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My boom 59.

2016年12月31日 土曜日

連載Myboom監修=大橋裕一第59回「稲田晃一朗」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.自己紹介稲田晃一朗(いなだ・こういちろう)熊本市開業私は,昭和54年に熊本大学医学部を卒業後,同大学眼科に入局しました.岡村良一教授のもとで2年間の研修の後,熊本大学大学院医学研究科に入学し,涙液蛋白分析の研究を行いました.学位取得後,熊本赤十字病院眼科,熊本大学医学部附属病院眼科に勤務し,平成元年から約1年半,当時の西ドイツ(ドイツ連邦共和国)のErlangen-Nurnberg大学のRohen教授,Drecoll教授のもとで,形態学の勉強をさせていただきました.その後,熊本大学医学部眼科,熊本市民病院眼科で臨床,研究をさせていただき,平成9年4月熊本市にいなだ眼科を開業し,現在に至っております.Myboom?:地震平成28年4月14日午後9時26分,熊本地方を震源とするマグニチュード6.5の地震(前震)発生.そして4月16日午前1時25分,マグニチュード7.3の地震(本震)がさらに熊本を襲い,熊本県益城町では最大震度7を2度観測しました.前震のとき,3階の自宅リビングでは,目の前の食器棚から皿やコップがバラバラと飛び出し,華奢なスチール製本棚はすべて倒れました.しかし,その他の家具や冷蔵庫などは大丈夫で,このときまではまだ余裕がありました.すぐに,1階の診療施設に降り,設備を確認,真夜中過ぎまで散らばった書類や書籍を整理して翌日の診療に備えました.翌日15日の診療をなんとか終え,心配して長崎から車で来てくれた長女と夕食をとり,疲れで熟睡していたその夜,さらに激しい本震にみまわれました.「ドーーン,ワリワリ,ガラガラ」表現できない音と揺れで,目を開けましたが,十分な覚醒ができず,鉛のような頭の中では,「ああ,だめかも…これは,いかん…」と考えるのが精一杯で,フリーズした状態でした.気づくと,私のベッドのすぐ脇に,壁際にあるはずのタンスの上半分が飛んできていました.娘を危険の少ない玄関ホールに寝かせ,ドアを開けたまま,すぐに脱出できる状態にして,ひっきりなしの余震の中,夜を明かしました.翌日見ると,建物被害は壁の多くの亀裂,天井と窓の一部破損程度でしたが,室内は建具の一部が倒れ,めちゃめちゃでした.1階診療所の施設は,幸いキャスターに載せた診療器具はあちこち移動していたものの,落下は免れていました.当日の土曜と翌日の日曜で,なんとか診療ができる状態まで片付けて,断水状態でしたが電気が通じたので,本震後の月曜日から診療を開始しました.スタッフもすべてが被災者で,なんとか人員のやりくりをして,来院される患者さんに対応しました.なかなか回復しない水道を待ちながら,水の確保と衛生状態の保全に注意して,少しずつでも回復することを期待していました.しかし,そんな中,伝わってくるのは,自院のすぐそばにある,熊本のシンボル,熊本城と勇壮な石垣の無惨な損傷,崩壊のニュース.美しい南阿蘇の変わり果てた姿,多数の死者を出した震源地益城町の目を覆いたくなるような惨状.そして,さらに色々な大小の問題が思わぬ形で出現し,ボディブローを受けたボクサーのように,徐々にダメージが蓄積する感じでした.Myboom:絵画中学から大学卒業まで,サークル活動は美術部で過ごし,仲間と油絵やデッサン,いろんなイベントを楽しんでいました.写真1は,当時描いた大好きな熊本城の「武者返し」の石垣,100号の油絵です.地震後にお城に行ってみましたが,崩落した石垣の姿を見て,ショックを受けました.現在,月に2回絵画教室に通っていますが,これも地震直後からしばらく中止でした.絵筆をとる余裕もなく,3週間が過ぎる頃から,少しずつ町中が明るくなり,人通りが増えてきました.そんな中,絵画教室の再開の電話があり,日曜の朝出向きました.久しぶりに会う先生や教室の皆さんと,無事の再開を喜び,話しをして,いつものようにペンや筆を走らせる音だけが響く教室での時間が,落ち込んでいた気持ちをすうっとやさしく癒してくれました.Myboom:サックス50歳の誕生日に一念発起して,サックスを購入しました.それまで楽器の経験はなく,音楽は聴くものと思っていました.そんな時,観た映画が「スウィングガールズ」.その楽しさにひかれ,以前から気になっていた楽器を手に入れ,サックス教室に入会.しかし,予想に反し,それからが苦闘の連続でした.還暦を過ぎ,目立った進歩も感じられず,そろそろ潮時かな,と思っていた矢先の今回の地震.幸い楽器は無事でしたが,練習はできず,久しぶりに出した音はひどいものでした.地震から4週間程が過ぎ,再開した教室で,サックスの師匠や音楽仲間と久しぶりに会うことができ,レッスンはせずに1時間中ずっとしゃべっていました.やっと元の日常が帰ってきている.そんな些細なことから安らぎを感じ,こんな時間がもてることがとても大事なのだとしみじみ感じました.そして,楽器店の社長が今年の秋に,楽器店主催のライブステージを復興の意味も込めて開催するそうです.これに向けて,気合いを入れ直さなくてはいけません.(74)Myboom:ロービジョンケア眼科医になって,興味をもった研究は,大学院時代の涙液蛋白分析,臨床はぶどう膜炎,未熟児網膜症でした.そして,今はロービジョンケアに軸足を移してきています.日本ロービジョン学会の評議員にしていただき,眼科医の先生方のみならず,ロービジョンケアに積極的に取り組んでおられる色々な職種の皆さんとお話ししながら,熊本の地でできることを模索しています.今回の地震で,盲学校の先生方や熊本県点字図書館の皆さんの連携が進み,さらに,関係する方々を含む熊本県障がい者支援ネットワークが広がっています.災害を機に,むしろ一歩進んで行ければうれしい限りです.最後に私のMyboomは,余震を含めて二千回近く経験した地震と,サックスと絵画とロービジョンケアです.そして,サックスと絵画の時間が,たとえへたくそでも,今までよりもずっといとおしく思えるようになりました.しかし…地震だけは…もう二度と…経験したくありません!次のプレゼンターは,甲府共立病院眼科の加茂純子先生です.臨床に,研究に,論文執筆にとエネルギッシュに活躍しておられます.また,多彩な趣味もおもちです.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(73)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617510910-1810/16/\100/頁/JCOPY写真1熊本城の石垣,通称「武者返し」.油絵100号写真2サックス教室の発表会にて1752あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(74)

二次元から三次元を作り出す脳と眼 7.平面と立体・乳児内斜視

2016年12月31日 土曜日

連載⑦二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科7.平面と立体・乳児内斜視はじめに両眼視差による立体の認識には,平面を正しく認識することが必要である.両眼視差が0となる基準面(ホロプター)を定め,これをもとに視差を検出することで立体視が可能となる.両眼視の観点から本態性乳児内斜視の病状と治療について考える.平面と立体眼前に白い画用紙いっぱいに描かれた空飛ぶアンパンマンのイラストがあり,胸についた黄色の円形マークを両眼で固視しているとする.黄色い円は両眼の中心窩に,アンパンマン全身は網膜全体に映り,左右眼の像は融像*により平面的な絵として認識される.*融像とは,両眼網膜に映る同質の図形を中枢で融合させて単一の像として認識することである.正しく融像するためには,像が両眼の網膜に①鮮明に,②同じ大きさで,③中心窩を基準として同じ場所に同じ物が映っていることが必要である.それぞれを満たす条件として,①には白内障や角膜混濁など中間透光体の混濁がないこと,屈折異常や不同視がないこと,②には不同視により不等像視*のないこと,③には斜視のないことがあげられる.*不等像視とは,左右の網膜像の大きさに差が生じることで,7%を超えると両眼単一視不能となる.融像は周辺融像と中心融像に分けられる.周辺融像とは両眼の周辺網膜に映る像を融像することであり,アンパンマン全身像がこれにあたる.中心融像とは両眼中心窩に映る像を融像することで,胸の黄色マークがこれにあたる.左右眼の像がまったく同じとき,両眼視差は0で平面的な絵と認識される.視差0となる点の集合がホロプターであり,白い画用紙がこれにあたる.この面を基準にして,仮に絵の一部に交差性視差や同側性視差があれば,凸凹など立体視の認識が可能となる.平面は基本問題,立体は応用問題である(連載②③参照).視覚(71)の発育期には,周辺融像から中心融像へ,大まかな立体視(480~3,000秒)から精密な立体視(60秒未満)の可能な状態へと発達していく.中心融像可能=精密立体視可能=正常両眼視と考えられ,立体視検査から両眼視の状態を判断できる.60秒未満の小さな視差を検出するには,まず60秒より高い精度で眼位を整える必要がある.そのためには,中心窩に映る像の感覚的な融像だけでなく,正しい位置に両眼を動かす運動性融像の力が必要となる.正常両眼視をもつ大人でも①②③を妨げる要因があると両眼視が困難になるが,発育途上で同じことが起こると,視力や両眼視の発育まで阻害される.①②③を満たす視覚刺激が両眼から後頭葉に伝えられることで,後頭葉第一次視覚野(以下,V1)やそれより上位の中枢に存在する両眼視細胞が正しく育つ.両眼視細胞とは両眼からの情報を統合する細胞で,視覚情報が網膜→外側膝状体へと進むなか,V1で初めて登場する.①②③の一つでも異常をきたし正しい視覚刺激が届かないと,片眼からの刺激にしか反応しないなど,両眼の情報を統合できなくなってしまう.本態性乳児内斜視本態性乳児内斜視は,生まれてから半年までの間に大角度の内斜視を起こす病気であり,治療をしないと両眼視機能が育たない.図1に示すような特徴をもつ1).この病気に対して斜視手術が初めて行われたのは1950年代後半である.乳幼児の手術には全身麻酔が必要だが,麻酔方法の進歩や手術自体の進歩によって可能となり,世界中で多くの手術が行われた.1980年代に入り,2歳までの手術は両眼視機能の獲得に有効であると確認された.手術で眼位を整え,両眼で同じ像を見ることによって,V1にある両眼視細胞が育つことがわかったのもこの頃である.本態性乳児内斜視に対して2歳までに手術を行うことが長らく治療の基準となっていた.しかし,手術をして経過良好でも,周辺融像しか得られず,中心融像の獲得はむずかしかった.1994年Wrightらが生後6カ月以内に手術を行った症例のなかに精密立体視獲得の良好例を認めたと報告してから,生後6カ月以内の超早期手術が検討されるようになった.2歳までの手術より統計学的に良好な立体視が得られ,現在,治療の選択肢の一つとなっている2).ただし注意点がある.早期に発症した内斜視の自然寛解例がかなりの頻度で存在するのである.2002年PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroupが,生後4~20週までに20Δ以上の内斜視を発症した170例のうち,27%が保存的治療のみで自然寛解したと報告した3).この割合はかなり高く,自然寛解の可能性のある症例を超早期手術の対象にしないよう以下の条件が定められている.①発症が生後6カ月未満であること,②斜視角が変動せず,40Δ以上であること,③屈折異常が+3.00D以下であること,である.図2は筆者が経験した早期発症内斜視の自然寛解例の経過写真である4).このような例を超早期手術の対象に入れないよう注意が必要である.文献1)中川喬:内斜視.視能矯正学改訂第2版(丸尾敏夫,粟屋忍編),p256-265,金原出版,19982)矢ヶ崎悌司:両眼視機能の発達と内斜視の早期手術.あたらしい眼科23:11-18,20063)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Spontaneousresolutionofearly-onsetesotropia:Experienceofthecongenitalesotropiaobservationalstudy.AmJOphthalmol133:102-108,20024)雲井弥生,鍋島文代,向田佐恵ほか:早期に内斜視を発症した先天性両側性上斜筋麻痺の両眼視機能予後.眼臨紀2:505-511,2009(71)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617490910-1810/16/\100/頁/JCOPY①生後6カ月以内の発症②大きな斜視角変動は少ない③見かけ上の外転制限(人形の眼試験は正常)④交差固視内転眼で正中越しに反対側を見る.(左方視は右眼で,右方視は左眼で)⑤上下偏位や眼振の合併が多い下斜筋過動症交代性上斜位:視覚入力の減少により上斜図1本態性乳児内斜視の特徴図2自然寛解する早期発症内斜視a:生後6カ月.b:生後9カ月.c:1歳4カ月.d:3歳.生後6カ月に35Δの左内斜視と左への頭部傾斜を認めた.その後,斜視角は変動しながら減少し,1歳10カ月には内斜位への移行を認めた.両眼S+2.50Dの遠視と先天性両眼性上斜筋麻痺の合併を認めた.(文献4より許可を得て改変)1750あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(72

硝子体手術のワンポイントアドバイス 163.高安病に続発した増殖性網膜症に対する硝子体手術(上級編)

2016年12月31日 土曜日

●連載163硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載163163高安病に続発した増殖性網膜症に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●高安病の網膜病変高安病(大動脈炎症候群)は,大動脈とその主要分枝および肺動脈,冠動脈に狭窄,閉塞または拡張病変をきたす非特異性炎症性疾患である.わが国では大動脈弓ならびにその分枝血管に障害を引き起こすことが多い.手首の動脈の脈が触れないことがあり,脈なし病ともよばれている.原因としてはなんらかの自己免疫機序が関係しているという説が有力である.眼科領域においては一過性黒内障が初発症状としては多く,頭位や体位の変動で症状が悪化する.眼底所見としては網膜動静脈の拡張,口径不同,動静脈吻合,毛細血管瘤などを特徴とし,網膜新生血管や虹彩ルベオーシスを認める症例には網膜光凝固が必要である.高安病に続発した増殖性網膜症の報告は少ないが,以前に筆者らは網膜光凝固術を施行したにもかかわらず増殖性網膜症に進行し,硝子体手術を施行した高安病の1例を経験し報告したことがある1).●症例57歳,女性.41歳時に大動脈炎症候群の診断を受け,胸部外科にて大動脈置換術が施行されていた.当科初診時にフルオレセイン蛍光眼底検査では両眼とも腕?網膜循環時間の遅延,眼底後極部から中間周辺部にかけて多数の毛細血管瘤,著明な動静脈吻合,周辺部網膜の網膜血管閉塞を認めた(図1).両眼の無灌流域に対して網膜光凝固術を施行したが,右眼は眼底後極部を中心に線維血管増殖膜が発育し,牽引性網膜?離を伴う増殖性網膜症に進行した(図2a)ため,硝子体手術を施行した.硝子体切除に引き続き後極部の線維血管増殖膜を切除したが,膜の性状は増殖糖尿病網膜症に酷似していた.膜処理後,人工的後部硝子体?離を周辺部まで作製し,眼内汎網膜光凝固術,ガスタンポナーデを施行した.術後,網膜は復位したが,視神経萎縮をきたし,矯正視力は眼前手動弁に留まった.左眼もその後同様の経過をたどり(図2b),硝子体手術を施行したが視力予後は右眼同様不良であった(図3).●高安病に続発する増殖性網膜症の特徴高安病に続発する増殖性網膜症の原因は広範な網膜血管閉塞による網膜虚血であり,内頸動脈閉塞症や増殖糖尿病網膜症の病態と類似している.高安病に生じる網膜虚血に対する治療としては光凝固が第一選択となるが,筆者らの症例では光凝固術を施行したにもかかわらず増殖性網膜症に進行し,硝子体手術後の視力予後も不良であった.本疾患は眼科的治療だけでなく,必要に応じてステロイドや血小板凝集抑制などの内科的治療,各種のバイパス手術などの外科的治療を含めた全身的治療も考慮すべきと考えられる.文献1)KuwaharaC,ImamuraY,OkamuraNetal:SevereproliferativeretinopathyprogressingtoblindnessinaJapanesewomanwithTakayasudisease.AmJOphthalmol135:722-723,2003図1初診時の左眼フルオレセイン蛍光眼底写真(a:右眼,b:左眼)眼底後極部から中間周辺部にかけて多数の毛細血管瘤,著明な動静脈吻合,周辺部網膜の網膜血管閉塞を認めた.図2硝子体手術前の眼底写真(a:右眼,b:左眼)眼底後極部を中心に線維血管増殖膜が発育し,牽引性網膜?離を伴う増殖性網膜症に進行した.図3硝子体手術後の左眼眼底写真網膜は復位したが,視神経萎縮のため,矯正視力は眼前手動弁に留まった.(69)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617470910-1810/16/\100/頁/JCOPY

斜視と弱視のABC:眼位検査の基本

2016年12月31日 土曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保4.眼位検査の基本宮里智子沖縄県立南部医療センター・こども医療センター眼科眼位検査は左右の眼の向きを調べる検査で,斜視の診断にとても重要である.まず自然の頭位を確認し,歪んでいる場合はまっすぐにして検査する.ペンライトと片手さえあれば,ある程度の情報が得られる.子どもはなかなか集中力が続かないので,一番知りたい検査から行うのが大切である.固視を持続させるのが大事なので,音や光の出るおもちゃをいろいろ準備するとよい.Hirschberg(ヒルシュベルグ)法目的:大まかな眼位や眼球運動,固視できるかを確認する.ペンライトの光を当て,ペンライトの反射が瞳孔中心で光るかどうかで斜視の有無を確認する.大まかに,瞳孔中心で光れば正位,瞳孔縁は15°,角膜と瞳孔の間は30°,角膜縁45°である(図1).ついでに片方の眼を隠して両眼固視がしっかりできるか,カバーして動きがあるか(斜視)も調べておく.30cmくらいの距離からデジタルカメラでフラッシュをたいて両眼の写真を撮っておくと,大まかな眼位の検査ができる.とくに偽内斜視は鼻根部をつまむと斜視ではないことがわかりやすい(図2).光視標は非調節性であり,調節を惹起しないので,調節性内斜視は評価できない.調節による眼位の変化をみたいときは,調節視標(小さい絵の描かれた視標)を用いる必要がある.Krimsky(クリムスキー)法目的:Hirschberg法より正確な斜視角を確認する.33cmの距離にペンライトを置き,両眼で見てもらう.固視眼の前にプリズムを置き,斜視眼の反射が瞳孔中心になる角度を測定する.プリズムの太い方(基底)を外斜視なら内側に,内斜視なら外側に入れる.プリズムは眼に平行に置く(図3).遮閉試験(covertest:CT)目的:斜視の有無を確認する.両眼で33cmまたは5m先の視標を見てもらい,片方の眼を隠す.隠していないほうの眼が動かなければ正位,戻るように動けば斜視(内側から真正面に来たら内斜視)である.遮閉―遮閉除去試験(coveruncovertest:CUT)目的:斜視がある場合に交代固視ができるか,斜視がない場合には斜位があるかを確認する.遮蔽試験で「斜視なし」であった場合に,カバーをはずして眼が動けば斜位である.交代遮閉試験(alternativecovertest:ACT)目的:最大斜視角を検出する.両眼では見ないようにさせて,最大の斜視角を検出する.プリズム交代遮閉試験(alternativeprismcovertest:APCT)目的:最大斜視角を測定する.斜視眼の前にプリズムを置いて交代遮閉を繰り返し,動きがなくなるまで測定する.(内斜視は動きが逆転する直前,外斜視は逆転したところの一つ手前の値まで)測定する.水平はプリズムバーの平らな面を顔側に,垂直はプリズムバーの凸面を顔に向ける(図4).おわりに結果の記載法を表1に示す.文献1)佐藤美保:みるみる上達小児眼科の検査と視能訓練.p39-47,メディカ出版,20092)清水有紀子:眼位検査.OCULISTA25:17-25,20153)東範行:小児眼科学.p33-36,三輪書店,20154)加藤浩晃:眼科検査Note.p53-63,メディカ出版,2012表1結果の記載法検査法Hirscheberg法/Krimsky法など優位眼R),右眼/L),左眼固視眼R-fix,FOD,右眼固視/L-fix,FOS,左眼固視測定距離N,atnear,近見/F,atfar,遠見測定値°(度)/⊿(プリズムジオプター)眼位の分類恒常性外斜視:XT間欠性外斜視:X(T)内斜視:ET上斜視:HT近見時:XT′近見時X(T)′近見時ET′近見時HT′例)右上斜視:R/LHT斜位:外斜位,X,XP/内斜位,E,EP屈折矯正sc,裸眼/cc,矯正下(文献4より引用)図1Hirschberg(ヒルシュベルグ)法(67)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617450910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2偽内斜視一見内斜視にみえるが,内眼角をつまむと正位であることがわかる.図3Krimsky(クリムスキー)法プリズムを置いて斜視眼が中心にくる角度を調べる.図4プリズム交代遮閉試験(APCT)斜視眼の前にプリズムを置き,左右交互に遮閉し,動きがなくなるプリズムを調べる.①斜視眼を調べる.②斜視眼の前にプリズムを置く(弱い度数から始める).③?⑤プリズム下で交代遮蔽を繰り返し,復位運動がなくなった度数を偏位角とする.1746あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(68)

眼瞼・結膜:瞼裂斑と瞼裂斑炎

2016年12月31日 土曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人21.瞼裂斑と瞼裂斑炎加治優一筑波大学医学医療系眼科瞼裂斑は,一般には紫外線などの外的要因によってできる結膜のシミとして認識されている.しかし,瞼裂斑は表面から隆起しているために,瞬目に伴い常に摩擦を受け,ドライアイと同様の結膜上皮障害を呈する.そのため,違和感や充血の原因となりえることに留意すべきである.●もっとも頻繁にみているはずの瞼裂斑瞼裂斑は結膜に認められる黄褐色の加齢性病変である.50歳を過ぎると多かれ少なかれほとんどの人に認められることもあり,外来でもっとも頻繁にみているはずである.しかし,眼科医も患者もほとんどこの病変に気を留めることがない.ところが,この単純な病変は,老化の根本にかかわるさまざまな反応が凝集した産物であり,もっとも観察しやすい加齢性変化である.●瞼裂斑の臨床所見瞼裂斑は,角膜に隣接する3時9時方向の結膜に認められる黄褐色で軽度に隆起した病変である(図1).細隙灯顕微鏡による観察で他の病変と見間違えることはない.コンタクトレンズ装着やアイシャドウを使う際に本人が気になり,「この白目についた色はなんでしょう」と聞かれることも多い.とくに害のない病変であると伝えて,通常は何も治療をしないことが多い.しかし,とくにソフトコンタクトレンズ装用者にとっては,レンズと瞼裂斑がこすれ合うことにより違和感の原因となる場合がある.ソフトコンタクトレンズをはずしてリサミングリーンを用いて結膜を染色すると,瞼裂斑に一致して上皮障害が生じていることが多い.たとえソフトコンタクトレンズを使用していなくても,瞼裂斑の隆起が大きめの場合は,瞬目に伴い上皮障害が生じていることが多い.それはリサミングリーンによって染色されることや,impressioncytologyによる観察で表面の上皮の角化が亢進していることで確認することができる(図2).このように,瞼裂斑は決して無害・無症状というわけではなく,眼痛・違和感・さまざまな不定愁訴の原因となりえることに留意する.●瞼裂斑の病態瞼裂斑はもっとも観察しやすい加齢性変化であると述べた.アルツハイマー病・アミロイドーシス・加齢黄斑変性症・白内障などの加齢が関連する病気の特徴は,「異常な蛋白質の沈着」である(図3).さらに異常な蛋白質の沈着には,酸化ストレスの亢進や活性酸素の増大などがかかわっていることが多い.瞼裂斑は一般にいわれる紫外線曝露だけではなく,酸化ストレスの亢進や活性酸素の増大に伴い,異常な蛋白質が沈着する疾患である.筆者のグループは,アルツハイマー病などで認められる異常な蛋白質の特徴である「蛋白糖化最終産物」や「右手型アミノ酸」が瞼裂斑にも認められることを見出している1~5).●瞼裂斑炎はなぜ生じるか瞼裂斑に一致して充血や炎症が生じることがあり,瞼裂斑炎とよばれる(図4).なぜ炎症が起きるのかはわからないものの,フルオロメトロン点眼ですぐに改善するので,深く顧みられることはない.炎症が起きる原因は,瞬目やコンタクトレンズ表面によって表面がこすれるためと考えるのが一般的である.ただし,瞼裂斑の病態でも述べたとおり,瞼裂斑の中央には,生体内には通常認められないような異常な蛋白質が凝集しており,それが異物と認識されて炎症反応が起きている可能性もありうる.Duke-Elderの“SystemofOphthalmology”に「瞼裂斑はときに炎症を起こすことがあり,重症の場合は膿瘍を作ることがある」と述べられているように,単なるステロイド点眼だけではなく,抗生物質の点眼も併用したほうがよいと考える.文献1)加治優一,横井則彦,大鹿哲郎:結膜疾患とドライアイ.あたらしい眼科22:317-322,20052)KajiY,OshikaT,AmanoSetal:Immunohistochemicallocalizationofadvancedglycationendproductsinpinguecula.GraefesArchClinExpOphthalmol244:104-108,20063)加治優一,藤井紀子:蛋白質の異常沈着が引き起こす眼疾患.PharmaMedica26:61-64,20084)KajiY,OshikaT,OkamotoFetal:ImmunohistochemicallocalizationofD-b-asparticacidinpinguecula.BrJOpthalmol93:974-976,20095)加治優一:瞼裂斑の病因について教えてください.あたらしい眼科23(臨時増刊号):19-22,2007図1瞼裂斑の細隙灯顕微鏡所見結膜に隆起性で茶褐色の病変が認められる.図2瞼裂斑のimpressioncytology軽微な瞼裂斑であったしても,impressioncytologyで角化の亢進や杯細胞の減少という重度のドライアイに(65)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617430910-1810/16/\100/頁/JCOPY図3瞼裂斑の組織所見結膜上皮直下の正常の実質(→)のさらに下に,無構造で血管に乏しい異常な蛋白質の凝集()を認める.図4瞼裂斑炎の細隙灯顕微鏡所見瞼裂斑はときに炎症を起こして充血することがある.1744あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(66)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性とsubretinal hyperreflective material(SHRM)

2016年12月31日 土曜日

抗VEGF治療セミナー●連載監修=安川力髙橋寛二35.加齢黄斑変性とsubretinalhyperreflectivematerial(SHRM)原千佳子大阪大学大学院医学系研究科眼科学SHRMとは,OCTで網膜下に観察される高反射物のことである.加齢黄斑変性症例では70~80%と高率に観察され,これを認める症例では,線維性瘢痕形成や視細胞障害のため,視力予後が不良であることが報告されている.そのため,経過中のSHRMを増加させない,遷延させないことが重要である.SHRMとはSubretinalhyperreflectivematerial(SHRM)とは,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で観察される,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)と網膜の間のスペース(網膜下)にある高反射物であり,網膜下に観察される漿液性の網膜下液以外のものをさす.加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)症例ではよく観察されるもので,治療前には70~80%の症例にみられると報告されている1,2).その成分は滲出液,フィブリン,出血,線維性瘢痕組織や脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)などがあるが,これらをOCT所見のみで鑑別することはむずかしい.また,SHRMはこのようにさまざまな成分によって構成されるため,治療や経過中に変化する.初回治療後には減少することが多く,SHRMのみられる割合は,治療開始前70~80%から開始1カ月後に60%程度になるという報告があるが,その後はその割合はあまり変化しない1,3).その理由としては,治療に反応するような滲出性の成分は治療によりすぐに消失するが,フィブリンや出血などすぐには変化のないものがあることや,また経過中に瘢痕組織が形成されたりするためではないかと考えられる4)(図1).予後と対処法治療前にSHRMが観察された症例では視力予後が不良であるということは,これまで多数報告されている2,3).ComparisonofAge-relatedMacularDegenerationTreatmentsTrials(CATT)スタディのサブ解析によると,SHRMが中心窩を含み,またその幅が広いものではより視力が悪く,また遷延する症例ほどその後の瘢痕が起こりやすい1,5).SHRMのなかには2型CNVや網膜下出血の症例があるため,線維性瘢痕となる可能性が高いと考えられる.また,線維性瘢痕だけでなく,SHRMのみられた部位でellipsoidzoneが消失することもあることが報告されており,視細胞に対する毒性もあると考えられる1).瘢痕や視細胞障害をまったく生じさせないようにすることはむずかしいが,その障害を可能なかぎり減らすことは大切である.そのため,できるだけSHRMを拡大させない,遷延させないことが重要になる.治療によって改善しない瘢痕であった場合はむずかしいが,フィブリンや出血などのAMDの活動性によってみられるような病態であった場合には,治療を継続し,しっかり活動性を抑え拡大,遷延を防ぐことは,視力予後に影響する(図2).文献1)WilloughbyAS,YingGS,TothCAetal:SubretinalhyperreflectivematerialintheComparisonofAge-relatedMacularDegenerationTreatmentsTrials.Ophthalmology122:1846-1853,20152)RistauT,KeanePA,WalshACetal:Relationshipbetweenvisualacuityandspectraldomainopticalcoherencetomographyretinalparametersinneovascularagerelatedmaculardegeneration.Ophthalmologica231:37-44,20143)KeanePA,LiakopoulosS,ChangKTetal:Relationshipbetweenopticalcoherencetomographyretinalparametersandvisualacuityinneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology115:2206-2214,20084)JaffeGJ,MartinDF,TothCAetal:Macularmorphologyandvisualacuityinthecomparisonofage-relatedmaculardegenerationtreatmentstrials.Ophthalmology120:1860-1870,20135)DanielE,TothCA,GrunwaldJEetal:Riskofscarinthecomparisonofage-relatedmaculardegenerationtreatmentstrials.Ophthalmology121:656-666,2014図1SHRMが治療により減少したが残存した症例78歳,男性.治療前には網膜色素上皮上に出血,CNV成分を含むと思われるSHRMを認めた.抗VEGF薬投与を行ったところ,SHRMは投与とともに減少したが,最終的には一部瘢痕となって残存した.(63)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617410910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2SHRMが治療により消失した症例87歳,女性.治療前には多量のフィブリンとCNV成分と思われるSHRMを認めている.抗VEGF薬投与とともに減少するも,3回治療後もまだ残存していたため,さらに継続して治療を行ったところ,瘢痕をきたすことなく,すべて消失し,視力も0.8と良好である.1742あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(64)

緑内障:視神経の軸索輸送

2016年12月31日 土曜日

●連載198緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也198.視神経の軸索輸送三宅誠司瀧原祐史福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学軸索輸送は神経細胞の生存・維持に不可欠な機能である.現在,緑内障を含め,さまざまな神経変性疾患の原因の一つとして軸索輸送障害が注目されている.そこで本稿では,軸索輸送の分子基盤および緑内障と視神経の軸索輸送の関係について解説する.●はじめに緑内障における網膜神経節細胞の軸索障害および細胞体の消失の原因の一つとして,視神経乳頭および篩状板領域での軸索輸送障害が示唆されている.篩状板は「ふるい」のような構造をしており,網膜神経節細胞が網膜から外側膝状体に至る途中で篩状板孔を通過する.緑内障では篩状板の形態が乱れ,神経線維束が物理的なストレスを受けることで軸索輸送障害が起こり,視野障害が発生すると考えられている.●軸索の物質輸送の意義と輸送速度の分類神経細胞は軸索内や軸索末端においてタンパク質を合成できないことから,細胞体からそれらの領域へ物質を輸送しなければならない.また,末端で取り込んだ栄養因子や成長因子を細胞体に届ける必要もある.そこで,神経細胞はモータータンパク質と微小管を基盤とした軸索輸送機構を利用している(図1)1).順行性輸送には速い輸送と遅い輸送が存在し,速い輸送は~400mm/日または1μm/秒,遅い輸送は~8mm/日または~0.1μm/秒である.さらに,遅い輸送は輸送される物質の違いによって0.2~1mm/日のslowcomponenta(SCa)と1~10mm/日のslowcomponentb(SCb)の2つに分けられる1,2).速い輸送ではベジクル,オートファゴソーム,エンドソーム,ミトコンドリアなどの膜系細胞小器官が運ばれ,遅い輸送のSCaではチューブリンやニューロフィラメント,SCbではアクチンや可溶性タンパク質が運搬される(表1).順行性の速い軸索輸送はキネシンによって行われるが,遅い輸送の分子基盤については解明に至っていない.一方,ダイニンが担う逆行性輸送はおもにエンドソームやミトコンドリアなどの膜系細胞小器官や神経伝達物質を運んでおり,その速度は順行性の速い輸送よりも遅く~100~200mm/日とされる.●視神経の軸索輸送の静的な評価緑内障の病態に視神経の軸索輸送障害が関与していることが報告されたのは,サルの緑内障モデルを用いた実験からであった3,4).眼圧上昇によって,視神経乳頭領域や篩状板部位において,順行性の速い輸送と遅い輸送だけではなく,逆行性輸送も障害を受けていることが示された.さらに,篩状板領域の電子顕微鏡観察からも,眼圧上昇によって篩状板の前後にミトコンドリアなどの細胞小器官の停滞が確認されている.●視神経の軸索輸送のライブイメージングこれまでの軸索輸送は,おもに組織切片から得られた静的な結果から議論されていた.このような状況のなかで,筆者らのグループは,軸索輸送およびその障害の動的な検出を試みている.ラット網膜から単離した網膜神経節細胞に微小管重合阻害薬であるコルヒチンを処理すると,細胞死に至る過程で経時的に輸送障害が誘導されることや,軸索切断によって輸送機能が低下・停止し,その後,細胞死が起こることを明らかにした5,6).さらに,哺乳類中枢神経系では世界で初めて,生きた状態で軸索輸送を捉えることに成功した7).野生型と緑内障モデルでは輸送速度に変化はないが,順行性および逆行性に輸送されるミトコンドリアの数が減少することや,加齢によって軸索輸送距離が低下すること,さらに,高齢マウスの緑内障モデルでは輸送障害がより顕著になることを明らかにした.これらの結果は,加齢に伴う緑内障の発症率増加の原因に,ミトコンドリアのエネルギー供給能の低下も関係していることを示唆した(図2).●おわりに現在,緑内障の診断において,極早期の網膜神経節細(62)胞の障害の検出が急務とされている.ライブイメージングはまだ動物実験段階であるものの,可視化による軸索輸送機能の評価から緑内障発症の可能性を予測できれば,視野障害進行の前に治療の要否を判断できる個別医療につながると考えている(図3).文献1)MadayS,TwelvetreesAE,MoughamianAJetal:Axonaltransport:cargo-specificmechanismsofmotilityandregulation.Neuron84:292-309,20142)MorganJE:Circulationandaxonaltransportintheopticnerve.Eye(Lond)18:1089-1095,20043)SawaguchiS,AbeH,FukuchiTetal:Slowaxonaltransportinprimateexperimentalglaucoma.NipponGankaGakkaiZasshi100:132-138,19964)PeaseME,McKinnonSJ,QuigleyHAetal:ObstructedaxonaltransportofBDNFanditsreceptorTrkBinexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci41:764-774,20005)TakiharaY,InataniM,HayashiHetal:Dynamicimagingofaxonaltransportinlivingretinalganglioncellsinvitro.InvestOphthalmolVisSci52:3039-3045,20116)YokotaS,TakiharaY,ArimuraSetal:Alteredtransportvelocityofaxonalmitochondriainretinalganglioncellsafterlaser-inducedaxonalinjuryinvitro.InvestOphthalmolVisSci56:8019-8025,20157)TakiharaY,InataniM,EtoKetal:InvivoimagingofaxonaltransportofmitochondriainthediseasedandagedmammalianCNS.ProcNatlAcadSciUSA112:10515-10520,2015図1神経細胞の軸索輸送機構モータータンパク質(キネシン,ダイニン)はATPaseとしての機能をもち,ミトコンドリアから供給されるATPを加水分解し,そのエネルギーを利用して微小管の上を移動する.順行性輸送を担うキネシンは微小管のプラス端,逆行性輸送を担うダイニンはマイナス端をめざす.表1軸索輸送と速度速い軸索輸送遅い軸索輸送順行性(キネシン)両方向(キネシンとダイニン)逆行性(ダイニン)ニューロフィラメント(SCa)チューブリン(SCa)シナプス小胞など可溶性タンパク質(SCb)ミトコンドリアエンドソームBDNF,mRNAなどオートファゴソーム神経伝達物質など速い軸索輸送の方向性はモータータンパク質によって決まる.遅い軸索輸送の分子基盤として,キネシンが速い輸送と遅い輸送の両方の役割を担うstopandgoモデルや,速い軸索輸送を一時的に利用して遅い輸送が行われるdynamicrecruitmentモデルが提唱されている1).(61)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161739910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2網膜神経節細胞の細胞死と軸索輸送種々の障害によって細胞が死に至る過程で,軸索輸送機能の低下が起こる.図3視神経における軸索研究の流れ軸索輸送を指標として,正常な網膜神経節細胞と,障害されたり細胞死が生じるであろう網膜神経節細胞を区別することで,視野障害進行の前に状況に応じた治療が可能になる.1740あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(62)

屈折矯正手術:円錐角膜や強度不正乱視に対する強膜レンズ

2016年12月31日 土曜日

●連載199屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂大橋裕一坪田一男199.円錐角膜や強度不正乱視に対する強膜レンズ吉野健一吉野眼科クリニック臨床に応用できるまでになった強膜レンズの二大用途は,重症ドライアイの治療と従来のレンズでは矯正できない強度不正乱視に対する屈折矯正である.本稿では,本レンズの歴史と特徴についてまず記し,強度不正乱視に対する屈折矯正については,円錐角膜と角膜移植術後強度不正乱視の症例を提示し解説する.●強膜レンズの歴史強膜レンズは,1880年代にガラス細工で製造されたのがその始まりといわれている.しかし,レンズフィッティングの原理や角膜生理への理解が乏しかったため,普及には至らなかった.1939年にポリメチルメタクリレート(PMMA)レンズ素材が登場し,また機械による正確なデザインの再現が可能になり,強膜レンズは再び注目を得た.しかし,角膜への酸素供給やレンズ下の涙液交換不良といった問題から,やはり実用化には至らなかった.涙液交換を目的とした有窓の強膜レンズも登場したが,レンズ下への空気の迷入や汚れの付着など問題は多く,強膜レンズはコンタクトレンズ(CL)の世界から消え去るかのように思われた.強膜レンズの飛躍的な進歩は,酸素透過性レンズ素材の登場とcomputerlizednumericalcontrol(CNC)旋盤機による涙液交換を可能にするレンズデザインとフィッティング技術の確立による.1992年にPerryRosenthal医師により設立されたBostonFoundationforSightが開発したBostonScleralLens(ボストンレンズ)は,1994年に米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)の承認を受けている.その後,財団はBostonSightと名称を変え,PROSE(prostheticreplacementoftheocularsurfaceecosystem)として現在,米国13施設,インド3施設,日本1施設にレンズを供給している.また,日本では,2016年に京都府立医科大学で開発された輪部支持CL(サンコンKyoto-CS)がスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS),中毒性表皮壊死症(toxicepidermalnecrolysis:TEN)に対し薬事承認され,吉野眼科クリニックでは医師主導臨床試験中である.●強膜レンズの特徴強膜レンズの種類は便宜上その直径により,corneoscleral(12.9~13.5mm),semi-scleral(13.6~14.9mm),mini-scleral(15.0~18.0mm),scleral(18.1~24.0mm)に分類される.レンズは角膜輪部を超え強膜に至り眼球の前部を覆う大きなハードCL(HCL)で,レンズ後面には涙液が貯留するスペース(涙液プール=vault)がある(図1).強膜レンズの意義は,大きく二つある.一つ目は,SJS,TENをはじめとした重症ドライアイに対する治療と角膜保護.二つ目は,フィッティングの限界により従来のHCLでは矯正できない強度不正乱視に対する屈折矯正である.強膜レンズの適応疾患を表1に示す.ここではとくに後者,強度不正乱視に対する強膜レンズの有用性を解説する.●強度不正乱視症例におけるCL不耐症の解消と屈折矯正円錐角膜をその代表とする不正乱視の屈折矯正には,現在もHCLが第一選択である.病態が進行し角膜表面の不正や突出が強い症例に対しては,特殊な形状を有した円錐角膜専用のHCLも存在するが,進行の程度によっては,レンズの脱落やレンズと角膜の接触が強いことによる疼痛(CL不耐症),角膜混濁が問題となる.このような症例に対しては,従来は角膜移植術がその治療の最終手段であったが,強膜レンズは,安定したレンズの装用と屈折矯正を可能にし,リスクを伴う手術を回避するため,または手術に至るまでの時間を延長させるための選択肢として期待できる(図2).一方,強度の不正乱視を残す角膜移植術後眼も,レンズフィッティングの不安定さから従来のHCLの装着は不可能である(図3).SJS,TEN,移植片対宿主病(graftversushostdisease:GVHD)のような瘢痕性角結膜症で瞼球癒着が顕著な症例に対しては,直径の大きなタイプの強膜レンズは装用自体が不可能な場合がある.しかし,眼瞼を含めた角膜以外の前眼部に異常がない屈折矯正目的の処方においては,直径の大きなレンズのほうが安定したフィッティングが得られ,装用感,涙液交換においても有利である.ただし,いかにフィッティングがよくとも,角膜後面の不正乱視が強い場合には思ったほどの視力の改善が得られず,その矯正には限界がある.文献1)CotterJM,RosenthalP:Scleralcontactlenses.JAmOptomAssoc69:33-40,1998表1強膜レンズが適応となる可能性のある疾患重症ドライアイの治療・角膜保護目的屈折矯正目的Stevens-Johnson症候群(SJS)中毒性表皮壊死症(TEN)眼類天疱瘡(OCP)角膜化学熱傷Sjogren症候群(SS)移植片対宿主病(GVHD)神経麻痺性角膜炎(neurotrophickeratitis)兎眼性角膜炎遷延性角膜上皮欠損(PED)眼表面再建術後(post-OSreconstruction)末期円錐角膜球状角膜(keratoglobus)Pellucid角膜変性症Terrien周辺角膜変性症角膜移植術後強度不正乱視(文献1を改変)図1強膜レンズのフィッティング状態とレンズ外観左:強膜レンズは,レンズ(赤)後面と角膜(青)間に涙液が貯留するスペース(黄色)をもち,角膜輪部を超える大きなレンズである.中央:良好なフィッティングが得られると涙液交換が可能である.フルオレセインで染まったレンズ下涙液は涙液交換があることを示す.右:強膜レンズの直径.左端のレンズは直径8.8mmの通常のハードコンタクトレンズ.(59)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617370910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2進行した円錐角膜への強膜レンズ装着の例左:直径23mmと大きなレンズであるため,正面視ではその存在がわかりにくい.右:結膜上の血管が途切れることなくレンズは強膜にアライメントにフィットするため,レンズ下涙液交換が可能となる.右上は直径23mm,右下は直径18.5mmの強膜レンズ.図3全層角膜移植後の強度不正乱視眼への強膜レンズ装着の例37歳,男性.淋菌感染性角膜穿孔に対し全層角膜移植を施行.左上下:角膜周辺部の穿孔創をカバーするため角膜移植片は視軸からずれ,8時-11時の周辺部は虹彩前癒着を呈する.強度の不正乱視を呈するため,通常のHCLのフィッティングは不可能である.視力=0.03(n.c).右:障害のない強膜で支持され,良好なセンタリングと安定したフィッティングを可能にした強膜レンズ.視力=0.03(1.0×強膜レンズ)と良好な矯正視力を得て,患者の満足度はきわめて高い.1738あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(60)

眼内レンズ:インジェクターによる水晶体囊拡張リング(CTR)挿入

2016年12月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋361.インジェクターによる水晶体?拡張リング(CTR)挿入小堀朗福井赤十字病院眼科インジェクターによる水晶体?拡張リング(CTR)の挿入に際しては,①水晶体?の偏位,②挿入の方向,③トルクに注意を払い,Zinn小帯にできるだけ負担をかけないようにする.Spiral法は水晶体?にトルクがかかりにくい優れた方法である.●はじめに水晶体?拡張リング(capsulartensionring:CTR)はZinn小帯脆弱・断裂における白内障手術の有力なツールであるが,今までは海外製品を個人輸入して使用していた.2013年にHOYAのCTRが国内承認され,2015年にはCTR挿入用インジェクター(カプセルテンションリングインジェクター,Geuder社)(図1)の使用も添付文書に記載されるようになった.本稿ではその使い方について説明する.●Zinn小帯に負担をかけないためにはCTRをケースから取り出し,CTRの末端リングにインジェクター先端のフックをかける.インジェクターにはバネが付いており,そのままCTRは中に引き込まれる.切開創を通してCTRを?内に導入し,後端をプランジャーでゆっくり押していけば簡単に挿入できる.CTR挿入に際して,Zinn小帯にできるだけ負担をかけないように注意すべき項目が3つある.1番目は水晶体?の偏位である(図2).直径13mmのCTRを連続円形切?(continuouscurvicularcapslotomy:CCC)縁から?内挿入するので,水晶体?は右上方向に偏位する.CTRは柔軟性のある素材ではあるが,偏位した分,Zinn小帯に負担がかかる.偏位を減らすためには,CTRをCCC縁ギリギリから挿入するべきである.また,対側のCCC縁をフックや虹彩リトラクターで固定し,水晶体?の偏位を減じるのも対策となる.2番目は挿入の方向である(図3).CTRの挿入時のZinn小帯は,右上(偏位方向)は反転するので負担が少なく,左下は伸びてもっとも負担が大きくなる.したがって,Zinn小帯断裂部位に向かってCTRを挿入すると,Zinn小帯への負担が少なくなる.3番目はトルク(CTR先端の挿入抵抗による水晶体?のねじれ/回転)である(図4).水晶体?の偏位に加えてトルクがかかると,さらにZinn小帯に負担がかかる.トルクを減らすためには水晶体?と皮質の分離を十分に行い,CTR先端の挿入抵抗を減らす必要がある.そのためにハイドロダイゼクションやビスコダイゼクションをしっかり行う.トルクを極力減らすために,CTR先端に糸をかけてコントロールする方法1),特殊なインジェクターを用いる方法2)が報告されているが,フックを用いる方法が簡便である.この方法の文献はないが,YouTubeには公開されている(Implantationofcapsulartensionring.Augnlaeknir’schannel,2012/11/02).通称Spiral法とよばれている(図5).太いCTR先端が赤道部の水晶体??皮質間を走行しないので,トルクはほとんど生じないお勧めの方法である.文献1)PageTP:Suture-guidedcapsulartensionringinsertiontoreduceriskforiatrogeniczonulardamage.JCataractRefractSurg41:1564-1567,20152)TataruCP,DogaroiuAC,MihaiC:ModifiedinjectorforoptimalinsertionofstandardCTRsinlaxzonules.EurJOphthalmol26:98-100,2016図1インジェクター(G?32960,Geuder社)の全体写真と先端拡大図図2CTRをインジェクターで挿入する際のCTR想定軌道図3水晶体?とZinn小帯の変化CTRを写真の右上方向に挿入すると水晶体?(青線)が偏位し,Zinn小帯は元の状態(黄線)から伸びた状態(赤線)に変化する.図4トルクがかかった状態でのZinn小帯水晶体?が偏位し,Zinn小帯が伸びた状態に加えて,トルク(緑線)がかかり水晶体?が回転すると,左下のZinn小帯がもっとも断裂しやすくなる.(57)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617350910-1810/16/\100/頁/JCOPY図5Spiral法a:インジェクターからCTR挿入の際,先端のリングにシンスキーフックをかける.先端がCCC内に位置するようコントロールしながらCTRを圧出していく.b:最後にCTR先端と後端を前?下に挿入する.両端をCCC縁ギリギリに位置させ,間隔を小さくしたほうがCTR直径が小さくなり,水晶体?の偏位を減らせる.

コンタクトレンズ:ソフトコンタクトレンズ装用眼の眼乾燥感のメカニズム

2016年12月31日 土曜日

コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一26.ソフトコンタクトレンズ装用眼の眼乾燥感のメカニズム横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学●はじめに「眼乾燥感」は,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用眼のドロップアウトの原因になるが,SCL装用眼の80%以上に「眼乾燥感」が聴取されるとの報告もある1).したがって「眼乾燥感」は,SCLの装用者にとっても,その開発メーカーにとっても大きな問題といえる.眼表面は,涙液層と上皮層からなるため,眼表面に装用されるSCLが涙液層や上皮層に大きな影響をもつことは容易に想像され,そのメカニズムは近年,徐々に明らかにされつつある2).また,SCLで生じる「眼乾燥感」のメカニズムの解明は,その予防や治療に突破口を開く可能性があるため,SCLメーカーのみならず,点眼薬メーカーにとっても,大きな関心事の一つになり続けている.そこで本稿では,SCL装用眼の「眼乾燥感」の発症メカニズムについて簡潔に述べる.●SCL装用が涙液層に及ぼす影響SCLは角膜表面を被覆するため,角膜上の涙液層のみならず,角膜上皮細胞に対しても大きな影響をもちうる.第一に,SCL装用による低酸素の問題があるが,これはシリコーンハイドロゲルレンズの登場により大きく改善された.しかし,SCLが角膜上の涙液層に及ぼす影響については,今なお克服課題であり続けている.SCL装用眼では涙液層は,SCL上の涙液層(pre-lenstearfilm:pre-LTF)とSCL下の涙液層(post-lenstearfilm:post-LTF)に分けられるが,pre-LTFは,角膜上の涙液層に比べて2倍近く菲薄化速度が速く,破壊に至りやすいことが知られている3).その理由として,SCL表面には,角膜のような再生されうる親水性構造(膜型ムチン)が存在しないため,その水濡れ性におのずと限界があることや,SCL表面に涙液中の蛋白質や脂質が付着することで水濡れ性がさらに低下することがあげられる.一方,SCLの周辺部が涙液メニスカスを占拠することで,本来のメニスカスが小さくなることも,pre-LTFの菲薄化の大きな要因となっている.すなわち,角膜上の涙液層の液層の厚みは,下方の涙液メニスカスの曲率半径(R)と一次相関する4)ため,SCL装用により本来のRが小さくなるとSCL上の液層は菲薄化する(図1).SCL装用眼の「眼乾燥感」第一の問題は,pre-LTFに破壊が生じやすいことであり,開瞼維持で破壊すると,SCL表面の水濡れ性の低下を反映して一気に広がりやすい(図2).●SCL装用による涙液(層)の変化と「眼乾燥感」の時間的関係筆者らの検討2)ではSCLの装用開始15分後までに,Rやpre-LTFの破壊時間は装用前のRや角膜上の涙液層の破壊時間に比べて有意に小さくなる(図1).しかしこの早い涙液(層)の変化に対して,「眼乾燥感」に有意な増加が生じるには3時間程度の時間を要し,SCLをはずすとRや破壊時間はすぐさま回復するのに対し,乾燥症状はすぐには回復しない5).つまりSCL装用は装用早期に涙液(層)を変化させ,徐々に「眼乾燥感」を引き起こすが,すぐには回復しにくい不可逆性の変化を眼表面上皮に引き起こすことで,SCLをはずしても継続する「眼乾燥感」をもたらすのではないかと考えられる.●SCL装用が結膜上皮に及ぼす影響SCLの装用が角膜には保護的に働くことは,ドライアイの高度な上皮障害がSCL装用と人工涙液点眼で消失しうることからもわかる.これは,水分を含むSCLが角膜表面を被覆するため,SCL下の角膜表面では,涙液層の破壊と瞬目時の摩擦というドライアイの二大メカニズムが回避されるためと考えられる.しかし,SCL装用眼では角膜の問題が結膜にシフトし,破壊しやすいpre-LTFのもとで,SCL表面とlidwiper6)(異物溝から皮膚粘膜移行部に至るまでの角膜との摩擦を生じやすい眼瞼結膜上皮の肥厚部位)との摩擦や,SCLのエッジ部と球結膜との摩擦が増加し,結膜上皮障害(それぞれ,lid-wiperepitheliopathy,球結膜上皮障害)が生じうる(図3).既報6,7)のみならず,筆者らの検討2)でも,これらの上皮障害と「眼乾燥感」の関連が示されているが,こうした結膜上皮障害はSCLをはずしてもしばらくは残ると考えられるため,これがSCLをはずしても「眼乾燥感」が継続する原因になっていると推察される.●おわりに上記のSCL装用眼の「眼乾燥感」のメカニズムに基づけば,1)涙液メニスカスのRを低減させにくいレンズ,2)水濡れ性のよいレンズ,3)水分蒸発の少ないレンズ,4)エッジ部の摩擦の少ないレンズといったSCL側の改良点がみえてくる.さらにpre-LTFの菲薄化に抗する点眼治療を考えることもできる.シリコーンハイドロゲルCLは,低含水で,表面加工により水濡れ性が向上し,「眼乾燥感」の低減によりつながる可能性があり,その報告も散見される.今後,客観的な評価法の発達とともに,何がSCLの「眼乾燥感」対策にベストかが明らかにされることだろう.文献1)濱野孝,光永サチ子,小谷摂子ほか:コンタクトレンズ装用に起因する「乾燥感」とその症状の調査.眼科49:183-190,20072)横井則彦:涙液からみたコンタクトレンズ.日コレ誌57:222-235,20153)NicholsJJ,MitchellGL,King-SmithPE:Thinningrateoftheprecornealandprelenstearfilms.InvestOphthalmolVisSci46:2353-2361,20054)CreechJL,DoLT,FattIetal:Invivotear-filmthicknessdeterminationandimplicationsfortear-filmstability.CurrEyeRes17:1058-1066,19985)横井則彦,酒井利江子:素材の変化による臨床的評価(シリコーンハイドロゲルレンズを合む).眼科54:595-602,20126)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepitheliopathyanddry-eyesymptomsincontactlenswearers.CLAOJ28:211-216,20027)LakkisC,BrennanNA:Bulbarconjunctivalfluoresceinstaininginhydrogelcontactlenswearers.CLAOJ22:189-194,1996図1ソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用眼の涙液層の破壊メカニズム(左:SCL装用前,右:SCL装用15分後)SCLが装用されると,本来の涙液メニスカス(曲率半径R1)は,小さくなり(R2),それに呼応して,SCL上の涙液層は菲薄化することで破壊が生じやすくなる(涙液減少型ドライアイがあると破壊がさらに進みやすいことも容易に理解できる).(文献2より引用改変)図2ソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用前(上段)とSCL装用後(下段)の涙液層の観察所見(左上下:開瞼直後,右上下:開瞼維持10秒)SCL上の涙液層は菲薄化しているため,容易に破壊に至り,しかもSCLの表面は水濡れ性が悪いため,破壊は短時間で大きく広がる(☆).(55)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617330910-1810/16/\100/頁/JCOPY図3涙液減少型ドライアイに装着されたソフトコンタクトレンズ(SCL)をはずした直後のリサミングリーン染色所見涙液減少型ドライアイにみられる本来の球結膜染色に加えて,SCL表面との摩擦によるlid-wiperepitheliopathyやSCLのエッジ部との摩擦による球結膜の上皮障害所見が明瞭に認められる.