特集●視神経炎と視神経症:全身と眼の架け橋あたらしい眼科33(5):653〜661,2016OCTと多発性硬化症OCTandMultipleSclerosis横山和正*服部信孝*はじめに一般眼科医にとって多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)からイメージされるのは視神経炎と思われるが,眼科医が日常臨床で遭遇する視神経炎の多くは特発性視神経炎である.一方,われわれ神経内科医が視神経炎患者を診た場合にイメージするのはMS,視神経脊髄炎(neuromyelitisoptica:NMO)であり,視神経以外の神経障害の有無を見つけ出すために問診,神経診察の後に血液・髄液検査,頭部・脊髄MRI,誘発筋電図検査などを行う.初発の視神経炎が眼痛を伴い視力障害が著明なときには神経内科医は急性期治療としてステロイドパルス療法を可能な限り同日中に行い,反応しなかった場合は血液浄化治療やその後の再発予防治療を考える.なぜならNMOによる視神経炎では,ときにステロイドパルスの効果が乏しいことや,治療後内服ステロイドによる後療法を行わなわないと容易に再発し,1回のアタックで失明もしくは重篤な脊髄症状など患者の長期QOL(qualityoflife)を阻害するリスクが高いためである.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は眼科医にとっては日常的に使用する検査機器となっているが,神経内科領域でその必要性が認識されたのは,2011年11月に再発寛解型のMS再発予防内服薬として保険収載されたフィンゴリモド塩酸塩の国内第3相臨床試験からである.先行して行われた欧米の試験で黄斑浮腫が報告され,日本ではOCT利用可能な施設のみが試験依託施設として選択された.本稿ではまずMS,OCTついて概説し,次にMSにおけるOCTの有用性,鑑別診断,とくにNMOとの鑑別,フィンゴリモド塩酸塩副作用評価,OCT施行上の注意点,未来への展望について脳神経内科医の立場から述べる.I多発性硬化症MSは中枢神経特異的な自己免疫疾患である.軸索をとりまく髄鞘を構成するミエリン蛋白に対しての獲得免疫が,急性期の病態に関与し脱髄が起こる.しかし,近年病早期からの神経軸索変性が重要視され,自然免疫の役割が明らかとなってきている.MSは若年女性に多く,寛解増悪を繰り返し,10~15年で半分以上が二次性進行型へと移行する(図1)1).視神経炎を含めた急性期治療としてはステロイドパルス治療や血液浄化療法などが行われるが,再発寛解型MS(relapsingremittingMS:RRMS)の再発予防のためには免疫修飾治療(diseasemodifyingtherapy:DMT)としてインターフェロンb1a(アボネックス®),インターフェロンb1b(ベタフェロン®),グラチラマーアセテート(コパキソン®),フィンゴリモド塩酸塩(イムセラ®,ジレニア®),ナタリズマブ(タイサブリ®)が国内で承認されている.しかし,進行型である一次性進行型MS(primaryprogressiveMS:PPMS),二次性進行型MS(secondaryprogressiveMS:SPMS)に対して長期効果を示すDMTはない.多くのRRMS患者は10~15年の経過とともに再発を伴わず進行する状態(SPMS)となり,認知症,ADL,QOL障害が徐々に悪化する.MS患者の神経変性の進行の指標としては,脳容積や第3脳室径,頸髄MRIの萎縮などが利用されるが,施設間MRI機種の差異に加え,位置決め,緩和時間の条件設定などの違いもあり,経時的な評価をまったく同じ条件で行うことは同一病院内であっても多忙な日常臨床では困難であることから,より簡便で再現性のある検査が必要とされてきた.II多発性硬化症と視神経炎われわれが知覚する外界からの視覚情報(光刺激)は角膜,水晶体,硝子体を通り,その後は網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)に至り,一番深層にあるphotoreceptorlayer(桿体および錐体細胞)にとらえられ,神経信号へと変換される.外網状層(outerplexiformlayer:OPL)では水平細胞がシナプス結合し,内網状層(innerplexiformlayer:IPL)で双極細胞,アマクリン細胞,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)がシナプス形成している.その軸索は網膜表層を乳頭へ向かって走り,乳頭から視神経管の中で脳との接点である視神経となり,その後の視路を経て後頭葉に至る.外顆粒層(outernuclearlayer:ONL)には視細胞である桿体細胞,錐体細胞が存在し,内顆粒層(innernuclearlayer:INL)には双極細胞,水平細胞,アマクリン細胞が,網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)にはRGCの細胞体が存在している(図2)2).視神経炎では2~3日以内に視力低下,中心暗点などの視野欠損,色覚異常,対光反射異常,眼球運動時の眼球後部痛が生じる.MSでは15~20%の症例が視神経炎で初発し,経過中約50%の患者に視神経炎が認められる.そのうち2/3は球後視神経炎で,眼底所見では乳頭の急性期変化は認められないが,1/3の症例では視神経乳頭が腫脹し視神経乳頭炎をきたす(図3).視神経炎により神経軸索を包む髄鞘が炎症性細胞の浸潤や抗体その他の液性因子によって傷害されることを脱髄という.視神経の髄鞘は大脳白質と同様に中枢神経の髄鞘をつくる希突起膠細胞(オリゴデンドログリア細胞)によってつくられているため,中枢神経の脱髄性疾患であるMSでは傷害を受ける.IIIOCTによる多発性硬化症の評価MSの視神経の構造と機能の評価には,おもに視力,視野,検眼鏡的観察,眼底所見,眼窩MRI,蛍光眼底造影法,視覚誘発電位(visualevokedpotential:VEP)などの検査が利用されてきたが,視神経は脳と同様生検が容易にできないため,急性期および慢性期の神経変性を評価できるinvivoの解析装置の発明が期待されてきた.OCTは1991年に発明され,2005年から日本でも保険収載された.現在,広く眼科領域で普及し,国内外合わせて複数社から装置が販売されている.近赤外線を用いて非侵襲的に短時間で網膜断層像から黄斑部,乳頭部それぞれの定量化が可能となる.データ解析は自動的に行われ,正常眼のデータベースと比較したdeviationmapやsignificancemapがカラー表示され,誰でも簡単に評価解釈可能となる.まさに脳神経分野におけるMRIと同等の画期的な発明である3).OCTの登場により網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer;RNFL)の萎縮を含む視神経の構造と機能が経時的に把握可能となった.視神経は先にも述べたようにGCLからの軸索から構成されているため,いずれの原因による視神経障害でも,慢性期ではRNFLや乳頭黄斑束(papillomaculabundle)が菲薄化し視神経萎縮が生じる.視神経乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer;cpRNFL)には髄鞘は存在しないため神経の軸索変化を直に測定可能となる.直径0.35mmの中心窩を含む1.5〜2mmの濃い黄色部分を黄斑というが,GCLの50%が存在し,その厚さの34%がretinalganglioncellneuronであるため4),この部位の菲薄化はMSでの網膜神経節細胞死による不可逆性変化を早期に反映する.従来使用されてきた初期タイムドメインOCTではcpRNFL厚を測定することで間接的に視神経線維を定量することが可能であった5).黄斑部網膜厚(macularretinalthickness:mRT)タイムドメインOCTでは内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)と視細胞内節外節接合部(photoreceptorinner/outersegmentjunction:IS/OS)の間を網膜厚として計測していたのが,スペクトラルドメインOCTでは従来タイムドメインOCTで十分な分離ができなかったIS/OS,外境界膜(externallimitingmembrane:ELM),RPEが分離して描出できるようになり,これに伴い機種により異なるが,ILMからRPE前縁,あるいは後縁までを計測するようになっている.健常人では網膜厚は傍中心窩,外中心窩,中心窩の順に厚く,傍中心窩,外中心窩それぞれの中では鼻側,上方,下方,耳側の順に厚い.視神経炎の既往の有無にかかわらずMSでは健常人と比較して黄斑部網膜厚は正常眼より減少する6,7).既往があるとさらに薄くなる2).その後,2006年から発売になったスペクトラルドメインOCT(spectral-domainOCT:SD-OCT)ではFourier空間を利用して周波数領域または波長領域で行う8).測定時間も短縮し,解像度も2μmと10倍に改善した.機種によってはeyetrackingによるrepositioningによる経時的比較,三次元提示やビデオ測定も可能となった.cpRNFL厚だけではなく黄斑部の網膜内層構造,すなわち網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)の細胞体と黄斑部網膜神経線維層を分離測定可能となった.図2bに提示すようにmRNFL,GCL+IPL,ないし機種によって呼称が変わるが神経節細胞複合体厚(ganglioncellcomplex:GCC)ではILMからIPL外縁まで(mRNFL+GCLIPL)を定量できる5).このようにOCTは視神経炎での脱髄,浮腫,神経変性,萎縮を経時的に比較可能で,医療費も安価,かつ正確な再現性をもっている点で優れている.今後は神経保護や修繕の指標としての利用や9),ときにはVEP同様,心因性の視神経炎などの鑑別を含め,新たな有効利用が期待される.たとえばMS患者の死亡後の解析では70%以上のRGCの消失が証明され10),剖検により患者のRNLFも薄くなっていることが明らかとなった11).一方,視神経炎の既往がなく視放線から後頭葉視覚野に脱髄病変がある群と,視神経炎の既往がある群でOCT,MRIによるvolumetryとspectroscopyで解析を行った研究で,前者ではcpRNFLの減少(逆行性径シナプス変性)がみられ後者では後頭葉視覚野の縮小(順行性シナプス変性)が報告されるなど,ほかの解析装置との組み合わせで今までは剖検で確かめることが困難であった生体での変性過程が証明されてきている12).IV多発性硬化症でのOCT知見1.視神経乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚視神経炎や虚血性視神経症では,急性期の乳頭腫脹により軸索障害がマスクされるため,cpRNFL厚測定より黄斑部網膜内層厚測定のほうが早期に軸索障害を検出できることに注意が必要である3).しかし,その際にはcpRNFL厚の変化はステロイドパルスなどの治療効果判定に利用可能である5).その後,急性期視神経炎後6カ月~1年でcpRNFL厚の正しい評価が可能となる.平均するとMS患者で視神経炎がない眼では年間2μm薄くなる13).MSでは患眼でのコントラスト読字感度の低下とcpRNLF厚低下は相関し,視神経炎の既往のない患者眼でも健常者の眼よりcpRNFLの減少は明らかで,慢性軸索変性の関与が推察されている14).また,患眼のcpRNFL萎縮の程度は臨床型により異なり,SPMS>PPMS>RRMSの順に障害され,黄斑部体積低下はSPMS>RRMSの順に大きい.各臨床型に共通するのは,健常者と比べると健眼でも萎縮が著明なことである15).MSではcpRNLFはとくに耳側と下方象限の萎縮が顕著となり,視神経炎既往のあるMSの患眼ではcpRNFL厚と罹病期間が相関し,既往のないMSも同様に相関したが,既往があると減少が目立った.一方,脳萎縮は健眼との相関を示した2,16).視神経炎の既往のないMS患者の健眼で耳側,下方のcpRNLFの菲薄化と黄斑部体積,厚さの減少を認めた6).MSのcpRNFL厚は,総合障害度スケールExpandedDisabilityStatusScale(EDSS)と負の相関を示す.また,脳萎縮とも相関する.ただし灰白質,白質などの実質ではなく髄液量との相関であった17).さらに最近の報告では,健眼のcpRNFL厚が87μm(CirrusOCT)ないしは88μm(SpectralisOCT)以下では,およそ2倍の進行リスクがあるため,DMT(disease-modifyingtherapy)開始および選択の参考となるが,2年より短い間隔では変化がとらえられないと述べている18).注意点としてcpRNFLの解釈の際に乳頭黄斑線維束のみ障害されているパターンが検出されたときには,過去の視神経炎,近視を伴う緑内障を考える5).2.黄斑部網膜層厚(totalmacularretinallayerthickness)SD-OCTによる報告に着目すると後に記載する黄斑部網膜内層厚がおもに反映される.つまりGCLが薄くなっている19),またGCLとIPLがうすくなっている2,20,21)との報告がある.とくにGalettaらとDaviesらの報告19,20)では,GCLの薄さについてMS患者は健常人より,またMS患者の患眼は健眼より顕著で視神経炎既往の有無にかかわらずMSでは健常眼よりも減少していると報告している3.黄斑体積(macularvolume)cpRNFL厚と相関がみられ,macularvolume0.2mm3の減少でcpRNFL厚が10μm減少する.また,macularvolumeとcpRNFL厚の相関は,視神経炎既往のあるMSでより有意で,黄斑部のRGCとその軸索も変性することが示唆されている4).4.黄斑部網膜内層厚(GCCとIPL)MSでは黄斑部網膜内層厚の減少もみられており22),Daviesらの報告20)では,正常眼よりもGCL厚が減少し,視神経炎既往があるとさらに菲薄化した.視神経炎既往のあるMSは,既往のないMSや正常眼に比べてmRNFL,GCL+IPL厚,RNFL+GCL+IPL厚が減少する2,23).MSの亜型分類別の検討では,正常眼と比較してすべてのタイプでGCL+IPL厚は菲薄化した24).視神経炎既往のあるMSのINL厚は,MS:42.9μmで正常眼:39.6μmよりも厚く,INLの肥厚はmacularRNFLやGCL+IPL厚の減少と相関した.これは,RNFLが急激に菲薄化した場合に網膜構造を維持するための,INLの代償性肥厚と考えられている23).5.MRIとの関係cpRNFL厚は,MRIのT2-lesionvolume,T2-lesionvolume,normalizedbrainvolume(NBV),normalizedgraymattervolume(NGMV),brainparenchymafraction(BPF),cerebrospinalfluid(CSF),whitemattervolume,graymattervoloumeと相関することが報告されている16,17,25,26).よってcpRNFL厚による軸索の定量は,MSにおける脳萎縮や脳機能障害を評価するための指標として有用となりうる.また,GCL+IPL厚は視神経炎の既往のない健眼のRRMSや進行型のEDSS患者において4年間の経過から,脳萎縮(wholebrain,thalamic,andgraymatter)と鏡像関係にあるという報告がある27).6.NMOとの鑑別NMOは本特集ですでに中島らによって説明されているが,抗AQP4抗体がアストロサイトにある水チャンネルAQP4を補体,好中球などとともに攻撃することでオリゴデンドログリアの傷害が起こる二次性脱髄性疾患である.AQP4は視神経をとりまくアストロサイトにも豊富に存在しており視神経のBBBはより脆弱であるため傷害を受けやすい.MSとNMOのOCTの違いについて表128)に示す.NMOの患眼は明らかにMSより悪いが,健眼はMSのほうが悪く無症候性の進行障害はめだたない.また,NMOでのcpRNLF減少部位は上下象限でありMSの耳側と異なる.またEDSSとの相関はMSほどにない30).とくに初発時視神経炎を呈した患眼で内耳側ONL厚が83μ以上で外上方のGCL+IPL厚が62μ以下である場合は,単なる視神経炎やMSに伴う視神経炎よりNMOを考えるという報告がある31).東北大学の赤石らは,上下象限のcpRNFLおよび黄斑部萎縮を防止することがNMOの視神経症状の長期予防に関与するとした.またGelfandらは,MS患者のINLにmicrocysticmacularedemaが観察され,その存在はEDSSやMSseverityscoreによる重度の障害や視力低下,cpRNFL厚の減少,視神経炎の既往と関連し,ミエリンが欠損している神経系の一部に血液網膜関門やタイトジャンクション(tightjunction)の破綻が示唆されている32).その頻度はMSでは5%程度だがNMOSDでは20~26%で,抗AQP4抗体陽性例では患眼に限ると最大40%であるが,健側にはみられない.INLにはMüller細胞がありAQP4が局在し,NMOにおいてはその関与が示唆されている.しかし,MMFはMS以外の疾患(Leber病や虚血性視神経症,圧迫性視神経症)でも認められることから網膜内の炎症や脱髄が原因ではなく視神経の逆行性変性によってMüller細胞を含めた内顆粒細胞の障害が起こるとも考えられており,今後の研究が必要である33).V多発性硬化症再発予防治療薬フィンゴリモド投与中の患者へのOCT利用1.フィンゴリモドの効果と副作用フィンゴリモド塩酸塩は,もともと漢方薬である冬虫夏草のIsariasinclairii由来の天然マイオリシン成分から合成されたスフィンゴシン1リン酸受容体調節薬であり,その特徴としてリンパ球表面に存在するS1P1受容体の競合的阻害による内在化を起こす.そのためリンパ節や胸腺,脾臓などの二次リンパ系組織にリンパ球を閉じ込める.その結果,血液中の循環リンパ球数が減少し脳血液関門を通過して脳内に侵入する数が減少することでMSの再発を抑えるが,個々のリンパ球の機能は保たれるという画期的な薬剤である.世界初の内服MS治療薬であり日本でも2016年3月までですでに4,538名の患者に使用されている.脳萎縮への臨床治験期間内での予防効果もFREEDOMS34),TRANSFORMS試験35)でそれぞれ報告されていることや,RRMSへの投与で黄斑部の体積が改善したとの報告がある36).フィンゴリモド塩酸塩の眼科関連の副作用としては,黄斑浮腫が使用後3~4カ月で発症する.なかには5日~2年後とする報告もある37).頻度は,欧米での大規模臨床試験(前述TRANSFORMS試験1,292名,FREEDOMS試験1,272名)では0.5mg投与時に0.5%(13/2,564名),FREEDOMS試験では0名で合計0.2%となる.日本での全例調査による報告では0.4%であった(全例調査報告,2016年2月29日).このようにフィンゴリモド塩酸塩治療によりMS再発に伴う視神経炎は再発予防可能となったが他の眼疾患が起こるという点においても,眼科医と神経内科医との協力が必要である.ここで注意すべき点として,黄斑浮腫は糖尿病網膜症,ぶどう膜炎,網膜血管閉塞症,加齢黄斑変性などでも単独で生じる点であり,その既往は同時に発症リスクとなる.視力にもっとも重要な黄斑部の浮腫であるため,黄斑部の破壊,変性をきたせば高度の視力障害となる.発症のメカニズムとしては,フィンゴリモドにより内皮細胞にあるS1P1受容体が内在化し,タイトジャンクションも障害を受け内血液網膜関門が破綻する.治療としては非ステロイド抗炎症薬,ステロイド,抗VEGF薬,レーザー凝固治療がある38).治験データからは発症患者は41歳以上が多く,変形視が主症状であり,眼痛や視力,視野障害,RAPD(relativeafferentpupillarydefect)は初期には障害されないのが特徴で,乳頭浮腫はない.MSで黄斑浮腫が過去にある場合,また上記リスクとなる合併症をもっている場合は,投与前の注意喚起が必要であり,頻回のOCT検査が必要である.フィンゴリモド塩酸塩治療前もしくは治療中に黄斑浮腫が出現した場合は,フィンゴリモド塩酸塩の再投与は行わない(図4).2.OCT使用上のピットフォールOCTはMSにおいて黄斑浮腫の程度を含めて急性期変化の探索にとくに優れている.同時に軸索,神経節細胞障害の現在および進行期の経過を定量的にとらえることに優れた補助機械である.ただし,各機種に搭載されている正常データベースには,通常,強度近視や強度遠視,18歳未満のデータは含まれていないため,その範囲外の対象とのsignificancemapによる比較はあくまで参考程度に留め,実測値で判断しなければならない3).視神経炎を含めて診断が確定している場合はその進行の比較に意味があるが,すでに完成した視神経萎縮のデータから各種疾患を鑑別することは不可能である.言いかえるならば,各種視神経症においての終末像はRGCの細胞体消失と軸索変性であり,そこには疾患特異性はないことを知っておくべきである.また,実践的には白内障や角膜混濁では画像が不鮮明となり,黄斑前膜などの網膜疾患があると解析不可能となる.また,とくに黄斑部では網膜角層の位置の誤認識によるsegmentationerrorも起こりうる.RNFLには個人差があり均一ではなく,網膜の部位によっても厚さが異なる.網膜に部分的に菲薄化した領域がある場合,視神経疾患による異常なのか,それともアーチファクトであるのかという解釈には注意を要する.cpRNFLは一般に上下で厚く,鼻と側頭側で薄い.また,長眼軸では視神経乳頭より離れた部位での測定になるためcpRNFLは薄くなる(magnificationerror).また黄斑部では中心窩付近のRGC層が厚いためGCCは小さく,mRNFLは厚く,GCLIPは薄く測定される.さらに近視性変化の強い場合cpRNFLは解析部位が乳頭周囲脈絡網膜萎縮(peripapillaryatrophies:PPA)にかかってしまい,判定不能になる例に注意が必要である5).また,MS患者でときにOCT検査が不可能な場合に遭遇する.座位保持困難,中心暗点を伴う場合は固視不良のため測定中心と乳頭中心を合わせることが困難ある.また,眼振や眼球偏位があると固視困難である.さらに精神症状や注意集中ができずオーダーに乗らない場合もある.おわりにOCTは格段の進歩を遂げ,今後も治療薬の評価を含めて利用度が高まることが予想される.一方,新しい世代のOCTは神経内科医の必要とする情報より多くの新しいデータを内包する.機種変更ないし新しい解析方法が次々に開発されているが,大事なことは,過去のデータとの連続性を担保し,MS分野でのOCTのもつ新たな可能性の探求のために各々の診療現場で正しい診断と治療データを積み重ね,神経内科医と眼科医の協力のもと,熟練したテクニシャンに正しい評価を依頼できる環境である.文献1)WeinerHL:Thechallengeofmultiplesclerosis:howdowecureachronicheterogeneousdisease?AnnNeurol65:239-248,20092)SycSB,SaidhaS,NewsomeSDetal:Opticalcoherencetomographys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