特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):775.781,2015特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):775.781,2015緑内障の新薬1:ROCK阻害薬ROCKInhibitor,ANewDrugfortheTreatmentofGlaucoma本庄恵*はじめに近年使用可能な緑内障点眼が増え,プロスタグランジン関連薬(PG関連薬),b遮断薬,ab遮断薬,a1遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経刺激薬,a2作動薬,およびそれらの配合剤など薬物の選択肢の幅は多岐に広がっている.しかし,1剤のみでは眼圧を目標眼圧以下にコントロールすることが困難なために多剤を併用する患者も多い.PG関連薬は強力な眼圧下降効果を有し,全身的副作用も少ないため第一選択薬であるが,緑内障では長期にわたる治療が必要であるため,眼瞼の色素沈着や睫毛変化,上眼瞼のくぼみなど局所副作用が問題となっている.セカンドラインドラッグのなかでは,b遮断薬は眼圧下降効果に優れ忍容性が高いが,循環器・呼吸器系への副作用の懸念から使用が不適当な症例も少なくなく,その他の薬剤も副作用や禁忌,慎重投与などの制約により選択肢が限られることがある.また,十分な眼圧下降を得られていても進行する症例が存在し,もともと正常眼圧である症例のなかには眼圧下降治療のみでは進行を抑制できない症例も多数存在するため,治療に苦慮することが多い.こういった眼圧以外の緑内障性視神経症の危険因子が関与している視神経障害に対しては,血流改善や直接の神経保護効果を有するような治療薬が求められている.以上から,新たな作用機序を有する薬物が求められていた.新規薬物に求められることとしては,既存の緑内障治療薬に匹敵もしくは凌ぐ眼圧下降効果を有すること,緑内障薬物治療では多剤併用することが多いため,組み合わせて合理的な眼圧下降が得られること,全身に対する安全性に加えて局所副作用が少なく忍容性が高いこと,血流改善・神経保護効果など+aの緑内障進行抑制効果が期待できることなどがあげられる.緑内障をターゲットとしたさまざまな新規薬物の研究が進められてきたなかで,筆者らのグループが中心となって長年研究してきた選択的ROCK阻害薬の研究が実を結び,昨年末に世界初の新機序によるmadeinJapanの新しい緑内障治療薬として臨床応用に至った.本稿では,ROCK阻害薬の緑内障治療薬としての可能性などについて概説する.I房水流出路と房水動態眼圧は房水の産生量と,その排出のバランスで規定されている.房水流出路には線維柱帯経路とよばれる主経路と,ぶどう膜強膜流出路とよばれる副経路があり,緑内障眼での眼圧上昇はおもに主経路の流出抵抗増大が原因だと考えられている.薬剤の眼圧下降効果作用機序としては房水産生抑制と流出路流出促進があるが,既存の緑内障薬物のおもな作用機序は房水産生抑制もしくはぶどう膜強膜流出路の流出促進であり,古典的薬物である副交感神経作動薬ピロカルピン,もしくは交感神経刺激薬のエピネフリンが副次的に主経路の流出を促すことは知られていたが,これまで主経路に直接作用するような薬物は存在しなかった(前項「緑内障の薬物治療の進め*MegumiHonjo:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕本庄恵:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(11)775776あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(12)細胞内情報伝達経路に介在して,細胞収縮,増殖,遊走など,さまざまな生理機能に深く関与している.ROCK阻害薬の眼圧下降効果については,選択的ROCK阻害薬Y-27632が家兎眼で有意な眼圧下降効果を示すこと,そして,その眼圧下降効果は房水動態のなかで主経路の流出促進であることを筆者らのグループが2001年に世界で初めて報告した6).線維柱帯細胞へのY-27632の影響を検討したところ,細胞骨格の重合脱重合,接着斑,遊走能,細胞収縮,細胞外基質との接着・相互作用などの多様な機能に影響を与えていることが明らかになった(図1)6,7).その後,Rho-ROCKシグナル伝達と房水流出メカニズムの関係,ROCK阻害薬の作用機序についてはさまざまな研究が進められた.Y-27632は前眼部灌流実験で房水流出量を増加させ,Schlemm管内皮細胞で巨大空胞が増加していることが観察され(図2),培養Schlemm管内皮細胞では細胞間バリアーを担っているタイトジャンクション構成蛋白のclaudin-5,ZO-1などの発現を抑制し,培養Schlemm管内皮細胞の透過性を亢進させることが報告された(図3)8).また,ステロイドはRhoの強力アゴニストであることが知られているが,前眼部環流実験においてステロイド添加により房水流量が低下,ROCK阻害薬がそれを抑制すること,培養線維柱帯細胞にデキサメサゾンを添加するとRho活性が上昇し,フィブロネクチン,コラーゲンtypeIVなどの産生が促進させるが,Y-27632添加により抑制されたことが報告されている9).ROCK阻害薬は主経路の房水流出路を形成している線維柱帯,傍Schlemm管結合組織・細胞外マトリックス,Schlemm管内皮細胞などそれぞれに作用し,房水流出抵抗を低下させている可能性が示されている(図4)10).房水中にはさまざまな生理活性物質が含有されており,房水流出路は常にその影響下にある.線維柱帯細胞はこれらの成分に反応して細胞外マトリックスの産生や分解,生物活性などに関与していると考えられている.リゾホスファチジン酸(LPA)やスフィンゴシン1リン酸(S1P)などのリン脂質,TGF-b2,CTGFなどの生理活性物質濃度はRhoの活性を介して房水流出に影響することが報告されている11.13).Rho-ROCKシグナル伝達の関与の有無が検討され,作用の詳細がわかりつつ方」p769,図2参照).房水は毛様体で作られ,後房,瞳孔,隅角線維柱帯を経て眼外へ排出される.開放隅角緑内障では隅角形態は正常だが,隅角線維柱帯に機能異常が存在し,流出抵抗が生じていると考えられている.主経路では,①ぶどう膜網,②角強膜網,③傍Schlemm管結合組織からなる線維柱帯をへて,房水はSchlemm管へ流出する.ぶどう膜網,角強膜網には房水が流れる孔が存在し,流出抵抗はそれほど高くないと考えられているが,傍Sch-lemm管結合組織はさまざまな細胞外マトリックスと線維柱帯細胞から形成されており,房水は細胞外マトリックスの間を通過する.正常眼における検討から,傍Schlemm管結合組織に流出抵抗の大部分が存在すること,緑内障眼では細胞外マトリックスの異常沈着とターンオーバー異常が傍Schlemm管結合組織・Schlemm管内皮の基底膜を中心にみられ,房水流出抵抗を増加させていると考えられてきた1.3).しかし,最近の報告では,年齢,性別,人種をマッチさせたヒト正常眼と緑内障眼の房水流出路の比較で,緑内障眼で傍Schlemm管結合組織・Schlemm管内皮基底膜より線維柱帯部分にコラーゲン1Aの沈着が有意に密に観察されており,緑内障における主経路の房水流出抵抗増大機序については今後より詳細な解明が期待される4).ぶどう膜強膜流出路については,房水は隅角底から毛様体実質,上毛様体腔を経て強膜外へ流出する.毛様体筋束の間隙の広さ,細胞外基質の代謝などが房水流出に関与していると指摘されている.強力な眼圧下降効果をもつプロスト系プロスタグランジン関連薬は経ぶどう膜強膜流出路からの房水流出量を増加させることが知られているが,プロスタマイド系のビマトプロストやプロストン系薬剤では主経路からの房水流出も促進しているとの報告があり,分子レベルでの詳細も明らかにされつつある5).IIROCK阻害薬の眼圧下降効果Rho-kinase(ROCK)は1990年代半ばに,低分子量GTP結合蛋白Rhoの標的蛋白質として同定されたセリン・スレオニンリン酸化酵素である.下等動物からヒトまで広く保存されており,種々のアゴニスト刺激によるあたらしい眼科Vol.32,No.6,2015777(13)10分後30分後60分後薬物除去2時間後薬物除去15時間後Y-27632(μM)1101001,000緑:アクチン線維赤:ビンキュリン矢印:アクチン線維束矢頭:ビンキュリン無処置図1ROCK阻害薬による線維柱帯細胞の細胞骨格変化ヒト線維柱帯細胞にY-27632(1,10,100,1,000μM)を添加し,培養した.細胞骨格の変化が観察された.(文献6より引用改変)#******#######ControlY-27632巨大空胞(Giantvacuoles)025020015010050-30306090120150180210240270300平均±標準誤差*p<0.05,#p<0.01vs.Control(Student’st-test)(分)(%)サル摘出眼での房水流出能Schlemm管内皮細胞─走査型電子顕微鏡─ControlY-27632(50μM)房水流出能の変化率図2ROCK阻害薬とSchlemm管内皮細胞カニクイザルの摘出眼を一定の眼圧(10mmHg)になるようにPBSで灌流し,ベースラインの房水流出能を測定後,評価眼にはY-27632(50μM)を5時間灌流した.Y-27632灌流により房水流出能の増加,走査型顕微鏡にてSchlemm管内皮細胞の形態学的変化が観察された.(文献8より引用改変)10分後30分後60分後薬物除去2時間後薬物除去15時間後Y-27632(μM)1101001,000緑:アクチン線維赤:ビンキュリン矢印:アクチン線維束矢頭:ビンキュリン無処置図1ROCK阻害薬による線維柱帯細胞の細胞骨格変化ヒト線維柱帯細胞にY-27632(1,10,100,1,000μM)を添加し,培養した.細胞骨格の変化が観察された.(文献6より引用改変)#******#######ControlY-27632巨大空胞(Giantvacuoles)025020015010050-30306090120150180210240270300平均±標準誤差*p<0.05,#p<0.01vs.Control(Student’st-test)(分)(%)サル摘出眼での房水流出能Schlemm管内皮細胞─走査型電子顕微鏡─ControlY-27632(50μM)房水流出能の変化率図2ROCK阻害薬とSchlemm管内皮細胞カニクイザルの摘出眼を一定の眼圧(10mmHg)になるようにPBSで灌流し,ベースラインの房水流出能を測定後,評価眼にはY-27632(50μM)を5時間灌流した.Y-27632灌流により房水流出能の増加,走査型顕微鏡にてSchlemm管内皮細胞の形態学的変化が観察された.(文献8より引用改変)ControlROCK阻害薬(Y-27632)緑:ZO-1青:細胞核ControlROCK阻害薬(Y-27632)緑:ZO-1青:細胞核ab図3培養Schlemm管内皮細胞におけるROCK阻害薬の細胞間結合への影響培養Schlemm管内皮細胞にY-27632(25μM)を添加し,30分間培養,細胞間の接着に関与するZO-1の発現変化が観察された.(文献8より引用改変)緑内障緑内障─ROCK阻害薬─細胞外マトリクス巨大空胞(GiantVacuole)Schlemm管内皮細胞線維柱帯細胞細胞-細胞外マトリクス間関係の変化細胞骨格・収縮変化細胞間隙への作用細胞外マトリクス産生抑制GiantVacuoleの増加細胞接着への作用Schlemm管傍Schlemm管結合組織図4ROCK阻害薬の主流出路に対する作用(文献6.10を参考に作成,眼科プラクティス11緑内障診療の進めかた,p401(文光堂)を参考に作成)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015779(15)十分な原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に行い,8週間点眼した.ラタノプロスト点眼液0.005%への追加時には点眼2時間後で,チモロールマレイン酸塩点眼液0.5%への追加時には朝点眼直前および点眼2時間後で,プラセボ群に対して本剤群で有意な眼圧下降を認めた(図6).長期投与(第III相長期投与試験)では,単独およびプロスタグランジン関連薬,b遮断薬またはそれらの配合剤に追加して52週間点眼し,単独点眼,併用点眼にかかわらず長期投与で安定した眼圧下降を認め,投与期間の延長による眼圧下降効果の減弱を認めなかった.臨床治験では,全身性の副作用はほとんど認めず,結膜充血,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎といった眼局所の副作用がおもなものであった.承認時までに実施された臨床試験において,662例中500例(75.5%)に副作用が認められた.主な副作用は結膜充血457例(69.0%),結膜炎(アレルギー性結膜炎を含む)71例(10.7%),眼瞼炎(アレルギー性眼瞼炎を含む)68例(10.3%)などであった.血管平滑筋はROCK阻害により弛緩することが報告されており,本剤で認められる結膜充血は,この薬理作用に基づくものと考えられ,その多くが点眼毎に発現と消失を繰り返すものであった.なお,結膜充血ROCK阻害薬で必発する,薬理作用の裏返しである血管平滑筋弛緩に伴う結膜充血の副作用への懸念と,PG関連薬を超える眼圧下降効果がみられなかったことから,第II相まで臨床治験が行われたが臨床応用への取り組みは断念された.K-115(リパスジル)は,2006年より臨床治験が開始され,薬理試験および毒性試験などの非臨床試験,臨床試験成績などに基づき,緑内障・高眼圧症に対する治療剤としてグラナテックR点眼液0.4%(興和)として,2014年9月に製造販売承認が取得された15,16).既存の緑内障治療薬とは異なり,Rhoキナーゼ(ROCK)阻害作用に基づき線維柱帯.Schlemm管を介する主流出路からの房水流出を促進することにより眼圧を下降させる機序を有している17).臨床試験では,単独療法(第III相プラセボ対照二重盲検比較試験)で,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,両眼に1回1滴,1日2回,8週間点眼し,朝点眼直前および点眼2時間後で,プラセボ群に対して本剤群で有意な眼圧下降を認めた(図5).併用療法(第III相ラタノプロスト点眼液併用試験,第III相チモロール点眼液併用試験)では,ラタノプロスト点眼液0.005%またはチモロールマレイン酸塩点眼液0.5%で効果不朝点眼直前~トラフ~点眼2時間後~ピーク~プラセボグラナテック(54)(53)(54)(53)(54)(52)(54)(52)(54)(52)プラセボグラナテック(54)(53)(54)(53)(54)(52)(54)(52)(54)(52)眼圧値(mmHg)眼圧値(mmHg)(週)171819202122232402468プラセボグラナテック(週)17181920212223242468プラセボグラナテック0平均値平均値図5グラナテック単剤投与時の眼圧推移(第III相プラセボ対照二重盲検比較試験)原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者(107例)をプラセボ群またはグラナテック群に無作為割付し,試験薬を1日2回,8週間点眼した.(承認時評価資料より作成)朝点眼直前~トラフ~点眼2時間後~ピーク~プラセボグラナテック(54)(53)(54)(53)(54)(52)(54)(52)(54)(52)プラセボグラナテック(54)(53)(54)(53)(54)(52)(54)(52)(54)(52)眼圧値(mmHg)眼圧値(mmHg)(週)171819202122232402468プラセボグラナテック(週)17181920212223242468プラセボグラナテック0平均値平均値図5グラナテック単剤投与時の眼圧推移(第III相プラセボ対照二重盲検比較試験)原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者(107例)をプラセボ群またはグラナテック群に無作為割付し,試験薬を1日2回,8週間点眼した.(承認時評価資料より作成)780あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(16)が報告されている21).そのほか,これまでの緑内障治療薬は角膜内皮および結膜の瘢痕形成などにはマイナスの影響が懸念されているが,ROCK阻害薬は角膜内皮治療薬および瘢痕形成抑制として作用する可能性が報告されており,期待される部分である22,23).おわりに日本から新規作用機序による緑内障点眼治療薬が開発されたことは,わが国から緑内障治療・緑内障病態の知見を世界に発信していくうえでも非常に価値がある.緑内障薬物治療は効果をみながらの多剤併用療法であり,実際の臨床の場では3剤,4剤と処方を重ねている症例も少なくない.ROCK阻害薬は既存の薬物による治療で眼圧下降効果が十分にみられない,もしくは進行を十分におさえられないような症例で福音となる可能性があり,世界に先駆けて承認された新しい機序による緑内障治療薬として,今後の展開が期待される.は通常は点眼時に一過性に発現するが,持続する場合には注意が必要となる.選択的ROCK阻害薬の臨床応用自体が初めてのものであるので,安全性の検討については,今後の臨床的経験の蓄積が非常に重要になると考えられる.IVROCK阻害薬点眼薬への期待わが国では眼圧は正常範囲内だが視野障害が進行する正常眼圧緑内障の頻度が高い.こういった症例,また高眼圧を示すような症例でも,視神経・視野障害に関与する眼圧以外の因子として循環障害の重要性が指摘されている.ROCK阻害薬は血管平滑筋の弛緩効果が指摘されているが,基礎研究レベルで視神経乳頭血流改善についての報告があり,神経保護効果が期待される18).また,緑内障患者では視神経でのRho活性の上昇が報告されており19),ROCK阻害薬そのものによる直接の神経保護作用への期待も大きい.アポトーシス抑制効果や20),グラナテック点眼液の原末であるK-115の内服によりラットの視神経クラッシュモデルで神経保護効果a.単独投与試験b.ラタノプロスト併用試験c.チモロール併用試験-1-5-4-3-2-1.3-2.9プラセボグラナテック19.119.2-1.6[-2.059,-1.101]p<0.0010(104)(104)19.219.4-1.4[-1.852,-0.861]p<0.001(103)(102)プラセボグラナテック-10-5-4-3-2-1.8-3.2ベースライン(mmHg)22.722.3例数(n)(54)(53)-2.3[-3.072,-1.493]p<0.001眼圧変化量(mmHg)プラセボグラナテック-10-5-4-3-2-1.7-4.0最小二乗平均値±標準誤差群間差:最小二乗平均値の差[95%信頼区間]4週,6週,8週を繰り返し時点とした繰り返し測定型分散分析図6グラナテックの眼圧下降効果(点眼2時間後・第III相:単独および併用試験)a:原発開放隅角緑内障(POAG)または高眼圧症患者(OH)(n=107)をプラセボ群またはグラナテック群に無作為割付し,1日2回,8週間点眼した.b:ラタノプロスト点眼液0.005%で効果不十分なPOAGまたはOH(n=205)をプラセボ群またはグラナテック群に無作為割付し,1日2回,8週間点眼した.c:チモロール点眼液0.5%で効果不十分なPOAGまたはOH(n=208)をプラセボ群またはグラナテック群に無作為割付し,1日2回,8週間点眼した.(承認時評価資料より作成)a.単独投与試験b.ラタノプロスト併用試験c.チモロール併用試験プラセボグラナテックプラセボグラナテックプラセボグラナテックベースライン(mmHg)22.722.319.219.419.119.2例数(n)0-2.3-1.7-4.0(54)(53)-1.4[-1.852,-0.861]p<0.001-1.8-3.2(103)(102)0-1.3-2.9-1.6[-2.059,-1.101]p<0.001(104)(104)0-1-1-1-2-2-2-3-3-3-4-4-4-5-5[-3.072,-1.493]-5p<0.001最小二乗平均値±標準誤差群間差:最小二乗平均値の差[95%信頼区間]4週,6週,8週を繰り返し時点とした繰り返し測定型分散分析図6グラナテックの眼圧下降効果(点眼2時間後・第III相:単独および併用試験)a:原発開放隅角緑内障(POAG)または高眼圧症患者(OH)(n=107)をプラセボ群またはグラナテック群に無作為割付し,1日2回,8週間点眼した.b:ラタノプロスト点眼液0.005%で効果不十分なPOAGまたはOH(n=205)をプラセボ群またはグラナテック群に無作為割付し,1日2回,8週間点眼した.c:チモロール点眼液0.5%で効果不十分なPOAGまたはOH(n=208)をプラセボ群またはグラナテック群に無作為割付し,1日2回,8週間点眼した.(承認時評価資料より作成)は通常は点眼時に一過性に発現するが,持続する場合にが報告されている21).そのほか,これまでの緑内障治療は注意が必要となる.薬は角膜内皮および結膜の瘢痕形成などにはマイナスの選択的ROCK阻害薬の臨床応用自体が初めてのもの影響が懸念されているが,ROCK阻害薬は角膜内皮治であるので,安全性の検討については,今後の臨床的経療薬および瘢痕形成抑制として作用する可能性が報告さ験の蓄積が非常に重要になると考えられる.れており,期待される部分である22,23).IVROCK阻害薬点眼薬への期待おわりにわが国では眼圧は正常範囲内だが視野障害が進行する日本から新規作用機序による緑内障点眼治療薬が開発正常眼圧緑内障の頻度が高い.こういった症例,また高されたことは,わが国から緑内障治療・緑内障病態の知眼圧を示すような症例でも,視神経・視野障害に関与す見を世界に発信していくうえでも非常に価値がある.緑る眼圧以外の因子として循環障害の重要性が指摘されて内障薬物治療は効果をみながらの多剤併用療法であり,いる.ROCK阻害薬は血管平滑筋の弛緩効果が指摘さ実際の臨床の場では3剤,4剤と処方を重ねている症例れているが,基礎研究レベルで視神経乳頭血流改善につも少なくない.ROCK阻害薬は既存の薬物による治療いての報告があり,神経保護効果が期待される18).まで眼圧下降効果が十分にみられない,もしくは進行を十た,緑内障患者では視神経でのRho活性の上昇が報告分におさえられないような症例で福音となる可能性があされており19),ROCK阻害薬そのものによる直接の神り,世界に先駆けて承認された新しい機序による緑内障経保護作用への期待も大きい.アポトーシス抑制効果治療薬として,今後の展開が期待される.や20),グラナテック点眼液の原末であるK-115の内服によりラットの視神経クラッシュモデルで神経保護効果780あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(16)’-