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硝子体手術のワンポイントアドバイス 162.IRVAN(Idiopathic retinal vasculitis, aneurysms, and neuro-retinitis)に対する硝子体手術(中級編)

2016年11月30日 水曜日

●連載硝子体手術のワンポイントアドバイス162IRVAN(Idiopathicretinalvasculitis,aneurysms,andneuro-retinitis)に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに1995年にChangらは網膜血管炎,視神経乳頭上または動脈分岐部に多発する動脈瘤様拡張,神経網膜炎,硬性白斑,周辺部網膜無灌流域などを認める10例の自験例をまとめて,idiopathicretinalvasculitis,aneurysms,andneuro-retinitis(IRVAN)として報告した1).本疾患は通常両眼性で30~40歳代に多く,網膜無灌流域,網膜血管吻合,毛細血管拡張,網膜新生血管など,非常に多彩な網膜血管病変をきたすが,基本的には網膜血管炎に起因すると考えられる.筆者らは,黄斑部に網膜前出血と網膜下出血をきたし,硝子体手術を施行したIRVANの1例を経験し報告したことがある2).●症例41歳,女性.左眼に変視を自覚して来院.右眼は外傷性黄斑変性で視力不良.左眼は眼底周辺部に不規則かつ広範囲な網膜無灌流域と動静脈血管吻合,多発性網膜細動脈瘤を認めた(図1).網膜無灌流域に対して網膜光凝固を予定していたが,通院を自己中断し,その後左眼の急激な視力低下を自覚し再来した.左眼視力は0.08(矯正不能)で,眼底は左眼黄斑部に網膜細動脈瘤の破裂によると考えられる網膜前出血と網膜下出血を認めた(図2).左眼に対して硝子体手術を施行した.手術は硝子体ゲルを周辺部まで切除後,内境界膜下に貯留した網膜前出血を除去したが,黄斑円孔が生じていたので,その周囲の内境界膜を?離した.下方~耳側の網膜無灌流域に眼内光凝固を施行し,眼内液空気同時置換術を施行した.術後,網膜下出血は減少し,黄斑円孔は閉鎖し矯正視力は(0.4)に改善した(図3).なお,全身検査所見として一般検血,血液生化学検査,その他各種抗体検査では異常を認めなかった.●IRVANに対する硝子体手術IRVANに対する硝子体手術適応は,今回のように網膜細動脈瘤の破綻により黄斑部を含む出血が生じた場合に加えて,網膜無灌流域に生じた新生血管からの破綻性硝子体出血あるいは線維血管性増殖膜の収縮による牽引性網膜?離や裂孔併発型網膜?離があげられる.いずれの病態も早期に網膜無灌流域に光凝固を施行することで予防できる可能性がある.そのほか,網膜血管炎に対するステロイド治療や新生血管および血管透過性抑制のための抗VEGF療法が有効であったとする報告がある3).文献1)ChangTS,AylwardGW,DavisJLetal:Idiopathicretinalvasculitis,aneurysms,andneuro-retinitis.Ophthalmology102:1089-1097,19952)筒泉香君,喜田照代,南政宏ほか:長期間経過観察できた多発性網膜細動脈瘤を伴う特発性網膜血管炎(IRVAN)の一例.眼臨紀9:494-498,20163)SawhneyGK,PayneJF,RayRetal:Combinationanti-VEGFandcorticosteroidtherapyforidiopathicretinalvasculitis,aneurysms,andneuroretinitissyndrome.OphthalmicSurgLasersImagingRetina44:599-602,2013図1左眼のフルオレセイン蛍光眼底写真耳側に広範囲かつ不規則な網膜無灌流域,動静脈吻合,毛細血管拡張を認める.図2再診時の左眼の眼底写真黄斑部に網膜細動脈瘤破裂によると考えられる網膜前出血と網膜下出血を認める.図3硝子体術後の左眼眼底写真中心窩の網膜下出血は減少し,黄斑円孔は閉鎖している.(77)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.11,20161615

新しい治療と検査シリーズ 232. 眼科手術用顕微鏡3Dシステム

2016年11月30日 水曜日

新しい治療と検査シリーズ232.眼科手術用顕微鏡3Dシステムプレゼンテーション:北澤耕司京都府立医科大学視覚機能再生外科学バプテスト眼科クリニックコメント:志村雅彦東京医科大学八王子医療センター眼科バックグラウンド近年,3Dテレビ,3Dプリンター,3D映画など3Dは時代の最先端を示す一つのキーワードとして発展を遂げている.医療の現場においてもその波が押し寄せてきており,われわれは3D-CTや3D-MRI画像によって,より多くの情報を得ることが可能になった.Pubmedで“three-dimensional”で検索すると,1980年の“448件”から2015年には“14,446件”と右肩上がりにヒット数が増加している.眼科の分野でも,OCT画像で網膜や前眼部の3D画像を構築することが,診断や治療法の決定に有用であることはいうまでもない.そしてついに手術顕微鏡システムにも3D技術の時代が訪れようとしている.今回は,眼科手術用顕微鏡3Dシステムを使用する,いわゆるheads-upsurgeryについて解説する.?眼科手術用顕微鏡3Dシステムの原理物体が立体的に見えるのは,左右の眼から対象物を見たとき,角度の差で対象物の見え方が左右でわずかにずれているためである.また,輻湊も立体視において重要な要素で,注視点を網膜の中心になるように眼球の位置を調節することでより立体感が得られる.手術用モニター画面に視差をつけた2つの画像を映し出し,偏光メガネをかけることで3Dを構築すれば,奥行きを感じることができる.フルHD画像になり解像度が格段によくなったこと,処理時間が短くなりdelayがなくなったこと,モニターが大画面になり,より3D効果が向上したことが,眼科手術用顕微鏡への3D導入へとつながった.?使用方法通常の顕微鏡下手術では鏡筒をのぞいて術野を見るが,heads-upsurgeryでは顕微鏡ではなく,偏光メガネをかけてモニター画面を見ながら手術を行う.また,目の高さと画面の高さ,見る角度を合わせないときれいな立体画像を得ることができないため,モニター画面の配置調整が重要である.?本方法の良い点術者だけでなく,スタッフ全員が術者の感覚を体験することができるため,教育ツールとして有用である.また,heads-upで手術を行うことで,らくな姿勢で快適に手術ができるため,疲労が軽減することが予想される.実際,heads-upsurgeryは手術操作ミスが有意に少なくなるという報告もある1).筆者らはライカの顕微鏡にTrueVision社の3D画像システムを組み合わせたものでheads-upsurgeryを行い,筆者を含む複数の術者からのアンケート調査を行ったのでその一部を示す.硝子体手術では手術操作に多少違和感があるものの,もう一度使用したいと考えている術者が多く,おおむね満足していると考えられる.また眼の疲れがあるものの,肩や腰への疲労感は少ないと感じており,長時間の手術になる場合に有用である(図2).一方,白内障手術操作では,肩,眼,腰に疲れを感じる術者がいて,白内障手術のほうが慣れを要することが示唆された(図3).また,デジタル画像であるため,光量を減らしてもゲインを上げることで明るい画像を得ることができたり,色のコントラストを変えたりできるため,網膜への光障害を最小限にする手術が可能となるなど,将来性が高いと思われる.文献1)EckardtC,PauloEB:Heads-upsurgeryforvitreoretinalprocedures:Anexperimentalandclinicalstudy.Retina36:137-147,2016?本方法に対するコメント?技術革新と操作性は時に背反する.キーボード入力がマウスに代わり,さらに画面タッチに変わったように,硝子体手術も直像観察から広角観察,そして3Dモニター観察の時代がやってきた.この3Dモニターシステムのメリットは,患者にとっては観察光量の抑制による光障害防止,術者にとっては手術姿勢に自由度がもたらされたことである.とくに,今回の技術革新によって,観察系が術野から切り離されたことは大きい.今後,操作系すなわち手術器具の操作や反応をセンサー技術によって擬似化することができれば,遠隔手術も夢ではなくなるからである.本システムを経験する執刀医の多くは,従来の手術技術が高いほど,初めは操作性の違いにとまどうことになるだろう.しかし,将来的な方向性を考えると積極的な活用が推奨される.もっとも,人工知能が搭載されてフルオートで硝子体手術を行ってしまうような時代が来てしまったときには,術者の将来は明るいとはいえないのだけれど…….図1Heads?upSurgery顕微鏡には鏡筒がなく,モニター画面で術野を観察しながら手術を行う.(73)あたらしい眼科Vol.33,No.11,201616110910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2硝子体手術での使用経験(4名)手術操作に多少違和感があるものの,どの術者もおおむね満足しており,疲労感も少ない.図3白内障手術での使用経験(6名)硝子体手術と異なり,術者間でのばらつきが大きく,白内障手術では慣れが必要である.3名は図2の硝子体術者.(74)(75)あたらしい眼科Vol.33,No.11,20161613

斜視と弱視のABC:弱視治療の進め方

2016年11月30日 水曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保3.弱視治療の進め方鈴木寛子浜松医科大学医学部眼科学講座視力および両眼視の発達には臨界期があるため,弱視は適切な時期に,適切に治療される必要がある.弱視は原因により屈折異常弱視,不同視弱視,斜視弱視,視覚刺激遮断弱視に分類される.弱視のおもな治療は屈折矯正と健眼遮閉,ペナリゼーションである.弱視の分類に基づき,治療法を以下に解説する.はじめに弱視とは,「視覚の発達期に視性刺激遮断あるいは異常な両眼相互作用によってもたらされる片眼あるいは両眼の視力低下で,眼の検査で器質的病変は見つからず,適切な症例は予防,治療が可能なもの」(植村,1993)とされる.視覚の感受性期間とは,粟屋によると,生後1カ月までの感受性は低く,次第に高くなって1歳6カ月頃がもっとも高く,その後徐々に減衰して8歳までは残存すると説明されている.弱視は視覚感受性のある時期に発見,治療されなければ,生涯視力不良となる.片眼弱視の者は,高齢になって両眼の視力障害におちいる率が正常者の約2倍高いことが疫学研究で示されている2).以上より,弱視は小児期に発見,治療されることが重要となる.弱視の分類弱視は原因により①屈折異常弱視,②不同視弱視,③斜視弱視,④視覚刺激遮断弱視に分類される.①の屈折異常弱視は両眼同程度の屈折異常が原因で起こる.遠視は+2D以上,近視は?3D以下,乱視は2D以上で起こりやすいといわれている.経線弱視も含まれる.②の不同視弱視は屈折に左右差があると発症し,不同視が2D以上あると発症しやすいと考えられている.③の斜視弱視は斜視のために片眼の視力が障害された状態で,交代固視できない場合や交代固視可能であっても左右差がある場合にみられる.④の視覚刺激遮断弱視は,視覚感受性期間内に中心窩における視性刺激遮断が原因で生じる片眼性または両眼性弱視である.片眼性の視覚刺激遮断弱視はとくに予後が不良である.弱視と診断するために必要な検査弱視が疑われる患者が来院した際,視力検査,眼位検査,眼球運動を調べ,細隙灯顕微鏡で対光反射,前眼部・中間透光体の観察を行ったのち,必ず塩酸シクロペントラートまたは硫酸アトロピンを用いた調節麻痺下屈折検査を行う.これらの点眼には瞳孔散大効果もあるため,同時に眼底検査も行い,屈折検査とともに器質的疾患がないかを確認する.内斜視のある未就学児では,硫酸アトロピンによる調節麻痺下屈折検査を行う.硫酸アトロピンは2~3週間効果が持続する.就学児では学業に支障を生じないよう,塩酸シクロペントラートによる調節麻痺下屈折検査を行うことが多い.塩酸シクロペントラートの効果は1~2日で消失するためである.本誌前項に「弱視と間違われやすい眼疾患」について記載されているので,参照いただきたい.弱視の治療弱視治療の基本は屈折矯正と,健眼遮閉,ペナリゼーション法である.眼鏡処方を考える屈折異常は,年齢や斜視の有無,不同視差の程度によって異なる(表1)1).視力検査ができないような低年齢児や発達遅滞児では,基準に該当する場合は積極的に眼鏡装用させる.弱視の分類ごとに治療法を述べる.①屈折異常弱視調節麻痺下屈折検査に基づき屈折矯正を行う.5歳未満では+3.00D以上の遠視眼に対して低矯正すると,調節性内斜視が発生する危険性があるため,調節麻痺下屈折検査で得られた屈折値で完全矯正し,眼鏡処方する.5歳以上であれば視力検査でもっとも見やすい度数で処方する.PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup(PEDIG)は,両眼性の屈折異常弱視について,+4D以上の遠視の3~10歳までの小児に対する治療効果は,大部分の10歳以下の症例で1年以内に視力が0.8以上に改善し,弱視のなかでは予後は比較的良好であると報告している.②不同視弱視調節麻痺下屈折検査を行い,基本的には得られた値で眼鏡処方し,眼鏡を常用するようにする.PEDIGは視力20/40~20/100である3~7歳の未治療の不同視弱視において,77%は屈折矯正のみで2line以上視力改善し,27%は屈折矯正のみで完治したと報告している.眼鏡装用開始後4カ月間は眼鏡装用のみで治療し,視力の向上が停滞した場合に健眼遮閉を開始することが勧められているが,重症な弱視や年齢の高い小児では早くから健眼遮閉を開始することもある.遮閉法にはさまざまあるが,現在は健眼にパッチを貼付し,弱視眼を積極的に使わせる健眼遮閉が一般的である.中等度(視力0.2~0.6程度)の弱視では,健眼遮閉は1日2時間から開始し,6~12週間隔で視力検査および遮閉が指示通りできているかの確認を行い,遮閉時間を増減する.遮閉による副作用として健眼弱視や斜視の発症があるため,同時に確認していく.視力が上昇し,遮閉を中止する場合,急に中止すると弱視が再発する可能性があるため,漸減しながら中止する.皮膚が弱くパッチを直接皮膚に貼ることができない児やパッチを貼ることを嫌がる児には,眼鏡にかぶせるタイプの布パッチ(図1)や,バンガーターフィルム(眼鏡レンズに貼付する半透明のオクルーダー),健眼のアトロピン点眼によるペナリゼーションを行うこともある.アトロピンペナリゼーションを行う場合は,週に2回,アトロピンを健眼に点眼する.健眼が近視の場合や屈折異常の左右差が大きすぎると効果が少ないといわれている.問題点として健眼の弱視化,羞明がある.アトロピン点眼中は視力検査をしっかり行い,弱視眼の視力の観察とともに健眼の弱視化を防ぐことが重要である.遮閉治療で重要なことは,いかにコンプライアンスを上げるかということである.コンプライアンスをあげる工夫としては,パッチにかわいい絵を描く,絵のついたかわいいパッチを買う(図2),パッチをしている間はゲームができることにする,どれだけ健眼遮閉ができたかを日記につけモチベーションをあげる,などを当院では行っている.③斜視弱視斜視弱視の中にも不同視や屈折異常を伴うものもあるので,外斜視であればサイプレジン,内斜視であればアトロピンを用いた調節麻痺下屈折検査を行う.屈折異常があれば眼鏡を処方する.眼鏡を装用しても斜視が不変または残存する場合は健眼遮閉を行い,中心固視の獲得と視力発達をめざす.先天内斜視では早期手術が勧められているが,それ以外の斜視では,斜視治療に先立って弱視治療を行うのが原則である.④視覚刺激遮断弱視原因には先天白内障,角膜混濁,角膜輪部皮様?腫,眼瞼苺状血管腫,眼瞼下垂などがある.軽度な場合は屈折矯正と健眼遮閉で視力が改善する場合があるが,まずは原因を除去し,その後,屈折矯正・健眼遮閉を行う.ただし,白内障や角膜混濁の軽度なものでは,原疾患を手術治療するか否かの判断のために,屈折矯正と健眼遮閉を行うことがある.眼瞼下垂では顎上げをして両眼視をしていれば,視覚刺激遮断弱視よりも屈折異常弱視あるいは不同視弱視の危険が高い.4つの弱視のなかでは,治療抵抗性で一番予後不良であり,とくに片眼性はもっとも予後が悪い.治療開始が臨界期を過ぎている場合視覚感受性の臨界期は8歳頃といわれているが,臨界期以降または成人であっても視力が向上する可能性はあるため,9歳以降の未治療の弱視に対しても治療をあきらめず,屈折矯正および健眼遮閉を試みるべきである.文献1)AmericanAcademyofOphthalmologyPediatricOphthalmologyandPreferredPracticePattern:Amblyopia.AmericanAcademyofOphthalmology,SanFrancisco,2012(71)あたらしい眼科Vol.33,No.11,201616090910-1810/16/\100/頁/JCOPY表1乳幼児の屈折矯正のガイドライン(AmericanAcademyofOphthalmology,2012)屈折異常0~1歳1~2歳2~3歳両眼性近視≧?5.00≧?4.00≧?3.00遠視(斜視のない)≧+6.00≧+5.00≧+4.50遠視(斜視のある)≧+3.00≧+2.00≧+1.50乱視≧3.00≧2.50≧2.00不同視近視≧?2.50≧?2.50≧?2.00遠視≧+2.50≧+2.00≧+1.50乱視≧2.50≧2.00≧2.00(文献1より引用)図1布製の遮閉具による健眼遮閉図2柄つき遮閉具1610あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(72)

眼瞼・結膜:結膜リンパ管拡張症と結膜囊胞

2016年11月30日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人20.結膜リンパ管拡張症と結膜?胞横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学結膜リンパ管拡張症は,数珠状の外観を示す局所的な結膜のリンパ管拡張であり,一塊のものはリンパ?胞とよばれる.結膜?胞には,リンパ?胞以外に封入?胞,貯留?胞があり,封入?胞は結膜上皮が結膜下で?胞を形成したもの,貯留?胞は涙腺の導管の閉塞により,?胞状に拡張した導管に涙液が貯留したものである.●はじめに結膜リンパ管拡張症や結膜?胞は,日常診療で偶然に,あるいは異物感などの訴えで出会う結膜病変であり,訴えがあれば治療の対象となり,点眼治療を試みても効果がない場合は外科治療の対象となる.本稿では,最新知見を含め,両疾患の要点について述べる.●結膜リンパ管拡張症結膜リンパ管拡張症1,2)とは,結膜のリンパ管が局所的に拡張し,結膜上に浮腫状の隆起を示す病変をさす.病理組織学的には,拡張したリンパ管は一層の内皮細胞からなり,その内部にリンパ液が貯留している.本疾患は結膜の加齢性変化の一つと考えられ,結膜弛緩症においては,実に約90%の例で弛緩した結膜下に本病変を伴うとされる3).典型例では,拡張したリンパ管は数珠状に連なった特徴的な外観を示す(図1上)が,単発性に大きな?腫状病変として認められる場合もあり(図1下),その場合はリンパ?胞とよばれる.両者の鑑別はしばしば容易ではない.リンパ?胞は特発性のものと,眼窩内病変に続発したリンパ液の滞留が原因となっているものがある.リンパ液はしばしば黄色調に見えるが,流入した血液が見られる場合もあり,その場合は出血性リンパ管拡張症とよばれる2).出血性リンパ管拡張症はリンパ管の一部が異常形成されたものであり,特発性のものもあるが,先天性のものや,炎症,手術,外傷を契機に発症するものもある.結膜リンパ管拡張症は自覚症状がないことが多いが,整容上の理由,あるいは異物感,眼痛などのために治療を求めて受診しうる.鑑別疾患として,リンパ?胞,結膜封入?胞,涙腺の貯留?胞などがある.自覚症状がなければ経過観察でよいが,異物感や眼痛を訴え,点眼治療で効果がなければ外科治療の適応となり,全摘出できれば一般に再発はない.●結膜?胞結膜?胞1,2,4,5)とは,結膜に生じた?胞性病変をさし,偶然,無症候性にみつかることもあるが,瞬目時の摩擦の亢進や?胞の周りに生じた異所性涙液メニスカスが涙液層の破壊や角結膜上皮障害を引き起こすため,あるいは眼表面の涙液の流路が?胞によって遮断されるため,異物感や流涙を訴えて受診しうる.結膜?胞の多くは,後天性に生じ,封入?胞1,2,4,5),リンパ?胞,貯留?胞が区別され,なかでも封入?胞(図2上)の頻度が高い.封入?胞は,一般に球結膜にみられる半透明のドーム状の隆起性病変であり,その発症の契機として外傷や手術があげられているが,筆者らの多数例の経験ではほとんどすべてが特発性である.?胞壁は結膜上皮に由来するとされる数層の非角化上皮からなり(図3下),杯細胞がみられることもある.?胞内の液状物質は透明あるいは混濁しており,ケラチン,ムチン,上皮の残渣などが含まれるとされる.封入?胞は,結膜の粘膜固有層に結膜上皮が迷入することで形成されると考えられているが,貯留?胞は主涙腺あるいは副涙腺の導管の閉塞によって,涙液が?胞の内部に貯留したもので,結膜の瘢痕性病変に続発することもある.結膜?胞の鑑別は,細隙灯顕微鏡による観察だけではむずかしいこともあるが,眼瞼を介して?胞を押し進めるようにして結膜下で?胞の可動性が確認できれば,封入?胞と診断してまず間違いはない.前眼部光干渉断層計が?胞の鑑別に役立ち,リンパ?胞では,?胞内は低反射であるのに対して,封入?胞では,?胞内に顆粒状の高反射がみられ,しばしば?胞壁の輪郭を追うことができる(図2下)1,2,4).結膜?胞は一般に,症状がなければ経過観察でよいが,症状がある場合は,点眼治療で効果がなければ手術適応となる.封入?胞は,全摘出できれば(図3上)再発しないが,穿刺による治療は全摘出できるチャンスを失うだけでなく,癒着を生じて再発しうるため勧められない5).文献1)横井則彦,山田桂子:結膜病変の鑑別~結膜弛緩症,?胞など.眼科55:1503-1511,20132)横井則彦:結膜.前眼部画像診断AtoZOCT(前田直之,大鹿哲郎,不二門尚編),p45-49,メジカルビュー社,東京,20163)WatanabeA,YokoiN,KinoshitaSetal:Clnicopathologicstudyofconjunctivochalasis,Cornea23:294-298,20044)寺尾信宏,横井則彦,丸山和一ほか:前眼部光干渉断層計を用いた結膜封入?胞の観察と治療.あたらしい眼科27:353-356,20105)山田桂子,横井則彦,加藤弘明ほか:結膜封入?胞の臨床的特徴と外科的治療についての検討.日眼会誌118:652-657,2014図1結膜リンパ管拡張症上:数珠状に連なった拡張したリンパ管が散在する結膜リンパ管拡張症の典型例.下:?腫状の形態をとり,リンパ?胞とよべる例.(69)あたらしい眼科Vol.33,No.11,201616070910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2結膜封入?胞上:細隙灯顕微鏡による結膜封入?胞の観察像.?胞の上方にリサミングリーンで染色された結膜上皮障害を認める.下:前眼部光干渉断層計による?胞の横断面像.?胞内に顆粒状の高反射を認め?胞壁の一部も観察される.図3結膜封入?胞の観察像上:結膜封入?胞に対する小切開enbloc摘出4,5)の最中.下:摘出された?胞の壁は,組織学的には,結膜上皮に由来するとされる数層の非角化上皮から構成される.1608あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(70)

抗VEGF治療:硝子体内注射の標準化

2016年11月30日 水曜日

抗VEGF治療セミナー●連載監修=安川力髙橋寛二34.硝子体内注射の標準化喜田照代大阪医科大学眼科教室VEGF阻害薬の登場により,黄斑疾患患者のQOVは飛躍的に向上した.同時に眼科臨床において硝子体内注射の施行件数が非常に増加している.2016年2月「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」が日本眼科学会雑誌に発表されたので,本稿ではそのガイドラインを中心に解説する.はじめにVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)阻害薬の登場により,黄斑疾患における視力予後をはじめ,患者のQOV(qualityofvision)が飛躍的に向上した.現在,わが国における抗VEGF療法の適応疾患は,①中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性,②病的近視における脈絡膜新生血管,③網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,④糖尿病黄斑浮腫であり,ラニビズマブ(ルセンティスR)とアフリベルセプト(アイリーアR)の2剤が上記4疾患に共通して承認されている.また,ペガプタニブナトリウム(マクジェンR)は加齢黄斑変性のみに,さらに,VEGF阻害薬ではないが,副腎皮質ステロイドであるトリアムシノロンアセトニド(マキュエイドR)は糖尿病黄斑浮腫にのみ承認されている.VEGF阻害薬の効果は劇的なものがあり,眼科臨床において硝子体内注射の件数は非常に増加している.その一方で,注射薬の反復投与には合併症の危険があること,高価な薬剤であること,薬剤耐性,抗菌薬点眼による結膜?常在細菌叢の変化などの問題もあり,これらを認識し十分なインフォームド・コンセントのうえで治療を行うことが重要である.今年2月,できるかぎり安全に硝子体内注射を行うために「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」が日本眼科学会雑誌に発表された1).ガイドラインは,適応疾患と国内承認薬剤,硝子体内注射方法(必要物品から具体的な注射手順まで),合併症の3項目に分けてわかりやすく簡潔に記載されているので,これから硝子体内注射を習得しようと考えておられる先生をはじめ,日々硝子体内注射に明け暮れておられる先生方も,いま一度基本に立ち返って精読されてみてはと思う.本稿では,このガイドラインにそって再確認してみる.硝子体内注射適応疾患の診断と病態の把握前述の適応疾患のうち特筆すべきは加齢黄斑変性で,抗VEGF療法は中心窩下脈絡膜新生血管が存在する加齢黄斑変性に適応とされているが,その全例にVEGF阻害薬が必ずしも第一選択というわけではない.現時点では2012年に加齢黄斑変性の治療指針が発表されているので,そのフローチャートを参考にするとよい2).また,抗VEGF療法の適応外であるが,萎縮型加齢黄斑変性については2015年診断基準が発表された3).病変の範囲や活動性などを含めた的確な診断は,ときにむずかしいが重要である.治療を継続するにつれ病態も変化していくので,加齢黄斑変性に限ったことではないが,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)画像に頼りすぎず,検眼鏡的眼底所見の確認を怠らないよう留意すること,また,限られた診察時間のなかで,要点をおさえて患者の声を傾聴するかが大切である.硝子体内注射の用法・用量散瞳して30ゲージ(G)注射針を用いる.添付文書を参考にするのがよい.1回の用量(硝子体内に投与される量)は,ラニビズマブとアフリベルセプトが0.05mlで,ペガプタニブナトリウムだけ0.09mlと他のVEGF阻害薬の1.8倍の量である.また,糖尿病黄斑浮腫に適応のあるトリアムシノロンアセトニドは,1mlの生理食塩水あるいは眼灌流液を本剤バイアルに注入して40mg/1mlとし,その0.1ml(4mg)を注射する.また,投与間隔は,ラニビズマブとアフリベルセプトが1カ月であるが,ペガプタニブナトリウムは6週間,トリアムシノロンアセトニドは3カ月以上で他剤に比べ長くなっている.現時点ではアフリベルセプトはバイアルで専用のフィルター付き採液針が付属している.ラニビズマブやペガプタニブナトリウムはプレフィルドシリンジとしてキット化されている.過量投与を防ぐため,投与前に適切な投与量を確認し,1回投与,使い捨てとする.硝子体内注射前の注意事項硝子体内注射薬の添付文書では,投与3日前から広域抗菌点眼薬を点眼することとされている.ガイドラインでは,「術前点眼の必要性については施設または施術者が個別に判断すべきである」と追記されている.注射薬に過敏症の既往がある場合や,妊婦または妊娠の可能性がある患者,眼あるいは眼周囲に炎症がみられる場合は禁忌である.また,硝子体内注射全般として,緑内障・高眼圧症の既往は慎重投与,VEGF阻害薬では脳卒中・一過性脳虚血発作の既往が慎重投与と記載されており,事前に十分に問診を行う必要がある.また,小児への投与については安全性が確立されていない.眼圧上昇の発現率はやはりトリアムシノロンアセトニドで約30%と高率で,ステロイド緑内障が発症することもあるので注意すべきである.硝子体内注射後の注意事項抜針直後に患者の眼前において指数弁の有無を確認する.光覚弁がない場合は視神経乳頭血流を確認,眼圧上昇に対し直ちに前房穿刺などの適切な処置を行う.注射施行後は,薬剤添付文書では「投与2~3日後まで広域抗菌点眼薬を点眼すること」とされている.また,注射後一過性霧視の可能性があるため,症状がなくなるまで自動車などの運転はしないよう指導する.さらに,眼痛,充血の悪化,見え方の変化など眼内炎(表1)が危惧される症状や,脳卒中・動脈血栓塞栓に関する血管死などの全身合併症も起こらないとは限らないので,自覚症状,体調の変化があれば早急に連絡するよう指導することが大切である.そのほか,注射手技に伴う水晶体損傷,網膜?離,白内障などの合併症に注意する.トリアムシノロンアセトニドは,白内障患者に対しては慎重投与となっている.おわりに以上,黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドラインを紹介した.ガイドラインを読み,筆者自身も再認識させられた.元来,VEGFは生理的な低濃度で正常血管の成長や発育,恒常性維持に不可欠な糖蛋白質であり4),VEGF阻害薬の不必要な投与は控えるべきである.硝子体内注射は侵襲的な治療手段であり,基本事項を遵守して日常診療に携わることが重要である.文献1)小椋祐一郎,髙橋寛二,飯田知弘ほか;日本網膜硝子体学会硝子体注射ガイドライン作成委員会:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,20162)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性治療指針作成ワーキンググループ:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,20123)髙橋寛二,白神史雄,石田晋ほか;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班萎縮型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ:萎縮型加齢黄斑変性の診断基準.日眼会誌119:671-677,20154)FerraraN,Davis-SmythT:Thebiologyofvascularendothelialgrowthfactor.EndocrRev18:4-25,1997(67)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.11,20161605表1硝子体内注射薬による眼内炎の発現率製品名疾患名wet-AMDBRVOCRVOmCNVDMEペガプタニブナトリウム発現率2.03%(6/295)────注射回数8.4±1.5回/54Wラニビズマブ発現率0.80%(6/751)0.38%(1/264)0%(0/261)0.89(2/224)0.83%(5/602)注射回数21.3~22.1回/24M8.4~8.5回/12M8.9~9.6回/12M3.5~4.6回/12M7.0~10.2回/12Mアフリベルセプト発現率0.27%(5/1,824)0%(0/91例)0%(0/104例)0.88%(1/114例)0%(0/91)0%(0/650例)注射回数11.2~16.2回/96W5.7±0.8回/24W9.2±3.2回/76W4.2±3.1回/48W8.7~12.0回/52Wトリアムシノロンアセトニド発現率────0%(0/34)注射回数────1回/12Wwet-AMD:滲出型加齢黄斑変性,BRVO:網膜静脈分枝閉塞症,CRVO:網膜中心静脈閉塞症,mCNV:病的近視における脈絡膜新生血管,DME:糖尿病黄斑浮腫.(文献1より引用)(68)

緑内障:緑内障の進行判定(ファイリングシステムの活用法)

2016年11月30日 水曜日

●連載197緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也197.緑内障の進行判定(ファイリングシステムの活用法)加藤昌寛*中野匡***東京慈恵会医科大学附属柏病院眼科**東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座緑内障の視野進行を評価する際に,単に単一視野解析の結果を時系列に並べて比較した場合,同じプリントアウトであっても診断医によって異なる判定が下されることをしばしば経験する.ファイリングシステムは,多くのパラメータを用いて定量的に解析することで,統計学に基づいた進行判定を行い,施設間,医師間の見識の違いを最小限にし,普遍的な診断を可能にするツールである.●イベント解析・トレンド解析現在,緑内障の視野進行を評価する代表的な二つの解析方法が汎用されている.一つはイベント解析で,あらかじめベースラインからの視野進行の基準値を定め,その値を超えた際に視野悪化と判定する方法である(図1).判定がわかりやすく診断が鋭敏であるが,大きな外れ値があった場合は過剰な判定をしてしまう危険性があり,再現性の確認が必要と思われる.もう一つはトレンド解析で,代表的なパラメータにMD(meandeviation)から求めたMDスロープがある(図2).イベント解析に比べて外れ値の影響を受けにくく変動に強い.ただし,統計解析が可能となる検査回数が必要で,評価を下すまでにある程度の検査回数や経過観察期間が必要となる.また,視野の全体を評価するため,局所の視野障害の進行に鋭敏でない可能性がある.●クラスター解析イベント・トレンドの進行解析の利点を併せもつ評価法にクラスター解析がある.視野進行の際に関連性の強い測定点ごとにグループ分けして解析する評価法である.1例として自動視野計OCTOPUS(600・900)(ハーグストレイト社)のEyeSuitePerimetryに搭載されている解析法を示す1).視神経線維の走行を考慮したクラスター分類であるが,Humphrey視野計の緑内障半視野テスト(glaucomahemifieldtest:GHT)と異なり,上下対称性に完全に一致したグループ分けがされていない(図3).視野を複数のクラスターに分割したことにより,MDスロープで苦手とされていた局所的な視野進行に対応でき,神経線維の走行に沿うことによって緑内障に特化した進行評価を行えると考えられている2).●ファイリングシステムの活用視野検査のプリントアウトには多くの情報が盛り込まれている.激務の日常診療のなかで,多くの情報を評価することに限界があるが,ファイリングシステムを活用することで,紙媒体の評価で見過ごす危険性のある視野進行を確実にとらえ,適切な追加治療や手術適応が可能(66)となる.各種ファイリングシステムには,上記の代表的な解析方法をもとに各種進行評価ソフトが搭載されている.各解析法は視野欠損の部位や進行スピード・病期によって進行評価の鋭敏度が異なることが予想される.図4に長期経過観察が可能であった緑内障患者の進行評価解析を示す.この症例ではハンフリーフィールドアナライザー(カールツァイス社)のトレンド解析とクラスター解析を施行したが,クラスター解析がより早い段階で信頼性のある傾きをもって視野進行を判定している(図5).視野進行の最終診断はこれら複数のソフトの特徴,解析過程を十分理解したうえで,総合評価することが重要と思われる.文献1)NaghizadehF,HolloG:Detectionofearlyglaucomatousprogressionwithoctopusclustertrendanalysis.JGlaucoma23:269-275,20142)HolloG:Comparisonofstructure-functionrelationshipbetweencorrespondingretinalnervefibrelayerthicknessandOctopusvisualfieldclusterdefectvaluesdeterminedbynormalandtendency-orientedstrategies.BrJOphthalmol,2016.[Epubaheadofprint]図1イベント解析信頼性のある複数回の検査結果をベースラインとし,あらかじめ定めた基準値を超えた際に進行と判定する.局所の進行を鋭敏に評価する可能性が高い.図2トレンド解析視野結果を統計的に処理することで,バラツキがあるものから真の傾向を評価できる.すべてのデータを活用でき,精度は高くなるが判定までに時間を要す.(65)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.11,20161603図3視野計に採用されているクラスター領域機種により採用されているクラスター領域が異なる.図4長期経過観察が行えた緑内障症例フォロー開始5回目の解析結果ではMD(meandeviation)スロープ,上下半視野のTD(totaldeviation)スロープともに進行と判定されていない.HFA:HumphreyFieldAnalyzer.実線:下半視野,点線:上半視野.図5図4の症例の5回目のクラスター解析下方視野に信頼性のある視野進行(▼は有意水準1%未満)が判定されている.(66)

屈折矯正手術:レーシック後長期の視機能

2016年11月30日 水曜日

●連載198屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂大橋裕一坪田一男198.レーシック後長期の視機能森洋斉宮田眼科病院選択バイアスがかかっている.欠測値を補完する統計解析mixedeffectsmodelを使用し,術後長期の視機能を再評価したところ,長期においてもregression(屈折の戻り)が持続していることが示唆された.収差や前方散乱は変化を認めなかった.●はじめにエキシマレーザーが登場し,photorefractivekeratectomy(PRK)やLaserinsitukeratomileusis(LASIK)といった屈折矯正手術が行われるようになり,すでに20数年が経過した.現在,フェムトセカンドレーザーで切開して角膜実質の一部を切り取るrefractivelenticleextraction(ReLEx)や有水晶体眼内レンズなど,屈折矯正手術の選択肢が増えたとはいえ,今なおLASIKは屈折矯正手術の主流である.本稿ではLASIKの術後長期の視機能について,宮田眼科病院(以下,当院)のデータを紹介し,再考する.●LASIK後長期の屈折これまでに報告されているLASIK後10年以上の視機能に関する長期成績1~5)を表1に示す.これらは術前等価球面度数が?13.92D~?7.27Dと,いずれも強度近視に対するLASIK術後の報告であり,1~2D程度のregression(屈折の戻り)を生じている.また,regressionは経過とともに小さくなり,術後2~5年程度で安定するとされている.しかしながら,これらの報告は,経過観察可能であった症例による解析であり,選択バイアスがかかっている.一般に屈折矯正手術を受けた患者は,経過がよければ受診しなくなる傾向が懸念される.そこで,経過観察できなかった症例(欠測値)を,あたかもあるように補完して解析することが可能であるmixedeffectsmodel6)を使用して解析を行った.対象は,2000~2015年に近視眼に対して当院で行ったconventionalLASIK579例1,127眼で,PRK144例270眼を対照とした.再手術や他の手術を行った症例については追加手術前までのデータを使用し,術後10年までの裸眼視力,等価球面度数の推移を検討した.そして,術前背景の差による影響を受けないようにするため,mixedeffectsmodelを使用した共変量調整を行った.その結果,LASIKの裸眼視力については,術直後から良好であるものの,術後10年まで経時的な低下を認めた(図1).PRKは,術直後ではLASIKと比較して不良であったが,徐々に上がり,術後6年以降は安定した.等価球面度数は裸眼視力と同様で,LASIKは術後6カ月で近視化を認め,術後9年まで持続した(図2).PRKは,術直後に遠視となったが,徐々に近視化し,術後6年以降は安定していた.術後10年でのregressionは,PRKが?0.43D,LASIKが?0.63Dであった.以上より,術後早期ではLASIKのほうが良好な視機能が得られるが,長期的にみるとPRKのほうが,安定した屈折が得られることがわかった.LASIKのregressionの原因として,角膜上皮の過形成や角膜厚の増加,角膜の前方変位,バイオメカニクスの低下,水晶体の核硬化,眼軸長の伸長などが考えられているが,主たる原因は明らかになっていない.実際には,上記の因子が少しずつ影響してregressionを生じていると考えられる.今回,LASIKのregressionは?0.63Dであり,既報でいわれているほど近視化はしない結果となった.これは,経過観察できなかった症例を補完したmixedeffectsmodelを使用した解析によるものと考えられる.しかし,regressionが術後10年経過しても持続していたことも既報と異なっていた.今後,より長期のデータによる解析が必要であると考えられる.●LASIK後長期の収差,散乱LASIK直後に,角膜の高次収差が増加し,コントラスト感度の低下をきたすことが知られている.そこで,術後長期の収差の変化について,wavefrontguidedLASIKを行った自験例(17例34眼,平均観察期間9.5±1.0年)で検討した.結果を図3に示す.角膜の高次収差に関しては,術後1カ月から変化を認めなかった.また,眼球全体の高次収差については,コマ様収差と全体の高次収差は術後1カ月から変化しなかったが,球面様収差のみ少し増加した.角膜の球面様収差は増加しなかったことから,加齢変化に伴う水晶体の球面収差の増加が考えられる.すなわち,LASIKによる高次収差の長期変化はほとんどないことが示唆された.前方散乱は,LASIK後早期に増加するが,半年程度で術前レベルまで戻ることが報告されている.この前方散乱は,interfaceのデブリスやフラップのstrie,microfoldingsなどが原因と考えられている.LASIK後長期経過した12例22眼(平均観察期間8.8±1.6年)と年齢をマッチングした正常眼19例35眼で,C-quant(OCULUS)を用いて前方散乱を比較したところ,差を認めなかった(図4).つまり,LASIK後長期で前方散乱は増加しないことがわかった.以上より,高次収差や前方散乱に関しては,LASIK後に長期的な変化がほとんどないということが示唆された.文献1)AlioJL,MuftuogluO,OrtizDetal:Ten-yearfollow-upoflaserinsitukeratomileusisformyopiaofupto-10diopters.AmJOphthalmol145:46-54,20082)AlioJL,MuftuogluO,OrtizDetal:Ten-yearfollow-upoflaserinsitukeratomileusisforhighmyopia.AmJOphthalmol145:55-64,20083)RosmanM,AlioJL,OrtizDetal:ComparisonofLASIKandphotorefractivekeratectomyformyopiafrom-10.00to?18.00diopters10yearsaftersurgery.JRefractSurg26:168-176,20104)KymionisGD,TsiklisNS,AstyrakakisNetal:Elevenyearfollow-upoflaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg33:191-196,20075)AlioJL,SoriaF,AbboudaAetal:Laserinsitukeratomileusisfor?6.00to?18.00dioptersofmyopiaandupto-5.00dioptersofastigmatism:15-yearfollow-up.JCataractRefractSurg41:33-40,20156)NationalResearchCouncil(US):Drawinginferencesfromincompletedata.In:Thepreventionandtreatmentofmissingdatainclinicaltrials,p47-82,NationalAcademiesPress,Washington,2010表1LASIK後長期の屈折に関する既報著者眼数観察期間(年)術前等価球面度数(D)regression(D)Alioetal1)9710?7.27?1.04Alioetal2)19610?13.95?1.83Rosmanetal3)14110?12.81?1.49Kimionisetal4)1111?12.96?1.14Alioetal5)4015?9.47?1.81(63)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.11,20161601図1裸眼視力の経過*p<0.05LASIKvsPRK(Mixedeffectsmodel)図2等価球面度数の経過*p<0.05LASIKvsPRK(Mixedeffectsmodel)図3LASIK後長期の高次収差(上:角膜の高次収差,下:全眼球の高次収差)RMS:rootmeansquare.*p<0.05(Mixedeffectsmodel)図4LASIK後長期眼と正常眼の前方散乱の比較前方散乱は両群間で差を認めなかった.(Mann-WhitneyUtest)(64)

眼内レンズ:シングルピース疎水性アクリル製眼内レンズの前囊収縮率

2016年11月30日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋360.シングルピース疎水性アクリル製眼内レンズの前?収縮率永田万由美獨協医科大学眼科学教室白内障術後合併症のひとつである前?収縮には,いまだ完全な予防方法はない.しかし,IOL表面性状や光学部形状によって前?収縮発生率は異なる.本稿では前?収縮発生率をretrospectiveに解析することで,前?収縮抑制方法を探求する.●前?収縮とは白内障手術後,水晶体?内に残存した水晶体上皮細胞(lensepithelialcell:LEC)は,創傷治癒反応に伴い産生されたさまざまなサイトカインによって筋線維芽細胞様へ形質転換され(上皮間葉系移行)1),前?切開縁に線維性混濁を生じる.線維性混濁は?の収縮を生じて前?切開窓面積を小さくし,前?収縮を引き起こし2),進行すると視機能低下の原因となる.前?収縮は術後3~6カ月までの早期に進行しやすいことがわかっているが,現在のところ有効な予防方法はない.しかし,いくつか新しく解明されたことがある.●眼内レンズ素材による前?収縮の違い前?収縮の程度は眼内レンズ(intraocularlens:IOL)によって異なるのであろうか?そこで,AR40e(AMO),MA60BM(Alcon),YA-60BBR(HOYA)の前?収縮率を比較した3).これらはすべて疎水性アクリル製3ピースIOLであるが,メーカーが異なるためアクリル材質が異なると考えられる.方法は,術後2週,3カ月にEAS-1000(NIDEK)で徹照像を撮影した後,徹照モード面積解析ソフトを用いて前?収縮面積を定量し,術後2週と3カ月を比較することで術後3カ月の前?収縮率を算出した.統計学的検討には多重比較検定(Fisher’sPLSD)を用いた.その結果は,AR40e:20.23±7.70%,MA60BM:14.69±9.56%,YA-60BBR:13.13±9.07%であり,AR40eが統計学的有意に前?収縮しやすいことがわかった(p<0.05).なぜIOL間で前?収縮率が異なったのだろうか?IOL素材表面性状の相違に着目し,各IOLとLEC接着性を実験的に比較した.白色家兎水晶体前?よりLECを採取し,培養後,細胞をトリプシン処理し,LECをIOL表面に播種した.培養3時間後に洗浄固定し,ヘマトキシリン・エオジン染色にて細胞を染色し,接着した細胞数を比較した.細胞接着性試験の結果を図1に示す.接着している細胞数はAR40eで有意に少なかったことから,IOL光学部表面の接着性が低いと細胞を介しての水晶体?との接着が低下し,線維化した細胞が起こす?収縮に対する抵抗力が弱いため,前?収縮しやすいことが予想される(図2).●IOL形状による前?収縮の違い最近使用されているシングルピースアクリル製IOLの前?収縮についても解析を行ったところ,面白い結果が生じた.AR40eと同一素材でシングルピース形状であるZCB00V(AMO)と,YA60BB-Rと同一素材であるFY-60AD(HOYA)の前?収縮率を比較した.前述と同方法で術後3カ月の前?収縮率を解析したところ,ZCB00Vで1.03±2.54%,FY-60ADで7.12±9.47%であった.驚くべきことに前?収縮率は接着性が低い素材を用いたZCB00Vが統計学的有意に小さかった(p<0.01).なぜ3ピースIOLと異なる結果が出たのか?図3に示すZCB00VとFY-60AD症例の前眼部写真を比較してみよう.前眼部写真を比べると,ZCB00Vでは前?線維性混濁が明らかに少ない.前?線維性混濁が少ない理由として,筆者らはIOL光学部形状に着目している.ZCB00Vは光学部周辺にrimとよばれる形状をもち(図4),光学部周辺部が中心部よりせり出しているため,前?切開縁が光学部に接しにくい.その結果,前?下LECに房水が灌流しやすくなる.以前より,房水にはLECの増殖を抑制し,アポトーシスを誘導する作用があることが報告されている4).そこで,rimによって生じた隙間に房水が灌流し,前?切開縁の線維性混濁の進行が抑制され,前?収縮が抑制されたことが推察される.今後さらなる検討が必要だが,IOL光学部材質だけでなく,形状をコントロールすることで,前?収縮を抑制することが可能になるかもしれない.文献1)雑賀司珠也:水晶体上皮細胞の上皮?間葉系移行研究のその後の進展.IOL&RS19:34-37,20052)NishiO,NishiK,ImanishiM:Synthesisofinterleukin-1andprostaglandinE2bylensepithelialcellsofhumancataracts.BrJOphthalmol76:338-341,19923)NagataM,MatsushimaH,MukaiKetal:Comparisonofanteriorcapsulecontractionbetween5foldableintraocularlensmodels.JCataractRefractSurg34:1495-1498,20084)AoseM,MatsushimaH,MukaiKetal:Influenceofintraocularlensimplantationonanteriorcapsulecontractionandposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg40:2128-2133,2014図1アクリル製IOLの細胞接着試験各IOL表面に細胞接着を認めたが,AR40eへの接着数が有意に少なかった.図2IOL表面接着性と前?収縮の関係IOL光学部表面接着性が低いと細胞を介しての水晶体?との接着が低下し,線維化した細胞が起こす?収縮に対する抵抗力が弱いため,前?収縮しやすい.(61)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.11,20161599図3シングルピースアクリル製IOLの前眼部写真ZCB00VではFY-60ADと比較して,前?線維性混濁が明らかに少ない.図4ZCB00Vの光学部の特徴ZCB00Vは光学部周辺にrimとよばれる形状をもち,光学部周辺部が中心部よりせり出しているため,前?切開縁が光学部に接しにくい.その結果,前?下LECに房水が灌流しやすくなり,前?切開縁の線維性混濁,および前?収縮が抑制されたことが推察できる.

コンタクトレンズ:過酷な環境とコンタクトレンズ装用

2016年11月30日 水曜日

コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一25.過酷な環境とコンタクトレンズ装用小島隆司岐阜赤十字病院眼科●はじめにコンタクトレンズ(CL)装用で問題となる過酷な環境とは,低温・低湿度である.とくに近年,夏のエアコン使用の頻度が高くなっている.CL装用者では,とくにエアコン使用下でのドライアイ症状が非装用者に比べて高いことがわかっている1).このためオフィスワーカーでは,職場環境によってはCL装用が過酷な環境となりうる.●過酷な環境がCL装用に与える影響Maruyamaらは2004年に,気温と湿度をコントロールできる環境で,2種類の含水率の異なるハイドロゲルCL装用者の涙液動態を評価した研究を行っている2).これによると,低温・低湿度になるにつれて涙液油層グレードが悪化,非侵襲涙液層破壊時間(non-invasivetearbreakuptime)が短縮することが示された.また,乾燥症状は高含水のCLのほうが有意に高かったと報告されている.ハイドロゲルCLは,酸素透過性を稼ぐために含水率を高めるが,そのために眼表面の涙液がCLに吸収されやすくなると考えられる.筆者らは同様の低温・低湿度環境(18℃,18%)において,CL装用前後の変化を調査した3).ハイドロゲルレンズにおいては,過酷環境によって涙液貯留量の低下,涙液浸透圧の上昇を認めた.涙液浸透圧は当初,ドライアイの診断に有用と考えられたが,再現性や変動の問題があり,日常臨床では診断のパラメータとしては使いづらい.しかし,このようにコントロールされた環境で涙液浸透圧の上昇が認められたことから,過酷な環境下では涙液浸透圧の変化が大きいことが示唆された.また,興味深いのは,このような過酷な環境下であっても,フルオレセインスコアは前後で変化がなかった点である.逆に実用視力および視力の維持率は,低温・低湿度環境への曝露後には低下を認めた.このことから,低温・低湿度環境下では眼表面の水分の蒸発が著しく,CL上の涙液層が不安定化および非薄化していることが推測される.●過酷な環境を考慮したCL装用指導過酷な環境下では,上述したような変化が涙液層に起こるため,作業時間が長い場合はRGP(rigidgaspermeable)レンズも選択肢と思われる.ソフトCLを処方する場合は,一般的には含水率が低いCLが望ましい.近年は,各社からシリコーンハイドロゲルレンズが発売され,低含水で高いDk/L値をもったソフトCLが入手可能である.ただしシリコーンハイドロゲル素材のCLは,一般的にハイドロゲルレンズより素材が硬いために,変更するとかえって異物感が増悪することがあり,含水率とレンズの硬さのバランスが大切と思われる.また,各ソフトCLはその素材によって摩擦係数を有するが,涙液層が非薄化した状態では,摩擦係数が大きな影響を与える可能性もある.●過酷な環境における涙液動態およびCL関連ドライアイの治療過酷な環境下で眼周囲のみでも環境を変える方法として,ドライアイ眼鏡がある.近年はファッション的にも許容できるドライアイ眼鏡が発売されており,オフィスワークでも使用可能と思われる.ただし,CL装用者は眼鏡を使用する可能性は低く,現実的ではないと思われる.治療はドライアイ研究会の推奨するTFOT(tearfilmorientedtherapy)に基づいて治療を行うのが望ましい.低温・低湿度の環境では涙液水層が蒸発およびCLへ吸収されることで減少しているため,人工涙液などの水分補充療法がまず行われるべきである.ただし,単回の点眼は持続力に欠けるため,眼表面のP2Y2受容体に効いて水分分泌を促すジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR,参天製薬)による水分補充がより効果的である.涙点プラグ治療は恒常的な水分不足のタイプには有効であるが,今回とりあげたような環境依存的なドライアイでは使いづらいと思われる.ムチン層を強化し眼表面の親水性を高め,涙液の安定性を高めることも重要と思われる.また,CLと眼表面や眼瞼表面との摩擦で起こる上皮障害に対しても,摩擦を軽減する意味において有効である.この場合はジクアホソルナトリウム点眼およびレバミピド点眼液による治療が奏効する.油層は低温環境下では眼瞼温度の低下により分泌が抑制される可能性がある.また,水分が少なく涙液水層が非薄化した状況では,油層が十分に伸展できる環境が整っておらず,これがさらに分泌障害を起こすと考えられる.現段階で,このような環境下において直接涙液油層をターゲットとした治療はむずかしいが,オフィスワークの休憩中に眼瞼を温めたり,マッサージを行うことでマイボーム腺の閉塞を予防できる可能性がある.また,水層の治療を介して油層の状態を整えることも重要と思われる.文献1)KojimaT,IbrahimOM,WakamatsuTetal:Theimpactofcontactlenswearandvisualdisplayterminalworkonocularsurfaceandtearfunctionsinofficeworkers.AmJOphthalmol152:933-940,20112)MaruyamaK,YokoiN,TakamataAetal:Effectofenvironmentalconditionsonteardynamicsinsoftcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci45:2563-2568,20043)KojimaT,MatsumotoY,IbrahimOMetal:Effectofcontrolledadversechamberenvironmentexposureontearfunctionsinsiliconhydrogelandhydrogelsoftcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci52:8811-8817,2011図1過酷な環境におけるコンタクトレンズ関連ドライアイ悪化のメカニズムMGD:マイボーム腺機能不全,SCL:ソフトコンタクトレンズ.図2過酷な環境におけるコンタクトレンズ関連ドライアイの治療MGD:マイボーム腺機能不全,SCL:ソフトコンタクトレンズ.(59)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.11,20161597

写真:Diffuse Anterior Retinoblastoma

2016年11月30日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦390.DiffuseAnteriorRetinoblastoma北澤耕司京都府立医科大学視覚機能再生外科学バプテスト眼科クリニック図1初診時前眼部写真(6歳,女児)虹彩上に白い結節を認める.(文献9より転載)図2図1のシェーマ①白色結節様の細胞浸潤図3眼球摘出前の前眼部写真白色病変の拡大を認める.図4眼球摘出前の前眼部OCT所見角膜後面に広がる病変を認める.(文献9より転載)(57)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.11,20161595症例は6歳,女児.結膜炎で近医受診時に虹彩上に白い結節を認めたため,紹介受診(図1,2).家族歴や眼科受診歴はなく,視力は1.0で良好であった.初診時,眼底検査では網膜および硝子体に異常所見はなく,超音波Bモード検査でも石灰化所見は認めなかった.腫瘍の可能性を考えたが,まずは抗炎症治療を開始した.結節はいったん縮小したが,徐々に角膜後面に広がるように拡大し(図3),虹彩収縮を認め(図4),悪性腫瘍の鑑別のため,十分なインフォームド・コンセントのうえ前房穿刺を行った.PCR法によるウイルスおよび細菌DNAはいずれも検出されなかったが,細胞診では核/細胞質比が高い細胞がロゼットを形成しており,網膜芽細胞腫(retinoblastoma)と診断した.また,同時にMRI,CTおよびガリウムシンチグラフィによる全身検索を行ったが,転移所見は検出されなかった.眼球摘出後,化学療法を行い,現在も再発なく経過している.網膜芽細胞腫は小児の眼球内悪性腫瘍の4%を占めており,15,000~20,000人に1人の発症率で,多くは乳幼児期にみつかる.白色の網膜内病変を認め,超音波Bモード検査において石灰化が特徴である.網膜芽細胞腫のなかでも腫瘍所見を認めず,播種性の浸潤を認めるものが1~2%あり,それはdiffuseinfiltratingretinoblastomaとよばれている.Diffuseinfiltratingretinoblastomaは,通常の網膜芽細胞腫と比べて,5,6歳と比較的遅くに発見され,血管新生,偽前房蓄膿,眼圧上昇,硝子体内播種,硝子体出血,びまん性の網膜肥厚などの臨床所見が報告されている1~3).Diffuseanteriorretinoblastomaは播種性の網膜芽細胞腫のなかでも,網膜および硝子体内に細胞浸潤所見がない前眼部型で,世界でも数例しか報告がない4~9).今回の症例も,硝子体腔および網膜内浸潤を認めなかったため,diffuseanteriorretinoblastomaと診断した.このような鑑別がむずかしい症例に,前眼部OCTは有効であった.経過観察中,角膜後面を這うように結節が拡大し(図4),腫瘍細胞の遊走や浸潤を疑い,前房穿刺を行うに至った.結果的に前房採取を行ったことで確定診断がつき,眼球摘出を行うことができた.もちろん,前房穿刺を行うことで播種のリスクもあるが,熟練した専門医が行うことと,親に十分なインフォームド・コンセントを行うことで,安全に施行することができた.小児のぶどう膜炎では常に悪性腫瘍を鑑別に考え,後眼部に異常が出ないdiffuseanteriorretinoblastomaも念頭におくことが重要であると考える.文献1)MorganG:Diffuseinfiltratingretinoblastoma.BrJOphthalmol55:600-606,19712)SchofieldPB:Diffuseinfiltratingretinoblastoma.BrJOphthalmol44:35-41,19603)ShieldsCL,GhassemiF,TuncerSetal:Clinicalspectrumofdiffuseinfiltratingretinoblastomain34consecutiveeyes.Ophthalmology115:2253-2258,20084)JijelavaKP,GrossniklausHE:Diffuseanteriorretinoblastoma:Areview.SaudiJOphthalmol27:135-139,20135)GrossniklausHE,DhaliwalRS,MartinDF:Diffuseanteriorretinoblastoma.Retina18:238-241,19986)LongmuirSQ,SyedNA,BoldtHC:Diffuseanteriorretinoblastomawithoutretinalinvolvement.Ophthalmology117:2034-2038,20107)KellyA,KaufmanSC,AliRetal:Rareanteriorsegmentretinoblastomamasqueradingascornealendotheliitis.EyeContactLens42:e1-e3,20168)KhetanV,SudrikS,SinghSetal:Diffuseanteriorretinoblastomawithundetectableretinalinvolvement.JPediatrOphthalmolStrabismus48:Online:e7-e9,20119)KitazawaK,NagataK,YamanakaYetal:Diffuseanteriorretinoblastomawithsarcoidosis-likenodule.CaseRepOphthalmol6:443-447,2015