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心房中隔欠損による奇異性塞栓により発症した若年の片眼性網膜中心動脈閉塞症の1例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):601〜605,2016©心房中隔欠損による奇異性塞栓により発症した若年の片眼性網膜中心動脈閉塞症の1例中村将一朗*1小林謙信*1高山圭*2*1愛知県厚生農業協同組合連合会海南病院眼科*2名古屋大学眼科学・感覚器障害制御学教室CaseofCentralRetinalArteryOcclusioninYoungMale,CausedbyAtrialSeptalDefect-AssociatedParadoxicalEmbolismShoichiroNakamura1),KenshinKobayashi1)andKeiTakayama2)1)DepartmentofOphthalmology,AichiPrefecturalFederationofAgriculturalCooperativesforHealthandWelfareKainanHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:心房中隔欠損による奇異性塞栓により発症したと考えられた若年の網膜中心動脈閉塞症の症例を経験したので報告する.症例:17歳,男性.起床時より左眼の視力低下・視野障害が出現し,同日正午過ぎに受診した.全身的既往・眼科的既往はなく,就寝時には自覚症状はなかった.初診時視力は右眼矯正1.0,左眼0.1(矯正不可),眼圧は右眼10mmHg,左眼13mmHg,左眼眼底に網膜の蒼白化と桜実紅斑があった.蛍光眼底造影検査で左眼網膜動脈の循環不全を認めたため左眼網膜中心動脈閉塞症と診断し,眼球マッサージ・ウロキナーゼ製剤とプロスタグランジンE1製剤の点滴・内服加療などを実施し,視力・視野の改善を得られた.採血検査で特記すべき異常はなくMRI検査で頸動脈に異常はなかったが,超音波検査で心房中隔欠損が指摘された.結論:若年者の網膜中心動脈閉塞症の原因として心房中隔欠損による奇異性塞栓を考慮にいれる必要がある.Subject:Toreportacaseofcentralretinalarteryocclusion(CRAO)inayoungmale,causedbyatrialseptaldefect-associatedparadoxicalembolism.Casereport:A17-year-oldmalevisitedourdepartmentbecauseofvisualdefectinhislefteyesincethatmorning.Inhislefteye,visualacuitywas2/20andintraocularpressurewas13mmHg.Cherry-redspotandpaleretinawerefoundintheleftfundus.Fluorescenceangiographyshoweddelayofretinalarteryinfusioninhislefteye;wethereforediagnosedCRAO.Ultrasoundexaminationfoundatrialseptaldefect-associatedparadoxicalembolism,whichwasconsideredtobethecauseoftheCRAO.Conclusion:ItispossiblethatyoungpatientswithCRAOhaveatrialseptaldefect-associatedparadoxicalembolism.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):601〜605,2016〕Keywords:網膜中心動脈閉塞症,若年,心房中隔欠損症,奇異性塞栓.centralretinalarteryocclusion,young,atrialseptaldefect,paradoxicalembolism.はじめに網膜中心動脈閉塞(centralretinalarteryocclusion:CRAO)は,一般的に高血圧や糖尿病・心疾患・頸動脈病変などの基礎疾患を有する中高齢者に多く,若年者に発症することは少ない1).若年者に発症したCRAOは原因疾患として膠原病や血管炎が報告されているが2,3),奇異性塞栓によるものという報告はない.今回,心房中隔欠損(atrialseptaldefect:ASD)による奇異性塞栓が原因となって発症したと考えられる若年者のCRAOの1例を経験したので報告する.I症例17歳,男性.起床時より左眼の視力低下・視野障害が出現し,改善がないため,同日正午過ぎに厚生連海南病院救急外来を受診した.眼科既往歴・全身既往歴に特記すべきものはなかった.左側頭部痛が起床時より出現したが,受診時には改善傾向であった.視力は右眼矯正1.0,左眼0.1(矯正不可),眼圧は右眼10mmHg,左眼13mmHg.瞳孔径は明所にて右眼3.5mm/左眼6.5mmと左眼に散瞳を認め,相対的求心路瞳孔反応障害陽性であった.両眼とも前眼部・中間透光体には異常はなく,右眼眼底に異常はなかったが,左眼は中心窩に桜実紅斑と黄斑部上方以外の網膜の乳白色混濁がみられた(図1).頭部・眼窩部CT検査および採血検査(表1)では特記すべき異常はなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で左眼の網膜内循環時間遅延を認め(図2),CRAOと診断し同日緊急入院となった(図3).CRAOの原因精査のため,循環器内科・脳神経外科・膠原病内科で全身精査を行い,超音波検査でASDが指摘された.頸部MRAでは頸動脈に異常所見はなかった.D-マンニトール・アセタゾラミドナトリウム点滴静注,ニトログリセリン舌下内服,眼球マッサージを実施し,診断確定後に線維素溶解療法(ウロキナーゼ24万単位/日とプロスタグランジンE1製剤5μg/日)を7日間実施した.第6病日,検眼鏡的には変化がないが,左眼矯正視力が0.3に改善し,視野も拡大した(図4).蛍光眼底造影検査では網膜内循環時間は正常となった(図4).一般的には動脈硬化性の網膜動脈閉塞症であれば抗血小板薬の内服加療を行うが,今回はASDによる奇異性塞栓が原因として考えられたため,点滴加療より抗凝固薬(ワルファリンカリウム)内服に変更して第12病日に退院となった.第21病日には網膜の乳白色浮腫は消失し正常の色調となり,左眼矯正視力は0.5に改善,視野も拡大し(図5),第146病日では,左眼矯正視力0.4,左眼眼圧14mmHgとなり,視野(図6)はさらに拡大した.網膜光干渉断層計では網膜の乳白色混濁部位で網膜は菲薄化していたが,中心窩の陥凹は浅いが同定できた(図7).II考按網膜動脈閉塞症は,一般に動脈硬化による血栓形成,高血圧症や糖尿病,心臓弁膜症をはじめとする心疾患,内頸動脈閉塞をはじめとする頸動脈病変などの基礎疾患を有する中高齢者に多く,若年者には少ない1).Brownら2)は1967~1979年の13年間のCRAO338人(平均年齢58.5歳)中,30歳未満の患者数は27名であったと報告している.その原因として,中高齢者の場合は網膜細動脈の攣縮,全身の血管病変に関連した血栓症,動脈炎による血栓性閉塞1)やアテローム性血管変化による閉塞がもっとも多く3),若年者では心疾患,血液疾患,膠原病などを基礎疾患とした血管炎4,5),外傷,頸動脈狭窄6)などが報告されているが,原因不明の症例も少なくない.高橋ら7)は,6歳・24歳・29歳の若年者CRAOの3例を報告しているが,いずれの症例も原因不明であった.また,中野ら8)は溶連菌感染症の経過中にCRAOを発症した11歳の例を報告している.若年者では視力予後は中高齢者より比較的良好であるが9,10),予後不良な場合もあり,平均寿命の点からも若年者のCRAOは深刻である.本症例では,原因検索のため頭部・眼窩部CT検査,頸部MRA,採血検査,全身精査をしたが,超音波検査でASDのみを認め,ASDに伴う奇異性塞栓によるものと考えられた.ASDは,胎生期の心房中隔の発達障害により先天的に心房中隔に欠損孔が存在し,欠損孔を通じて左右短絡を生じ右房・右室へ容量負荷をきたすものであり,頻度として全先天性心疾患の約1割前後を占めるといわれている.芳賀らはASDに伴う奇異性塞栓により生じた若年性脳梗塞を報告しているが11),奇異性塞栓によってCRAOが発症したとする報告はなかった.彼らはASDによる奇異性脳塞栓と診断後に組織プラスミノーゲンン活性化因子静注療法を施行して改善を得たが11),本症例でも同様に診断時よりウロキナーゼで加療し,視力が改善し,視野も拡大した.CRAOは網膜循環途絶90~100分で網膜に不可逆性の変化が生じるとされている12).臨床的には発症後48時間以内であれば視機能回復の見込みがあるとされ13),今回の症例では治療開始までの時間が短かったことや,若年者で高血圧・糖尿病・動脈硬化などの他の危険因子がなかったことにより,視力の改善・視野の拡大につながったと考えられる.III結論若年者の網膜中心動脈閉塞症の原因として心房中隔欠損による奇異性塞栓を考慮にいれる必要がある.文献1)堀内二彦:網膜動脈閉塞症.眼科26:1055-1067,19842)BrownGC,MagargalLE,ShieldsJAetal:Retinalarterialobstructioninchildrenandyoungadults.Ophthalmology88:18-25,19813)山之内夘一,小田隆子,高瀬智子:若年者に見られた一側性網膜血行障害について.眼紀22:708-713,19714)BrownGC,MagargalLE:Centralretinalarteryobstructionandvisualacuity.Ophthalmology89:14-19,19825)SorrEM,GoldburgRE:Traumaticcentralretinalarteryocculusionwithsicklecelltrait.AmJOphthalmol80:648-652,19756)張野正誉,三浦玲子,渡辺仁ほか:網膜動脈閉塞における頸動脈病変.眼紀36:2274-2278,19857)高橋寧子,堀内二彦,大野仁ほか:若年者の網膜動脈閉塞症の3例.眼紀41:2258-2262,19908)中野直樹,吉田泰弘,周藤昌行ほか:11歳女児の網膜中心動脈閉塞症.眼紀43:161-164,19929)地場奈実,地場達也,飯島裕幸:若年者の網膜中心動脈閉塞症.眼科44:1837-1843,200210)前田貴美人,鈴木純一,田川博ほか:網膜動脈閉塞症の治療成績.眼紀51:148-152,200011)芳賀智顕,佐光一也,増渕雅広ほか:若年性脳梗塞を契機に診断にいたった心房中隔欠損症の1例.心臓45:195-199,201312)HayrehSS,KolderHE,WeingeistTA:Centralretinalarteryocclusionandretinaltolerancetime.Ophthalmology87:75-78,198013)AugsburgerJJ,MagargalLE:Visualprognosisfollowingtreatmentofacutecentralretinalarteryobstruction.BrJOphthalmol64:913-917,1980〔別刷請求先〕中村将一朗:〒498-8502愛知県弥富市前ケ須町南本田396番地愛知県厚生農業協同組合連合会海南病院眼科Reprintrequests:ShoichiroNakamura,DepartmentofOphthalmology,AichiPrefecturalFederationofAgriculturalCooperativesforHealthandWelfareKainanHospital,396Minamihonda,Maegasu-cho,Yatomicity,Aichi498-8502,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(119)601図1初診時の眼底所見左直接対光反射が減弱していた.前眼部・中間透光体には異常はみられなかったが,左眼黄斑部の桜実紅斑と網膜の乳白色混濁がみられた.表1血液検査の結果総蛋白7.3g/dlPT%87.4%アルブミン4.9g/dlPT秒12.5秒総ビリルビン1.2mg/dlAPTT26.8秒AST21IU/L血清補体価44.5CH50U/mlALT21IU/LC3104mg/dlアルカリフォスファターゼ264IU/LC417mg/dlクリアチニン0.89mg/dl抗核抗体<40尿素窒素14.1mg/dl抗カルジオリピンB2グリコプロテイン複合体抗体(−)血糖値(随時)106mg/dl抗カルジオリピン抗体(−)HbA1C(NGSP)5.6%ループスアンチコアグラント(−)CRP0.02mg/dlC-ANCA(−)総コレステロール量197mg/dlP-ANCA(−)白血球数4800/μl抗SS-A抗体(−)赤血球数512×104/μlリウマトイド因子(−)ヘモグロビン15.1g/dlヘマトクリット値45.9%血小板数21.7×104/μl血沈1mm/時図2初診時の蛍光眼底造影所見フルオレセイン蛍光眼底造影検査で左眼の網膜内循環時間遅延を認めた.602あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(120)図3初診時の左眼視野図4第6病日の左眼カラー・蛍光眼底造影所見と視野フルオレセイン蛍光眼底造影検査で左眼の網膜内循環再灌流を確認.左眼視野も改善がみられた.(121)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016603図5第21病日の左眼カラー眼底所見と視野網膜の乳白色浮腫は消失した.視野の改善がみられた.図6第146病日の左眼視野視野の改善がみられた.604あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(122)図7第146病日の網膜光干渉断層計網膜の乳白色混濁部位で網膜は菲薄化していたが,中心窩の陥凹は浅いが同定できた.(123)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016605

治療経過中に視神経乳頭陥凹・網膜神経線維層厚の変動を認めた急性原発閉塞隅角緑内障の1例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):597〜600,2016©治療経過中に視神経乳頭陥凹・網膜神経線維層厚の変動を認めた急性原発閉塞隅角緑内障の1例石崎典彦*1大須賀翔*2大野淳子*3木村大作*2佐藤孝樹*2小嶌祥太*4植木麻理*4杉山哲也*5池田恒彦*4*1八尾徳州会総合病院眼科*2高槻赤十字病院眼科*3南大阪病院眼科*4大阪医科大学眼科学教室*5中野眼科医院ChangesinCup-to-DiscRatioandRetinalNerveFiberLayerThicknessinaCaseofAcutePrimaryAngle-ClosureGlaucomaDuringTreatmentNorihikoIshizaki1),ShouOosuka2),JunkoOono3),DaisakuKimura2),TakakiSato2),ShotaKojima4),MariUeki4),TetsuyaSugiyama5)andTsunehikoIkeda4)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedCrossHospital,3)DepartmentofOphthalmology,MinamiosakaHospital,4)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,5)NakanoEyeClinic目的:急性原発閉塞隅角緑内障(APACG)の治療経過中に視神経乳頭陥凹比(C/D),視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)が変動した症例の報告.症例:56歳,女性,左眼痛,充血があり,左眼の眼圧は61mmHg,左眼のC/Dは0.7だった.左眼APACGと診断した.投薬で隅角の閉塞が解除され,その後の眼圧は13〜16mmHgだった.初診の1週間後に左眼C/Dが0.5に減少し,治療前と比較して視神経乳頭陥凹底深度が浅化,RNFLが増加した.1カ月後に左眼C/Dが0.7に増加し,左眼RNFLが治療前と比較して減少傾向で,その後も進行した.点眼加療により左眼眼圧は11〜12mmHgとなったが,2〜4カ月後にかけて左眼の視野障害が進行した.結論:APACGは眼圧が正常化しても形態的,機能的変化に注意が必要である.Purpose:Toreportchangesincup-to-disc(C/D)ratioandperipapillaryretinalnervefiberlayer(RNFL)thicknessinapatientwithacuteprimaryangle-closureglaucoma(APACG)duringtreatment.Case:A56-yearoldfemalepresentedwithpainandhyperemiainherlefteye.Intraocularpressure(IOP)inthateyewas61mmHg;C/Dratiowas0.7.WethereforediagnosedAPACG.Afterangle-closureintheeyehadbeenreleasedbymedication,IOPrangedfrom13-16mmHg.C/Dratiointheeyewasreducedto0.5,opticdisccuppingdepthbecameshallowerthanatfirstvisit,andRNFLshowedatendencytodecrease.IOPintheeyewasfurtherdecreasedto11-12mmHgwithmedication,yetvisualfielddefectprogressedfrom2to4monthspost-treatment.Conclusions:CloseattentionshouldbepaidtomorphologicalandfunctionalchangeintheopticnerveofpatientswithAPACG,evenwhenIOPisnormalized.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):597〜600,2016〕Keywords:原発閉塞隅角緑内障,視神経乳頭陥凹比,網膜神経線維層.primaryangle-closureglaucoma,cup-todiscratio,retinalnervefiberlayer.はじめに小児の緑内障では,眼圧の正常化とともに拡大していた視神経乳頭陥凹が縮小することがある1〜3).成人でも同様の現象が報告されている4〜6)が,小児と比較して稀である.今回,急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangle-closureglaucoma:APACG)の治療経過中に視神経乳頭陥凹比(cup-to-discratio:C/D),視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(peripapillaryretinalnervefiberlayerthickness:RNFL)が変動した1例を経験したので報告する.I症例患者:56歳,女性.主訴:左眼の痛み,充血.既往歴:精神発達遅滞,統合失調症,てんかん.現病歴:2013年11月に3日前からの左眼の痛み,充血があり,近医を受診し,左眼の隅角閉塞による眼圧上昇と診断された.同日,加療目的に高槻赤十字病院眼科へ紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.5(0.8×sph+2.0D(cyl−0.5DAx90°),左眼0.4(0.6p×sph−0.5D).眼圧は右眼19mmHg,左眼61mmHg.前眼部所見では両眼ともに浅前房,左眼に充血,軽度の角膜浮腫,周辺前房の消失を認めた.左眼の瞳孔は中等度散瞳しており,対光反射は認めなかった.中間透光体は両眼ともに軽度の白内障を認めた.眼底はC/Dが右眼0.4,左眼0.7だった.光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)(カールツァイス社製シラスHD-OCT)では右眼と比較して,陥凹底は左眼が深く,RNFLは左眼が厚かった.経過:20%D-マンニトール400ml,アセタゾラミド500mgの点滴投与を行ったところ,眼圧は右眼5mmHg,左眼12mmHgに低下し,隅角の閉塞が解除された.隅角閉塞の再発予防のために2%ピロカルピン点眼を左眼に開始し,両眼ともに水晶体再建術を予定した.初診後6日後に左眼,20日後に右眼に超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行した.術中,術後合併症はとくになく,手術後の前房深度は正常となり,矯正視力は1.0に改善した.ピロカルピン点眼は中止した.左眼のC/Dは初診後6日後に0.5に減少し,15日後には0.5,49日後以降は0.7と経時的に変化した(図1).左眼のRNFLは初診時から6日後にかけて増加,以降は経時的に減少傾向を示した(図2).Humphrey自動視野計(プログラムSITA-STANDARD)により測定した左眼の視野は49〜128日後にかけて,平均偏差(meandeviation:MD)が低下傾向を示し,視野障害が進行した(図3).手術後の左眼眼圧は13〜16mmHgだった.視野障害の進行を認めたため,128日後からラタノプロスト点眼を左眼に開始し,眼圧は11〜12mmHgに低下した.視野障害がさらに進行したので161日後からラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩の配合剤に変更し,眼圧は12mmHg程度となった.161日後以降の視野検査では視野障害の増悪は認めておらず,経過観察中である(図3,4).II考察小児緑内障は,眼圧の上昇により早期に視神経乳頭陥凹が拡大し,眼圧の正常化により陥凹の改善がみられることがある.成人,乳児の検死,献体の実験的研究により,乳児は篩状板のコラーゲン組織が未完成であるため,圧により視神経乳頭組織が圧迫もしくは後方移動すると考えられている7).成人における可逆性視神経乳頭陥凹は,これまでにも複数の報告4〜6)があるが,小児と比較して強膜の伸縮性が低いため稀とされている3).急性原発閉塞隅角症において,眼圧下降後に篩状板,前篩状板組織の位置が前方移動することがOCTにより観察されたと報告されている8).また,暗室うつむき試験により15mmHg以上の眼圧上昇を認めた原発閉塞隅角症疑いにおいて,試験前と比較して試験直後に視神経乳頭陥凹の深さは深化,視神経乳頭陥凹幅は拡大,乳頭リムの幅は縮小に有意な変化がOCTにより観察されたと報告されている9).本症例における初診時の視神経乳頭陥凹の深さ,C/Dの拡大はこれらの現象の極端に大きなものと推測される.急性緑内障の動物実験研究から軸索の水腫変性による視神経乳頭浮腫が4日以内に発生すること10),OCTによる臨床研究からAPACGは発症から3日以内に顕著にRNFLが増加し,その後減少したとの報告11)は,本症例のRNFLの変化と一致している.本症例のC/Dの変化とRNFL変化についてOCT所見,静的視野検査所見より以下のように推測した.初診時は高眼圧により篩状板が後方移動したことによりC/Dが増加していた.高眼圧に伴う視神経乳頭浮腫のためRNFLは増加しており,治療による眼圧の低下に伴って篩状板の位置が戻ったことによりC/Dが減少した.浮腫によりいったん増加していたRNFLは視神経乳頭浮腫の軽減と緑内障性視神経障害の進行に伴い減少し,再度C/Dが増加した.緑内障性と考えられる視野異常が約4カ月間進行したが,以降は停止した.眼圧下降点眼薬の投与により,超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術直後の眼圧よりも眼圧の下降が得られたため,自然経過なのか,眼圧の下降による効果なのかは不明である.APACGは眼圧低下後も形態的,機能的変化をきたすことがあり,眼圧が正常化した後も注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KessingSV,GregersenE:Thedistendeddiscinearlystagesofcongenitalglaucoma.ActaOphthalmol(Copenh)55:431-435,19772)QuigleyHA:Childhoodglaucoma:resultswithtrabeculotomyandstudyofreversiblecupping.Ophthalmology89:219-226,19823)MochizukiH,LesleyAG,BrandtJD:Shrinkageofthescleralcanalduringcuppingreversalinchildren.Ophthalmology118:2008-2013,20114)KatzLJ,SpeathGL,CantorLBetal:Reversibleopticdiskcuppingandvisualfieldimprovementinadultswithglaucoma.AmJOphthalmol107:485-492,19895)鈴村弘隆:検眼鏡的に乳頭陥凹の改善をみた続発緑内障の1例.あたらしい眼科23:665-668,20066)KakutaniY,NakamuraM,Nagai-KusuharaAetal:Markedcupreversalpresumablyassociatedwithscleralbiomechanicsinacaseofadultglaucoma.ArchOphthalmol128:139-141,20107)QuigleyHA:Thepathogenesisofreversiblecuppingincongenitalglaucoma.AmJOphthalmol74:358-370,19778)ParkHY,ShinHY,JungKetal:Changesinthelaminaandprelaminaafterintraocularpressurereductioninpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandacuteprimaryangle-closure.InvestOphthalmolVisSci55:233-239,20149)JiangR,XuL,LiuXetal:Opticnerveheadchangesaftershort-termintraocularpressureelevationinacuteprimaryangle-closuresuspects.Ophthalmology122:730-737,201510)ZimmermanLE,DeVeneciaG,HamasakiDI:Pathologyoftheopticnerveinexperimentalacuteglaucoma.InvestOphthalmol6:109-125,196711)LiuX,LiM,ZhongYMetal:Damagepatternsofretinalnervefiberlayerinacuteandchronicintraocularpressureelevationinprimaryangleclosureglaucoma.IntJOphthalmol3:152-157,2010〔別刷請求先〕石崎典彦:〒581-0011大阪府八尾市若草町1番17号八尾徳州会総合病院眼科Reprintrequests:NorihikoIshizaki,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusachou,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(115)597図1左眼視神経乳頭部写真a:初診時乳頭.C/D0.7.b:6日後.C/D0.3.c:15日後.C/D0.5.d:49日後.C/D0.7.図2視神経乳頭部OCTa:初診時.b:6日後.c:15日後.d:79日後.初診時は左眼(OS)の乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)が右眼(OD)と比較して厚く,6日後にかけてさらに肥厚した.15日後以降はOSのRNFLは菲薄化した.初診時の視神経乳頭陥凹底は深くなっており,6日後には浅くなっていた.598あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(116)図3左眼Humphrey自動視野計視野異常が初診49〜128日後にかけて悪化傾向を認める.図4左眼の経過(117)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016599600あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(118)

虹彩炎の急性増悪を呈した風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):594〜596,2016©虹彩炎の急性増悪を呈した風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例坪田裕喜子*1藤野雄次郎*1寺尾亮*1杉崎顕史*1田邊樹郎*1蕪城俊克*2*1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科*2東京大学医学部眼科学教室ACaseofRubellaVirus-associatedFuchsUveitiswithAcuteExacerbationofIridocyclitisYukikoTsubota1),YujiroFujino1),RyoTerao1),KenjiSugisaki1),TatsuroTanabe1)andToshikatsuKaburaki2)1)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandFacultyofMedicine,TheUniversityofTokyo虹彩炎の急性増悪を生じた風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例を報告する.症例は59歳,男性.2011年に左眼の虹彩毛様体炎を発症し,虹彩萎縮や白内障からFuchsぶどう膜炎が疑われた.症状改善後,通院を自己中断していた.ほぼ3年後に左眼の霧視,眼痛,充血を自覚し再受診した.左眼角膜に角膜皺襞と大小不同のびまん性の角膜後面沈着物,虹彩毛様体炎,虹彩萎縮,高度な白内障がみられ,左眼視力は0.02であった.前房水採取時,Amsler’ssign陽性であった.風疹ウイルスの抗体価率(Q値)が49であり,風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎と診断した.ステロイド薬点眼治療で炎症は鎮静化した.本症例は片眼の急性虹彩炎症状を呈したが,虹彩萎縮と白内障がみられ,前房水から高い抗風疹ウイルスIgG抗体が検出されたことから診断を確定できた.Fuchsぶどう膜炎は急性虹彩炎を呈することがあると考えられた.Wereportacaseofrubellavirus-associatedFuchsuveitiswithacuteexacerbationofiridocyclitis.Thepatient,a59-year-oldmale,developedacuteiridocyclitisinhislefteyein2011.WesuspectedFuchsuveitisbecauseofirisatrophyandcataract.Aftersymptomimprovement,hestoppedcomingforcheck-upsonhisownaccord.Threeyearslater,hepresentedwithnephelopsia,ophthalmalgiaandcongestioninthelefteye;healsoexhibitedDescemet’smembranefolds,keraticprecipitates,iridocyclitis,irisatrophyandcataract.WeperformedananteriorchamberpunctureoftheeyeandlookedforAmsler’ssign.TheaqueoushumoursamplewasanalyzedforintraocularantibodyproductionagainstrubellavirusbycalculationoftheGoldmann-Witmercoefficient(GWC=49).Wediagnosedrubellavirus-associatedFuchsuveitis.Thiscasehadacuteiridocyclitis,butwediagnosedFuchsuveitisduetoirisatrophy,cataractandantibodyproductionagainstrubellavirus.ThiscasereportsuggeststhatFuchsuveitiscanoccurwithacuteiridocyclitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):594〜596,2016〕Keywords:Fuchsぶどう膜炎,急性虹彩炎,風疹ウイルス,風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎.Fuchsuveitis,acuteiridocyclitis,rubellavirus,rubellavirus-associatedFuchsuveitis.はじめにFuchs虹彩異色性毛様体炎(以下,Fuchsぶどう膜炎)は虹彩異色(虹彩萎縮),虹彩毛様体炎,白内障を3主徴とする疾患である.自覚症状は視力低下や霧視,飛蚊症などのことが多く,強い結膜・毛様充血や眼痛などの急性炎症症状は認めないことも特徴の一つとされている1,2).また,近年,本症の原因として風疹ウイルスの関与が指摘されており,眼内液に風疹ウイルスに対する抗体,風疹ウイルスあるいはRT-PCRで風疹ウイルスRNA-陽性が得られた症例については風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎(rubellavirusassociatedFuchsuveitis)とよばれることがある3,4).これまでの5つの報告での合計151例中149例に抗風疹ウイルス抗体が検出されている5).これまで,急性炎症をきたしたFuchsぶどう膜炎症例がいくつかの文献でみられるが,詳細な症例報告はなく,わが国での報告もない.今回,急性虹彩毛様体炎を起こした風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例を経験したので報告する.I症例症例は57歳,男性で,2011年2月,左眼の霧視を自覚し,近医受診.左眼の虹彩炎と続発緑内障(左眼眼圧32mmHg)を指摘され,左眼にベタメタゾン(0.1%)点眼1日4回,カルテオロール(2%)点眼1日1回を処方され,3日後に当科紹介初診された.当科初診時,視力は右眼(1.2×sph−5.25Dcyl−1D70°),左眼0.03(0.5×sph−6Dcyl−1.25D80°).眼圧は右眼16mmHg,左眼15mmHg.右眼は前眼部,中間透光体,眼底とも正常.左眼は全体に分布する細かい角膜後面沈着物と大きな角膜後面沈着物とがみられた.前房内2+の細胞とフレア,虹彩萎縮があり,KoeppeおよびBussaca結節もみられた(図1).隅角は両眼III度開放隅角で,左眼は色素の多い隅角であった.水晶体は核白内障がみられた.眼底は黄斑の下方に網脈絡膜変性巣がみられた.前房水を採取しPCR法にて単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)およびサイトメガロウイルス(CMV)-DNAを調べたが,いずれも陰性であった.血液生化学検査では白血球数が軽度上昇の他は異常なく,抗humanT-cellleukemiavirustype1抗体陰性,抗トキソプラズマ抗体陰性,梅毒血清反応陰性,angiotensinconvertingenzymeは正常範囲であった.既往歴,家族歴はとくになく,口内炎,皮膚疾患,炎症性腸炎,関節炎症状,糖尿病もなかった.風疹ウイルスの予防接種歴はなく,風疹の既往は不明であった.左眼に両点眼を継続し虹彩炎症状はしだいに軽快していったが,患者は2月中のみ受診し,その後は診察を自己中断し,来院しなかった.その約3年後の2013年12月に左眼の霧視,眼痛,結膜充血を自覚し,当院を受診した.患者はこの3年間,左眼の視力低下を自覚していたが眼痛や充血の自覚は一度もなかった.視力は右眼(0.9×sph−3.75D),左眼0.02(n.c.).眼圧は右眼21mmHg,左眼22mmHg.左眼は毛様充血がみられ,角膜に角膜皺襞と大小不同のびまん性の角膜後面沈着物,前房内2+の細胞とフレア,虹彩萎縮,高度の白内障を認めた(図2).軽度の虹彩後癒着もみられたが,散瞳によって解除され,水晶体前囊上に軽度の色素沈着が残った.また前部硝子体混濁と眼底の前回と同じ部位に網脈絡膜萎縮を認めた.前房水を採取したところ前房出血(Amsler’ssign)を認めた.再度,前房水のHSV,VZVおよびCMV-DNAPCRを施行したがいずれも陰性であった.しかしながら前房水の風疹ウイルスの抗体価率(Q値)は49であった.血液生化学検査では前回と同様,白血球数の軽度上昇以外に異常項目はなく,全身の異常もなかった.0.1%ベタメタゾンを2時間おき,トロピカマイド・フェニレフリン1日4回の点眼加療を開始した.点眼加療後,角膜所見,前房内炎症ともに改善を認め,点眼を漸減した.2014年4月に左眼白内障手術を施行し,矯正視力0.9に改善した.術前の角膜内皮細胞数は右眼2,603,左眼2,504/mm2で両眼に差はなかった.以降,急性炎症はなく,術後1年を経過した時点で経過良好である(図3).II考按Fuchsぶどう膜炎の診断は慢性の軽微な虹彩炎,びまん性の虹彩萎縮あるいは虹彩異色,星状の角膜後面沈着物,白内障,前部硝子体混濁の存在,また虹彩後癒着がないことなどから診断される1,2).前房水採取時にみられるAmsler’ssignや眼内の抗風疹ウイルス抗体測定も診断手段として有用である5,6).本症例は,虹彩炎,虹彩萎縮,白内障,硝子体混濁が認められ,Fuchsぶどう膜炎に合致する症状を呈していた.また,Amsler’ssignがみられ,2回目の急性炎症時の前房水検査で抗風疹ウイルス抗体が陽性であり高いQ値を示したことから,本症は風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎と診断した.鑑別診断としては,Posner-Schlossman症候群があげられる.しかしながらPosner-Schlossman症候群も急性炎症症状を起こすことはなく,また眼圧上昇がより高度である.Posner-Schlossman症候群は半数の症例でCMVの関与が指摘されているが,本症例はCMV-DNAが陰性であった7).本症は,最初の急性虹彩炎出現時に,すでに虹彩萎縮を認めていたことから,もともと本人の気付かない慢性の虹彩炎が持続していたうえに虹彩炎の急性増悪が生じたと考えられた.通常,Fuchsぶどう膜炎は慢性の経過を取ることが特徴の一つとされているが,まれに急性炎症を起こすことが報告されている.Jonesらは,Fuchsぶどう膜炎103例中2例は前房中に2+の細胞,1例は3+の細胞がみられたと報告しており,Fuchsぶどう膜炎の臨床症状は従来いわれてきたものより多彩で,当初は急性虹彩炎と似ていることがあるとしている8).Wensingらは風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎54例中2例に急性症状が,56例中8例で2+以上の前房内細胞が,55例中4例で虹彩後癒着がみられたと報告している9).このように頻度は少ないがFuchsぶどう膜炎でも急性の炎症症状を伴う症例が存在する.日本人の茶褐色の虹彩では虹彩異色はまれで,虹彩萎縮が虹彩の特徴となるが,虹彩萎縮,白内障,虹彩毛様体炎,硝子体混濁のある症例では,急性炎症症状であってもFuchsぶどう膜炎を念頭に検査をすることが重要であると考えられた.文献1)KimuraSJ,HoganMJ,ThygesonP:Fuchs’syndromeofheterochromiccyclitis.ArchOphthalmol54:179-186,19552)MohamedQ,ZamirE:UpdateonFuchs’uveitissyndrome.CurrOpinOphthalmol16:356-363,20053)QuentinCD,ReiberH:Fuchsheterochromiccyclitis:rubellavirusantibodiesandgenomeinaqueoushumor.AmJOphthalmol138:46-54,20044)deVisserL,BraakenburgA,RothovaAetal:Rubellavirus-associateduveitis:clinicalmanifestationsandvisualprognosis.AmJOphthalmol146:292-297,20085)KrepsEO,DerveauxT,KeyserFDetal:Fuchs’uveitissyndrome:Nolongerasyndrome?OculImmunolInflammAug19:1-10,20156)Bloch-MichelE,FrauE,ChhorSetal:Amsler’ssignassociatedsignificantlywithFuchs’heterochromiccyclitis(FHC).IntOphthal19:169-171,19967)CheeSP,JabA:PresumedfuchsheterochromiciridocyclitisandPosner-Schlossmansyndrome:comparisonofcytomegalovirus-positiveandnegativeeyes.AmJOphthalmol146:883-889,20088)JonesNP:Fuchs’HeterochromicUveitis:areappraisaloftheclinicalspectrum.Eye5:649-661,19919)WensingB,RelvasLM,CaspersLEetal:Comparisonofrubellavirus-andherpesvirus-associatedanterioruveitis:clinicalmanifestationsandvisualprognosis.Ophthalmology118:1905-1910,2011〔別刷請求先〕坪田裕喜子:〒162-8543東京都新宿区津久戸町5-1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科Reprintrequests:YukikoTsubota,DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter,5-1Tsukudo-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8543,JAPAN594(112)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY図12011年2月初診時a:虹彩縁にKoeppe結節(矢印①)を認める.またBussaca結節も認める(矢印②).b:角膜には全体に分布する細かい角膜後面沈着物と大きな角膜後面沈着物とがみられる.図22013年12月急性増悪時角膜皺襞と大小不同のびまん性の角膜後面沈着物,前房炎症,虹彩萎縮,高度の白内障を認める.(113)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016595図3白内障術後1年経過時左:僚眼,右:患眼.患眼は虹彩萎縮がみられる.596あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(114)

周術期2%レバミピド点眼液による白内障術前後の眼表面保護効果

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):589〜593,2016©周術期2%レバミピド点眼液による白内障術前後の眼表面保護効果今野公士*1,2山田昌和*2重安千花*2近藤義之*1*1近藤眼科*2杏林大学医学部眼科学教室Effectof2%RebamipideOphthalmicSolutiononOcularSurfaceafterCataractSurgeryKimihitoKonno1,2),MasakazuYamada2),ChikaShigeyasu2)andYoshiyukiKondo1)1)KondoEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine目的:低侵襲白内障術後でも,角膜上皮障害(SPK)を呈する症例を認める.2%レバミピド点眼液を術前後28日間併用し,眼表面の状態と自覚症状を検討した.対象および方法:無作為抽出した32例47眼(平均年齢76.4±4.9歳,男性13例女性19例)を対象に2%レバミピド点眼液を併用した群(A群)と併用しなかった群(B群)に分けて検討した.Schirmer変法第1法,涙液層破壊時間(BUT),SPKの程度を評価し,自覚症状をDEQS質問表で調査した.結果:Schirmer値は両群に有意な変化を認めなかったが,BUTはA群で術後1週,2週において術前と比較して有意に延長した(p<0.01).SPKスコアはA群で術前と比較して術後1週で有意に減少していた(p<0.01).DEQSは両群ともに術前と比較して術後1週で有意に減少した(A群:p<0.01,B群:p<0.05).考察:DEQSが白内障術後に両群で改善したのは視機能の改善によるものと考えられた.2%レバミピド点眼液を白内障周術期に併用すると,BUTが延長し,SPKの改善に効果があり,周術期の眼表面管理および保護に有用と考えられた.Purpose:Toevaluatetheprotectiveeffectsof2%rebamipideeyedropsonocularsurfacedamagecausedduringandaftercataractsurgery.CasesandMethod:Randomlydividedintotwogroupswere47eyesof32cases(13malesand19females,averageage76.4±4.9yrs)whounderwentcataractsurgery.ThepatientsinGroupAwereprescribed2%rebamipideeyedropsfor28daysaroundtheperioperativeperiod;thepatientsinGroupBdidnotreceiverebamipide.Schirmer’stest,tearfilmbreak-uptime(BUT)andfluoresceincornealstainingscore(FCS)bythescaledNationalEyeInstitutemethodwereexamined.Ocularsymptomswerealsoevaluatedineachpatientbeforeandaftersurgery,usingtheDryEyerelatedQualityofLifeScore(DEQS)questionnaire.Results:TherewerenosignificantdifferencesinSchirmer’stestlevelbetweenthepreoperativeandpostoperativephases,thoughtheTBUTvaluesofGroupAatweeks1and2weresignificantlyextendedincomparisontothepreoperativeperiod(p<0.01).FCSscoresinGroupAweresignificantlylowerthaninGroupBatweeks1and2(p<0.01).DEQSwassignificantlyimprovedcomparedtothevaluebeforedrugadministrationinGroupA(p<0.01)andGroupB(p<0.05).Conclusion:Itisconsideredthat2%rebamipideimprovesBUTandfacilitateshealingofsuperficialpunctatekeratopathycausedbycataractsurgery.Therefore2%rebamipidesolutionhasefficacyforocularsurfaceprotection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):589〜593,2016〕Keywords:2%レバミピド点眼液,白内障周術期,涙液層破壊時間,角膜上皮障害,眼表面保護.2%rebamipideeyedrops,cataractsurgery,tearfilmbreak-uptime,superficialpunctatekeratopathy,ocularsurfaceprotection.はじめに昨今の低侵襲の白内障手術においても,手術時の洗眼や開瞼による乾燥,術前後の点眼薬などにより術後に角膜上皮障害(superficialpunctatekeratopathy:SPK)を呈する症例を時おり認める1~4).白内障術後の矯正視力がそれほど改善しなかった症例,もしくは視力が改善していても不満をもつ症例は,術後のSPKが原因であることも多い.近年,2%レバミピド点眼液(ムコスタ点眼液UD2%,大塚製薬株式会社)は角結膜のムチン増加作用5,6)に加えて,結膜ゴブレット細胞の増加作用7)や角結膜上皮微細構造の修復作用8)などが報告されている.今回筆者らは,合併症のない白内障手術症例において2%レバミピド点眼液を周術期に計28日間併用し,術前後の眼表面の状態および自覚症状についてプロスペクティブに調査,検討したので報告する.I対象2014年6月24日~9月30日に近藤眼科にて白内障手術を施行し,無作為に組み入れを企図した症例42例60眼のうち,術中合併症がなく,10分以内に白内障手術を遂行した症例32例47眼(男性13例,女性19例,平均年齢76.4±4.9歳)を解析対象とした.これらの対象に対し,手術2週前より2%レバミピド点眼液を1日4回点眼併用かつ術後2週まで併用する群をA群とし,2%レバミピド点眼液を併用しない群をB群とに区分けした.今回の点眼投与方法は,従来のドライアイに対する一般的投与方法と同様に1日4回とし,これをレバミピド点眼加療として行った.A群は17例26眼(平均年齢:75.9±5.4歳),B群は15例21眼(平均年齢:76.8±4.5歳)である.術前にドライアイと診断され,人工涙液もしくはヒアルロン酸ナトリウム点眼,3%ジクアホソルナトリウム点眼液,2%レバミピド点眼液をすでに使用されていた患者,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群,Sjögren症候群,試験開始6カ月以内の眼手術の既往,コンタクトレンズの使用,試験期間中の放射線療法,前述以外に担当医が不適切と判断した患者は除外した.II方法術前洗眼は10%希釈PAヨードを使用した.白内障手術は2.4mmの角膜切開法を用い,水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入法を施行した.術前点眼は0.3%トスフロキサシン(トスフロ点眼液0.3%,日東メディック株式会社)を術眼に術日3日前から1日4回使用した.術後点眼は,ジクロフェナックナトリウム点眼(ジクロード点眼液0.5%,わかもと製薬株式会社),レボフロキサシン点眼(クラビット点眼液0.5%,参天製薬株式会社),デキサメタゾン点眼(サンテゾーン点眼液0.1%,参天製薬株式会社)を使用した.検討項目は,Schirmer試験(第1法変法による),涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT),SPKはNationalEyeInstitute染色スコアを用いて評価9)した(図1).スコアは点状染色を認めない正常を0点,点状のフルオレセイン染色が隣接せず疎な場合を1点,点状のフルオレセイン染色のほとんどが密に隣接している場合を3点として,1点と3点の中間を2点としてスコア化する.つぎにDryEyerelatedQualityofLifeScore(DEQS)質問票10)を用いて,眼の症状と日常生活への影響を含む自覚症状を解析した.DEQSは眼の症状6項目,日常生活への影響9項目の各々の頻度と程度を問う質問票であり,QOLスコアは,各項目の重症度スコア/有効回答項目数×25で算出する.術前(Pre),術後翌日(1D),術後1週間(1W),2週間(2W)でSchirmer値,BUT,SPKスコア,DEQSの経時的変化と2群間における比較を行った.統計学的検定にはWilcoxonsignedranktestを用い,有意水準は5%とした.III結果Schirmer値(以下,第1法変法の値)はPre:A群8.9±3.7mm,B群12.2±8.8mm,1W:A群8.0±3.8mm,B群10.9±5.9mm,2W:A群7.8±4.4mm,B群9.9±4.4mmで,両群ともに術前後で有意な変化を認めなかった.BUTはPre:A群4.3±2.1秒,B群4.8±1.5秒,1D:A群5.3±2.3秒,B群4.7±1.9秒で両群ともに術前と1Dでは変わらなかった.しかし,1W:A群7.3±2.0秒,B群5.4±2.3秒,2W:A群8.2±2.0秒,B群5.5±2.0秒であり,A群においてのみPreと比較して1W,2Wともに有意に延長した(いずれもp<0.01,Wilcoxonsignedranktest)(図2).SPKスコアはPre:A群3.1±2.4,B群2.3±2.1であり,1D:A群2.8±2.4,B群2.8±2.4,1W:A群1.3±1.8,B群1.8±1.6,2W:A群0.6±1.1,B群1.8±2.5であった(図3).A群においてのみPreと比較して1W,2Wでスコアは有意に減少した(いずれもp<0.01,Wilcoxonsignedranktest).自覚症状スコア(DEQS)は,Pre:A群20.6±19.5,B群11.7±13.2,1W:A群9.6±10.9,B群3.1±3.7,2W:A群4.9±7.3,B群2.6±3.4であった.両群ともに術前と比較して術後1W,2Wで有意に減少した(いずれもp<0.05,Wilcoxonsignedranktest).しかし,A群の2例に術前術後のDEQSがほとんど改善しない症例を認めた.うち1例は,検討項目の4の“眼が疲れる”と6の“眼が赤くなる”,14の“眼の症状のため外出を控えがち”がそれぞれ1点増悪していた.また,他の1例では7の“眼を開けているのがつらい”と,14の“眼の症状のため外出を控えがち”に,それぞれ1点増悪していた.IV考察白内障術後に発症するSPKには,抗菌薬やステロイド,非ステロイド性抗炎症薬など点眼薬の影響,角膜切開による角膜知覚神経の切断,術中の洗眼や開瞼維持による機械的・化学的侵襲,術後の炎症反応などさまざまな要因が関係すると考えられている.要因の多くは術中や術直後に生じるため,SPKも術後比較的早期に出現し,早期に収束に向かうといわれている4).近年普及した小切開白内障手術により,以前に比べて手術侵襲の軽減,手術時間の短縮,術後炎症の軽減が図られている.しかし,術中の合併症なしに短時間で手術を終了した症例においても,術後にSPKを認めることが少なくない.このことは,現代の白内障手術においても手術侵襲や周術期に使用する点眼液が角膜上皮に少なからず影響を及ぼすことを示している.涙液と眼表面上皮は一方が障害されると他方にも影響を及ぼす関係にあるため,手術によってどちらか一方が障害されると両者の関係に悪循環が生じやすくなる11,12).このように白内障周術期の眼表面は短時間でも悪循環が起きやすく,ドライアイに伴う視力低下や眼不快感が発生しやすいといえる.こうした術後ドライアイに対する点眼治療では,水分補給を目的とした人工涙液および水分保持作用をもつヒアルロン酸ナトリウム点眼液が一般に使用されてきた.しかし,人工涙液は水分と電解質を補給するという意味では有効であるが,その効果持続時間は5分程度と短く,症状を抑えるためには頻繁に点眼する必要がある13).ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の主作用である保水効果も持続時間は15分程度であり,涙液量がきわめて少ない場合に頻回点眼すると,ヒアルロン酸ナトリウムが眼表面の少ない水分を吸収して,ドライアイがかえって増悪する可能性があるといわれている14).また,眼表面のバリア機能が低下しているドライアイの患者においては,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の多くに防腐剤として含まれているベンザルコニウム塩化物が,角膜や結膜に障害を与えると報告されている15,16).一方,ドライアイで角膜や結膜上皮の障害が生じると眼表面上皮のムチンが減少し,それによりムチンが涙液水層を安定化させる機能が障害され,眼表面の涙液層が不安定で均一に維持されない状態にもなる17).この涙液層の不安定化がさらなる角膜・結膜上皮障害をもたらすという悪循環を生じ,ムチン減少がドライアイの発症および悪化として注目されている18~20).ドライアイの発症は視機能にも影響することがわかっている21).このように近年,ドライアイではムチンの役割が重要視されており,ドライアイ患者の角膜および結膜で産生されるムチンを増加させることにより涙液の安定化を図る作用は,角膜・結膜上皮障害および自覚症状を改善する新たな治療につながると期待されている1).涙液の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)という新しい概念22)が最近は提唱されており,それぞれの点眼薬の薬理作用を考慮したTFOTに基づいた治療が行われるようになってきている.レバミピドは,胃粘膜のムチンを増加させる作用があり,以前より胃潰瘍および胃炎の治療薬として承認され,広く臨床に用いられている.こうしたレバミピドのムチン増加作用に注目し,眼ムチン減少モデル動物で検討したところ,ムチンを産生する結膜のゴブレット細胞数を増加させ,角膜および結膜ムチンを増加させ,角膜・結膜上皮障害を改善することが報告されている23).レバミピドを有効成分とする点眼液は,ドライアイ患者の眼表面ムチンを増加させることによって涙液の安定化を図る作用がある.こうした一連のレバミピドの作用がSPKの改善に有効であったとの報告もあり8,24),本検討でもSPKはレバミピドを併用した群において有意に改善していた.また,レバミピド点眼液には防腐剤が入っていないため,薬剤起因性SPKを引き起こす可能性が少ない点も有利と考えられる25).しかし,レバミピドは涙液の増加には寄与しない.ヒアレイン酸ナトリウム点眼液とレバミピドの両群における涙液分泌量をSchirmer検査を用いて測定したところ,両者とも有意な変化を認めなかったという報告がある24).本検討でもSchirmer値と変法の値を直接には比較できないが,レバミピド点眼中のSchirmer値に有意な変化は認めなかった.また,ドライアイ患者154例に2%レバミピド点眼液を1日4回52週間の期間使用したところ,フルオレセイン角膜染色スコア,リサミングリーン結膜染色スコアおよびドライアイ関連眼症状は点眼開始2週後より有意な低下を示し,BUTは点眼開始2週後より有意な延長を示し52週後まで維持できたという報告がある26).本検討例でもSPKとBUTはレバミピドの点眼によって有意に改善した.今回の白内障周術期の検討においても,レバミピド点眼でみられた眼表面検査の変化は薬剤の特性に沿った効果であったと考えられる.本研究では自覚症状についてDEQS質問票を用いて検討したが,両群ともに術後に有意に改善していた.これはドライアイのない白内障手術患者を対象にしており,術前のDEQSが低かったこと,白内障手術を施行することにより視機能が改善したため,術前に認めていた不定愁訴を含むさまざまな自覚症状が改善したものと思われる.よって,本研究ではレバミピドによる自覚症状の改善効果を比較検討することはむずかしいと思われた.なお,レバミピド点眼を使用することで“眼を開けているのがつらい”と“眼の症状のため外出を控えがち”らが増悪した症例があったことは,この点眼液の特性である白い粉の付着や点眼後に感じる苦みからくるもの26)と考察された.本検討から白内障術前術後にレバミピドを点眼することで眼表面の保護効果があることが確認できた.白内障手術2週間前から術後2週間までのレバミピド点眼の併用は,白内障周術期の管理において有用と考えられた.文献1)OhT,JungY,ChangDetal:Changesinthetearfilmandocularsurfaceaftercataractsurgery.JpnJOphthalmol56:113-118,20122)VenincasaVD,GalorA,FeuerWetal:Long-termeffectsofcataractsurgeryontearfilmparameters.ScientificWorldJournal10:643-7,20133)竹下哲二:白内障術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼の効果.臨眼67:327-340,20134)ChoYK,KimMS:Dryeyeaftercataractsurgeryandassociatedintraoperativeriskfactors.KoreanJOphthalmol23:65-73,20095)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20026)UrashimaH,OkamotoT,TakejiY:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20047)UrashimaH,TakejiY,OkamotoT:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20128)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20129)LempMA:ReportoftheNationalEyeInstitute/IndustryworkshoponClinicalTrialsinDryEyes.CLAOJ21:221-232,199510)SakaneY,YamaguchiM,YokoiNetal:DevelopmentandvalidationoftheDryEye-RelatedQuality-of-LifeScorequestionnaire.JAMAOphthalmol131:1331-1338,201311)山田昌和:ドライアイ:新しい定義に基づいた疾患概念と病態.治療.日眼会誌113:541-552,200912)横井則彦:眼手術とドライアイ.IOL&RS23:189-194,200913)福田昌彦,下村嘉一:人工涙液.ドライアイ研究会編ドライアイ診療PPP.p194-197,メジカルビュー社,200214)高静花,渡辺仁:ドライアイ点眼治療のコツ.あたらしい眼科20:17-22,200315)BursteinNL:Theeffectsoftopicaldrugsandpreservativesonthetearsandcornealepitheliumindryeye.TransOphthalmolSocUK104:402-409,198516)DeSaintJeanM,BrignoleF,BringuierAFetal:Effectsofbenzalkoniumchlorideongrowthandsurvivalofchangeconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci40:619-630,199917)AlbertsmeyerA,KakksseryV,Spurr-MichaudSetal:Effectofpro-inflammatorymediatorsonmembrane-associatedmucinsexpressedbyhumanocularsurfaceepithelialcells.ExpEyeRes90:444-551,201018)丸山邦夫,横井則彦:環境と眼の乾き.あたらしい眼科22:311-316,200519)HikichiT,YoshidaA,FukuiYetal:PrevalenceofdryeyeinJapaneseeyecenters.GraefesArchClinExpOphthalmol233:555-558,199520)小野眞史:病態と診断.島崎潤,坪田一男編角膜診療ハンドブック.p34-46,中外医学社,199921)TounakaK,YukiK,KouyamaKetal:DryeyediseaseisassociatedwithdeteriorationofmentalhealthinmaleJapaneseuniversitystaff.TohokuJExpMed233:215-220,201422)横井則彦,坪田一男:ドライアイのコアメカニズム─涙液安定性仮説の考え方.あたらしい眼科28:291-297,201223)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:RebamipideOphthalmicSuspensionPhase3StudyGroup:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,201324)高良由起子,高良俊武,高良広美ほか:レバミピド混濁点眼液の点状表層角膜症に対する影響.臨眼67:1217-1222,201325)福田正道,中嶋英雄,春田淳平ほか:レバミピド点眼液の角膜上皮に対する安全性に関する検討.あたらしい眼科30:1467-1471,201326)藤原豊博:眼ムチン産生促進およびゴブレット細胞数増加作用を併せもつ新規ドライアイ治療剤レパミピド懸濁点眼薬(ムコスタ点眼液UD2%)の基礎と臨床.薬理と治療40:1048-1070,2012〔別刷請求先〕今野公士:〒192-0081東京都八王子市横山町22-3メディカルタワー八王子近藤眼科Reprintrequests:KimihitoKonno,M.D.,KondoEyeInstitute,MedicalTowerHachioji,22-3Yokoyamacho,Hachioji-shi,Tokyo192-0081,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(107)589図1NationalEyeInstitute染色スコアを用いた角膜上皮障害(SPK)の評価角膜全体を5つに区分し,各々の領域で点状染色を認めない正常を0点,点状のフルオレセイン染色が隣接せず疎な場合を1点,点状のフルオレセイン染色のほとんどが密に隣接している場合を3点として,1点と3点の中間を2点としてスコア化する.右にスコア9点のSPKの1例を示す.590あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(108)図2BUTの術前と術後1D,1W,2Wの比較1Dでは両群とも術前と変わらなかったが,2%レバミピド点眼液を併用したA群の1W,2Wでは,術前と比較して有意に延長した(*Wilcoxonsignedranktest,p<0.01).2%レバミピド点眼液を併用しなかったB群は1W,2Wでも有意の変化はなかった.図3SPKスコアの術前と術後1D,1W,2Wの比較1Dでは両群とも術前と変わらなかったが,2%レバミピド点眼液を併用したA群の1W,2Wでは,術前と比較して有意に減少した(*Wilcoxonsignedranktest,p<0.01).2%レバミピド点眼液を併用しなかったB群は1W,2Wでも有意の変化はなかった.(109)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016591592あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(110)(111)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016593

2013年に細菌性角膜炎を疑った病変部からの分離細菌のレボフロキサシン耐性率

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):584〜588,2016©2013年に細菌性角膜炎を疑った病変部からの分離細菌のレボフロキサシン耐性率石山惣介岩崎琢也野口ゆかり森洋斉子島良平宮田和典宮田眼科病院LevofloxacinResistanceinBacteriaIsolatedfromLesionsofSuspectBacterialKeratitisin2013SosukeIshiyama,TakuyaIwasaki,YukariNoguchi,YosaiMori,RyoheiNejimaandKazunoriMiyataDepartmentofOphthalmology,MiyataEyeHospital目的:2013年に細菌性角膜炎を疑った症例の病変部擦過検体より分離された細菌のレボフロキサシン耐性率を明らかにする.方法:2013年に宮田眼科病院を受診し,細菌性角膜炎を疑った122例123眼を対象とした.初診時に角膜病変擦過物の塗抹鏡検と培養検査を行い,グラム染色所見・分離菌種・レボフロキサシンの薬剤耐性を検討した.結果:塗抹鏡検は38眼(30.9%)が陽性となった.その内訳は,グラム陽性球菌が20眼(51.3%),グラム陽性桿菌が15眼(38.5%),グラム陰性球菌が1眼(2.6%),グラム陰性桿菌が3眼(7.7%)であった.細菌培養は92眼(74.8%)が陽性となり,147株を分離した.内訳は,Propionibacteriumacnes(P.acnes)57株(38.8%),Staphylococcusepidermidis(SE)26株(17.7%),coagulase-negativestaphylococcus(CNS)21株(14.3%),Staphylococcusaureus(SA)18株(12.2%),Corynebacterium属10株(6.8%),その他の細菌が15株(10.2%)であった.レボフロキサシン耐性率はP.acnes5.3%,SE57.7%,CNS28.6%,methicillin-susceptibleSA25.0%,methicillin-resistantSA100.0%,Corynebacterium属60.0%であった.結論:細菌性角膜炎の疑い症例におけるP.acnesを除く主要分離菌におけるレボフロキサシン耐性の増加が示唆された.起因菌の薬剤耐性の傾向を把握することが,適切な抗菌薬選択において重要である.Purpose:Torevealthelevofloxacinresistanceofisolatesfromcorneallesionsofsuspectbacterialkeratitisofpatientswhovisitedin2013.Subjectsandmethods:123corneallesionsof122patientswerescrapedforcytologicalexaminationandforbacterialisolation.IsolatedbacteriawereassessedforlevofloxacinsusceptibilityusingtheClinicalandLaboratoryStandardsInstitutestandard.Results:Microscopicexaminationrevealedbacterialpresencein38lesions(30.9%):Gram-positivecocciin20lesions(51.3%),Gram-positivebacilliin15lesions(38.5%),Gram-negativecocciin1lesion(2.6%)andGram-negativebacilliin3lesions(7.7%).Bacterialexaminationresultedin147isolatesfrom92corneallesions(74.8%):57isolatesofPropionibacteriumacnes(P.acnes)(38.8%);26Staphylococcusepidermidis(SE)(17.7%);21coagulase-negativestaphylococcus(CNS)(14.3%);18Staphylococcusaureus(SA)(12.2%);10Corynebacteriumsp(6.8%);and15otherspecies(10.2%).Levofloxacinresistancesoftheisolatesfromthecorneallesionswere:P.acnes5.3%,SE57.7%,CNS28.6%,methicillin-susceptibleSA25.0%,methicillin-resistantSA100.0%andCorynebacteriumspp.60.0%.Conclusion:Themajoragentscausingbacterialkeratitisshowedincreasedresistancetolevofloxacininpatientswhovisitedin2013.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):584〜588,2016〕Keywords:細菌性角膜炎,検出菌,レボフロキサシン,抗菌薬耐性.bacterialkeratitis,isolatedbacteria,levofloxacin,antibioticresistanceはじめに耐性菌の出現は感染症を扱うすべての科に共通した問題である.抗菌薬の使用により耐性菌が選択的に増殖することが知られ,眼科領域においても抗菌点眼薬の反復投与による耐性菌の出現が報告されている1,2).米国のClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)は2008年に肺炎球菌について,髄膜炎と非髄膜炎とで異なるペニシリン感受性判定基準を提唱した3).これは,感染臓器が血液脳関門で守られている中枢神経系の場合,薬剤移行性が悪く,通常の量の抗菌薬では濃度が不十分となり,治療に失敗する可能性がある細菌が存在することを示している.つまり,病巣における抗菌薬濃度が不十分であれば,軽度耐性菌に対しても治療はうまくいかない可能性が高くなる.眼科においては,福田らがキノロン系点眼抗菌薬の眼内移行率について定量的に解析しているが4),眼科領域の抗菌薬の薬物動態についての情報は乏しい.薬剤の抗菌作用だけでなく,薬剤の組織移行性が治療の成否(臨床的な薬剤感受性)にかかわる重要な要素であることが認識されている.耐性菌の全国における発生状況については,厚生労働省が2007年より院内感染対策サーベイランスを実施し,サーベイランス事業に参加医療機関で分離された細菌の情報を把握し,その情報を提供している5).このサーベイランスは,全国的な耐性菌の発生状況を表わしているので,耐性菌を考慮した抗菌薬の選択を適切に行うためには,地域ごとに耐性菌の分離状況を把握する必要がある.眼科領域において細菌感染症の治療薬として広く用いられているのは,キノロン系点眼抗菌薬であり6),オフロキサシン・ノルフロキサシン・ロメフロキサシン・トスフロキサシン・レボフロキサシン・ガチフロキサシン・モキシフロキサシンと,7種類の製剤が入手可能である.本研究では,2013年に宮崎県都城市にある宮田眼科(以下,当院)外来を受診し,細菌性角膜炎を疑い,角膜病変を擦過し,塗抹ならびに細菌分離を行った症例の分離した細菌とそのレボフロキサシン耐性率を検討した.I対象および方法1.対象2013年1月1日〜12月31日に当院を受診した患者のうち,角膜上皮障害と角膜実質内細胞浸潤の存在より,臨床的に細菌性角膜炎を疑った122例123眼を対象とした.症例の性別は男性55例,女性67例.平均年齢は52.4±22.7歳であった.単純ヘルペスウイルス・アカントアメーバ・真菌感染の確定診断例は除外した.2.方法初診時に以下の方法を用いて,細菌学的解析のための検体を角膜病変より採取した.0.4%オキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシール®)にて表面麻酔を行い,実体顕微鏡下でスパーテルを用いて上皮を剝離し,病巣を擦過した.院内検査室で塗抹標本を作製し,グラム染色後に鏡検した.培養検査は阪大微生物病研究会に依頼した.感受性の判定はCLSIの基準に準拠した.この基準では薬剤感受性についてはMIC値より判断し,S(感受性)・I(中間)・R(耐性)の3カテゴリに分類する.本研究ではIとRは耐性菌と判断した.レボフロキサシン耐性率を(I+R)/(S+I+R)×100%と定義した.II結果1.角膜病変の擦過検体の形態学的解析123眼の擦過塗抹標本をグラム染色後に鏡検した.38眼(30.9%)の検体に細菌を検出した.1眼の検体では2種類の菌形状(グラム陽性球菌とグラム陰性桿菌)を認めた.その他の眼では1検体につき1つの菌形状を検出した.その内訳は,グラム陽性球菌とグラム陽性桿菌の検出率が高く,グラム陰性球菌とグラム陰性桿菌の検出率は5%未満であった(表1).2.角膜病変の擦過検体からの細菌分離123眼中92眼(74.8%)の角膜擦過検体より細菌が分離された.分離株総計は147株であった.嫌気性菌であるグラム陽性桿菌のPropionibacteriumacnesがもっとも多く分離され(n=57),ついでStaphylococcusepidermidis(n=26),その他のcoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)(n=21),Staphylococcusaureus(n=11)(うち6株がmethicillin-resistantS.aureus)と,分離株におけるグラム陽性球菌の割合は半数近くを占めている.グラム陽性桿菌のCorynebacterium属は10検体より分離された.これ以外に,Streptococcus属,Enterococcusfaecalis,Streptococcuspneumoniae,Micrococcus属,Bacillus属,Neisseriagonorrhoeae,Serratia属,Pseudomonasaeruginosaが分離された(表2).3.角膜病変の塗抹鏡検所見と分離菌の一致率グラム陽性球菌が塗抹検体に検出された場合,75%の症例でグラム陽性球菌が分離された.塗抹標本にグラム陽性桿菌を検出した場合のグラム陽性桿菌の分離率は低く,3例はCorynebacterium属,1例はP.acnesであり,グラム陽性球菌が分離される頻度が高かった(66.6%).グラム陰性球菌が塗抹検体で検出された1例はN.gonorrhoeaeが分離され,両者が一致していた.グラム陰性桿菌の例では1例が一致し,P.aeruginosaが分離され,残りの2例ではグラム陽性球菌が分離されている(表3).4.分離細菌のレボフロキサシン耐性率主要分離細菌のレボフロキサシン耐性率はmethicillinresistantS.aureus(MRSA)の全分離株が耐性菌であり,S.epidermidisとCorynebacterium属,Serratia属は半数以上が耐性であり,coagulase-negativeStaphylococcusとmethicillin-susceptibleS.aureus(MSSA)は20%台の耐性,P.acnesは5%台であった(表4).III考按2013年の当院において細菌性角膜炎を疑った123眼の角膜病変中74.8%が培養陽性であり,約4分の1の症例が分離陰性であった.微生物性角膜炎の病変部からの細菌分離の陽性率は1955〜1979年のNewYorkでは49%7),1985〜1989年のBaltimoreでは40%,1977〜1996年の熊本県では83.3%9),1999〜2003年の栃木県では49.2%10)(真菌感染を除いて算定),2002〜2007年の愛媛県では60%であり11),さらに2003年のわが国の感染性角膜炎サーベイランスでは43.3%(261例中113例)であった6).細菌性角膜炎を臨床的に疑っても病原体が全例より分離できない背景として,分離率が異なる背景として角膜病変が小さいこと,角膜ゆえの過剰の擦過が困難なこと,検査前の抗生物質投与があげられている6,10〜12).本研究で分離された菌種は,それぞれの分離率は異なるものの,これまでの報告とほぼ類似し,2013年の当院における細菌性角膜炎の起因菌は他の年代あるいは他の地域と大幅に異なってはいなかったが,S.pneumoniaeは1例と少なく,Moraxellaは分離されていない.竹澤ら10),木村ら11)の報告でもS.pneumoniaeは少なく,最近の傾向のようである.Moraxella例は熊本大の宮嶋らの解析でも少なく,その理由として地域特異性を挙げている9).本研究で分離されたS.epidermidisのレボフロキサシン耐性率は57.7%であった.2003年の感染性角膜炎全国サーベイランスにおけるS.epidermidisのレボフロキサシン耐性率は22.2%であり13),2013年の当院におけるS.epidermidis分離株のレボフロキサシン耐性率の増加とともに,S.epidermidis以外のCNS,MSSA,Corynebacterium属の耐性菌の割合も増加していた.一方で,2004〜2009年にかけて行われた細菌性結膜炎の5年間の動向調査では,レボフロキサシン耐性菌の増加はないと報告されているが14),木村らの2002〜2009年の解析ではレボフロキサシン耐性菌の増加が指摘されている11).今回の結果と過去の報告の違いは,レボフロキサシン耐性菌の近年における増加を示唆している.その原因としては,キノロン系点眼抗菌薬の使用量の増加があげられる.眼科においてキノロン系点眼抗菌薬の多用と,点眼薬が長期に投与される例の増加が背景と推定されている1).本研究において,角膜病変からもっとも分離されたのはP.acnesであった.しかし,眼表面は好気的環境であり,絶対的嫌気性菌の発育には不適と考えられる.事実,P.acnesが起因と判断した角膜炎の報告は少なく15,16),Underdahlらの報告例は外傷などにより脆弱化した角膜に感染し,視力障害を生じた特殊な例であった.P.acnesはMeibom腺に常在し,眼表面の一過性常在菌であり,本研究において分離されたP.acnesの大多数は一過性に角膜上を通過した細菌で,角膜炎の起因菌ではない可能性が高い.なお,P.acnesのレボフロキサシン耐性率は以前の報告に比較し,ほとんど変化しておらず,前述の他の眼表面常在菌とは抗菌薬感受性に関して異なる推移を示しており,この点について検討する必要性を感じた.上記のP.acnesのように,眼表面には常在細菌叢が存在し,病巣擦過検体に常に紛れ込む可能性を考慮する必要がある.本研究における角膜病巣擦過の培養陽性率は74.8%であったが,塗抹鏡検陽性率は30.9%にすぎなかった.塗抹鏡検陰性のとき,分離細菌株が起因菌か常在細菌かを区別することは難しい.塗抹標本と分離細菌が一致したグラム陰性球菌(N.gonorrhoea)とグラム陰性桿菌(P.aeruginosa)の例では分離細菌を起因菌と判断することに問題はないが,グラム陽性細菌の場合は臨床像を踏まえて総合的に判断する必要を感じる.一方,本来眼表面細菌叢に存在しない細菌が分離された場合は,塗抹標本陰性でも起因菌である可能性は高くなる.感受性菌が起因菌であっても,病変に混在していた耐性をもつ常在菌が分離されることは防げない.今回の研究では受診前の点眼薬を解析していないが,診察前に抗菌薬の点眼を受けていたような細菌性角膜炎例では,耐性菌のみが分離される可能性があり,このような症例で耐性をもつ細菌を起因菌と判定してしまうと,不適切な抗菌薬を選択することが起こりうる.今回の解析では2013年の細菌性角膜炎疑い症例において,起因菌あるいは病変に混入した眼表面細菌叢由来の細菌において,レボフロキサシン耐性率が増加しつつあることが明らかにされた.このような状況下では,起因菌を確定し,その感受性を把握することが重要である.感染性角膜炎の起因菌の診断精度を上げるため,頻回の塗抹鏡検と培養検査は非常に重要と考える.IV結論細菌性角膜炎において,P.acnesを除く主要分離菌におけるレボフロキサシン耐性率の増加が示唆された.キノロン系点眼薬が角膜炎の治療として妥当かは,医療施設のある地域の耐性菌分離状況によって判断すべきである.耐性菌分離率が上昇した場合,塗抹鏡検・培養検査を行い,起因菌とその薬剤感受性を把握することが,適切な抗菌薬選択において重要となる.文献1)FintelmannRE,HoskinsEN,LietmanTMetal:Topicalfluoroquinoloneuseasariskfactorforinvitrofluoroquinoloneresistanceinocularcultures.ArchOphthalmol129:399-402,20112)KimSJ,TomaHS:Antimicrobialresistanceandophthalmicantibiotics:1-yearresultsofalongitudinalcontrolledstudyofpatientsundergoingintravitrealinjections.ArchOphthalmol129:1180-1188,20113)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:PerformanceStandardsforAntimicrobialSusceptibilityTesting;24thInformationalSupplement.CLSIdocumentM100-S24,20144)FukudaM,SasakiH:CalculationofAQCmax:Comparisonoffiveophthalmicfluoroquinolonesolutions.CurrMedResOpin24:3479-3486,20085)厚生労働省院内感染対策サーベイランスhttp://www.nihjanis.jp/report/index.html6)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス:分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,20067)AsbellP,StensonS:Ulcerativekeratitis:Surveyof30years’laboratoryexperience.ArchOphthalmol100:77-80,19828)WahlJC,KatzHR,AbramsDA:InfectiouskeratitisinBaltimore.AnnOphthalmol23:234-237,19919)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去20年間の細菌性角膜潰瘍の検討.あたらしい眼科15:223-226,199810)竹澤美貴子,小幡博人,中野佳希ほか:自治医科大学における過去5年間の感染性角膜潰瘍の検討.眼紀56:494-497,200511)木村由衣,宇野俊彦,山口昌彦ほか:愛媛大学眼科における細菌性角膜炎症例の検討.あたらしい眼科26:833-837,200912)三木篤也,井上幸次,大黒伸行ほか:大阪大学眼科における角膜感染症の細菌の動向.あたらしい眼科17:839-843,200013)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染症角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeffectの比較.日眼会誌110:973-983,200614)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,201115)UnderdahlJP,FlorakisGJ,BraunsteinREetal:Propionibacteriumacnesasacauseofvisuallysignificantcornealulcers.Cornea19:451-454,200016)OvodenkoB,SeedorJA,RitterbandDCetal:TheprevalenceandpathogenicityofPropionibacteriumacneskeratitis.Cornea28:36-39,2009〔別刷請求先〕石山惣介:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6街区3号宮田眼科病院Reprintrequests:SosukeIshiyama,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo-shi,Miyazaki885-0051,JAPAN0598140-181あ0/た160910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(103)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016585表12013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変部(n=123)の擦過標本の細菌検出陽性眼数検出率(%)*検出菌における割合(%)**グラム陽性球菌2016.351.2グラム陽性桿菌1512.238.5グラム陰性球菌10.82.6グラム陰性桿菌32.47.7計3930.9100*検出率:陽性例/解析眼数(n=123).**検出菌における割合:グラム染色で検出された菌における割合.表22013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変からの分離菌(n=147)株数%*%**好気性グラム陽性球菌7047.677.8Staphylococcusepidermidis2617.728.9coagulase-negativeStaphylococcus***2114.323.3Staphylococcusaureus****1812.220Streptococcus属21.42.2Enterococcusfaecalis10.71.1Streptococcuspneumoniae10.71.1Micrococcus属10.71.1好気性グラム陽性桿菌1510.216.7Corynebacterium属106.811.1Bacillus属42.74.4未同定10.71.1好気性グラム陰性球菌10.71.1Neisseriagonorrhoeae10.71.1好気性グラム陰性桿菌42.74.4Serratia属21.42.2Pseudomonasaeruginosa21.42.2嫌気性菌5738.8Propionibacteriumacnes5738.8*全分離菌における割合.**Propionibacteriumacnesを除いた分離菌における割合.***Staphylococcusepidermidisを除く.****6株がmethicillin-resistantStaphylococcusaureus.表32013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変の塗抹鏡検陽性例(n=39)における細菌分離塗抹陽性菌塗抹陽性眼数aGPC分離aGPR分離aGNC分離aGNR分離嫌気性菌分離分離なしグラム陽性球菌201510022グラム陽性桿菌151030011グラム陰性球菌1001000グラム陰性桿菌3200100aGPC:好気性グラム陽性球菌,aGPR:好気性グラム陽性桿菌,aGNC:好気性グラム陰性球菌,aGNR:好気性グラム陰性桿菌.586あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(104)表42013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変からの分離菌(n=147)のレボフロキサシン耐性率菌種SIR耐性率(%)好気性グラム陽性球菌Staphylococcusepidermidis1101557.7coagulase-negativeStaphylococcus151528.6methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus90325.0methicillin-resistantStaphylococcusaureus006100Streptococcus属2000Enterococcusfaecalis1000Streptococcuspneumoniae1000Micrococcus属010100好気性グラム陽性桿菌Corynebacterium属41560.0Bacillus属4000未同定1000好気性グラム陰性球菌Neisseriagonorrhoeae001100好気性グラム陰性桿菌Serratia属11050.0Pseudomonasaeruginosa2000嫌気性菌Propionibacteriumacnes54035.3(105)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016587588あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(106)

ガチフロ®点眼液0.3%の小児外眼部感染症患者に対する有用性

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):577〜583,2016©ガチフロ®点眼液0.3%の小児外眼部感染症患者に対する有用性末信敏秀*1秦野寛*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部*2ルミネはたの眼科ClinicalEffectivenessofGATIFLO®OphthalmicSolution0.3%inPediatricPatientswithBacterialOcularInfectionToshihideSuenobu1)andHiroshiHatano2)1)MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)LumineHatanoEyeClinicガチフロ®点眼液0.3%の小児外眼部感染症患者に対する有用性を再検討した.上市後にプロスペクティブな連続調査方式にて実施した4調査から,安全性評価の対象として,新生児(27日以下)73例,乳児(28日以上1歳未満)131例,小児(1歳以上15歳未満)74例を集積した結果,副作用の発現を認めなかった.また,主要な疾患であった結膜炎および涙囊炎に対する医師判定による全般改善度(有効率)は,それぞれ98.5%および94.4%で高い有効率を示した.以上の結果,ガチフロ®点眼液0.3%は新生児期から年長小児期の細菌性外眼部感染症治療への寄与が期待される薬剤であると考えられた.ThisreviewaimstoevaluatetheclinicaleffectivenessofGATIFLO®ophthalmicsolution0.3%inpediatricpatientswithbacterialocularinfection.Inthesafetyevaluation,whichinvolved278cases(73newborns,131infantsand74children)from4studiesconductedusingtheprospectivecontinuousmethod,noadversedrugreactionswereobserved.Intheefficacyevaluation,theeffectiveratesinpatientswithconjunctivitisanddacryocystitiswere98.5%and94.4%,respectively.TheseresultssuggestthatGATIFLO®ophthalmicsolution0.3%isausefulmedicationfortreatingexternalbacterialinfectionsoftheeyeinnewborns,infantsandchildren.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):577〜583,2016〕Keywords:ガチフロキサシン,ガチフロ®点眼液0.3%,新生児,乳児,小児,安全性,有効性.gatifloxacin,GATIFLO®ophthalmicsolution0.3%,newborns,infants,children,safety,efficacy.はじめに新生児期,乳児期あるいは小児期(ここでは15歳未満)では,経口投与された薬剤の吸収,分布,代謝や排泄などの体内挙動が異なる1)ため,成人における成績を転用することは困難である2).したがって,小児の個別の発達過程に応じた適切な投薬に関するデータが必要となるが,一般的に,そのような情報は十分ではない.一方,細菌性外眼部感染症は疾患により年齢分布に特徴があるが,結膜炎は際立って小児に多く発症する.したがって,全身的影響が比較的少ない,すなわち,個々の小児の発達過程に基づく影響を最小限に抑えることを考慮した抗菌薬投与が選択されるべきであり,やはり点眼による局所投与が第一選択である3).このようななか,フルオロキノロン点眼薬が汎用されるようになって久しいが,経口薬と同様に点眼薬についても,とくに1歳未満の小児に対する臨床成績に関する報告は散見4〜6)される程度で,情報は相対的に不足している7).そこで,2004年9月に上市されたガチフロ®点眼液0.3%(以下,本剤)について,承認時には評価されていなかった「1歳未満の小児に対する有効性および安全性を評価することを目的とした調査(2005年6月〜2006年6月)」に加え,「新生児(生後27日以下)を対象とした調査(2007年5月〜2008年9月)」を実施し,その成績を報告した8,9).また,細菌学的効果の経年変化を検討することをおもな目的として計2回の調査(第1回:2005年12月〜2007年10月,第2回:2008年3月〜2010年1月)を実施10)するなかで,同じく小児集団に関する成績を得た.そこで今回は,これら4調査で集積された小児集団(15歳未満)における患者背景ならびに本剤の有用性について再検討したので報告する.I対象および方法表1に示すとおり,細菌性外眼部感染症(眼瞼炎,涙囊炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎,角膜潰瘍)を対象として前向きに実施した4調査のうち,本剤が投与された小児症例(15歳未満)を対象とした.4調査成績の再検討項目は,患者背景である年齢,疾患名,本剤の使用状況,有害事象の発現状況および有効性評価とし,細菌学的効果に関する調査では本剤投与開始時における細菌検査とした.安全性は,副作用の発現率を評価した.有効性は,本剤投与開始後の臨床経過より担当医師が総合的に判断し,改善,不変および悪化の3段階で評価した.このうち改善症例を有効例,不変および悪化症例を無効例とした.細菌学的効果に関する調査にて採取された検体は,輸送用培地(カルチャースワブTM)を用いて検査施設である三菱化学メディエンス株式会社(現,株式会社LSIメディエンス)に輸送し,細菌分離と同定に供した.細菌学的効果に関する調査のほか,本剤投与開始時の検出菌に関する成績が任意で報告された症例を含め,年齢(日齢)と検出菌種の分布についてWilcoxon検定にて評価した.有意水準は5%とした.II結果1.評価対象症例4調査にて集積された安全性評価対象症例は新生児(生後27日以下)73例,乳児(生後28日以上1年未満)131例,小児(1歳以上15歳未満)74例の計278例であった(表1).さらに,細菌性外眼部感染症以外への投与8例(霰粒腫および眼感染症予防の各3例,結膜裂傷および乳児内斜視術後の各1例)および有効性評価が判定不能であった2例(涙囊炎2例)の計10例を除いた268例を有効性評価対象とした.2.安全性a.安全性評価対象症例の患者背景患者背景を表2に示す.最若齢は生後1日目の新生児であり,また,疾患別では結膜炎が70.1%(195/278例)でもっとも多く,ついで涙囊炎が13.7%(38/278例)であった.b.副作用発現率安全性評価対象とした278例において副作用の発現を認めなかった.3.有効性表3に示すとおり,結膜炎195例における有効率は98.5%であった.一方,涙囊炎に対する有効率は94.4%であり,疾患別ではもっとも低かった.涙囊炎36例ならびに結膜炎+涙囊炎6例は,いずれも新生児および乳児症例であり,また,平均投与期間が1カ月超と長かった.このほか,新生児には麦粒腫および角膜炎(角膜潰瘍を含む)症例は認められず,乳児では角膜炎(角膜潰瘍を含む)症例は認められなかった.4.初診時検出菌の分布a.小児区分別での初診時検出菌表4に示すとおり,新生児11例,乳児34例および小児50例の計95例から130株の初診時菌が検出された.その結果,グラム陽性菌の割合は新生児で70.6%(12/17)ともっとも高く,乳児で66.7%(32/48),小児で50.8%(33/65)であった.また,新生児ではcoagulasenegativestaphylococci(CNS)の割合が35.3%(6/17)ともっとも高かった一方で,Streptococcuspneumoniaeの検出例はなかった.乳児ではCorynebacteriumspp.,S.pneumoniaeおよびHaemophilusinfluenzaeの割合が,それぞれ20.8%(10/48),14.6%(7/48)および18.8%(9/48)で主要な検出菌であった.小児ではH.influenzaeの割合が35.4%(23/65)ともっとも高く,ついでCorynebacteriumspp.およびStaphylococcusaureusの割合が15.4%(10/65)と高かった.また,図1に示すとおり,10株以上が検出されたCNS,a-Streptococcusspp.,S.pneumoniae,Corynebacteriumspp.,H.influenzaeおよびS.aureusについて,由来患者の日齢分布について検討した結果,平均日齢±標準偏差はCNSで268±608日でもっとも低く,S.aureusで2,222±1,762日でもっとも高かった.b.疾患別での初診時検出菌表5に示すとおり,結膜炎ではH.influenzaeが33.0%(33/100)を占め,もっとも高かった.涙囊炎では際立って割合の高い菌種はなかったが,グラム陽性菌の割合が70.0%(14/20)と高く,Corynebacteriumspp.,a-Streptococcusspp.およびS.pneumoniaeの割合が15.0%(3/20)で主要であった.III考察新生児期,乳児期あるいは小児期では,経口投与された薬剤の吸収,分布,代謝や排泄などの体内挙動が異なる.たとえば,新生児では胃内pHが高いため,酸性条件下で不安定な薬剤(ペニシリンG,エリスロマイシンなど)の体内吸収が乳児や小児に比べ高いことが知られている11).しかしながら,小児を対象とした臨床試験成績に基づき,小児に対する適応を有する医薬品は限られている2,7).このようななか,小児への医薬品の投与は,成人用量を体重あるいは体表面積から換算して行われることが多く,“とりあえず”の治療としては許容されるかもしれないが,継続治療にあたっては小児の成長段階に応じたPK/PDに基づく個別化が必要である.一方,点眼療法に目を向けると,小児用として用法・用量を設定し,適応とした点眼薬はない.2006年に発売されたトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液では,小児を対象とした臨床試験が実施されたが,成人と同じ用法・用量の設定である.このように,フルオロキノロン点眼薬の適応となる外眼部感染症は小児特有の疾患ではなく,また,多くの代替薬が存在することから,本剤についても1歳未満の小児に対する用法・用量の設定を目的とした臨床試験は実施しなかったが,上市後の使用実態下においては経験的に使用される可能性が非常に高く,安全性および有効性について検討する必要があると考え,使用成績調査を行った.新生児および乳児における外眼部感染症への易感染性は,涙液分泌量が少ないことや,免疫機能が未発達であることに起因するものと理解すべきであろう12).すなわち,新生児および乳児における外眼部感染症の好発部位である結膜は粘膜であり,粘膜には全身免疫とは異なる免疫システムが構築されている.結膜では,病原体に対する防御に不可欠な抗原特異的分泌型IgAを効率的に誘導するメカニズムとして,結膜関連リンパ組織(conjunctiva-associatedlymphoidtissue:CALT)を中心とした結膜(粘膜)免疫システムが構築されている13).分泌された抗原特異的IgAは,二量体として涙液中に存在するが,生誕時にはIgAはほとんど分泌されず,6〜8歳で成人の60〜80%に達することが知られている14).このように,新生児では結膜(粘膜)の免疫機能が未成熟であり,早産児では粘膜自体が未成熟なため細菌感染を発症しやすい15).加えて,新生児涙囊炎や先天鼻涙管閉塞に伴う涙囊炎が多い16).本検討においても,新生児および乳児では結膜炎あるいは涙囊炎の割合が高かった.また,涙囊炎では他疾患に比べ投与期間が長い傾向にあった.すなわち,新生児および乳児期の涙囊炎は先天鼻涙管閉塞に起因することが多く,根治療法は外科的治療となる.しかしながら,先天鼻涙管閉塞は生後3カ月までに70%,生後12カ月までに96%が自然治癒(鼻涙管の開口)する17)ことから,外科的治療の施行時期については結論が出ていない.したがって,外科的治療の施行あるいは自然治癒まで,待機的に本剤が投与されたため,涙囊炎での投与期間が長くなったものと推察された.結膜炎の主要な起炎菌は,H.influenzaeおよびS.pneumoniaeであり,結膜囊からの分離頻度は,それぞれ29%および20%程度である15).本検討においても,結膜炎からの検出菌はH.influenzaeが33.0%でもっとも高かった.また,小児結膜炎由来のH.influenzaeおよびS.pneumoniaeは,その約90%が鼻咽腔由来株と同一クローンであることから,鼻咽腔は両菌種を主要な常在菌とする粘膜組織部位であり,小児の細菌性結膜炎は鼻感冒および発熱についで発症し,急性中耳炎を併発することが多い18).さらに,細菌性結膜炎の起炎菌は,小児涙囊炎発症への関与も示唆されており,S.pneumoniae,H.influenzaeおよびS.aureusが主要菌種と考えられている19).本検討では,検出株数が十分でない可能性があるがCorynebacteriumspp.,a-Streptococcusspp.およびS.pneumoniaeが主要な検出菌であった.小児の詳細区分での検出菌については,新生児ではCNSがもっとも多くWongらの報告20)と同様であり,年長小児では,S.aureusおよびH.influenzaeの分離頻度が上昇する傾向が認められ,Tarabishyらの報告21)と同様であった.筆者らは,本検討における主要検出菌であるH.influenzae,Corynebacteriumspp.,a-Streptococcusspp.,S.aureus,CNSおよびS.pneumoniaeについて,2005年,2007年および2009年の分離株に対するガチフロキサシンのMIC90を検討した結果,経年的な抗菌活性の減弱を認めなかった22).したがって,本剤は有用な治療選択肢と考えるが,Corynebacteriumspp.およびmethicillin-resistantS.aureus(MRSA)に対するMIC90は高い傾向にあったことから,Corynebacteriumspp.が起炎菌として疑われる際はセフメノキシム(CMX)を併用するなどの必要があると考える.一方,小児(15歳未満)の外眼部感染症からのMRSAの検出頻度は2〜3%程度10)で比較的低い.また,小児由来のMRSAのうち58〜66%程度は市中感染型(CA-MRSA,communityassociatedMRSA)で,病院内感染型MRSA(HA-MRSA,hospital-associatedMRSA)よりも優位を占める23,24).さらに,HA-MRSAが多剤耐性を示す一方で,CA-MRSAは多くの抗菌薬に感受性25)であることから,入院歴にも着目した薬剤選択の必要があると考えられる.以上のように,2004年の上市以降に実施した4調査における新生児73例,乳児131例および小児(15歳未満)74例に対する有用性について再検討した結果,ガチフロ®点眼液0.3%は,新生児期から年長小児期の外眼部感染症治療への寄与が期待される薬剤であると考えられた.文献1)KearnsGL,Abdel-RahmanSM,AlanderSWetal:Developmentalpharmacology─drugdisposition,action,andtherapyininfantsandchildren.NEnglJMed349:1157-1167,20032)ICH:Clinicalinvestigationofmedicalproductsinthepediatricpopulation.ICHharmonizedtripartiteguideline,20003)浅利誠志,井上幸次,大橋裕一ほか:抗菌点眼薬の臨床評価方法に関するガイドライン.日眼会誌119:273-286,20154)松村香代子,井上愼三:新生児,乳幼児,小児に対する0.3%オフロキサシン(タリビッド®)点眼液の使用経験.眼紀42:662-669,19915)大橋秀行,下村嘉一:新生児,乳幼児,小児の細菌性結膜炎に対する0.5%レボフロキサシン点眼薬の使用経験.あたらしい眼科19:645-648,20026)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対照非遮蔽多施設共同試験.あたらしい眼科23:118-129,20067)ChungI,BuhrV:Topicalophthalmicdrugsandthepediatricpatient.Optometry71:511-518,20008)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロ®0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児および乳児に対する調査)─.あたらしい眼科24:975-980,20079)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロ®点眼液0.3%)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児に対する調査)─.あたらしい眼科26:1429-1434,200910)末信敏秀,川口えり子,星最智:ガチフロ®点眼液0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査.あたらしい眼科31:1674-1682,201411)越前宏俊:小児の生理と薬物動態.薬事54:213-218,201212)伊藤大藏:薬剤の選択と治療の実際―眼科領域感染症.周産期医学28:1333-1336,199813)清野宏,岡田和也:粘膜免疫システム─生体防御の最前線.日耳鼻114:843-850,201114)齋藤昭彦:小児の免疫機構.薬事54:219-222,201215)BuznachN,DaganR,GreenbergD:Clinicalandbacterialcharacteristicsofacutebacterialconjunctivitisinchildrenintheantibioticresistanceera.PediatrInfectDisJ24:823-828,200516)亀井裕子:小児眼感染症の最近の動向.臨眼57(増刊号):81-85,200317)YoungJD,MacEwenCJ:Managingcongenitallacrimalobstructioningeneralpractice.BMJ315:293-296,199718)SugitaG,HotomiM,SugitaRetal:GeneticcharacteristicsofHaemophilusinfluenzaandStreptococcuspneumoniaisolatedfromchildrenwithconjunctivitis-otitismediasyndrome.JInfectChemother20:493-497,201419)宮崎千歌:眼科薬物療法VII眼窩・涙道4涙小管炎,涙囊炎,先天性鼻涙管閉塞.眼科54:1490-1495,201220)WongVW,LaiTY,ChiSCetal:Pediatricocularsurfaceinfections:a5-yearreviewofdemographics,clinicalfeatures,riskfactors,microbiologicalresults,andtreatment.Cornea30:995-1002,201121)TarabishyAB,HallGS,ProcopGWetal:Bacterialcultureisolatesfromhospitalizedpediatricpatientswithconjunctivitis.AmJOphthalmol142:678-680,200622)末信敏秀,石黒美香,松崎薫ほか:細菌性外眼部感染症分離菌株のGatifloxacinに対する感受性調査.あたらしい眼科28:1321-1329,201123)AmatoM,PershingS,WalvickMetal:Trendsinophthalmicmanifestationsofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)inanorthernCaliforniapediatricpopulation.JAAPOS17:243-247,201324)HsiaoCH,ChuangCC,TanHYetal:Methicillin-resistantStaphylococcusaureusocularinfection:a10-yearhospital-basedstudy.Ophthalmology119:522-527,201225)辻泰弘:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA).薬局63:2515-2519,2012〔別刷請求先〕末信敏秀:〒541-0046大阪市中央区平野町2-5-8千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-5-8Hiranomachi,Chuo-ku,Osaka541-0046,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(95)577表1各調査の概要と評価対象症例調査名各調査における対象細菌検査の要否小児区分新生児計(生後27日以下)乳児(生後28日以上1年未満)小児(1歳以上15歳未満)①新生児に対する調査細菌性外眼部感染症任意(診療実態下)65――65②1歳未満の小児に対する調査細菌性外眼部感染症任意(診療実態下)3110―113③細菌学的効果に関する調査(第1回)細菌性外眼部感染症全例実施2113649④細菌学的効果に関する調査(第2回)細菌性外眼部感染症全例実施3103851合計安全性評価対象症例7313174278有効性評価対象症例(外眼部感染症)*6912574268*:細菌性外眼部感染症以外への投与例8例ならびに有効性判定不能2例を有効性評価から除外.578あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(96)表2安全性評価対象278例の背景要因区分症例数年齢新生児(日齢)6日以下19(新生児計73例)7日以上13日以下1314日以上20日以下2421日以上27日以下17平均日齢(最小〜最大)13.6日(1〜27日)乳児(月齢)1カ月21(乳児計131例)2カ月133カ月184カ月115カ月146カ月77カ月118カ月79カ月910カ月811カ月12平均月齢(最小〜最大)5.6カ月(1〜11カ月)小児(年齢)1歳11(小児計74例)2歳123歳94歳105歳76歳37歳58歳29歳510歳311歳112歳413歳114歳1平均年齢(最小〜最大)5.4歳(1〜14歳)疾患名外眼部感染症270結膜炎195涙囊炎38麦粒腫23角膜炎(角膜潰瘍を含む)3結膜炎+涙囊炎6結膜炎+眼瞼炎2結膜炎+麦粒腫1結膜炎+その他2外眼部感染症以外8霰粒腫3眼感染症予防3結膜裂傷1乳児内斜視術後1表3有効性評価対象(外眼部感染症症例)268例の有効率と投与期間疾患名小児区分症例数有効率(%)投与日数Mean±SDMin〜Max結膜炎新生児5698.29.8±6.22〜30乳児8298.89.8±12.72〜97小児5798.29.5±6.53〜43計19598.59.7±9.52〜97涙囊炎新生児9100.075.7±65.612〜200乳児2792.627.0±21.14〜98小児0計3694.439.1±42.14〜200麦粒腫新生児0乳児9100.010.7±9.73〜34小児14100.017.1±24.34〜100計23100.014.6±19.83〜100角膜炎(角膜潰瘍を含む)新生児0乳児0小児3100.014.7±7.57〜22計3100.014.7±7.57〜22結膜炎+涙囊炎新生児3100.057.7±56.516〜122乳児3100.026.3±17.68〜43小児0計6100.042.0±41.28〜122その他の眼感染症(複数使用理由含む)新生児1100.014.0乳児4100.017.3±17.65〜43小児0計5100.016.6±15.35〜43表4小児区分と初診時検出菌小児区分(初診時検出結果が陽性であった症例数)新生児(11例)乳児(34例)小児(50例)計(95例)GrampositiveCorynebacteriumspp.1(5.9%)10(20.8%)10(15.4%)21(16.2%)a-Streptococcusspp.3(17.6%)5(10.4%)7(10.8%)15(11.5%)Staphylococcusaureus1(5.9%)3(6.3%)10(15.4%)14(10.8%)Coagulasenegativestaphylococci(CNS)6(35.3%)6(12.5%)2(3.1%)14(10.8%)Streptococcuspneumoniae7(14.6%)4(6.2%)11(8.5%)Streptococcussp.1(2.1%)1(0.8%)Lactobacillussp.1(5.9%)1(0.8%)Subtotal12(70.6%)32(66.7%)33(50.8%)77(59.2%)GramnegativeHaemophilusinfluenzae2(11.8%)9(18.8%)23(35.4%)34(26.2%)Acinetobacterspp.2(11.8%)1(2.1%)1(1.5%)4(3.1%)Moraxella(Branhamella)catarrhalis1(5.9%)1(2.1%)2(3.1%)4(3.1%)Nonglucosefermentativegramnegativerod(NFR)3(4.6%)3(2.3%)Stenotrophomonasmaltophilia1(2.1%)1(1.5%)2(1.5%)Pseudomonassp.1(2.1%)1(1.5%)2(1.5%)Pseudomonasaeruginosa2(4.2%)2(1.5%)Sphingomonaspaucimobilis1(1.5%)1(0.8%)Serratiamarcescens1(2.1%)1(0.8%)Subtotal5(29.4%)16(33.3%)32(49.2%)53(40.8%)Total174865130580あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(98)図1検出菌別での由来患者の日齢分布表5疾患別の初診時検出菌疾患名(初診時検出結果が陽性であった症例数)結膜炎(73例)涙囊炎(14例)麦粒腫(6例)角膜炎(1例)その他(1例)計(95例)GrampositiveCorynebacteriumspp.16(16.0%)3(15.0%)2(25.0%)21(16.2%)a-Streptococcusspp.11(11.0%)3(15.0%)1(12.5%)15(11.5%)Staphylococcusaureus10(10.0%)2(10.0%)2(25.0%)14(10.8%)Coagulasenegativestaphylococci(CNS)11(11.0%)2(10.0%)1(100.0%)14(10.8%)Streptococcuspneumoniae8(8.0%)3(15.0%)11(8.5%)Streptococcussp.1(5.0%)1(0.8%)Lactobacillussp.1(100.0%)1(0.8%)Subtotal56(56.0%)14(70.0%)5(62.5%)1(100.0%)1(100.0%)77(59.2%)GramnegativeHaemophilusinfluenzae33(33.0%)1(5.0%)34(26.2%)Acinetobacterspp.3(3.0%)1(12.5%)4(3.1%)Moraxella(Branhamella)catarrhalis3(3.0%)1(5.0%)4(3.1%)Nonglucosefermentativegramnegativerod(NFR)2(2.0%)1(12.5%)3(2.3%)Stenotrophomonasmaltophilia1(1.0%)1(5.0%)2(1.5%)Pseudomonassp.1(1.0%)1(5.0%)2(1.5%)Pseudomonasaeruginosa1(1.0%)1(5.0%)2(1.5%)Sphingomonaspaucimobilis1(12.5%)1(0.8%)Serratiamarcescens1(5.0%)1(0.8%)Subtotal44(44.0%)6(30.0%)3(37.5%)53(40.8%)Total10020811130(99)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016581582あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(100)(101)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016583

Humphrey10-2プログラムで明らかになった後頭葉脳梗塞による傍中心暗点の1例

2016年4月30日 土曜日

《第4回日本視野学会原著》あたらしい眼科33(4):573〜576,2016©Humphrey10-2プログラムで明らかになった後頭葉脳梗塞による傍中心暗点の1例田中波*1横田聡*1,2友松洋子*1友松威*1高村佳弘*1稲谷大*1*1福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学*2京都大学大学院医学研究科眼科学ParacentralScotomaduetoOccipitalLobeCerebralInfarctionDetectedbyHumphrey10-2ProgramNamiTanaka1),SatoshiYokota1,2),YokoTomomatsu1),TakeshiTomomatsu1),YoshihiroTakamura1)andMasaruInatani1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalSciences,UniversityofFukui,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine緑内障ではHumphrey視野計(HFA)24°内検査(24-2)では異常のないpreperimetricglaucomaの患者でもHFA10°内検査(10-2)では視野異常を認めることがあり,黄斑局所の評価として有用性が知られている.今回筆者らはHFA24-2では不明瞭だったが,HFA10-2で同名1/4盲を認めた後頭葉脳梗塞の症例を報告する.症例は66歳,男性,突然の傍中心暗点を自覚し福井大学医学部附属病院眼科を受診した.眼病歴はなく,視野検査以外では有意な所見は認めなかったがHFA24-2で非特異的な傍中心暗点を同側右側に認めたため後頭葉の虚血性変化を疑い,頭部MRI,HFA10-2を行ったところ,左後頭葉鳥距溝付近に虚血性変化を認め,右下同名1/4盲を認めたことから後頭葉梗塞の診断に至った.一次視覚野において,網膜の黄斑領域からの投射は比較的広い範囲を占める.そのため後頭葉病変のサイズに対して,黄斑部の視野障害が広くないことがある.本症例のように脳神経系の器質的障害による視野障害でも,とくに黄斑局所の視野障害においてはHFA10-2により視野障害の部位が明確にできる場合がある.TheHumphreyFieldAnalyzer(HFA)10-2program(10-2)iswellknowntobeusefulinevaluatingparafovealscotomainpreperimetricglaucoma,butisnotmuchusedintheneuroophthalmologyarea.Wereportthecaseofaparacentralhomonymousscotomacausedbycalcarinesulcusinfarctionthatwasnotfoundby24-2,butwasdetectedby10-2.A66-year-oldmalenoticedsuddenonsetofaparacentralscotoma3daysaftersurgeryforrectalcancer.Hehadnohistoryofeyedisease.HFA24-2showednon-homonymousparacentralscotoma.Magneticresonanceimaging(MRI)revealedischemicchangenearthecalcarinesulcus.HFA10-2showedright-inferiorhomonymousscotoma,whichwethereforediagnosedasoccipitallobeinfarction.Intheprimaryvisualcortex,nervesfromthemacularareaprojecttoarelativelywideareaofthecortex;visualfielddefectsinthisareaarethereforerelativelysmall.Inthecaseofcalcarinesulcuslesions,therefore,HFA10-2canbeusefulindetectingparafovealscotoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):573〜576,2016〕Keywords:Humphrey10-2プログラム,Humphrey視野検査,傍中心暗点,後頭葉脳梗塞,一次視覚野.Humphrey10-2program,HumphreyFieldAnalyzer(HFA),paracentralscotoma,occipitallobeinfarction,primaryvisualcortex.はじめにHumphrey視野検査(HumphreyFieldAnalyzer:HFA,カールツァイスメディテック社)はさまざまなプログラムが設定可能で,中心30-2プログラム(30-2),中心24-2プログラム(24-2)ではそれぞれ中心視野30°,24°以内の6°間隔の検査点を測定する.HFA30-2の利点は辺縁部の暗点を見逃しにくいこと,HFA24-2の利点はHFA30-2に比べて測定時間が短いことである.ただしこれらの場合,中心視野10°以内はわずか12点しか測定されない.これに対しHFA10-2では10°以内の視野を2°間隔で68点測定するので中心部の詳細な検査が行える.緑内障性視野障害の90%以上が固視点から30°以内の暗点として始まる1,2)ので,緑内障の閾値検査では現在HFA30-2もしくはHFA24-2がおもに用いられている.しかし,HFA30-2やHFA24-2では異常のないpreperimetricglaucomaの患者でもHFA10-2で初めて眼底所見に対応した視野異常を認め,初期緑内障と診断されることがある.そのためHFA30-2やHFA24-2では視野障害が認められない場合でも,視神経乳頭や網膜神経線維層に緑内障性変化がみられる場合はHFA10-2での再検査が重要であることは緑内障分野では認識されている3,4).一方,視野1°当たりに割り当てられる皮質面積は偏心度すなわち中心窩からの相対的な位置と,ニューロンの視覚処理経路上での階層位置の両方に依存しており,中心視野の処理にはより多くの皮質が割り当てられている5〜9).そのため比較的広い後頭葉の脳梗塞であっても,それが中心近くの視野であれば,対応する網膜の障害面積は狭く視野障害の範囲は小さい場合がある.今回筆者らは,画像で確認すると明らかな後頭葉脳梗塞であるにもかかわらず,網膜の黄斑領域に対応している位置だったため視野障害が小さくなり,HFA24-2では視野異常が不明瞭だったが,HFA10-2で明らかな右下同名1/4盲を認め,最終的に後頭葉鳥距溝脳梗塞の早期診断に至った一症例を経験したので報告する.I症例症例:66歳,男性.家族歴・既往歴:家族歴に特記事項なし.40歳時,虫垂炎手術,眼病歴なし.現病歴:2014年8月直腸癌に対し福井大学医学部附属病院消化器外科で腹腔鏡下直腸切除術を行った.術後3日目午後12時30分頃,術後に行われる起き上がりのリハビリ中に,突然視野の右側が光り,その後両眼の傍中心暗点を自覚した.改善しないため術後4日目当院眼科紹介初診となった.初診時所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼1.0(n.c.),relativeafferentpupillarydefect陰性,眼圧は右眼10mmHg,左眼10mmHgであった.中心フリッカー値は右眼40.7Hz,左眼41.8Hz,患者にとって初めての視野検査であったHFA24-2で右眼は上耳側の傍中心暗点,左眼は下鼻側の傍中心暗点を認めた(図1).その他,中間透光体は軽度白内障を認めるのみで,眼底にも有意な所見は認めなかった(図2).両側ともに傍中心暗点を認めたがHFA24-2では視野障害の範囲が明確ではなかったため,中心視野の障害程度を詳細に確認するために後日改めてHFA10-2にて再検査を行った.また,急性発症の両眼性病変であり,暗点の位置は左右眼で上下が異なるものの,同側右側に認めたため,左後頭葉の血管性病変を疑いmagneticresonanceimaging(MRI)を施行した.その結果,HFA10-2では右下同名1/4盲を認め(図3),MRIでは,急性期脳梗塞および閉塞解除後のluxuryperfusionが反映されていることを確認した(図4).臨床経過とも一致し,急性期の左後頭葉鳥距溝脳梗塞と診断した.視野障害の他には脳神経・感覚・運動・協調運動・言語に異常は認めなかった.II考按今回筆者らは,HFA24-2の視野検査では不明瞭だったが,HFA10-2で明らかな右下同名1/4盲を認め,後頭葉鳥距溝脳梗塞の早期診断に至った1症例を経験した.本症例では視野障害の範囲が大きくなかったため6°間隔の視野検査では視野障害の範囲を特定することがむずかしかったが,2°間隔であれば明確にすることができた.これと同様なことは初期緑内障でも報告されており,HFA24-2では見つからない視野障害がHFA10-2では眼底所見と一致して発見されることがある3,4).つまり,後頭葉脳梗塞でも視野障害が広くなければ自動視野計の計測点の隙間に入り見逃してしまうことがあり,本症例と同様の報告が遠藤らによってすでになされている10).また,本症例の特徴としては画像上明らかな梗塞にもかかわらず,固視点近くの視野であったために視野障害が狭い範囲であったことがあげられる.これは大脳での皮質の面積と網膜の面積との関連から論じられる.中心視野は大脳皮質の比較的広い面積に投射され,一方,周辺視野はそれに対して狭くなる11~13).中心窩近くの網膜から投射を受けているところであれば,梗塞が比較的広い範囲であっても,視野障害は小さくなり,中心6°以内の測定点の間に収まってしまう場合がある.本症例も,左後頭葉鳥距溝の脳梗塞であり障害を受けた皮質の面積に比較して,網膜に相当する部分は狭かった.一方,患者にとって初めての視野検査であり,固視不良が20%を超えていた.それにより,HFA24-2では左右で上下に分かれた暗点となって検出された.HFA10-2では同様の固視不良であったが,測定点の密度が高いことにより真の暗点の広さに近い結果が得られ,診断に至った.固視点近傍の感度低下では固視不良をきたすことがあり,その点からもHFA10-2は暗点検出に有用であった.したがって,脳神経学的領域でも初期緑内障の場合と同様にHFA24-2で明確でない場合であっても,視野障害をきたしうる脳の器質的障害の疑いがあればHFA10-2の情報が診断に有用である.今回の症例は他の脳神経症状の合併がなかったため,診断に至るには初診時の問診や検査結果から脳血管障害を疑うことが必要であった.自覚症状が中心暗点のみの場合,眼科的疾患をまず考慮し患者は眼科を受診するが,傍中心暗点の場合は視力低下を起こさず,不定愁訴として見逃されがちである.HFA10-2にて中心視野の障害範囲を明確にしたうえで,その視野障害が同名性であれば脳血管障害を疑い,早急に頭部の画像検査を行うことが見逃しを防ぐために重要である.また,その場合,視野障害の範囲がごく小さいものであっても,中心視野であれば比較的梗塞の範囲は広い可能性があることを留意すべきである.本症例は他科入院中に視野障害が出現し当科に紹介されたため,急性期で脳梗塞の診断がつき治療介入を速やかに開始することができた.早期発見が良好な予後,新規病変の予防につながる.急性期後頭葉脳梗塞による狭い視野障害の症例を経験した.鳥距溝の限局的な脳梗塞である場合,傍中心暗点以外の神経学的所見がはっきり現れない場合があるうえ,その暗点も中心視野に近いほど梗塞巣の大きさに比較して小さな暗点になり検出がむずかしくなる.発症様式や症状から本症例のような疾患を疑い速やかに適切な検査を行うことで,脳の器質的障害の早期発見から早期治療につなげることができる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WernerEB,BeraskowJ:Peripheralnasalfielddefectsinglaucoma.Ophthalmology86:1875-1878,19792)CaprioliJ,SpaethGL:Staticthresholdexaminationoftheperipheralnasalvisualfieldinglaucoma.ArchOphthalmol103:1150-1154,19853)HoodDC,RazaAS,deMoraesCGetal:Glaucomatousdamageofthemacula.ProgRetinEyeRes32:1-21,20134)HangaiM,IkedaHO,AkagiTetal:Paracentralscotomainglaucomadetectedby10-2butnotby24-2perimetry.JpnJOphthalmol58:188-196,20145)DanielPM,WhitteridgeD:Therepresentationofthevisualfieldonthecerebralcortexinmonkeys.JPhysiol159:203-221,19616)PolimeniJR,BalasubramanianM,SchwartzEL:Multiareavisuotopicmapcomplexesinmacaquestriateandextra-striatecortex.VisionRes46:3336-3359,20067)SchiraMM,TylerCW,Speharetal:Modelingmagnificationandanisotropyintheprimatefovealconfluence.PLoSComputBiol6:e1000651,20108)SchiraMM,WadeAR,TylerCW:Two-dimensionalmappingofthecentralandparafovealvisualfieldtohumanvisualcortex.JNeurophysiol97:4284-4295,20079)HolmesG:FerrierLecture:TheOrganizationoftheVisualCortexinMan.ProceedingsoftheRoyalSocietyB:BiologicalSciences132:348-361,194510)EndouH,IkedaF,ChumanH:ハンフリー10-2プログラムが診断に有用であった同名性孤立暗点を生じた二例.日本視能訓練士協会誌34:185-189,200511)HortonJC,HoytWF:Therepresentationofthevisualfieldinhumanstriatecortex.ArevisionoftheclassicHolmesmap.ArchOphthalmol109:816-824,199112)GrayLG,GalettaSL,SiegalTetal:Thecentralvisualfieldinhomonymoushemianopia.Evidenceforunilateralfovealrepresentation.ArchNeurol54:312-317,199713)WongAM,SharpeJA:Representationofthevisualfieldinthehumanoccipitalcortex:amagneticresonanceimagingandperimetriccorrelation.ArchOphthalmol117:208-217,1999〔別刷請求先〕田中波:〒910-1193福井県吉田郡永平寺町松岡下合月23-3福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学Reprintrequests:NamiTanaka,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalScience,UniversityofFukui,23-3Shimoaizuki,Matsuoka,Eiheiji,Yoshida,Fukui910-1193,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(91)573574あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(92)図1初診時視野検査HFA24−2右眼中心右上,左眼中心右下に感度低下を認めた.右眼:中心窩閾値37dB,固視不良7/16,偽陽性0%,偽陰性7%,左眼:(以下同順)34dB,2/15,0%,1%.図2初診時眼底写真および光干渉断層計両眼とも中心窩付近に特記すべき異常所見を認めなかった.図3視野検査結果HFA10-2両眼とも右下視野に同名性の暗点を認めた.〔右眼:中心窩閾値39dB,固視不良8/19,偽陽性2%,偽陰性6%,左眼:(以下同順)37dB,3/16,1%,0%〕図4MRI画像a:Diffusion-weightedimaging:左後頭葉の鳥距溝付近に異常高信号域を認めた.b:T2強調画像fluidattenuatedinversionrecovery:同部位に高信号を認めた.c:Apparentdiffusioncoefficientmap:同部位が低値であった.d:Arteriald:Spinlabeling法:同部位に高信号を認めた.a,b,cより急性期鳥距溝脳梗塞と診断された.また,c,dより閉塞解除後のluxuryperfusionの反映を認めた.(93)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016575576あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(94)

My boom 51.

2016年4月30日 土曜日

連載Myboom監修=大橋裕一第51回「村木早苗」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介村木早苗(むらき・さなえ)滋賀医科大学眼科私は平成5年3月に大阪医科大学医学部を卒業し,滋賀医科大学眼科学教室に入局しました.初代教授である稲富昭太先生のご専門でもあり,伝統的に続いていた斜視外来を医局の人員不足?でわずか入局3年目から引き継ぐこととなり,それが縁で現在も斜視を専門のひとつとしています.また,入局6年目で色覚の遺伝子についての研究に携わることができ,現在は臨床でも色覚外来を担当しています.色覚外来ではヒトの視機能の奥深さにいつも新鮮な驚きを感じています.中学時代は陸上部,大学時代はバスケットボール部で,どちらかというと体育会系ですが,現在はまったくの運動不足です.臨床のMyboom:「斜視視能訓練」今,もっとも興味をもっているのは斜視視能訓練です.ご存知のように斜視治療の目的は,整容面の改善と視機能の改善にあります.たとえば間欠性外斜視の場合,正位では両眼視機能が良好であるのに,斜視のときに複視を自覚していない症例が多くみられます.これは斜視眼に抑制がかかっているということです.この抑制が残存したまま手術を行っても,眼位がくずれたときに複視の自覚がないために戻りやすいと考えられています.斜視視能訓練は,斜視になれば複視があることを自覚させ,斜視を斜位に持ち込むための訓練です.斜視角が小さい場合は訓練のみで改善できますが,斜視角が大きい場合は手術との併用が必要です.感覚面の訓練には抑制除去訓練,生理的複視認知訓練,融像訓練,運動面の訓練には輻湊訓練があります.抑制除去訓練では,抑制を除去するために斜視眼を遮閉し,斜視眼の網膜に何も投影されないようにします.つまり,物を見ていなかったら複視が生じませんから,そもそも抑制がかからないわけです.まず暗室で,遮閉していた目を一瞬開放します.そうすれば抑制がかかる前に斜視眼が像を認知し,複視を自覚します.訓練を繰り返していくことで抑制野が徐々に小さくなり,複視を自覚しやすくなっていきます.左右眼それぞれからの入力信号が脳内でお互いに影響し合っていることがよくわかる現象です.つまりヒトは脳で見ているのです!滋賀医科大学では今まで斜視視能訓練を積極的に行っていなかったのですが,学会で訓練の講演を聴き興味をもちました.しかし,視能訓練は基本的には視能訓練士の仕事です.そのため,近畿大学医学部堺病院の視能訓練士,松本富美子さんにお願いし,当院の視能訓練士にご指導いただきました.このように周りも十分巻き込みつつ,当院での斜視視能訓練が始動したわけです.まずは外斜視の手術前後の訓練を行っています.検査では優れた両眼視機能が検出されているにもかかわらず,外斜視術後にすぐに戻ってしまう症例と戻りが少ない症例の違いは,両眼視機能という土台の強固さの違いにヒントがあるのかもしれません.訓練は両眼視機能の強化,いわゆる基礎固めをするためのものだと思います.訓練後の手術は,訓練効果を台無しにしないように……というプレッシャーもありますが,むしろ土台がしっかりしている上に家を建てるようなものですから安心です.患者さんのためになるなら……という思いで斜視視能訓練を始めましたが,数年後には訓練の効果によって術後の戻りが本当に抑制されるのか,自分の目で検証したいと考えています.プライベートのMyboom:「大型犬とログハウス」7年前に大学時代の後輩から犬を譲り受けました.その後輩に犬を欲しいといった覚えはまったくなかったのですが,「子犬が産まれたので1匹いかがですか?」と聞かれ,気がついたら飼うことになっていました.犬種はベルジアングローネンダールです.私も飼うまでこんな犬種がいることすら知りませんでした.もともとは狼とシェパードをかけ合わせてできた犬種のようで,かなり原種に近く,どちらかというと愛玩動物というよりは野生味溢れた「狼」を飼っているという感じです.体重は約30kgの大型犬で,黒色の長毛です.人なつこいことはなく,気難しく,神経質,それでいて家族には甘えん坊で一人(一匹?)になるのをとても嫌います.頭が良く,ヨーロッパでは番犬や警察犬です.このような習性ですから,宅急便でも来ようものなら激しく吠えたてます.吠えて立ち上がる姿はツキノワグマさながらで,知らない人が見たら殺されるのではないかというくらい恐ろしいです.そのため荷物を受け取る前に犬をケージに入れるという作業をしてからでないと動けません.最近では,お客様が来たらケージに入るというのを覚えて,自分で吠えながらケージに入っていきます(笑).ですので,飼い主が鍵をかけるだけですみます.犬を飼ってから,住み慣れた故郷を散歩することが多くなり,そこに家(ログハウス)を建てることになりました.このログハウスの住み心地についてもお話したいと思います.ログハウスは木のぬくもりの優しい家です.冬はとにかく暖かいです.外が氷点下でも中は10(78)度を切ったことがありません.また,薪ストーブを炊けば,木のはぜる音と香り,そして他では味わえないぬくもりでからだの芯まで温まります.また,前の日にどんな料理をしても,翌日はまったく匂いが残りません.きっと木が浄化してくれているのだと思います.ところで夏は涼しいのか?ということですが,夏は普通の家と同じように暑いです.つまり万能ではありません.2階の足音はまともに階下に響くので大家族の場合は少し気になると思います.また,建ててから2年くらいは木が縮むので,ドアが閉まらなくなったりします.それを加味した設計ですが,雨で濡れたりもしますから,なかなか思い通りにはいきません.でも総合的には屋根も高く,木の香りいっぱいで,森林浴さながらのこんなに気持ちいい家はなかなかないと思います.広いロフトの窓際で眼下の景色を眺めながら,あるいは薪ストーブのそばでゆっくりワインでも飲んで大好きな読書をするのが憧れでした.薪ストーブに大型犬…….絵に書いたように材料は整い,いつでもすぐにできそうな夢なのに,何かと忙しくて未だに夢叶わず…….次のプレゼンターは福島医科大学の森隆史先生です.森先生は同じ分野でご活躍されている先生です.学会ではよく一緒にお酒を飲んで,大学のことなどを話しています.関西のノリに非常によく乗ってくれる楽しい先生です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.写真1訓練を頑張ってくれている滋賀医大の視能訓練士さんたちと写真2ログハウスと愛犬「ゴン太」とともにあたらしい眼科Vol.33,No.4,2016559(77)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY560あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(78)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 155.加齢黄斑変性に伴う出血性網膜剝離に対する意図的巨大裂孔作製による血腫除去術(上級編)

2016年4月30日 土曜日

●連載155硝子体手術のワンポイントアドバイス155加齢黄斑変性に伴う出血性網膜剝離に対する意図的巨大裂孔作製による血腫除去術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに加齢黄斑変性(AMD)あるいはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に併発した黄斑部網膜下血腫に対する治療法としては,硝子体内ガス注入による血腫移動術や,後極部意図的裂孔からの血腫除去術などが報告されている.しかし,多量の網膜下血腫により出血性網膜剝離をきたした例では,これらの方法では視力改善を得ることが困難である.筆者らは出血性網膜剝離を併発したAMDあるいはPCVに対して,耳側に約120°の意図的巨大裂孔を作製し,出血および網膜下増殖組織を除去する方法を報告した1).●手術方法有水晶体眼では,まず水晶体を切除したのち,硝子体切除,人工的後部硝子体剝離作製を行う(図1a).次に,耳側周辺部に約120°の意図的巨大裂孔を作製し(図1b),網膜を翻転して網膜下出血および脈絡膜新生血管を含む増殖組織を除去する(図1c).この際に直視下での双手法により網膜色素上皮を可能なかぎり温存する.その後,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展し(図1d),裂孔周囲に眼内光凝固を行い,液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを置換する.筆者らが報告した12眼では,全例で網膜下出血および増殖組織が除去でき,眼底所見は改善した.後極部の網膜色素上皮の欠損が広範な1眼を除いて全例で視力は改善し,黄斑部の網膜色素上皮が温存できた3例では術後に0.4以上の視力が得られた(図2).●本術式の利点と欠点本術式の利点は,多量の網膜下出血を確実に吸引除去できることに加えて,直視下で脈絡膜新生血管を含む増殖組織を抜去するため,網膜色素上皮の欠損を最小限にできることである.一方,本術式は通常の術式に比べると,意図的巨大裂孔を作製するために侵襲が大きくなるといった欠点もある.とくに確実に人工的後部硝子体剝離を作製しておかないと,術後に網膜剝離をきたす危険が高くなる.本術式は,2象限以上に及ぶ出血性網膜剝離を有する症例がよい適応と考えられる.硝子体出血併発例では,術前に超音波Bモード検査を念入りに施行し,胞状の出血性網膜剝離が疑われた場合には適応を考えてよいと思われる.図1手術方法a:確実に人工的後部硝子体剝離を作製する.b:耳側周辺部に約120°の意図的巨大裂孔を作製する.c:網膜を翻転して網膜下出血および脈絡膜新生血管を含む増殖組織を除去する.d:液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展しシリコーンオイルを置換する.図2黄斑下の色素上皮が温存できた症例a:術前に多量の網膜下血腫を認め,下方2象限は胞状の出血性網膜剝離が生じていた.b:術後,黄斑部の色素上皮が温存でき,矯正視力は1.0に改善した.耳側には意図的巨大裂孔を認める.文献1)IsizakiE,MorishitaS,SatoTetal:Treatmentofmassivesubretinalhematomaassociatedwithage-relatedmaculardegenerationusingvitrectomywithintentionalgianttear.IntOphthalmol2015[Epubaheadofprint]あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016557(75)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:眼類天疱瘡と結膜変化

2016年4月30日 土曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人13.眼類天疱瘡と結膜変化稲富勉京都府立医科大学眼科学教室眼類天疱瘡は結膜の瘢痕性変化を特徴とした自己免疫性疾患である.中高年齢層に発症し,慢性結膜炎や結膜囊短縮を示しながら緩徐に進行する.結膜炎症が悪化すると角膜上皮幹細胞疲弊や重度ドライアイに至り,難治性の予後をたどる.そのため早期診断や慢性期の治療が重要となる.●眼類天疱瘡の病態結膜上皮細胞の基底膜に対する自己免疫反応が原因で,上皮基底膜には免疫グロブリン(IgG,IgM)や補体C3の沈着が観察される.基底膜成分に対するさまざまな自己抗体が報告されているが(表1),結膜ではインテグリンb4がターゲットになることが多い.●結膜上皮の変化と杯細胞の消失結膜の高度炎症と増殖性変化を認め,病理的にはリンパ球や形質細胞を主体とした細胞浸潤を上皮から上皮下組織に認める(図1).表層上皮はドライアイの進行に平行して扁平上皮化生や錯角化が生じる1).結膜では杯細胞が減少し2),結膜囊短縮から瞼球癒着へと結膜下線維芽細胞の増殖が生じる.末期では上皮細胞の肥厚と角化に至る.角膜輪部では角膜上皮幹細胞疲弊症により角膜内への結膜侵入が進行する.●粘膜天疱瘡と眼類天疱瘡眼類天疱瘡はmucousmembranepemphigoidのなかで眼表面に病態が生じるものの総称である.眼部のみに発症するものは35%程度であり,残りは眼以外の口腔,鼻粘膜,食道粘膜も病変を生じるため,それを念頭においた問診と診察が必要である3).●病期分類と結膜変化Fosterにより病期分類されている4).I期では慢性結膜炎症から結膜囊下組織に白色の線維性増殖を認め,II期では下方の結膜円蓋部の短縮に至る.III期では瞼球癒着が進行し角膜内への結膜侵入や涙液減少が著明になる.IV期では角膜は結膜上皮により被覆され,角化し末期のステージとなる(図2).●治療の考え方初期には慢性結膜炎やドライアイとして治療されるため,早期に結膜下組織の増殖性変化や結膜囊短縮に気づくことが重要である.低濃度ステロイド点眼により慢性炎症を抑制し,角膜上皮保護や睫毛管理を行う.進行例ではプレドニゾロン,エンドキサン,セルセプトなどの全身性の免疫抑制が必要となり,副作用に留意しながら治療する.III~IV期では羊膜移植や角膜上皮移植などによる眼表面再建術の適応であるが,結膜瘢痕の再発がしばしば問題となる.文献1)NelsonJD,HavenerVR,CameronJD:Celluloseacetateimpressionsoftheocularsurface.Dryeyestates.ArchOphthalmol101:1869-1872,19832)ThoftRA,FriendJ,KinoshitaS:Ocularcicatricialpemphigoidassociatedwithhyperproliferationoftheconjunctivalepithelium.AmJOphthalmol98:37-42,19843)RadfordCF,RauzS,WilliamsGPetal:Incidence,presentingfeatures,anddiagnosisofcicatrizingconjunctivitisintheUnitedKingdom.Eye26:1199-1208,20124))FosterCS,WilsonLA,EkinsMB:Immunosuppressivetherapyforprogressiveocularcicatricialpemphigoid.Ophthalmology88:340,1982表1眼類天疱瘡での自己抗体のターゲットBPA1BPA2Laminin-5Laminin-6b-4integrinKeratinUncein168-kDaepiprotein図1眼類天疱瘡の結膜炎症と病理像a:結膜の高度炎症により潰瘍形成や結膜下組織増殖が著明となる.b:結膜上皮の肥厚と結膜下組織へのリンパ球や形質細胞を主体とした炎症細胞浸潤を認める.図2眼類天疱瘡の進行と病期分類a:I期では慢性結膜炎症と結膜上皮障害はローズベンガル染色で染色される.b:II期では結膜円蓋部が短縮してくる.c:III期.瞼球癒着,血管侵入,睫毛乱生,涙液分泌減少が進行する.d:IV期.重度の涙液減少により眼表面は角化する.(73)あたらしい眼科Vol.33,No.4,20165550910-1810/16/¥100/頁/JCOPY556あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(74)