写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦378.前眼部OCTによる結膜弛緩症の観察久保田久世東北公済病院眼科図1結膜弛緩症の症例(67歳,女性)主訴は流涙.下方涙液メニスカス部を弛緩結膜が占拠している.瞬目に伴い弛緩結膜の可動性を認める.図2図1の症例の前眼部OCTによる涙液メニスカス部縦断像と正常像a:開瞼直後,b:開瞼維持時.メニスカス部を弛緩結膜が占拠し,結膜上皮下に低反射領域がみられる.OCT像より,余剰結膜量や瞬目に伴う可動性を定量評価できる.c:正常眼.26歳,女性.メニスカスに涙液貯留がみられる.(53)あたらしい眼科Vol.32,No.11,201515650910-1810/15/\100/頁/JCOPY結膜弛緩症とは,襞状の余剰な結膜が眼表面と眼瞼の間にある球結膜の変化であり1),流涙症の原因疾患のひとつである.流涙症をきたすこの疾患の病態としては,弛緩した結膜が涙液メニスカス部を占拠して眼表面での涙液の流路を遮断することによる導涙性流涙と,角膜上の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進を介して眼表面を刺激することによる分泌性流涙の2つの機序が混在する2).結膜弛緩症の診断は,細隙灯顕微鏡と涙液のフルオレセイン染色による涙液メニスカス部の観察により比較的容易である.しかし,流涙に対する結膜弛緩症の治療の観点からみると,弛緩結膜の範囲と量の観察のほかに,上皮障害の評価,涙液分泌機能,涙点以降の涙道の通過障害の有無や,眼瞼弛緩などの眼瞼異常の有無,また半月襞や涙丘の耳側変位の有無などの病態評価が必要である.ことに外科的治療を行う際は適切な弛緩結膜量の把握が必要であるが,現在その定量的な評価方法はない.近年,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が登場し,角膜や隅角の観察のみならず,緑内障術後の濾過胞の評価3)や,涙液メニスカスの涙液量評価,涙液クリアランス測定4)にも応用されている.本症例(図1)のような結膜弛緩症の涙液メニスカス部を前眼部OCTで観察すると,弛緩した余剰結膜がメニスカス部を占拠している断層像が観察される(図2a,b).本症例に使用したフーリエドメイン方式前眼部OCT「CASIA(トーメーコーポレーション)」では,専用の解析ソフトを用いて任意の部位の距離や断面積を計測することが可能であり,それにより,座位でのメニスカスに占拠する部分の余剰結膜を定量評価することが可能である.さらに動画撮影機能により,瞬目に伴うメニスカス部の結膜変化を観察することが可能である.本症例では,開瞼直後に余剰結膜が角膜表面を上方向に伸展し,開瞼保持時は経時的に結膜が下方移動し短縮する結膜の動的変化が観察された.また,本症例では,余剰結膜上皮下の領域に,瞬目運動で可変する低反射領域が観察された.結膜弛緩症が,病理学的に結膜下の弾性線維の断裂や膠原線維の減少,リンパ管拡張などを起こし,結膜組織の強膜からの.離がみられるという報告から5),この低反射領域は,結膜の粘膜固有層内の間隙や,リンパ管拡張部,結膜と強膜間の.離間隙を示していると考えられた.前眼部OCTによる結膜弛緩症の観察は,外科的治療の結膜短縮量決定の一助になる可能性がある.また,細隙灯顕微鏡では評価しにくい結膜弛緩症の動的な病態評価や,弛緩結膜とその結膜下組織の病理の解明にも有用である可能性が示唆された.文献1)MellerD,TsengSC:Conjunctivochalasis:literaturereviewandpossiblepathophysiology.SurvOphthalmol43:225-232,19982)YokoiN,InatomiT,KinoshitaS:Surgeryoftheconjunc-tiva.DevOphthalmol41:138-158,20083)SinghM,ChewPT,FriedmanDSetal:Imagingoftrab-eculectomyblebsusinganteriorsegmentopticalcoher-encetomography.Ophthalmology114:47-53,20074)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearlyphasetearclearancebyanteriorseg-mentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmol92:e105-e111,20145)WatanabeA,YokoiN,KinoshitaSetal:Clinicopathologicstudyofconjunctivochalasis.Cornea23:294-298,2004