NDBを用いた眼科研究の可能性PossibilityofOphthalmologyResearchUsingNDB吉村健佑*はじめに昨今,国よりいわゆる「医療ビッグデータ」に基づく医学研究推進の重要性が示されている.そのなかで,「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NationalDatabaseofHealthInsuranceClaimsandSpeci.cHealthCheckupsofJapan:NDB)」など,厚生労働省保有のデータベースの利活用の方策が示されつつある.NDBは厚生労働省により構築・運用され,研究者などに対するデータの提供を含め活用の実績を有している.本稿ではNDBの制度を紹介し,さらには2016年より一般に公開され,誰でも利用可能な「NDBオープンデータ」の活用方策について実例を交えて述べる.INDBの整備と利用目的の拡大2006年の医療制度改革において,国および都道府県にて医療費適正化計画を立てる枠組みが導入された.その際,医療費適正化計画の作成,実施および評価に資するため,厚生労働省が行う調査および分析に用いるデータベースとして整備されたのが,「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」である.NDBは「高齢者の医療の確保に関する法律」第16条を根拠として厚生労働大臣が保有し,レセプト情報ならびに特定健診および特定保健指導の情報(特定健診等情報)を厚生労働省保険局において管理・運用するデータベースである.格納されているレセプト情報と特定健診等情報の両者で,データの性質やデータ件数が異なっている(図1).2008年の「医療サービスの質の向上等のためのレセプト情報等の活用に関する検討会」において,NDBは医療費適正化計画策定に資する本来の目的以外にも,医療および保健サービスの質の向上などをめざした正確なエビデンスに基づく施策の推進や,これらの施策に有益な分析・研究,また学術研究の発展に資する目的で行う分析・研究への利活用を一定の審査のうえで認めるべきとの提言がなされた.こうした背景のもと,2010年に「レセプト情報等の提供に関する有識者会議」(以下「有識者会議」とする)が設置され,2011年度より本来目的以外の目的に対しても,有識者会議の審査を経たうえでレセプト情報などの利用が認められている1).IINDBに格納されているレセプト情報の特徴厚生労働省は2006年以降レセプトについてオンラインでの請求を推進しており,2009年度診療分よりオンライン・電子媒体での請求を原則義務化した.それを受け,電子化されたレセプトがNDBに格納されている.2015年4月診療分では,電子レセプト請求の普及状況は件数ベースで98.6%となり,高い悉皆性を達成しており,NDBに格納された総レセプト件数は2016年1月診療分までで約128億件以上である(図1).レセプト情報をデータベースに格納する際には,患者氏名や生年月日の「日」,保険医療機関の所在地および名称,被保険者証などの記号・番号など,個人を特定する情報はあらかじめ削除される.*KensukeYoshimura:国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部〔別刷請求先〕吉村健佑:〒351-0197埼玉県和光市南2-3-6国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(31)1515図1NBDの概要(厚生労働省保険局公表資料より作成)図2レセプトデータの内容(厚生労働省保険局公表資料より作成)図3特定健診データの内容(厚生労働省保険局公表資料より作成)以下の特徴をもつ「ハッシュ関数」を用いることで,個人の特定につながる情報を削除(「匿名化」)したうえで,同一人物の情報であることを識別できるようにし,データベースへ保管している.【ハッシュ関数の特徴】①与えられたデータから固定長の疑似乱数(ハッシュ値)を生成する.②異なるデータから同じハッシュ値を生成することはきわめて困難.③生成された値(ハッシュ値)からは,元データを再現することはできない.※個人情報(氏名,生年月日等)を基にしてハッシュ値を生成し,それをIDとして用いることで個人情報を削除したレセプト情報などについて,同一人物の情報として特定することが可能.【イメージ】過去のレセプトデータ新規レセプトデータ新規レセプトデータ新規レセプトデータ354hja9sa0s809特定健診データ④ハッシュ値を基に突合.①個人情報をもとに②個人情報を削除.ハッシュ値のみ残し,③一次ハッシュ値と独自キーにハッシュ値を生成.運用管理業者が独自キーを発生.基づき2次ハッシュ値を作成.(厚生労働省保険局公表資料より作成)図4同一人として特定する方策:ハッシュ関数の採用2011年11月よりデータ提供を開始(厚生労働省保険局公表資料より作成)図5NBDの利用フロー:大学などへの第三者提供表1データ提供実績(2017年3月時点)特別抽出サンプリングデータセット基本データセット集計表情報基本的なイメージ申出者の要望に応じ,データベースにある全データのなかから,該当する個票の情報を抽出し,提供する探索的研究へのニーズに対応し,抽出,匿名化などを施して安全性に十分配慮した,単月分のデータセット入院,外来,疾患別など目的に合わせて年度ごとに紐付けが可能で,簡易に分析することが可能なデータセット申出者の要望に応じ,データを加工して作成した集計表を提供する提供データ個票一部匿名化等を行った個票大幅に加工した個票集計表含まれているデータ項目例レセプト情報,特定健診等情報に含まれている,ほぼすべての項目希少な情報があらかじめ匿名化・削除されたレセプトデータ患者の基本属性情報以外は,主傷病名,診療識別情報,要望に応じたコードなど集計表データ提供承諾件数(計125件)71件20件2件32件研究目的でのデータ提供承諾件数(計89件)44件18件2件25件(厚生労働省:第36回レセプト情報・有識者会議資料,2017年3月)義について,厚生労働省保険局は次のように説明している.「NDBに蓄積されたデータは国民の共有財産であり,こうした貴重なデータの利活用を進めるべく,わが国における医療の実態や特定健診の結果等を,国民に解りやすく示した統計資料がNDBオープンデータである」(第1回NDBオープンデータ解説編,第1章p45)).NDBに格納されている情報を国民に広く提供し,活用を進めようという意図がよくわかる.NDBオープンデータはこれまで,2016年10月に第1回NDBオープンデータ(2014年度分レセプト情報および2013年度分特定健診情報5))が,2017年9月に第2回NDBオープンデータ(2015年度分レセプト情報および2014年度分特定健診情報6))がそれぞれ公開されている.第1回よりも第2回のほうが公開されている情報項目が拡大されている.第2回NDBオープンデータでは,大きく分けて「医科診療行為」「歯科診療行為」「歯科(傷病)」「薬剤」「特定健診(検査値)」「特定健診(標準的な質問票)」の6項目の集計結果について公表を行っている.「医科診療行為」では,医科入院/入院外レセプトおよびDPCレセプトの情報を基に,厚生労働省告示の点数表で区分された各診療行為について,「都道府県別」および「性・年齢別」の集計を行っている.また,第1回NDBオープンデータでは公表していなかった「投薬」および「注射」の区分に分類される各診療行為,各診療区分の加算項目の集計結果についても追加公表された.さらに入院基本料および入院基本料等加算についても公表された.ただしこれら入院基本料および入院基本料等加算にかかる公表項目は,でき高評価で算定される診療行為回数のみしか集計されていないことに留意を要する(DPCレセプトの包括評価項目となる入院基本料および入院基本料加算は集計されていない).第2回NDBオープンデータでは「歯科診療行為」についても「初・再診料」「医学管理等」「在宅医療」に分類される各診療行為について集計を行い,「都道府県別」および「性・年齢別」の集計結果を新たに公表し,「歯科(傷病)」については,歯科レセプトの傷病名情報に基づき,「う蝕」「歯周病」「喪失歯」の集計結果を「都道府県別」および「性・年齢別」に公表した.「薬剤」については,医科入院/入院外レセプト,DPCレセプト,調剤レセプトの情報を基に「内服」「外用」「注射」の剤形別に,「都道府県別」および「性・年齢別」の集計が行われた.薬効分類3桁ごとに処方数量の多い薬剤が公表され,第2回NDBオープンデータでは表示薬剤数を薬効分類3桁上位30品目から薬効分類3桁上位100品目まで拡大された.それぞれの薬剤の医薬品コードには,薬価基準収載コードや薬価や後発品区分も付与されている.「特定健診(検査値)」については,特定健診データの情報を基に,主たる検査項目であるBMI,腹囲,空腹時血糖,HbA1c,収縮期血圧,拡張期血圧,中性脂肪,HDLコレステロール,LDLコレステロール,AST(GOT),ALT(GPT),g-GT(g-GTP),ヘモグロビン,眼底検査の検査値階層別件数を「都道府県別/性・年齢別」のクロス集計として公表している.「特定健診(標準的な質問票)」は,第2回NDBオープンデータで新たに追加公表となった集計表である.特定健診データの情報を基に,22の質問項目の回答件数を「都道府県別/性・年齢別」のクロス集計として公表している.ただし未回答の場合は集計対象外となっている.VII眼科領域におけるNDBオープンデータの分析と診療行為の可視化では第2回NDBオープンデータ6)を活用して,実際に提供された診療行為の可視化を試みてみよう.眼科(外来および入院)で実施された眼科手術(分類コード:K199-K284)のうち,比較的算定回数が多く,NDBオープンデータ公表基準より年齢別の内訳が公開されているの二つの診療行為に注目した.「K282水晶体再建術【眼内レンズを挿入する場合:その他】」は2015年度の年間算定回数118,4600回であり,一方「K276網膜光凝固術【通常+その他特殊】」は2015年度の年間算定回数249,258回であり,ともによく行われる診療行為である.これらの性・年齢階級別(5歳刻み)のグラフを作成した(図6,7).これらをみると,それぞれの診療行為の提供されている性・年齢別の特徴がわかる.「K2821520あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(36)1800001600001400001200001000008000060000400002000000~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475~7980~8485~8990overmalefemaleageallages0~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475~7980~8485~8990overmale5110312110149629565044869015562346967531511208511677790621379987681female6735697376571493306773251700544757978491458491524001264216041915590total118460028472153444981111601532567794531731642579342691772170429841723271図6眼科診療行為の可視化の例(2015年度性年齢階級別)(外来+入院)K282水晶体再建術【眼内レンズを挿入する場合:その他】300002500020000150001000050000malefemaleageallages0~45~910~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475-7980-8485-8990overmale14277788847448824732927169031556358879412823162472158125736187871289774082799636female1064816180159419512914139919353214506585131204115404173951413411023815141331452total249258150647607124312441841308950909572138592133628288369854313132921239201555969322088図7眼科診療行為の可視化の例(2015年度性年齢階級別)(外来+入院)K276網膜光凝固術【通常+その他特殊】