《第5回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科34(8):1186.1190,2017c中心暗点を有する網膜変性患者の視覚神経回路構築と機能増田洋一郎東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科CVisualNeuralCircuitFunctioninCentralScotomaYoichiroMasudaCDepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversity,KatsushikaMedicalCenterCはじめに両眼の中心視野障害は,視覚の質を大きく損なうこととなる.そのため両眼性中心視野障害をきたす網膜変性疾患の治療は,眼科医療において重要な課題である.網膜治療の成功は,変性網膜以降の神経回路の構築が保たれ,正常に機能することに依存する.両眼の中心視野障害をきたす網膜変性疾患はいくつか存在するが,疾患によって発症時期,変性細胞が異なる.網膜視細胞変性で先天発症のものではレーベル先天盲(Lebercongenitalamaurosis:LCA),後天発症のものは黄斑ジストロフィ(maculardystrophy:MD),網膜神経節細胞変性で後天発症のものはレーベル遺伝性神経症(LeberhereditaryCopticCneuropathy:LHON)が代表的なものとしてあげられる.これらC3疾患は両眼の中心暗点を有するという点で共通の臨床症状を呈するが,発症時期,変性細胞の違いなど疾患のプロフィールが異なる,本稿では,これらC3疾患における視覚神経回路の機能と構築に関する研究成果と若干の考察を紹介する.CI視覚神経回路眼球に入射された光刺激は,網膜では視細胞,双極細胞,神経節細胞へと伝達され,神経節細胞から発生する神経活動電位が長い軸索で外側膝状体(lateralCgeniculateCnucleus:LGN)へと伝達されていく(膝状体経路).LGNからはさらに長い軸索として視放線を形成し,大脳皮質の第一次視覚野(primaryCvisualCcortex:V1)のニューロンへ投射されていく.外側膝状体投射ニューロンは,直接CV1ニューロンを刺激するCprimaryCsignalを伝達するもの,V1へのフィードバックを抑制するCgatingCsignalを伝達するものなどが考えられている(図1).この膝状体経路とは別に,網膜神経節細胞から上丘などに投射し高次視覚野とよばれている領域へとPhotoreceptorBipolarcellRGCLGNPrimaryFeed-backsignalvisualcortexExtrastriatecortex図1視覚神経回路模式図投射する膝状体外経路も存在する.両眼性中心部網膜変性患者の場合,網膜変性部以降のニューロンへの刺激が失われ,V1へと投射するCprimarysignalとCgatingCsignalを失うこととなるが,この網膜病変脳投射領域(lesionCprojectionCzone:LPZ)の構築と機能がどのように変化するのか,しないのかを知ることは網膜治療成功のために重要となる(図2).CII網膜変性疾患のプロフィール今回計測したC3疾患の症例の特徴について提示する(図3).図3は左からMD,LHON,LCAであり,それぞれ視野,眼底写真(白字は機能的磁気共鳴画像(functionalCMRI:fMRI)撮像時期),網膜COCT,発症時期(年齢),網膜障害部,視力を示す.MDは後天発症,視細胞変性であり,〔別刷請求先〕増田洋一郎:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:YoichiroMasuda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversity,KatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPAN1186(112)Visual.eld図2網膜部位再現と網膜病変脳投射領域(lesionprojectionzone:LPZ)黄斑ジストロフィレーベル遺伝性視神経症(MD)(LHON)左右90PRL:視覚刺激提示領域発症時期後天:18歳後天:34歳先天障害部視細胞神経節細胞視細胞視力(右,左)0.05,0.07HM,HM0.09,0.08図3黄斑ジストロフィ,レーベル遺伝性視神経症,レーベル先天盲症例のプロフィールLHONは後天発症でCMDと同様であるが異なるのは神経節細胞変性である.CLCAは先天発症の視細胞変性である.こIIIV1の網膜部位再現とLPZれらC3疾患の共通点は両眼性の大きな中心暗点を有するといV1は,網膜からの投射に規則性をもった地図を有しておう点であるが,それぞれ発症時期もしくは網膜変性細胞のプり,それを網膜部位再現地図という.網膜中心窩の投射は,ロフィールが異なる点が特徴となる.C後頭葉後頭極へ,視野の水平経線にあたる網膜投射は鳥距溝へ,垂直経線はそれぞれCV1の上端と下端へと投射されるC図4機能的磁気共鳴画像(functionalMRI)(図2).そのため,視野欠損に一致して網膜からの信号を失うCLPZを有することになる.このCLPZの構築と機能が先にあげたプロフィールの異なるC3疾患においてコントロールとどのように異なるのか,を検証した.推察されるCV1-LPZの状態は,①経シナプス変性により,構築が変性,機能が低下.消失していること,②可塑性により,構築が改変,機能が変化していること,③安定性により,構築が保存,機能も保存されていること,の三つの仮説が考えられる.CIVLPZ機能計測法:functionalMRI(fMRI)本研究では,脳機能計測の手法として,MRIを用いて計測するCfunctionalCMRI(fMRI)を用いた(図4).fMRIは非侵襲的に大脳皮質におけるベースラインとの比較における活動をCBOLD(bloodCoxygenClevelCdependent)効果を応用して計測する手法である.視覚刺激は,driftingCcontrastCpattern(DCP)を用いた(図5).DCPは,1秒ごとに動的コントラストパターンの動き方向が変化する特徴をもつ.被験者はこのCDCPを二つの条件で固視する.一つ目の条件は,中心の固視点を見続け,課題を行わない「タスクなし」,もう一つの条件は固視点を見続けながら,コントラストの動き方向が一つ前と同じ動きをしたときに手に持ったボタンを指で押す「タスクあり」である.また,固視点は患者の偏心視域(PRL:preferredret-inallocus)の網膜部位に投影した(図2).CVMDのfMRI結果MD,コントロールにおいて,DCPの「タスクなし」の場合CLPZは無反応であった(図6).しかし,「タスクあり」の場合,LPZはCMDでのみ有意な反応を呈した.視覚刺激は同じCDCPであるが,LPZはタスク依存性に反応を有したといえる.この現象は,網膜変性部から入力を失ったCgat-ingsignalが,既存のタスク依存性のフィードバック信号を図5Driftingcontrastpattern視覚刺激抑制することができず,この信号が顕性化した結果の反応であると筆者らは推察している.つまり,MDではCV1における神経回路が比較的保存されている可能性が示唆される.CVILHONのfMRI結果LHONにおいては,タスクの有無にかかわらずCLPZは無反応であった(図7).これは同じ中心暗点を有するCMDとは異なる反応を呈したことになる.つまり,LHONにおけるCLPZはタスク非依存性無反応であった.この現象は,網膜変性部からCgatingsignalを失う点ではCMDと同様であるが,網膜視細胞変性と異なり神経節細胞変性の場合,V1に至る視覚神経回路が経シナプス変性をきたしており,フィードバック信号が到達できない結果であると推察した.つまり,LHONではCV1における神経回路が変性されている可能性が示唆される.CVIILCAのfMRI結果LCAにおいては,タスクにかかわらずCLPZは反応した(図8).つまり,LCAにおけるCLPZはタスク非依存性反応を有した.これはCMD,LHONとはまったく異なる反応を呈したことになる.この現象は,機能網膜からのCprimarysignalが,LPZにタスクに依存することなくCV1へと到達した結果であると推察した.つまり,LCAではCV1までに至る神経回路が改変されている可能性が示唆された.CVIII結果のまとめと考按結果のまとめを表1に提示する.臨床症状としては,両眼性中心暗点を有するという点で共通するこれらC3疾患ではあるが,V1におけるCLPZのCfMRI反応はそれぞれ異なった.MDにおけるタスク依存性CLPZ反応は,タスクによるフィードバック反応によるものであり,既存の神経回路におけるフィードバック信号が顕性化さPrimaryvisualcortexExtrastriatecortex図6黄斑ジストロフィのfMRI結果(coherence>0.3)図7レーベル遺伝性視神経症のfMRI結果(coherence>0.3)れた結果なのではないかと考えている.つまり,後天的に視障患者におけるCLGN,CV1が変性をきたしていることを合わ細胞が変性しても,安定性により構築と機能が保存されていせ,LCHONでも緑内障と同様に経シナプス変性をCV1にきたる可能性が示唆される.CLHONでは,CMDで認めたタスクしている可能性があり,タスクの有無にかかわらずCV1が無依存性反応を呈さなかった.後天発症であるという点でCMD反応であった可能性が示唆される.LCCAは,MCD,LHONでと共通するが,網膜神経節細胞変性であるという点でCMD認めなかったタスク非依存性CLPZ反応をCV1に認めた.とは異なる.過去の報告で網膜神経節細胞変性をきたす緑内LCAはこれらC3疾患のなかで唯一先天発症であるが,可塑Cレーベル先天盲(LCA)PhotoreceptorBipolarcellRGCLGNPrimaryvisualcortex図8レーベル先天盲のfMRI結果(coherence>0.3)表1中心暗点を有する疾患において実験的に推察されるLPZ構築と機能黄斑ジストロフィ(MD)レーベル遺伝性視神経症(LHON)レーベル先天盲(LCA)障害部視細胞神経節細胞視細胞発症後天後天先天LPZ反応タスク依存性反応無反応タスク非依存性反応LPZ特性安定性経シナプス変性可塑性構築保存変性改変機能保存低下.消失変化性を有する臨界期に神経回路構築が改変し,網膜部位再現地図が通常と異なっている可能性が示唆された.謝辞本研究は東京慈恵会医科大学研究奨励費,公益信託参天製薬創業者記念眼科医学研究基金の助成を受けた.文献1)MasudaY,DumoulinSO,NakadomariSetal:V1projecC-tionCzoneCsignalsCinChumanCmacularCdegenerationCdependContask,notstimulus.CerebCortexC18:2483-2493,C20082)MasudaY,HoriguchiH,DumoulinSOetal:Task-depen-dentCV1CresponsesCinChumanCretinitisCpigmentosa.CInvestCOphthalmolVisSciC51:5356-5364,C20103)OgawaCS,CTakemuraCH,CHoriguchiCHCetCal:WhiteCmatterCconsequencesCofCretinalCreceptorCandCganglionCcellCdam-age.InvestOphthalmolVi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