●連載194緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也194.眼圧と脈絡膜臼井審一大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室脈絡膜は血管に富んだ組織で,黄斑部および外層網膜への血液供給,網膜の温度調節,視機能の調節といった働きがある1).網膜と異なり血液関門に乏しく,血流の影響を受けやすい2).正常でも厚みが変動し,日内変動の他3,4),調節によっても変化するが,濾過手術後のように大幅に眼圧が下降すると,著しく肥厚することが知られている.●脈絡膜の日内変動と眼圧,眼軸長との関係通常,夜間に眼圧が下降する際,眼軸長は短縮し5),脈絡膜は肥厚する4).脈絡膜厚は網膜に比べて個人差が大きく,近視眼では菲薄化する傾向がある.また,日内変動幅も個人差があり,OCTを用いた解析によると,わずか数μmしか変動しない眼もあれば60μm以上変動する眼もある.通常,日中の日内変動は少なく,夜間から早朝にかけて肥厚する傾向がある(図1).脈絡膜厚の変動は種によっても異なり,鳥類では調節の有無で数百μmも変化するが,ヒトを含むその他の種ではずっと小さい.調節による変化が強膜の伸展にも影響するものと考えられ,近視化との関連が示唆されている.●濾過手術と脈絡膜脈絡膜は外側の強膜と内側の網膜との間にあるメラニンに富んだ血管膜で,4層に分けることができ,外側から上脈絡膜(suprachoroid),血管層(vascularlayer),脈絡毛細血管板(choriocapillaris),Bruch膜(Bruch’smembrane)から構成され,血管層は大血管層(Harller’slayer)と中血管層(Sattler’slayer)の2層からなる.このうち脈絡毛細血管板は毛細血管からなる1枚の膜様構造で,Bruch膜側に窓構造(fenestration)をもつため血漿成分が自由に拡散しうる.これに対して血管層には窓構造がない.通常,脈絡毛細血管板と脈絡膜間質は平衡状態であるが,濾過手術のように急激に眼圧が下降すると脈絡毛細血管板内と血管外に圧勾配が生じ,血漿蛋白などの血液成分が血管外,すなわち脈絡膜間質へ拡散する.その結果,浸透圧によって間質に水が流出して脈絡膜に浮腫が起き,全体に著しく肥厚すると考えられる(表1)6).また,濾過手術後早期は眼軸長が短縮し,眼球全体としても縮小する6).濾過量が過剰となり低眼圧に陥ると,脈絡膜?離が発生する.脈絡膜と強膜の移行部である上脈絡膜には,膠原線維や弾性線維からなる比較的柔らかな層状構造があり,脈絡膜外隙(suprachoroidalspace)とよばれる間隙が存在する.低眼圧ではこの間隙に水が貯留し,脈絡膜?離が生じると考えられる.層板間の接着は後極部に比べて前方のほうが弱いため,脈絡膜外隙の拡大や脈絡膜?離は,通常,赤道部より周辺で発生する(図2).一方,脈絡膜?離をきたさない症例では,網膜と脈絡膜は波打ったように皺がより,網膜血管は拡張蛇行し,視神経乳頭は浮腫状を呈することがある.黄斑部に皺襞を生じて視力低下や歪視をきたした状態を低眼圧黄斑症とよび,通常は眼圧が5mmHg以下で起こることが多く,特徴的な眼底とOCT所見を呈する(図3).これは,眼圧が下降し眼球が縮小すると外眼筋が眼球を後方に牽引し,逆に視神経は前方へ圧迫するため後眼部に皺が起こりやすいためと考えられている.この低眼圧黄斑症は,眼球が変形しやすい若年近視眼に多い特徴がある.もともと後眼部は,前眼部に比べて膠原線維が疎であるため剛性が低く,眼球が変形しやすい構造をしているが,近視眼では眼球の伸長により強膜が薄く,さらに若年の強膜は弾性に富むため,後極部に皺が起こりやすいと考えられる.●閉塞隅角と脈絡膜濾過手術後の眼圧下降に伴う脈絡膜の肥厚とは別に,原発閉塞隅角の症例でも脈絡膜が肥厚していることが報告されている7).このような症例に飲水負荷試験を行うと,脈絡膜はさらに肥厚するといわれている8).すなわ(80)ち,このchoroidalexpansionという病態が,一部の急性閉塞隅角症の発症にかかわっていることを裏付けている.また,原田病のように脈絡膜のメラノサイトを標的とする自己免疫性疾患で炎症が脈絡膜全体に及ぶと,脈絡膜の血管透過性が亢進し,脈絡膜は著しく肥厚する.原田病でも,急性期に脈絡膜?離に伴って毛様体が前湾し,二次的な急性閉塞隅角症を発症することがあるので注意を要する.文献1)WallmanJ,WildsoetC,XuAetal:Movingtheretina:choroidalmodulationofrefractivestate.VisRes35:37-50,19952)DelaeyC,VanDeVoordeJ:Regulatorymechanismsintheretinalandchoroidalcirculation.OphthalmicRes32:249-256,20003)ChakrabortyR,ReadSA,CollinsMJ:Diurnalvariationsinaxiallength,choroidalthickness,intraocularpressureandocularbiometrics.InvestOphthalmolVisSci52:5121-5129,20114)UsuiS,IkunoY,AkibaMetal:Circadianchangesinsubfovealchoroidalthicknessandtherelationshipwithcirculatoryfactorsinhealthysubjects.InvestOphthalmolVisSci53:2300-2307,20125)WilsonLB,QuinnGE,YingGetal:Therelationofaxiallengthandintraocularpressurefluctuationinhumaneyes.InvestOphthalmolVisSci47:1778-1784,20066)UsuiS,IkunoY,UematsuSetal:Changesinaxiallengthandchoroidalthicknessafterintraocularpressurereductionandresultingfromtrabeculectomy.ClinOphthalmol7:1151-1161,20137)AroraKS,JefferysJL,MaulEAetal:TheChoroidisthickerinangleclosurethaninopenangleandcontroleyes.InvestOphthalmolVisSci53:7813-7818,20128)AroraKS,JefferysJL,MaulEAetal:Choroidalthicknesschangeafterwaterdrinkingisgreaterinangleclosurethaninopenangleeyes.InvestOphthalmolVisSci53:6393-6402,2012図1健常人の中心窩脈絡膜厚日内変動夜間から早朝にかけて厚くなり,夕方に向けて薄くなる傾向がある.(文献4を改変)表1濾過手術前後の眼圧,眼軸長,脈絡膜厚の変化線維柱帯切除術p値術前(平均±標準偏差)術後(平均±標準偏差)眼圧(mmHg)26.6±7.67.2±2.6<0.0001*眼軸長(mm)25.12±1.4224.86±1.430.001*中心窩脈絡膜厚(μm)206±64254±64<0.0001**p<0.05(Pairedt-test)(文献6を改変)(79)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611610910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2濾過手術後の低眼圧に伴う脈絡膜?離低眼圧により,眼底周辺に著明な脈絡膜?離がみられる.図3低眼圧黄斑症のOCT画像低眼圧に伴って網脈絡膜襞壁がみられる.1162あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016