‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

最新の硝子体手術環境

2015年2月28日 土曜日

特集●最先端の硝子体手術あたらしい眼科32(2):175.179,2015特集●最先端の硝子体手術あたらしい眼科32(2):175.179,2015最新の硝子体手術環境CurrentEnvironmentinVitreousSurgery井上真*I硝子体手術の歴史1970年代にMachemerは硝子体手術の概念を初めて報告した.その後20ゲージ(G)硝子体手術には改良が重ねられ完成された術式のようになっていた.2002年にFujiiらは25G硝子体手術を報告し,小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)は幕開けした1).その後に25G手術器具の脆弱性を改善するために23G手術が開発された2).23Gは器具の剛性は20G器具と同様であったが,経結膜無縫合とするには創口をかなり接線方向に作製しても創口の閉鎖に問題があった.その後,25G手術は硝子体の切除効率が改善され,器具の剛性も改良された.同時期に広角観察システム,キセノン照明,シャンデリア照明などが普及したため,眼球を回旋させずに手術が遂行できるようになった.器具の改良により剛性が20G器具ほどでなくても難治症例に対しても25G手術で対処可能になっている.さらに27G硝子体手術器具が発売され3),小切開硝子体手術はさらに進化している(図1,2).II高速硝子体カッター20G手術の時代は1,500cpm(cutperminute).2,500cpmが最速の硝子体カッターであった.多く用いられていた空気駆動式硝子体カッターは圧縮空気の圧力で内筒を閉じさせて硝子体カッターの開口部を閉じさせる.圧縮空気の圧が下がるとカッター内に内蔵したバネの力で内筒を戻して開口部を開かせる.これを繰り返して硝子体切除を行っている.バネの力で開口部を閉じさせる時間は一定であるため,カットレートを増加させて高速カットにすると硝子体カッターの開口部が開いている時間が短くなり,硝子体切除効率が低下する.硝子体カッターの開口部が開閉する割合はdutycycleと呼ばれるが,バネ式の硝子体カッターではカットレートを上げるとdutycycleが低下することが知られていた.その欠点を改善するため,アルコン社のコンステレーションでは硝子体カッターに内蔵バネの代わりに内筒の戻りの動きも圧縮空気圧でコントロールするダブル空気駆動式カッターが導入された.このときに5,000cpmの硝子体カッターが登場した.最近では,ダブル空気駆動式カッターは7,500cpmに改良されている.また従来のバネ式の硝子体カッターも改良されてあらたな機器の付加により6,000.8,000cpmが可能となり高速硝子体カッター時代となっている.DORC社のUltraspeedtransformer(図3)は,アキュラスの空気駆動圧を検出して独自にバネ式のカッターを駆動し,6,000cpmまでの高速カットが可能である.Midlab社のビトエンハンサー(図4)は同様にアキュラスの駆動圧を感知して,バネ式のカッターのカットレートを1倍,2倍,4倍と増幅し最大8,000cpmまで増幅できる.III27ゲージ硝子体手術27G手術の切除効率は現行のモデルではかなり改良*MakotoInoue:杏林大学アイセンター〔別刷請求先〕井上真:〒180-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学アイセンター0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(3)175 図1DORC社の27ゲージトロカール,硝子体カッター,鉗子漏出防止のクロージャーバルブが標準装備されている.図2アルコン社の27ゲージ硝子体カッター,ライトガイド,トロカールクロージャーバルブが装備され,剛性を増加させるように器具の接続部分が太く補強されている.図4アキュラスに接続したビトエンハンサーアキュラスの空気駆動圧を利用して,カットレートを1倍,2倍,4倍に増幅でき,最大8,000cpmまでの高速切除が可能である.20G,23G,25Gの硝子体カッターが接続可能で近日中に27Gの硝子体カッターの発売も予定されている.図3アキュラスに接続したUltraspeedtransformerアキュラスの空気駆動圧を利用して6,000cpmまでの高速切除が可能である.20G,23G,25G,27Gの硝子体カッターが接続可能である. あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015177(5)ステムとシャンデリア照明などの広角照明の普及である.広角観察システムは角膜混濁や角膜外傷の症例での視認性がよく,多焦点眼内レンズ挿入眼であっても眼底視認性が影響されない特徴をもち,とくに空気灌流下での視認性が良い4).広角観察システムは接触型と非接触型があり,角膜近くに位置するフロントレンズと顕微鏡の対物レンズ近傍にあるリダクションレンズ,倒像を翻転させるインバーターから構成される.接触型はフロントレンズを角膜にのせるため,光学的なロスが少なく,非接触型より視認性が良い(図7).眼球を回旋させての手術ができないが,回旋させなくても十分な広角視野が得られる.フロントレンズが位置ずれを起こさないように水平に保って手術を行わなくてはならないため,良好な視認性を継続して得るためにはランニングカーブが必図527ゲージカッターを用いた増殖糖尿病網膜症症例の術中画像27ゲージカッターでは容易に増殖膜の下にカッターを挿入でき,カッターのみでの増殖膜処理がしやすい.TDCカッター通常カッターCut1Cut1Cut2NoCut図6TwinDutyCycle(TDC)カッターと通常カッターの比較通常の硝子体カッターは内筒の往復で1回硝子体を切除するが,TDCカッターでは内筒にも開口部があり1回の往復で2回の切除を行う(下段は拡大写真).AB図7接触型の広角観察レンズA:Volk社のMiniQuadXLレンズ.B:HOYA社のパノラビューレンズ.視認性は非接触型に勝るが,レンズを水平に保つことが必要で操作には慣れが必要である.図527ゲージカッターを用いた増殖糖尿病網膜症症例の術中画像27ゲージカッターでは容易に増殖膜の下にカッターを挿入でき,カッターのみでの増殖膜処理がしやすい.図6TwinDutyCycle(TDC)カッターと通常カッターの比較通常の硝子体カッターは内筒の往復で1回硝子体を切除するが,TDCカッターでは内筒にも開口部があり1回の往復Aで2回の切除を行う(下段は拡大写真).ステムとシャンデリア照明などの広角照明の普及である.広角観察システムは角膜混濁や角膜外傷の症例での視認性がよく,多焦点眼内レンズ挿入眼であっても眼底視認性が影響されない特徴をもち,とくに空気灌流下での視認性が良い4).広角観察システムは接触型と非接触型があり,角膜近くに位置するフロントレンズと顕微鏡の対物レンズ近傍にあるリダクションレンズ,倒像を翻転させるインバーターから構成される.接触型はフロンBトレンズを角膜にのせるため,光学的なロスが少なく,図7接触型の広角観察レンズ非接触型より視認性が良い(図7).眼球を回旋させてのA:Volk社のMiniQuadXLレンズ.B:HOYA社のパノ手術ができないが,回旋させなくても十分な広角視野がラビューレンズ.視認性は非接触型に勝るが,レンズを水得られる.フロントレンズが位置ずれを起こさないよう平に保つことが必要で操作には慣れが必要である.に水平に保って手術を行わなくてはならないため,良好な視認性を継続して得るためにはランニングカーブが必TDCカッター通常カッターCut1Cut1Cut2NoCut(5)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015177 178あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(6)る多くの眼内照明は広角に変更されているが,双手法が必要な症例にはシャンデリア照明を設置する.シャンデリア照明が設置されていれば周辺部操作が行いやすいため,基本術式としてすべての症例で設置している術者もいる.V硝子体手術装置のポータブル化近年の硝子体手術装置はさまざまな機能が搭載されて巨大化している.しかし,一部の難治症例を除いてほとんどの症例ではこのような機能を必要としない.そこで必要最小限の機能のみを搭載して持ち運びもできる装置が開発された(図9).VersaVIT2.0TMVitrectomySystemが内蔵している機能は硝子体手術の基本機能であるバネ式硝子体カッターの駆動装置,眼内照明,空気灌流装置である.実際にこの装置でシリコーンオイル自動注入などを使用しないほとんどの症例の手術が可能である.別途に光凝固装置と手術顕微鏡が必要ではあるが,硝子体手術を専門にしていない施設で手術が必要になった際や,既存の硝子体手術装置のバックアップとして活用が期待できる.要である.片方のポートにシャンデリア照明を設置すれば,片手でフロントレンズを固定してもう片手で手術することも可能である.非接触型はフロントレンズが角膜上にあり角膜と接触していないため,ある程度眼球を回旋させての手術が可能となる(図8).Topcon社のOFFISSはもともと眼内照明を使用せず顕微鏡の照明で硝子体手術ができる手術装置として開発されたが,フロントレンズを広角用に変更することで広角観察システムとして使用できる.一番の特徴はフロントレンズが手術顕微鏡本体に固定されていることで,鏡筒を上下させることで画角が,顕微鏡本体でズーム,フォーカスが調整できる点である.Zeiss社のResightはリダクションレンズを上下してフォーカスが調整できる.また,通常フォーカスから広角システムにする際に鏡筒を持ち上げなくてもよくなり操作性が向上したことが特徴である.非接触型では角膜が乾燥したりすると視認性が低下してしまう.手術を開始する前に粘弾性物質で角膜をコーティングすることが必要である.近年この角膜の乾燥を予防するため,角膜表面に乾燥予防のコンタクトレンズを使用する試みもなされている5,6).観察野が広くなってもそれを照明する装置がなければあまり意味がない.広角照明やシャンデリア照明は最近の硝子体手術ではなくてはならない.現在使用されていAB図8非接触型の広角観察システムA:TOPCON社のOFFISS.B:Zeiss社のResight.視認性が角膜の状態に左右されやすいが,使いやすくラーニングカーブが短いことが特徴である.図9シナジェティック社のVersaVIT2.0TMVitrectomySystemポータブルながら6,000cpmが可能である.硝子体手術の基本手技が可能である.20G,23G,25G,27Gの硝子体カッターが接続可能である.AB図8非接触型の広角観察システムA:TOPCON社のOFFISS.B:Zeiss社のResight.視認性が角膜の状態に左右されやすいが,使いやすくラーニングカーブが短いことが特徴である.図9シナジェティック社のVersaVIT2.0TMVitrectomySystemポータブルながら6,000cpmが可能である.硝子体手術の基本手技が可能である.20G,23G,25G,27Gの硝子体カッターが接続可能である.

序説:最先端の硝子体手術

2015年2月28日 土曜日

●序説あたらしい眼科32(2):173.174,2015●序説あたらしい眼科32(2):173.174,2015最先端の硝子体手術Cutting-EdgeTechnologyinCurrentVitrectomy江内田寛*石橋達朗**現在,日本で行われている硝子体手術は大部分が侵襲の少ない極小切開硝子体手術で行われるようになり,それに伴い手術器機などのハードの進歩に加え,観察系などの周辺環境も急速に整備されてきた.最近は27ゲージシステムなども投入され,より低侵襲化へ向かい,手術システム面でもさらなる進化を遂げている.本特集では先ずイントロダクションとして,井上真先生に最新の硝子体手術環境に関し,最新の手術システムや観察系なども含め,紹介と解説をしていただいた.硝子体手術の手術技術に関しても,爆発的な進化を遂げた時代を経て,現在は円熟期を迎えてきた感がある.そのような状況のなかで,これまで治療が困難と考えられたいくつかの疾患に対して,新たな外科的アプローチが試みられるようになった.たとえば円孔径が大きく,これまで閉鎖が困難と考えられていた陳旧性の黄斑円孔症例や,強度近視に伴う黄斑円孔網膜.離の治療には,内境界膜翻転法が発表されて以来,わが国でも積極的に導入が進み良好な治療成績が報告されている.本特集では黄斑円孔網膜.離に対する内境界膜翻転法の詳細を,その手術手技やポイントを中心に奥田徹彦先生,東出朋巳先生,生野恭司先生に解説をいただいた.また,日本発の内境界膜関連の新しい術式として,すでに内境界膜.離を行った黄斑円孔の再手術例に対する内境界膜の自家移植に関しての詳細な解説を,術式の開発者である森實祐貴先生と白神史雄先生にお願いした.さらに従来の治療に抵抗性の遷延した高度な黄斑浮腫を伴う網膜中心静脈閉塞症に対しての新しい術式として,自身で開発したマイクロカニューラを用いた網膜血管内治療について症例を積み重ねておられる門之園一明先生に手技や治療成績の詳細を含めた有効性に関して解説をいただいた.また,最近では医療を取り巻く環境が大きく変わり,これまでとは視点の異なった新しい医療技術も次々に開発されてきている.ここ数年,政府も医療を成長産業と位置づけ,日本再生プログラムによりGCPを改正することで,治験の迅速な実施と欧米諸国とのドラッグラグの解消を目指すと同時に,平成25年6月には日本再興戦略と称し,再生医療や遺伝子治療に加え優れた日本の医療器機技術を国際的に展開する目的で従来の薬事法を大幅に改正した.また,平成26年6月には健康医療戦略推進法が策定され,いよいよ本年日本版NIHである日本医療研究開発機構が創設される.このような激動の時期に,かねてより綿密な準備の進められてきた遺伝子治療と再生医療が眼科領域でも進行している.これらの技術の共通点はいずれも国産の技術を基盤*HiroshiEnaida:佐賀大学大学院医学系研究科眼科学**TatsuroIshibashi:九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(1)173 174あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(2)にするものであり,同時に硝子体手術によって直接の治療が行われる.また,これらは十分な非臨床試験の結果や医療材料の品質試験を含めた準備状況を厚生労働省により厳しく評価されたうえに行われる薬事法やGCPに準拠した厳格な臨床試験の形態をとっている.本特集では実際に行われている国産のサル免疫不全ウイルスベクターを用いた網膜色素変性の遺伝子治療の臨床試験に関する概要について,これまでの動向をふまえ池田康博先生に解説していただいた.また,眼科領域を含め現在の医学領域で最も世界が注目する話題となっている加齢黄斑変性に対するiPS細胞を用いた再生医療である網膜色素上皮細胞移植に関し,世界初の術者兼臨床試験推進の責任者の一人である視点で,栗本康夫先生にこれまでの背景と治療の実際に加え,今後の展望を含め詳細に解説をいただいた.このように日本では最先端の硝子体手術が広く行われていることに加え,日本発の新しい医療技術の世界へ向けた発信も眼科領域からは積極的に行われており,今回の特集ではそれぞれの技術の開発者や第1人者にこれら最先端の新しい技術の解説をいただくと同時に,今後の硝子体手術の展望についても議論いただいた.

携帯電話・スマートフォン使用時および書籍読書時における視距離の比較検討

2015年1月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(1):163.166,2015c携帯電話・スマートフォン使用時および書籍読書時における視距離の比較検討野原尚美*1松井康樹*2説田雅典*3野原貴裕*3原直人*4*1平成医療短期大学視機能療法専攻*2平成医療専門学院*3大垣市民病院眼科*4国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科ComparativeStudyofVisualDistanceswhileUsingMobilePhones/SmartphonesandReadingBooksNaomiNohara1),KoukiMatui2),MasanoriSetta3),TakahiroNohara3)andNaotoHara4)1)DivisionOrthptics,HeiseiCollegeofHealthSciences,2)HeiseiCollegeofMedicalTechnology,3)4)DepartmentofOrthopticsandVisualSciences,InternationalUniversityofHealthandWelfareOgakiMunicipalHospital,携帯電話ならびにスマートフォン使用時と,書籍読書時の視距離を比較した.学生67名を対象として,常用している眼鏡やコンタクトレンズ装用下で,1)携帯電話とスマートフォンによるメール作成時と書籍読書時の視距離,2)スマートフォンでゲーム操作時,ウェブサイトを見ているとき,歩行しながらのメール作成中の視距離を測定した.視距離は,角膜頂点から画面までとし実際にメジャーで測定した.読書時の平均視距離は33.7±5.7cm,スマートフォンによるメール作成時は27.7±4.8cm,携帯電話でのメール作成時は27.8±5.0cmであり,書籍を読む場合に比べ有意に近かった(p<0.001).歩行でのメール作成時は26.5±5.0cm,文字が小さいウェブサイトを見ているときは19.3±5.0cmであった.Informationandcommunicationtechnology(ICT)環境下では,日常的に30cm以下で画像を長時間見続けることから,近見反応への負荷がかかる.Wecomparedvisualdistancesinusingmobilephonesorsmartphonesandreadingbooks.Subjectswere67students,whosevisualdistancesweremeasuredwhile1)composinganemailonamobilephoneandsmartphone,andwhilereadingabook,and2)playingagameonasmartphone,lookingatawebsite,andcomposinganemailwhilewalking,wearingtheiraccustomedcorrectivelenses.Visualdistancesweremeasuredfromthecornealapextothescreenorpage.Meandistanceswere33.7±5.7cmwhenreadingabook,27.7±4.8cmwhencomposinganemailonasmartphone,and27.8±5.0cmwhencomposinganemailonamobilephone,significantlyshorterthanwhenreadingabook(p<0.001).Meandistanceswere26.5±5.0cmwhencomposinganemailwhilewalking,and19.3±5.0cmwhenlookingatawebsitewithsmallfontsize.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):163.166,2015〕Keywords:ICT,デジタルディバイス,近視,近見反応,調節.ICT,digitaldevices,myopia,nearresponse,accommodation.はじめに近年,携帯電話やスマートフォンなど小型デジタル機器による,メールやゲーム,ウェブサイトを見るなど画面を見ている時間が延びていることが報告されている1).デジタル映像の場合,米国では,新聞や本・雑誌の印字を読む場合の平均視距離は約40.6cm,スマートフォンでメールを送受信した場合の平均視距離は35.6cmで,ウェブページを見るときの平均視距離は32cmであった2).このように,デジタルディバイスを使用した場合,視距離が近くなることで,近視進行のメカニズムの一つである調節負荷となることが考えられる.また,近見視力は30cmで検査をしているが,それよりもっと近づくとなると,多焦点眼鏡,コンタクトレンズ,眼内レンズの設計や処方法などにおいても影響を与えると考えられる.そこで今回筆者らは,日本人若年者の携帯電〔別刷請求先〕野原尚美:〒501-1131岐阜市黒野180平成医療短期大学Reprintrequests:NaomiNohara,HeiseiCollegeofHealthSciences,180Kurono,Gifu501-1131,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(163)163 話ならびにスマートフォン使用時の視距離を測定し,紙書籍を読んでいるときの視距離と比較したので報告する.I対象および方法平成医療専門学院視能訓練学科に在籍している67名(男性14名,女性53名)の学生で,年齢は19.31歳(平均年齢20.2歳)であった.屈折異常は,等価球面値にて+5.00Dから.2.50D,矯正視力は遠見・近見ともに1.0以上で,両眼視機能は,Titmusstereotestにてすべて60sec以上を認めている屈折異常以外の器質的眼疾患を認めない者であった.視距離は常用の眼鏡やコンタクトレンズを装用し自然な状態で角膜頂点から画面までをメジャーで測定した.今回は測定眼を決めるような精度を高めての距離測定ではなく,あくまで自然体のなかでの距離測定である.視距離測定の条件は以下のごとくとした.1.紙書籍と携帯電話ならびにスマートフォンでメール作成時の視距離条件①:通常の紙書籍(B5サイズの教科書)を読む(以下,書籍)条件②:携帯電話(画角1.7.2.1インチ)でメール作成条件③:スマートフォン(画角3.2.4.5インチ)でメールを作成2.スマートフォンでウェブサイト・ゲーム・歩行しながら操作時の視距離条件④:ウェブサイトを通常の文字サイズで読む(以下,スマートフォン通常文字)条件⑤:ウェブサイトを好みの文字サイズに拡大して読む(以下,スマートフォン拡大文字)条件⑥:好みのゲームを行う(以下,スマートフォンゲーム)条件⑦:歩きながらメール作成(以下,スマートフォン・歩き・メール)すべての条件における視距離は,日にちを変えて2回測定し,2回の平均値をもって視距離とした.統計学的検討は,対応のあるt検定・Spearman順位相関係数を用いた.さらに,瞳孔間距離をメジャーで測定し,条件①から条件⑦の視距離の輻湊角を求めた.輻湊角の求め方3)は,まず両眼の回旋点を結んだ直線から固視点までの距離を①式によって求めた.両眼の回旋点を結んだ直線から固視点までの距離をbcm,角膜頂点から画面までの視距離をLcm,瞳孔間距離をacm,角膜頂点と回旋点との距離を一般的な1.3cmとする.①式b=(L+1.3)2.a42両眼の回旋点を結んだ直線から固視点までの距離を求めた後,②式より輻湊角を求めた.②式輻湊角.(prismdiopter,以下Δ)=ba×100II結果表1に条件①.⑦における67名の視距離の平均値と標準偏差(cm),文字サイズ(mm・相当するポイント数),視距離での視角(分),輻湊角(Δ)を表す.1.携帯電話ならびにスマートフォン使用時と書籍の比較図1に条件①.⑦における67名の視距離の平均値と標準偏差を示す.左の縦軸は視距離(cm)を,右の縦軸にはその視距離での調節負荷量(D)を示す.携帯電話(条件②)ならびにスマートフォン使用時(条件③.⑦)の視距離は,書籍(条件①)を読んでいるときの視距離に比べ有意に近かった(p<0.001).特にスマートフォン通常文字(条件④)の視距離は19.3±5.0cmで,スマートフォンのウェブサイトを小さい文字のまま読んでいるときが最も近かった.2.スマートフォン通常文字・拡大文字および書籍との比較スマートフォン通常文字(条件④)の視距離が,書籍よりも10cm以上近かった者は71%であった.スマートフォン拡大文字(条件⑤)にしても37%の者は,書籍よりも10cm以上近いままであった(図2).III考按1)今回の結果は,米国に比べ書籍もスマートフォンもすべて7cmほど視距離が近くなった2).この米国との視距離表1作業別における視距離・文字サイズ・視角・輻湊角①書籍②携帯電話メール③スマホメール④スマホ通常文字⑤スマホ拡大文字⑥スマホゲーム⑦スマホ歩き・メール視距離±SD(cm)33.7±5.727.8±5.027.7±4.819.3±5.025.2±5.426.2±5.726.5±5.0文字サイズ(mm)(相当するポイント数)3(8)2.3(5.67.8)2.3(5.67.8)1.2(2.83.5.67)3.5(8.14)─2.3(5.67.8)視距離での視角(分)(文字サイズ/視距離)3025.3725.3718.3641.68─26.39輻湊角(Δ)18.0±3.021.0±4.022.0±4.031.0±7.023.0±5.023.0±5.022.0±4.0スマホ:スマートフォン.164あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(164) 3%4240-2.5383634-3.03230-3.52826-4.02422-5.02018-6.0161412-8.010*******調節(D)16%55%29%34%63%スマートフォン通常文字スマートフォン拡大文字視距離(cm)Vs.書籍Vs.書籍①②③④⑤⑥⑦図1書籍と携帯電話・スマートフォン使用時の作業別視距離①:書籍,②:携帯電話メール,③:スマートフォンメール④:スマートフォン通常文字,⑤:スマートフォン拡大文字⑥:スマートフォンゲーム,⑦:スマートフォン歩き・メール(*p<0.01).の差については,英文と日本語文の違いであると考えられた.英文は26文字のアルファベットのみで,その小文字の高さは大文字の高さの45.50%しかない文字もあり,行間が確保され読みやすい.一方,日本語はひらがな,カタカナ,漢字の3種類が混ざり,それぞれの文字の高さが揃っているために行間が詰まって読みづらくなり,視距離が近づいたと考えられた.2)携帯電話やスマートフォンを使用しているときの視距離が,従来の書籍を読んでいるときの視距離より有意に近かったことについては,山田4)はvisualdisplayterminals(VDT)作業において視距離に影響を与える因子としてcathode-ray-tube(CRT)サイズによりほぼ決められる文字の大きさと照明環境,作業者の視力を挙げている.小さな文字は,視距離を近くすることによる拡大効果から,携帯デジタル機器の小画面を近づけるのではないかと考えた.ただ今回は書籍の文字の視角が30′でスマートフォンの拡大文字の視角が41.68′と大きいにもかかわらず,スマートフォン使用時の視距離のほうが書籍よりも近かったことから,文字サイズだけでなく携帯デジタル機器と書籍の“画面の大きさ”の違いも関与していることが考えられた.今回用いた書籍はサイズが大きいため,大きな物は近方にあると感じる近接感により書籍は遠ざけ,小さな物は遠方にあると感じて保持している携帯を近づけるといった心理的な奥行き手がかりの作用5,6)も加わっているものと考える.また,大きい書籍は近づけると網膜の広範囲に投影されるため周辺視野まで眼球を大きく動かして読まなければならない.書籍とケータイ小説の眼球運動の違いは,書籍を読んでいる間はサッケードで行うのに対し,ケータイ小説では改行時にサッケードとスクロールを併用しており,文字サイズが小さくなるほどサッケー(165)差が10cm未満差が10cm以上20cm未満差が20cm以上図2スマートフォン通常文字・拡大文字と書籍の視距離の差の度数割合ド頻度が増えると報告している7).3)携帯デジタル機器を使用しているときの視距離が近いうえに,画面を見ている時間が延びていることから,現在はより近見反応を酷使しているといえる.近見反応は,1)調節-輻湊にクロスリンクがあり,お互いに影響されること,2)順応が強いシステムであるので,斜視特に内斜視などが将来的に多くなる可能性がある8.10).また,輻湊角を測定した結果,書籍を読んでいるときの輻湊角の平均は18Δで,ウェブサイトを通常文字で読んでいるときの輻湊角の平均は31Δであった.この平均値に一番近かった被検者を例に取り上げると,この被検者は瞳孔間距離が58mmである.書籍の視距離は30.6cmであり,方法で挙げた①式より両眼の回旋点を結んだ直線距離は31.7cmで,②式より輻湊角は18Δである.今回は測定していないが,この被検者のAC/A比(調節性輻湊対調節比)を下限2Δ/D(正常値4±2Δ/D)と仮定すると書籍を読む場合は6Δを調節性輻湊で補い,さらに近接性輻湊が下限1.5Δ/D(正常値ほぼ1.5.2.0Δ/D)3)と仮定すると約4Δが近接性輻湊で補われ,残り8Δを融像性輻湊で補えば良い.しかし,ウェブサイトを通常文字で読む場合,この被検者の視距離は16.2cmであった.同様に①式より両眼の回旋点を結んだ直線距離は17cmで,②式より輻湊角は34Δであった.この場合AC/A比を下限2Δ/Dと仮定すると12Δを調節性輻湊で補い,さらに近接性輻湊が下限1.5Δ/Dと仮定すると約9Δが近接性輻湊で補われ,残り13Δを融像性輻湊で補わねばならない.もし,低AC/A比であったり,基礎眼位ずれに外斜位が存在すればさらに輻湊が必要となり,その状態でウェブサイトを長時間至近距離で読めば疲労により近見外斜視になるといったことも起こるのではないかと考えられた.今後はスマートフォンの普及に伴い,携帯電話からスマートフォンに切り替える人が多くなると予想されている11).通常の使用方法としては,携帯デジタル機器は書籍に比べ視距あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015165 離が非常に近くなるため,文字を拡大して,視距離を保つことを啓発することが必要である.特に20歳代を中心に若者の使用が多く,また今後は教育現場へのデジタルIT化など,長時間見続けていることもあわせれば,今まで以上に若年者の近視化,眼精疲労を訴えるIT眼症などの眼科的問題も多くなり,今後は眼科での近見反応検査も念頭に置きながら,場合によっては30cmより近い近距離検査も行っていく必要があると思われた.文献1)総務省情報通信政策研究所:高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査.報告書:7-15,平成26年7月2)BababekovaY,RosenfieldM,HueJEetal:Fontsizeandviewingdistanceofhandheldsmartphones.OptomVisSci88:795-797,20113)内海隆:輻湊・開散と調節,AC/A比.視能矯正学(丸尾敏夫ほか編),改訂第2版,p177-189,金原出版,19984)山田覚,師岡孝次:VDT作業における視距離の評価.東海大学紀要工学部26:209-216,19865)稲葉小由紀:感覚・知覚のしくみ.自分でできる心理学(宮沢秀次ほか編),p9-18,ナカニシヤ出版,20116)林部敬吉:奥行き知覚研究の動向.静岡大学教養部研究報告第III部16(1-2):57-76,19777)山田和平,萩原秀樹,恵良悠一ほか:ケータイ小説黙読時の眼球運動特性の解析.東海大学紀要情報通信学部3:19-24,20108)MilesFA:Adaptiveregulationinthevergenceandaccommodationcontrolsystems.In:AdaptiveMechanismsinGazeControl,BerthozAandMelvillJonesG(eds),Elsevier,Amsterdam,19859)高木峰男,戸田春男:眼位.視覚と眼球運動のすべて(若倉雅登ほか編),p121-155,メジカルビュー,2007年改変10)筑田昌一,村井保一:立体映画を見て顕性になった内斜視の一症例.日本視能訓練士協会誌16:69-72,198811)総務省:「スマートフォン・エコノミー」.スマートフォン等の普及がもたらすITC産業構造・利用者行動の変化..情報通信白書:116-221,平成24年版***166あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(166)

CGT-2000を用いたコントラスト感度測定の再現性

2015年1月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(1):159.162,2015cCGT-2000を用いたコントラスト感度測定の再現性金澤正継*1,2魚里博*1,3,4川守田拓志*1,3浅川賢*1,3中山奈々美*5*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2専門学校日本医科学大学校視能訓練士科*3北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻*4新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科*5東北文化学園大学医療福祉学部視覚機能学専攻ReliabilityofContrastGlareTesterCGT-2000MeasurementMasatsuguKanazawa1,2),HiroshiUozato1,3,4),TakushiKawamorita1,3),KenAsakawa1,3)andNanamiNakayama5)1)DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOrthoptics,NihonIkagakuCollege,3)DepartmentofOrthopticsandVisualSciences,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthSciences,4)DepartmentofOrthopticsandVisualSciences,NiigataUniversityofHealthandWelfare,5)DepartmentofRehabilitation,TohokuBunkaGakuenUniversityFacultyofMedicalScienceandWelfare健常被験者22名を対象に,コントラストグレアテスターCGT-2000(タカギセイコー)を用いてコントラスト感度を測定した.背景輝度は明所および薄暮の2条件とし,明所では100,000cd/m2,薄暮では40,000cd/m2のグレアを負荷した.測定は完全屈折矯正下,自然瞳孔のまま両眼開放にて行った.再現性の解析は,Bland-Altman解析から得られた2回測定の95%一致限界(95%limitsofagreement:LoA)により評価した.その結果,LoAは低空間周波数と高空間周波数との間に差を認めたが,良好な再現性を示した.ThepurposeofthisstudywastoevaluatethereliabilityofmeasurementwiththecontrastglaretesterCGT2000(TAKAGISEIKO,Co.,Ltd.Nagano,Japan).Thesubjectswere22healthyvolunteers.Contrastsensitivity(CS)wasmeasuredunderphotopicvisionandmesopicvision,withorwithoutglare.Glareintensitywas100,000cd/m2inphotopicvisionand40,000cd/m2inmesopicvision.BinocularCSwasmeasuredwithspectaclecorrectioninnon-cycloplegiceyeswithnaturalpupils.Thestatisticalanalysisconsistedof95%limitsofagreement(LoA),usingtheBland-Altmanmethod.CGT-2000measurementwasquitereliable,butthereweredifferencesinLoAbetweenlowspatialfrequencyandhighspatialfrequency.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):159.162,2015〕Keywords:コントラスト感度,再現性,Bland-Altman解析.contrastsensitivity,repeatability,Bland-Altmanmethods.はじめにコントラスト感度およびグレアテストは,視力に比べてより広い範囲の形態覚を定量的に測定することにより,qualityofvision(QOV)や散乱光が生じやすい視機能の変化を評価するための指標となっている1,2).その一方で,外部視標を用いた場合,印刷面の劣化や環境照度の影響を受けやすく3),多施設でのデータ収集時には測定環境が統一しきれないという制限があった.特にグレア下におけるコントラスト感度の測定機器は外部視標に代表されるため,再現性についての問題が指摘されていた4).近年,内部視標を用いたグレアテストが可能なコントラストグレアテスターCGT-2000が登場した.そこで,本研究ではCGT-2000の再現性について検討を行ったので報告する.I対象および方法1.対象対象は屈折異常以外に眼疾患のない年齢18.32歳(24.4±4.2歳,平均±標準偏差,以下,同様)の男性11名,女性11名,計22名とした.自覚的屈折度数(等価球面値)は.2.20±2.43Dであった.被験者は片眼の小数視力が左右眼それぞれ1.0以上を有する者を対象とした.また,被験者にはヘルシンキ宣言の理念を踏まえ,事前に実験の目的を説明し,本人から自由意思による同意を得たうえで行った.〔別刷請求先〕魚里博:〒950-3198新潟市北区島見町1398番地新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科Reprintrequests:HiroshiUozato,DepartmentofOrthopticsandVisualSciences,NiigataUniversityofHealthandWelfare,1398Shimami-chou,Kita-ku,Niigata-shi,950-3198,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(159)159 表1グレアなしの条件におけるBland-Altman解析の結果明所グレアなし薄暮グレアなし空間周波数(cpd)平均2標準偏差(LoA)平均2標準偏差(LoA)1.10.007±0.06(.0.06.0.07)0.007±0.06(.0.05.0.07)1.8.0.007±0.06(.0.07.0.06)0.020±0.14(.0.12.0.16)2.9.0.007±0.06(.0.07.0.06)0.030±0.18(.0.15.0.21)4.50.014±0.25(.0.24.0.26)0.000±0.36(.0.36.0.36)7.10.002±0.36(.0.36.0.36).0.042±0.45(.0.49.0.41)10.2.0.026±0.38(.0.40.0.35).0.022±0.46(.0.48.0.44)表2グレアありの条件におけるBland-Altman解析の結果明所グレアあり薄暮グレアあり空間周波数(cpd)平均2標準偏差(LoA)平均2標準偏差(LoA)1.10.000±0.00(0.00)0.000±0.00(0.00)1.80.000±0.00(0.00)0.007±0.14(.0.13.0.15)2.90.000±0.00(0.00)0.020±0.34(.0.32.0.36)4.50.034±0.23(.0.20.0.27)0.021±0.43(.0.41.0.45)7.1.0.003±0.47(.0.47.0.46)0.037±0.34(.0.30.0.37)10.2.0.034±0.44(.0.47.0.40)0.031±0.29(.0.26.0.32)2.方法測定機器には,タカギセイコー社製コントラストグレアテスターCGT-2000(図1A,以下,CGT-2000)を用いた.CGT-2000はBadal光学系で設計されており,視標は内蔵されている二重輪視標を用いる(図1B).視標サイズは6.3,4.0,2.5,1.6,1.0および0.6°の6種類からなり,空間周波数に換算するとそれぞれ1.1,1.8,2.9,4.5,7.1および10.2cycles/degree(以下,cpd)に相当する.条件は光学的距離5m,呈示時間0.8秒に設定し,背景輝度は明所(100cd/m2)および薄暮(10cd/m2)の2条件とした.また,2条件ともグレア光(高輝度白色LED)を照射した測定も行い,グレア光の強さは明所で100,000cd/m2,薄暮で40,000cd/m2とした5).薄暮の条件では,測定前に15分間の暗順応を行った.測定は被験者の応答に従って自動的に進められ,被験AB図1コントラストグレアテスターCGT-2000(A)と二重輪視標(B)者には二重輪が見えた段階でボタンを押すように指示した6).測定条件は,被験者に遠方完全屈折矯正レンズを装用させ,自然瞳孔のまま両眼開放にて,同一検者による2回のコントラスト感度測定を行った.2回の測定は,15分以上の時間を空けた.統計学的解析には,Bland-Altman解析7)から得られた2回測定の95%一致限界(95%limitsofagreement:LoA)8)により,CGT-2000の再現性を評価した.LoAは,2回の測定値の差の平均をd,2回の測定値の差の標準偏差をSDd,95%信頼区間のz値である1.96とした場合,「LoA=d±1.96×SDd」の式を用いて算出した8,9).II結果1回目と2回目の測定値を比較した結果,両者に差は認められなかった(対応のあるt検定,p>0.05).一方,Bland-Altman解析の結果,明所グレアなしのLoAは,1.1.2.9cpdが±0.06と一定であり,4.5.10.2cpdは,それぞれ±0.25,±0.36,±0.38へと増加した(表1).薄暮グレアなしでは,空間周波数が高くなるに従い,±0.06,±0.14,±0.18,±0.36,±0.45,±0.46と増加した.また,明所グレアありのLoAは,1.1.2.9cpdが±0.00と一定であり,4.5cpdが±0.23,7.1cpdと10.2cpdが±0.47および±0.44であった(表2).薄暮グレアありでは,1.1.10.2cpdまでそれぞれ±0.00,±0.14,±0.34,±0.43,±0.34,±0.29であり,中空間周波数においてLoAが大きくなる傾向にあった.各160あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(160) 条件における結果を図2に示す.III考按今回,健常若年者を対象に,CGT-2000の再現性をBland-Altman解析から得られた95%一致限界により評価した.まず,Bland-Altman解析から得られた2回測定の差の平均は±0.05logCS以内であった.この値が正あるいは負の値のどちらかに偏った場合,測定機器の設計および構造による影響や,測定時における練習効果や疲労の影響によるものとされる.今回,CGT-2000の測定が1段階を0.15logCS単位で行うことを考慮すると,上記の影響は無視できる範囲内と考えられた.つぎに,本検討で得られた2標準偏差(LoA)は最小で±0.00,最大で±0.46であった.先行研究では測定機器が異なるものの,Hongら9)が±0.16.±0.23,Pesudovsら11)が±0.22.±0.45,Kellyら4)が±0.39.±0.58,Reevesら10)が±0.59.±0.83と報告しており,CGT-2000のばらつきは小さく,再現性は良好であることが示唆された.ただし,高空間周波数になるに従いLoAは広がる傾向にあり9),logCS単位で2.3段階に相当した.そのため,高空間周波数のばらつきが大きいことに留意する必要がある.個別で比較すると,グレアなしの条件ではおおむね2段階のばらつきにおさまり,既報12)のとおり,グレアありの条件と比して再現性は良好となった.その原因については,レンズの反射率が視力に影響すると指摘されており13),再現性が低下した原因として眼鏡レンズの反射によるものと推察された.すなわち,屈折矯正のために使用した眼鏡によりグレア光の反射が変化し,結果として再現性が低下したと考えられる.ただし,明所グレアありの条件では,低空間周波数において22名の測定値が完全に一致し,高い再現性を得た.これは,測定条件および屈折矯正により被験者の視機能を統一できた結果と解釈することができる.また,明所と比して薄暮での測定では,若干ながら再現性が低下した.この傾向はHohbergerらの研究14)を支持する結果であり,暗順応の影響が考えられた.すなわち,事前に15分間の暗順応を行う条件は統一したが,実際に順応状態を測定しておらず,順応時間には個人差が認められる15)ため,両条件におけるLoAに差が生じた可能性がある.最後に,本検討で得られた測定値はBand-Pass型ではなく,Low-Pass型の傾向がみられた.一般にLow-Pass型は眼光学系を,Band-Pass型は網膜以降を含めた視覚系全体を評価することにより得られるとされている3).CGT-2000の測定における特徴は,Badal光学系を用いた字ひとつ視標であること,縞視標ではなく二重輪視標であること,視標の方向(切れ目)を問う過程が省略されていることが挙げられる.Low-Pass型を示した原因との関係は不明であるが,測(161)明所グレアなし薄暮グレアなしlogコントラスト感度logコントラスト感度2.52.01.51.00.50.01.11.82.94.57.110.21.11.82.94.57.110.2空間周波数(cpd)空間周波数(cpd)明所グレアあり薄暮グレアあり2.52.01.51.00.50.01.11.82.94.57.110.21.11.82.94.57.110.2空間周波数(cpd)空間周波数(cpd)図24条件におけるコントラスト感度の平均と2回測定の一致限界黒線は各条件における22名の被験者のコントラスト感度の平均を,網掛けは2回測定の一致限界(LoA)を示す.定方法の相違により,他機種と単純な比較ができない可能性があり,注意を要する.本検討では,タカギセイコー社製のCGT-2000を用い,Bland-Altman解析からコントラスト感度およびグレアテストの再現性を評価した.その結果,CGT-2000による測定は良好な再現性を有することが示唆された.本論文の要旨は,第49回日本眼光学学会(京都)にて発表した.文献1)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Intraindividualcomparisonofvisualperformanceafterposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralholeimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmol154:486-494,20122)MunozG,Belda-SalmeronL,Albarran-DiegoCetal:Contrastsensitivityandcolorperceptionwithorangeandyellowintraocularlenses.EurJOphthalmol22:769-775,20123)魚里博,中山奈々美:視力検査とコントラスト感度.あたらしい眼科26:1483-1487,20094)KellySA,PangY,KlemencicS:ReliabilityoftheCSV1000inadultsandchildren.OptomVisSci89:1172あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015161 1181,20125)KanazawaM,UozatoH:Relationshipbetweenabsorptivelensesandcontrastsensitivityinhealthyyoungsubjectswithglareunderphotopic-andmesopic-visionconditions.OpticalReview20:282-287,20136)金澤正継,魚里博:周辺視野のグレア光がコントラスト感度に与える影響.視覚の科学.視覚の科学34:86-90,7)BlandM,AltmanDG:Statisticalmethodsforassessingagreementbetweentwomethodsofclinicalmeasurement.Lancet1:307-310,19868)KawamoritaT,UozatoH,KamiyaKetal:Repeatability,reproducibility,andagreementcharacteristicsofrotatingSheimpflugphotographyandscanning-slitcornealtopographyforcornealpowermeasurement.JCataractRefractSurg35:127-133,20099)HongYT,KimSW,KimEKetal:Contrastsensitivitymeasurementwith2contrastsensitivitytestsinnormaleyesandeyeswithcataract.JCataractRefractSurg36:547-552,201010)ReevesBC,WoodJM,HillAR:VistechVCTS6500Charts-within-andbetween-sessionreliability.OptomVisSci68:728-737,199111)PesudovsK,HazelCA,DoranRMetal:TheusefulnessofVistechandFACTcontrastsensitivitychartsforcataractandrefractivesurgeryoutcomesresearch.BrJOphthalmol88:11-16,200412)ElliottDB,BullimoreMA:Assessingthereliability,discriminativeability,andvalidityofdisabilityglaretests.InvestOphthalmolVisSci34:108-119,199313)和氣典二,平野邦彦,和氣洋美ほか:種々の照明状況下の視力と眼鏡.日本眼光学学会誌11:43-53,199014)HohbergerB,LaemmerR,AdlerWetal:MeasuringcontrastsensitivityinnormalsubjectswithOPTEC6500:influenceofageandglare.GraefesArchClinExpOphthalmol245:1805-1814,200715)PatryasL,ParryNR,CardenDetal:Assessmentofagechangesandrepeatabilityforcomputer-basedroddarkadaptation.GraefesArchClinExpOphthalmol251:18211827,2013***162あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(162)

近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組

2015年1月30日 金曜日

154あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(154)154(154)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):154.158,2015cはじめに近視を伴う内斜視に関する報告は少ないものの1.5),過去に乳児内斜視の10.2%6),非調節性内斜視の3.5%は近視である7)との報告がある.近視矯正を行うことで調節性輻湊を誘発し,さらに小児の内斜視は調節要素を伴っていることが多く,結果として眼位がより内斜すると考えられている.しかし,治療に関しては,近視の内斜視であっても屈折矯正を行うことで内斜視角が減少したとの報告3)や手術による予後が良好であるとの報告4),適切な屈折矯正とFresnel膜プリズム処方で良好な経過をたどった報告5)があり,近視の内斜視であっても屈折矯正を試みることが重要であるとしている3,5).また,一卵性双生児の斜視型の一致率は高く,73.88%8.10)と報告がある.今回,筆者らは,近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組を経験したので報告する.I症例〔症例1〕9歳,女児(一卵性双生児の妹).6歳10カ月頃に撮った写真で左眼が内に寄っているのに母親が気づき当院受診.出生週数32週2日,出生体重1,718g,正常分娩の低出生体重児.未熟児網膜症の発症はなし.発達異常なし.初診時(7歳)所見:右眼0.1(1.2×.1.75D(cyl.0.75DAx110°),左眼0.2(1.2×.1.75D).眼位はHirschberg法で正位.眼球運動は正常で両眼に下斜筋過動を認めた.輻湊〔別刷請求先〕橋本篤文:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:AtsufumiHashimoto,CO.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1KitasatoMinamikuSagamihara252-0375,JAPAN近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組橋本篤文*1石川均*2清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部ACaseofMonozygoticTwinswithEsotropiathatImprovedwithFullMyopicCorrectionAtsufumiHashimoto1),HitoshiIshikawa2)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,2)SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity一卵性双生児の斜視型の一致率は高い.また,近視矯正により内斜視が改善した報告は過去に少ない.今回,筆者らは,ほぼ同時期に内斜視を発症し,かつ近視矯正で内斜視が改善した9歳の一卵性双生児の女児1組を経験した.2症例とも初診時より内斜視を認め,眼位変動が大きかった.斜視角は裸眼と完全屈折矯正眼鏡で同程度であった.調節麻痺下(アトロピン点眼)屈折検査を行い,完全屈折矯正眼鏡を処方した.処方後,2症例とも斜視角の改善を認めた.近視を伴う内斜視でも屈折矯正を試みることが重要であると考えられた.また,この内斜視発症,良好な治療効果が一卵性双生児の姉妹に同時に生じていることは,眼科的諸因子や環境的因子のみならず遺伝的因子の関与が示唆された.Manycasesofmonozygotictwinsareknownshowtheconcordanceofstrabismicphenotypes.Inrarecases,esotropiamaybeimprovedbywearingeyeglasseswithfullmyopiccorrection.Herewereportacaseofmonozy-gotictwinswithmyopicesotropia.Uponexamination,the9-year-oldtwingirlswerefoundtohavedevelopedeso-tropiaatthesametime.Attheinitialpresentationtoourclinic,themeasurementsareunstable.However,theangleofdeviationwasrelativelystablewithfullmyopiccorrection.Foreachpatient,weprescribedmyopiceye-glasseswiththefullatropinizedcorrection,andtheesotropiasubsequentlyimproved.Thefindingsinthiscaseshowthatnotonlyocularandenvironmentalfactors,butalsogeneticfactorscancauseasimultaneousonsetofesotropiainmonozygotictwins,andthatcorrectionviatheuseofmyopiceyeglassesmightbeaneffectivetreat-mentforthemyopicesotropiainsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):154.158,2015〕Keywords:内斜視,近視,一卵性双生児,完全屈折矯正.esotropia,myopia,monozygotictwins,fullcorrection.32,No.1,2015(154)154(154)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):154.158,2015cはじめに近視を伴う内斜視に関する報告は少ないものの1.5),過去に乳児内斜視の10.2%6),非調節性内斜視の3.5%は近視である7)との報告がある.近視矯正を行うことで調節性輻湊を誘発し,さらに小児の内斜視は調節要素を伴っていることが多く,結果として眼位がより内斜すると考えられている.しかし,治療に関しては,近視の内斜視であっても屈折矯正を行うことで内斜視角が減少したとの報告3)や手術による予後が良好であるとの報告4),適切な屈折矯正とFresnel膜プリズム処方で良好な経過をたどった報告5)があり,近視の内斜視であっても屈折矯正を試みることが重要であるとしている3,5).また,一卵性双生児の斜視型の一致率は高く,73.88%8.10)と報告がある.今回,筆者らは,近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組を経験したので報告する.I症例〔症例1〕9歳,女児(一卵性双生児の妹).6歳10カ月頃に撮った写真で左眼が内に寄っているのに母親が気づき当院受診.出生週数32週2日,出生体重1,718g,正常分娩の低出生体重児.未熟児網膜症の発症はなし.発達異常なし.初診時(7歳)所見:右眼0.1(1.2×.1.75D(cyl.0.75DAx110°),左眼0.2(1.2×.1.75D).眼位はHirschberg法で正位.眼球運動は正常で両眼に下斜筋過動を認めた.輻湊〔別刷請求先〕橋本篤文:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:AtsufumiHashimoto,CO.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1KitasatoMinamikuSagamihara252-0375,JAPAN近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組橋本篤文*1石川均*2清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部ACaseofMonozygoticTwinswithEsotropiathatImprovedwithFullMyopicCorrectionAtsufumiHashimoto1),HitoshiIshikawa2)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,2)SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity一卵性双生児の斜視型の一致率は高い.また,近視矯正により内斜視が改善した報告は過去に少ない.今回,筆者らは,ほぼ同時期に内斜視を発症し,かつ近視矯正で内斜視が改善した9歳の一卵性双生児の女児1組を経験した.2症例とも初診時より内斜視を認め,眼位変動が大きかった.斜視角は裸眼と完全屈折矯正眼鏡で同程度であった.調節麻痺下(アトロピン点眼)屈折検査を行い,完全屈折矯正眼鏡を処方した.処方後,2症例とも斜視角の改善を認めた.近視を伴う内斜視でも屈折矯正を試みることが重要であると考えられた.また,この内斜視発症,良好な治療効果が一卵性双生児の姉妹に同時に生じていることは,眼科的諸因子や環境的因子のみならず遺伝的因子の関与が示唆された.Manycasesofmonozygotictwinsareknownshowtheconcordanceofstrabismicphenotypes.Inrarecases,esotropiamaybeimprovedbywearingeyeglasseswithfullmyopiccorrection.Herewereportacaseofmonozy-gotictwinswithmyopicesotropia.Uponexamination,the9-year-oldtwingirlswerefoundtohavedevelopedeso-tropiaatthesametime.Attheinitialpresentationtoourclinic,themeasurementsareunstable.However,theangleofdeviationwasrelativelystablewithfullmyopiccorrection.Foreachpatient,weprescribedmyopiceye-glasseswiththefullatropinizedcorrection,andtheesotropiasubsequentlyimproved.Thefindingsinthiscaseshowthatnotonlyocularandenvironmentalfactors,butalsogeneticfactorscancauseasimultaneousonsetofesotropiainmonozygotictwins,andthatcorrectionviatheuseofmyopiceyeglassesmightbeaneffectivetreat-mentforthemyopicesotropiainsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):154.158,2015〕Keywords:内斜視,近視,一卵性双生児,完全屈折矯正.esotropia,myopia,monozygotictwins,fullcorrection. :右眼瞳孔径:右眼屈折値:左眼瞳孔径:左眼屈折値Diopter(mm)86420-2-4-6半暗室光視標調節視標眼位内斜視内斜視正位図1PlusoptiXS04R半暗室での調節視標,光視標の他覚的屈折値と瞳孔径と眼位PlusoptiXS04Rにて,半暗室での調節視標,光視標の他覚的屈折値と瞳孔径を測定した.光視標で調節視標よりも近視の増大を認めた.近点は鼻根部まで可能.Titmusstereotests(TST)は裸眼にてfly(+),animal(3/3),circle(6/9).Alternateprismcovertest(APCT)は完全屈折矯正下にて遠見14prismdiopter(以下Δ),近見18Δの間欠性内斜視であり,融像除去により次第に斜視角が増大した.サイプレジン点眼下の自覚的屈折値は,右眼(1.2×.1.25D(cyl.0.75DAx150°),左眼(1.2×.1.25D(cyl.0.75DAx40°)であった.眼軸長は,右眼24.27mm,左眼24.24mm(IOLMasterTM,Zeiss社製)であった.初診から5カ月後,斜視角はAPCTにて裸眼,完全屈折矯正ともに遠見25.30Δ,近見35Δとやや増大したが,間欠性内斜視を保っていた.大型弱視鏡(ClementClark社製)では眼位変動が大きかったものの同時視は自覚的斜視角が+16Δ(スライド;ライオンとオリ),融像が.16Δ.+36Δ(base+16Δ)(スライド;うさぎ)で,立体視(スライド;バケツ,宇宙,パラシュート)も得られた.他覚的斜視角は+20Δであった.6カ月後,APCTにて裸眼で遠見40Δ,近見45.50Δの間欠性内斜視であり,近視矯正を行った完全屈折矯正下でも遠見40Δ,近見45.50Δの間欠性内斜視で,近見は近視矯正による調節量の増加によっても斜視角は増加しなかった.両眼視時の眼位,屈折値,瞳孔径を,PlusoptiXS04R(Plusoptix社製)を用い測定した.本装置は,両眼同時かつ連続で屈折値〔等価球面度数(D)〕,瞳孔径〔縦・横(mm)〕,眼位〔偏位角(°)〕が測定可能である.測定条件は完全屈折矯正下で半暗室下にて,視標は眼前1mで光視標,調節視標裸眼時内斜視眼鏡装用時正位図2症例1をそれぞれ呈示した.瞳孔径は縦径とした.結果は,半暗室,光視標で眼位は内斜視となり近視化し,調節視標で眼位は正位化し近視化はみられなかった(図1).瞳孔径は各視標とも6mm前後であった.10カ月後,裸眼での内斜視が恒常化したため,右眼(1.2×.2.50D(cyl.0.50DAx140°),左眼(1.2×.2.50D(cyl.1.00DAx10°)で完全屈折矯正眼鏡(アトロピン点眼下)を処方した.4カ月後,両眼ともに〔1.2×JetzigBrille(以下,JB)〕と良好な視力を得ており,TSTはJBにてfly(+),animal(3/3),circle(7/9)であった.斜視角はAPCTにてJBで遠見,近見ともに16Δの間欠性内斜視となり改善を認めた(図2).また,眼位変動は大きかったが,光視標でも正位を保つことがあり,調節視標にてさらに正位の頻度が増えた.AC/A比(調節性輻湊対調節比)は斜視角測定時,遠見での眼位が安定しなかったため,NearGradient法で測定したところ5.6Δ/Dであった.さらに,頭蓋内疾患の鑑別のため頭部CT(コンピュータ断層撮影)を施行したが異常はなかった.〔症例2〕9歳,女児(一卵性双生児の姉).主訴:学校検診で視力低下を指摘され当院受診.出生体重1,504g.未熟児網膜症の発症はなし.発達異常はなし.初診時(7歳5カ月)所見:右眼0.2(1.2×.2.50D),左眼0.15(1.2×.3.25D).眼位はHirschberg法で正位.内斜視.Krimsky法で16.18Δbaseout.眼球運動は正常で両眼に下斜筋過動を認めた.輻湊近点は鼻根部まで可能.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015155 TSTは裸眼にて内斜視のため立体視不可であった.症例1と同様に同日サイプレジン点眼下にて自覚的屈折値を確認した.右眼(1.2×.1.00D(cyl.1.00DAx170°),左眼(1.2×.1.75D)で,近視を認めた.眼軸長は右眼23.83mm,左眼23.78mm(IOLMasterTM)であった.1カ月後,TSTは裸眼,完全屈折矯正ともにfly(+),animal(3/3),circle(4/9)であった.斜視角はAPCTにて裸眼で遠見12Δ,近見25Δの間欠性内斜視であり,近視矯正を行った完全屈折矯正下でも,症例1と同様に斜視角に増大はなかった.大型弱視鏡にて,同時視は,自覚的斜視角が+6Δ(スライド;ライオンとオリ),融像が.14Δ.+22Δ(base+6Δ)(スライド;うさぎ)で,立体視(スライド;バケツ,宇宙,パラシュート)も得られたが,症例1同様,測定中の眼位変動が大きかった.他覚的斜視角は+8Δであった.患児が見えづらさを訴えたため,症例1と同時期にアトロピン点眼にて屈折検査を行った.右眼(1.2×.2.25D),左眼(1.2×.1.50D)で完全屈折矯正眼鏡を処方した.14カ月後,右眼,左眼ともに視力良好で,Hirschberg法で正位.TSTはJBにてfly(+),animal(3/3),circle(9/9)と改善し,斜視角はAPCTにてJB装用下で遠見,近見ともに8Δの内斜位と改善を認めた(図3).また,症例1同様AC/A比を測定したところ,NearGradient法にて3.4Δ/Dであった.頭部CTも施行したが,異常はなかった.双生児の卵性の鑑別に関しては,遺伝子DNAを用いて診断する方法が最も精度が高いとされている11).家族に十分な説明を行い,同意を得たうえで,DNA検査を依頼した.患児それぞれの口腔内粘膜を減菌された綿棒にて採取し,検体を送付した.STR(shorttandemrepeat)型検査12)にて,16locus(遺伝子情報)を比較し,それぞれの遺伝子型が完全に一致し,一卵性と判定した.II考按今回,筆者らは,同時期に同程度の屈折値,斜視角で内斜視を発症し,同じ治療法で症状が改善した一卵性双生児の女児1組を経験した.さらに,内斜視に近視矯正すると眼位が裸眼時内斜視眼鏡装用時正位図3症例2表19歳,女児症例1(妹)症例2(姉)出生週数32週2日出生体重1,718g1,504g発症時期7歳頃7歳5カ月頃主訴内斜視視力低下調節麻痺下屈折値(アトロピン点眼,等価球面値)R:.2.75DL:.3.00DR:.2.25DL:.1.50D斜視角(最大時)遠見:40ΔE(T)近見:45.50ΔE(T)´遠見:12ΔE(T)近見:25ΔE(T)´変動大きい(SC=farbest)斜視角(眼鏡装用後)遠見:16ΔE(T)近見:16ΔE(T)´遠見:8ΔE(T)近見:8ΔE(T)´視標と眼位非調節視標より調節視標で良好融像幅(大型弱視鏡).16Δ.+36Δ(base+16Δ).14Δ.+22Δ(base+6Δ)AC/A比5.4Δ/D3.6Δ/D頭部CT異常なし(156) 悪化すると考えられている13)が,今回の症例では改善を認めた.近視矯正で内斜視の眼位が改善するような症例は過去に報告が少なく3.5),明確な考察はされていない.本症例は,器質的疾患による内斜視は否定的で,内斜視時に調節の増加は認めたものの,瞳孔は半暗室下ではあるが,縮瞳傾向ではなかったため調節痙攣は考えにくい.また,過去には状況依存性内斜視の報告14)がある.10歳頃の前思春期の女子に多く,部分調節性内斜視に続発し,日常眼位は比較的良好であるが,検査時に内斜視角が急激に増大するような特徴をもつ.本症例がもともと部分調節性内斜視であったかは不明であるが,症例2の主訴が内斜視ではなく視力低下であったことから,少なくとも症例2については日常眼位が良好であった可能性がある.両親への問診では,日常と検査時の内斜視の頻度や角度にあまり違いはないとのことで,状況依存性内斜視は否定的と考えた.内斜視の型に関しては,高AC/A比ではなく,発症時期が7歳頃ということから考えて後天基礎型内斜視が考えられたが,考察の域を超えない.本症例の特徴として近視の未矯正斜視角(裸眼)と完全屈折矯正斜視角にほぼ差がなく,調節視標で斜位を保つ頻度が多く,さらに融像幅が開散方向に大きいことや眼位変動が大きいことが挙げられる.これらのことから,しっかりとした明視を得ること,また患児の見づらさの訴えの改善も目的に,調節麻痺下での屈折検査を施行後,完全屈折矯正眼鏡処方を行った.結果として,像のボケがなくなり適切な調節を行うことができ,過度に輻湊していた眼位が改善し,両眼視が安定したと考えた.過去には,未矯正の近視の人が,ごく近距離を見続けることで内直筋のトーヌスが上昇し,機能的に優位な状態となったために輻湊を緩めることが少なくなって内斜視になる1)とするものや,低矯正または未矯正の近視の人が,明瞭な視覚をもつ近見を多く行い,不明瞭である遠見を行うことが稀であると,近見での輻湊が刺激,強化されて,しだいに開散の機能不全が起こる.さらに,筋は器質的に変化して固定化し開散不全型の内斜視になる2)とするものなどがある.これに対し,近視矯正で内斜視角の減少が認められた3)との報告や,適切な屈折矯正によって明瞭な遠方視が可能になり本来の開散力を使って眼位を安定させようとする力が働いたとする説もある5).つまり,近視を伴う内斜視でも適切な屈折矯正を試みることが重要である.さらに,本症例では,非調節視標(光視標)において眼位が内斜し,調節視標で改善した.調節視標は,見ようとするものに対しての適切な調節状態をつくり,調節を保たせる,調節をコントロールする視標15)といわれており,調節が安定したと考えられる.また,開散方向に融像幅が広いことから,調節目標の明視が開散方向の融像を可能にし,眼位の安定につながったと考えられた.双生児の斜視の一致率は一卵性双生児が73.88%8.10),二卵性双生児が35.40%8,9)と一卵性双生児で高いとされており,一卵性双生児で一致した斜視の種類は内斜視,調節性内斜視,乳児内斜視,恒常性外斜視,間欠性外斜視が挙げられる9,10).なかでも,内斜視では調節性内斜視,外斜視では間欠性外斜視が多いとしている10).屈折に関しても,一卵性双生児のほうが二卵性双生児よりも一致しやすい傾向16,17)がある.本症例も同様に斜視の型,屈折値がほぼ同じ傾向を認め,発症時期や同治療による予後も同じ傾向であった.斜視や屈折異常のはっきりとした遺伝形式はいまだ明らかにされていないが,一卵性双生児では遺伝的構成は同一とされ,斜視に関しても同じ型の斜視の発症や経過をとることが多いとされている18).さらに一卵性双生児の斜視の発症時期にずれのある症例では,その背景に近業が誘因になったり,言葉などに対する理解度の違いといった環境的要因も関係していると考えられ9),遺伝的要因や環境的要因の相互作用9,18,19)の関与が示唆されている.最後に,今後,本症例に関しては,定期的に屈折検査を行い,適切な眼鏡をかけていくことが眼位の維持には重要と考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BielschowskyA:DasEinwartsschielenderMyopen.BerDtschOphthalmolGes.43:245-248,19222)Duke-ElderS,WybarK:Ocularmotilityandstrabismus.InSystemofOphthalmology,p605-609,HenryKimpton,London,19733)松井孝子,安田節子,阿部早苗ほか:近視矯正により内斜視角の減少がみられた1例.眼臨紀6:241,20134)村上環,曹美枝子,富田香ほか:近視を伴う後天内斜視の検討.日視会誌21:61-64,19935)宮部友紀,竹田千鶴子,菅野早恵子ほか:眼鏡とフレネル膜プリズム装用が有効であった近視を伴う後天性内斜視の2例.日視会誌28:193-197,20006)ShaulyY,MillerB,MeyerE:Clinicalcharacteristicsandlong-termpostoperativeresultofinfantileesotropiaandmyopia.JPediatrOphthalmolStrabismus34:357-364,19977)VonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.fourthed,p307,CVMosby,StLouis,19908)PaulTO,HardageLK:Theheritabilityofstrabismus.OphthalmicGenetics15:1-18,19949)花岡玲子,牧野伸二,酒井理恵子ほか:自治医科大学弱視斜視外来を受診した双生児症例の検討.眼臨95:415-417,200110)MatsuoT,HayashiM,FujiwaraHetal:Concordanceofstrabismicphenotypesinmonozygoticversusmultizygoticあたらしい眼科Vol.32,No.1,2015157 twinsandothermultiplebirth.JpnJOphthalmol46:59-64,200211)大木秀一:簡便な質問紙による小児期双生児の卵生診断.母性衛生42:566-572,200112)原正昭:血清学検査・DNA検査.MedicalTechnology39:1022-1028,201113)西村香澄,佐藤美保:斜視と眼鏡.あたらしい眼科28(臨増):44-47,201214)奥英弘,内海隆,菅澤淳ほか:状況依存性内斜視のアモバルビタール点滴静注による診断法ならびに手術量の定量法について.臨眼44:1221-1224,199015)金谷まり子:間歇性外斜視の視能矯正的検査法.日視会誌28:21-28,200016)五十嵐智美,小塚勝,中村佳絵ほか:当科における一卵性双生児の斜視について.眼臨93:915-916,199917)TsaiMY,LinLL,LeeVetal:Estimationofheritabilityinmyopictwinstudies.JpnJOphthalmol53:615-622,200918)VonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.fourthed,p144-149,CVMosby,StLouis,199019)MaumeneeIH,AlstonA,MetsMBetal:Inheritanceofcongenitalesotropia.TransAmOphthalmolSoc84:85-93,1986***(158)

トリアムシノロンアセトニドTenon囊下注射が有効であった乳頭血管炎の1例

2015年1月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(1):149.153,2015cトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が有効であった乳頭血管炎の1例荒木美穂中尾新太郎小椋有貴宮崎勝徳吉川洋石橋達朗九州大学大学院医学研究院眼科学分野ACaseofOpticDiscVasculitisandAssociatedMacularEdemawithPosteriorSub-Tenon’sTriamcinoloneInjectionMihoAraki,ShintaroNakao,YukiKomuku,MasanoriMiyazaki,HiroshiYoshikawaandTatsuroIshibashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity今回筆者らは,中年男性に発症した乳頭血管炎にトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を施行し,良好な経過を示した1症例を経験したので報告する.症例はB型肝炎ウイルス既感染の47歳,男性,片眼視力低下を自覚し当院紹介受診となった患者である.境界不明瞭で著明に発赤・腫脹した乳頭,網膜静脈の怒張・蛇行,乳頭周囲から赤道部にかけての放射状・斑点状出血を認め,乳頭血管炎と診断した.また軽度の黄斑浮腫を伴っていた.発症後1週間でトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を施行,投与後1週間で黄斑浮腫の消失を認め,良好な視力が得られた.また,投与後1カ月で乳頭浮腫の著明な改善を認めた.今回の症例から,ステロイド全身投与が危惧される乳頭血管炎にトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射は有効であることが考えられた.Wepresentacaseofopticdiscvasculitisandassociatedmacularedemawithaposteriorsub-Tenon’striamcinoloneinjection.A47-year-oldmanwithchronichepatitisBvirus(HBV)infectionnoticeddecreasedvisioninhisrighteyeandwasreferredfromthecommunityophthalmologistbecausehissymptomsdidnotimprove.Hehadahyperemicandswellingdiscwithmacularedema,andwasdiagnosedwithopticdiscvasculitis.ToavoidtheriskofacuteexacerbationsofchronicHBVinfection,aposteriorsub-Tenon’striamcinoloneinjection─butnosystemicsteroid─wasadministered.At1weekaftertheinjection,OCTshoweddisappearanceofmacularedema.Furthermore,at1monthaftertheinjection,opticdiscfindinghadnearlynormalizedandsymptomshaddisappeared.Sub-Tenon’striamcinoloneinjectioncouldbeatherapeuticchoiceforopticdiscvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):149.153,2015〕Keywords:乳頭血管炎,トリアムシノロンアセトニドテノン.下注射,B型肝炎,黄斑浮腫.opticdiscvasculitis,sub-Tenon’striamcinoloneinjection,chronichepatitisB,macularedema.はじめに乳頭血管炎は一般的に健康な若年者の片眼に発症し,視力予後がおおむね良好な疾患である.標準的治療は経過観察またはステロイドの全身投与が行われているが,初期治療としてトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を行った報告はほとんどない.また,中年以降の発症は稀であるが,45歳以上の症例では病期が長期化することが報告されている1).今回,筆者らは47歳の中年男性に発症した本症にトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を施行し,著効した症例を経験したので報告する.I症例患者:47歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:2012年10月23日頃から右眼の視力低下を自覚し,10月24日に近医眼科を受診した.右眼の視神経炎が疑われ,10月26日に精査加療目的にて当科入院となった.〔別刷請求先〕中尾新太郎:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:ShintaroNakao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(149)149 図1初診時の眼底写真乳頭の発赤・腫脹(矢印),網膜静脈の怒張・蛇行(矢頭),放射状の散在する出血を認めた.図2初診時の蛍光眼底造影写真乳頭および周囲の毛細血管の拡張や血管からの色素漏出(矢印)がみられた(左:右眼早期,中央:右眼後期,右:左眼後期).既往歴:9歳時虫垂炎に対して手術および輸血歴あり.B型肝炎ウイルス既感染.家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.1(0.4×sph.0.50D(cyl.1.00DAx90°),左眼0.4(1.5×sph.0.50D(cyl.1.00DAx90°),眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHgであった.眼球運動は制限なく眼位も正位であった.対光反射は迅速かつ十分であり,相対的瞳孔求心路障害は認めなかった.フリッカー値は右眼34Hz,左眼40Hz.前眼部・中間透光体に異常はなかった.眼底検査で右眼は,境界不明瞭で著明に発赤・腫脹した乳頭を認め,網膜静脈は怒張・蛇行し,乳頭周囲から赤道部にかけて放射状・斑点状の出血が散在していた.さらに軽度の黄斑浮腫が認められた(図1).左眼に異常は認めなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)で右眼は,造影後期にかけて視神経乳頭からの旺盛な蛍光漏出があり,黄斑部には色素の貯留を認めたが,網膜血管床の閉塞などの所見は認められなかった(図2).光干渉断層計(OCT)において右眼は,黄斑に.胞様,漿液性黄斑浮腫および乳頭の腫脹を認めた(図3).Goldmann視野検査(GP)で右眼におけるMariotte盲点の拡大は軽度であり,中心に比較暗点を認めた(図4).頭部磁気共鳴画像(MRI)検査では,左右の視神経に明らかな異常は認められなかった.初診時の血液検査所見は,抗HBc(B型肝炎コア)抗体50.6c.o.lと上昇を認めた以外には,血沈,血液像および生化学検査などに異常は認めなかった.年齢以外の臨床像を満たし,右眼視神経乳頭血管炎と診断した.副腎皮質ステロイド薬の全身投与を検討したが,B型肝炎ウイルス既感染であり,肝炎の増悪が危惧されたため,患者本人の希望によりステロイド薬の局所投与を選択した.11月1日右眼にトリアムシノロンアセトニド(40mg)150あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(150) 右眼左眼乳頭黄斑図3初診時の光干渉断層写真黄斑は.胞様,漿液性黄斑浮腫を認めた(矢印).視神経乳頭は腫脹を認めた.左右図4初診時のGoldmann視野Mariotte盲点の軽度拡大と中心に比較暗点を認めた.Tenon.下注射を施行した.検眼鏡的には治療後2カ月で乳頭の腫脹,発赤および網膜静脈の怒張蛇行は消失を認めた(図5).FAでは1カ月で乳頭上毛細血管からの色素漏出は著明に減少を認めた.OCTでは治療後1週間で黄斑浮腫の消失を認め,右眼矯正視力(1.0)と良好な視力が得られた.乳頭浮腫も著明な減少を認めた.GPでは治療開始後1週間で,中心の比較暗点は消失(151)した.II考察乳頭血管炎は,主として健康な若年者に発症する乳頭血管の炎症を病態の主座とする疾患である.1972年にHayrehがopticdiscvasculitisの疾患概念を提唱し,検眼鏡所見より乳頭腫脹が強くみられる乳頭浮腫型(type1)と,網膜中あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015151 1週間後1カ月後2カ月後図5治療後の眼底および蛍光眼底造影写真検眼鏡的には治療後2カ月で乳頭の発赤・腫脹,網膜静脈の怒張・蛇行は消失を認めた.蛍光眼底造影検査では,1カ月で乳頭上毛細血管からの色素漏出は著明に減少を認めた.心静脈閉塞症様所見が全面にみられる中心静脈閉塞症型(type2)に分類される2).乳頭血管炎はいまだその発生機序が解明されていないが,病理組織像からの検討でtype1は篩板より前部での毛様体血管の軽度の非特異的炎症によるもので,type2は乳頭部もしくは篩板より後部での中心静脈の炎症ではないかと推測されている.また,type1は黄斑浮腫を合併しないのに対して,type2はときに黄斑浮腫を合併することが知られている.今回筆者らが経験した症例はOCTの結果や臨床所見からも中心静脈閉塞症型type2と考えられた.乳頭血管炎の加療としては副腎皮質ステロイド薬の全身投与2.4)や,予後良好であることから無治療で経過をみている症例も多い.富永らは乳頭血管炎症例に対してステロイドパルス療法を行い,有効であることを報告している5).また,乳頭血管炎に対してステロイド全身投与(プレドニン錠30mg)を開始したが,視神経乳頭の所見の改善がみられないため,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を併用したところ速やかに視神経乳頭の発赤腫脹が消退したとの報告もある6).しかし,乳頭血管炎に対して初期治療からス152あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015テロイド局所投与を行った報告は数少ない7).最近,海外からトリアムシノロンアセトニド硝子体内投与が,乳頭血管炎とそれに伴う黄斑浮腫に効果があったとの報告がある7)が,わが国ではトリアムシノロンアセトニド投与は硝子体内投与よりTenon.下注射が一般的である.また,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射の効果は硝子体内注射と比べて黄斑浮腫改善率と視力予後に有意差がないことが報告されている8).本症例における視機能低下は黄斑浮腫によるものが考えられたが,黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が著効し,それに伴い視機能の改善を得たものと考えられた.乳頭血管炎は10.30歳代の若年者の罹患がほとんどであるが,本症例は47歳と中年であり比較的稀な症例であるといえる.乳頭血管炎の治療としては副腎皮質ステロイド薬の全身投与2.4)や予後良好であることから無治療で経過をみている症例も多いが,Hayrehらは,45歳以上で病期が長くなる傾向を報告1)している.本症例では年齢が45歳以上であることから積極的加療を行った.トリアムシノロンアセトニ(152) ドTenon.下注射を施行し,投与後2カ月で乳頭浮腫の消失を認めた.45歳以上の罹患者では,2カ月で乳頭浮腫の消失が得られるのは30%程度であり,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射の効果による病期短縮の可能性が考えられた.乳頭血管炎の病態は,上述のようにtype1,type2ともに局所での血管壁の炎症であり,局所でのサイトカイン産生による乳頭浮腫,黄斑浮腫などの臨床病態が考えられる.また,乳頭血管炎は健常者に発症することが知られ,全身性炎症疾患が関与したという症例は少ない.このことからも乳頭部組織に高濃度のステロイドが到達するトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が有効であると考えられる.B型肝炎ウイルス保有者の約90%は肝障害のない,いわゆる無症候性キャリアであり肝機能検査も正常であるが,ステロイドの全身投与によりウイルス量が増加し,肝機能が急激に悪化することが知られている9).また,B型肝炎の急性増悪では死亡例も報告されており9),今回の症例でもB型肝炎ウイルス既感染患者であるため,ステロイド全身投与による肝炎の急性増悪が危惧された.トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射(40mg)の投与における最高血中濃度は30ng/mlとの報告10)があり,全身投与の約20分の1程度と考えられる.このようなステロイド全身投与が困難な症例では,副作用の比較的少ないトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が乳頭血管炎の治療選択肢の一つとなると考えられた.本症例の病態として血管の炎症により乳頭浮腫をきたし,炎症が網膜中心静脈に波及することで一過性の網膜静脈閉塞が起こり,二次的に黄斑浮腫をきたしたと考えられた.この二つの病態に対するトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射の抗炎症作用により病態が改善したと考えられた.文献1)OhKT,OhDM,HayrehSS:Opticdiscvasculitis.GraefesArchExpOphthalmol238:647-658,20002)HayrehSS:Opticdiscvasculitis.BrJOphthalmol56:652-670,19723)小栗真千子,近藤永子,近藤峰生ほか:14歳の女子に発症した乳頭血管炎の1例.臨眼99:389-391,20054)小暮奈津子,阿部真智子,大西裕子ほか:乳頭血管炎と思われる8例について.臨眼71:1236-1241,19775)富永美果,菅澤淳:ステロイドパルス療法を施行した乳頭血管炎の1例.眼臨88:1539-1541,19946)田片将士,岡本紀夫,村上尊ほか:副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎.あたらしい眼科26:423-426,20097)ChangYC,WuYC:Intravitrealtriamcinoloneacetonideforthemanagementofpapollophebitisandassociatedmacularedema.IntOphthalmol28:291-296,20088)YalcinbayirO,GeliskenO,KaderliBetal:Intravitrealversussub-tenonposteriortriamcinoloneinjectioninbilateraldiffusediabeticmacularedema.Ophthalmologica225:222-227,20119)PerrilloRP:AcuteflaresinchronichepatitisB:Thenaturalandunnaturalhistoryofanimmunologicallymediatedliverdisease.Gastroenterology120:1009-1022,200110)KovacsK,WagleyS,QuirkMetal:Pharmacokineticstudyofvitreousandserumconcentrationsoftriamcinoloneacetonideafterposteriorsub-tenon’sinjection.AmOphthalmol153:939-948,2012***(153)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015153

黄斑部疾患に対する眼底視野計maiaTMを用いた偏心視獲得訓練の効果

2015年1月30日 金曜日

144あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(144)144(144)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):144.148,2015cはじめに黄斑疾患では薬物治療や手術治療により黄斑病変が改善した後も視力改善が十分でない症例が多くみられる.変視があり,中心暗点も残存している場合が多い.中心暗点のある患者は見ようとするところに視線を向けても目的のものが見えない.そのため良く見える場所に視線を移動させて見る偏心視が必要になる.しかし,どこへ視線を動かせばよいか患者自身で模索していることが多く,偏心視を確立できていない.偏心視を確立するためには偏心領域preferredretinallocus(PRL)の確認が必要である.〔別刷請求先〕林由美子:〒930-0194富山市杉谷2630富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座Reprintrequests:YumikoHayashi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama,2630Sugitani,Toyama930-0194,JAPAN黄斑部疾患に対する眼底視野計maiaTMを用いた偏心視獲得訓練の効果林由美子林顕代奥村詠里香中川拓也掛上謙追分俊彦林篤志富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座EffectivenessofEccentricViewingTrainingforPatientswithMacularDiseasesbyUseofMacularIntegrityAssessment(maiaTM)MicroperimetryYumikoHayashi,AkiyoHayashi,ErikaOkumura,TakuyaNakagawa,KenKakeue,ToshihikoOiwakeandAtsushiHayashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama目的:黄斑疾患のため中心暗点のある患者は目標物を見るために視線を移動させて見る偏心視が必要になる.そこで偏心視を獲得するため眼底視野計MacularIntegrityAssessment(以下,maiaTM)の偏心領域preferredretinallocus(PRL)トレーニングモジュールを使用し訓練を試みたので報告する.対象および方法:対象は黄斑部疾患があり治療されたが視力回復が十分に得られない患者18例である.maiaTMでPRLトレーニングモジュールを使用し偏心視獲得訓練を行った.結果:18例の訓練前の矯正視力はlogMAR値で平均0.77±0.32(小数視力0.16±0.48)であり,訓練後はlogMAR値で平均0.46±0.23(小数視力0.34±0.59)と向上した(p<0.0001).訓練後の最大読書速度も向上した.結論:眼底視野計maiaTMによる偏心視獲得訓練は黄斑部疾患があり中心暗点を有する患者の視力向上に有用である.Objective:Toimprovevisualacuity(VA),patientswithcentralscotomaduetomaculardiseasesshouldreor-ganizefixationpointsaroundthefoveaknownasparafovealfixation,whichisatechniquethathelpsthepatientsfixateobjectsbymovingtheireyesinsteadoftheirheads.Inthisstudy,wereporteccentricviewingtraininginpatientswithmaculardiseasesbyuseoftheMacularIntegrityAssessment(maiaTM)VisionTrainingModule(Cen-terVue,Inc.,Padova,Italy)toidentifythepreferredretinallocus(PRL).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved18patientswithmacular-disease-associateddecreasedVAwhounderwentvisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRL.Results:Priortothetraining,themeancorrectedVAwas0.77±0.32logMAR(decimalVA:0.16±0.48).Posttraining,themeanVAimprovedto0.46±0.23logMAR(decimalVA:0.34±0.59)(p<0.0001).Furthermore,thetrainingincreasedthemaximumreadingspeedofeachpatient.Conclusion:VisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRLwasfoundtobeeffectiveandusefulforpatientswithmacular-disease-relatedcentralscotoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):144.148,2015〕Keywords:黄斑疾患,偏心視獲得訓練,眼底視野計,maiaTM,最大読書速度.maculardiseases,effectivenessofeccentricviewingtraining,microperimeter,maiaTM,maximumreadingspeed.32,No.1,2015(144)144(144)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):144.148,2015cはじめに黄斑疾患では薬物治療や手術治療により黄斑病変が改善した後も視力改善が十分でない症例が多くみられる.変視があり,中心暗点も残存している場合が多い.中心暗点のある患者は見ようとするところに視線を向けても目的のものが見えない.そのため良く見える場所に視線を移動させて見る偏心視が必要になる.しかし,どこへ視線を動かせばよいか患者自身で模索していることが多く,偏心視を確立できていない.偏心視を確立するためには偏心領域preferredretinallocus(PRL)の確認が必要である.〔別刷請求先〕林由美子:〒930-0194富山市杉谷2630富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座Reprintrequests:YumikoHayashi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama,2630Sugitani,Toyama930-0194,JAPAN黄斑部疾患に対する眼底視野計maiaTMを用いた偏心視獲得訓練の効果林由美子林顕代奥村詠里香中川拓也掛上謙追分俊彦林篤志富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座EffectivenessofEccentricViewingTrainingforPatientswithMacularDiseasesbyUseofMacularIntegrityAssessment(maiaTM)MicroperimetryYumikoHayashi,AkiyoHayashi,ErikaOkumura,TakuyaNakagawa,KenKakeue,ToshihikoOiwakeandAtsushiHayashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama目的:黄斑疾患のため中心暗点のある患者は目標物を見るために視線を移動させて見る偏心視が必要になる.そこで偏心視を獲得するため眼底視野計MacularIntegrityAssessment(以下,maiaTM)の偏心領域preferredretinallocus(PRL)トレーニングモジュールを使用し訓練を試みたので報告する.対象および方法:対象は黄斑部疾患があり治療されたが視力回復が十分に得られない患者18例である.maiaTMでPRLトレーニングモジュールを使用し偏心視獲得訓練を行った.結果:18例の訓練前の矯正視力はlogMAR値で平均0.77±0.32(小数視力0.16±0.48)であり,訓練後はlogMAR値で平均0.46±0.23(小数視力0.34±0.59)と向上した(p<0.0001).訓練後の最大読書速度も向上した.結論:眼底視野計maiaTMによる偏心視獲得訓練は黄斑部疾患があり中心暗点を有する患者の視力向上に有用である.Objective:Toimprovevisualacuity(VA),patientswithcentralscotomaduetomaculardiseasesshouldreor-ganizefixationpointsaroundthefoveaknownasparafovealfixation,whichisatechniquethathelpsthepatientsfixateobjectsbymovingtheireyesinsteadoftheirheads.Inthisstudy,wereporteccentricviewingtraininginpatientswithmaculardiseasesbyuseoftheMacularIntegrityAssessment(maiaTM)VisionTrainingModule(Cen-terVue,Inc.,Padova,Italy)toidentifythepreferredretinallocus(PRL).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved18patientswithmacular-disease-associateddecreasedVAwhounderwentvisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRL.Results:Priortothetraining,themeancorrectedVAwas0.77±0.32logMAR(decimalVA:0.16±0.48).Posttraining,themeanVAimprovedto0.46±0.23logMAR(decimalVA:0.34±0.59)(p<0.0001).Furthermore,thetrainingincreasedthemaximumreadingspeedofeachpatient.Conclusion:VisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRLwasfoundtobeeffectiveandusefulforpatientswithmacular-disease-relatedcentralscotoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):144.148,2015〕Keywords:黄斑疾患,偏心視獲得訓練,眼底視野計,maiaTM,最大読書速度.maculardiseases,effectivenessofeccentricviewingtraining,microperimeter,maiaTM,maximumreadingspeed. 眼底を直接観察しながら視野測定ができるNIDEK社製Microperimeter-1(以下,MP-1)は黄斑部の網膜感度を測定し,PRLが確認でき,黄斑疾患における視機能評価に有用である1).固視安定度による弱視治療の予後判定の報告もある2).しかし,MP-1は操作性,トラッキング精度,検査時間などの問題があった.2009年にトプコン社から共焦点ライン走査技術を用いることでトラッキング精度が向上され,操作も簡単な眼底視野計MacularIntegrityAssessment(以下,maiaTM)が発売された.maiaTMは黄斑部中心10°の視野検査時間が片眼5分と短く操作性も簡便であり,梶田らはMP-1と比較してより高い網膜感度の測定が可能になり,黄斑部の視野測定に有用であると述べている3).フォローアップ機能により同網膜部位での経時的感度変化も確認できる.そこでmaiaTMに付属されているPRLTrainingModuleを使用して中心暗点のある患者に感度の良好な網膜領域への偏心視獲得訓練を試みたので報告する.I対象および方法対象は富山大学附属病院眼科において黄斑部変性を有する,あるいは黄斑疾患に対し薬物治療または硝子体手術を施行され,半年以上経過後病変が安定しているが中心暗点が残存しており視力改善が十分に得られない18例(男性9名,女性9名)である.年齢は25.81歳(平均65±16歳)であった.18例に対し2013年2月から2014年7月までの期間に3回以上のmaiaTMによる偏心視獲得訓練を施行した.18例の疾患内訳は加齢黄斑変性6例,黄斑前膜3例,黄斑下出血2例,中心性漿液性網脈絡症2例,錐体杆体ジストロフィ1例,網膜分離症1例,黄斑光外傷1例,Coats病1例,糖尿病網膜症1例であった.訓練前の遠見矯正視力は0.04.0.6であった.訓練前に遠見矯正視力検査,時計チャートによる自覚的な偏心視方向確認,MNREAD-Jによる読書速度測定,maiaTMによる眼底視野検査を行った.眼底視野検査後,時計チャートで確認した自覚的な偏心視方向を考慮し,眼底視野の画面上のなるべく固視点付近の網膜感度の良好な箇所を新たな固視点「PRLrelocationTarget」(以下,PRT)として選定した.訓練中は検者がPRTへ誘導するよう声を掛ける.訓練中はビープ音が鳴りPRT2度以内に固視が近づけばビープ音の速度が速まり,PRT1度以内では音は連続音となり患者自身にも固視の安定がわかる.訓練は1回10分間行い,4カ月間で3回から5回行った.訓練後に矯正視力を測定し,最終訓練終了時に対象眼のMNREAD-J読書速度測定を行った.訓練効果は訓練前後の矯正視力値,固視成功率(以下P1),最大読書速度についてWilcoxon検定とSpearman順位相関係数を用い検討した.有意水準はp<0.05とした.小数視力はlogMAR値に変換し検討した.II結果全症例の結果を示す(表1).小数視力で1段階以上の視力改善例は18例中15例,不変は3例であった.P1および読書速度は全例改善した.自覚的には全例が見やすくなったと感じていた.両眼視で複視を自覚する症例はなかった.訓練前後の視力変化と読書速度の変化およびP1を示す(図1a,b,c).小数視力はlogMAR値に変換し平均値を計算した.訓練前の矯正視力の平均は0.16±0.48であったが訓練後は0.34±0.59と有意に改善した(p<0.0001).読書速度は訓練前0.382文字/分(平均124±113文字/分)であったが,訓練後は28.422文字(平均163±126文字/分)と有意に改善した(p<0.0001).訓練初回ではP1は5.99%(平均45.33%)を示し固視は不安定であったが,訓練終了後では11.100%(平均56.94%)と有意に改善した(p<0.0007).訓練後矯正視力とP1は有意に相関した(r=.0.57,p=0.01)(図2a).P1と訓練後読書速度も有意に相関した(r=0.48,p=0.04)(図2b).訓練後矯正視力と訓練後読書速度は相関しなかった(r=.0.24,p=0.34)(図2c).つぎに症例を示す.症例1は2012年5月ゴーグルをせずに顕微鏡下で貴金属溶接時の反射光(YAGレーザー工業用class4)を見た.その後,右視力低下を自覚し,近医で黄斑出血を指摘され富山大学附属病院眼科を受診した.初診時矯正視力は右眼(0.08),左眼(1.2)であった.2012年6月に右眼黄斑前膜,黄斑円孔の診断にて硝子体手術を施行された.術後矯正視力は右眼(0.3)であった.黄斑円孔は閉鎖したが脈絡膜萎縮,脈絡膜欠損が残存した.中心暗点があり6カ月経過観察するも視力改善は困難と考えられ,maiaTMによる偏心視訓練を試みることとなった.右眼黄斑部の眼底視野の結果を示す(図3).障害部位に相当する中心窩から鼻側網膜に感度0の箇所があった.時計チャートでは6時から8時方向への偏心視で見えやすいと自覚していたため下耳側にPRTを選定し,訓練を行った.訓練初回と訓練5回目のmaiaTM画像を示す(図4a,b,c,d).訓練初回では固視は安定しておらず訓練後の矯正視力は右眼(0.4)であった(図4a,b).訓練5回目では固視は初回より安定しており矯正視力は(0.7)と向上した(図4c,d).自覚的にも視標が探しやすくなったと感じていた.最大読書速度は訓練前171文字/分であったが,訓練後は278文字/分に改善した.III考按三輪4)は,拡大読書機を使用して偏心視獲得訓練を行う方法を紹介している.訓練は入院して行い同時にロービジョンケアを行い,読書速度は向上し日常生活もしやすくなった症あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015145 表1maiaTM訓練症例症例年齢疾患名左右訓練回数PRT感度(dB)小数視力読書速度(文字数/分)固視成功率(%)自覚コメント訓練前訓練後訓練前訓練後初回訓練後125黄斑光外傷右5180.30.71712315184視標が探しやすくなった277加齢黄斑変性右360.20.315502843視標がすぐわかる,見やすい368黄斑下出血左4190.060.22252581961日常で見やすくなった472網膜分離症左4140.150.31872455369たまによく見える572錐体杆体ジストロフィ右4120.150.375167719訓練はむずかしい666糖尿病網膜症左4190.30.515233137視標が探しやすい774加齢黄斑変性左470.150.216288681少しだけ見やすい875加齢黄斑変性右340.20.26489615少しだけ見やすい,むずかしい981黄斑下出血右360.040.3028511眼を動かすことがわかった,むずかしい1065中心性漿液性網脈絡膜症左3140.20.449687677探しやすい1123コーツ病右3110.060.21171341620見える1264加齢黄斑変性右4180.30.6781389098探しやすい1357黄斑前膜右3170.30.41071417279少し見やすい1476黄斑前膜左3180.080.2741172539見やすい1577加齢黄斑変性右3190.10.362691432少し見やすい1650中心性漿液性網脈絡膜症左3200.50.83824226891探しやすい1767加齢黄斑変性右3220.61.03223849999少し良い1876黄斑前膜右3100.150.22883247069変わらない1.65001201.4400100文字数/分1.2logMAR値P1(%)10020801.03000.80.60.460200400.2000訓練前訓練後初回訓練後a平均0.77logMAR0.47logMARb平均124文字/分163文字数/分c平均45.3%56.9%図1訓練結果a:訓練前後の矯正視力(p<0.0001),b:訓練前後の最大読書速度(p<0.0001),c:訓練前後の固視成功率(p=0.0007).訓練前訓練後読書速度(文字数/分)500読書速度(文字数/分)500400300200100000.20.40.60.8120000.20.40.60.8400300200100010080P1(%)050100150a訓練後視力(logMAR値)b訓練後P1(%)c訓練後視力(logMAR値)図2訓練後の固視成功率と視力,読書速度の関係a:訓練後矯正視力と固視成功率(r=.0.57,p=0.01),b:固視成功率と訓練後読書速度(r=0.48,p=0.04),c:訓練後矯正視力と訓練後読書速度(r=.0.24,p=0.34).(146) (147)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015147例を報告しているが,入院しての訓練は困難であることが多い.そこで外来で簡便に偏心視訓練を行えるmaiaTMによる偏心視獲得訓練を中心暗点のある18例に施行した.15例は視力が改善し,訓練前は0.1以下であった5例は0.2から0.3へと改善した.視力が0.6以上に改善したのは4例であった.4例はいずれも黄斑の障害部位が中心窩から傍中心窩に限局しており網膜感度が18.以上の網膜部位にPRTを選定できたため,偏心視が容易に獲得でき視力改善できたと考えられる.視力不変であった3例は中心暗点が広範でありPRTの網膜感度が10.以下だったためと考えられた.しかし,すべての症例で視標を探しやすくなり読書速度は向上し,自覚的には良かったと答えていた.50歳以上の正常者の最大読書速度の平均は307文字/分であるが5),中心暗点が存在すると読書速度は正常者に比べ有意に低下すると報告がある6,7).今回の結果でも訓練前の対象眼の最大読書速度は平均124文字/分であったが,偏心視獲得訓練後には平均163文字/分と改善した.陳ら7)の報告では,MP-1における固視安定度と最大読書速度は正の相関を示すと報告しているが,今回の結果でも固視の安定を示すP1と読書速度は有意な相関を示し,P1と訓練後矯正視力も有意な相関を示した.固視安定度が視力改善と読書速度改善に不可欠であると考えられる.藤田8)の報告では,PRLは中心窩から萎縮瘢痕病巣辺縁までの最も距離の短いところに確立するとし,黄斑所見からPRT.★図3症例1の右眼眼底視野中心に感度0の部位あり.星印の個所をPRTとして設定.a訓練1回目c訓練5回目bd図4症例1の訓練1回目と5回目の固視安定度a:訓練1回目の固視プロット図,b:1回目のfixationstabilityグラフ,c:訓練5回目の固視プロット図,d:5回目のfixationstabilityグラフ.訓練3回後はPRTに固視点が移動し固視も安定していることがわかる.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015147例を報告しているが,入院しての訓練は困難であることが多い.そこで外来で簡便に偏心視訓練を行えるmaiaTMによる偏心視獲得訓練を中心暗点のある18例に施行した.15例は視力が改善し,訓練前は0.1以下であった5例は0.2から0.3へと改善した.視力が0.6以上に改善したのは4例であった.4例はいずれも黄斑の障害部位が中心窩から傍中心窩に限局しており網膜感度が18.以上の網膜部位にPRTを選定できたため,偏心視が容易に獲得でき視力改善できたと考えられる.視力不変であった3例は中心暗点が広範でありPRTの網膜感度が10.以下だったためと考えられた.しかし,すべての症例で視標を探しやすくなり読書速度は向上し,自覚的には良かったと答えていた.50歳以上の正常者の最大読書速度の平均は307文字/分であるが5),中心暗点が存在すると読書速度は正常者に比べ有意に低下すると報告がある6,7).今回の結果でも訓練前の対象眼の最大読書速度は平均124文字/分であったが,偏心視獲得訓練後には平均163文字/分と改善した.陳ら7)の報告では,MP-1における固視安定度と最大読書速度は正の相関を示すと報告しているが,今回の結果でも固視の安定を示すP1と読書速度は有意な相関を示し,P1と訓練後矯正視力も有意な相関を示した.固視安定度が視力改善と読書速度改善に不可欠であると考えられる.藤田8)の報告では,PRLは中心窩から萎縮瘢痕病巣辺縁までの最も距離の短いところに確立するとし,黄斑所見からPRT.★図3症例1の右眼眼底視野中心に感度0の部位あり.星印の個所をPRTとして設定.a訓練1回目c訓練5回目bd図4症例1の訓練1回目と5回目の固視安定度a:訓練1回目の固視プロット図,b:1回目のfixationstabilityグラフ,c:訓練5回目の固視プロット図,d:5回目のfixationstabilityグラフ.訓練3回後はPRTに固視点が移動し固視も安定していることがわかる. PRLの位置を予想することはPRLを誘導するための有用な情報であると述べている.maiaTMの利点として,1)網膜直視下で中心窩に近い感度の良い網膜領域をPRTに選定でき,操作は簡便である点,2)ビープ音で患者自身にも固視の安定が理解できるため,PRTへの誘導が容易である点が挙げられる.中心暗点がある患者は,視力検査の際,暗点を避けて視標を見ようと顔を動かしているが,顔を大きく動かしているほどには視線は動いておらず,偏心視を確立できているとはいえない状態である.偏心視が確立できていれば顔を大きく動かさずとも視標を捉えられる.maiaTMによる偏心視獲得訓練では訓練後に視力測定を行うが,訓練直後は顔を大きく動かさずとも視標を捉えられるため,偏心視で見えることに患者自身も理解できてくる.今回,筆者らは,眼底視野計maiaTMを使用して中心暗点を有する患者に偏心視獲得訓練を行い,固視安定と遠見視力と最大読書速度の改善を得た.maiaTMは画面上から網膜感度を確認し,感度良効な網膜部位を使用するため,訓練に対する患者の理解が得られやすく,効果が患者自身で納得できるため偏心視獲得訓練に有効であると考えられた.文献1)鈴木リリ子,高野雅彦,飯田麻由佳ほか:Microperimeter-1(MP-1TM)を用いた黄斑円孔術前後の視機能評価.あたらしい眼科29:691-695,20122)平野美恵子,毛塚剛司,菅野敦子ほか:マイクロペリメーター(MP-1)による固視評価を利用した弱視治療の予後判定.眼臨紀4:748-751,20113)梶田房枝,新井みゆき,山本修一:正常者における2種類の眼底直視下微小視野計の計測結果の比較.あたらしい眼科29:1709-1711,20124)三輪まり枝:拡大読書器を用いたPreferredRetinalLocus(PRL)の獲得および偏心視の訓練.日本ロービジョン学会誌10:23-30,20105)藤田京子,成瀬睦子,小田浩一ほか:加齢黄斑変性滲出型瘢痕期の読書成績.日眼会誌109:83-87,20056)藤田京子,安田典子,小田浩一ほか:緑内障による中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,20067)陳進志,涌澤亮介,阿部俊明ほか:微小視野計MP-1で測定した偏心固視症例における固視と視力,読書能力との関係.臨眼62:1245-1249,20088)藤田京子:PreferredRetinalLocus(PRL)の評価.日本ロービジョン学会誌10:20-22,2010***(148)

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験

2015年1月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(1):133.143,2015c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックALong-term,Open-labelStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)inPatientswithOpen-angleGlaucomaorOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic目的:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の52週間投与時の有効性と安全性を検討する.対象:2剤以下の治療,または無治療で両眼の眼圧13mmHg以上の開放隅角緑内障および高眼圧症患者136例を対象とした.デザイン:オープンラベルによる多施設共同試験とした.方法:導入期は0.0015%タフルプロスト単剤,0.5%チモロール単剤,または両剤の併用に無作為に割り付け,4週間点眼した.治療期はDE-111点眼液を52週間点眼した.結果:治療期間を通じて治療期0週に比べ.1.3±2.2..1.8±2.3mmHgと安定した眼圧下降作用を示し,治療期終了時の眼圧は.1.7±2.4mmHgと有意に低下した.副作用発現率は44.1%であり,その多くは軽度であった.結論:本剤の長期投与における安定した眼圧下降作用および安全性が確認された.Purpose:Theaimofthisstudywastoevaluatetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionof0.0015%tafluprost/0.5%timolol(DE-111),administeredfor52weeks.Subjects:Involvedwere136patientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension,whoseintraocularpressure(IOP)inbotheyeswasnotlessthan13mmHgundertreatmentwithtwoorfewerdrugs,orwithouttreatment.Design:Open-label,multicenterstudy.Method:Patientswererandomlyassignedtothetafluprost,timololorconcomitantgroup,theinitialdrugbeinginstilledfor4weeks,followedbyDE-111for52weeks,asatreatmentperiod.Result:IOPreductionfrombaselinewasstableintherangeof.1.3±2.2mmHgto.1.8±2.3mmHgthroughoutthetreatmentperiod,andwassignificantlyloweredby.1.7±2.4mmHgattheendoftreatment.Adversedrugreactionswereobservedin44.1%;mostofsuchcasesweremild.Conclusion:DE-111showedastableandexcellentIOP-loweringeffect,andwassafeinlong-termtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):133.143,2015〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,DE-111.はじめに緑内障治療の目的は,患者の視機能を維持することであるが,唯一エビデンスが得られている治療法は眼圧を下降させることである.通常,緑内障治療の第一選択となるのは薬物治療であり,まず単剤から治療が開始される.しかし,単剤治療ですべての患者に対して十分な眼圧が達成できない場合もあり,2剤以上の薬剤が併用されている患者は少なくない1,2).併用治療では,薬剤数と点眼回数が増加するため,負担を感じる患者は多い.実際に,2000年に実施された緑内障患者へのアンケート調査3)でも,理想の点眼薬としては「少ない点眼回数でよいこと」が最上位に挙げられている.また,慢性疾患である緑内障は明確な自覚症状のない患者や〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,5-6-16Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(133)133 高齢者の患者も多く,多剤併用療法が必要な患者において複数の点眼液を規定どおりに点眼し続けることは容易ではない.規定どおりの点眼回数や推奨される点眼間隔が守られていなければ期待した眼圧下降効果が得られず,視野障害の進行を十分抑制できないため,良好なアドヒアランスが得られやすい薬剤を選択することが重要である.配合点眼液は薬剤数および1日の点眼回数を減らし,患者の利便性,アドヒアランスおよびQOL(qualityoflife)を改善しうる.このことから,近年国内では,緑内障の治療薬として配合点眼液が次々と販売され臨床使用されるようになった.『緑内障診療ガイドライン』(第3版)4)では「原則として配合点眼液は多剤併用時のアドヒアランス向上が主目的であり,第一選択薬ではない」と配合点眼液が位置づけされており,「原則的に初回から配合点眼液を使用することなく,単剤併用により副作用の有無や眼圧下降効果を評価することが望ましい」と述べられている.このことから,臨床現場では治療効果が不十分な単剤あるいは多剤併用からの切り替えで配合点眼液が使用されることが原則となっている.また,慢性疾患である緑内障の治療において,視神経障害の進行を阻止しうる眼圧を長期間にわたり維持していくことが重要であることから,長期間の投与で安定した眼圧下降作用および忍容性を有することが配合点眼液にとって必要である.DE-111点眼液は,有効成分としてタフルプロストを0.0015%,チモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,両点眼液の併用治療に比べて患者の利便性,アドヒアランスおよびQOLを改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.今回,開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,0.0015%タフルプロスト点眼液,0.5%チモロール点眼液,または0.0015%タフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の併用からDE-111点眼液へ切り替えた際の52週間投与における安全性および眼圧下降効果を,オープンラベルによる多施設共同試験により検討したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.また,試験登録はClinicalTrials.gov(IdentifiedNo.NCT01343082)に行った.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国11医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験責任医師は,被験者選定および同意の取得,実施計画書に沿った試験の実施,データ収集の役割を担った.試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療法人大宮はまだ眼科濱田直紀医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団平和会葛西眼科医院村瀬洋子医療法人頼母会ごうど眼科神戸孝医療法人栗山会飯田病院眼科浅井裕子医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男たはら眼科田原恭治医療法人永山眼科クリニック永山幹夫医療法人社団越智眼科越智利行,朝比奈恵美表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)両眼の眼圧が2剤(配合剤1剤は2剤に数える)以下の治療,または無治療で13mmHg以上,34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下の①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)導入期開始前90日以内に前眼部または内眼の手術〔緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)を含む〕の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断した134あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(134) 同意取得0週登録/割付登録0週登録/割付登録導入期4週間治療期52週間タフルプロストDE-111併用(タフルプロスト+チモロール)チモロールオープン無作為化,オープン【導入期】導入期タフルプロスト群:0.0015%タフルプロスト点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼導入期チモロール群:0.5%チモロール点眼液1回1滴,1日2回(朝,夜),両眼点眼導入期併用群:0.0015%タフルプロスト点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼0.5%チモロール点眼液1回1滴,1日2回(朝,夜),両眼点眼【治療期】DE-111:DE-111点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼図1試験デザイン2.目的DE-111点眼液の長期投与(52週間)における眼圧下降効果および安全性を検討することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障または正常眼圧緑内障),落屑緑内障,色素緑内障または高眼圧症と診断され,両眼の眼圧が2剤(配合剤1剤は2剤に数える)以下の治療,または無治療で13mmHg以上,34mmHg以下であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験はオープンラベルによる多施設共同試験として実施した.今回の試験では,臨床の使用状況と同じになるよう,治療期の前に導入期を設けた.被験者から文書による同意取得後,選択基準に適合し,除外基準に抵触しない被験者に導入期点眼液を無作為に割り付けた.導入期点眼液は0.0015%タフルプロスト点眼液(導入期タフルプロスト群),0.5%チモロール点眼液(導入期チモロール群),または0.0015%タフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の併用(導入期併用群)のいずれかとし,導入期開始前の治療状況に関係なく各群1:1:1となるよう無作為に割り付けた.このとき,タフルプロストは1日1回朝両眼に,チモロールは(135)1日2回朝夜両眼に点眼した.なお,前治療薬の影響を消失させ,導入期点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.治療期0週当日朝は導入期点眼液を点眼せず来院し眼圧を測定したのちに,治療期開始登録を行って,52週間の治療期に移行した.治療期にはDE-111点眼液を1日1回朝両眼に点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.なお,導入期点眼液の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法・封筒法による無作為化(ブロックサイズ3,割付割合1:1:1)により行い,キーコードは全例の治療期開始が確認されるまで封入し試験薬割付責任者が保管した.c.症例数日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)E1ガイドライン「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間」(1995年)を参考として52週点眼例を100例以上とし,中止率を考慮して目標症例数を126例と設定した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015135 表3検査・観察スケジュール導入期治療期.4週0週4,8,12,16,20,24週28週32,36,40,44,48週52週/中止時文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●●眼圧測定(9.10時)●(午前中)●●●●●隅角検査●視力検査●●●視野検査●●●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿・尿中hCG)●●●前眼部写真撮影●有害事象●a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査確認した.b.試験薬の点眼状況治療期以降の来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,隅角検査,視力検査,視野検査,眼底検査,臨床検査(血液・尿)および前眼部写真撮影を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,および治療期4週ごとに,または中止時にGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入期開始時は午前中,治療期0.52週は朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.なお,細隙灯顕微鏡検査における角膜フルオレセイン染色スコアは,評価基準0:フルオレセインで染色されない,1:限局的に点状のフルオレセイン染色が認められる,2:限局的に密なまたはびまん性の点状のフルオレセイン染色が認められる,3:びまん性に密な点状のフルオレセイン染色が認められる,とした.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,緑内障または高眼圧症に対する治療136あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015薬,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価評価項目は,試験薬投与前後の朝点眼前の眼圧測定時(9.10時)の眼圧変化量とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,被験薬を少なくとも1回点眼し,治療期の朝点眼前の眼圧測定値が1回でも得られた被験者(有効性解析対象集団)を対象とした.有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.b.安全性解析対象安全性は,被験薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い規定来院日の許容範囲内に複数の検査値がある場合,検査当日朝の点眼遵守状況がより良好な検査値を採用した.なお,中止の来院時で得られた検査値は,中止時データとして採用した.(136) 文書同意を得た被験者:162例無作為割付された被験者:148例無作為割付されなかった被験者:14例試験開始後に不適格が判明:11例その他:3例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:49例導入期併用群:48例導入期点眼液が投薬された被験者:147例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:48例導入期併用群:48例導入期点眼液未投与例:1例導入期タフルプロスト群:0例導入期チモロール群:1例導入期併用群:0例治療期に組み入れられた被験者:136例導入期中止例:11例導入期タフルプロスト群:48例導入期チモロール群:45例導入期併用群:43例導入期タフルプロスト群:3例導入期チモロール群:3例導入期併用群:5例DE-111点眼液が投薬された被験者136例DE-111点眼液未投与例:0例試験を完了した被検者:110例治療期中止例:26例文書同意を得た被験者:162例無作為割付された被験者:148例無作為割付されなかった被験者:14例試験開始後に不適格が判明:11例その他:3例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:49例導入期併用群:48例導入期点眼液が投薬された被験者:147例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:48例導入期併用群:48例導入期点眼液未投与例:1例導入期タフルプロスト群:0例導入期チモロール群:1例導入期併用群:0例治療期に組み入れられた被験者:136例導入期中止例:11例導入期タフルプロスト群:48例導入期チモロール群:45例導入期併用群:43例導入期タフルプロスト群:3例導入期チモロール群:3例導入期併用群:5例DE-111点眼液が投薬された被験者136例DE-111点眼液未投与例:0例試験を完了した被検者:110例治療期中止例:26例図2被験者の内訳d.解析方法有効性の評価の解析は,治療期0週からの変化量の平均,標準偏差を示し,対応のあるt検定を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計した.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.なお,解析は参天製薬株式会社が実施した.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得た被験者は162例で,導入期点眼液が無作為化割り付けされた被験者は148例,そのうち,導入期点眼液が投薬された症例は147例,導入期で中止となった症例が11例であった.この後,治療期に組入れられた症例は136例,治療期中に26例が治験を中止し,110例が試験を完了した.治療期に組み入れられた136例を有効性解析対象集団および安全性解析対象集団とした.被験者背景を表4に示した.(137)合併症では高血圧症の合併率が最も高くタフルプロスト群39.6%(19/48例),チモロール群57.8%(26/45例),併用群46.5%(20/43例)であった.眼合併症を有していた症例はタフルプロスト群47.9%(23/48例),チモロール群55.6%(25/45例),併用群51.2%(22/43例)であり,最も多かった合併症は白内障であった.各群の合併症の種類および合併率に特徴的な相違は認められなかった.2.有効性導入期.4週の眼圧平均値は17.8mmHg,治療期0週の眼圧平均値は16.7mmHgで有意に下降していた.治療期では,さらに眼圧下降がみられ,その眼圧下降は治療期0週と比較してすべての測定時点において有意であった.各測定時点の眼圧変化量の平均は,.1.3mmHg(p<0.001)..1.8mmHg(p<0.001)で推移しており,52週間眼圧下降効果の減弱はなかった(表5,図3).病型別でみると,治療期終了時での眼圧変化量の平均は,原発開放隅角緑内障(狭義).1.6mmHg(治療期0週:17.2mmHg),正常眼圧緑内障.1.5mmHg(治療期0週:15.2mmHg),高眼圧症.1.9mmHg(治療期0週:17.6mmHg)といずれの病型においても有意な眼圧下降(p<0.001)を示し,病型による差はなかった(表6).導入期点眼液別に比較すると,導入期タフルプロスト群では,導入期.4週から治療期0週に.1.3mmHg(p=0.002)の有意な眼圧下降を示し,DE-111点眼液に切り替えた治療期4週には治療期0週と比較して.1.7mmHg(p<0.001)と,さらに有意な眼圧下降を示した.治療期52週.2.2あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015137 表4治療期に組み入れられた被験者背景項目分類導入期タフルプロスト群導入期チモロール群導入期併用群全体例数484543136病型原発開放隅角緑内障(狭義)17(35.4)16(35.6)15(34.9)48(35.3)正常眼圧緑内障16(33.3)16(35.6)16(37.2)48(35.3)落屑緑内障0(0.0)2(4.4)0(0.0)2(1.5)色素緑内障0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)高眼圧症15(31.3)11(24.4)12(27.9)38(27.9)性別男22(45.8)15(33.3)18(41.9)55(40.4)女26(54.2)30(66.7)25(58.1)81(59.6)年齢65歳未満24(50.0)22(48.9)16(37.2)62(45.6)65歳以上24(50.0)23(51.1)27(62.8)74(54.4)最小.最大28.8225.8337.8525.85平均値±標準偏差62.5±12.763.7±12.166.0±11.064.0±12.0緑内障前治療薬なし9(18.8)5(11.1)6(14.0)20(14.7)あり39(81.3)40(88.9)37(86.0)116(85.3)合併症なし8(16.7)4(8.9)4(9.3)16(11.8)あり40(83.3)41(91.1)39(90.7)120(88.2)導入期の隅角(Shaffer分類)349(18.8)39(81.3)8(17.8)37(82.2)12(27.9)31(72.1)29(21.3)107(78.7)導入期の緑内障性の視野異常なしあり21(43.8)27(56.3)17(37.8)28(62.2)22(51.2)21(48.8)60(44.1)76(55.9)導入期の緑内障性の眼底異常なしあり15(31.3)33(68.8)11(24.4)34(75.6)13(30.2)30(69.8)39(28.7)97(71.3)導入期開始時の眼圧最小.最大14.0.30.013.0.23.013.0.27.013.0.30.0平均値±標準偏差18.3±3.417.2±2.917.8±3.317.8±3.2導入期終了時の眼圧最小.最大13.0.24.511.0.24.010.0.24.010.0.24.5平均値±標準偏差17.0±2.417.1±2.715.8±3.016.7±2.7例数(%).mmHg(p<0.001)と眼圧下降効果は維持された.導入期チモロール群では,導入期.4週から治療期0週に.0.1mmHgの眼圧下降を示した.DE-111点眼液に切り替えた治療期4週には治療期0週と比較して.2.1mmHg(p<0.001)と,さらに有意な眼圧下降を示し,治療期52週.2.7mmHg(p<0.001)とその効果は維持された.導入期併用群では,導入期.4週から治療期0週に.2.0mmHg(p<0.001)の有意な眼圧下降を示した.DE-111点眼液に切り替えた後の治療期4週には治療期0週と比較して.0.4mmHgと有意な変動はなく,治療期52週も.0.4mmHgとその効果は維持された(図4,5).3.安全性a.有害事象および副作用治療期全体の有害事象の発現率は72.8%(99/136例)で138あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015あり,そのうち,DE-111点眼液との因果関係が否定できない有害事象(副作用)は44.1%(60/136例)であった(表7).DE-111点眼液の副作用により試験中止に至った被験者は,全身性皮疹を発現した1例および頭痛を発現した1例であり,いずれも投与中止後に回復した.また,重篤な副作用の発現はなかった.おもな副作用は,睫毛の成長(24.3%,33/136例),結膜充血(9.6%,13/136例),点状角膜炎(8.1%,11/136例),および眼瞼色素沈着(6.6%,9/136例)であった(表8).副作用の重症度は,中等度と判断された全身性皮疹(0.7%,1/136例)を除き,すべて軽度であった.また,全身性皮疹(0.7%,1/136例),頭痛(0.7%,1/136例)および多毛症(2.2%,3/136例)を除き,すべて眼障害であった.副作用の初回発現時期は,治療期開始後0.29日:17例,30.59(138) 日:11例,60.89日:8例,90.119日:7例,120.149日:4例,その後329日まで30日ごとに1.3例で推移し,330日以降に新たな発現は認められず,投与期間が長くなっても発現頻度が高まることはなかった.また,おもな副作用別に発現時期をみると,睫毛の成長は30.59日:6例,60.89日:4例,90.119日:5例に,眼瞼色素沈着は60.89日:5例に,結膜充血は0.29日:6例に発現頻度が高かった.点状角膜炎は治験期間中30日ごとに0.2例で推移した.年齢別の有害事象発現率は,65歳未満で72.6%(45/62例),65歳以上で73.0%(54/74例)であった.そのうち副作用は,65歳未満で45.2%(28/62例),65歳以上で43.2%(32/74例)であり,65歳未満と65歳以上に差異は認められなかった.個別事象では65歳未満,65歳以上ともに睫毛の成長(65歳未満:27.4%,17/62例,65歳以上:21.6%,16/74例)が最も多く認められ,眼瞼色素沈着(65歳未満:6.5%,4/62例,65歳以上:6.8%,5/74例)も共通して認められた.その他,結膜充血(65歳未満:14.5%,9/62例,65歳以上:5.4%,4/74例)は65歳未満で多く,点状角膜炎(65歳未満:3.2%,2/62例,65歳以上:12.2%,9/74例)は65歳以上で多い傾向であったが,いずれの事象もすべて軽度であった.導入期点眼液群別にみると,導入期とDE-111点眼液に切り替えた際の治療期4週時点までの副作用発現率を比較すると,導入期タフルプロスト群で導入期6.3%(3/48例)治療期4週8.3%(4/48例),導入期チモロール群で導入期(,)2.2%(1/45例),治療期4週20.0%(9/45例),導入期併用群で導入期7.0%(3/43例),治療期4週14.0%(6/43例)2422201816141210-4048121620週週週週週週週眼圧(mmHg)であり(表9),導入期チモロール群で治療期4週時点までの副作用発現率が最も高かった.b.臨床検査臨床検査の各項目平均値では,治療期28週に赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数,Al-P,アルブミン,総コレステロール,K,Clが,治療期52週に尿酸,Al-P,アルブミン,K,Clが投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する副作用は認められなか表5眼圧実測値および眼圧変化値の推移DE-111群時期実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値.4週17.8±3.2(136)0週16.7±2.7(136).1.1±2.8*(136)<0.0014週15.2±3.0(136).1.4±2.3(136)<0.0018週15.2±2.9(131).1.5±2.2(131)<0.00112週15.2±3.0(126).1.4±2.1(126)<0.00116週15.1±2.9(120).1.4±2.3(120)<0.00120週15.0±2.5(118).1.4±2.2(118)<0.00124週14.9±2.7(116).1.5±2.2(116)<0.00128週15.1±2.9(115).1.3±2.2(115)<0.00132週15.1±2.6(114).1.3±2.2(114)<0.00136週15.0±2.8(113).1.5±2.3(113)<0.00140週14.7±2.7(113).1.7±2.2(113)<0.00144週14.8±2.6(112).1.7±2.3(112)<0.00148週14.7±2.8(110).1.8±2.3(110)<0.00152週14.7±2.5(111).1.8±2.2(111)<0.001治療期終了時15.0±2.8(136).1.7±2.4(136)<0.001平均値±標準偏差,()内は例数,p値:対応のあるt検定,*:0週は.4週からの変化値.**************************##:DE-1112428323640444852週週週週週週週週図3眼圧実測値の推移##p<0.001(対応のあるt検定,.4週との比較).**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.(139)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015139 表6眼圧実測値および0週からの変化値の推移(病型別)原発開放隅角緑内障(狭義)正常眼圧緑内障高眼圧症落屑緑内障時期実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg).4週17.6±3.1(48)15.8±1.8(48)20.4±3.0(38)20.0±1.4(2)0週17.2±2.7(48)15.2±2.0(48)17.6±2.9(38)19.5±0.7(2)4週16.1±3.1(48).1.1±2.4(48)0.00313.6±2.2(48).1.7±2.2(48)<0.00116.1±3.1(38).1.4±2.3(38)<0.00116.0±0.0(2).3.5(2)8週16.1±2.9(46).1.3±2.3(46)0.00113.7±2.2(46).1.5±2.1(46)<0.00116.0±2.9(37).1.6±2.3(37)<0.00116.5±2.1(2).3.0(2)12週15.9±3.0(44).1.4±2.2(44)<0.00113.8±2.1(46).1.4±2.0(46)<0.00116.2±3.5(34).1.0±2.2(34)0.00915.3±2.5(2).4.3(2)16週15.8±2.9(40).1.4±2.5(40)0.00113.8±2.2(46).1.4±2.2(46)<0.00115.8±3.3(32).1.2±2.1(32)0.00216.5±0.7(2).3.0(2)20週15.8±2.9(40).1.3±2.4(40)0.00114.0±2.1(46).1.2±2.2(46)<0.00115.4±2.0(30).1.5±2.1(30)<0.00116.8±0.4(2).2.8(2)24週15.8±2.8(40).1.4±2.3(40)0.00113.9±2.5(44).1.4±2.2(44)<0.00115.4±2.6(30).1.6±2.0(30)<0.00115.0±1.4(2).4.5(2)28週16.0±3.0(39).1.2±2.5(39)0.00513.7±2.6(44).1.6±2.3(44)<0.00115.8±2.5(30).1.1±2.0(30)0.00417.3±1.8(2).2.3(2)32週15.9±2.8(39).1.2±2.7(39)0.00713.8±2.3(43).1.5±2.2(43)<0.00115.7±2.2(30).1.2±1.6(30)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)36週15.9±2.6(38).1.3±1.9(38)<0.00113.5±2.6(43).1.8±2.5(43)<0.00115.8±2.8(30).1.1±2.4(30)0.01415.5±0.0(2).4.0(2)40週15.7±2.3(38).1.6±2.1(38)<0.00113.5±2.5(43).1.8±2.5(43)<0.00115.1±2.6(30).1.8±2.2(30)<0.00118.0±0.0(2).1.5(2)44週15.8±2.3(37).1.5±2.1(37)<0.00113.4±2.3(43).1.9±2.5(43)<0.00115.1±2.4(30).1.8±2.3(30)<0.00119.8±3.2(2)0.3(2)48週15.6±2.4(36).1.7±2.2(36)<0.00113.3±2.7(42).2.1±2.6(42)<0.00115.5±2.5(30).1.5±2.0(30)<0.00118.8±2.5(2).0.8(2)52週15.5±2.2(37).1.8±2.3(37)<0.00113.5±2.4(42).1.9±2.4(42)<0.00115.1±2.3(30).1.9±2.0(30)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)治療期終了時15.7±2.5(48).1.6±2.3(48)<0.00113.7±2.4(48).1.5±2.6(48)<0.00115.6±3.0(38).1.9±2.2(38)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)平均値±標準偏差,()内は例数,p値:対応のあるt検定.眼圧(mmHg)2422201816141210-40481216202428323640444852****************************************************###:導入期タフルプロスト群:導入期チモロール群:導入期併用群週週週週週週週週週週週週週週週図4導入期薬剤別の眼圧実測値の推移#p<0.01,##p<0.001(対応のあるt検定,.4週との比較).**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.140あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(140) 眼圧(mmHg)76543210-1-2-3-4-5-6-70481216202428323640444852:導入期タフルプロスト群********************************:導入期チモロール群:導入期併用群********************週週週週週週週週週週週週週週図50週からの眼圧変化量の推移**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.表7有害事象と副作用の発現例数および発現率安全性解析対象集団例数136導入期有害事象発現例数(%)14(10.3)副作用発現例数(%)7(5.1)治療期有害事象発現例数(%)99(72.8)副作用発現例数(%)60(44.1)表9導入期点眼液別の副作用の発現例数および発現率(導入期と治療期4週までの比較)導入期タフル導入期チモ導入期プロスト群ロール群併用群安全性解析対象集団例数484543導入期(4週間)副作用発現例数(%)3(6.3)1(2.2)3(7.0)治療期4週まで副作用発現例数(%)4(8.3)9(20.0)6(14.0)った.また,薬剤との因果関係が否定できないとされた臨床検査値の異常変動は1.5%(2/136例,項目:白血球数,尿ウロビリノーゲン)に認められたが,点眼を継続しても尿ウロビリノーゲンは試験中に,白血球数は終了後に試験開始時と同程度に回復した.c.血圧・脈拍数血圧の平均値は,収縮期血圧の治療期0週からの有意な上昇が8週(変化量の平均値±標準偏差:2.36±12.27mmHg,p=0.030),20週(2.63±14.17mmHg,p=0.046),28週(3.42±15.05mmHg,p=0.016)に認められた.拡張期血圧の治療期0週からの有意な上昇が8週(変化量の平均値±標表8治療期副作用一覧安全性解析対象集団例数136副作用発現例数(%)60(44.1)眼障害眼瞼色素沈着9(6.6)眼瞼炎1(0.7)結膜沈着物1(0.7)結膜出血2(1.5)アレルギー性結膜炎2(1.5)眼乾燥4(2.9)眼刺激4(2.9)くぼんだ眼1(0.7)涙液分泌低下1(0.7)眼充血1(0.7)点状角膜炎11(8.1)睫毛乱生2(1.5)睫毛の成長33(24.3)眼の異物感2(1.5)結膜充血13(9.6)眼瞼そう痒症1(0.7)眼そう痒症1(0.7)眼障害以外頭痛1(0.7)多毛症3(2.2)全身性皮疹1(0.7)準偏差:2.09±7.78mmHg,p=0.003),12週(1.43±7.61mmHg,p=0.037)に,治療期0週からの有意な下降が48週(.1.80±8.42mmHg,p=0.026),52週(.1.65±8.07mmHg,p=0.035)に認められた.ただし,その変化量は臨床上問題ない程度であった.脈拍数の平均値は,いずれの観察時点においても治療期0週からの有意な上昇を認めたが,その変化量は1.8.4.4拍/(141)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015141 分と臨床上問題ない程度であった.導入期点眼液群別に検討したところ,収縮期血圧および拡張期血圧は,どの群でも治療期0週に比較して治療期4週時点で有意な変動は認めなかった.脈拍数の平均値は,導入期チモロール群または導入期併用群において治療期0週から治療期4週に有意な上昇を認めたが,その変化量は臨床上問題ない程度であった.なお,以上の血圧,脈拍数の変動に関連する副作用はなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査,視野検査)細隙灯顕微鏡検査所見の角膜フルオレセイン染色スコアは,治療期0週と比較した有意なスコアの上昇が治療期16週の左眼,20週の右眼,24週の左眼,28週の左眼,40週の左眼,44週の両眼に認められた.その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.視力検査では,導入期.4週と比較して治療期の28週右眼についてのみ視力低下が25例,変動なしが95例,改善が12例と低下例が有意に多かった.しかし,治療期52週では両眼とも有意な差は認められなかった.また,視力低下を伴う有害事象として,網脈絡膜萎縮が1例(0.7%),後.部混濁が2例(1.5%)に認められたものの,DE-111点眼液との因果関係は否定された.視野検査では,緑内障性視野異常の有無に有意な変動は認められなかった.Humphrey視野計を用いた視野感度の平均偏差値は,導入期.4週と比較した有意な感度低下が治療期28週の両眼に認められたが,治療期52週では認められなかった.Octopus視野計を用いた視野感度の平均欠損値はいずれの測定時点でも有意な変動は認められなかった.また,視野の感度低下を伴う有害事象として,後.部混濁が1例(0.7%)に認められたものの,DE-111点眼液との因果関係は否定された.III考察近年国内では,プロスタグランジン(PG)関連薬とb遮断薬,あるいはb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を配合した配合点眼液が次々に発売され,臨床で使用されている.DE-111点眼液もPG関連薬であるタフルプロストとb遮断薬であるチモロールを含有する配合点眼液である.これらの配合点眼液は第一選択薬としてではなく,治療効果が不十分な単剤あるいは多剤併用からの切り替えで使用されることが原則である.このことから,本試験では,単剤あるいは多剤併用から配合点眼液へ切り替えた場合の有効性および安全性を確認するため,導入期としてタフルプロスト,チモロールまたはそれらの併用を4週間投与した後,治療期としてDE-111点眼液に切り替え52週間投与する試験デザインとした.142あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015DE-111は,治療期のすべての測定時点において,治療期0週と比較して眼圧変化量が有意に下降し,その効果は治療期52週まで減弱を認めなかった.また,日本での有病率が高い正常眼圧緑内障5)を含む緑内障病型別において眼圧下降作用に差異は認めず,安定した眼圧下降作用を示すことが確認された.導入期点眼液別にみると,導入期タフルプロスト群と導入期チモロール群では,治療期0週と比較して有意な眼圧下降が治療期4週に得られ,その後52週まで眼圧下降効果の減弱は認めなかった.導入期併用群では,治療期0週と比較して眼圧値に有意な変動はなく,治療期52週まで安定した眼圧推移を示した.このことから,DE-111点眼液は治療強化のために単剤治療から切り替えた場合はさらなる眼圧下降効果が期待でき,利便性やアドヒアランスの改善のために併用治療から切り替えた場合は併用治療時と同程度の眼圧下降効果が期待できる臨床的に有用な配合点眼液と考えられる.安全性については,試験期間を通じて,重篤な副作用はみられなかった.おもな副作用は睫毛の成長(24.3%,33/136例),結膜充血(9.6%,13/136例),点状角膜炎(8.1%,11/136例)および眼瞼色素沈着(6.6%,9/136例)であった.発現時期は,睫毛の成長は投与1.4カ月後に,眼瞼色素沈着は投与2.3カ月後に,結膜充血は投与1カ月後に多く認められ,点状角膜炎は治験期間中を通じて認められた.副作用の多くは眼障害であり,すべて軽度であった.これらは,PG関連薬の副作用として知られていることから6.8),DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロストに由来していると考えられた.各導入期点眼液群からDE-111点眼液に切り替えた際の副作用発現率を治療期4週時点までと比較すると,導入期チモロール群からの切り替えで最も高かった.導入期チモロール群からDE-111点眼液に切り替えて発現した副作用の内訳は結膜充血が3件のほか,眼瞼色素沈着,点状角膜炎,睫毛の成長,眼の異物感,眼瞼そう痒症,全身性皮疹が各1件であった.これらの多くはPG関連薬に特徴的な副作用であることから,DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロストが要因と考えられた.年齢別の比較では,65歳未満と65歳以上に副作用の発現頻度の差異は認められなかった.個別事象における副作用では結膜充血は65歳未満で,点状角膜炎は65歳以上で多く認められたが,睫毛の成長,眼瞼色素沈着などでは年齢の影響は認めなかった.また,臨床検査値,眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査所見,視力および視野),血圧,脈拍数についても,特に安全性上問題となるものは認められなかった.これまで,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼液としては,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)とトラボ(142) プロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)があり,日本人緑内障患者を対象とした臨床試験について数報の論文報告がある9.12).このうち,12カ月間の長期投与試験として,正常眼圧緑内障を含む原発開放隅角緑内障患者を対象とし0.005%ラタノプロスト点眼液と0.5%チモロール点眼液の併用治療を3カ月以上行った後に,washout期間を設けずにザラカムR配合点眼液に切り替え,12カ月間投与した報告12)では,配合点眼液による治療開始時の眼圧平均値は15.2mmHgであり,12カ月間点眼後の眼圧平均値は15.1mmHgであった.本試験では,併用群の治療期0週の眼圧平均値は15.8mmHg,治療期終了時の眼圧平均値は15.4mmHgであり,同様の結果であった.また,ザラカムR配合点眼液12カ月間投与では,眼圧下降不十分あるいは副作用により19.1%(31/162例)が試験中に中止していた.一方,今回の試験では併用からDE-111点眼液に切り替え後に,眼圧下降不十分あるいは有害事象による中止は11.6%(5/43例)であった.以上,日本での有病率が高い正常眼圧緑内障を含む開放隅角緑内障および高眼圧症患者において,DE-111点眼液は,52週間にわたり良好かつ安定した眼圧下降を示し,長期点眼時の安全性についても,問題ないことが確認された.このことから,DE-111点眼液は,長期にわたる緑内障治療において有用性の高い配合点眼液である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査2009年度版─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,20112)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20063)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,20064)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20125)鈴木康之,山本哲也,新家眞ほか:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)総括報告.日眼会誌112:1039-1058,20086)相原一:プロスタグランジン関連薬.あたらしい眼科29:443-450,20127)InoueK,ShiokawaM,HigaRetal:Adverseperiocularreactionstofivetypesofprostaglandinanalogs.Eye(Lond)26:1465-1472,20128)YoshinoT,FukuchiT,ToganoTetal:Eyelidandeyelashchangesduetoprostaglandinanalogtherapyinunilateraltreatmentcases.JpnJOphthalmol57:172-178,20139)KashiwagiK:Efficacyandsafetyofswitchingtotravoprost/timololfixed-combinationtherapyfromlatanoprostmonotherapy.JpnJOphthalmol56:339-345,201210)InoueK,FujimotoT,HigaRetal:Efficacyandsafetyofaswitchtolatanoprost0.005%+timololmaleate0.5%fixedcombinationeyedropsfromlatanoprost0.005%monotherapy.ClinOphthalmol6:771-775,201211)InoueK,SetogawaA,HigaRetal:Ocularhypotensiveeffectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%fixedcombinationafterchangeoftreatmentregimenfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthalmol6:231-235,201212)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:Assessmentofocularhypotensiveeffectandsafety12monthsafterchangingfromanunfixedcombinationtoalatanoprost0.005%+timololmaleate0.5%fixedcombination.ClinOphthalmol6:607-612,2012***(143)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015143

My boom 36.

2015年1月30日 金曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第36回「木村修平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第36回「木村修平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介木村修平(きむら・しゅうへい)岡山大学医学部眼科学教室私は岡山大学医学部を卒業後,2001年に岡山大学医学部眼科学教室に入局し,倉敷中央病院内科系レジデント,岡山大学大学院,倉敷成人病センター,姫路赤十字病院を経て,2012年より岡山大学に戻り,網膜硝子体グループの一員として現在に至っております.研究現在,岡山大学眼科の大学院生が基礎研究と格闘している一方,私は大学院時代(現在,川崎医科大学眼科学2教室の教授になられた長谷部聡先生の下,近視学童の臨床比較研究をしました)から現在に至るまで,もっぱら研究は臨床研究をしています.幸い2013年に白神史雄教授が戻ってこられて,どんどん新しい硝子体手術にふれることができ,さらには手術件数も増えており,質,量ともに臨床研究するには恵まれた環境にいます.以前,白神先生から,「新しい術式は深夜にベランダで思いつく」と教えていただきましたが,私の場合はいくらベランダに出ても良いアイディアはまったく浮かんできませんので,今は地道に論文検索の日々です.そんな中,一つ興味があるのは「眼内レンズ縫着」です.現在,日本の眼科全体が強膜内固定への大きな流れがある中で,何を今さらと思われる先生が多いと思いますが,コンサバに眼内レンズ縫着をいかに効率よく行うかを考えています.調べてみると先人がすでにいろいろと開発した方法があり,トラブルシューティング的にも勉強に(119)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYなっています.臨眼2014この度,神戸で行われた臨眼ですが,岡山大学が主催しました.昨年から準備を進め,無事終了することができ,ほっとしております.ご尽力,ご協力いただいたすべての方々に感謝いたします.これまで学会は参加するものでしたが,初めて学会を主催する機会に恵まれ,プログラム委員会との打ち合わせ,企業への説明会,会長招宴などなど,事務局をしなければ知らなかったことを次々体験しました(知っていてもこれまで出ていなかった開会式と閉会式,市民公開講座も,今回初めて参加しました!).詳しく書くとこのコラムがそれだけで終わってしまいますので詳細は書けませんが,多くの方々の努力のお陰で学会が成り立っていることを知り,今度の学会はこれまでとは違う視点で楽しめそうです.外勤私は備前市にある日生(ひなせ)病院,という病院に毎週出張しています.岡山から約40km,途中からブルーラインという,ほとんど信号のない道で通っています.最近のマイブームはラジオを聞きながらのドライブ(通勤)です.近頃はインターネットを使って録音できるソフトがあり,1週間とりためた番組を聞きながらの通勤は何よりの気分転換となっています.日生は牡蠣が有名なのですが,もちろん他の魚介類もおいしく,年に数回,手術がないお昼休みに,他科の先生と外食するのも楽しみの一つです.最近の日生の話題といえば,病院すぐ横に“日生大橋”という大きな橋ができつつあることです.2015年春に完成予定で,すでにほとんどできあがっています.これが開通すると,これまで船で渡って検診に行っていた小学校に,ものの10分の運転で行あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015119 写真1「2014臨眼」開会式スライド開会式リハーサル時に撮影しました.“Academism”という今回のテーマにぴったりのデザインだったと思います.くことができるそうです.便利になるような,もう船に乗れなくなるのが残念なような複雑な感じですが,橋ができたらぜひ一度渡ってみたいと思っています.趣味クロスバイク(自転車)やおいしいものを食べに行くのも好きなのですが,取り立ててブームでないので割愛いたします.現在,学生時代に始めた空手に対するマイブームが再燃してきております.道場も病院の敷地内ですので,気分転換に練習に顔を出しています.そもそも空手といってもピンと来る方は少ないと思いますので解説いたしますと,現在の空手は昔からある「伝統派」と「極真」に大きく分かれます.私がしているのは伝統派で,さらに細かくいうと「松濤館流」という流派になります.競技内容は「型」と「組手」があるのですが,私はもっぱら組手が好きです.組手は一応,寸止めで,相手には打撃を直接当てないという名目なのですが,実際にはバシバシ当たってしまいます(ですので残念ながら怪我が怖くて今は組手の試合はしておりません).先日,一大イベントである「西医体」に浜松まで観戦に行ってきました.結果は惜しくも準優勝でしたが,母校の応援写真2日生病院の食堂から見える景色おだやかな瀬戸内海が目の前に広がっています.ちなみに右下から左中央につながる道が,現在建設中の日生大橋です.には熱が入りすぎて,翌日は声が枯れてしまっていました.来年はお隣の兵庫県(姫路市)で西医体が予定されています.来年は学生時代に一緒に練習したOB・OGに声をかけて,大応援団で西医体に臨みたいと思っております(本当は,前日の飲み会が一番楽しみなのですが).現在私が知っている空手経験者の眼科医は,同門で4名,お隣の県で1名おられます.なかなか空手の話ができる眼科医を存じあげませんので,もし学生時代に空手をしていた先生がおられましたら,ぜひお声をかけていただきたいです.次回は,広島市民病院の寺田佳子先生です.私が眼科初期研修時代からご指導いただいておりますが,ご専門の網膜疾患に限らず,広い分野に深い知識をもっておられ,寺田先生の診療スタイルは私のお手本です.どうぞよろしくお願いいたします!注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆120あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(120)

現場発,病院と患者のためのシステム 36.天動説から地動説へ,電子カルテ中心志向からの脱却

2015年1月30日 金曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム天動説から地動説へ,電子カルテ中心志向からの脱却杉浦和史*.はじめに医療業界には2000~2014年まで,3年を空けて約11年間携わってきました.それ以前は,製造業,小売り業,サービス業など,医療以外の業種の業務分析,改革,必要があればシステム化を指導してきました.これら業種で共通してやってきたことは“当該組織全体のパフォーマンスの向上,ひいては収益増をめざす”です.各業種共,多種多様な業務から構成されていますが,どの業務が疎かになっても組織全体としてのパフォーマンスが最大になることはありません.各業務が機能を分担し,相互に連携し合って組織の活動が成り立っているのだから当然です..製造業の場合製造業という名前から製造にかかわる業務が一番重視されていると思いがちです.しかし,製造する前にその製品の市場性を検討しなければなりません.自社のコアコンピタンスを考慮しつつ,競合製品の有無,あれば仕様,価格,市場占有率などのチェックも必要です.そして設計.まだ製造の出番ではありません.ようやく製造の段になると,今度は,何時までにいくつ作るかという生産計画が必要になり,生産に必要な部材を納品までのリードタイムを考慮して発注します.納品された部材は在庫情報として管理しなければなりません.これで,ようやく製造業本来の製造に入ります.作られた製品は出荷を待ちますが,指定された場所,時間に注文された数量を間違いなく納品するための管理が必要になります.もちろん,配送業者との連携も必須です.図1に示すように,複数からなる業務が相互に連携しあって機能していなければ,企業活動ができないことが理解されたと思います.医療機関には医師だけではなく,看護師,薬剤師,臨床検査技師,栄養士,受付,会計,事務など多くのスタッフがいます.それぞれが与えられた役割を果たすことで,医療機関としての機能が全うされます.医師が主役であるのは異論がないところで,医療情報システムといえば常に電子カルテが主役に踊り出る所以です.しかし,それで良いのでしょうか?36回連載の最後にこの問題提起をします.営業経理人事総務生産管理製品企画設計製造検査資材マーケティング研究図1製造業を構成する業務cCAD(ComputerAidedDesign)に代表される製造業のシステムは,その後,CAM(ComputerAidedManufacturing),CAE(ComputerAidedEngineering)とカバーする範囲と深さを広げ,最終的に製造業統合情報システムCIM(ComputerIntegratedManufacturing)として今日に至っています.しかし,これらを支える資材管理,原価管理システムなど,図1に示す各部門のシステムがなければ成り立ちません.ある業務をカバーする良いシステムができても,同じレベルで周りが整備されていなければ,もっとも低いレベルに抑えられてしまい,全体のパフォーマンスが上がらないことは,リービッヒの最小律の教えるところです.ダムの水門に例えれば図2のとおりです.設計支援をする優れたCADシステムがあっても,他のシステムの完成度が低かったり,手作業であったりすると,一番低いゲートからダムの水が流れ出てしまい,結局そのレベルになって*KazushiSugiura:杉浦技術士事務所(情報工学部門)http://sugi-tec.tokyo/(117)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151170910-1810/15/\100/頁/JCOPY しまうことを示しています.体で機能することはできません.関連する他のシステムとの情報授受があって初めて機能が発揮されます.他のシステムが未整備な場合や,機能,情報が不足している設計支援資材調達生産管理設計支援資材調達生産管理設計支援資材調達生産管理と,人手の介在が必要になるなど作業の連続性が崩れ,効果は半減します.半減どころか一部がシステム化さ図2リービッヒの最小律(最も低いレベルに抑えられる)Rれ,一部は手作業が残っているほど面倒なことはありません.目的地に着くまでに,高速道路,一般道路,山道,あぜ道,獣道が入り乱れていると思えば理解が早い.医療業界でしょう.リービッヒの最小律を適用して表現すれば,医療機関は医師を筆頭に,看護師,薬剤師,検査技図4のようになります.師,栄養士などの職能集団で構成されています.職能間での行き来は“資格的”に不可能で,権威のピラミッド構造の最上位には医師がいます.一般的に医師の命令一下動く天動説的な仕事の仕方になっていますが,医療機関という太陽系を構成する多くの星の一つであるというコペルニクス的発想になると,業務が無理なくスムーズに流れるようになると思われます.他業種同様,各部門各業務が機能連携,情報連携し合うことで,適切な治療外来(電子カルテ)医事会計検査手術病棟が行えることを忘れないようにしなければなりません..電子カルテ厚生労働省のホームページを捜すと,図3のような医療機関に必要な情報システム群が見つかります.診察系システム・電子カルテシステム事務系システム・オーダリングシステム・財務管理システム・人事給与システム・医事会計システム・物品管理システムetc・受付・予約システム・看護支援システムその他・給食システムetc・遠隔医療支援システム画像系システム・医療統計システム・放射線情報管理システム・情報共有システムetc・医用画像管理システムetc図3医療機関に必要なシステム群(出典:厚労省HP)電子カルテとオーダリングシステムが別になっているなど,オヤッと思うものもありますが,この図でも明らかなように電子カルテシステムは医療機関で必要となる多くのシステムのうちの一つです.組織の頂点に立つ医師が使うことで最重要とされますが,このシステムが単図4医療情報システムでのリービッヒの最小律R.おわりに“カゴに乗る人,カゴ担ぐ人,そのまたワラジを作る人”という例えがあります.社会はそれぞれの役割をもった人達の持ちつ持たれつの関係で成り立っているという意味で,誰が欠けてもカゴに乗って移動することはできません.医師を中心に回っていると考える天動説的発想から,医療機関,患者さんを中心にして回っている太陽系の星の一つであるという地動説への発想の転換が必要と先述しましたが,医療情報システムも同じです.電子カルテシステムを中心に回っていると思わず,関連する業務システムが同じレベルで整備され,連携がとられてこそ医療機関のパフォーマンスを向上させることができます.個別最適ではなく,全体最適で考える時機に来ていると思います.36回の連載は今回で終わります.今後は当事務所のホームページで情報発信を続けます.関心のある方はhttp://sugi-tec.tokyoをご覧ください.☆☆☆118あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(118)