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新しい治療と検査シリーズ 229.蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断

2016年2月29日 月曜日

あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162710910-1810/16/\100/頁/JCOPY速診断法として,蛍光免疫クロマトグラフィ法(fluorescentimmunochromatographicassay:FICGA)を用いたアカントアメーバ抗原検出キットを開発した1).免疫クロマトグラフィ法(immunochromatograph-icassay:ICGA)は,金コロイドやラテックス粒子で標識した特異抗体を用いて目的とする抗原を検出する検査法で,操作が簡便であり,判定にかかる時間も30分以内と,迅速診断が可能なことを特徴とし,眼科領域ではアデノウイルスやヘルペスウイルス感染症の迅速診断に用いられている.測定原理としては,検体中に抗原が存在すると標識抗体が結合し免疫複合体が形成される.メンブラン上のテストラインには抗原に対する特異抗体が固相されており,免疫複合体ごと抗原が捕捉され,標識抗体による発色が認められる.今回採用したFICGAで新しい治療と検査シリーズ(111).バックグラウンドアカントアメーバ角膜炎(Acamthamoebakeratitis:AK)は進行するときわめて難治な角膜感染症であり,高度の視力障害をきたす例も少なくないため,早期診断・治療が重要とされる.診断根拠となるアカントアメーバの検出には,角膜擦過物の直接検鏡,分離培養のほか,近年では共焦点顕微鏡を用いた生体観察やpoly-merasechainreaction(PCR)法によるDNA検出などが用いられているが,専門的な技術や特殊な機器を要するため,実施できる施設が限られているのが現状である..新しい検査法筆者らは一般病院や診療所でも実施可能なAKの迅229.蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断検体(抗原)抽出液標識抗体検体+標識抗体抗体蛍光色素シリカ粒子抗原固相化抗体蛍光スコープで観察図1蛍光免疫クロマトグラフィ法検体を抽出液で処理後,凍結乾燥された標識抗体と混合し,プレートに滴下,判定は専用の蛍光スコープで行う.プレゼンテーション:鳥山浩二愛媛県立中央病院眼科コメント:井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162710910-1810/16/\100/頁/JCOPY速診断法として,蛍光免疫クロマトグラフィ法(fluorescentimmunochromatographicassay:FICGA)を用いたアカントアメーバ抗原検出キットを開発した1).免疫クロマトグラフィ法(immunochromatograph-icassay:ICGA)は,金コロイドやラテックス粒子で標識した特異抗体を用いて目的とする抗原を検出する検査法で,操作が簡便であり,判定にかかる時間も30分以内と,迅速診断が可能なことを特徴とし,眼科領域ではアデノウイルスやヘルペスウイルス感染症の迅速診断に用いられている.測定原理としては,検体中に抗原が存在すると標識抗体が結合し免疫複合体が形成される.メンブラン上のテストラインには抗原に対する特異抗体が固相されており,免疫複合体ごと抗原が捕捉され,標識抗体による発色が認められる.今回採用したFICGAで新しい治療と検査シリーズ(111).バックグラウンドアカントアメーバ角膜炎(Acamthamoebakeratitis:AK)は進行するときわめて難治な角膜感染症であり,高度の視力障害をきたす例も少なくないため,早期診断・治療が重要とされる.診断根拠となるアカントアメーバの検出には,角膜擦過物の直接検鏡,分離培養のほか,近年では共焦点顕微鏡を用いた生体観察やpoly-merasechainreaction(PCR)法によるDNA検出などが用いられているが,専門的な技術や特殊な機器を要するため,実施できる施設が限られているのが現状である..新しい検査法筆者らは一般病院や診療所でも実施可能なAKの迅229.蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断検体(抗原)抽出液標識抗体検体+標識抗体抗体蛍光色素シリカ粒子抗原固相化抗体蛍光スコープで観察図1蛍光免疫クロマトグラフィ法検体を抽出液で処理後,凍結乾燥された標識抗体と混合し,プレートに滴下,判定は専用の蛍光スコープで行う.プレゼンテーション:鳥山浩二愛媛県立中央病院眼科コメント:井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学 は,標識粒子に通常の金コロイドやラテックス粒子ではなく,蛍光シリカナノ粒子(QuartzDotR;古河電工)を用いており,従来の方法と比べ感度が高いとされている.アカントアメーバに対するモノクローナル抗体としては,過去に樋渡らが,AKの原因株の大部分を占める形態学的分類GroupIIに属するアカントアメーバに対し特異的に反応するものを精製,報告しており2),これを譲渡していただいたものを用いた..検査方法本法では界面活性剤を含む抽出液によってサンプルを処理後,凍結乾燥した標識抗体と混合し,プレートに滴下,30分の反応後,専用の蛍光スコープで陽性ラインを確認することで抗原を検出する(図1).判定に蛍光スコープを用いるため,目視により判定する従来のICGAと比較し,より鋭敏な検出が可能である..本方法の良い点本キットをinvitroでアカントアメーバの栄養体およびシストの希釈液を用いて検出限界を検証したところ,栄養体は5個/sample,シストは40個/sampleまで検出可能であった.一方,同様の抗体を用いたラテックス粒子によるICGAキットでは,アカントアメーバ栄養体の検出限界は100個/sampleであり,FICGAの感度の高さが実証された.シストの検出感度が栄養体より低い理由については明確でないが,シストでは界面活性剤により菌体が十分溶解されず,抗原が標識抗体に認識されにくい可能性が原因のひとつとして考えられ,抽出方法の改善が今後の検討課題である.実際にAKが疑われた10症例の角膜擦過物を用いて,FICGA,real-timePCR,検鏡・培養によるアカントアメーバ同定を行った結果を表1に示す.全例でreal-timePCRによりアカントアメーバDNAが検出され,表1アカントアメーバ角膜炎症例における各種同定検査結果症例年齢性別検鏡培養Real-timePCR(DNAコピー数)FICGA119F.*.+(1.1×105)+218M.*++(6.8×10)+319FNTNT+(1.2×105)+457FNTNT+(<25)+532F.*.+(1.0×102)+650MNTNT+(4.0×105)+724F.*.+(<25)+829M+*++(2.5×104)+936M+*.+(2.3×103)+1030M+**++(3.2×104)+PCR:polymerasechainreaction,FICGA:fluorescentimmunochromatographicassay,NT:nottested,*グラム染色,**ファンギフローラY染色.AKと確定診断された.FICGAも全例で陽性であり,培養・検鏡陰性例やreal-timePCRで検出されたDNAcopy数が少ない症例でも検出が可能であったのは,invitroの試験で示された感度の高さを裏付けるものと考えられる.今後さらなる検討が必要であるが,本キットは簡便な操作で,迅速かつ高感度にアカントアメーバの検出が可能であり,実用化されればAK診断に大きく貢献することが期待される.文献1)ToriyamaK,SuzukiT,InoueTetal:DevelopmentofanimmunochromatographicassaykitusingfluorescentsilicananoparticlesforrapiddiagnosisofAcanthamoebakeratitis.JClinMicrobiol53:273-277,20152)HiwatashiE,TachibanaH,KanedaYetal:ProductionandcharacterizationofmonoclonalantibodiestoAcanthamoebacastellaniiandtheirapplicationfordetectionofpathogenicAcanthamoebaspp.ParasitolInt46:197-205,1997.「蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断」へのコメント.アカントアメーバ角膜炎(Acamthamoebakerati-に普及することはむずかしいと思われる.ただ,今回tis:AK)の診断では,臨床所見に加えて病巣のアカ用いられた蛍光シリカナノ粒子の技術は,免疫クロマントアメーバの検出が重要だが,培養方法が特殊で,トグラフィ法の欠点である感度の低さを改善する可能通常の病院ではそのノウハウがなく,またPCRはご性がある.今後,これが発展して,一つのキットで複く一部の施設でしか施行できない.今回のアカントア数の眼感染症起炎微生物が検出される方向へ進めば,メーバの蛍光免疫クロマトグラフィ法には,蛍光ス一般眼科臨床医がその場で使用できる日が来るのではコープさえあればベッドサイドで診断できるという大ないか.このようなpoint-of-carediagnostics(POCD)きなメリットがある.残念ながら,AKはきわめて珍が発展していくうえで大変重要な報告として,多いにしいため,これがキット化されても,商品として一般注目される.272あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(112)

抗VEGF治療:糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF治療のポイント

2016年2月29日 月曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二25.糖尿病黄斑浮腫に対する高村佳弘福井大学医学部眼科学教室抗VEGF治療のポイント糖尿病黄斑浮腫に対する治療は,抗VEGF薬硝子体内注射が第一選択にあげられるが,治療後の浮腫の再発とそれに伴う頻回投与が臨床上の問題である.本稿では,その対策として虚血網膜への選択的光凝固について概説する.抗VEGF治療の功罪糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の治療においては,ラニビズマブやアフリベルセプトといった抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射が中心となっているが,単回投与の効果の持続期間が短いことが難点である.これまでに行われてきた大規模な前向き調査は頻回投与が基本となっている.毎月投与すれば浮腫の改善は保たれ,視力も向上するが,高価な薬剤であり,患者への負担は大きく,実臨床においては頻回投与の実現はむずかしい.実際,医療費に占める割合も年々上がっており,医療経済的にも無視できない課題となっている.少ない投与回数であっても頻回投与と同様の効果を得ることができれば,それが理想的であると考えられる.抗VEGF薬の効果が限定的である理由として,薬理効果の経時的な減弱がまず考えられる.また,網膜の虚血領域からVEGFが供給されることを考えると,いったん抗VEGF薬によって眼内のVEGFを阻害して浮腫が退いたとしても,VEGFが持続的に分泌されているため,薬効が切れると浮腫の再発が起こる可能性があると思われる.実際,フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)で検出される無灌流領域が広いとDMEが起こるリスクが高まることが報告され,周辺虚血がDMEの病態に関与していることが示唆されている1).抗VEGF薬と光凝固との併用療法筆者らは抗VEGF薬であるベバシズマブ単独投与群と周辺部の無灌流領域に選択的光凝固を併用した群との間で中心網膜厚を比較したところ,併用群において浮腫の再燃を抑制できたことを報告した2).単独投与群においては,無灌流領域が広いほど浮腫の再燃の程度が有意(109)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYに強くなる.これらの知見は網膜虚血が抗VEGF治療後の浮腫の再燃にも関与していることを示している.また,汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)の既往があったとしても,無灌流領域が残存していると浮腫は再燃することも併せて見出した.よってPRPが施行されていたとしても,FAを行い,無灌流領域が残存していないか確認することが大事だと思われる.ただし,広範囲な無灌流領域に対して光凝固を行った場合,DMEがかえって悪化することもあり,注意が必要である.光凝固直後においてはVEGFや炎症系サイトカインの眼内レベルが一過性に上昇することが知られており,これが黄斑浮腫悪化のトリガーとなると考えられている.この光凝固後の浮腫の悪化を予防する薬物治図1蛍光眼底造影で描出される無灌流領域抗VEGF治療後,限局した無灌流領域(白点線)に対して選択的に光凝固を加えておくことが,浮腫の再燃を防ぐうえで重要である.あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016269 毛細血管瘤を伴う局所性DME直接光凝固硝子体手術硝子体膜の牽引血管造影による血管透過性の亢進と無灌流領域の同定虚血領域が広い場合は図2糖尿病黄斑浮腫に対する治療の抗VEGF薬硝子体内投与(初回)ステロイドTenon.下投与がよい流れ抗VEGF治療を行う際には,虚血の抗VEGF薬の初回投与なしで管理を念頭に置くことが必要である.周辺部虚血領域への選択的光凝固再発光凝固を行うと,かえって浮腫が悪化することがある抗VEGF薬硝子体内投与(再投与)ステロイド閾値下光凝固?療としては,トリアムシノロンによるステロイド治療の有効性を示した報告が多い3).海外では硝子体内投与が主流だが,日本からはTenon.下投与の有効性が報告されている4).Tenon.下投与のほうが効果は劣るものの,水晶体混濁や眼圧上昇,無菌性眼内炎の発症率が低いという点で優れている.筆者は,黄斑浮腫が強くて周辺部の無灌流領域が限局していれば抗VEGF薬を(図1),広範囲に虚血領域が広がっていればステロイド薬を光凝固に先行して投与しておくほうが良いと考えている.ステロイド,硝子体手術と抗VEGF治療現在,抗VEGF薬は第一選択とされることが多いが,網膜牽引のある症例では硝子体手術を,毛細血管瘤を伴う局所性浮腫に対しては直接光凝固を施行することを考慮すべきであろう.硝子体手術後では眼内薬物滞留期間のクリアランスが上がることで抗VEGF薬の効果が減弱するとの意見もあったが,近年では低下しないとする報告もある5,6).硝子体手術に関しては,その有効性がこれまでも議論されてきたが,網膜最周辺の虚血領域への十分な光凝固も可能であり,また極小切開硝子体手術システムの進化による低侵襲化も相まって,今後その価値が見直されるのではないかと思われる.周辺の虚血領域に十分に光凝固しても再発してくる場合は,抗VEGF治療を繰り返すか,ステロイド治療に切り替える.残存した毛細血管瘤に直接光凝固を行うことも重要だが,閾値下光凝固の有効性にも今後期待が寄270あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016せられる.筆者の考える治療方針を図2にまとめる.抗VEGF薬の毎月投与は日本の医療保険制度などの実情を考えると無理がある.症例ごとのDMEの病態を考慮し,ステロイド,硝子体手術,光凝固などの治療を併用することで抗VEGF治療の効果を高める併用療法が,今後ますます重要となってくると考えられる.文献1)WesselMM,NairN,AakerGDetal:Peripheralretinalischaemia,asevaluatedbyultra-widefieldfluoresceinangiography,isassociatedwithdiabeticmacularedema.BrJOphthalmol96:694-698,20122)TakamuraY,TomomatsuT,MatsumuraTetal:Theeffectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,20143)ChoWB,MoonJW,KimHC:Intravitrealtriamcinoloneandbevacizumabasadjunctivetreatmentstopanretinalphotocoagulationindiabeticretinopathy.BrJOphthalmol94:858-863,20104)ShimuraM,YasudaK,ShionoT:Posteriorsub-Tenon’scapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalphotocoagulation-inducedvisualdysfunctioninpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.Ophthalmology113:381-387,20065)NiwaY,KakinokiM,SawadaTetal:Ranibizumabandaflibercept:IntraocularpharmacokineticsandtheirefectsonAqueousVEGFlevelinvitrectomizedandnonvitrectomizedmacaqueeyes.InvestOphthalmolVisSci56:65016505,20156)AhnSJ,AhnJ,ParkSetal:Intraocularpharmacokineticsofranibizumabinvitrectomizedversusnonvitrectomizedeyes.InvestOphthalmolVisSci55:567-573,2014(110)

緑内障:緑内障遺伝子ハンティングの最前線

2016年2月29日 月曜日

●連載188緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也188.緑内障遺伝子ハンティングの最前線池田陽子*1中野正和*2京都府立医科大学大学院医学研究科*1視覚機能再生外科学*2ゲノム医科学緑内障において“遺伝子ハンティング”という言葉がふさわしくなったのは落屑症候群に関連するLOXL11)の同定からであろう.当時のアレイではゲノム上の30万個のバリアントの解析が可能であったが,現在では430万個ものバリアントが解析でき,多検体化の波にも乗って新規関連遺伝子の同定が期待されている.●国際コンソーシアム化2009年に皮切りとなった広義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)のゲノムワイド関連解析(genome-wideassociationstudy:GWAS)の結果,現在までに同定されているバリアントは,他の多因子疾患と同様に疾患に対する影響力が弱く(オッズ比2.0未満),広義POAGに関連するバリアントは依然として多数潜在することが示唆されている.広義POAGに関連する未同定のコモンバリアントだけでなく,アレル頻度の低いレアバリントを同定しつくすためには,より多くの検体を用いたGWASを実施する必要がある.そのため,世界規模で検体を収集しデータを取得するための国際コンソーシアム化が進み,InternationalGlaucomaGeneticsConsortium(IGGC)が発足した.IGGCの拠点はおもに3つで,米国のJaneyWiggsらが率いるNEIGHBOR(NEIGlaucomaHumangeneticscollaBORation)およびNEIGHBORHOOD(NEIGHBORHeritableOverallOperationalDatabase),シンガポール国立アイセンターのTinAungらのグループ,オーストラリアのJamieECraigらのグループから構成されている.これらの3つのコンソーシアムは競合しているものの,膨大な検体数を確保するために,ときに力を合わせて解析を進める柔軟性がある.2015年,NatureGenetics誌に掲載された2.5Mアレイ(250万バリアント)による落屑症候群のGWAS2)では,これらのコンソーシアムのメンバーが多数参画した.●アレイの進歩2005年の加齢黄斑変性で使用されたアレイに搭載されていたバリアントはわずか10万個(100Kアレイ)であったが,今や2.5Mアレイが主流であり,さらには430万個ものバリアントを解析できるアレイも登場している.取得できるデータ量の増加に伴い,解析サーバなどの整備にコストがかかるものの,1バリアントあたりのデータ取得費用は低価格化が進んでいる.また,遺伝子のエキソン上のバリアントに的を絞ったエキソームアレイの報告も多く認められるようになった.統計学的に疾患に関連するバリアントをエキソン上から同定できれば,遺伝子の機能解析に直ちに移行できる点でメリットが多い.一方,従来のアレイのほとんどは外国製で,白人のバリアントの検出に主眼が置かれていたため,日本人ではおよそ3割のデータを解析から除外しなければならなかった.最近,日本人固有のバリアントを搭載した「ジャポニカアレイ」が東北大学東北メディカル・メガバンク機構の元で開発されたことから,日本人独自の遺伝子ハンティングに活用されることが期待される(図1).図1遺伝子ハンティングを支えるアレイ(107)あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162670910-1810/16/\100/頁/JCOPY 表1全ゲノムおよびエキソームアレイを用いた最近の遺伝子ハンティングの成果病型遺伝子領域染色体位置バリアントID人種オッズ比アレイ文献原発開放隅角緑内障ABCA1PMM29q31.116p13.2rs2487032rs3785176アジア人0.731.30HumanOmniZhongHua-8Chenetal,2014*1原発開放隅角緑内障ABCA1AFAP1GMDS9q31.14p16.16p25.3rs2472493rs4619890rs11969985白人1.311.201.31HumanOmni1M-QuadHumanOmniExpress-24Gharahkhanietal,2014*2原発開放隅角緑内障CDKN2BAS-1CDC7-TGFBR39p21.31p22.1rs2157719rs1192415アジア人白人0.711.13HumanCoreExome+25,000EastAsiancodingvariantsZhengetal,2015*3原発開放隅角緑内障TXNRD2ATXN2FOXC122q11.2112q24.126p25.3rs35934224rs7137828rs2745572白人アジア人0.781.171.17Illumina660W_QuadAffymetrix500KHumanOmni1-QuadBaileyetal,2016*4落屑症候群/落屑緑内障LOXL1PMLTBC1D2115q24.115q24.115q24.1rs3825942rs3825941rs16958445日本人25.441.83.54Genome-WideHumanSNPArray6.0Nakanoetal,2015*5落屑症候群/落屑緑内障LOXL1CACNA1A15q24.119p13.2rs4886776rs4926244アジア人白人9.87(日本人)0.49(白人)HumanOmniExpress-241.16Aungetal,2015*6原発閉塞隅角緑内障ABCC511p15.1rs1401999アジア人1.13Human610-QuadNongpiuretal,2014*7原発閉塞隅角緑内障PLEKHA7COL11A1PCMTD1-ST1811p15.11p21.18q11.23rs11024102rs3753841rs1015213アジア人1.221.201.50Human610-QuadVithanaetal,2012*8*1:ChenY,LinY,VithanaENetal:CommonvariantsnearABCA1andinPMM2areassociatedwithprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet46:1115-1119,2014*2:GharahkhaniP,BurdonKP,FogartyRetal:CommonvariantsnearABCA1,AFAP1andGMDSconferriskofprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet46:1120-1125,2014*3:LiZ,AllinghamRR,NakanoMetal:AcommonvariantnearTGFBR3isassociatedwithprimaryopen-angleglaucoma.HumMolGenet24:3880-3892,2015*4:BaileyJN,LoomisSJ,KangJHetal:Genome-wideassociationanalysisidentifiesTXNRD2,ATXN2andFOXC1assusceptibilitylociforprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet,Epubaheadofprint,2016*5:NakanoM,IkedaY,TokudaYetal:NovelcommonvariantsandsusceptiblehaplotypeforexfoliationglaucomaspecifictoAsianpopulation.SciRep14:5340,2014*6:AungT,OzakiM,MizoguchiTetal:AcommonvariantmappingtoCACNA1Aisassociatedwithsusceptibilitytoexfoliationsyndrome.NatGenet,47:387-392,2015*7:NongpiurME,KhorCC,JiaHetal:ABCC5,agenethatinfluencestheanteriorchamberdepth,isassociatedwithprimaryangleclosureglaucoma.PLoSGenet10:e1004089,2014*8:VithanaEN,KhorCC,QiaoCetal:Genome-wideassociationanalysesidentifythreenewsusceptibilitylociforprimaryangleclosureglaucoma.NatGenet44:1142-1146,2102●遺伝子ハンティングの成果(表1)2014年,約90万個のバリアントが搭載されているアレイを用いたGWASによって,広義POAGに関連するバリアント(オッズ比は1.2前後)が,9q31.1領域のABCA1近傍から同定された3,4).これらのバリアントは中国人と白人で検出され,人種を超えて再現された.ABCA1はコレステロールの輸送にかかわる蛋白質で,線維柱帯,網膜全層,視神経に発現しており,とくに網膜神経節細胞において強く発現していた.一方,ABCA1はCDKN2BAS-1とともに心疾患,糖尿病などの他の多因子疾患とも関連しており,緑内障の病態に直接関係しているのか,あるいは調節配列上のバリアントが本領域外の遠隔遺伝子の発現を調節しているのか,解明が待たれるところである.最近,約26万個のコモンバリアントと約24万個のエキソン上のバリアントが解析できる市販のアレイに,アジア人固有のエキソン上のバリアントを25,000個カスタマイズして搭載したエキソームアレイを用いた大規模GWASの結果が報告された5).本研究では,エキソン上のレアバリアントは新規に同定できなかったものの,既報のCDKN2B-AS1のコモンバリアントが再現268あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016されるとともに,TGFBR3近傍のコモンバリアントが同定された.このバリアントは,視神経乳頭面積や垂直陥凹比に関連することが報告されていたが,広義POAGの発症にも関連することが初めて判明した.広義POAGのような多因子疾患では,個々の影響力が弱いバリアントが数十から数百個存在することが示唆されていることから,今後もアレイを用いた大規模GWASによる遺伝子ハンティングが継続して実施されることが予想される.文献1)ThorleifssonG,MagnussonKP,SulemPetal:CommonsequencevariantsintheLOXL1geneconfersusceptibilitytoexfoliationglaucoma.Science317:1397-1400,20072)AungT,OzakiM,MizoguchiTetal:AcommonvariantmappingtoCACNA1Aisassociatedwithsusceptibilitytoexfoliationsyndrome.NatGenet47:387-392,20153)ChenY,LinY,VithanaENetal:CommonvariantsnearABCA1andinPMM2areassociatedwithprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet46:1115-1119,20144)GharahkhaniP,BurdonKP,FogartyRetal:CommonvariantsnearABCA1,AFAP1andGMDSconferriskofprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet46:1120-1125,20145)LiZ,AllinghamRR,NakanoMetal:AcommonvariantnearTGFBR3isassociatedwithprimaryopenangleglaucoma.HumMolGenet24:3880-3892,2015(108)

屈折矯正手術:LASIK術後10年の高次収差

2016年2月29日 月曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載189大橋裕一坪田一男189.LASIK術後10年の高次収差粥川佳菜絵稗田牧京都府立医科大学眼科学教室LASIK術後10年の高次収差について,レトロスペクティブに検討を行った.術前,術後1年,5年,10年における散瞳下の高次収差を測定した.角膜高次収差は術前後で有意に増加するものの,術後1年以降は有意な変化は認めなかった.内部高次収差は術前から術後10年まで有意な変化は認めなかった.●はじめにLASIKでは,角膜にフラップを作製した後にフラップ下の角膜実質をエキシマレーザーで切除するため,術後に高次収差が増加し,夜間視機能の低下やハロー,グレアといった術後合併症が生じることがある.近年さまざまな施設からLASIKの長期経過に関する報告がなされているが,術後長期における高次収差に関する報告はまだ少ないのが現状である1~3).今回筆者らは,LASIK術後10年の高次収差についてレトロスペクティブに調査を行い報告したので,概説する4).●方法今回対象としたのは,2001年3月~2003年3月にバプテスト眼科クリニックでLASIKを施行した症例のうち,術前および術後1年,5年,10年において,散瞳下の高次収差測定が可能であった症例29例54眼,手*0.40.35術時平均年齢37.1±9.1歳(21~57歳),術前の平均自覚的等価球面度数.6.31±2.55D(.2.5~.12.5D),平均球面度数.5.44±2.32D,平均円柱度数.1.02±0.66Dである.マイクロケラトームはNIDEK社製のMK2000もしくはボシュロム社製のLSKone,Hansatomeのいずれかを使用した.エキシマレーザーはNIDEK社製のEC-5000もしくはボシュロム社製のT217zを用いた.高次収差は,OPDScan(NIDEK社製)を用いて測定し,瞳孔径4mmでZernike多項式を用いて6次までの収差を解析した.以下に,角膜に起因する角膜高次収差と,水晶体および角膜後面に起因する内部高次収差の解析結果について述べる.●結果角膜高次収差は,術前:0.18±0.13μm,術後1年:0.25±0.10μm,5年:0.25±0.13μm,10年:0.26±0.11μmと,術前後では有意に増加した(pairedt-test,p<0.01)が,術後1年以降は有意な変化はなかった(pairedt-test,p>0.1)(図1).一方,内部高次収差は,0.180.25**0.250.260.40.30.350.170.190.20.2角膜高次収差(μm)0.25内部高次収差(μm)0.30.20.250.150.20.10.150.050.10術前1Y5Y10Y0.05(*p<0.01,pairedt-test)0図1角膜高次収差術前1Y5Y10Y術前後では有意に増加するが,術後1年以降は有意な変化はな図2内部高次収差かった.術前から術後10年まで有意な変化は認めなかった.(105)あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162650910-1810/16/\100/頁/JCOPY 図3代表症例の術後1年および10年における全眼球収差(OPDScan)右眼の高次収差を赤,左眼の高次収差を青でマーキングしている.両眼ともに,術後1年から10年までの高次収差の増加はわずかであった.術前:0.17±0.12μm,術後1年:0.19±0.06μm,5年:0.20±0.10μm,10年:0.20±0.08μmと,術前から術後10年まで有意な変化は認められなかった(pairedt-test,p>0.1)(図2).次に,代表症例の術後1年および10年における全眼球収差と角膜形状を示す(図3,4).手術時年齢45歳の女性で,術前の自覚的等価球面度数は右眼.8.25D,左眼.7.75Dであった.本症例では,全眼球高次収差は右眼0.127μm(術後1年)→0.149μm(術後10年),左眼0.187μm(術後1年)→0.214μm(術後10年)であり,術後1~10年までの変化量は,右眼0.022μm左眼0.027μmとごくわずかであった.また角膜形状も,術後1~10年まで大きな変化が生じていないことがわかる.●おわりにLASIK術後長期の高次収差に関する既報では,Ivarsenらが,コマ様収差と球面収差はLASIK前後で有意に増加するが,術後1カ月以降7年まで有意な変化はなかったと報告している5).今回の筆者らの検討でも,角膜収差,内部収差ともに,術後1年以降10年まで長期に図4代表症例の術後1年および10年における角膜形状(TMS.4)両眼とも大きな変化は生じていない.渡り,統計学的に有意な変化はなく安定していた.今回対象とした症例は,スタンダード照射とカスタム照射の症例が混在しているため,現在主流となっているカスタム照射のみを対象として解析を行えば,術後の高次収差は今回の結果よりさらに軽減されるだろう.文献1)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Higherorderwavefrontaberrationsofcorneaandmagnitudeofrefractivecorrectioninlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmology6:1154-1158,20022)GatinelD,AdamPA,ChaabouniSetal:ComparisonofcornealandtotalocularaberrationsbeforeandaftermyopicLASIK.JCataractRefractSurg5:333-340,20103)MunozG,Albarran-DiegoC,Ferrer-BlascoTetal:Long-termcomparisonofcornealaberrationchangesafterlaserinsitukeratomileusis:mechanicalmicrokeratomeversusfemtosecondlaserflapcreation.JCataractRefractSurg11:1934-1944,20104)宮本佳菜絵,稗田牧,木下茂ほか:LASIK術後10年の高次収差.IOL&RSinpress5)IvarsenA,HjortdalJ:Seven-yearchangesincornealpowerandaberrationsafterPRKorLASIK.InvestOphthalmolVisSci10:6011-6016,2012☆☆☆266あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(106)

眼内レンズ:Berger腔のトリアムシノロンによる可視化

2016年2月29日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋351.Berger腔のトリアムシノロン鳥井秀雄*1大鹿哲郎*2*1浮之城眼科*2筑波大学による可視化Berger腔は,水晶体後.と前部硝子体膜の間にあり,Wieger靭帯に囲まれた空間である.通常,生体眼で観察することはできないが,そのスペースがなんらかの物質で満たされることにより可視化されることがある.白内障手術中にトリアムシノロンアセトニドがトラップされ,Berger腔が明瞭に観察された2症例を供覧する.●Berger腔の解剖硝子体の前面は凹状に窪んでpatellarfossaを形成し,水晶体に面している1).硝子体前面と水晶体後面とはWieger靭帯で接着しており,その範囲は直径8~9mmとされる2).Wieger靭帯の内側で,水晶体後面と硝子体前面で囲まれた空間がBerger腔である(図1).Berger腔は通常,生体眼で観察することはできないが,なんらかの物質がそのスペースを満たすことにより,顕在化することがある.これまでに,白内障手術時の粘弾性物質3),白内障手術時のインドシアニングリーン染色液4),原因不明の混濁物質5),pigmentdispersionsyndrome(色素散乱症候群)における色素沈着6,7)によって,Berger腔がinvivoで観察されたとの報告がある.筆者らは,白内障手術時に使用したトリアムシノロンアセトニド(マキュエイドR,わかもと製薬)によってBerger腔が可視化された症例を経験した.●症例1症例1は64歳の男性で,白内障と黄斑前膜に対して手術を行った.皮質吸引後に,後.の視認性を向上させて後.連続円形切.(posteriorcontinuouscurvilinearcapsulorrhexis:PCCC)を容易にする目的で,トリアムWieger靭帯Wieger靭帯Berger腔Cloquet管前部硝子体膜図1水晶体後方スペースの解剖(103)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYシノロンを前房中に注入した.I/Aで前房内を洗浄したところ,後.下の円形スペースにトリアムシノロンが貯留している像が観察された(図2).このスペースは周囲と明らかに隔離され,眼球を動かしてもトリアムシノロンは拡散していかなかった.術前や術中に,明らかなZinn小帯断裂は認めなかったが,トリアムシノロンは6時方向の赤道部から繋がっているように見えたことから,同部のZinn小帯およびWieger靭帯が脆弱で,そこを通じてトリアムシノロンが後.下に廻り,Berger腔に貯留したものと考えられた.この後,PCCCおよび硝子体切除を施行し,Berger腔と考えられるスペースの存在を確認した.●症例2症例2は63歳の男性,外傷によるZinn小帯断裂,水図2症例1の術中写真皮質吸引後にトリアムシノロンを前房中に注入し,I/Aを行った直後.後.下の円形スペース(.)にトリアムシノロンが貯留している..は前.縁.6時方向のZinn小帯脆弱部(.)からトリアムシノロンが後.下に廻り,Berger腔にトラップされたものと考えられた.あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016263 図3症例2の術前写真上方のZinn小帯断裂,水晶体震盪,前房内硝子体脱出を認める.晶体偏位,水晶体震盪,前房内への硝子体脱出を認めた(図3).白内障手術時,脱出硝子体を可視化する目的でトリアムシノロンを前房内に注入したところ,一部が後.下に廻り,円形の空間にトラップされた(図4).同部位は周辺から明瞭に分離しており,その中にあるトリアムシノロンと皮質片は眼球を動かしても周囲に広がっていくことはなく,Berger腔であると考えられた.手術はそのまま終了したが,翌日にはトリアムシノロンも皮質片も吸収されていた.●Wieger靭帯の状態Wieger靭帯の水晶体後面への接着は,若年者ほど強く,加齢とともに弱くなっていく2).Wieger靭帯の接着は50歳代以降で弱くなり,水晶体全摘出術が頻繁に行われていた時代には,高齢者ほど全摘出時に硝子体の脱出が生じにくいことが知られていた.今回の2症例では,Wieger靭帯の一部に断裂があり,同部位からトリアムシノロンが後方に廻ってBerger腔にトラップされたものと考えられた.図4症例2の術中写真後.より奥の,周囲から明瞭に分離したBerger腔と考えられるスペース(.)に,トリアムシノロンと皮質片がトラップされている.縫着水晶体.拡張リングを固定した後,眼内レンズが挿入されている.文献1)HoganMJ,AlvaradoJ,WeddellJE:Vitreous.Histologyofthehumaneye.Anatlasandtextbook.WBSaunders,Philadelphia,p607-637,19712)BronAJ,TripathiRC,TripathiBJ:Thevitreous.Wolff’sanatomyoftheeyeandorbit,8thed,Chapman&HallMedical,London,p443-453,19973)WeidleEG:VisualizationofBerger’sspaceinthelivingeye.OphthalmicSurg16:733-734,19854)藤田善史:白内障手術時におけるBerger腔の生体観察.あたらしい眼科20:1247-1248,20035)TanakaH,OharaK,ShiwaTetal:IdiopathicopacificationofBerger’sspace.JCataractRefractSurg30:22322234,20046)TurgutB,Turkcuo.luP,DenizNetal:Annularandcentralheavypigmentdepositionontheposteriorlenscapsuleinthepigmentdispersionsyndrome:pigmentdepositionontheposteriorlenscapsuleinthepigmentdispersionsyndrome.IntOphthalmol28:441-445,20087)Al-MezaineHS:Centralposteriorcapsulepigmentationinapatientwithpigmentdispersionandpreviousoculartrauma:acasereport.IndianJOphthalmol58:336-337,2010

写真:脈絡膜血管腫(孤発性)

2016年2月29日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦381.脈絡膜血管腫(孤発性)寺尾信宏京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学①②図2図1のシェーマ①脈絡膜血管腫②漿液性網膜.離図1脈絡膜血管腫(65歳,男性)橙赤色の隆起性病変が中心窩から上方にかけてあり,中心窩には漿液性網膜.離を伴っている.矯正視力は(0.2)であった.abcd図3各種検査所見a:超音波Bモード.ドーム状の隆起を認める.b:フルオレセイン蛍光眼底造影(10分).顆粒状の過蛍光があり,一部蛍光漏出を認める.c:インドシアニングリーン蛍光眼底造影(18秒).造影初期より腫瘍内血管の描出を鮮明に認め,過蛍光を呈する.d:インドシアニングリーン蛍光眼底造影(12分).造影後期になると腫瘍の染色は軽減している.(101)あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162610910-1810/16/\100/頁/JCOPY 脈絡膜血管腫(choroidalhemangioma)は脈絡膜に生じる良性の過誤腫で,孤発性(circumscribed)および,びまん性(diffuse)に分類される.孤発性は基本的には全身疾患を伴わず,びまん性はSturge-Weber症候群に関連して発症することが知られている1).本稿では孤発性の脈絡膜血管腫について詳しく解説する.一般的には無症状の症例も多いが,続発する漿液性網膜.離や黄斑浮腫で視力低下をきたしうる2).検眼鏡所見では,脈絡膜血管腫は境界不鮮明な円形から楕円形の橙赤色の隆起性病変として観察され(図1),眼底後極部に生じることが多い.フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)では,典型的には造影ab図4OCT像a:水平断.黄斑部に漿液性網膜.離を認め,一部網膜色素上皮.離を伴っている.腫瘤内部には拡張した血管が多数認められる.b:垂直断.水平断と同様に黄斑部に漿液性網膜.離を認める.ab図5OCT像(PDT治療後)a:水平断.黄斑部に認めた漿液性網膜.離,網膜色素上皮.離の消退を認める.b:垂直断.初期に網目状の腫瘍内血管が観察されることがあり,造影後期には顆粒状の過蛍光所見を呈し,漿液性網膜.離を認める場合には蛍光貯留を呈する(図3).インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)はFAよりも腫瘍を明瞭に描出することができ,診断に重要な検査である.造影初期には網目状の腫瘍内血管が観察され,時間とともに強い過蛍光所見を呈するが,後期になると蛍光色素はwashoutされる(図3)3).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では脈絡膜血管腫本体を描出することは困難であるが,滲出性変化の有無を判定するのに有効である(図4,5).鑑別診断として,脈絡膜悪性黒色腫(とくに無色素性),転移性脈絡膜腫瘍などの悪性腫瘍があげられるため,より正確に良性腫瘍である脈絡膜血管腫の診断ができることが重要である.治療は滲出性変化により視力低下をきたした場合や漿液性網膜.離が遷延した場合に行われ,光凝固,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT),放射線療法などが報告されており2),中心窩に滲出性変化を含む症例に対してはPDTが選択されることが一般的である.文献1)WitschelH,FontRL:Hemangiomaofthechoroid.Aclinicopathologicstudyof71casesandareviewoftheliterature.SurvOphthalmol20:415-431,19762)ShieldsCL,HonavarSG,ShieldsJAetal:Circumscribedchoroidalhemangioma:clinicalmanifestationsandfactorspredictiveofvisualoutcomein200consecutivecases.Ophthalmology108:2237-2248,20013)ArevaloJF,ShieldsCL,ShieldsJAetal:Circumscribedchoroidalhemangioma:characteristicfeatureswithindocyaninegreenvideoangiography.Ophthalmology107:344-350,2000262

総説:第20回日本糖尿病眼学会総会 特別講演(眼科) 糖尿病診療における糖尿病網膜症診療の新展開

2016年2月29日 月曜日

6258あたらしい眼科Vol.33,No.2,201(00)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY糖尿病患者の中から糖尿病網膜症発症・進展の高リスク患者を選別してintensivecareを可能にするテイラーメイド医療を推進すること,さらには糖尿病網膜症発症・進展の病態研究による眼科の新しい治療法の開発などが大切である.1.糖尿病診療における内科―眼科の連携の基盤:国際重症度分類内科医にも網膜症の進行過程の知識があると,診断や治療について理解しやすく,内科.眼科の連携にも有用である.以下,病態に基づいた病期分類について解説する.網膜症の基本的な病態は血管透過性亢進,血管閉塞,血管新生の3つであり,この順に進行する.2003年に米国眼科学会が提唱した国際糖尿病網膜症重症度分類1)は,重篤な視力障害をきたす増殖網膜症へ進行するリスクを考慮し,臨床で使いやすく,眼科医と内科医間で情報を共有できる分類として考案されたものである(表1).この分類では,網膜症の所見がない状態を網膜症なし,ただちに治療が必要な状態である新生血管を認めるものを増殖網膜症とし,その間の状態を非増殖網膜症としてさらに軽症,中等症,重症の3段階に分類している.初期の変化である毛細血管瘤のみであれば軽症非増殖網膜症,血管閉塞を示唆する所見である網膜内細小血管異常や静脈異常を認める場合は重症非増殖網膜症となる.2.糖尿病網膜症の早期診断非散瞳下での眼底写真撮影のみでは周辺部眼底の病変I糖尿病網膜症・黄斑症の現状と課題厚生労働省平成24年度国民健康・栄養調査によると,日本における糖尿病患者数は950万人となっており,急激に増加している.これは世界的にも同様で,世界人口の約5%が糖尿病という推計もある.糖尿病診療の目標は「糖尿病治療の目標は,糖尿病症状を除くことはもとより,糖尿病に特徴的な合併症,糖尿病に併発しやすい合併症の発症,増悪を防ぎ,健康人と同様な日常生活の質(QOL)を保ち,健康人と変わらない寿命を全うすることにある」(日本糖尿病学会編科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013による)とある.厚生労働省が「健康日本21」の重要課題として健康寿命の延伸を掲げているが,この目標を達成するためにも糖尿病診療においては糖尿病網膜症を含む合併症診療は重要な課題と考えられる.糖尿病網膜症はわが国における後天性失明および視力低下の原因としても緑内障についで第2位であり,視力障害者の約5分の1を占める.重篤な視力障害の起こる年齢は60歳代がピークとなっており,働き盛りにおける視力低下も大きな社会問題である.糖尿病網膜症による視力低下を防ぎ,生涯にわたる視力保持をめざす戦略が必要である.加えて,糖尿病網膜症患者数の増加や,糖尿病発症年齢が若年化していることに伴う糖尿病網膜症重症化への対応も必要である.II糖尿病網膜症・黄斑症治療戦略を見直す糖尿病網膜症をめぐる問題を解決するためには,糖尿病および糖尿病網膜症を早期発見・早期治療すること,258(98)*HidetoshiYamashita,*SakikoGoto,*SachiAbe&*KatsuhiroNishi:山形大学医学部眼科〔別刷請求先〕山下英俊:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科あたらしい眼科33(2):258.260,2016c第20回日本糖尿病眼学会総会特別講演(眼科)糖尿病診療における糖尿病網膜症診療の新展開StateofArtandPerspectivesofDiabetesMellitusandDiabeticRetinopathy山下英俊*後藤早紀子*阿部さち*西勝弘*総説258あたらしい眼科Vol.33,No.2,201(00)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY糖尿病患者の中から糖尿病網膜症発症・進展の高リスク患者を選別してintensivecareを可能にするテイラーメイド医療を推進すること,さらには糖尿病網膜症発症・進展の病態研究による眼科の新しい治療法の開発などが大切である.1.糖尿病診療における内科―眼科の連携の基盤:国際重症度分類内科医にも網膜症の進行過程の知識があると,診断や治療について理解しやすく,内科.眼科の連携にも有用である.以下,病態に基づいた病期分類について解説する.網膜症の基本的な病態は血管透過性亢進,血管閉塞,血管新生の3つであり,この順に進行する.2003年に米国眼科学会が提唱した国際糖尿病網膜症重症度分類1)は,重篤な視力障害をきたす増殖網膜症へ進行するリスクを考慮し,臨床で使いやすく,眼科医と内科医間で情報を共有できる分類として考案されたものである(表1).この分類では,網膜症の所見がない状態を網膜症なし,ただちに治療が必要な状態である新生血管を認めるものを増殖網膜症とし,その間の状態を非増殖網膜症としてさらに軽症,中等症,重症の3段階に分類している.初期の変化である毛細血管瘤のみであれば軽症非増殖網膜症,血管閉塞を示唆する所見である網膜内細小血管異常や静脈異常を認める場合は重症非増殖網膜症となる.2.糖尿病網膜症の早期診断非散瞳下での眼底写真撮影のみでは周辺部眼底の病変I糖尿病網膜症・黄斑症の現状と課題厚生労働省平成24年度国民健康・栄養調査によると,日本における糖尿病患者数は950万人となっており,急激に増加している.これは世界的にも同様で,世界人口の約5%が糖尿病という推計もある.糖尿病診療の目標は「糖尿病治療の目標は,糖尿病症状を除くことはもとより,糖尿病に特徴的な合併症,糖尿病に併発しやすい合併症の発症,増悪を防ぎ,健康人と同様な日常生活の質(QOL)を保ち,健康人と変わらない寿命を全うすることにある」(日本糖尿病学会編科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013による)とある.厚生労働省が「健康日本21」の重要課題として健康寿命の延伸を掲げているが,この目標を達成するためにも糖尿病診療においては糖尿病網膜症を含む合併症診療は重要な課題と考えられる.糖尿病網膜症はわが国における後天性失明および視力低下の原因としても緑内障についで第2位であり,視力障害者の約5分の1を占める.重篤な視力障害の起こる年齢は60歳代がピークとなっており,働き盛りにおける視力低下も大きな社会問題である.糖尿病網膜症による視力低下を防ぎ,生涯にわたる視力保持をめざす戦略が必要である.加えて,糖尿病網膜症患者数の増加や,糖尿病発症年齢が若年化していることに伴う糖尿病網膜症重症化への対応も必要である.II糖尿病網膜症・黄斑症治療戦略を見直す糖尿病網膜症をめぐる問題を解決するためには,糖尿病および糖尿病網膜症を早期発見・早期治療すること,258(98)*HidetoshiYamashita,*SakikoGoto,*SachiAbe&*KatsuhiroNishi:山形大学医学部眼科〔別刷請求先〕山下英俊:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科あたらしい眼科33(2):258.260,2016c第20回日本糖尿病眼学会総会特別講演(眼科)糖尿病診療における糖尿病網膜症診療の新展開StateofArtandPerspectivesofDiabetesMellitusandDiabeticRetinopathy山下英俊*後藤早紀子*阿部さち*西勝弘*総説 は検出できない.眼科医による散瞳下での眼底検査を受けることが望ましい.経済協力開発機構(OECD)による2009年の調査によると日本における糖尿病患者における眼底検査施行率は4割を切っており,最高レベルのイギリス,スウェーデンの約8割に大きく水をあけられている.詳細な眼底検査により網膜出血や新生血管,硝子体出血などは観察可能である.血管透過性亢進や血管閉塞などの網膜血管の循環動態を把握するためには蛍光眼底造影検査が有用である.日本における糖尿病網膜症による視力障害者を減少させるための第一歩は,糖尿病患者の眼科受診率を向上させることにある.糖尿病網膜症を早期診断するためには,とくに網膜症のリスクが高い症例に関して眼科受診を中断しないように説明し,理解を得る必要がある.1型糖尿病では罹病期間5年未満で17%,15.19年で81%に網膜症の合併がみられる2).2型糖尿病では罹病期間5年未満で14%,15.19年で57%に網膜症を合併し,15%は増殖網膜症であるため,罹病期間が長い症例は網膜症のリスクが高いといえる2).DiabetesControlandComplicationsTrial(DCCT)では1型糖尿病患者を対象にして強化インスリン療法を用いた厳格な血糖コントロールにより網膜症の発症,進展が抑制されるか検討した結果,従来インスリン療法群に比べ,強化インスリン療法群では有意に網膜症の発症および進展を抑制することが明らかとなった3).DCCT終了後の継続観察による網膜症の発症,進展に関する調査結果であるEpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplications(EDIC)では網膜症の累積悪化率,増殖網膜症の発症率,光凝固施行率が強化インスリン療法群で明らかに低いことが示された4).以上より,血糖コントロール不良を示すHbA1c高値の症例は網膜症を有するリスクが高いと考えられるため,状態に応じた通院期間で眼底の診察を行い,治療の時期を逸しないことが重要である.糖尿病網膜症の発症,進展のリスクとして,高血圧,糖尿病合併妊娠,透析導入,貧血,脂質異常症の合併など全身検査所見を内科とともに詳細にモニターする必要がある.糖尿病合併妊娠では網膜症が急激に悪化する症例があるため,少なくとも妊娠初期,中期,後期に眼底検査を受けることが勧められる.透析導入を行った症例では硝子体出血をきたすことがあるため,とくに増殖網膜症を有する患者の透析では,使用する抗凝固薬などの検討が必要な場合がある.(99)表1国際糖尿病網膜症重症度分類Noapparentretinopathy(網膜症なし)異常所見なしMildnonproliferativediabeticretinopathy(軽症非増殖網膜毛細血管瘤のみ症)Moderatenonproliferativediabeticretinopathy(中等症非増殖網膜症)毛細血管瘤以上の所見を認めるが,severeNPDR以下のものSeverenonproliferativediabeticretinopathy(重症非増殖網膜症)以下のいずれかの所見を認めるが,増殖網膜症の所見はないa)各4象限に20個以上の網膜内出血b)2象限以上に数珠状静脈c)1象限以上に網膜内血管異常Proliferativediabeticretinopathy(増殖網膜症)新生血管または硝子体/網膜前出血糖尿病網膜症のリスク因子の管理のためには内科,眼科ともに受診しその受診を中断しないこと,診療情報を内科.眼科で共有する工夫をすることが重要である.このような目的で糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳を利用して意識付けすることが有効である5).III糖尿病患者における健康寿命延伸糖尿病患者の健康寿命延伸という目的達成のためには,日本人の3大死因のうち2,3位を占める脳卒中・虚血性心疾患などの大血管症のリスク評価が重要である.われわれ眼科医が日常診療で精査して臨床情報を積み重ねている網膜血管病変を,脳卒中・虚血性心疾患などの大血管症の発症リスク予測に利用することが考えられる.日本における2型糖尿病患者のhospital-basedstudyであるTheJapanDiabetesComplicationsStudyによる研究では,糖尿病患者の8年間の経過観察で,baselineで網膜症がない患者に比較して,網膜症がある患者では心筋梗塞,脳卒中を起こすリスクがともにハザード比1.69倍高くなることが明らかになった6).今後はこのような疫学研究の成果を日常診療に活かしていくシステムの構築が重要である.その際には,図1に示すように,網膜症と大血管症,腎症のリスク因子の関連を疫学研究で検討し,リスクエンジンを確定していく作業が必要になると考える7). 肥満血管病心筋梗塞網膜症高血糖高血圧高脂血症脳卒中腎症図1糖尿病網膜症,大血管合併症とリスク因子IVPerspectives:網膜機能に注目した治療戦略の開発を!今後は網膜機能を回復させる治療法の開発が大切となると考えられる.抗VEGF薬は有用であるが必要に応じて使いつつ,新しい発想での治療薬の開発が重要である.糖尿病網膜症の現在の治療戦略は,その分子病態研究の進歩によってもたらされたものである.血糖上昇による代謝異常,サイトカイン発現異常などにより網膜血管が障害されて網膜症・黄斑症が発症・進展する機序に炎症の分子病態,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)がかかわっており,VEGFが重要な治療ターゲットであることが明らかになった.さらに,眼局所ステロイド薬,抗VEGF薬が糖尿病黄斑浮腫の治療薬として有効であることが示された.これらは多施設研究による高いレベルのエビデンスに加えて,日本においても抗VEGF薬が糖尿病黄斑浮腫に適応となったことにより,日常診療に導入され,また多くの研究報告により血管症としての糖尿病網膜症,黄斑症に有効で安全な治療ということが確認されつつある.さらに,現時点ではレニンアンジオテンシン系の制御(ACE,ARB)8),脂質代謝異常患者での効果(フェノフィブラート)などが,糖尿病網膜症の分子メカニズムに基づく新しい治療として期待されている.たとえば,FIELD(fenofibrateinterventionandeventloweringindiabetes)研究では,研究期間中に光凝固治療が必要となった症例がフェノフィブラート群ではプラセボ群に比べ有意に少なかったことが報告されている9).ACCORDEYE研究では,糖尿病患者で高脂血症合併症例にフェノフィブラート投与すると網膜症の発症が有意に抑制されたことが報告されている10).今後は先に述べたように,視力予後を良好にする治療戦略が望まれる時代となっていることから,血管症の病態研究による新しい分子ターゲットの研究と同時に網膜病変としての糖尿病網膜症の病態研究による分子ターゲットの開発が重要となっている.文献1)WilkinsonCP,FerrisFL,KleinREetal:Proposedinternationalclinicaldiabeticretinopathyanddiabeticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmology101:16771682,20032)厚生省:平成3年度糖尿病調査研究報告書,p33-38(疫学統計)3)TheDiabetesControlandComplicationTrialresearchgroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsininsulin-developmentdiabetesmellitus.NEnglJMed329:977-986,19934)WhiteNHetal:Prolongedeffectofintensivetherapyontheriskofretinopathycomplicationsinpatientswithtype1diabetesmellitus:10yearsaftertheDiabetesControlandComplicationsTrial.ArchOphthalmol126:17071715,20085)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日本眼科学会雑誌114:96-104,20106)KawasakiR,TanakaS,TanakaSetal;JapanDiabetesComplicationsStudyGroup:Riskofcardiovasculardiseasesisincreasedevenwithmilddiabeticretinopathy:TheJapanDiabetesComplicationsStudy.Ophthalmology120:574-582,20137)TanakaS,TanakaS,IimuroSetal;JapanDiabetesComplicationsStudyGroup,JapaneseElderlyDiabetesInterventionTrialGroup:Predictingmacro-andmicrovascularcomplicationsintype2diabetes:TheJapanDiabetesComplicationsStudy/theJapaneseElderlyDiabetesInterventionTrialriskengine.DiabetesCare36:1193-1199,20138)石田晋:糖尿病網膜症・黄斑症の分子病態:血管症の特性から.あたらしい眼科27:1185-1193,20109)KeechAC,MitchellP,SummanenPAetal:fortheFIELDstudyinvestigators(2007).Effectoffenofibrateontheneedforlasertreatmentfordiabeticretinopathy(FIELDstudy):arandomisedcontrolledtrial.Lancet370:1687-169710)TheACCORDStudyGroupandACCORDEyeStudyGroup(2010):Effectsofmedicaltherapiesonretinopathyprogressionintype2diabetes.NEnglJMed363:233244☆☆☆(100)

総説:第20回日本糖尿病眼学会総会 特別講演(内科) 眼科と内科の新たな連携-糖尿病療養指導チームの役割とその重要性も含めて-

2016年2月29日 月曜日

あたらしい眼科33(2):251.257,2016c総説第20回日本糖尿病眼学会総会特別講演(内科)眼科と内科の新たな連携─糖尿病療養指導チームの役割とその重要性も含めて─NewAspectsofClinicalInteractionbetweenOphthalmologyandInternalMedicine石田均*はじめに糖尿病合併症のなかで,網膜症をはじめとする眼合併症は,今もなお日本人の失明原因の多くを占めることから,その発症予防から治療に至るまでのきめ細やかな診療が,当然のことながら日常診療のなかで必須である.なかでも眼科と内科との間での診療面の連携はもとより,チーム医療のなかで糖尿病療養指導チームが果たす役割の重要性が広く認識されるに至っている.本稿では,筆者がこれまでに経験してきたチーム医療システムの設立とその活用,眼合併症対策のなかでの眼科と内科との共同診察の臨床上のメリット,そしてこれらの分野の共同研究によって次第に明らかにされつつある糖尿病合併症全般の成因に関する共通の分子基盤の存在とその解明への道に焦点を当てながら,設立20周年を迎えた日本糖尿病眼学会の将来像について,筆者なりの考えを述べることとする.I杏林大学医学部付属病院でのチーム医療―糖尿病療養指導外来の設立とその活用―糖尿病合併症の日常診療のなかで,チーム医療・ケアを円滑に進めるために,筆者の杏林大学医学部付属病院では,全国に先駆けて各職種のスタッフから構成される「糖尿病療養指導外来」を開設し,時代のニーズに応えるべく積極的な活動を進めている.その前身は,今から約15年前の平成11年に数名の有志者により結成された「糖尿病療養支援チーム」にさかのぼる.そして平成17年に至り,現在の形の専門指導外来が多くの協議を経て,筆者らの糖尿病・内分泌・代謝内科外来の診療ブースの中に設置された.その開設の動機として,まず実務面から血糖自己測定のための機器や物品の受け渡しと,それらについての指導を一元化すること,機能面から糖尿病療養のための専門スタッフを効率よく配置すること,そして糖尿病に関する問い合わせの窓口を1カ所にまとめることがあげられる.当院には計40名の糖尿病療養指導士(certifieddiabeteseducator:CDE)が登録されているが,その職種としては,看護師27名(うち助産師4名),管理栄養士6名,薬剤師3名,臨床検査技師3名,医局秘書1名と多岐にわたっている.一般的な療養指導(初診指導や血糖自己測定に関する指導,そしてfootcareなど)に対応するために,診療ブースの中の外来処置室に相当する広いスペースを,また栄養指導には外来診察室の一室を,それぞれの診察室として専用に使用している.多職種からなるコメディカルスタッフの担当内容を表1に示す.すなわち初診指導と運動療法の説明については全員が担当することとし,その他の部分についてはそれぞれのスタッフが自らの得意分野を担当している.しかしながら,筆者らの外来での特徴として,これらの一般的な役割分担に加えて,たとえば食事療法の基礎編など共通の知識に基づく分野や,インスリン注射のなかの特殊な手技を除く点については,スタッフ全員の協力のもとに標準化した指導を行うこととしている.そして,この標準化のために,種々の業務マニュアル(糖尿病療養指導外来マニュアル,血糖測定器・注射薬・内服薬一覧,フットケアマニュアル,そして会議議事録など)も充実化させ,定期的な勉強会を行い,知識の共有化を進めている.*HitoshiIshida:杏林大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・代謝内科〔別刷請求先〕石田均:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・代謝内科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(91)251 表1杏林大学医学部付属病院の糖尿病療養指導チームのメンバーの役割分担療養指導項目医師看護師助産師栄養士薬剤師臨床検査技師秘書継続自己管理の位置づけ○○○○○△食事療法○△○△△△栄養管理と評価○○○○○△運動療法○○○○○△インスリン自己注射○○△○△△服薬指導○○△○△△血糖自己測定○○△○○△生活指導○○○○○△療養指導の計画づくり○○○○○△療養指導の評価○○○○○△△一部を除く産科合併症外来眼科網膜症外来ロービション外来形成外科下肢救済フットケア外来その他の診療科部門糖尿病・内分泌・代謝内科糖尿病療養指導外来・医療安全管理部・薬剤部・検査部・地域医療連携室図1杏林大学医学部付属病院での糖尿病療養指導外来と診療科および部門の連携眼科外来糖尿病網膜症外来内科診察診療連携ロービジョン外来視能訓練士・網膜症について・入院オリエンテーション・SMBG指導・インスリン指導図2糖尿病療養指導外来と眼科との連携―「糖尿病網膜症外来」ならびに「ロービジョン外来」―糖尿病療養指導外来252あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(92) また,この糖尿病療養指導外来のもう一つの重要な役割として,他の診療科や部門との連携の構築があげられる(図1).その1例として,糖尿病の慢性合併症の一つである網膜症,そしてその結果不幸にして中途失明や低視力となった症例を対象とした眼科との連携を進めている(図2).なかでも「糖尿病網膜症外来」を「ロービジョン外来」とともに連携の当初から設置し,同一の眼科診察室において眼科と内科の医師が同時に診察を行い,網膜症やその術後の症例を管理している.この外来のメリットとしては,手術適応のある場合には速やかに入院のうえ血糖コントロールの安定化を得ることができること,糖尿病合併症の全般に対する治療の早期開始や糖尿病に関する教育指導を徹底し得ること,また術後の血糖管理についても眼科と内科の診察日が同一であることから通院のための時間的な負担が軽くなり,継続的な治療がスムーズに行えることがあげられる.その結果,血糖コントロールについても長期の安定化が可能となっている.II眼科と内科の共同診察―共通の診察室での同一症例.同時診察システムの確立―当院のアイセンター(眼科)外来へ,硝子体手術などの外科的処置が必要なために紹介される糖尿病網膜症患者は,その多くがすでに重症例であり,糖尿病に対する治療状況が長年にわたり不良である.また,本人の糖尿病の病態に対する理解不足もあり,高率に全身合併症(高血圧,心疾患,腎症など)を有している.「糖尿病網膜症外来」では,同一症例に対し同時に内科的ならびに眼科的側面から病状の説明と治療を進めている.まず内科サイドからは,網膜症をはじめとする眼合併症と糖尿病との関係を説明するとともに,硝子体手術を前提とした糖尿病治療を説明し,必要によってはその場で内科への入院予約を行っている.そして治療の基本となる食事療法の徹底を図るとともに,手術に必要な血糖コントロールの安定化をめざしている.眼科サイドからは,視力低下と増殖網膜症の病態ならびに糖尿病との関係をまず説明し,硝子体手術の目的とその予後を説明した後に,可及的速やかに手術の日程を決定している.これらの症例について,2003年3月の第9回日本糖尿病眼学会総会(仙台)の場で,それまでの56例(男性32例,女性24例,平均年齢56.2歳(28.73歳)の実(93)内科医眼科医診断と通常のコントロール重症例のコントロール患者教育診断経過観察のみレーザー治療まで硝子体手術医①①①②②②③図3内科医と眼科医の診療連携当初は①の同一科内のみに限定した連携が,次に②で示す内科と眼科の診療科間での連携へと広がり,究極的には③に示すように内科での糖尿病重症例に対する患者教育の内容を,眼科の硝子体手術医と共有することが可能となる.態を報告した.治療開始から手術までの期間は,硝子体出血15眼で平均36.6日(27.45日),牽引性網膜.離29眼で平均38.5日(22.92日)であった.また,硝子体手術例での視力変化は,改善53%に対し不変35%であり,一方で悪化は12%であった.なかでも興味深い成績としては,治療後3年間でのHbA1C(JDS)の推移が平均7.0%程度に安定していた事実があげられる.したがって,筆者らの同一症例/同時診察システムのメリットとしては,①内科医として,眼科手術の緊急性を理解したうえでの全身の治療計画を速やかに立てられること,たとえ視力が良好だとしても,糖尿病の全身合併症の怖さを説明できること,そして重要患者を集中して診察でき,診療技術の向上を図ることが可能となる点があげられるとともに,②眼科医としては,複数の全身合併症(腎症や心疾患など)を同時に有する患者に対する円滑な手術計画の立案がスムーズになり,かつ内科的な評価や治療内容の理解にも有用であることから,周術期の血糖値を含む管理に有利な点がある.そして一番重要なメリットは,③患者サイドとして,眼疾患と糖尿病の関係の理解が進むとともに,手術までの外来受診回数と滞在時間の減少があげられる.また,すでに高度な視力障害を有する症例が多く,同一の院内であっても異なる診療科の診察室間を移動することには負担も多く,転倒などの事故にも結びつきやすいことから,眼科的な検査の実施から内科への入院申込みまでを,同一の場所で短時間に済ますことができるメリットは,思いのほか大きいと思われる.そして最終的には症例の視力予後にも有利になるものと推察される.すなわち図3にも示すように,内科医と眼科医の診療あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016253 連携では,それぞれの診療科内での医師の連携に加えて,診療科間での情報交換とともに硝子体手術を要する重症例での血糖コントロールや患者教育も同時に可能となることから,筆者らが確立したこのシステムの臨床での有効性について,今後とも検証を重ねて行く予定である.一方でチーム医療においては,医師と看護師の間での役割分担も重要である.とくに昨今になり,医師の本来業務(診断や治療)のための時間の増加とともに,それ以外の書類作成などの業務の負担増による過重労働の軽減が重要なテーマの一つとなっている.看護師サイドでは,専門性の活用による職務満足感の向上,魅力的なキャリアパスの運用や後輩看護師への看護実践のロールモデル作りが切望されている.そしてこれらの流れを活かすことで,患者の満足度の改善(検査や診療のための待ち時間の短縮,病状の変化に対する速やかな対応)がなされる好循環が生まれることになる.その1例として,当院では看護師による静脈注射認定プログラムを開始し,その認定委員会で合否を決定のうえ,毎年実施のe-learning受講による認定更新を行っている.そしてこのシステムの活用により,蛍光眼底造影での薬剤の静脈内投与を補佐し,診療効率の改善を図っている.III眼科と内科の共同研究―共通の分子基盤を有する糖尿病合併症の成因解明―糖尿病治療の目標は,単なる血糖コントロールを行うことのみならず,体重,血圧,そして血清脂質の良好なコントロール状態を維持することで糖尿病合併症(網膜症などの眼合併症,腎症,神経障害)や動脈硬化症(心筋梗塞,脳梗塞,足壊疽)を予防し,健康な人と同様に充実した活動的な日常生活をおくり,寿命をまっとうできるようにすることである.興味深いことに最近になり,これら多くの糖尿病合併症の成因には,それぞれに共通した分子基盤が存在する事実が明らかになってきた.その一つとして注目されているものに,インクレチンのGLP-1が有する膵b細胞以外の組織細胞での作用(いわゆる「膵外作用」)があげられる.そしてなかでも中枢の脳組織に関しては,GLP-1受容体を介した食欲抑制効果や中枢神経保護効果が認められている1).ここで発想の転換をしてみると,眼底の網膜に存在する視神経は第二脳神経であり,まさに中枢神経の一部をなして254あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016いる.そこで網膜でのインクレチンシステムの存在について検討したところ,まずトリ網膜にGLP-1受容体ならびにGLP-1の発現が確認された2).また,この報告では,これらがそれぞれグルカゴン受容体ならびにグルカゴンと同一細胞に共発現していることも示されている.さらにラット網膜においても,トリと同様にGLP1受容体の発現を認めた3)ことから,実験的に作製したラット糖尿病網膜症に対するexendin-4アナログ(E4a:GLP-1受容体アゴニスト)の保護効果を検討したところ,その全身投与による効果(発症予防)の存在を認めている.この効果は,薬剤の眼内注入によっても認められた4)ことから,GLP-1受容体への直接的な効果によるものと考えられている.さらにその機序として,ラット網膜でのグルタミン酸含量の増加が糖尿病網膜症において認められるものの,これがE4aの注入にて認められなくなること,またグルタミン酸を細胞外へ放出するトランスポーターであるGLASTの発現低下が,注入により回復することが示されている(図4).このような糖尿病網膜症発症に対する保護効果が,果たしてヒトにおいても臨床的に認められるのか否かについては,今後のインクレチン関連薬による検討成績を待ちたい.糖尿病網膜症に対するヒトでの薬物療法に関しては,すでに血管増殖因子の一つであるVEGF(vascularepithelialgrowthfactor)に対する抗体(抗VEGF抗体)の臨床効果が実証されており5),増殖網膜症の眼内にて増加したVEGFやエリスロポエチンが,硝子体手術の結果として減少する事実(図5)が示されている6).しかしながら,既知の血管増殖因子以外にも,増殖網膜症の発症や進展に関与する可能性を有する未知の因子を検索する目的で,筆者らの糖尿病・内分泌・代謝内科とアイセンター(眼科)とで,以下に示す共同研究を進めた.この研究は,眼科と内科も新たな連携の一環であり,ヒト増殖網膜症の成因解明への新たな道でもある.マイクロRNA(miRNA)とは,蛋白質をコードしない18.25塩基からなるRNAの一種であり,遺伝子の転写後制御に関与している.そしてゲノム遺伝子のなかの30%を制御するとされ,細胞増殖/癌化やアポトーシス,そして自己免疫疾患などとの関連が示唆され,新規の治療ターゲットとなり得るものと考えられている.また,癌に対するバイオマーカーとしての役割も期待される.一方で糖尿病合併症の発症機序には,動脈硬化をはじめとして組織内の局所での慢性炎症反応が関与してい(94) adbc図4ラット網膜でのGLASTの発現とグルタミン酸含量Exendin-4アナログ(E4a)の眼内注入により,糖尿病状態下に減少していたGLASTの発現がcに示すように回復し,細胞内のグルタミン酸含量の増加が有意に抑制された(d).(文献4より引用)aVEGFbErythropoietin図5増殖網膜症(PDR)の硝子体液中での血管増殖因子(VEGF,a)とエリスロポエチン(b)PDR症例におけるこれらの増加が,硝子体手術の結果として有意に減少した.(文献6より引用)ることが明らかにされつつあり,一種の免疫応答が重要斑円孔(macularhole:MH)と増殖糖尿病網膜症(proな役割を果たしている可能性が考えられている.したがliferativediabeticretinopathy:PDR)の硝子体液中にって,糖尿病網膜症のヒト眼内液でのmiRNAの発現発現しているmiRNA(miR)について,これらの比較様式を検討することが,この網膜症発症に関与する因子検討を試みた7).その結果,表2に示すように,PDRにの探索に有用であると推測された.そこで筆者らは,黄おいてmiRのなかの15a,320a,320b,93,29aなど(95)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016255 表2増殖網膜症の硝子体液中に相対的に高く発現するmiRNAMHPDRpvaluehsa-miR-215.256.570.07hsa-miR-2234.453.700.09hsa-miR-243.444.380.09hsa-miR-19b2.923.660.16hsa-miR-23a2.853.620.13hsa-miR-162.783.590.18hsa-miR-125b2.262.440.42hsa-miR-15a2.263.360.02*hsa-miR-2101.902.400.27hsa-miR-320a1.882.810.02*hsa-miR-4241.851.840.50hsa-let-7b1.682.680.11hsa-miR-1011.562.380.09hsa-miR-320b1.512.480.01*hsa-miR-92a1.141.980.19hsa-miR-20a0.971.880.15hsa-miR-342-3p0.780.550.30hsa-miR-2210.480.220.29hsa-miR-29c0.351.810.08hsa-miR-106a0.250.710.28hsa-miR-930.231.950.04*hsa-miR-15b.0.40.0.010.20hsa-miR-29a.1.020.710.04*hsa-miR-29b.1.46.0.360.14hsa-miR-423-5phsa-miR-152.1.93to1.05.0.80to0.330.22*0.24MH:macularhole,PDRproliferativediabeticretinopathy.*p<0.05betweenMHpatientsandPDRpatients(文献7より引用)いくつかのmiRNAの有意な発現増加を認めた.さらに文献検索を進めてみると,これらはすべて組織での血管新生や線維化に関与する遺伝子に関連していることが,いくつかの研究室から報告されていた.たとえば15a,93,29aはVEGFの産生に関与しており,興味深いことにこのなかの一つの93は網膜と同様に腎臓でのVEGF発現調整にも関与していることが示されている8).すなわちこの事実は,VEGFが網膜症のみならず全身合併症である腎症の発症にもこの因子が関連する可能性があることを示唆している.さらに15aはFGF2の産生にも関与していることがすでに報告されており9),このFGF2も糖尿病網膜症発症に関与するバイオマーカーとしての役割を果たすとともに,VEGF以外のサイトカインが新規の治療ターゲットにもなり得る可能性が推測された.256あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016IV日本糖尿病合併症学会と本学会総会との合同開催―共通の志を有する仲間との有意義な交流―ここで過去を振り返ってみると,日本糖尿病眼学会と筆者とのかかわりは,もう15年以上の長きにわたる.平成10年(1998年)に,京都大学より杏林大学へと赴任したが,当時から糖尿病治療の分野において,当然のことながら合併症への対応は臨床の場での最重要課題であった.筆者にとって幸運であったのは,眼科に樋田哲夫教授が慶應義塾大学より赴任されており,糖尿病網膜症の硝子体手術にかなりの実績をあげておられたことであった.そして,その診療チームには現在の教授(杏林アイセンター・センター長)の平形明人先生(当時は助教授)がすでに多くの分野で活躍されており,病院内での連携を非常に円滑な形で進めることができた.なかでも眼科医と内科医の共同同時診察による外来診療システムの確立は,手術施行のための血糖コントロールの強化(その際に入院が必要であれば,その場で速やかに病床の予約を行う)や,手術後の血糖コントロール管理の徹底に,現在も大きく貢献している.さらに2週間でワンクールの「糖尿病教室」においても,眼科医とスタッフの方々にそのなかの1コマの講義を担当していただき,患者やその家族に対する眼合併症分野の定期的な教育が継続的になされている.これらの活動を続けるなかでしばらくして,本学会の理事の一員としてご推挙いただき,平成24年(2012年)11月には光栄なことに,第18回の本学会総会を担当させていただくこととなった.そこでかねてから密かに希望していた日本糖尿病合併症学会(日本糖尿病学会の唯一の分科会)との共同開催を立案した.幸いなことに,同年度の開催となる第27回日本糖尿病合併症学会を,旧知の梅田文夫先生(行橋中央病院・院長)が担当されることになり,同学会に対しても梅田先生を通じて強く働きかけた結果,ついに最初の共同開催が実施される運びとなった.そしてこのことにより,眼合併症をはじめとするすべての糖尿病合併症に関する議論を,眼科医と内科医が一同に会して行うことが可能になった.とくにわれわれ内科医にとっては,眼科関連の講演をまとめて聞く機会を得ることがなかなか困難なこともあり,この企画は多くの人々に好意をもって迎えていただいた.筆者自身も「学会合同開催の打合せ」という名目で,足繁(96) く開催地の福岡を訪問する機会を得ることができ,そして志を同じくする仲間の方々と楽しく(夜の中洲も含めて)交流させていただき,心より感謝している.今後の本学会の方向性の一つとして,眼科と内科の分野での連携が単なる診療面での眼科医と内科医の協力に止まらず,眼合併症をはじめとする糖尿病合併症に共通した成因の探究あるいは進展の予防につながる討議へと連携を拡大させて行くことがあげられる.したがって,眼科医と内科医がこれらの学会の合同開催を活用して議論をともに深める意義は,これからもますます大きくなるものと思われる.おわりに日本糖尿病眼学会が設立20周年を迎えるにあたり,糖尿病合併症全般の分野での情報共有の場を,本学会から今まで以上に積極的に提供していただくこと,そしてこの流れを継続的なものとすることを,改めてここにお願い申し上げる次第である.文献1)Abu-HamdahR,RabieeA,MeneillyGSetal:Theextra-pancreaticeffectsofglucagon-likepeptide-1andrelatedpeptides.JClinEndocrinolMetab94:1843-1852,20092)FischerAJ,OmarG,WaltonNAetal:Glucagon-expressingneuronswithintheretinaregulatetheproliferationofneuralprogenitorsinthecircumferentialmarginalzoneoftheavianeye.JNeurosci25:10157-10166,20053)ZhangY,WangQ,ZhangJetal:Protectionofexendin-4analogueinearlyexperimentaldiabeticretinopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol247:699-706,20094)ZhangY,ZhangJ,WangQetal:Intravitrealinjectionofexendin-4analogueprotectsretinalcellsinearlydiabeticrats.InvestOphthalmolVisSci52:278-285,20115)NakaoS,ArimaM,IshikawaKetal:Intravitrealanti-VEGFtherapyblocksinflammatorycellinfiltrationandre-entryintothecirculationinretinalangiogenesis.InvestOphthalmolVisSci53:4323-4328,20126)YoshidaS,NakamaT,K.IshikawaKetal:Antiangiogenicshiftinvitreousaftervitrectomyinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci53:6997-7003,20127)HirotaK,KeinoK,InoueMetal:ComparisonsofmicroR-NAexpressionprofilesinvitreoushumorbetweeneyeswithmacularholeandeyeswithproliferativediabeticretinopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol253:335342,20158)LongJ,WangY,WangWetal:IdentificationofmicroRNA-93asanovelregulatorofvascularendothelialgrowthfactorinhyperglycemicconditions.JBiolChem285:23457-23465,20109)YinKJ,OlsenK,HamblinMetal:Vascularendothelialcell-specificmicroRNA-15ainhibitsangiogenesisinhindlimbischemia.JBiolChem287:27055-27064,2012☆☆☆(97)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016257

前眼部OCT

2016年2月29日 月曜日

特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):241.249,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):241.249,2016前眼部OCTAnteriorSegmentOCT上野勇太*はじめに前眼部の検査方法としては,細隙灯顕微鏡が一般的である.可視光を用いるため,角膜・前房・水晶体・前部硝子体といった透明組織の定性的な観察に長けており,接触式の隅角鏡を併用すれば隅角の状態も確認できる.一方では,結膜・強膜や混濁した角膜などの不透明組織の観察に向かない,定量的な測定には向かない,といった欠点があった.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が眼科分野の検査機器に導入され,近年では前眼部検査用に長波長光源を用いた機種が開発された1).これにより赤外光を使用した前眼部の断層検査が可能となり,透明組織の描出だけでなく,不透明組織やその奥の構造が非接触でかつ簡便に描出できるようになった.また,記録された断層像を解析することで,前眼部構造を定量的に評価することも可能となった.従来の前眼部OCTはtimedomain方式であったが,現在ではFourierdomain方式に改良され,高速・高解像度での測定が実現している2).眼底撮影用のOCTにアタッチメントを装着して前眼部撮影を行う機種もあるが,眼底用の短波長光源を用いるため測定範囲が狭いうえに組織深達度がやや低く,使用できる場面は限定される.本稿では,1,310nmの長波長光源を使用し前眼部専用の撮影に特化したCASIA(SS-1000,TOMEY)および2015年12月に発売された後継機種であるCASIA2(SS-2000,TOMEY)を使用した各種前眼部検査を中心に概説する.I角膜・前房の観察前眼部OCTでは,角膜・前房・隅角・虹彩および水晶体前面を1枚に収めるように撮影する方法が汎用されている(CASIA,anteriorsegmentモード).同様の画像は超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)やスリットスキャン型およびシャインプルーク型前眼部形状解析装置を使用しても取得可能であるが,UBMは水浸が必要で被験者の負担が大きく,スリットスキャン型およびシャインプルーク型前眼部形状解析装置は可視光を使用するために混濁組織の撮影に向かないという欠点がある.このため,近年では前眼部の断層撮影に前眼部OCTが用いられる機会が多くなっている.前眼部OCTは多くの前眼部疾患に対して有用で,円錐角膜,角膜潰瘍,外傷性角膜穿孔,角膜移植後,浅前房などの断層撮影を簡便に行うことができ,細隙灯顕微鏡では得られない詳細な情報が得られることも多い.また,断層像を記録に残すことが可能であるため,患者への病態説明や経時的変化の評価に効果的である.図1は正常眼をCASIAで撮影した断層像であり,きれいなドーム状の角膜や前房・隅角のスペースを確認できる.一方,図2は円錐角膜の症例であり,角膜は前方に突出し,菲薄化していることがわかる.図3は狭隅角眼であり,一部角膜裏面と周辺虹彩の接触も疑われる.これらの病的所見は,われわれ眼科医にとって細隙灯顕微鏡を使用することでも得られる情報であるが,前眼部OCT*YutaUeno:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕上野勇太:〒305-8575つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(81)241 242あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(82)図1CASIA(TOMEY)による正常眼の撮影Anteriorsegmentモードで撮影.角膜・前房・隅角・虹彩・水晶体前面が一枚の画像におさまり,汎用性の高い撮影方法である.ab図2円錐角膜a:前眼部写真.b:前眼部OCT(CASIA).前眼部写真および前眼部OCTにおいて,角膜の突出および菲薄化が認められる.前眼部OCTの断面像は,正常眼と見比べることでとくに異常がわかりやすく,患者説明に適しているといえる.ab図3狭隅角眼a:前眼部写真.b:前眼部OCT(CASIA).前房の全体的な狭小化および狭隅角を認め,一部角膜裏面と虹彩の接触も認める.前眼部写真では隅角鏡などの接触式レンズを用いないと隅角の所見を残すのが困難であるが,前眼部OCTでは非接触で明瞭に隅角所見を描出可能である.図1CASIA(TOMEY)による正常眼の撮影Anteriorsegmentモードで撮影.角膜・前房・隅角・虹彩・水晶体前面が一枚の画像におさまり,汎用性の高い撮影方法である.ab図2円錐角膜a:前眼部写真.b:前眼部OCT(CASIA).前眼部写真および前眼部OCTにおいて,角膜の突出および菲薄化が認められる.前眼部OCTの断面像は,正常眼と見比べることでとくに異常がわかりやすく,患者説明に適しているといえる.ab図3狭隅角眼a:前眼部写真.b:前眼部OCT(CASIA).前房の全体的な狭小化および狭隅角を認め,一部角膜裏面と虹彩の接触も認める.前眼部写真では隅角鏡などの接触式レンズを用いないと隅角の所見を残すのが困難であるが,前眼部OCTでは非接触で明瞭に隅角所見を描出可能である. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016243(83)が可能である.図5は正常眼をCASIAで撮影し,前後面を形状解析したカラーコードマップである.前面(K値)のaxialpowermapでは水平方向の曲率が急峻になっている倒乱視パターンを示しているが,後面のaxialpowermapでは反対に鉛直方向の曲率が急峻になっており,前面と後面の形状は必ずしもparallelになっているわけではないということがよくわかる1例である.近年ではトーリック眼内レンズの普及により角膜乱視を正確に評価する必要があるが,本症例のように前面と後面で乱視軸が異なる症例も少なくないため,術前検査において角膜後面乱視の測定を推奨する報告が散見される4,5).また,円錐角膜においても角膜後面形状解析を行うことにより,ハードコンタクトレンズ装用下で残存する正乱視・不正乱視の評価や,病初期の変化の検出が可能であると注目されている6,7).による断層像を併用することで被験者との情報共有ができ,スムーズな病態説明が可能である.また,図4に示したような角膜が菲薄化した症例では,診察ごとに前眼部OCTを撮影して記録を残すことで,経時的変化を正確に評価することができる.II角膜形状解析前眼部OCTは複数の断層像から角膜前後面を検出し,高さ情報を三次元的に解析することで角膜形状解析を行うことができる3).従来,角膜形状解析としてはマイヤーリングを用いたプラチド型が汎用されていたが,角膜前面のみの測定に留まること,高度な不正乱視を有する症例や重症ドライアイ症例では正確性に欠けることなどの欠点があった.近年では正常眼および病的眼の角膜後面形状解析が注目されており,前眼部OCTを使用すると角膜前面だけでなく角膜後面まで角膜全体の形状解析図4緑内障手術後の角膜デレンの症例a:デレン発症時の前眼部写真.b:発症時,c:発症後1カ月,d:発症後6カ月:前眼部OCT(CASIA).右眼の耳側下方から線維柱帯切開術を施行後2カ月で角膜デレンを発症し,非感染性に角膜が菲薄化した症例.前眼部写真では強膜創に隣接した7時方向の周辺角膜が菲薄化していることがわかる(赤丸印).同部位を前眼部OCTで経時的に撮影し,発症時は正常の1/10ほどまで菲薄化していたが,治療により1カ月後,6カ月後と改善を認めた(.).abcd図4緑内障手術後の角膜デレンの症例a:デレン発症時の前眼部写真.b:発症時,c:発症後1カ月,d:発症後6カ月:前眼部OCT(CASIA).右眼の耳側下方から線維柱帯切開術を施行後2カ月で角膜デレンを発症し,非感染性に角膜が菲薄化した症例.前眼部写真では強膜創に隣接した7時方向の周辺角膜が菲薄化していることがわかる(赤丸印).同部位を前眼部OCTで経時的に撮影し,発症時は正常の1/10ほどまで菲薄化していたが,治療により1カ月後,6カ月後と改善を認めた(.).abcd 244あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(84)III隅角の定量測定可視光を使用するスリットスキャン型およびシャインプルーク型では,強膜によるアーチファクトの影響で隅角底が不明瞭となる.一方,前眼部OCTは赤外光を使用するために隅角底の描出能に優れており,定量的な測定にも利用可能である.過去にはUBMを用いた報告で隅角の定量評価が行われており8),CASIAにおいても同様の定量評価用ソフトウェアが搭載されている.断層像の強膜岬を手動でプロットすることにより,器械が半自動的に隅角パラメータを測定する.主要なパラメータとしてはAOD(angleopeningdistance),ARA(anglerecessarea),TISA(trabecularirisspacearea),TIA(trabecularirisangle)があり,強膜岬から500μm離れた部位での数値および750μm離れた部位での数値という2通りの指標がそれぞれ算出される(図6).これらのパラメータは臨床的な使用のみならず,閉塞隅角のスクリーニングや発症予測といった研究面にも寄与すると思われる.IV濾過胞の観察緑内障濾過手術では,術後に形成される濾過胞のでき栄えが眼圧下降効果に影響する.そのため,濾過胞の観図5角膜前後面形状解析(前眼部OCT,CASIA)a:角膜前面axialpowermap(keratometric).b:角膜後面axialpowermap.角膜前面は水平方向の曲率が急峻になっている倒乱視パターンを示しているが,後面は反対に鉛直方向の曲率が急峻になっており,前面と後面の形状が異なっていることがわかる.ab図6隅角パラメータ(CASIA)図5角膜前後面形状解析(前眼部OCT,CASIA)a:角膜前面axialpowermap(keratometric).b:角膜後面axialpowermap.角膜前面は水平方向の曲率が急峻になっている倒乱視パターンを示しているが,後面は反対に鉛直方向の曲率が急峻になっており,前面と後面の形状が異なっていることがわかる.ab図6隅角パラメータ(CASIA) 図7濾過胞a:前眼部写真.b:前眼部OCT(CASIA).線維柱帯切除術後6カ月の症例.前眼部写真では,びまん性に広がる濾過胞を確認可能である.前眼部OCTで強膜フラップを通る断面(赤線)を撮影すると,虹彩切除部位()や強膜フラップ下の房水流出路(.),低輝度部位を含む広範囲な内部水隙(*)が観察可能である. 246あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(86)abcd図8強膜菲薄化左図:前眼部写真.a:上方強膜,b:耳側強膜.右図:前眼部OCT(CASIA).c:上方断面(黄線),d:耳側断面(白線).左眼の壊死性強膜炎後で,強膜が菲薄化した症例.続発緑内障をきたし,線維柱帯切開術が必要な状態であり,前眼部写真および前眼部OCTを撮影した.上方では強膜が菲薄化してぶどう膜が透見できるが,耳側は色調が良好な部位が多い.前眼部OCTでは上方強膜の菲薄化および突出があり,緑内障手術を行うことはできない.一方で耳側の強膜は菲薄化しておらず,強膜フラップを作製して緑内障手術を行うことが可能であると確認できる.abc図9外傷性強膜穿孔a:前眼部写真.b:フルオレセイン染色後.c:前眼部OCT(CASIA2).針金で受傷した症例.細隙灯顕微鏡および生体染色検査では結膜下出血や結膜裂傷(赤丸)が確認可能であるが,強膜創ははっきりしない.前眼部OCTを使用することで,強膜全層にわたる穿孔創()を確認することができる.abcdabc図8強膜菲薄化左図:前眼部写真.a:上方強膜,b:耳側強膜.右図:前眼部OCT(CASIA).c:上方断面(黄線),d:耳側断面(白線).左眼の壊死性強膜炎後で,強膜が菲薄化した症例.続発緑内障をきたし,線維柱帯切開術が必要な状態であり,前眼部写真および前眼部OCTを撮影した.上方では強膜が菲薄化してぶどう膜が透見できるが,耳側は色調が良好な部位が多い.前眼部OCTでは上方強膜の菲薄化および突出があり,緑内障手術を行うことはできない.一方で耳側の強膜は菲薄化しておらず,強膜フラップを作製して緑内障手術を行うことが可能であると確認できる.図9外傷性強膜穿孔a:前眼部写真.b:フルオレセイン染色後.c:前眼部OCT(CASIA2).針金で受傷した症例.細隙灯顕微鏡および生体染色検査では結膜下出血や結膜裂傷(赤丸)が確認可能であるが,強膜創ははっきりしない.前眼部OCTを使用することで,強膜全層にわたる穿孔創()を確認することができる.246あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(86) あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016247(87)といった前眼部構造の撮影に優れているが,焦点深度が不十分であることや前後方向の測定範囲が狭いことなどから,水晶体後面など深部組織の撮影には向いていなかった.現行のCASIAの後継機であるCASIA2では前後方向の測定範囲が拡大し焦点深度が改良されたため,角膜前面から水晶体後面までの前眼部構造を同時に撮影することが可能となった.臨床的な有用性は今後評価されていくと思われるが,水晶体後面形状の評価が可能であるため,後極白内障や外傷性白内障のような後.に変形をきたし得る特殊な病型に対する術前検査として威力を発揮すると予想される.また,マニュアルで器械を押し込んで撮影することで,水晶体後面より深部にある前部硝子体に関する情報も取得可能である.図10に示すような前部硝子体.離が確認された場合,白内障手術時の後.誤吸引をきたしやすいと予想され,白内障手術のリスク評価に使用することができる.VIIその他前眼部OCTを用いた特殊な撮影方法として眼瞼や睫毛の画像化がある.通常の前眼部撮影において,眼瞼や睫毛はアーチファクトとなって映り込んでしまうが,これを逆に利用することで眼瞼や睫毛を詳細に観察することができる.図11は下眼瞼の睫毛内反症をCASIA2で撮影し,画像を3D表示したものである.正面からだけでなく,通常の細隙灯顕微鏡では観察できない側方や斜め下方からの観察も可能である.臨床的には,患者説明の際に提示することで,スムーズな病態説明に役立つ.また,角膜・眼瞼・睫毛の位置情報を定量的に評価するabc図10前部硝子体.離a:前眼部写真.下段:前眼部OCT(CASIA2).b:通常の撮影,c:水晶体後面の後方を撮影.白内障,落屑症候群,強度近視の症例.CASIA2では測定範囲が改良され,角膜前面から水晶体後面までの同時撮影が可能である.本症例のように核混濁が強い症例では,核が高輝度に描出される.水晶体後面のさらに奥にピントを合わせると,膜様の構造物()を硝子体腔に認め,前部硝子体.離が生じているものと考えられる.abc図10前部硝子体.離a:前眼部写真.下段:前眼部OCT(CASIA2).b:通常の撮影,c:水晶体後面の後方を撮影.白内障,落屑症候群,強度近視の症例.CASIA2では測定範囲が改良され,角膜前面から水晶体後面までの同時撮影が可能である.本症例のように核混濁が強い症例では,核が高輝度に描出される.水晶体後面のさらに奥にピントを合わせると,膜様の構造物()を硝子体腔に認め,前部硝子体.離が生じているものと考えられる. abcde図11右眼の下眼瞼睫毛内反症a:前眼部写真.b~e:前眼部OCT(CASIA2)3D画像(b:正面から,c:鼻側から,d:耳側から,e:鼻下側からのアングル).下眼瞼睫毛内反症の小児.前眼部写真は基本的に正面からの撮影しかできない.前眼部OCTをラスタースキャン(たとえばCASIAのblebモード)で撮影し,3D画像表示を行うことで任意のアングルからの観察が可能となる.たとえば,鼻側や耳側などの真横や,斜め下方からのアングルで観察することができ,睫毛が角膜に接触する様子をわかりやすく伝えることができる. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016249(89)CataractRefractSurg34:789-795,20087)NakagawaT,MaedaN,KosakiRetal:Higher-orderaberrationsduetotheposteriorcornealsurfaceinpatientswithkeratoconus.InvestOphthalmolVisSci50:2660-2665,20118)IshikawaH,LiebmannJM,RitchR:Quantitativeassess-mentoftheanteriorsegmentusingultrasoundbiomicros-copy.CurrOpinOphthalmol11:133-139,20009)KawanaK,KiuchiT,YasunoYetal:Evaluationoftrab-eculectomyblebsusing3-dimensionalcorneaandanteriorsegmentopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:848-855,2009

緑内障

2016年2月29日 月曜日

特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):233.240,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):233.240,2016緑内障ClinicalApplicationofOCTinGlaucomaManagement福地健郎*はじめに光干渉断層法(opticalcoherencetomography:OCT)はもともと,網膜,脈絡膜を含む眼内組織の形態を断面像として観察し,病的な変化を画像としてとらえることを目的として開発された.タイムドメイン方式,スペクトラルドメイン方式と性能が向上し,形態変化の観察だけでなく,形態計測,さらには層別計測が可能となって,現在に至っている.緑内障の領域では,視神経乳頭陥凹や乳頭周囲網膜神経線維層厚を量的に評価する,いわゆる形態計測は古くから行われてきた研究領域で,代表的な測定装置として視神経乳頭解析装置(Heidelbergretinatomography:HRT)や神経線維層厚測定装置(GDx)などがある.これらの装置に対して,OCTは日常臨床においてさまざまな疾患に汎用することが可能で,加えて黄斑部解析が可能となった.昨今では,緑内障に関するほとんどの一般臨床データ,形態計測の研究データにOCTが用いられている.OCTは前眼部の形態観察,形態計測にも応用されている(前眼部OCT).さらに視神経乳頭内,視神経乳頭周囲組織,脈絡膜,網膜などで,これまでにはとらえることのできなかった緑内障に伴うさまざまな形態変化が検出されている.OCTangiographyによって血管の形態観察が可能となっている.I緑内障性視神経症の診断への活用1.OCTによる緑内障性視神経症の観察と診断OCTが一般に用いられるようになった現在においても,緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)の診断と鑑別診断には視神経乳頭所見,網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)所見が重要である1,2).視神経乳頭はサイズを含めて,個体差が大きい.さらに近年では,近視の進行に伴って乳頭形態が後天的に変化してくることも明らかになっている.GONは網膜神経節細胞とその軸索が障害され,消失する疾患である.視神経乳頭は組織学的に複雑で,GONで乳頭陥凹拡大にも,篩状板の後方への湾曲など視神経線維の消失以外の要素が含まれる.したがって,乳頭陥凹拡大の量的変化によるGON診断や進行判定には限界と問題がある.一方,RNFLの組織構造はシンプルで,結果的に“厚さ”というパラメータでみた場合,個体差が少なく,正常範囲(正常値)を設定し,それと比較する方法により適している(図1a)3,4).さらに,OCTはタイムドメイン方式からフーリエドメイン方式に移行したことによって,分解能は20μmから5μmに向上し,さらにスキャン速度も向上した.その結果,網膜の層構造をより鮮明に分離できるようになり,従来の乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定精度は向上し,さらには黄斑部の網膜神経節細胞層に関連した網膜内層厚の評価が可能になった(図1b)5).その結果,*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(73)233 234あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(74)ばHumphrey視野24/30-2プログラムの結果に対応し,黄斑部神経節細胞複合体厚の判定は,同じく10-2プログラムの結果に対応する.図2はCarlZeiss社のForumGlaucomaWorkPlaceの①視神経乳頭解析の結果とHFA24-2のコンビネーション表示(図2a),②黄斑部解析の結果とHFA10-2のコンビネーション表示(図2b)である.この方法では,それぞれのクラスタ(領域)に応じたOCTによるデータが付属しており,研究的にも有用な方法である.現状においてこのような解析は診断的な意義が大きい.今後,さらに発展させていくことよって,形態と機能の進行過程が総合的に判定される可能性があり,また進行の予測,予後の予測に繋がっていく可能性が考えられる.緑内障眼ではこれまで認識されていた以上に早期から黄斑部付近に障害が生じていることが明らかとなり,治療や管理の方法や考え方に大きく影響を与えている.2.視野所見とOCT所見のコンビネーションそれ以前には,いわゆる「形態」,つまり緑内障における網膜,視神経乳頭の眼底所見は診断としての重要性が高く,それに対して管理としての意義は限られていた.現在,OCTが普及したことによって,「機能」である視野とともに,「形態」による管理が加わり,さらに互いにその情報が相加されることによって,より精度の高いより多彩な臨床情報を得ることが可能である.原理的に乳頭周囲網膜神経線維層厚の判定は,たとえab図1OCTによる視神経乳頭解析と黄斑部解析a:視神経乳頭解析によって乳頭周囲網膜神経線維層(RNFL)厚を測定し,正常データベースと比較してRNFLの菲薄化した領域を検出する.b:黄斑部解析では網膜内層厚,つまりRNFL厚,網膜神経節細胞層厚,内網状層厚を測定し,同様に正常眼データベースと比較し,菲薄化した領域を検出する.ab図1OCTによる視神経乳頭解析と黄斑部解析a:視神経乳頭解析によって乳頭周囲網膜神経線維層(RNFL)厚を測定し,正常データベースと比較してRNFLの菲薄化した領域を検出する.b:黄斑部解析では網膜内層厚,つまりRNFL厚,網膜神経節細胞層厚,内網状層厚を測定し,同様に正常眼データベースと比較し,菲薄化した領域を検出する. ab図2OCT所見と視野所見のコンビネーション緑内障の診断にはOCTによる形態所見と,視野による機能所見を照らし合わせることが重要である.一般に形態所見が機能所見に先行し,したがって視野検査上で感度異常がみられなくてもOCTで変化がみられた場合には,将来,その領域に視野欠損が生ずる可能性があることを考え,管理および経過観察していくことが必要である.a:視神経乳頭解析とHumphrey視野30-2のコンビネーション表示.b:黄斑部解析とHumphrey視野10-2のコンビネーション表示. 236あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(76)適正な位置(距離)で撮影されているかどうかを確認する.部分的にスケールオーバーしてしまうと,その領域は計測されない.b.OCTによるGON診断そのものに適さない症例①網膜前膜を伴う例,②ぶどう膜炎のように視神経乳頭および周囲網膜の浮腫を伴う例などでは,緑内障以外の要素が加わり網膜厚は変化する.網膜内層厚の測定によるGON診断はあくまで“正常範囲との比較”であって,別な要素による形態変化が加わった場合には,適切な診断は不可能と認識するべきである.さらに,③しばしば上下RNFL厚のピークが内側にずれる症例がある.④一般のOCTでは.6Dの近視までが正常範囲との比較の対象であり,それより強い近視眼の判定には注意を要する.眼軸長補正によって正確に判定される機能をもつ装置もある.3.適切な判定のために必要なことOCTによる形態計測によってGONを適切に診断するには,さまざまなポイントを確認する必要がある.以下のような条件がすべて満たされたことを前提としてOCTによるGONの診断が可能であるということに留意しなければならない.a.撮影と計測が適切に行われたかどうかのチェックたとえば,撮影および撮影条件に伴うアーチファクトとして,①まず,画像の質についてチェックする.たとえば白内障の進行に伴って画像の質は低下し,網膜内層厚は薄く判定される.②乳頭周囲網膜神経線維層厚測定では,乳頭中心からの距離で正常範囲が設定されており,これがずれると正常範囲が異なるので正確な判定は不可である.③網膜各層のセグメンテーションが適切に行われているか確認する.眼球運動や瞬目などによってセグメンテーションが適切に行われていないことがある.その場合には手動で修正する.④計測範囲の全体が図3検眼鏡的に明らかなNFLDは観察されなかったが,OCTによってRNFLの菲薄化が検出され,preperimetricglaucomaと診断できた症例72歳,女性.左眼に比べて右眼の乳頭陥凹がより拡大しているが,右眼の乳頭周辺部(リム)は全周で保たれており,明らかな神経線維厚欠損(NFLD)は検出されない.OCTでの観察では,右眼は乳頭耳側上方に向かって広いNFLDが検出され(a),黄斑部解析でもこれに一致する網膜内層厚の菲薄化が認められた(b).「人間の眼」ではとらえることのむずかしい網膜神経線維層(RNFL)の菲薄化の所見を「機械の眼」のアシストによって検出できた症例である.abb図3検眼鏡的に明らかなNFLDは観察されなかったが,OCTによってRNFLの菲薄化が検出され,preperimetricglaucomaと診断できた症例72歳,女性.左眼に比べて右眼の乳頭陥凹がより拡大しているが,右眼の乳頭周辺部(リム)は全周で保たれており,明らかな神経線維厚欠損(NFLD)は検出されない.OCTでの観察では,右眼は乳頭耳側上方に向かって広いNFLDが検出され(a),黄斑部解析でもこれに一致する網膜内層厚の菲薄化が認められた(b).「人間の眼」ではとらえることのむずかしい網膜神経線維層(RNFL)の菲薄化の所見を「機械の眼」のアシストによって検出できた症例である.3.適切な判定のために必要なことOCTによる形態計測によってGONを適切に診断するには,さまざまなポイントを確認する必要がある.以下のような条件がすべて満たされたことを前提としてOCTによるGONの診断が可能であるということに留意しなければならない.a.撮影と計測が適切に行われたかどうかのチェックたとえば,撮影および撮影条件に伴うアーチファクトとして,①まず,画像の質についてチェックする.たとえば白内障の進行に伴って画像の質は低下し,網膜内層厚は薄く判定される.②乳頭周囲網膜神経線維層厚測定では,乳頭中心からの距離で正常範囲が設定されており,これがずれると正常範囲が異なるので正確な判定は不可である.③網膜各層のセグメンテーションが適切に行われているか確認する.眼球運動や瞬目などによってセグメンテーションが適切に行われていないことがある.その場合には手動で修正する.④計測範囲の全体が適正な位置(距離)で撮影されているかどうかを確認する.部分的にスケールオーバーしてしまうと,その領域は計測されない.b.OCTによるGON診断そのものに適さない症例①網膜前膜を伴う例,②ぶどう膜炎のように視神経乳頭および周囲網膜の浮腫を伴う例などでは,緑内障以外の要素が加わり網膜厚は変化する.網膜内層厚の測定によるGON診断はあくまで“正常範囲との比較”であって,別な要素による形態変化が加わった場合には,適切な診断は不可能と認識するべきである.さらに,③しばしば上下RNFL厚のピークが内側にずれる症例がある.④一般のOCTでは.6Dの近視までが正常範囲との比較の対象であり,それより強い近視眼の判定には注意を要する.眼軸長補正によって正確に判定される機能をもつ装置もある.236あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(76) 図4前眼部OCT眼底用のOCTよりも長い波長(1,310nm)の近赤外光を用いることで,非接触で広い範囲の画像を取得することが可能で,角膜の形状や性状,前房および隅角の形状の観察,さらには量的な形態計測が可能である. 238あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(78)構造7.9)(図5b)やpitなどの所見が観察され,GONの進行との関連について議論されている.とはいえ,血管より後方組織の観察は不可能で,解像度的にはまだ十分とはいえない.今後,さらに研究が進展することが期待される.2.SS.OCTとEnface画像による観察波長掃引レーザー(sweptsource:SS)を用いるOCT方式をSS-OCTという.SS-OCTの利点として,SD-OCTよりもさらに高速化が可能なこと,深さによる感度の減衰が少ないことがあげられる.より高速化の利点は,より多数の画像を取得することによってより繊細な画像取得が可能である.SS-OCTを撮影しEnface画像として観察することで,視神経乳頭周囲から黄斑部付近の網膜神経線維束,水平縫線の観察が可能である10)(図6a).また,GONを含むさまざまな視神経疾患に伴って,ときに黄斑部付近の網膜内顆粒層にMME(microcysticmacularedema)とよばれる変化を生ず部を撮影する方法が開発されたことによって,人緑内障眼の篩状板における変化を観察することが可能となった.篩状板孔の変化や変形を断層像としてとらえることができる6)(図5a).また,視神経乳頭の断層像から,篩状板厚の変化や,laminarbreakとよばれる切痕状の図6SS.OCTのEnface画像による緑内障眼の観察a:視神経乳頭周囲から黄斑部の網膜神経線維層(RNFL)および神経線維厚欠損(NFLD)(※)が明瞭に観察される.b,c:ときに網膜内顆粒層内に認められるMME(microcysticmacularedema)とよばれる変化(.)とその領域(.)が明瞭に観察される.c:断層像.abcab図5SD.OCTによる緑内障における篩状板変化の観察SD-OCTによって,人緑内障眼の篩状板の変化を観察することが可能となった.a:篩状板孔の変化や変形を断層像としてとらえることができる.b:視神経乳頭の断層像からときにlaminarbreakとよばれる切痕状の構造が観察される(.).図6SS.OCTのEnface画像による緑内障眼の観察a:視神経乳頭周囲から黄斑部の網膜神経線維層(RNFL)および神経線維厚欠損(NFLD)(※)が明瞭に観察される.b,c:ときに網膜内顆粒層内に認められるMME(microcysticmacularedema)とよばれる変化(.)とその領域(.)が明瞭に観察される.c:断層像.abcab図5SD.OCTによる緑内障における篩状板変化の観察SD-OCTによって,人緑内障眼の篩状板の変化を観察することが可能となった.a:篩状板孔の変化や変形を断層像としてとらえることができる.b:視神経乳頭の断層像からときにlaminarbreakとよばれる切痕状の構造が観察される(.). ababAngio/OCT-NerveHeadAngio/OCT-RadialPeripapillarCapillaries図7OCTangiographyによる緑内障眼の視神経乳頭内,乳頭周囲毛細血管網の観察OCTangiographyによって非侵襲的に,短時間で視神経乳頭部,黄斑部の血管構築を観察することが可能である.a:視神経乳頭内毛細血管網の消失(.).b:乳頭周囲放射状毛細血管網の消失(※). 240あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(80)imagesthanonOCTretinalnervefiberlayerthicknessmaps.InvestOphthalmolVisSci56:6208-6216,201511)HasegawaT,AkagiT,YoshikawaMetal:Microcysticinnernuclearlayerchangesandretinalnervefiberlayerdefectsineyeswithglaucoma.PLoSOne10:e0130175,201512)LiuL,JiaY,TakusagawaHLetal:Opticalcoherencetomographyangiographyoftheperipapillaryretinainglaucoma.JAMAOphthalmol133:1045-1052,2015