特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):229.232,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):229.232,2016強膜Sclera島田典明*大野京子*はじめに強膜は,膠原線維と弾性線維が不規則に配列する白く不透明な組織であり,角膜とともに眼球の外膜を構成する.前部強膜は球結膜で覆われ,結膜のすぐ下の疎な組織は上強膜とよばれ血管に富んでおり,実質は血管に乏しい.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)により,前方の強膜の観察や,網膜脈絡膜の菲薄化した強度近視眼では強膜や後方の組織の観察が可能となってきている.後部ぶどう腫やdome-shapedmacula,黄斑バックルのある強度近視眼や傾斜乳頭症候群では強膜が独特の形状を有することから,OCTを用いた解析が注目されてきている.本項では,強膜に生じる疾患として強度近視と傾斜乳頭症候群,強膜炎について述べる.I強度近視正視眼では脈絡膜が厚いために,enhanceddepthimagingOCT(EDI-OCT)やswept-sourceOCT(SSOCT)を用いてもせいぜい強膜内面までしか観察できないが,強度近視眼では,脈絡膜が高度に菲薄化しているために強膜のほぼ全層が観察可能である(図1).また,脈絡膜の菲薄化により,RPEのカーブと強膜のカーブが近似する.Marukoら1)は,平均年齢65.5歳,平均眼軸長29.0mmの強度近視眼58眼の強膜厚をSS-OCTを用いて計測した.その結果,中心窩下強膜厚は平均335±130mmであった.部位別では中心窩の3mm上方,下方,鼻側,耳側はそれぞれ266±78,259±72,324±109,253±79mmであった.一方,筆者らは平均年齢60.9歳,平均眼軸長30.7mmの強度近視眼278眼において,強膜厚を計測した2).全症例での中心窩下強膜厚は227.9±82.0mmであった.部位別には中心窩の3mm上方,下方,鼻側,耳側はそれぞれ190.7±71.6mm,182.7±70.2mm,252.8±90.8mm,181.8±75.1mmであり,中心窩の鼻側の強膜がもっとも厚かった.両者の報告はおおむね一致している.若干の差異は母集団の近視度の違いによるのと考えられる.正視眼と異なり,強度近視眼では強膜のカーブはさまざまな異常な形態をとる.大きく分けると,乳頭がもっとも底にある乳頭傾斜型,中心窩を底にした対称的な深いカーブである対称型,対称型と似ているが,中心窩が底からはずれてスロープ上に位置する非対称型,まったく不規則なカーブを呈する不規則型である3).この4つのタイプのなかで,不規則型の症例は他のタイプに比較し,有意に年齢が高く眼軸長が長く,また中心窩下強膜厚が菲薄化しており,強度近視の最重症型と考えられる.不規則型の症例の中心窩下強膜厚は平均189.1±60.9mmと高度に菲薄化していた1).強膜内の血管および球後の組織もOCTで観察することが可能であり,長後毛様動脈や短後毛様動脈の流入部位や強膜内の走行も確認できる4).また,症例によっては強膜の奥の眼窩脂肪(図2)や神経周囲のくも膜下腔*NoriakiShimada&KyokoOhono-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕島田典明:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(69)229230あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(70)した小眼球で生じるuvealeffusionと類似した機序を考えている.Ellabbanら9)は,dome-shapedmaculaは多くの症例で中心窩を通る垂直スキャンにおいて,水平スキャンよりも明瞭であり,真のdome状よりも中心窩を水平に横切るridge状の隆起が多いと報告した.さらに,黄斑合併症として,漿液性網膜.離だけでなく,脈絡膜新生血管が40%以上に合併することや,網膜分離が生じても中心窩がちょうど天然の黄斑バックル様の形状になっており,中心窩に分離が及びにくい傾向があると述べている.同様に黄斑バックル手術後の強膜カーブの変化にもOCTが有用である(図5,6).II傾斜乳頭症候群(図7,8)傾斜乳頭症候群は眼球の胎生裂の閉鎖不全から生じる(図3)の描出も可能である5).視神経周囲に位置するZinn-Haller動脈輪も強膜に侵入する部位から視神経に向かう枝まで観察可能であり6),病的近視眼ではZinn-Haller動脈輪が視神経からかなり離解していることがわかっている.このような動脈輪の離解が視神経の虚血を生じ,病的近視の視神経障害の一因になっている可能性が示唆される.Dome-shapedmaculaは,強度近視眼の黄斑部がドーム状に硝子体側に突出した状態であり7),合併症として,黄斑部の網膜色素上皮萎縮が生じ漿液性網膜.離や近視性脈絡膜新生血管を合併することがある.このdome-shapedmaculaのある眼の平均中心窩下強膜厚(平均値±標準偏差)は570±221μmで,ない眼の281±85μmに比較して有意に肥厚しており(図4),強膜の局所的な肥厚のためにdome-shapedmaculaが生じていると考えられている8).この肥厚した強膜により脈絡膜液の排出が障害された結果と推測され,強膜が肥厚ab図1正視眼と強度近視眼のOCT正視眼のOCT(a)と強度近視眼のOCT(b)を比較すると,強度近視眼では,網膜の菲薄化,脈絡膜の著明な菲薄化,強膜カーブの急峻化があり,強膜のほぼ全層が観察できる.図2眼窩の脂肪組織や血管のOCT眼窩の脂肪組織や血管が描出されている.この症例では初期の黄斑円孔網膜.離を併発している.図3視神経周囲のクモ膜下腔のOCT視神経の左側に視神経周囲のクモ膜下腔が描出されている.ab図1正視眼と強度近視眼のOCT正視眼のOCT(a)と強度近視眼のOCT(b)を比較すると,強度近視眼では,網膜の菲薄化,脈絡膜の著明な菲薄化,強膜カーブの急峻化があり,強膜のほぼ全層が観察できる.図2眼窩の脂肪組織や血管のOCT眼窩の脂肪組織や血管が描出されている.この症例では初期の黄斑円孔網膜.離を併発している.図3視神経周囲のクモ膜下腔のOCT視神経の左側に視神経周囲のクモ膜下腔が描出されている.図4Dome.shapedmaculaのOCT中心窩下強膜厚が肥厚している.この症例では中心窩周囲に網膜分離を併発している.図6図5の症例に対して硝子体術後のOCT黄斑バックルを除去し,内境界膜.離を併用した硝子体手術術後翌日のOCTでは,強膜のカーブの不整がなくなり,網膜上の牽引も解除されている.図8図7の症例の傾斜乳頭症候群の黄斑部位での縦方向のOCT同様に中心窩の上下で強膜内面のカーブが変化している.下方は脈絡膜が同様に菲薄化している.図5黄斑バックルのある症例のOCT近視性牽引黄斑症に対して黄斑バックル術後数年経っている症例.中心窩の上方がもっとも突出している.この症例では,中心窩下方に外層分層黄斑円孔を伴った近視性牽引黄斑症を再発している.図7傾斜乳頭症候群の視神経乳頭部位での縦方向のOCT乳頭の上下で強膜内面のカーブが変化している.乳頭上方に比べ,下方の脈絡膜は菲薄化がみられる.232あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(72)7290-7298,20125)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Imagingtheretrobulbarsubarachnoidspacearoundtheopticnervebysweptsourceopticalcoherencetomographyineyeswithpathologicmyopia.InvestOphthalmolVisSci52:9644-9650,20116)Ohno-MatsuiK,KasaharaK,MoriyamaM:DetectionofZinn-Hallerarterialringinhighlymyopiceyesbysimul-taneousindocyaninegreenangiographyandopticalcoher-encetomography.AmJOphthalmol,inpress7)GaucherD,ErginayA,Lecleire-ColletAetal:Dome-shapedmaculaineyeswithmyopicposteriorstaphyloma.AmJOphthalmol145:909-914,20088)ImamuraY,IidaT,MarukoIetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthescleraindome-shapedmacula.AmJOphthalmol151:297-302,20119)EllabbanAA,TsujikawaA,MatsumotoAetal:Three-dimensionaltomographicfeaturesofdome-shapedmaculabyswept-sourceopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol3:578-8,201210)ShinoharaK,MoriyamaM,ShimadaNetal:Analysesofshapeofeyesandstructureofopticnervesineyeswithtilteddiscsyndromebyswept-sourceopticalcoherencetomographyandthree-dimensionalmagneticresonanceimaging.Eye27:1233-1241,201311)LevisonAL,LowderCY,BaynesKMetal:Anteriorseg-mentspectraldomainopticalcoherencetomographyimag-ingofpatientswithanteriorscleritis.IntOphthalmol,inpressで強膜全層の観察が可能になれば,将来的には後部強膜炎の診断に有用となる可能性がある.おわりにOCTの進歩によって,より深部の組織を明瞭に描出できるようになってきた.一部の症例では強膜から眼窩に至るまでの組織を観察できるようになった.これらの知見により解明された病態が,新たな治療の可能性につながることが期待される.文献1)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Morphologicanalysisinpathologicmyopiausinghigh-penetrationopticalcoher-encetomography.InvestOphthalmolVisSci15:15,20122)Ohno-MatsuiK,AkibaM,ModegiTetal:Associationbetweenshapeofscleraandmyopicretinochoroidallesionsinpatientswithpathologicmyopia.InvestOphthal-molVisSci9:9,20123)MoriyamaM,Ohno-MatsuiKModegiTetal:Quantita-tiveanalysesofhigh-resolution3DMRimagesofhighlymyopiceyestodeterminetheirshapes.InvestOphthalmolVisSci53:4510-4518,20124)Ohno-MatsuiK,AkibaM,IshibashiTetal:Observationsofvascularstructureswithinandposteriortoscleraineyeswithpathologicmyopiabyswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53: