連載⑱二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科はじめに生後半年までは,単眼で見る際に耳側→鼻側と鼻側→耳側への追視や視運動性眼振に差を認める.半年以降で差がなくなる.この変化はM系の発達を反映すると考えられる.生後半年以内に発症した内斜視では成長後もこれらの差が残る.M系感受性期間内の異常はM系に障害を残し,眼位保持や眼球共同運動に影響を及ぼす.膝状体系と膝状体外系外側膝状体を介する視覚経路を膝状体系あるいは皮質経路とよぶのに対して,それより発生学的に古い系で上丘を介する経路を膝状体外系あるいは皮質下経路とよぶ.上丘に相当する部位を両生類や鳥類等では視蓋(tectum)とよぶ.上丘より前方部を視蓋前域(pretec-tum)とよぶのはそれに由来する.この部に視索核(nucleusoftheoptictract)がある(後述).1970年代以降に膝状体系の分類が進み,まとめると下記となる.1)膝状体系(皮質経路)i)P系=形態覚(物の形・輪郭)ii)M系=動態覚(空間位置・動き・追視)iii)K系=青色情報(M系機能にも関与)2)膝状体外系(皮質下経路)眼球運動や原始的な反射眼球運動の非対称性(motiondirectionasymmetry)生後3~5カ月の乳児で水平方向の滑動性追従運動(追視,smoothpursuit)を片眼ずつ調べる(図1).固視眼を基準に耳側→鼻側に動くものの追視はスムーズだが,鼻側→耳側への追視はスムーズでなく歯車状である.これを追従運動の非対称性とよぶ1).生後6カ月を過ぎると鼻側→耳側への追視もスムーズになり,眼球運動は対称的になる.同様の変化は視運動性眼振(optokineticnystagmus:OKN)でも認められる(図2)2).OKNは視野全体の大きな動きで誘発される眼振で,電窓から外を眺めているときなどに起こる.外界が動くときに像を網膜上でブレずにとらえるしくみである.被検者の眼前(103)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYで,白黒の縦縞模様のドラムを水平方向に一定速度で動かす.縞の動きの方向にゆっくり眼球が動く緩徐相と,反対方向に眼球を戻す急速相からなる.生後3~5カ月までは固視眼を基準に耳側→鼻側への動きによる眼振は強く(図2a),鼻側→耳側の動きへの眼振は弱く(図2b),非対称的である.6カ月以降には対称的な眼振に変化する.図1,2の変化はM系の正常な発達を表す.6カ月以内に内斜視を発症するとこれらの変化は起こらず非対称性が続く.M系の発達不良を表す.この変化は,生後早くから機能する皮質下(膝状体外)経路に,急速に発達する皮質(膝状体)経路の機能が加わることで起こる(図3).視索核は反対眼の鼻側網膜から入力を受け,OKN緩徐相の発生にかかわる.視索核への刺激は両眼を同側へ向ける指令を生む.図では眼前に動く物があるときの脳内活動を,左眼を基準に考える.耳側→鼻側への動き:左眼鼻側網膜→視交叉→右視索核→両眼を右方向へ動かす指令を出す.この皮質下経路は生後より機能するため,3~5カ月でも右向きの緩徐相をもつ眼振が出現する.鼻側→耳側への動き:左眼耳側網膜・右眼鼻側網膜→左外側膝状体→V1(両眼情報合流)→V2・3→V5/MT→V5A/MST→左視索核→両眼を左方向へ動かす生後6カ月以降耳側→鼻側smooth鼻側→耳側smooth図1滑動性追従運動の非対称性あたらしい眼科Vol.34,No.11,20171587a.視運動性眼振(耳側→鼻側の刺激)b.視運動性眼振(鼻側→耳側の刺激)c.潜伏眼振回転ドラムの動き眼位L0R緩徐相遮閉緩徐相遮閉3~5カ月LRLR急速相急速相6カ月以降片眼遮閉により出現する.開放眼の鼻側方向に緩徐相をもつ眼誘発される眼振は生後3~5カ月でも眼振は生後3~5カ月では弱い.6カ月以降振を認める.左眼から右視索核強い.緩徐相は視標の動く方向に一致で強くなり,刺激方向での差がなくなる.への刺激による.図2視運動性眼振(OKN)と潜伏眼振a:皮質下経路左鼻側網膜→右視索核→両眼を右へb:M系皮質経路左耳側網膜・右鼻側網膜→外側膝状体→V1→V2・3→V5/MT→V5A/MST→左視索核→両眼を左へ生後3~5カ月ではV1以降のM系皮質経路()が発達途上のため,左単眼では左視束核への刺激が届かず,左へのOKNが弱い.6カ月以降に両者が機能し,OKNは対称的になる.図3視運動性眼振(OKN)と視索核司令を出す.このM系皮質経路は生後半年までは機能が弱い.図2bのように右遮閉して左眼のみにすると左視索核に十分な情報が伝わらず,「両眼を左へ向ける」との司令が作られないため眼振が弱い.この経路が発達して左視索核へ情報が伝わるようになると,眼振が強くなる.OKNは皮質下,皮質経路両方の機能を表す.では3~5カ月の早期に内斜視が存在すると,なぜM系の発達が障害されるのだろうか.サルの実験で生直後から交代遮閉を続けたり,両眼にそれぞれ20Δのプリズムを装用させ大角度の入力異常を長期間与えたりすると眼球運動の非対称性が続くこと,これらの入力異常を早期に正常化すると非対称性が減ることが報告されている3).M系皮質経路の正常な発達にはV1以降に両眼融合情報が届くことが必要と考えられるが,詳細について研究の発展が待たれる.小児では生後1カ月の単眼固視から2カ月の両眼固視へ,3~5カ月には融像,追視,共同運動への変化が起こる.眼球運動の司令には視索核のほか,V5/MT,V5A/MST,後頭頂葉,前頭眼野などが関与する.これらの部位へ単眼に偏った情報が届くこともM系の発達を阻害し,眼位保持や共同運動に影響を及ぼすと考える.潜伏眼振(latentnystagmus)乳児内斜視にはしばしば潜伏眼振を合併する(連載⑦参照).両眼開放では眼振を認めず,片眼遮閉により固視眼の鼻側方向に緩徐相をもつ眼振が出現する(図2c).固視眼から対側の視索核へ刺激が伝わることによる.M系感受性期間は生直後から10カ月頃までである.乳児内斜視に対して生後6カ月以内の超早期手術例が蓄積されつつある.斜視による入力異常を早期に正常化することがM系の正常な発達と長期予後の改善につながる.文献1)SchorCM:Neuralcontrolofeyemovements.In:Adler’sphysiologyoftheeye,11thed(editedbyKaufmanPL,AlmA),p220-242,Elsevier,20112)NorciaAM:Developmentofvisionininfancy.In:Adler’sphysiologyoftheeye,11thed(editedbyKaufmanPL,AlmA),p713-724,Elsevier,20113)HasanyA,WongA,FoellerPetal:Durationofbinoculardecorrelationininfancypredictstheseverityofnasotem-poralpursuitasymmetriesinstrabismicmacaquemon-keys.Neurosciense156:403-411,20081588あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(104)