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二次元から三次元を作り出す脳と眼 2.生理的複視とホロプター

2016年7月31日 日曜日

連載②二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科2.生理的複視とホロプターはじめに私たちは見るだけで瞬時に自分と周囲の物体の位置関係をとらえることができる.このとき,物体が網膜のどこに映っているかを情報として使っている1).物体が網膜に映る部位からその空間内の位置を定めることを定位とよぶ.この方法は有効だが,ときに生理的複視や病的複視など実際の空間位置と解離した感覚を生むことがある.定位と複視の起こる機序について考える.生理的複視1)正面の机に青・黒・赤3本の鉛筆を手前から遠くに20cm程度の間隔をあけて並べる(図1左上).黒鉛筆を両眼で固視する(図1中央).黒鉛筆は両眼の中心窩に映り,真正面にあると認識される(図1右).これは当たり前のことのようだが,生後に的確な視覚刺激を受けて獲得した特性であり,この特性のために錯覚を起こすこともある.たとえば暗黒闇のなかで,ある人の眼の中心窩に点状の光を側方からあてても中心窩に映る限り真正面にあるように認識される.*中心窩に映る物体→真正面に認識される.中心窩は真正面の視方向をもつ.黒鉛筆は正面にはっきり1本見えるが,前方の青鉛筆はぼんやりと2本に見える.片眼ずつ閉じてみると黒鉛筆の右側に見える青鉛筆は左眼の像で,左側に見えるのは右眼の像である.右眼の像と左眼の像が交差して反対側に見えるような複視を交差性複視とよぶ.青鉛筆の像は中心窩より耳側の網膜に結像している.中心窩より耳側に映る像は真正面より鼻側に(右眼では左に,左眼では右に)存在するように感じられる.*中心窩より耳側に結像した物体→真正面より鼻側の位置に認識される.鼻側の視方向をもつ.黒鉛筆を固視するとき,後方の赤鉛筆もぼんやりと2本に見えている.片眼ずつ閉じてみると,黒鉛筆の右側に見える赤鉛筆は右眼の像で,左側に見えるのは左眼の像で,青鉛筆とは見え方が逆である.右眼の像と左眼の像が交差せず同側に見えるような複視を同側性複視とよぶ.赤鉛筆の像は中心窩より鼻側の網膜に結像している.中心窩より鼻側に映る像は真正面より耳側に(右眼では右に,左眼では左に)存在するように感じられる.*中心窩より鼻側に結像した物体→正面より耳側の位置に認識される.耳側の視方向をもつ.注意深く観察すると,両眼で固視する物は1つに見えるが,そこより遠方あるいは近方に存在する物は実はすべて2つに見えていることがわかる.これが正常人にも感じられる生理的複視である.病的複視病的複視の場合も機序は同じである.右外転神経麻痺のために続発性内斜視となった状態を考える(図2).正面の赤鉛筆を固視する.健眼である左眼中心窩に赤鉛筆が映り,実像として真正面に感じられる.右眼は内斜視であり,赤鉛筆は中心窩より鼻側網膜に映り,正面より耳側すなわち右側に仮像として感じられ,同側性複視を生じる.右眼の中心窩には視線の先にある花が映り真正面に感じられる.花と赤鉛筆が重なって見える.これを混乱視とよぶ.ホロプター・Vieth-Müllercircle2)ではどのような点は単一視され,どのような点が複視の感覚を生むのだろうか(図3).点Fを固視するとき,Fは両眼中心窩にFr・Flとして結像して1つに見える.点Fのわずかに右側の点Aは両眼中心窩から左方向に同じ量離れた点にAr・Alとして結像してやはり1つに見える.*両眼中心窩を基準として同じ方向に同じ量離れた点のことを対応点とよぶ.左右の網膜を平行移動させ中心窩同士を重ねたときに重なり合うすべての点は対応点である.両眼の対応点に結像する外界の点は単一視可能であり,それらの点の集合は1つの面を構成する.これをホロプター(horopter)とよぶ.1613年にAguiloniusが初めて用いた言葉でhorizonofvisionを意味する.この概念を1818年にViethが,1840年にMüllerが発展させ,のちにVieth-Müllercircleとよばれるようになった.実際には,固視点Fと両眼の結点OrとOlを通る円となる.これが理論上のホロプターであり,幾何学的ホロプターとよばれる.点Aがこの円上にあるとき,∠FOrAと∠FOlAはどちらも弧FAの円周角で等しい.Fr-ArとFl-Alの長さも等しくArとAlは対応点となる.同様に考えて,円上のすべての点は両眼の対応点に結像し,単一視可能となる.被検者を使って実測すると,ホロプターは円より扁平な弧の形となる.これが実測上のホロプターであり,経験的ホロプターともよばれる.図1の3本の鉛筆をこの図にあてはめると,黒鉛筆が固視点Fに,前方の青鉛筆はホロプターより前,後方の赤鉛筆はホロプターより後ろに位置する.青鉛筆・赤鉛筆とも両眼網膜の対応点ではない点(これを非対応点とよぶ)に結像するため,それぞれ交差性複視・同側性複視を生じる.青や赤の鉛筆は,黒鉛筆と同じように正面に存在するはずなのに正面ではない場所に2本に見える.いわば錯覚を起こしてしまう.それらの像が網膜の中心窩以外の部位に結像し,私たちの脳が「網膜に映った部位から物の空間内の位置を定める」という方法を用いているからである.文献1)粟屋忍:複視.視能矯正学,改訂第2版(丸尾敏夫・粟屋忍編),p196-201,金原出版,19982)TychsenL:BinocularVision.InAdler’sphysiologyoftheEye(edbyHartWM),Mosby,StLouis,p773-779,1992図1生理的複視両眼で固視する黒鉛筆は中心窩に映り,真正面の感覚を生じる.固視点より前方の青鉛筆は交差性複視,後方の赤鉛筆は同側性複視の感覚を生じる.図2病的複視と混乱視右外転神経麻痺による続発性内斜視の場合.複視−正面に実像,右側に仮像の同側性複視を生じる.混乱視−患眼中心窩に映る花と健眼中心窩に映る鉛筆の像が重なる感覚を生じる.図3ホロプター・Vieth︲Müllercircleホロプター・Vieth-Müllercircle上の点は両眼網膜の対応点に結像し単一視される.実測すると円より扁平な弧となる.ホロプターから前後に大きく離れた点は両眼網膜の非対応点に結像するため,複視を生じる.(91)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.7,201610171018あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(92)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 158.ヘパリン起因性血小板減少症を有する症例に対する硝子体手術(中級編)

2016年7月31日 日曜日

●連載158硝子体手術のワンポイントアドバイス158ヘパリン起因性血小板減少症を有する症例に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●へパリン起因性血小板減少症とはへパリン起因性血小板減少症(heparin-inducedthrombocytopenia:HIT)は,ヘパリンが免疫学的機序により血小板減少を引き起こし,出血よりむしろ血栓塞栓症の誘因になる疾患であり1),血液透析患者の増加に伴い近年報告例が増えている.HITの発症頻度は基礎疾患によって異なるが,ヘパリン使用患者の0.5~5%とされている.筆者らは過去に,HIT患者に対して硝子体手術を施行した増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)の1例を報告したことがある2).●症例患者は57歳,男性.糖尿病性腎症のため血液透析導入となったが,透析開始後,血液透析回路内の凝血塊が確認され,精査にて抗HIT抗体が上昇しており,HITと診断された.以前から心房細動に対してワルファリン,透析時にヘパリンの代わりにアルガトロバンを使用している.眼科的には他院で両眼のPDRに対して汎網膜光凝固術を施行されていたが,左眼は硝子体出血と牽引性網膜剝離が生じ,黄斑円孔も併発したため(図1),硝子体手術目的で紹介となった.周術期の抗凝固に関しては,透析担当医と相談のうえ入院と同時にワルファリンを中止し,アルガトロバンのみで抗凝固療法を行った.ワルファリン中止後3日目よりアルガトロバンを増量し,APTTの値を50秒程度でコントロールできるように採血を連日行った.手術は硝子体切除後に増殖膜処理を行い,網膜光凝固術,気圧伸展網膜復位術,ガスタンポナーデを施行した.術中は増殖膜処理時に軽度出血傾向を認めたが,手術はとくに支障なく完遂できた.術中もアルガトロバンを持続静注し,術翌日よりアルガトロバンを併用しながらワルファリンを再開し,退院後はワルファリンのみで抗凝固療法を行った.術後,黄斑円孔は閉鎖し,その後網膜下液は徐々に吸収された(図2)●HITを有する患者の眼科手術時の注意点HIT治療のポイントは,ヘパリンを直ちに中止して抗体産生を中断すること,抗トロンビン剤により過剰に産生されたトロンビンを処理することである.HIT患者の血液透析時の凝固防止には,体外循環開始時にアルガトロバン10mgを回路内に投与し,開始後は25mg/hを維持量とし,凝固時間の延長,回路内凝血,透析効率および透析終了時の止血状況などを指標に適宜増減する.硝子体手術に限らずHIT患者の眼科手術に際しては,透析医に十分なコンサルトを行ったうえで施行すべきと考えられる.文献1)GollubS,UlinAW:Heparin-inducedthrombocytopeniainman.JLabClinMed59:430-435,19622)FujiiT,AkashiM,MorishitaSetal:Vitrectomyforproliferativediabeticretinopathyinapatientwithheparininducedthrombocytopenia.CaseRepOphthalmol7:67-73,2016図1術前の眼底写真(a)とOCT(b)上方の血管アーケードに増殖膜を認め,牽引性網膜剝離と黄斑円孔を生じている.(文献2より引用)ab図2術後の眼底写真(a)とOCT(b)術後黄斑円孔は閉鎖し,網膜も復位した.(文献2より引用)(89)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.7,20161015

眼瞼・結膜:ドライアイでの結膜変化

2016年7月31日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人16.ドライアイでの結膜変化堀裕一東邦大学医療センター大森病院眼科ドライアイでは角膜上皮障害よりも結膜上皮障害が先行し,細胞形態にさまざまな変化を引き起こす.代表的な変化として,扁平上皮化生,角化,杯細胞の減少があげられる.結膜インプレッションサイトロジーを行うと,結膜上皮細胞の形態変化と杯細胞密度の定量を同時に行うことが可能である.●ドライアイでは結膜上皮障害が先行ドライアイではさまざまな原因で眼表面の涙液層が不安定になり,多彩な症状を引き起こされるが,最近,ドライアイ症状のコアメカニズムには「眼表面の涙液層の不安定化」と「眼瞼との瞬目摩擦の亢進」の2つがあると考えられるようになった1).以前より,ドライアイ患者では結膜上皮障害が角膜上皮障害より先行することが知られており,ドライアイ診療においては結膜のフルオレセイン染色での観察が非常に重要である(図1).これは角膜上皮に比べて,結膜上皮のバリアが弱いことが大きく関与している.●ドライアイによる結膜上皮の形状変化正常な結膜上皮は非角化の重層化した細胞であるが,その形状は部位によって少しずつ異なっており,重層扁平上皮となっている部分もあれば,重層立方(円柱)上皮となっている部分もある(図2).また,ところどころに杯細胞(goblet細胞)がみられ,分泌型ムチン(MUC5AC)を分泌している.ドライアイ患者の結膜では,涙液層が不安定になり十分に水で覆われなくなり,細胞にストレスや,炎症が起こり,上皮細胞の形態が変化する.具体的には細胞が拡大し,核が小さくなり,もともと立方または円柱形であった細胞が扁平上皮様になっていく.これを「扁平上皮化生(squamousmetaplasia)」という.ドライアイではさらに,結膜杯細胞数が減少し,涙液層の質の異常がさらに加速されることで,結膜上皮の形状変化はますます悪化することになる.また,結膜上皮細胞の最表層は微絨毛(microvilli)で覆われており,その表面に糖衣(glycocalyx)が存在している.ドライアイ患者では結膜上皮がダメージを受けて,この微絨毛と糖衣の発現が減少することも報告されている2).●結膜インプレッションサイトロジーによるグレード分類結膜上皮の状態を調べる方法として結膜インプレッションサイトロジーがある.これは,ミリポアフィルターを短冊型に切ったものを点眼麻酔下に結膜上皮に接触させ,表層上皮を採取し,PeriodicacidSchiff(PAS)染色+ヘマトキシリン染色で観察する.これはNelsonのグレード分類が非常に有名で,上皮細胞の角化の度合いを分類することができる3).グレードは0~3の4段階であり,ドライアイが重症になるほど上皮細胞が大きくなり,核の占める割合が小さくなる.また,PAS陽性細胞(杯細胞)の数が減少し,上皮細胞の角化が進行していることがわかる(図3~6).文献1)横井則彦:ドライアイ治療のフロンティアTFOT(Tearfilmorientedtherapy).メディカル・サイエンス・ダイジェスト40:6-9,20142)DanjoY,WatanabeH,TisdaleASetal:Alterationofmucininhumanconjunctivalepitheliaindryeye.InvestOphthalmolVisSci39:2602-2609,19983)NelsonJD,HavenerVR,CameronJD:Celluloseacetateimpressionsoftheocularsurface.Dryeyestatus.ArchOphthalmol101:1869-1872,1983図1ドライアイ患者の結膜上皮障害ブルーフリーフィルターを用いると,結膜障害がより鮮明にわかる.図2正常眼の結膜結膜上皮の形状は部位によって異なり,円柱や立方形の細胞が重層化している.重層扁平上皮のように見える部分もある.ところどころに房状の杯細胞(➡)が観察される.図3正常眼のインプレッションサイトロジー(Nelson分類:グレード0)上皮細胞は小さく丸く,大きい核が見られる.核と細胞質の比が1:2程度である.丸く濃いPAS陽性の細胞(杯細胞)が見られる.(筑波大学加治優一先生のご厚意による)図4軽度ドライアイ患者のインプレッションサイトロジー(Nelson分類:グレード1)上皮細胞はやや大きくなり,多角形を呈する.核がやや小さくなり,核と細胞質の比が1:3程度である.一方,PAS陽性細胞(杯細胞)は丸く濃い状態が保たれている.(筑波大学加治優一先生のご厚意による)図5中程度ドライアイ患者のインプレッションサイトロジー(Nelson分類:グレード2)上皮細胞がグレード1に比べて大きくなり,多角形を呈する.核は小さく,核と細胞質の比が1:4~5程度である.一方,PAS陽性細胞(杯細胞)はかなり減少している.(筑波大学加治優一先生のご厚意による)図6重症ドライアイ患者のインプレッションサイトロジー(Nelson分類:グレード3)上皮細胞が大きく,多角形を呈する.核は小さく,核と細胞質の比が1:6程度である.PAS陽性細胞(杯細胞)は消失している.(筑波大学加治優一先生のご厚意による)(87)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610130910-1810/16/¥100/頁/JCOPY1014あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(88)

抗VEGF治療:抗VEGF治療に抵抗する線維血管性網膜色素上皮剥離の治療方針

2016年7月31日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二30.抗VEGF治療に抵抗する線維血管性網膜色素上皮剝離の治療方針梅田尚靖福岡大学医学部眼科学教室線維血管性網膜色素上皮剝離(FVPED)を伴う加齢黄斑変性は,しばしば抗VEGF療法に治療抵抗性を示し,治療に難渋することも多い.FVPEDの病態を踏まえ,抗VEGF単独療法と治療オプションとしての抗VEGF療法併用光線力学療法の適応時期も含めて,筆者の施設での治療方針を概説する.はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する治療として血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を標的としたVEGF阻害薬硝子体内注射が第1選択の標準的治療となっているが,抗VEGF療法に対ししばしば治療に抵抗する難治例が存在する.とくに線維血管性網膜色素上皮剝離(fibrovascularretinalpigmentepithelialdetachment:FVPED)を伴うAMDでは,VEGF阻害薬の頻回投与に対して満足いく黄斑部の形態の改善も得られないばかりか,導入時の視力を維持できないことも多く,AMD治療での懸案事項ではないだろうか.ここでは,FVPEDについて概説し,治療方針について私見を述べる.FVPEDについてFVPEDは,米国で行われたベルテポルフィンによる光線力学療法(photodynamictherapy:PDT)の大規模臨床試験であるTAPstudyにおいて,フルオレセイン蛍光眼底造影上の脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)分類のなかでoccultCNVの2つのタイプの一種として明確に分類された.近年の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の画質の向上に伴い,FVPEDの網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)下の構造が詳細にわかるようになってきた.OCTではFVPEDのRPEは不整な隆起を形成し,PEDの内部は不均一な中等度反射を示す.また,RPEのラインの裏面にCNVあるいはフィブリン析出を示唆する中等度反射を認めることが多い.長期経過ではPED内の線維化を示唆するBruch膜に平行な層状・紡錘状の中等度反射が出現する1).このPED内の線維化は,脈絡膜血管新生のプロセスに関与する炎症反応により上皮間葉転換が誘導されることで惹起される.それによりPRE細胞が線維芽細胞などの間葉系細胞に形質転換し,1型コラーゲンやフィブロネクチンなど細胞外マトリックスを産生することにより線維性間質を形成する.実際の組織学的研究より,この線維組織はフィブロネクチンやコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分に,血管内皮細胞,マクロファージなどの炎症細胞,線維芽細胞,筋線維芽細胞,グリア細胞,RPE細胞も含んでいることが判明している2).FVPEDを伴うAMDの治療FVPEDを伴うAMDに対する抗VEGF療法の治療成績について,HoersterらはFVPEDがラニビズマブ療法での長期的な視力を損なうリスクファクターであることを報告した3).FVPEDが抗VEGF療法に治療抵抗性を示すことが多いのは,その構成成分に,VEGFがターゲットである血管内皮細胞だけではなく,間葉系細胞による線維性組織が多く含まれていることが大きな原因と考えられる.すなわち,FVPEDを伴うAMDの治療は,病的血管新生の抑制のみならず,線維化の進行を抑えなければ良好な視力は維持できない.しかし,実際にわれわれが具備している治療手段は,VEGF阻害薬と光線力学療法に限られている.FVPEDに対して,筆者らの施設ではVEGF阻害薬硝子体内注射の月1回,連続3回投与を行い,導入期終了後の治療反応に応じて方針を再検討している.導入終了後に視力を維持している,または視力が0.6以上あれば,ドライ化が得られるまで1カ月ごとの硝子体内注射を続行し,その後の維持療法は2カ月ごとの固定投与もしくはTreatandExtend法を行っている(図1).FVPEDでは突然の黄斑下血腫での再発をしばしば経験しており,維持療法はproactive投与で対処するほうが良いと考えている.導入期終了後にドライ化が得られず,視力が治療前より低下かつ0.6未満となっていれば,抗VEGF療法併用PDTも検討する.治療開始から長期経過した症例でのPDTの実施は黄斑萎縮をきたしやすく,視力維持は困難となるため,視力予後を考えると,併用療法実施のタイミングはなるべく病態早期の方が望ましい(図2).FVPEDに対する今後の治療の展望現在,米国で新たな標的として血小板由来因子(plateletderivedgrowthfactor:PDGF)阻害薬E10300(Fovista®)の臨床試験が進行中である4).PDGFは間葉系細胞の遊走,増殖などの調節に関与する増殖因子で,VEGFとPDGFの両者を抑制することでFVPEDを伴うAMDの血管新生と線維化を制御することが期待できる.今後,AMD患者の視機能を守るために一刻も早い新しい分子標的薬の登場が待たれるところである.文献1)RahimyE,FreundKB,LarsenMetal:Multilayeredpigmentepithelialdetachmentinneovascularage-relatedmaculardegeneration.Retina34:1289-1295,20142)GrossniklausHE,GreenWR:Histopathologicandultrastructuralfindingsofsurgicallyexcisedchoroidalneovascularization.SubmacularSurgeryTrialsResearchGroup.ArchOphthalmol116:745-749,19983)HoersterR,MuetherPS,SitnilskaVetal:Fibrovascularpigmentepithelialdetachmentisariskfactorforlongtermvisualdecayinneovascularage-relatedmaculardegeneretion.Retina34:1767-1773,20144)JaffeGJ,EliottD,WellsJAetal:Aphase1studyofintravitreousE10030incombinationwithranibizumabinneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology123:78-85,2016図1線維血管性網膜色素上皮剝離に対する抗VEGF単独療法73歳,男性.a:治療前.b:アフリベルセプト硝子体内注射(IVA)を導入し3回実施後.網膜色素上皮剝離(PED)は増大し,網膜色素上皮裏面にフィブリンと思われる中等度反射帯を認める.c:治療開始後18カ月:IVA13回実施後.滲出性変化とPED内部の線維化と思われる紡錘状・層状の中等度反射を認める.d:治療開始後32カ月,IVA20回後.PED内部は線維性間質で占められている.図2抗VEGF療法併用光線力学療法(PDT)後に生じた地図状萎縮様の線維性瘢痕69歳,男性.a:治療前.この後,ラニビズマブ硝子体内注射(IVR)を6回実施したが,経済的理由のため治療を一時中断した.b:治療開始後49カ月,IVR併用PDTによる追加治療前.c:治療開始後61カ月,併用療法後12カ月.後極部網膜は地図状萎縮様の線維性瘢痕となり視力は低下したが病勢は沈静化した.(85)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.7,201610111012あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(86)

緑内障:緑内障と篩状板部分欠損

2016年7月31日 日曜日

●連載193緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也193.緑内障と篩状板部分欠損赤木忠道京都大学大学院医学研究科眼科学教室緑内障における網膜神経節細胞の軸索障害は篩状板で生じるとされる.緑内障眼では篩状板に部分的な欠損がまれならず生じている.乳頭出血既往眼に多くみられ,乳頭出血の出現に伴って篩状板欠損は出現あるいは拡大する.また,網膜神経線維の障害との関係も強く,緑内障進行の危険因子とされる.緑内障の診療において注目すべき所見の一つである.●緑内障と篩状板篩状板は視神経乳頭深部に存在するコラーゲンを主体とするメッシュ構造の組織で,網膜神経節細胞の軸索は,篩状板孔とよばれる篩状板の隙間を通って,眼内から頭蓋内へと続く.篩状板孔に存在する毛細血管によって網膜神経節細胞は栄養される.網膜神経節細胞が選択的に障害されるのが緑内障の特徴であるが,緑内障における網膜神経節細胞の障害は,篩状板における軸索障害が原因であるとされる1,2).摘出眼などを用いた研究により緑内障眼で篩状板に構造変化が起こることが古くから知られており,篩状板の菲薄化,後方への変位,篩状板孔の拡大などがある1,3,4).これらの変化には篩状板への眼圧による負荷が影響していると考えられている.近年の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いた研究により,眼圧変動によって篩状板の後方への変位は変化することもわかってきた5,6).眼圧上昇によって後方に変位していた篩状板は,眼圧下降治療により前方へと位置を変化させるのである.高眼圧による篩状板への負荷が篩状板に構造変化をもたらし,網膜神経節細胞の軸索障害を引き起こすのである.●篩状板の部分欠損この網膜神経節細胞の生存に欠かせない存在である篩状板に,緑内障眼では部分的な欠損が生じうることがわかってきた.緑内障眼における篩状板の後天的な部分欠損は,古くはacquiredpitoftheopticnerve(APON)という所見として1970年後半に報告されている7).APONは正常眼圧緑内障や乳頭出血の既往眼に多く認められ,その位置は視野障害と関連しており,視野進行しやすい所見として認識されていた8,9).しかし,眼底写真での確定診断は必ずしも容易でないこともあり,それほどは注目されてこなかった.Spectral-domainOCT(SD-OCT)のenhanceddepthimaging(EDI)法やswept-sourceOCT(SS-OCT)は組織の深部構造の観察に適している.これらの方法によって,生体下で篩状板をある程度明瞭に描出することが可能になった.篩状板はOCT画像上で高輝度領域として描出される.この高輝度領域の連続性がとだえる所見を「篩状板組織の部分欠損」とよび,篩状板組織の一部が完全に欠損していると考えられている10~12).筆者らの検討では,篩状板の全層欠損と考えられる部分欠損は非強度近視の緑内障眼の約7%程度にみられ,非緑内障眼ではほとんど認めなかった(図1)12).この篩状板の断裂・部分欠損は乳頭出血や網膜神経線維層欠損に関係しており,近視が強い(眼軸が長い)眼に多くみられる傾向がある.眼圧の篩状板への負荷によって篩状板に断裂が生じ,その結果乳頭出血と網膜神経節細胞の脱落をきたすのが緑内障における視神経障害の一つのパターンだと考えられる.●強度近視眼における篩状板の部分欠損非強度近視眼の緑内障眼において,篩状板の部分欠損は近視が強い眼に多くみられる傾向があったが,強度近視眼ではどうなのか.筆者らの検討では,−6Dより強い強度近視の緑内障眼の半分以上の症例において篩状板部分欠損が存在していることがわかった(図2)13).一方で,強度近視眼でも非緑内障眼にはほとんど認めなかった.篩状板部分欠損は図311)に示すような2種類に大別されるが,強度近視眼緑内障の篩状板部分欠損は,ほとんどが乳頭縁で篩状板が強膜付着部から断裂する図3bのタイプであった.強度近視眼では篩状板が薄いことが緑内障危険因子の理由の一つと考えられており,近視に伴う篩状板へのストレスが篩状板菲薄化の原因とされる.強度近視眼緑内障で篩状板部分欠損を生じるのも,近視に伴う強膜の伸展によって篩状板への物理的な負荷が増強していることが影響していると思われる.篩状板部分欠損を伴う強度近視緑内障眼では傍中心視野障害を呈することが多く,厳重な定期検査と治療が重要である.文献1)QuigleyHA,HohmanRM,AddicksEMetal:Morphologicchangesinthelaminacribrosacorrelatedwithneurallossinopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol95:673-2)QuigleyHA:Open-angleglaucoma.NEnglJMed328:1097-1106.19933)JonasJB,JonasSB,JonasRAetal:Histologyoftheparapapillaryregioninhighmyopia.AmJOphthalmol152:1021-1029,20114)AkagiT,HangaiM,TakayamaKetal:Invivoimagingoflaminacribrosaporesbyadaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy.InvestOphthalmolVisSci53:4111-4119,20125)LeeEJ,KimTW,WeinrebRN:Reversaloflaminacribrosadisplacementandthicknessaftertrabeculectomyinglaucoma.Ophthalmology119:1359-1366,20126)YoshikawaM,AkagiT,HangaiMetal:Alterationsintheneuralandconnectivetissuecomponentsofglaucomatouscuppingafterglaucomasurgeryusingswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:477-484,20147)RadiusRL,MaumeneeAE,GreenWR:Pit-likechangesoftheopticnerveheadinopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol62:389-393,19788)UgurluS,WeitzmanM,NduagubaCetal:Acquiredpitoftheopticnerve:ariskfactorforprogressionofglaucoma.AmJOphthalmol125:457-464,19989)NduagubaC,UgurluS,CaprioliJ:Acquiredpitsoftheopticnerveinglaucoma:prevalenceandassociatedvisualfieldloss.ActaOphthalmolScand76:273-277,199810)KiumehrS,ParkSC,DorairajSetal:Invivoevaluationoffocallaminacribrosadefectsinglaucoma.ArchOphthalmol130:552-559,201211)YouJY,ParkSC,SuDetal:Focallaminacribrosadefectsassociatedwithglaucomatousrimthinningandacquiredpits.JAMAOphthalmol131:314-320,201312)TakayamaK,HangaiM,KimuraYetal:Three-dimensionalimagingoflaminacribrosadefectsinglaucomausingswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:4798-4807,201313)KimuraY,AkagiT,HangaiMetal:Laminacribrosadefectsandopticdiscmorphologyinprimaryopenangleglaucomawithhighmyopia.PLoSOne9:e115313,2014図143歳女性左眼の正常眼圧緑内障(非強度近視眼)a,b:眼底写真にて耳下側の視神経乳頭縁に乳頭出血を認める.c:Humphrey視野検査24-2のパターン偏差.上方に傍中心視野障害を認める.d,e:SD-OCTで耳下側のcpRNFL厚の菲薄化を認める.f~h:SS-OCTで篩状板の全層におよぶ部分欠損(赤矢頭)を認める.(文献12を改変)図2強度近視眼緑内障の篩状板部分欠損a:眼底写真で視神経耳側乳頭縁に薄暗い色調の篩状板部分欠損(赤矢頭)が確認できる.b,d,e:SS-OCT画像で篩状板全層におよぶ欠損(赤矢頭)を認める.c:Humphrey視野検査24-2のパターン偏差.(文献13を改変)図3篩状板部分欠損のタイプa:Laminarholeとよばれ,篩状板内に欠損を生じるタイプ.b:Laminardisinsertionとよばれ,篩状板が強膜付着部から断裂するタイプ.(文献11を改変)(83)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.7,201610091010あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(84)

屈折矯正手術:LASIKを行うと老視がはやくなる?

2016年7月31日 日曜日

●連載194屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂大橋裕一坪田一男194.LASIKを行うと老視がはやくなる?常吉由佳里慶應義塾大学医学部眼科学教室近視に対してLASIKや有水晶体眼内レンズ挿入などの屈折矯正手術を行った場合,頂間距離の違いから,近見に必要な調節量は眼鏡装用時より大きくなる.とくに初期の老視の患者では,強度近視の場合には,術後の必要調節量の違いが老視自覚症状の出現や増悪を生む可能性があり,該当年齢の患者に手術を施行する場合には注意が必要である.●はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK)や有水晶体眼内レンズなどの観血的な屈折矯正治療は,眼鏡またはコンタクトレンズ装用から解放されたいという希望に応える治療として,国内でも広い年齢層に対して行われている.近視矯正目的にこれらの治療が行われる場合,術後は正視になるため近視矯正器具の装用は不要になるものの,将来的に老眼鏡などが早い時期から必要になることはよく知られている.しかし,角膜高次収差や頂間距離など,術後の老視症状に影響を与える因子はほかにもあり,現在の知見を概説する.●偽調節による老視症状の軽減Artolaらは近視矯正のphotorefractivekeratectomy(PRK)を受けたことのある老視患者と通常の老視患者の調節幅を比較し,PRKを施行した眼では通常と比較して調節幅が大きくなっており,調節幅の大きさは角膜高次収差と有意に相関することを報告した1).また,YeuらはPRK施行後の眼と通常の眼の焦点深度を比較し,6mm瞳孔径でのmodulationtransferfunction(MTF)のピークバリューの50%以上を保つ焦点深度が,PRK施行眼では通常の眼より0.04D有意に深く,ピークバリューの80%以上を保つ焦点深度は0.08D有意に深かったことを報告した2).これらの報告から,PRKやLASIKなどの角膜屈折矯正手術で惹起される角膜収差は,老視の近方視力障害の症状を軽減すると考えられる.●頂間距離の違いによる必要な自己調節量の違い完全矯正を目的に,Kジオプターの屈折矯正を頂間距離dmの位置で行っている場合,距離xmにある目標を見るために必要な調節量は下記の式で表される3).必要な調節量=−X(1−dK){(1−dK)−d2XK}…(1)(X=1/x)たとえば,頂間距離が12mmの−8Dの眼鏡レンズで矯正されている場合,40cmの距離を見るための必要調節量は(1)式から2.09Dと計算される.一方で,LASIKで矯正した場合には,頂間距離0mmの状態と近似できるので,必要調節量は2.5Dとなり,眼鏡装用時とくらべると0.41Dだけ余計に自分で調節する必要が出てくる.頂間距離0mmと12mmそれぞれについて,矯正度数と40cmの近方視に必要な調節量を(1)式をもとにグラフに表すと,図1のようになり,矯正する近視度数が強いほど必要調節量の差は大きくなることがわかる.こうした理論的根拠からは,日常で眼鏡矯正を用いていた老視年齢の近視患者が屈折矯正手術を受けた場合,術後に近方視に必要な調節量が増え,老視症状の増悪をもたらす可能性が考えられる.●老視年齢での近視矯正LASIKでの術前後の加入度数の変化筆者らは以前,老視年齢の高度近視患者に対してLASIKが施行された症例を後方視的に調査し,手術前後の近方視機能の変化を比較した4).対象:45歳以上で,LASIKで−6D以上の近視矯正を行った症例40人53眼.方法:術前と術後3カ月に遠方裸眼・矯正視力,近方裸眼・矯正視力[40cm少数視力表(Nitten社)を使用],角膜・全眼球高次収差〔瞳孔径4mmで測定,ARK10000(Nidek社)を使用〕を測定した.また,最良遠方矯正視力と最良近方矯正視力を得るために要した矯正レンズ度数の等価球面度数の差として加入度数を算出した.結果:対象患者の年齢は45~59歳,平均50.0±4.1歳であった.矯正量は−10.75~−6.00D,平均−7.56±1.06Dであった.加入度数は,術前は1.80±0.60D,術後は2.18±0.69Dで,術後に0.38±0.60Dの有意な増加を認めた(p<0.001).また,矯正度数が大きいほど,術後の加入度数の増加量は有意に大きくなっていた(p=0.04).図2に年齢と術後加入度数増加量の相関を示す.興味深いことに,年齢が若い層ほど術後の加入度数の増加量が有意に大きいことが明らかになった(p=0.01).術後に0.5D以上の加入度数の増加を認めた割合を年齢層ごとにみると,45~49歳では70.0%(21/30眼),50~54歳では62.5%(10/16眼),55~59歳では14.3%(1/7眼)と,若い年齢層ほど術後に大きな加入度数の増加がある割合が高かった.角膜・全眼球の高次収差の変化量と加入度数の増加量には相関はみられなかった.考察:水晶体の自己調節力は加齢に伴って減少し,50~60歳にかけて調節力が0に近づくことが知られている.今回の研究では,高齢層では術後の加入度数の増加が小さかったが,これは高齢層では進行した老視のためにすでに術前から大きな加入度数を必要としていたため,術後の加入度数増加幅が小さくなったものと考えられた.結論:老視年齢での強度近視矯正LASIKでは,術後に近方視に必要な加入度数が増大すること,そしてその増大量は初期老視年齢の患者ではとくに大きくなることが明らかになった.●おわりに近視矯正の角膜屈折矯正手術後の収差の増加は,焦点深度を増大させ近方視に有利に働くものの,術後には頂間距離の変化の影響で近方視に必要な調節量は増大する.初期老視年齢の強度近視患者に屈折矯正手術を施行する場合には,術後に老視症状が出現・増悪する可能性について注意が必要である.文献1)ArtolaA,PatelS,SchimchakPetal:Evidencefordelayedpresbyopiaafterphotorefractivekeratectomyformyopia.Ophthalmology113:735-741,20062)YeuE,WangL,KochDD:Theeffectofcornealwavefrontaberrationsoncornealpseudoaccommodation.AmJOphthalmol153:972-981,20123)RabbettsRB:BennettandRabbett’sclinicalvisualoptics.3rded,p114-116,Butterworth-Heinemann,Oxford,19984)TsuneyoshiY,NegishiK,SaikiMetal:Apparentprogressionofpresbyopiaafterlaserinsitukeratomileusisinpatientswithearlypresbyopia.AmJOphthalmol158:286-292,2014図1必要調節量図2術後の加入度数増加量(81)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.7,201610071008あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(82)

眼内レンズ:残存シリコーンオイルが眼内レンズ後面に付着し視機能低下した2症例

2016年7月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋356.残存シリコーンオイルが眼内レンズ後面に付着し視機能低下した2症例青瀬雅資獨協医科大学眼科学教室硝子体手術で注入したシリコーンオイル(SO)を抜去しても,残存したSOが眼内レンズ後面に付着し,視力低下をきたすことがある.Nd-YAGレーザーでSOを飛散させることで一時的な視力改善を得られるが,SOの付着を繰り返すため,硝子体手術によるSOの再抜去が必要である.●はじめにシリコーンオイル(siliconoil:SO)は1962年に世界で初めて網膜剝離に対する硝子体手術で使用され1),わが国でも2000年にSO使用ガイドラインが作成され2),現在,難治性網膜硝子体疾患で広く使用されている.SOによる眼合併症として,眼圧上昇(緑内障),角膜障害,網膜前増殖,白内障などはよく知られている2~5).また,後囊切開後のシリコーン製眼内レンズ(intraocularlens:IOL)に油滴の付着を生じた報告はあるが6),アクリル製IOLにSOが付着し視力低下を起こした報告はない.今回,筆者らは,SO抜去後に残存SOがアクリル製IOL後面に付着し,視力低下をきたした2症例を経験したので報告する.●症例151歳,男性.平成14年4月,外傷による右眼の眼球破裂に対し,水晶体再建術(MA60BM,Alcon)と網膜硝子体手術(SO注入)を施行し,平成15年2月,SO乳化を認めたため,硝子体手術にてSOを抜去した.術直後は経過良好であったが,徐々に視力低下を認めたため,平成26年11月に当院紹介となった.初診時,後囊はNd-YAGレーザーで切開され,IOL後面に残存SOの付着を認めた.眼底の透見性低下を認め,矯正視力は0.01まで低下していた(図1).平成27年3月に再度硝子体手術を行い,残存SOを吸引除去した.術中,IOL後面だけでなく,角膜後面にも残存SOの付着を認めた.はじめに前房内の残存SOを除去後,25ゲージ3ポートvitrectomyにて硝子体内に残存したSOを抜去し,硝子体カッターにて後囊切開を拡大し,後囊に付着しているSOも抜去した.術後,IOL後面に付着していたSOはなくなり,視力は矯正1.0まで改善した(図2).●症例241歳,男性.平成24年2月,増殖性糖尿病網膜症に対し水晶体再建術(PY-60AD,HOYA)と網膜硝子体手術(SO注入)を施行した.平成26年11月,糖尿病網膜症が沈静化していたのでSO抜去を行った.軽度の後囊混濁を認めたため,硝子体カッターで後囊切開も同時に施行した.術後4カ月後に残存SOがIOL後面に付着し,矯正視力が0.6から0.4まで低下したため,Nd-YAGレーザーでSOを飛散させた.レーザー直後はIOL後面のSOがなくなり視力改善を認めたが,徐々にIOL後面にSOの付着を認め,再度視力が低下した(図3).Nd-YAGレーザーによる処置を再度行ったが,SO付着による視力低下を繰り返した.平成27年7月,25ゲージ3ポートvitrectomyにより硝子体内に残存したSOを抜去し,後囊に付着したSOを抜去し,後囊切開を拡大した.最後に前房内のSOの除去を行い,手術を終了した.術後,IOL後面に付着していたSOは消失し,視力は矯正0.4から矯正0.6まで改善した.眼底の透見性も改善し,その後糖尿病網膜症,黄班部浮腫の悪化は認めない(図4).●おわりに網膜硝子体手術によりSOを抜去した後,IOL後面にSOが付着し視力低下を起こすことがある.術中十分に灌流し,できるかぎりSOを吸引抜去することが重要であるが,IOL後面にSOの付着を認めた場合はSOの再抜去が奏効する.SO抜去後も残存SOの有無に注意し,経過観察をしていく必要がある.文献1)CibisPA,BeckerB,OkumEetal:Theuseofliquidsiliconeinretinaldetachmentsurgery.ArchOphthalmol68:590-599,19622)三宅養三,根木昭,樋田哲夫ほか:シリコーンオイル使用ガイドライン.日眼会誌104:989-992,20003)FalknerCI,BinderS,KrugerAetal:Outcomeaftersiliconeoilremoval.BrJOphthalmol85:1324-1327,20014)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるシリコーンオイル使用状況全国調査.日眼会誌112:790-800,20085)大塩善幸,大島健司,蔵田善規:シリコーン・オイル注入眼の合併症とその対策.臨眼42:1083-1087,19886)杉谷篤彦,堀田順子,堀田一樹:短期シリコンーンオイルタンポナーゼの術後合併症.臨眼58:1989-1994,2004図1症例1の術前眼内レンズ(IOL)後面の後囊切開部に一致して残存シリコーンオイル(SO)が付着し(a,b),眼底の透見性低下を認めた(c).EAS-1000で残存SOによるIOL後面の散乱光強度の増加を認めた(d)図2症例1の術後眼内レンズ(IOL)後面に付着していたシリコーンオイル(SO)はなくなり(a,b),眼底の透見性は改善した(c).術前に認めていた残存SOによるIOL後面の散乱光強度の増加は,SOの抜去により改善を認めた(d).図3症例2の術前眼内レンズ(IOL)後面にシリコーンオイル(SO)の付着を認め(a),Nd-YAGレーザーでSOを飛散させた(b).レーザー直後はIOL後面のSOはなくなったが,再度IOL後面にSOの付着を認めた.図4症例2の術後眼内レンズ後面に付着していたシリコーンオイルはなくなり(a,b),眼底の透見性は改善した(c).(79)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161005

コンタクトレンズ:老視に対する遠近両用コンタクトレンズ処方のコツ

2016年7月31日 日曜日

コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一21.老視に対する遠近両用コンタクトレンズ処方のコツ梶田雅義梶田眼科●はじめに遠近両用ソフトコンタクトレンズ(以下,遠近SCL)の処方はむずかしいと思われているのは,遠近SCLがもつ特徴を理解しておらず,装用者のニーズも十分に聴取していないことが原因である.中高齢者では,遠近SCLのほうが単焦点SCLよりも処方は容易で,満足度も高い.●適正矯正度数の決定CL処方も眼鏡処方もやることは同じである.単焦点CLでも遠近CLでも適切な矯正度数を求めることが「はじめの一歩」である.眼鏡による適正矯正度数に1Dを超える乱視がある場合には,現時点では遠近SCLの適応外と考え,1D以下の乱視がある場合には等価球面値を採用する.●遠近SCLタイプ分類とその特徴現在利用できる遠近SCLのタイプは,次の4種類だと考えるとよい(図1).しかし,このタイプ分類は筆者が臨床上の印象から分類しているもので,他から提供されているものではない.①二重焦点タイプ単焦点の遠用度数と単焦点の近用度数がしっかり提供されている.遠方と近方は比較的鮮明に見えるが,調節力が少ない眼では中間距離が不鮮明である.焦点位置か(77)らずれた距離を明視するために調節が誘発されるため,調節疲労のある場合には適さない.②二重焦点移行部累進タイプ単焦点の遠用度数と単焦点の近用度数の間に,累進的に変化する度数が存在する.二重焦点タイプよりも遠方と近方の鮮明さは劣るが,中間距離は二重焦点タイプに勝る.調節疲労症例にも適する.③累進屈折力タイプ度数が累進的に連続して変化している.距離によって鮮明さに変化が少ないので,遠方の鮮明さは単焦点SCLにわずかに劣るものの,近方視は単焦点SCLに勝る.残念ながら加入度数が大きくないため,少し進行した老視では変則モノビジョンなどの工夫が必要になる.比較的若い世代で近方視作業が多く,調節疲労を訴えるが良好な遠方視力も望む場合に適する.④累進複合タイプ遠用累進部と近方累進部があり,その間を累進的につないでいる.遠方も近方も中間距離もそれなりに鮮明に見える.中間距離も見え方がもっとも安定して見えるタイプである.遠用部と近用部の配分によって,矯正度数の効き方が異なる印象がある.調節疲労の軽減に適する.●これまでの矯正状態との整合これまでどのような矯正を行ってきているかは,遠近SCLのタイプ選択に重要である.i)遠用完全矯正遠くの視力を要求するため,遠方が完全や過矯正になっている場合には,二重焦点タイプあるいは累進屈折力タイプが奏効する.ii)中間距離に合わせた矯正近くの見え方を優先して,度数を下げ,遠くはあまり良くないが,PC作業中などの見え方を優先した低矯正になっている場合には,二重焦点移行部累進タイプや累進複合タイプが奏効する.iii)遠用完全矯正に老眼鏡の併用遠方の視力を優先し,完全あるいは過矯正にして,近方作業時には単焦点近用眼鏡を併用している場合には,二重焦点タイプあるいは累進複合タイプが奏効する.●実際の処方例[症例1]48歳の主婦.最近,手元が見づらくなったと訴えて来院した.使用中のSCL度数は右S−4.50D,左S−4.50Dであった.眼鏡による適正矯正度数を求めると,両眼視力1.2×[右S−4.25D,左S−4.50D]であった.若干過矯正であったことから,i)の矯正状態と考えて累進屈折力タイプのSCLを選択し,適正矯正度数を頂間距離補正した右S−4.00D,左S−4.25Dを試し装用した.両眼遠方視力=1.2,両眼近方視力=1.0(40cm視力表)これまでより遠くの見え方は少し劣るが不満はなく,手元は見やすくなった.以前から続いていた首のこりがなくなった.[症例2]43歳のシステムエンジニア.眼の疲労感を訴えて来院した.使用中のSCL度数は右S−7.00D,左S−8.50Dであった.眼鏡による適正矯正度数を求めると両眼視力1.2×[右S−8.25D,左S−10.25D]であった.この度数をCL度数に頂間距離補正を行うと右−7.50D,左−9.00Dである.ii)の矯正状態で,近方作業が多いため,累進複合タイプのSCLを試した.両眼遠方視力=1.2,両眼近方視力=1.2(40cm視力表)遠くもすっきり見え,眼の疲れも肩こりもなくなった.[症例3]52歳の女性.遠近SCLを試したいと来院した.常用眼鏡は使用したことがなく,近方視のために両S+1.50Dの老眼鏡を使用していた.眼鏡による適正矯正度数を求めると両眼視力1.2×[右S+0.50D,左S+0.75D]であった.SCLの経験はないが,iii)の矯正状態と考えて,累進複合タイプのSCLを試した.遠方視力を壊さないように,遠近SCLの度数は右±0.00D,左+0.25Dを採用し,加入度数はMidを装用した.両眼遠方視力=1.2,両眼近方視力=1.0(40cm視力表).遠くは裸眼に少し劣るが,眼の周囲の違和感がなくなり,肩も軽くなった.●おわりに良好な視力を提供することを目標に遠近SCLを処方すると,満足できないことが多い.自覚的屈折値を正しく測定して,適正な矯正度数を提供することを目標にすれば,容易に快適な矯正を提供できる.適正な矯正度数の遠近SCLを装用したときに,どの程度の矯正視力が得られるかは,眼の性能と遠近SCLの特性で決まる.遠近SCLの見え方に慣れていただくように指導することで,遠近SCL処方成功率は著しく向上する.①二重焦点タイプ②二重焦点移行部累進タイプ③累進屈折力タイプ④累進複合タイプ図1遠近両用SCLのタイプ別イメージ(77)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.7,20161003ZS971

写真:LASIK 術後の角膜フラップ層間感染

2016年7月31日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦386.LASIK術後の角膜フラップ層間感染駒井清太郎京都府立医科大学視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①茶褐色の沈着物②角膜フラップのずれ①②図1前眼部所見左眼角膜のフラップと実質の層間に茶褐色の沈着物を認めた.角膜フラップは,ずれて一部浮いていた.図3図1のフルオレセイン染色所見フラップが浮いている部分に,フルオレセインの貯留を認める.図4ステロイド頻回点眼中止後ステロイド点眼を中止したところ,炎症の増強および茶褐色沈着物の増大を認めた.症例は60歳の男性で,前医で左眼にLaserinsitukeratomileusis(LASIK)を施行された.手術翌日より左眼に層間炎症(diffuselamellarkeratitis:DLK)を認められたため,点滴用ステロイド薬を用いて角膜フラップ下の洗浄が施行された.しかし,改善が得られなかったため,抗菌薬点眼剤を用いて再度角膜フラップ下の洗浄が施行されたが,それでも改善を得られず,当院を受診した.受診時所見として,左眼の角膜フラップにはフラップ下洗浄の影響でずれが生じており,層間には茶褐色の沈着物が認められた.同日入院とし,前医から継続されていたステロイドの頻回点眼(ベタメタゾン2時間ごと)を中止したところ,炎症の増強および茶褐色沈着物の増大を認めた.術後の層間感染を疑い,抗真菌薬(0.1%ミコナゾール点眼液)を用いて角膜フラップ洗浄を施行し,病巣の掻爬・鏡検を施行した.鏡検では酵母様糸状菌を認め,増菌培養ではStephanoascusciferriが検出された.モキシフロキサシン点眼,0.1%ミコナゾール点眼,ピマリシン眼軟膏,ボリコナゾール400mg/日内服により,瘢痕治癒を得た.LASIKはマイクロケラトームもしくはフェムトセカンドレーザーで角膜フラップを作製し,エキシマレーザーにて角膜実質を切除する角膜屈折矯正手術である.LASIK術後の角膜感染は1990年代半ばから海外で報告されはじめ,その頻度は0.035%1)あるいは0.095%2)との報告がある.ウイルス感染ではアデノウイルスや単純ヘルペスウイルスが多く,細菌感染では黄色ブドウ球菌,メチシリン耐性ブドウ球菌,非定型抗酸菌,緑膿菌などが報告されているが,真菌感染の報告は少ない2).LASIK術後に角膜フラップと実質の層間に炎症を認めた場合は,本症例のような角膜フラップ層間感染と,DLKとの鑑別が重要である.DLKはLASIK術後数日で発症し,層間にびまん性の細胞浸潤を認める.DLKの一般的な治療はステロイドの頻回点眼であるが,重症例にはステロイドの全身投与やステロイドを用いたフラップ下の洗浄が必要になる場合がある.これに対し,層間感染でも明瞭な浸潤を伴う広範もしくは限局的な炎症所見を認めるが,著明な結膜充血や前房蓄膿などが鑑別のポイントとなる.術後1週間を越えて発症する層間炎症や,ステロイドの減量にて増悪する炎症では,層間感染を疑う必要がある3).AmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery(ASCRS)では,層間感染が疑われた場合には,角膜および結膜囊の鏡検・培養のみならず,すぐに角膜フラップを持ち上げて,フラップ下の洗浄と培養を行うことを推奨している3).Mittalらは,角膜フラップ層間の真菌感染において,受診後できるだけ早期に全例に対しフラップ洗浄を行い,良好な視力予後を得たと報告している4).層間感染は比較的まれであるが,LASIK後に層間に炎症を認め,ステロイド治療が奏効せず増悪する場合は,常に考慮すべき重要な疾患といえる.文献1)LlovetF,deRojasV,InterlandiEetal:Infectiouskeratitisin204586LASIKprocedures.Ophthalmology117:232-238,20102)MoshirfarM,WellingJD,FeizVetal:Infectiousandnoninfectiouskeratitisafterlaserinsitukeratomileusisoccurrence,management,andvisualoutcomes.JCataractRefractSurg33:474-483,20073)DonnenfeldED,KimT,HollandEJetal:ASCRSWhitePaper:Managementofinfectiouskeratitisfollowinglaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg31:2008-2011,20054)MittalV,JainR,MittalRetal:Post-laserinsitukeratomileusisinterfacefungalkeratitis.Cornea33:1022-1030,2014(75)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.7,20161001

総説:第25回日本緑内障学会 須田記念講演 1人の臨床医として経験した緑内障点眼 治療薬の変遷

2016年7月31日 日曜日

総説あたらしい眼科33(7):989?999,2016c第25回日本緑内障学会須田記念講演1人の臨床医として経験した緑内障点眼治療薬の変遷TransitionofEyeDropsforGlaucomaTreatmentExperiencedasaClinician富田剛司*はじめに今回,自身のこれまでの眼科医生活のとりあえずの総まとめをしたいという思いから,35年前に筆者が眼科医になってから現在まで,わが国で保険収載され,使用されてきた緑内障点眼治療薬の変遷をまとめることにした.現在,わが国で使用されている緑内障点眼薬は,実に29種類に上る.筆者はこれまで,ほぼすべての種類の点眼薬をそれなりの数の患者に使用した経験がある.今回,その主だったものに対し,自身が治療あるいは研究に参加した報告を中心としてまとめた.I点眼薬の種類筆者が大学を卒業し,眼科医としての修業を始めたのは1980年のことである.その翌年の1981年に,それまですでに使用されていたピロカルピンとエピネフリン(エピスタR)に加え,チモロールマレイン酸塩(以下チモロール,チモプトールR)の販売が開始された.その後,カルテオロール塩酸塩(ミケランR),ジピベフリン(ピバレフリンR),また,b1の選択的遮断薬(以下b遮断薬)であるベタキソロール塩酸塩(ベトプティックR)が販売開始された.1994年になって,現在はイオンチャンネル開口薬とされているイソプロピルウノプロストン(以下ウノプロストン,レスキュラR)が販売開始された.当時は日本で開発された世界で初めてのプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬ということで注目された.また,エポックメーキングな出来事として,1999年になって,ラタノプロスト(キサラタンR)と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の点眼薬であるドルゾラミド塩酸塩(以下ドルゾラミド,トルソプトR)が相次いで登場し,わが国で販売開始されたことである.1999年以降,ラタノプロスト(キサラタンR)の1日1回点眼の影響か,1回点眼のb遮断薬が多数市場に出てきた.2001年には,a1ブロッカーであるブナゾシン塩酸塩(デタントールR)が販売開始された.2002年には,ドルゾラミドと同じCAIであるブリンゾラミド(エイゾプトR)が販売開始された.2007年に入り,ラタノプロスト(キサラタンR)以降しばらく途絶えていたPG関連薬が,トラボプロスト(トラバタンズR),タフルプロスト(タプロスR),ビマトプロスト(ルミガンR)の順に販売開始された.さらに,ラタノプロスト/チモロール配合剤(ザラカムR),トラボプロスト/チモロール配合剤(デュオトラバR),タフルプロスト/チモロール配合剤(タプコムR)といったPG関連薬とb遮断薬との配合剤点眼薬(以下,PG/b配合剤),ならびに,ドルゾラミド/チモロール配合剤(コソプトR),ブリンゾラミド/チモロール配合剤(アゾルガR)といった,b遮断薬とCAIとの配合剤点眼薬(以下,b/CAI配合剤)がわが国でも使用可能となり販売開始された.また,海外では永らく使用されていたa2作動薬点眼薬のブリモニジン(アイファガンR)もわが国でも販売開始使となり,2014年末には主経路に作用する日本で開発されたROCK阻害薬点眼薬,リパスジル塩酸塩(グラナテックR)が世界に先駆けてわが国で販売開始された.ごく最近ではドルゾラミド/チモロール配合剤の防腐剤非含有1回使い切り製剤(コソプトミニR)が販売開始され,以上を合わせると,29種類となる(表1).ジェネリック製品も多数あるため,緑内障点眼治療薬は35年前の2種類から飛躍的に増加したことになる.II各種点眼薬の眼圧下降効果と視野維持効果1.8年間点眼治療のみで経過観察した症例の点眼薬数の変化と眼圧変化緑内障治療の原則は,眼圧を十分に下降させることにより患者の視機能を保全することにある.それではこれほど多数の緑内障点眼薬が使用できる現在,筆者は患者の眼圧を下げることができてきたのであろうか.そこで,筆者が東邦大学大橋病院に赴任してから現在までの8年間,点眼薬だけで経過をみている101人の患者の経過観察開始時の状態と現在の状況についてまとめてみた.初診時,PG関連薬1剤のみを使用は46例,PG関連薬とb遮断薬使用は33例,これにCAI点眼を加えた3剤使用は22例であった.経過観察を開始した2007年当時は,配合剤やa2作動薬,ROCK阻害薬などはまだなかった(表2).そして,8年が経過し,現在の点眼状況は表3のごとくになる.すなわち,PG関連薬1剤のみだった46例で現在も1剤使用であるのは11例であった.他の症例では,最大4剤まで増えていた.2剤使用していた症例も状況は似ており,3剤使用症例では,点眼ボトル数は3つで変わらないが,配合剤使用が増えているのがわかる.眼圧に関してみていると,初診時と比べて3群とも有意に低下していた(表4).近年報告された,UKGTSスタディ(TheUnitedKingdomGlaucomaTreatmentStudy)では,ラタノプロストとプラセボを無作為に割り付け,2年間経過観察し,視野進行あるいは光干渉断層計で確認した緑内障性構造変化の進行が抑制されたか否かが綿密なプロトコールのもと調査された.その結果,ラタノプロスト使用群の眼圧は,脱落例も含めた最終眼圧,プロトコールを完遂した例の視野進行側眼,いずれにおいても2年間,有意に低い眼圧を示し,かつラタノプロストを使用した群は,プラセボ点眼群に比して,視野進行の割合は有意に低く,ハザード率は0.44であったと報告されている1).したがって,緑内障点眼治療は患者の眼圧をよく下降させ,視野進行抑制効果もあるものと考えてよいと思われる.次項より,おもな緑内障点眼薬の眼圧下降効果と視野維持効果を検討した結果を示す.2.チモロール(チモプトールR)の眼圧下降効果正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)患者を対象として,チモロール点眼群31例とラタノプロスト点眼群31例に無作為に割り付け3年間経過をみた2).スタディデザインは非盲検法で,ラタノプロストは朝点眼とした.投与前眼圧は,ラタノプロスト群で15.0±1.6mmHg,チモロール群で15.9±2.0mmHgであった.3年間の経過観察中,トラフでの眼圧は2群とも下降しており,3年後の時点で眼圧はラタノプロスト群で12.9±2.6mmHg,チモロール群で14.0±2.3mmHgであり,眼圧値に群間での差はなかった(図1).さらに,Humphrey視野計の視野MD値でも,群内,群間で3年間差はなく,眼底三次元画像解析法にて解析した視神経乳頭リム面積にも3年間で変動はなかった.これは,少なくとも眼圧が低めのNTG患者においては,チモロールもラタノプロストとほぼ同等に眼圧を下降させ,視野維持効果もほぼ同等である可能性を示しているように思われる.3.ウノプロストン(レスキュラR)の眼圧下降効果次に,ウノプロストン点眼薬を検討した3).投与開始時に上方のみに視野欠損を有するNTG患者20例を対象に,ウノプロストンのみの点眼で3年以上経過観察した結果である.投与前眼圧は15.1±2.1mmHgで,最終眼圧は14.2±1.9mmHgであった.投与前に比して,値にして平均で1mmHg水銀柱弱ではあるが,眼圧は3年間有意に下降していた(図2).Humphrey視野結果においても,MD値の平均では変化はなかったが,トレンド解析とイベント解析で2例ずつ,全体で20%に視野の悪化を認めた.金沢大学からの報告においても,NTGに対するウノプロストン単剤使用4年後での視野の悪化を認めない確率は約80%としており,ほぼ同等の結果である4).4.炭酸脱水阻害薬(CAI)点眼薬の眼圧下降効果a.ドルゾラミド(トルソプトR)の眼圧下降効果CAI,すなわち,アセタゾラミド(ダイアモックスR)内服が眼圧下降に効果があることを始めて報告したのは,B.Beckerである5).その当初より,アセタゾラミドの点眼薬化の研究が進められてきたが,彼の報告後,40年以上の時を経て,ようやく,CAI点眼薬の姿がみえてきた6).その後,海外での点眼薬の実用化を経て,わが国でも1999年よりドルゾラミド点眼薬が使用可能となった.ただ,わが国で用いられているドルゾラミドの濃度は0.5%と1%であり,海外が1%と2%であるのとは異なっていることに注意する必要がある.また,チモロールとの比較試験により眼圧下降効果が劣性であったことから,第一選択薬ではなく,追加投与の局面でおもに使用されることになっている.そこで,PG関連薬を単独使用していた患者にドルゾラミド点眼追加後3年間経過をみた結果を示す7).対象患者は97例で,追加前の点眼薬は,ラタノプロストが80例,トラボプロストが9例,タフルプロストが7例,ビマトプロストが1例である.追加前眼圧の平均は17.5±3.1mmHgであった.追加投与後半年で眼圧は平均15.1±3.0mmHgまで有意に下降し,3年目の時点で14.8±3.1mmHgであった(図3).眼圧下降率は,1~3年後まで,平均で13.6%と変化はなかった.b.ブリンゾラミド(エイゾプトR)の眼圧下降効果ドルゾラミドと同じCAI点眼薬であるブリンゾラミドの眼圧下降効果も示す8).症例は22例で,1年間の調査である.投与前眼圧が,17.0±2.2mmHgで,1年後は14.8±1.7mmHgであり,投与1カ月後から有意な眼圧下降がみられた(図4).眼圧下降率は平均で12%であったが,ほぼ差はないとはいえ,ドルゾラミドの13.6%に比べやや少ない感じもする.点眼回数がブリンゾラミドでは1日2回であるためかもしれない.5.PG関連薬の眼圧下降効果a.ラタノプロスト(キサラタンR)の無効例の調査ラタノプロストの眼圧下降効果と視野維持効果についてはすでにチモロール点眼薬の評価の項で触れたので,ここではラタノプロストが無効であった症例のレビューを行ってみたい9).対象は,原発開放隅角緑内障(広義)患者88例である.点眼開始6カ月後では,有意に眼圧は下降した.しかしながら,投与前眼圧別に眼圧下降率が10%未満であった例をみてみると,点眼前眼圧が21mmHgを超えていた例では無効率は約9%であったのに対し,16~20mmHgでは無効率が17%弱,15mmHg未満では37%であり,投与前眼圧が低いほど,眼圧下降率が低下することがわかる(表5).したがって,無治療時眼圧が15mmHg未満の症例では,ラタノプロストで期待できる眼圧下降量は2~2.5mmHgと考えたほうがよい.しかしながら,それでも眼圧は下降していることにも注目する必要がある.b.トラボプロスト(トラバタンズR)の眼圧下降効果76例のNTG患者を対象として,トラボプロスト点眼薬1剤で3年間経過をみた結果を示す10).図5にあるように,点眼開始前眼圧は16.8±2.6mmHgで,半年後には13.6±2.5mmHgまで有意に下降し3年間維持された.眼圧下降量は,3年後で平均2.9mmHg,下降率は平均17%であったが,1年目と3年目で眼圧下降率に有意な差はなかった.3年間で5例,うち1例は,トレンド解析とイベント解析両方で視野障害進行がみられた.一方,点眼の継続率では60.5%であった.脱落のおもな理由は未来院であった.c.タフルプロスト(タプロスR)の眼圧下降効果次にタフルプロストについて,NTG患者55例55眼を対象として単剤で3年間経過観察した結果を示す11).点眼開始前眼圧の平均は15.7±2.2mmHgで,点眼開始後から眼圧は有意に下降し,3年後の平均眼圧は12.8±2.8mmHgであった(図6).眼圧下降率は1~3年後までほぼ変化なく,平均で約15%であった.視野障害の進行はトレンド解析で4例,イベント解析で3例みられた.また途中,34.5%が脱落し,継続率は65.5%であった.d.ビマトプロスト(ルミガンR)の眼圧下降効果PG関連薬に関して最後にビマトプロストについて3年間の使用結果をまとめる.NTG患者62例を対象として,単剤で3年間経過観察した12).点眼開始前眼圧は,平均で16.8±2.4mmHgであった.点眼開始後から眼圧は3年間有意に下降し,3年目では平均13.6±3.1mmHgまで下降していた(図7).経過観察中の平均眼圧下降率は最大24.9%,最低18.6%で,3年後では19.4%であった.他のPG関連薬と比べて下降率はやや高いように思われた.途中,27例が脱落し,2例が視野の解析ができなかったため,3年まで視野の経過を解析できたのは33例であった.そのなかで,イベント解析で悪化がみられたのは4例,トレンド解析で悪化したのは1例であった.ただ,脱落例の内訳では,副作用による中止例が多い傾向にあった(17例,27.4%).点眼による充血などが原因となったのかもしれない.6.ブリモニジン(アイファガンR)の眼圧下降効果次に,海外では永らく使われているが,日本では3年前から使用されるようになった交感神経a2作動薬点眼薬のブリモニジンをみてみる.174例の原発開放隅角緑内障(広義)を対象として半年間経過を見た結果である13).すでに他剤を使用していて,そのアドオン効果を評価した.3剤以上使用していてそれにアドオンした症例が一番多く,114例であったが,追加点眼効果が有意に出ている結果となった(図8).副作用は半年間に約10%に出現した.3カ月くらい経過してからアレルギー症状の出るケースが3例あったが,使用しはじめて1カ月後の比較的早期に,血圧低下・除脈が1例,傾眠傾向が1例と全身症状が出た例もあったので,処方時には患者に注意喚起するなど,配慮が必要と思われる.7.配合剤の眼圧下降効果a.ラタノプロスト?チモロール配合剤(ザラカムR)の眼圧下降効果さてここで,2010年からやっと日本にも登場した配合薬のレビューをしてみたい.まず,ラタノプロスト/チモロール配合剤であるが,ラタノプロストとチモロールの2剤を使用していた162例を対象に,休薬期間を設けることなくそのままラタノプロスト/チモロール配合剤点眼に変更し,3年間経過をみた結果である14).変更前の眼圧は,平均15.2±3.3mmHgで3年後には14.3±3.0mmHgとなっており,有意差をもって眼圧は下がっているという結果になった(図9).ただ,3年後の時点で,約80%の症例は,眼圧変動は2mmHg以内であったが,10%で2mmHgを超える眼圧を示していた.3年間,ラタノプロスト/チモロール配合剤を使用し続けることのできた継続確率は61,7%であった.2.PG関連薬による眼瞼色素沈着と睫毛の伸長・剛毛化虹彩色素沈着と並んでPG関連薬の特徴的な副作用として,眼瞼色素沈着と睫毛の伸長や剛毛化があげられる(図14).片眼にのみPG関連薬を使用している症例を対象として,左右眼を比べて色素沈着と睫毛の変化を調査した21).この調査ではウノプロストンもPG関連薬として扱った.その結果,3人の検者による写真判定では,眼瞼色素沈着の割合はすべて10%未満で点眼薬の間でも差はなかったが,睫毛の変化については,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストで40%を超える結果となった.一方,患者本人がアンケート形式で主観的に評価した結果において,睫毛の変化については写真判定と同程度であるが,眼瞼色素沈着に関しては,写真判定とは大きく異なり,その割合が最低でも20%と大変高くなっている(図15).外来で,筆者自身はそうは思わないのであるが,瞼が黒くなるから嫌だという患者を時々経験する.われわれ医師と患者のとらえ方に違いがあることに注意しなければならないと感じる.3.PG関連薬による上眼瞼溝深化(DUES)次に,最近話題になっている上眼瞼溝深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)に対する調査結果を示す22).片眼のみに点眼している患者の左右眼を写真判定で比較することにより判定した(図16).その結果,ビマトプロストで60%,トラボプロストで50%,ラタノプロストで24%,タフルプロストで18%にDUESが点眼側にみられるという結果になった.左右眼の比較ではなく,点眼開始後からDUESの発生頻度そのものをみた他の報告でも,6カ月間でラタノプロスト(6%)とタフルプロスト(14%)の頻度が逆転しているが,左右眼比較とほぼ同等の結果が示されている23).まとめ緑内障点眼薬はそれぞれに眼圧下降作用を有し,一定の割合で緑内障進行を予防する効果があると結論できる.一方で,緑内障点眼薬には,それぞれの薬に特有の副作用があり,これらを熟知することはより効果的な緑内障治療に結びつくものと考える.ただ,多くの点眼薬の出現により,眼圧下降治療そのものは随分と成功するようになってきた今日,眼圧下降以外の作用においても緑内障点眼薬の効果を評価することの必要性が増すと思われ,今後の緑内障治療の課題として重要であると考える.道程は長そうであるが,薬を作る方,使う方が力を合わせ,一体となって,この緑内障という,いわば巨大な怪物に立ち向かう覚悟が必要であることを改めて感じる.これからは,若い先生方の力も多いに期待したいところである.謝辞稿を終えるにあたり,筆者に緑内障を一からお教えいただいた恩師北澤克明先生,緑内障の診療,研究面で多くの機会を与えていただいた新家眞先生,名誉ある須田記念講演の講演者に指名していただいた第26回日本緑内障学会会長でかつ筆者の敬愛する同級生である岩瀬愛子先生に深甚なる感謝の意を表します.また,講演の座長の労をお取りいただいた日本緑内障学会理事長の山本哲也先生,多くの臨床研究を主導され,そのデータの使用を快く認めていただいた井上眼科病院グループ理事長の井上賢治先生ならびに医局の先生方,緑内障臨床を共に行い研究を行ってきた東京大学眼科の相原一先生ならびに医局の先生方,東京緑内障セミナーの先生方,東邦大学大橋病院眼科医局員に心より感謝申し上げます.なお,本総説は,第26回日本緑内障学会須田記念講演での発表内容に基づいて執筆いたしましたが,現在論文作成中のデータが発表に含まれていたため,内容の一部を割愛させていただきましたことをお詫び申し上げます.文献1)Garway-HeathDF,CrabbD,BuceCetal:Latanoprostforopen-angleglaucoma(UKGTS):arandomized,multicenter,placebo-controlledtrial.Lancet385:1295-1304,20152)TomitaG,AraieM,KitazawaYetal:Athree-yearprospective,randomizedandopencomparisonbetweenlatanoprostandtimololinJapanesenormal-tensionglaucomapatients.Eye18:984-989,20043)井上賢治,澤田英子,増本美枝子ほか:正常眼圧緑内障に対するイソプロピルウノプロストン3年間点眼の眼圧およびセクター別の視野に及ぼす影響.あたらしい眼科27:1593-1597,20104)齋藤代志明,佐伯智幸,杉山和久:広義原発開放隅角緑内障に対するイソウノプロストン単独投与による眼圧および視野の長期経過.日眼会誌110:717-722,20065)BeckerB:Decreaseinintraocularpressureinmanbyacarbonicanhydraseinhibitor:Diamox:apreliminaryreport.AmJOphthalmol37:13-15,19546)PodosSM,SerleJB:Topicallyactivecarbonicanhydraseinhibitorsforglaucoma.ArchOphthalmol109:38-39,19917)井上賢治,添田尚一,鬼怒川雄一ほか:ドルゾラマイド点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加投与の長期経過.臨眼68:287-291,20148)井上賢治,小尾明子,若倉雅登ほか:ラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法.あたらしい眼科25:1573-1576,20089)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,200510)InoueK,IwasaM,WakakuraMetal:EffectofBAK-freetravoprosttreatmentfor3yearsinpatientswithnormaltensionglaucoma.ClinOphtalmol6:1315-1319,201211)InoueK,TanakaA,TomitaG:Effectsoftafluprosttreatmentfor3yearsinpatientswithnotmal-tensionglaucoma.ClinOphthalmol7:1411-1416,201312)InoueK,ShiokawaM,FujimotoTetal:Effectoftreatmentwithbimatoprost0.03%for3tearsinpatientswithnormaltensionglaucoma.ClinOphthalmol8:1179-1183,201413)中島佑至,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬の追加投与による眼圧下降と安全性.臨眼68:967-971,201414)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:Efficacyandsafetyofswitchingtolatanoprost0.005%-timilol0.5%fixedcombinationeyedropsfromanunfixedcombinationfor36months.ClinOphthalmol8:1275-1279,201415)InoueK,SetogawaA,HIgaRetal:Ocularhypotensiveeffectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%fixedcombinationafterchangeoftreatmentregimenfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthalmol6:231-235,201216)InoueK,ShiokawaM,SugawaraMetal:Three-monthevaluationofdorzolamidehydrochloride/timololmaleatefixed-combinationeyedropsversustheseparateuseofbothdrugs.JpnJOphthalmol56:559-563,201217)InoueK,SoedaS,TomitaG:Comparisonoflatanoprost/timololwithcarbonicanhydraseinhibitoranddorzolamide/timololwithprostaglandinanaloginthetreatmentofglaucoma.JOphthalmol2014:975429,201418)AiharaM,OshimaH,AraieMetal:EffectsofSofZiapreservedtravoprostandbenzalkoniumchloride-preservedlatanoprostontheocularsurface?amulticenterrandomizedsingle-maskedstudy.ActaOphthalmol91:e7-e14,201319)NakagawaS,UsuiT,YokooSetal:Toxicityevaluationofantiglaucomadrugsusingstratifiedhumancultivatedcornealepithelialsheets.InvestOphthalmolVisSci53:5154-5160,201220)Latanoprost-InducedIrisPigmentationStudyGroup:Incidenceofalatanoprost-inducedincreaseinirispigmentationinJapaneseeyes.JpnJOphthalmol50:96-99,200621)InoueK,ShiokawaM,HigaRetal:Adverseperiocularreactionstofivetypesofprostaglandinanalogs.Eye26:1465-1472,201222)InoueK,ShiokawaM,WakakuraMetal:Deepeningoftheuppereyelidsulcuscausedby5typesofprostaglandinanalogs.JGlaucoma22:626-631,201323)SakataR,ShiratoS,MiyataKetal:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusinprostaglandin-associatedperiorbitopathywithalatanoprostophthalmicsolution.Eye28:1446-1451,2014表11980年以降の各点眼薬の販売開始年月販売開始年月製品名配合剤有効成分一般名198109チモプトールR点眼液0.25%/0.5%日局チモロールマレイン酸塩198411ミケランR点眼液1%/2%カルテオロール塩酸塩198812ピバレフリンR0.04%/0.1%ジピベフリン塩酸塩199408ベトプティックR点眼液0.5%日局ベタキソロール塩酸塩199410レスキュラR点眼液0.12%イソプロピルウノプロストン199905キサラタンR点眼液0.005%ラタノプロスト199905トルソプトR点眼液0.5%/1%日局ドルゾラミド塩酸塩199908ハイパジールコーワ点眼液0.25%ニプラジロール199911チモプトールRXE点眼液0.25%/0.5%日局チモロールマレイン酸塩199911リズモンRTG点眼液0.25%/0,5%日局チモロールマレイン酸塩200102ミロルR点眼液0.5%レボブノロール塩酸塩200109デタントールR0.01%点眼液ブナゾシン塩酸塩200209ベトプティックRエス懸濁性点眼液0.5%日局ベタキソロール塩酸塩200212エイソプトR懸濁性点眼液1%ブリンゾラミド200707ミケランRLA点眼液1%/2%カルテオロール塩酸塩200710トラバタンズR点眼液0.004%トラボプロスト200812タプロスR点眼液0.0015%タフルプロスト200910ルミガンR点眼液0.03%ビマトプロスト201004ザラカムR配合点眼液○ラタノプロスト日局チモロールマレイン酸塩201006デュオトラバR配合点眼液○トラボプロスト日局チモロールマレイン酸塩201006コソプトR配合点眼液○日局ドルゾラミド塩酸塩日局チモロールマレイン酸塩201205アイファガンR点眼液0.1%ブリモニジン酒石酸塩201310タプロスRミニ点眼液0.0015%タフルプロスト201311アゾルガR配合懸濁性点眼液○ブリンゾラミド日局チモロールマレイン酸塩201411タプコムR配合点眼液○タフルプロスト日局チモロールマレイン酸塩201412グラナテックR点眼液0.4%リパスジル塩酸塩水和物201506コソプトRミニ配合点眼液〇日局ドルゾラミド塩酸塩日局チモロールマレイン酸塩表2東邦大学大橋病院で7年以上点眼薬のみで加療されている患者の初診時治療薬点眼薬例数PG関連薬46PG関連薬+交感神経b遮断薬33PG関連薬+交感神経b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬22PG:プロスタグランジン表4眼圧の変化(mmHg)初診時現在p値PG剤のみ(n=46)14.1±2.613.0±2.90.029PG+b(n=33)14.4±1.913.2±2.40.008PG+b+CAI(n=22)16.1±4.014.0±2.80.029PG:プロスタグランディン関連薬,b:交感神経b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬点眼薬.平均値±標準偏差:対応のあるt検定表3最終観察時の使用薬剤初診時薬剤最終観察時薬剤例数PG(46)PG11PG/b4PG+b6PG+CAI5PG+b/CAI2PG+b+CAI2PG+b+a11PG+b+a21PG/b+CAI+a21PG+b/CAI+a22PG+b+CAI+a22PG+b+CAI+ROCK4PG+b(33)PG+b6PG+b/CAI5PG+b+CAI10PG+b+a22PG+b/CAI+a210PG+b+CAI(22)b+CAI1PG+b+CAI12PG+b+CAI+内服1PG+b+CAI+a22PG+b/CAI+a13PG+b/CAI+a22PG+b/CAI+ROCK1PG:プロスタグランジン関連薬,b:交感神経b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a1:交感神経a1遮断薬,a2:交感神経a2作動薬,ROCK:ROCK阻害薬,PG/b:プロスタグランジン関連薬・b遮断薬配合薬,b/CAI:交感神経b遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬配合薬.図1チモプトールR,キサラタンRの点眼前後の眼圧値(トラフ値)図2レスキュラRの点眼前後の眼圧値図3トルソプトR点眼追加前後の眼圧図4エイゾプトR点眼追加前後の眼圧値図5トラバタンズR点眼前後の眼圧値図6タプロスR点眼前後の眼圧値表5ラタノプロスト投与3カ月後の投与前眼圧ごとのノンレスポンダーの頻度および眼圧下降率図7ルミガンR点眼前後の眼圧値図8アイファガンR点眼追加後の眼圧値図9ザラカムR点眼変更前後の眼圧値図10デュオトラバR点眼変更前後の眼圧値図11PG関連薬?b遮断薬配合点眼薬+CAI点眼薬とPG関連薬+コソプトRの眼圧下降効果の比較図12緑内障点眼薬多剤使用による角膜障害(東邦大学医療センター大森病院眼科堀裕一教授のご厚意による).図13PG関連薬点眼による虹彩色素沈着の一例図14PG関連薬点眼による眼瞼色素沈着と睫毛の変化図15患者の主観的評価によるPG関連薬点眼による眼瞼色素沈着と睫毛の変化図16片眼PG関連薬点眼により生じた上眼瞼溝深化(DUES)の1例(右眼)*GojiTomita:東邦大学医療センター大橋病院眼科〔別刷請求先〕富田剛司:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(63)989990あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(64)(65)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016991992あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(66)(67)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016993994あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(68)(69)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016995996あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(70)(71)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016997998あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(72)(73)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016999