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新しい治療と検査シリーズ 230.OCTアンジオグラフィー(網膜)

2016年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.33,No.3,20164030910-1810/16/\100/頁/JCOPYの部分を一定の厚さで選んで(たとえば網膜内境界膜を基準としてそこから何μm外層方向まで,というように指定する),そこに含まれる情報を抽出して表示すれば,あたかも眼底写真を見るかのような画像を(しかも任意の深さで)得ることができる.こうして得られた画像はEnface画像(“Enface”は「前から見る」の意)とよばれる.OCTAでは,OCTを用いて,同じ場所で,時間のずれたB-scanを複数枚撮影する.このとき得られた時間のずれたOCT像を比較すると,同じ場所の信号強度はほとんど一致しているが,血流のある部分だけは信号強度に変化があらわれる.OCTAではまずその部分を強調して表示する.この血流が強調されたB-scanを上の方法で3D構築すれば,血管が強調された立体的な眼底像を作成でき,さらにEnface表示すれば,眼底の血管構造をそれぞれの深さで,くっきりと描き出すことができる.この画像は見た感じは造影検査に類似していて,眼科医には大変理解しやすい..使用方法検査方法は多少撮影時間が長い以外は通常のOCTとほぼ同じである.Optovue社のAvantiOCTを用いた場合,1回の撮影に要する時間は約0.3秒である.新しい治療と検査シリーズ(73).バックグラウンド眼底の血流検査としてフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン赤外蛍光造影検査(indocyaninegreenangiogra-phy:ICGA)が行われるが,患者負担が大きく,ショックなどの可能性もあり,造影剤を用いない検査が求められていた.光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)が普及し,OCTを用いた新たなテクノロジーが発展してきたことで,非侵襲的に眼底の血管構造を描出できるOCTアンジオグラフィー(opticalcoher-encetomographyangiography:OCTA)が可能となった..OCTアンジオグラフィーの原理と検査法3D-OCTではOCTのB-scan(網膜断面像)を眼底の一定面積分,撮影してゆき,隣同士のB-scan画像をつなぎ合わせていくことにより,立体的な眼底像を作成することができる.この画像を前から見れば眼底写真のような眼底像が得られるはずだが,実際にはOCTでは眼底の浅いところから深いところまでの情報が入り混じってわかりにくくなっている.そこで,眼底の一定の深さ230.OCTアンジオグラフィー(網膜)プレゼンテーション:吉田宗徳名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学コメント:吉田茂生九州大学大学院医学研究院眼科学分野ab図1正常のOCTA像(Opto-vue社AvantiOCT,3×3mm)a:網膜表層血管(superficialcapillaryplexus:SCP),b:網膜深層血管(deepcapillaryplexus,DCP).OCTAではこのように網膜血管を2層に分けて表示可能である.毛細血管の微小な構造まで,よく描出されている.あたらしい眼科Vol.33,No.3,20164030910-1810/16/\100/頁/JCOPYの部分を一定の厚さで選んで(たとえば網膜内境界膜を基準としてそこから何μm外層方向まで,というように指定する),そこに含まれる情報を抽出して表示すれば,あたかも眼底写真を見るかのような画像を(しかも任意の深さで)得ることができる.こうして得られた画像はEnface画像(“Enface”は「前から見る」の意)とよばれる.OCTAでは,OCTを用いて,同じ場所で,時間のずれたB-scanを複数枚撮影する.このとき得られた時間のずれたOCT像を比較すると,同じ場所の信号強度はほとんど一致しているが,血流のある部分だけは信号強度に変化があらわれる.OCTAではまずその部分を強調して表示する.この血流が強調されたB-scanを上の方法で3D構築すれば,血管が強調された立体的な眼底像を作成でき,さらにEnface表示すれば,眼底の血管構造をそれぞれの深さで,くっきりと描き出すことができる.この画像は見た感じは造影検査に類似していて,眼科医には大変理解しやすい..使用方法検査方法は多少撮影時間が長い以外は通常のOCTとほぼ同じである.Optovue社のAvantiOCTを用いた場合,1回の撮影に要する時間は約0.3秒である.新しい治療と検査シリーズ(73).バックグラウンド眼底の血流検査としてフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン赤外蛍光造影検査(indocyaninegreenangiogra-phy:ICGA)が行われるが,患者負担が大きく,ショックなどの可能性もあり,造影剤を用いない検査が求められていた.光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)が普及し,OCTを用いた新たなテクノロジーが発展してきたことで,非侵襲的に眼底の血管構造を描出できるOCTアンジオグラフィー(opticalcoher-encetomographyangiography:OCTA)が可能となった..OCTアンジオグラフィーの原理と検査法3D-OCTではOCTのB-scan(網膜断面像)を眼底の一定面積分,撮影してゆき,隣同士のB-scan画像をつなぎ合わせていくことにより,立体的な眼底像を作成することができる.この画像を前から見れば眼底写真のような眼底像が得られるはずだが,実際にはOCTでは眼底の浅いところから深いところまでの情報が入り混じってわかりにくくなっている.そこで,眼底の一定の深さ230.OCTアンジオグラフィー(網膜)プレゼンテーション:吉田宗徳名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学コメント:吉田茂生九州大学大学院医学研究院眼科学分野ab図1正常のOCTA像(Opto-vue社AvantiOCT,3×3mm)a:網膜表層血管(superficialcapillaryplexus:SCP),b:網膜深層血管(deepcapillaryplexus,DCP).OCTAではこのように網膜血管を2層に分けて表示可能である.毛細血管の微小な構造まで,よく描出されている. 表1蛍光眼底造影とOCTAの比較蛍光眼底造影OCTA造影剤使用ありなし撮影の簡便さやや煩雑簡便深さ別解析できないできる撮影範囲広い狭い解像度普通高い蛍光漏出,プーリングなどの機能的解析できるできない蛍光漏出などによる画像の不鮮明化ありなし時系列による評価できるできないデータ解析においては,網膜浮腫などが存在することによってsegmentation(どの深さの情報を抽出するかということ)がうまくいかないことも多く,この場合は手動でsegmentationを行う必要がある.得られた画像はFAなどとよく似ていて,一般には解釈はそれほどむずかしいものではないが,OCTA特有の性質があり,必ずしも造影検査と所見は一致しない.データ解釈にはこの点をよく考慮する必要がある..本方法のよい点OCTAのよい点としては,まず造影剤を使わないことがある.造影剤不要ということは,撮影の手間や時間も少なくてすみ,患者負担が大幅に軽減される.そこで,検査を頻回に行うことも可能となる.次に,OCTAでは眼底の任意の深さの血管構造のみを抽出できることである.網膜血管は表層毛細血管層(superficialcapillaryplexus:SCP)と深層毛細血管層(deepcapillaryplexus:DCP)に分かれているが,OCTAではこの2層を分けて表示できる.また,加齢黄斑変性などでみられる脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を網膜血管や脈絡膜血管とは区別して表示できる.OCTAでは造影検査と違って造影剤の漏れなどの影響がないので,FAでは漏出した造影剤でかくれてしまう新生血管などの血管でも血管構造を鮮明に描き出せる.得られる画像は非常に精細で造影検査に少しも引けをとらない.近い将来,造影検査の多くはOCTAにとって代わられる可能性が高いと思われる.文献1)JiaY,TanO,TokayerJetal:Split-spectrumamplitudedecorrelationangiographywithopticalcoherencetomography.OpticsExpress20:4710-4725,20122)SpaideRF,KlancnikJMJr,CooneyMJ:Retinalvascularlayersimagedbyfluoresceinangiographyandopticalcoherencetomographyangiography.JAMAOphthalmol133:45-50,20153)IshibazawaA,NagaokaT,TakahashiAetal:Opticalcoherencetomographyangiographyindiabeticretinopathy:Aprospectivepilotstudy.AmJOphthalmol160:35-44,20154)JiaY,BaileyST,WilsonDJetal:Quantitativeopticalcoherencetomographyangiographyofchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology121:1435-1444,20145)TakaseN,NozakiM,KatoAetal:Enlargementoffovealavascularzoneindiabeticeyesevaluatedbyenfaceopticalcoherencetomographyangiography.Retina35:23772383,20156)SuzukiN,HiranoY,YoshidaMetal:Microvascularabnormalitiesonopticalcoherencetomographyangiographyinmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol161:126-132,2016.「OCTアンジオグラフィー(網膜)」へのコメント.近年の眼科画像診断技術の進歩は目覚ましい.補償構造を描出できるが,網膜浮腫など層構造に乱れがあ光学適用眼底走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserる場合,正確な層別構造の描出がむずかしくなる.一ophthalmoscopy:SLO),手術顕微鏡OCTなどと並方,網膜血管からの漏出は判別できないが,FAではんで,OCTアンジオグラフィー(OCTA)は画期的な漏出した造影剤によって不明瞭になりがちな新生血管画像診断技術で,網脈絡膜血管を造影剤なしで描出でを鮮明にとらえることができる.きる.その原理はOCT信号の位相や強度変化をもと現時点では中心窩近傍の血管構造しか描出できないに,三次元網膜血管構造を視覚化するものである.現が,今後技術革新に伴い,FA同様のより広い画角の時点では,蛍光眼底造影検査(FA)と比較して,種々撮影が可能となっていくであろう.吉田宗徳先生も述の長短所があることを理解しつつ使用する必要があべられているように,将来的には,FAの多くがる.OCTであるため,網脈絡膜の任意の深さの血管OCTAにとって代わられる可能性はあると思われる.404あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(74)

眼瞼・結膜:眼瞼縁の上皮の特殊性

2016年3月31日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人12.眼瞼縁の上皮の特殊性小幡博人自治医科大学眼科学講座眼瞼縁の上皮は,マイボーム腺開口部の後方で,皮膚の表皮から結膜の粘膜上皮に移行し,その境界は粘膜皮膚移行部(muco-cutaneousjunction:MCJ)とよばれている.近年,MCJの後方で眼球に接触する瞼縁内側(lidwiper部)の上皮は,重層化した非角化型上皮に房状の杯細胞や上皮の陰窩に杯細胞を有する特殊な上皮であることが報告された.瞼縁内側の上皮に杯細胞が豊富であるということは,瞬目時に眼表面の潤滑剤の役割を果たしている可能性がある.●従来の眼瞼縁の上皮の考え方眼瞼の上皮は,眼瞼縁の後方(内側)で,皮膚の表皮から結膜の粘膜上皮に移行する.その場所は,マイボーム腺開口部の後方で,粘膜皮膚移行部(muco-cutaneousjunction:MCJ)とよばれている.MCJは,フルオレセイン染色を行うと明瞭となり,“Marxline”という呼称がある.すなわち,眼瞼の上皮は,皮膚の表皮と瞼結膜の上皮の2種類に大別されるというのが一般的な考えである.●瞼縁の上皮は特殊一方,古くから,眼瞼皮膚の表皮と瞼結膜の粘膜上皮の間のtransitionzoneの上皮はmarginalconjunctivaとよばれ,肥厚した重層扁平上皮であると記載されてい図1上眼瞼の瞼縁上皮眼瞼の上皮には,眼瞼皮膚の表皮(a)と瞼結膜の上皮(c)の間に,もう1種類特殊な上皮(b)がある.その特殊な上皮とはMCJ(粘膜皮膚移行部)の後方で,眼球と接する瞼縁内側の部分(lidwiper部)である.87歳,女性.る1).近年,ドイツのKnopらは,この瞼縁の上皮を詳細に観察し,特殊な上皮であることを報告した2,3).その特徴は,上皮細胞が8~15層と重層性が増していること,角化していないこと,房状(クラスター状)の杯細胞や上皮が陥入した陰窩に杯細胞が存在することなどである.また,結膜の杯細胞は,ゲル形成ムチンであるMUC5ACを分泌するが,この瞼縁に存在する杯細胞はMUC5ACが陰性の杯細胞も存在するという3).すなわち,眼瞼の上皮は,皮膚の表皮と瞼結膜の上皮の間には,もう1種類特殊な上皮があると報告した.筆者は今まで瞼縁にこのような組織構造があることを認識したことはなかったが,手元のいくつかの標本を見直したところ,Knopらの報告が正しいことを確認したc.瞼結膜上皮=重層立方上皮+杯細胞b.瞼縁上皮=非角化型重層上皮+杯細胞MCJマイボーム腺眼輪筋a.眼瞼皮膚=角化型重層扁平上皮(71)あたらしい眼科Vol.33,No.3,20164010910-1810/16/\100/頁/JCOPY ababマイボーム腺杯細胞c(図1).眼瞼皮膚の表皮は,角化型の重層扁平上皮である(図2a).この表皮はマイボーム腺開口部の後方で角化がなくなり,重層性が増し,杯細胞が多数観察される(図2b).これが,瞼縁内側の特殊な上皮である.そして,瞼板側の瞼結膜になると,重層性が低下し,杯細胞を含む重層立方(円柱)上皮となる(図2c).各上皮の特徴をまとめると表1のようになる.●瞼縁の上皮とLidwiper2002年,Korbらは,ドライアイ症状を伴う瞼縁の上皮障害をlid-wiperepitheliopathy(LWE)と呼称した4).つまり,眼瞼の瞬目を車のワイパーに見立て,眼表面に接する瞼縁の上皮障害をLWEとした.そして,Knopらは,瞼縁内側の特殊な上皮はlidwiper部の上皮であり,ここに杯細胞が多いことは潤滑剤(lubricant)の役割を果たし,合目的であると推測した2,3).瞼縁内側,すなわちlidwiper部の上皮細胞の形態や杯細胞の数は症例により異なるようである.ドライアイで涙液が減少するとlidwiper部の杯細胞が減少するの図2瞼縁の上皮の拡大像図1a,b,cの上皮の拡大像を示す.a:眼瞼皮膚の表皮.角化型の重層扁平上皮である.表層の細胞は扁平である.顆粒層にケラトヒアリン顆粒がみられる.b:瞼縁内側の上皮.重層性が増した角化のない上皮の中に房状の杯細胞()が多数観察される.重層扁平上皮のようにみえるが,表層の細胞は扁平ではない.c:瞼結膜の上皮.重層立方(円柱)上皮で,杯細胞が散在する.表1眼瞼の上皮の特徴眼瞼皮膚瞼縁の上皮瞼結膜厚さ50μm80~150μm30~40μm細胞層の数6~8層8~15層3~4層角化ありなしなし表層細胞の形態扁平立方立方~円柱杯細胞─++++~++(文献2より改変)か,あるいは,lidwiper部の杯細胞が減少するからドライアイ症状が出現するのか,などさまざまな疑問の解決が今後の課題である.文献1)BronAJ,TripathiRC,TripathiBJ:Theconjunctiva.In:Wolff’sAnatomyoftheEyeandOrbit.8thed(ed.byBronAJ,TripathiRC,TripathiBJ),p51-70,Chapman&HallMedical,London,19972)KnopE,KnopN,ZhivovAetal:Thelidwiperandmuco-cutaneousjunctionanatomyofthehumaneyelidmargins:aninvivoconfocalandhistologicalstudy.JAnat218:449-461,20113)KnopN,KorbDR,BlackieCAetal:Thelidwipercontainsgobletcellsandgobletcellcryptsforocularsurfacelubricationduringtheblink.Cornea31:668-679,20124)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepitheliopathyanddry-eyesymptomsincontactlenswearers.CLAOJ28:211-216,2002402あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(72)

抗VEGF治療:アフリベルセプトによるポリープ状脈絡膜血管症の鎮静化

2016年3月31日 木曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二26.アフリベルセプトによるポリープ状丸子一朗東京女子医科大学眼科脈絡膜血管症の鎮静化わが国における滲出型加齢黄斑変性のうち,もっとも多いとされる病型であるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対するアフリベルセプト硝子体内注射は,滲出の減少だけでなく,ポリープ状病巣そのものの閉塞も期待できる治療である.本稿ではPCVに対するアフリベルセプトの治療効果について概説する.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は黄斑部に脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)をきたす疾患で,欧米では50歳以上の中途失明者のもっとも主要な原因であり,日本でも急増している.AMDはフルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA)により,典型的加齢黄斑変性(typicalage-relatedmaculardegeneration:tAMD),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),および網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)の3つに大きく分類される.近年の報告で欧米の白人とは異なり,日本人ではPCVの割合が高いことがわかってきており,人種差の関与が示唆されている1).ポリープ状脈絡膜血管症PCVは1990年にYannuzziら2)が提唱した疾患概念であり,現在では脈絡膜異常血管網とその先端にポリープ状病巣をもつものと定義されており,基本的には網膜色素上皮下に病変が存在する.現在のAMDの治療ガイドラインに従えば,PCVに対しては光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)および抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)治療の単独または併用療法を行うことになっている3).一方で,PDTはポリープ状病巣の閉塞の効果は高いものの視力改善効果は乏しいこと,抗VEGF薬は視力改善効果が高いがポリープ閉塞効果は低いことが示されており,まだ治療法としては不十分である.アフリベルセプトアフリベルセプトはこれまでの抗VEGF薬と異なり,VEGFをブロックするだけでなく,胎盤増殖因子(pla(69)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYcentalgrowthfactor:PlGF)もブロックすることで,血管新生や炎症を抑制する働きが期待されている.また,アフリベルセプトはVEGFとの親和性も高く,VEGFとの結合後の持続性もこれまでの薬剤よりも長いとされている.これらのことからPCVに対する高い治療効果が期待されている.Yamamotoら4)は杏林大学,福島県立医科大学,東京女子医科大学の3大学における未治療PCV症例87例90眼に対するアフリベルセプトの1年成績を報告している.治療法はアフリベルセプトの単独治療で,導入期3回投与の後に維持期として2カ月ごとの固定投与を行っている(維持期悪化時は追加投与あり).それによると,1年後の視力はベースラインと比較して22眼(24.4%)で改善,64眼(71.1%)で維持され(3段階以上の変化で定義),平均視力も小数視力換算でベースライン0.5治療前治療後図1アフリベルセプト治療前後の眼底および造影検査治療前後で比較すると眼底検査では橙赤色病巣は縮小し,IAではポリープ状病巣が消失している.あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016399 治療前治療後図2アフリベルセプト治療前後のOCT図1と同日のOCTでは網膜内の滲出性変化が改善しているだけではなく,治療後脈絡膜はやや薄くなっている.中心窩下脈絡膜厚は治療前257μmから234μmに減少していた.から1年後0.7に改善していた.治療後滲出所見の消失(drymacula)が得られたのは,3カ月後72眼(80%),1年後64眼(71.1%)であった.期間中,アフリベルセプトの平均投与回数は7.1回で,硝子体内注射による眼内炎や網膜.離の合併はなく,脳血管イベントなどの深刻な合併症もなかった.また,投与1年後のIAにおける評価で,ポリープ状病巣は55.4%で消失,32.5%で縮小が得られており,アフリベルセプトではこれまで抗VEGF薬で課題となっていたポリープ閉塞効果も比較的高く,PCVの鎮静化に有効な薬剤であることが示された.最近の話題一方で,アフリベルセプトの脈絡膜に対する効果も報告されている.脈絡膜は血管に富む組織であり,その血流量は全眼球の約8割を占めるとされ,視機能に少なからず影響を与えていると考えられているが,これまでIA以外で直接的に脈絡膜を評価する方法はなかった.近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による脈絡膜観察が試みられ,現在ではスペクトラルドメインOCTや1,050nm帯の長波長光源を用い400あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016たスウェプトソース方式によるOCTを用いることで比較的簡単に観察可能である.脈絡膜は加齢や屈折の影響を受けることや,個体差があるため単純に評価することはむずかしいが,AMDにおいて現在では一般的にPCVでは厚く,RAPでは薄いとされている.Koizumiら5)はアフリベルセプト投与されたAMD144眼の脈絡膜変化の1年経過を報告している.これによると,いずれのAMDの病型でも脈絡膜は薄くなることが示され,PCV86眼においては平均中心窩下脈絡膜厚がベースライン271μmから1年後に235μmに減少していた.これらの結果はアフリベルセプトが網膜色素上皮下にまで浸透し,脈絡膜に作用していることを示しており,主病変が網膜色素上皮下にあるPCVに対してこれまで以上にポリープ閉塞やdrymaculaをもたらした一因かもしれない.おわりにPCVに対するアフリベルセプトの効果について概説した.アフリベルセプトは日本人に多いPCVにこれまでの抗VEGF治療よりも高い有効性を示しており,これはVEGFだけでなくPlGFをブロックしていること,アフリベルセプトとVEGFの親和性が高いこと,網膜色素上皮を通り越して脈絡膜にまで影響を及ぼしていることなどが関与していると考えられる.一方で,1年以上の長期経過による変化や,固定投与ではないtreat&extend法を採用した場合の結果など,まだ不明な点は多く,今後さらなる研究が進むことを期待したい.文献1)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20072)YannuzziLA,WongDW,SforzoliniBSetal:Polypoidalchoroidalvasculopathyandneovascularizedage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol117:1503-1510,19993)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性治療指針作成ワーキンググループ:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,20124)YamamotoA,OkadaAA,KanoMetal:One-yearresultsofintravitrealafliberceptforpolypoidalchoroidalvasculopathy.Ophthalmology122:1866-1872,20155)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Subfovealchoroidalthicknessduringaflibercepttherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:12-monthresults.Ophthalmology2015inpress(70)

緑内障:プロスタグランジン関連点眼薬+β遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬から配合点眼薬への変更

2016年3月31日 木曜日

●連載189緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也189.プロスタグランジン関連点眼薬+b遮断点眼薬+井上賢治井上眼科病院炭酸脱水酵素阻害点眼薬から配合点眼薬への変更プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,炭酸脱水酵素阻害点眼薬の3剤併用症例において,このうち2剤を配合点眼薬に変更すると,おおむね眼圧は維持され,安全性も良好である.しかし,眼圧が上昇する症例や副作用が出現する症例もあり,変更後の注意深い経過観察が必要である.●はじめに緑内障診療ガイドラインでは,緑内障薬物治療は点眼薬単剤からはじめ,目標眼圧を設定し,達成しなければ点眼薬の変更あるいは追加を行う.これを繰り返すと多剤併用となる.配合点眼薬が使用可能となる前は,眼圧下降効果と安全性からプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連点眼薬,b遮断点眼薬,炭酸脱水酵素阻害(carbonatedehydrataseinhibitor:CAI)点眼薬の3剤併用が多かった.この3剤のうち2剤を配合点眼薬(表1)に変更するとアドヒアランスが向上すると考えられ,実際にこのような変更が多く行われてきた.その場合にPG/チモロール配合点眼薬+CAI点眼薬とCAI/チモロール配合点眼薬+PG関連点眼薬の組み合わせがある(図1).●3剤併用から配合点眼薬+1剤への変更のメリット,デメリット①1日の点眼回数3剤併用はPG関連点眼薬(1回),b遮断点眼薬(1~2回),CAI点眼薬(2~3回)で合計4~6回である.PG/チモロール配合点眼薬(1回)+CAI点眼薬は3~4回,CAI/チモロール点眼薬(2回)+PG関連点眼薬は3回である.ドルゾラミド使用症例では,ドルゾラミド/表1国内で使用可能な緑内障配合点眼薬(2015年8月現在)薬剤商品名薬剤成分ラタノプロスト/チモロールザラカムRラタノプロスト+チモロールトラボプロスト/チモロールデュオトラバRトラボプロスト+チモロールタフルプロスト/チモロールタプコムRタフルプロスト+チモロールドルゾラミド/チモロールコソプトRドルゾラミド+チモロールブリンゾラミド/チモロールアゾルガRブリンゾラミド+チモロールプロスタグランジン/炭酸脱水酵素阻害チモロール配合点眼薬点眼薬b遮断点眼薬プロスタグランジン炭酸脱水酵素阻害関連点眼薬点眼薬プロスタグランジン炭酸脱水酵素阻害/関連点眼薬チモロール配合点眼薬図1PG関連点眼薬,b遮断点眼薬,CAI点眼薬の3剤併用から配合点眼薬+1剤への変更方法(67)あたらしい眼科Vol.33,No.3,20163970910-1810/16/\100/頁/JCOPY チモロール配合点眼薬への変更で点眼回数が減少する.②眼圧下降効果と安全性2剤から配合点眼薬への変更で,眼圧下降の減弱が懸念される.PG/チモロール配合点眼薬では1日1回点眼のため,本来1日2回点眼のチモロールの効果が,またドルゾラミド/チモロール配合点眼薬では1日2回点眼のため,本来1日3回点眼のドルゾミラドの効果が減弱する.一方,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬は1日2回点眼のままで効果の持続が期待できる.過去の4論文ではこれら2つの組み合わせの眼圧下降効果と安全性は同等だったが,眼圧が上昇した症例も存在した1~4).筆者らは3剤併用から配合点眼薬+1剤に変更となった112例の2年間の眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに調査した1).ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬+CAI点眼薬へ変更した55例とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬+PG関連点眼薬へ変更した57例の変更6,12,18,24カ月後の眼圧は,各々変更前と同等だっ(mmHg)眼圧21.018.015.0ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬+CAI点眼薬へ12.09.0変更ドルゾラミド/6.0チモロール配合点眼薬+PG3.0関連点眼薬へ変更0.0変更前変更6カ月後変更12カ月後変更18カ月後変更24カ月後図2PG関連点眼薬,b遮断点眼薬,CAI点眼薬の3剤併用から,ラタノプロスト.チモロール配合点眼薬+CAI点眼薬あるいはドルゾラミド.チモロール配合点眼薬+PG関連点眼薬への変更前後の眼圧(文献1より引用)た(図2).眼圧下降効果不十分や副作用出現による薬剤中止症例は2群で同等だった(表2).③薬剤ラインアップPG関連点眼薬を含む配合点眼薬は,国内ではビマトプロストの配合点眼薬はない.ビマトプロストを含む症例ではCAI/チモロール配合点眼薬への変更のほうがよい.④薬剤費用(2015年8月現在)先発品のみで1カ月間に1本使用する場合は,PG関連点眼薬(1,849~2,519円),b遮断点眼薬(1,389~1,798円),CAI点眼薬(1,486~2,254円)で,3剤併用の合計は4,724~6,571円である.PG/チモロール配合点眼薬(2,650~3,188円)+CAI点眼薬は4,136~5,442円,CAI/チモロール配合点眼薬(2,254~3,163円)+PG関連点眼薬は4,103~5,682円である.文献1)InoueK,SoedaS,TomitaG:Comparisonoflatanoprost/timololwithcarbonicanhydraseinhibitoranddorzolamide/timololwithprostaglandinanaloginthetreatmentofglaucoma.JOphthalmol2014:975429.doi:10.1155/2014/975429,20142)福島亜矢子,井上俊洋,川井尚子ほか:開放隅角緑内障における緑内障点眼薬配合剤への切り替え効果の前向き検討.眼臨紀8:88-93,20153)NakakuraS,TabuchiH,BabaYetal:Comparisonofthelatanoprost0.005%/timolol0.5%+brinzolamide1%versusdorzolamide1%/timolol0.5%+latanoprost0.005%:a12-week,randomizedopen-labeltrial.ClinOphthalmol6:369-375,20124)早川真弘,澤田有,阿部早苗ほか:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬液への切り替え経験.あたらしい眼科30:261-264,2013表2PG関連点眼薬,b遮断点眼薬,CAI点眼薬の3剤併用から,ラタノプロスト.チモロール配合点眼薬+CAI点眼薬あるいはドルゾラミド.チモロール配合点眼薬+PG関連点眼薬への変更後の投与中止症例(文献1より引用)ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬+CAI点眼薬へ変更ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬+PG関連点眼薬へ変更p値眼圧下降効果不十分20.0%(11例)24.6%(14例)0.6522副作用7.3%(4例)14.0%(8例)0.3612副作用の種類刺激感(1例)掻痒感(1例)異物感(1例)点状表層角膜症(1例)霧視(3例)刺激感(3例)胸痛(1例)喘息(1例)398あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(68)

屈折矯正手術:有水晶体眼内レンズ挿入術後の眼軸長変化

2016年3月31日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載190大橋裕一坪田一男190.有水晶体眼内レンズ挿入術後の山村陽バプテスト眼科クリニック眼軸長変化LASIK術後5年の眼軸長は,矯正量によらずほとんど変化しないが,有水晶体眼内レンズ挿入術後は,LASIK術後に比べ眼軸長が延長しやすい可能性がある.眼軸長の延長は屈折矯正手術後の再近視化が生じる原因になるため,長期の経過観察が重要である.●はじめにエキシマレーザーを用いた屈折矯正手術が2000年にわが国で認可されてから10年以上経過し,現在ではlaserinsitukeratomileusis(LASIK)が主流に行われている.また,LASIKが適応外の強度近視眼に対して,有水晶体眼内レンズを用いた屈折矯正手術も近年登場し,2010年にimplantablecollamerlens(ICL,STAARSurgical社)挿入術が認可された1).McBrienら2)は成人発症の近視や成人の近視進行について硝子体長の延長が原因であると報告し,小児期だけでなく成人後も眼軸長が延長することが以前より指摘されている.したがって,屈折矯正手術を施行した場合に,術後の眼軸長がどの程度変化するかについては非常に興味深いところである.眼軸長の延長は術後の再近視化につながる可能性もあり,屈折矯正術後の長期的な治療成績を検討するうえでも,眼軸長変化を検討することは重要であると考えられる.本稿では,筆者らが検討したLASIK術後と有水晶体眼内レンズ挿入術後の眼軸長変化の結果について紹介する3).●LASIK術後とICL挿入術後の眼軸長変化患者背景については,LASIK施行症例を術前自覚屈折度数(等価球面度数).6D未満[LASIK(>.6D)群]と.6D以下[LASIK(≦.6D)群]に分類し,有水晶体眼内レンズ挿入術(ICL群)の3者で比較した(表1).年齢はLASIK(>.6D)群が35.9±8.3歳,LASIK(≦.6D)群が33.8±7.6歳,ICL群が36.4±9.4歳,自覚屈折度数はそれぞれ.4.14±1.28D,.8.00±1.19D,.11.81±2.16D,術前眼軸長はそれぞれ25.63±0.89mm,27.00±0.80mm,28.00±0.51mmであった.眼軸長はIOLMaster(CarlZeissMeditec社)を用いて術前と術後1,2,3,4,5年時に測定した.結果は,LASIK(>.6D)群では術後眼軸長に変化がなく,LASIK(≦.6D)群では術後3年以降は変化がなかったが,ICL群では術後1年以降毎年延長していた(図1).また,術後5年の眼軸長変化量はLASIK(>.6D)群が0.04±0.07mm,LASIK(≦.6D)群が0.04±0.08mm,ICL群が0.13±0.12mmで,ICL群はLASIK群よりも有意に眼軸長が延長していた(図2).ただし,ICL群は術前の自覚屈折度数が小さく,眼軸長もLASIK群よりも長いなど患者背景をマッチさせていないため,今回の検討だけでICL群がLASIK群よりも延長しやすいと結論付けることはできないが,少なくともその可能性は示唆される結果となっていた.●眼軸長に関する報告強度近視眼の眼軸長変化に関する報告は多くはないが,Sakaら4)は,年齢48.4±12.2(22~84)歳,屈折度表1患者背景LASIK(>.6D)群LASIK(≦.6D)群ICL群p値症例数26例44眼21例34眼8例16眼年齢(歳)35.9±8.333.8±7.636.4±9.40.45術前自覚屈折度数(D).4.14±1.28.8.00±1.19.11.81±2.16<0.01術前眼軸長(mm)25.63±0.8927.00±0.8028.00±0.51<0.01(65)あたらしい眼科Vol.33,No.3,20163950910-1810/16/\100/頁/JCOPY 2925.6325.5525.5625.5725.5825.5927.0026.8626.8826.926.9126.928.0028.0828.1228.1528.1928.21pre123450.328.52827.5眼軸長(mm)LASIK(>-6D)27LASIK(≦-6D)26.52625.5ICL2524.5*p<0.0524**p<0.01期間(年)図1術後の眼軸長変化術後眼軸長はLASIK(>.6D)群では変化がなく,LASIK(≦.6D)群では術後3年以降は変化がなかったが,ICL群では術後1年以降,毎年延長していた.数.13.0±4.3(.6.0~.26.5)D,眼軸長29.35±1.80(26.45~34.43)mmの強度近視眼を対象として,2年間の眼軸長変化についてIOLMasterを用いて検討した結果,眼軸長は0.12±0.17(.0.12~1.1)mm延長し,眼軸長が長いほど延長しやすかったと報告している.また,40歳以上の一般住民を対象とした久山町研究では,近視性網膜症の有病率は加齢とともに増加し,眼軸長26.0mm未満では0.1%であったのに対し,眼軸長28.0mm以上では53.7%であったと報告されている5).したがって,眼軸長の延長は再近視化だけでなく近視性網膜症の発症にも関与している可能性があるため,とくにLASIK適応外となるような強度近視眼に対してICL挿入術を施行した場合には,網膜症の発症についても十分に留意し,長期の経過観察をしていく必要がある.眼軸長変化量(mm)☆☆☆0.250.20.150.1LASIK(>-6D)LASIK(≦-6D)ICL0.05**p<0.010術式図2術後5年の眼軸長変化量術後5年の眼軸長変化量は,LASIK(>.6D)群が0.04±0.07mm(.0.14~0.23mm),LASIK(≦.6D)群が0.04±0.08mm(.0.10~0.26mm),ICL群が0.13±0.12mm(.0.05~0.32mm)で,ICL群はLASIK群よりも有意に眼軸長が延長していた.文献1)日本眼科学会屈折矯正手術に関する委員会:屈折矯正手術のガイドライン─日本眼科学会屈折矯正手術に関する委員会答申─.日眼会誌114:692-694,20102)McBrienNA,AdamsDW:Alongitudinalinvestigationofadult-onsetandadult-progressionofmyopiainanoccupationalgroup.Refractiveandbiometricfindings.InvestOphthalmolVisSci38:321-333,19973)山村陽,稗田牧,脇舛耕一ほか:屈折矯正手術後5年の眼軸長変化.眼科手術28:417-421,20154)SakaN,MoriyamaM,ShimadaNetal:ChangesofaxiallengthmeasuredbyIOLmasteduring2yearsineyesofadultswithpathologicmyopia.GraefesArchClinExpOphthalmol251:495-499,20125)AsakumaT,YasudaM,NinomiyaTetal:PrevalenceandriskfactorsformyopicretinopathyinaJapanesepop-ulation:theHisayamaStudy.Ophthalmology119:17601765,2012LASIK(>-6D)LASIK(≦-6D)ICL396あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(66)

眼内レンズ:灌流ハイドロダイセクション法

2016年3月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋352.灌流ハイドロダイセクション法増田洋一郎東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科本法は,カニューラによる注水ではなく,灌流スリーブからの灌流動圧によって皮質を.から分離する手技である.本手技における最高眼内圧は灌流ボトル高に依存するため,従来のハイドロダイセクションにより発生しうる高眼圧起因性合併症を回避でき,低侵襲白内障手術をめざすうえで意義ある手技と考えられる.●はじめに白内障手術時の眼内圧最高値は,カニューラを用いて行うハイドロダイセクション時であるといわれており1),ときに重篤な合併症につながることが報告されている.とくに.内の圧上昇による後.破損,後房圧上昇による前部硝子体膜破損は,眼内炎の主要な要因になることが危惧され,極力回避したい合併症である2,3).広く行われているカニューラハイドロダイセクション法の最大眼内圧は,注入水量,切開創の大きさ,粘弾性物質の種類,術者の技量など多くのパラメータにより変化しうるが,灌流ハイドロダイセクション法の最大眼内圧はボトル高に依存し,ハイドロダイセクション.超音波乳化吸引.皮質吸引のすべての過程で,ボトル高依存圧以下の眼内圧での手術を可能とする.そのため,本法は低侵襲白内障手術に貢献する手技といえる4).abc図1後部水晶体の皮質分離手技a:中央溝掘り後.b,c:分割操作.二分割された核の周辺部の壁を大きく開く,核後面を持ち上げる,分割を維持しながら眼内液を吸引することでスリーブからの灌流を誘発する,などの操作を行う.(63)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY●実際の手順実際の手技を説明する.超音波チップを前房内に挿入後,前方水晶体皮質を可能な範囲で除去してから,中央の溝掘りを行う.深い溝を掘った後,溝の両末端で超音波チップとフックを用いて繰り返し分割操作を行う.この分割操作の際,①核の周辺部の壁を大きく開く,②核の後面を持ち上げる,③分割を維持しながら眼内液を吸引することでスリーブからの灌流を誘発する,という操作(図1)を行うことにより,水晶体後部の皮質.後.間に灌流が流れる間隙ができ,後.側のハイドロダイセクションが完成する.次に,超音波チップを連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)縁から前.下に挿入し,水晶体前方から皮質..間を灌流すabc図2前部水晶体の皮質分離手技a,b:左側の核片に対する前部水晶体皮質分離.超音波チップをCCC縁から前.下に挿入し,吸引をかけながら灌流スリーブから灌流を誘発する.c:右側の核片にも同様に前部水晶体皮質分離を行った後,灌流ハイドロダイセクション効果が完成し,核を回転させることが可能となる.あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016393 abcd図3部分灌流ハイドロダイセクション法a:Zinn小帯に可能なかぎり負担をかけないよう,右利き術者の場合,核処理を行いやすい左側下方の前部水晶体皮質分離のみを行う.b~d:左側下方の核分割,乳化吸引処理を部分的に行い,その後残存核に対して順次灌流ハイドロダイセクション法にて皮質分離を丁寧に行っていく.る操作を行う(図2a,b).この際,残存皮質を吸引除去し,サイドポートのフックを軽く押し下げ眼内液を流出させると,灌流スリーブからの灌流液が前.下に流入し,より効果的となる.対側の水晶体にも同様の手技を行うことで前部水晶体皮質の分離が完成し,灌流ハイドロダイセクション効果により水晶体が回転することとなる(図2c).●手技のポイントこの手技のポイントは,水晶体前面の皮質をできるだけ除去すること,溝掘り後の核分割操作と灌流誘発を何度も繰り返すこと,前.下の灌流時は時間をかけて待つことであり,もしハイドロダイセクション効果が不十分であれば一連の作業をやり直す必要がある.前部水晶体皮質分離の際,チップ挿入側のハイドロ効果を効率的に得るためには,ケルマンチップのような曲がりのチップを使用すると行いやすくなる.また,軟らかい核の場合は中央の溝掘り後の分割操作は不要であり,前部水晶体の皮質分離のみでハイドロダイセクション効果を得ることができる.Zinn小帯脆弱例などZinn小帯にできるだけ負担をかけたくない症例では,部分的な灌流ハイドロダイセクション手技を行っていくとよい.中央の溝掘りを丁寧に行った後,分割時に核の周辺部を押し開くことはせず,核の後面を持ち上げる操作と眼内液吸引による灌流誘発をゆっくりと繰り返して後部水晶体皮質分離を行う.核の乳化吸引が行いやすい部位の前.下に灌流液を流して前部水晶体皮質を.から分離しやすくし,核を回転させず,その部分の核を分割して乳化吸引処理を行う(図3).同様の手技で,残存している核の前.下に灌流液を流入させていき,ハイドロダイセクション効果を得た残存核を移動させて乳化吸引していくと,Zinn小帯への負担を最小限に核処理を行うことが可能である.本原稿をご校閲くださいました常岡寛教授,大木孝太郎先生,岩城久泰先生,加藤能利子先生に深謝いたします.文献1)KhingC,OslerRH:Intraocularpressureduringphacoemulsification.JCataractRefractSurg32:301-308,20062)MiyakeK,OtaI,IchihashiSetal:Newclassificationofcapsularblocksyndrome.JCataractRefractSurg24:1230-1234,19983)KawasakiS,TasakaY,SuzukiTetal:Influenceofelevatedintraocularpressureontheposteriorchamber-anteriorhyaloidmembranebarrierduringcataractoperations.ArchOphthalmol129:751-757,20114)MasudaY,TsuneokaH:Hydrodissection-freephacoemulsificationsurgery:mechanicalcorticalcleavingdissection.JCataractRefractSurg40:1327-1331,2014

写真:虹彩癒着

2016年3月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦382.虹彩癒着加藤久美子三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学図2図1のシェーマ①角膜上皮下にカルシウム沈着②虹彩前癒着③虹彩後癒着図1当科初診時の前眼部写真角膜上皮下にカルシウム沈着を認めた.瞳孔縁全周の虹彩後癒着と全周にわたる虹彩前癒着が認められた.図4サルコイドーシスの患者の前眼部写真虹彩上にBusacca結節(矢印),瞳孔縁にKoeppe結節(矢頭)を認め,虹彩は水晶体.に癒着している.図3初診時の前眼部OCT虹彩の前面と角膜とが完全に癒着している.角膜上皮下のカルシウム沈着は高輝度を呈している.(61)あたらしい眼科Vol.33,No.3,20163910910-1810/16/\100/頁/JCOPY ぶどう膜炎の患者において虹彩癒着はよくみられる所見である.虹彩は豊富な血流を有しており,眼炎症の首座となりやすい.前眼部の炎症では虹彩,毛様体血管の透過性亢進が起こり,フィブリンが析出する.このフィブリンは生体糊となり,虹彩と隣接する組織との癒着を引き起こす1).虹彩根部と角膜周辺部が癒着することを「虹彩前癒着」,虹彩裏面と水晶体が癒着することを「虹彩後癒着」とよぶ.前眼部炎症の原因としてぶどう膜炎があげられるが,サルコイドーシスや原田病などの肉芽腫性ぶどう膜炎,急性前部ぶどう膜炎,Behcet病などの非肉芽腫性ぶどう膜炎のいずれにおいても虹彩癒着は発症しうる.肉芽腫性ぶどう膜炎では,Koeppe結節などが原因となって虹彩後癒着が生じることが多いとされている2).虹彩癒着でも,瞳孔縁が水晶体.に癒着する虹彩後癒着については,通常の細隙灯顕微鏡検査で容易に診断できる.一方,虹彩前癒着の診断には,隅角鏡を使用した隅角検査が必要となる.隅角鏡の挿入は患者にとって負担を伴う検査であるが,ぶどう膜炎患者で眼圧が上昇している場合はもちろんのこと,初診時にぶどう膜炎を疑った際には隅角検査を行うべきである.前眼部OCTを用いると非接触かつ非侵襲的に隅角の評価ができるので診断が容易である.虹彩癒着の治療では,虹彩癒着が起こりやすい前眼部炎症では,虹彩癒着予防のために十分な消炎をかけるだけではなく,適切な瞳孔管理を行うことが重要である.アトロピン点眼により散瞳状態で瞳孔を固定するよりは,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼液を1日数回点眼することで瞳孔を動かすほうがよい.瞳孔縁全周に虹彩癒着が起こる完全虹彩後癒着では,瞳孔ブロックが起こり急激な眼圧上昇を起こすため,速やかなレーザー虹彩切開術が必要となる.また,虹彩前癒着が広範囲に形成されてしまった場合,治療が困難な高眼圧症となる.点眼による眼圧コントロールが不良な場合には線維柱帯切開術や線維柱帯切除術などの手術治療が行われるが,治療に苦慮することが多い3).筆者は右眼に角膜混濁と水疱性角膜症,全周にわたる虹彩前癒着,虹彩後癒着により瞳孔閉鎖をきたした症例を経験した(図1~3).約20年前に眼Behcet病と診断され,右眼の視力低下が起きたが,左眼があるので右眼が見えなくなってもよいと考え,自己判断で通院を中断,約20年かけて写真のような状態になった.レーザー虹彩切開術を他院で施行されており,眼圧上昇はなく,また積極的な治療希望もなく経過観察を希望された.文献1)園田康平:虹彩癒着,虹彩結節.所見から考えるぶどう膜炎(園田康平,後藤浩編),眼科臨床エキスパート,p7580,医学書院,20132)真下永:虹彩結節・隅角結節・虹彩癒着の種類と鑑別.ぶどう膜炎を斬る!(園田康平編),専門医のための眼科診療クオリファイ13,p16-19,中山書店,20123)岩尾圭一郎:ぶどう膜炎続発緑内障.緑内障治療のアップデート(杉山和久,谷原秀信編),眼科臨床エキスパート,p68-76,医学書院,2015392

眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解 結膜炎:感染とアレルギーの見分け方

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):383.389,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):383.389,2016眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解結膜炎:感染とアレルギーの見分け方DifferentialDiagnosisofInfectionsandAllergicConjunctivitis杉浦佳代*福田憲*はじめに結膜炎はさまざまな原因で生じ,日常診療で診る機会の非常に多い疾患である.結膜炎の原因としては,アレルギー性結膜疾患がもっとも多いが,細菌性,ウイルス性,クラミジアなどの感染性結膜炎も少なくない.これらの疾患は治療方針が異なるため,しっかり鑑別する必要がある.また,アレルギー性結膜疾患の治療中に感染を合併することもあり,その場合は治療を変更しなくてはならない.本稿ではアレルギー性結膜疾患と感染性結膜炎との鑑別のポイントや,治療中の感染の合併例などについて述べる.Iアレルギー性結膜疾患の診断アレルギー性結膜疾患は,I型アレルギー反応によって生じる結膜の炎症性疾患で,アレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎,春季カタル,巨大乳頭結膜炎の4つが含まれる.各病型の診断は,増殖性病変,アトピー性皮膚炎,あるいは縫合糸・コンタクトレンズなどの異物の有無によってなされる(図1).アレルギー性結膜疾患であるという診断は,臨床所見やアレルギー検査などの診断根拠の組み合わせにより①臨床診断,②準確定診断,③確定診断の3群に分類される(表1)1).アレルギー性結膜疾患に特有な臨床症状のみで診断したものが臨床診断で,準確定診断は臨床症状に加えI型アレルギー素因が証明されたものである.アレルギー素因の証明には全身と眼局所があり,全身の反応としてはスクラッチテストなどの皮膚反応や血液検査で抗原特異的IgEが陽性であること,眼局所の反応としては涙液中総IgE抗体の増加である.涙液中総IgE抗体の測定はイムノクロマト法による測定キットが発売され,日常診療においても比較的簡便に短時間で測定できるようになった.確定診断例は臨床症状に加えて,眼局所でのI型アレルギー反応の証明,すなわち眼脂や結膜擦過物中の好酸球が検出された症例であるが,病型によっては陽性率が低いことが問題である2).アレルギー性結膜疾患のみならず感染性結膜炎の確定診断においても,結膜の擦過細胞診や擦過物の鏡検・培養・PCR(polymerasechainreaction)検査などによって好酸球や感染微生物などを同定することでなされるが,日常診療ですべての結膜炎症例に施行することは難しい.典型的な花粉性結膜炎の症例,すなわち毎年特定の花粉などの飛散時期に鼻炎を伴って起こる結膜炎に対しては,必ずしも全例に涙液中IgEの測定や好酸球の証明をする必要性はなく,臨床診断で十分診断可能と思われる.アレルギー性か感染性結膜炎か鑑別に迷う症例においては,上述したアレルギー検査やアデノウイルスあるいはヘルペスウイルス迅速診断キットなどの検査を用いて,より確実に診断することが重要である.これらの補助検査は特異度が高く陽性であれば診断の助けになるが,感度は100%ではないために陰性の場合も否定できるものではないことを念頭におくべきである.以下にアレルギー性結膜疾患と感染性結膜炎の鑑別のポイントを述べる.*KayoSugiura&KenFukuda:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕福田憲:〒783-8505南国市岡豊町小蓮高知大学医学部眼科学講座0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(53)383 眼掻痒,充血などの自覚症状結膜増殖なし結膜増殖あり季節性あり季節性なし異物なし異物ありアトピー性皮膚炎ありアトピー性角結膜炎(AKC)アトピー性皮膚炎なし春季カタル(VKC)巨大乳頭結膜炎(GPC)季節性アレルギー性結膜炎(SAC)通年性アレルギー性結膜炎(PAC)アトピー性皮膚炎なし眼掻痒,充血などの自覚症状結膜増殖なし結膜増殖あり季節性あり季節性なし異物なし異物ありアトピー性皮膚炎ありアトピー性角結膜炎(AKC)アトピー性皮膚炎なし春季カタル(VKC)巨大乳頭結膜炎(GPC)季節性アレルギー性結膜炎(SAC)通年性アレルギー性結膜炎(PAC)アトピー性皮膚炎なし図1アレルギー性結膜疾患の診断表1アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインによる診断基準臨床症状アレルギー素因全身局所眼アレルギー検査臨床診断■準確定診断■あるいは■確定診断■△△■■:必須,△:検査が望ましいII鑑別診断,とくに感染性結膜炎との鑑別結膜炎患者を診た場合,まずアレルギー(非感染)性か感染性かを鑑別する.感染性結膜炎の原因としては,細菌,ウイルス(アデノウイルス,エンテロウイルス,コクサッキーウイルス,単純ヘルペスウイルス),クラミジアなどがあげられる.自覚症状や眼所見のみでは鑑別が困難な場合もあり,患者の年齢,職業,発症様式,流行性,罹患側,結膜炎の既往歴などをしっかり問診することが重要である(表2).また,いきなり細隙灯顕微鏡で眼所見を診察するのではなく,リンパ節腫脹やアトピー性皮膚炎などの眼外症状を確認することである程度疾患を予測することが可能である.耳前リンパ節腫脹を認める場合はウイルス性やクラミジア結膜炎が疑われる.問診および眼外症状の確認が終わると細隙灯顕微鏡による診察となるが,眼脂や結膜乳頭および結膜濾胞の有無や性状も結膜炎の鑑別に役立つ所見である.同じアレルギー性結膜疾患であるが,アレルギー性結膜炎の眼脂は白色水様性であるが,春季カタルでは粘液性となる.アデノウイルスなどのウイルス性結膜炎では漿液線維素性眼脂が多量にみられ,細菌性結膜炎では黄色の膿性眼脂がみられることが多い(図2).診断に迷う場合は,眼脂をギムザ染色して観察することによって,浸潤細胞の主体が好中球かリンパ球,あるいは好酸球なのかによって細菌性,ウイルス性,アレルギー性かの推察ができる.また,下眼瞼の結膜濾胞を確認することも大切で,アレルギー性結膜炎では結膜.に小濾胞を,クラミジア性結膜炎では結膜.に充実性の混濁した巨大濾胞を認める(図3).一方,細菌性結膜炎では結膜濾胞は認めない.アデノウイルス結膜炎も瞼結膜から円蓋部にかけて濾胞を形成する.春季カタルでは,落屑状の点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)やシールド潰瘍などの特徴的な角膜障害をきたすことが有名であるが3),アデノウイルス結膜炎でも春季カタルに似た角膜障害を生じることがある.図4と図5に角膜傷害をきたしたアデノウ384あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(54) 表2結膜炎患者の鑑別のための問診のポイント主訴アレルギー性結膜炎:掻痒感が強い感染性結膜炎:眼脂や異物感を訴えることが多い発症様式アレルギー:両眼性花粉飛散時期やダニの繁殖時期に多い感染性:両眼発症でも左右で発症時期に差があることも多いEKCやプール熱などの流行性,同じ症状の患者との接触歴職業アレルギー性:職場での暴露抗原ウイルス性:幼稚園・学生・学校関係者・医療従事者か眼外症状アレルギー:鼻炎,喘息やアトピー性皮膚炎などのアトピー素因感染性:咽頭炎や感冒様症状,リンパ節腫脹,泌尿器症状dabc図2眼脂による結膜炎の鑑別アレルギー性結膜炎(a)は水様性,細菌性結膜炎(b)は膿性の強い眼脂,春季カタル(c)は粘液性,流行性角結膜炎(d)では漿液線維素性の眼脂がみられることが多い. 386あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(56)abcd図3結膜濾胞による結膜炎の鑑別下眼瞼結膜には,アレルギー性結膜炎(a)では小さな濾胞がみられるが,細菌性結膜炎(b)では濾胞はみられない.クラミジア(c)では巨大な癒合した濾胞,アデノウイルス結膜炎(d)でも下眼瞼全体に濾胞がみられる.ab図4ウイルス性結膜炎(a)と春季カタル(b)による角膜上皮障害の鑑別咽頭結膜熱による角膜傷害(a)では,落屑状点状表層角膜症に小さな上皮びらんが多発し,上眼瞼には偽膜がみられる.春季カタルによる落屑状点状表層角膜症(b)では,上眼瞼には巨大乳頭がみられる.abcd図3結膜濾胞による結膜炎の鑑別下眼瞼結膜には,アレルギー性結膜炎(a)では小さな濾胞がみられるが,細菌性結膜炎(b)では濾胞はみられない.クラミジア(c)では巨大な癒合した濾胞,アデノウイルス結膜炎(d)でも下眼瞼全体に濾胞がみられる.ab図4ウイルス性結膜炎(a)と春季カタル(b)による角膜上皮障害の鑑別咽頭結膜熱による角膜傷害(a)では,落屑状点状表層角膜症に小さな上皮びらんが多発し,上眼瞼には偽膜がみられる.春季カタルによる落屑状点状表層角膜症(b)では,上眼瞼には巨大乳頭がみられる. あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016387(57)abc図5ウイルス性結膜炎(a,b)と春季カタル(c)による角膜びらんの鑑別3症例とも類円形の角膜上皮びらんが認められるが,流行性角結膜炎の2症例(a,b)では,上眼瞼には巨大乳頭はなく,偽膜が認められる.春季カタル(c)で上眼瞼には石垣状の巨大乳頭が認められる.ab図6角膜プラーク下にブドウ球菌感染を生じたアトピー性角結膜炎角膜プラークの範囲を超えた角膜実質に浸潤(▲)を認め,上方からの血管侵入も強いこと(a)から感染を疑い,プラークを除去すると角膜実質に強い浸潤病巣を認め(b),多数の好中球とブドウ球菌が検出された.(文献4より転載)abc図5ウイルス性結膜炎(a,b)と春季カタル(c)による角膜びらんの鑑別3症例とも類円形の角膜上皮びらんが認められるが,流行性角結膜炎の2症例(a,b)では,上眼瞼には巨大乳頭はなく,偽膜が認められる.春季カタル(c)で上眼瞼には石垣状の巨大乳頭が認められる.ab図6角膜プラーク下にブドウ球菌感染を生じたアトピー性角結膜炎角膜プラークの範囲を超えた角膜実質に浸潤(▲)を認め,上方からの血管侵入も強いこと(a)から感染を疑い,プラークを除去すると角膜実質に強い浸潤病巣を認め(b),多数の好中球とブドウ球菌が検出された.(文献4より転載) 388あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(58)部への血管侵入が増強することが鑑別のポイントである4).これらの自覚および他覚所見を認め,感染が疑われる場合には,すぐに角膜プラークを.離して角膜実質の状態を確認し,潰瘍底の擦過およびプラークそのものを鏡顕し培養検査を行うべきである.感染を確認すれば,免疫抑制点眼薬およびステロイド点眼薬は中止し,速やかに感受性のある抗微生物薬の治療に変更する.筆者らの経験では,感染の活動性がある時期はステロイド点眼薬などのアレルギーに対する治療を弱めてもアレルギー炎症は増強しない印象がある.逆に感染の治療後に巨大乳頭や落屑状SPK,角膜プラークなどアレルギー炎症の増強を示唆する所見を認めたときは,感染が鎮静化した徴候として,感染症の再燃に注意しつつ慎重にアレルギーの治療を再開している.感染症の活動性があるときになぜアレルギー炎症が増悪しないかの科学的根拠は得られていないが,サイトカイン・ケモカインバランタクロリムスの免疫抑制点眼薬はT細胞のカルシニューリンを阻害することによって免疫抑制作用を発揮する.したがって,ウイルス感染症,単純ヘルペスウイルス感染症に注意する必要がある.ステロイド点眼薬は,T細胞のみならずほとんどすべての免疫担当細胞に作用するため,ウイルス以外にも細菌,真菌感染にも注意が必要である.とくにアトピー性皮膚炎を合併している症例では,黄色ブドウ球菌の皮膚および結膜での保菌率が高いことが知られており,注意する必要がある.また,稀ではあるが角膜プラークの下に細菌あるいは真菌感染を合併する症例を経験する.筆者が経験した症例では,感染を合併するとそれまでと異なった眼痛および眼脂を訴えた.厚い角膜プラークが堆積するとその下の角膜実質の状態がわかりづらくなるが,細隙灯顕微鏡で角膜プラークの範囲を超えて角膜実質の浸潤を認めること(図6)や,プラークの下のdebrisの存在(図7),また病巣abcd図7春季カタルの治療中に真菌感染をきたした症例非感染時(a)と角膜プラーク下の真菌感染時(b).角膜プラーク下にdebrisを認め,また上方輪部から血管侵入を認め,プラークを除去すると,プラーク下の実質は一部融解し(c),混濁していた.プラーク裏面には真菌を認めた(d).(文献4より転載)abcd図7春季カタルの治療中に真菌感染をきたした症例非感染時(a)と角膜プラーク下の真菌感染時(b).角膜プラーク下にdebrisを認め,また上方輪部から血管侵入を認め,プラークを除去すると,プラーク下の実質は一部融解し(c),混濁していた.プラーク裏面には真菌を認めた(d).(文献4より転載) あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016389(59)スの変調や浸潤細胞が好酸球から好中球へとシフトすることなどが原因ではないかと推察している.文献1)日本眼科アレルギー研究会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版),日眼会誌114:829-870,20102)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総IgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,20123)KumagaiN,FukudaK,FujitsuYetal:Treatmentofcor-neallesionsinindividualswithvernalkeratoconjunctivitis.AllergolInt54:51-59,20054)福田憲:アレルギー性結膜疾患.MBOCULI7:49-57,2013

眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解 眼瞼炎:感染とアレルギーの見分け方

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):377.382,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):377.382,2016眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解眼瞼炎:感染とアレルギーの見分け方Blepharitis:HowtoDistinguishbetweenInfectionandAllergy千貫祐子*森田栄伸*はじめに眼瞼に発赤や腫脹がみられた場合,それが感染に起因するものなのか,アレルギーに起因するものなのか,見きわめが困難なときがある.感染症とアレルギーでは治療方法が異なるため,われわれ臨床医には正しい診断を行うことが求められる.筆者らは,基本的には「感染症は片側性が多く」「アレルギーは両側性が多い」と考えている.ただし,「(,)アトピー性皮膚炎患者の眼瞼に生じた細菌感染」のように,元々両側性の慢性炎症に感染が加わった場合などは例外であり,両側性の感染症も存在しうる.本稿では,筆者らが日常診療で経験している眼瞼炎の具体例を提示し,その見分け方について紹介する.I片側性に生じることが多い眼瞼炎:感染に起因する眼瞼炎1.麦粒腫(図1)麦粒腫は,眼科医が多く診療する疾患と思われるが,皮膚科を受診する患者も少なくない.皮膚科医が診察する麦粒腫の多くは,マイボーム腺に感染が生じる内麦粒腫ではなく,睫毛に付属する皮脂腺(Zeis腺)や汗腺(Moll腺)に感染が生じる外麦粒腫と思われる(図1).片側性に生じることが多く,主症状は眼瞼の発赤,腫脹,疼痛で,黄色ブドウ球菌などが起炎菌となる.治療の基本は抗菌薬で,抗菌点眼薬や抗菌眼軟膏を使用するが,炎症が強い場合は抗菌内服薬の全身投与も併用する.図1右下眼瞼に生じた外麦粒腫(15歳,女性)睫毛の根部に発赤,腫脹,小膿疱を認める.細菌培養検査の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.鼻尖部にも細菌性毛包炎と思われる毛包一致性の紅色丘疹を認める.2.丹毒真皮のレベルを水平方向に急速に拡大する,疼痛や熱感を伴う浮腫性紅斑と腫脹を特徴とする,おもに化膿レンサ球菌による急性感染症である.顔面では片側に始まり,拡大して両側性となることがある(図2).発熱や頭痛などの全身症状を伴うことも多い.白血球増多やCRP(C-reactiveprotein)上昇などの炎症所見が診断に有用であり,治療はペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬の全身投与を行う.*YukoChinuki&EishinMorita:島根大学医学部皮膚科学講座〔別刷請求先〕〒693-8501島根県出雲市塩冶町89-1島根大学医学部皮膚科学講座0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(47)377 3.ヘルペスウイルス感染症a.単純ヘルペスウイルス感染症単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)による眼瞼炎として日常臨床上しばしば遭遇するのは,アトピー性皮膚炎患者に生じるKaposi水痘様発疹症である(図3a,b).HSVには1型と2型が存在するが,眼瞼炎の原因の多くは1型である.HSV1型は,初感染の際にヘルペス性歯肉口内炎として発症した後,おもに図2丹毒(80歳代,男性)左上下眼瞼から頬部を中心に,疼痛を伴う発赤,腫脹,熱感を認め,右側に拡大しつつある.初診時のASO(用語解説参照)値は1,228IU/mlで,2週間後には4,369IU/mlに上昇した(正常値<300IU/ml).三叉神経節に潜伏感染する.そして,なんらかの原因で免疫力が下がったときに,ウイルスが再活性化され,皮疹を形成する.皮疹は発赤を伴う小水疱の集簇で,小水疱に中心臍窩を伴うのが特徴である.片側に集中して現れることが多いが,重症のアトピー性皮膚炎患者などでは両側性に拡大することも少なくない.治療の基本は,抗ウイルス内服薬の全身投与である.筆者らが眼瞼皮膚のヘルペスウイルス感染を診察した場合は,ヘルペス性結膜炎やヘルペス性角膜炎の合併を鑑別するために,必ず眼科専門医を紹介している.b.水痘・帯状疱疹ウイルス感染症水痘・帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)による眼瞼炎として日常臨床上しばしば遭遇するのは,三叉神経第1枝(ときに第2枝)領域帯状疱疹である.帯状疱疹は,水痘罹患時に知覚神経節に潜伏感染したVZVが,なんらかの原因で免疫力が下がったときに,ウイルスが再活性化され,皮疹を形成する疾患である.片側性に生じ,多くは皮疹出現前に前額部や前頭部の疼痛を訴え,数日後に発赤を伴う小水疱が集簇して出現する(図4).単純ヘルペスウイルス感染症と同様,小水疱に中心臍窩を伴うのが特徴である.帯状疱疹が両側性に出現することはきわめて稀である.治療の基本は,抗ウイルス薬の点滴または内服による全身投与である.筆者らが三叉神経第1枝,ときに第2枝領域帯状疱疹をab図3アトピー性皮膚炎患者に生じたKaposi水痘様発疹症(20歳代,女性)a:右眼を中心に発赤を伴う小水疱の集簇を認め,痂皮を形成しつつある.b:ヘルペスウイルス感染症の小水疱は中心臍窩(→)を伴うことが特徴である.378あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(48) あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016379(49)診察した場合は,やはりヘルペス性結膜炎やヘルペス性角膜炎の合併を鑑別するために,必ず眼科専門医を紹介している.4.毛包虫による眼瞼炎稀ではあるが,細菌やウイルス以外の眼瞼の感染症も存在する.われわれ皮膚科医は,毛包虫(ニキビダニ)の寄生による毛包炎(毛包虫性.瘡)を診療することがあるが,この毛包虫が睫毛に寄生すると眼瞼炎を引き起こすことがある(図5a).診断には直接鏡検による毛包虫の証明(図5b)が必要で,毛包虫を認めた場合,筆者らはメトロニダゾールの内服投与を行い,良好な経過を得ている.このように,原因がわかりにくい眼瞼炎を診療することも多く,診断に苦慮する眼瞼炎では,眼科医と皮膚科医が協力して診療に当たる必要があると思われる.睫毛→ab図5左上眼瞼に生じた毛包虫性座瘡(60歳代,女性)a:睫毛の根部を中心に発赤,腫脹を認める.b:睫毛を1本抜毛し,顕微鏡で確認したところ,多数の毛包虫(→)の寄生を認めた.図4左三叉神経第1枝領域に生じた帯状疱疹(60歳代,男性)左前額部から上眼瞼にかけて,発赤を伴う小水疱の集簇を認める.小水疱は中心臍窩(→)を伴うことが特徴である.眼瞼全体の腫脹も著しく,疼痛を伴う.皮疹が両側性に生じることはきわめて稀である.睫毛→ab図5左上眼瞼に生じた毛包虫性座瘡(60歳代,女性)a:睫毛の根部を中心に発赤,腫脹を認める.b:睫毛を1本抜毛し,顕微鏡で確認したところ,多数の毛包虫(→)の寄生を認めた.図4左三叉神経第1枝領域に生じた帯状疱疹(60歳代,男性)左前額部から上眼瞼にかけて,発赤を伴う小水疱の集簇を認める.小水疱は中心臍窩(→)を伴うことが特徴である.眼瞼全体の腫脹も著しく,疼痛を伴う.皮疹が両側性に生じることはきわめて稀である. 380あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(50)管性浮腫であったことにより,感作部位にアレルギー症状がもっとも現れやすいことが考えられた(図6a,b)2).この考え方に共通する病態を示すのが,花粉.食物アレルギー症候群(pollenfoodallergysyndrome:PFAS)の患者でみられる眼瞼の血管性浮腫である.PFASは花粉抗原に感作された花粉症患者が交差反応のために果物や野菜摂取時にアレルギーを生じる疾患である.食物摂取時のアレルギー症状は口腔アレルギー症候群(oralallergysyndrome:OAS)でみられる症状と同様で,口腔・咽頭粘膜の過敏症状をきたすことが多く,アナフィラキシーショックを生じることもある.ところが最近,PFASの患者が原因食物を摂取した際のアレルギーの主症状の一つが,眼瞼の血管性浮腫である症例が増えている(図6c).これも,加水分解コムギ含有石鹸の問題と同様に,感作部位に食物アレルギーの主要な症状が現れやすいことを示唆していると思われる.花粉を完全に回避することは困難なため,花粉症の際の眼症状の治療の基本は抗アレルギー点眼薬であるが,食物アレルギーの際の治療の基本は原因食物の回避である.誤食などによII両側性に生じることが多い眼瞼炎:アレルギーに起因する眼瞼炎1.IgE依存性即時型(I型)アレルギー筆者らは,IgE依存性の食物アレルギーの一症状として,眼瞼の血管性浮腫(用語解説参照)を多く経験している.眼瞼の血管性浮腫が主症状となる食物アレルギーとして近年多発したのが,加水分解コムギ(用語解説参照)含有石鹸の使用によって感作された小麦アレルギーである.この事例では,当該石鹸を使用した消費者466万人のうち,2014年10月20日時点で2,111人が小麦アレルギーを発症したと確定診断されている1).この事例は,石鹸の使用によって石鹸に含有されていた加水分解コムギに眼瞼の皮膚または粘膜から感作をされ,交差反応のために通常の小麦製品を経口摂取した際にアレルギー症状を生じるようになったと考えられる.われわれ臨床医にとっては,食物アレルギー発症における経皮・経粘膜感作の重要性を再認識させられるでき事であった.そして,小麦製品摂取時の主症状が全例で眼瞼の血abc図6眼瞼の血管性浮腫が主症状の食物アレルギーa:40歳代,女性.石鹸含有加水分解コムギで経皮・経粘膜感作された患者が小麦製品を経口摂取したときの10分後の所見:両眼瞼の発赤腫脹が始まり,流涙も始まった.b:aの患者の小麦製品経口摂取1時間後の所見.眼瞼の腫脹が著しくなり,開眼困難となった(文献2より転載).c:60歳代,女性.ヨモギ花粉症に交差反応したゴボウアレルギー.ゴボウを経口摂取したところ,両眼瞼の発赤,腫脹と流涙が生じた.abc図6眼瞼の血管性浮腫が主症状の食物アレルギーa:40歳代,女性.石鹸含有加水分解コムギで経皮・経粘膜感作された患者が小麦製品を経口摂取したときの10分後の所見:両眼瞼の発赤腫脹が始まり,流涙も始まった.b:aの患者の小麦製品経口摂取1時間後の所見.眼瞼の腫脹が著しくなり,開眼困難となった(文献2より転載).c:60歳代,女性.ヨモギ花粉症に交差反応したゴボウアレルギー.ゴボウを経口摂取したところ,両眼瞼の発赤,腫脹と流涙が生じた. あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016381(51)8).治療の基本はステロイド外用薬であるが,長期間の使用による緑内障の合併などが懸念される.筆者らは,短期間のステロイド外用によって急性期の炎症を改善させ,その後タクロリムス軟膏に切り替えることを推奨している.また,炎症症状が改善した後の皮膚炎の再燃を防ぐために,ワセリンによる保湿も重要と考える.2.アトピー性皮膚炎の眼瞼炎に生じた二次感染アトピー性皮膚炎患者のびらんや亀裂に細菌が接着し,増殖した結果,伝染性膿痂疹を生じうる(図9).黄色ブドウ球菌が原因の水疱性膿痂疹と,化膿レンサ球菌が原因の痂皮性膿痂疹に分けられるが,いずれも治療の基本は内服抗菌薬の全身投与である.局所には抗菌薬外用も有用である.アトピー性皮膚炎で診療している患者に,いつもと異なるびらんや浸出液を認めた場合,またはアトピー性皮膚炎の治療を行っているにもかかわらず悪化する皮疹を認めた場合は,細菌感染やウイルス感染って症状が出現した場合は,抗ヒスタミン薬の内服(緊急時は静注)を行う.2.遅延型(IV型)アレルギー眼瞼に生じる遅延型アレルギーの代表は接触皮膚炎である.接触皮膚炎は,原因物質が接触した部位に紅斑や小丘疹,湿潤,痂皮などを生じる疾患で,多くは掻痒を伴う.限局性に生じるため,原因物質はある程度推察できる.眼瞼に生じる場合は,アイシャドーやアイライナー,マスカラ,ビューラーなどのほか,点眼薬や眼軟膏によるものも考慮しなければならない.とくに抗菌薬含有ステロイド外用薬のうち,硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎は比較的頻度が高いため,注意が必要である(図7).治療の基本は原因物質の回避であるが,炎症が強い場合は数日間のみステロイド外用薬を使用する.I(strongest).V(weak)群に分けられるステロイド外用薬のうち,筆者らは眼瞼皮膚にはIV群(medium)を短期間のみ使用している.IIIアトピー性皮膚炎の眼瞼炎1.アトピー性皮膚炎の眼瞼炎アトピー性皮膚炎は表皮のバリア機能異常に多彩な非特異的刺激反応や特異的なアレルギー反応が関与して生じる,慢性に経過する炎症と掻痒を病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患であり,患者の多くはアトピー素因(用語解説参照)をもつ3).乾燥や掻爬によって眼瞼にも症状が現れやすく,両側性に紅斑,びらん,亀裂,鱗屑,痂皮などを生じ,長期間経過すると苔癬化を生じる(図図7硫酸フラジオマイシン含有ステロイド眼軟膏を使用中に出現した掻痒を伴う両眼瞼の鱗屑と紅斑(70歳代,女性)パッチテストにて,硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎であったことが判明した.abc図8アトピー性皮膚炎でみられる眼瞼炎a:生後5カ月男児.両眼瞼を含めて,全身に左右対称性に鱗屑や痂皮を伴う紅斑を認める.b:16歳,女性.両眼瞼に鱗屑を伴う紅斑を認める.c:30歳代,男性.湿疹が慢性化してくると苔癬化(→)を生じ始める.眉毛にはHertoghe徴候(用語解説参照)を認める.図7硫酸フラジオマイシン含有ステロイド眼軟膏を使用中に出現した掻痒を伴う両眼瞼の鱗屑と紅斑(70歳代,女性)パッチテストにて,硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎であったことが判明した.abc図8アトピー性皮膚炎でみられる眼瞼炎a:生後5カ月男児.両眼瞼を含めて,全身に左右対称性に鱗屑や痂皮を伴う紅斑を認める.b:16歳,女性.両眼瞼に鱗屑を伴う紅斑を認める.c:30歳代,男性.湿疹が慢性化してくると苔癬化(→)を生じ始める.眉毛にはHertoghe徴候(用語解説参照)を認める. 382あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(52)の合併を考慮しなければならない.おわりに冒頭で述べたとおり,眼瞼炎が感染によるものか,アレルギーによるものかを見きわめる最大のポイントは,「片側性であるか」,「両側性であるか」と考える.ただし,「アトピー性皮膚炎患者の眼瞼炎に生じた細菌感染」のように,例外は存在するため,個々の症例についてよく検討し,判断しなければならない.眼瞼は,眼科と皮膚科の境界線であると同時に,接点でもある.患者のためによりよい診療を行うために,眼科と皮膚科が連携して診療にあたることが重要と思われる.文献1)日本アレルギー学会ホームページ:http://www.jsaweb.jp/2)千貫祐子,崎枝薫,金子栄ほか:石鹸中の加水分解小麦で感作され小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを発症したと思われる3例.日皮会誌120:2421-2425,20103)古江増隆,佐伯秀久,古川福実ほか:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌119:1515-1534,2009ab図9アトピー性皮膚炎患者に生じた伝染性膿痂疹a:両眼瞼から前額部全体に,発赤を伴うやや大きめの水疱が拡大してきた.細菌培養の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.b:20歳代,男性.アトピー性皮膚炎の治療中に,両眼瞼にびらんと浸出液が生じ始めた.細菌培養の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.■用語解説■血管性浮腫:真皮深層ないし皮下組織に起きる一過性限局性の浮腫.通常の蕁麻疹に比べて皮疹の持続時間が長く,消退までに2.3日かかることが多い.加水分解コムギ:小麦あるいはグルテンを酵素や酸で処理して部分的に分解したもの.処理方法によっては粘弾性や気泡性,乳化性や保湿性をもつため,化粧品や加工食品の添加物として世界中で広く用いられている.すべての加水分解コムギの感作能が高いわけではない.アトピー素因:家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)があること,またはIgE抗体を産生しやすい素因をさす.ASO:抗ストレプトリジンO抗体(anti-streptolysinOantibody)の略で,溶連菌が体内にあるときに体が防衛反応として発生させる抗体であり,この数値が上がると溶連菌に感染している可能性が高くなる.Hertoghe徴候:アトピー性皮膚炎患者で,眉毛の外側1/3が薄くなる現象.掻破することで,眉毛が擦り切れて生じるとされる.ab図9アトピー性皮膚炎患者に生じた伝染性膿痂疹a:両眼瞼から前額部全体に,発赤を伴うやや大きめの水疱が拡大してきた.細菌培養の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.b:20歳代,男性.アトピー性皮膚炎の治療中に,両眼瞼にびらんと浸出液が生じ始めた.細菌培養の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.■用語解説■血管性浮腫:真皮深層ないし皮下組織に起きる一過性限局性の浮腫.通常の蕁麻疹に比べて皮疹の持続時間が長く,消退までに2.3日かかることが多い.加水分解コムギ:小麦あるいはグルテンを酵素や酸で処理して部分的に分解したもの.処理方法によっては粘弾性や気泡性,乳化性や保湿性をもつため,化粧品や加工食品の添加物として世界中で広く用いられている.すべての加水分解コムギの感作能が高いわけではない.アトピー素因:家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)があること,またはIgE抗体を産生しやすい素因をさす.ASO:抗ストレプトリジンO抗体(anti-streptolysinOantibody)の略で,溶連菌が体内にあるときに体が防衛反応として発生させる抗体であり,この数値が上がると溶連菌に感染している可能性が高くなる.Hertoghe徴候:アトピー性皮膚炎患者で,眉毛の外側1/3が薄くなる現象.掻破することで,眉毛が擦り切れて生じるとされる.

眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解 花粉眼瞼炎:眼科の立場から

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):369.376,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):369.376,2016眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解花粉性結膜炎:眼科の立場からPollen-InducedAllergicConjunctivitis:FromtheViewpointofanOphthalmologist三村達哉*はじめにアレルギー性結膜炎は,さまざまな抗原の結膜への暴露によって生じうる,結膜の炎症症状を総称した疾患である.季節性アレルギー性結膜炎は花粉などの屋外抗原により発症する.一方,通年性アレルギー性結膜炎は動物の鱗屑,ダニ,昆虫の死骸,カビや真菌の胞子,ハウスダストなどの屋内抗原によって発症する.また,近年,ディーゼル排気中の粒子,黄砂,PM2.5などの環境因子などが結膜炎を増悪することも明らかになってきた.これらのさまざまな抗原のなかでも,花粉はアレルギー性結膜炎の最大要因で,かつ完治することがないため,多くの患者が毎年花粉症に悩まされる.春のスギの季節だけでなく,秋の花粉の飛散時期にもさまざまな植物の花粉に気を配らなければならない.本稿では,眼科医の立場から花粉性結膜炎の病態,対策,治療まで系統立てて解説する.I花粉はどのようにして結膜炎を引き起こすのか?その病態とは?花粉は理論的には,そのままの個体の状態ではアレルギーを引き起こすことはない.花粉の抗原はおもに内部と皮殻の部位に局在し,花粉が破裂することにより,抗原が放出される.ではどのようなときに破裂するかというと,多くは水分に接したときとされる.花粉が水分を含むと,膨潤圧に耐え切れなくなって破裂するのである.この機序としては,雨が降った後に花粉が水分を吸収することで破裂する場合もあるし,眼内に入った後に涙液に触れて破裂することもある1).また,地上に舞い降りた花粉が自動車に踏まれて物理的に破裂することや,最近の研究により,PM2.5や黄砂などに含まれる大気汚染物質の硫酸炎や硝酸塩が水分のある状態で弱アルカリ性の花粉に接着すると,汚染物質の酸性力により花粉の皮殻が損傷し,花粉がさらに水分を吸収することにより破裂することも証明されている2).すなわち,郊外から飛んできた花粉が都市部に移行するほど,大気汚染物質により破壊され,内部のアレルゲン(抗原)が大気中に飛散すると考えられる.スギ花粉には花粉表面にCryj1が局在し,内部のデンプン粒および花粉内膜にCryj2が局在している.Cryj1とCryj2は塩基性蛋白質で,花粉の破裂により放出される.花粉が涙液中で破裂した場合を考えると,破裂した花粉から花粉抗原が涙液中に溶出し,抗原は結膜上皮から実質内に侵入し,そこで血管周囲に存在する肥満細胞上のIgE抗体と結合する.肥満細胞からはヒスタミンを中心としたメディエーターが結膜実質内に放出され,知覚神経の神経終末に局在するH1受容体に結合すると眼の掻痒感を生じさせ,一方,血管に局在するH1受容体に結合すると,結膜充血が生じる(図1).大気中の浮遊物質(黄砂,PM2.5など)やドライアイなどにより結膜上皮が損傷すると,結膜上皮バリアが破綻し,破裂した花粉から溶出した花粉抗原が結膜実質内に入りやすくなるために,結膜炎症状が強くなる(図2).*TatsuyaMimura:東京女子医科大学東医療センター眼科〔別刷請求先〕三村達哉:〒116-8567東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(39)369 花粉外気IgEFc.RI知覚神経血管ヒスタミンH1受容体肥満細胞抗原涙液で花粉が破裂涙液結膜内結膜充血眼掻痒感花粉が破裂し抗原が溶出花粉抗原が結膜内に侵入肥満細胞がヒスタミン放出H1受容体にヒスタミン結合涙液結膜IgEFc.RI肥満細胞結膜上皮バリア図1花粉性結膜炎の発症機序ドライアイ,砂などにより正常結膜結膜損傷→上皮バリアの損傷涙液で花粉が破裂抗原の溶出涙液結膜上皮の損傷IgEFc.RI肥満細胞抗原が結膜内に侵入抗原が上皮でブロック図2結膜上皮バリアと花粉抗原黄砂やドライアイなどの外的要因により結膜上皮が損傷すると,バリア機能が破綻し,花粉から放出した花粉抗原が結膜内に侵入しやすくなる.370あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(40) 図3代表的な花粉性結膜炎の前眼部写真同一患者の前眼部と上眼瞼結膜.充血は球結膜全体に及び,ときに結膜浮腫を生じる.眼瞼結膜は増殖変化に乏しいのが特徴である. 健常群春群陽性率(%)grading012345秋群陽性率(%)図4健常者と春季または秋季発症の季節性アレルギー性結膜炎患者における血清中の特異的IgE抗体価の比較Class2LineAControlNegativeTestControlNegativePositiveClass1Class0動物上皮ハウスダストヤケヒョウヒダニコナヒョウヒダニガカンジダアルテルナリアスギヒノキヨモギブタクサカモガヤネコヨモギヤケヒョウヒダニイヌカモガヤゴキブリブタクサスギPositiveTestネコヨモギヤケヒョウヒダニイヌカモガヤゴキブリブタクサスギ図5イムノクロマトグラフィーの市販キット(ImmunoCapRapidR)を利用した涙液中特異的IgEの測定への応用血清中の特異的IgE抗体の陽性率は,筆者らの検討ヒョウヒダニ(48.1%),スギ(44.4%),コナヒョウヒでは春の季節性アレルギー性結膜炎の患者ではスギダニ,ヒノキ,ブタクサ(33.3%)が多かった(図4)8).(68.8%),ヒノキ(59.4%)が多く7),秋の季節性アレル一方,春季発症花粉性結膜炎患者における涙液中の特異ギー性結膜炎の患者ではハウスダスト(51.9%),ヤケ的IgEの抗体陽性率はスギ100%,ヤケヒョウヒダニ372あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(42) *p<0.0001*p=0.3130*p=0.3130*p=0.3130100%80%60%40%20%0%100%80%60%40%20%0%健常者アレルギー健常者アレルギー健常者アレルギー健常者アレルギー0%20%40%60%80%100%健常者アレルギー0%20%40%60%80%100%健常者アレルギー0%20%40%60%80%100%健常者アレルギー健常者アレルギー0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%*p<0.0001*p<0.0001*p=0.0436*p=0.0264ヤケヒョウヒダニゴキブリネコイヌスギカモガヤブタクサヨモギ*Mann-WhitneyUtestIgEScore0■1■2■図6健常者(30例)と春季発症の花粉性結膜炎患者(34例)における涙液中の特異的IgE抗体価の比較97.1%,カモガヤ88.2%,ヨモギ32.4%,ブタクサ29.4,ゴキブリ14.7%,ネコ14.7%,イヌ14.7%であった.特異的IgEスコアーはスギ(1.9±0.2)がもっとも高く,次にヤケヒョウヒダニ(1.6±0.6),カモガヤ(1.0±0.5)の順に高かった(図5,6)9).このことからも血清中の特異的IgE抗体価と局所の涙液中の特異的IgE抗体価の間には乖離があるため,より局所の抗体価を測定するほうが,アレルギーを誘発している抗原の特定に有用であると考えられる.特異的IgE抗体価や皮膚テストの結果の相関をカテゴリカル解析で行うと,動物由来を中心とした屋内抗原および植物由来を中心とした屋外抗原に対するアレルギー反応は,それぞれの範疇内の抗原同士で相関する傾向がみられる7.9).とくに花粉に対する反応は多くの花粉同士に相関がみられ,春に花粉症になる人は秋の花粉の時期にも症状が出る可能性が考えられる.この理由としては,花粉抗原とIgE抗体の結合部位の抗原決定基(T細胞エピトープ)が,種の異なる花粉間で近い構造をしているからだと考えられている.花粉症をはじめとするアレルギー性結膜炎やアレルギー性鼻炎に罹患した患者では,アレルギーの原因を特定することで,花粉が飛散する前にその予防策を立て,症状を緩和することが可能となると考えられる.IV大気中粒子と花粉症のかかわり近年,環境因子と花粉症の関係が新たな花粉症対策の話題となっている.工場からの煤煙や自動車からの排ガス10),中国大陸からの黄砂を主体とした土壌粒子,あるいは大気中の化学物質の光化学反応によって生じうる有機化合物,窒素化合物,硫黄酸化物などの環境汚染物質は,呼吸器に入り込むだけでなく,結膜などの直接外気に触れる部分に暴露することにより,アレルギー性結膜炎を引き起こすことがわかってきた11.13).黄砂やPM2.5が飛来する時期はアレルギー症状が悪化し,アレルギー性結膜炎の患者が増えることも報告されている14.17).筆者らの研究では,黄砂飛来時に来院したアレルギー性結膜炎患者に対し黄砂関連物質を用いた皮膚テストによるアレルギー誘発試験を行うと,微生物や花粉(43)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016373 374あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(44)せる.4.外出時は完全防備で花粉症用眼鏡はゴーグル型なので,眼内や瞼への上方や横からの花粉の付着を抑える.また,マスク着用により呼吸器系の症状や鼻炎の発症を抑制する.つばの広い帽子を着用することにより,上空からの花粉の付着を抑える.コートはツルツル素材のものが花粉の付着防止に有効である.5.花粉を屋内に入れない室内に花粉を持ち込まないことが重要である.天気のよい日は窓を閉め切り,洗濯物や,寝具は室外で干さない.外出後は花粉が洋服や髪の毛に付着しているので,玄関で花粉を払うことが大事である.6.経験から学ぶ毎年花粉症に悩まされる人は,今年の経験を来年に生かすのが大事である.今年の症状が出始めた時期などを覚えておくと,来年に初期療法などを受ける場合に,早く対策を立てることができる.VI花粉性結膜炎になったときの治療日本眼科アレルギー研究会により「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」が作成され,現時点でのアレルギー性結膜炎の診断と治療の方向性が確立されている19).花粉性結膜炎では,抗アレルギー薬が第一選択である.花粉性結膜炎では結膜の増殖性変化が少ないことから,増殖性変化を認める重症症例についての治療はアトピー性眼瞼炎の項目(「アトピー性眼瞼炎:眼科の立場から)を参照されたい.花粉性結膜炎の治療では,即効性の点からヒスタミンH1拮抗点眼薬が臨床の場で多く用いられている20).軽症例では第一選択は抗アレルギー薬であり,花粉症などでは飛散2週間前からの投与が望ましい.効果が出るまでに時間がかかるため,飛散前からメディエーター抑制薬の点眼を開始し,症状が現れたら,即効性のあるヒスタミンH1拮抗薬点眼を追加すると,より効果的とされている.などの浮遊物質を含む黄砂がもっとも皮膚反応が高く,花粉などを除去した黄砂抽出液では皮膚反応が低下し,さらに加熱により微生物を取り除いた黄砂では,黄砂の主性成分である二酸化珪素と同程度の皮膚反応に低下した.これらの結果は,黄砂自体はアレルギーを誘発する効果は低いが,黄砂に付着した微生物の死骸,花粉,大気物質などのアジュバント作用がアレルギーを誘発・増悪させている可能性を示唆している18).黄砂やPM2.5は,東アジア内陸部から上空に巻き上げられた砂塵が地上に降り注ぐ気象現象であり,春のスギ花粉と同じ時期に飛来することが知られており,花粉性結膜炎の症状をより悪化させている可能性が考えられる.V花粉性結膜炎に対する対処法花粉性結膜炎にならないようにするためには花粉を防御することが大事である.まずは花粉性結膜炎症状を軽減するために,花粉が眼瞼や結膜に入ってこないようにする工夫が重要である.患者に伝えるべき防御策を,項目ごとに解説をする.1.花粉飛散情報を活用しよう花粉シーズン到来前には花粉の飛散時期を調べ,シーズン中は翌日の花粉の飛散量の情報を調べ,外出時の防御策に活用する.前日のうちに,ニュースやインターネットで花粉の飛散時期と飛散量の情報を入手するとよい.2.花粉の多い日はどんなとき?前日雨が降った後は,水分で破裂した花粉から抗原が溶出する.さらに雨の翌日に晴れていると抗原が大気中に飛散する.気象庁によると,前日に雨が降った後に快晴となった日や,最高気温が高く,湿度が低くなった日には花粉が飛散しやすくなる.また,南風が吹いた後に北風に変化したときも注意が必要である.3.外出を控える花粉の飛散量が多い日は外出を控える.花粉の飛散ピークは午後12.3時頃のため,朝か夕方に用事をすま あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016375(45)重症例では従来はステロイド薬が多く使用されたが,眼圧上昇,白内障,易感染性などの副作用があり,近年は副作用の少ない免疫抑制点眼薬が推奨されている.免疫抑制点眼薬は0.1%シクロスポリン点眼薬(パピロックRミニ0.1%)と0.1%タクロリムス点眼薬(タリムスR)が市販されており,効果の強いタクロリムスを短期的に使用し,改善傾向にあればシクロスポリン点眼に切り替える.花粉による眼瞼炎が併発した場合にはステロイド眼軟膏が有効である.抗生物質に対するアレルギーを引き起こすこともあり,抗菌薬を含まないステロイド眼軟膏を使用したほうがよい.回復期で症状が改善してきたら,まずステロイド薬を減らし,次に免疫抑制薬を減らし,最後に抗アレルギー点眼薬の単剤で治療する.おわりに花粉症は対症療法がおもな治療であり,完治させるのが難しい疾患である.近年,花粉症の症状を緩和させるのではなく,治す治療の研究が注目されている.たとえばスギ花粉症に対し,舌下免疫療法治療薬が開発された.舌下免疫療法治療薬は新規の治療薬ではあるが,すでに保険適用となっている.花粉性結膜炎は局所の炎症であり,眼特有の治療が必要と考えられるため,一般的な花粉症の治療とは別に考える必要があると考えられる.花粉性結膜炎の治療の新しい研究としては高知大学の福島と福田らのグループにより,スギ花粉症緩和米により花粉症を治療する試みがなされている.お米を食べながら治すという画期的な治療で,今後の研究結果に期待がかかっている.治療と並行して,今後の治療の方向性はアレルギー性結膜炎の予防治療に主体が置かれるのではないかと考えられる.たとえば,原因抗原を特定することによる抗原回避治療や,花粉や黄砂などの大気汚染物質などに対するマスク・保護メガネの着用,洗眼などによる予防治療は今後も大事であると考えられる.謝辞一部のデータは文科省科研費(基盤A:25241015)および環境省環境研究総合推進費(5-1547)による成果を含みます.文献1)深川和己:ウサギ涙液および点眼液がスギ花粉外壁の破裂およびスギ花粉粒子からの抗原溶出に及ぼす影響.アレルギー・免疫17:124-129,20102)WangQ,NakamuraS,GongSetal:ReleasebehaviourofcryptomeriaJaponicapollenallergenicCryJ1AndCryJ2inrainwatercontainingairpollutants.InternationalJour-nalofSustainableDevelopmentandPlanning9:42-53,20143)内尾英一:アレルギー性結膜疾患定義,病型,診断基準.アレルギー性眼疾患とドライアイ─重症度別治療法(高村悦子,前田直之編),眼科インストラクションコース16,p20-27,メジカルビュー社,20084)中川やよい:アレルギー性結膜炎.アレルギー性眼疾患とドライアイ─重症度別治療法(高村悦子,前田直之編),眼科インストラクションコース16,p28-33,メジカルビュー社,20085)中川やよい:アレルギー性結膜炎.あたらしい眼科10:1805-1812,19936)MimuraT,UsuiT,MoriMetal:Immunochromatograph-icassayformeasurementoftotalIgEintears,nasalmucus,andsalivaofpatientswithallergicrhinoconjuncti-vitis.JAsthma47:1153-60,20107)MimuraT,AmanoS,FunatsuHetal:Correlationsbetweeneachallergen-specificIgEserumlevelsinpatientswithallergicconjunctivitisinspring.OculImmu-nolInflamm12:45-51,20048)MimuraT,YamagamiS,AmanoSetal:Allergensinjap-anesepatientswithallergicconjunctivitisinautumn.Eye19:995-999,20059)MimuraT,YamagamiS,KameiYetal:MeasurementofspecifictearIgEwithimmunoCAPrapid.JInvestigAller-golClinImmunolinpress10)FujishimaH,SatakeY,OkadaNetal:Effectsofdieselexhaustparticlesonprimaryculturedhealthyhumancon-junctivalepithelium.AnnAllergyAsthmaImmunol110:39-43,201311)三村達哉:眼を取り巻く環境因子.2014年日本眼アレルギー学会年次報告12)三村達哉:PM2.5及び黄砂の眼疾患との関連.特集:眼アレルギー診療のminimalessentialアレルギーの臨床35:645-650,201513)三村達哉:「専門医のためのアレルギー学講座」眼科領域におけるアレルギーと環境因子.アレルギー63:901-906,201414)小沢昌彦,市頭教克,内尾英一:春季カタルの増悪と黄砂の観測時期との関連.あたらしい眼科25:1281-1284,200815)内尾英一:最近話題の黄砂とPM2.5その正体は?第118回日本眼科学会総会モーニングセミナー13アレずばっ!2014年4月6日16)高良太,林政彦,林英ほか:黄砂が関連すると考え 376あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(46)られる結膜炎の臨床所見の特徴についての分析.2015日本眼科学会総会第119回日本眼科学会総会2015年4月17日17)MimuraT,IchinoseT,YamagamiSetal:Airbornepar-ticulatematter(PM2.5)andtheprevalenceofallergicconjunctivitisinJapan.SciTotalEnviron487C:493-499,201418)MimuraT,YamagamiS,FujishimaHetal:Sensitizationtoasiandustandallergicrhinoconjunctivitis.EnvironRes132C:220-225,201419)日本眼科アレルギー研究会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版),日本眼科学会雑誌114:829-870,201020)中川やよい,東田みち代:スギ花粉性結膜炎患者の受診パターンと治療のコンプライアンス─眼科外来患者アンケート調査─あたらしい眼科19:112-120,2002