特集●屈折矯正を見直す!あたらしい眼科33(6):763~769,2016特集●屈折矯正を見直す!あたらしい眼科33(6):763~769,2016LASIKとQOLLASIKandQOL井手武*ILASIKの現状LASIKという言葉は学術ジャーナルによっては稀ながら投稿規定においてlaserinsitukeratomileusisでなく,初出からLASIKと使用してもよいと指示されることがあるほど一般に認知されている.LASIK手術は角膜が屈折力に占める割合が大きく,解剖学的に眼表面にあるというアプローチのしやすさ,マイクロケラトーム,フェムトセカンドレーザーなどのフラップ作製機器,エキシマレーザーという半導体のエッチング工程にも使われる精密機器などの技術的革新と相まって1990年にギリシャで初めて手術が行われ,それ以後2008年の世界的な経済危機まで症例数が世界的にコンスタントに伸びてきた.現在,さまざまな要因(適応症例の枯渇,経済状況,LASIKに対する否定的な見解・報道など)により大幅な症例減少を経験し停滞傾向であることは否めない.日本においても,消費者庁のLASIKに対する注意喚起報道を一つのきっかけに全国的な症例数の減少を経験した.安心LASIKネットワーク加盟施設(大学病院11施設,クリニック38施設,計49施設)に対して,2013年1~6月の6カ月間の症例数と比較して2014年1~6月の症例数の回答を求めた.22施設からの回答を得て,平均55.7%の症例数の減少が確認された(最小33%,最大85%の減少).LASIKに関する論文を網羅的にまとめた論文によれば,レーザー屈折矯正手術(laservisioncorrection:LVC)の満足率は97%にものぼり1),高満足度,安全性と有効性のため米軍とNASAでは視力向上の方法として採用されている.しかし,一般の人々のなかにはLASIKは危険で,医師,とくに眼科医はLVCを受けないという認識もある.IILASIKに対する認識今回「LASIKとQOL」という非常に難しいが大切なテーマを与えていただいた.編集部からいただいた編集方針として「専門家が専門家のために書く総説ではなく,専門家が一般眼科医のために書く,啓発的なものとする方針を貫きたい」「著者の個人的見解を押し出し」とあったため,データよりも個人的な考えを多く書かせていただく.患者の治療に対する態度や認識形成過程はPDCA(plan-do-check-actcycle)サイクルを回した結果ではなく,自己の経験とそれに基づく情報検索を行うことにより行われ自分の経験を確信することになる.とくに不満患者に関しては苦しんでおられる立場から否定的な情報を発信するのは仕方のない面がある.白内障手術については大部分の眼科医が手術の経験をもち,多くの患者を日常的に診ているため,論文データと大きく変わらないリテラシーや認識をもっている.多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)のような特殊なものでない限り,患者に対する説明が全国同じような*TakeshiIde:南青山アイクリニック東京〔別刷請求先〕井手武:〒107-0061東京都港区北青山3-3-11ルネ青山ビル4階南青山アイクリニック東京0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(3)763yyx白内障手術提供医師の知識LASIK提供医師の知識各患者の経験各患者の経験症例報告論文レビュー論文症例報告論文症例報告論文レビュー論文症例報告論文????一般眼科医の認識・知識一般眼科医の認識・知識図1白内障(a)とLASIK(b)における一般眼科医の認識LASIKにおいてはばらつきが多いと考えられる.患者のQOLや満足度が正規分布で表現されるかどうかの議論はあるが,簡便性のためにベルカーブで表現した.ートしていないことが多いのは納得されるであろう.LASIKについてはカバーすべき領域とはわかっていても,経験・リテラシーに関しては就業環境におけるソフトとハードの問題もあり,簡単に習熟することは困難である.教科書や論文でリテラシーは変えられるという意見もあるかもしれないが,経験に裏打ちされない知識は身につきにくいのと,稀にしか診察しない治療法に関して,最新の英語論文にアクセスしてレビューなどを読み込んでから判断することはまずないと思われる.一般的な治療法であれば,WEBでキーワード検索などをして眼科学会や医師のブログなどを読み,統一感のある記事を見つけることが可能で,それを元に自身の理解や患者説明が可能である.しかし,白内障以外の屈折矯正手術に関する問題点は,宣伝,悪評,好評,学術的な記載などがWEBには入り乱れており,限られた患者経験しかない医師,とくに上記③の患者を多く診る医師の場合には患者経験から血肉となる知識に偏りがでる.本来,中立的な情報や全体像を見渡すべき眼科医が,一般の人々・マスコミ・WEB情報と同じ姿勢で患者に接していることがある(図1).しかし,患者が医師に求めるものは,患者の意見を聞くことではあるが,同調することなく,プロとしての広い知識や経験を元に判断材料を提供することだと考える.これはLASIKに限ることではないが,眼科医師のなかでとくに認識に差が大きいLASIKなどの角膜屈折矯正手術については,中立的な認識形成のための対応が必要かと思われる.IIIQualityofLife(QOL)の相対性非常に一般化しているが曖昧なQOLやQOV(qualityofvision)という言葉を,筆者らは日常的に使用している.雨傘は雨天時には快適さに寄与するが,晴天時は荷物以外の何物でもないように,QOLやQOVも評価する項目,対象,時期(時代),環境,立場に応じて良いQOLにも悪いQOLにもなりうる.とくに周りの環境変化によって正負の評価が急に逆転することがある.先述した安心LASIKネットワーク加盟施設へのアンケート調査時に得られた返信コメントに「現時点では視力もよく,症状などもまったく問題ないのに,報道によって不安になって連絡してこられた」とあったように,これまでQOLの高かった患者が不安にさいなまれてドクター・ショッピングを始めるようになり,眼科医ごとに異なる意見をいわれ,さらに不安になりQOLが下がるようなことも散見されるようになった.このようにQOLの相対性については認識しておく必要がある.IVQOLの統計処理問題数値データのような量的データの解析についてはある程度確立した方法がある.しかし,QOLのような定性的・主観的な質的データについてはvalidationされているような質問票もあれば,慣例的に医療機関で使用されている回答項目をスコア化しているだけのものもある.質的データの多くは大小,順序,方向のみに意味があり計算することができない順序尺度であるが,心理学や教育学の調査・研究では,便宜上,間隔尺度とみなしてデータ解析する場合がある.したがって,質的データをそのままグラフ化したり比率を表示するだけなら問題ないが,統計解析をされたものに関しては注意を要する.V医師のLASIK経験から学ぶ医師は診察する患者から多くを学ぶ.臨床の現場では患者の訴える問題の範囲と医師の考える問題の範囲に差(ギャップゾーン)があるのを日常的に医師は経験している(図2).これは医療知識の偏り,医学的思考トレーニングの有無がある以上,完全には埋まらないものである.しかし,一般的な疾患であればそれを埋めるための説明や努力がなされている.屈折矯正トレーニングを受けていない医師は,一般患者の満足度やQOLを報告した論文に接しても「医師と患者で認識の差はあるしなー」と考え,それよりも自身の少数の症例経験とそれに一致するWEB検索結果に引っ張られる認識形成を行うことも多いと思われる.WEBでは患者体験が多く綴られているが,そのなかには満足度が高い症例や低い症例医師患者問題ない問題ない問題問題ギャップゾーン図2医師と患者の「問題と考える範囲」の違い(5)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016765766あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(6)ールを送付し,58%にあたる132名から回答を得た.12項目からなる質問票に対する回答の解析を行ったものである.下記にデータとコメントを記載する(Q:question,R:result).Q1:専門は何ですか?R1:外科手術を行う医師28.0%,処置を行う医師43.2%,処置も手術も行わない医師28.8%,計100%(眼科手術医師:9名6.8%).単一施設,単一術者における研究で質問票の返送率が100%ではないという問題はあるが,そのなかでも眼科手術を行う医師が9名6.8%存在している.米国で全医師に対する眼科医の割合は約2%なので,それと比べても高い比率である.さらに,InternationalSocietyofRefractiveSurgery(ISRS)の2013年における調査結果において,より屈折矯正術者が多く含まれているという母集団に偏りはあると思うが,40%の眼科医,配偶者の34%,子供の26%,そして少なくとも兄弟姉妹の72%がLASIKかPRKを受けており,このようにとくにLVCに理解のある眼科医を多く含む調査でこのような結果が出ていることは患者説明の際に利用していただきたい3).Q4:メガネやコンタクト矯正のない状態での現在の視力にどれくらい満足していますか?(図3)R4:満足が95.3%.LASIK関連論文をまとめたQOLと満足度に関するレビュー論文1)の結果でも97%の満足度を得ており,今回の論文とほぼ同等の結果である.Q5:術前の裸眼・メガネ・コンタクトレンズ矯正視力と比べて,今の視力の質はどれくらいよいですか?(図4)R5:84.3%で向上,96.8%で同等以上.この結果も術後の度数の戻りの情報や合併症の情報との紐付けができない研究デザインのなかで同等以上の視力の比率が96.8%というのは高いのではないかと考える.にかたよった患者個人の経験が溢れている.いうなればチャンピオンデータの症例報告か合併症の症例報告論文をみているようなものである(図1).執筆というと通常は,できるだけ客観性をもたせるためにPubMedなどで関連キーワードを網羅的に調べて,得られた検索結果の論文のエッセンスをまとめるという形態のものが多い.査読を経た論文のなかでも,コントロールされた多くの症例の統計処理を行ったものがインパクトファクターの高いものとして頻繁に引用される.しかし,医師のなかでも誰が読むかによって論文の評価は大きく変わる.つまり,数多くの患者を実際に診ているLASIK提供医師はそのような論文のデータに納得感を抱くであろうが,一般眼科医の場合には結果をみてもイメージさえ湧いていない可能性がある.したがって,今回の執筆の目的である一般眼科医のLASIKに関する認識を形成するためには既報のまとめだけでは意味がないと考え,従来のような執筆形態でなくこのような書き方をしている.しかし,データの裏付けも必要なため一般眼科の先生方に訴える論文を検索した.つまり,医学的思考ができる者(医師)のLASIK体験をまとめた論文である.より読者の感覚に近い医師がLASIKに関してどのように感じて評価しているのかという最近の論文を提示し認識を形成する助けになればと考えた.以下に呈示する論文(Long-termfollow-upafterlaservisioncorrectioninphysicians:qualityoflifeandpatientsatisfaction)2)はレーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractivekeratectomy:PRK)とLASIKが混在しており,LASIKについてもマイクロケラトームとフェムトセカンドレーザーのものが混在している.つまり純粋なLASIKの結果ではないが,医師という特定の集団のレーザー屈折矯正手術結果をまとめたもののなかでは一番新しく,症例数の一番多いものであったので採用することにした.VI論文内容の紹介2000年から2012年の12年間にクリーブランドクリニックのグループが実施した医師に対するLASIKとPRKのLVCのQOLと患者満足度調査の結果である2).研究基準を満たすLVCを受けた226人の医師に電子メ図1).執筆というと通常は,できるだけ客観性をもたせるためにPubMedなどで関連キーワードを網羅的に調べて,得られた検索結果の論文のエッセンスをまとめるという形態のものが多い.査読を経た論文のなかでも,コントロールされた多くの症例の統計処理を行ったものがインパクトファクターの高いものとして頻繁に引用される.しかし,医師のなかでも誰が読むかによって論文の評価は大きく変わる.つまり,数多くの患者を実際に診ているLASIK提供医師はそのような論文のデータに納得感を抱くであろうが,一般眼科医の場合には結果をみてもイメージさえ湧いていない可能性がある.したがって,今回の執筆の目的である一般眼科医のLASIKに関する認識を形成するためには既報のまとめだけでは意味がないと考え,従来のような執筆形態でなくこのような書き方をしている.しかし,データの裏付けも必要なため一般眼科の先生方に訴える論文を検索した.つまり,医学的思考ができる者(医師)のLASIK体験をまとめた論文である.より読者の感覚に近い医師がLASIKに関してどのように感じて評価しているのかという最近の論文を提示し認識を形成する助けになればと考えた.以下に呈示する論文(Long-termfollow-upafterlaservisioncorrectioninphysicians:qualityoflifeandpatientsatisfaction)2)はレーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractivekeratectomy:PRK)とLASIKが混在しており,LASIKについてもマイクロケラトームとフェムトセカンドレーザーのものが混在している.つまり純粋なLASIKの結果ではないが,医師という特定の集団のレーザー屈折矯正手術結果をまとめたもののなかでは一番新しく,症例数の一番多いものであったので採用することにした.VI論文内容の紹介2000年から2012年の12年間にクリーブランドクリニックのグループが実施した医師に対するLASIKとPRKのLVCのQOLと患者満足度調査の結果である2).研究基準を満たすLVCを受けた226人の医師に電子メ766あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016ールを送付し,58%にあたる132名から回答を得た.12項目からなる質問票に対する回答の解析を行ったものである.下記にデータとコメントを記載する(Q:question,R:result).Q1:専門は何ですか?R1:外科手術を行う医師28.0%,処置を行う医師43.2%,処置も手術も行わない医師28.8%,計100%(眼科手術医師:9名6.8%).単一施設,単一術者における研究で質問票の返送率が100%ではないという問題はあるが,そのなかでも眼科手術を行う医師が9名6.8%存在している.米国で全医師に対する眼科医の割合は約2%なので,それと比べても高い比率である.さらに,InternationalSocietyofRefractiveSurgery(ISRS)の2013年における調査結果において,より屈折矯正術者が多く含まれているという母集団に偏りはあると思うが,40%の眼科医,配偶者の34%,子供の26%,そして少なくとも兄弟姉妹の72%がLASIKかPRKを受けており,このようにとくにLVCに理解のある眼科医を多く含む調査でこのような結果が出ていることは患者説明の際に利用していただきたい3).Q4:メガネやコンタクト矯正のない状態での現在の視力にどれくらい満足していますか?(図3)R4:満足が95.3%.LASIK関連論文をまとめたQOLと満足度に関するレビュー論文1)の結果でも97%の満足度を得ており,今回の論文とほぼ同等の結果である.Q5:術前の裸眼・メガネ・コンタクトレンズ矯正視力と比べて,今の視力の質はどれくらいよいですか?(図4)R5:84.3%で向上,96.8%で同等以上.この結果も術後の度数の戻りの情報や合併症の情報との紐付けができない研究デザインのなかで同等以上の視力の比率が96.8%というのは高いのではないかと考える.(6)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016767(7)限があるという医師は1人もいなかった.患者のQOLに大きな影響を与える外科手術や処置を行う医師の比率が高いなか,このような結果になったことは認識していただきたい.Q8:屈折矯正手術以来,処置の正確性はどうなりましたか?(図7)R8:同等以上は98.4%になる.Q6:視力は仕事において“concern”である(Myvisionisaconcernatmywork).(図5)R6:この回答については結果にばらつきがある.この質問で使われているconcernという単語の語義が誤解を招きやすいと論文のディスカッションでも述べられているように,この質問はvalidateされていない.「視力は仕事で大切」という意味にも取れるし,「仕事では視力が問題になっている」とも意味が取れ,どの意味で医師が答えているかが不明で解釈が難しい.Q7:屈折矯正手術後,医師としての仕事能力にどれだけ制限が出てきましたか?(図6)R7:90%以上がまったく問題ないと答え,非常に制80706050403020100%大不満不満どちらでもない満足大満足0.82.31.62570.3図3Q4の回答集計結果「メガネやコンタクトレンズ矯正のない状態での現在の視力にどれくらい満足していますか?」に対する回答.悪いわずかに悪い同等良いかなり良い03.112.527.3576050403020100%図4Q5の回答集計結果「術前の裸眼・メガネ・コンタクトレンズ矯正視力と比べて,今の視力の質はどれくらいよいですか?」に対する回答.わからない非常にある程度少々全くない3.901.63.990.6100500%図6Q7の回答集計結果「屈折矯正手術後,医師としての仕事能力にどれだけ制限が出てきましたか?」に対する回答.いつも頻繁に時々稀に決してない17.23.90.825.858.6706050403020100%図5Q6の回答集計結果「視力は仕事において“concern”である(Myvisionisaconcernatmywork).」」に対する回答.806040200%不可能に困難に同等改善大改善01.659.414.824.2図7Q8の回答集計結果「屈折矯正手術以来,処置の正確性はどうなりましたか?」に対する回答.80706050403020100%大不満不満どちらでもない満足大満足0.82.31.62570.3図3Q4の回答集計結果「メガネやコンタクトレンズ矯正のない状態での現在の視力にどれくらい満足していますか?」に対する回答.悪いわずかに悪い同等良いかなり良い03.112.527.3576050403020100%図4Q5の回答集計結果「術前の裸眼・メガネ・コンタクトレンズ矯正視力と比べて,今の視力の質はどれくらいよいですか?」に対する回答.わからない非常にある程度少々全くない3.901.63.990.6100500%図6Q7の回答集計結果「屈折矯正手術後,医師としての仕事能力にどれだけ制限が出てきましたか?」に対する回答.いつも頻繁に時々稀に決してない17.23.90.825.858.6706050403020100%図5Q6の回答集計結果「視力は仕事において“concern”である(Myvisionisaconcernatmywork).」」に対する回答.806040200%不可能に困難に同等改善大改善01.659.414.824.2図7Q8の回答集計結果「屈折矯正手術以来,処置の正確性はどうなりましたか?」に対する回答.これは医師にとってよいだけでなく患者ケアにも意味があるのではないかと思われる.しかし,1.6%は術前よりも医師としての仕事が困難になったと回答しているという事実もある.Q11:今回のあなたの手術結果の経験や知識が事前にあったとすれば,もう一度手術を受けられますか?(表1)R11:96.0%もう一度受けるが.5人の医師2回目は受けないと回答した.5人の医師の内訳は次の通りである.#1:手術や処置が困難で不満#2:メガネが必要なため不満#3:異物感と乾燥感が強いが,評価は満足でも不満足でもないニュートラル#4:満足はしているが必要ない手術だと判断#5:満足はしているがメガネで矯正不能な見え方しかし,この最後の症例は,視力の問題がLVCで起こったのか,術前からあってそれが改善しなかったのかが不明とのことである.一方で,不満があるがもう一度手術を受けるという患者も2人いた.術後の問題点についての記述もあり,中には20~30%にも上るものもある.しかし,96%もの医師が術後の経験を事前に知っていたとしてももう一度受けると答えている.満足でも受けない症例,不満足でも受けるという症例がいるということも患者説明の際に付け加えていただきたい.術後,問題をまったく感じない医師が28.3%であったが,問題として比率が高かったものを列挙すると,夜間運転時(36.2%),近見視力(22.0%),運転時の対向車のヘッドライトのグレア(21.3%).軽症から重症までを含むが目の症状で比較的頻度の高かったものはゴロ表1術後経験の知識を術前に得ることができたとしたらもう一度受けるかどうかを満足例と不満足例で集計満足と回答した人不満足と回答した人受ける1192受けない22ゴロする(50.0%),グレア(43.0%),ハロー(41.4%),薄暮時の見え方(35.2%).メガネやコンタクトレンズを術後も使用している比率21.9%,28人でこのうち8人は1日2時間以上メガネかコンタクトレンズを必要としていた.18人は状況により異なるとのことで,多くは近見時(67.9%),夜・雨・グレア時の運転時(39.2%)にメガネかコンタクトレンズを必要としていた.このメガネやコンタクトレンズを術後もしている28人のグループは満足度が低い傾向があり(28人中22人,78.6%),逆にメガネから開放された99人(99%)は満足していた.1人は中立的な意見,不満な患者は1人もいなかったとのことである.まとめ今回はLASIKを提供していない一般眼科医に「LASIKとQOL」に関する認識をもっていただく目的とした.客観的に異常を認めず数値データでは問題なくてもQOLが低いと感じたり,主観や客観データで不満な部分はあってもQOLは高いと感じたり,満足度やQOLは肉体的,精神的,経済的期待値をどれだけ満たしているかとか,どれだけ実際に効果を得ているかなどに依存する.加えて報道や周りからの意見,時代背景,患者の理解や感覚に依存し,相対的で動的に変化するという性質も有するため100%の満足度を得ることは困難であろう.これに関して,100%でない治療は提供すべきでないという意見があることも承知はしている.しかし,それによりこれまで眼科界が蓄積してきた屈折矯正のソフトやハードが失われ,職業的・美容的・医学的な理由で屈折矯正手術を必要とし利益を受けることができる患者の機会損失になったり,すでに受けた患者の不利益になるような事態になれば非常に残念である.このような満足度やQOL研究ではホーソン効果(Hawthorneeffect)を考慮にいれる必要がある.ホーソン効果とは労働者の作業能率は,客観的な職場環境よりも職場における個人の人間関係や目標意識に左右されるのではないかということを調べたホーソン実験から,治療を受ける者が信頼する治療者(医師など)に期待されていると感じることで,行動の変化を起すなどして,768あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(8)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016769(9)結果的に病気がよくなる(よくなったように感じる,よくなったと治療者に告げる)現象をいう.たとえば膝痛の患者が信頼する医者が期待してくれている,と感じることにより,膝の運動療法を自ら率先して行うようになり,膝痛がよくなることがある.糖尿病の治療をしている患者が,あの医師があんなに親身になって心配してくれているんだからと自発的に食事療法にはげんだりなど.ホーソン効果はプラセボ効果と並び,研究するにあたっては考慮する必要がある因子である.研究においては排除すべきこのようなプラセボ効果やホーソン効果も,実際の臨床においては患者の治療満足度やQOLを上げるのに大切である.先述したように満足度やQOLは動的に変化するものなので,眼科医の意見の相違を経験したり否定的なことをいわれたりすると治療効果が下がる可能性がある.患者の不満を抱えた状態が続けば,①治療の中断やドクター・ショッピング,②継続受診に対する患者のコンプライアンス行動の低下,③医療者と患者の意思の疎通が図れないために,治療に必要な症状,経過などの患者情報を医療者が得られない,④眼科医全体への信頼の損失なども究極的には表れてくるかもしれない.したがって,屈折矯正手術に関して読者にお願いしたいのは,他の疾患や治療で患者に説明しているときと同じスタンスをとっていただきたいということである.もっと端的にいうと,図2にあるギャップゾーンを埋める努力をLASIKなどの屈折矯正手術においてもプロとして行っていただきたい.つまり,一般的なデータや知識という客観的なものと,それを踏まえた個人の主観的見解をバランスよくかつ区別して患者に伝えていただくことである.その際のデータとして高率に出てくる問題点,たとえば今回引用した論文でもグレア(43.0%),ハロー(41.4%)とあるが,これだけを抽出して4割が問題を生じているという表現をするだけでなく,同時にそれでも95%の医師は満足で96%の医師はそれがわかっていてももう一度手術をうけるといっているという情報も付加しながら判断材料を適切に伝えていただきたい.このような機会を与えていただいた不二門先生,坪田先生,編集委員会の皆さまに感謝申し上げます.この稿が明日からの診療の一助になれば非常に幸いです.文献1)SolomonKD,FernandezdeCastroLE,SandovalHPetal;theJointLASIKStudyTaskForce:LASIKworldlit-eraturereview;qualityoflifeandpatientsatisfaction.Ophthalmology116:691-701,20092)PasqualiTA,SmadjaD,SavetskyMJetal:Long-termfollow-upafterlaservisioncorrectioninphysicians:qual-ityoflifeandpatientsatisfaction.JCataractRefractSurg40:395-402,20143)DuffeyRJ,LeamingD:USTrendsinRefractiveSurgery.ISRSSurvey.ISRS,2013