《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):264.267,2017c難治性糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績石田琴弓加藤亜紀太田聡平野佳男野崎実穂吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Short-termOutcomeofIntravitrealA.iberceptforDiabeticMacularEdemaKotomiIshida,AkiKato,SatoshiOta,YoshioHirano,MihoNozaki,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の治療効果を検討した.対象および方法:糖尿病黄斑浮腫に対しアフリベルセプト硝子体内投与を行い,6カ月以上経過観察できた11例15眼(非増殖糖尿病網膜症7例9眼,増殖糖尿病網膜症4例6眼)を対象とした.平均年齢は58.3歳,平均観察期間は8.7カ月であった.必要に応じて追加投与を行い,矯正視力,中心網膜厚,黄斑体積を検討した.結果:平均投与回数は2.9回であった.最終受診時において,投与前と比較して平均視力はlogMAR視力で0.49から0.38(p<0.05)に,中心網膜厚は526μmから433μmに(p<0.05),黄斑体積は13.6mm3から12.3mm3(p<0.01)にいずれも有意に改善を示した.結論:糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与は,視力および黄斑浮腫の改善に有効であった.Purpose:Toreportthee.cacyofintravitreousinjectionofa.ibercept(IVA)forthetreatmentofdiabetimacularedema.PatientsandMethod:Enrolledwere15eyeswithdiabeticmacularedema(9eyeswithnon-pro-liferativediabeticretinopathy,6eyeswithproliferativevitreoretinopathy)thatunderwentIVAandwerefollowedupfor6monthsorlonger.Meanagewas58.3years;averagefollow-upperiodwas8.7months.Alleyesunder-wentIVAintheprorenata(PRN)regimenandbest-correctedvisualacuity(BCVA)measurement;centralreti-nalthickness(CRT)andmaculavolume(MV)onopticalcoherencetomographyweremeasuredperiodically.Results:ThemeanIVAfrequencywas2.9times.Atlastvisit,logMARBCVAsigni.cantlyimprovedfrom0.49to0.38(p<0.05),CRTdecreasedfrom526μmto433μm(p<0.05)andMVdecreasedfrom13.6mm3to12.3mm3(p<0.01),comparedtobaseline.Conclusion:Intravitrealinjectionofa.iberceptisane.ectivetreatmentfordiabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):264.267,2017〕Keywords:アフリベルセプト,抗血管内皮増殖因子,糖尿病黄斑浮腫,光干渉断層計.a.ibercept,antivascularendothelialgrowthfactor,diabeticmaculaedema,opticalcoherencetomographyはじめに糖尿病網膜症は先進国において主要な成人の失明原因である.わが国においても,若生ら1)の視覚障害の原因調査で糖尿病網膜症は2位(15.6%)を占めている.糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症の重症度にかかわらず発症し,直接視力低下の原因となるため,その治療は重要である.糖尿病黄斑浮腫に対しては毛細血管瘤に対する直接凝固や,閾値下凝固を含む格子状凝固,あるいはステロイド局所投与,硝子体手術が施行されてきたが,治療に抵抗することも少なくない.2014年に抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)製剤であるラニビズマブとアフリベルセプトが相次いで糖尿病黄斑浮腫の治療薬として承認され,重要な役割を果たしている.ラニビズマブはVEGFに対する中和抗体のFab断片で2),アフリベルセプトはVEGF受容体-1およびVEGF受容体-2の細胞外ドメインとヒトIgG1のFcドメインからなる遺伝子組換え融合糖蛋白質であり,VEGF-A,VEGF-B,胎盤成長因子などのVEGFファミリーに高い親和性を有するとされている3).〔別刷請求先〕加藤亜紀:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:AkiKato,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN264(122)今回筆者らは糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内注射後の視力,滲出性変化への影響を評価したので報告する.I対象および方法対象は2014年11月.2015年3月に名古屋市立大学病院で,他の治療で改善が困難な糖尿病黄斑浮腫に対し,アフリベルセプト2mg硝子体内注射を施行し,6カ月以上経過観察できた11例15眼である.投与前視力が小数視力で1.2以上の症例,無硝子体眼は対象から除外した.平均年齢58.3±3.3歳,平均観察期間8.7±0.3カ月(6.10カ月)であった.病型の内訳は非増殖糖尿病網膜症7例9眼,増殖糖尿病網膜症4例6眼であった.全例において糖尿病黄斑浮腫に対して治療歴があり,トリアムシノロン後部Tenon.下投与11例13眼,網膜光凝固12例14眼,(毛細血管瘤に対する直接凝固11眼,格子状閾値下凝固2眼,汎網膜光凝固7眼)ラニビズマブ硝子体内注射5例6眼であった(重複含む).初回アフリベルセプト投与後は原則毎月診察を行い,矯正視力,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)(シラスHD-OCT,ZEISS社)から,小数視力で2段階以上の視力低下あるいはOCTで黄斑部浮腫の残存または増悪が認められた場合はアフリベルセプトの追加投与を行った(prorenata:PRN投与).また症例によっては他の治療法を併用した.矯正視力およびOCTによる中心網膜厚,黄斑体積を後ろ向きに検討した.視力変化は,小数視力をlogarithmofminimalangleofresolution(logMAR)視力に換算したうえで0.3以上の差を改善または悪化とし,それ以外を不変とした.またCRTは20%以上の変化を改善,悪化とした.logMAR視力,中心網膜厚,黄斑体積の投与前と投与後の統計的比較には,Dunnett’stestを用いて,p<0.05を有意差ありとした.II結果平均投与回数は2.9±0.32であった.アフリベルセプト投与前後の最高矯正視力の変化を図1に示す.平均logMAR視力は,投与前0.49±0.08に対し,投与後最高時では0.26±0.08で有意に改善を認めた.また投与後最高視力においては,視力が改善した症例5眼(33%),不変が10眼(67%)で悪化した症例はなかった.投与後1カ月,3カ月,6カ月,最終受診時ではそれぞれ,0.34±0.05,0.36±0.06,0.39±0.08,0.39±0.08で,いずれの時点においても術前と比較して有意に改善を認めた(図2).最終受診時における視力変化は改善2眼(13%),不変13眼(87%)で悪化した症例はなかった(図3).平均中心網膜厚は投与前526±37μm,投与後1カ月,3カ月,6カ月,最終受診時ではそれぞれ,353±21μm,431±50μm,473±45μm,443±47μmで,投与前と比較し1カ月と最終受診時で有意に改善を認めた(図4).投与後最良中心網膜厚は改善が11眼(73%),不変が4眼(26%)で悪化した症例はなかった.最終受診時の中心網膜厚は改善7眼(47%),不変7眼(47%)で悪化1眼(6%)であった.平均黄斑体積は投与前13.6±0.46mm3,投与後1カ月,3カ月,6カ月後,最終受診時はそれぞれ11.9±0.31mm3,12.2±0.53mm3,12.1±0.53mm3,12.3±0.50mm3で,いずれの時点においても術前と比較して有意に改善を認めた(図4).経過観察中に,黄斑浮腫に対してアフリベルセプト以外の治療を行った症例は7例8眼で,トリアムシノロン後部Tenon.下注射2例2眼,トリアムシノロン硝子体内注射1例1眼,毛細血管瘤に対する直接凝固4例4眼,格子状閾値下凝固1例2眼,硝子体手術1例1眼(重複含む)であった.経過観察中に浮腫が消失し,その後再発しなかった症例は3例3眼で,2例はアフリベルセプト投与直後に毛細血管瘤に対する直接凝固を併用した症例,1症例はアフリベルセプト投与の2週間前に直接凝固を施行していた症例であった.6例9眼は浮腫が一度は消失したが,経過観察中に浮腫が再発し追加治療を行った.3例3眼は経過観察中,一度も浮腫の改善が得られなかった.経過観察中に,眼内炎,水晶体損傷,網膜.離,網膜裂孔など,直接アフリベルセプト硝子体内投与が関与したと思われる合併症はみられなかった.両眼加療中の患者1例で経過観察中に網膜中心動脈閉塞症を発症した.左眼へのアフリベルセプト投与3日後,右眼へのアフリベルセプト投与2カ月後に急に右眼視力が光覚弁にまで低下,蛍光眼底造影検査で右眼の著明な動脈の灌流遅延を認めた.その後視力は発症前程度にまで改善した.この症例は血糖値のコントロールが不安定で,前増殖型ではあったが,比較的無灌流領域の広い症例であった.またその他の重篤な有害事象は認めなかった.III考按今回筆者らは他の治療で改善が困難な難治性糖尿病黄斑浮腫に対してアフリベルセプト硝子体内投与を施行した.約9カ月間での平均投与回数は約3回で,アフリベルセプト後,最高視力はlogMAR視力で0.49から0.26に有意に改善,また33%の症例で視力が0.3以上改善した.経過観察中の平均視力は投与前と比較し有意に改善していた.中心網膜厚は最良時において73%が投与前と比較して改善し,平均中心網膜厚は最終受診時において投与前と比較して有意に改善していた.また平均黄斑体積も視力と同様,経過観察中投与前と比較し有意に改善していた.経過観察中浮腫の再発を認めなかったのは3眼(20%)で,9眼(60%)は浮腫が再発し,1.201.000.800.600.400.20アフリベルセプト投与後最高視力投与前136最終受診時(カ月)0.200.400.600.801.001.20図2アフリベルセプト投与後の視力の推移(logMAR)矯正視力は投与前と比較していずれの時点においても有意に改善を認めた(**p<0.01,*p<0.05,Dunnett’stest,bar±SE).アフリベルセプト投与前視力(logMAR)図1アフリベルセプト投与前視力と投与後最高視力(logMAR)全症例のアフリベルセプト投与前と投与後の最高視力を示す.60015.0526中心網膜厚黄斑体積13.6473431433*12.3**353**12.2**12.1**11.9**中心網膜厚(μm)黄斑体積(mm3)50014.0最高視力40013.0最終視力30012.020011.0投与前136最終受診時(カ月)図4アフリベルセプト投与後の中心網膜厚・黄斑体積の推移中心網膜厚は投与前と比較して1カ月,最終受診時,有意に改善を認めた.黄斑体積は投与前と比較していずれの時点においても有意に改善を認めた(**p<0.01,*p<0.05,Dunnett’stest,bar±SE).ト2mgを4週間ごとに5回投与後,8週ごとに連続投与した群では100週目で10文字程度改善し(VISTA11.1文字,VIVID9.4文字),15文字以上改善を維持していた割合は(VISTA33%VIVID31%)であったとしている.一方でRESTOREstudy6)やREVEALstudy7)ではPRN投与方式でラニビズマブ単独投与と黄斑部に対する網膜光凝固の併用の比較をしている.いずれも1年後において視力改善は6文字程度(RESTORE:IVR単独群6.1文字,併用群5.9文字,REVEAL:IVR単独群6.6文字,併用群6.4文字)で,ラニビズマブ投与回数は7回であったとしている.また網膜光凝固を併用した群と,しなかった群では結果に差はなかったと報告している.今回の筆者らの検討では,logMARでの0.02の変化をETDRS視力の1文字と換算したとき,最高視力は0.23改0%20%40%60%80%100%図3最高視力時・最終受診時における視力改善度logMAR視力で0.3以上の変化を改善・悪化としたとき,最高視力時は改善が33%,最終受診時は改善13%,残りは不変で悪化した症例はなかった.残りの3眼(20%)は経過観察中浮腫が残存した.糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬の有効性はすでに大規模臨床試験で示されている.わが国で最初に承認されたラニビズマブ0.5mg硝子体内投与については,RISEandRIDE試験4)として知られる毎月ラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumab:IVR)の有効性を評価した報告で,24カ月後においてETDRS視力で12文字(RIDE12.0文字,RISE11.9文字)の改善を認め,36カ月後でも11文字(RIDE11.4文字,RISE11.0文字)程度の改善を認めたとしている.また36カ月後15文字以上の改善を維持していた割合は約40%(RIDE40.2%,RISE41.6%)であったとしている.アフリベルセプトにおいても連続投与に関する報告がされており,VISTAandVIVID試験5)においてアフリベルセプ善で約11.5文字改善しており,0.3以上の改善すなわち15文字以上の改善がえられた症例は33%で,最高視力時だけを比較すると,アフリベルセプトの連続投与での改善度に近いが,最終視力はlogMARで0.1の改善,ETDRSに換算すると5文字の改善にとどまり,15文字以上改善した症例も13%になり,PRN投与による既報と同等かそれ以下であると考えられる.投与回数も1年で約4回の計算になり,他の試験と比較すると少ない.実臨床においてたとえPRN方式であったとしても,医師が必要と判断したときに必ずしも患者が治療を希望するとは限らない.患者によっては金銭的な理由からステロイドの局所投与や,網膜光凝固を選択する場合も少なくない.よって可能な限り治療回数と,治療費を抑えることが必要になる.当院では以前から,インドシアニングリーン蛍光眼底造影を利用した毛細血管瘤の直接凝固8)を積極的に行っており,今回追加治療の必要なかった症例はいずれも治療の前後に直接凝固の治療歴があった.網膜光凝固の併用は差がないとの報告も多いが6,7),近年追尾システムを導入した網膜光凝固機器による網膜光凝固の併用でラニビズマブの投与回数を少なくできたとの報告がされており9),抗VEGF治療に毛細血管瘤に対する直接凝固を併用することは糖尿病黄斑浮腫の治療に有用であると思われる.今回の症例では5例6眼にラニビズマブ硝子体内投与の既往があった.糖尿病黄斑浮腫の治療において,現在わが国で認可されているどちらの薬剤の治療効果が高いかは興味深いところであるが,ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプト3剤の治療効果を比較したprotocolTとよばれる検討10,11)においては,治療開始後1年目では視力が20/50以下の群ではアフリベルセプトは他の群と比較して有意に視力改善がみたれたが,2年目では,3群の視力改善度も投与回数もともに差はなく,また合併症についても3群間で大きな差はみられなかったとしており,今回の症例においても長期経過を検討する必要があると思われる.今回,網膜中心動脈閉塞症と思われる所見を呈した症例が1例あった.両眼治療中で,左眼へのアフリベルセプト投与3日後,右眼へのアフリベルセプト投与2カ月後に右眼に症状が出現し,その後無治療で視力は発症前程度にまで改善したことから,動脈の完全閉塞が生じていたかどうかは定かではないが,抗VEGF薬による加療は眼内炎,網膜裂孔,水晶体損傷など眼への直接的な侵襲によるもののみならず,全身の血流,あるいは今回のように眼局所の血流にも影響を及ぼす可能性があり,注意深い経過観察が必要である.アフリベルセプトは糖尿病黄斑浮腫に対して他の治療に抵抗する症例においても浮腫の改善に有効であった.しかし効果は一時的で,大部分の症例において浮腫が再発し,追加治療が必要であった.視力改善を維持するためには投与回数を増やしたほうが良いとも思われるが,実臨床の場ではむずかしい部分もあり,併用療法も含め今後さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,20142)FerraraN,GerberHP,LeCouterJ:ThebiologyofVEGFanditsreceptors.NatMed9:669-676,20033)HolashJ,DavisS,PapadopoulosNetal:VEGF-Trap:aVEGFblockerwithpotentantitumore.ects.ProcNatlAcadSciUSA99:11393-11398,20024)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:Long-termoutcomesofrenibizumabtherapyfordiabeticmaculaedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20135)BrownDM,Schmidt-ErfurthU,DoDVetal:Intravitreala.iberceptfordiabeticmacularedema:100-weekresultsfromtheVISTAandVIVIDstudies.Ophthalmology122:2044-2052,20156)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal:TheRESTOREstudy:ranibizumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20117)IshibashiT,LiX,KohAetal:TheREVEALStudy:Ranibizumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyinasianpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology122:1402-1415,20158)OguraS,YasukawaT,KatoAetal:Indocyaninegreenangiography-guidedfocallaserphotocoagulationfordia-beticmacularedema.Ophthalmologica234:139-150,20159)LieglR,LangerJ,SeidenstickerFetal:Comparativeevaluationofcombinednavigatedlaserphotocoagulationandintravitrealranibizumabinthetreatmentofdiabeticmacularedema.PLoSONE9:e113981,201410)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:A.iber-cept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema.NEnglJMed372:1193-1203,201511)WellsJA,GlassmanAR,AyalaARetal:A.ibercept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema:Two-yearresultsfromacomparativee.ectivenessran-domizedclinicaltrial.Ophthalmology123:1351-1359,2016***