あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162710910-1810/16/\100/頁/JCOPY速診断法として,蛍光免疫クロマトグラフィ法(fluorescentimmunochromatographicassay:FICGA)を用いたアカントアメーバ抗原検出キットを開発した1).免疫クロマトグラフィ法(immunochromatograph-icassay:ICGA)は,金コロイドやラテックス粒子で標識した特異抗体を用いて目的とする抗原を検出する検査法で,操作が簡便であり,判定にかかる時間も30分以内と,迅速診断が可能なことを特徴とし,眼科領域ではアデノウイルスやヘルペスウイルス感染症の迅速診断に用いられている.測定原理としては,検体中に抗原が存在すると標識抗体が結合し免疫複合体が形成される.メンブラン上のテストラインには抗原に対する特異抗体が固相されており,免疫複合体ごと抗原が捕捉され,標識抗体による発色が認められる.今回採用したFICGAで新しい治療と検査シリーズ(111).バックグラウンドアカントアメーバ角膜炎(Acamthamoebakeratitis:AK)は進行するときわめて難治な角膜感染症であり,高度の視力障害をきたす例も少なくないため,早期診断・治療が重要とされる.診断根拠となるアカントアメーバの検出には,角膜擦過物の直接検鏡,分離培養のほか,近年では共焦点顕微鏡を用いた生体観察やpoly-merasechainreaction(PCR)法によるDNA検出などが用いられているが,専門的な技術や特殊な機器を要するため,実施できる施設が限られているのが現状である..新しい検査法筆者らは一般病院や診療所でも実施可能なAKの迅229.蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断検体(抗原)抽出液標識抗体検体+標識抗体抗体蛍光色素シリカ粒子抗原固相化抗体蛍光スコープで観察図1蛍光免疫クロマトグラフィ法検体を抽出液で処理後,凍結乾燥された標識抗体と混合し,プレートに滴下,判定は専用の蛍光スコープで行う.プレゼンテーション:鳥山浩二愛媛県立中央病院眼科コメント:井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162710910-1810/16/\100/頁/JCOPY速診断法として,蛍光免疫クロマトグラフィ法(fluorescentimmunochromatographicassay:FICGA)を用いたアカントアメーバ抗原検出キットを開発した1).免疫クロマトグラフィ法(immunochromatograph-icassay:ICGA)は,金コロイドやラテックス粒子で標識した特異抗体を用いて目的とする抗原を検出する検査法で,操作が簡便であり,判定にかかる時間も30分以内と,迅速診断が可能なことを特徴とし,眼科領域ではアデノウイルスやヘルペスウイルス感染症の迅速診断に用いられている.測定原理としては,検体中に抗原が存在すると標識抗体が結合し免疫複合体が形成される.メンブラン上のテストラインには抗原に対する特異抗体が固相されており,免疫複合体ごと抗原が捕捉され,標識抗体による発色が認められる.今回採用したFICGAで新しい治療と検査シリーズ(111).バックグラウンドアカントアメーバ角膜炎(Acamthamoebakeratitis:AK)は進行するときわめて難治な角膜感染症であり,高度の視力障害をきたす例も少なくないため,早期診断・治療が重要とされる.診断根拠となるアカントアメーバの検出には,角膜擦過物の直接検鏡,分離培養のほか,近年では共焦点顕微鏡を用いた生体観察やpoly-merasechainreaction(PCR)法によるDNA検出などが用いられているが,専門的な技術や特殊な機器を要するため,実施できる施設が限られているのが現状である..新しい検査法筆者らは一般病院や診療所でも実施可能なAKの迅229.蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断検体(抗原)抽出液標識抗体検体+標識抗体抗体蛍光色素シリカ粒子抗原固相化抗体蛍光スコープで観察図1蛍光免疫クロマトグラフィ法検体を抽出液で処理後,凍結乾燥された標識抗体と混合し,プレートに滴下,判定は専用の蛍光スコープで行う.プレゼンテーション:鳥山浩二愛媛県立中央病院眼科コメント:井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学は,標識粒子に通常の金コロイドやラテックス粒子ではなく,蛍光シリカナノ粒子(QuartzDotR;古河電工)を用いており,従来の方法と比べ感度が高いとされている.アカントアメーバに対するモノクローナル抗体としては,過去に樋渡らが,AKの原因株の大部分を占める形態学的分類GroupIIに属するアカントアメーバに対し特異的に反応するものを精製,報告しており2),これを譲渡していただいたものを用いた..検査方法本法では界面活性剤を含む抽出液によってサンプルを処理後,凍結乾燥した標識抗体と混合し,プレートに滴下,30分の反応後,専用の蛍光スコープで陽性ラインを確認することで抗原を検出する(図1).判定に蛍光スコープを用いるため,目視により判定する従来のICGAと比較し,より鋭敏な検出が可能である..本方法の良い点本キットをinvitroでアカントアメーバの栄養体およびシストの希釈液を用いて検出限界を検証したところ,栄養体は5個/sample,シストは40個/sampleまで検出可能であった.一方,同様の抗体を用いたラテックス粒子によるICGAキットでは,アカントアメーバ栄養体の検出限界は100個/sampleであり,FICGAの感度の高さが実証された.シストの検出感度が栄養体より低い理由については明確でないが,シストでは界面活性剤により菌体が十分溶解されず,抗原が標識抗体に認識されにくい可能性が原因のひとつとして考えられ,抽出方法の改善が今後の検討課題である.実際にAKが疑われた10症例の角膜擦過物を用いて,FICGA,real-timePCR,検鏡・培養によるアカントアメーバ同定を行った結果を表1に示す.全例でreal-timePCRによりアカントアメーバDNAが検出され,表1アカントアメーバ角膜炎症例における各種同定検査結果症例年齢性別検鏡培養Real-timePCR(DNAコピー数)FICGA119F.*.+(1.1×105)+218M.*++(6.8×10)+319FNTNT+(1.2×105)+457FNTNT+(<25)+532F.*.+(1.0×102)+650MNTNT+(4.0×105)+724F.*.+(<25)+829M+*++(2.5×104)+936M+*.+(2.3×103)+1030M+**++(3.2×104)+PCR:polymerasechainreaction,FICGA:fluorescentimmunochromatographicassay,NT:nottested,*グラム染色,**ファンギフローラY染色.AKと確定診断された.FICGAも全例で陽性であり,培養・検鏡陰性例やreal-timePCRで検出されたDNAcopy数が少ない症例でも検出が可能であったのは,invitroの試験で示された感度の高さを裏付けるものと考えられる.今後さらなる検討が必要であるが,本キットは簡便な操作で,迅速かつ高感度にアカントアメーバの検出が可能であり,実用化されればAK診断に大きく貢献することが期待される.文献1)ToriyamaK,SuzukiT,InoueTetal:DevelopmentofanimmunochromatographicassaykitusingfluorescentsilicananoparticlesforrapiddiagnosisofAcanthamoebakeratitis.JClinMicrobiol53:273-277,20152)HiwatashiE,TachibanaH,KanedaYetal:ProductionandcharacterizationofmonoclonalantibodiestoAcanthamoebacastellaniiandtheirapplicationfordetectionofpathogenicAcanthamoebaspp.ParasitolInt46:197-205,1997.「蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断」へのコメント.アカントアメーバ角膜炎(Acamthamoebakerati-に普及することはむずかしいと思われる.ただ,今回tis:AK)の診断では,臨床所見に加えて病巣のアカ用いられた蛍光シリカナノ粒子の技術は,免疫クロマントアメーバの検出が重要だが,培養方法が特殊で,トグラフィ法の欠点である感度の低さを改善する可能通常の病院ではそのノウハウがなく,またPCRはご性がある.今後,これが発展して,一つのキットで複く一部の施設でしか施行できない.今回のアカントア数の眼感染症起炎微生物が検出される方向へ進めば,メーバの蛍光免疫クロマトグラフィ法には,蛍光ス一般眼科臨床医がその場で使用できる日が来るのではコープさえあればベッドサイドで診断できるという大ないか.このようなpoint-of-carediagnostics(POCD)きなメリットがある.残念ながら,AKはきわめて珍が発展していくうえで大変重要な報告として,多いにしいため,これがキット化されても,商品として一般注目される.272あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(112)