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ブックレビュー:東範行編集 『小児眼科学』

2016年1月31日 日曜日

ブックレビューブックレビュー■東範行編集『小児眼科学』(B5判本文568頁,定価24,000円+税,ISBN978-4-89590-526-8/C3047,三輪書店,2015年10月)先日の日本臨床眼科学会でのこと.会場から会場への移動の際,特設の書店に目をやると,印象的な子どもの顔が目に飛び込んできた.先行発売本の紹介だったのだが,白い上品な表紙に「小児眼科学」と書かれていた.眼科学は,小児から高齢者までのすべての年齢の視覚障害を対象として診療を行う基本診療科である.眼科専門医になるためには,このすべての分野の標準的な診療について学ばねばならない.なかでも小児眼科は,診察の技術の習得がむずかしく,また多くの種類の疾患があるため専門医を志向する若い眼科医にとっては取っ付きにくさもある分野である.『小児眼科学』は,国立成育医療研究センターの東範行先生が渾身の力をこめてまとめられた本で,現在小児眼科のリーダー的な先生からこれから活躍が期待できる若手の先生まで,多くの医師が執筆に携わっている.いわば,日本の小児眼科医が総力を結集して作り上げたと言っても過言ではない.500ページを超える本の厚さからもその思いが伝わってくる.内容は,小児眼科の基礎から最新の治療まで詳細に書かれている.さらに疾患のみならず,小児の診察・周術期の管理法から学校保健,健診といった行政関連に至るまで網羅されている.広画角眼底カメラであるRetCamRやOCT(opticalcoherencetomography)といった最新の診断システムが充実したこともあり,これまでの本と比べものにならないほど多くの眼底写真が掲載されている.小児疾患は希少なものが多いが,なかなかお目にかかれないような眼底も見ることができる.診察さえも非協力的な小児を相手に,これほどまで症例を集められた東先生をはじめ執筆を担当された小児眼科専門の先生に敬意を表したい.これから小児眼科を学ぶ若い医師にとっては,典型的な症例をきちんと学ぶことが大変重要である.そのためにもこのように多くの臨床所見に接することのできる本書は大きな助けとなると考える.専門医の資格を取得した市中病院の医長や医員として頑張っている医師にとっては,小児の診察法を学ぼうと願ってもなかなかできないのではないだろうか.小児を診る機会が少ないと,どのようにアプローチしたら良いかとまどってしまう.あるいは,小児の眼について学ぼうと思っても,学ぶ機会が少ない.この本は小児の眼を診るときのバイブルとなる1冊である.1冊診察室に置いておけば,子どもが来たときも安心して診察することができそうだ.日本は未曾有の超高齢社会になり,医療の現場でのmajorityは高齢者となった.眼科においても,一般診療では白内障や緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性など加齢性の眼疾患患者数が多く,これらの分野における我が国の臨床研究の発展は目覚ましい.しかしながら,これからの日本の将来を支える子どもたちの視力を守りつつ正常な発達を支える小児眼科にも,われわれは多くの労力を割くべきなのではないだろうか.本書はこれからの小児眼科を学ぶ医師,日常診療で小児眼科診療を担当する医師,そして,もちろん小児眼科を中心に眼科診療を行うベテラン医師,いずれにとっても大変大切な教科書になると確信している.(山形大学眼科山下英俊)☆☆☆(79)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016790910-1810/16/\100/頁/JCOPY

My boom 48.

2016年1月31日 日曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第48回「川北哲也」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第48回「川北哲也」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介川北哲也(かわきた・てつや)慶應義塾大学医学部眼科学教室私は平成7年に金沢大学医学部を卒業後,小牧市民病院での1年間のローテート研修を経て,名古屋大学医学部大学院に入学し,3Dの刺激を中心視野と周辺視野に負荷した際の体の動きなどの研究で学位を取得しました.その後,東京歯科大学市川総合病院眼科で角膜フェローとして2年間勉強させていただいた後,OcularSurfaceCenter(Miami,FL)でDr.Tsengのもと,角膜の上皮,実質細胞の分化について3年ほど研究させていただきました.その後,東京歯科大学市川総合病院眼科に戻らせていただき,2年間後に慶應義塾大学医学部眼科学教室に移り,臨床,研究を行っております.ご覧の通り,今までいろいろな所を転々とさせていただいていますが,周りの先生方,スタッフにとても恵まれていて,楽しく毎日を過ごさせていただいております.大学生時代は軟式テニス部に所属し,冬はスキーを楽しんでいました.ひとり旅が好きで,初めてブラジルに行ったときは(ホテルの予約はなし),クレジットカードが使えず,リオデジャネイロで知り合った日系の方(老夫婦)の家に誘われるがまま泊めてもらって仲良くなり,そこの息子と無人島でキャンプをしたこともあります.周りから見ると,サバイバル能力が高いと思われているようです.Myboom:研究今,臨床研究で興味があるのは角膜実質です.CAS(77)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(cellalivesystem)という磁場をかけて凍結する日本の企業発の凍結装置を用いて,ヒトのドナー角膜を凍結し,実際の角膜表層移植術に用いる臨床研究を行っております.このCASという凍結保存技術は,ケーキをはじめ海産物,鮨の凍結などさまざまな食品にすでに応用されています.CASは,解凍したときにドリップ現象が起きず,おいしく食べられる技術として知られています.また再生医療の分野でも,ヒト歯根膜細胞の長期保存に応用されたりしています.今のところの中間報告としては,通常の保存角膜よりも術後の透明性がよく,術後の経過(視力)もよい印象があり,期待しています.涙腺機能の賦活化,再生も興味がある分野ですが,まだ基礎研究の段階から臨床研究へのステップアップは時間がかかりそうです.Myboom:チャリティーパーティー坪田教授はパーティーが大好きで,アイバンクのチャリティーパーティーを毎年行っています(写真1).そのほかにも,さまざまな分野で活躍されている方々と接する機会があれば,なるべく参加するように心がけていま写真1AsiaARVOの懇親会あたらしい眼科Vol.33,No.1,201677 す.いろいろなご縁で,眼科とは関係のないさまざまなチャリティーパーティーに参加させていただいたりして,各分野で活躍されている方々とお話しする機会もあります.自分とはフィールドがまったく異なっても,その道で一流とよばれている方々と接すると,こちらのモチベーションが上がったり,いろいろと得るものがあると感じます.昨年はそういったご縁で巨人軍の宮崎キャンプで選手の前で講演させていただきました.Myboom:お得なもの探しお得なものを探したりするのが趣味で,たとえば,ふるさと納税は3年前からやっています.ふるさと納税はほとんどの方々がやっていると勘違いしていましたが,周りに聞くと意外にあまりやってないというので逆に驚き,周りの方々にもすすめています.申請もそう面倒なことでもないですし,地方のさまざまな特産品,名産品がいただけます.航空会社のマイレージもうまくためて有効活用し,マイルの特典旅行に出かけたりもしています.また,自宅には42円売電の時に太陽光発電パネルの屋根を設置して,オール電化にしましたが,屋根の傷みも少なくなるうえに,電気消費量の見える化によって,なんの電気器機が電気をよく使うのか,とか,普段まったく意識しないとことに目が行くようになりました.Myboom:家族で過ごす学生結婚した私は,経済的にも精神的にも頼りにならず,妻にかなり苦労をかけてきました.妻は私のわがままをすべて受け入れ,ずっと慣れ親しんだ金沢の地から,名古屋,市川,マイアミ,東京,と付いてきてくれています.結婚したばかりの頃は夫婦げんかも結構ありましたが,時が経つにつれ,あまりそういうことがなくなってきました.私も妻も飲みに行くのは好きなので,たとえ私が遅くなっても,週2回は2人で飲みに出かけます.そこで,いろいろなことをシェアすることが,お写真2娘と囲碁初段の免状互いへの関心がなくならない秘訣かな,と私は思っています.私には一人娘がおります.幼い頃に勤務地を転々としたことで,4回も転校することとなったり,いきなり海外の公立学校に入学したりと,かなりの迷惑をかけてきました.ですが,そのなかでがんばってきた彼女は,私よりもずっと精神的にも成長しています.彼女を見て,いろいろと教えてもらうこともしばしばです.彼女は多趣味で,囲碁も初段の腕前です(写真2).忙しいことにかこつけて,つい最近まで娘と面と向かって話合うことを避けてきた気がしますが,最近は時間をみつけて,娘と2人でショッピングに行ったり,食事したりするようになりました.次のプレゼンターは和歌山医科大学の岡田由香先生です.岡田先生は研究も臨床も精力的にこなされている角膜研究の仲間です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆78あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(78)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 152.網膜硝子体手術中に生じる脈絡膜出血(中級編)

2016年1月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載152152網膜硝子体手術中に生じる脈絡膜出血(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに内眼手術中に生じる脈絡膜出血(駆逐性出血)の原疾患としては白内障や緑内障の報告が多いが,硝子体手術中に脈絡膜出血が生じたとする例も少なからず報告されている.中でも強度近視眼に生じたとする報告が圧倒的に多く,その原因として脈絡膜血管の脆弱性が指摘されている.筆者は過去に3例,硝子体手術中の脈絡膜出血の経験があるが,いずれも強度近視眼であった.●脈絡膜出血の誘因脈絡膜出血の誘因として,強度近視に起因する脈絡膜血管の脆弱性に加えて,術中の眼圧変動や過度の強膜圧迫,強膜バックリング手術の併用などが指摘されている.以前の20ゲージ硝子体手術では,強膜創からの眼内液や空気の漏出が多いと術中の眼圧変動が大きくなっていたが,最近の小切開硝子体手術(micro-incisionvitreoussurgery:MIVS)では,挿入する器具のゲージが小さいことに加えて,トロカールを使用するので,眼圧変動は小さくなっているものと考えられる.ただ,トロカールは可能な限りclosurevalve付きのものを使用し,周囲部の硝子体を切除する際も,過度の強膜圧迫は避け,眼球の変形を必要最小限にすべきである.また,液体灌流下よりも空気灌流下のほうが圧に対する容積変動の許容性が大きくなるので,より脈絡膜出血が生じやすくなる.空気灌流下ではとくに眼球の変形に注意を要する.自験例のうち1例は,強度近視眼に対して初回手術でシリコーンオイルタンポナ.デを行い,シリコーンオイル抜去時に灌流液をオンにしない状態でシリコーンオイル抜去を施行したため,脈絡膜出血が生じた(図1).その他の2例は,いずれも気圧伸展網膜復位術後に経強膜冷凍凝固を裂孔周囲に施行した際に生じた.1例は過度に強膜を圧迫したため,もう1例は冷凍凝固の凝固部位が十分に解凍しないうちにプローブを抜去したため,眼球に過度のストレスがかかって出血が生じたものと考えられる.最近のMIVSにおける術中裂孔閉鎖は眼内光凝固が主体で,経強膜冷凍凝固を施行する機会は少ない(75)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図1シリコーンオイル抜去時に生じた脈絡膜出血例胞状の脈絡膜.離を認める.図2同症例の術後の超音波Bモード写真胞状の脈絡膜出血と扁平な網膜.離を認める.この症例では2週間後に再手術を行い,出血の排除と網膜復位術を施行した.と思われるが,注意を要する点である.●脈絡膜出血に対する治療法通常,脈絡膜出血は発症直後に凝血をきたすため,その場で強膜切開を施行しても出血を排出できないことが多い.いったん創を閉じ,溶血するのを待ったうえで再手術を施行する.経過中は超音波Bモード検査を適宜施行する(図2).溶血に要する期間は通常2週間とされているが,1週間で溶血している症例もある.裂孔原性網膜.離例では,この間に網膜.離が拡大して重症化することがあるが,再手術時に脈絡膜出血を十分に排出できないと確実な復位が得られないので,早すぎる再手術は避ける.あたらしい眼科Vol.33,No.1,201675

新しい治療と検査シリーズ 228.OCTアンジオフラフィー(緑内障)

2016年1月31日 日曜日

新しい治療と検査シリーズ228.OCTアンジオグラフィー(緑内障)プレゼンテーション:新田耕治福井県済生会病院杉山和久金沢大学コメント:千原悦夫千原眼科.バックグラウンド眼科領域における最近の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の発展には目を見張るものがあるが,さらに進歩し,緑内障における構造的変化を解析する一環として,毛細血管を非侵襲的に観察できるOCTアンジオグラフィーが注目されている1~3)..新しい機器の原理と特徴現在,臨床応用されているOCTアンジオグラフィーは4種類あるが,ここでは,筆者が用いているOptovue社のRTVueRXRAvantiを使用したOCTアンジオグラフィーについて述べる.なお,本機器は2015年1月に発売された.眼底内の静止している部分(組織)と動きのある部分(血流)を判別するsplit-spectrumamplitude-decorrelationangiography(SSADA)原理を用いて,これまで観察できなかった網膜や篩状板内の毛細血管網をきれいに描出できるのが特徴である.また,デフォルトで,angioflowdiscとして次の4画面が同時に表示される.・Nervehead:撮影画面上端~内境界膜150μm下方・Vitreous:撮影画面上端~内境界膜50μm下方図1正常眼(2例)のOCTアンジオグラフィー乳頭眼底写真(左上下),放射状乳頭周囲毛細血管網(RPC)(中央上下),血管密度カラーマップ(右上下)を示す.正常眼では,乳頭に同心円状に毛細血管網が存在している.上段の症例のRPCの血管密度は64.09%,下段の症例は62.81%である(プレリリースされたb版を使用して測定.以下同様).(71)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016710910-1810/16/\100/頁/JCOPY 2008/10/172009/12/252015/9/29図2乳頭出血を頻発した楔状網膜神経線維層欠損を有する緑内障眼のOCTアンジオグラフィー乳頭出血(15年の経過観察期間に上耳側11回,下耳側6回,一部を上段に表示)を頻発した楔状網膜神経線維層欠損を有する緑内障眼では,網膜神経線維層欠損部位(下段左)に一致して毛細血管網の密度低下を認める(下段中央および右).図3緑内障眼(3例)のOCTアンジオグラフィー左:初期(血管密度:54.71%,MD:.1.88dB).中央:中期(血管密度:48.61%,MD:.11.25dB).右:後期(血管密度:28.52%,MD:.21.28dB).緑内障の病期が進行するにつれて,RPCの血管密度が低下している.72あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(72) ・放射状乳頭周囲毛細血管層:内境界膜~網膜神経線維層・Choroid/disc:網膜色素上皮より75μm下方~撮影画像下端本機器には,毛細血管の密度を定量的に分析するソフトも開発されており,まもなく正式にリリースされる予定である.このソフトを使用すれば,視神経乳頭周囲や乳頭内の毛細血管の密度をnasal,inferiornasal,inferiortempo,superiornasal,superiortempo,tempoなどのセクターに分けた解析も可能である..使用方法(検査法の実際)特定の深さまでに設定した毛細血管網を描出することができるが,とくに放射状乳頭周囲毛細血管層(radialperipapillarycapillary:RPC)は,内境界膜~網膜神経線維層までの毛細血管網を描出できる(図1).乳頭出血を頻発した楔状網膜神経線維層欠損を有する緑内障眼では,網膜神経線維層欠損部位に一致して毛細血管網の密度低下を認める(図2)..本方法の良い点さまざまな病期の緑内障眼のOCTアンジオグラフィーを撮影すると,病状の進行に伴って,RPCの血管密度が減少することがわかる(図3).緑内障,とくに正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の病因としては,眼圧に依存した病態であるという従来からの考え方とは別に,眼圧に依存しない要素が関与していることが疑われているが,いまだにその正体は不明である.なんらかの影響で網膜神経線維が機械的に破綻する可能性や,視神経乳頭周囲や篩状板の微小循環が障害して発症あるいは進行する可能性もあり,OCTアンジオグラフィーにて視神経乳頭周囲や篩状板内の毛細血管網の状態を描出することでNTGの病態がより解明されることが期待される.文献1)JiaY,WeiE,WangXetal:Opticalcoherencetomographyangiographyofopticdiscperfusioninglaucoma.Ophthalmology121:1322-1332,20142)LiuL,JiaY,TakusagawaHLetal:Opticalcoherencetomographyangiographyoftheperipapillaryretinainglaucoma.JAMAOphthalmol133:1045-1052,20153)WangX,JiangC,KoTetal:Correlationbetweenopticdiscperfusionandglaucomatousseverityinpatientswithopen-angleglaucoma:anopticalcoherencetomographyangiographystudy.GraefesArchClinExpOphthalmol253:1557-1564,2015.「OCTアンジオグラフィー(緑内障)」へのコメント.OCTangiographyの画像を最初に見たときは衝撃ハードの改良と周辺ソフトの開発によって,さらに新を受けた.今までとまったく違う世界が広がっていたしい所見が得られるようになることが期待される.からである.本報の図1,2を見るとわかるように,ただ,新しい技術であるがゆえに,今後の課題も豊造影剤を使用していないにもかかわらず,毛細血管に富である.現時点ではまだ得られる画像の範囲が狭い至るまでの血管像がまるで鋳型標本のように鮮明に描うえ,画像取得時間が3秒以上と長いこと,測定部位出され,しかも,血管密度や血流の多い少ないというや閾値の設定にまだしっかりした基準がないので個人情報までもがカラーコードや数字で表示される.画像間でのデータ比較に注意が必要なことなど,改良点がは層別に表示できるので,たとえば前篩状板や乳頭周多い.しかしこれらの問題はいずれ解決されてゆくで囲脈絡膜萎縮の血管網を強調して取り出すという芸当あろう.OCTangiographyはさらなる発展が期待さもできる.2015年に入って,このOCTangiographyれる技術であり,これからも注視してゆきたい.を使った報告が続々となされるようになったが,今後☆☆☆(73)あたらしい眼科Vol.33,No.1,201673

眼瞼・結膜:麦粒腫の3つの病型

2016年1月31日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人11.麦粒腫の3つの病型小幡博人自治医科大学眼科学講座麦粒腫は眼瞼に付属する腺組織の細菌感染症である.麦粒腫は一般的に内麦粒腫と外麦粒腫に大別される.内麦粒腫は,マイボーム腺に感染が生じた場合の病名であるが,瞼結膜に膿点が観察されるものと,マイボーム腺開口部に膿汁がみられるものがある.よって,麦粒腫には3つの病型があると提唱したい.●麦粒腫の3つの病型麦粒腫(hordeolum,sty)は眼瞼に付属する腺組織の細菌感染症である.外麦粒腫と内麦粒腫に大別され,睫毛に付属する皮脂腺(Zeis腺)や汗腺(Moll腺)に感染が生じた場合は外麦粒腫とよばれ,マイボーム腺に感染が生じた場合は内麦粒腫とよばれる.外麦粒腫は毛包炎(毛.炎)と考えることができる(図1a).内麦粒腫は,さらに瞼結膜に膿点が観察されるもの(瞼結膜型,図1b)と,マイボーム腺開口部に膿汁がみられるもの(マイボーム腺開口部型,図1c)がある.以上の臨床像から,麦粒腫を3つのタイプに分類した(図2).瞼結膜型とマイボーム腺開口部型の違いは,感染のフォーカスがマイボーム腺の開口部に近いか遠いかの違いである.マイボーム腺開口部型の内麦粒腫とあえて命名した理由は,マイボーム腺梗塞と類似した所見を呈し,鑑別を要するからである.また,マイボーム腺開口部型は,眼瞼を圧迫すると排膿し,治療の一助となることからも,分類する意義があると考える.●麦粒腫は病理学的には膿瘍麦粒腫は抗菌薬の投与で治癒するため,なかなか病理標本が存在しない.麦粒腫を切開し,排出された膿の病理標本を作製すると,好中球を主体として炎症細胞がみられ,麦粒腫の本態は膿瘍であることがわかる(図3a).膿瘍とは化膿性の炎症が組織のなかで限局した形をとったものをいう.同じ標本にグラム染色を行うと,グラム陽性球菌が観察される(図3b).培養検査では,黄色ブドウ球菌が検出されることが多い.●初期には膿点がない麦粒腫のおもな所見は,眼瞼の発赤や腫脹,疼痛,圧痛,瞼結膜の充血や膿点などであるが,病初期には膿点がみられないことが多い(図4).麦粒腫外麦粒腫内麦粒腫瞼結膜型マイボーム腺開口部型図2麦粒腫の3つの病型麦粒腫は外麦粒腫と内麦粒腫に大別される.内麦粒腫は膿点(膿汁)の位置で,瞼結膜型とマイボーム腺開口部型の2つに分類した.abc図1外麦粒腫と内麦粒腫a:外麦粒腫:睫毛の根部に膿汁がみられ,周囲に発赤・腫脹を伴う.培養検査では黄色ブドウ球菌が検出された.24歳,男性.b:内麦粒腫(瞼結膜型):瞼結膜に膿点と充血がみられる.31歳,女性.c:内麦粒腫(マイボーム腺開口部型):マイボーム腺開口部に膿汁がみられ,周囲に発赤・腫脹を伴う.18歳,男子.(69)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016690910-1810/16/\100/頁/JCOPY aab図3麦粒腫の病理a:多数の好中球が観察される.麦粒腫の本態は膿瘍である.HE染色.b:青く染まるグラム陽性球菌が観察される.グラム染色.ab図4膿点のない麦粒腫眼瞼の発赤と腫脹(a),瞼結膜の充血(b)がみられるが,膿点がみられない麦粒腫.7歳,女児.●外麦粒腫か,内麦粒腫か3つの病型に分類したものの,実際の臨床ではどのタイプか迷うこともある.図5は,左上眼瞼内側の腫脹と発赤,疼痛,圧痛,瞼結膜の充血がみられる8歳の女児である.瞼結膜の充血は内麦粒腫を考えたくなるが,睫毛根部に白い膿点がある.眼瞼の内側で瞼板がない部分に生じた外麦粒腫のため,瞼結膜にも充血がみられるのであろうと推測する.このほかに,麦粒腫と霰粒腫の鑑別がむずかしいケースにもしばしば遭遇し,抗菌薬に反ab図5外麦粒腫か,内麦粒腫か左上眼瞼内側の発赤と腫脹(a),瞼結膜の充血(b)は内麦粒腫を考えたくなるが,睫毛根部に白い膿点があり,外麦粒腫と考えた例.8歳,女児.応するかどうかで治療的診断をすることがある.文献1)小幡博人:霰粒腫・麦粒腫.眼科診療クオリファイ10眼付属器疾患とその病理(野田実香:編),p46-51,中山書店,20122)小幡博人:麦粒腫・霰粒腫.眼科診療クオリファイ15メディカルオフサルモロジー(眼薬物療法)(村田敏規:編),p364-368,中山書店,201270あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(70)

抗VEGF治療:抗VEGF治療後の網膜色素上皮裂孔

2016年1月31日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二24.抗VEGF治療後の網膜色素上皮裂孔篠島亜里日本大学医学部視覚科学系眼科学分野滲出型加齢黄斑変性に対しては,近年,抗VEGF薬硝子体内注射が治療の主流となっているが,網膜色素上皮.離を伴う症例ではしばしば抗VEGF薬治療に抵抗する.さらには網膜色素上皮裂孔を併発することがあり,黄斑部を含むと視力低下の原因となり,有効な治療法がないため,治療前に患者に説明しておくべき注意すべき合併症である.抗VEGF療法の合併症滲出型加齢黄斑変性に対して,2008年以降にわが国でも抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬が登場し,光線力学的療法に代わって第一選択で使用されることが多くなった.現在,認可された抗VEGF薬としてペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)がある.そのほかにも,適応外使用であるが,ベバシズマブ(アバスチンR)が現在臨床で使われている.抗VEGF療法により視力予後は大幅に改善したが,治療を実践していくにつれ,問題点も理解されてきた.脳梗塞再発の問題や眼内炎などの注射手技に関連した合併症に加え,図1症例1(77歳,女性)アフリベルセプト投与前(左)と2回硝子体内注射後2カ月(右)のFAF,OCTなどの画像である.アフリベルセプト投与後にRPEtear(*)を生じたが,黄斑部(矢頭)を含んでいないため,矯正視力は治療前0.4であったが,治療後0.6となった.PEDは平坦化したが残存しており,今後も治療の継続が必要である.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)ではPEDの部分が蛍光遮断で低蛍光となっている.RPEtearによるRPE欠損部位の同定にはFAFが有用である.近赤外光(IR)画像ではRPEtearとPEDの部分の区別がつきにくい.視力予後不良の因子として,中心窩下の線維性瘢痕の形成や,長期の抗VEGF療法を実施している症例における地図状萎縮の発生のほか,網膜色素上皮裂孔(retinalpigmentepithelialtear:RPEtear)は対処法がなく重大な合併症である.抗VEGF療法の難治例網膜色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)を伴う症例は抗VEGF療法にしばしば抵抗する.ラニビズマブよりもアフリベルセプトのほうがPEDに有効である場合があるが,それでも無反応であったり,いったん平坦化しても治療を休止すると再発したり,逆に治療を継続していてもPEDが大きくなったりする症RPEtear**治療前治療後FAFFAFRPEtearICGAOCTOCTIR(67)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016670910-1810/16/\100/頁/JCOPY 治療前治療後*FAFFAFRPE欠損に一致してFAFで低蛍光RPEtearIRIR図2症例2(77歳,男性)アフリベルセプト投与前(左)と投与後1カ月(右)の眼底所見.治療後にRPEtear(*)を生じたが,黄斑部(矢頭)は回避されていて,矯正視力は治療前後で0.8を維持していた.FAFでRPE欠損部位の確認が容易である.PEDと漿液性網膜.離が残存していて,今後も治療継続が必要である.例があるため,治療方針の決定がむずかしい場合が多い.PEDを伴う症例はポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)か1型脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)である場合が多い.PCVは光線力学的療法が奏効する場合があるが,1型CNVはいずれの治療にもしばしば抵抗し,さらに治療後にRPEtearが生じる場合がある(図1,2)1~6).網膜色素上皮裂孔RPEtearは,自然経過でも光線力学的療法後でも生じうるが,抗VEGF薬療法によるCNVの収縮がRPEtearを引き起こす可能性があり,CNVの対側のPEDの辺縁から生じる場合が多い.大きく緊満なPEDや線維血管性PEDを伴う症例はとくに注意を要する.RPEtear発生に先行してmicroripsを認める場合もある.RPEtearによるRPE欠損が中心窩を含むと,視力が低下する可能性があるため,治療前に患者に対して,治療の合併症として説明しておく必要がある.RPEtearの弁状部のRPEは収縮して直上の網膜感度が低下してしまう場合がある.RPEtearを生じたことをきっかけに滲出性変化が鎮静化に向う症例もあるが,長期に治療を継続する必要がある症例も多い.RPEtearが黄斑部に影響を及ぼしうるかが,視力予後に重要な影響を与える.RPEtearの診断には,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や眼底自発蛍光(fundusauto-fluorescence:FAF)が有用である.文献1)SpandauUH,JonasJB:Retinalpigmentepitheliumtearafterintravitrealbevacizumabforexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol142:1068-1070,20062)DhallaMS,BlinderKJ,TewariAetal:Retinalpigmentepithelialtearfollowingintravitrealpegaptanibsodium.AmJOphthalmol141:752-754,20063)CarvounisPE,KopelAC,BenzMS:Retinalpigmentepitheliumtearsfollowingranibizumabforexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol143:504-505,20074)SatoT,OotoS,SuzukiMetal:Retinalpigmentepithelialtearafterintravitrealafliberceptforneovascularage-relatedmaculardegeneration.OphthalmicSurgLasersImagingRetina46:87-90,20155)SaitoM,KanoM,ItagakiKetal:Retinalpigmentepitheliumtearafterintravitrealafliberceptinjection.ClinOphthalmol7:1287-1289,20136)FujiiA,ImaiH,KanaiMetal:Effectofintravitrealafliberceptinjectionforage-relatedmaculardegenerationwitharetinalpigmentepithelialtearrefractorytointravitrealranibizumabinjection.ClinOphthalmol8:11991202,2014☆☆☆68あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(68)

緑内障:眼圧の変動

2016年1月31日 日曜日

●連載187緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也187.眼圧の変動原岳原眼科病院日常眼圧の測定は1~3カ月に1度,1日1回の測定で評価されている.しかしながら眼圧は分単位,1日のうちでも変化し,同時刻でも姿勢の影響を受けて変動する.すべての眼圧を把握することは現状ではなかなかむずかしいが,眼圧がいかに変動するかについては知っておく必要がある.●眼圧変動の要素眼圧は「房水産生量」「流出抵抗」「上強膜静脈圧」の3要素の影響で増減することが知られている.房水産生量:房水の産生量が増加すれば眼圧も増加する.房水は毛様体で産生され,日中の産生量は約2.5~3.0μl/分であり,前房の容積が200~300μlとした場合,前房穿刺をして前房が消失したとして,計算上は約100分,2時間ほどで回復することになる.ところが夜間の房水産生量は1.6μl/分1)と半減することも知られている.このため,昼と夜で眼圧変動が生じる.流出抵抗:流出抵抗が増加すれば眼圧は増加する.隅角の広さ,線維柱帯の構造変化,経ぶどう膜流出路への流出割合の変化などが流出抵抗の要素である.隅角は,瞳孔の状態,体位,Zinn小帯脆弱,水晶体膨隆などの要素に影響を受け,閉塞することで流出抵抗が増加する.隅角が開放状態でも,線維柱帯の網目構造が変化すると流出抵抗が増加する.要因としてステロイド内服,細胞沈着,虹彩前癒着,血管新生などがあげられる.房水流出量の割合は線維柱帯経路に対して経ぶどう膜流出路は1/10程度と考えられている.経ぶどう膜流出路の割合が増加すると眼圧は下降する.上強膜静脈圧:線維柱帯を介して流出した房水はSchlemm管を経由して上強膜静脈へ流出する.上強膜静脈圧は8~10mmHgと考えられている,重力の関係で,心臓に対して眼の位置が低くなるほど上強膜静脈圧は上昇する.頸部の腫瘍など器質的な血管閉塞によっても上強膜静脈圧は増加することがある.●眼圧変動の実際眼圧は分単位,日単位,年単位で周期性の変動を示すことが知られている.その変動には次の3要素が関係していると考えられる.脈波:眼圧は1分間の間にも上がったり下がったり変化している(図1).眼圧を1分間連続して測定すると,眼圧は数秒間隔で周期性に上昇したり下降したり波打っているのがわかる.Goldmann圧平眼圧計で眼圧を測定するときにリングが拍動することを経験することがあるが,このとき,実際に眼圧が上昇したり減少したりしている波を観察していることになる.このとき,リングが離れたときと重なるときの中間点を測定値とすると,最高と最低の中間値,つまり平均値を眼圧としていることになる.一方で,非接触眼圧計は,1/100秒単位で瞬間に眼圧を測定するので正確に測定できても,眼圧の数値はある程度の幅のなかでバラつくこととなる.Goldmann圧平眼圧計と同様の値を得るためには,3~5回の測定値の平均をとると近似した値になり得る.日内変動:房水産生が昼に多く,夜に少なくなるため,眼圧は基本的には昼に高く夜に低くなる傾向がある.これには交感神経の刺激が関与していると考えられ35mmHg28mmHg33mmHg(35+28+33)/332(35+28)/2=31.51/100秒拍動がある時は中間値数秒1秒図1分単位での眼圧変動(65)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016650910-1810/16/\100/頁/JCOPY 21.115.216.219.919.520.90510152025530180mmHgmin10+1*****:p<0.01姿勢変動と眼圧変化(N=50)21.115.216.219.919.520.90510152025530180mmHgmin10+1*****:p<0.01姿勢変動と眼圧変化(N=50)図2姿勢変動と眼圧変化(佐々木誠,原岳,橋本尚子ほか:3時間連続臥位における眼圧経過.あたらしい眼科23:625-626,2006より引用)ており,交感神経b遮断薬はこの刺激を遮断して房水産生を減少させて眼圧下降効果を発揮する.しかしながら,日内変動には他の要素も関連していると考えられ,実際に測定してみると,昼よりも夜間で眼圧が高い場合もある.姿勢変動:通常人の姿勢は座っているか(座位)立っているか(立位)が多いが,1日のうち1/3~1/4の時間,人は就寝し,横たわっている.立位,座位のとき,眼は心臓よりも高い位置にあり,横たわると目と心臓の高低差はほぼなくなる.すると,上強膜静脈圧が上昇し,眼圧は上昇する.座位に比較して仰臥位になると眼圧はほぼ倍になる,という報告2)もある.よって,姿勢変動を考慮すると,昼の時間帯に測定した眼圧よりも,夜間就寝時仰臥位になったときの眼圧が高くなる可能性がある.外来では眼圧が落ち着いているのに視野障害が進行する患者のなかでは,このような変化を考慮する必要がある.眼圧は座位から仰臥位になると1分後には上昇し,仰臥位から座位に起き上がったときも1分後には下降するので,仰臥位の眼圧は仰臥位で測定しないと評価できない(図2).日内変動はおもに毛様体における房水の産生の影響を受け,姿勢変動は上強膜静脈圧の影響を受ける.結果として昼に最高値を示すか夜間に最高値を示すかは,実際に測定してみないと分からないのが現状である.文献1)ReissGR,LeeDA,TopperJEetal:Aqueushumorfloeduringsleep.IOVS25:776-779,19842)FribergTR,SanbornG,WeinrebRN:Intraocularandepiscleralvenouspressureinvreaseduringinvertedposture.AJO103:523-526,1987☆☆☆66あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(66)

屈折矯正手術:1stQ社製AddOn®IOL

2016年1月31日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載188大橋裕一坪田一男188.1stQ社製AddOnRIOL坂谷慶子みなとみらいアイクリニック近年,白内障手術後の見え方に対する患者側のニーズが高まってきている.ピギーバック用眼内レンズとして開発された1stQ社製AddOnRIOLにより,白内障手術後の屈折誤差矯正がエキシマレーザーなどの特殊な設備がなくても可能である.また,すでに単焦点眼内レンズが挿入された眼の多焦点化も可能である.●はじめに白内障手術においても,良好な裸眼視力が求められるケースが増えてきている.使用される眼内レンズ(intraocularlens:IOL)のなかで,トーリックIOLや多焦点IOLなどの付加価値のついたレンズは,患者側の高まるニーズを反映したものであり,とくにそれらを使用した白内障手術においては,裸眼視力は術後満足度を大きく左右する要素の一つとなっている.近年,IOL度数計算の精度は,光学式生体測定装置などの発達により飛躍的に向上しているが,術後屈折誤差をゼロにすることは現実的には困難である.白内障術後屈折誤差対策の選択肢としては,①眼鏡,②コンタクトレンズ,③角膜屈折矯正手術,④ピギーバックIOL,⑤IOL交換があげられるが,今回は先に.内に挿入されたIOLの前にもう1枚IOLを重ねるピギーバックIOLとして開発された1stQ社製AddOnRIOL(以下,AddOn)について述べる.●AddOnの特徴AddOnの材質は親水性アクリルで,シングルピース構造である.支持部は4つの柔らかいリング形状となっており,sulcus-to-sulcusの大きさの違いに柔軟に対応が可能である(図1,2).固定後にはレンズの回転が起こりにくいため乱視矯正効果の減弱が少なく,また,縮瞳してもiriscaptureを起こす可能性が少ない(図3).AddOnには球面矯正用のAddOnrefractive,乱視矯正も可能なAddOntoric,多焦点のAddOnprogressive(球面矯正のみ)がラインナップされている.それぞれの製作範囲を表1に示す.AddOnprogressiveは,加入度数が+3.0Dであり,中心3mm径に回折構造を有するアポダイズレンズで,原理的にはAlcon社製ReSTORRと同様の効果が得られる設計である.最大の特徴は,アクリルレンズであるため前房内での動態が緩徐な点である.すでに.内にIOLが挿入された眼における前房内でのレンズの展開は,イメージよりも窮屈なものであり,レンズのコントロール性がきわめて重要なのである.切開創は約2.5mmであり,専用のカートリッジにて挿入する.慣れてくると先行する2つのループをレンズ挿入時に虹彩下に入れることも可能で,ストレスなく手術を行うことができる.●症例:65歳,女性1カ月前に他院にて両眼水晶体再建術を施行した.術前,使用するIOLに関して単焦点IOLと多焦点IOLそれぞれの説明がなされ,単焦点トーリックIOLに決定,老眼鏡の使用には理解があったとのことだが,術後に近見視力の不満を訴え,多焦点IOLへの入れ替えを希望され,当院紹介となった.当院初診時,遠見視力は右6mm13.5mm図1AddOnの形状とサイズ4つの独特のリング状の支持部をもつ.図は球面レンズである.図2AddOnの支持部の動き大きさの異なる円周においても,ループが変形することにより光学部の中心安定性を確保できるようになっている.0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(63)あたらしい眼科Vol.33,No.1,201663 abab図3散瞳時(a),縮瞳時(b)AddOnは,縮瞳時にiriscaptureを起こしにくい.表1AddOnの製作範囲AddOnfefractiveAddOntoricAddOnprogressiveモデル番号A4SW00A4TW0T4TW00A4FW0TA4FW00A4DW0MA4EW0MS.10.0~+10.0D0.25Dステップ0.0D.5.0~0.5D+0.5~+5.0D0.25DステップSE0.0D.10.0~+10.0D0.25Dステップ(0.0Dを除く)C1.50~4.50D0.75Dステップ5.25~8.25D0.75Dステップ9.00~11.00D1.00Dステップ1.50~4.50D0.75Dステップ5.25~8.25D0.75Dステップ9.00~11.00D1.00Dステップ加入度数+3.00D図4AddOnprogressive挿入翌日の前眼部写真1.5,左1.5.近見視力は右0.1,左0.2.1カ月間,老眼鏡使用にて経過観察したが,近見裸眼視力を改善したい希望は変わらず,水晶体再建術から3カ月後に,AddOnDiffractiveを左右眼に挿入した(図4).6カ月後の現在,遠見視力は右1.2,左1.2,近見視力は右0.9,左0.9となり,高い満足が得られている.●AddOnの利点軽度から中等度の屈折異常に対するLASIKの矯正精度は非常に高く,白内障手術後の屈折誤差に対する矯正手術としてLASIKによるタッチアップが一般的に行われており,単焦点IOLのみならず多焦点IOLにおいても有用である1~3).しかし,LASIKを行うためには高価64あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016で特殊な装置が必要であり,一般の施設では普及に限界がある.一方,AddOnは白内障手術を行っている設備であれば導入は容易である.比較的大きな屈折異常があるが,なんらかの理由でIOLの入れ替えがリスクを伴う場合には良い適応と考える.また,円錐角膜や強度の屈折異常,radialkeratotomy後,瞼裂狭小例など,LASIKによるタッチアップには適さない症例でもAddOnは適応となる場合がある.さらにAddOnでは多焦点レンズも開発されており,単焦点IOLが.内に挿入された白内障術後眼であっても多焦点化させることができる.AddOnは,日本では未承認で保険適用はないが,EUでは承認を受けており,患者側の高まるニーズに応えるための一つのツールとして,今後の普及が期待されるところである.文献1)Fernandez-BuenagaR,AlioJL,PerezArdoyALetal:Resolvingrefractiveerroraftercataractsurgery:IOLexchange,piggybacklens,orLASIK.JRefractSurg29:676-683,20132)KimP,BrigantiEM,SuttonGLetal:Laserinsitukeratomileusisforrefractiveerroraftercataractsurgery.JCataractRefractSurg31:979-986,20053)MuftuogluO,PrasherP,ChuCetal:Laserinsitukeratomileusisforresidualrefractiveerrorsafterapodizeddiffractivemultifocalintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg35:1063-1071,2009(64)

眼内レンズ:Sleevedハイドロダイセクション

2016年1月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋350.Sleevedハイドロダイセクション禰津直久等々力眼科ハイドロダイセクション(hydrodissection)は白内障手術をより安全・容易にするために行われる.しかし,この手技は逆に虹彩脱出や異常な眼圧上昇をきたし,手術をむずかしくしてしまうことがある.これらの併発症をSleevedハイドロダイセクションで防ぐことができる.●従来のハイドロダイセクション従来のハイドロダイセクションでは,たまに虹彩脱出を起こすことがある.とくに浅前房症例や術中虹彩緊張低下症候群(intraoperativefloppyirissyndrome:IFIS)で起こしやすい.いったん虹彩脱出を起こすと,手術終了までの各手技を難しくし,手術時間も不要に長くしてしまう.前.切開時に虹彩脱出を起こすと,ハイドロダイセクション自体も虹彩が出やすくなり苦労することになる.従来のハイドロダイセクションを行っていると,前房が深くなり,散瞳したようにみえることがある.これは創口の自己閉鎖機序が働いて前房圧が上がり,逆瞳孔ブロックを起こしている状態と考えられ,痛みを訴える場合もある.逆瞳孔ブロックを起こさなくても,極端に眼圧が上がると,前部硝子体膜を破って硝子体ポケットを形成することが報告されている.術操作中に眼内に持ち込まれた細菌が硝子体ポケットに進入すると,術終了時の眼内洗浄では除去されず,眼内炎の原因になりえる1).眼内圧が上昇すると水晶体に対する外側からの圧も上昇し,ハイドロダイセクション自体もむずかしくしている可能性がある.●SleevedハイドロダイセクションSleevedハイドロダイセクションでは,I/AやUSで使用するシリコーンスリーブ(以下,スリーブ)を通常のハイドロ針に被せて施行する(図1).通常は針が短めのため,スリーブの底部を剪刀で適当な位置で切断し短くする.さらに,スリーブの底部がハイドロ針の基底部にはまり込んで流出を障害することがないように,楔状の切開を2カ所に入れている(図2).このスリーブをハイドロ針に被せて,通常どおり創口から挿入してハイドロダイセクションを行う.スリーブが挿入されていることで,I/A時やUS時と同様に虹彩が出ることはない.また,スリーブが創口にあることにより,自己閉鎖創の機序は働かなくなり,眼内のBSS-PLUSRや粘弾性物質はスリーブの内腔を逆流し,容易に排泄される.着色した高分子量型粘弾性物質を豚眼の前房に注入し,sleevedハイドロダイセクションを行うと,スリーブの内腔を通って粘弾性物質も容易に排泄されることを確認している(図3,4).スリーブはI/AやUSで使用するものを流用するが,図1手技スリーブを被せたハイドロ針で通常どおりに施行する.BSSPLUSRと粘弾性物質はスリーブ内を逆流して排出される.図2器具スリーブを適当な位置で切断し,楔状の切開で針の基底部で閉塞されないようにする.(61)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016610910-1810/16/\100/頁/JCOPY 図3着色した高分子量型粘弾性物質を豚眼の前房に注入図4Sleevedハイドロダイセクションで粘弾性物質を吸引除去弾力があるもののほうが挿入しやすい.27Gの鈍針を含めほとんどのハイドロ針が使用可能であるが,最初は太めのハイドロ針のほうが挿入しやすいであろう.●手技Sleevedハイドロダイセクションでは,創口への挿入図5挿入手技左手でスリーブをコントロールして挿入する.時に左手でスリーブの位置を調節しながら挿入する(図5).スリーブからハイドロ針の先端が少し出るくらいにして,少し角度を付けて創口に挿入すると入れやすい.スリーブのサイドポートは水平方向にして挿入する.散瞳不良の場合は,スリーブのサイドポートを虹彩のない水晶体上にもってくる必要がある.虹彩上だとサイドポートから虹彩を吸引してしまうので注意が必要である.前房に空気が入ってしまった場合でも,スリーブのサイドポートから空気を容易に除去できる.●おわりにSleevedハイドロダイセクションは,特別な器具を必要とせず,熟練した手技も不要である.IFISや浅前房のような虹彩脱出を起こしやすい場合を含め,ハイドロダイセクション中の虹彩脱出を防止できる.スリーブにより創口の自己閉鎖メカニズムを無効にし,眼圧の過剰な上昇も防止できる.これによりハイドロダイセクションをむずかしくすることを防止し,眼内炎のような重篤な併発症も減らすことができる.そのためには全症例で本手法を行うことを推奨する.文献1)KawasakiS,TasakaY,SuzukiTetal:Influenceofelevatedintraocularpressureontheposteriorchamber.anteriorhyaloidmembranebarrierduringcataractoperations.ArchOphthalmol129:751-757,2011

写真:角膜鉄錆症

2016年1月31日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦380.角膜鉄錆症加藤久美子三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学図2図1のシェーマ①角膜に刺入した鉄片と,②角膜内に同心円状に沈着した鉄錆.図1当科初診時の前眼部写真鉄片周囲の角膜に茶褐色の鉄錆が浸潤している.図3初診から3カ月の前眼部OCT角膜上皮,実質,Descemet膜に鉄錆の浸潤を示唆する高輝度を呈する病変が認められた.図4全層角膜移植時に切除した患者角膜の病理写真(Berlin.blue染色)角膜菲薄部では角膜上皮,実質,Descemet膜に至るまでPrussianblueにより染色されていた.(59)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016590910-1810/16/\100/頁/JCOPY 角膜鉄錆症は,角膜に鉄錆,つまり水酸化鉄Fe(OH)が沈着することにより発症する.角膜に鉄が侵入すると,わずか24時間で角膜実質に鉄錆が沈着すると報告されている1).鉄イオンは細胞に対する毒(3)性が強く,角膜実質細胞を傷害し,コラーゲン組織に浸透して実質の融解を引き起こす.また,一般に眼内の鉄片異物は眼球全体に鉄錆を沈着させ,比較的短期間のうちに白内障や緑内障,網膜.離のような眼球鉄錆症を引き起こすといわれている2).角膜鉄錆症の原因となる角膜鉄片異物は,眼表面の異物の約半数を占めると報告されており,受傷直後は毛様充血,羞明,流涙,眼痛などの角膜刺激症状を呈する3).しかしながら,複数回の角膜鉄片異物の既往がある患者では自覚症状がないこともある3,4).なお,角膜刺激症状は受傷後3日ほど経過すると軽快するといわれている3).角膜鉄錆症の診断は,細隙灯顕微鏡で実質内の鉄錆を確認することにより行う.角膜上に鉄片異物がなくても,受傷から短い期間で来院することが多く,経過がはっきりしているため,診断は容易である.しかし,角膜の鉄片異物を除去しても眼内に鉄片が残存しているような症例があり,初診時に眼窩X線検査あるいはCT検査にて確認することが望ましい.角膜実質内に鉄錆が残存すると,実質組織を融解し,外傷などをきっかけとして角膜穿孔を引き起こすため4),鉄錆はハンドドリルなどを使用し可能なかぎり除去する.しかしながら,あまり深追いするとDescemet膜瘤や角膜穿孔を起こすことがあり,注意が必要である.筆者は鉄片異物が角膜内に約1カ月間とどまった症例を経験した(図1,2)4).鉄片除去後,複数回にわたって鉄錆の除去を行ったが,前眼部OCT上,鉄錆の浸潤は角膜全層にわたっており(図3),完全に除去することは不可能であった.最終的には軽度の外力により角膜が穿孔し,保存的治療が無効であったため全層角膜移植術を施行した.切除した角膜の病理学的所見では,穿孔部の角膜は菲薄化が著しく,Berlin-blue染色にて角膜上皮,実質,Descemet膜が染色され,鉄イオンの強い浸潤を示唆していた(図4).このような症例では,こまめに診察を行い,穿孔に至る前に予防的に角膜移植術などの治療を行う必要があると考えられる.文献1)松原稔,吉田宗儀,増子昇:角膜錆輪の組織学的研究.臨眼58:1957-1960,20042)Hope-RossM,MahonGJ,JohnstonPB:Ocularsiderosis.Eye7:419-425,19933)松原稔:角膜異物の統計的研究.眼臨医報96:103-108,20024)KatoK,HiranoK,TakashimaYetal:Histopathologicfindingsofperforatedcorneasduetoferricioninfiltration.CanJOphthalmol50:322-327,201560