特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):981〜988,2016クロロキンおよびヒドロキシクロロキンによる薬剤毒性DrugToxicityofChloroquineandHydroxychloroquine篠田啓*はじめにクロロキン網膜症は,全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythematosus:SLE),皮膚エリテマトーデス(cutaneouslupuserythematosus:CLE),関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)に対する薬剤1~3)であるクロロキン(chloroquine:CQ)の長期投与により両眼黄斑が障害される網膜症として1959年に初めて報告された4).わが国では1962年の症例報告5)が最初である.CQはその後,視覚障害などの副作用が大量に出現したため使用が制限され,以後国内では,海外渡航者が日本でマラリアを発症した場合に治療薬として使われるか,個人輸入で使われる程度であった.このため,クロロキン網膜症はわが国では眼科医であっても経験が少ない.しかし,サノフィ(株)による,世界で初めての臨床試験が日本で行われ,第I相試験から第III相試験を経て,2015年7月にヒドロキシクロロキン硫酸塩(hydroxychloroquinesulfate:HCQ),プラケニル®錠(サノフィ)が,SLE,CLEの適応症で承認を取得したことにより,この網膜症についての知識と経験は今後非常に重要となるものと思われる.本剤はわが国で使用が禁止されていた60年余の期間にも米国をはじめとする諸外国で臨床で使用され,適正使用に関する研究が続けられてきた1~3).ここではおもに米国のガイドラインを参考にしたうえで,アジアも含めた海外データをもとにわが国においてわれわれ眼科医が現在理解しておきたい点を述べる.Iヒドロキシクロロキン網膜症,ヒドロキシクロロキン黄斑症HCQは,CQの代謝産物でCQと同様に抗炎症作用,免疫調節作用,抗マラリア作用,抗腫瘍作用など多岐にわたる作用を有する薬剤である1).もっとも留意すべき副作用である網膜障害6~9)は,CQによる網膜障害よりも頻度は少ないが病態は同じであり,適正使用をしない場合,視機能低下を生じる可能性があり,また投薬を中止しても進行することがある7,10).今後,わが国ではHCQが広く使用されるであろうことから,ここではHCQ網膜症について述べる.HCQ網膜症はおもに黄斑が障害されるため,HCQ黄斑症(HCQmaculopathy)とよばれることもある.HCQの添付文書から,実臨床でのHCQ網膜症にかかわる部分を表1に抜粋した.また,わが国で承認が得られたことに伴い,ごく最近,日本皮膚科学会,日本リウマチ学会(ヒドロキシクロロキン診療ガイドライン日本皮膚科学会・日本リウマチ学会編http://www.ryumachi-jp.com/info/guideline_hcq.pdf)9,11),そして日本眼科学会からのガイドライン12)が提唱されており,そちらもぜひ参照されたい.II発症機序CQ同様,HCQによる毒性の発生機序は不明であるが,ライソゾームの破壊,酵素や代謝機能の障害が関与しているらしい.薬剤はメラニンと結合して網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞や脈絡膜メラニン含有細胞に取り込まれ,投与中止後も長期にとどまっている13,14).多数の動物種で網膜毒性が再現されており,組織学的検査では,網膜の全層にわたる神経細胞の変性,ならびにRPEの萎縮が認められる15).電子顕微鏡下では神経節細胞,視細胞およびRPE細胞に多層構造が認められる16).これらの多層構造体の蓄積は,ライソゾーム阻害や蛋白合成阻害に起因すると考えられる.III発症率用量と網膜障害の発現との関係を検討した海外の報告を表2に示す.IV発症の危険性を高める要因眼障害のリスクを高める要因を表1の「重要な基本的注意」に示した.本剤の添付文書,2011年に米国眼科学会(AmericanAcademyofOphthalmology:AAO)より発行された改訂ガイドライン「RevisedRecommendationsonScreen-ingforChloroquineandHydroxychloroquineRetinopathy11,21)」(AAO2011),および2016年の改訂ガイドライン「RecommendationsonScreeningforChloroquineandHydroxychloroquineRetinopathy(2016Revision)22)」(AAO2016)を比較すると,用量は,添付文書は「6.5mg/理想体重kgあるいは400mgを超えないように用量で規定」,AAO2011では「6.5mg/理想体重kgあるいは400mgを超える」,AAO2016では「5mg/実体重kgを超える」となっている.累積投与量は,添付文書は200g,AAO2011は1,000gとしている.用量に関しては,米国の用量規定の根拠となった論文の母集団の平均実体重は76.9kgで理想体重は57.2kgであった19,22).また,ガイドラインでは「患者のコンプライアンスや体重変化を考慮して」となっており22),処方通りよりは少な目の値と考えられる.これらのことに加えて,米国人と日本人の体格差を考慮すると,わが国では実体重が理想体重を大きく下回る患者で長期投与している場合に,投与量を1段階下げること(例えば300mg/日→200mg/日)を検討することを考慮するのが妥当と考えられる.累積投与量については米国とわが国で隔たりがあるが,米国の1,000gというのは,1錠200mgを毎日2錠ずつ投与して7年間で達する量という意味合いもある.近年の海外の副作用報告(表2の*2など)なども考慮し,わが国の場合は累積投与量200gをリスクと設定することは妥当と考えられる.網膜障害の発現率は投与開始より5~7年で1%を超えるとの報告もあることから,米国では投与開始5年超から年に1回の眼科検査を推奨している.しかし,近年の海外の副作用報告(表2の*2など)なども考慮し,わが国では「少なくとも年に1回,リスクを有する患者はより頻回にこれらの眼科検査を実施する」としていることは妥当と思われる12).また,近年遺伝的背景による網膜症への抵抗性の違いも報告されている23,24).V症状視力低下,色覚異常,視野障害があり,以下に詳しい検査所見を述べる.また,投与初期に霧視,調節障害を呈することがあるが可逆的である.VI診断診断に必要な検査とその所見を以下に述べる.1.視力検査矯正視力は0.7~1.0と比較的良好17,25)であるが,0.1以下と重篤な視力低下を生じることもある10,26).2.細隙灯検査網膜症以外の外眼部前眼部異常をとらえる.①角膜沈着物:CQよりまれであるがHCQでも投与初期に発生することがある.可逆的である.②白内障:本剤の眼毒性としての報告はあるが高齢者での発症頻度が高いため,関連性を確定することがむずかしい.3.眼底検査初期には中心窩反射消失,黄斑部の微細な顯粒状所見や脱色素斑を呈し,進行すると動脈の狭細化,視神経萎縮を生じ,とくにbull’seye(標的黄斑症)とよばれる輪状萎縮が特徴的である(図1)6~9,17).アジア人では黄斑より周辺にも病変部が出現することがあるとされており,広角眼底カメラ撮影が重要となるかもしれない.4.眼底自発蛍光検査(fundusautofluorescence:FAF)黄斑部の病巣に一致した低蛍光あるいは過蛍光により,早期のRPE障害を検出することが可能である(図2)6,7,17,21,22,27).5.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinfundusangiography:FFA)6,17)検眼鏡的にごく微細な早期のRPE障害を検出することが可能であるが侵襲のないFAFやSD-OCTの普及に伴い,重要性は低下している.6.スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD︲OCT)傍中心窩から黄斑辺縁領域にかけて網膜層における局所的な菲薄化をとらえることにより,本剤による網膜障害の検出が可能である.Ellipsoidzone(旧称,innersegment-outersegmentline:IS/OSline)の欠損は傍中心窩障害の早期の所見である可能性がある(図2)6,7,20,21,22,25,27).7.色覚検査仮性同色表(pseudoisochromaticplates),色相配列検査,アノマロスコープ(anomaloscope)などがあるが,簡便性,汎用性の観点から,本疾患の色覚異常の検出には石原式色覚検査表,PanelD-15,SPP2色覚検査表などが推奨される28).8.中心視野検査典型的には傍中心窩領域での輪状暗点として中心10°以内(とくに中心窩から2~6°)で観察されるが(図2)6,7,9,19,21,29),アジア系人種ではより周辺(8°以遠)にも病変部が出現することがあると報告されているので,中心30°までの領域の検査も検討する(図3,4)20,27).9.網膜電図(electroretinogram:ERG)多局所ERG(multifocalERG,mfERG)では本剤使用による早期の網膜障害をERGの低下部位として客観的に記録することが可能である(図2)21,22,25,27).2011年のAAOによるガイドライン改訂の際,mfERG,SD-OCT,FAFなどの他覚的検査が加えられ,その実施が推奨されたことにより,網膜障害の早期発見が可能となった21,27).さらに2016年の改訂22)では,とくに視野検査とSD-OCTの両方を実施することの重要性が強調されている.早期に網膜障害を検出し投薬を中止することにより視機能の低下は回避できるため,定期的な眼科検査が義務付けられている.また近年,アジア人では傍中心窩のみではなくpericentral(黄斑辺縁部)での障害が他の人種に比べて高頻度に認められたとの報告がなされており,中心視野10°のみではなく,その周囲部も含めた検査(たとえば30°以内)の重要性が示されている(図4)20,24,27).VII眼科検査の実施時期本剤による眼障害を早期にとらえるために,主治医と眼科医が連携し,本剤投与開始前および投与中に定期的に眼科検査を実施することが重要である.投与開始時検査は,禁忌対象(SLE網膜症を除く網膜症,黄斑症の既往・合併)に該当しないこと,および投与前の眼の状態を正確に把握しておくことが目的である.投与開始後は少なくとも年1回の頻度で定期的に眼科検査を実施する.本剤による眼障害に対して上述のリスクを有する患者(表1)や,その他,視力障害のある患者,SLE網膜症患者,投与後に眼科検査異常を発現した患者では,年1回よりも頻回に(患者の状態に応じて,例えば半年ごとなど)検査を実施する.VIII治療法治療は投与を中止することである.中止によって改善がみられる場合もある30)ものの,体内からの排出は遅いため投薬を中止しても進行することがある10,26)ので十分な注意が必要である.AAOのガイドラインでは網膜症は非可逆性であり,いかなるRPEの消失も生じる以前に検出すべきであるとしている22).文献1)HahnBH:SystemicLupusErythematosus.In:LongoDL,FauciAS,KasperDLetal:editors.Harrison’sPrinciplesofInternalMedicine(18thed).NewYork:McGraw-HillMedicalPublishingDivision,p2724-2735,20122)KuhnA,RulandV,BonsmannG:Cutaneouslupuserythematosus:UpdateoftherapeuticoptionsPartI.JAmAcadDermatol65:e179-e193,20113)AmericanCollegeofRheumatologyAdHocCommitteeonSystemicLupusErythematosusGuidelines:Guidelinesforreferralandmanagementofsystemiclupuserythematosusinadults.ArthritisRheum42:1785-1796,19994)HobbsHE,SorsbyA,FreedmanA:Retinopathyfollowingchloroquinetherapy.Lancet2:478-480,19595)中野彊:クロロキンによる網膜症発現報告.臨眼56:876,19626)BrowningDJ:Hydroxychloroquineandchloroquineretinopathy.Springer,20147)MittraRA,MielerWF:DrugtoxicityoftheposteriorSegment.In:RyanSJ,SchachatAP,SaddaAReditorsRETINA(5thed)Elsevier,NewYork,p1532-1554,20138)横川直人:II.免疫抑制薬・抗リウマチ薬.10.ヒドロキシクロロキン.日内会誌100:2960-2965,20119)古川福実,衛藤光,谷川瑛子ほか:ヒドロキシクロロキン適正使用の手引き.日皮会誌125:2049-2060,201510)MititeluM,WongBJ,BrennerMetal:Progressionofhydroxychloroquinetoxiceffectsafterdrugtherapycessation:newevidencefrommultimodalimaging.JAMAOphthalmol131:1187-1197,201311)篠田啓:ヒドロキシクロロキンおよびクロロキン網膜症.リウマチ科55:315-321,201612)近藤峰生,篠田啓,松本惣一ほか:ヒドロキシクロロキン適性使用のための手引き.日眼会誌120:419-428,201613)RubinM,BernsteinHN,ZvaiflerNJ:Studiesonthepharmacologyofchloroquine.Recommendationsforthetreatmentofchloroqineretinopathy.ArchOphthalmol70:474-481,196314)BernsteinH,ZvaiflerN,RubinMetal:Theoculardepositionofchloroquine.InvestOphthalmol2:384-392,196315)BernsteinHN,GinsbergJ:Pathologyofchloroquineretinopathy.ArchOphthalmol71:238-245,196416)RamseyMS,FineBS:Chloroquinetoxicityinthehumaneye.Histopathologicobservationsbyelectronmicroscopy.AmJOphthalmol73:229-235,197217)MavrikakisI,SfikakisPP,MavrikakisEetal:Theincidenceofirreversibleretinaltoxicityinpatientstreatedwithhydroxychloroquine:areappraisal.Ophthalmology10:1321-1326,200318)WolfeF,MarmorMF:Ratesandpredictorsofhydroxychloroquineretinaltoxicityinpatientswithrheumatoidarthritisandsystemiclupuserythematosus.ArthritisCareRes62:775-784,201019)MellesRB,MarmorMF:Theriskoftoxicretinopathyinpatientsonlong-termhydroxychloroquinetherapy.JAMAOphthalmol132:1453-1460,201420)LeeDH,MellesRB,JoeSGetal:PericentralhydroxychloroquineretinopathyinKoreanpatients.Ophthalmology122:1252-1256,201521)MarmorMF,KellnerU,LaiTYetal;AmericanAcademyofOphthalmology:Revisedrecommendationsonscreeningforchloroquineandhydroxychloroquineretinopathy.Ophthalmology118:415-422,201122)MarmorMF,KellnerU,LaiTYetal;AmericanAcademyofOphthalmology:Recommendationsonscreeningforchloroquineandhydroxychloroquineretinopathy(2016Revision).Ophthalmology123:1386-1394,201623)GrassmannF,BergholzR,MändlJetal:CommonsynonymousvariantsinABCA4areprotectiveforchloroquineinducedmaculopathy(toxicmaculopathy).BMCOphthalmol15:18,201524)AgarwalA:Chloroquine(Aralen)andHydroxychloroquine(Plaquenil)Retinopathy.Chaptor9.ToxicDiseasesAffectingthePigmentEpitheliumandRetina.In:AgarwalA,editor.Gass’AtlasofMacularDiseases,5thed.,in2vols.USA:ElsevierSAUNDERS,p756-761,201225)MarmorMF:Comparisonofscreeningproceduresinhydroxychloroquinetoxicity.ArchOphthalmol130:461-469,201226)AkmanY,ÇermanE,YeniceÖetal:Twocaseswithchloroquineandhydroxychloroquinemaculopathy.MarmaraMedicalJournal24:68-72,201127)MellesRB,MarmorMF:Pericentralretinopathyandracialdifferencesinhydroxychloroquinetoxicity.Ophthalmology122:110-116,201528)YamJCS,KwokAKH:Oculartoxicityofhydroxychloroquine.HongKongMedJ12:294-304,200629)TangaL,CentofantiM,OddoneFetal:Retinalfunctionalchangesmeasuredbyfrequency-doublingtechnologyinpatientstreatedwithhydroxychloroquine.GraefesArchClinExpOphthalmol249:715-721,201130)MoschosMM,NitodaE,ChatziralliIPetal:Assessmentofhydroxychloroquinemaculopathyaftercessationoftreatment:anopticalcoherencetomographyandmultifocalelectroretinographystudy.DrugDesDevelTher9:2993-2999.S81303.eCollection2015表1HCQ網膜症にかかわる添付文書記載内容および留意点(1)(添付文書からの網膜症にかかわる部分の抜粋)【禁忌・慎重投与】投与禁忌の患者1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.網膜症(ただし,SLE網膜症を除く)あるいは黄斑症の患者又はそれらの既往歴のある患者[副作用として網膜症,黄斑症,黄斑変性が報告されており,このような患者に投与するとこれらの症状が増悪することがある.]3.6歳未満の幼児.4.アミノキノリン化合物の毒性作用に感受性が高い.【使用上の注意】慎重投与の患者(5)肝機能障害患者又は腎機能障害患者[本薬は尿中に未変化体が排泄され,また代謝を受けることから,肝又は腎機能に障害がある場合には血中ヒドロキシクロロキン濃度が上昇する可能性がある.](7)SLE網膜症を有する患者(8)眼障害のリスク因子を有する患者網膜症または黄斑症の患者は既往も含めて投与禁忌であるが,SLE網膜症は本剤投与によって発現する網膜症(クロロキン網膜症)とは発現機序や経過中の眼底所見などが異なるため鑑別が可能である.したがって,網膜症の中でもSLE網膜症の既往・合併は,本剤使用によりSLEの病態を改善することの有益性が危険性を上回る場合にのみ慎重に投与することが可能である.【重要な基本的注意】(1)本剤の投与に際しては,事前に両眼の視力,中心視野,色覚等を,視力検査,細隙灯顕微鏡検査,眼圧検査,眼底検査〔眼底カメラ撮影,OCT(光干渉断層計)検査を含む〕,視野テスト,色覚検査の眼科検査により慎重に観察すること.長期にわたって投与する場合には,少なくとも年に1回これらの眼科検査を実施すること.また,以下の患者に対しては,より頻回に検査を実施すること.・累積投与量が200gを超えた患者・肝機能障害患者又は腎機能障害患者・視力障害のある患者・高齢者(2)SLE網膜症を有する患者については,本剤投与による有益性と危険性を慎重に評価した上で,使用の可否を判断し,投与する場合は,より頻回に眼科検査を実施すること.(3)視野異常等の機能的な異常は伴わないが,眼科検査(OCT検査等)で異常が認められる患者に対しては,より頻回に眼科検査を実施するとともに,投与継続の可否を慎重に判断すること.(4)視力低下や色覚異常等の視覚障害が認められた場合は,直ちに投与を中止すること.網膜の変化や視覚障害は投与中止後も進行する場合があるので,投与を中止した後も注意深く観察すること.(8)視調節障害,霧視等の視覚異常や低血糖症状があらわれることがあるので,自動車の運転等危険を伴う機械の操作や高所での作業等には注意させること.表1HCQ網膜症にかかわる添付文書記載内容および留意点(2)(添付文書からの網膜症にかかわる部分の抜粋)【用法及び用量,用法及び用量に関連する使用上の注意】通常,ヒドロキシクロロキン硫酸塩として200mg又は400mgを1日1回食後に経口投与する.ただし,1日の投与量はブローカ式桂変法により求められる以下の理想体重に基づく用量とする.女性患者の理想体重(kg)=〔身長(cm)−100〕×0.85男性患者の理想体重(kg)=〔身長(cm)−100〕×0.91.理想体重が31kg以上46kg未満の場合,1日1回1錠(200mg)を経口投与する.2.理想体重が46kg以上62kg未満の場合,1日1回1錠(200mg)と1日1回2錠(400mg)を1日おきに経口投与する.3.理想体重が62kg以上の場合,1日1回2錠(400mg)を経口投与する.【用法及び用量に関連する使用上の注意】(1)本剤投与後の脂肪組織中濃度は低いことから,実体重に基づき本剤を投与した場合,特に肥満患者では過量投与となり,網膜障害等の副作用発現リスクが高まる可能性があるため,実体重ではなく,身長に基づき算出される理想体重(上記参照)に基づき投与量を決定すること.(2)本剤には網膜障害を含む眼障害の発現リスクがあり,1日平均投与量として6.5mg/kg(理想体重)を超えると網膜障害を含む眼障害の発現リスクが高くなることが報告されていることから,用法及び用量を遵守すること.本剤は,脂肪組織への分布が小さいことから,実体重に基づき本剤を投与した場合,特に肥満患者では過量投与となり,網膜障害などの副作用発現リスクが高まる可能性がある.したがって,実体重ではなく身長から算出される理想体重で投与量を決定する必要がある.また,本剤による網膜障害を含む眼障害は,理想体重あたり6.5mg/kgを超えると発現リスクが高くなることが知られているため,それを超えない形での理想体重ごとの投与量が規定されている.最近の欧米での報告では,痩せた患者での長期的な網膜障害のリスクをさらに低減するために実体重1kgあたり5mgでの投与が提言されている11).欧米人と日本人での体格差などを考慮すると,本邦において現時点では,実体重が理想体重を大きく下回る患者で長期投与している場合に,投与量を1段階下げること(たとえば,300mg/日を200mg/日に下げるなど)を検討することを考慮する.表2ヒドロキシクロロキン網膜症の発現率著者(報告年)対象症例数平均投与用量(mg/理想体重kg/日)服用期間発現率診断根拠とした検査Mavrikakis(2003)17)前向き526(RA335,SLE191)6.5以下1~6年0(0/526)視力検査,色覚検査,視野検査,眼底検査,網膜電図,フルオレセ6年超イン蛍光眼底造影検査0.5%(2/400)Wolfe(2010)18)後ろ向き3,995(RA3,407,SLE588)4.7±1.6*3(53.6%が6.5mg/kg/日超)平均6.5±6.4年0.65%眼底検査,視野検査Melles(2014)19)*1後ろ向き2,361(RA1,380,LE538,他)網膜症あり6.65年超7.5%(177/2,361)視野検査,SD-OCT*6網膜症なし5.2Lee(2015)20)後ろ向き218(RA61,SLE154,他)網膜症あり(9例)*24.2*4平均9.65年4.1%(9/218)視野検査,SD-OCT,網膜症なし(209例)3.8*5平均8.32年FAF*7*1:Kaplan-Meier法により示されたヒドロキシクロロキン網膜症発現の累積リスク.*2:この9例は379〜1,540gの累積投与(8例が黄斑辺縁部),そのうちの2例は各379g(52カ月),396g(98カ月)の累積投与.*3理想体重に換算.*4,5:用量は実体重kgあたり.*6:スペクトラルドメイン光干渉断層計.*7:眼底自発蛍光.図1クロロキン網膜症の眼底写真57歳,男性.ヒドロキシクロロキン400mg/日5年間およびクロロキン250mg/日4年間併用した,自覚症状はない.典型的なbull’seye(標的黄斑症)とよばれる輪状萎縮を認める.(文献8より引用転載)図2代表症例の経過および諸検査所見(すべて左眼)48歳,白人女性.25年間400mg/日(8mg/kg)内服.上段:自動視野検査(中心10°).2005~2008年は臨床上重要な意義はなしと判断されたが,2009年に鼻側の暗点が出現したため専門医に紹介された.中段左:眼底写真.標的黄斑症は認められない.中段右:多局所網膜電図傍中心窩(点線で囲まれた部分)の振幅低下が認められた.下段左:スペクトラルドメインOCT.傍中心窩に網膜の菲薄化と視細胞外節構造の消失が認められた(⇨).下段右:眼底自発蛍光写真.傍中心窩に過蛍光が認められた(⇨).(文献22から許可を得て引用転載)図3アジア人にみられたヒドロキシクロロキン網膜症の経過および諸検査所見(すべて左眼)42歳,中国人女性(身長157.48cm,体重49kg),8年間4mg/kg/日と2年間2mg/kg/日内服.上段左:Humphrey30-2閾値のグレースケール表示,上段中:Humphrey30-2閾値のパターン偏差表示.傍中心窩の外に部分的な輪状暗点を認めた.上段右:多局所網膜電図.黄斑外20°付近,下耳側に弓状に反応の低下が認められた.下段左:眼底自発蛍光(FAF)写真.下方アーケード近傍に過蛍光(左の⇨)とその外側に網膜色素上皮(RPE)細胞の機能低下を示唆する弓状の低蛍光所見(右の⇨)が認められた.下段右:スペクトラルドメインOCT.上記FAFで認められた過蛍光部位(左の⇨)に一致して限局性に顕著な外顆粒層消失とellipsoidzoneの欠損を,またRPEの途絶の始まりはスキャン範囲の外側端(右の⇨)に認められた.傍中心窩には異常所見は認められない.(文献22から許可を得て引用転載)図4欧州人にみられたヒドロキシクロロキン網膜症の進行性変化左から,眼底写真,スペクトラルドメインOCT(SD-OCT),中心自動視野10-2のパターン偏差,およびグレイスケール表示.a:正常眼.b:初期障害.SD-OCTで耳側に菲薄化(→)と軽度の視野障害を認める.c:中等度の障害.眼底変化や網膜色素上皮(RPE)細胞欠損は認められないがSD-OCT(→)および視野障害は重度化している.d:重篤な網膜症.明瞭なbull’seye様黄斑病巣,SD-OCTでRPE障害,視野検査で輪状暗点を呈している.(文献21から許可を得て引用転載)*KeiShinoda:帝京大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕篠田啓:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学講座0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(55)981982あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(56)(57)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016983984あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(58)(59)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016985986あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(60)(61)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016987988あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(62)