●連載195緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也195.プロスタグランジン系点眼薬の副作用総括中倉俊祐三栄会ツカザキ病院眼科プロスタグランジン系点眼薬は,現在,開放隅角緑内障患者や高眼圧症患者における治療の第一選択となっている.当初から結膜充血や虹彩・眼瞼色素沈着,睫毛乱生などの副作用は十分に認知されているが,それ以外にも眼科医があまり知らない副作用があるので,紹介する(表1).●全身への副作用もあるもともとプロスタグランジン(prostaglandin:PG)には平滑筋収縮作用があり,陣痛促進剤を投与した妊婦の眼圧が下がったことがその開発の起源とされる.したがって局所の副作用のみならず,上気道感染様症状を訴える患者が数%存在し,中には頭痛,胸痛,筋肉痛を訴えることもある.当然妊婦には原則禁忌である.●点状表層角膜炎は防腐剤だけのせいではない防腐剤とくに塩化ベンザルコニウム(BAC)による角膜障害は周知されている.そのため防腐剤濃度は各社ともに減らすかBACフリーに移行している.緑内障患者においては女性と多剤併用患者に点状表層角膜炎(superficialpunctatekeratitis:SPK)が多いことが報告されているが1),緑内障点眼薬によるマイボーム腺の構造変化もその一因となっており,涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT)やSchirmerスコアの減少が報告されている2,3).マイボーム腺の消失も認められ,マイボーム腺の機能がおちると涙液の質が低下し,SPKにつながる(図1).●中心角膜厚は薄くなる中心角膜厚は日本人の場合約520μmであり,薄ければ眼圧の過少評価につながる.PG系点眼薬を使用すると,この中心角膜厚が薄くなり,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストそれぞれ1年半で14.9μm,15.7μm,17.0μm(3群間で有意差なし)と報告されている4).トラボプロスト点眼1年で,30μm以上の角膜厚の減少が5.1%で生じたとする報告もある5).眼圧と角膜厚の補正式は多数あり一定の見解はないが,30μmも減少すると,一見点眼薬で眼圧が下がっているようにみえても,実は効果が減弱していて角膜厚の減少にマスクされている可能性がある.原因はおそらくPG薬による角膜実質のコラーゲンの分解であると推測する6).円錐角膜合併患者には注意を要するかもしれない.●睫毛の白髪化睫毛は乱生するだけでなく白髪にもなる7).また,眼瞼周囲も多毛になる(図2).●PAP(prostaglandinassociatedperiorbitopathy)PG系点眼薬の眼周囲の副作用は,眼周囲全体に及ぶことが近年判明し,海外では,その総称としてprostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)を用いている8).上眼瞼溝の深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)はその一つにすぎない.次号で詳細な説明を行う.●副作用を防止するには1回の点眼は最小限に:点眼薬の1滴量は結膜?に貯留する涙液量よりも多いため,必ずこぼれる.1滴以上ささず,目頭を1分程度押さえて,涙道への吸収を抑えながら目を閉じておくことが有用である.また,2本目の点眼薬と5分以上間隔をあけないとwashoutされてしまう.点眼時間は?:PG系点眼薬の点眼時間をいまだに眠前で処方されている医師も多数いると思われるが,夜の入浴前か朝起きて顔を洗う前がよい.洗顔や拭き取りで眼周囲への副作用が軽減される.PG系点眼薬はほぼ24時間眼圧下降効果がある.就寝時間は日々ばらつきがあるが起床時間は大体みな一定であるので,朝点眼でアドヒアランスを改善することは可能である.点眼本数は最小限か?:本数が増えれば増えるほど防腐剤や基剤に暴露される.したがって合剤を有効に活用することが望ましい.文献1)ChenHY,LinCL,TsaiYYetal:AssociationbetweenglaucomamedicationusageanddryeyeinTaiwan.OptomVisSci92:227-232,20152)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Comparisonofthelongtermeffectsofvarioustopicalantiglaucomamedicationsonmeibomianglands.Cornea31:1229-1234,20123)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Effectsoflong-termtopicalanti-glaucomamedicationsonmeibomianglands.GraefesArchClinExpOphthalmol250:1181-1185,20124)ZhongY,ShenX,YuJetal:Thecomparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncentralcornealthickness.Cornea30:861-864,20115)SchloteT,TzamalisA,KynigopoulosM:Centralcornealthicknessduringtreatmentwithtravoprost0.004%inglaucomapatients.JOculPharmacolTher25:459-462,20096)LindseyJD,KashiwagiK,KashiwagiFetal:Prostaglandinsalterextracellularmatrixadjacenttohumanciliarymusclecellsinvitro.InvestOphthalmolVisSci38:2214-2223,19977)ChenCS,WellsJ,CraigJE:TopicalprostaglandinF2aanaloginducedpoliosis.AmJOphthalmol137:965-966,20048)PasqualeLR:Prostaglandin-associatedperiorbitopathy:apostmarketingsurveillanceobservation.GlaucomaToday9:51-52,58,2011表1PG系点眼薬の副作用一覧部位副作用名眼瞼睫毛乱生,睫毛白髪化,多毛色素沈着マイボーム腺梗塞PAP(DEUSを含む)結膜充血角膜点状表層角膜炎角膜厚の減少虹彩虹彩色素沈着ぶどう膜炎(まれ)網膜?胞様黄斑浮腫全身上気道感染症状,胸痛など*太字は今回紹介するあまり知られていない副作用図1マイボーム腺梗塞から点状表層角膜炎を生じた緑内障患者PG系点眼薬を左眼に数年来使用していた男性,79歳.緑内障点眼を中止しても人工涙液点眼に抵抗する点状表層角膜炎(左)と,典型的なマイボーム腺梗塞を認める(右).(67)あたらしい眼科Vol.33,No.9,201613090910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2PG製剤による眼局所副作用80歳,女性.PG点眼薬長期使用にて睫毛の白線化,睫毛の乱生,下眼瞼の多毛を認める.(68)