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クロロキンおよびヒドロキシクロロキンによる薬剤毒性

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):981〜988,2016クロロキンおよびヒドロキシクロロキンによる薬剤毒性DrugToxicityofChloroquineandHydroxychloroquine篠田啓*はじめにクロロキン網膜症は,全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythematosus:SLE),皮膚エリテマトーデス(cutaneouslupuserythematosus:CLE),関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)に対する薬剤1~3)であるクロロキン(chloroquine:CQ)の長期投与により両眼黄斑が障害される網膜症として1959年に初めて報告された4).わが国では1962年の症例報告5)が最初である.CQはその後,視覚障害などの副作用が大量に出現したため使用が制限され,以後国内では,海外渡航者が日本でマラリアを発症した場合に治療薬として使われるか,個人輸入で使われる程度であった.このため,クロロキン網膜症はわが国では眼科医であっても経験が少ない.しかし,サノフィ(株)による,世界で初めての臨床試験が日本で行われ,第I相試験から第III相試験を経て,2015年7月にヒドロキシクロロキン硫酸塩(hydroxychloroquinesulfate:HCQ),プラケニル®錠(サノフィ)が,SLE,CLEの適応症で承認を取得したことにより,この網膜症についての知識と経験は今後非常に重要となるものと思われる.本剤はわが国で使用が禁止されていた60年余の期間にも米国をはじめとする諸外国で臨床で使用され,適正使用に関する研究が続けられてきた1~3).ここではおもに米国のガイドラインを参考にしたうえで,アジアも含めた海外データをもとにわが国においてわれわれ眼科医が現在理解しておきたい点を述べる.Iヒドロキシクロロキン網膜症,ヒドロキシクロロキン黄斑症HCQは,CQの代謝産物でCQと同様に抗炎症作用,免疫調節作用,抗マラリア作用,抗腫瘍作用など多岐にわたる作用を有する薬剤である1).もっとも留意すべき副作用である網膜障害6~9)は,CQによる網膜障害よりも頻度は少ないが病態は同じであり,適正使用をしない場合,視機能低下を生じる可能性があり,また投薬を中止しても進行することがある7,10).今後,わが国ではHCQが広く使用されるであろうことから,ここではHCQ網膜症について述べる.HCQ網膜症はおもに黄斑が障害されるため,HCQ黄斑症(HCQmaculopathy)とよばれることもある.HCQの添付文書から,実臨床でのHCQ網膜症にかかわる部分を表1に抜粋した.また,わが国で承認が得られたことに伴い,ごく最近,日本皮膚科学会,日本リウマチ学会(ヒドロキシクロロキン診療ガイドライン日本皮膚科学会・日本リウマチ学会編http://www.ryumachi-jp.com/info/guideline_hcq.pdf)9,11),そして日本眼科学会からのガイドライン12)が提唱されており,そちらもぜひ参照されたい.II発症機序CQ同様,HCQによる毒性の発生機序は不明であるが,ライソゾームの破壊,酵素や代謝機能の障害が関与しているらしい.薬剤はメラニンと結合して網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞や脈絡膜メラニン含有細胞に取り込まれ,投与中止後も長期にとどまっている13,14).多数の動物種で網膜毒性が再現されており,組織学的検査では,網膜の全層にわたる神経細胞の変性,ならびにRPEの萎縮が認められる15).電子顕微鏡下では神経節細胞,視細胞およびRPE細胞に多層構造が認められる16).これらの多層構造体の蓄積は,ライソゾーム阻害や蛋白合成阻害に起因すると考えられる.III発症率用量と網膜障害の発現との関係を検討した海外の報告を表2に示す.IV発症の危険性を高める要因眼障害のリスクを高める要因を表1の「重要な基本的注意」に示した.本剤の添付文書,2011年に米国眼科学会(AmericanAcademyofOphthalmology:AAO)より発行された改訂ガイドライン「RevisedRecommendationsonScreen-ingforChloroquineandHydroxychloroquineRetinopathy11,21)」(AAO2011),および2016年の改訂ガイドライン「RecommendationsonScreeningforChloroquineandHydroxychloroquineRetinopathy(2016Revision)22)」(AAO2016)を比較すると,用量は,添付文書は「6.5mg/理想体重kgあるいは400mgを超えないように用量で規定」,AAO2011では「6.5mg/理想体重kgあるいは400mgを超える」,AAO2016では「5mg/実体重kgを超える」となっている.累積投与量は,添付文書は200g,AAO2011は1,000gとしている.用量に関しては,米国の用量規定の根拠となった論文の母集団の平均実体重は76.9kgで理想体重は57.2kgであった19,22).また,ガイドラインでは「患者のコンプライアンスや体重変化を考慮して」となっており22),処方通りよりは少な目の値と考えられる.これらのことに加えて,米国人と日本人の体格差を考慮すると,わが国では実体重が理想体重を大きく下回る患者で長期投与している場合に,投与量を1段階下げること(例えば300mg/日→200mg/日)を検討することを考慮するのが妥当と考えられる.累積投与量については米国とわが国で隔たりがあるが,米国の1,000gというのは,1錠200mgを毎日2錠ずつ投与して7年間で達する量という意味合いもある.近年の海外の副作用報告(表2の*2など)なども考慮し,わが国の場合は累積投与量200gをリスクと設定することは妥当と考えられる.網膜障害の発現率は投与開始より5~7年で1%を超えるとの報告もあることから,米国では投与開始5年超から年に1回の眼科検査を推奨している.しかし,近年の海外の副作用報告(表2の*2など)なども考慮し,わが国では「少なくとも年に1回,リスクを有する患者はより頻回にこれらの眼科検査を実施する」としていることは妥当と思われる12).また,近年遺伝的背景による網膜症への抵抗性の違いも報告されている23,24).V症状視力低下,色覚異常,視野障害があり,以下に詳しい検査所見を述べる.また,投与初期に霧視,調節障害を呈することがあるが可逆的である.VI診断診断に必要な検査とその所見を以下に述べる.1.視力検査矯正視力は0.7~1.0と比較的良好17,25)であるが,0.1以下と重篤な視力低下を生じることもある10,26).2.細隙灯検査網膜症以外の外眼部前眼部異常をとらえる.①角膜沈着物:CQよりまれであるがHCQでも投与初期に発生することがある.可逆的である.②白内障:本剤の眼毒性としての報告はあるが高齢者での発症頻度が高いため,関連性を確定することがむずかしい.3.眼底検査初期には中心窩反射消失,黄斑部の微細な顯粒状所見や脱色素斑を呈し,進行すると動脈の狭細化,視神経萎縮を生じ,とくにbull’seye(標的黄斑症)とよばれる輪状萎縮が特徴的である(図1)6~9,17).アジア人では黄斑より周辺にも病変部が出現することがあるとされており,広角眼底カメラ撮影が重要となるかもしれない.4.眼底自発蛍光検査(fundusautofluorescence:FAF)黄斑部の病巣に一致した低蛍光あるいは過蛍光により,早期のRPE障害を検出することが可能である(図2)6,7,17,21,22,27).5.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinfundusangiography:FFA)6,17)検眼鏡的にごく微細な早期のRPE障害を検出することが可能であるが侵襲のないFAFやSD-OCTの普及に伴い,重要性は低下している.6.スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD︲OCT)傍中心窩から黄斑辺縁領域にかけて網膜層における局所的な菲薄化をとらえることにより,本剤による網膜障害の検出が可能である.Ellipsoidzone(旧称,innersegment-outersegmentline:IS/OSline)の欠損は傍中心窩障害の早期の所見である可能性がある(図2)6,7,20,21,22,25,27).7.色覚検査仮性同色表(pseudoisochromaticplates),色相配列検査,アノマロスコープ(anomaloscope)などがあるが,簡便性,汎用性の観点から,本疾患の色覚異常の検出には石原式色覚検査表,PanelD-15,SPP2色覚検査表などが推奨される28).8.中心視野検査典型的には傍中心窩領域での輪状暗点として中心10°以内(とくに中心窩から2~6°)で観察されるが(図2)6,7,9,19,21,29),アジア系人種ではより周辺(8°以遠)にも病変部が出現することがあると報告されているので,中心30°までの領域の検査も検討する(図3,4)20,27).9.網膜電図(electroretinogram:ERG)多局所ERG(multifocalERG,mfERG)では本剤使用による早期の網膜障害をERGの低下部位として客観的に記録することが可能である(図2)21,22,25,27).2011年のAAOによるガイドライン改訂の際,mfERG,SD-OCT,FAFなどの他覚的検査が加えられ,その実施が推奨されたことにより,網膜障害の早期発見が可能となった21,27).さらに2016年の改訂22)では,とくに視野検査とSD-OCTの両方を実施することの重要性が強調されている.早期に網膜障害を検出し投薬を中止することにより視機能の低下は回避できるため,定期的な眼科検査が義務付けられている.また近年,アジア人では傍中心窩のみではなくpericentral(黄斑辺縁部)での障害が他の人種に比べて高頻度に認められたとの報告がなされており,中心視野10°のみではなく,その周囲部も含めた検査(たとえば30°以内)の重要性が示されている(図4)20,24,27).VII眼科検査の実施時期本剤による眼障害を早期にとらえるために,主治医と眼科医が連携し,本剤投与開始前および投与中に定期的に眼科検査を実施することが重要である.投与開始時検査は,禁忌対象(SLE網膜症を除く網膜症,黄斑症の既往・合併)に該当しないこと,および投与前の眼の状態を正確に把握しておくことが目的である.投与開始後は少なくとも年1回の頻度で定期的に眼科検査を実施する.本剤による眼障害に対して上述のリスクを有する患者(表1)や,その他,視力障害のある患者,SLE網膜症患者,投与後に眼科検査異常を発現した患者では,年1回よりも頻回に(患者の状態に応じて,例えば半年ごとなど)検査を実施する.VIII治療法治療は投与を中止することである.中止によって改善がみられる場合もある30)ものの,体内からの排出は遅いため投薬を中止しても進行することがある10,26)ので十分な注意が必要である.AAOのガイドラインでは網膜症は非可逆性であり,いかなるRPEの消失も生じる以前に検出すべきであるとしている22).文献1)HahnBH:SystemicLupusErythematosus.In:LongoDL,FauciAS,KasperDLetal:editors.Harrison’sPrinciplesofInternalMedicine(18thed).NewYork:McGraw-HillMedicalPublishingDivi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6kg未満の場合,1日1回1錠(200mg)を経口投与する.2.理想体重が46kg以上62kg未満の場合,1日1回1錠(200mg)と1日1回2錠(400mg)を1日おきに経口投与する.3.理想体重が62kg以上の場合,1日1回2錠(400mg)を経口投与する.【用法及び用量に関連する使用上の注意】(1)本剤投与後の脂肪組織中濃度は低いことから,実体重に基づき本剤を投与した場合,特に肥満患者では過量投与となり,網膜障害等の副作用発現リスクが高まる可能性があるため,実体重ではなく,身長に基づき算出される理想体重(上記参照)に基づき投与量を決定すること.(2)本剤には網膜障害を含む眼障害の発現リスクがあり,1日平均投与量として6.5mg/kg(理想体重)を超えると網膜障害を含む眼障害の発現リスクが高くなることが報告されていることから,用法及び用量を遵守すること.本剤は,脂肪組織への分布が小さいことから,実体重に基づき本剤を投与した場合,特に肥満患者では過量投与となり,網膜障害などの副作用発現リスクが高まる可能性がある.したがって,実体重ではなく身長から算出される理想体重で投与量を決定する必要がある.また,本剤による網膜障害を含む眼障害は,理想体重あたり6.5mg/kgを超えると発現リスクが高くなることが知られているため,それを超えない形での理想体重ごとの投与量が規定されている.最近の欧米での報告では,痩せた患者での長期的な網膜障害のリスクをさらに低減するために実体重1kgあたり5mgでの投与が提言されている11).欧米人と日本人での体格差などを考慮すると,本邦において現時点では,実体重が理想体重を大きく下回る患者で長期投与している場合に,投与量を1段階下げること(たとえば,300mg/日を200mg/日に下げるなど)を検討することを考慮する.表2ヒドロキシクロロキン網膜症の発現率著者(報告年)対象症例数平均投与用量(mg/理想体重kg/日)服用期間発現率診断根拠とした検査Mavrikakis(2003)17)前向き526(RA335,SLE191)6.5以下1~6年0(0/526)視力検査,色覚検査,視野検査,眼底検査,網膜電図,フルオレセ6年超イン蛍光眼底造影検査0.5%(2/400)Wolfe(2010)18)後ろ向き3,995(RA3,407,SLE588)4.7±1.6*3(53.6%が6.5mg/kg/日超)平均6.5±6.4年0.65%眼底検査,視野検査Melles(2014)19)*1後ろ向き2,361(RA1,380,LE538,他)網膜症あり6.65年超7.5%(177/2,361)視野検査,SD-OCT*6網膜症なし5.2Lee(2015)20)後ろ向き218(RA61,SLE154,他)網膜症あり(9例)*24.2*4平均9.65年4.1%(9/218)視野検査,SD-OCT,網膜症なし(209例)3.8*5平均8.32年FAF*7*1:Kaplan-Meier法により示されたヒドロキシクロロキン網膜症発現の累積リスク.*2:この9例は379〜1,540gの累積投与(8例が黄斑辺縁部),そのうちの2例は各379g(52カ月),396g(98カ月)の累積投与.*3理想体重に換算.*4,5:用量は実体重kgあたり.*6:スペクトラルドメイン光干渉断層計.*7:眼底自発蛍光.図1クロロキン網膜症の眼底写真57歳,男性.ヒドロキシクロロキン400mg/日5年間およびクロロキン250mg/日4年間併用した,自覚症状はない.典型的なbull’seye(標的黄斑症)とよばれる輪状萎縮を認める.(文献8より引用転載)図2代表症例の経過および諸検査所見(すべて左眼)48歳,白人女性.25年間400mg/日(8mg/kg)内服.上段:自動視野検査(中心10°).2005~2008年は臨床上重要な意義はなしと判断されたが,2009年に鼻側の暗点が出現したため専門医に紹介された.中段左:眼底写真.標的黄斑症は認められない.中段右:多局所網膜電図傍中心窩(点線で囲まれた部分)の振幅低下が認められた.下段左:スペクトラルドメインOCT.傍中心窩に網膜の菲薄化と視細胞外節構造の消失が認められた(⇨).下段右:眼底自発蛍光写真.傍中心窩に過蛍光が認められた(⇨).(文献22から許可を得て引用転載)図3アジア人にみられたヒドロキシクロロキン網膜症の経過および諸検査所見(すべて左眼)42歳,中国人女性(身長157.48cm,体重49kg),8年間4mg/kg/日と2年間2mg/kg/日内服.上段左:Humphrey30-2閾値のグレースケール表示,上段中:Humphrey30-2閾値のパターン偏差表示.傍中心窩の外に部分的な輪状暗点を認めた.上段右:多局所網膜電図.黄斑外20°付近,下耳側に弓状に反応の低下が認められた.下段左:眼底自発蛍光(FAF)写真.下方アーケード近傍に過蛍光(左の⇨)とその外側に網膜色素上皮(RPE)細胞の機能低下を示唆する弓状の低蛍光所見(右の⇨)が認められた.下段右:スペクトラルドメインOCT.上記FAFで認められた過蛍光部位(左の⇨)に一致して限局性に顕著な外顆粒層消失とellipsoidzoneの欠損を,またRPEの途絶の始まりはスキャン範囲の外側端(右の⇨)に認められた.傍中心窩には異常所見は認められない.(文献22から許可を得て引用転載)図4欧州人にみられたヒドロキシクロロキン網膜症の進行性変化左から,眼底写真,スペクトラルドメインOCT(SD-OCT),中心自動視野10-2のパターン偏差,およびグレイスケール表示.a:正常眼.b:初期障害.SD-OCTで耳側に菲薄化(→)と軽度の視野障害を認める.c:中等度の障害.眼底変化や網膜色素上皮(RPE)細胞欠損は認められないがSD-OCT(→)および視野障害は重度化している.d:重篤な網膜症.明瞭なbull’seye様黄斑病巣,SD-OCTでRPE障害,視野検査で輪状暗点を呈している.(文献21から許可を得て引用転載)*KeiShinoda:帝京大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕篠田啓:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学講座0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(55)981982あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(56)(57)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016983984あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(58)(59)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016985986あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(60)(61)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016987988あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(62)

腫瘍関連網膜症

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):971〜979,2016腫瘍関連網膜症ParaneoplasticRetinopathy上野真治*はじめに悪性腫瘍患者において腫瘍細胞の直接の浸潤や転移などによらず,自己免疫機序の遠隔効果によって中枢神経系に異常を生じるものを腫瘍随伴症候群(paraneoplasticsyndrome)とよぶ.病因としては神経組織に発現している蛋白が腫瘍組織に異所性に発現することにより,腫瘍組織に発現した蛋白と神経組織の蛋白がともに非自己と認識され,自己抗体が発現し攻撃を受けることによると考えられている.腫瘍随伴症候群でもっとも有名なのがLanbert-Eaton症候群で,これは腫瘍中に神経終末に発現するカルシウムイオンチャネルに対し自己抗体が出現することにより神経終末のカルシウムチャンネルが傷害され,筋肉の脱力と易疲労性が生じる.同様の機序で網膜に障害を生じるものは腫瘍関連網膜症(paraneoplasticretinopathy)とよばれる.上皮由来の悪性腫瘍により視細胞を傷害するものは癌関連網膜症(cancerassoicatedretinopathy:CAR)1),また,おもにメラノーマにより双極細胞に対する自己抗体が発現し双極細胞の機能障害を生じるものはメラノーマ関連網膜症(melanomaassociatedretinopathy:MAR)2)とよばれている.メラノーマ患者の数が多くないため,MARはCARに比べてまれな疾患である.それ以外にも,上皮由来以外の悪性腫瘍であるリンパ腫や肉腫などによる視細胞の傷害も腫瘍関連網膜症の一つとして知られている.今回は自己抗体の抗原がみつかり,筆者らのグループがその病態の解明を行っているMARを中心とした双極細胞に対する自己抗体による腫瘍関連網膜症を中心に概説する.I視細胞に対する自己抗体の出現による網膜症(癌関連網膜症,cancerassociatedretinopathy:CAR)はじめに,視細胞に対する自己抗体が発現し,視細胞の細胞死を生じるCARについて説明する.CARの原因となる疾患の中でもっとも多いのは肺癌で,この中でも小細胞癌がもっとも多い,ついで婦人科系の悪性腫瘍,乳癌,消化器癌などがあげられる.癌関連網膜症の患者の血清中に存在する自己抗体の抗原として有名なものにリカバリンがある3).それ以外にもHsp70,エノラーゼなどがある.自己抗体の抗原の種類により病状の進行速度は異なるとされている.これらの蛋白はすべてが視細胞特異的に発現しているわけではないが,なぜこれらの自己抗体が視細胞の特異的な変性を起こすかは詳細には解明されていない.症状は比較的急速に進行する夜盲と視野狭窄である.視野障害は周辺の視野から障害されていき,中心の視野のみが残る求心性の視野狭窄を呈することが多く,網膜色素変性様の視野を呈する.光を眩しく感じる光視症を訴えることも多いとされている.しかしながら初期には視力低下を認めないことが多い.これは視力が網膜の中心窩の機能であり,CARでは初期には障害されないためである.血液中の自己抗体による症状という点から,両眼に発症することが多いが,発症時期に差がみられこともある.癌が診断されてから眼症状が出ることもあるが,眼症状が先行することもある.CARが進行し周辺だけでなく中心の網膜まで障害されると,視力も著しく低下し,場合によっては視力を失うこともある.CAR診断にもっとも有用なものは網膜電図(electroretinogram:ERG)である.ERGは視細胞の障害のため,著しい振幅の減弱がみられる.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)でも網膜外層の異常がみられ診断に有用である.OCTを用いた網膜の観察では,視細胞が障害されるタイプのCARでは,視細胞の変性により視細胞層と外顆粒層が消失する.1.症例1図1にCARの典型的な1例を示す.58歳の男性で2カ月前から急激に進行する夜盲を主訴に受診した.前医では診断がつかなかったが,症状が進行するため不安になり当施設を受診した.視力は両眼矯正1.0と悪化はなかったが,視野検査では求心性の視野狭窄であった.眼底は図1に示すように明らかな異常はみられなかった.OCTでは両眼の網膜外層が菲薄化しており,視細胞の変性所見がみられた.網膜電図でも両眼の著しい振幅の低下がありこれも視細胞の変性を示唆していた.両眼に急速に進行する視細胞変性を認めたため,CARを疑い全身の精査を行ったところ,胸部X線写真にて肺に陰影を認め,内科で精査により肺の小細胞癌と診断された.この患者は診断された時点で進行癌の状態であり,化学療法を行ったが眼科受診後6カ月後に亡くなった.このようにCARは眼症状が初発のことも多く,癌の早期発見のためには眼科での早期の診断が必要である.2.CARの鑑別診断鑑別としては遺伝性疾患である網膜色素変性などがあげられる.網膜色素変性も求心性の視野狭窄を認めるが,進行は緩徐であり,眼底検査では色素沈着や血管の狭細化がみられることにより鑑別される.また,癌がなくても自己免疫機序により視細胞障害が起きる場合を自己免疫網膜症(autoimmuneretinopathy;AIR)とよび,CAR同様の病態を起こすことが知られている.現在日本人は一生の間に約半数の人が癌になるともいわれており,癌を治療した患者も多く,急激な視細胞変性がCARなのかAIRなのかを判別することはむずかしい症例も多くある.また,それ以外に急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)などの眼底所見に異常がみられず急激に視野障害を呈する疾患も鑑別にあげられる.AZOORの場合は求心性の視野をとることは少なく,若年女性に好発することから鑑別されるが,比較的に広範囲に視野障害を認めることもあり,鑑別を要する.II双極細胞に対する自己抗体の出現による網膜症(メラノーマ関連網膜症,melanomaassociatedretinopathy:MAR)双極細胞に対する自己抗体による双極細胞障害はMilamら2)によってメラノーマに付随する腫瘍関連網膜症(melanomaassociatedretinopathy:MAR)として報告された.この疾患は前述のCARとは異なり,とくにメラノーマの患者に多く発症することが知られており,他の癌に伴って発症することはまれとされている.症状はCARと同様に両眼の夜盲と光視症が主である.視力は保たれていることが多く,眼底所見やOCTで異常がみられないため診断がむずかしい.CARの場合とは異なり,OCTでは双極細胞の存在する内顆粒層の変化はとらえにくいため,OCTでは診断はできない.診断は網膜電図によって行われる.通常の網膜電図を記録すると,視細胞の電位が正常で双極細胞の電位が障害されているため,視細胞の電位であるa波は正常だが,双極細胞由来のb波の振幅が減弱し,陰性型ERGとよばれる特殊な波形になる(図2).CAR同様に全身のメラノーマがみつかる前からMARの症状が発症することも多い.MARはCARと異なり進行して失明することはほとんどない.MARがまれな疾患であることに加え,メラノーマ自体が欧米に比べ日本人では頻度が低いことから,日本での報告は限られている.1.MARの患者の自己抗体の抗原として報告されたtransientreceptorpotentialmelastatin1(TRPM1)MARの抗原は最近まで同定されておらず,なぜ双極細胞に対する自己抗体がメラノーマという限られた癌に伴って生じるのか謎であった.双極細胞は大きく2つに分類され,光刺激により脱分極するものをON型双極細胞,過分極するものがOFF型双極細胞とよばれている.最近MARの抗原の1つがtransientreceptorpotentialmelastatin1(TRPM1)という陽イオンチャンネルであることがわかり,病態の解明が進んできた.TRPM1は当初メラノサイトに発現する蛋白として1998年にDuncan4)らによって報告された.その後,このTRPM1が網膜のON型双極細胞の陽イオンチャンネルそのものであることが証明された5,6).さらに双極細胞の機能不全を呈する遺伝性疾患の原因遺伝子の一つであり7),TRPM1がON型双極細胞の機能に必須な蛋白であることがわかってきた.ヒトではTRPM1遺伝子に異常があっても皮膚などのメラノサイトの異常は報告されてないが,この遺伝子変異のあるウマでは夜盲と皮膚の異常があることが報告されている.このようにTRPM1がメラノサイトとON双極細胞に発現することから,MARの原因抗原であることが推察され,筆者らともう一つのグループにより,MAR患者の血清からTRPM1に対する自己抗体が検出されたという報告がなされた8,9).筆者らのグループはWesternblotを行い,患者血清中にTRPM1に対する自己抗体の有無を検討した.欧米人でMARと診断された患者26人中,2人の血清中にTRPM1に対する自己抗体があることを報告した9).IIIメラノーマ以外による双極細胞機能障害筆者らはメラノーマではなく肺の小細胞癌に付随して抗TRPM1抗体を発現し双極細胞の機能障害を引き起こす症例に遭遇した.メラノーマだけでなく未分化な癌はTRPM1を発現する可能性もあり,MAR同様の症状を呈する可能性が示唆された.1.症例2症例は69歳の男性で両眼の急激な夜盲と光視症を主訴に来院.視力は矯正右眼0.9,左眼0.6であった.視野は全体的な感度低下を示していた.眼底所見やOCTでは異常を認めなかった(図2).ERGの検査の結果は図2に示すように陰性型を示し,双極細胞の機能障害を示していた8).所見からMARを疑い全身の検索を行ったがメラノーマは検出されず,精査にて肺に小細胞癌がみつかった.図2に示すようにWesternblotでTRPM1に対する自己抗体の検索にて,この患者血清には抗TRPM1抗体が存在していた9).患者は肺癌の治療を行い3年が経過しているが,再発もなく経過良好である.しかしながら眼所見やERGに変化なく,夜盲は持続したままである.IV抗TRPM1抗体の自己抗体の作用機序腫瘍関連網膜症の作用機序は不明な点が多い.CARにおいてはOCTなどで視細胞層が菲薄化することから,視細胞に対する自己抗体が視細胞を傷害し視細胞の変性を引き起こすと考えられるが,MARにおいては結論が得られていない.MARと診断された患者の剖検眼からは,組織では内顆粒層の変性がみられたという報告と,異常がみられなかったという報告がある.現在のOCTの精度ではON型双極細胞の形態まではみることができないので,ON型双極細胞が変性を起こしているのか,それとも変性は生じていないが機能低下しているのか判定できない.1.患者血清のマウス網膜に対する作用そこで筆者らは,TRPM1に対する自己抗体をもつ患者の血清をマウスの硝子体内に投与し,患者血清中の抗TRPM1抗体のマウス網膜に対する作用機序を検討した10).実験は正常マウスと遺伝子改変TRPM1欠損マウスに,前述した患者もしくは正常者の血清を硝子体内に投与しERGと組織にて評価を行った.マウス硝子体内に血清投与後3時間では,正常者の血清を投与したものでは異常はみられなかったが,患者の血清を投与した正常マウスでは,ERGが患者自身の波形と同様に陰性型となった.これは患者と同じくこのマウスが双極細胞の機能不全を示していると考えられた.また,組織学的検討では,図3の矢印で示されるように患者の血清を投与されたマウスでは5時間後に内顆粒層の視細胞寄りに位置する部位にトルイジンブルー染色で核の濃染が多数みられた(図3b➡).これは透過型電子顕微鏡で確認すると図3hの星印に示されるように核の断片化を認め細胞死が起きていた.このような変化は正常者の血清を投与したマウスや遺伝子改変TRPM1欠損マウスの網膜組織にはみられなかった.ON型双極細胞は内顆粒層のなかでも視細胞寄りに配列していることが知られており,ERGの結果と組織の結果より抗TRPM1抗体は双極細胞の細胞死を引き起こすことが推測された.また,免疫組織染色でも患者の血清を投与したマウスでは,ON型双極細胞のマーカーであるPKCaの染色が血清投与24時間で消失していた(図3k*印).このことは患者の抗TRPM1抗体を含む血清が急激なON型双極細胞の変性を引き起こすことを示していた.患者の血清を投与された正常マウスのERGを経時的に血清投与後3カ月まで記録したが,ERGは陰性型を示したままで回復することはなかった.筆者らはこれらの実験結果から,抗TRPM1抗体をもつMAR患者に網膜双極細胞の変性が起きていると推測している10).2.症例の経過筆者らは日本人のMARを含むON型双極細胞の機能障害を呈した腫瘍関連網膜症患者10人を検討した結果,今までに,MAR患者2名,肺の小細胞癌によるCAR患者2名から抗TRPM1抗体を検出した.癌の治療が奏効し最長4年までの経過を終えている患者も含め,ERGは陰性波形が改善した患者はない.このことは,マウスの実験結果と同様に,抗TRPM1抗体がヒトでもON型双極細胞の変性を起こしために網膜機能が回復しないと筆者は考えている.3.抗TRPM1以外の自己抗体によると考えられたCARの1例MARやON型双極細胞の機能障害を呈したCAR患者のなかで抗TRPM1抗体が陽性にならない患者も多く他の抗原もあると考えられる9).ここで抗TRPM1抗体が陰性で症状が軽快した1例を紹介する.4.症例3症例は71歳の女性で,両眼の急激な夜盲の主訴にて精査目的で来院.視力は矯正両眼1.0であった.視野は全体的な感度低下を示していた.眼底所見,OCT,蛍光眼底造影では夜盲の原因となるような異常を認めなかった(図4).ERGの検査結果は図5に示すように,フラッシュERGで陰性型を示し,国際臨床視覚電気生理学科の示すプロトコールに従ったERGではON型双極細胞の機能障害を示していた11).所見からMARを疑い全身の検索を行ったがメラノーマは検出されず,positronemissiontomography(PET)検査精査にて卵巣癌がみつかった.この患者の血清をWesternblotでTRPM1に対する自己抗体の検索を行ったが陰性であった.患者は卵巣癌の手術加療ならびに抗癌剤治療を受け,癌は寛解した.癌治療後1年程度より夜盲の所見が改善したとの自覚症状があり,ERGを再検査すると左眼のERGはほぼ正常波形に,右眼もrod反応が回復しており,網膜電図は改善していた.この症例のようにMARでも機能が回復したという報告も散見され,TRPM1以外のものが抗原の場合は改善する可能性も考えられた.V腫瘍関連網膜症の治療治療に関しては,悪性腫瘍に対する治療が優先される.腫瘍関連網膜症に関しては,有効な治療法は確立されていない.視細胞や双極細胞は神経であり,現在のところそれらの細胞を再生させる治療はできない.過去の報告では,腫瘍の摘出によって症状が軽快したという報告,免疫抑制薬,免疫グロブリンの投与やステロイドの全身投与の効果があったという報告などあるが12),決定的な治療法がないのが現実である.逆に悪性腫瘍にステロイドなどを使うと腫瘍に対する免疫がなくなり生命予後が悪くなるという報告もあり,判断に迷うところである.いずれにしろ原因となる悪性腫瘍の治療が必要であり,眼科における早期の診断が重要である.おわりに腫瘍関連網膜症はまれな疾患であるが,悪性腫瘍が背景にあることから眼科医による適切な診断が重要である.また,同時に悪性腫瘍を治療している医師は,患者が光視症や夜盲などの眼症状を訴える場合,腫瘍関連網膜症を念頭に入れる必要がある.とくにON型双極細胞の機能障害をきたす腫瘍関連網膜症の場合は,OCTでは異常をとらえられず,ERGで異常をとらえることができる.夜盲を訴える患者をみた場合には,ぜひERGを記録していただきたい.また,ON型双極細胞の機能障害をきたす腫瘍関連網膜症はメラノーマに特異的に発症すると考えられていたが,筆者らの検討では肺の小細胞癌や卵巣癌でも生じることがわかり,メラノーマが少ない日本にもこのような病態を呈する患者がそれなりにいるのではと考えられる.現在抗TRPM1抗体を検索する方法は商業ベースでは行ってないので,研究を行っている施設で調べてもらうしかないのが現状である.本稿を終えるにあたり,今後このような疾患の病態が一層解明され,有効な治療法が開発されることを願う.文献1)SawyerRA,SelhorstJB,ZimmermanLEetal:Blindnesscausedbyphotoreceptordegenerationasaremoteeffectofcancer.AmJOphthalmol81:606-613,19762)MilamAH,SaariJC,JacobsonSGetal:Autoantibodiesagainstretinalbipolarcellsincutaneousmelanoma-associatedretinopathy.InvestOphthalmolVisSci34:91-100,19933)PolansAS,BuczyłkoJ,CrabbJetal:Aphotoreceptorcalciumbindingproteinisrecognizedbyautoantibodiesobtainedfrompatientswithcancer-associatedretinopathy.JCellBiolog112:981-989,19914)DuncanLM,DeedsJ,HunterJetal:Down-regulationofthenovelgenemelastatincorrelateswithpotentialformelanomametastasis.CancerRes58:1515-1520,19985)MorgansCW,ZhangJ,JeffreyBGetal:TRPM1isrequiredforthedepolarizinglightresponseinretinalONbipolarcells.ProcNatlAcadSciUSA106:19174-19178,20096)KoikeC,ObaraT,UriuYetal:TRPM1isacomponentoftheretinalONbipolarcelltransductionchannelinthemGluR6cascade.ProcNatlAcadSciUSA107:332-337,20107)NakamuraM,SanukiR,Yasumaetal:TRPM1mutationsareassociatedwiththecompleteformofcongenitalstationarynightblindness.MolVis16:425-437,20108)DhingraA,FinaME,NeinsteinAetal:Autoantibodiesinmelanoma-associatedretinopathytargetTRPM1cationchannelsofretinalONbipolarcells.JNeurosci31:3962-3967,20119)KondoM,SanukiR,UenoSetal:IdentificationofautoantibodiesagainstTRPM1inpatientswithparaneoplasticretinopathyassociatedwithONbipolarcelldysfunction.PLoSOnee19911:e19116,201110)UenoS,NishiguchiKM,Taniokaetal:DegenerationofretinalONbipolarcellsinducedbyserumincludingautoantibodyagainstTRPM1inmousemodelofparaneoplasticretinopathy.PLoSOne25:e81507,201311)UenoS,NakanishiA,NishiKetal:CaseofparaneoplasticretinopathywithretinalON-bipolarcelldysfunctionandsubsequentresolutionofERGs.DocOphthalmol130:71-76,201512)KeltnerJL,ThirkillCE,YipPT:Clinicalandimmunologiccharacteristicsofmelanoma-associatedretinopathysyndrome:Elevennewcasesandareviewof51previouslypublishedcases.JNeuroOphthalmol21:173-187,2001図1癌関連網膜症の1例a:眼底に明らかな異常はみられない.b:光干渉断層計(OCT)にて周辺部の網膜外層が正常者に比べて菲薄化している(⇨).c:暗順応下のフラッシュERG.右は消失し左は著しい振幅の低下を認める.d:患者の胸部X線写真にて肺癌による異常陰影がみられる.図2Transientreceptorpotentialmelastatin1(TRPM1)に対する自己抗体が検出された肺癌患者の眼底,ERG,Westernblotでの抗TRPM1抗体の確認a:眼底には異常はない.b:ERGは陰性波の後の陽性波が小さい特殊な波形となる.➡は光刺激のタイミング.c:患者血清では200kDa付近にバンドが検出されるが,正常者の血清ではみられない.TRPM1についているflagに対する抗体を用いると200kDa付近にバンドが検出され.これにより検出されたバンドがTRPM1であることがわかる.(文献9より改変引用)正常者血清投与眼(野生型マウス)患者血清投与眼(野生型マウス)患者血清投与眼(TRPM1欠損マウス)図3抗TRPM1抗体を含む血清をマウス硝子体に投与後のマウス網膜の組織像a,d,g:野生型マウス硝子体内にコントロール血清を投与.b,e,g,j,k:野生型マウス硝子体内に抗TRPM1抗体を含む患者血清を投与.c,f,i:遺伝子改変TRPM1欠損マウスの硝子体内に抗TRPM1抗体を含む患者血清を投与.a~c:トルイジンブルーによる染色.d~i:電子顕微鏡像.j,k:抗PKCa抗体による免疫組織染色.k以外は血清投与5時間後の組織像.k:血清投与後24時間の組織像.b:➡に示すように内顆粒層にトルイジンブルーで濃染する核がみられる.e,h:患者血清を投与した網膜の内顆粒層を電子顕微鏡で確認すると核の断片化が起こり,bでみられた核の濃染はアポトーシスであることがわかる(*).k:患者血清投与24時間後に,わずかに周辺部に染色(⇨)がみられるだけで,他の部位では染色が消えており(*),ON型双極細胞が消失していることがわかる.正常者の血清を投与したマウス,ならびに抗TRPM1抗体陽性の血清を投与したTRPM1欠損遺伝子改変マウスでは,内顆粒層にアポトーシスはみられない.(文献10より)図4TRPM1に対する自己抗体が陰性の卵巣癌患者の左眼の眼底写真,蛍光眼底造影,OCT,PET検査の結果眼底,蛍光眼底造影,OCTで夜盲の原因となるような異常はみられず,PETにて腹部に異常がみられた(➡).(文献12を改変引用)図5TRPM1に対する自己抗体が陰性の卵巣癌患者のERG国際臨床視覚電気生理学会のプロトコールに従った全視野ERGでは,治療直後の段階である2011年10月では両眼ともrodの反応がなく,brightflashではb波がa波より小さい陰性型を示していた.癌の治療を行い,夜盲の症状が改善した後の2013年5月のERGでは,左眼はほぼ正常まで回復しており,右眼のrodの反応がみられ,ON型双極細胞の機能が改善していることがわかる.*ShinjiUeno:名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学〔別刷請求先〕上野真治:〒466-8550名古屋市昭和区鶴舞町65名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(45)971972あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(46)(47)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016973974あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(48)(49)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016975976あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(50)(51)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016977978あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(52)(53)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016979

AIDS

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):963〜969,2016AIDSAcquiredImmunodeficiencySyndrome山本裕香*八代成子*はじめに1983年に後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS)の原因がヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeficiencyvirus:HIV)感染症であると判明してからすでに30年以上が経過しており,当時死のウイルスと謳われた衝撃的なマスコミ報道を知らない若手医師が少なくない時代に突入した.HIVはレトロウイルス科レンチウイルス属に属する一本鎖RNAウイルスで,逆転写酵素をもち,二本鎖DNAに変換され宿主のなかで増殖する.HIVがCD4陽性Tリンパ球に感染すると,細胞性免疫が低下することによりさまざまな病気を引き起こされる.HIV感染症は,わが国では第5類感染症に指定されている疾患である.AIDSはHIV陽性が判明しただけでは診断には至らず,持続感染により細胞性免疫が高度に障害された状態をさす.わが国では,HIV感染者が「サーベイランスのためのエイズ指標疾患」(表1)のいずれかを発症することをAIDS発症と定義している1).本稿ではHIV感染症に合併した眼病変における概要について,診断のポイントを中心に概説する.IHIV感染症に関連する眼疾患HIV感染による細胞性免疫の低下が発症に関与する日和見眼感染症の代表として,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎があることはよく知られているが,これ以外にも実に多くの眼疾患を合併することはあまり知られていない(表1).HIV感染症で興味深い点は,これらの疾患の発症や悪化は,宿主の細胞性免疫と深く関連していることである.細胞性免疫能はCD4陽性Tリンパ球数が指標となり,正常値は700~1,000/μlとされているなか,CD4陽性Tリンパ球数が200/μl未満になると多くの日和見感染症を発症する.逆に合併した眼感染症から,患者の免疫状態を推測することもできる.主たる網脈絡膜疾患と免疫能の指標であるCD4陽性Tリンパ球数との経時的な関係を図1に示す.以下,代表的な眼疾患について説明する.1.HIV網膜症HIV感染による細胞性免疫の低下が発症に関与する日和見眼感染症が存在することは理解できる.ではHIVが直接関与する眼病変はどのような疾患があるのかと問われると,多くの眼科医は回答に困るのが現状であろう.実はHIVに対する抗原抗体反応による微小循環障害により,網膜に点状出血や綿花様白斑を生じるHIV網膜症が最多の病変なのである(図2).発症率は報告により25~92%と差があるが2),傍中心窩に病変が存在しない限り自覚症状はなく,CD4陽性Tリンパ球数が高値であっても発症するため,健康診断などで発見され,糖尿病や高血圧,膠原病の精査を勧められるケースもある.若年男性の両眼に後極部を中心に軟性白斑が多発していた場合には,HIV感染症も鑑別の一つとしてあげていただきたい.数カ月以内に消失・再燃を繰り返し,HIV治療の基本である多剤併用療法によりウイルス量が減少すると眼所見は消退する.2.CMV網膜炎ヒトヘルペスウイルス(humanherpesvirus:HHV)5,一般名CMVは二本鎖DNAをもつヘルペスウイルス科最大のウイルスで,病理組織像ではウイルスが感染した細胞に“フクロウの眼”に類似した巨細胞封入体を連想する眼科医も多いのではないかと思う.近年ではCMV角膜内皮炎やPosner-Schlossman症候群の原因ウイルスとして健常者における感染が話題となったが3),本来は日和見感染をきたすウイルスとして広く知られており,代表的なエイズ指標疾患に含まれるウイルス感染症である.わが国においてCMV網膜炎の診断基準は明確に示されていない.PCR(polymerasechainreaction)検査の普及に伴い,ルーチン検査のごとく前房水や硝子体液を採取しreal-timePCR法でCMVゲノムを病理組織学的に証明する傾向にあるが,網膜全層の浮腫と壊死を主体とする網膜病変は,一度経験すれば忘れられないほど特徴的な眼所見のため(図3)4),臨床的な診断が十分に可能な疾患である.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて病巣部を観察すると,網膜全層は浮腫と同時に早期より壊死をきたしており(図4),診断の助けになる.米国ではAIDSClinicalTrialsGoup(ACTG)criteriaにおけるCMV網膜炎の診断基準(表2)が示されているが5),眼局所におけるPCR検査結果は項目に含まれていない.急性網膜壊死との鑑別診断に苦慮する場合などを除き,不必要な検査は患者の負担や医療経済を考える面でも避けるべきであろう.治療はガンシクロビルの点滴静注が第一選択となり,病巣の発症部位や大きさ,副作用の有無に応じてバルガンシクロビル経口投与やホスカルネットの点滴静注,ガンシクロビルまたはホスカルネットの硝子体内注射を単独あるいは併用する.裂孔原性網膜剝離を合併した場合は,外科的治療の適応となる.病巣の大きさや剝離の程度に応じて,硝子体切除術,眼内光凝固術,輪状締結術,長期滞留ガスまたはシリコーンオイル注入を組み合わせる.適切な時期に治療が施行されれば予後も急性網膜壊死ほど悪くない.3.免疫回復ぶどう膜炎かつては不治の病とされていたAIDSだが,90年代後半になると非核酸系逆転写阻害薬,プロテアーゼ阻害薬,インテグラーゼ阻害薬などを用いたHIVに対する多剤併用療法が出現し,患者の生命予後は劇的に改善した.そして,これら治療薬の出現により,HIV感染症に合併する日和見感染症のコントロールも容易になった.CMV網膜炎も例にもれず,抗CMV療法を中断するとCMV網膜炎の再発を繰り返していた患者が,多剤併用療法後にCD4陽性Tリンパ球数が増加すると,自己の免疫力によりCMVを鎮静化させることが可能となり,抗CMV療法中断後にも再発をきたすことなく網膜病変を鎮静化することができるようになった.まさに夢の治療と誰もが思った矢先に,鎮静化したCMV網膜炎既存眼に,多剤併用療法導入後数日~数カ月以内に硝子体炎が生じることが判明した6).発症機序は未だ解明されていないが,多剤併用療法によりCMV特異的T細胞の反応が回復すると,すでに鎮静化したCMV網膜炎病巣辺縁の細胞内でわずかに複製される残存CMV抗原が,免疫反応によりぶどう膜炎を顕在化させるとの説が有力である.たとえていえばウイルスと闘う力をもたずただただ侵略されていた網膜が,多剤併用療法という糧を得て闘う力を回復したがために炎症という戦争状態に陥った状態といえよう.後に黄斑浮腫や白内障を代表とする続発病変も含めて免疫回復ぶどう膜炎(immunerecoveryuveitis:IRU)とよばれるようになった.未治療で自然寛解するものから重篤な視力低下をきたすものまで,さまざまな重症度の病変が存在する.治療はわずかに残存する病原体に対する抗CMV療法が主体となり,必要に応じて多剤併用療法の一時中断やステロイド薬による免疫反応の抑制が主体となるが,基本的にはCMV網膜炎の治癒過程における好ましくない炎症反応である.眼科領域以外でも多剤併用療法導入後に既存の日和見感染症の悪化や新たな病変の出現などが出現し,免疫再構築症候群(immunereconstitutioninflammatorysyndrome:IRIS)とよばれるようになった.便宜上,多剤併用療法後に新たなCMV網膜炎がみられた場合にはIRISとよんでいるが,ウイルスが存在していたにもかかわらず検眼鏡的に病変が発見されなかったと考えれば,両者は同じ病態と考えられる.近年ではHIV感染患者以外におけるIRUの報告も散見される7).4.進行性網膜外層壊死1990年にFosterらはAIDS患者において急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)に類似するものの,ARNにみられる網膜出血や血管炎や前眼部および硝子体混濁といった炎症所見を伴うことなく,きわめて急速に網膜壊死が後極に向かって進行する予後不良な疾患を発見し,進行性網膜外層壊死(progressiveouterretinalnecrosis:PORN)と名付けた8).ARNと同様に起因ウイルスは水痘・帯状疱疹ウイルスおよび単純ヘルペスウイルスだが,免疫不全患者ではマクロファージを除き炎症細胞はほとんど惹起されないため,前房内や硝子体,網膜内層で炎症反応を生じることなく,ウイルスによる直接的な障害により網膜外層から急激に壊死が進行する(図5).起因ウイルスが同じでも,宿主の免疫能の違いにより臨床像に違いが出る点は非常に興味深い.しかし,実際の臨床の場において,明確にARNとPORNを分類することは困難で,両者の中間に位置する病変も多く存在する.帯状疱疹はエイズ指標疾患に含まれていないが,AIDS患者では健常者の15倍と高い頻度で合併する.PORNの多くは帯状疱疹が先行していることが多いため,帯状疱疹の既往歴があるAIDS患者では,常にPORNを念頭におく必要がある.ARNの治療はアシクロビルが第一選択となるが,帯状疱疹が先行したPORNでは,アシクロビルの長期投与により耐性が生じている可能性が高いため,CMV網膜炎に準じた治療を選択する.5.梅毒性ぶどう膜炎スピロヘータ属の一つであるTreponemapallidumの感染による全身性の感染症で,胎盤感染により生じる先天梅毒を除き,古くから知られている性感染症の代表的疾患の一つである.わが国では第5類感染症に指定されており,1987年をピークに感染者数は減少していたが,2010年以降とくに都市部のHIV非感染患者,とくに女性において急激な増加傾向がみられ,2016年の感染症派生動向調査週報でも「注目すべき感染症」として梅毒を取り上げている.世界的にも感染者数が増加しており,古くて新しい性感染症として認識せねばならない疾患である.エイズ指標疾患ではないがHIVとの混合感染も多く,合併すると重症化することが多いとされている.梅毒性ぶどう膜炎は多彩な眼所見を呈し,CMV網膜炎のように眼底検査を行えば臨床診断ができるといった類の疾患ではないが,虹彩炎,硝子体混濁,散在性網脈絡膜炎,網膜血管炎,視神経炎などがみられることが多い.とくに網膜動脈炎をきたす疾患はまれなため,血管炎のなかでも動脈炎がみられる場合には梅毒を疑う必要がある.予後は比較的良好だが,診断が遅れると視力予後に影響を与えるため9),早期診断が望まれる.診断は梅毒血清反応が必須となる.ぶどう膜炎以外にも眼科領域では,梅毒第I期には眼瞼・結膜の硬結,第II期には結膜炎や虹彩炎,第III期には眼瞼ゴム腫やArgyllRobertson瞳孔がみられる.皮疹は特徴的で,ばら疹や丘疹性梅毒疹,梅毒性乾癬などが第II期以降に出現する.腹部の診察は眼科医にとっても患者にとっても抵抗があるが,手指の診察は容易である.軽度の虹彩炎であっても手指に皮疹がみられた場合は,梅毒を疑い結膜充血や瞳孔異常の有無を確認し精査を行うべきである.治療は海外ではペニシリンGの筋注単回投与が一般的であるが,わが国では経口合成ペニシリン剤が用いられ,先天梅毒や神経梅毒を合併した場合にはベンジルペニシリンカリウムもしくはセフトリアキソン点滴静注が行われている.梅毒性ぶどう膜炎の治療にも,わが国では経口合成ペニシリン剤が用いられることが多いが,眼梅毒の多くは神経梅毒を合併しているため,米国疾病予防管理センター(CenterforDiseaseControlandPrevention:CDC)の提唱するガイドラインでは神経梅毒に準じた治療を奨励している10).6.伝染性軟属腫伝染性軟属腫はポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルス(molluscumcontagiosumvirus)による感染症で,わが国では4型に分類される.いわゆる“水いぼ”とよばれるウイルス性皮膚疾患で,一般には幼児期から学童期の子供やアトピー性皮膚炎患者にみられる疾患だが,性感染症として陰部に発症することもある.HIV感染者の1~2割に合併し,CD4陽性Tリンパ球数が100/μl未満で多く発症する.健常者ではおもに四肢に発症し自然治癒があるのに対し,HIV感染患者の場合は難治性で顔面に多発することが特徴で,ときに巨大化または疣贅化し,尋常性疣贅との鑑別が困難になることもある.眼瞼部に多発することも多いため,日常診療で眼瞼を含む顔面に多発する“水いぼ”を診たときには,HIV感染症を疑い精査を勧めることも重要である.7.カポジ肉腫AIDSといえば痩せた体に多くの腫瘤を合併しているイメージがあるのではないだろうか?カポジ肉腫はAIDS患者の5~10%に合併し,エイズ指標疾患にあげられる重要な疾患の一つである.病因はヒトヘルペスウイルス8(humanherpesvirus8:HHV-8),一般名カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(Kaposi’ssarcomaassociatedherpesvirus)感染により生じる感染症の一つで,皮膚や口腔内粘膜,消化管などを中心に血管内皮細胞由来の腫瘍を形成する.健常者の1%はHHV-8陽性である.通常の免疫状態では発症しないが,CD4陽性Tリンパ球数が200/μl以下になると発症する.わが国でみられるカポジ肉腫のほとんどは男性間性的接触により感染するAIDS関連カポジ肉腫で,まれに臓器移植の際の免疫抑制薬使用中に発症する医原性カポジ肉腫も存在する.眼科領域ではまれに眼瞼や結膜に暗赤色隆起性病変を生じる.眼瞼に発症すると眼瞼皮下出血や霰粒腫に類似した形を呈する.結膜のカポジ肉腫は下眼瞼結膜円蓋部に好発するため,眼瞼を反転してはじめてわかることもある(図6).初期にはアレルギー性結膜炎や結膜下出血,拡大すると血管腫と誤診されることも多い.初診時にこれらをカポジ肉腫と診断することはまず不可能に近いが,所見が治療に抵抗し,経過とともに改善しない場合は,鑑別疾患としてカポジ肉腫を頭に浮かべてほしい.鼻尖部や口腔内にも病変が同時にみられることが多いため,診断に迷った場合は口腔内を診察させていただくことにより,疑いが確信に変わるかもしれない.治療はドキソルビシンのプロドラッグであるリポソーマルドキソルビシンが著効するが,CMV網膜炎と同様に,HIVに対する多剤併用療法による免疫能の改善だけで,軽い病変は消退することもある.8.その他の疾患トキソプラズマなどの原虫や,ニューモシスチスカリニ,クリプトコッカスなど真菌症はエイズ指標疾患に含まれるものの,眼合併症はわが国においてはまれなうえ,先進国においても多剤併用療法出現後の発症率は著明に低下した.一方,わが国における結核の有病率は他の先進国と比べ高く,HIVのウイルス量増加ともに加速度的に増加するため,粟粒結核合併例ではとくに結核性ぶどう膜炎の発症に注意を要する.また,結核はIRISを発症しやすい疾患の一つであるため,多剤併用療法導入後は注意深い経過観察が必要である.結核や非結核性抗酸菌症の治療薬であるリファブチンは薬剤性ぶどう膜炎をきたすことがあるため,使用にあたっては眼科医との連携が重要なことを内科医も認識する必要がある.非ホジキンリンパ腫はエイズ指標疾患に含まれ,HIV感染患者における発症頻度は健常者の60~200倍と高頻度に発症する.段階では非感染性の腫瘍性疾患に分類されるが,EBウイルス(Epstein-Barrvirus)が関与しているという説もある.眼内悪性リンパ腫はぶどう膜炎に類似した所見(仮面症候群)を合併するため,免疫能の低下したHIV感染患者におけるぶどう膜炎では,鑑別疾患として念頭に置かねばならない.おわりに2014年末現在,世界のHIV陽性者数は3,690万人に達した.一方,わが国におけるHIV陽性患者数は2万人を超えた程度で,世界のHIV陽性者数と比較するとごく少数である.しかし,新規HIV感染者数は世界的には年間200万人と2000年と比べ35%も減少しているにもかかわらず,わが国では1,091人と,未だ過去3位の患者数を計上している.多くの先進国で新規HIV感染者数が著明に減少するなか,啓発活動にもかかわらずわが国では未だ横ばいに甘んじていることは大変遺憾である.わが国では2000年代に入り多剤併用療法(antiretroviraltherapy:ART)が治療の標準となると,生命予後が劇的に改善したことにより,慢性感染症としての問題点も浮上してきた.患者の高齢化による白内障の増加や,多剤併用療法の副作用である高血糖やリポジストロフィーによる糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症など,従来の日和見感染症とは異なる,ごく一般的な眼合併症の増加が懸念される.検診などを介して一般眼科医がHIV感染症を発見する機会も増加すると思われる.HIV関連眼疾患が実は身近な疾患となりつつある現状を,十分に認識する必要がある.文献1)厚生労働省エイズ動向委員会:サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準.平成26年エイズ発生動向年報.20072)WhitcupSM:Acquireimmunodeficiencysyndrome.In:NussenblattRB,WhitcupSM:Uveitis-fundamentalsandclinicalpractice.3rdedition,p185-200,Mosby,Philadelphia,20043)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovirusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendothelitis.AmJOphthalmol141:564-565,20064)八代成子:サイトメガロウイルス網膜炎.薄井紀夫,後藤浩編,眼感染症診療マニュアル.p278-285,医学書院,東京,20145)WohlDA,KendallMA,AndersenJetal:LowrateofCMVend-organdiseaseinHIV-infectedpatientsdespitelowCD4+cellcountsandCMVviremia:resultsofACTGprotocolA5030.HIVClinTrials10:143-152,20096)KaravellasMP,LowderCY,MacdonaldJCetal:Immunerecoveryvitritisassociatedwithinactivecytomegalovirusretinitis:Anewsyndrome.ArchOphthalmol116:169-175,19987)MiserocchiE,ModoratiG,BrancatoR:Immunerecoveryuveitisinaniatrogenicallyimmunosuppressedpatient.EurJOphthalmol15:510-512,20058)ForsterDJ,DugelPU,FrangiehGTetal:Rapidlyprogressiveouterretinalnecrosisintheacquiredimmunodeficiencysyndrome.AmJOphthalmol110:341-348,19909)TsuboiM,NishijimaT,YashiroSetal:PrognosisofocularsyphilisinpatientsinfectedwithHIVintheantiretroviraltherapyera.SexTransmInfect2016Apr4.〔Epubaheadofprint〕10)WorkowskiKA,BolanGA:Sexuallytransmitteddiseasestreatmentguidelines,2015.MMWRRecommRep64:1-137,2016表1エイズ指標疾患およびHIV感染症に関連する眼疾患エイズ指標疾患HIV感染症に関連する眼疾患エイズ指標疾患に関連する眼疾患その他の眼疾患A.真菌症1.カンジダ症(食道・気管・気管支・肺)2.クリプトコッカス症(肺以外)3.コクシジオイデス症4.ヒストプラズマ症5.ニューモシスチス肺炎・カンジダ性眼内炎・クリプトコッカス網脈絡膜炎・ヒストプラズマ性網脈絡膜炎・ニューモシスチス脈絡膜症B.原虫症6.トキソプラズマ脳症7.クリプトスポリジウム症8.イソスポラ症・トキソプラズマ網脈絡膜炎C.細菌感染症9.化膿性細菌感染症10.サルモネラ菌血症11.活動性肺結核12.非結核性抗酸菌症・結核性ぶどう膜炎・非結核性抗酸菌症による網脈絡膜炎・梅毒性ぶどう膜炎・強膜炎D.ウイルス感染症13.サイトメガロウイルス感染症14.単純ヘルペスウイルス感染症15.進行性巣性白質脳症・サイトメガロウイルス網膜炎・角膜ヘルペス・進行性巣性白質脳症(視野異常)・免疫回復ぶどう膜炎・進行性網膜外層壊死/急性網膜壊死/眼部帯状疱疹・眼瞼伝染性軟属腫E.腫瘍16.カポジ肉腫17.原発性脳リンパ腫18.非ホジキンリンパ腫19.浸潤性子宮頸癌・眼瞼・結膜カポジ肉腫・眼内悪性リンパ腫F.その他20.反復性肺炎21.リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成22.HIV脳症23.HIV消耗性症候群・HIV網膜症・HIV関連視神経炎・薬剤性ぶどう膜炎(シドフォビル・リファブチン)CD4陽性Tリンパ球数(/μml)仮面症候群(悪性リンパ腫)進行性網膜外層壊死感染後経過時間急性網膜壊死50020050図1HIV感染に伴う代表的な網脈絡膜疾患HIV感染後の時間経過によるCD4陽性Tリンパ球数の減少と発症する網脈絡膜疾患との関係.図2HIV網膜症後極部を中心に軟性白斑が多発している.図3急性期のCMV網膜炎(後極部血管炎型)網膜出血と浮腫を伴う黄色滲出斑を形成しており,樹氷状血管炎を伴う.(文献4より引用)図4急性期のCMV網膜炎(OCT画像)網膜全層は浮腫と同時に壊死をきたしはじめ,炎症細胞が硝子体内に多数みられる.表2ACTGcriteriaにおけるCMV網膜炎の診断【ConfirmedCMVretinitis】①白斑または灰白色の網膜壊死を含む典型的な病巣が存在する.出血の有無は問わない.②病巣部には不規則な固い顆粒状ボーダーが存在する.③硝子体の炎症はないか,あっても軽度.④経験豊富な眼科医による間接鏡を用いた眼底検査がなされている.⑤別の眼科医による眼底写真の読影がなされている.【ProbableCMVretinitis】⑤を除き①から④を満たすもの.図5進行性網膜外層壊死(PORN)網膜出血や硝子体混濁などを伴わずに白色病変が急速に後極に向かって進展している.図6下眼瞼に発症した結膜カポジ肉腫結膜円蓋部に暗赤色隆起性病変がみられる.*YuukaYamamoto&*ShigekoYashiro:国立国際医療研究センター病院眼科〔別刷請求先〕八代成子:〒162-0052東京都新宿区戸山1-21-1国立国際医療研究センター病院眼科0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(37)963964あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(38)(39)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016965966あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(40)(41)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016967968あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(42)(43)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016969

結核

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):957〜961,2016結核Tuberculosis高瀬博*はじめにわが国は,世界的には依然として結核の中蔓延国である.結核はおもには肺に,しかし全身的にも多くの病変を生じ,それは眼も例外ではない.わが国において2009年に全国の大学病院を対象に行われたぶどう膜炎原因疾患の疫学調査によると,結核性ぶどう膜炎はぶどう膜炎の1.4%と,現在においても高い頻度を示している1).そのため,眼科領域においても結核の診断と治療に関する適切な知識のアップデートが要求される.本稿では,結核に関する現在の動向と,結核性ぶどう膜炎の診断と治療について述べる.I結核の最近の疫学結核は,結核菌(Mycobacteriumtuberculosis)を原因とする感染症であり,感染症としてはヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeficiencyvirus:HIV)感染症についで世界で2番目に多い死因となる疾患である.病理学的には壊死性の類上皮細胞肉芽腫の形成を特徴とする.結核菌はおもに空気感染で伝播し,多くの場合で肺に不顕性感染を生じ潜在性感染者となるが,最終的にその約10%が活性化状態を生じるとされる.2012年のWHOの報告では,活動性結核の新規患者数は全世界で860万人,そのうち110万人がHIV感染を合併しており,また多剤耐性結核が45万人含まれている2).一方,わが国の統計では2012年の結核新登録患者数は21,283人,罹患率は16.7%,死亡率は1.7%となっており,未だ重大な感染症である.無治療の場合の結核感染症の死亡率は高く,HIV陰性で喀痰塗抹検査陽性の肺結核患者の約70%が,また塗抹検査は陰性だが培養検査で陽性となった患者の約20%が,10年以内に死亡する.結核の新規患者の3.6%および既存患者の20.2%が多剤耐性菌に罹患していると推定されており,とくに東欧と中央アジアで多くの割合を占めている3).II結核の全身的な病態結核は,一般的に感染から半年~2年の潜伏期間を経て発症する.全身症状としては咳嗽,疲労感,微熱,発汗,体重減少,胸痛,喀血などがあげられるが,とくに2週間以上続く咳,および咳と他の症状の組み合わせには注意が必要とされる4).結核の約7%は,肺以外の全身のさまざまな臓器にも生じ,これらは肺外結核とよばれる.肺外結核でもっとも頻度の高い臓器はリンパ節であり,ほかに腎臓,咽頭,腸,眼,皮膚,脳脊髄膜などに生じる.結核性髄膜炎は重篤な後遺症を生じ,現在でもその致死率は高い.III結核の診断法の変遷結核の診断は,胸部X線・胸部CT検査を用いた画像検査,喀痰などの体液を用いた塗抹検査,抗酸菌培養などによる結核菌の検出がある.これに加え,現在すでにポリメラーゼ鎖反応(poly-merasechainreaction:PCR)による結核菌特異的遺伝子の検出が臨床応用されている.眼科領域においても,とくにインドなどの高蔓延国で,前房水などの眼内液に対して結核菌特異的な複数の遺伝子領域(IS6100,MPB64,ProteinantigenBなど)を標的としたPCRが一般化しており,高い感度と特異度が報告されている5,6).しかし,わが国においては結核性ぶどう膜炎患者の眼内液を用いたPCR陽性例の報告はごくまれであり7),高蔓延国とわが国における結核性ぶどう膜炎の病態には,一定の差異が存在するものと考えられる.多剤耐性結核の存在は近年大きな問題となっているが,薬剤耐性の有無の判定には,培養検査では結核菌の成育の遅さから数日から数週間を要してしまう.これを迅速に診断するために,PCRの原理を応用したラインプローブアッセイとよばれる分子学的検査キットが開発され,多剤耐性結核菌に生じている遺伝子変異の検出に用いられている.これは,遺伝子の抽出,増幅,ハイブリダイゼーションなどをストリップ上に固相化したキットとして販売されており,それぞれ95%前後の感度と99%程度の特異度が報告されている3).わが国においては,リファンピシン耐性遺伝子群の同定キット(ジェスノカラー・RifTB®)が,喀痰や抗酸菌用培地で培養された菌株を検体とした体外診断用医薬品として用いられている8).結核菌への感染を免疫学的に確認する方法としては,古くよりツベルクリン反応(ツ反)が用いられる.結核菌は,その感染当初は自然免疫系を刺激し,非特異的な全身的感染症状を呈するが,数週間以内には獲得免疫系が活性化し,おもにT細胞が結核菌の排除に働くこととなる.そのため,ツ反により結核菌に特異的な獲得免疫の有無を調べることが,結核感染の有無を調べる手段となる.ツ反は精製蛋白を皮下に注射し,その48時間後に判定を行う.発赤径が10mm以上で陽性と判定され,わが国では発赤径が9mm以下を陰性,10mm以上を弱陽性,10mm以上に硬結を伴うものを中等度陽性,10mm以上に二重発赤・水疱・壊死などを伴うものを強陽性として判定する.しかし,HIV陽性やプレドニン長期内服などによる免疫抑制状態の患者では5mm以上で陽性と判定する.近年ではこのツ反に加え,患者末梢血を結核菌精製蛋白で刺激し,Tヘルパー細胞からおもに産生されるサイトカインであるインターフェロンガンマを測定する検査法であるインターフェロンガンマ放出試験(interferongammareleaseassay:IGRA)によって結核菌に対する獲得免疫の有無と活性化の程度を調べることが行われている.IGRAには,末梢血単核球を用いるQuantiFERON-TBGoldtest®(QFT)と,全血を用いるT-Spot.TB®(T-Spot)の2つの製品があり,それぞれ結核菌特異的精製蛋白を用いて刺激培養を行う.この際に用いる精製蛋白にはBCG蛋白を含まないものを用いるため,その検査結果はBCG接種の影響を受けないとされる.わが国ではQFTは2005年に,T-Spotは2012年に発売され,それぞれ広く用いられている.QFTとT-Spotはそれぞれ異なる感度と特異度を有し,全身的な結核ではQFTは感度69%,特異度52%であり,一方T-Spotは感度60%,特異度76%と報告されている9).また,結核性ぶどう膜炎についてT-Spotとツ反を比較した研究では,T-SPOTはツ反に比べて感度は劣るものの(53%vs70%),特異度は91%vs71%でT-SPOTが勝り,また,ツ反とT-Spotがともに陽性だった患者が結核性ぶどう膜炎だった確率は95%と非常に高かった10).そのため,IGRAはツ反とともに用いられることが推奨されるべきであると考えられる.IV結核性ぶどう膜炎の眼所見と診断結核性ぶどう膜炎は肺外結核の一つであり,結核流行地域はもちろん,結核非流行地域においても重要なぶどう膜炎原因疾患の一つである.結核性ぶどう膜炎の臨床所見は多岐にわたる.基本的な病態は肉芽腫性ぶどう膜炎だが,その病変の主座は前眼部から眼底までさまざまに分布する.結核性ぶどう膜炎の病態と診断分類については,2015年にインドのグループより新しい診断分類が提唱されている11).ここでは,結核性ぶどう膜炎の眼所見として,前房または硝子体中の細胞浸潤に加えて,以下の項目があげられている.①広汎な虹彩後癒着②網膜血管周囲炎(脈絡膜炎,脈絡膜瘢痕を伴う場合もある)(図1)③多巣性の地図状脈絡膜炎(図2)④脈絡膜肉芽腫⑤視神経乳頭肉芽腫⑥視神経症さらに,この眼所見を用いた結核性ぶどう膜炎(intraoculartuberculosis:IOTB)の診断分類として,以下の基準が提唱されている.ConfirmedIOTB:以下の1,2を共に満たすもの1.上記眼所見を少なくとも1項目認める2.結核菌の存在が眼内液中に検出されるProbableIOTB:以下の1,2,3をすべて満たすもの1.他のぶどう膜炎が除外され,上記眼所見を少なくとも1項目認める2.胸部X線で肺病変に矛盾しない所見を得られるか,他の眼外結核が臨床的に認められるか,微生物学的診断により眼外結核が確認されたもの3.以下のいずれかを満たすa.結核患者への曝露歴b.ツ反,IGRAによる結核感染の免疫学的証明PossibleIOTB:以下の1,2,3を満たすか,または1,4を満たすもの1.他のぶどう膜炎が除外され,上記眼所見を少なくとも1項目認める2.胸部X線その他で眼外結核所見を認めない3.以下のいずれかを満たすa.結核患者への曝露歴b.ツ反,IGRAによる結核感染の免疫学的証明4.胸部X線で肺病変に矛盾しない所見を得られるか,他の眼外結核が臨床的に認められるが,結核への曝露歴,ツ反・IGRAによる結核感染の免疫学的証明のいずれも認めないものこの診断分類を用いると,わが国の結核性ぶどう膜炎のほとんどはprobableまたはpossibleIOTBに相当すると考えられるが,この診断分類の有用性は今後検討すべき課題と考えられる.中蔓延国であるわが国はもちろんのこと,低蔓延国を含む非流行地域における結核性ぶどう膜炎の診断はしばしば困難であり,西欧諸国における結核性ぶどう膜炎は,上述のpossibleIOTBに該当する症例が多くみられる12,13).これらの症例は,後部ぶどう膜炎が多く,臨床所見では閉塞性網膜血管炎,地図状脈絡膜炎が多くみられる.その多くは抗結核薬治療に良好に反応するが,なかには最終的にサルコイドーシスも含まれるため,その鑑別診断には注意が必要である.事実,上述の診断分類にあげられた眼所見の多くは,サルコイドーシスを示唆する眼病変とも多くで一致しているため14),結核とサルコイドーシスの両者は臨床的にも,またツベルクリン反応や胸部画像検査の重要性からも,表裏をなす重要な鑑別疾患であるといえる.また,結核性ぶどう膜炎の眼所見のなかで,全眼球炎,強膜穿孔に至った眼内炎,脈絡膜結節などの病態が,眼内腫瘍に誤認される症例も報告されており,その多彩な臨床像には注意が必要である15).免疫抑制状態の患者,たとえばAIDS罹患患者や化学療法施行中などにおいては結核は激しい病態を呈することがある.AIDSに結核性ぶどう膜炎を発症した患者についてインドで行われたレトロスペクティブ研究では,HIV/AIDS患者の2%に結核性ぶどう膜炎がみられ,病態は脈絡膜肉芽腫53%,網膜下膿瘍37%,全眼球炎16%,全眼球炎に結膜腫瘤を認めたものが5%で,全例肺結核を伴っていたと報告されている16).V結核の標準治療と結核性ぶどう膜炎の治療抗結核薬治療の目標は,患者体内における結核菌の撲滅である.そのためには,患者が感染している菌に対する感受性薬剤を,少なくとも3剤以上,最短6カ月間の継続投与が必要とされる17).現在行われている結核に対する標準治療は以下の通りである.初期治療は,原則的にリファンピシン(REF),イソニアジド(INH),ピラミナジド(PZA),エタンブトール(EB)の4剤併用で初期強化期として2カ月間治療,その後は維持期としてREFとINHの2剤で4カ月間継続し,合計6カ月間の治療とする.このうちPZAは肝硬変・C型慢性肝炎患者では肝障害が重篤化しやすく,また妊娠中,80歳以上の高齢者などでは慎重な投与が求められる.その場合には,初期強化期の2カ月間はREF+INH+EBまたはストレプトマイシン(SM)の3剤で治療し,維持期はREF+INHを7カ月間継続し,合計9カ月間の治療とする17).一方,潜在性結核感染症については1剤での治療が行われ,原則としてINHを6カ月または9カ月用い,INH使用不能例ではREFを4カ月または6カ月間用いる17).しかし,わが国における結核性ぶどう膜炎患者では,眼内局所から結核菌を塗抹,培養,PCRなどで検出できる例はきわめてまれであり,多くの場合で眼内局所から直接結核菌を証明することなく治療を行わなければならない.とくに眼外病変が欠如している場合,ツ反やIGRA,眼病変などのみから結核性ぶどう膜炎を疑い治療を行うことになり,さらに抗結核薬治療の反応性そのものによって最終的な診断根拠とすることになる.このような場合での治療方針については,わが国においては一定の見解は得られていないが,潜在的な結核感染症を疑い治療する以上は,耐性菌出現を予防する意味でも,前項で述べた抗結核薬の標準治療に沿って投与を行うべきであろう.ぶどう膜炎の治療において問題となる点は,ステロイド薬の併用の必要性についてである.結核性ぶどう膜炎の病態のなかで,とくに地図状脈絡膜炎や網膜血管炎については,結核菌感染そのものよりも脈絡膜や網膜血管に残存した結核菌成分に対する過敏反応により生じる病態である可能性が考えられており18),このような病態に対しては抗結核薬治療をまずは行ったうえで,ステロイド薬の内服治療の併用を検討していく必要がある.結核性ぶどう膜炎に伴う網膜血管炎はしばしば周辺網膜に無血管領域(図1)と,それに続発する網膜新生血管を生じる.そのため,定期的な蛍光眼底造影検査を実施すべきである.無血管領域に対しては適宜網膜光凝固術の施行を検討する必要があるが,光凝固による炎症の再活性化を予防するためには,抗結核薬とステロイド薬の内服併用下で行うことが安全であると考えられる.おわりに結核性ぶどう膜炎はわが国においては未だ重要な感染性疾患ではあるが,眼内局所からの病原体の証明が困難であることから,その診断には迷う場面が多い.ステロイド薬治療に対して抵抗性を示す肉芽腫性ぶどう膜炎に対しては,結核は常に鑑別診断にあげるべきであり,そのためぶどう膜炎のスクリーニング検査として,ツ反と胸部画像検査は必ず行うべき重要な項目であると考えられる.文献1)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20122)Eurosurveillanceeditorialteam:WHOpublishesGlobaltuberculosisreport2013.EuroSurveill18,20133)DrobniewskiF,CookeM,JordanJetal:Systematicreview,meta-analysisandeconomicmodellingofmoleculardiagnostictestsforantibioticresistanceintuberculosis.HealthTechnolAssess19:1-188,vii-viii,20154)WorldHealghOrganization.SystematicScreeningforActiveTuberculosis:PrinciplesandRecommendations.Geneva,20135)BasuS,MoniraS,ModiRRetal:Degree,duration,andcausesofvisualimpairmentineyesaffectedwithoculartuberculosis.JOphthalmicInflammInfect4:3,20146)SharmaK,GuptaV,BansalRetal:Novelmulti-targetedpolymerasechainreactionfordiagnosisofpresumedtubercularuveitis.JOphthalmicInflammInfect3:25,20137)KotakeS,KimuraK,YoshikawaKetal:PolymerasechainreactionforthedetectionofMycobacteriumtuberculosisinoculartuberculosis.AmJOphthalmol117:805-806,19948)近松絹代,水野和重,青野昭男ほか:GenoTypeMTBDRplusによる多剤耐性結核菌同定に関する検討.結核86:697-702,20119)MetcalfeJZ,EverettCK,SteingartKRetal:Interferongammareleaseassaysforactivepulmonarytuberculosisdiagnosisinadultsinlow-andmiddle-incomecountries:systematicreviewandmeta-analysis.JInfectDis204Suppl4:S1120-S1129,201110)AngM,WongWL,LiXetal:Interferongammareleaseassayforthediagnosisofuveitisassociatedwithtuberculosis:aBayesianevaluationintheabsenceofagoldstandard.BrJOphthalmol97:1062-1067,201311)GuptaA,SharmaA,BansalBetal:Classificationofintraoculartuberculosis.OculImmunolInflamm23:7-13,201512)LaDistiaNoraR,vanVelthovenME,TenDam-vanLoonNHetal:ClinicalmanifestationsofpatientswithintraocularinflammationandpositiveQuantiFERON-TBgoldintubetestinacountrynonendemicfortuberculosis.AmJOphthalmol157:754-761,201413)ManousaridisK,OngE,StentonCetal:Clinicalpresentation,treatment,andoutcomesinpresumedintraoculartuberculosis:experiencefromNewcastleuponTyne,UK.Eye(Lond)27:480-486,201314)HerbortCP,RaoNA,MochizukiM:Internationalcriteriaforthediagnosisofocularsarcoidosis:resultsofthefirstInternationalWorkshopOnOcularSarcoidosis(IWOS).OculImmunolInflamm17:160-169,200915)DemirciH,ShieldsCL,ShieldsJAetal:Oculartuberculosismasqueradingasoculartumors.SurvOphthalmol49:78-89,200416)BabuRB,SudharshanS,KumarasamyNetal:Oculartuberculosisinacquiredimmunodeficiencysyndrome.AmJOphthalmol142:413-418,200617)重藤えり子,藤兼俊明,新妻一直ほか:「結核医療の基準」の見直し.2014年.結核89:683-690,201418)GuptaV,GuptaA,RaoNA:Intraoculartuberculosis–anupdate.SurvOphthalmol52:561-587,2007図1結核性ぶどう膜炎(38歳,男性)ツ反強陽性,QFT陽性だが,胸部X線・胸部造影CTともに異常はなかった.左眼の眼底下耳側アーケード静脈に沿って白色の結節様病変を認めるが(a),蛍光眼底造影検査ではさらに広い範囲に静脈に沿った過蛍光を認める(b).周辺部網膜には無血管領域があり,後日光凝固治療が施行された(c).図2左眼眼底の地図状脈絡膜炎(53歳,女性)ツ反強陽性,T-Spot陽性だが,胸部X線・胸部CTともに異常所見を認めなかった.*HiroshiTakase:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕高瀬博:113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(31)957958あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(32)(33)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016959960あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(34)(35)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016961

梅毒

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):953〜956,2016梅毒OcularSyphilis岩橋千春*大黒伸行**I病因梅毒はスピロヘータの一種であるトレポネーマパリダム(Treponemapallidum:TP)による性感染症である.おもに性行為により感染する後天梅毒と,母体から胎児に感染する先天梅毒に分けられる.II疫学わが国では感染症法の5類感染症に分類されており,診断後7日以内に保健所の届け出る必要がある全数報告対象疾患である.1800年代は世界中に広く分布していたが,1943年にMahoneyらがペニシリンによる治療に成功して以来,梅毒患者は激減した.しかしながら,2010年以降,わが国の患者数は増加傾向に転じており,東京都と大阪府,そしてその周辺の地域からの報告がとくに多い.2013年度の梅毒患者数は1,228人,2014年度は1,671人,2015年度は2,698人,2016年1~3月で796人(昨年同時期の2.0倍)となっている.5歳ごとの年齢分布では,男性では40~44歳に多く(男性報告全体の16%),女性は20~24歳(女性報告全体の31%)に多い.また,最近の傾向として,HIVウイルスとの重複感染者が多いことがあげられる.アメリカでは梅毒感染者のうち20~70%がHIVにも感染しているとの報告がある1).III症状1.全身所見感染後,約3週間の潜伏期間をおいて発症し,典型例では以下のような臨床経過をとる.a.第1期病原体の侵入部位に初期硬結を生じる.やがてこの硬結の中心が自潰し無痛性の硬性下疳となり,さらに鼠径部のリンパ節腫張が出現する.感染後約3週間前後でTPに対するIgM抗体,ついでIgG抗体が産生されるため,これらの第1期病変は通常発症後2~3週間で自然消退し,いったん無症状となる.b.第2期感染後,約3カ月以降になって,TPが血行性に全身に播種されると,皮膚や粘膜の発疹が出現し,さらに臓器梅毒の症状を呈する.全身の淡紅色斑(バラ疹)や暗赤色丘疹,手掌や足底の鱗屑を伴う紅斑(梅毒性乾癬),扁平コンジローマ,脱毛,髄膜炎,発熱などをきたす.後述する眼病変も第2期以降にみられる.皮膚や粘膜病変は無治療でも数週間~数カ月で自然消退して潜伏梅毒に移行するが,感染後1年頃までは再燃する場合もある.c.第3期感染後3年以上を経過してゴム腫(深在性の肉芽腫病変)や結節性梅毒疹を生じる.d.第4期感染後10年以上を経過して,大動脈炎,大動脈瘤,脊髄癆などの心血管梅毒,神経梅毒を発症する.現在ではきわめてまれな病態である.2.眼所見眼病変は第2期,第3期梅毒として発症し,外眼部,内眼部ともに多彩,多所性の病変がみられる.2009年に行われたわが国のぶどう膜炎の全国調査では,梅毒性ぶどう膜炎は全ぶどう膜炎の0.4%を占めると報告されている2).a.前眼部通常,急性で両側性の虹彩毛様体炎が多い.典型例では肉芽腫性ぶどう膜炎を呈するが,非肉芽腫性のこともしばしばある.また,炎症の程度もさまざまで,軽症の虹彩炎から前房蓄膿,フィブリン析出を伴う強い虹彩炎を認めることもあり,ステロイド薬には反応しないことが多い.ステロイド抵抗性の虹彩炎では梅毒感染を鑑別に入れる必要がある.b.後眼部TPは血行性に眼内に侵入し,網膜,脈絡膜に病変をつくる.前眼部と同様,後眼部の所見もさまざまな形をとる.視神経乳頭周囲ないし後極部に網脈絡膜炎(図1~4)が起こる.網膜浮腫,乳頭浮腫,血管炎,硝子体混濁を伴い,時間とともに病巣は癒合拡大する.治癒期には萎縮巣となり,瘢痕化,色素沈着をきたす.ごま塩眼底(pepper-and-saltfundus)が典型的な所見である.また,視神経炎(図5,6)を伴い,盲点の拡大や中心および傍中心暗点などの視野障害を呈し,最終的には視神経萎縮の所見となることもある.黄斑病変としては,中心性漿液性脈絡網膜症のような漿液性剝離や,囊胞状黄斑浮腫がみられることがある.3.その他結膜炎,角膜実質炎,上強膜炎,強膜炎,涙腺炎,瞳孔異常(ArgyllRobertson瞳孔など),眼瞼下垂,眼振などを呈することもある.IV眼病変の鑑別診断梅毒による眼所見には特異な病像はなく,臨床所見のみから診断することはほぼ不可能である.他疾患では説明のつかない網脈絡膜萎縮や視神経炎,視神経萎縮,瞳孔異常,ステロイド抵抗性の虹彩炎をみたら,梅毒の関与を考えて,血清学的検査を奨める.梅毒が陽性であれば患者に説明のうえ,HIV検査も行うことが望ましい.鑑別を要する疾患としては,中心性漿液性脈絡網膜症,原田病,Behçet病,サルコイドーシス,トキソプラズマ,トキソカラ,結核,真菌感染などがあげられる.V血清学的診断梅毒血清反応を用いる方法が一般的であり,カルジオリピン抗原に対する抗体価を測定するガラス板法(serologictestforsyphilis;STS法)とTP特異抗原を用いるTreponemapallidumhemagglutination(TPHA)法の組み合わせで検査する.必要に応じて,fluorescenttreponemalantibody-absorption(FTA-ABS)法も行う.診断は次の4通りとなる.・STS(−)TPHA(−):非梅毒か極早期の梅毒である.FTA-ABSIgMが陽性であれば早期梅毒と診断する.STS,TPHAともに陽性になるのは感染後およそ4週間である.・STS(+)TPHA(+):梅毒である.両者とも高値の場合(STS法で16倍以上,TPHA法で1,280倍以上)には活動性梅毒で治療が必要である.・STS(−)TPHA(+):陳旧性梅毒あるいは十分治療された梅毒であり,治療は不要である.・STS(+)TPHA(−):生物学的偽陽性反応.妊娠,ウイルス感染,細菌性肺炎,マラリア,ライム病などのスピロヘータ感染症でみられる.VI治療全身加療を行う感染症内科と連携して,神経梅毒に準じた治療を行う.初期にはペニシリン大量療法として注射用ベンジルペニシリンカリウム2,400万単位/日を投与し,維持期にはベンジルペニシリンベンザチン120万単位(3g)の内服を行う.ペニシリンアレルギーの場合にはドキシサイクリン,ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系製剤,エリスロマイシンなどのマクロライド系薬剤を用いる.プレドニン内服併用については統一した見解はないが,炎症が強い場合には併用が望ましい.治療によりTPが破壊されて大量のサイトカインが放出されることにより,治療開始24時間以内にJarish-Herxheimer(ヤーリッシュ・ルクスハイマー)現象とよばれる症状が出現することがある.発熱,全身倦怠感,悪心・嘔吐,頭痛,筋肉痛,梅毒疹増悪,白血球増多などがみられるが安静により軽快するとされている.ペニシリンアレルギーとの鑑別が重要である.前眼部の炎症が強い症例では,全身への治療に加え,ステロイド点眼による消炎,散瞳薬による瞳孔管理を行う.VII予後発症早期から治療をした場合の視力予後はおおむね良好である.診断の遅れ,黄斑部の網脈絡膜病変が視力不良と関係しているとの報告3,4)があり,そのほかの感染症同様,病早期の的確な診断と十分な治療が重要である.また,髄液検査異常を合併する症例やHIVとの重複感染例が多く,感染症内科との連携が不可欠である.文献1)LeeSY,ChengV,RodgerDetal:Clinicalandlaboratorycharacteristicsofocularsyphilis:anewfaceintheeraofHIVco-infection.JOphthalmicInflammInfect5:26,20152)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20123)BollemeijerJG,WieringaWG,MissottenTOetal:Clinicalmanifestationsandoutcomeofsyphiliticuveitis.InvestOphthalmolVisSci57:404-411,20164)MoradiA,SalekS,DanielEetal:Clinicalfeaturesandincidenceratesofocularcomplicationsinpatientswithocularsyphilis.AmJOphthalmol159:334-343,2015図1症例(36歳,男性)数カ月前からの視力低下がある.びまん性の硝子体混濁を認める.矯正視力は0.1であった.図2図1の症例の蛍光眼底造影検査所見顆粒状の過蛍光,および網膜血管からの漏出がみられる.図3図1の症例の光干渉断層計写真Ellipsoidzoneの消失と網膜色素上皮の不整を認める.図4図1の症例の治療後の光干渉断層計写真Ellipsoidzoneの回復を認める.視力も0.8まで回復した.図5症例(33歳,男性)輪状の硬性白斑を認める.図6図5の症例の蛍光眼底造影検査所見視神経乳頭の過蛍光と黄斑周囲における蛍光色素漏出を認める.*ChiharuIwahashi:住友病院眼科**NobuyukiOhguro:JCHO大阪病院眼科〔別刷請求先〕岩橋千春:〒530-0005大阪市北区中之島5-3-20住友病院眼科0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(27)953954あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(28)(29)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016955956あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(30

IgG4関連眼疾患

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):947〜952,2016IgG4関連眼疾患IgG4-relatedOphthalmicDisease高比良雅之*IIgG4関連疾患という疾患概念のはじまりIgG4(immunoglobulinG4)関連疾患とは,血清IgG4の上昇を伴って全身のさまざまな臓器や器官に,腫瘤,腫大,肥厚性病変がみられる病態である.その疾患概念は21世紀に誕生した.すなわち2001年にHamanoらは,すでに疾患概念として存在していた自己免疫性膵炎の症例群において,血清IgG4が上昇していることを見いだした1).それから3年を経てYamamotoらは,Mikulicz病においても血清IgG4が上昇していることを報告した2).Mikulicz病とは涙腺と唾液腺の対称性腫脹をきたす病態であり,Mikuliczによる最初の報告は1892年に遡る.しかし,1953年にMorganとCastlemanがMikulicz病はSjögren症候群の一亜形に過ぎないと提唱して以降,少なくとも欧米においてはMikulicz病という疾患概念は一時消滅することになる.その後,両疾患の違いを明瞭に指摘したのは,涙腺病理におけるアポトーシスの差を報告した2000年のTsubotaらの研究である.そして,先述のように2004年にMikulicz病がIgG4関連であることが判明し2),その後のIgG4関連疾患の概念へと繋がった.IIIgG4と全身の諸病変ヒトIgGは4つのサブクラス(IgG1~IgG4)に分けられ,そのうちIgG4は正常ではもっとも量が少なく,総IgGの4%未満である.当初IgGサブクラスの測定は保険適用外であったが,2010年4月より血清IgG4測定が保険適用となった.IgG4はほかのサブクラスと異なり補体結合能を欠くとされる.IgG4関連疾患の病因は不明であるが,現時点では血清IgG4上昇や組織でのIgG4陽性細胞浸潤は,病態の結果であるとする考え方が主流である.IgG4関連疾患の病変は全身のさまざまな臓器や器官にわたる(図1,2).頭頚部においては,涙腺,唾液腺の腫脹をきたたすMikulicz病が代表的である.IgG4関連唾液腺炎の病理は涙腺のそれに類似し,その鑑別疾患としては,リンパ腫,サルコイドーシス,木村病などがあげられる.また近年では,IgG4関連鼻副鼻腔炎の報告も増加している.その他のIgG4関連疾患とされる頭頚部病変としては下垂体炎,硬膜炎,甲状腺炎などが報告されているが,これらでは概して病理検体が得にくく,今後の症例の蓄積が待たれる.体幹におけるIgG4関連疾患の罹患臓器としては,膵,肺,腎,大動脈などが代表的である.自己免疫性膵炎はIgG4関連疾患の代表的な病変であり,とくに膵癌との鑑別が重要である.IgG4関連呼吸器疾患(図2)の画像所見は多彩であり,他臓器に病変がない場合には肺生検が必要である.腎臓もIgG4関連疾患の主要な標的臓器であり,腎実質,腎盂,尿管の病変を総称してIgG4関連腎臓病とよばれる.IgG4関連の後腹膜線維症と称される病態のなかには大動脈周囲病変(図2)が含まれ,腹部から腸骨動脈領域や胸部大動脈弓部が好発部位とされる.IgG4関連疾患は全身のリンパ節を侵すことがあり,とくに重要な鑑別疾患はCastleman病である.IgG4関連皮膚病変では,丘疹,結節,腫瘤を形成することが多く,頭頚部領域に好発するとされる.III眼領域の病変:IgG4関連眼疾患眼領域におけるIgG4関連疾患の最初の報告は,先述のように2004年のYamamotoらによるIgG4関連Mikulicz病の報告2)であった.Mikulicz病では対称性に涙腺と唾液腺が腫大する(図3a,b).ただし,涙腺腫大が片側にのみ偏り,Mikulicz病とはいえないIgG4関連涙腺炎も存在する.IgG4関連涙腺炎の病理では,涙腺に濾胞構造を伴ったリンパ形質細胞浸潤がみられ,線維化を伴う場合もある(図3c).IgG4染色陽性形質細胞はおもに濾胞構造の周囲や涙腺の間隙にみられる(図3d).IgG4関連疾患の眼領域の病変は,しばしば涙腺以外にもみられる.Sogabeら3)はIgG4関連眼疾患65症例の画像を解析し,眼窩病変で頻度の高いものとして,涙腺病変(88%),三叉神経病変(39%),外眼筋腫脹(24%)をあげた.三叉神経腫大の検出にはMRIの冠状断像が有用で,眼窩下神経(三叉神経第2枝)あるいは眼窩上神経(三叉神経第1枝)の腫大がみられる(図4a).ただし,三叉神経の麻痺による知覚障害を伴うことはまれである.同様に頻度の高い眼窩病変には外眼筋腫大(図4b)があるが,眼球運動障害,複視,斜視の併発は概して少なく,この点で甲状腺眼症とは病態が異なる.頻度の高い涙腺,三叉神経,外眼筋の3病変については,2015年に公表されたIgG4関連眼疾患の診断基準(後述)にも明記された(表1).より頻度は低いが,眼窩の静脈周囲(図4c)や視神経周囲(図4d)にも腫瘤がみられることがある.そのほかのまれな眼領域のIgG4染色陽性の病変として,強膜など眼球内に及ぶものや,涙道病変の症例報告が散見される.とくに視神経症周囲に病変がみられる場合には,視力・視野障害を呈する視神経症(IgG4関連視神経症)をきたす可能性がある(図5).目下,IgG4関連視神経症の頻度は不明であるが,Sogabeら3)はIgG4関連眼疾患65症例のうち6例に視神経症がみられたとし,また自験例でも,連続する41症例のIgG4関連眼疾患のうち4例に視神経症がみられた.これらから,IgG4関連眼疾患において視神経症をきたす頻度はおよそ1割程度ではないかと推察される.ここで特筆すべきは,IgG4関連視神経症が緑内障と誤診される可能性である.図5に提示した症例も長年にわたり緑内障として加療されていた.しかし,眼圧が10mmHg前後で安定していた経過や,視野欠損のパターン(図5d)からは,緑内障ではなく視神経症が疑われた.果たして血清IgG4は2,090mg/dlと著しく高く,MRIにて視神経周囲腫瘤に加えて,IgG4関連眼疾患の3主徴がみられ(図5a,b),涙腺生検によりIgG4関連涙腺炎と病理診断された(図5c).また,全身にも多発病変がみられ(図2),IgG4関連疾患としてプレドニゾロン内服漸減療法(表2参照)が開始された.ステロイド内服治療により視機能はある程度改善したが,視力低下や視野障害は残存した.ステロイド全身投与による視力・視野の改善には病悩期間も関与すると思われ,やはり速やかなステロイド治療の導入が望まれる.IgG4関連視神経症ではしばしば高眼圧をきたすので,その初期には緑内障として管理される可能性も高く,注意が必要である.IVIgG4関連眼疾患の病理診断と鑑別診断IgG関連疾患の発見から10年を経て,その診断基準に関する2つの論文が報告された.一つは日本から報告された「IgG4関連疾患の包括的診断基準」であり,すなわち,すべての臓器におけるIgG関連疾患を包括的に診断する基準である4).そこでは浸潤細胞の少ない膵などの臓器の基準をも広く満たすように,病理診断におけるIgG4陽性細胞数は強拡大視野内10個以上と甘く設定されている.もう一つの論文は2012年に公表されたConsensusStatementonthePathologyofIgG4-RD5)である.そこでは臓器ごとの陽性細胞数が設定され,眼窩病変のIgG4陽性細胞数の基準は強拡大視野内100個以上とされた.しかし,実際の症例に照らし合わせるとその条件は厳しく,新たにわが国から2015年に公表されたIgG4関連眼疾患の診断基準6)ではIgG4陽性細胞数は強拡大視野内50個以上とする基準が採用されている.IgG4関連眼疾患において鑑別すべきもっとも重要な疾患はリンパ腫,なかでもMALT(mucosa-associatedlymphoidtissue)リンパ腫である.眼窩MALTリンパ腫の症例では通常,血清IgG4値は低く,病理でもIgG4染色は陰性であることが多い.しかし,眼領域ではときにIgG4関連疾患を背景にMALTリンパ腫が発症することが知られているので,両者の鑑別は重要である.したがって,病理検査の際には同時にIgH遺伝子再構成やフローサイトメトリーの補助診断を行うべきである.2013年の日本の18施設における多施設調査7)によると,病理診断された眼窩リンパ増殖性疾患1,014症例の内訳は,MALTリンパ腫404症例(39.8%),その他のリンパ腫156症例(15.4%),IgG4に関連のない眼窩炎症191症例(18.8%),IgG4関連眼疾患が219症例(21.6%),IgG4染色陽性MALTリンパ腫44症例(4.3%)であった(図6).つまりIgG4染色陽性となる病変は眼窩リンパ増殖性疾患のおよそ4分の1を占めた.同調査によればIgG4関連眼疾患の発症数に性差はなく,年齢の中央値は62歳で,また20歳未満の症例はなかった(図7).ちなみに,眼領域以外の肺,膵,腎,大動脈などのIgG4関連疾患病変は,男性に有意に多いことが知られている.VIgG4関連眼疾患の治療IgG4関連眼疾患の治療に際して,もっとも重要な事項はリンパ腫との鑑別である.先述のようにリンパ腫がIgG4関連眼疾患に併発することがあり,ひとたびリンパ腫と診断されれば,IgG4関連疾患の治療とは異なり,放射線照射や化学療法を主体とした治療となる.IgG4関連疾患の治療の基本はステロイドの全身投与であり,正木らのプロトコル(表2)8)に準じて,プレドニゾロン内服の漸減療法を行う.眼領域の病変において,この標準的なプロトコルで問題となるのは,軽症例と重症例である.症状が眼瞼腫脹(涙腺腫大)に限られ血清IgG4値も低めといった軽症例においては,ステロイド内服の投与期間の短縮,または涙腺切除といった眼窩局所の治療も考慮されるべきであろう.一方で重症例とは視神経症による視力や視野の障害をきたような症例であり,ステロイド大量点滴療法の適応ともなる.IgG4関連視神経症のステロイド治療に対する反応は概して良好であるが,当然ながら重症度や病悩期間によっては改善にも限界があるので,早期の治療導入が望ましい.また,ステロイド治療によっても再燃を繰り返すような症例では,アザチオプリンなどの免疫抑制薬や抗CD20抗体療法(リツキシマブ)の有効性も報告されている.ただし,目下,日本ではリツキシマブのIgG4関連疾患への保険適用はなく,重症例に対する治療の選択肢の一つとしての適用の拡大が望まれる.文献1)HamanoH,KawaS,HoriuchiAetal:HighserumIgG4concentrationsinpatientswithsclerosingpancreatitis.NEnglJMed344:732-738,20012)YamamotoM,OharaM,SuzukiCetal:ElevatedIgG4concentrationsinserumofpatientswithMikulicz’sdisease.ScandJRheumatol33:432-433,20043)SogabeY,OhshimaK,AzumiAetal:LocationandfrequencyoflesionsinpatientswithIgG4-relatedophthalmicdiseases.GraefesArchClinExpOphthalmol252:531-538,20144)UmeharaH,OkazakiK,MasakiYetal:ComprehensivediagnosticcriteriaforIgG4-relateddisease(IgG4-RD),2011.ModRheumatol22:21-30,20125)DeshpandeV,ZenY,ChanJKetal:ConsensusstatementonthepathologyofIgG4-relateddisease.ModPathol25:1181-1192,20126)GotoH,TakahiraM,AzumiA;JapaneseStudyGroupforIgG4-RelatedOphthalmicDisease:DiagnosticcriteriaforIgG4-relatedophthalmicdisease.JpnJOphthalmol59:1-7,20157)JapanesestudygroupofIgG4-relatedophthalmicdisease:AprevalencestudyofIgG4-relatedophthalmicdiseaseinJapan.JpnJOphthalmol57:573-579,20138)MasakiY,KuroseN,UmeharaH:IgG4-relateddisease:anovellymphoproliferativedisorderdiscoveredandestablishedinJapaninthe21stcentury.JClinExpHematop51:13-20,2011涙腺炎(Mikulicz病)眼疾患鼻副鼻腔炎唾液腺炎(Mikulicz病)肝,胆道病変自己免疫性膵炎皮膚病変リンパ節病変図1IgG4関連疾患の代表的な病変肥厚性髄膜炎下垂体炎甲状腺炎呼吸器疾患大動脈炎腎臓病後腹膜線維症前立腺炎図2CTにて多発病変がみられたIgG4関連疾患の1症例視神経症(図5参照)で紹介された67歳,男性.血清IgG4は2,090mg/dlと著しく上昇し,涙腺,外眼筋,視神経周囲などの眼窩病変(a)に加えて,下垂体,肺(b),縦隔リンパ節,胃前庭部(c,),肝右葉(c,⇨),腹部大動脈(d),後腹膜に病変が多発していた.図3IgG4関連涙腺炎(Mikulicz病)66歳,男性(血清IgG4=575mg/dl).両側の涙腺腫大(a),唾液腺腫大(b)がみられた.涙腺生検による病理では,腺周囲にリンパ形質細胞浸潤がみられ(c),多くの形質細胞はIgG4染色陽性であった(d).表1IgG4関連眼疾患の診断基準(文献6を参照)1)画像検査で涙腺腫大,三叉神経腫大,外眼筋腫大のほか,さまざまな眼組織に腫瘤,腫大,肥厚性病変がみられる.2)病理組織学的に著明なリンパ球と形質細胞の浸潤がみられ,ときに線維化がみられる.しばしば胚中心がみられる.IgG4染色陽性の形質細胞がみられ,その基準はIgG4(+)/IgG(+)細胞比が40%以上,またはIgG4陽性細胞数が強拡大視野内に50個以上,を満たすものとする.3)血清学的に高IgG4血症を認める(>135mg/dl).診断上記の1),2),3)すべてを満たした場合を確定診断群(definite),1)と2)のみを満たした場合を準診断群(probable),1)と3)のみを満たした場合を疑診群(possible)とする.鑑別疾患Sjögren症候群,リンパ腫,サルコイドーシス,Wegener肉芽腫症,甲状腺眼症,特発性眼窩炎症,細菌・真菌感染による涙腺炎や眼窩蜂窩織炎注意MALTリンパ腫はIgG4陽性細胞を含むことがあり,慎重に鑑別する必要がある.図4IgG4関連眼疾患の諸病変a:54歳,男性にみられた両眼窩下神経腫大(⇨)と涙腺腫大.b:45歳,男性にみられた右外眼筋(内・下直筋)と涙腺腫大.c:54歳,男性にみられた両側上眼静脈周囲の腫瘤(⇨)と涙腺腫大.d:44歳,男性にみられた右視神経周囲の腫瘤.この症例では視神経症はなかった.図5IgG4関連視神経症(図2と同一症例)67歳,男性に両側の涙腺腫大(a),三叉神経腫大(b),外眼筋腫大(b),視神経周囲腫瘤(a,b)がみられ,涙腺生検によりIgG4関連涙腺炎と診断された(c).両視力低下,視野障害(d:右Humphrey視野24-2プログラム)がみられ,視神経症と診断された.IgG4陽性MALTリンパ腫44(4.3%)IgG4関連眼窩炎症219(21.6%)非IgG4眼窩炎症191(18.8%)MALTリンパ腫404(39.8%)156(15.4%)他のリンパ腫図6眼窩リンパ増殖性疾患1,014症例の内訳(文献7より改変引用)表2IgG4関連疾患に対する標準的なステロイド治療プロトコル(文献8を参照)初回投与プレドニゾロン内服0.6mg/kg/日分3漸減2週間ごとに10%ずつ維持量10mg/日,最低3カ月その後の維持投与量は主治医の判断多くの症例では5~10mg/日の維持量が必要図7IgG4関連眼疾患(219例)の年齢分布(文献7より改変引用)*MasayukiTakahira:金沢大学医薬保健学域医学類眼科学〔別刷請求先〕高比良雅之:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健学域医学類眼科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(21)947948あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(22)(23)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016949950あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(24)(25)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016951952あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(26)

再発性多発軟骨炎

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):941〜946,2016再発性多発軟骨炎RelapsingPolychondritis田中理恵*蕪城俊克*はじめに再発性多発軟骨炎(relapsingpolychondritis)は,全身の軟骨組織に特異的に,再発性の炎症をきたす比較的まれな難治性疾患である.1923年にJaksch-Wartenhorstがpolychondropathiaとして初めて報告し,1960年にPearsonが現在の名称を提唱した.眼症状を約半数に認め,強膜炎,上強膜炎,結膜炎,ぶどう膜炎が多く報告されている.強膜炎の統計では,関節リウマチや抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎などについで原因疾患として頻度が多い.合併する全身症状によっては生命予後不良であり,見逃してはならない疾患である.本稿では,再発性多発軟骨炎の概要,検査所見,診断,治療について述べる.I再発性多発軟骨炎の概要1.疫学欧米での頻度は,人口10万人に対し0.35とまれである.日本における患者数は400~500人と推定されている.さまざまな年齢で発症するが,発症年齢のピークは40~50代で,性差はないとの報告が多い1〜3).2.原因原因はいまのところ判明していないが,ほかの自己免疫疾患の合併が多いこと,全身性の軟骨組織に対する疾患であること,ステロイドが有効であることより,自己免疫性疾患と考えられている.患者の33%に軟骨中のTypeIIコラーゲンに対する抗体を認め,病勢と相関することが報告されている4).また,軟骨成分matrilin-1に対する免疫応答も認められ,これが自己抗原である可能性も考えられている5).3.臨床症状間欠的,進行性に軟骨の炎症をきたす.炎症は全身のすべての軟骨で起こりうる.過去の報告による臨床症状の出現頻度を示す(表1).a.耳介軟骨炎初発症状は耳介の疼痛,発赤が多い(図1).患者の80~90%にみられる1,2,6).さらには変形をきたし,カリフラワー様になることがある.耳介が崩壊すると外耳道閉塞をきたし,伝音声難聴となることがある.b.非びらん性の炎症性多発関節炎耳介軟骨炎についで多く,40~80%の患者にみられる1,2,6).一時的で自然軽快する,移動性,非破壊性の関節炎である.c.鼻軟骨炎鼻の痛みと圧痛を伴い発症する.鼻出血,鼻閉,鼻汁などを伴う.炎症の遷延・再発により変形をきたし,鞍鼻(あんび)を呈することがある.d.眼病変眼病変は50~65%の患者にみられ1~3,6,7),強膜炎(図2),上強膜炎,結膜炎,ぶどう膜炎が中心であるが(表2),視神経乳頭炎を伴い,重症化することもある.強膜炎の原因疾患としては,関節リウマチ,ANCA関連血管炎などについで多く,強膜炎患者の約2~4%を占める(表3)8~10).再発性多発軟骨炎に伴う強膜炎は,他の自己免疫疾患に伴う強膜炎と比較して,両眼性が多く,壊死性強膜炎を起こしやすく(23%),再発が多く,視力低下をきたしやすい,と報告されている7).e.喉頭・気道病変約50%の患者に気管・気管支軟骨への病変進行がみられる1,2,6).症状は,嗄声,失声,喘鳴,乾性咳嗽,息切れなどである.初期は炎症により気道粘膜が腫脹し,気道狭窄をきたす.その後,線維化により瘢痕化し,進行すると気道軟骨が破壊され,気道が虚脱する(図3).肺炎や気管支炎を繰り返す原因となる.これらの呼吸器合併症は死亡の原因となる2).このため,速やかに気道病変を診断することが重要である.f.前庭・蝸牛機能障害内耳軟骨や聴覚神経,前庭神経を栄養する血管に炎症が起こると,感音性難聴や耳鳴り,めまいをきたす.g.心血管障害心血管障害は気道病変につぐ死亡の原因である.進行性の弁輪の拡張により,大動脈弁閉鎖不全症や僧房弁閉鎖不全症などが起こる.冠動脈の炎症により,心外膜炎,ブロック,心筋梗塞などが起こることもある.h.皮膚病変特有の皮疹はなく,非特異的な皮膚症状を呈する.アフタ性潰瘍,紫斑,丘疹,結節,血栓性静脈炎などを認める.i.神経障害少数ではあるが,中枢神経症状を認めることがある.頭痛,けいれん,脳梗塞,脳出血,脳炎,髄膜炎などが起こる.j.腎臓病変まれだが,生命予後不良な病変である.腎生検でメサンギウム細胞の増殖を認めることが多い.k.全身症状全身倦怠感,発熱,体重減少などの全身症状が発症時や再燃時にみられる.l.関連疾患再発性多発軟骨炎患者の約1/3に他の自己免疫疾患を合併する.全身性血管炎の合併がもっとも多い(13%).II検査所見1.血液検査所見特異的な所見に乏しいが,炎症状態に応じて血沈亢進,CRP上昇がみられる.正球性正色素性貧血を呈することもある.33%が抗TypeIIコラーゲン抗体陽性4),22~66%が抗核抗体陽性,約16%がリウマチ因子陽性,24%でANCA陽性である11).2.画像所見生命予後に直結する気道病変,心血管病変の評価に,画像検査は重要である.胸部CTでは,気管,気管支内腔の狭窄と気道壁の肥厚,ときに気道壁の石灰化(図4)を認める.また,ダイナミックCTによる気管気管支軟化症の所見(呼気時の気道狭窄を認める)が重要である.気管支鏡では狭窄,浮腫,発赤などの所見がみられる.気管支内エコーも有用である.呼吸機能検査は,下気道病変が進行すると異常となり,スクリーニング検査として行う.心血管病変の鑑別のため,定期的に心エコー検査を行う.骨シンチグラフィーでは,炎症軟骨に99mTc-MDPが取り込まれるのが確認できる.3.病理組織学的検査軟骨内に炎症細胞が浸潤し(図5),軟骨細胞は減少し,軟骨は次第に破壊され,基質のグリコサミノグリカンが変性し,弾性線維,膠原線維も変性・断裂する.最終的に破壊された軟骨基質は線維結合組織に置換される.石灰化が観察されることもある.III診断再発性多発軟骨炎に特異的な検査所見はない.臨床所見,補助的な血液検査,画像検査,軟骨病変の生検結果をもとに総合的に診断する.診断基準としては,McAdamらの診断基準(表4)1),Damianiらの診断基準(表5)12)などがある.どちらも臨床所見の有無を中心としたものであるため,生検により軟骨炎を確認することが診断上重要である.IV鑑別疾患眼科的に鑑別が必要な疾患を述べる.強膜炎の鑑別疾患としては,関節リウマチ,Wegener肉芽腫症(granulomatosiswithpolyangitis)などのANCA関連血管炎,Cogan症候群,その他の自己免疫疾患があげられる.なかでも,Wegener肉芽腫症は鼻軟骨炎や鞍鼻をきたすことがあり,鑑別が必要である.MPO-ANCAやPR3-ANCAなどの自己抗体の有無が鑑別のポイントとなるが,再発性多発軟骨炎にもANCA陽性例が存在し,また血管炎の合併例もあるので注意が必要である.Cogan症候群はまれな疾患ではあるが,炎症性眼症状と前庭蝸牛障害を伴い,この点で再発性多発軟骨炎と鑑別が必要である.膠原病内科医,耳鼻科医と連携をとって診断を行うことが重要である.V治療1.内科的治療膠原病内科医と連携して治療にあたる.a.軽症例炎症が軽度で,耳介軟骨,鼻軟骨に限局している場合,関節炎のみの場合は,非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalanti-inflamatorydrugs:NSAIDs)が使われる.効果不十分であれば,少量の経口ステロイドを追加する.b.中等症例炎症が強く,臓器障害がみられる場合や,血管炎合併例では,経口ステロイドを用いる.プレドニゾロン30~60mg/日を初期量として,以後漸減する.減量のスピードが速いと再燃を起こす場合があり,注意が必要である.c.重症例炎症が強く,気道閉塞や重篤な機能障害,生命予後にかかわる場合は,ステロイドパルス療法を行う.d.ステロイド抵抗例ステロイド減量で炎症が再燃する場合やステロイド単剤で効果が不十分な場合には,免疫抑制薬の併用が行われる.また,ステロイド単剤では呼吸器症状の進行は阻止できないため,呼吸器症状がある場合は,早期より免疫抑制薬の使用を検討する6).免疫抑制薬としては,メソトレキセート(リウマトレックス®),シクロスポリン(ネオーラル®),シクロホスファミド(エンドキサン®)などが使われる.近年では,生物学的製剤(TNF阻害薬であるインフリキシマブやアダリムマブ,IL-1受容体拮抗薬であるアナキンラ,T細胞活性化阻害薬であるアバタセプトなど)が有効であったとの報告が増えているが,現在のところ日本では保険適用外である.2.眼局所治療強膜炎に対し,リンデロン点眼を中心とした治療を行う.ステロイドレスポンダーに注意する.前述の内科的治療と並行して行う.3.合併症に対する治療急性の気道閉塞時には緊急気管切開を要する場合がある.気道狭窄や虚脱に際してはステント留置や気管形成術が行われる.心血管病変に対して外科的治療が必要になる場合がある.心臓弁置換術や動脈瘤に対してステントや人工血管形成術が行われる.おわりに再発性多発軟骨炎はまれな疾患であるが,強膜炎,上強膜炎の鑑別疾患の一つとして忘れてはならない.眼科医の立場からも耳介軟骨炎や鼻軟骨炎,関節炎,呼吸器症状,難聴・めまい・耳鳴りなどの問診が重要である.気道病変や心血管病変は生命予後にかかわるため,再発性多発軟骨炎を疑う場合は,速やかに膠原病内科や耳鼻咽喉科にコンサルトが必要である.文献1)McAdamLP,O’HanlanMA,BluestoneRetal:Relapsingpolychondritis:prospectivestudyof23patientsandareviewoftheliterature.Medicine(Baltimore)55:193-215,19762)MichetCJJr,McKennaCH,LuthraHSetal:Relapsingpolychondritis.Survivalandpredictiveroleofearlydiseasemanifestations.AnnInternMed104:74-78,19863)IsaakBL,LiesegangTJ,MichetCJJr:Ocularandsystemicfindingsinrelapsingpolychondritis.Ophthalmology93:681-689,19864)FoidartJM,AbeS,MartinGRetal:AntibodiestotypeIIcollageninrelapsingpolychondritis.NEnglJMed299:1203-1207,19785)HanssonAS,HeinegardD,PietteJCetal:Theoccurrenceofautoantibodiestomatrilin1reflectsatissuespecificresponsetocartilageoftherespiratorytractinpatientswithrelapsingpolychondritis.ArthritisRheum44:2402-2412,20016)OkaH,YamanoY,ShimizuJetal:Alarge-scalesurveyofpatientswithrelapsingpolychondritisinJapan.InflammationandRegeneration34:149-156,20147)Sainz-de-la-MazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:Scleritisassociatedwithrelapsingpolychondritis.BrJOphthalmol,2016〔Epubaheadofprint〕8)SainzdelaMazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:Clinicalcharacteristicsofalargecohortofpatientswithscleritisandepiscleritis.Ophthalmology119:43-50,20129)WieringaWG,WieringaJE,tenDam-vanLoonNHetal:Visualoutcome,treatmentresults,andprognosticfactorsinpatientswithscleritis.Ophthalmology120:379-386,201310)KeinoH,WatanabeT,TakiWetal:ClinicalfeaturesandvisualoutcomesofJapanesepatientswithscleritis.BrJOphthalmol11:1459-1463,201011)PapoT,PietteJC,LeThiHuongDetal:Antineutrophilcytoplasmicantibodiesinpolychondritis.AnnRheumDis52:384-385,199312)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis-reportoftencases.Laryngoscope89:929-946,1979表1臨床所見の頻度McAdamLP,1976年1)(n=159)MichetCJ,1986年2)(n=112)OkaH,2014年6)(n=239)初期(%)全経過(%)初期(%)全経過(%)初期(%)全経過(%)耳介軟骨炎2688.639855778関節炎2381.136526.239鼻軟骨炎1372.424542.139眼病変1465.419519.246喉頭・気道病変1455.926481750蝸牛障害645.99303.827前庭障害413心血管障害─23.906─7.1皮膚病変─16.5728─13神経系────2.99.6腎障害─────6.7図1右耳介に生じた耳介軟骨炎耳介上部から中部にかけて発赤と腫脹を認める.図2再発性多発軟骨炎によるびまん性強膜炎強膜充血を全周性に認める.表2眼症状の頻度IsaakBL,1986年3)(n=112)OkaH,2014年6)(n=239)初期(%)全経過(%)全経過(%)強膜炎5.412.526上強膜炎13.434.8結膜炎─14.315ぶどう膜炎0.98.011視神経炎0.94.5─表3強膜炎の原因疾患Sainz-de-la-MazaM,2012年8)(n=500)WieringaWG,2013年9)(n=104)KeinoH,2010年10)(n=83)1位関節リウマチ(6.4%)関節リウマチ(13.5%)関節リウマチ(9.6%)2位HLA-B27関連ぶどう膜炎(4.8%)Wegener肉芽腫症(6.7%)再発性多発軟骨炎自己免疫性甲状腺炎(3.6%)3位Wegener肉芽腫症(2.8%)炎症性腸疾患(2.9%)強直性脊椎炎SLEWegener肉芽腫症ANCA関連血管炎(1.2%)4位再発性多発軟骨炎炎症性腸疾患に伴う関節炎(2.2%)再発性多発軟骨炎Behçet病(1.9%)図3再発性多発軟骨炎患者の胸部CT像(呼気時)左主気管支がピンホール状に狭窄している(→).図4再発性多発軟骨炎患者の胸部CT像気管壁に石灰化を認める().表4McAdamらの診断基準(1976年)1)1.両側性耳介軟骨炎2.非びらん性,血清陰性,炎症性多関節炎3.鼻軟骨炎4.眼炎症5.気道軟骨炎6.蝸牛あるいは前庭機能障害6項目のうち3項目以上が陽性.図5病理組織像(気管軟骨)軟骨周囲の炎症細胞浸潤と周囲の結合組織の増生を認める.図4再発性多発軟骨炎患者の胸部CT像気管壁に石灰化を認める().表4McAdamらの診断基準(1976年)1)1.両側性耳介軟骨炎2.非びらん性,血清陰性,炎症性多関節炎3.鼻軟骨炎4.眼炎症5.気道軟骨炎6.蝸牛あるいは前庭機能障害6項目のうち3項目以上が陽性.表5Damianiらの診断基準(1979年)12)1.McAdamらの診断基準で3項目以上が陽性2.McAdamらの診断基準で1項目以上が陽性で,確定的な病理組織所見3.軟骨炎が解剖学的に離れた2カ所以上で認められ,ステロイド/ダブソン治療に反応して改善する場合*RieTanaka&*ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕田中理恵:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(15)941942あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(16)(17)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016943944あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(18)(19)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016945946あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(20)

関節リウマチ

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):933〜940,2016関節リウマチRheumatoidArthritis中尾久美子*I関節リウマチの概要関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は関節炎を主徴とする慢性炎症性疾患であり,肺など多臓器にも病変が波及しうる全身性疾患である.日本におけるRA患者数はおよそ70万人で有病率は0.6〜1.0%,男女比は1:3〜5,好発年齢は40〜60歳1)である.免疫機能亢進を基盤とする慢性炎症性自己免疫疾患であるが,明確な病因は不明である.遺伝的要因と環境的要因が発症に関与していると考えられている.典型的には手の指や足の指などの小さい関節に左右対称性に関節炎が生じ,関節痛や関節腫脹を訴える.膝などの大きな関節が侵されることも少なくない.朝のこわばりも特徴的である.関節炎が遷延すると関節破壊と軟骨破壊が生じ,最終的には関節変形に至る.関節症状以外にも,血管炎に由来する多彩な症状がでることもある.既存のRAに血管炎をはじめとする関節外症状を認め,難治性もしくは重篤な臨床病態を伴う場合,悪性関節リウマチと定義される.II関節リウマチの診断1.診断基準これまで診断に用いられていた1987年改訂の米国リウマチ学会(AmericanCollegeofRheumatology:ACR)のRA分類基準は特異性が高いが,骨破壊が出現する以前の早期RAの診断は困難で,感度は50%以下であった.そこで早期RAを的確に診断し,可能な限りRAにおける骨破壊を抑制することを目的として2010年にACRおよび欧州リウマチ学会(EuropeanLeagueAgainstRheumatism:EULAR)が合同で新しい分類基準を発表した(表1)2).この基準では,少なくとも1つ以上の関節で腫れを伴う炎症(滑膜炎)がみられ,その原因としてRA以外の病気が認められない場合に,①症状がある関節の数,②リウマトイド因子または抗シトルリン化ペプチド抗体,③CRPまたは赤沈,④症状が続いている期間の4項目についてのそれぞれの点数を合計し,6点以上であればRAと診断する.ただし,RA以外の病気でも合計6点以上になることがあるため,点数をつける前に除外診断を確実に行うことが重要である.2.血清学的検査a.リウマトイド因子(rheumatoidfactor:RF)RFはIgGのFc部分に対するIgMクラスの自己抗体である.RA患者の70~80%で陽性となり,RAの診断上重要な検査所見である.しかし,RA以外の膠原病,慢性肝疾患,慢性感染症などの疾患でも陽性となるため,診断的特異性は低い.健常人にも数%の陽性者があり,高齢者ほど陽性率は上昇する.また,RAの発症早期にはRF陽性率は50%にすぎず,RFの早期診断的意義は低い.RF陽性RAは,陰性RAに比べて関節炎がより高度で,関節破壊の進行が早いことが報告されており,RFはRAの長期的経過や予後を判断するうえで有用である.b.抗シトルリン化ペプチド(cycliccitrullinatedpeptide:CCP)抗体RAに特異的に検出される自己抗体である.RFと比較すると感度は同等かやや高く(60~80%),特異度は非常に高い(95%).RAの発症初期から検出される.RA発症前から検出されることも報告されている.抗CCP抗体はRAの関節破壊進行と相関するという報告が多く,RFとともに関節破壊進行の危険因子と考えられている.3.画像診断関節超音波検査,磁気共鳴画像(MRI)検査は早期診断および臨床経過の評価のうえで有用である.とくに造影MRIは滑膜炎・腱滑膜炎の検出感度に優れ,骨髄浮腫の所見と併せてRAの早期診断に有用である.関節超音波法は,ベッドサイドで簡単に関節の評価が可能で,炎症を起こしている滑膜の血流をドップラ法で評価することにより,関節滑膜の質的な評価ができる.III関節リウマチの治療治療の中心となるのは薬物療法で,関節の機能を維持するためのリハビリテーション療法や,機能を回復させるための手術療法を,症状や病期の進行度にあわせて行う.薬物療法には非ステロイド系抗炎症薬,抗リウマチ薬,生物学的製剤,ステロイドがあり,この4種類の薬剤をどの時点でどのように投与するかについて,日本リウマチ学会は「関節リウマチ診療ガイドライン2014」で治療アルゴリズム(図1)を示している3).抗リウマチ薬のメトトレキサート(MTX)はアンカードラッグであり,患者がRAと診断された場合,MTXが禁忌でなければまずMTXを使うことが推奨されている.1.関節リウマチ診療ガイドライン2014日本リウマチ学会がGRADE(GradingofRecommendationsAssessment,DevelopmentandEvaluation)法を用いて作成し,2014年10月に発刊したガイドラインである3).本ガイドラインでは,治療目標を“臨床症状の改善のみならず,関節破壊の抑制を介して長期予後の改善,とくに身体機能障害の防止と生命予後の改善をめざす”としている.経済的な側面も含め総合的に患者とリウマチ専門医の協働的意思決定に基づく治療選択を行い,関節炎をできるだけ速やかに鎮静化させて寛解に導入し,寛解を長期間維持すること,合併病態を適切に管理すること,適切な外科的処置も検討すること,最新の医療情報の習得につとめることなどが治療方針として列挙されている.2.活動性の評価治療効果を判定するため,RAの疾患活動性を評価する方法としてDAS28(DiseaseActivityScore28),SDAI(simplifieddiseaseactivityindex),CDAI(ClinicalDiseaseActivityIndex)などが利用されている.それぞれ,四肢28関節の圧痛関節数,腫脹関節数,赤沈値やCRP,患者や医師の全般改善度(10cmスケールでの評価)により計算され,高活動性,中等度活動性,低活動性,寛解の4つに分類評価される.IV関節リウマチの眼病変RAの眼病変は27~39%の患者にみられ4,5),ドライアイ,角膜潰瘍,上強膜炎,強膜炎などが主な眼病変である.両眼性が多い.眼病変は罹病期間の長いRAや重症のRAに併発することが多く,重症になりやすい.また,抗CCP抗体と眼病変に有意な関連があることも報告されている5).頻度は少ないが,強膜炎や角膜潰瘍は難治で重大な視機能障害をきたす場合もあるので,リウマチ専門医と連携して治療する必要がある.白内障手術などの眼科手術を契機に強膜炎や角膜潰瘍が発症・再燃することがあるため,手術前後には免疫抑制治療を強化し,慎重な経過観察が必要である.1.ドライアイもっとも頻度の高いRAの眼病変で,RA患者の15~70%に起こる4~7).疑いまで含めると92%にドライアイがみられたという報告もある8).涙液減少による角結膜上皮障害により,眼精疲労,羞明,異物感,眼球乾燥,充血,眼痛など多彩な症状を訴える.これらの自覚症状に加え,Schirmer試験や涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)検査により涙液の異常がみられ,フルオレセイン染色やローズベンガル染色で角結膜上皮障害が確認されれば,ドライアイの診断確定となる.涙液分泌能の異常だけでなく,唾液腺または涙腺の病理検査,唾液分泌能の検査,自己抗体の検査のうち1項目以上で異常がみられ,続発性Sjögren症候群と診断される症例も10~24%ある8,9).治療:涙液を補給するため人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼液,ジクアホソルナトリウム点眼液,レバミピド点眼液を点眼する.また,重度例では抗炎症作用や炎症細胞の浸潤抑制を目的としたステロイド点眼も効果がある.点眼薬による効果が不十分な場合には涙点プラグを挿入や外科的涙点閉鎖を行う.2.角膜病変角膜病変として硬化性角膜炎,周辺部角膜潰瘍,傍中心部角膜潰瘍があり,RAの1~3%にみられる4~6).免疫複合体の角膜輪部や結膜への沈着によるIII型アレルギー反応により,組織破壊をきたすと考えられている.a.硬化性角膜炎強膜炎に引き続き,血管侵入を伴って角膜浸潤が角膜周辺部から中央部に向かって進行する炎症性角膜疾患である.強膜炎に隣接して角膜実質混濁・腫脹,角膜浸潤がみられ,浸潤は角膜輪部と平行に弧状を呈する.症状が進行し角膜浸潤が高度になった場合,角膜実質が融解し菲薄化に至ることもある10).治療:ステロイドの点眼および内服で治療する.進行の早い症例では免疫抑制薬の点眼,内服も考慮する.b.角膜潰瘍・周辺部角膜潰瘍:Mooren潰瘍に類似する.潰瘍は角膜輪部に沿って円弧状に,また角膜中央に向かって進展し,潰瘍の先端に角膜浸潤を認める.通常両眼性で,強膜炎,ドライアイを伴うことが多い.しばしば再発して角膜穿孔に至る(図2a~c).・傍中心部角膜潰瘍:角膜中央付近に潰瘍を生ずることがある.初期は自覚症状に乏しく疼痛も少ない.RAの重症例に多く,血管侵入や炎症所見がないにもかかわらず急速に角膜が菲薄化して穿孔に至る(図2d).治療:治療はステロイド点眼が主体であり,二次感染予防のため抗菌点眼薬を併用する.ドライアイを伴っていることが多いので,人工涙液点眼,涙点プラグの挿入も必要に応じて行う.重症例では免疫抑制薬や生物学的製剤(抗TNF-a抗体など)の全身投与が必要になることがある.また,抗原および浸潤細胞の除去を目的として,潰瘍に隣接する結膜を切除する治療法も有効である.角膜穿孔をきたした場合は,保存的治療として治療用ソフトコンタクトレンズの装用や眼圧下降薬の投与を行い,穿孔創が大きく保存的治療でも前房が保たれない場合は外科的治療として結膜被覆,羊膜被覆,層状角膜移植,全層角膜移植などを行う.3.上強膜炎・強膜炎上強膜炎はRAの0.2~3.7%に,強膜炎はRA患者の0.2~6.3%にみられる4~7,11).約半数が両眼性である11).角膜病変と同様,III型アレルギー反応が病態の基本で,免疫複合体が強膜血管に沈着し,補体系活性化により炎症細胞浸潤が誘導され,強膜血管炎が発生すると考えられている.a.上強膜炎結膜血管と浅在性上強膜毛細血管の充血がみられる状態で,強膜浮腫はなく,自覚症状としては軽度の異物感を訴える程度で強い眼痛はない.びまん性と可動性の結節性小隆起を伴う結節性とがある.治療:ステロイド点眼で治療する.b.強膜炎結膜や浅在性上強膜血管叢とともに深在性上強膜毛細血管叢が充血して強膜浮腫を生じ,強膜はサーモンピンクから紫がかった色調を呈する.通常,激しい眼痛を訴え,睡眠や食欲が妨げられることもある.角膜病変や軽度の虹彩炎を伴うことがあり,羞明や流涙を生じることもある.炎症の部位により前部強膜炎と後部強膜炎に分類され,前部強膜炎は炎症の形状により,びまん性,結節性,壊死性に分けられる.・びまん性強膜炎:強膜血管がびまん性に拡張して,やや暗赤色の強い充血を呈する(図3a).・結節性強膜炎:可動性のない,硬い結節がみられる強膜炎で,結節は輪部付近の強膜にみられることが多い(図3b).びまん性や結節性の前部ぶどう膜炎では,再燃を繰り返すとその部位の強膜が菲薄化して眼球内のぶどう膜炎が透見されるようになり,強膜が青黒くなることがあるが,強膜穿孔はほとんど起こさない.・壊死性強膜炎:壊死性強膜炎は,炎症を伴う壊死性強膜炎と伴わない強膜軟化症に分類される.炎症を伴う壊死性強膜炎では充血と疼痛を訴え,充血部位に囲まれた黄白色の強膜および結膜の虚血部位が認められる(図3c).強膜軟化症は充血や疼痛などの症状がないにもかかわらず,突然強膜に壊死病巣がみられるもので,初期には充血の少ない虚血性の黄白色結節形成がみられる.いずれも虚血部は強膜が菲薄化し,進行するとぶどう膜が黒く透見され,強膜穿孔を起こしやすい(図3d).治療が困難で視力予後不良となる場合が多い.・後部強膜炎:前部強膜炎を伴う場合が多い.眼の奥の痛みや眼球運動痛があり,超音波検査やCT,MRIで眼球後壁の肥厚や球後組織の浮腫がみられる.超音波検査ではTenon囊の浮腫を示すecho-lucentareaが視神経周囲でみられるとTサインとよばれる.強膜の炎症の波及により滲出性網膜剝離,乳頭腫脹,脈絡膜皺襞,網膜血管炎を合併することがあり,それらによる視力低下をきたすことがある(図4).治療:びまん性や結節性前部強膜炎ではまずステロイド点眼治療を行う.ステロイド点眼に反応しない場合は,トリアムシノロンアセトニドの結膜下注射を追加する.炎症部位に接して少量(0.05~0.1ml)結膜下注射し,効果不十分なら注射を追加する.眼圧上昇に注意する.ステロイド局所治療が効果不十分の場合,シクロスポリン点眼の併用も考慮する.局所治療に反応しない場合や,壊死性強膜炎や後部強膜炎ではステロイド全身投与を行う.通常,プレドニゾロン内服を0.5~1.0mg/kg/日から開始し,重症例ではステロイドパルス療法を行う.ステロイド減量で再発する場合やステロイド内服しても効果が不十分な場合は免疫抑制薬(シクロスポリンやメトトレキサート)の併用が必要となる.難治性強膜炎に対して抗TNF-a抗体や抗CD20抗体などの生物学的製剤の有効性が報告されており,免疫抑制薬治療に抵抗する難治症例では適応を検討する必要がある.薬物治療が奏効せずに強膜軟化が進行あるいは強膜穿孔した場合は,健常部も含めた軟化病巣切除と保存強膜や保存角膜による被覆術を行う.4.眼底病変眼底病変は稀であるが,網膜血管炎が0.5~4.4%にみられ,血管炎によると考えられる網膜綿花状白斑,網膜動脈閉塞症,網膜静脈閉塞症,虚血性視神経症などが報告されている7,12~16).また,検眼鏡的に所見がなくても,フルオレセイン蛍光眼底造影検査をすると18%に網膜血管炎がみられる17).RA患者の網膜静脈径は拡大しており,網膜血管径が拡大している症例では心疾患を合併する率が高いという報告や,RA患者の脈絡膜は健常人に比べて厚く,脈絡膜厚はRFと相関しているという報告があり,網膜静脈径や脈絡膜厚が全身的な血管炎の指標になる可能性が示唆されている18~20).5.抗TNFa抗体と眼病変抗TNFa抗体はRAの治療に用いられる薬剤であり,また強膜炎やぶどう膜炎の治療にも有用であることが報告されているが,抗TNFa抗体の一つであるエタネルセプトにより強膜炎やぶどう膜炎,眼筋炎を発症することが報告されている21,22).エタネルセプトで治療中のRAに強膜炎がみられた場合はエタネルセプトの副作用の可能性を考えて他の抗TNFa抗体に変更することを検討する必要がある.文献1)YamanakaH,SugiyamaN,InoueEetal:EstimatesoftheprevalenceofandcurrenttreatmentpracticesforrheumatoidarthritisinJapanusingreimbursementdatafromhealthinsurancesocietiesandtheIORRAcohort(I).ModRheumatol24:33-40,20142)AletahaD,NeogiT,SilmanAJetal:2010rheumatoidarthritisclassificationcriteria:anAmericanCollegeofRheumatology/EuropeanLeagueAgainstRheumatismcollaborativeinitiative.AnnRheumDis69:1580-1588,20103)日本リウマチ学会:関節リウマチ診療ガイドライン2014.メディカルレビュー社,東京,20144)ZlatanovićG,VeselinovićD,CekićSetal:Ocularmanifestationofrheumatoidarthritis-differentformsandfrequency.BosnJBasicMedSci10:323-327,20105)VigneshAP,SrinivasanR:Ocularmanifestationsofrheumatoidarthritisandtheircorrelationwithanti-cycliccitrullinatedpeptideantibodies.ClinOphthalmol9:393-397,20156)ArtifoniM,RothschildPR,BrézinAetal:Ocularinflammatorydiseasesassociatedwithrheumatoidarthritis.NatRevRheumatol10:108-116,20147)MatsuoT,KonoR,MatsuoNetal:Incidenceofocularcomplicationsinrheumatoidarthritisandtherelationofkeratoconjunctivitissiccawithitssystemicactivity.ScandJRheumatol26:113-116,19978)FujitaM,IgarashiT,KuraiTetal:Correlationbetweendryeyeandrheumatoidarthritisactivity.AmJOphthalmol140:808-813,20059)AnteroDC,ParraAG,MiyazakiFHetal:SecondarySjögren’ssyndromeanddiseaseactivityofrheumatoidarthriti.RevAssocMedBras57:319-322,201110)松本雄介:硬化性角膜炎.前眼部アトラス(大鹿哲郎編)眼科プラクティス18,p254,光文堂,200711)AkpekEK,ThorneJE,QaziFAetal:Evaluationofpatientswithscleritisforsystemicdisease.Ophtahlmology111:501-506,200412)MatsuoT,KoyamaT,MorimotoNetal:Retinalvasculitisasacomplicationofrheumatoidarthritis.Ophthalmologica201:196-200,199013)MartinMF,ScottDG,GilbertCetal:Retinalvasculitisinrheumatoidarthritis.BrMedJ(ClinResEd)282:1745-1746,198114)MatsuoT:Multipleocclusiveretinalarteritisinbotheyesofapatientwithrheumatoidarthritis.JpnJOphthalmol45:662-664,200115)PericS,CerovskiB,PericP:Anteriorischaemicopticneuropathyinpatientwithrheumatoidarthritis–casereport.CollAntropol25Suppl:67-70,200116)CromptonJL,IyerP,BeggMW:Vasculitisandischaemicopticneuropathyassociatedwithrheumatoidarthritis.AustJOphthalmol8:219-239,198017)GiordanoN,D’EttoreM,BiasiGetal:Retinalvasculitisinrheumatoidarthritis:anangiographicstudy.ClinExpRheumatol8:121-125,199018)VanDoornumS,StricklandG,KawasakiRetal:Retinalvascularcaliberisalteredinpatientswithrheumatoidarthritis:abiomarkerofdiseaseactivityandcardiovascularrisk?Rheumatology50:939-943,201119)MoiJH,HodgsonLA,WicksIPetal:Suppressionofinflammatorydiseaseactivityinrheumatoidarthritisisassociatedwithimprovementsinretinalmicrovascularhealth.Rheumatology(Oxford)55:248-251,201620)TetikogluM,TemizturkF,SagdikHMetal:Evaluationofthechoroid,fovea,andretinalnervefiberlayerinpatientswithrheumatoidarthritis.OculImmunolInflamm30:1-5,201521)TabanM,DuppsWJ,MandellBatal:Etanercept(enbrel)-associatedinflammatoryeyedisease:casereportandreviewoftheliterature.OculImmunolInflamm14:145-50,200622)Gaujoux-VialaC,GiampietroC,GaujouxTetal:Scleritis:aparadoxicaleffectofetanercept?Etanercept-associatedinflammatoryeyedisease.JRheumatol39:233-239,2012表12010ACR⊘EULAR関節リウマチ分類基準以下の2項目を満たす患者を対象とする1)少なくとも1カ所の活動性臨床的滑膜炎(関節腫脹)を有する2)上記の関節腫脹をよりよく説明できるRA以外の疾患が存在しないRA分類基準(A~Dのカテゴリーの合計点が10点中6点以上の場合にRA確実例と分類する)スコアA腫脹関節数1個の中~大関節02~10個の中~大関節11~3個の小関節24~10個の小関節311関節以上(少なくとも1個の小関節を含む)5B血清学的所見(リウマトイド因子または抗CCP抗体)RF,抗CCP抗体いずれも陰性0RF,抗CCP抗体いずれか低値陽性(≦基準値の3倍)2RF,抗CCP抗体いずれか高値陽性(>基準値の3倍)3C急性期反応(CRPまたはESR)CRPもESRも正常0CRP,ESRいずれかの上昇1D臨床症状の持続期間6週間未満06週間以上1ACR/EULAR:米国リウマチ学会/ヨーロッパリウマチ学会(文献2より改変引用)PhaseⅠPhaseⅡPhaseⅢ関節リウマチと診断短期間のみ少量のステロイドを追加してよいPhaseⅡへ進む治療目標を6カ月以内に達成継続±NoNoYesPhaseⅠが効果不十分または副作用で継続できず生物学的製剤を追加投与TNF阻害薬トシリズマブアバタセプト次の従来型抗リウマチ薬を選択する(1剤または複数)(ステロイドの併用可能)治療目標を6カ月以内に達成PhaseⅢへ進む継続予後不良因子ありRF/抗CCP抗体陽性高疾患活動性早期の関節破壊予後不良因子がないPhaseIIが効果不十分または副作用で継続できず生物学的製剤を変更する1st→2nd→3rd…治療目標を6カ月以内に達成治療目標を6カ月以内に達成トファシチニブ(±抗リウマチ薬)継続生物学的製剤+従来型抗リウマチ薬YesNoYesNo他の生物学的製剤+従来型抗リウマチ薬±YesYesNoMTXが禁忌ではないMTXが禁忌MTXを開始する効果不十分の場合は従来型抗リウマチ薬を併用する従来型抗リウマチ薬を開始する効果不十分の場合は他の従来型抗リウマチ薬を併用する他の生物学的製剤+従来型抗リウマチ薬図1関節リウマチ診療ガイドライン2014治療アルゴリズム(文献3より改変引用)図2関節リウマチの角膜潰瘍a:周辺部角膜潰瘍.b:強膜炎を伴う周辺部角膜潰瘍.充血が強い部分に接して角膜潰瘍と角膜浸潤がみられる.c:周辺部角膜潰瘍の穿孔.虹彩が嵌頓している.d:傍中心部角膜潰瘍.穿孔して虹彩が嵌頓している.図3関節リウマチの前部強膜炎a:びまん性前部強膜炎.b:結節性前部強膜炎.可動性のない隆起病変がみられる.c:壊死性強膜炎.10時方向輪部強膜に白色の虚血部がみられ,広い範囲に周辺部角膜潰瘍を伴っている.d:壊死性強膜炎後に強膜が菲薄化し,ぶどう膜が透けてみえる.図4関節リウマチの後部強膜炎a:前部強膜炎を伴っており,充血が球後へ続いている.b:上方に脈絡膜皺襞と滲出性網膜剝離がみられる.c:超音波検査で眼球後壁の肥厚がみられ,球後組織の浮腫がecho-lucentareaとして観察される.*KumikoNakao:鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系〔別刷請求先〕中尾久美子:〒890-8544鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(7)933934あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(8)(9)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016935936あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(10)(11)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016937938あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(12)(13)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016939940あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(14)

HLA-B27関連ぶどう膜炎と脊椎関節炎

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):929〜932,2016HLA-B27関連ぶどう膜炎と脊椎関節炎HLA-B27-associatedUveitisandSpondyloarthritis酒井勉*IHLA遺伝子群多様性と疾患との関連Humanleukocyteantigen(HLA)はT細胞受容体に対して抗原ペプチドを提示する分子であり,免疫疾患をはじめとして,多数の疾患の感受性に関連する.HLAB27は,急性前部ぶどう膜炎,強直性脊椎炎,反応性関節炎(Reiter症候群)との強い関連で知られている.1.HLA-B27関連ぶどう膜炎a.HLA-B27関連ぶどう膜炎とはHLA-B27関連ぶどう膜炎は一般的に急性の前眼部炎症が主体であるため,HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎(acuteanterioruveitis:AAU)と称される.全身疾患が関連する場合とそうでない場合があり,おもな全身疾患として強直性脊椎炎,反応性関節炎(Reiter症候群),潰瘍性大腸炎,乾癬がある.b.疫学・頻度発症率は,人種により異なる.欧米では前部ぶどう膜炎の18~32%が,アジアでは6~13%がHLA-B27関連AAUであると報告されている1).日本人ではHLAB27陽性者は少なく,中国・韓国人と比較してHLAB27関連AAUの発症率は低いと考えられている.c.男女比・発症年齢男性に多く,女性の1.5~2.5倍みられる.発症年齢は20~40歳に多い.d.症状HLA-B27関連AAUの臨床的特徴として,急性発症,片眼性,非肉芽腫性,フィブリン析出,前房蓄膿,高頻度の再発があげられる.全身疾患と関連することも多く,最初の徴候が眼症状の可能性もあり,内科医へのコンサルトも含め,慎重な経過観察を要する.眼合併症としてよくみられるのは,虹彩後癒着,高眼圧,後囊下白内障,続発緑内障であり,慢性前部ぶどう膜炎へ移行する場合もある.後眼部にびまん性硝子体炎や囊胞様黄斑浮腫(図1)がみられることがあり,重篤な視力障害をきたす場合もある1).e.診断・検査血液検査で,CRPや血沈の上昇がみられることが多い.リウマトイド因子や抗核抗体は陰性である.HLAB27の有無をみるためHLA遺伝子型の検査を行うが,保険収載はされていない.f.治療HLA-B27関連AAUの治療は,ステロイド薬と散瞳薬点眼の併用治療が中心である.難治性の場合や後眼部病変を併発した場合には,トリアムシノロンアセトニドの後部Tenon囊下注射(図2)やステロイド薬の全身投与が有効である.一方,欧米では,TNF(tumornecrosisfactor)阻害薬であるインフリキシマブ(レミケード®)やアダリムマブ(ヒュミラ®)が使用され.本疾患に対する治療効果が高いことが示されている1,2).とくに全身疾患と関連する場合には,眼外症状にも著効することから,メリットが大きいと考えられる.g.予後虹彩後癒着,炎症の再燃,慢性前部ぶどう膜炎への移行,ステロイド薬温存,ステロイド薬局所注射歴,男性は視力低下の危険因子である1,2).しかし,一般的には視力予後がよい.2.強直性脊椎炎a.強直性脊椎炎とは強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis)は,脊椎や仙腸関節,股関節や肩の関節などに炎症を起こす脊椎関節炎の代表的な疾患である.病因は明らかではないが,HLA-B27との関連性が指摘されている.b.疫学・頻度発症率は,人種により異なることが知られている.一般的に白人では0.5%,日本人ではその10分の1以下であると考えられている3).HLA-B27との関連性が指摘されているが,日本人ではHLA-B27陽性者は少なく,強直性脊椎炎も欧米に比べてまれである.一方で,中国人・韓国人には日本人と比較してHLA-B27陽性者が多く,発症率も高いことが知られている.c.男女比・発症年齢海外では90%以上の症例でHLA-B27が陽性であることが知られている.発症年齢は10~35歳に多く,45歳以上で発症することは比較的まれである.男性に多いが,女性にもみられる.d.症状本疾患では,腰痛や臀部の痛みが主症状であることが多いが,痛みは急でなく徐々に進行する.適度な運動をすると痛みが楽になり,動かさないでいると悪くなるのが特徴で,夜間や朝方に強い痛みが起こる.また,症状に波があるのも特徴で,激痛が数日続きその後は痛みがほとんどなくなることもある.また,腱が骨につく付着部に炎症が起こることがある.脊椎や関節以外では,急性前部ぶどう膜炎(図3)が約3分の1にみられる.全身的には,初期には体重減少,疲労感,発熱などがみられる.e.診断・検査強直性脊椎炎は改訂ニューヨーク診断基準を用いて診断する(表1).血液検査で,CRPや血沈の上昇がみられることが多い.リウマトイド因子や抗核抗体は陰性である.HLA-B27の有無をみるためHLA遺伝子型の検査を行うが,保険収載はされていない.画像検査として,脊椎や仙腸関節のX線の検査を行う.f.治療強直性脊椎炎の治療は,従来,薬物療法と運動・理学療法が中心であった.薬物療法は,痛みに対しては非ステロイド性抗炎症薬が,局所の炎症に対してはステロイド薬の局所注射薬が用いられる.一方,わが国では,2010年にTNF阻害薬であるインフリキシマブ(レミケード®)とアダリムマブ(ヒュミラ®)が強直性脊椎炎に対して保険適用となった.本疾患に対する治療効果は高く,ほとんどの症例で痛みの改善効果が認められた.筆者らの施設でも,TNF阻害療法施行ガイドライン(2010年10月改訂版,表2)4)に則り,急性前部ぶどう膜炎を併発した強直性脊椎炎に対してインフリキシマブを使用した経験があるが,強直性脊椎炎の痛みとぶどう膜炎に著効し,QOLの著しい向上を得ることができた.薬剤の副作用として,感染症には十分留意しなければいけないが,内科医との緊密な連携かつ定期的なモニタリングを継続することで,長期的に疾患活動性のコントロールが可能となると考えられている.g.予後数年以上かけて徐々に脊椎の強直が起こり,背骨の動きが制限される.3.反応性関節炎(Reiter症候群)a.反応性関節炎とは関節以外の部位の細菌感染症後に起こる関節炎.以前はReiter症候群とよばれていた.発症に関与する細菌として,クラミジア菌,サルモネラ菌,赤痢菌,エルシニア菌,カンピロバクターなどが知られている.b.疫学・頻度欧米白人での発症頻度は,人口10万人当たり年間4~6人と推定されている.しかし,わが国のHLA-B27陽性者は1%以下で,欧米白人の7~14%に比べてはるかに低いので,反応性関節炎の頻度も欧米と比べてはるかに少ないと考えられている.c.男女比・発症年齢発症年齢は20歳前後に圧倒的に多いが,小児から80歳まであらゆる年齢層に発症する.性差は5~6:1で圧倒的に男性に多い.d.症状脊椎関節炎,無菌性尿道炎,結膜炎の三主徴を特徴とする.・脊椎関節炎:関節炎は細菌感染後,2~4週後に発症する.関節炎は膝・足関節などの下肢の関節に多く認められ,単関節あるいは少関節炎にしか起こらない.仙腸関節炎では腰部から臀部にかけて軽度の痛みがみられる.腱付着部炎は足底腱膜起始部,アキレス腱付着部に好発し,強い痛みを伴う.・非淋菌性尿道炎:排尿時痛と粘性膿性分泌物を伴う.・結膜炎:結膜の発赤と充血がみられる.e.診断・検査確立した診断基準はなく,細菌感染2~4週後に発症する一過性の脊椎関節炎でHLA-B27陽性率が高いことから診断する.特異的な検査所見はなく,血清リウマトイド因子,抗核抗体は陰性である.HLA-B27は60~80%で陽性になる.活動性を反映して炎症反応(赤沈,CRP)は亢進する.f.治療多くが自然に軽快するが,通常は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を用いる.ただし症状が遷延化する例には,サラゾスルファピリジンやメトトレキサートなどの抗リウマチ薬を用いることがある.上記の治療で改善しない場合はTNF阻害薬が有効である.g.予後一過性で自然に治癒ずるが,約20%の症例では遷延化・慢性化する脊椎関節炎に移行することが報告されている3).文献1)ChangJH,McCluskeyPJ,WakefieldD:AcuteanterioruveitisandHLA-B27.SurveyofOphthalmology50:364-388,20052)LohAR,AcharyaNR:IncidenceratesandriskfactorsforocularcomplicationsandvisionlossinHLA-B27-associateduveitis.AmJOphthalmol150:534-542.e2,2013)BraunJ,SieperJ:Ankylosingspondylitis.Lancet369:1379-1390,2004)日本リウマチ学会ホームページ図1HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎に併発した黄斑浮腫光干渉断層計で囊胞様黄斑浮腫と漿液性網膜剝離がみられた.図2トリアムシノロンアセトニドTenon囊下注射前後の光干渉断層計所見トリアムシノロンアセトニドTenon囊下注射後,囊胞様黄斑浮腫と漿液性網膜剝離の消退がみられた.図3強直性脊椎炎に合併した急性前部ぶどう膜炎表1改訂ニューヨーク診断基準I.臨床症状1.腰背部の疼痛,こわばり(3カ月以上持続),運動により改善し,安静により軽快しない2.腰椎の可動域制限(前後屈および側屈)3.胸郭の拡張制限II.仙腸関節のX線所見両側2度以上,または片側3度以上の仙腸関節炎所見0度正常1度疑い(骨縁の不鮮明化)2度軽度(小さな限局性の骨びらん,硬化,関節裂隙は正常)3度明かな変化(骨びらん・硬化の進展と関節裂隙の拡大,狭小化または部分的な強直)4度関節裂隙全体の強直III.診断基準1.確実例臨床症状のうちの1項目以上+X線所見2.疑い例a)臨床症状3項目b)臨床症状なし+X線所見表2TNF阻害療法対象患者改訂ニューヨーク診断基準によって強直性脊椎炎の確実例と診断され,NSAID通常量を3カ月以上継続して使用してもコントロール不良の強直性脊椎炎患者.コントロール不良の目安として,以下を満たす者.・BASDAI(BathAnkylosingSpondylitisDiseaseActivityIndex)スコア2)が4以上忍容性に問題があり,NSAIDsが使用できない場合も使用を考慮する.さらに日和見感染症の危険性が低い患者として以下の3項目も満たすことが望ましい.・末梢血白血球数4,000/mm3以上・末梢血リンパ球数1,000/mm3以上・血中b-D-グルカン陰性*BASDAI(BathAnkylosingSpondylitisDiseaseActivityIndex)スコア以下のA)~F)についてVAS(10cmスケール)により評価し,以下の計算式で算出した値(0~10)とする.BASDAI=0.2(A+B+C+D+0.5(E+F))A)疲労感の程度B)頚部や背部~腰部または臀部の疼痛の程度C)上記B以外の関節の疼痛・腫脹の程度D)触れたり押したりしたときに感じる疼痛の程度E)朝のこわばりの程度F)朝のこわばりの継続時間(0~120分)(TNF阻害療法施行ガイドラインより)*TsutomuSakai:東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕酒井勉:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(3)929930あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(4)(5)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016931932あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(6)

序説:全身疾患と眼:これがホットなトピックス!

2016年7月31日 日曜日

●序説あたらしい眼科33(7):927〜928,2016全身疾患と眼:これがホットなトピックス!SystemicDiseaseandtheEye:HotTopics大黒伸行*岡田アナベルあやめ**もし先生方のお手元に「眼科研修医ガイドライン(平成27年度版)」がありましたらご覧いただきたいのですが,そこには数多くの全身疾患が記載されております.また,表1に示しますように,眼炎症疾患だけでも多くの全身疾患がその原因となっております.加えて,平成29年度から施行されます新専門医制度では,眼科医も全身管理の講習受講が必須となっており,眼科医も全身疾患に関する知識が求められる時代となってまいりました.一方,眼科学発展の歴史を振り返りますと,医療機器の進歩,手術装置・手技の発展,診断学の進歩(これには基礎医学の発展による病態認識の深まりが重要な役割を果たしております),病態の解明とそれに基づく新しい薬物治療の開発,これらの要素が組み合わさり進歩してきたことがわかります.しかし,その時代時代でスポットライトが照らす要素が異なっていることも事実です.少し前まで眼科学の進歩の中心は手術装置・手技の発達でしたが,近年では,新しい薬物治療や画像診断機器の進歩が中心となってきております.分子標的診断や画像診断の進歩と同時に,新しい生物製剤が次々と開発され,炎症性疾患や黄斑疾患に対する診療が近年急速に発展・変化しております.同時に,これら生物製剤を使いこなすには感染症に関する知識も必要です.このように,とくに眼炎症性疾患や網膜疾患を日常診療している医師は,常に最新情報を取り込む必要があります.そこで,これら最近の変化のなかでもとくに注目すべきホットなトピックスを,本特集でご紹介したいと思います.本特集でとりあげる疾患は,リウマチ関連疾患,結核や梅毒というような過去の疾患と思われていた感染症および最近また増加傾向にあるといわれているAIDS,IgG4関連疾患や癌関連疾患のような最近その病態が明らかとなってきた疾患,薬物による眼毒性の最新知見です.どれもややマイナーな疾患であると思われがちですが,それでも上手にマネージしないと,患者にとっては重大な視機能低下あるいはQOL低下が生じる可能性があります.この領域を専門とする先生方に各疾患の概念,最新の内科的な診断および治療を紹介していただき,次に眼における病態や治療について概説していただきます.炎症性眼疾患を専門としない眼科医の先生方にとっても,免疫疾患や感染症における内科的な知識をアップデートする良い機会だと思いますので,ぜひご一読ください.文献1)OhguroN,SonodaK-H,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,2012表12009年日本眼炎症学会疫学調査結果1)サルコイドーシス407例(10.7%)原田病267例(7.0%)急性前部ぶどう膜炎250例(6.6%)強膜炎235例(6.2%)ヘルペス性虹彩炎159例(4.2%)Behçet病149例(3.9%)細菌性眼内炎95例(2.5%)仮面症候群95例(2.5%)Posner-Schlossman症候群69例(1.8%)網膜血管炎61例(1.6%)糖尿病虹彩炎54例(1.4%)結核性ぶどう膜炎54例(1.4%)急性網膜壊死53例(1.4%)トキソプラズマ症48例(1.3%)一過性多発性白点症候群40例(1.1%)真菌性眼内炎39例(1.0%)サイトメガロウイルス網膜炎37例(1.0%)ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)-I関連ぶどう膜炎29例(0.7%)炎症性腸疾患に関連したぶどう膜炎28例(0.7%)多発性後部網膜色素上皮症28例(0.7%)他の全身疾患に合併したぶどう膜炎27例(0.7%)周辺部ぶどう膜炎26例(0.7%)多発性脈絡膜炎23例(0.7%)Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎21例(0.7%)その他223例(7.0%)分類不能1,191例(38.9%)計3,060例(100%)(文献1より一部改変)*NobuyukiOhguro:JCHO大阪病院眼科**AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(1)927928あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(2)