あたらしい眼科Vol.33,No.3,20164030910-1810/16/\100/頁/JCOPYの部分を一定の厚さで選んで(たとえば網膜内境界膜を基準としてそこから何μm外層方向まで,というように指定する),そこに含まれる情報を抽出して表示すれば,あたかも眼底写真を見るかのような画像を(しかも任意の深さで)得ることができる.こうして得られた画像はEnface画像(“Enface”は「前から見る」の意)とよばれる.OCTAでは,OCTを用いて,同じ場所で,時間のずれたB-scanを複数枚撮影する.このとき得られた時間のずれたOCT像を比較すると,同じ場所の信号強度はほとんど一致しているが,血流のある部分だけは信号強度に変化があらわれる.OCTAではまずその部分を強調して表示する.この血流が強調されたB-scanを上の方法で3D構築すれば,血管が強調された立体的な眼底像を作成でき,さらにEnface表示すれば,眼底の血管構造をそれぞれの深さで,くっきりと描き出すことができる.この画像は見た感じは造影検査に類似していて,眼科医には大変理解しやすい..使用方法検査方法は多少撮影時間が長い以外は通常のOCTとほぼ同じである.Optovue社のAvantiOCTを用いた場合,1回の撮影に要する時間は約0.3秒である.新しい治療と検査シリーズ(73).バックグラウンド眼底の血流検査としてフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン赤外蛍光造影検査(indocyaninegreenangiogra-phy:ICGA)が行われるが,患者負担が大きく,ショックなどの可能性もあり,造影剤を用いない検査が求められていた.光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)が普及し,OCTを用いた新たなテクノロジーが発展してきたことで,非侵襲的に眼底の血管構造を描出できるOCTアンジオグラフィー(opticalcoher-encetomographyangiography:OCTA)が可能となった..OCTアンジオグラフィーの原理と検査法3D-OCTではOCTのB-scan(網膜断面像)を眼底の一定面積分,撮影してゆき,隣同士のB-scan画像をつなぎ合わせていくことにより,立体的な眼底像を作成することができる.この画像を前から見れば眼底写真のような眼底像が得られるはずだが,実際にはOCTでは眼底の浅いところから深いところまでの情報が入り混じってわかりにくくなっている.そこで,眼底の一定の深さ230.OCTアンジオグラフィー(網膜)プレゼンテーション:吉田宗徳名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学コメント:吉田茂生九州大学大学院医学研究院眼科学分野ab図1正常のOCTA像(Opto-vue社AvantiOCT,3×3mm)a:網膜表層血管(superficialcapillaryplexus:SCP),b:網膜深層血管(deepcapillaryplexus,DCP).OCTAではこのように網膜血管を2層に分けて表示可能である.毛細血管の微小な構造まで,よく描出されている.あたらしい眼科Vol.33,No.3,20164030910-1810/16/\100/頁/JCOPYの部分を一定の厚さで選んで(たとえば網膜内境界膜を基準としてそこから何μm外層方向まで,というように指定する),そこに含まれる情報を抽出して表示すれば,あたかも眼底写真を見るかのような画像を(しかも任意の深さで)得ることができる.こうして得られた画像はEnface画像(“Enface”は「前から見る」の意)とよばれる.OCTAでは,OCTを用いて,同じ場所で,時間のずれたB-scanを複数枚撮影する.このとき得られた時間のずれたOCT像を比較すると,同じ場所の信号強度はほとんど一致しているが,血流のある部分だけは信号強度に変化があらわれる.OCTAではまずその部分を強調して表示する.この血流が強調されたB-scanを上の方法で3D構築すれば,血管が強調された立体的な眼底像を作成でき,さらにEnface表示すれば,眼底の血管構造をそれぞれの深さで,くっきりと描き出すことができる.この画像は見た感じは造影検査に類似していて,眼科医には大変理解しやすい..使用方法検査方法は多少撮影時間が長い以外は通常のOCTとほぼ同じである.Optovue社のAvantiOCTを用いた場合,1回の撮影に要する時間は約0.3秒である.新しい治療と検査シリーズ(73).バックグラウンド眼底の血流検査としてフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン赤外蛍光造影検査(indocyaninegreenangiogra-phy:ICGA)が行われるが,患者負担が大きく,ショックなどの可能性もあり,造影剤を用いない検査が求められていた.光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)が普及し,OCTを用いた新たなテクノロジーが発展してきたことで,非侵襲的に眼底の血管構造を描出できるOCTアンジオグラフィー(opticalcoher-encetomographyangiography:OCTA)が可能となった..OCTアンジオグラフィーの原理と検査法3D-OCTではOCTのB-scan(網膜断面像)を眼底の一定面積分,撮影してゆき,隣同士のB-scan画像をつなぎ合わせていくことにより,立体的な眼底像を作成することができる.この画像を前から見れば眼底写真のような眼底像が得られるはずだが,実際にはOCTでは眼底の浅いところから深いところまでの情報が入り混じってわかりにくくなっている.そこで,眼底の一定の深さ230.OCTアンジオグラフィー(網膜)プレゼンテーション:吉田宗徳名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学コメント:吉田茂生九州大学大学院医学研究院眼科学分野ab図1正常のOCTA像(Opto-vue社AvantiOCT,3×3mm)a:網膜表層血管(superficialcapillaryplexus:SCP),b:網膜深層血管(deepcapillaryplexus,DCP).OCTAではこのように網膜血管を2層に分けて表示可能である.毛細血管の微小な構造まで,よく描出されている.表1蛍光眼底造影とOCTAの比較蛍光眼底造影OCTA造影剤使用ありなし撮影の簡便さやや煩雑簡便深さ別解析できないできる撮影範囲広い狭い解像度普通高い蛍光漏出,プーリングなどの機能的解析できるできない蛍光漏出などによる画像の不鮮明化ありなし時系列による評価できるできないデータ解析においては,網膜浮腫などが存在することによってsegmentation(どの深さの情報を抽出するかということ)がうまくいかないことも多く,この場合は手動でsegmentationを行う必要がある.得られた画像はFAなどとよく似ていて,一般には解釈はそれほどむずかしいものではないが,OCTA特有の性質があり,必ずしも造影検査と所見は一致しない.データ解釈にはこの点をよく考慮する必要がある..本方法のよい点OCTAのよい点としては,まず造影剤を使わないことがある.造影剤不要ということは,撮影の手間や時間も少なくてすみ,患者負担が大幅に軽減される.そこで,検査を頻回に行うことも可能となる.次に,OCTAでは眼底の任意の深さの血管構造のみを抽出できることである.網膜血管は表層毛細血管層(superficialcapillaryplexus:SCP)と深層毛細血管層(deepcapillaryplexus:DCP)に分かれているが,OCTAではこの2層を分けて表示できる.また,加齢黄斑変性などでみられる脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を網膜血管や脈絡膜血管とは区別して表示できる.OCTAでは造影検査と違って造影剤の漏れなどの影響がないので,FAでは漏出した造影剤でかくれてしまう新生血管などの血管でも血管構造を鮮明に描き出せる.得られる画像は非常に精細で造影検査に少しも引けをとらない.近い将来,造影検査の多くはOCTAにとって代わられる可能性が高いと思われる.文献1)JiaY,TanO,TokayerJetal:Split-spectrumamplitudedecorrelationangiographywithopticalcoherencetomography.OpticsExpress20:4710-4725,20122)SpaideRF,KlancnikJMJr,CooneyMJ:Retinalvascularlayersimagedbyfluoresceinangiographyandopticalcoherencetomographyangiography.JAMAOphthalmol133:45-50,20153)IshibazawaA,NagaokaT,TakahashiAetal:Opticalcoherencetomographyangiographyindiabeticretinopathy:Aprospectivepilotstudy.AmJOphthalmol160:35-44,20154)JiaY,BaileyST,WilsonDJetal:Quantitativeopticalcoherencetomographyangiographyofchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology121:1435-1444,20145)TakaseN,NozakiM,KatoAetal:Enlargementoffovealavascularzoneindiabeticeyesevaluatedbyenfaceopticalcoherencetomographyangiography.Retina35:23772383,20156)SuzukiN,HiranoY,YoshidaMetal:Microvascularabnormalitiesonopticalcoherencetomographyangiographyinmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol161:126-132,2016.「OCTアンジオグラフィー(網膜)」へのコメント.近年の眼科画像診断技術の進歩は目覚ましい.補償構造を描出できるが,網膜浮腫など層構造に乱れがあ光学適用眼底走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserる場合,正確な層別構造の描出がむずかしくなる.一ophthalmoscopy:SLO),手術顕微鏡OCTなどと並方,網膜血管からの漏出は判別できないが,FAではんで,OCTアンジオグラフィー(OCTA)は画期的な漏出した造影剤によって不明瞭になりがちな新生血管画像診断技術で,網脈絡膜血管を造影剤なしで描出でを鮮明にとらえることができる.きる.その原理はOCT信号の位相や強度変化をもと現時点では中心窩近傍の血管構造しか描出できないに,三次元網膜血管構造を視覚化するものである.現が,今後技術革新に伴い,FA同様のより広い画角の時点では,蛍光眼底造影検査(FA)と比較して,種々撮影が可能となっていくであろう.吉田宗徳先生も述の長短所があることを理解しつつ使用する必要があべられているように,将来的には,FAの多くがる.OCTであるため,網脈絡膜の任意の深さの血管OCTAにとって代わられる可能性はあると思われる.404あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(74)