●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二24.抗VEGF治療後の網膜色素上皮裂孔篠島亜里日本大学医学部視覚科学系眼科学分野滲出型加齢黄斑変性に対しては,近年,抗VEGF薬硝子体内注射が治療の主流となっているが,網膜色素上皮.離を伴う症例ではしばしば抗VEGF薬治療に抵抗する.さらには網膜色素上皮裂孔を併発することがあり,黄斑部を含むと視力低下の原因となり,有効な治療法がないため,治療前に患者に説明しておくべき注意すべき合併症である.抗VEGF療法の合併症滲出型加齢黄斑変性に対して,2008年以降にわが国でも抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬が登場し,光線力学的療法に代わって第一選択で使用されることが多くなった.現在,認可された抗VEGF薬としてペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)がある.そのほかにも,適応外使用であるが,ベバシズマブ(アバスチンR)が現在臨床で使われている.抗VEGF療法により視力予後は大幅に改善したが,治療を実践していくにつれ,問題点も理解されてきた.脳梗塞再発の問題や眼内炎などの注射手技に関連した合併症に加え,図1症例1(77歳,女性)アフリベルセプト投与前(左)と2回硝子体内注射後2カ月(右)のFAF,OCTなどの画像である.アフリベルセプト投与後にRPEtear(*)を生じたが,黄斑部(矢頭)を含んでいないため,矯正視力は治療前0.4であったが,治療後0.6となった.PEDは平坦化したが残存しており,今後も治療の継続が必要である.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)ではPEDの部分が蛍光遮断で低蛍光となっている.RPEtearによるRPE欠損部位の同定にはFAFが有用である.近赤外光(IR)画像ではRPEtearとPEDの部分の区別がつきにくい.視力予後不良の因子として,中心窩下の線維性瘢痕の形成や,長期の抗VEGF療法を実施している症例における地図状萎縮の発生のほか,網膜色素上皮裂孔(retinalpigmentepithelialtear:RPEtear)は対処法がなく重大な合併症である.抗VEGF療法の難治例網膜色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)を伴う症例は抗VEGF療法にしばしば抵抗する.ラニビズマブよりもアフリベルセプトのほうがPEDに有効である場合があるが,それでも無反応であったり,いったん平坦化しても治療を休止すると再発したり,逆に治療を継続していてもPEDが大きくなったりする症RPEtear**治療前治療後FAFFAFRPEtearICGAOCTOCTIR(67)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016670910-1810/16/\100/頁/JCOPY治療前治療後*FAFFAFRPE欠損に一致してFAFで低蛍光RPEtearIRIR図2症例2(77歳,男性)アフリベルセプト投与前(左)と投与後1カ月(右)の眼底所見.治療後にRPEtear(*)を生じたが,黄斑部(矢頭)は回避されていて,矯正視力は治療前後で0.8を維持していた.FAFでRPE欠損部位の確認が容易である.PEDと漿液性網膜.離が残存していて,今後も治療継続が必要である.例があるため,治療方針の決定がむずかしい場合が多い.PEDを伴う症例はポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)か1型脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)である場合が多い.PCVは光線力学的療法が奏効する場合があるが,1型CNVはいずれの治療にもしばしば抵抗し,さらに治療後にRPEtearが生じる場合がある(図1,2)1~6).網膜色素上皮裂孔RPEtearは,自然経過でも光線力学的療法後でも生じうるが,抗VEGF薬療法によるCNVの収縮がRPEtearを引き起こす可能性があり,CNVの対側のPEDの辺縁から生じる場合が多い.大きく緊満なPEDや線維血管性PEDを伴う症例はとくに注意を要する.RPEtear発生に先行してmicroripsを認める場合もある.RPEtearによるRPE欠損が中心窩を含むと,視力が低下する可能性があるため,治療前に患者に対して,治療の合併症として説明しておく必要がある.RPEtearの弁状部のRPEは収縮して直上の網膜感度が低下してしまう場合がある.RPEtearを生じたことをきっかけに滲出性変化が鎮静化に向う症例もあるが,長期に治療を継続する必要がある症例も多い.RPEtearが黄斑部に影響を及ぼしうるかが,視力予後に重要な影響を与える.RPEtearの診断には,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や眼底自発蛍光(fundusauto-fluorescence:FAF)が有用である.文献1)SpandauUH,JonasJB:Retinalpigmentepitheliumtearafterintravitrealbevacizumabforexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol142:1068-1070,20062)DhallaMS,BlinderKJ,TewariAetal:Retinalpigmentepithelialtearfollowingintravitrealpegaptanibsodium.AmJOphthalmol141:752-754,20063)CarvounisPE,KopelAC,BenzMS:Retinalpigmentepitheliumtearsfollowingranibizumabforexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol143:504-505,20074)SatoT,OotoS,SuzukiMetal:Retinalpigmentepithelialtearafterintravitrealafliberceptforneovascularage-relatedmaculardegeneration.OphthalmicSurgLasersImagingRetina46:87-90,20155)SaitoM,KanoM,ItagakiKetal:Retinalpigmentepitheliumtearafterintravitrealafliberceptinjection.ClinOphthalmol7:1287-1289,20136)FujiiA,ImaiH,KanaiMetal:Effectofintravitrealafliberceptinjectionforage-relatedmaculardegenerationwitharetinalpigmentepithelialtearrefractorytointravitrealranibizumabinjection.ClinOphthalmol8:11991202,2014☆☆☆68あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(68)