを広帯域細胞(broad-bandcell:B-Bcell)とよぶ.Pa(Y),Pb(X)へ抽出分離された情報は,最終的にその処理をもっとも得意とする脳内の場所に運ばれる.そのために情報が外側膝状体から後頭葉第一次視覚野へと伝達される中で,少しずつ異なった道へ誘導されていく.細胞体の大きなPaは外側膝状体大細胞層1.2層へ,細胞体の小さなPbは外側膝状体小細胞層3,4,5,6層へ.前者は大きな細胞の経路という意味で大細胞系(M系,magnocellular系),後者は小細胞系(P系,parvo-cellular系)とよばれ,視覚情報処理の二つの大きな経路と考えられている.その最初の分岐点は神経節細胞なのである.近年特殊な形の神経節細胞bistrati.edganglioncellが青色にON,黄色にOFFの反応を示すことが明らかとなった(図1bNew).樹状突起を内網状層内層と外層に伸ばすため(前号8.参照),bistrati.edとよばれる.その軸索は外側膝状体の大・小細胞層の層間(K層,koniocellular層)に到達する.Pgとの関連など詳細は不明である.外側膝状体については次章で詳述する.文献1)福田淳,佐藤宏道:網膜神経節細胞の機能分化.脳と視覚─何をどう見るか.p70-84,共立出版,20022)LukasiewicsPD,EggersED:Signalprocessingintheinnerretina.Adler’sphysiologyoftheeye,11thedition(editedbyKaufmanPL,AlmA),p471-479,Elsevier,2011244あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017(102)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 165.von Hippel-Lindau病に対する硝子体手術(中級編)

2017年2月28日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載165165vonHippel-Lindau病に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●vonHippel.Lindau病の眼所見vonHippel-Lindau病(VHL)は網膜血管腫を含め,脳,脊髄の血管芽腫,腎癌など,多臓器に悪性腫瘍を生じる先天性疾患で,常染色体優性遺伝を呈する.網膜血管腫の発生部位としては,眼底周辺部に90%,視神経乳頭上または傍乳頭部が10%程度である.VHLの周辺部網膜血管腫に対する治療としてはレーザー光凝固が一般的であるが,牽引性網膜.離が進行するような症例では硝子体手術の適応となることがある.筆者らは,以前に光凝固後の増殖性変化により牽引性網膜.離を生じたVHLに対し,硝子体手術を施行した1例を経験し報告したことがある1).●症例44歳,男性.19歳の頃,小脳,胸椎,腰椎の血管芽腫に対して複数回の手術歴がある.右眼網膜血管腫に対して他院で光凝固の既往がある.当科受診時,右眼は耳側上方周辺部に2および3.5乳頭径大の連続した網膜血管腫を認め,周囲にフィブリン析出と,後極に及ぶ滲出性網膜.離を認めた(図1).滲出性網膜.離はステロイドのTenon.注射でいったん軽快したが,その後炎症が再燃し,血管腫に連続する増殖膜形成により黄斑部を含む牽引性網膜.離が生じてきたため(図2),硝子体手術を施行した.手術は水晶体切除,硝子体切除後に,周辺部の血管腫を硝子体剪刀で摘出し,後極側の3.5乳頭径大の血管腫に対しては眼内レーザーを施行した.血管腫の後極の牽引性網膜.離部位には肥厚した後部硝子体膜を認めたため,確実に人工的後部硝子体.離を作製した.術後牽引性網膜.離は復位し,視力は(0.03)から(0.6)に改善した(図3).●vonHippel.Lindau病に伴う網膜血管腫に対する硝子体手術適応一般に大きさが2乳頭径以内の周辺部の血管腫は,光(99)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1初診時の右眼眼底写真耳側上方周辺部に2および3.5乳頭径大の連続した網膜血管腫を認め,周囲にフィブリン析出と,後極に及ぶ滲出性網膜.離を認めた.(文献1より転載引用)図2初診5カ月後の右眼眼底写真血管腫に連続する増殖膜形成により,黄斑部を含む牽引性網膜.離が生じた.(文献1より転載引用)図3硝子体手術後の右眼眼底写真術後牽引性網膜.離は復位し,視力は(0.03)から(0.6)に改善した.(文献1より転載引用)凝固が第一選択となるが,巨大な血管腫や,乳頭近傍の血管腫では治療に苦慮することが多く,経強膜冷凍凝固,経瞳孔温熱療法,光線力学療法,抗VEGF療法などを行うこともある.また,硝子体出血や黄斑上膜,牽引性網膜.離などを生じた場合には硝子体手術の適応となる.血管腫に対しては術中に直接眼内光凝固やジアテルミーを行うが,再発することもあり,根治を目的に腫瘍を摘出したとする報告もある.また,硝子体切除のみでは網膜の伸展が得られない牽引性網膜.離例に対しては,強膜バックリング手術や網膜切開を併用することもある.本提示例の周辺側の血管腫は退縮傾向であったために摘出したが,後極側の血管腫は3.5乳頭径と大きく,切除による合併症を考慮し,眼内光凝固を行った.術中に.離除去した肥厚した後部硝子体膜が牽引性網膜.離の主因と判断し,網膜切開は行わなかった.文献1)SuzukiH,KakuraiK,MorishitaSetal:VitrectomyfortractionalretinaldetachmentwithtwinretinalcapillaryhemangiomasinapatientwithvonHippel-Lindaudis-ease:Acasereport.CaseRepOphthalmol7:333-340,2016あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017241

弱視と斜視のABC 6.間欠性外斜視の評価と手術適応

2017年2月28日 火曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保6.間欠性外斜視の評価と手術適応西川典子旭川医科大学眼科学講座間欠性外斜視は,外斜位と外斜視を併せもつ斜視であり,患者は小児から高齢者まで幅広い.診療では斜視角,眼位コントロール状態,両眼視機能を評価し,症状(複視や眼精疲労)の有無,整容面の希望を聴取する.手術適応については,これらの評価と術後に“戻り”が生じる問題を考慮し,総合的に判断することが重要である.はじめに間欠性外斜視はアジア人にもっとも多い斜視といわれ,日常診療において遭遇する機会が多い.診察では斜視角,眼位を斜位に維持できる程度(眼位コントロール状態)など運動面の評価と両眼視機能検査により,感覚面の評価を行う.間欠性外斜視の診断間欠性外斜視は,必ず外斜視と外斜位の両方の状態がみられる.遠見が常に斜視であっても,近見で斜位がみられれば間欠性外斜視である.自宅で眠いときや疲れたときに外斜視がみられても,診察室では斜視が出現しにくい場合がある.その際はカバーテストを長くする,斜視が出現しやすい明るい場所(窓際など)で検査する,家庭での写真をみせてもらうなどの工夫をする.間欠性外斜視の検査1.視力検査年齢に応じた視力検査,他覚的屈折検査を行い,必要であれば弱視治療や眼鏡処方を行う.適切な屈折矯正により眼位コントロールが改善する場合がある.成人の間欠性外斜視では,両眼視時に輻湊性調節により近視化(斜位近視)がみられる場合があり,両眼開放視力検査も重要である.2.眼位・眼球運動検査眼位の定性検査としてHirschberg法,遮閉.非遮閉試験,交代遮閉試験を行う.眼球運動検査は,むき運動(両眼共同運動),ひき運動(単眼運動),輻湊と開散運動を行う.斜視角が大きく,検査時に顕性の外斜視になっている症例では,むき運動検査では内転制限があるようにみえることがあり注意を要する.片眼を遮閉し,ひき運動検査で制限がないか確認する必要がある.9方向むき眼位検査では,内転時の上転過剰(下斜筋過動)や(97)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY内転時の下転過剰(上斜筋過動)の有無,上方視と下方視のずれの差によるA-Vパターンの有無を確認する.3.斜視角の測定斜視角は,遠見と近見の交代プリズム遮閉試験を行い測定する.遮閉試験は,最大斜視角を引き出すために,十分なカバーと,素早く遮閉を移動し融像をさせない工夫が重要である.遠見と近見の斜視角の差(10~15Δ)により,基礎型,輻湊不全型(近見>遠見),開散過多型(近見<遠見)に分類され,術式選択の参考とする.また,術前検査では,片眼遮閉後測定やプリズムアダプテーションテストを行い,隠れた偏位(maskeddevia-tion)を引き出すことが重要である.4.コントロール状態の評価眼位コントロールの評価を点数化する方法が提唱されている.代表的なものを二つ紹介する.NewcastleControlScore(NCS)(表1)1)は,診察時の遠見,近見の評価に加えて自宅でのコントロール状態をそれぞれ0~3点に評価し合計する.MayoClinicO.ceControlScore(表2)2)は,診察時の遠見,近見の状態をより細かく0~5点で評価する.いずれも点数が高いほど,外斜視のコントロールは不良となる.実際に手術適応となった症例は,NCSによる評価で4点以上であったと報告されている3).5.両眼視機能間欠性外斜視は,一般的に両眼視機能は良好であるといわれるが,外斜視時の複視を避けるために抑制が出現する.抑制は,斜視時のみではなく斜位時にもあり,眼位コントロールに影響すると報告されている4).立体視検査としては,一般的なTitmusstereotest(TST)に加え,RandotPreschoolStereoacuityTestなどのランダムドットパターンの検査法がある.TSTは,monocularcue(片眼の手がかり)による疑陽性の問題があり,ランダムドットパターンの検査では,疑陽性があたらしい眼科Vol.34,No.2,2017239表1NewcastleControlScore点数自宅での観察外斜視/片目つむりにまったく気づかない外斜視/片目つむりにたまに気づく(遠見の50%以下)外斜視/片目つむりにたまに気づく(遠見の50%以上)外斜視/片目つむりに近見でも気づく診察室で近見時遮閉で顕性になるが,瞬きせずに戻る遮閉で顕性になるが,瞬きや促しで戻る遮閉で顕性になり,戻らない自然に顕性になり,戻らない診察室で遠見時遮閉で顕性になるが,瞬きせずに戻る遮閉で顕性になるが,瞬きや促しで戻る遮閉で顕性になり,戻らない自然に顕性になり,戻らない012301230123合計点点ないという利点はあるが,小児や高齢者では立体視があるにもかかわらず検出されない場合がある.間欠性外斜視では,近見の眼位コントロールが良好な場合に近見立体視も60″以下の正常立体視を示すものが多く,手術時期や予後を評価するためには遠見立体視の測定も推奨されている.網膜対応検査は,術後の複視予測のために術前検査として行う.斜視角をプリズムで光学的に矯正し,同側性複視の有無やBagolini線条レンズを用いて対応検査を行う.プリズム装用下で,眼位と一致しない同側性複視を訴える場合も,プリズムを長時間装用することにより複視が消失する場合もあるので,Fresnel膜プリズムを貸し出して確認するとよい.間欠性外斜視の手術適応間欠性外斜視の手術適応として,①本人や家族が整容的に手術を希望,②両眼視機能やコントロール状態が不良,あるいは悪化した場合,③複視や眼精疲労などの眼症状がある場合があげられる.小児では,一般的に斜視時は抑制がかかり複視を自覚することは少なく,①と②が手術目的となる.成人や,年齢の高い小児で複視などの症状がある場合は,①と③が手術目的となる.外斜視に伴う整容面での問題として,自尊心や自信の喪失など心理学的な負の影響や,他者からの評価が低くなり就労に不利,あるいは小児においても偏見の原因となるなどの報告があり,斜視手術適応の大きな要素となる.240あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017表2MayoClinicControlScore点数530秒以上の恒常性外斜視4遮閉前の30秒間の観察中,外斜視の時間>50%3遮閉前の30秒間の観察中,外斜視の時間<50%2遮閉(10秒間)しなければ外斜視にならない,斜位へ戻る時間>5秒1遮閉(10秒間)しなければ外斜視にならない,斜位へ戻る時間1<5秒0遮閉(10秒間)の遮閉後,斜位へ戻る時間<1秒(phoria)間欠性外斜視の手術時期小児の場合,低年齢の手術では術後内斜視による弱視や両眼視機能消失などの問題が生じる可能性が高いとされ,一般的に4歳以降の手術が推奨されている.それ以降の手術時期については,正常立体視獲得のために7歳までの手術を推奨する報告,あるいは局所麻酔手術が可能な年齢以降の手術を推奨する意見もあり,議論が分かれている.しかし,実際には,保護者が就学前の手術を希望する場合が多く,わが国における小児間欠性外斜視の多施設研究5)によると,手術施行年齢は5~8歳(平均6.7歳)がもっとも多く,学校生活との関連が指摘されている.成人の場合はとくに手術時期の制限はない.おわりに間欠性外斜視は,手術により斜視角,両眼視機能は改善するが,多くの症例で“戻り”がみられるという問題もある.手術適応は,患者の年齢や背景,治療に対しての希望を理解し,治療の効果と限界を十分に説明したうえで決定することが重要である.文献1)BuckD,ClarkeMP,HaggertyHetal:Gradingthesever-ityofintermittentdistanceexotropia:therevisedNew-castleControlScore.BrJOphthalmol92:577,20082)MohneyBG,HolmesJM:Ano.ce-basedscaleforassess-ingcontrolinintermittentexotropia.Strabismus14:147-150,20063)鷲山愛,藤田由美子,浅野麻衣ほか:NewcastleControlScoreによる間欠性外斜視の評価について.眼臨紀3:52-55,20104)WakayamaA,NakadaK,AbeKetal:E.ectofsuppres-sionduringtropiaandphoriaonphoriamaintenanceinintermittentexotropia.GraefesArchClinExpOphthalmol251:2463-2469,20135)初川嘉一,仁科幸子,菅澤淳ほか:小児の間欠性外斜視に対する後転短縮術の治療成績.多施設共同研究.日眼会誌115:440-446,2011(98)

眼瞼・結膜:副涙腺と服涙腺囊胞

2017年2月28日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人小幡博人23.副涙腺と副涙腺.胞埼玉医科大学総合医療センター眼科結膜下には小さな漿液腺が存在し,副涙腺とよばれる.副涙腺にはKrause腺とWolfring腺がある.副涙腺由来の.胞性病変を副涙腺.胞とよぶ.副涙腺.胞はまれであるが,瞼板に沿った瞼結膜や結膜円蓋部に球状で半透明の壁をもつ.胞性病変は,副涙腺.胞を考える.●副涙腺とは涙腺は眼窩に存在する主涙腺(mainlacrimalgland)と結膜下に存在する副涙腺(accessorylacrimalgland)に分類される.副涙腺は小さな漿液腺で,細隙灯顕微鏡による同定は困難である.ヒトの副涙腺にはKrause腺とWolfring腺の2種類がある1).Krause腺は結膜円蓋部に存在し,Wolfring腺は瞼板(マイボーム腺)の端に隣り合って存在する(図1~3).Krause腺はWolfring腺より小さく,その数は,上方で約20個,下方で約8個といわれている.Wolfring腺の数は,上方で2~5個,下方で2個といわれている.副涙腺は小さな腺組織であ図1上眼瞼の解剖のシェーマWolfring腺は瞼板(マイボーム腺)の端に隣り合って存在し,Krause腺は結膜円蓋部に存在する.るが,導管が結膜上皮面に開口している.●副涙腺.胞とは眼表面には,結膜.胞(conjunctivalcyst)や涙腺導管.胞(lacrimalductalcyst,dacryops)など上皮由来図2Wolfring腺の組織像51歳,男性.HE染色.Wolfring腺は瞼結膜上皮下でマイボーム腺と隣接して存在する.Wolfring腺マイボーム腺図3Krause腺の組織像67歳,男性.HE染色.円蓋部結膜の上皮下に小さな涙腺組織はKrause腺とよばれる.(95)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.34,No.2,2017237図4副涙腺.胞84歳,男性.下眼瞼の瞼板に沿って.胞がみられる.自覚症状はなく,無治療である.の.胞ができることがある2,3).涙腺導管.胞は,主涙腺の導管の閉塞により,涙液が貯留し.胞状に拡大した貯留.胞(retentioncyst)と考えられており,主涙腺がある上外側の結膜円蓋部にみられる.同様の機序で,副涙腺由来と考えられる副涙腺.胞(cystoftheaccesso-rylacrimalgland)という病態も以前から知られている4~9).副涙腺.胞は稀ではあるが,瞼板に沿った瞼結膜や,結膜円蓋部に球状で半透明の壁をもつ.胞性病変は,副涙腺.胞と考えられる(図4,5).症状がなければ無治療でかまわないが,違和感や眼瞼が隆起するほど大きいものは治療の対象となる.針による穿刺・吸引では,再び液体が貯留し,再発することがあるので,.胞の全摘出が望ましい.文献1)小幡博人:眼瞼の解剖.副涙腺.眼科45:925-929,2003図5巨大な副涙腺.胞61歳,男性.上眼瞼腫脹を主訴に来院.上眼瞼を翻転すると大きな.胞性病変がみられた.副涙腺.胞と診断し,切除した.2)江口功一:結膜.胞.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),医学書院,p259-261,20153)江口功一:涙腺導管.胞.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),医学書院,p262-264,20154)DuranJA,CuevasJ:Cystofaccessorylacrimalgland.BrJOphthalmol67:485-486,19835)BullockJD,FleishmanJA,RossetJS:Lacrimalductalcysts.Ophthalmology93:1355-1360,19866)WeatherheadRG:Wolfringdacryops.Ophthalmology99:1575-1581,19927)O’Du.yD,WattsP:Wolfringdacryopsandneedling.ActaOphthalmolScand75:319,19978)JastrzebskiA,BrownsteinS,JordanDRetal:DacryopsofKrauseglandintheinferiorfornixinachild.ArchOph-thalmol130:252-254,20129)Galindo-FerreiroA,AlkatanHM,Muinos-DiazYetal:Accessorylacrimalglandductcyst:23yearsofexperi-enceintheSaudiPopulation.AnnSaudiMed35:394-399,2015☆☆☆238あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017(96)

抗VEGF治療:31ゲージ針による硝子体内注射

2017年2月28日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二37.31ゲージ針による硝子体内注射永井由巳関西医科大学眼科学教室近年,滲出型加齢黄斑変性などの血管新生黄斑症や,網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症による黄斑浮腫などへのVEGF阻害薬の硝子体内投与が急増し,今後も増加すると思われる.数多くの症例に注射を行うにあたり,侵襲が小さく,患者の痛みも軽減できる31ゲージ針を用いるようにしている.らない31G針を開発し,2016年から用いている.31G針と30G針との比較現在,当科で使用している31G針は,刺入時の侵襲を低くするために細くする一方で,薬剤注入時の抵抗が高くならないように内腔面積を30G針より狭くならないように開発した南部化成株式会社製作のものである.従来から硝子体内注射時に広く使用されている30Gニプロ製ディスポーザブル眼内注射針(製品コード00-221,以下,30G針)と当科で使用している31G針の検証結果5)に基づいて,30G針と31G針との比較結ジャンクション部果を述べる.(93)あたらしい眼科Vol.34,No.2,20172350910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1穿刺抵抗-カヌラ評価箇所の位置関係はじめに近年,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の作用を阻害するVEGF阻害薬が登場し,眼底疾患,とくに黄斑疾患の治療における硝子体内注射の件数が増加している.最初は加齢黄斑変性のみであった適応疾患も,近視性血管新生黄斑症,網膜中心静脈閉塞症,網膜静脈分枝閉塞症や糖尿病網膜症による黄斑浮腫へと広がり,適用外使用であるが未熟児網膜症や血管新生緑内障に対しても有効性を示し,今後さらに硝子体内注射の件数は増加するものと考えられる.硝子体内注射を行う際には,硝子体内注射ガイドライン1)に記載されている30ゲージ(G)針を多くの施設で使用しているが,どの疾患でも単回投与で治癒する症例は少なく,複数回投与になることが多い.複数回行うことが多い硝子体内注射による強膜などの組織損傷や穿刺時の抵抗を軽減させ,患者の疼痛も緩和させるため,さらに細い注射針を用いることが望ましい.すでに30G針より細い針の報告はある2~4)が,当科では内腔の面積はこれまでどおりに確保でき,しかも注入時抵抗が上が注射針の外径は30G針が0.30mmで,31G針では0.26mmと.13.3%細くなったが,内径は0.13mmから0.16mmと23.1%拡大し,薬剤注入時の抵抗が小さくなるようになっている(表1).穿刺時の抵抗値を30Gと31Gそれぞれについて,ポリウレタンフィルム(実際の硝子体注射時とほぼ同じ穿刺時の感覚であった厚さ0.3mm,硬度93±3JISA)と豚眼とで測定して比較した.穿刺時抵抗測定は,イマダ製の最大荷重5Nのデジタルプッシュプルゲージを装着したオートグラフ/万能試験機を使用し,測定時の穿刺速度は20mm/minとした.どちらの針も構造的に先端部,ジャンクション部,アゴ部,胴部とがみられ,その部位ごとの抵抗値を測定した(図1).30G針,31G針表1従来品と検討した針の仕様比較表ゲージ外径内径長さ(G)(mm)(mm)(mm)30ゲージ針(従来品)300.300.131931ゲージ針310.260.1612abab808080707070606060505050404040穿刺抵抗(gf)穿刺抵抗(gf)穿刺抵抗(gf)穿刺抵抗(gf)3030302020201010100000.00.51.01.52.02.53.00.00.51.01.52.02.53.0ストローク(mm)ストローク(mm)ストローク(mm)ストローク(mm)図230G針・31G針によるポリウレタンフィルム穿刺実図3豚眼における穿刺抵抗測定結果験の結果a:30G針(従来品)による穿刺結果.b:31G針による穿刺a:30G針(従来品)による穿刺結果.b:31G針による穿刺結果.結果.F0:先端部,F1:ジャンクション部,F2:アゴ部,F3:胴部.臨床症例における使用表230G針と31G針とのポリウレタンフィルム穿刺時抵抗値(gf)の結果この31G針を関西医科大学附属病院眼科で硝子体内0.02.04.06.08.010.012.00.02.04.06.08.010.012.030G針平均値(n=5)31G針平均値(n=5)現行品との比較F0(先端部)47.8gf30.8gf.36%F1(ジャンクション部)59.7gf41.6gf.30%F2(アゴ部)59.8gf59.6gf0%F3(胴部)5.1gf4.2gf.17%合計172.3gf136.1gf.21%注射を受けた患者40人に使用した.注射施行医師10名がそれぞれ4名の患者に注射したが,患者には従来の30G針から31G針に変更したことは告げずに行った.注射後,各医師がこれまでの眼球刺入時の痛みとの比較を聞き取り調査した.結果として,31G針で注射を受けた患者の半数で,これまでの注射時よりも痛みが小さいとの感想を得た.使用した10名の医師からも,従来の30G針よりも刺入時の抵抗が少なく,抜去時の刺入部かをポリウレタンフィルムに穿刺した結果を図2と表2とに示す.どちらの針による穿刺時でも先端部,ジャンクション部と抵抗値が上がり,アゴ部が穿通するときに最大の抵抗値を示した.F0(先端部)の穿刺抵抗は30G針に比べて31G針では36%低減しており,穿刺抵抗およびストロークが小さくなっていることから切れ味が改善されていることがわかる.F1(ジャンクション部)先端刺入後からジャンクション部を乗り越えるまでの穿刺抵抗についても30%低減して改善されていた.F3(胴部)についての穿刺抵抗は30G針より31G針で17%低減していた.豚眼に穿刺した際にも抵抗値は30G針よりも31G針が低い値を示し,31G針のほうが最大穿刺抵抗値は46%低減していた(図3).また,ポリウレタンフィルムに穿刺した後,フィルムを縦方向に伸長して穿刺口を開口させ,穿刺痕の写真撮影を行った.それぞれの針で5回ずつ穿刺したところ,30G針ではカット長が平均0.285mmであったのに対して,31G針のカット長は平均0.235mmと0.05mmと短かった.236あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017らの逆流もほとんど認めなかったという感想を得た.おわりにこの31G針を用いると,繰り返し行うことが多い硝子体内注射を受ける患者への侵襲を小さくすることができ,注射時の痛みの軽減や創口の狭小化による感染リスクの低減を図ることができると思われ,より硝子体内注射を安全に行うことに寄与できると思われる.文献1)永井由巳:抗VEGF薬投与時の注意点.あたらしい眼科30:1689-1693,20132)PulidoJS,ZobitzME,AnKN:Scleralpenetrationforcerequirementsforcommonlyusedintravitrealneedles.Eye(Lond)21:1210-1211,20073)HultmanDI,NewmanEA:Amicro-advancerdeviceforvitrealinjectionandretinalrecordingandstimulation.ExpEyeRes93:767-770,20114)EatonAM,GordonGM,WafapoorHetal:Assessmentofnovelguardedneedletoincreasepatientcomfortanddecreaseinjectiontimeduringintravitrealinjection.Oph-thalmicSurgLasersImagingRetina44:561-568,20135)永井由巳,髙橋寛二,篠田明宏ほか:侵襲の少ない硝子体内注射用針の開発.あたらしい眼科33:1784-1788,2016(94)

緑内障:前眼部OCTによる虹彩形状と隅角開大度の評価

2017年2月28日 火曜日

●連載200監修=岩田和雄山本哲也200.前眼部OCTによる虹彩形状と広瀬文隆神戸市立医療センター中央市民病院眼科隅角開大度の評価前眼部OCTを用いて前眼部構造の定量的な評価を行うと,明暗の生理的な瞳孔変化に伴って暗所で虹彩根部厚の増大と隅角の狭小化を認め,その変化量は互いに相関していた.また,閉塞隅角眼では,虹彩根部厚が大きいほうが虹彩膨隆度は小さくなっていた.このように,虹彩形状は閉塞隅角の病態に大きな影響を与えると考えられる.●前眼部OCTを用いた隅角評価原発閉塞隅角症および原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)の早期発見と病型判定のためには,隅角形態の評価がきわめて重要である.その基本となる隅角鏡検査では,細隙灯顕微鏡の観察光が影響すると縮瞳し,隅角付近の構造も変形するため,暗所での隅角の精密な評価はむずかしい.近年普及してAOD(angleopeningdistance):強膜岬から500μm前方における線維柱帯面~角膜後面と虹彩前面の距離.TISA(trabecular-irisspacearea):強膜岬と虹彩前面を結ぶ線分とAODに相当する線分で囲まれた隅角領域の面積.IT(iristhickness):AODに相当する線分の後端における虹彩前面から虹彩後面の距離.(文献1より改変引用)(91)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY水晶体因子と水晶体後方因子(毛様体因子)の四つのメカニズムがあげられるが,多くの症例では複数の機序が関係するマルチメカニズムな疾患である.前眼部OCTを用いた隅角や虹彩の形状評価により,各症例でどのメカニズムが優位に関係しているかを判定するために必要な解剖学的情報を得ることができる.a.閉塞隅角群b.開放隅角群AOD(明所)-AOD(暗所)(mm)AOD(明所)-AOD(暗所)(mm)0.250.20.150.10.050-0.05-0.1IT(明所)-IT(暗所)(mm)0.30.250.20.150.10.050-0.05-0.1IT(明所)-IT(暗所)(mm)きた前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)による前眼部画像検査では,可視光を用いないため暗所でも高解像度の前眼部断面像の取得が可能となり,定量的,客観的に隅角形態を評価できる.PACGの発症機序には瞳孔ブロック,プラトー虹彩,R=-0.411R=-0.501p<0.001p=0.001図2虹彩根部厚(IT)とAOD500の明暗の変化量の関係(文献1より改変引用)IT(明所).IT(暗所):明所と暗所のITの変化量.AOD(明所).AOD(暗所):明所と暗所のAOD500の変化量.a.閉塞隅角群TISA(明所)-TISA(暗所)(mm2)b.開放隅角群0.060.050.040.030.020.010-0.01-0.020.120.10.080.060.040.02-0.02IT(明所)-IT(暗所)(mm)IT(明所)-IT(暗所)(mm)図1前眼部OCTによる隅角開大度の解析R=-0.475R=-0.462p<0.001p=0.002図3虹彩根部厚(IT)とTISA500の変化量の関係IT(明所).IT(暗所):明所と暗所のITの変化量.TISA(明所).TISA(暗所):明所と暗所のTISA500の変化量.(文献1より改変引用)あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017233明所暗所0.60.60.50.50.4虹彩根部厚(IT)(mm)0.20.1000.30.20.1000.10.20.30.40.50.60.10.20.30.40.50.60.7虹彩膨隆度(IC)(mm)虹彩膨隆度(IC)(mm)R=-0.403R=-0.391p<0.001p<0.001図5閉塞隅角群の明所,暗所における虹彩膨隆度(IC)と虹彩根部厚(IT)の関係(文献3より改変引用)図4前眼部OCTによる虹彩形状の解析IC(irisconvexity):瞳孔縁と虹彩根部を結んだ平面から虹彩後面までの最大距離.IT(iristhickness):AODに相当する線分の後端に虹彩の前方弯曲の程度は虹彩膨隆度(irisconvexity:IC)とよばれ,瞳孔ブロック力の指標と考えられている2).おける虹彩前面から虹彩後面の距離.●虹彩根部厚と隅角開大度の変化量の関係暗所で生理的な散瞳が起こると虹彩の形態は変化し,隅角が狭小化する傾向にあることはよく知られているが,その虹彩形状と隅角狭小化の詳細な関係は不明な点が多い.筆者らは前眼部OCT(Visante)を用いて明所と暗所の前眼部断面像を撮影し,隅角開大度と虹彩根部厚の明暗の変化量の関係を定量的に評価した1).閉塞隅角群110例110眼(原発閉塞隅角症疑い51眼,原発閉塞隅角症32眼,PACG27眼),開放隅角群43例43眼(原発開放隅角緑内障43眼)を対象に,瞳孔径,虹彩根部厚(iristhickness:IT),隅角開大度のパラメータであるAOD500(angleopeningdistanceat500μm),TISA500(trabecular-irisspaceareaat500μm)を計測した(図1).各パラメータの明暗の変化量を比較すると,閉塞隅角群,開放隅角群ともに虹彩根部厚の変化量とAOD500,TISA500の変化量がそれぞれ有意な相関を認め,虹彩根部厚の変化量が大きいほど,隅角開大度の変化量も大きかった(図2,3).この結果から,暗所での生理的な散瞳に伴う隅角の狭小化に,虹彩根部厚の増大が影響することが定量的に示された.●虹彩根部厚と虹彩膨隆度の関係散瞳すると隅角が狭くなる機序は,虹彩根部厚の増大に加えて虹彩の前方弯曲も関係する可能性が高い.この筆者らは閉塞隅角群118例118眼(原発閉塞隅角症疑い65眼,原発閉塞隅角症40眼,PACG13眼),開放隅角群40例40眼(原発開放隅角緑内障40眼)を対象に,前眼部OCTを用いてITとICを暗所で測定した3)(図4).ITとICは閉塞隅角群では有意な負の相関を認めた(図5)のに対して,開放隅角群では有意な相関を認めなかった.つまり閉塞隅角眼では虹彩根部厚が大きいほうが虹彩膨隆度は小さく,その機序として,相対的瞳孔ブロックによって虹彩が前方へ膨隆すると,虹彩が伸展されて薄くなっている可能性がある.厚い虹彩では剛性が増すため,後房圧が上昇しても虹彩が前方へ弯曲しにくいと考えられる.このように,前眼部OCTを用いた虹彩形状の解析は閉塞隅角機序の理解に有効であり,虹彩形状の変化は原発閉塞隅角の病態に与える影響は大きいと考えられる.文献1)HiroseF,HataM,ItoSetal:Light-darkchangesiniristhicknessandanteriorchamberanglewidthineyeswithoccludableangles.GraefesArchClinExpOphthalmol251:2395-2402,20132)NonakaA,IwawakiT,KikuchiMetal:Quantitativeevaluationofirisconvexityinprimaryangleclosure.AmJOphthalmol143:695-697,20073)MatsukiT,HiroseF,ItoSetal:In.uenceofanteriorsegmentbiometricparametersontheanteriorchamberanglewidthineyeswithangleclosure.JGlaucoma24:144-148,2015234あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017(92)

屈折矯正手術:多焦点眼内レンズ手術後のLASIKタッチアップ

2017年2月28日 火曜日

監修=木下茂●連載201大橋裕一坪田一男201.多焦点眼内レンズ手術後の福本光樹南青山アイクリニックLASIKタッチアップ多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は,厚生労働省の定める先進医療に認定されたものもあり,症例数が増加している.遠方ならびに近方の裸眼視力に対して患者の要求度が高く,光学式眼軸長測定装置などにより精度は向上しているが,術後の屈折誤差は無視できない問題であり,LASIKなどによる矯正は有用であると考える.●はじめに白内障手術は,ただ単に水晶体混濁を除去し矯正視力を改善させる手術から,裸眼視力を含めたqualityoflife(QOL)の向上が求められる手術となっている.そのため眼内レンズ度数計算の精度向上は必須である.光学式眼軸長測定装置や角膜形状解析装置などの出現により精度の向上が認められているが,屈折誤差は避けられない.多焦点眼内レンズを選択する患者は裸眼での生活にこだわりが強い場合が多く,さらにわずかの屈折誤差が裸眼視力の低下や患者満足度に大きな影響を与える.屈折誤差に対する手術的矯正には,①眼内レンズ交換,②piggy-backlens挿入,③LASIKによるタッチアップがあるが,精度面において③がより微調整が可能である.●適応と注意点手術適応に関してはほぼ通常LASIKと同様であると考えてよいが,矯正量が多過ぎると高次収差の増加に伴う視機能低下に注意することや,加齢性黄斑変性や後発白内障など視力に影響する疾患の有無を確認することはより重要である.角膜の不正乱視や非対称を伴う症例にはtopo-guidedLASIKが推奨される.Wavefront-guidedLASIKについても測定装置の向上により可能な症例が増加している1).角膜創傷治癒と屈折の安定を考慮し,基本的に白内障手術後3カ月以上経過してからタッチアップを施行している.手術方法についても通常のLASIKと同様であるが,対象が高齢者の場合が多いため,より注意が必要である.狭瞼裂や瞼裂斑,結膜弛緩,角膜混濁が高度の症例は,フェムトセカンドレーザーでの角膜切開が不可能,不良になる可能性が高くなり,マイクロケラトームの使用やレーザー屈折矯正角膜切除(photorefractivekeratectomy:PRK)を考慮する.●症例と結果2008年7月~2016年2月に当院で多焦点眼内レンズ挿入術を施行した405例695眼のうち,タッチアップ施行症例は65例95眼(13.7%),年齢は62.4±10.3歳であった.多焦点眼内レンズ挿入後の等価球面度数は.0.05±0.55D,絶対値平均0.36±0.42Dと,全体として術後屈折度数は良好であった.白内障手術後227.48±219.41日(81~1,596日)にタッチアップを施行した.内訳は,近視性乱視28眼,遠視性乱視32眼,混合乱視35眼で,矯正度数は等価球面度数.2.875~1.625D,円柱度数は.2.25~0Dであった.すべてLASIKによるタッチアップで,エキシマレーザー照射方法は95眼中16眼がtopo-guided照射,残りはコンベンショナル照射で,術中合併症はとくに認めなかった.タッチアップ前と術後3カ月で比較したところ,自覚等価球面度数の絶対値は近視性乱視と遠視性乱視で改善を認め(図1),自覚乱視度数の絶対値はすべてにおいて改善を認めた(図2).遠方裸眼視力は近視性乱視で改善を認め(図3),近方裸眼視力は遠視性乱視と混合乱視で改善を認めた(図4).満足度は,とても満足(14.3%),満足(54.3%),やや不満(25.7%),不満(5.7%)であった.●おわりに多焦点眼内レンズ手術後にLASIKによるタッチアップは有効であった.今後さらに必要性が増すと考えられ,実際に施行していなくても適応や結果を理解しておくことは必要である.(89)あたらしい眼科Vol.34,No.2,20172310910-1810/17/\100/頁/JCOPYD2Dp<0.0121.51.5110.50.500全体近視性乱視遠視性乱視混合乱視全体近視性乱視遠視性乱視混合乱視■Pre■PostMann-WhitneyUtest■Pre■PostMann-WhitneyUtest図1自覚等価球面度数絶対値図2自覚乱視度数絶対値近視性乱視,遠視性乱視において改善を認めた.近視性乱視,遠視性乱視,混合乱視すべてにおいて改善を認めた.-0.2p<0.01p<0.01p<0.010-0.10.100.20.10.30.20.40.30.40.50.50.6全体近視性乱視遠視性乱視混合乱視■Pre■PostMann-WhitneyUtest図3遠方裸眼視力(logMAR)近視性乱視において改善を認めた.JSCRSの会員アンケート結果では,単焦点眼内レンズか多焦点眼内レンズかは問わず,追加矯正方法としては眼内レンズ交換が最多(40%)で,ついでタッチアップ(37%)であった2).また,LASIKなど屈折矯正手術を受けた後に,多焦点眼内レンズ手術を施行する症例も増加すると想像される.現時点でもLASIK後眼に対する白内障手術において,良好な屈折度数を得ることが可能になっているが3,4),通常,眼内レンズは0.5Dステップであり,裸眼での生活にさらに希望が高い場合を考慮すると,精度のよいLASIKによるタッチアップは重要性を増すと考える.全体近視性乱視遠視性乱視混合乱視■Pre■Posttwosamplettest図4近方裸眼視力(logMAR)遠視性乱視と混合乱視で改善を認めた.文献1)中村邦彦,大木伸一,田中みちるほか:Wavefront-guidedLaserInSituKeratomileusisによる回折型多焦点眼内レンズ挿入眼における屈折誤差矯正:術前波面収差解析装置の比較.あたらしい眼科33:895-897,20162)佐藤正樹,林研,根岸一乃ほか:2014・2015年度JSCRS会員アンケート.IOL&RS30:385-401,20163)渡辺純一,福本光樹,井手武:近視LASIK後の白内障手術における眼内レンズ度数精度.あたらしい眼科27:1689-1690,20104)渡辺純一,福本光樹,井手武ほか:近視LASIK後非対称性が強い角膜における角膜屈折力および眼内レンズ度数計算.あたらしい眼科31:1047-1051,2014☆☆☆232あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017(90)