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写真:アトピー性角結膜炎

2017年3月31日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦394.アトピー性角結膜炎横井桂子京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①充血:混濁,腫脹した上眼瞼結膜図1アトピー性角結膜炎の上眼瞼結膜所見(16歳,男児)翻転して観察した上眼瞼結膜には,個々の血管の識別が不能なびまん性の充血と,混濁を伴う高度な肥厚性増殖,腫脹が認められる.しかし,巨大乳頭は認められない.図3アトピー性角結膜炎の落屑様点状表層角膜症所見(図1と同一症例)フルオセレインとブルーフリーフィルターを用いて観察すると,角膜全体に落屑様の角膜上皮障害が認められる.図4春季カタルの上眼瞼結膜所見(図1の患者が9歳で受診したとき)上眼瞼結膜全体の充血,浮腫とともに巨大乳頭を認める.(75)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173810910-1810/17/\100/頁/JCOPYアトピー性角結膜炎は,アトピー性皮膚炎を合併する慢性,増殖性のアレルギー性結膜疾患であり,重症例では落屑様点状表層角膜症やシールド潰瘍などの角膜上皮障害を伴い,春季カタルと類似した他覚所見を呈する.しかし,春季カタルでは,重症例になると結膜の充血,浮腫とともに,上眼瞼結膜の巨大乳頭が認められるのに対し,アトピー性角結膜炎では,上眼瞼結膜には,充血および混濁を伴う腫脹,肥厚性増殖が認められることが多い1).これは慢性的に炎症が繰り返されることにより,結膜下組織が線維化,瘢痕化することによる.症例は16歳,男児で,左眼の疼痛を訴えて近医を受診した.両上眼瞼結膜の充血と浮腫および瘢痕性の変化があり,アデノウイルス結膜炎が疑われ,抗菌点眼液(0.3%ガチフロキサシン)とステロイド点眼液(0.1%フルオロメトロン)で加療され,一時軽快したが,点眼がなくなると再燃し,落屑様点状表層角膜症も併発し,徐々に増悪するため,原因不明の角結膜炎として当科に紹介された.受診時,両上眼瞼結膜の混濁を伴う充血と腫脹(図1,2),および広範な落屑様点状表層角膜症(図3)を認めた.患児は,9歳時,上眼瞼結膜の乳頭増殖(図4)と広範な点状表層角膜症を発症し,春季カタルの診断で抗アレルギー点眼液(0.1%オロパタジン塩酸塩)とステロイド点眼液(0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム)で治療されたが,軽快しないとのことで他の眼科施設から当科を紹介され,ステロイド(プレドニゾロン錠)の内服を追加することで軽快した既往があった.その後,何度かの増悪緩解を繰り返したのち,中学生になってからは眼症状は出現しなくなっていた.アトピー性皮膚炎は幼少時より治療を続けており,当科紹介受診時,総IgE抗体は4,204IU/mlと高値となっていた.角結膜所見と既往歴からアトピー性角結膜炎の増悪と診断し,免疫抑制剤点眼薬(0.1%タクロリムス水和物懸濁点眼液)とステロイド(ベタメタゾン錠)内服を追加した.1週間で角膜上皮障害と上眼瞼結膜の腫脹が軽減したため,内服を漸減中止し,さらに,症状の改善を確認し,約1カ月でステロイド点眼も中止した.以後,0.1%タクロリムス水和物懸濁点眼液のみを継続して,約3カ月後には上眼瞼結膜の線維化,瘢痕化を残すのみとなっている.本症例は,アトピー性皮膚炎を合併する春季カタルが,思春期を経てアトピー性角結膜炎に移行したものと考えられ,アトピー性皮膚炎を合併する春季カタルでよく経験する.角結膜の所見は典型的なアトピー性角結膜炎で,既往歴が確認できれば診断は決してむずかしくはない.本症例のように,広範囲の落屑様点状表層角膜症が生じており,上眼瞼に乳頭増殖がなく,充血と強い混濁を伴う腫脹のある場合は,アトピー性角結膜炎を念頭に入れておく必要がある.鑑別診断として,アデノウイルス結膜炎があげられる2).結膜充血と浮腫が強く,とくに偽膜を形成するものでは,角膜に点状表層角膜炎や糸状角膜炎を認めることがある.感染源との接触の疑いがあり,片眼に発症し,著明な結膜充血と眼瞼腫脹が認められ,耳前リンパ節の腫脹があれば,ウイルス感染が強く疑われる.一方,アトピー性角結膜炎はアトピー性皮膚炎の合併があり,慢性的な経過や既往があり,左右差はあるものの,基本的に両眼性である.アデノウイルス結膜炎を疑う場合は,アデノウイルス迅速診断キットで確定診断することが重要であり,アトピー性角結膜炎ではアレルギー迅速検査キットによる診断が参考になる.文献1)日本眼科アレルギー研究会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,20102)杉浦佳代,福田憲:結膜炎:感染とアレルギーの見分け方.あたらしい眼科33:383-389,2016

世界のドライアイの考え方の比較

2017年3月31日 金曜日

世界のドライアイの考え方の比較ComparisonofConceptsofDryEyeDiseasearoundtheWorld猪俣武範*はじめにドライアイはこの20年で疾患が概念化され,その研究は大きく進歩した.しかし,ドライアイは,その原因の複雑性から診断基準は未だに世界で統一されていない.ドライアイは今後も増加すると考えられており,早急にドライアイの定義と診断基準を世界共通とすることが望まれる.本稿では,ドライアイの定義と診断基準のグローバル化に向けて,欧米,わが国,そしてアジアにおけるドライアイの定義,診断基準,考え方の紹介とその相違点について解説する.Iドライアイの診断基準のグローバル化に向けてドライアイの概念は1903年にDr.Schirmerが涙液欠乏症を提唱したことにより始まる1).ドライアイの定義は,1995年にわが国ではドライアイ研究会2)が,米国ではNationalEyeInstitute(NEI)のDr.Lempが中心となってドライアイの定義,分類,診断基準が定められた3).その後約10年が経過し,2004年にはDryEyeWorkshop(DEWS)が結成され,世界中のドライアイ研究者により,ドライアイの定義,診断基準のみならず,検査,疫学調査,基礎研究,治療の各分野にわたる広い範囲で検討が行われた4).しかし,DEWSにおけるドライアイの定義,診断基準は未だ世界でコンセンサスを得るには至っておらず,各国で独自の診断基準に則ってドライアイ診療が行われているとともに,現在もドライアイ研究会,DEWS,AsiaDryEyeSociety(ADES)が中心となってドライアイの定義,診断基準の見直しを行っている.2016年11月にはドライアイ研究会からドライアイの新基準が発表され5),日中韓が中心となったADESでも日本の定義,診断基準に則った形で新基準が作成された6).DEWSの新しいレポートDEWSIIも2017年に発表される予定であり,ドライアイの定義や診断基準のグローバル化がさらに進むことが期待される.ドライアイの診断基準を世界で統一することがむずかしい要因として,非ドライアイ眼とドライアイを二分する明確なカットオフ値が存在せず,個々の検査方法の感度,特異度は十分でなく,再現性にも問題があることから,診断基準を明確に定めることがむずかしい点があげられる.さらに,ドライアイは多因子疾患といわれ,年齢,性別,ホルモン,コンタクトレンズの使用や気温,湿度などの環境要因も疾患の発現の程度に複雑に影響するため7),ドライアイの診断にはさまざまな検査結果を組み合わせる必要があることから,その診断基準は複雑化してしまう.しかし,ドライアイは世界で10億人以上が罹患するもっとも一般的な眼疾患であり,未だにドライアイの診断に至らず,QOL(qualityoflife)の低下を余儀なくされている人が多く存在する.また,高齢化社会,スマートフォンやパーソナルコンピューターの長時間使用によるVDT症候群(visualdisplayterminalsyndrome),*TakenoriInomata:順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科〔別刷請求先〕猪俣武範:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(65)371表1欧米におけるドライアイの定義の変遷定義NEI(1995)ドライアイは涙液分泌不全と蒸発亢進による涙液層の異常と,眼表面上皮障害を呈する眼不快感を有する疾患である.DEWS(2007)ドライアイは,不快感,視機能障害,涙液層の不安定性を有し,眼表面に障害を与える可能性のある涙液および眼表面の多因子疾患である.ドライアイは,涙液層の浸透圧上昇と眼表面の炎症を伴う.AAO(2013)ドライアイは涙液産生の低下,蒸発亢進,涙液層の障害を起こす疾患で,眼不快感の視機能異常,眼表面疾患を伴う.NEI:NationalEyeInstitute,DEWS:DryEyeWorkshop,AAO:AmericanAcademyofOphthalmology.欧米では,ドライアイのコアメカニズムは涙液の浸透圧上昇と眼表面の炎症が重視されている.ドライアイ涙液減少型蒸発亢進型ドライアイ(ATDDE)ドライアイ(EDE)Sjogren症候群内因性外因性非Sjogren症候群マイボーム腺ビタミンA欠乏機能不全閉眼不全点眼薬の毒性瞬目不全コンタクトレンズ薬剤の影響アレルギーなどの眼表面疾患図1病因学的分類欧米ではドライアイの原因やメカニズムによって疾患をATDDEかEDEという形で分け,重症度に応じて段階的に治療を行う考え方が普及している.(Thede.nitionandclassi.cationofdryeyedisease:reportoftheDe.nitionandClassi.cationSubcommitteeoftheInternationalDryEyeWorkShop(2007).OculSurf5:75-92,2007より改変引用)=表2ドライアイの重症度による分類(DEWS2007)重症度レベル1234違和感(重症度/頻度)軽度/ストレス環境下でまれに起こる中等度/慢性重症/頻回に重症/常に視覚症状なし/軽度眼精疲労気になる/生活を軽度制限気になる/慢性的に日常生活を制限常に/日常生活を制限結膜充血なし.軽度なし.軽度+/./+++結膜上皮障害なし.軽度さまざま中等度重症角膜上皮障害(重症度/場所)なし.軽度さまざま中央部重症の点状角膜症角膜/涙液の所見なし.軽度軽度のdebris,TMHの減少糸状角膜炎,粘液凝集,debrisの増加糸状角膜炎,粘液凝集,debrisの増加,角膜潰瘍眼瞼/マイボーム腺(MGDの有無)MGDがしばしばあるMGDがしばしばあるMGDがよくある睫毛乱性,角化,眼球癒着BUT(秒)さまざま≦10≦5すぐにSchirmer試験(mm/5分)さまざま≦10≦5≦2欧米ではドライアイの重症度は頻度と症状や所見の強さによって4段階に分類されている.(文献4より改変引用)予備段階:ドライアイの診断Step1:重症ドライアイの初期診断基準OSDI≧33,CFSOxfordscale≧3か?YesNoシナリオAシナリオBシナリオC重症ドライアイOSDI<33OSDI≧33OSDI≧33CFS≧3CFS=2CFS≦1Step2:追加検査シナリオAシナリオBシナリオC追加検査で,追加検査で,追加検査で,一つ以上の陽一つ以上の1つ以上の性もしくは角陽性陽性とBUT膜知覚の低下<3秒重症ドライアイ図2重症ドライアイの診断のためのアルゴリズム(ODISSEY)重症ドライアイは自覚症状と所見の乖離がみられる場合があるため,ODISSEYEuropeanConsensusGroupは重症ドライアイ診断のための2段階のアルゴリズムを作成した.OSDI:OcularSurfaceDiseaseIndex,追加検査は表3を参照.(文献4より改変引用)表3ODISSEYの追加検査妥当性のある検査Schirmer試験<3◯◯◯重症のMGDもしくは眼瞼縁炎◯◯◯結膜上皮障害◯◯◯視機能の低下◯◯NA糸状角膜炎◯◯◯眼瞼痙攣◯◯◯高浸透圧>328mOsm/l◯◯◯インプレッションサイトロジー≧Grade3◯◯◯角膜知覚◯NANA補助診断BUT<3秒◯◯NA治療抵抗性◯◯◯収差◯◯◯共焦点レーザー顕微鏡◯◯◯炎症性マーカー(HLA-DR,MMP9などのサイトカイン,蛋白質)◯◯◯ODISSEYによる重症ドライアイの診断アルゴリズムのステップ2における追加診断項目.(文献15より改変引用)表4日本におけるドライアイの診断基準の変化①自覚症状◯◯◯②涙液検査(BUT)◯×◯③角結膜上皮検査◯◯×旧ドライアイ診断(2006)確定疑い疑いドライアイ研究会によるドライアイの新基準では,自覚症状と涙液層破壊時間(BUT<5秒)でドライアイが診断可能となった.表5韓国におけるドライアイの重症度分類(2014年)症状眼表面症状ときどきしばしばいつも日常生活が制限される視覚症状ときどきしばしばいつも日常生活が制限される所見*染色スコア**<GradeIGradeIIGradeIIIGradeIVBUT変動6.10秒1.5秒0秒Schirmer試験I法変動5.10mm2.5mm<2mm*結膜充血,眼瞼の異常,涙液層の異常が眼表面に含まれる.しかし,これらの徴候は疾患の重症度の判定には用いない.**Oxfordsystem韓国の診断基準(2014年)は,ドライアイの診断と重症度を組み合わせたもので,少なくとも一つの自覚症状と検査所見が陽性の場合にドライアイと診断する.(文献23より改変引用)表6涙液層破壊時間計測の方法(ADES2016)1.マイクロピペットもしくは試験紙によるフルオレセイン染色(2ul以下)2.3回まばたきをする3.開瞼の持続によって角膜上にダークスポットが最初に出現するまでの時間をストップウォッチで測定4.3回測定し,その平均を用いる5.<5秒を異常値とする(5秒以上は診断基準を満たさない)2016年のADESによるドライアイの新診断基準では,涙液層破壊時間(BUT)の標準的な計測方法が明記された.表7DEWSと日本およびADESのドライアイの定義および診断基準の比較定義診断基準DEWS(2007)ドライアイは,不快感,視機能障害,涙液層の不安定性を有し,眼表面に障害を与える可能性のある涙液および眼表面の多因子疾患である.ドライアイは,涙液層の浸透圧上昇と眼表面の炎症を付随する明確な診断基準はなし・自覚症状・涙液浸透圧(≧316MOSm/l)・TearFilmFunctionIndex(<40)・炎症・BUT(<10秒)・角結膜上皮障害(>3)・Schirmer試験(≦5mm/5min)日本およびADES(2016)ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある・自覚症状(OSDI,DEQSなどの質問紙票)・BUTの低下(<5秒)欧米(DEWS)と日本,AsiaDryEyeSociety(ADES)におけるドライアイの定義をみると,前半の部分はほとんど同じであるが,後半の内容が異なる.表8各国における涙液層破壊時間(BUT)とSchirmer試験I法のカットオフ値の比較BUT(秒)Schirmer試験I法(mm)米国(AAO)<10秒<10mm日本(2006)(2016)≦5秒<5秒≦5mmN/A韓国(2014)5<ドライアイ疑い≦10秒ドライアイ≦5秒5<ドライアイ疑い≦10mmドライアイ≦5mmDEWS(2007)<10秒<5mmADES(2016)<5秒N/A涙液層破壊時間(BUT)やSchirmer試験といったドライアイの検査項目の異常値(カットオフ値)の世界的な標準値はまだ定まっていない.’–

摩擦をターゲットとしたドライアイ治療

2017年3月31日 金曜日

摩擦をターゲットとしたドライアイ治療DryEyeTreatmentsAimedatOcularSurfaceFriction山口昌彦*はじめに二つの物質表面の間には運動という物理現象のもとで「摩擦」が生まれ,それはさまざまな物理的メリットとデメリットを引き起こす.この「摩擦」に関して,眼,とくに眼表面にフォーカスしてみると,瞬目という運動下で眼球表面(角膜および眼球結膜)と眼瞼結膜およびlidwiper1)との間で摩擦が生じる.瞬目に伴う眼表面での摩擦の役割として,角膜上の涙液層の交換を図ることによって常にクリアな視界を保つことがあげられる.また,眼表面摩擦は眼表面上皮細胞の正常な脱落に寄与しているが,病的な状態では,過剰な摩擦によって過度な上皮細胞の脱落が起こり角結膜上皮障害に至る.この眼表面摩擦が上輪部で亢進すれば上輪部角結膜炎(supe-riorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)2)を発症し,lidwiperで亢進すればlidwiperepitheliopathy(LWE)1)に至ると考えられる.本稿では,瞬目に伴って発生する眼表面摩擦亢進の病態とそれに伴う疾患〔blink-associat-eddisease:BAD),大橋(愛媛大)により提唱〕およびBADの治療について解説する.I眼瞼-眼表面間の解剖と瞬目運動眼瞼および眼表面の解剖を図1に示す.正常では,マイボーム腺開口部の並びよりも眼球側に皮膚粘膜移行部(mucocutaneousjunction:MCJ)が存在し,MCJから瞼板下溝までの眼表面ともっとも密接している部分は,Korbらによってlidwiperと命名されている1).また,眼瞼結膜と眼球結膜の間はKessingspaceとよばれる涙液が貯留している空間があり3),眼瞼-眼球の密着性に影響を与えていると考えられる.眼瞼は,正常では不随意かつリズミカルに閉瞼と開瞼を繰り返すいわゆる自発性瞬目を行うが,そのほかにも外部からの刺激による反射性瞬目や意図的な随意性瞬目を行う.自発性瞬目により,眼表面の涙液の拡散と排出,さらに異物や眼脂の受眼球結膜マイボーム腺結膜.眼瞼皮膚図1眼瞼および眼表面の断面図正常では,マイボーム腺開口部よりも結膜側に粘膜皮膚移行部(MCJ)が存在し,MCJから瞼板下溝までの間はlidwiperとよばれ,眼球側の眼表面ともっとも密着している部位にあたる.また,眼瞼と眼球の間にできる間隙は,Kessingspaceと名付けられている.*MasahikoYamaguchi:愛媛県立中央病院眼科〔別刷請求先〕山口昌彦:〒790-0024愛媛県松山市春日町83愛媛県立中央病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(55)361表1眼表面摩擦を亢進させる要因異常瞬目(眼瞼痙攣,瞬目回数増加)異常な眼球運動眼瞼と眼球との密着性増加・眼球突出度・眼球後退度・強角膜剛性・結膜弛緩症など眼表面濡れ性低下cSCLセンサーPC図2Eyelidtensionanalysissystem(ELTAS,メニコン)a:接触圧センサー.これに厚さ5nm以下のシリコーンラバーを被せて使用する.b:圧センサーはPCに接続され,データを記録する.c:実際の測定では点眼麻酔を行い,SCLを装用させた状態で結膜.内へ圧センサーを挿入して計測する.N図3眼瞼と眼球の間に生じる摩擦摩擦力F=摩擦係数μ×垂直力Nの式で表されるが,これを眼瞼と眼球の間に当てはめると,眼瞼結膜やlidwiperと角膜や眼球結膜との間の状態によって決まる摩擦係数μと眼瞼圧Nによって,両者間に生じる摩擦力が決定される.流体潤滑荷重(w)図5Stribeckcurve(ストライベック曲線)金属軸受と軸との間の摩擦係数の推移を潤滑の三態,すなわち境界潤滑,混合潤滑,流体潤滑において表している.境界潤滑と流体潤滑を行き来する混合潤滑において,横軸の粘度h×速度v/荷重wの値が大きくなるほど,摩擦係数μは下降する.したがって,たとえば,潤滑剤の粘度が上がれば摩擦係数は下がるため,眼表面の涙液の粘度が上がれば眼表面摩擦は減ると推測される.(ヘイシンディスペンサー(㈱兵神装備)HPより改変引用)表2Blink.associateddisease(BAD)上輪部角結膜炎(SLK)LWE(lidwiperepitheliopathy)瞼裂間結膜上皮障害(涙液減少型ドライアイ)糸状角膜炎SCL装用者の輪状結膜上皮障害結膜下出血などab■Ngroup(mmHg)upperLT25■Dgroup3025202015*****15101050~3940~4950~5960~6970~(age)50lowerLTc(mmHg)2520*図7正常者とドライアイ患者の上・下眼瞼圧15*眼瞼圧は,上下ともにドライアイのほうが正常より有意に高く10(†:p<0.0001,‡:p=0.0040),年代別にみた場合,眼瞼圧は正常では加齢ともに下降するが,ドライアイでは下降せず,550歳以上ではドライアイのほうが正常よりも有意に高かった0(upper;*:p<0.01,**:p<0.001,lower;*:p<0.05).~3940~4950~5960~6970~(age)N:normal,D:dryeye,LT:lidtension.図6粘性の高い涙液が瞬目に伴って角膜上を上下する様子この眼では,ジクアホソルナトリウム点眼薬とレバミピド点眼薬が併用されている.Eyelidpressure(mmHg)◆Ngroup■DgrouplowerLT◆Ngroup■Dgroup図8Sjogren症候群による涙液減少型ドライアイ(70歳,女性)ジクアホソルナトリウム点眼薬投与前(a)と投与後3週(b).投与前には,瞼裂間に眼表面摩擦亢進によると考えられる境界明瞭な類三角形の結膜上皮障害を認めるが,投与後は著明に改善している.ローズベンガル染色フルオレセイン染色Grade1染色(+)充血(+)Grade2染色(++)充血(++)Grade3染色(++)充血(++)ridge(+)上輪部結膜の染色所見と充血の程度およびridge形成によってgradingされる.mmHga.SLKgradevs.上眼瞼圧b.SLKgradevs.上方結膜弛緩度403図9SLKのgrade分類30UpperLT2120100G1(17)G2(18)G3(3)0G1(17)G2(18)G3(3)SLKgrade(n)SLKgrade(n)図10SLKgradeと上眼瞼圧および上方結膜弛緩度との関係SLKgradeは上眼瞼圧〔a:r=0.657,p<0.0001(one-wayANOVA)〕,上方結膜弛緩度(grade1.3)〔b:r=0.496,p=0.0024(Pearson)〕と有意に相関した.LT:lidtension,CCh:conjunctivochalasis(結膜弛緩症).ab図11SLK(31歳,女性)a:治療前,右眼grade3,左眼grade2.BUTも右1秒,左2秒と短縮していた.b:ジクアホソルナトリウム点眼薬とレバミピド点眼薬を併用したところ,投与後1カ月から改善がみられ,6カ月で両眼ともSLKはほぼ寛解した.BUTは両眼とも5秒以上に延長した.ab図12流涙を訴える52歳,男性a:両眼とも上眼瞼に著明なLWEを認める.BUTは両眼とも5秒,流涙スコア(8点満点)は7点と不良で,とくに右眼の症状が強かった.b:レバミピド点眼薬を6週間投与したところ,LWEは改善し,流涙スコアは3点に低下した.ab図13眼瞼下垂を伴う糸状角膜炎(46歳,女性)慢性進行性外眼筋麻痺があり,眼瞼下垂のため両側とも複数回の眼瞼形成手術を受けている.a:右眼下方に1個,左眼中央から上方に多数の角膜糸状物を認める.左眼は上眼瞼結膜のタッキングがあり,摩擦亢進の要因になっていると考えられた.b:レバミピド点眼薬を4週間投与したところ,両眼ともに糸状角膜炎は寛解した.’–

瞬目摩擦の基礎理論とその診断

2017年3月31日 金曜日

瞬目摩擦の基礎理論とその診断BasicPrincipleofBlink-RelatedFrictionandItsAssociationwithOcularSurfaceDisease加藤弘明*横井則彦*はじめに涙液が潤滑剤として作用し,瞬目時に眼瞼結膜と眼球表面との間に生じる摩擦を軽減するであろうことは誰でも容易に想像できることであり,瞬目時の摩擦について,摩擦を取り扱う学問であるトライボロジーの観点から行われた研究も報告されるようになってきている1~3).しかし,瞬目時の摩擦の理論が,涙液に関連する眼表面疾患であるドライアイの臨床にまで適用されるようになってきたのは,近年になってからである.ドライアイの臨床像をうまく説明する病態の新しい考え方では,ドライアイの眼表面には開瞼維持時の「涙液層の安定性低下」と瞬目時の「摩擦亢進」という二つのメカニズムが大きく関与するとされ4),この考え方はわが国において徐々に定着しつつある.本稿では,この二つのメカニズムのうち,瞬目時の「摩擦亢進」にフォーカスし,その基礎理論と診断について述べる.I瞬目時の摩擦を記述する物理摩擦あるいは摩擦力とは「接触している二つの物体をその接触面に沿って互いに移動させようとするときに,それを妨げる方向に作用する力のこと」とされ,摩擦力を記述するシンプルな式として,摩擦係数×垂直荷重………①式が一般によく知られている(図1).この式を瞬目に当てはめると,垂直荷重は眼瞼圧に相当すると考えられるが,この式は,擦れ合う二つの物体の間に潤滑剤が存在しない場合〔それゆえ乾燥摩擦(dryfriction)とよばれる〕にのみ成り立つ式であり,眼瞼結膜と眼球表面の間に涙液が存在する生理的な瞬目〔潤滑(lubrication)とよばれる〕では,この式は成り立たない.眼瞼結膜も眼球表面(角膜/眼球結膜表面)も,それらの表面には,微絨毛や膜型ムチンが存在するため,一定の粗さを有すると考えられるが,一般に,表面の粗さを上回る厚さの流体(液体および気体のこと)が2面の間に存在する場合,相対的に動く2面の間に接触は存在せず,摩擦は極端に低下する.この状態は流体潤滑(.uidlubrication)とよばれ,十分な涙液量がある場合の瞬目の状態にあてはまると考えられる(図2).そして,瞬目時に眼瞼結膜あるいは,角膜/眼球結膜の表面が涙液を介して受ける摩擦力(正確には「せん断応力」とよばれる)は,涙液の粘度×瞬目時の眼瞼速度/涙液厚………②式で表される.眼表面の涙液貯留量が減少した涙液減少型ドライアイにおいては,眼瞼結膜と角膜/眼球結膜の間の涙液の厚みが減少するため,少なくともその重症例では,瞬目時に両者の間で,直接的な接触が生じるようになる.この*HiroakiKato&*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕加藤弘明:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(47)353物体を動かす力図1乾燥摩擦(dryfriction)モデルこのモデルでは,摩擦力は摩擦係数×垂直荷重(眼瞼圧に相当)で表される.涙液の粘度×瞬目時の眼瞼速度眼瞼圧図3ストライベック曲線(Stribeckcurve)潤滑の状態は2面,すなわち眼瞼結膜と角膜/眼球結膜の間の涙液厚によって変化するが(青点線グラフ),2面間に作用する荷重(眼瞼圧に相当)や,2面の相対速度(瞬目時の眼瞼速度に相当),潤滑剤の粘度(涙液の粘度に相当)によっても変化する(黒実線グラフ).瞬目時の眼瞼速度図2潤滑(lubrication)モデルこのモデルでは,摩擦力(せん断応力)は涙液の粘度×瞬目時の眼瞼速度/涙液厚で表される.擦に関与する要因となる.実際,眼瞼圧と角膜/眼球結膜の上皮障害,あるいは眼瞼結膜の上皮障害(Lid-wiperepitheliopathyなど)との間に有意な正の相関がみられることが報告されている5,6).また,瞬目時の摩擦亢進が関与していると考えられる眼瞼下垂の上眼瞼や,眼瞼内反症の下眼瞼の背後にみられる糸状角膜炎に対して,それぞれ,眼瞼下垂手術,内反症手術を行うことで糸状角膜炎が改善したとの報告があり7),これらの手術が眼瞼と角膜との接触を減らす,すなわち眼瞼圧を減少させることで,瞬目時の摩擦亢進を軽減した可能性が考えられる.2.膜型ムチン眼瞼結膜と角膜または眼球結膜が直接接触する境界潤滑においては,各面の表面の性質(摩擦係数)が摩擦に大きな影響を与えることが予想される.ヒトの角結膜上皮の表面にはMUC1,4,16の3種類の膜型ムチンが発現しているが,最長のMUC16は,ガレクチン3とともに角膜上皮のバリア機能の維持に働いており8),眼表面上皮の水濡れ性の維持にも寄与していると考えられる.実際,表面を被覆する分子が分子式は同じでも,ブラシ状の構造をしているほうが,境界~混合潤滑での摩擦係数が大幅に低下することが報告されており9),境界潤滑において,ブラシ状の構造をもつMUC16が瞬目時の摩擦を軽減する役割を果たす可能性は十分に考えられる.また,ドライアイでは好中球エラスターゼやMMP-7,TNFによって膜型ムチンが障害されることが報告されており10),膜型ムチンの障害がドライアイにおける瞬目時の「摩擦亢進」に関与している可能性もある.近年,ドライアイの治療に用いられるジクアホソルナトリウムやレバミピド点眼液は,膜型ムチンの発現を促進するとされ11~13),境界~混合潤滑における,摩擦亢進の治療に奏効する可能性がある.III瞬目時の潤滑が流体潤滑にある場合に瞬目時の摩擦を亢進させうる要因とその対策1.涙液の粘度②式より,流体潤滑では涙液の粘度が高くなるほど,摩擦が増加することが予想される.30℃の条件で測定された水の粘度は0.797(mPa・s)であるのに対して,0.1%および0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼の粘度はそれぞれ3.0~4.0(mPa・s),17.1~30.1(mPa・s)であることから,これらの点眼は,流体潤滑においては瞬目時の摩擦を増加させる可能性がある(ストライベック曲線に基づけば,境界潤滑において涙液の粘度上昇は,逆に瞬目時の摩擦を軽減する方向に作用する).日常臨床においてヒアルロン酸ナトリウム点眼液を使用した際に,眼不快感が増加する例を経験することがあるが,その理由として,点眼によって涙液の粘度が上昇することで摩擦が亢進している可能性が考えられる.点眼時の涙液の粘度変化は,涙液の水分による希釈や涙液ターンオーバーの影響を受け,個々の眼で異なると考えられるが,対象眼が流体潤滑にある場合,粘度の高い点眼は,逆に瞬目時の摩擦を亢進させてしまう危険があることに注意が必要であると考えられる.ジクアホソルナトリウム点眼液は,結膜上皮から水分14,15)を,杯細胞から分泌型ムチン16)を分泌させるが,レバミピド点眼液は,水分分泌を促進することなく杯細胞を増加させ,それに依存して分泌型ムチンを増加させる17).したがって,前者ではともすれば十分な水分の状態下で分泌型ムチンの増加をきたしうる可能性,すなわち流体潤滑の状況下で粘性が増す可能性があり,そうなると摩擦の亢進を招いてしまう危険がある.一方,後者では,分泌型ムチンも膜型ムチンと同様,境界潤滑に対して有利に働くために,過剰な摩擦の軽減効果が期待でき,後者が摩擦関連疾患に奏効する理由になっていると考えられる.2.瞬目時の眼瞼速度②式より,瞬目時の眼瞼速度が速いほど,瞬目時の摩擦が亢進することが予想される.眼瞼下垂手術が行われた対象において,術後,ドライアイ症状(異物感・眼不快感など)を訴える場合があり,この理由として,瞼裂高の増加による蒸発亢進,および涙道ポンプ機能の増強による涙液貯留量の減少の関与が考えられている.しかし,眼瞼下垂手術後に瞬目時の眼瞼最大速度が増加するという報告もあり18),流体潤滑にある対象においては,眼瞼下垂手術後の眼瞼速度の増加によって摩擦の亢進が(49)あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017355生じ,その結果,ドライアイ症状が引き起こされている可能性がある.その一方で先に述べたように,眼瞼下垂手術は一般に摩擦の軽減をもたらしうるため,眼瞼速度の影響は,対象により異なると考えられる.3.涙液量②式より,涙液貯留量が少ないほど,涙液厚が薄くなるため,摩擦が亢進することが予想される.また,涙液厚の減少は潤滑の状態を境界潤滑へとシフトさせるため,急激に摩擦が亢進する危険性があることも予想できる.逆に,涙液量を増加させることは,涙液層の安定性を改善させることに加えて,境界潤滑を流体潤滑へとシフトさせるため,もっとも効果のあるドライアイの治療といえる.実際,重症涙液減少型ドライアイに対して,涙点プラグを上,下涙点に挿入した後,人工涙液を点眼すると非常に効果があることはよく知られている事実である.IV瞬目時の摩擦亢進の診断先に述べたように,ドライアイの病態には,開瞼維持時の「涙液層の安定性低下」と瞬目時の「摩擦亢進」という二つのメカニズムが大きく関係すると考えられ,前者については,他項にあるようにTFOD(眼表面の層別診断)やTFOT(眼表面の層別治療)といった体系だった診断法・治療法が確立されつつある.一方,瞬目時の「摩擦亢進」については,涙液の異常が関係するとはいえ,臨床研究があまり進んでいないこと,眼瞼に隠れたメカニズムであり評価がむずかしいこと,サブクリニカルな異常を検出する方法がないことなどの理由から,確立された診断法がないのが現状である.そのため,現時点での摩擦亢進の診断は,生体染色(フルオレセイン,リサミングリーン)を用いて,次に述べる瞬目時の「摩擦亢進」が関与する疾患や異常をみつけることに尽きる.1.Lid.wiperepitheliopathy(図4)Lid-wiperとは,瞼板下溝から粘膜皮膚移行部にかけて,瞬目時に眼球表面と摩擦を生じる眼瞼結膜上皮の部位のことであり,瞬目時の摩擦亢進によって生じたこの部位の上皮障害はlid-wiperepitheliopathyと名づけられている19).ドライアイやコンタクトレンズ装用眼と関連し20,21),上眼瞼よりも下眼瞼でみられることが多く,高齢者より若年者に多くみられ,若年者では症状がないことも多いとされる21,22).2.上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratocon-junctivitis)(図5)上輪部角結膜炎とは,上方の球結膜の充血と上方球結膜から角膜にかけての上皮障害,上眼瞼結膜の充血と乳頭増殖などを特徴とする眼表面疾患であり,重症化すると上輪部の隆起や角膜上方に糸状物の形成を認める23,24).Lid-wiperから後方の眼瞼結膜とそれと対面する角結膜との間には,瞬目時に健常眼では摩擦を生じないKess-ingspace25)とよばれる間隙が存在するが,上方の結膜が強膜と乖離する加齢性の結膜弛緩症や,上輪部角結膜炎においては,Kessingspaceにおいても瞬目時の摩擦亢進が生じ,眼瞼結膜や上方の角結膜の炎症や上皮障害,瞬目時の異物感や痛みの原因となる.3.糸状角膜炎(.lamentarykeratitis)(図6)糸状角膜炎は,角膜表面に糸状の構造物(角膜糸状物)が付着する慢性の角膜疾患であり,瞬目時にそれに連なる知覚神経が刺激されると眼痛の原因となる.角膜糸状物は,角膜上皮細胞を軸として,その周囲を結膜上皮細胞,ムチン(MUC5AC,MUC16),炎症細胞などが取り巻く構造をしており,慢性的な角膜上皮障害と瞬目時の摩擦亢進がその病態に関与していると考えられている26).4.結膜弛緩症(conjunctivochalasis)(図7)結膜弛緩症とは,高齢者に両眼性にみられる球結膜の非浮腫性,皺襞状の変化をさし,開瞼維持時の「涙液層の安定性低下」と瞬目時の「摩擦亢進」の両方に関与して,眼乾燥感や異物感の原因になるとともに,それらのメカニズムを介して反射性に涙液が分泌されると,流涙症状の原因となる.とくに,瞬目時に下方の涙液メニスカスに見え隠れする結膜弛緩症や,鼻側あるいは耳側の球結膜に高度な皺襞を伴う結膜弛緩症では,瞬目時の356あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(50)図4Lid.wiperepitheliopathy図5上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjuncti-65歳,男性.リサミングリーン染色にて上眼瞼縁のlid-vitis)wiperの部位に帯状の染色がみられる.62歳,女性.上方結膜に充血と,リサミングリーンで染色される上皮障害所見がみられる.図6糸状角膜炎(.lamentarykeratitis)65歳,男性.フルオレセイン染色にて角膜中央から下方にかけて角膜糸状物を伴う高度の上皮障害を認める(ブルーフリーフィルターにて観察).図7結膜弛緩症(conjunctivochalasis)60歳,女性.下方の涙液メニスカスに沿って皺襞状になった眼球結膜を認める(a).また,上眼瞼を眼球に沿って擦り下ろすようにすると,上方の涙液メニスカスから同様の皺襞状になった眼球結膜が顔を出している様子が観察される(b).6.眼瞼下垂先述したように,眼瞼下垂は糸状角膜炎の原因となることがあり7),眼瞼圧上昇による瞬目時の「摩擦亢進」を引き起こす原因となる可能性がある.また,眼瞼下垂は眼瞼結膜と上方の角膜や結膜との接触時間を増加させる可能性があり,とくに高齢者においては,しばしば上方の結膜弛緩症を伴いうるため,Kessingspaceでの摩擦が亢進して,異物感の原因になっていることがある.また,眼瞼下垂手術は適切に行われれば,摩擦軽減に働くが,不適切に行われると逆に眼瞼圧の上昇を招いて,摩擦亢進を引き起こしうるため注意が必要である.おわりにドライアイには,「涙液層の安定性低下」と瞬目時の「摩擦亢進」の二つのメカニズムが大きく働くが,最新のドライアイの診断基準は,そのうちの一つである「涙液層の安定性低下」に重点が置かれている.その理由として,「涙液層の安定性低下」の評価には涙液層破壊時間(tear-.lmbreakuptime:BUT)の測定という,ある程度の定量性があり,かつ感度の高い指標があるのに対し,瞬目時の「摩擦亢進」の評価には適当なものがないことが大きく関係していると考えられる.これまで述べてきたように,ドライアイが涙液異常によって引き起こされ,それが,涙液層の安定性と摩擦亢進の両方に関与する限りにおいて,後者も同様に評価されるべきであるが,現在の評価法の限界といわざるを得ない.したがって,現時点で瞬目時の「摩擦亢進」を評価するには,上述した疾患や異常所見の有無やその程度から,定性的に評価するしかない.しかし,臨床の現場ではこうした定性的評価から潤滑の状態を予想し,瞬目時の摩擦を亢進させている要因を看破して,その対策を講じることも可能であり,その際,本項で述べた理論を役立てていただけたら幸いである.最近になって,眼表面の摩擦を定量化する試みが研究室レベルで始められており,今後,臨床の場において瞬目時の「摩擦亢進」を定量的に評価できる方法も開発されると考えられる.近い将来,瞬目時の「摩擦亢進」を評価する検査法の出現とともに効果的な治療の選択肢が整理され,「涙液層の安定性低下」に対する診断法・治療法であるTFOD・TFOTの考え方と合わさることで,世界をリードする日本のドライアイがさらに発展することを期待している.文献1)EhlersN:Theprecorneal.lm.ActaOphthalmolSuppl81:111-113,19652)HollyFJ,HollyTF:Advancesinoculartribology.AdvExpMedBiol350:275-283,19943)PultH,TosattiSG,SpencerNDetal:Spontaneousblink-ingfromatribologicalviewpoint.OculSurf13:236-49,20154)横井則彦:ドライアイ治療のフロンティアTFOT(TearFilmOrientedTherapy).MedicalScienceDigest40:112-115,20145)YoshiokaE,YamaguchiM,ShiraishiAetal:In.uenceofeyelidpressureon.uoresceinstainingofocularsurfaceindryeye.AmJOphthalmol160:685-692,20156)YamamotoY,ShiraishiA,SakaneYetal:Involvementofeyelidpressureinlid-wiperepitheliopathy.CurrEyeRes24:1-9,20157)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌115:693-698,20118)ArguesoP,Guzman-AranguezA,MantelliFetal:Asso-ciationofcellsurfacemucinswithgalectin-3contributestotheocularsurfaceepithelialbarrier.JBiolChem284:23037-23045,20099)SpencerND:Aqueouslubricationwithpoly(ethyleneglycol)brushes.TribologyOnline9:143-153,201410)BlalockTD,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Releaseofmembrane-associatedmucinsfromocularsurfaceepi-thelia.InvestOphthalmolVisSci49:1864-1871,200811)七條優子,中村雅胤:培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,201112)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreas-esthemucin-likeglycoproteinproductionincornealepi-thelialcells.JOculPharmacolTher28:259-263,201213)ItohS,ItohK,ShinoharaH:Regulationofhumancornealepithelialmucinsbyrebamipide.CurrEyeRes39:133-141,201414)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y2agonistinaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,200115)MurakamiT,FujitaH,FujiharaTetal:Novelnoninva-sivesensitivedeterminationoftearvolumechangesinnormalcats.OphthalmicRes34:371-374,200216)七條優子,阪本明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,201117)KaseS,ShinoharaT,KaseM:E.ectoftopicalrebamip-358あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(52)

ドライアイへの全身的アプローチ

2017年3月31日 金曜日

ドライアイへの全身的アプローチSystemicApproachforDryEyeDisease川島素子*はじめにドライアイは,涙液および眼表面の複合的な多因子性の慢性疾患であり,その疾患背景は複雑である.現在のドライアイの治療の基本は点眼を中心とした局所治療である.近年は,ジクアスRとムコスタR点眼薬を中心に,涙液不安定性の原因を層別に診断したうえで,それらの異常原因に適した治療を選択する層別治療(tear.lmorientedtherapy:TFOT)という治療方針がとられるようになっている.ドライアイのリスクファクターにはVDT(visualdis-playterminal)作業負荷やコンタクトレンズ装用,加齢などがあげられ,高齢社会の進行や,スマートフォンの普及に代表されるような全世代でのIT化をはじめとした生活習慣の変化などにより,罹患率が上昇していると推察されている.TFOTに基づく点眼治療に加えて,ドライアイに対する全身的なアプローチも有効な治療や予防対策の選択肢として期待されている.Iドライアイへの全身的アプローチドライアイはSjogren症候群,糖尿病,各種ホルモン状態など全身疾患と関連すること,種類によっては全身疾患の治療薬の影響も受けることが知られており,内科,産婦人科,口腔外科,精神神経科などとの連携をとりながらの横断的な診療,全身的アプローチが有効であることはいうまでもない.最近の韓国の疫学調査では,年齢,女性に加えて,屋内職業従事がドライアイリスクと関連しており,全身合併症に関しては,脂質異常,変形性関節炎,リウマチ,甲状腺疾患,腎不全が関連していたと報告している1).筆者らも多施設のドライアイ実態調査(DECS-J)において,通院中のドライアイ患者の48%に何らかの全身合併症があり,高血圧や不眠,うつ病があるとSchirmer値が低いということも見出している(論文準備中).さらに,近年の研究により,ドライアイと関連する生活習慣が少しずつわかってきている.たとえば,OsakaStudyではオフィスワーカーでのドライアイの有病率は65%にものぼり2),さらにメタボリックシンドローム群では,同年代での非メタボリックシンドローム群と比較して,有意に涙液分泌量が低いことも明らかになった3)(図1).近年,メタボリックシンドロームを含めた多くの加齢性疾患には,生活習慣などの環境因子の影響があり,その背景に酸化ストレスの関与があることが認識されている.ドライアイも,SOD1ノックアウトマウスやMev1変異マウスなど複数のドライアイマウスモデルの結果や臨床研究結果により,酸化ストレスがドライアイの発症および病態形成に大きくかかわっていることが強く支持されている4,5).II型糖尿病やメタボリックシンドロームに対する運動・食事療法などの生活習慣介入は基本的な治療,予防方法として認知されており,その奏効機序の一つとして酸化ストレスの抑制が報告されている.これらより,酸*MotokoKawashima:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕川島素子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(41)347Schirmer値(Ⅰ法)≦5mmの発現率(mm)(%)p=0.009涙液分泌量(Tukey’smultiplecomparisontest)(Steel-Dwasstest)図1メタボリックシンドロームにおける涙液量の減少メタボリックシンドローム群(MetS)では非メタボリックシンドローム群(非MetS)と比較して有意に涙液分泌量が低下している.(あたらしい眼科31:485,図6より転載引用)図2ドライアイの全身的なアプローチ3,0002,0001,0000ドライアイ確定群(n=50)ドライアイ疑い群(n=230)非ドライアイ群(n=145)平均値±SD(Tukeyの多重検定)(分/週)4,000p=0.025図3運動とドライアイ(ドライアイとMETスコアとの関係)非ドライアイ群では,ドライアイ確定群と比較してMETスコアが有意に高かった.(あたらしい眼科32:975,図3より転載引用)METスコアab(mm)81.671.461.25RRI(sec)10.80.64自然呼吸32腹式呼吸0.410.200介入直後介入15分後介入30分後介入直後介入15分後介入30分後**p<0.01図4腹式呼吸と涙液分泌a:R-R間隔の代表例.腹式呼吸実施により,R-R間隔の振幅の増加がみられた.b:涙液量.腹式呼吸実施15分後に,コントロール群と比較して腹式呼吸群では有意に涙液量が増加した.(あたらしい眼科32:975,図4より転載引用)主観的幸福度尺度スコア76543210A:他覚所見ありB:他覚所見ありC:他覚所見なしD:他覚所見なし&自覚症状なし&自覚症状あり&自覚症状あり&自覚症状なし(n=121)(n=344)(n=55)(n=41)図5主観的幸福度とドライアイTukey多重比較p値A:B0.043A:C<0.001A:D0.843B:C0.029B:D0.861C:D0.049平均値±SDp<0.001(ANOVA)「ドライアイ他覚所見ありと自覚症状なし」群の主観的幸福度尺度のスコアがもっとも高く,「他覚所見なしと自覚症状あり」群の主観的幸福度尺度のスコアがもっとも低かった.(あたらしい眼科32:976図5り転載引用)**ピッツバーグ睡眠質問表スコア7654■ドライアイ■非ドライアイ210330~45歳46~55歳56~69歳図6睡眠とドライアイドライアイ群のほうが睡眠障害スコアが高い.(文献17より改変引用)シルマー値変化率ドライアイ自覚症状スコア4005035040300250p=0.08#p=0.06#30200201501001050p=0.02#000W4W8W0w4w8wサプリメント群プラセボ群#Vs.プラセボ群サプリメント群プラセボ群図7サプリメントの効果2カ月間の複合サプリメント(オプティエイドDER)摂取により,自覚症状〔ドライアイQOL質問票.DEQS(DryEye-relatedQualityoflifeScore)〕の改善と涙液分泌改善傾向が認められた.(文献21より改変引用)-

痛みをターゲットとしたドライアイ治療

2017年3月31日 金曜日

痛みをターゲットとしたドライアイ治療DryEyeTreatmentTargetingPain田川義晃*石田晋*Iドライアイと痛み角膜は人体のなかでもっとも神経終末密度が高く,もっとも鋭敏な知覚を有する.このことは,角膜が人体のなかでもっとも強力な痛み発生源になる可能性を示している.ドライアイをはじめとする角結膜疾患では,角結膜障害に伴うさまざまな侵害刺激(用語解説参照)を角膜神経が受容することで痛みが生じる.国際疼痛学会で定められる痛みの定義は,「実際に何らかの組織損傷が起こったとき,または組織損傷を起こす可能性があるとき,あるいはそのような損傷の際に表現される,不快な感覚や不快な情動体験」とされている1).したがって,日常臨床ではドライアイ患者の乾燥感は痛みとは区別されるが,乾燥感や異物感は不快な眼の感覚であり,広い意味で不快感を伴うドライアイ症状を痛みと捉えて話を始める.II痛みをターゲットにした治療がなぜ必要か?角結膜上皮障害や涙液不安定性,涙液量減少がみられないにもかかわらず,非常に強いドライアイ症状を訴える患者を経験することがある.多くの眼科医がそのような患者を一度は外来で経験しているのではないだろうか.角結膜上皮障害や涙液減少を伴わないものの,涙液不安定性のみがみられるドライアイの一群は涙液層破壊時間(tear.lmbreakuptime:BUT)短縮型ドライアイとよばれている(図1).しかし,実際には涙液不安定性もなく,BUTが短縮していなくても強いドライアイ症状を訴える患者もいる.近年,この自覚症状と他覚所見の乖離に対して,神経の過敏性がその原因の一つであるとする説が提唱されている2,3).詳細は他稿に譲るが,現在,ドライアイの自覚症状発現に関与する角膜神経の異常が注目されている.本稿では,このような神経の過敏性に対し,現在検討されはじめている治療法についてペインクリニックの視点から述べる.III痛みをターゲットにした治療の適応となるドライアイ患者ドライアイでは,どのような患者に「痛みをターゲットにした治療」が必要となるのだろうか.涙液減少や角結膜上皮障害があるドライアイ患者(図2)に対して現在あるドライアイ治療薬点眼を用いて他覚所見も自覚症状も十分に改善する場合は問題にならない.しかし,他覚所見がほぼないにもかかわらずドライアイ症状を訴える患者で,現在あるドライアイ治療薬点眼や涙点プラグを用いても自覚症状が改善しない場合は,痛みをターゲットにした治療が必要と考えられる.ドライアイ症状を訴えているが他覚的な所見が少ない患者はそもそもドライアイだろうか?これについては,さまざまな患者が含まれており,個々の症例で病態が異なり違う疾患が含まれていることも想定される(表1).*YoshiakiTagawa&*SusumuIshida:北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病講座眼科学分野〔別刷請求先〕田川義晃:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病講座眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(35)341図1BUT短縮型ドライアイ図2涙液減少型ドライアイ表1ドライアイ症状を訴えているが他覚的な所見がない患者BUT短縮型ドライアイ眼の疼痛性障害眼瞼けいれんCornealNeuropathicPain表2痛みをターゲットにした治療点眼治療ヒアルロン酸ナトリウム自己血清点眼TRPV1阻害薬内服治療プレガバリンカルバマゼピンデュロキセチン神経ブロック星状神経節ブロック認知行動療法a図3角膜神経(生体共焦点顕微鏡による写真)a:正常者.b:ドライアイ.ドライアイでは神経密度の低下がみられる.3.神経ブロック全身の難治性疼痛では,疼痛の存在する領域に対応した神経支配領域の知覚神経節に対する神経ブロックがしばしば行われる.眼を支配する神経は三叉神経第1枝であり,それに対するガッセル神経節ブロックについては7),角膜知覚神経をブロックすると神経麻痺性角膜症を生じる可能性が高いためあまり行われていないのが現状であろう.交感神経は一般的には知覚神経と異なり痛みの伝導路ではないが,慢性化した疼痛の増悪には交感神経が関与することが以前から知られており,眼痛を訴える患者でも天気が悪くなると眼の痛みが強くなるという症例にときおり遭遇する.三叉神経領域の慢性疼痛の代表格である帯状疱疹後神経痛では交感神経ブロックである星状神経節ブロック(stellateganglionblock:SGB)が行われる.SGBは頸部の第6頸椎レベルの頸長筋内に局所麻酔薬を注入する手技である10).星状神経節は顔面に投射する交感神経線維のすべてが経由する神経節であるため効果が高く,もっとも多く用いられる神経ブロックの一つである.慢性化したドライアイ患者の疼痛にSGBが有効かどうかについては未だ知られていない.しかし,SGBがSjogren症候群の眼乾燥感などのドライアイ症状に対して有効であったとする2例報告がある.麻酔科からの報告で,眼科的な所見の詳細はないものの眼の自覚症状が改善したと記述されており,SGBを中止すると症状が増悪するため週1回のSGBを継続していると報告されている23).三叉神経領域の帯状疱疹後神経痛は,三叉神経領域の神経障害性疼痛であるが,SGBの有効性は以前から知られている10).ドライアイにおいても,共焦点顕微鏡を用いた角膜神経の観察などから神経障害が疑われており14),帯状疱疹後神経痛と同じではないがドライアイに対しても有効である可能性があると考えられる.しかし,SGBは侵襲的な治療であるため対象は限られる.局所および薬物治療に抵抗する症例では,今後選択肢になっていく可能性はあると思われる.4.認知行動療法代表的な慢性疼痛疾患である腰痛症の治療ガイドラインでは,慢性腰痛に対して,GradeA(強い根拠に基づき質の高いエビデンスがあり,行うことを強く推奨するもの)の治療は認知行動療法である.運動療法はGradeA,薬物療法はGradeAあるいはB(中等度の根拠に基づき質の高いエビデンスが1つ,または中程度の質のエビデンスが複数あり,行うことを推奨するもの)で,手術療法はGradeBである24).なぜ,認知行動療法がGradeAなのか?以前は腰痛は手術で治すもの,という考え方が主流であった.しかし,現在は手術でとれる痛みは限定的であるといわれている.痛みの慢性化,難治化には本人の行動あるいは認知の歪みが大きくかかわっているといわれている.具体的には,痛いから動かないという認知があり,動かないからさらに動かせなくなるという行動が生じる.あるいは痛みが怖いから動けない,動いて痛い経験をするとさらに動くことが怖くなる,というものである.この悪循環から抜け出さなければ慢性疼痛は改善しないといわれている.痛みが慢性化することで脳内ネットワークが変化し,抑うつや不安を強めることが,脳活動を可視化するfunctionalMRIを用いた研究で示されている25).ドライアイでは,この心理的な悪循環に関する知見はまだないが,ドライアイは幸福度と逆相関する,あるいはうつ病,睡眠障害と関連する,positivethinkingがドライアイ症状をよくしてくれるなどのエビデンスが集積しつつある26,27).さまざまな治療でも症状がよくならないドライアイの患者に対して,外来でじっくり話を聞くと,それだけでなぜか以前よりも眼の痛みがかなりよくなりました,と言われる患者を時折経験する.ドライアイ症状に対して,どのような認知行動療法的アプローチが考えられるのか,さらに効果があるかどうかについてはまだ不明であるが,今後重要なアプローチの一つになる可能性があると思われる.Vまとめドライアイ患者の自覚症状には神経の異常が関与することが近年明らかになりつつあるが,それに対する治療法はまだまったく確立していない.しかし,今後はドライアイ患者の自覚症状をターゲットにした,痛みを抑える治療が登場してくると思われる.すでに,世界的には(39)あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017345■用語解説■侵害刺激:組織損傷を起こす刺激.神経障害性疼痛:体性感覚神経系の病変や疾患によって生じている疼痛.三叉神経痛:突然起こる片側性の持続時間の短い,繰り返す激しい顔面の痛みで,痛みの範囲は三叉神経分枝の1本もしくはそれ以上にわたる.慢性疼痛:急性疾患の通常の経過あるいは創傷の治癒に要する妥当な時間を超えて持続する痛み.通常は3カ月以上を指すことが多い.–

感覚異常の動物モデルと行動学的評価法

2017年3月31日 金曜日

感覚異常の動物モデルと行動学的評価法AnimalModelandBehavioralAssessmentforDysesthesiaResearch片桐綾乃*岡田真治*,**美久月瑠宇*,***岩田幸一*はじめに痛み感覚を司る神経線維は無髄のC線維と細径で有髄のAd線維である.これらの神経線維の末梢終末部は特殊な器官をもたない無構造の線維として組織内に終わっていることから,自由神経終末とよばれている.頭頸部領域の体性感覚情報処理に関与する神経はおもに三叉神経である.三叉神経の一次求心性神経線維の細胞体は三叉神経節,またその一部は三叉神経中脳路核に存在する.中枢端は主感覚核,三叉神経脊髄路核あるいは上部頸髄に存在する二次ニューロンとシナプス結合を形成して感覚情報を伝達する.三叉神経脊髄路核は吻側から,吻側亜核,中間亜核,尾側亜核に分けられる.とくに痛覚は三叉神経脊髄路核尾側亜核および上部頸髄に投射し,これらの領域から視床を経由して,大脳皮質第一次体性感覚野に伝えられる.本稿では,三叉神経支配領域の疼痛を中心に,疼痛異常の神経機構に関する基礎研究でよく用いられるモデル動物とその神経病態学的特徴,および行動学的評価法について紹介すると同時に,さらにドライアイモデルラットにおける中枢感作,およびドライアイ患者の症状増悪に関連して注目されている神経障害性疼痛についても言及する.I神経障害性疼痛モデル“神経障害性疼痛”とは末梢神経または中枢神経そのものの損傷や障害により発症する慢性痛で,非侵害的な機械刺激や温度刺激で痛みが生じるアロディニアと,侵害刺激に対して非常に強い痛みが生じる痛覚過敏とよばれる症状を呈する.三叉神経領域における神経損傷モデルには,三叉神経第2枝(上顎神経)の分枝である眼窩下神経の慢性絞扼性神経損傷モデル,第3枝(下顎神経)の分枝である下歯槽神経切断モデルや舌神経圧迫モデルなどが報告されている.1.眼窩下神経慢性絞扼神経損傷モデル眼窩下神経は運動神経を含まないため,感覚神経のみの損傷モデルとしての研究に適している.眼窩下神経を口腔内より明示し,吸収性縫合糸4-0chromicgut(国内では現在発売中止)で2カ所をゆるく結紮することで神経を損傷させる1).口腔内から眼窩下神経にアプローチすることにより,行動観察の際に刺激を与える口髭部の皮膚はまったく損傷を受けないため,神経損傷自体によって発症する神経障害性疼痛の病態を解析することが可能である.眼窩下神経慢性絞扼神経損傷モデルでは,神経損傷1日後から眼窩下神経支配領域である口髭部皮膚に対するvonFreyHair(図1)を用いた機械刺激(図2)および熱刺激に対する逃避閾値が低下する.すなわち,機械アロディニアおよび熱痛覚過敏が発症する.2.下歯槽神経切断モデル神経の完全切断モデルとしては第3枝の分枝である下歯槽神経切断モデルが用いられている2).下顎管より明*AyanoKatagiri&*KoichiIwata:日本大学歯学部生理学講座*,**ShinjiOkada:日本大学歯学部生理学講座,日本大学歯学部歯科LouMikuzuki:日本大学歯学部生理学講座,東京医科歯科大学大学院歯科心身医学分野***,*補綴学第I講座〔別刷請求先〕片桐綾乃:〒101-8310東京都千代田区神田駿河台1-8-13日本大学歯学部生理学講座0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(29)335図1機械刺激に対する閾値を測定するvonFreyHair各vonFreyにフィラメントのサイズと荷重時のグラム数が書かれている.フィラメントの長さを変える,またはフィラメントの太さを変えることで荷重の異なるvonFreyが用意されている.図2覚醒下ラットの口髭部に対するvonFreytestVonFreyのフィラメントを刺激対象部位に対して垂直に当てる.覚醒下のラットの頭頸部領域への刺激に際しては,刺激装置(写真ではvonFrey)が動物の視覚に入らないようにする.図3涙腺(exorbitallacrimalglant)摘出ドライアイモ図4涙液量測定デルZONE-QUICKR(昭和薬品化工)を用いた涙液量の測定.Exorbitallacrimalglantと導管を示す.実際のモデル作製時には切開は5mm程度で行う.Exorbitallacrimalglantだけでなくinfraorbitallacrimalglandも同時に摘出するモデルもある.図5イソフルラン麻酔導入図6後肢屈曲反射の確認経口・経鼻でイソフルラン麻酔をかける.同時に頭板状筋自発行動は生じないが,後肢への軽微な刺激に対する屈曲から筋電図を測定するための記録電極を設置する.反射が認められた時点で,逃避閾値測定部位への刺激を開始する.図7浅麻酔下でフォーセプスを用いた舌への機械刺激方法図8浅麻酔下で熱プローブを用いた舌への熱刺激方法図9眼輪筋からの筋電図測定記録電極挿入を示す.角膜への各種刺激に対する眼輪筋の筋活動を記録・解析する.

ドライアイにおける知覚異常の考え方

2017年3月31日 金曜日

ドライアイにおける知覚異常の考え方TheConceptofCornealSensitivityinDryEye海道美奈子*坪田一男*はじめにドライアイでは症状と他覚的所見は必ずしも一致しないことが知られており,それゆえドライアイの重症度や治療効果の評価は困難である.近年,ドライアイの自覚症状の発現メカニズムを考えるうえで,角膜の感覚神経の役割が注目されている.今までのドライアイのさまざまな症状(目が疲れやすい,目が重たい)をまず痛みとしてとらえなおす流れが始まった.本稿では痛みについて,また眼表面の知覚神経のさまざまな刺激に対する反応,ドライアイ症状と神経感受性の関係について論じる.I痛みの分類痛みの分類には,①時間的経過による分類,②病変の有無による分類,③痛みの原因による分類,などさまざまな方法がある.時間的経過による分類では「急性痛と慢性痛」,病変の有無による分類では「生理的な痛みと病的な痛み」に分類することができる.痛みの原因による分類では健常な組織を傷害することにより生じる「侵害受容性疼痛」と,末梢あるいは中枢神経系そのものの機能異常により生じる「神経因性疼痛」,心理社会的因子が関与して生じる「心因性疼痛」がある(表1).神経因性疼痛は神経系の一過性の機能異常による痛みと,末梢神経や中枢神経の損傷による病的な痛みである神経障害性疼痛に分類される.神経障害性疼痛には自発痛や,痛みをより強く感じる痛覚過敏,通常では痛みを引き起こさないような微小刺激で痛く認識される感覚異常,ア表1疼痛の分類ロディニアなどがある.「急性痛」や「生理的な痛み」「侵害受容性疼痛」は外的刺激に対して生体へ警告し,防御反応を誘導するのに重要な役割を果たしている.一方,「慢性痛」や「病的な痛み」「神経障害性疼痛」は傷や炎症が治癒したあとも持続する痛みで,鎮痛薬などでは十分な効果が得られないため難治性であり,著しくQOLを低下させる.II眼表面の知覚神経感覚には触覚,圧覚,痛覚,温覚,冷覚があり,それぞれ異なった種類の感覚受容器が対応すると考えられている.皮膚にはMeisner小体(触覚の受容体)やKrause小体(冷覚の受容体)などの感覚受容器が存在するが,角膜にはこれらの特別な感覚受容器はない.角膜を支配している三叉神経の神経線維は角膜周辺部から中央部に向かって網目状に走行しており,角膜上皮直下で終わっている(図1).眼表面の神経線維の末端(自由神経終末)がさまざまな刺激を受容すると,その興奮は三叉神経節を通って中枢に運ばれる.感覚神経には伝達速度の速い*MinakoKaido&*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕海道美奈子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(23)329角膜上皮細胞層Bowman膜図1角膜上皮と角膜神経神経線維は角膜周辺部から中央部に向かって網目状に走行しており,角膜上皮直下で終わっている.眼表面の障害高閾値冷受容器の活性化角膜上皮細胞の傷害角膜神経損傷反射性瞬目図3涙液減少型ドライアイにおける症状発現メカニズム細胞傷害によるポリモーダル侵害受容器の興奮が,侵害受容性疼痛を眼表面の乾燥に伴う温度変化による高閾値冷受容器の活性化が反射性瞬目を惹起する.また,神経終末が損傷しているため感受性は低下しており,知覚鈍麻を呈する..).図4BUT短縮型ドライアイの症状発現メカニズムの仮説炎症性サイトカインやneurotransmitterが分泌されている可能性があると推測している.これらにポリモーダル侵害受容器が応答することにより侵害受容性疼痛を惹起する.あるいは慢性的な涙液安定性の低下が引き金となり,細隙灯顕微鏡では見えないが角膜神経線維あるいは高次ニューロンの神経障害性疼痛を惹起する.図5BUT短縮型ドライアイ患者のコンフォーカル所見LASIK施行歴があり,強いドライアイ症状とBUTの短縮を認める.角結膜上皮障害はない.神経線維の断片化(.),樹状細胞(.).–

視機能をターゲットとしたドライアイ治療

2017年3月31日 金曜日

視機能をターゲットとしたドライアイ治療DryEyeTreatmentTargetingVisualFunction高静花*はじめにドライアイ診療は過去20年で大きく変化を遂げた.この変化,いや進化は国内外においてみられるが,2種類のムチン製剤を治療薬として用いることができる唯一の国である日本においての進化が一番大きいであろう.日本では1995年にドライアイの定義が最初に提唱され,2006年に改訂された1).本特集で述べられているとおり,2017年にさらに新しい定義に進化している.視機能の観点からいえば,1995年版から2006年版への改訂で「眼不快感や視機能異常を伴う」が含まれるようになったのが大きな変化である.日常診療において,ドライアイだけが原因で通常の視力検査で視力不良ということは重症症例を除けばほとんどない.それがゆえ,かつては「ドライアイは視力低下を生じない疾患」と考えられてきた.しかし,視覚の質(qualityofvision:QOV)の重要性が広く認識され,各種疾患および手術アウトカムの評価として従来の視力検査だけでなく,より正確に視覚の質を評価することが求められるようになり,ドライアイにおける視機能評価が発展した.通常の視力検査では検出できない視機能の測定方法として,コントラスト感度,実用視力,角膜形状解析,波面センサー,散乱測定などさまざまな方法が用いられることにより,ドライアイにおける視機能低下が明らかとなった2).ドライアイを治療する際,治療する側としては他覚所見の改善が大変気になるところであるが,もっとも優先されるのは患者の自覚症状の改善と考えられている.ドライアイの自覚症状のなかには,霧視,見え方の変動,羞明,眼精疲労など,見え方に関するものが含まれている.本稿においては,自覚症状にも直結する「視機能」をターゲットにしたドライアイ治療について述べる.Iドライアイの治療日本においては,眼表面の層別診断および層別治療,すなわち眼表面を層別に診断して(tear.lmorienteddiagnosis:TFOD),層別の成分を補う(tear.lmori-entedtreatment:TFOT)ことにより涙液層の安定性を高めて効果的にドライアイを治療するというというコンセプトが主流になっている.涙液層安定性の低下は,自覚症状,眼表面の上皮障害,視機能低下の原因となるため,涙液安定性は治療において重視されている.TFOTを行うためにはフルオレセイン染色を用いたtear.lmbreak-upパターンの観察が重要であるが,それに基づくと,涙液減少型ドライアイと涙液層破壊時表1TFOD,TFOTに基づくドライアイ治療Randombreakパターンでは,油分/水分/分泌型ムチンのいずれかを補充.*ShizukaKoh:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室〔別刷請求先〕高静花:〒565-0871吹田市山田丘2.2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(17)323眼表面波面センサー測定3カ月後6カ月後図1Sjogren症候群に伴う涙液減少型ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼治療効果(文献5より改変引用)波面センサー測定治療前眼表面涙点プラグを上下挿入1カ月後図2Stevens.Johnson症候群による涙液減少型ドライアイに対する涙点プラグ治療効果(高静花:涙点プラグの挿入とコツと注意点.Surgicalskills「これで完璧涙点閉鎖」.眼科グラフィック4:534-543,2015より改変引用)図3BUT短縮型ドライアイに対するレバミピド点眼治療効果1.6ab0.400.351.4眼球高次収差(μm)0.300.250.200.15Straylightlog[s]1.21.00.80.100.60.050.000.4時間時間図4ドライアイ治療薬点眼後の高次収差,前方散乱の変化(文献10より改変引用)点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後—

ドライアイ診療のための涙液層のブレイクアップ分類最前線

2017年3月31日 金曜日

ドライアイ診療のための涙液層のブレイクアップ分類最前線UpdateTear-FilmBreakupClassi.cationforFilm-OrientedDiagnosisTherapyforDryEye横井則彦*はじめにドライアイのコア・メカニズムは何なのか?日本と欧米の考え方が交錯するなかで,日本のドライアイ研究者は,可視化することができ,健常眼との違いが明確で,おもなドライアイ症状をうまく説明することができるという理由で,「涙液層の安定性の低下」にドライアイのコア・メカニズムの解答を求めてきた1).実際,涙液層の安定性の低下,ひいては涙液層の破壊は,ドライアイの診断と治療の大きな手がかりとなり2,3),上皮障害ではなく涙液層の破壊に視点をおいてドライアイを診断することで,Schirmerテストで異常値を示さず,上皮障害がないにもかかわらず,症状の強いBUT短縮型ドライアイ4~7)を見落とすことが少なくなる.また,新しいドライアイ治療用点眼液が登場したことで,涙液層の破壊の改善を目標にした治療によって,ドライアイ症状の改善が得られることが,いっそう明確になってきている2,3).そして,本特集の中にある日本の新しいドライアイの定義や診断基準を読めば,涙液層の安定性の低下がドライアイの本質である理由を見つけることができるであろう.今や涙液層の安定性低下,あるいは涙液層の破壊はドライアイ診療において欠かすことのできない指標であり,今後も日本のドライアイ診療の発展の鍵を握り続けるだろうと思われる8).そして,このコンセプトを中心に,欧米で重視される炎症や,瞬目時の摩擦亢進のメカニズムをうまく位置づけることで,ドライアイの全容がみえてくるのではないかと思われる.本稿では,ドライアイ診断においてその有用性がさらに確立されつつある涙液層のブレイクアップ分類の今を紹介する.I涙液層の構築涙液層が油層,水層,ムチン層の3層からなるというモデル9)は,その後の発見によって書き換えられ,現在,涙液層は油層および液層との2層からなると考えるのが適当である(図1)10,11).油層は,マイボーム腺の油脂(meibum)からなる非極性脂質層と両親媒性脂質層(マイボーム腺以外の由来も想定されている)の2層からなるが,非極性脂質層はその80%がコレステロールエステルとワックスエステルからなり,両親媒性脂質層はリン脂質,OAHFA[(O-acyl)-w-hydroxyfattyacidfamily],スフィンゴ脂質などからなるとされる10).一方,液層はゲル形成ムチンである分泌型ムチンがそのネットワーク内に水分を保持しながら,開瞼維持時にゲル層となり,涙液層の安定性維持に貢献するとされる11).また,液層には水分,分泌型ムチン以外に,電解質,ラクトフェリン,リゾチーム,IgA,リポカリン,成長因子,サイトカイン,ビタミン類などが含まれ,これらは抗菌作用,上皮の分化・増殖・保護作用を発揮しながら,眼表面の健常性維持に働く.*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(9)315非極性脂質層油層両親媒性脂質層液層糖衣層表層(膜型ムチン)上皮図1眼表面の構築眼表面は油層と液層からなる涙液層と表層上皮から構成される.油層は非極性脂質層と両親媒性脂質層の2層からなり,液層は水分と分泌型ムチンによりゲル構造をなす.糖衣層には表層上皮が発現する膜型ムチンが含まれ,表層上皮の水濡れ性やバリア機能の一部が維持される.油層液層表層上皮図2涙液層の液層の菲薄化と全層破壊の違いを示す模式図および涙液層の液層の菲薄化と全層破壊の観察像涙液層の菲薄化(左上)は,darkspotとしてフルオレセインで観察でき(右上,白△),涙液層の全層破壊(左中,左下)はビデオインターフェロメーターで直接的に(右中),ビデオトポグラファーで間接的に観察される(右下)(一般に,プラチドリングの乱れは,涙液層の全層破壊が生じてから観察されるため,この図は全層破壊がさらに広がった状態と考えられる).Darkspot(右上,白△)の出現までの時間はフルオレセイン破壊時間として,涙液層の安定性の指標となる.ビデオインターフェロメーターでは,涙液層の全層破壊を直接観察しながら,破壊出現(右中,白△)までの時間(非侵襲的涙液層破壊時間)を測定でき,この時間も涙液層の安定性の指標となる.ビデオトポグラファーでは,涙液層の全層破壊をプラチドリングの乱れとして観察できるが,ビデオインターフェロメーターのような直接観察ではないため,その出現(右下,黒△)までの時間(これも非侵襲的涙液層破壊時間に相当しうる)は,一般に実際の全層破壊に要する時間より長くなる.涙液層形成の涙液層形成の第1ステップ第2ステップ開瞼直後開瞼後涙液油層の涙液油層の液層の表面圧勾配上方移動上方伸展水分の塗りつけ図3開瞼に伴う涙液層の層別動態と涙液層形成開瞼に伴い涙液層は2つのステップを経て形成される.まず,開瞼中に水分が角膜表面に塗りつけられ(左),次に表面圧勾配に基づいて涙液油層の上方伸展が生じて液層の上方移動が引き起こされ,涙液層は完成する.=開瞼中開瞼直後開瞼後図4涙液層の形成過程とその破壊パターン涙液層の形成前(a~d)と形成後(e)において,5つの涙液層の破壊パターンが区別される(A:Areabreak,B:Spotbreak,C:Linebreak,D:Dimplebreak,E:Randombreak).AreaおよびLinebreakは,涙液減少型ドライアイにみられやすく,Spot,Dimple,およびRandombreakは,BUT短縮型ドライアイでみられやすい.deabc図5フルオレセイン染色で区別されるブレイクアップパターンa:Areabreak,b:Spotbreak,c:Linebreak,d:Dimplebreak,e:Randombreak.Areabreakでは瞼裂部の角膜全面に,Linebreakでは角膜下方に上皮障害がみられるのに対して,Spotbreak,Dimplebreakでは一般に上皮障害はみられにくい.また,フルオレセインの上方移動中に,darkspotが,Linebreakではフルオレセインが薄くなる角膜下方でみられるのに対し,Dimplebreakではフルオレセインが濃くなる角膜中央寄りでみられることに注意したい.表1フルオレセインとスリットランプによる観察に基づくTFODとTFOTのポイントBreakupBreakup開瞼後のフルオレセインのBreakupがみられる上皮障害病態ドライアイのタイプTFOTに基づく治療方針分類の形上方移動(上)タイミング(下)角膜の部位角膜結膜Area面状×~△開瞼直後典型例では全面++++++涙液減少(重症)涙液減少型水分確保Line線状○Fの上方移動中下方+~+++~++涙液減少(軽症~中等症)ドライアイ水分補充Spot(類)円形◎開瞼直後中央寄り~上方-~+-~+角膜表面の水濡れ性低下膜型ムチン補充Dimple(類)線状◎Fの上方移動中中央寄り-~+-~+角膜表面の水濡れ性低下BUT短縮型ドライアイ膜型ムチン補充分泌型ムチン/油分/水分のいずれかを補充Random不定形◎Fの上方移動が終了したのち不定-~+-~+蒸発亢進フルオレセイン(F)の上方移動(◎:良好○:あり△:角膜下方に限局×:なし)上皮障害(-:なし+:軽症++:中等症+++:重症)(文献3より改変引用)図6SpotbreakとLinebreakが同時にみられる症例本症例では,開瞼維持によりLinebreakはすぐに広がって,面状になりうることから,下方角膜表面の水濡れ性低下が病態として推察される.図7涙液減少型ドライアイの比較的重症例にみられるDimplebreakと上方にシフトした点状表層角膜症(super.cialpunctatekeratopathy:SPK)涙液減少がより高度になると,液層を足場とする油層の上方伸展が制限され,角膜下方のLinebreakよりも,油層の伸展限界部でのDimplebreakがむしろみられやすくなり,油層が持ち込んだ水分のために,角膜下方はむしろ上皮障害の発症から守られる.そして,油層による水分の持ち込みが期待できないDimplebreakの上方の角膜において,SPKはより高度になりやすい(SPKの上方シフト).液減少の程度がより高度な眼では,開瞼時に角膜表面に塗りつけられる水分がより少なくなるため,油層の伸展の足場が乏しくなり,油層は上眼瞼縁まで上方伸展できなくなる.そのため,油層の上方伸展が停止する部位にdimpleを生じるようになる(図7).したがって,dimpleから上方の領域は開瞼中に塗りつけられる液層のみ,dimpleから下方の領域は開瞼中に塗りつけられる水分に,上方伸展してくる油層が持ち込む水分が加わるため,涙液層はより厚く安定で,そのためlineは見られにくくなり,結果としてのSPKも生じにくくなる.つまり,lineからareaに至るまでの比較的高度の涙液減少では,BPはlineよりも,むしろdimpleが主体となり,dimpleの上方の領域にSPKが生じやすくなる.そして,最重症の涙液減少眼では,ついに液層を足場とする油層の上方伸展がまったく得られなくなり(Areabreak),SPKは,瞼裂部の全面で見られるようになる.おわりに涙液層の安定性は,涙液層を構成する油層と分泌型ムチン,水分および角膜表面の膜型ムチンによって維持されている.開瞼に伴って角膜上に涙液層が完成し,開瞼維持でその破壊が生じて広がってゆく一連の過程において,眼表面の各構成要素が役割を果たすタイミングが違うことは注目に値する.すなわち,開瞼に伴う角膜表面への水分の塗り付け過程では膜型ムチンが機能し,油層の上方伸展に伴って,角膜表面の液層がさらに厚くなる過程においては油層と水分が機能し,油層の上方伸展が終了し涙液層が完成してからは,油層と分泌型ムチンが涙液層の菲薄化,ひいては破壊を阻止するように機能し,涙液層の破壊が生じた後は,その拡大を防ぐべく,再び膜型ムチンが機能する.つまり,以上の一連の過程において,膜型ムチンは角膜上の涙液層の動態の最初と最後を決めるため,膜型ムチンの機能が悪い(角膜表面の水濡れ性が悪い)と,角膜上の涙液層は薄く,そのために破壊が生じやすく,いったん破壊すると容易に広がる.BUT短縮型ドライアイの中には,メニスカスの涙液貯留量に減少がないにもかかわらず,角膜上の涙液層が薄く観察され,破壊が生じやすく,いったん破壊すると広がりやすいタイプがしばしばみられる.そして,このタイプは上皮障害がまったくみられない例が多く,ともすれば見逃される.しかし,症状は上皮障害を伴うドライアイと同様に強い22).涙液層は,眼表面の構成要素がバトンを渡すように動的に密接な関係をもちながら形成に向かい,破壊に至る.そして,この動的関係の異常を診ることで,何が涙液層の破壊の原因かを看破でき(層別診断),涙液層を安定化させるための足りない成分を補充する治療(層別治療)が提案できる.これがTFOD,TFOTのコンセプトの要点である.ドライアイの分類は,世界的にも涙液減少型と蒸発亢進型の二つしかなく,水濡れ性低下型ドライアイはまだ市民権すらない23).今後,日本で発見された4)BUT短縮型ドライアイの認知度がさらに高まり,そのメカニズムとして角膜表面の水濡れ性の低下が注目されるとともに,涙液層の安定性低下に視点を置く,日本のドライアイの診療のやり方が世界に広がることを願う次第である.本稿がドライアイの日常診療に役立つことを期待したい.文献1)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:Newperspectivesondryeyede.nitionanddiagnosis:AconsensusreportbytheAsiaDryEyeSociety.OculSurf15:65-76,20172)横井則彦:ドライアイの新しい治療戦略─眼表面の層別治療─.日本の眼科83:1318-1322,20123)横井則彦:ドライアイの治療方針:TFOT.あたらしい眼科32:9-16,20154)TodaI,ShimazakiJ,TsubotaK:Dryeyewithonlydecreasedtearbreak-uptimeissometimesassociatedwithallergicconjunctivitis.Ophthalmology102:302-309,19955)Shimazaki-DenS,DogruM,HigaKetal:Symptoms,visualfunction,andmucinexpressionofeyeswithtear.lminstability.Cornea32:1211-1218,20136)KohS,InoueY,SugmimotoTetal:E.ectofrebamipideophthalmicsuspensiononopticalqualityintheshortbreak-uptimetypeofdryeye.Cornea32:1219-1223,20137)Shimazaki-DenS,IsedaH,DogruMetal:E.ectsofdiquafosolsodiumeyedropsontear.lmstabilityinshortBUTtypeofdryeye.Cornea32:1120-1125,20138)横井則彦,坪田一男:ドライアイのコア・メカニズム─涙液安定性仮説の考え方─.あたらしい眼科29:291-297,20129)Wol.E:Themuco-cutaneousjunctionofthelidmargin(15)あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017321-