特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):343.351,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):343.351,2016知っておくべき基本事項結膜の構造とバリア機能:経結膜感作StructureandBarrierFunctionofConjunctiva:TransconjunctivalSensitization庄司純*はじめに外界と直接接する結膜には,外来抗原から生体を防御して恒常性を維持するための生体防御機構が存在する.結膜は粘膜組織であるため,これらの生体防御機構には,粘膜組織に特有の防御機構が含まれている.結膜の生体防御機構は,第一線生体防御機構(firstdefenseline),第二線生体防御機構(seconddefenseline)に分類される.第一線生体防御機構は,粘膜を介して外来抗原が生体内に侵入するのを防御するバリア機構であり,粘膜組織に特有の防御反応が多数含まれる1).これに対して,第二線生体防御機構は,生体に侵入した抗原に対する防御反応であり,抗原非特異的に作用する好中球やマクロファージを介した防御反応のほかに,抗原特異的に作用する免疫グロブリンによる液性免疫とT細胞による細胞性免疫とがある.生体が感作されるということは,生体がある抗原に対して特異的な免疫応答を発揮できる状態にあることを意味し,その免疫応答が生体に有益なものであれば生体防御反応,有害なものであれば免疫疾患(アレルギー・自己免疫疾患など)を発症することになる.経結膜感作を理解するためには,全身免疫系に加えて,結膜における第一線生体防御機構である粘膜免疫系についての理解を深める必要がある.本稿では,結膜における粘膜免疫系の構造と機能を中心に,経結膜感作とそのアレルギー疾患における臨床応用について述べる.表1眼表面の第一線生体防御機構非特異的防御反応・物理的防御機構:瞬目,tearflow,角結膜上皮細胞のtightjunctionmucustrapping・抗菌物質:ラクトフェリン,リゾチーム,・抗菌ペプチド:Defensin,Cathelicidin(LL37)特異的防御反応・分泌型IgA・結膜関連リンパ組織(conjunctiva-associatedlymphoidtissue:CALT)I結膜の第一線生体防御機構結膜の第一線生体防御機構は,表1に示すように,非特異的防御反応と特異的防御反応とに分類される.非特異的防御反応は,抗原感作を必要としない防御因子であり,特異的防御反応は,抗原感作を必要とする防御因子である.1.非特異的防御反応非特異的防御反応のなかには,機械的防御反応があり,瞬目,涙の流れ(tearflow)およびmucoustrappingなどにより物理的に外界からの抗原侵入を阻止する機能である.瞬目とtearflowとにより,外来抗原は生体への侵入を阻止されるか,洗い流されて眼外に排出される.一方,mucustrappingは,眼表面のムチンが外来微生物や外来抗原を絡みとって,眼脂として眼外に排出する作用のことである2).腸管におけるムチンの働*JunShoji:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(13)343図1Mucoustrapping白色家兎に緑膿菌浮遊液を点眼して,ocularsurfaceを走査型電子顕微鏡で観察した.Goblet細胞から分泌されたムチンが結膜表面に存在する緑膿菌を絡め捕る様子がみられる.鼻咽頭IgA大循環腸管気管支iTregsIgAsIgAsIgA抗原所属リンパ節sIgA産生CALTHEVBALTNALTBIgA産生前駆B細胞胸管涙腺GALTホーミング結膜図2Commonmucosalimmunesystem(CMIS)粘膜関連リンパ組織(mucosa-associatedlymphoidtissue:MALT)とホーミング現象とにより全身の粘膜組織の間に免疫学的な連絡が成立する.CALT:conjunctiva-associatedlymphoidtissue,HEV:highendothleialvenule(高内皮細静脈),iTreg:inducibleregulatoryTcell,GALT:gut-associatedlymphoidtissue,NALT:naso-pharynx-associatedlymphoidtissue,BALT:bronchus-associatedlymphoidtissue.II結膜上皮および結膜関連リンパ組織(CALT)の構造と機能1.上皮バリア機能とアレルギー反応上皮細胞は,外界との物理的バリアを形成するばかりでなく,外来抗原,異物,損傷などによりバリアが破綻したときには,上皮由来のサイトカイン,ケモカインまたは成長因子などを分泌して免疫応答の方向付けをすることから,生体防御や炎症反応において重要な働きを担う細胞として認識されるようになっている.アレルギー疾患において上皮細胞は,外来抗原に反応して上皮細胞由来サイトカインであるthymicstromallymphopoietin(TSLP),interleukin-25(IL-25),interleukin-33(IL-33)を分泌してその病態に関与することが知られている10)(表2).近年,TSLPは,2型自然リンパ球様細胞(innatelymphoidcellgroup2:ILC2)に作用して大量の2型ヘルパーT細胞(Th2)サイトカイン(IL-5,IL-13)を放出させる働きがあることが報告されている.この系は,IgEやTh2を介さずにアレルギ表2上皮由来サイトカインの誘導因子サイトカイン誘導因子物理的損傷TSLPdsRNA(Toll-likereceptor3リガンド)寄生虫(Trichuris)プロテアーゼ(トリプシン,パパイン)サイトカイン(IL-1,IL-4,IL-13,IL-25,IL-33,KGF,TNF)IL-25アレルゲン(ブタクサ)真菌(Aspergillusoryzae)寄生虫(Nippostrongylus)IL-33壊死寄生虫(Trichuris)ー炎症を惹起するIL-5やIL-13が増加することから,自然型アレルギー反応とよばれ,IgEを介する獲得型アレルギー反応とは区別され,アレルギー疾患における新しいアレルギー炎症の病態として,難治性アレルギー疾患で注目されている.また,TSLPはIL-25と協調してメモリーTh2細胞にIL-25receptor発現を誘導するとともに,Th2型免疫応答に作用しているとされ,獲得(15)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016345型アレルギー反応においても重要なサイトカインと考えられている.結膜上皮では,Toll様受容体3(TLR3)アゴニストで,合成二本鎖RNAであるpolyinosinic-polycytidylicacid(polyI:C)の刺激を受けてTSLP発現が増加することが報告されており11,12),実験的アレルギー性結膜炎モデルマウスにおいても,結膜上皮に発現されたTSLPがアレルギー炎症に関与することが報告されている13).2.CALTの組織学的特徴CALTは,組織学的には被膜をもたない節外性リンパ組織で,被膜で覆われるリンパ節とは組織学的特徴が円蓋域リンパ上皮傍濾胞域傍濾胞域濾胞域図3Conjunctiva.associatedlymphoidtissue(CALT)CALTは,組織学的に濾胞域,傍濾胞域,円蓋域,リンパ上皮に分類される.FDC:folliculardendriticcell,HEV:highendothelialvenule,B:B細胞,T:T細胞.異なる.内部の構造は,中心にB細胞で構成される濾胞域(folliculararea:FA),濾胞域の周囲と上方とには,T細胞で構成される傍瀘胞域(parafolliculararea:PFA)と円蓋域(domearea:DA)とが形成され,表面をリンパ上皮が被っている(図3,4).リンパ上皮には,M細胞とよばれる特殊に分化した上皮細胞が存在するとされ,外来抗原はM細胞を介して取り込まれると考えられている.M細胞の下にはマクロファージや樹状細胞が存在し,取り込まれた外来抗原を認識する(図5).FAには,B細胞に対して抗原提示能を有する濾胞樹状細胞(folliculardendriticcell:FDC)が存在し14),抗原提示を受けたB細胞は,IgA産生前駆B細胞へと分化する(図6).また,PFAにはIgA産生前駆B細胞がホーミングするHEVが存在する15)(図6).このように,粘膜免疫系では,CALTを介して外来抗原に対しての生体感作が成立すると考えられている.3.粘膜免疫系における抗原感作とM細胞M細胞は,microfoldcellともよばれ,上皮の最表層を形成する上皮細胞であるが,細胞表面は微絨毛(microvilli)と微絨毛を被う糖衣(glycocaryx)に乏しく,microfoldが形成されているのが特徴である.また,M細胞は隣接する上皮細胞とtightjunctionで結合しているが,細胞質には大きな窪みを形成して,そこにマクロファージや単球を含有する.このような構造により,結膜上皮リンパ上皮図4結膜上皮とリンパ上皮結膜上皮は,重層円柱上皮からなり,PAS染色陽性のgoblet細胞が混在する.リンパ上皮は上皮内に多数の単球,リンパ球の遊走を伴い,goblet細胞はみられない(PAS染色).346あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(16)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016347(17)する.TregはCD4陽性でCD25を高発現しているT細胞で,FoxP3がマスター転写因子で,interleukin-10(IL-10)とtransforminggrowthfactor-b(TGF-b)などの抑制性サイトカインを多く産生する.しかし,iTregではFoxP3発現が不安定であり,Tr1とよばれるCD4+CD25-FoxP3-TcellでIL-10のみを産生するTcellサブセットが存在するとされている.iTregは,末梢のリンパ節で誘導されるほか,MALTでも誘導されることが報告され,経粘膜抗原投与により誘導される免疫寛外来抗原は選択的にM細胞から生体内に取り込まれ,マクロファージなどにより処理され,生体の感作が成立すると考えられる.コンタクトレンズ関連巨大乳頭結膜炎(contactlens-associatedgiantpapillaryconjunctivitis:CL-GPC)患者では,M細胞を介してCLに付着した汚れが取り込まれ,感作されることでCALTを含めた粘膜免疫系がCL-GPCの病態に関与していることが指摘されている16).すなわち,眼表面疾患の炎症の病態は,粘膜免疫系を介する免疫応答という視点からの解明も進めて行く必要があることが示されていると考えられる.4.CALTと制御性T細胞生体の免疫応答には,CD4陽性T細胞が深く関与している.CD4陽性T細胞は,naiveT細胞から種々のサイトカイン刺激を受けることで,1型ヘルパーT細胞(Th1),2型ヘルパーT細胞(Th2),interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17),制御性T細胞(regulatoryTcell:Treg)などのサブセットに分化するとされている(図7).Tregには,胸腺で誘導される内因性Treg(naturallyoccurringTreg:nTreg)と末梢でnaiveT細胞から分化する誘導性Treg(inducibleTreg:iTreg)とが存在図5M細胞a:モルモットCALTリンパ上皮の透過型電子顕微鏡写真.M細胞がみられ,細胞間ポケットには多数のリンパ球や単球を含有している(.).b:モルモットCALTリンパ上皮の蛍光顕微鏡写真.蛍光標識したコレラトキシンBを点眼すると,CALT上のM細胞により取り込まれる(.)(蛍光抗原トレーサー法).Intraepithelialpocket形成CALTab図6濾胞樹状細胞モルモットCALT濾胞域の抗S-100蛋白抗体を用いた免疫電子顕微鏡写真.濾胞樹状細胞が高電子密度の細胞質を有する樹状細胞として観察される.図5M細胞a:モルモットCALTリンパ上皮の透過型電子顕微鏡写真.M細胞がみられ,細胞間ポケットには多数のリンパ球や単球を含有している(.).b:モルモットCALTリンパ上皮の蛍光顕微鏡写真.蛍光標識したコレラトキシンBを点眼すると,CALT上のM細胞により取り込まれる(.)(蛍光抗原トレーサー法).Intraepithelialpocket形成CALTab図6濾胞樹状細胞モルモットCALT濾胞域の抗S-100蛋白抗体を用いた免疫電子顕微鏡写真.濾胞樹状細胞が高電子密度の細胞質を有する樹状細胞として観察される.348あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(18)図7CD4陽性Tリンパ球サブセット1型ヘルパーT細胞(Th1):転写因子としてT-betを発現する.2型ヘルパーT細胞(Th2):転写因子としてGATA-3を発現する.Interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17):転写因子としてRORgtを発現する.制御性T細胞(Treg):転写因子としてFoxP3を発現する.CD4+CD8FoxP3+NaiveTTbetGATA3RORgtnTregiTregTh17Th2Th1IL-12IL-4IL-6TGF-bIL-2TGF-bFoxP3+NaturallyoccurringTregInducubleTreg胸腺粘膜関連リンパ組織所属リンパ節図8免疫応答の4方向バランスNaiveTcellから分化するCD4陽性T細胞は,1型ヘルパーT細胞(Th1),2型ヘルパーT細胞(Th2),interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17),抑制性T細胞(regulatoryTcell:Treg)およびinterleukin-10産生T細胞(Type1regu-latoryTcell:Tr1)などに分類される.アレルギー疾患は,Th1/Th2バランスではTh2優位の疾患とされてきた.近年,Th1,Th2,Th17,Tregの4方向バランスからアレルギー疾患の病態および免疫療法の効果が検討されている.Th1Th2Th17Tr1TregNaiveTcellIL-10TGF-bIL-35IL-17A・IL-17FIL-21,-22IFN-gIL-2IL-4,-5,-13IL-25FoxP3STAT5GATA3STAT5T-betSTAT4RORgtSTAT3図7CD4陽性Tリンパ球サブセット1型ヘルパーT細胞(Th1):転写因子としてT-betを発現する.2型ヘルパーT細胞(Th2):転写因子としてGATA-3を発現する.Interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17):転写因子としてRORgtを発現する.制御性T細胞(Treg):転写因子としてFoxP3を発現する.CD4+CD8FoxP3+NaiveTTbetGATA3RORgtnTregiTregTh17Th2Th1IL-12IL-4IL-6TGF-bIL-2TGF-bFoxP3+NaturallyoccurringTregInducubleTreg胸腺粘膜関連リンパ組織所属リンパ節図8免疫応答の4方向バランスNaiveTcellから分化するCD4陽性T細胞は,1型ヘルパーT細胞(Th1),2型ヘルパーT細胞(Th2),interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17),抑制性T細胞(regulatoryTcell:Treg)およびinterleukin-10産生T細胞(Type1regu-latoryTcell:Tr1)などに分類される.アレルギー疾患は,Th1/Th2バランスではTh2優位の疾患とされてきた.近年,Th1,Th2,Th17,Tregの4方向バランスからアレルギー疾患の病態および免疫療法の効果が検討されている.Th1Th2Th17Tr1TregNaiveTcellIL-10TGF-bIL-35IL-17A・IL-17FIL-21,-22IFN-gIL-2IL-4,-5,-13IL-25FoxP3STAT5GATA3STAT5T-betSTAT4RORgtSTAT3あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016349(19)容において重要な役割を果たすと考えられている.これまで,アレルギー疾患や膠原病などの免疫関連疾患の病態を考えるうえで,Th1/Th2バランスが検討され,アレルギー疾患はTh1/Th2バランスがTh2へと傾くTh2病であるとされてきた.種々のCD4陽性T細胞サブセットの発見により,免疫関連疾患の病態をTh1,Th2,Th17およびiTregの4方向バランスで考えることが提唱され,治療戦略も含めて疾患病態を検討する場合には,4方向バランスが重要な意味をもつと考えられる(図8).III経結膜抗原投与法の臨床応用1.アレルギー疾患における経粘膜抗原投与法の利点経粘膜抗原投与により生じる免疫学的変化は,防御因子としての抗原特異的分泌型IgA抗体の誘導と,免疫寛容に関連する抑制性T細胞の誘導に大別され,アレルギー反応に対しては抑制的に作用するという特徴があるとされている.食物アレルギーの領域では,経皮感作された抗原に対してアレルギー反応は増悪する傾向を示し,経粘膜投与された抗原に対してアレルギー反応が軽快する傾向を示すとするdualallergenexposurehypothesisが提唱されている17).この理論にしたがって,食物アレルギーに対する治療は,抗原除去を目的とする食事療法から,経口免疫寛容を誘導する食事療法へと変化してきている.食物アレルギーに対する免疫療法は,原因抗原を含有する食品を少量から摂取し,徐々に摂取量を増やすことで,食物抗原によるアレルギー反応を減弱させる方法が行われており,経粘膜抗原投与法による免疫療法(経口免疫療法)に位置づけられている18).最近,経粘膜抗原投与法の治療応用として注目を集めているのが,舌下免疫療法である.舌下免疫療法は,抗原を舌下投与する免疫療法で,抗原を注射により経皮下投与する免疫療法(減感作療法)と同様の効果が得られ,アナフィラキシーなどの有害事象が少ないとされている.舌下免疫療法の機序として,①中和抗体の存在,②Treg細胞の誘導などが報告されている.また,免疫寛容がひとたび成立すると,その効果は全身に及ぶのが免疫寛容の特徴とされており,CMISを介した抗原特異的分泌型IgA抗体の産生やMALTを介したiTregの誘導などがアレルギー反応に対して抑制的に作用する.したがって,舌下免疫療法はアレルギー性結膜疾患に対しても,ある程度の効果があると考えられている19).現在,実用化されている舌下免疫療法の抗原は,スギ(シダトレンR,鳥居薬品,適用:スギ花粉症)およびダニ(ミティキュアR,鳥居薬品,適用:アレルギー性鼻炎)である.2.アレルギー性結膜疾患に対する免疫療法アレルギー性結膜疾患に対する経粘膜抗原投与法による免疫療法としては,経口免疫療法,舌下免疫療法,点眼免疫療法に関する検討が報告されている.経口免疫療法は,原因抗原を直接摂取させることで,抗原に対する免疫学的不応答(免疫寛容)を誘導する方法である.しかし,経口免疫療法では,免疫寛容が腸管により誘導されることから,投与した抗原が腸管に到達する必要があるが,摂取した抗原は消化の影響を受けてしまうことが経口免疫療法の弱点と考えられている.近年,経口免疫療法におけるこの弱点を克服するために,遺伝子組換え米の使用の検討が行われている.アレルギーの原因抗原を発現させた遺伝子組換え米の摂取は,経口免疫寛容を誘導できると報告された20).Fukudaらは,スギ抗原(Cryj1,Cryj2)を発現する遺伝子組み換え米を実験的アレルギー性結膜炎マウスモデルで検討したところ,結膜における好酸球浸潤を含めた炎症細胞浸潤,血清中の総IgEと抗原特異的IgE抗体および脾細胞でのサイトカイン(IL-2,IL-4,IL-5,IL-12p70,interferon-g,IL-17A)産生が低下したと報告しており,アレルギー性結膜疾患に対するワクチン療法の可能性を示唆している21).一方,経口摂取以外の経粘膜抗原投与法としては,経結膜抗原投与を目的とした点眼免疫療法が検討されている.Saitoら22)は,卵白アルブミン(ovalbumin:OVA)感作実験的アレルギー性結膜炎モルモットモデルにおいて,OVAと粘膜アジュバントであるcholeratoxinBとの混合液を予防的に点眼することにより,アレルギー性結膜炎の臨床所見と結膜組織中好酸球浸潤とが抑制できたことを報告している(図9).免疫療法では,粘膜免疫を活性化させる粘膜アジュバンドとともに抗原を投与30min30min30min30minTCIT群アレルギー群図9Transconjunctivalimmunotherapy(TCIT)の臨床所見実験的アレルギー性結膜炎モルモットモデルにおけるTCIT群とアレルギー(非TCIT)群との比較.TCIT群では,アレルギー群と比較して,抗原点眼後30分における眼瞼腫脹,結膜充血および結膜浮腫の出現が抑制されている.好酸球CD4+T細胞NSNSp<0.001900p<0.0011,2008007006005004003002001000CD4+T細胞数(個/mm2)好酸球数(個/mm2)1,0008006004002000ControlCTBAllergyControlCTBAllergy図10Transconjunctivalimmunotherapy(TCIT)の網膜内浸潤細胞数実験的アレルギー性結膜炎マウスモデルにおいて結膜組織内好酸球数およびCD4陽性細胞数を組織学的に検討した.アレルギー性結膜炎群(Allergy),TCIT施行したアレルギー性結膜炎群(CTB)および未処置群(control)で比較したところ,TCITにより結膜の好酸球ならびにCD4陽性細胞浸潤が抑制されている.NS:notsignificant.することで,その効果が増強されることが知られているMALT形成の初期誘導ケモカインであるCXCL13が結一方で,粘膜アジュバンドの毒性が実用化の妨げになっ膜局所で増強した点は興味深い結果であると考えられている.Oikawaら23)は,OVA感作実験的アレルギーる.性結膜炎マウスモデルに対するOVAとcholeratoxin一方,点眼免疫療法の臨床研究として,Nunezらは,Bとの混合液による点眼免疫療法は,結膜における好酸花粉によるアレルギー性結膜炎患者を対象として,花粉球およびCD4陽性T細胞浸潤を抑制するとともに,結抗原の点眼濃度を徐々に維持濃度まで上げ,維持濃度の膜におけるケモカイン(CXCL13/BLC,CCL25/TECK)点眼を継続したまま臨床症状の推移を検討した.その結発現を増強したと報告している.点眼免疫療法により,果,点眼免疫療法は,点眼誘発試験により出現する臨床350あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(20)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016351(21)所見の程度を有意に減少させたと報告している24).これらの報告は,点眼免疫療法が,経口免疫寛容や舌下免疫療法と同様に,アレルギー性結膜疾患に対する免疫療法としての可能性を示唆していると考えられた.点眼免疫療法は,まだ解明できていない作用機序が多数存在するが,経結膜抗原投与法は免疫療法として実用化できる可能性を示唆している.おわりに眼表面の免疫応答には,全身免疫系,粘膜免疫系に加えて自然免疫系が存在することが解明されている.これらの3つの免疫系の相互作用により引き起こされる正の免疫応答(生体防御・炎症)と負の免疫応答(免疫寛容)を十分に理解し,治療応用していくことが今後の我々の課題であると考えられる.文献1)LempMA,BlackmanHJ:Ocularsurfacedefensemecha-nisms.AnnOphthalmol13:61-63,19812)北野周作:OcularSurface─その生理と病態─.日眼91:1-26,19873)MillerHR,HuntleyJF,WallaceGR:ImmuneexclusionandmucustrappingduringtherapidexpulsionofNip-postrongylusbrasiliensisfromprimedrats.Immunology44:419-429,19814)IkedaA,NakanishiY,SakimotoTetal:Expressionofbdefensinsinocularsurfacetissueofexperimentallydevel-opedallergicconjunctivitismousemodel.JpnJOphthal-mol50:1-6,20065)GordonYJ,HuangLC,RomanowskiEGetal:Humancat-helicidin(LL-37),amultifunctionalpeptide,isexpressedbyocularsurfaceepitheliaandhaspotentantibacterialandantiviralactivity.CurrEyeRes30:385-394,20056)OngPY,OhtakeT,BrandtCetal:Endogenousantimi-crobialpeptidesandskininfectionsinatopicdermatitis.NEnglJMed347:1151-1160,20027)TomasiTBJr,LarsonL,ChallacombeSetal:Mucosalimmunity:Theoriginandmigrationpatternsofcellsinthesecretorysystem.JAllergyClinImmunol65:12-19,19808)ChandlerJW,AxelrodAJ:Conjunctival-associatedlym-phoidtissue:aprobablecomponentofthemucosa-associ-atedlymphoidsystem.InImmunologicDiseaseoftheMucousMembranes(O’ConnorGR,editor),p63-70,Mas-sonPublishing,NewYork,19809)KnopN,KnopE:Conjunctiva-associatedlymphoidtissueinthehumaneye.InvestOphthalmolVisSci41:1270-1279,200010)SaenzSA,TaylorBC,ArtisD:Welcometotheneighbor-hood:epithelialcell-drivedcytokineslicenseinnateandadaptiveimmuneresponsesatmucosalsites.ImmunolRev226:172-190,200811)UetaM,MizushimaK,YokoiNetal:Gene-expressionanalysisofpolyI:C-stimulatedprimaryhumanconjuncti-valepithelialcells.BrJOphthalmol94:1528-1532,201012)EbiharaN,MatsudaA,SetoTetal:Theepitheliumtakescenterstageinallergickeratoconjunctivitis.Cornea29Suppl1:S41-S47,201013)ZhengX,MaP,dePaivaCSetal:TSLPanddown-streammoleculesinexperimentalmouseallergicconjunc-tivitis.InvestOphthalmolVisSci51:3076-3082,201014)ShojiJ,InadaN,SaitoKetal:Immunohistochemicalstudyonfolliculardendriticcellofconjunctiva-associatedlymphoidtissue.JpnJOphthalmol42:1-7,199815)稲田紀子,庄司純,高浦典子ほか:結膜関連リンパ装置におけるリンパ球ホーミングの形態学的検討.日眼会誌99:1111-1118,199516)ZhongX,LiuH,PuAetal:Mcellsareinvolvedinpathogenesisofhumancontactlens-associatedgiantpapil-laryconjunctivitis.ArchImmunolTherExp55:173-177,200717)LackG:Epidemiologicrisksforfoodallergy.JAllergyClinImmunol121:1331-1336,200818)SkripakJM,NashSD,RowleyHetal:Arandomized,double-blind,placebo-controlledstudyofmilkoralimmu-notherapyforcow’smilkallergy.JAllergyClinImmunol122:1154-1160,200819)CalderonMA,PenagosM,SheikhAetal:Sublingualimmunotherapyforallergicconjunctivitis:Cochranesys-tematicreviewandmeta-analysis.ClinExpAllergy41:1263-1272,201120)IshidaW,FukudaK,HaradaYetal:Oralimmunothera-pyforallergicconjunctivitis.Cornea33Suppl11:S32-S36,201421)FukudaK,IshidaW,HaradaYetal:Preventionofaller-gicconjunctivitisinmicebyarice-basedediblevaccinecontainingmodifiedJapanesecederpollenallergens.BrJOphthalmol99:705-709,201522)SaitoK,ShojiJ,InadaNetal:ImmunosuppressiveeffectofchoreratoxinBonallergicconjunctivitismodelinguin-eapig.JpnJOphthalmol45:332-338,200123)OikawaA,ShojiJ,InadaNetal:TransconjunctivalimmunotherapyusingcholeratoxinBtotreatexperimen-talallergicconjunctivitisinamousemodel.JpnJOphthal-mol55:534-540,201124)NunezJA,CuestaU:Localconjunctivalimmunothera-py:theeffectofdermatophagoidespteronyssinuslocalconjunctivalimmunotherapyonconjunctivalprovocationtestinpatientswithallergicconjunctivitis.AllergolImmu-nopathol28:301-306,2000