屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載179大橋裕一坪田一男179.オルソケラトロジーによる近視進行平岡孝浩筑波大学医学医療系眼科抑制効果オルソケラトロジーによる学童期の近視進行抑制効果が多数報告されるようになった.既報によれば32~63%の抑制効果が期待できる.過去にさまざまな近視進行抑制法が試みられたが,エビデンスが確認された手法は少なく,その中でもオルソケラトロジーは有効性と安全性のバランスに優れ,小児期に導入しやすい方法といえる.オルソケラトロジー(orthokeratology:OK)の近視進行抑制効果が学術論文として初めて報告されたのは2004年である.Cheungらは,左眼のみOK治療を受けていた11歳男児の眼軸長変化を2年間追跡調査したところ,左眼は0.13mmしか延長しなかったのに対して,治療を受けていない右眼は0.34mmの眼軸長伸長を認めたと報告した1).なお,OKにおける近視進行を評価する場合には眼軸長変化が指標として用いられる.なぜなら,OK治療中は角膜がフラット化しているため屈折は常に正視に近い状態となっているため,屈折変化を経時的に調べてもほとんど変化しないことになってしまうからである.その後,2つのパイロットスタディが施行され,2年間の観察期間においてOK治療群は眼鏡群やソフトコンタクトレンズ(SCL)群よりも50%前後の眼軸長伸長抑制効果を有することが示された(表1).そこで筆者らは日本人において類似の臨床研究を行ったところ,OK群は対照群よりも眼軸長伸長が36%抑制されたことを確認した2).最近では,香港でエビデンスレベルの高いランダム化臨床試験が施行され,その結果においてもOK群は眼鏡対照群よりも43%の眼軸長伸長抑制を示したと報告された3).上記にあげた臨床研究はいずれも2年間に限局されていたため,つぎに筆者らは5年間へと観察期間を延長して前向き研究を行ったところ,きわめて興味深い結果が得られた.まず,5年の長期にわたっても約30%の眼軸伸長抑制効果を有することが判明した.しかし,治療開始後3年間は有意な抑制効果がみられるものの,4年目以降はその効果が減弱することも明らかとなった4)(図1).また,治療開始年齢が早いほど近視進行抑制効果が強いこともわかり,この知見は他の研究でも確認されるようになっている.さらに最近では,partialreductionortho-kといって,強度近視眼に対してOKで4Dだけ部分的に近視矯正を行い,残存した近視度数に対して眼鏡を装用させるというスタディが施行され,眼鏡対照群よりもきわめて強い表1オルソケラトロジー(OK)の小児眼軸長伸長抑制効果著者(雑誌,発行年)年齢(歳)OK群の眼軸伸長(2年間)対象群の眼軸伸長(眼鏡orSCL)対照群と比較した抑制効果Choetal(CurrEyeRes.2005)7~120.29mm0.54mm(眼鏡)46%Wallineetal(BrJOphthalmol.2009)8~110.25mm0.57mm(SCL)56%Kakitaetal(InvestOphthalmolVisSci.2011)8~160.39mm0.61mm(眼鏡)36%Santodomingo-Rubidoetal(InvestOphthalmolVisSci.2012)6~120.47mm0.69mm(眼鏡)32%Choetal(InvestOphthalmolVisSci.2012)6~100.36mm0.63mm(眼鏡)43%CharmJetal(OptomVisSci.2013)8~110.19mm0.51mm(眼鏡)63%(49)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155130910-1810/15/\100/頁/JCOPY眼軸長(mm)2726252423オルソケラトロジー眼鏡①*②*③*④⑤pre1Y2Y3Y4Y5Y経過(year)眼軸長伸長オ眼鏡群(mm)(mean±SD)ルソケラトロジー群(mm)(mean±SD)p値①0.38±0.200.19±0.090.0002*②0.33±0.180.26±0.130.0476*③0.29±0.160.19±0.150.0385*④0.24±0.180.18±0.170.0938⑤0.17±0.140.16±0.130.8633*対応のないt検定図1オルソケラトロジー群と眼鏡群における5年間の眼軸長変化両群とも年々眼軸長は伸長していくが,群間比較を行うと1~3年目(①~③)は眼軸長の変化量に有意差がみられ,オルソケラトロジー群で有意に伸びが抑制されている.4年目(④)もオルソケラトロジー群のほうが眼軸伸長が抑制されているが有意差は認められなかった.5年目(⑤)はほぼ同値であった.(文献4)より引用改変)眼軸伸長抑制効果(63%)が得られたと報告されている.OK開始時の近視度数が大きいほうが眼軸長伸長抑制効果は強いとの報告は他にも散見されており,この点に関しては今後の検証が必要である.また,乱視を有する近視眼を対象としてトーリックOKを施行した場合も有意な眼軸伸長抑制効果が確認されたと報告されており5),近視進行抑制治療を目的としたOKの適応が拡大している.上記のような効果が得られる理由として,周辺部遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)の改善がそのメカニズムであると推測されているが(図2),真のメカニズムは残念ながら解明されていない.過去にさまざまな近視進行抑制法が試みられてきたが,もっとも強い効果を示したのは1%アトロピン点眼である.これと比較するとOKの抑制効果は若干劣ることは否めないが,アトロピンがもたらす調節麻痺や散瞳,近方視力低下,さらには全身副作用出現などの危険性を考えると,OKは明らかに小児に導入しやすいといえる.また,アトロピン点眼は視機能を犠牲にして近視進行を抑制するという側面を有するのに対して,OKは514あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015周辺部遠視性デフォーカス結像面結像面遠視性デフォーカスの改善A.眼鏡(凹レンズ)による矯正B.オルソケラトロジー治療後図2眼鏡矯正とオルソケラトロジーでの網膜結像面の違いA:近視眼に対して通常の眼鏡で矯正すると,周辺部に遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)を生じ,これが眼軸を伸長(近視を進行)させるトリガーとなると考えられている.B:オルソケラトロジー治療後は角膜中央はフラット化し近視が軽減するが,周辺部角膜は肥厚・スティープ化するため周辺での屈折力が増し,周辺網膜像での遠視性デフォーカスが改善する.その結果,眼軸長伸長が抑制され,近視が進行しにくくなるという仮説が支持されている.裸眼視力を向上させるため,視機能の改善を図りながら,近視進行抑制効果を得るというメリットがある.ただし,CL装用に起因する感染性角膜潰瘍を発症した場合はきわめて重篤な視力障害をきたす可能性があり,レンズケアを含めた患者教育には細心の注意を払う必要がある.未解決の問題点としては,1)治療を中止するとリバウンド現象が出るのか,2)リバウンド現象を避けるためには,どの程度の治療継続が必要か,3)最大限の効果を得るための最適の治療開始年齢は何歳か,4)アトロピン点眼など他の治療法との併用療法の効果,などがあげられる.さらなる研究の蓄積が待たれる.文献1)CheungSW,ChoP,FanD:Asymmetricalincreaseinaxiallengthinthetwoeyesofamonocularorthokeratologypatient.OptomVisSci81:653-636,20042)KakitaT,HiraokaT,OshikaT:Influenceofovernightorthokeratologyonaxialelongationinchildhoodmyopia.InvestOphthalmolVisSci52:2170-2174,20113)ChoP,CheungSW:RetardationofmyopiainOrthokeratology(ROMIO)Study:a2-yearrandomizedclinicaltrial.InvestOphthalmolVisSci53:7077-7085,20124)HiraokaT,KakitaT,OkamotoFetal:Long-termeffectofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:a5-yearfollow-upstudy.InvestOphthalmolVisSci53:3913-3919,20125)CharmJ,ChoP:Highmyopia-partialreductionorthok:a2-yearrandomizedstudy.OptomVisSci90:530539,2013(50)