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My boom 51.

2016年4月30日 土曜日

連載Myboom監修=大橋裕一第51回「村木早苗」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介村木早苗(むらき・さなえ)滋賀医科大学眼科私は平成5年3月に大阪医科大学医学部を卒業し,滋賀医科大学眼科学教室に入局しました.初代教授である稲富昭太先生のご専門でもあり,伝統的に続いていた斜視外来を医局の人員不足?でわずか入局3年目から引き継ぐこととなり,それが縁で現在も斜視を専門のひとつとしています.また,入局6年目で色覚の遺伝子についての研究に携わることができ,現在は臨床でも色覚外来を担当しています.色覚外来ではヒトの視機能の奥深さにいつも新鮮な驚きを感じています.中学時代は陸上部,大学時代はバスケットボール部で,どちらかというと体育会系ですが,現在はまったくの運動不足です.臨床のMyboom:「斜視視能訓練」今,もっとも興味をもっているのは斜視視能訓練です.ご存知のように斜視治療の目的は,整容面の改善と視機能の改善にあります.たとえば間欠性外斜視の場合,正位では両眼視機能が良好であるのに,斜視のときに複視を自覚していない症例が多くみられます.これは斜視眼に抑制がかかっているということです.この抑制が残存したまま手術を行っても,眼位がくずれたときに複視の自覚がないために戻りやすいと考えられています.斜視視能訓練は,斜視になれば複視があることを自覚させ,斜視を斜位に持ち込むための訓練です.斜視角が小さい場合は訓練のみで改善できますが,斜視角が大きい場合は手術との併用が必要です.感覚面の訓練には抑制除去訓練,生理的複視認知訓練,融像訓練,運動面の訓練には輻湊訓練があります.抑制除去訓練では,抑制を除去するために斜視眼を遮閉し,斜視眼の網膜に何も投影されないようにします.つまり,物を見ていなかったら複視が生じませんから,そもそも抑制がかからないわけです.まず暗室で,遮閉していた目を一瞬開放します.そうすれば抑制がかかる前に斜視眼が像を認知し,複視を自覚します.訓練を繰り返していくことで抑制野が徐々に小さくなり,複視を自覚しやすくなっていきます.左右眼それぞれからの入力信号が脳内でお互いに影響し合っていることがよくわかる現象です.つまりヒトは脳で見ているのです!滋賀医科大学では今まで斜視視能訓練を積極的に行っていなかったのですが,学会で訓練の講演を聴き興味をもちました.しかし,視能訓練は基本的には視能訓練士の仕事です.そのため,近畿大学医学部堺病院の視能訓練士,松本富美子さんにお願いし,当院の視能訓練士にご指導いただきました.このように周りも十分巻き込みつつ,当院での斜視視能訓練が始動したわけです.まずは外斜視の手術前後の訓練を行っています.検査では優れた両眼視機能が検出されているにもかかわらず,外斜視術後にすぐに戻ってしまう症例と戻りが少ない症例の違いは,両眼視機能という土台の強固さの違いにヒントがあるのかもしれません.訓練は両眼視機能の強化,いわゆる基礎固めをするためのものだと思います.訓練後の手術は,訓練効果を台無しにしないように……というプレッシャーもありますが,むしろ土台がしっかりしている上に家を建てるようなものですから安心です.患者さんのためになるなら……という思いで斜視視能訓練を始めましたが,数年後には訓練の効果によって術後の戻りが本当に抑制されるのか,自分の目で検証したいと考えています.プライベートのMyboom:「大型犬とログハウス」7年前に大学時代の後輩から犬を譲り受けました.その後輩に犬を欲しいといった覚えはまったくなかったのですが,「子犬が産まれたので1匹いかがですか?」と聞かれ,気がついたら飼うことになっていました.犬種はベルジアングローネンダールです.私も飼うまでこんな犬種がいることすら知りませんでした.もともとは狼とシェパードをかけ合わせてできた犬種のようで,かなり原種に近く,どちらかというと愛玩動物というよりは野生味溢れた「狼」を飼っているという感じです.体重は約30kgの大型犬で,黒色の長毛です.人なつこいことはなく,気難しく,神経質,それでいて家族には甘えん坊で一人(一匹?)になるのをとても嫌います.頭が良く,ヨーロッパでは番犬や警察犬です.このような習性ですから,宅急便でも来ようものなら激しく吠えたてます.吠えて立ち上がる姿はツキノワグマさながらで,知らない人が見たら殺されるのではないかというくらい恐ろしいです.そのため荷物を受け取る前に犬をケージに入れるという作業をしてからでないと動けません.最近では,お客様が来たらケージに入るというのを覚えて,自分で吠えながらケージに入っていきます(笑).ですので,飼い主が鍵をかけるだけですみます.犬を飼ってから,住み慣れた故郷を散歩することが多くなり,そこに家(ログハウス)を建てることになりました.このログハウスの住み心地についてもお話したいと思います.ログハウスは木のぬくもりの優しい家です.冬はとにかく暖かいです.外が氷点下でも中は10(78)度を切ったことがありません.また,薪ストーブを炊けば,木のはぜる音と香り,そして他では味わえないぬくもりでからだの芯まで温まります.また,前の日にどんな料理をしても,翌日はまったく匂いが残りません.きっと木が浄化してくれているのだと思います.ところで夏は涼しいのか?ということですが,夏は普通の家と同じように暑いです.つまり万能ではありません.2階の足音はまともに階下に響くので大家族の場合は少し気になると思います.また,建ててから2年くらいは木が縮むので,ドアが閉まらなくなったりします.それを加味した設計ですが,雨で濡れたりもしますから,なかなか思い通りにはいきません.でも総合的には屋根も高く,木の香りいっぱいで,森林浴さながらのこんなに気持ちいい家はなかなかないと思います.広いロフトの窓際で眼下の景色を眺めながら,あるいは薪ストーブのそばでゆっくりワインでも飲んで大好きな読書をするのが憧れでした.薪ストーブに大型犬…….絵に書いたように材料は整い,いつでもすぐにできそうな夢なのに,何かと忙しくて未だに夢叶わず…….次のプレゼンターは福島医科大学の森隆史先生です.森先生は同じ分野でご活躍されている先生です.学会ではよく一緒にお酒を飲んで,大学のことなどを話しています.関西のノリに非常によく乗ってくれる楽しい先生です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.写真1訓練を頑張ってくれている滋賀医大の視能訓練士さんたちと写真2ログハウスと愛犬「ゴン太」とともにあたらしい眼科Vol.33,No.4,2016559(77)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY560あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(78)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 155.加齢黄斑変性に伴う出血性網膜剝離に対する意図的巨大裂孔作製による血腫除去術(上級編)

2016年4月30日 土曜日

●連載155硝子体手術のワンポイントアドバイス155加齢黄斑変性に伴う出血性網膜剝離に対する意図的巨大裂孔作製による血腫除去術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに加齢黄斑変性(AMD)あるいはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に併発した黄斑部網膜下血腫に対する治療法としては,硝子体内ガス注入による血腫移動術や,後極部意図的裂孔からの血腫除去術などが報告されている.しかし,多量の網膜下血腫により出血性網膜剝離をきたした例では,これらの方法では視力改善を得ることが困難である.筆者らは出血性網膜剝離を併発したAMDあるいはPCVに対して,耳側に約120°の意図的巨大裂孔を作製し,出血および網膜下増殖組織を除去する方法を報告した1).●手術方法有水晶体眼では,まず水晶体を切除したのち,硝子体切除,人工的後部硝子体剝離作製を行う(図1a).次に,耳側周辺部に約120°の意図的巨大裂孔を作製し(図1b),網膜を翻転して網膜下出血および脈絡膜新生血管を含む増殖組織を除去する(図1c).この際に直視下での双手法により網膜色素上皮を可能なかぎり温存する.その後,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展し(図1d),裂孔周囲に眼内光凝固を行い,液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを置換する.筆者らが報告した12眼では,全例で網膜下出血および増殖組織が除去でき,眼底所見は改善した.後極部の網膜色素上皮の欠損が広範な1眼を除いて全例で視力は改善し,黄斑部の網膜色素上皮が温存できた3例では術後に0.4以上の視力が得られた(図2).●本術式の利点と欠点本術式の利点は,多量の網膜下出血を確実に吸引除去できることに加えて,直視下で脈絡膜新生血管を含む増殖組織を抜去するため,網膜色素上皮の欠損を最小限にできることである.一方,本術式は通常の術式に比べると,意図的巨大裂孔を作製するために侵襲が大きくなるといった欠点もある.とくに確実に人工的後部硝子体剝離を作製しておかないと,術後に網膜剝離をきたす危険が高くなる.本術式は,2象限以上に及ぶ出血性網膜剝離を有する症例がよい適応と考えられる.硝子体出血併発例では,術前に超音波Bモード検査を念入りに施行し,胞状の出血性網膜剝離が疑われた場合には適応を考えてよいと思われる.図1手術方法a:確実に人工的後部硝子体剝離を作製する.b:耳側周辺部に約120°の意図的巨大裂孔を作製する.c:網膜を翻転して網膜下出血および脈絡膜新生血管を含む増殖組織を除去する.d:液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展しシリコーンオイルを置換する.図2黄斑下の色素上皮が温存できた症例a:術前に多量の網膜下血腫を認め,下方2象限は胞状の出血性網膜剝離が生じていた.b:術後,黄斑部の色素上皮が温存でき,矯正視力は1.0に改善した.耳側には意図的巨大裂孔を認める.文献1)IsizakiE,MorishitaS,SatoTetal:Treatmentofmassivesubretinalhematomaassociatedwithage-relatedmaculardegenerationusingvitrectomywithintentionalgianttear.IntOphthalmol2015[Epubaheadofprint]あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016557(75)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:眼類天疱瘡と結膜変化

2016年4月30日 土曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人13.眼類天疱瘡と結膜変化稲富勉京都府立医科大学眼科学教室眼類天疱瘡は結膜の瘢痕性変化を特徴とした自己免疫性疾患である.中高年齢層に発症し,慢性結膜炎や結膜囊短縮を示しながら緩徐に進行する.結膜炎症が悪化すると角膜上皮幹細胞疲弊や重度ドライアイに至り,難治性の予後をたどる.そのため早期診断や慢性期の治療が重要となる.●眼類天疱瘡の病態結膜上皮細胞の基底膜に対する自己免疫反応が原因で,上皮基底膜には免疫グロブリン(IgG,IgM)や補体C3の沈着が観察される.基底膜成分に対するさまざまな自己抗体が報告されているが(表1),結膜ではインテグリンb4がターゲットになることが多い.●結膜上皮の変化と杯細胞の消失結膜の高度炎症と増殖性変化を認め,病理的にはリンパ球や形質細胞を主体とした細胞浸潤を上皮から上皮下組織に認める(図1).表層上皮はドライアイの進行に平行して扁平上皮化生や錯角化が生じる1).結膜では杯細胞が減少し2),結膜囊短縮から瞼球癒着へと結膜下線維芽細胞の増殖が生じる.末期では上皮細胞の肥厚と角化に至る.角膜輪部では角膜上皮幹細胞疲弊症により角膜内への結膜侵入が進行する.●粘膜天疱瘡と眼類天疱瘡眼類天疱瘡はmucousmembranepemphigoidのなかで眼表面に病態が生じるものの総称である.眼部のみに発症するものは35%程度であり,残りは眼以外の口腔,鼻粘膜,食道粘膜も病変を生じるため,それを念頭においた問診と診察が必要である3).●病期分類と結膜変化Fosterにより病期分類されている4).I期では慢性結膜炎症から結膜囊下組織に白色の線維性増殖を認め,II期では下方の結膜円蓋部の短縮に至る.III期では瞼球癒着が進行し角膜内への結膜侵入や涙液減少が著明になる.IV期では角膜は結膜上皮により被覆され,角化し末期のステージとなる(図2).●治療の考え方初期には慢性結膜炎やドライアイとして治療されるため,早期に結膜下組織の増殖性変化や結膜囊短縮に気づくことが重要である.低濃度ステロイド点眼により慢性炎症を抑制し,角膜上皮保護や睫毛管理を行う.進行例ではプレドニゾロン,エンドキサン,セルセプトなどの全身性の免疫抑制が必要となり,副作用に留意しながら治療する.III~IV期では羊膜移植や角膜上皮移植などによる眼表面再建術の適応であるが,結膜瘢痕の再発がしばしば問題となる.文献1)NelsonJD,HavenerVR,CameronJD:Celluloseacetateimpressionsoftheocularsurface.Dryeyestates.ArchOphthalmol101:1869-1872,19832)ThoftRA,FriendJ,KinoshitaS:Ocularcicatricialpemphigoidassociatedwithhyperproliferationoftheconjunctivalepithelium.AmJOphthalmol98:37-42,19843)RadfordCF,RauzS,WilliamsGPetal:Incidence,presentingfeatures,anddiagnosisofcicatrizingconjunctivitisintheUnitedKingdom.Eye26:1199-1208,20124))FosterCS,WilsonLA,EkinsMB:Immunosuppressivetherapyforprogressiveocularcicatricialpemphigoid.Ophthalmology88:340,1982表1眼類天疱瘡での自己抗体のターゲットBPA1BPA2Laminin-5Laminin-6b-4integrinKeratinUncein168-kDaepiprotein図1眼類天疱瘡の結膜炎症と病理像a:結膜の高度炎症により潰瘍形成や結膜下組織増殖が著明となる.b:結膜上皮の肥厚と結膜下組織へのリンパ球や形質細胞を主体とした炎症細胞浸潤を認める.図2眼類天疱瘡の進行と病期分類a:I期では慢性結膜炎症と結膜上皮障害はローズベンガル染色で染色される.b:II期では結膜円蓋部が短縮してくる.c:III期.瞼球癒着,血管侵入,睫毛乱生,涙液分泌減少が進行する.d:IV期.重度の涙液減少により眼表面は角化する.(73)あたらしい眼科Vol.33,No.4,20165550910-1810/16/¥100/頁/JCOPY556あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(74)

抗VEGF治療:網膜中心静脈閉塞症と抗VEGF薬

2016年4月30日 土曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二抗VEGF治療セミナー27.網膜中心静脈閉塞症と抗VEGF薬逢坂理恵辻川明孝香川大学医学部眼科学教室近年,網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対して,抗VEGF薬硝子体内注射が標準治療となっている.本稿では,虚血型,非虚血型に分けて抗VEGF治療効果について概説する.はじめに網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は,視神経乳頭内の強膜篩状板付近での網膜中心静脈の循環障害によって生じる.30歳以上の有病率は0.80/1,000人,アジア人では0.74/1,000人であり,加齢に伴い発症の頻度は高くなる1).病型は,網膜毛細血管の閉塞が高度な虚血型と,広範な網膜無灌流領域を伴わない非虚血型に分類される.CRVOに伴う黄斑浮腫は,網膜毛細血管血流量の低下に伴う網膜の虚血により血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の上昇が関与しており,視力低下の原因となることが多い.自然経過で黄斑浮腫が消失する頻度は非虚血型CRVOで30%,虚血型CRVOでは0%であると報告されている2).黄斑浮腫に対してトリアムシノロン硝子体内注射・Tenon囊下注射,格子状光凝固などさまざまな治療が試みられてきたが,現在は抗VEGF薬硝子体内注射が第一選択の治療となっている.虚血型網膜中心静脈閉塞症一般的に虚血型CRVOは予後不良である.積極的な治療を行っても視力予後には限界があることが多いが,抗VEGF薬には即効性の黄斑浮腫,視力の改善効果がある.しかし,投与後1~2カ月で再発することが多く,繰り返し治療が必要になることが多い.GALILEO,COPERNICUSstudyでは,再発に対しても抗VEGF薬のprorenata(PRN)投与によりある程度,視力を維持できると報告された3,4).実際にはmonthly投与を継続するのはむずかしく,黄斑浮腫が再発したら早期にPRN投与を行う施設が多いと思われる.また,虚血型CRVOの問題点として新生血管の発生がある.自然経過では血管新生緑内障はCRVO発症から1年以内に発症することが多い.抗VEGF療法により,VEGFの働きを阻害することで新生血管の予防が期待されていたが,抗VEGF薬により新生血管の発生を引き延ばすことができるが,予防はできないと報告された5).よって,抗VEGF薬単独では不十分であり,汎網膜光凝固(pan-retinallaserphotocoagulation:PRP)を併用する必要がある.極端に視力が低下している症例では,抗VEGF療法による視力回復が限定的であることが多い.したがって,このような場合には積極的には治療を薦めないこともある.また,抗VEGF療法を一度行った後に改善の程度を確認し,抗VEGF薬投与を続けるかについては患者と相談して決めてもよい.非虚血型網膜中心静脈閉塞症網膜無灌流領域は少なく,PRPは通常不要である.視力良好な例もあるが,囊胞様黄斑浮は視力障害の原因となる.黄斑浮腫を伴う視力低下があれば,抗VEGF療法の適応となる.初診時に視力良好で黄斑浮腫がなくても,経過をみている間に浮腫を生じることもあり,定期的な診察は必要である.また,非虚血型から虚血型に移行することがあり,出血の増加,黄斑浮腫の増悪などがあれば,虚血型へ移行した可能性を考えなくてはいけない.虚血型が疑われた際には,再度,蛍光眼底造影検査を行い,病態の再評価を行う必要がある.文献1)RogersS,McIntoshRL,CheungNetal:Theprevalenceofretinalveinocclusion:pooleddatafrompopulationstudiesfromtheUnitedStates,Europe,Asia,andAustralia.Ophthalmology117:313-319,20102)TheCentralVeinOcclusionStudyGroup:Naturalhistoryandclinicalmanagementofcentralretinalveinocclusion.ArchOphthalmol115:486-491,19973)KorobelnikJF,HolzFG,RoiderJetal:Intravitrealafliberceptinjectionformacularedemaresultingfromcentralretinalveinocclusion:one-yearresultsofthephase3GALILEOStudy.Ophthalmology121:202-208,20144)HeierJS,ClarkWL,BoyerDSetal:Intravitrealafliberceptinjectionformacularedemaduetocentralretinalveinocclusion:two-yearresultsfromtheCOPERNICUSStudy.Ophthalmology121:1414-1420,20145)BrownDM,WykoffCC:Ranibizumabinpreproliferative(ischemic)centralretinalveinocclusion:therubeosisanti-VEGF(RAVE)trial.Retina34:1728-1735,2014図1虚血型網膜中心静脈閉塞症(CRVO)虚血型CRVOと診断し,汎網膜光凝固(PRP)施行.その後も黄斑浮腫を認めたため,アフリベルセプト硝子体内注射(IVA).投与後は黄斑浮腫の改善を認めている.矯正視力は治療前が0.02(n.c.),最終受診時は0.05(0.08)である.図2非虚血型網膜中心静脈閉塞症ラニビズマブ硝子体内注射(IVR)後,浮腫は改善した.初診時視力は1.0で,投与後1.2に改善した.PRN投与を行っているが,視力1.2~1.5を維持している.あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016553(71)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY554あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(72)

緑内障:プロスタグランジン関連点眼薬による上眼瞼溝深化(DUES)

2016年4月30日 土曜日

●連載190緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也190.プロスタグランジン関連点眼薬による上眼瞼溝深化(DUES)井上賢治井上眼科病院プロスタグランジン(PG)関連点眼薬に特有な副作用として上眼瞼溝深化(DUES)がある.ビマトプロスト,トラボプロストで発現が多い.DUES発現症例では,他のPG関連点眼薬への変更でDUESが軽快,消退することがある.片眼投与の場合はDUESが目立ちやすいので,発現頻度の低いPG関連点眼薬を使用するとよい.●はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連点眼薬では眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着,睫毛剛毛化・延長などの特有の副作用が出現しやすい.新たに上眼瞼溝深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES)が報告されてきた.機序はPGF2aによる脂肪産生抑制で眼窩脂肪組織量が減少することと考えられている.さらに最近,prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)という概念が提唱されている(表1).PG関連点眼薬による眼局所副作用として眼瞼下垂,DUES,下眼瞼のふくらみの減少,下方強膜の可視があり,これらをまとめてPAPとよぶ.●上眼瞼溝深化(DUES)の発現頻度DUESは点眼期間が長期になれば発現頻度も上昇する.DUESの発現頻度はビマトプロスト60%,トラボプロスト50~53%,ラタノプロスト13.6~24%,タフルプロスト18~19%と報告されている1~5)(表2).筆者らは3カ月間以上PG関連点眼薬を片眼に単剤投与中の250例の前眼部写真を撮影し,DUESの有無を調査した1)(図1).DUES発現頻度はビマトプロスト60%,トラボプロスト50%,ラタノプロスト24%,タフルプロスト18%,ウノプロストン8%だった.ビマトプロストとトラボプロストが他の3剤に比べて有意に高かった.同時に自覚症状(眼のくぼみを感じますか?)のアンケート調査を行い,「眼のくぼみを感じる」はビマトプロスト40%,トラボプロスト24%,ラタノプロスト12%,タフルプロスト10%,ウノプロストン10%だった.ビマトプロストがラタノプロスト,タフルプロスト,ウノプロストンに比べて有意に多かった.しかし,他覚症状(写真判定)と自覚症状(アンケート)には乖離がみられた(図2).●上眼瞼溝深化(DUES)発現症例への対応PG関連点眼薬は種類によりDUES発現頻度が異なり,DUESが発現したら他のPG関連点眼薬に変更するとよい.ビマトプロストでDUESが出現した13例をラタノプロストに変更したところ,変更6カ月後には11例(85%)でDUESが軽快あるいは消失した6).●上眼瞼溝深化(DUES)を考えたPG関連点眼薬の使用安全性を優先する場合は,DUES発現頻度の少ないPG関連点眼薬を使用する.とくに片眼投与では左右差が出やすいので,考慮したほうがよい.しかし,顔の印象の好みには個人差があり,DUESをむしろ気に入る患者もあり,評価はむずかしい.文献1)InoueK,ShiokawaM,WakakuraMetal:Deepeningoftheuppereyelidsulcuscausedby5typesofprostaglandinanalogs.JGlaucoma22:626-631,20132)AiharaM,ShiratoS,SakataR:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.JpnJOphthalmol55:600-604,20113)MaruyamaK,ShiratoS,TsuchisakaA:IncidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusaftertopicaluseoftravoprostophthalmicsolutioninJapanese.JGlaucoma23:160-163,20144)MaruyamaK,TsuchisakaA,SakamotoJetal:IncidenceofdeepeningofuppereyelidsulcusaftertopicaluseoftafluprostophthalmicsolutioninJapanesepatients.ClinOphthalmol7:1441-1446,20135)NakakuraS,YamamotoM,TeraoEetal:Prostaglandinassociatedperiorbitopathyinlatanoprostusers.ClinOphthalmol9:51-56,20156)SakataR,ShiratoS,MiyataKetal:Recoveryfromdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfrombimatoprosttolatanoprost.JpnJOphthalmol57:179-184,2013表1Prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)の症状上眼瞼下垂(uppereyelidptosis)上眼瞼溝深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES)下眼瞼のふくらみの減少(flatteningthelowereyelidbags)下方強膜の可視(interiorscleralshow)表2プロスタグランジン(PG)関連点眼薬による上眼瞼溝深化(DUES)発現頻度著者文献PG関連点眼薬投与期間DUES発現頻度(%)ビマトプロストトラボプロストラタノプロストタフルプロストInoueK13カ月以上60502418AiharaM26カ月60MaruyamaK36カ月53MaruyamaK490日19NakakuraS51年以上13.6PG関連点眼薬によりDUES発現頻度は異なるが,同じ点眼薬のDUES発現頻度はほぼ同等である.図1上眼瞼溝深化(DUES)発現症例ビマトプロスト左眼単剤投与症例.左右眼を比較する写真判定でDUESありと診断された.図2上眼瞼溝深化(DUES)発現の自覚症状と他覚症状の関係写真判定(他覚症例)とアンケート調査(自覚症例)によるDUES発現者の人数を示している.自覚と他覚が一致している症例は少ない.(文献1より引用)(69)あたらしい眼科Vol.33,No.4,20165510910-1810/16/¥100/頁/JCOPY552あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(70)

屈折矯正手術:レーシック後の角膜上皮厚

2016年4月30日 土曜日

●連載191監修=木下茂大橋裕一坪田一男屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─191.レーシック後の角膜上皮厚張佑子稗田牧京都府立医科大学眼科学教室レーシック術後には,角膜実質の変化に反応して角膜上皮厚が変化することが知られており,再度近視化する原因のひとつと考えられている.一般に角膜屈折矯正量と角膜中央部上皮厚の変化は相関していると考えられているが,機序は明らかになっていない.●はじめに近視および近視性乱視に対するレーシックは術翌日から良好な裸眼視力を得られることが多く,近視および近視性乱視に対する屈折矯正手術の主流となっているが,術後に再度近視化が起こる場合がある.とくに若年者にみられる眼軸長延長に伴う軸性近視の進行,加齢に伴う調節力低下,水晶体の核硬化進行に伴う近視化や乱視性変化,角膜形状の変化(steep化)などが術後長期的に近視化を起こす原因としてあげられる.一方,術後早期に近視化をきたすものがあり,角膜上皮のremodelingの関与が示唆されている.角膜上皮のremodelingとは,角膜実質の変化に反応して角膜上皮厚が変化することで,角膜の不正性を軽減して光学的システムを維持することが知られており,円錐角膜や角膜屈折矯正手術後には角膜上皮のremodelingが起きていることが知られている.●従来の検査法による角膜上皮厚の報告角膜上皮厚の評価は従来,共焦点顕微鏡や超音波生体顕微鏡を用いて行われていた.Iversenらは共焦点顕微鏡を用いた観察で,レーシック術前の角膜上皮厚が47μmであったのに対して,術後1週間で角膜上皮厚が9.0μm増加したが,レーシックの矯正量と角膜上皮厚の変化には相関を認めず,その後は角膜上皮厚が3年間安定しており,術後の屈折変化に影響がなかったと報告している1).Spadeaらは超音波生体顕微鏡を用いた観察で,レーシック術後1週間で有意に中央部角膜上皮が厚くなり,3カ月までに安定し,術後1カ月で近視化は安定すること,術後3カ月における屈折と角膜上皮厚は相関することを報告した2).●前眼部OCTによる角膜上皮厚の報告従来の検査はいずれも接触式で侵襲があり,測定の手間がかかるうえに再現性が低いなどの問題点があったが,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の登場により,侵襲なく短時間に再現性の高い測定が可能となった.とくにspectraldomainOCTのRTVuesystem(Optovue,Fremont,California)は軸解像度が5μmと非常に高く,角膜の層構造を描出できるようになり,角膜上皮厚の測定が可能となった(図1,2).測定範囲は角膜径6mmであり,中央2mmと中間部(2~5mm)8象限,周辺部(5~6mm)8象限の合計17象限において角膜厚と角膜上皮厚を測定し,内蔵アルゴリズムからそれぞれのマップを作成する.正常人ではspectraldomainOCTを用いて測定した中央部の角膜上皮厚が約52μmであり,上方より下方が厚いと報告されている3).正常人の角膜厚・角膜上皮厚マップの1例を示す(図2).5~6mmの周辺部領域において上方より下方の厚みが大きいことがわかる.上下の厚みの差に瞬目の影響を指摘されているが,詳細は明らかになっていない.Rochaらはフェムトセカンドレーザーを用いたレーシックで,術後1週間~1カ月に角膜上皮厚がもっとも大きく変化し,術後1~3カ月にもっとも近視化が起こること,術後3~9カ月で中央2mmの角膜上皮が安定しており,術前の近視屈折度数と術後の角膜上皮厚は相関していることを報告している4).Kanellopoulosらは,レーシック術後1週間より角膜上皮が厚くなる傾向があり,術後1カ月では屈折矯正量が角膜上皮厚の変化,とくに中間周辺部の厚みに影響することを報告した5).レーシック術後早期1~3カ月に起こる近視化は中央部角膜上皮厚の変化と関連していると考えられるが,詳細な機序は明らかになっていない.また,中間周辺部の角膜上皮厚についてはopticalzoneの設定が異なるため,今後さらなる検討が必要である.●まとめ強度近視眼に対してレーシックを施行した2例を示す(図3).角膜上皮厚が著明に増加したものでは,術後早期の近視化により満足のいく裸眼視力が得られず,術後半年に追加矯正手術を行った.人種,年齢,性別を含めて角膜上皮に影響を及ぼす因子はまだ解明されておらず,角膜上皮remodelingのメカニズム解明が屈折矯正手術の精度を上げる鍵となると思われる.文献1)IvarsenA,FledeliusW,HjortdalJØ:Three-yearchangesinepithelialandstromalthicknessafterPRKorLASIKforhighmyopia.IOVS50:2061-2066,20092)SpadeaL,FascianiR,NecozioneSetal:Roleofthecornealepitheliuminrefractivechangesfollowinglaserinsitukeratomileusisforhighmyopia.JRefractSurg16:133-139,20003)LiY,TanO,BrassRetal:CornealepithelialthicknessmappingbyFourier-domainopticalcoherencetomographyinnormalandkeratoconiceyes.Ophthalmology119:2425-2433,20124)RochaKM,KruegerRR:Spectral-domainopticalcoherencetomographyepithelialandflapthicknessmappinginfemtosecondlaser-assistedinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol158:293-301,20145)KanellopoulosAJ,AsimellisG:Longitudinalpostoperativelasikepithelialthicknessprofilechangesincorrelationwithdegreeofmyopiacorrection.JRefractSurg30:166-171,2014(67)あたらしい眼科Vol.33,No.4,20165490910-1810/16/¥100/頁/JCOPY図1角膜上皮厚測定の方法a:瞳孔中心より8方向放射状にスキャン.b:スキャン画像.c,d:bの白枠内の拡大像.角膜表層からBowman膜(➡)表面を角の距離を角膜上皮厚として測定する.図2正常人の角膜厚・角膜上皮厚マップ左下に角膜厚マップ,右下に角膜上皮厚マップが表示される.図3強度近視眼に対するレーシック術後上:角膜上皮厚の増加は軽度であり近視化を認めない.下:角膜上皮厚の著明な増加を認め,近視化をきたしたため術後半年で追加手術を施行.550あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(68)

眼内レンズ:Double elements型人工虹彩

2016年4月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋353.Doubleelements型人工虹彩小早川信一郎日本医科大学多摩永山病院眼科無虹彩症に対する人工虹彩について解説する.Ophtec社doubleelements型人工虹彩IrisProstheticSystem(IPS®)は,囊内固定専用であり,切開創は5mm,capsulartensionring(CTR)と併用しなければならない.手術に若干の慣れを必要とするが,整容面を含め満足度は高く,有用な器具であると考えられる.●Doubleelements型虹彩無虹彩症に対する人工虹彩は,現在Morcher,Ophtec,HumanOpticsの3社から発売されている.3社ともに囊内固定用(白内障手術併施)と縫着用があるが,現在のところアメリカ食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)は認可していない.各社の製品比較をまとめた(表1).人工虹彩の利点は,グレアや羞明感の改善,美容的効果,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)外側の光がdefocusされることの予防,IOL外側の光が直接網膜に入ることの予防であり,移植することで矯正視力の改善も期待できる.Ophtec社のIrisProstheticSystem(IPS®)は囊内固定専用で,capsulartensionring(CTR)と併用し,elementを2枚組み合わせて瞳孔を再形成する(図1).●症例72歳,男性1).主訴:視力低下.現病歴:近医にて両先天性無虹彩症,白内障につき点眼加療にて経過観察されていた.白内障進行に伴い視力低下が著しくなったため,手術加療目的に紹介受診.既往歴:両先天性無虹彩症.弱視治療歴なし,眼振なし,羞明による顔貌変化あり.初診時所見:・視力:右眼0.07(0.15×−5.00Dcyl−1.25DAx165°).左眼0.3(0.6×−2.50Dcyl−0.75DAx75°).・眼圧:右眼17mmHg,左眼18mmHg.眼振なし.・前眼部:右眼白内障EmeryLittle分類IV,左眼白内障EmeryLittle分類III.角膜上皮障害は認めなかった(図2).小早川信一郎日本医科大学多摩永山病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋353.Doubleelements型人工虹彩無虹彩症に対する人工虹彩について解説する.Ophtec社doubleelements型人工虹彩IrisProstheticSystem(IPS®)は,囊内固定専用であり,切開創は5mm,capsulartensionring(CTR)と併用しなければならない.手術に若干の慣れを必要とするが,整容面を含め満足度は高く,有用な器具であると考えられる.・眼底:白内障にて診察困難.明らかな黄斑低形成,脈絡膜欠損なく,超音波画像にて明らかな網膜剝離などの眼底疾患は認めなかった.網膜電位図(electroretinogram:ERG)正常.白内障にて視力低下するまでは弱視を指摘された経験なし.手術方法:麻酔は点眼麻酔のみ.2.8mm強角膜切開,トリパンブルー®にて前囊染色し,連続円形切囊を施行.超音波乳化吸引術およびCTR挿入後,12時の切開創からIOL(ZCB00V®,Abbott社)を挿入.切開創を5mmに拡大し,IPS(doubleelements)を2枚囊内へ挿入.ダイアリングにて瞳孔を形成した.1針縫合して手術終了.囊破損やZinn小帯断裂などの合併症はなかった.●術後経過術1週間後,右眼視力0.3(0.8×−2.00Dcyl−0.50DAx70°),左眼視力0.7(矯正不能).術1カ月後,右眼視力0.5(0.8×−2.00Dcyl−0.50DAx70°),左眼視力0.8(矯正不能).術7カ月後,矯正視力は右眼1.2,左眼1.0に改善した.角膜内皮細胞数の顕著な減少はなく,術後の惹起乱視は右眼0.55D,左眼0.20Dであった.眼圧上昇は認めず,IOL偏位や水晶体振盪などの合併症もない(図3).自覚的に羞明感が減少,術前にみられた羞明による顔貌変化も消失したため,整容面でも非常に高い満足度が得られている.文献1)福原葉子,松本直,岡島行伸ほか:先天性無虹彩症に人工虹彩および眼内レンズ挿入した1例.眼科手術28:433-436,2015表1人工虹彩の製品比較製品名(メーカー名)Aniridiaimplants(Morcher)IPS(Ophtec)ArtificialIris(HumanOptics)タイプrigidrigidfoldable切開サイズ部分欠損タイプ(囊内固定専用)で3.5mm以上,全周カバーでは10.5mm以上5〜6mm2.75mm色黒青,茶,緑カスタムメイド(瞭眼の写真から作製)特記すべきこと部分欠損用で,Zinn小帯断裂が進行すると修正がむずかしい(テンションリングタイプのため)2枚必要図1Ophtec社IPS(doubleelements)Capsulartensionring(CTR)と併用し,elementを2枚組み合わせて,瞳孔を再形成する.あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016547(65)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY図2術前前眼部写真(右眼)図3術後前眼部写真(両眼)整容面でも非常に高い満足が得られた.

写真:Haab’s striae

2016年4月30日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦383.Haab’sstriae細谷比左志JCHO神戸中央病院眼科図2図1のシェーマ角膜内皮側Descemet膜レベルに,2本の線状のゆるやかなカーブを描く混濁(⇨)を認める.図1Haab’sstriaeの症例(19歳,男性)角膜内面にやや斜めに走る帯状の混濁がみられる.一部は瞳孔領にかかっているが,視力はよい.生後5カ月のときにトラベクロトミー手術を受け,眼圧は正常に保たれ,現在まで良好な経過をたどっている.図3同じ症例の左眼内皮スペキュラー写真角膜中央部(b)では内皮細胞密度が957個/mm2と低下がみられるが,周辺部(c)では,2,197個/mm2と正常とまではいかないが,まだ余力があるようにみられる.(63)あたらしい眼科Vol.33,No.4,20165450910-1810/16/¥100/頁/JCOPYHaab’sstriaeとは,先天緑内障患者の角膜内面にみられる帯状の線状混濁(図1)のことである.図2のように斜めに走る平行する2本の線状混濁であったり,角膜輪部に平行に走る2本の曲線であったり,その形は不整形である.先天緑内障は,最近では早発型発達緑内障とよぶようになった1,2)もので,生後すぐからみられる緑内障である.欧米の教科書では,まだ先天緑内障とよばれていることが多いようである3).ここではわが国のガイドライン2)に従い,早発型発達緑内障とよぶことにする.早発型発達緑内障は非常にまれな疾患で,出生時あるいは遅くとも生後1,2歳までにみられる疾患で,日本では10万人に1人,西欧では1~2万人に1人,中東やスロバキアのロマ人ではもっと頻度が高いといわれている.眼科医が一生で出会う確率が1人程度ともいわれていて,筆者もここで紹介した症例が自ら出会って治療した唯一の症例である.全体の10%程度が常染色体劣性遺伝で,9割が孤発例であるといわれ,6割が男児で両側性が多い.隅角形成異常に基づく疾患であり,房水の流れが障害され眼圧上昇をもたらす.乳児の眼球は柔らかく圧力の上昇に耐えられないので,角膜径増大などにより種々の症状をもたらす.症状は,流涙,羞明,眼瞼けいれんで,所見としては,高眼圧,それによる角膜径増大(角膜径も大きくなり,眼球全体が大きくなり,牛眼とよばれる状態になる),そして角膜が柔らかいため高眼圧に耐え切れずDescemet膜が破裂してできるHaab’sstriaeという特徴的所見,角膜混濁,眼軸長延長,視神経乳頭陥凹などがみられ,適切に治療しないと失明する.治療は,ゴニオトミーやトラベクロトミーなどの手術治療が有効で,薬物治療は無効である.治療は疾患が確定すればすぐにすべきであり,その患児の眼の一生を左右するので重要である.図1~3の症例は,生後5カ月で近医から紹介された男児で,両眼の角膜径は少し増大し,すでにHaab’sstriaeを認め,角膜もやや混濁していた.Haab’sstriaeは2本の平行する線が曲線を描いており,輪部に平行するような線もみられた.眼圧は40mmHg以上あった.眼底には視神経乳頭の陥凹もみられた.診断後すぐに全身麻酔下で両眼のトラベクロトミーを施行した.手術後眼圧は正常になり,角膜径も戻り,視神経乳頭の陥凹もなくなった.Haab’sstriaeは残ったが,幸い角膜の透明度に影響なく,視力は両眼とも1.2を維持している.内皮細胞は,角膜中央部で少し減少がみられる(図3)が,周辺部の内皮細胞にまだ余力があるので,定期的に経過を観察しているところである.現在,患者は19歳になり,現在も定期的に診察をして内皮細胞の減少がないかどうか,注意深く経過を追っているところである.なお,この所見にその名を残すOttoHaabは,1850年生まれのスイスの眼科医.1886年に有名なHornerの後をついでZürich大学の眼科学教授になった.1919年まで教授を務め,1931年に没した.文献1)川瀬和秀:早発型発達緑内障.今日の眼疾患治療指針(大路正人,山田昌和,野田徹編).p375-379,医学書院,20072)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:特集:緑内障診療ガイドライン(第2版):早発型発達緑内障.日眼会誌110:788,20063)AllinghamRR:Primarycongenitalglaucomas.Chapter14Childhoodglaucomas:Clinicalpresentation.InShields’textbookofglaucoma,6thed(AllinghamRR,DamjiKF,FreedmanSetal).p218-227,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,2011

眼のサルコイドーシス

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):535〜541,2016眼のサルコイドーシスOcularSarcoidosis丸山和一*はじめにぶどう膜炎は大学病院外来診療の2%を占める.そのなかでサルコイドーシスによるぶどう膜炎は比較的多くみられる疾患であり,診断がつけば治療方針や経過を予測することが可能な疾患である.しかし,他の眼疾患と同様,同じ疾患でも個人間では様相が変化し,さまざまな病態が絡み診断が困難である症例が多々ある.サルコイドーシスは原因が未だ究明されておらず,治療法も現在までステロイド投与などの対症療法しか存在していなかった.しかし近年,眼内液・眼内組織解析により直接的に眼内液の病原体DNA,浸潤細胞分画を確認することで,病態の把握を行い診断する方法が確立されてきている.これらの検査法の発達により,サルコイドーシスぶどう膜炎の原因と考えられる候補が浮上してきた.筆者らはその候補病原体に対する免疫反応をもとに診断・治療を試みている.Iサルコイドーシスの病態と分類サルコイドーシスは,眼・心・皮膚・肺など全身の組織または臓器に非乾酪性肉芽腫を作り,多彩な臨床所見を呈する原因不明の疾患である.肺においては胸部両側肺門リンパ節腫脹(bilateralhilarlymphadenopathy:BHL)を呈し,また肺の線維化を誘導し,間質性肺炎を発症することがある.皮膚では特徴的な痛みを伴わないサルコイドーシス皮膚結節を発症する.心臓においては肉芽腫の伝導障害による不整脈や心室中隔に発症する肉芽腫により,心室中隔の菲薄化が起こり,その結果,大動脈弁閉鎖不全による心不全を誘発することがある.サルコイドーシスによるぶどう膜炎は,全身における炎症の活動性や重症度が低くても,重度なぶどう膜炎を呈することがあり,眼科所見よりサルコイドーシスと判明することもしばしばある.実際,ぶどう膜炎を発症するサルコイドーシスは40~60%とされている.サルコイドーシスの発症率は年齢分布において二峰性であり,好発年齢は20~30代(若年者発症)と50~60代(中高齢者発症)であり,男女比では女性にやや多く,とくにぶどう膜炎を発症する中高齢者発症の多くが女性であることが特徴的である.筆者らは眼所見が主体のものに対してはInternationalWorkshoponOcularSarcoidosis(IWOS)基準1)を使用し,眼サルコイドーシスを分類している.網膜血管炎や硝子体混濁は年齢に関係なく認められるが,筆者らは,若年者発症の場合,前眼部の肉芽形成,視神経肉芽腫や網膜後極部を中心とした血管炎を特徴とするが,それに対して中高年齢発症では,前眼部の肉芽形成は少なく,硝子体混濁が主で網膜周辺部の滲出斑や網膜血管炎を呈する(図1)ことを見いだした.このため年齢により,ぶどう膜炎発症の機序が異なることも示唆される.現在,筆者らはサルコイドーシス患者の眼内液(前房水・硝子体液・摘出した網膜前膜)などの解析を行い,病態の把握を試みている.IIぶどう膜炎の診断法ぶどう膜炎で外来受診する約30%が原因不明に分類されることは,大黒らの報告で明らかになっている2).しかし近年,ぶどう膜炎に対する診断技術や薬物療法・手術療法の向上により,それまで原因不明とされていたぶどう膜炎の原因が究明されてきている.近年の注目すべき眼内液診断法として,眼内液multiplexPCR検査3),サイトカイン解析4),硝子体細胞解析5~8),摘出した組織(黄斑前膜)の解析があげられる.これらはぶどう膜炎研究のなかでは画期的な診断法である.MultiplexPCR(polymerasechainreaction)検査は感染性ぶどう膜炎には有用である.臨床所見のみでは診断に苦慮し,対症療法を施行している症例のなかには,本法により診断結果を得ることがあり,適切な治療へ速やかに移行することができる症例も存在する.実際,筆者らは今までに150例ほど前房水の解析を行ってきたが,今回初めて活動性の高いサルコイドーシス患者の前房水からPropionibacteriumacnes(P.acnes)のDNAを高コピー数で検出した(図2).硝子体手術時に施行される硝子体細胞解析(サイトカイン測定を含む)は,硝子体内に存在する細胞群を解析することで,その疾患の大まかな病態を推測できる.とくにサルコイドーシス内眼炎とその他のぶどう膜炎の診断には有用であると報告されている7,8).以前に筆者らは硝子体手術で得られたサンプルをフローサイトメトリーで解析した結果,サルコイドーシス診断のために施行される肺胞洗浄検査(bronchoalveolarlavagefluid:BALF)で得られるのと同様の検査データを得られることを報告した.BALFでは,炎症が存在する局所にてCD4陽性T細胞の分画がCD8陽性T細胞と比較すると明らかに増加し,CD4/CD8比が高値であることが報告されており,その値が3.5より高値であるならサルコイドーシスと診断される.硝子体内でも同様で,サルコイドーシスと診断可能であった患者から採取した硝子体内CD4/CD8比はかなり高値であった(図3)9).他のぶどう膜炎疾患ではこのような特異的な分画が存在せず,サルコイドーシス内眼炎に特異的な値であることが判明した.サルコイドーシス内眼炎ではCD4/CD8比が比較的高値である(つまりCD4陽性率が高い)ことは,サルコイドーシスの病態が反映しているものと考える.サルコイドーシスは全身に非乾酪性肉芽腫を呈する病態である.この肉芽腫形成に,細菌であるP.acnesとCD4陽性T細胞が関与している可能性がある.以前よりサルコイドーシスの発症には何らかの細菌感染(結核菌を含む)が関与していることが示唆されていた.Hommaらが報告したようにP.acnesは,局所のサルコイドーシス病変部位(とくにリンパ節)を採取し,細菌培養したところ,唯一高い確率で分離できた細菌である10).P.acnesは皮膚常在菌のグラム陽性桿菌であり,皮膚科領域では尋常性挫創,眼科領域では眼瞼炎や術後遅発性眼内炎との関連が示唆されている.P.acnesは,サルコイドーシス患者において組織学的に非乾酪性肉芽腫の中に存在していることが,多くの臓器・組織検査にて証明されている.サルコイドーシスの病態に関与する細菌でP.acnesとよく比較されているのがMycobacterium属の細菌(とくに結核菌)である.しかし,以前のInternationalCollaborativeStudyにおいて,結核菌DNAがサルコイドーシス患者では陽性率が約0~9%に対して結核患者のサンプルからは65~100%となっており,サルコイドーシスの病態に結核菌の関与は少ないと考えられている.さらに本国における大規模な研究においても,サルコイドーシス患者の組織サンプル培養において,約80%からP.acnesが分離され,Mycobacterium属の細菌は検出されていない.これらの研究は2度繰り返されており,さらには皮膚などのP.acnesの遺伝型と異なることを示していて,培養中のコンタミネーションは認めていないと報告されており,組織特異的なP.acnesの感染と考えられている.眼科領域では日本肉芽腫性疾患・サルコイドーシス学会にて,東京医科大学眼科学教室の後藤浩教授が硝子体手術時に得られた黄斑前膜より,肉芽腫とその中に存在するP.acnesを免疫染色にて検出しており11),サルコイドーシによるぶどう膜炎においてもP.acnesが関与していることが判明している.IIIP.acnesの同定Negiらは,P.acnesのmembrane-boundlipoteichoricacid(PAB)とribosome-boundtriggerfactorprotein(TIG)抗体で,P.acnesを免疫染色specificantibody(PABantibody)を用いてサルコイドーシス患者の肺組織とリンパ節を染色した12).その結果,PAB抗体による染色では,気管支生検によるサンプルからは48%,リンパ節からは88%と高い確率で染色されたのとは対照的に,結核患者やその他の肺疾患から得られたサンプルの染色ではまったく免疫染色の反応は認められなかった.このことから,PAB抗体はP.acnesに特異的な抗体であることがわかり,今現在もサルコイドーシスによる肉芽腫におけるP.acnesの存在を確認するため用いられている.IV宿主のP.acnesへの免疫反応ここまででサルコイドーシスの発症にP.acnesが強く関与していることは疑う余地はないが,ではなぜ常在菌であるP.acnesに免疫反応が起こるのかは疑問である.以前よりKveimtestがサルコイドーシスの診断に用いられているが,これはサルコイドーシス患者の肉芽腫を潰して加熱し滅菌した懸濁液を,サルコイドーシスを疑う患者の皮内に注射すると約70~80%の人に1週間以内に丘疹が出現し,4~6週間で最大となる反応である.この注射部分を採取し,サルコイドーシスに類似した肉芽腫の形成を認めれば,丘疹の出現がなくともKveim反応陽性と判定できる.これはIV型アレルギーの一種であるため,抗原が肉芽腫の中に存在しなければ本テストのように遅延型過敏反応は起こらない.このことから肉芽腫のなかには抗原であるP.acnesが存在していることが推測される.近年はサルコイドーシス患者の肉芽腫が入手困難となっているため,Kveimtestを施行する頻度が低下している.P.acnes抗原に対する過敏性の反応は誰にでも発生するものではなく,以前からサルコイドーシスではホストの要因が病因よりも重要であることが報告されている.先にも述べたがKveim反応は正常の人間や他疾患に罹患している人には起こらず,サルコイドーシス患者のみにみられる反応である.サルコイドーシス患者の炎症反応には,多くのT細胞(とくにCD4細胞)やマクロファージからのTh1型の炎症性サイトカイン産生が関与している.そのため,サルコイドーシス患者でP.acnes感染がサルコイドーシスの病態に関与しているなら,P.acnesに対するTh1反応が強く認められると考えられる.Ebeらはサルコイドーシス患者のみが免疫反応をしめすPropionibacterium属の抗原を探索し,RP35という蛋白をサルコイドーシス患者から見いだし,RP35がサルコイドーシス患者のPBMC(peripheralbloodmononuclearcell)の増殖を促進させることを報告した13).さらにFurusawaらはP.acnesの生菌を用いてサルコイドーシス患者のPBMCによるIL-2の産生について検討を行った結果,サルコイドーシス患者のPBMCからのIL-2産生が,コントロール群よりも有意に高い値であったことを報告している14).他の研究においても,サルコイドーシス患者より集めた気管支肺胞洗浄液をP.acnesで刺激したところ,IL-2の産生が増加したとの報告もある.実際サルコイドーシス患者の肺胞洗浄液よりP.acnesのDNAが確認されたのは70%にのぼり,コントロールの23%と比較すると有意な差があると考えられる.これらの結果より,やはりサルコイドーシスの病態にはP.acnesが関与していることが示唆される.Th1effector細胞はINF-gを産生し細胞内感染に対する免疫反応を誘導し,逆にTh17細胞はIL-17を産生し細菌感染に対する免疫反応から守る役割をもっている.サルコイドーシス患者では,PBMCからのIL-2の産生が増加しているため,Th17細胞の誘導が抑制されている(IL-2はTh17細胞の誘導を抑制)ことが考えられる.実際,サルコイドーシス患者ではTh17細胞の誘導が抑制されており,細菌感染に対する免疫反応が障害されていることが報告されている14).また,サルコイドーシス患者の肺胞洗浄液より採取したCD4陽性T細胞は,多くはTh1タイプのサイトカインであるIL-2やIFN-g,TNF-aを産生するが,いくつかはTh2サイトカインを産生することも知られている.サルコイドーシスの病態である肉芽腫形成にはこのTh1/Th2バランスが関与するとの報告がある.つまりTh2サイトカインである線維化を誘導するIL-4などが,Th1サイトカインであるIFN-gさらにはTNF-aにより抑制されていることがわかっている.V眼科領域(硝子体)における免疫反応筆者らは,現在までにサルコイドーシス内眼炎の硝子体液をフローサイトメトリーやmultiplexELISA(enzyme-linkedimmunosorbentassay)にて測定した値を報告してきた15).その結果,CD4陽性細胞が多く,種々の炎症性サイトカインがサルコイドーシス内眼炎における硝子体液中で高いことが判明した.そのなかでも硝子体中,血清中ともにコントロールと比較すると高値であったのがケモカインの一種であるIP-10である.IP-10は,以前からサルコイドーシスに罹患した患者血清で上昇することが知られている.働きとしては活性化Th1細胞に関連して,さらなるTh1細胞の遊走を促進する16).このことから,今後の診療でサルコイドーシス内眼炎を疑う場合,硝子体液や血清のIP-10を測定することが診断の補助になる可能性がある.しかし,他のぶどう膜炎でも硝子体内のサイトカイン濃度は上昇するため,さらに疾患を集めサルコイドーシスに特異的なサイトカインを探索する必要がある.残念ながら,現在のところ硝子体液よりバイオマーカーとなるサイトカインは発見されていないが,臨床所見と照らし合わせると.興味深い発見ができた.それは臨床所見と硝子体液中で上昇するサイトカインの種類を照らし合せ,病態におけるサイトカインの種類が,病期に関与する可能性である.ぶどう膜炎では視力予後に黄斑浮腫の有無が重要になる.黄斑浮腫が軽度のものでは,急性期サイトカインであるIL-1ra,IL-4,IL-8,IFNgamma,IP-10,MIP-1beta,RANTEsなどが高値を示すのに対し,黄斑浮腫が高度のものでは(図4),PDGFBB,IL-12,G-CSF,VEGFなど血管透過性亢進するサイトカイン濃度が高い傾向がみられる(図5)15).このことより,網膜血管が破綻する前に手術にて急性期の炎症性サイトカインなどを除去したほうがよいことが考慮される.今回,筆者らはIL-2を測定しておらず,今後,硝子体液においてもIL-2の濃度を測定することが重要であると考える.VI動物実験モデルの検討病態の本質に迫るため,これまで研究者たちは,どのような疾患に対しても,動物実験を用いて病態やその治療法について検討してきた.サルコイドーシスも例外ではなく,現在までに多くの動物実験モデルを試している17).マウスモデルではP.acnesの静脈注射により肝臓の肉芽腫形成を誘導可能であるが肺の病変はみられていない.しかし,ラットやウサギでは静脈注射により肺の病変を誘導できることがわかっている.さらに(熱処理した)P.acnesやRP35の蛋白を用いて免疫をつけたモデルでは肺の肉芽腫をマウスでも観察できることを発見した.元来,正常の肺やリンパ節でもP.acnesがわずかに存在していることが知られている,このためすでにマクロファージ,T細胞などはP.acnesに暴露されておりP.acnesに対する免疫反応が誘導されていると考えられている.そのためP.acnesに感作されたCD4T細胞をnaïveマウスにadoptivetransferすることで,肺に肉芽腫が形成されることが報告されている.つまり常にP.acnesに感作されたT細胞を供給することで,肺に肉芽腫を形成することが可能と考えられる.しかし,未だに眼科領域のモデルはなく,今後種々の実験方法を改良し,ぶどう膜炎を誘導するモデルを作製することが重要であると考える.これらのモデルは治療法の探索にも用いられており,実際にアジスロマイシンやミノサイクリンを投与すると肉芽腫形成が妨げられることが報告されており,モデル動物ができれば治療法の発展に有効であると考える.VII治療法眼科領域では,サルコイドーシス内眼炎の治療にはステロイドを使用している.他の領域でも同様で,約50年にわたり,ステロイドを使用した免疫抑制療法を選択している.しかし,本稿でも述べたようにサルコイドーシスは細菌であるP.acnesの感染による免疫反応であるため,長期間のステロイド投与はさらにP.acnesの感染を増幅させる可能性がある.しかし,潜在的な感染であれば治療することが困難であり,いくら抗菌薬を使用しても炎症が再活性する可能性がある.そこで登場したのがミノサイクリンである.現在ミノサイクリンは尋常性乾癬(ニキビ)の治療に用いられ,有効性があることが報告されている.さらに日本のグループでは,Babaらがミノサイクリンとクラリスロマイシンを併用し,ステロイドで治療困難であった肺病変を改善したと報告している18).眼科領域でもParkらがサルコイドーシス眼瞼炎をミノサイクリンで治療が可能であったと報告しているが19),近年ではTheMarshallprotocolがあり20),これはミノサイクリンにアジスロマイシンまたはクリンダマイシンを使用した治療法であり,約62%のサルコイドーシス患者に有効であったと報告されている.しかし,未だ眼内病変に対する治療は報告されていないため,今後ステロイドにより炎症反応を抑制し,抗菌薬の使用も考慮する必要があるかもしれない.まとめサルコイドーシスによるぶどう膜炎は,種々の検査で診断が可能となってきた.そして近年,サルコイドーシスの発症に関与する可能性のある病原菌が探索された結果,候補となる病原菌を特定することができた.その病原菌がぶどう膜炎をも引き起こす可能性があるため,今後は詳細な検討を行い,サルコイドーシスによるぶどう膜炎の診断・治療に一石を投じたい.文献1)HerbortCP,RaoNA,MochizukiM:Internationalcriteriaforthediagnosisofocularsarcoidosis:resultsofthefirstInternationalWorkshopOnOcularSarcoidosis(IWOS).OculImmunolInflamm17:160-169,20092)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20123)SugitaS,OgawaM,ShimizuNetal:Useofacomprehensivepolymerasechainreactionsystemfordiagnosisofocularinfectiousdiseases.Ophthalmology120:1761-1768,20134)NagataK,MaruyamaK,UnoKetal:Simultaneousanalysisofmultiplecytokinesinthevitreousofpatientswithsarcoiduveitis.InvestOphthalmolVisSci53:3827-3833,20125)DavisJL,ChanCC,NussenblattRB:Diagnosticvitrectomyinintermediateuveitis.DevOphthalmol23:120-132,19226)DavisJL,MillerDM,RuizP:Diagnostictestingofvitrectomyspecimens.AmJOphthalmol140:822-829,20057)DavisJL,VicianaAL,RuizP:Diagnosisofintraocularlymphomabyflowcytometry.AmJOphthalmol124:362-372,19978)KojimaK,MaruyamaK,InabaTetal:TheCD4/CD8ratioinvitreousfluidisofhighdiagnosticvalueinsarcoidosis.Ophthalmology119:2386-2392,20129)KojimaK,MaruyamaK,InabaTetal:TheCD4/CD8ratioinvitreousfluidisofhighdiagnosticvalueinsarcoidosis.Ophthalmology119:2386-2392,201210)HommaJY,AbeC,ChosaHetal:Bacteriologicalinvestigationonbiopsyspecimensfrompatientswithsarcoidosis.JpnJExpMed48:251-255,197811)後藤浩,馬詰朗比古,江石義信:眼サルコイドーシスの眼内病変におけるP.acnesの検出.日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌34:50-52,201412)NegiM,TakemuraT,GuzmanJetal:Localizationofpropionibacteriumacnesingranulomassupportsapossibleetiologiclinkbetweensarcoidosisandthebacterium.ModPathol25:1284-1297,201213)EbeY,IkushimaS,YamaguchiTetal:ProliferativeresponseofperipheralbloodmononuclearcellsandlevelsofantibodytorecombinantproteinfromPropionibacteri-umacnesDNAexpressionlibraryinJapanesepatientswithsarcoidosis.SarcoidosisVascDiffuseLungDis17:256-265,200014)FurusawaH,SuzukiY,MiyazakiYetal:Th1andTh17immuneresponsestoviablePropionibacteriumacnesinpatientswithsarcoidosis.RespirInvestig50:104-109,201215)NagataK,MaruyamaK,UnoKetal:Simultaneousanalysisofmultiplecytokinesinthevitreousofpatientswithsarcoiduveitis.InvestophthalmolVisSci53:3827-3833,201216)AgostiniC,CassatellaM,ZambelloRetal:InvolvementoftheIP-10chemokineinsarcoidgranulomatousreactions.JImmunol161:6413-6420,199817)EishiY:EtiologiclinkbetweensarcoidosisandPropionibacteriumacnes.RespirInvestig51:56-68,201318)BabaK,YamaguchiE,MatsuiSetal:Acaseofsarcoidosiswithmultipleendobronchialmasslesionsthatdisappearedwithantibiotics.SarcoidosisVas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Vogt-小柳-原田病および交感性眼炎とHLA

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):529〜533,2016Vogt-小柳-原田病および交感性眼炎とHLAHLAAssociationsinVogt-Koyanagi-HaradaSyndromeandSympatheticOphthalmia河越龍方*水木信久*はじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)および交感性眼炎は,自己のメラノサイトに対して免疫反応が起きる疾患であると考えられている.以前よりHLA(humanleukocyteantigencomplex)と疾患の濃厚な関与がわかっている.最近になり,大規模集団を対象とした遺伝子研究も報告されはじめている.本稿では,現在までに遺伝子解析によりわかってきた知見について概説し,最後に先制医療の可能性についても考察する.IHLAとVKH・交感性眼炎1.HLAについてHLAはヒトの主要組織適合遺伝子複合体で,第6染色体短腕上約400万塩基対の領域にコードされる遺伝子群である.この領域は遺伝子密度および遺伝的多型がきわめて高い領域である.HLAは自己と非自己を認識する機能をもち,免疫応答の誘導に深くかかわり,感染症・癌・自己免疫疾患・移植片拒絶反応において中心的な役割をしている.HLAは古典的クラスI(HLA-A,B,C),非古典的クラスI(HLA-E,F,G),およびクラスII(HLA-DR,DQ,DP)などに大別される.HLAは遺伝的多型に富むため,その組み合わせによってさまざまなハプロタイプ(1個の染色体上に存在する連鎖している対立遺伝子のセット)を形成している.減数分裂時のHLA遺伝子領域での組み換え率は低く,通常では両親のハプロタイプはそのまま子に受け継がれる.HLAクラスI分子はほぼすべての細胞に発現し,HLAクラスII分子は樹状細胞,マクロファージ,B細胞といったプロフェッショナル抗原提示細胞に発現する.HLAクラスI分子は内在性抗原ペプチドをCD8陽性キラーT細胞に,HLAクラスII分子は外来性抗原ペプチドをCD4陽性ヘルパーT細胞に抗原提示し免疫応答が起こる.HLA型の同定には既知のHLA抗血清を用いた血清学的方法がとられていたが,1980年代後半から1990年代にかけてDNAタイピングが行われるようになり,さらに最近ではシークエンスも行われるようになり,遺伝子レベルでのより詳細なHLA分類が可能となった.2.VKHとHLAぶどう膜炎に関しては古くよりHLA解析が行われており1),VKHにおいても強い相関をもつことがわかっている2,3).現在ではHLAクラスIIのHLA-DRのうちHLADRB1(HLA-DRの細胞外ドメインはaとbからなり,b1ドメインはDRB1によりコードされる)に疾患感受性があるとわかっている(図1).日本人VKHおよび交感性眼炎を対象としたHLA解析の報告を表にまとめた(表1).新藤らは日本人VKH患者集団を対象とした解析で,VKH63例中全例でHLA-DR4(DRB1*0405が95.2%,DRB1*0410が7.9%)を認めたことを報告した4).また,強い連鎖不平衡のためHLA-DQB1*0401も92.1%で認められた.イスラムらは日本人VKH患者の臨床病型とHLA型との相関を調べている5).VKH患者54例中,遷延化型27例,非遷延化型15例,経過観察が短かったために分類できなかったもの12例を対象とした.全症例中92.5%でHLA-DR4が陽性であった.遷延化型では,27例中全例でHLA-DR4(DRB1*0405が25例,DRB1*0410が2例)陽性であった.非遷延化型では,15例のうち13例でHLA-DR4陽性,2例で陰性であった.HLADR4陽性非遷延化型13例のうちDRB1*0405およびDRB1*0410とも陰性例が4例存在した.DRB1*0405およびDRB1*0410陽性患者では遷延化型になる傾向があった.堀江らは,日本人VKH患者87例を調べ,81.6%でHLA-DR4陽性(DRB1*0405が70.1%,DRB1*0410が11.5%,DRB1*0403が3.4%,DRB1*0406が2.3%)であったと報告している6).雪田らは,日本人VKH患者21例を対象とした調査で,DRB1*0405が90.5%において,DRB1*0410が23.8%において認め,すべての症例においてDRB1*0405またはDRB1*0410のいずれかあるいは両方を有していたと報告した7).表には載せていないが,VKHはおもにモンゴロイドに発症する疾患であり,韓国人,中国人,ヒスパニックなどにおいてもHLA-DR4が疾患と強い相関があると報告されている8).3.交感性眼炎とHLA交感性眼炎は片眼の穿孔性眼外傷あるいは内眼手術後に,両眼性にぶどう膜炎を生じる疾患であり,眼症状以外もVKHと類似の病態をきたす.VKH同様にHLAの関与が大きいことがわかっている9~11).英国人交感性眼炎27例を対象とした調査ではDRB1*0405ではなくDRB1*0404に相関があった(DRB1*0404は患者18.5%に対し健常人3.9%)11).日本人交感性眼炎患者16例を調べた調査では,HLA-DR4が93.3%に認められた(DRB1*0405が81.3%,DRB1*0410が6.3%)12).この結果は遺伝学的にも交感性眼炎とVKHが類似の疾患であることを示している.IIその他疾患感受性遺伝子1999年ヒトの全塩基配列情報が明らかにされて以来,1塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)解析研究が,以前よりも盛んに行われるようになった.SNPはDNA上に数百万カ所存在すると考えられ,ヒト集団内で高頻度に存在するSNPは,疾患関連遺伝子の目的変異位置を特定するためのマーカーとして使用される.大規模な疾患群と健常者群のサンプルを用い,全DNA上のSNPを網羅的に調べ比較検討するゲノムワイド関連解析(genomewideassociationstudy:GWAS)は,2000年代半ばころより爆発的に行われて,数多くの疾患特異的な遺伝的多型が報告されている.VKHは,眼,皮膚,内耳,髄膜といったメラニンを含む組織に発症し色素の脱失を伴うこと,また病理組織像から,自己のメラノサイトを標的とした疾患と考えられている.メラノサイトでは,チロシナーゼの働きによりチロシンからドーパを経て最終的にメラニンが生成される.そこでチロシナーゼ遺伝子ファミリーのSNP検索が行われたが,遺伝子自体には健常人との間に差はみつからなかった6).2014年中国人VKH患者集団を対象として,VKHでは初の大規模GWASの結果が報告された13).IL23RC1orf141,ADO-ZNF365-EGR2,HLA-DRB1/DQA1の3領域が同定された.IL23Rに関しては,リスクSNPを保有することにより,そのmRNA発現が低下することがわかった.日本人集団を対象としたGWAS解析結果はまだ報告されておらず,その解析結果が待たれるところである.IIIその他因子とVKH胸腺でのT細胞の分化において,自己抗原に対しては負の選択が働き,本来は自己の抗原には反応しない状態(免疫寛容状態)が誘導されている.しかしVKHでは,何らかの理由で自己免疫寛容状態が崩れ,自己のメラノサイトに対して免疫応答が生じると考えられる.山木らは,チロシナーゼおよびそのファミリー分子由来のペプチドが,VKH患者末梢血中リンパ球を活性化させることを示した(HLA-DRB1*0405陽性の健常人でもこの反応は示さなかった)14).自己免疫寛容状態が崩れる理由として,何らかの病原体由来抗原と自己抗原が類似することにより,病原体抗原だけでなく自己に対しても交叉反応するという分子擬態の機序が発症にかかわっていることも疑われる.杉田らは,VKH患者には,メラノサイトに発現するチロシナーゼやgp100を,HLA-DRB1*0405を介して認識するCD4陽性T細胞が存在するということを示した15).また,データベーススクリーニングによって,チロシナーゼとCMVのエンベロープ蛋白において,類似性のあるペプチド領域が存在することを示した.両ペプチドともHLA-DRB1*0405拘束性であり,実際にこれら2つのペプチドを同時に抗原として認識するT細胞クローンがVKH患者には存在することも示された.この事実よりVKHとCMVの関係性を調べた結果,VKH患者の前房水・血清・髄液中にはCMVそのものは検出できなかった.しかし,VKHではCMVに対する血清抗体の陽性率が高いことがわかっている(VKHで98%,その他では80%).これらの研究により,交叉反応によりCMVがトリガーとなりVKHが発症する可能性が示された.しかし,HLA-DRB1*0405とCMV感染は通常みられることであり,通常はこのことだけでVKHが発症することはない.他の因子が何なのか,どのようにして交叉反応が引き起こされるかはわかっていない.おわりにHLA-DR4はVKHあるいは交感性眼炎と強い相関を示すが,ほかにも関節リウマチやインスリン依存型糖尿病にも関与していることが知られている.HLA-DR4は日本人集団において珍しいHLA型ではなく,一般的にみられるものである(遺伝子頻度はHLA-DRB1*0405で13.515%,HLA-DRB1*0410で2.117%:HLA研究所)(HLA-DRB1*0405で13.27%,HLADRB1*0410で2.09%:中央骨髄データセンター).最近の中国人VKH患者を対象としたGWASで明らかになったHLA以外のIL23Rなどの疾患感受性遺伝子についても,その変異だけで疾患が発症するものではない.VKHでは,HLA-DR4を保有し,ほかの免疫関連遺伝子に変異が存在し,微生物感染など環境因子に暴露する,これらのリスク因子が重なると発症するという多因子疾患の機序が予測される(図2).VKHや交感性眼炎における先制医療の可能性を考えると,上述のようにDRB1*0405とDRB1*0410は決して稀な型でないため,HLAのジェノタイピングだけでは発症予測や予防といったことはできない.しかし以前の報告では,遷延例においてDRB1*0405とDRB1*0410を保有する割合が高いことがわかっているため,疾患発症後の治療方針には役立つ可能性もある.これから,高速シークエンスの登場により,全ゲノム(あるいは全エキソン)の解読による,より詳細な疾患関連遺伝子探索も行われていくであろう.疾病にかかわる変異の多くが生物学的に比較的最近発生したとも考えられており,GWAS解析では扱われていなかった希少変異(レアバリアント)が,今後高速シークエンスによって明らかになり,これまで考えられなかったような結果がもたらされることも考えられる.今後さらなる遺伝子解析で新たな疾患感受性遺伝子が明らかにされれば,それらを複合したVKH患者個人個人のオーダーメイド医療が実現できる可能性もある.文献1)ScharfY,ZonisS:Histocompatibilityantigens(HLA)anduveitis.SurvOphthalmol24:220-228,19802)TagawaJ,SugiuraS,YakuraHetal:HLAandVogt-Koyanagi-HaradaSyndrome.NEnglJMed295:173,19763)TagawaJ,SugiuraS,YakuraHetal:HLAandVogt-Koyanagi-HaradaSyndrome.JpnJOphthalmol21:22-27,19774)ShindoY,OhnoS,YamamotoTetal:CompleteassociationoftheHLA-DRB1*04and-DQB1*04alleleswithVogt-Koyanagi-Harada’sdisease.HumImmunol39:169-176,19945)イスラムSM,モノワルール,沼賀二郎ほか:フォークト-小柳-原田病の臨床経過とHLA-DR4サブタイプ.日眼会誌98:797-800,19946)HorieY,TakemotoY,MiyazakiAetal:TyrosinasegenefamilyandVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinJapanesepatients.MolVis12:1601-1605,20067)雪田昌克,阿部俊明,高橋秀肇ほか:Vogt-小柳-原田病におけるHLA-DRB1*040501検出の頻度.あたらしい眼科27:129-132,20108)ShiT,LvW,ZhangLetal:AssociationofHLA-DR4/HLA-DRB1*04withVogt-Koyanagi-Haradadisease:asystematicreviewandmeta-analysis.SciRep4:6887,20149)OhnoS,IchibayashiY,IchiishiAetal:SympatheticophthalmiaandHLA.HLAinAsia-Oceania,740-742,Hokkai-doUnivercityPress,198610)DavisJL,MittalKK,FreidlinVetal:HLAassociationsandancestryinVogt-Koyanagi-Haradadiseaseandsympatheticophthalmia.Ophthalmology97:1137-1142,199011)KilmartinDJ,WilsonD,LiversidgeJetal:ImmunogeneticsandclinicalphenotypeofsympatheticophthalmiainBritishandIrishpatients.BrJOphthalmol85:281-286,200112)ShindoY,OhnoS,UsuiHetal:Immunogeneticstudyofsympatheticophthalmia.TissueAntigens49:111-115,199713)HouS,DuL,LeiBetal:Genome-wideassociationanalysisofVogt-Koyanagi-Haradasyndromeidentifiestwonewsusceptibilitylociat1p31.2and10q21.3.NatGenet46:1007-1011,201414)YamakiK,GochoK,HayakawaKetal:TyrosinasefamilyproteinsareantigensspecifictoVogt-Koyanagi-Haradadisease.JImmunol165:7323-7329,200015)杉田直:Vogt-小柳-原田病発症機構─メラノサイト自己抗原に対するTリンパ球反応.日眼会誌112:953-964,2008*TatsukataKawagoe&*NobuhisaMizuki:横浜市立大学学術院医学群医学部眼科学〔別刷請求先〕河越龍方:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学学術院医学群医学部眼科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(47)529図1HLAクラスII分子HLAクラスII分子は取り込まれた外来抗原のペプチドを先端部分に収納し,CD4陽性T細胞に提示する.細胞外ドメインはa鎖とb鎖からなる.そのうちb1ドメインはHLA-DRB1によりコードされる.表1日本人Vogt-小柳-原田病(VKH)および交感性眼炎(SO)を対象としたHLA-DR4とサブタイプの頻度VKH著者/発表年HLA-DR4DRB1*0405(上段)DRB1*0410(下段)患者対照患者対照Shindoetal/1994100.0%50.0%95.2%7.9%26.7%0%イスラムら/199492.5%43.0%遷延化型非遷延化型93%7%53%13%28%6%Horieetal/200681.6%28.7%70.1%11.5%28.7%1.6%雪田ら/2010──90.5%23.8%─SOShindoetal/199793.3%42.0%81.3%6.3%26.0%2.0%患者群および対象群内におけるHLA-DR4の保有率と,ジェノタイプ(DRB1*0405とDRB1*0401の割合)を示す.530あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(48)(49)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016531図2VKH発症メカニズム(推測)1つの遺伝子により発症するわけではなく,多因子性に発症すると予測される.532あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(50)(51)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016533