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単純ヘルペスウイルス角膜炎が疑われた乳児例の検討

2016年5月31日 火曜日

《第52回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科33(5):711〜713,2016©単純ヘルペスウイルス角膜炎が疑われた乳児例の検討白木夕起子庄司純稲田紀子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野CaseReportofInfantilePatientwithClinicalSuspectedHerpesSimplexKeratitisYukikoShiraki,JunSyojiandNorikoInadaDivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine目的:単純ヘルペスウイルス(HSV)角膜炎が疑われた乳児の症例報告.症例:生後4カ月,男児.当科初診時,右眼角膜下方に角膜表層の斑状浸潤性混濁を伴う角膜実質混濁がみられた.初診時の角膜病巣擦過検体による検査所見は,1.単純ヘルペスウイルスキット:陰性,2.HSV-DNAに対するreal-timePCR法:59copies/sample,3.細菌分離培養検査:Staphylococcuswarneriであった.オフロキサシン眼軟膏単独治療では病状の改善はみられなかったが,第4病日からオフロキサシン眼軟膏とアシクロビル眼軟膏の併用療法を行ったところ,第7病日から眼瞼腫脹,充血および角膜混濁が軽快した.本症例は,臨床検査結果および治療経過からHSV角膜炎と診断した.結論:生後1歳未満の乳児に発症するHSV角膜炎は,非典型的な角膜所見を呈するため,診断には十分に注意する必要があると考えられた.Purpose:Casereportofaninfantilepatientwithclinicalsuspectedherpessimplexkeratitis.Case:Thepatient,a4month-oldmale,atfirstexaminationshowedcornealstromalopacitywithmacularinfiltratingturbidityatthelowercornealsurfaceintherighteye.Laboratoryfindingsbyscrapedspecimenwereasfollows:1.herpessimplexviruskit:negative;2.real-timePCRofHSV-DNA:59copies/sample;3.bacterialisolationcultureinspection:Staphylococcuswarneri.Treatmentwithofloxacinophthalmicointmentalonedidnotprovidesymptomaticimprovement.Butcombinationtherapywithofloxacinophthalmicointmentandacyclovirophthalmicointmentfromthe4thhospitaldayyieldedimprovementoflidmarginswelling,hyperemiaandcornealopacitybythe7thhospitalday.Fromclinicalexaminationandcourseoftreatment,wediagnosedthiscaseasherpessimplexkeratitis.Conclusion:Becauseherpessimplexkeratitisininfantslessthanoneyearoldshowsatypicalcorneaviews,suchcasesmustbediagnosedcarefully.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):711〜713,2016〕Keywords:単純ヘルペスウイルス角膜炎,PCR,乳児.herpessimplexkeratitis,polymerasechainreaction,sucklingbaby.はじめに単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)1型感染症は,乳幼児期に初感染した後,HSVが三叉神経節に潜伏感染する1)が,ストレス,寒冷,ステロイドの使用,睡眠不足,紫外線曝露,外傷,手術などの誘因によって再活性化されると,口唇ヘルペス,単純ヘルペス眼瞼炎および単純ヘルペスウイルス角膜炎(herpessimplexkeratitis:HSK)などを発症すると考えられている.初感染時の臨床症状は,無症候性のものから,カポジ水痘様発疹症を呈する重症例まであり,前眼部病変としては,眼瞼炎,結膜炎,星状角膜炎や樹枝状角膜炎に代表される上皮型角膜炎などが知られている.HSVの再活性化により発症する角膜炎は,上皮型の樹枝状角膜炎と地図状角膜炎,実質型の円板状角膜炎と壊死性角膜炎,および内皮型の角膜内皮炎などに分類されている2〜4).乳児のHSKは,HSVの初感染を契機として発症する角膜炎が多く報告されているが,HSV再活性化によるHSKに関しての詳細は不明な点が多く残されている.今回,筆者らはpolymerasechainreaction(PCR)法を用いてHSKと臨床診断し,治療が奏効した乳児の1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.I症例患者:4カ月,男児.主訴:右眼瞼腫脹,充血.既往歴:正常分娩2,758g,罹患中の全身症状なし.家族歴:家族にヘルペス疾患の感染既往なし,分娩時母親に泌尿生殖器感染症なし.現病歴:2014年2月,母親が右眼の眼瞼腫脹,充血および眼脂に気づいた(第1病日).第2病日に消化器症状が出現したため,小児科を受診した.小児科では,眼症状に対しレボフロキサシン点眼薬を処方されたが,充血がさらに悪化したため,第3病日に近医眼科を受診した.近医眼科では,右眼角膜下方の混濁を指摘され,同日精査目的に当科紹介受診となった.初診時および第4病日所見:初診時(第3病日)のポータブルスリットランプ(SL-15,興和)による細隙灯顕微鏡検査では,右眼角膜下方に多発する角膜表層の白色斑状混濁,およびその周囲に角膜実質混濁がみられた(図1).また,角膜の病巣部に隣接する輪部および球結膜に充血がみられた.前房は深く,フィブリンや前房蓄膿はみられなかった.左眼角結膜には特記すべき異常はなかった.初診時に,角膜炎の原因は不明であり,感染性角膜炎の鑑別診断のため,右眼角膜病変部を輸送培地のスワブで擦過し,細菌分離培養検査に提出した.角膜擦過翌日(第4病日)には,角膜表層の白色斑状混濁は再発しており,樹枝状病変となっていた.角膜実質の浸潤性混濁および結膜充血はやや軽快傾向を示した.樹枝状角膜炎と擦過後の偽樹枝状病変との鑑別診断のため,HSKの迅速診断キットである単純ヘルペスウイルスキット(チェックメイト®ヘルペスアイ,わかもと製薬)を施行した.微生物学的検討:細菌分離培養検査ではStaphylococcuswarneriが極少量検出された.チェックメイト®ヘルペスアイは陰性であったが,その残液を用いて,HSVおよび水痘・帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)に対する定性polymerasechainreaction(PCR)法および定量PCR法であるreal-timePCR法を施行した.定性PCR法では,HSV-DNAが陽性であり,定量PCR法ではHSV-DNAが59copies/sample検出された.VZVは定性および定量PCRともに検出されなかった.この結果から,HSKと診断した.治療経過:治療はオフロキサシン眼軟膏点入3回/日で開始した.角膜擦過後に樹枝状病変を呈した第4病日目からは,樹枝状角膜炎が否定できないため,アシクロビル眼軟膏点入3回/日の追加処方をした.第5病日には結膜充血および角膜実質浸潤性混濁は縮小した.また,角膜表層の樹枝状を呈した白色混濁も軽快傾向を示した.アシクロビル眼軟膏が有効であると判断し,オフロキサシン眼軟膏は中止し,アシクロビル眼軟膏のみ3回/日を継続とした.第12病日には眼瞼腫脹も軽減し,樹枝状の白色混濁は消失した.また,角膜実質浸潤性混濁は軽快し,淡い混濁を残すのみとなった.アシクロビル眼軟膏は,就寝前点入1回/日とし,前医での経過観察となった.II考按HSVの再活性化によるHSKは,臨床所見により上皮型,実質型および内皮型に大別される5).上皮型HSKはterminalbulbやintraepithelialinfiltrationを伴った樹枝状病変や地図状角膜炎でみられるdendritictailが特徴である.また,実質型HSKは,初発時には円板状角膜炎を呈し,角膜中央に実質浮腫およびDescemet膜皺襞がみられ,その部位に一致して角膜後面沈着物を伴うとされている.実質型HSKの再発を繰り返す症例では,壊死性角膜炎となり,角膜病変部への高度の炎症細胞浸潤により,血管侵入を伴う角膜膿瘍様の壊死病巣が形成され,その後の経過により瘢痕形成や脂肪変性などの病変が加わるとされる.また,実質型HSKの病変のなかには,実質の壊死病巣は軽度であるが,細胞免疫性実質型角膜炎(immunestromalkeratitis:ISK)とよばれる病型が存在することが報告されている6).ISKは,独立した実質型HSKの病型として扱われる場合もあるが,わが国の分類では壊死性角膜炎に含まれると考えられている.本症例の角膜炎では,白色斑状上皮下混濁,角膜実質のびまん性浸潤性混濁と経過中にみられた樹枝状病変とが特徴的所見としてみられたが,HSKに特徴的な所見はみられなかった.細菌分離培養検査でSt.warneriが極少量検出されたことから細菌性角膜炎も考慮したが,薬剤感受性試験で感受性ありと判定されたオフロキサシンを使用しても角膜炎には改善傾向がみられず,経過中に樹枝状病変に変化したことから起因菌ではないと判断した.本症例の角膜炎をHSKと診断したうえで病型診断をするとすれば,本症例の臨床所見はISKの臨床所見にもっとも類似していると考えられた.HSKの成人例のなかには,上皮型病変に対するアシクロビル点眼治療の経過中に上皮型病変が実質型病変,とくにISK様病変に移行する症例がみられることがある.このような症例では,経過中に上皮型病変と実質型病変が混在し,非典型病変を呈すると考えられるが,ウイルス量と宿主の免疫学的背景により形成される病変であるとも考えることができる.したがって,乳児の実質型HSKの臨床所見では,宿主の免疫学的防御反応の未熟性による非典型的病変が出現する可能性があると考えられた.乳児のHSKに関する既報は少ない.16歳未満の小児30例を調査した報告では1歳以下の発症が30例中5例(17%)であり,病型は上皮型が4例に対し,実質型は1例であった.そのなかで7カ月の乳児は1例報告されており,病型は上皮型であった7).また,わが国における12歳以下16眼の報告では10眼が上皮型,6眼が実質型であったが8),乳児例に関する記載はなく,乳児における実質型HSKの詳細は不明である.すなわち,小児HSKの病型は上皮型の頻度が高いものの,上皮型および実質型HSKの両者が発症する可能性があると考えられる.しかし,乳児に限定した場合には,上皮型の臨床診断はその病変の特徴から診断が比較的容易であるのに対して,実質型の診断は困難で,診断にはHSVの関連を証明する補助検査法が必要であると考えられた.一方,本症例の角膜炎の診断にPCR法が有用であった.定性および定量PCR法でチェックメイト®ヘルペスアイの残液から,HSV-DNAが検出されたこと,アシクロビル眼軟膏が奏効したことから,HSKと臨床診断した.HSKの非典型例ではPCR法が補助診断法として有用であるとされている.HSKに対する定量PCR法は,検査を施行する施設の手技などにより結果に若干のばらつきがみられるものの,典型上皮型で涙液からのサンプルでは103-8copies/sample,病巣擦過のサンプルでは105-8copies/sample,非典型上皮型では涙液・病巣擦過ともに102-3copies/sample,典型実質型,非典型実質型ともに涙液からのサンプルで101-3copies/sampleと報告されている9).すなわちHSKでは,各病型により検出されるウイルスDNA量が異なるが,その反面,各病型におけるウイルスDNA量が診断に有用であり,定量PCR法の利点でもあると言える.本症例はチェックメイト®ヘルペスアイの残液を用いて定量PCR法を施行したが,HSV-DNA量が59copies/sampleとなり,非典型的HSKとする臨床診断に矛盾しない検査結果であると考えられた.また,チェックメイト®ヘルペスアイの感度は104copies/sample程度とされており,HSV-DNA量が59copies/sampleと低値であったために,本症例は陰性という結果になったと考えられた.乳児では非典型のHSKを発症することがあり,臨床診断に定性PCRによるウイルスDNAの検出が有用であり,病型の判断に定量PCRによるウイルス量の測定が有用であった1例を報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)檜垣史郎,下村嘉一:ヒトとヘルペスウイルス.日本の眼科84:1237-1240,20132)SimomuraY,OhashiY,MaedaNetal:Herpetickeratitistherapytoreducerecurrence.CurrEyeRes6:105-110,19873)ZamanskyGB,LeeBP,ChangRKetal:Quantitationofherpessimplexvirusinrabbitcornealepithelium.InvestOphthalmolVisSci26:873-876,19854)VarnellED,KaufmanHE,HillJMetal:ColdstressinducedrecurrencesofherpeticintheSqurrelMonkey.InvestOphthalmolVisSci36:1181-1183,19955)下村嘉一:上皮型角膜ヘルペスの新しい診断基準.眼科44:739-742,20026)HollandEJ,SchwartzGS:Classificationofherpessimplexviruskeratitis.Cornea18:144-154,19997)HsiaoCH,YeungL,YehL-Ketal:Pediatricherpessimplexviruskeratitis.Cornea28:249-253,20098)塩谷易之,前田直之,渡辺仁ほか:小児のヘルペス性角膜炎.臨眼52:101-104,19989)Kakimaru-HasegawaA,KuoCH,KomatsuNetal:Clinicalapplicationofreal-timepolymerasechainreactionfordiagnosisofherpeticdiseasesoftheanteriorsegmentoftheeye.JpnJOpthalmol52:24-31,2008〔別刷請求先〕白木夕起子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:YukikoShiraki,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1OyaguchiKamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN図1初診時の右眼前眼部写真角膜下方には角膜表層の白色斑状混濁が多発し,その周囲に角膜実質混濁を伴う.(87)7110910-1810/16/¥100/頁/JCOPY712あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(88)(89)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016713

My boom 52.

2016年5月31日 火曜日

連載Myboom監修=大橋裕一第52回「森隆史」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.自己紹介森隆史(もり・たかふみ)福島県立医科大学眼科学講座私は平成10年に愛知医科大学を卒業し,福島県立医科大学眼科学講座に入局しました.福島県立医科大学附属病院と太田記念病院で研修医時代を過ごし,平成12年よりヒューストン大学オプトメトリー学部に留学しました.ヒューストン大学ではChino教授のもとで,霊長類を用いたおもに斜視モデルでの電気生理学的実験に参加し,「両眼視機能の臨界期における眼位異常が視覚中枢の発達に与える影響」についての研究に携わることができました.帰国後は,米沢市立病院と塙厚生病院を経て,平成16年より福島県立医科大学に勤務して現在に至っております.大学の診療では主として斜視・弱視および小児眼科を担当しています.子どもは絶えず成長し,視機能発達の感受性期はみるみる過ぎていきます.「検査ができるようになったら受診」や「大きくなったら受診」は禁句であるとの先輩からの教えを後輩に伝えるべく,日々の診療にあたっております.Myboom:測量私が測量と出会ったのは,大学1年生の時です.長期休暇ごとに測量会社でアルバイトを重ね,大学3年生の時には実務時間が受験資格に達したので,測量士補の国家試験を受験して合格しました.測量の3要素は水平角,水平距離と高さです.三角点か水準点を出発地に,測量士の指示にしたがって,私は赤白ポール,反射プリズム,標尺(長さの目盛りがついた大きな定規のようなもの)を携えて田畑や野山を駆け回りました.距離の測定は,光波測距儀と反射プリズムで行います.光波測距儀は,一定の光波を往復させ,波数と位相差から距離を求める器機です.高さの測定は水準儀と標尺で行います.港湾の海底面の測量では音響測深機を用いるなど,他にもいろいろな測量法を体験することができました.自分が測量にかかわった道路が今の地図に描かれ,実際に利用されているのは喜びです.先日,そこを通った時に,「ここは父ちゃんが土地を計ってできた道路だぜ」と我が子に話しかけたのですが,彼らの心にはなにも響かなかったようです.残念.眼科に入局すると,眼科で用いられる診断機器が,多くのところで測量機器と共通していることに驚きました.それからは,地球から眼球に対象を移し,測量を続けております.近年の光干渉断層計や補償光学眼底カメラなどの新たな診断機器の登場とその進歩とともに眼科の検査が発展してきたように,測量の分野もGPSや航空レーザー測量などの技術の進歩により,私が携わっていた20年ほど前とでは様変わりしているようです.さて,ただいまの測量のターゲットは弱視症例の眼球です.「弱視治療年齢の調節麻痺下屈折値を非侵襲的検査で推測するための等高線図を作成する」の題目で科研費をいただき,臨床研究を行っております.幼児でも検査が可能である光学式眼軸長測定装置で計測した角膜曲率半径を緯度,眼軸長を経度として,調節麻痺下球面屈折値を標高に等高線図を描きますと(図),実測値では年齢や個々の症例のばらつきにより,上図のような山あり谷ありの地形が浮かび上がります.これを三次元の近似式を使って地ならしをしますと,下図のようななだらかな傾斜地になります.弱視が疑われても,先天性心疾患など全身疾患の既往から,アトロピン点眼による調節麻痺下屈折検査ができない幼児がいます.そのような児のために,非侵襲的検査で弱視の要因となる屈折異常を知る方法として,体重と伸長から肥満を判定するためのBMIチャートのような等高線図を,角膜曲率半径と眼軸長から調節麻痺下屈折値を推測するチャートとして作ろうと研究を遂行しています.精度が高いものができれば健診のスクリーニングにも応用できるかもしれません.Myboom:地元観光私が留学しておりましたテキサス州は,面積がアラスカに次いでアメリカ合衆国第2位で,‘It’slikeaWHOLEOTHERCOUNTRY’と称しておりました.留学中は実験が終わると夜勤をした分の休暇がもらえるので,家内と運転を交代しながら泊りがけで広大なテキサス州の州立公園巡りをしていました.私が現在暮らしております福島県は,面積が北海道,岩手県についで第3位です.福島県もテキサスほどではありませんが広大で,豪雪地の只見から南国いわき(ハワイアンセンター)まで気候が多様で,いろいろなアトラクションが楽しめます.最近は,娘と息子が部活や行事で忙しくなったことで,休暇を県内の観光で過ごすことが多くなりました.昨夏は会津磐梯山に登りましたが,ついに膝が痛み出しました.そこで,入局以後に17Kg増えた体重を減らすべく,ジム通いをはじめました.盛夏に涼しさを味わいたい先生方には,冷たい水に膝までつかりながら進む入水鍾乳洞(写真)と裏磐梯のシャワーウォークがおすすめです.次回のプレゼンターは鳥取県の松浦一貴先生(野島病院)です.松浦先生は,ヒューストン大学での先輩で,「大船に乗ったつもりで来い」と私を導いてくれた,兄貴分の頼もしい先生です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.図球面屈折値の等高線図写真入水鍾乳洞にて(73)あたらしい眼科Vol.33,No.5,20166970910-1810/16/¥100/頁/JCOPY698あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(74)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 156.加齢黄斑変性と後部硝子体剝離(研究編)

2016年5月31日 火曜日

●連載156硝子体手術のワンポイントアドバイス156加齢黄斑変性と後部硝子体剝離(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●加齢黄斑変性症例は後部硝子体未剝離眼が多い抗VEGF療法が普及する以前には,加齢黄斑変性(AMD)に対する治療法の一つとして,硝子体手術で脈絡膜新生血管(CNV)を抜去する方法が行われていた.筆者もかつてはこの手術を盛んに行なっていた時期があったが,そのときに後部硝子体剝離(PVD)が年齢の割にきわめて少ない印象をもった.また,PVDが自然に生じたAMDでCNVがみるみる退縮していく症例に遭遇し,硝子体の牽引がAMDの病態に関与しているのではないかと推測した.このような背景があり,人工的PVD作製のみでAMDがどのように変化するかをみたところ,12眼中6眼でCNVが縮小,2眼で消失するといった結果を得た1).●種々の疾患における機械的刺激の関与心臓は拍動することで常に拡張と収縮を繰り返している.このような機械的刺激により,心筋細胞や血管内皮細胞における種々のサイトカインの発現が変化することが報告されている.Suzumaらは,シリコーン製の培養皿の上で血管周皮細胞に周期的伸展刺激を加えると,VEGFの発現が上昇したり,アポトーシスをきたすことを報告している2).このように,慢性的な機械的刺激が種々の疾患の病態に関与する可能性が考えられる.●単純硝子体切除術は加齢黄斑変性の治療となりうるか上記のように筆者らは人工的PVD作製がAMDに対する治療の一つの選択肢になりうるのではないかという印象をもっていたが,抗VEGF療法が普及したため,追試はあまり行なってこなかった.しかし,その後に硝子体牽引がAMDの病態に関与することを支持する報告が相次いでなされている.KrebsらはAMD患者では年齢に比してPVDが少ないこと3),Sakamotoらは硝子体出血を伴うAMDの硝子体手術後にCNVが退縮傾向にあること4)を報告し,いずれも硝子体牽引がAMDの病態に関与しているのではないかと推測している.明らかな硝子体黄斑牽引を認めるAMDでは,本術式がもう少し見直されていいのかもしれない.文献1)IkedaT,SawaH,KoizumiKetal:Parsplanavitrectomyforregressionofchoroidalneovascularizationwithagerelatedmaculardegeneration.ActaOphthalmolScand78:460-464,20002)SuzumaI,SuzumaK,UekiKetal:Stretch-inducedretinalvascularendothelialgrowthfactorexpressionismediatedbyphosphatidylinositol3-kinaseandproteinkinaseC(PKC)-zetabutnotbystretch-inducedERK1/2,Akt,Ras,orclassical/novelPKCpathways.JBiolChem277:1047-1057,20023)KrebsI,BrannathW,GlittenbergCetal:Posteriorvitreomacularadhesion:apotentialriskfactorforexudativeage-relatedmaculardegeneration?AmJOphthalmol144:741-746,20074)SakamotoT,SheuSJ,ArimuraNetal:Vitrectomyforexudativeage-relatedmaculardegenerationwithvitreoushemorrhage.Retina30:856-864,2010図1ポリープ状脈絡膜血管症の眼底写真とインドシアニングリーン蛍光眼底検査上:術前,下:術後.単純硝子体切除のみで滲出病巣は著明に改善している.(文献1より転載)図2加齢黄斑変性の眼底写真とインドシアニングリーン蛍光眼底検査上:術前,下:術後.単純硝子体切除のみで脈絡膜新生血管は術後に消失している.(文献1より転載)(71)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.5,2016695

新しい治療と検査シリーズ 231. 負荷調節レフ ARK-1s

2016年5月31日 火曜日

新しい治療と検査シリーズ231.負荷調節レフARK︲1sプレゼンテーション:中島伸子中島眼科クリニックコメント:中村葉四条烏丸眼科小室クリニックバックグラウンド調節とは,見ている対象の距離に応じて焦点を合わせるために屈折度を変化させることをいい,その神経支配は自律神経系によると考えられる(図1).正常な状態では自律神経のバランスはとれており,屈折度も安定している1,2).VDT(visualdisplayterminal)症候群や頭頸部外傷症候群,最近のスマートフォンなどによる眼症状は,眼自律神経障害を主体とする症候群である.調節機能障害はその主たる症状の一つで,近年の眼科臨床の場で避けて通ることはできない.また,近視進行についても調節ラグとの関連性がいわれており3),屈折異常の経過観察においても調節検査は重要である.以前より赤外線オプトメータを用いて調節機能は他覚的に評価されてきたが1),現在非売品のため入手困難であり,それに代わる機器が切望されていた.本稿では,赤外線オプトメータの機能の一部を搭載した負荷調節レフARK-1s(ニデック)を紹介する.▪検査の原理ARK-1sは内部視標の提示位置を経時的に変化させつつ,1秒間に約12回(83msec毎)屈折度と瞳孔径を測定することが可能な機種である.視標は調節検査に適した中心のある放射線状のものを用いている(図2).ARKシリーズには,視標を種々の屈折度で一定時間ずつ提示し,その際の調節の安定性を解析するソフトウェアがすでにあり,報告されているが4),ARK-1sは,調節検査用の視標を等屈折度の速度で変化させることで,準静的特性5)を測定することが可能な新機種である.ARK-1sでは被検者の屈折度の安定性に加え,負荷調節時の調節幅や調節ラグの動態も観察可能である.使用方法負荷調節の測定モードとして図2のような測定条件が初期設定されている.まず被検者のオートレフ値をもとに2ジオプター(D)遠方の視標を用いた雲霧を30秒間行う.その後,毎秒0.2Dの速度で50秒間(10D)近方へ視標を移動させ,負荷調節検査を行う.図2は器質的疾患をもたない正常波形の模式図である.測定後には雲霧時や負荷調節時の種々のパラメータが計算され,印字される.また,測定の正確さを示す値(削除率)は異常値の場合「H」の表記がされる.実際の測定方法は以下の通りである.まず,ARK-1sで屈折度を測定する.被検者に視標のシェーマを提示しつつ検査の概要を説明する.この際,雲霧時は焦点を合わせようとしないこと,負荷時には中央部に焦点を合わせるよう頑張ることを説明することが重要である.その後,調節測定モードに切り替え,測定をスタートする.測定中は負荷調節時に調節を促すように声かけを行うが,約2分半の測定中はほとんど監視を行うのみで特別な操作は必要ない.本方法の良い点検者側の利点としては操作が簡便である点と,省スペースである点があげられる.オートレフ測定と同様に,装置が自動で被検眼に追従する.また,オートレフ本体のみで測定解析を行うため,場所も取らない.被検者側の利点としては,測定時間が短時間であるため負担が少ない点で,このため就学後は検査可能である.屈折度の安定性が評価できるため,視力検査などの自覚的屈折検査が不安定な症例に対して,調節麻痺剤点眼を用いなくても,視力検査結果の精度の評価やある程度の屈折度の予測が可能である.筆者も本検査を導入してから,重症の調節痙攣や眼精疲労のほかに,小学校低学年の+1~1.5D程度の軽度遠視や調節過緊張症を初回検査時に発見する機会が多くなった.軽度遠視は本検査で雲霧時の屈折度の最大値に注目すると,疑わしい症例が容易に発見できる.その後自覚症状を詳細に聞くと,近見視力障害の自覚があり,眼鏡処方に至った症例も多い.また,調節過緊張症例ではARK-1sによる雲霧時の屈折度の不安定所見を認めるため,眼鏡処方を段階的に行ったものも多い(図3).このように本機器は専門機関から一次医療の現場まで幅広いニーズに対応できるため,種々の施設への普及と今後の発展が期待される.文献1)木下茂:屈折・調節の基礎と臨床.日眼会誌98:1256-1268,19982)中島伸子,中村芳子:調節メカニズムのサイエンス.あたらしい眼科31:1437-1441,20143)長谷部聡:調節ラグと近視.あたらしい眼科19:1151-1156,20024)梶田雅義:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌101:413-416,19975)鵜飼一彦,石川哲:調節の準静的特性.日眼会誌87:1428-1343,1983「負荷調節レフARK︲1s」へのコメント本解説を読んで,オートレフ値に不安定性が出ない程度の軽度調節障害が診断できるとよいので,ぜひ使用してみたいと思った.オートレフ値に異常の出るほど明らかな調節障害であれば簡単に診断できるが,異常が出ない場合,診断をつけることがむずかしい.これまでの赤外線オプトメータでは,場所をとること,暗室検査であることの使いにくさとともに,正常と異常の鑑別がむずかしいという欠点があった.むち打ち症やVDT(visualdisplayterminal)による近見障害など,患者さんの訴えがあるが今までなかなか診断がつかなかった症例に対して,本検査によってきちんと数値で示すことができるようになるとよいと思う.波形をみることはなかなか難しいので,図3に示された例のような場合,症例が異常値を示していることについて,わかりやすい指標で示していただけることを期待する.図1調節と自律神経近方調節を行うときは副交感神経系,遠方調節を行うときは交感神経系が優位に働き,屈折度を変化させる.刺激のない状態では自律神経系は均衡を保っており,調節安静位で屈折度は安定する.眼局所あるいは全身的な原因で自律神経系は不均衡となり,屈折度も不安定となる.最大および最小屈折度は他覚検査値,調節ラグおよびリードは焦点深度と考えられる.正常眼では屈折度に焦点深度を加えた範囲で「焦点をあわせる」ことが可能となる.図2調節波形の測定条件左)測定波形.横軸:時間,縦軸:a・bは屈折度(等価球面),cは瞳孔径を表す.屈折度は上方程マイナス.a:提示視標の屈折度,b:被検者の屈折度,c:瞳孔径.+2Dの雲霧の後,10Dの近方調節負荷下で測定.右)内部視標.中心のある放射線状の視標を用いている.図3調節検査の有用症例左)軽度遠視(8歳女児).オートレフ値:s−2.25D,遠見矯正度数:s−0.5D,最大屈折度+0.9D.シクロペントレート点眼下が+1.0Dで近見障害の自覚があったため,近用眼鏡処方.右)調節過緊張(16歳男性).オートレフ値:s−0.75D,矯正度数:s−1.0D,最大屈折度+0D.屈折度が不安定であったため,初回眼鏡処方を見送った.VDT作業1日10時間以上.(67)あたらしい眼科Vol.33,No.5,20166910910-1810/16/¥100/頁/JCOPY692あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(68)(69)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016693

眼瞼・結膜:瞼板内角質囊胞(マイボーム腺囊胞)

2016年5月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人14.瞼板内角質囊胞(マイボーム腺囊胞)吉川洋宗像眼科九州大学大学院医学研究院眼科学分野瞼板内角質囊胞は霰粒腫に似るが炎症所見のない瞼板内の囊胞である.切開掻爬では再び角質や水分が貯留して再発するので,囊胞全摘または結膜面への開放が必要である.●はじめに「霰粒腫と思って切開,すっきり内容が出たが,すぐに再発した」「霰粒腫は被膜ごと全摘しないと再発する」.このような言葉の表す疾患の正体が瞼板内角質囊胞である.マイボーム腺の貯留囊胞という,いかにもありそうな疾患であるが,かつて成書にも文献にもほとんど記載がなかった.筆者は2000年頃からこの疾患に頻繁に出会うようになり,マイボーム腺由来を確信して以来マイボーム腺囊胞と呼んで喧伝しているところである.2009年にJakobiecがintratarsalkeratinouscystという病名で報告し,訳語として瞼板内角質囊胞の名が使われている.おそらく近年増えてきた疾患である(図1~3).●疾患概念(マイボーム腺囊胞vs霰粒腫)1.マイボーム腺囊胞の存在が眼科医に教えてくれること,それは「マイボーム腺がつまると霰粒腫ができるのではない,霰粒腫は炎症である」という忘れがちな真実である.マイボーム腺が閉塞してできるのはマイボーム腺囊胞なのである.2.霰粒腫は囊胞状構造をとることがあるが,膿・肉芽・肉芽腫の混在する炎症性腫瘤であり,周囲のマイボーム腺導管上皮は破壊されている.炎症のきっかけは,瞼縁の常在菌や瞼縁のなんらかの外来刺激と考えられる.3.霰粒腫は瞼縁近くにも発生するが,マイボーム腺囊胞はマイボーム腺開口から盲端側に離れた位置に限定的に発生する.すなわち常在菌やその他の外来異物のない場所に発生するといえる.●霰粒腫との臨床的鑑別マイボーム腺囊胞は非炎症性疾患であるから①発赤がない②皮膚菲薄化がない③疼痛がないという特徴が絶対的にあてはまる.また④マイボーム腺開孔部に閉塞所見がない⑤腫瘤が瞼縁から離れているという意外な特徴も有している.④⑤は,マイボーム腺囊胞がマイボーム腺の奥のほう(盲端近く)に発生することと関係している.●マイボーム腺囊胞の治療1.切開すると容易に内容物が排出され腫瘤が消失するが,創が閉鎖するとふたたび内容が貯留し,早い場合は2~3日で再発の訴えとなる.内容物は白くさらさらのものから黒く泥状のもの,褐色水様,黄色くマヨネーズのように排出するものまでバリエーションが多いが,綿棒にからみついて剝がれないような「粘り」がないという点で霰粒腫と明確に異なる(図4).2.治療は経皮全摘が基本である.囊胞は瞼板に発しているので一部瞼板も切除する必要がある(図5).3.囊胞開放.結膜面に表れている囊胞壁の部分を切除し,囊胞を結膜囊に開放する(縫合しない)のも一法である(図6).筆者の成績は今のところ良好である.文献1)JakobiecFA,MehataM,IwamotoMetal:Intratarsalkeratinouscystsofthemeibomiangland:Distinctiveclinicopathologicandimmunohistochemicalfeaturesin6cases.AmJOphthalmol149:82-9420092)吉川洋:霰粒腫と瞼板内角質囊胞.眼科臨床エキスパート,知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),医学書院,2015図1マイボーム腺囊胞の皮膚側隆起型図2マイボーム腺囊胞の結膜側隆起型図3マイボーム腺囊胞の組織重層扁平上皮に覆われており角質を容れる.組織は類表皮囊胞の像で,粉瘤と同一である.図4マイボーム腺囊胞の自壊ないし切開したところ白さらさらタイプ(左)と黒どろどろタイプ(右)の内容物.いずれもこのままでは再発する.図5経皮全摘の術中写真このあと,囊胞の底面剝離の際,瞼板を一部切除することになる.図6囊胞解放結膜側の囊胞壁を大きく切除して内容を出したところ.白いのは皮膚側囊胞壁の内面である.このまま縫合しない.(65)あたらしい眼科Vol.33,No.5,20166890910-1810/16/¥100/頁/JCOPY690あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(66)

抗VEGF治療:近視性脈絡膜新生血管に対する抗VEGF治療後の網脈絡膜萎縮

2016年5月31日 火曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二28.近視性脈絡膜新生血管に対する抗VEGF治療後の網脈絡膜萎縮山城健児京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学病的近視に伴う脈絡膜新生血管に対しては抗VEGF治療薬が有効である.しかし,長期的には網脈絡膜に萎縮が生じることが知られており,3年間で約70%に生じると考えられている.とくに黄斑部に生じる網脈絡膜萎縮は視力予後を悪化させる大きな要因となるため,治療後は注意深い経過観察が必要である.近視性脈絡膜新生血管に対する治療病的近視に伴う脈絡膜新生血管に対しては,レーザー光凝固や光線力学療法(photodynamictherapy:PDT)が行われていたこともあったが,2013年8月にラニビズマブ(ルセンティス®)が承認され,2014年9月にはアフリベルセプト(アイリーア®)も承認され,最近ではこれらの抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)治療薬がおもに使用されるようになった.その効果は加齢黄斑変性による脈絡膜新生血管に対する効果と比べて非常に高く,数回の注射で新生血管の活動性を低下させることができる.そのため,短期的には良好な視力予後が得られるが,長期的には網脈絡膜に萎縮が生じることが知られており,とくに黄斑部に生じる網脈絡膜萎縮は視力予後を悪化させる大きな要因となっている(図1~3).抗VEGF治療後に網脈絡膜に萎縮が生じる機序としては,網脈絡膜の細胞が生存していくために必要であると考えられているVEGFが阻害されることによって,細胞が死滅していく可能性も考えられるが,物理的な機序が大きな要素を占めているのかもしれない.強度近視眼では視神経乳頭周囲に網脈絡膜萎縮をきたすことが広く知られており,これは強膜の進展・乳頭の変形によってBruch膜・網膜色素上皮が欠落した部分であると理解されている1).つまり,乳頭の辺縁部とつながっているはずのBruch膜・網膜色素上皮のシートの穴の部分である.これと同様に,強度近視眼の脈絡膜新生血管に伴う脈絡膜萎縮部位にはBruch膜の穴が76%に認められたという報告2)があり,この穴が原因となって網脈絡膜の萎縮が進行していくのかもしれない.図1治療前の眼底所見とOCT像中心窩下に強度近視に伴う脈絡膜新生血管と網膜剝離・網膜浮腫を認める.図2治療後の眼底所見とOCT像抗VEGF硝子体注射施行1カ月後,半年後,2年後の眼底所見.徐々に網脈絡膜萎縮が拡大してきている.なお,この2年の期間に再発を2度繰り返しており,そのつど,1回ずつの抗VEGF治療を施行している.図3治療4年後の眼底所見とOCT像3乳頭径大の網脈絡膜萎縮と線維化した脈絡膜新生血管を認める.治療後の網脈絡膜萎縮の頻度近視性脈絡膜新生血管に対する抗VEGF治療後に生じる網脈絡膜萎縮の頻度については複数の報告があるが,薬剤間での比較ができるほどの資料はまだない.萎縮部位の面積を定量すると,治療後5年目まで直線的に面積が拡大していくという報告があり,PDTと比較するとその進行速度は有意に遅いという報告もあるが,有意差がなかったという報告もある.治療開始後の網脈絡膜萎縮の頻度については複数の報告があり3~5),治療後1年で15~40%程度,2年で30~60%程度,3年以上で約70%程度に生じているようである.萎縮の拡大と治療前の脈絡膜新生血管のサイズや治療回数が相関しているという報告3)もあるが,これらの因子も含めて,網脈絡膜萎縮の出現を予測できる因子はないという報告5)もあり,強度近視に伴う脈絡膜新生血管に対する抗VEGF治療を施行した後には,注意深く経過観察をする必要があると考えられる.文献1)JonasJB,XuL:Histologicalchangesofhighaxialmyopia.Eye(Lond)28:113-117,20142)Ohno-MatsuiK,JonasJB,SpaideRF:MacularBruch’smembraneholesinchoroidalneovascularization-relatedmyopicmacularatrophybyswept-sourceopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol162:133-139,20163)UemotoR,Nakasato-SonnH,KawagoeTetal:Factorsassociatedwithenlargementofchorioretinalatrophyafterintravitrealbevacizumabformyopicchoroidalneovascularization.GraefesArchClinExpOphthalmol250:989-997,20124)HayashiK,ShimadaN,MoriyamaMetal:Two-yearoutcomesofintravitrealbevacizumabforchoroidalneovascularizationinJapanesepatientswithpathologicmyopia.Retina32:687-695,20125)OishiA,YamashiroK,TsujikawaAetal:Long-termeffectofintravitrealinjectionofanti-VEGFagentforvisualacuityandchorioretinalatrophyprogressioninmyopicchoroidalneovascularization.GraefesArchClinExpOphthalmol251:1-7,2013(63)あたらしい眼科Vol.33,No.5,20166870910-1810/16/¥100/頁/JCOPY688あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(64)

緑内障:OCTによる強度近視緑内障診断の際の注意点

2016年5月31日 火曜日

●連載191緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也191.OCTによる強度近視緑内障診断の際の注意点中西秀雄京都大学大学院医学研究科眼科学OCTは緑内障の補助診断として非常に有用な検査である.しかし,強度近視眼に対して緑内障補助診断を目的とするOCT検査を行う際には,光学的な問題と,強度近視眼に特有な解剖学的特徴に注意して,検査結果を評価する必要がある.はじめに――強度近視眼の緑内障強度近視眼では,近視に伴う視神経乳頭の変形が加わるため,視神経乳頭所見から緑内障を診断することがしばしば困難である1).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)検査では,視神経乳頭周囲の網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)や黄斑部の網膜神経節細胞複合体(macularganglioncellcomplex:mGCC)の厚みを定量しうるため,強度近視眼の緑内障診断において,OCT検査の有用性が期待される.●強度近視眼のOCT検査時の問題点しかしながら,強度近視眼を対象にOCT検査を行う際には,以下の2つの問題点に留意する必要がある.1.光学的な問題(軸性近視眼における拡大率の問題)OCTは画角ベースで画像を取得するものが多い.軸性近視眼では,撮影面までの距離が遠くなるため,同一画角の画像でも,撮影範囲の実測距離は広く,長くなる(図1).OCTの機種によっては,角膜曲率や等価球面度数,眼軸長などを基にこの拡大率を計算し,撮影・解析範囲の補正を行うものもあるが,いずれにせよ測定値を個体間で比較する際には十分注意しなければならない.ニデック社のRS-3000で撮影した正常32例32眼を用いて,cpRNFL厚およびmGCC厚と眼軸長との関連に,拡大率補正の有無が与える影響を検討した結果では,どちらの層厚も,拡大率を考慮しない場合には,眼軸長が長いほど有意に薄かった.しかし,取得画像の拡大率を考慮して解析範囲を補正した場合(図2)は,いずれの層厚も眼軸長との有意な関連を認めなかった(図3).2.強度近視眼特有の眼球構造の問題すべてのOCT機器には,各機種独自の正常値データベースが搭載されており,これを基に各症例の網膜各層厚に正常範囲内・ボーダーライン・異常菲薄化の判定をする機種が多い.しかし,ほとんどの機種では,正常データベースは非強度近視眼のみから取得されている.前述のとおり,強度近視眼では,画像拡大率を考慮しないと,眼軸長が長いほど薄い計測結果が算出され,結果として正常症例に対しても異常判定がされる危険性がある2).また,強度近視の正常眼では,拡大率補正後もなお下方mGCC厚が薄い2),網膜血管やcpRNFL厚の分布が異なる3)など,非強度近視の正常眼とは異なった特徴が報告されている.このため,非強度近視眼の正常値を基にして強度近視眼の評価を行うことには注意を要する.国内ではOCT機器がおもに6社から発売されているが,現時点ではニデック社RS-3000の黄斑部解析用にのみ,強度近視眼正常データベースが搭載されている.筆者らは,強度近視眼の緑内障診療における本データベースの有用性を報告した4).しかし,各社機種ごとに解析範囲・方法が異なるため,ニデック社の強度近視正常データベースを,他機種OCTでの測定値評価に転用することはできない.図1同一画角でOCT撮影した場合の正視眼(上段)と軸性近視眼(下段)の模式図おわりに以上から,強度近視眼ではとくに,OCTで得られた測定値や異常有無判定を盲信して緑内障診断を行うと,正常眼を緑内障と誤って判定してしまう危険性が高い.これを解決するひとつの方法は,診療を担当する医師本人が,対象症例のOCT画像そのものをきちんと確認し,緑内障を示唆する所見の有無を画像内で評価することである.筆者らの施設は,OCT画像の上下対称性の評価が緑内障補助診断に有用であることを報告した1).緑内障診療に限らず,各疾患のOCT画像を常日頃から自分の眼で確認し,対象症例の画像そのものから疾患有無の評価が行えるよう,トレーニングを積む努力が大切である.文献1)NakanoN,HangaiM,NomaHetal:Macularimaginginhighlymyopiceyeswithandwithoutglaucoma.AmJOphthalmol156:511-523,e6,20132)NakanishiH,AkagiT,HangaiMetal:Effectofaxiallengthonmacularganglioncellcomplexthicknessandonearlyglaucomadiagnosisbyspectral-domainopticalcoherencetomography.JGlaucoma,inpress3)YamashitaT,AsaokaR,TanakaMetal:Relationshipbetweenpositionofpeakretinalnervefiberlayerthicknessandretinalarteriesonsectoralretinalnervefiberlayerthickness.InvestOphthalmolVisSci54:5481-5488,20134)NakanishiH,AkagiT,HangaiMetal:Sensitivityandspecificityfordetectingearlyglaucomaineyeswithhighmyopiafromnormativedatabaseofmacularganglioncellcomplexthicknessobtainedfromnormalnon-myopicorhighlymyopicAsianeyes.GraefesArchClinExpOphthalmol253:1143-1152,2015図2RS︲3000(ニデック社)を用いて同一画角で撮影した画像における拡大率補正後の乳頭中心3.45mmおよび黄斑中心6mmの円径の比較同一画角で撮影(上段:乳頭中心の画角20°平方,下段:黄斑中心の画角30°平方)した画像で,拡大率補正後の乳頭中心3.45mmおよび黄斑中心6mmの円径を比較した.左列は眼軸長24.38mm(≒Gullstrand眼),中列は眼軸長22.00mm,右列は眼軸長29.00mmとして補正した.図3cpRNFL厚およびmGCC厚と眼軸長との関連に拡大率補正の有無が与える影響b:年齢性別調整後の偏回帰係数.(61)あたらしい眼科Vol.33,No.5,20166850910-1810/16/¥100/頁/JCOPY686あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(62)

屈折矯正手術:角膜クロスリンキングの中長期結果

2016年5月31日 火曜日

●連載192屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂大橋裕一坪田一男192.角膜クロスリンキングの中長期結果小島隆司岐阜赤十字病院眼科角膜クロスリンキングは進行性円錐角膜に対して進行抑制効果をもつ治療であるが,術後に角膜はフラット化し,1~2年で安定することが報告されてきている.筆者らの結果では術後半年で1D程度の平均角膜屈折力の低下を認め,それが術後3年まで維持された.中長期における合併症は報告されていないが,まれに進行する報告があり,長期の経過観察が必要である.はじめに角膜クロスリンキング(cornealcrosslinking:CXL)はドイツのSeilerらによって開始された円錐角膜に対する治療である1).これまで進行性円錐角膜に対する明確なエビデンスのある進行予防方法は確立していなかったが,CXLによって進行を抑制する効果が数多く報告されている.最近報告された無作為化比較対照試験を解析したメタアナリシスの結果においても,CXLはコントロール群と比較して,治療後に平均,最小,最大ケラト値の低下,自覚乱視の低下,矯正視力の改善をもたらすことが報告されている2).本稿ではCXLの中長期成績について,これまで報告されているエビデンスを紹介するとともに,自験例の経過を提示する.●角膜クロスリンキングの実際現在,CXLは,オリジナルのドレスデンプロトコールから派生した,角膜上皮を剝がさないEpi-On治療,短時間高エネルギーの紫外線を用いる高速クロスリンキング,角膜トポグラフィに合わせて紫外線を照射する方法(トポガイド)などがあるが,ここではドレスデンプロトコールについて説明する.まず点眼麻酔下にて角膜上皮を剝離し,リボフラビンを2分ごとに30分間点眼し,角膜全層に浸透させる.角膜全層にリボフラビンが浸透したのを確認した後,長波長紫外線(365nm)を照射する(図1).紫外線の照射強度は3mW/cm2,照射径8mm,照射時間は30分間である.●角膜クロスリンキングの中長期結果イタリアで行われたCXLのphaseII臨床治験であるSienaEyeCrossStudyでは44眼の進行性円錐角膜に対してドレスデンプロトコールを用いてCXLを施行し,4年間の経過観察を報告している3).それによると,角膜トポグラフィにて測定された術前に対する平均角膜屈折力変化は,1年目で−1.96±0.63Dとフラット化し,2年目は−2.12±0.65Dで,それ以降はほとんど変化がなかった.本稿執筆時点で,もっとも長期の経過報告はRaiskupFらによる10年である4).進行性円錐角膜24名34眼に対してドレスデンプロトコールで行われた結果で,10年で平均最大角膜屈折力は61.5Dから55.3Dへとフラット化していた.内皮細胞の減少も認めず,38.2%に視力には影響がない程度の深層角膜混濁が残るものの,総じて高い安全性が確認されている.注目すべきは2眼に途中で進行があり,5年および10年目で追加のCXLを施行している点である.筆者らは,名古屋アイクリニックおよび佐藤裕也眼科にて,進行性円錐角膜の44名56眼を対象にドレスデンプロトコールでCXLを行った結果を報告した(小島隆司ら,第30回JSCRS総会,倫理委員会承認済み).平均経過観察期間は18.5カ月で,最短で6カ月,最長で36カ月の経過観察であった.平均角膜屈折力は術後1年において有意に低下し,それ以降は屈折が安定していた(図2).上皮化混濁は術後1年の時点では全例で消失,角膜深層混濁を術後1年以降の3眼に認めた.また,術後裸眼視力,矯正視力も手術1年で有意に改善し,それが3年目まで維持されていた.角膜内皮細胞密度は術前と比較して有意な低下は認めなかった.●おわりにCXLは円錐角膜の進行予防に対して有効であり,重篤な合併症もほとんどなく,安全な治療であることがわかかってきており,欧州では円錐角膜治療のスタンダードとなりつつある.ただし中長期結果でのエビデンスレベルはまだ不十分で,今後の結果報告が待たれる.一番の懸念は,CXLで角膜コラーゲンに起こった変化が,どの程度の時間持続されるのかという点である.角膜は静的ではなく,角膜実質内のコラーゲンもゆっくりとしたリモデリングが行われている.それに加えて加齢による生理的なクロスリンキング効果も,中長期のCXLの効果に修飾を与える可能性がある.また,結果の解釈をむずかしくしているのは,CXLの方法が,Epi-On,高速,トポガイドなど多様になっている点である.異なる研究の結果を比較する際は,クロスリンキングの方法にも着目する必要がある.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboflavin/ultraviolet-ainducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkeratoconus.AmJOphthalmol135:620-627,20032)LiJ,JiP,LinX:Efficacyofcornealcollagencross-linkingfortreatmentofkeratoconus:ameta-analysisofrandomizedcontrolledtrials.PLoSOne.2015May18;10(5):e1270793)CaporossiA,MazzottaC,BaiocchiSetal:Long-termresultsofriboflavinultravioletacornealcollagencrosslinkingforkeratoconusinItaly:theSienaeyecrossstudy.AmJOphthalmol149:585-593,20104)RaiskupF,TheuringA,PillunatLEetal:Cornealcollagencrosslinkingwithriboflavinandultraviolet-Alightinprogressivekeratoconus:ten-yearresults.JCataractRefractSurg41:41-46,2015図1角膜クロスリンキングの実際固視が悪いと十分な効果が得られないため,集中力が切れないように適時声をかけながらUV照射を進めていく.図2自験例における角膜クロスリンキング後の平均角膜屈折力の変化角膜トポグラフィの平均角膜屈折力の推移を示す.術前から術後半年までが大きな変化があり,そこからは進行を認めない.(59)あたらしい眼科Vol.33,No.5,20166830910-1810/16/¥100/頁/JCOPY684あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(60)

眼内レンズ:3焦点眼内レンズFine Vision(PhysIOL社)

2016年5月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋354.3焦点眼内レンズFineVision(PhysIOL社)杉田達金子務杉田眼科現在,わが国で承認されている多焦点眼内レンズは,遠方裸眼視力の良好さに近方の見やすさを加えた2焦点式である.近方加入度数が4Dならば,30cmは見やすいが卓上PCは見にくく,3Dまたは2D加入ならその逆の弱点がある.PhysIOL社のFineVision(未承認)は遠中近に光を分け,この欠点を補おうとする3焦点眼内レンズである.FineVisionの概要PhysIOL社の3焦点眼内レンズ(intraoculerlens:IOL)には,Non-Toric型のFineVision(MicroF,PodF)とToric型のFineVisionToric(PodFT)がある.表1にそれぞれのスペックを示す.Accujectというインジェクターを使用し,2mmの切開幅で挿入可能である.囊内への挿入は容易で,術後のレンズ回転も少ない.多焦点機能はAlcon社AcrySofIQReSTOR®(以下,ReSTOR)に近いアポダイズド回折型で,回析格子先端構造をよりスムーズにして,中間1.75D,近方3.5D加入の3焦点を得ている.エネルギーロスは14%で,一般の2焦点IOLでのロスより少ないという.光分布は,瞳孔3mmにて遠方42%中間15%,近方29%である.なお,3焦点IOLに関する論文は今のところきわめて少ない1).●術後成績2014年より当院で水晶体乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)とともに一次移植したFineVisionは,PodF例16眼,PodFT例16眼,計22例(男性12人,女性10人)32眼であった.手術時年齢は67.76±11.3歳で,裸眼で遠方と読書とともに,デスクトップ型PCや楽譜を見たり,ゴルフなどでも不自由がない生活を希望する人が多かった.NonToricのPodFは,遠方5mのLogMAR裸眼視力−0.06±0.05,矯正−0.07±0.03の良好な視力を得られ,当院で使用したNon-Toricの2焦点IOL,TECNIS®Multifocal(AMO社),AF-1®iSii®(HOYA),LENTISMplusX(Oculentis社)と優劣はなかった.しかし,近方30cm,40cm,50cm,70cmでの裸眼視力では,他のIOLは30~70cmのどこかが見えにくいが,FineVisionはどのポイントでも平均LogMAR視力0.10以上を得た.同様に,PodFTとReSTORToric,LENTISMplusXtoricとの比較では,PodFTとLENTISMplusXtoricはほぼ同等の視力で,2焦点機能のReSTORToricに優っていた.PodFT16眼中,術後に乱視軸ずれが大きいため角度を補正したものは1眼(6%)で,これを除く角度ずれは5.33±4.73°であった.なお,PodFTのIOLパワーは,PhysIOL社のHPより求めることができる(表2).薄暮視下でのコントラスト感度視力検査(CAT-2000,メニコン)では,単焦点IOL(YA-60BBR,HOYA)に比べれば,使用したすべての多焦点IOLは感度低下がみられたが,は中間的値であった.術後早期のアンケートでは,満足と回答した人が14名中13名であった.1名は近用鏡装用希望のための不満であった.表1FineVisionのスペックMicroFPodFPodFT(Toric型)近点加入+3.5D+3.5D+3.5D中間+1.75D+1.75D+1.75D光学系BiconvexasphericBiconvexasphericBiconvexaspheric素材25%hydrophilicacrylic26%hydrophilicacrylic26%hydrophilicacrylic直径6.15mm6mm6mm全直径10.75mm11.40mm11.40mmパワー+10D~+35D(0.5D刻み)+6D~+35D(0.5D刻み)+6D~+35D(0.5D刻み)乱視度数1.00D,1.50D,2.25D,3.00D,375D,4.5D,5.25D,6.00D切開幅≧1.8mm≧2.0mm≧2.0mm表2多焦点IOLの距離別平均logMAR視力Non-toric型Toric型距離FineVision(回折)11例16眼LENTISX(屈折)6例9眼TEC.Multi.(回折)25例36眼iSii(屈折)31例42眼FineVisionToric(PodFT)11例15眼LentisXToric35例60眼ReSTORToric11例16眼30cm0.08±0.070.19±0.160.06±0.070.13±0.090.08±0.080.09±0.090.12±0.1340cm0.10±0.070.14±0.130.13±0.090.13±0.070.08±0.070.08±0.080.11±0.0950cm0.08±0.050.12±0.130.24±0.090.12±0.070.08±0.060.07±0.070.13±0.0970cm0.06±0.060.13±0.120.27±0.150.08±0.070.07±0.070.07±0.070.12±0.075m(矯正視力)−0.06±0.05(−0.07±0.03)−0.03±0.05(−0.08±0)−0.07±0.02(−0.08±0)−0.06±0.05(−0.07±0.02)−0.05±0.04(−0.06±0.03)−0.07±0.03(−0.08±0.01)−0.07±0.04(−0.07±0.02)多重検定*:p<0.05術後乱視軸ずれ補正手術症例術後乱視軸の誤差FineVisionToric群12例16眼6%(1/16)5.33±4.73°FineVisionは,Non-toric型,toric型ともに各距離で安定した視力を得た.PodFTは,1眼(6%)で回転があり,補正手術を行ったが,術後の乱視軸の誤差は平均的である.おわりにFineVisionはわが国では未承認であり,医師の責任と患者への十分な説明のもとに使用している.遠中近に光を分散するこの新しいタイプの3焦点IOLは,患者の術後の診察やアンケートで,早期から自然な見え方と答えた人が多かった.また,乱視対応があることも患者選択の制限を少なくしている.術後観察期間の短さと,症例数の少なさを考慮しなければならないが,グレアー・ハローやワクシービジョンなどの強い訴えは今のところなく,眼鏡装用者も少ない.使用しやすい多焦点IOLとの筆者らの感想であるが,長期的な観察は必須である.なお,先進医療として認可されている多焦点IOL間で,中間または近方の見え方を補うために,Mix&Matchも行われている.片眼に回折型4D加入IOL,瞭眼に屈折型3D加入IOLを使用する.これは中間または30cmの距離を左右眼のどちらかで見るモノビジョン効果2)を加えたものといえる.また,ReSTORとTECNISMultifocalには,3D~2D加入のものも開発されているが,これも回折型同士でのモノビジョン法といえそうである.FineVisionは,1眼の中で光を3分割し,網膜闘争により見たい距離の光を選択,脳内で左右の情報を融像,立体視するものであり,モノビジョン法との違いがここにある.どちらがより生理的であるか興味深い.6mm径以下の光学系の中で光を3分割し,各々の距離の視力を確保しつつ,cludyvisionが少ないと感ずるこの3焦点IOLが,どこまで多くの人に快適性を提供し普及するのか.3焦点IOLは,FineVisionのほかに,回折型としてATLISAtri839MP(Zeiss社)があり,屈折型はLENTISMplusXも3焦点をうたっている.3焦点IOLは新しい流れになるかもしれない.文献1)MarquesEF:Comparisonofvisualoutcomesof2diffractivetrifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg41:354-363,20152)天野理恵:眼内レンズによるモノビジョン法.IOL&RS28:162-166,2014(57)あたらしい眼科Vol.33,No.5,20166810910-1810/16/¥100/頁/JCOPY

写真:結膜アミロイドーシス

2016年5月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦384.結膜アミロイドーシス出口英人渡辺彰英京都府立医科大学視覚機能再生外科学図1僚眼結膜アミロイドーシスを認めた症例(60歳,女性)眼球結膜から下眼瞼にかけて広がる橙赤色の腫瘤性病変を認め,組織診断でアミロイドーシスと判明した.図2図1のシェーマ①結膜充血②腫瘤性病変図3図1の症例の無治療3年後アミロイドーシスの増大を認める.図4図3の切除検体の病理所見好酸性の無構造物質が広がっている.Congored染色で橙赤色に染まり,アミロイドーシスとして矛盾しない.アミロイドーシスは,全身のさまざまな組織にアミロイド沈着を生じる疾患の総称である.眼科領域でのアミロイドーシスは,結膜,眼瞼,円蓋部,眼付属器に生じる.一般的には限局性であるが,全身性アミロイドーシスに伴うものも報告されている1).眼周囲,眼窩部のアミロイドーシスは頻度が少なく,しばしば診断が遅れがちとなり,進行してしまうことがある.初発症状としては,眼の異物感,流涙などがあり,増殖の程度によっては,反応性リンパ過形成や悪性リンパ腫と判別が困難な場合もある.アミロイドーシスの診断は,病理学的にCongored染色で橙赤色に染まり,偏光顕微鏡下で緑色の偏光を呈する物質として同定されることで行われる2).頻度は少ないものの,全身性アミロイドーシスに伴う場合があり,生命予後にかかわるため,全身検索を行う必要がある.眼周囲,眼窩部アミロイドーシスは進行が緩徐であり,まずは経過観察を行うが,増大傾向があれば外科的切除を行う.本症例は60歳,女性で,近医より悪性リンパ腫疑いということで紹介受診された.両眼球結膜に橙赤色の腫瘤を認め,生検を行ったところアミロイド沈着と判明した.全身検索では明らかな全身性アミロイドーシスを疑う所見を認めなかった.3カ月ごとの経過観察で増大傾向を認めず,1年を経過した時点で受診が途絶えていた.3年後に受診した際には,両眼とも腫瘤の増大を認め,本人が切除を希望されたため,外科的切除を行った.再度病理検査を行ったが,アミロイド沈着との診断であった.現在,再発がないか経過観察中である.眼周囲,眼窩部アミロイドーシスは報告が少なく,治療法も確立されていない.8例の眼周囲,眼窩部アミロイドーシス患者を後ろ向きに検討した報告1)では,腫瘍の部位は眼瞼が4例,結膜が2例,円蓋部と涙囊がそれぞれ1例であった.治療についてはアミロイドーシスの部位や大きさによって異なり,3例で外科的切除が選択され,減量術,涙囊形成,生検のみがそれぞれ1例であった.アミロイドーシスを疑った場合は,まず生検で確定診断を行い,部位や大きさによって治療を選択する必要がある.また内科的スクリーニングを行い,全身性アミロイドーシスを除外することが重要である.文献1)AryasitO,PreechawaiP,KayasutKetal:Clinicalpresentation,treatment,andprognosisofperiocularandorbitalamyloidosisinauniversity-basedreferralcenter.ClinicalOphthalmology7:801-805,20132)日野智之,外園千恵:結膜腫瘍.あたらしい眼科28:1555-1558,2011(55)あたらしい眼科Vol.33,No.5,20166790910-1810/16/¥100/頁/JCOPY