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難治性角膜フリクテンの1例

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):405.408,2015c難治性角膜フリクテンの1例新澤恵*1冨田隆太郎*1伊勢重之*1齋藤昌晃*1伊藤健*1,2石龍鉄樹*1*1福島県立医科大学医学部眼科学講座*2伊藤眼科ACaseofSeverePhlyctenularKeratitisMegumiShinzawa1),RyutaroTomita1),ShigeyukiIse1),MasaakiSaito1),TakeshiIto1,2)andTetsujuSekiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)ItoEyeClinic難治性角膜フリクテンに,抗菌薬の局所および全身投与が有効であった症例を経験した.症例は14歳,女児.4年前から結膜炎・霰粒腫を繰り返していた.複数の医療機関を受診し,確定診断がつかないまま点眼による加療が行われたが,眼痛と視力低下が進行し福島県立医科大学眼科へ紹介された.初診時,視力は右眼矯正0.4,左眼矯正1.0,両眼に球結膜の充血・角膜周辺に複数の小円型の浸潤病巣を,右眼には角膜耳側に結節性細胞浸潤とそれに向かう血管侵入,瞳孔領に及ぶ角膜上皮下混濁を認め,角膜フリクテンと診断した.また,マイボーム腺開口部に閉塞を認めた.抗菌薬とステロイド薬の点眼にて加療したが改善せず,ステロイド薬の中止と抗菌薬の頻回点眼,ミノマイシンの内服で加療したところ,治療に反応し右眼矯正視力は1.2に改善した.本症例はマイボーム腺炎に関連した病態を呈しており,マイボーム腺炎角結膜上皮症を示唆する症例と考えられた.A14-year-oldfemalewithoverfouryears’historyofrecurrentconjunctivitisandchalazionwasreferredtoourhospital.Shealsocomplainedofeyepainandblurredvisionatpresentation.Althoughshehadbeentreatedwitheyedropsatseveralclinics,herconditionhadnotimproved.Oninitialexamination,herbest-correctedvisualacuity(BCVA)was20/50righteyeand20/20lefteye.Shehadbilateralconjunctivalhyperemiaandinfiltrations,withanoduleinherrighteyeconsistingofsub-epithelialtostromalcellularinfiltration,andsuperficialcornealneovascularization.Meibomianglandorificeobstructionswerealsoobserved.Shewasthereforediagnosedwithphlyctenularkeratitisandtreatedwithtopicalantibioticsandcorticosteroids,netherofwhich,however,waseffective.Wechangedthetreatmenttotopicalandoralantibioticswithoutcorticosteroids.Finally,theinflammationsubsided.Inthisparticularcase,mibomitismayhavebeenstronglyrelatedtothephlyctenularkeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):405.408,2015〕Keywords:角膜フリクテン,マイボーム腺炎角結膜上皮症,マイボーム腺機能不全,プロピオニバクテリウムアクネス,抗菌薬.phlyctenularkeratitis,meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis,meibomianglanddysfunction,Propionibacteriumacnes,antibiotictherapy.はじめに角膜フリクテンは,マイボーム腺炎を高率に合併し再発を繰り返すことが知られている.近年,細菌増殖によると考えられるマイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害を生じる疾患群を,マイボーム腺炎角結膜上皮症として捉えることが提唱されている1,2).その病型は,角膜に結節性細胞浸潤と血管侵入を伴う「フリクテン型」と,点状表層角膜症を主体とした「非フリクテン型」の2つに大別される1,2).両病型ともに,マイボーム腺内における細菌増殖がその病因であると考えられている1,3).今回,フリクテン型のマイボーム腺炎角結膜上皮症に対し,抗菌薬を使用し改善をみたが,抗菌薬減量とステロイド薬点眼の追加により悪化した症例を経験したので報告する.I症例患者:14歳,女性.主訴:右眼視力低下,眼痛,流涙.既往歴:アレルギー性鼻炎.現病歴:2009年頃から,結膜炎・霰粒腫を繰り返し,複数の医療機関を受診していた.2013年1月頃より,眼痛と〔別刷請求先〕新澤恵:〒960-1295福島県福島市光が丘1番地福島県立医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MegumiShinzawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUniversity,1Hikarigaoka,Fukushima960-1295,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(95)405 abcdeabcde図1初診時の右眼前眼部写真a:著明な球結膜充血,角膜耳側に結節性細胞浸潤と血管侵入.b,c:上下眼瞼縁全体に,マイボーム腺開口部の閉塞と炎症.d,e:角膜上皮下混濁は瞳孔領に及び,一部潰瘍を形成.e:フルオレセイン染色.abcde図2初診時の左眼前眼部写真a:球結膜充血.b,c:眼瞼縁の不整と瞼結膜の充血.d,e:輪部中心に角膜浸潤病巣が多発.e:フルオレセイン染色.視力低下が進行したため,近医眼科より福島県立医科大学眼科(以下,当科)へ紹介され,2013年7月,当科を受診した.初診時所見:視力は右眼0.4(n.c.),左眼0.8(1.0)であった.右眼前眼部は,球結膜の著明な充血と,角膜耳側に結節性細胞浸潤と血管侵入を認めたため,角膜フリクテンと診断した(図1).角膜上皮下混濁は瞳孔領に及び,一部潰瘍を形成しており,視力低下の原因と考えられた.また,上下眼瞼縁全体に,マイボーム腺開口部の閉塞と炎症所見を認めた(図1b,c).左眼前眼部にも球結膜充血を認め,角膜輪部を主体に角膜浸潤病巣が多発しており,上下眼瞼縁の不整と瞼結膜の充血を認めた(図2).また,顔面には著明な皮疹を認めた.結膜.ぬぐい液,マイボーム腺分泌物の培養を施行したが,結果は陰性であった.顔面の皮疹に関しては,皮膚科専門医により.瘡と診断された.皮膚膿疱の培養も施行したが,結果は陰性であった.406あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015経過:マイボーム腺炎が原因の角膜フリクテンと考えられたため,抗菌薬の局所投与による治療を開始した.0.5%セフメノキシム点眼,0.3%トブラマイシン点眼,エリスロマイシン眼軟膏を投与したところ,初診より10日目には,球結膜充血と角膜浸潤所見が軽快したため,抗菌薬の減量と0.1%フルオロメトロン点眼を追加したところ,19日目,マイボーム腺炎および角膜病変が悪化した(図3).そこで,0.1%フルオロメトロン点眼の中止,上下眼瞼縁全体のマイボーム腺梗塞に対しマイボーム腺圧迫鉗子での圧出を,マイボーム腺炎の強いところには開口部にメスでの小切開を加え圧出を施行,および抗菌薬を,0.5%セフメノキシムと0.5%モキシフロキサシンの頻回点眼(1時間毎),0.3%オフロキサシン眼軟膏に変更し,ミノマイシン200mgの内服を追加したところ,数日で速やかに眼表面の炎症は軽減し,右眼視力は24日目には(0.9),39日目には1.2(n.c.)に改善した(図4).その後は点眼を漸減継続し,寛解を維持している(96) (図5).II考按角膜フリクテンは若年女性に好発し,再発を繰り返す難治性の疾患である.その所見は,角膜に結節性細胞浸潤とそれに向かう表層性血管侵入を認め,対応する球結膜に充血を認ab図3悪化時の右眼前眼部写真(病日19)a:マイボーム腺炎の悪化と同期して,角膜病変も悪化した.b:マイボーム腺部の拡大.開口部にメスでの小切開を加えた.めるのが特徴的である1).フリクテンの発症には,遅延型過敏反応(IV型アレルギー反応)が関与すると考えられており,種々の細菌をはじめとする病原体成分が抗原になると考えられてきた4).1950年代の結核蔓延期には,非衛生的な環境で暮らすツベルクリン反応陽性の小児に多いとされ,抗原として結核菌が注目された5).また,1951年には,Thygesonにより非結核性のフリクテン症例でStaphylococcusaureusによるものが報告されている5).他にも,Candida,Chlamydia,Coccidioides,線虫などさまざまな報告がある6,7).わが国でも,結膜.および眼瞼縁などの細菌培養から,Corynebacterium,a-Streptococcus,coagulasepositiveStaphylococcus,Staphylococcusaureus,Staphylococcusepidermidis,Neisseriaなどが報告されているが,各菌種の検出率は11.75%とばらつきがあり,いずれも症例数が4.8例と少ない8.10).角膜フリクテンではマイボーム腺炎を高率に合併し,マイ図4寛解時の右眼前眼部写真(病日39)マイボーム腺炎は改善し,結節病巣は瘢痕化した.図5治療経過抗菌薬の点眼を開始し一旦軽快したが,抗菌薬の減量とステロイド薬点眼の追加で悪化した.ステロイド薬点眼の中止とマイボーム腺の切開・圧出,および抗菌薬の頻回点眼と全身投与で速やかに改善し,その後は寛解を維持している.(97)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015407 ボーム腺炎の改善に伴って角膜病変も改善することが知られており,稲毛らは,自験例15眼において,マイボーム腺梗塞や霰粒腫の合併または既往は73%にみられたと報告している8).2005年,鈴木らは,角膜フリクテン患者20例におけるマイボーム腺分泌物の細菌培養において,12例(60%)でPropionibacteriumacnesが検出され,コントロール群に比べ有意差があったことから,P.acnesが角膜フリクテンの起炎菌となりうる可能性を報告し,角膜フリクテンを含めたマイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害を主体とする疾患群を「マイボーム腺炎角結膜上皮症」と呼ぶことを提唱した1,3).本症例は,若年女性の角膜フリクテンで,霰粒腫の既往があり,マイボーム腺炎と角膜病変の増悪と軽快が同期していたことから,マイボーム腺炎角結膜上皮症(フリクテン型)と考えられた.起因菌としてP.acnesを疑い培養などを行ったが,同定には至らなかった.培養が陰性であった理由には,採取できる検体量が少なかったこと,嫌気培養ができなかったことなどが考えられ,採取および培養条件の再検討が必要であると考えられた.筆者らは,培養が陰性であることから,カタル性角膜浸潤,ブドウ球菌性眼瞼炎,酒.性眼瞼炎なども鑑別し治療を行った.角膜フリクテンは,前眼部感染アレルギーと認識されており,治療には病巣の消炎療法としてのステロイド薬と,感染病巣の治療としての抗菌療法に分けて考えられている4).ステロイド薬の使用は,一見,遅延型過敏反応の病態の理に沿うものと考えられるが,一時的な効果はみられるものの,遷延化する症例も多いことや感染症を悪化させることが報告されている11).本症例の経過から,初診時には結節および潰瘍が形成され細胞浸潤が角膜実質深層に及んでおり,旺盛な結節形成期であったと考えられる.抗菌薬の点眼を開始し一旦軽快したが,抗菌薬の減量とステロイド薬点眼の追加で悪化した.ステロイド薬点眼の中止とマイボーム腺の切開・圧出,および抗菌薬の頻回点眼と全身投与で改善を得るに至った.既報でも,ステロイド薬の併用は必須ではなく,ステロイド薬単独あるいは不十分な抗菌薬とステロイド薬の併用投与では再発あるいは遷延化を促す可能性について報告されていることからも,注意を要する12).しかしながら本症例では,当初,培養結果の確認までの間,前医よりの抗菌薬をそのまま継続してしまったこと,培養が陰性であったことより,鑑別疾患を広くカバーしようと抗菌薬の選択に一貫性を欠く結果となった.初期の段階で,的を絞った抗菌薬の投与ができなかったところに,ステロイド薬を併用したため,マイボーム腺内の除菌が不十分となり,細菌関連抗原が残留したことで再燃に至り,難治性となったものと推測される.ステロイド薬を併用する際には,抗菌薬の適切な使用による十分な除菌が重要であると考えられた.この経過は,マイボーム腺内における細菌増殖がその病因と捉える「マイボーム腺炎角結膜上皮症」の定義を裏付けるものと考えられた.既報にも,難治性角膜フリクテンの治療として,抗生物質点滴大量療法が有効であったとする報告もあり13),本症例においても,十分な抗菌薬投与によりアレルギー反応を引き起こす起因菌を除去することが治療の鍵であったと考えられた.本症例は,2014年3月現在も経過観察を続けているが,寛解を維持し,視力も良好に保たれている.寛解増悪を繰り返す若年女性の角膜フリクテンでは,マイボーム腺炎角結膜上皮症を念頭に置き,本症例のような重症例では抗菌薬の頻回点眼,全身投与が有効であると考える.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20002)SuzukiT:Meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:implicationsandclinicalsignificanceofmeibomianglandinflammation.Cornea31:S41-S44,20123)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkeratitisassociatedwithmeibomitisinyoungpatients.AmJOphthalmol140:77-82,20054)齋藤圭子:フリクテン.眼科46:667-673,20045)ThygesonP:Theetiologyandtreatmentofphlyctenularkeratoconjunctivitis.AmJOphthalmol34:1217-1236,19516)ThygesonP:Observationsonnontuberculousphlyctenularkeratoconjunctivitis.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol58:128-132,19547)JefferyMP:Oculardiseasescausedbynematodes.AmJOphthalmol40:41-53,19558)稲毛佐知子,齋藤圭子,伊東眞由美ほか:角膜フリクテン10例の臨床的検討.日眼会誌102:173-178,19989)西信亮子,原英徳,日比野剛ほか:角膜フリクテンの起炎菌に関する検討.眼紀49:821-825,199810)窪野裕久,水野嘉信,重安千花ほか:難治性とされたフリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍の要因.あたらしい眼科27:809-813,201011)金指功,秦野寛,内尾英一ほか:フリクテン性角膜炎の臨床的検討.眼臨88:1222-1227,199412)高橋順子,外園千恵,丸山邦夫ほか:免疫不全症に合併したマイボーム腺炎角膜上皮症に抗菌薬投与が奏功した1例.眼紀55:364-368,200413)鈴木智,横井則彦,木下茂:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科15:11431145,1998408あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(98)

My boom 38.

2015年3月31日 火曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第38回「加治優一」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第38回「加治優一」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介加治優一(かじ・ゆういち)筑波大学医学医療系眼科1994年に東京大学医学部を卒業し,男ばかり9人が同期となり東大眼科で研修医となりました.研修後は大学院生として人体病理学教室でトレーニングを受けつつ,水流先生(国際医療福祉大学)・山下英俊先生(山形大学)・小幡博人先生(自治医科大学)より角膜の創傷治癒とサイトカインの研究指導を受けました.大学院修了後に方向の定まらない私を天野史郎先生が拾ってくださり,現在まで続く研究テーマを与えてくださるとともに,臨床の疑問を研究で解決し,その成果を臨床に還元する姿勢を教えてくださいました.電子顕微鏡と組織化学の技術修得のため新潟大学口腔解剖学教室に国内留学後,ハーバード大学へ約1年半留学.帰国時に大鹿哲郎先生がチャンスを与えてくださり,2002年から筑波大学講師,2012年から准教授となっています.臨床のMyBoom私が入局したときには准教授の先生は雲の上のような存在で,話しかけることさえできませんでした.今,自分がその立場になっても,雲の上どころか,未だ雲の中で視界が開けず悩んでいることが多く,このままで良いのだろうかと不安になることがあります.筑波大学では主に眼感染症や角結膜疾患に力を注いでいます.筑波大には手術の神様,大鹿先生がおられますので,私の興味は手術手技とは異なる方向に向かいぎみです.具体的には,アカントアメーバ・真菌・ニキビダ(81)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYニなどの感染症に興味をもっています.感染症の診断には顕微鏡による検鏡が必須です.外来・研究室・外勤先・自宅を含めて10台の光学顕微鏡+蛍光顕微鏡に囲まれて,週に約10人分の検鏡を行っています.最近のお気に入りは睫毛根に生息するニキビダニです.初めて見たときには気味が悪かったのですが,最近は愛らしく思えてきました.雄雌・卵・幼虫・成虫の区別もつくようになると,ライフサイクルを実感でき,不思議な感覚になります.もう一つのお気に入りは,手のひらに載るようなポータブル蛍光顕微鏡です.PARTEC社のCyscopeminiはデザインが美しく,かつコンセントにつなぐとすぐに蛍光が観察できるため,アメーバや真菌の検査が楽しくなります.研究のMyBoom1日の時間の8割は臨床,2割は研究にあてています.忙しい臨床の合間に実験するのはつらいこともありますが,いまだに大学院生並みに実験を続けていることを考えると,たぶん実験が好きなのだと思います.研究テーマは「自分にしかできない仕事を」(大鹿先生),「一度テーマを決めたら10年間しがみつけ」(東大病理・町並先生)を守っているため,流行とはかけ離れた「蛋白質の異常凝集」一筋です.たしかに他の誰もやっていない仕事ではありますが,正直言うと,再生医療の分野がちょっとうらやましいです.眼科だけでは太刀打ちできないテーマのため,京都大学原子炉実験所・藤井紀子先生(D-アミノ酸),大阪大学蛋白質研究所・後藤祐児先生(アミロイド),明治大学理学部・榊原潤先生(流体力学),筑波大学理学部・加納英明先生(ラマン顕微鏡)を含めて,多数の施設と密な共同研究を行っています.時間があれば,各施設に赴いて実験や話し合いを行っています.同じ現象(たとあたらしい眼科Vol.32,No.3,2015391 写真1得意技は美しいパラフィン切片作りと免疫染色写真1得意技は美しいパラフィン切片作りと免疫染色えば角膜ジストロフィ)をみたとしても,眼科医と科学者の見地や解釈は異なります.お互いに議論をぶつけ合うことで徐々に距離が縮まり,検証すべき実験内容が明らかになってきます.この過程は知的好奇心を強烈に刺激するため,その夜は眠れなくなるほどです.この研究分野の研究者は理学部出身者が多くを占めています.そのため私は「眼科」ではなく「医学全般」担当となっており,目だけではなく脳・腎臓・動脈・椎間板を含めて全身の臓器を扱います.早く医学出身の仲間が増えてほしいと願っています.現在は,研究と臨床の両立が可能な後継者を育てることにもエネルギーを注いでいます.成長した彼らとともに研究ネタで話が盛り上がる,そんな時期ももうすぐやってきます!プライベートのMyBoom息子と遊ぶときには,卓球・レゴブロック作り・忍者ごっこなど,どんな内容でも100%のエネルギーを注ぎます.趣味の押しつけで息子に顕微鏡をプレゼントしたのですが,塩の結晶を1回見ただけで埃をかぶっています.写真2ハロウィンも全力で仮装仕事が行き詰まったときには,近所の染井温泉に行くことがあります.悩みをいくつか頭の中に携えてぬる湯につかると,突然アイデアが浮かび,いてもたってもいられない状況になることがあります.さらにしばらく湯につかり,頭の中で妄想がグルグル巡るに任せます.頭が爆発する寸前に温泉から上がって調べごとをすると,すばらしい研究テーマにつながることがあります.しかし研究面では1割バッター,つまりアイデアの9割はただの妄想で終わってしまいます.次のプレゼンターは千葉大学の菅原岳史先生です.趣味も仕事も多芸多才のスーパーマンです.こんな先生と一緒に仕事ができれば,毎日楽しく過ごせそうです.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆392あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(82)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 142.硝子体手術中に生じる一過性白内障(初級編)

2015年3月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載142142硝子体手術中に生じる一過性白内障(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに硝子体手術に関連する一過性白内障としては,ガスタンポナーデを施行した有水晶体眼の術後に生じるガス白内障がよく知られている1)が,硝子体手術の術中にも一過性白内障が生じることがある.とくに増殖糖尿病網膜症に対する水晶体温存硝子体手術時には一過性後.下白内障が生じやすい.これは増殖糖尿病網膜症では硝子体中のグルコース濃度が通常の疾患より上昇しており,これを灌流液と置換することで浸透圧の急激な変化をきたし,その結果として後.下白内障が生じるものと考えられる.●術中に生じる一過性後.下白内障の特徴ガス白内障と同様に,通常は羽毛状の後.下混濁が生じる.形態としては車軸状を呈するが,通常の皮質白内障と違い,周辺部だけでなく後.の中央部にも混濁が及んでいることが多い(図1).混濁が軽度であればそのまま手術を続行できるが,視認性が極端に悪くなると水晶体切除を余儀なくされることもある(図2).●術中の対処法後.下白内障が生じ,眼底の視認性が低下したら,ひとまずは増殖膜処理などの繊細な手技を要しない部分の操作を続行して,白内障が徐々に軽減してくるのを待つ.通常は30~40分で少し視認性が改善することが多い(図3)が,症例によっては改善しないこともある.灌流液にグルコースを添加する方法も考えられるが,いったん後.下白内障が生じてから灌流液に添加しても効果は少ない.手術開始前から灌流液にグルコースを添加する方法も考えられるが,硝子体中のグルコース濃度は症例によって非常にばらつきがあり,白内障の発生を完全に抑制することは困難である.(79)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1術中に生じる一過性後.下白内障車軸状かつ羽毛状の形態を呈する.図2術中の視認性若年の増殖糖尿病網膜症例.手術開始時には良好な視認性が得られていたが(a),後.下白内障が生じると視認性が低下した(b).ab図3術終了時の所見術中に後.下白内障は徐々に軽快し,手術終了時にはほぼ消退した.●液空気置換時にも注意裂孔原性網膜.離などで何度も液空気置換を繰り返していると,同様に一過性後.下白内障が生じやすいので,水晶体温存硝子体手術では液空気置換の回数を必要最小限にすべきである.文献1)池田恒彦,田野保雄,細谷比左志ほか:ガス白内障.臨眼43:956-959,1989あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015389

眼科医のための先端医療 171.後部硝子体剥離と眼内サイトカイン濃度

2015年3月31日 火曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第171回◆眼科医のための先端医療山下英俊後部硝子体.離と眼内サイトカイン濃度髙橋秀徳(自治医科大学眼科)網膜硝子体癒着と網膜疾患後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)による疾患として黄斑円孔・網膜裂孔・vitreopapillarytractionなどが知られています.他にも加齢による硝子体の液化や後部硝子体.離により,硝子体内の物質拡散能が向上し,眼内のさまざまな物質が眼外に拡散しやすくなり,疾患のかかりやすさなどに影響する可能性が指摘されてきました.動物実験では液化硝子体中の拡散能が高いこと1),後部硝子体.離を作製した動物眼では注入したサイトカインが早期に抜けること2),後部硝子体の酸素濃度が上昇することなどが報告されてきました.一方,疫学研究では加齢黄斑変性において硝子体黄斑癒着が多いこと3),黄斑前膜や黄斑円孔で硝子体切除した眼は加齢黄斑変性になりにくいこと4)などが報告されてきました.微量濃度測定法の進歩サイトカイン濃度はきわめて低く,測定は困難です.抗原抗体反応を利用したenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)は以前からありましたが,検体量が200μl程度必要となるため浅前房では必要な房水量が得られず,また1種類しか測定できない問題がありました.近年,multiplexcytokineassayと呼ばれる測定法が広まってきて,より少ない量の検体で数十種類ものサイトカイン濃度が同時に測定できるようになりました.これは蛍光で色分けしたビーズを用い,それぞれの色に対応した捕捉抗体を結合させることで,ビーズを流しながら複数の蛍光強度を測定して各サイトカインの濃度を求めるものです(図1).抗原抗体反応を用いるところまではELISAと同じですが,ビーズを用いて反応に使用する表面積を飛躍的に向上させ,その感度上昇を検体量減少と測定種類向上に振り向けています.さらに,最近ではluminescentoxygenchannelingimmunoassay(LOCI)法といって,励起光で活性酸素を発生する捕捉抗体結合ビーズと,活性酸素で発光する検出抗体結合ビーズで目的抗原をサンドイッチすることで,不純物の洗浄工程を経ることなく直接蛍光を検出する方法など,さまざまな高感度短時間測定法が開発・報告されつつあります.高感度短時間測定法の問題点ここで問題となるのは,いずれの高感度短時間測定法であっても原理に抗原抗体反応を用いることです.通常はサンドイッチ法を用いますので,抗原認識部位の異なる2種類の抗体を使用します.ビーズの表面に吸着した捕捉抗体が測定対象物質と結合します.洗浄することでそれ以外の物質が除去されます.Multiplexcytokineassayであればそこに蛍光色素を結合させた検出抗体を蛍光色素検出抗体測定分子捕捉抗体図1Multiplexcytokineassayの仕組みビーズは蛍光色素の濃淡で数段階に色分けされている.それぞれの濃さで着色したビーズに対し,特定の捕捉抗体を吸着させてある.検体を反応させると数種類の測定対象分子がそれぞれのビーズに結合した状態になる.洗浄して不純物を除去し,検出抗体を用いて蛍光色素を標識する.ビーズを1つずつ流し,そのビーズがどの分子を測定するものなのかをビーズに着色した蛍光色素から読み取り,同時に検出抗体の蛍光強度を測定する.標準物質で測定した濃度.蛍光強度曲線から実際の濃度を割り出す.ビーズに着色する蛍光色素を2種類用いれば,数種類×数種類の数十種類に色分けして数十種類の物質を同時に測定できる.蛍光ビーズ(75)あたらしい眼科Vol.32,No.3,20153850910-1810/15/\100/頁/JCOPY AB蛍光色素測定分子競合物質検出抗体測定分子競合物質図2Multiplexcytokineassayと競合物質の混入測定分子に特異的に結合する競合物質が検体に混入していると測定値が低く出る可能性がある.A:測定分子に特異的に結合する競合物質捕捉抗体捕捉抗体蛍光ビーズ蛍光ビーズの結合部位が捕捉抗体と競合するとき,測定分子は捕捉抗体に結合できず最初の洗浄で洗い流されてしまう.B:測定分子に特異的に結合する競合物質の結合部位が検出抗体と競合するとき,検出抗体は測定分子に結合できず2回目の洗浄で洗い流されてしまう.10.80.60.40.20***図3後部硝子体.離眼における前房中サイトカイン濃度減少眼底正常の白内障手術80眼と加齢黄斑変性61眼において9種類のサイトカイン前房中濃度を測定し,加齢黄斑変性の有無・年齢・性別・眼軸長で補正し,後部硝子体.離のない眼を1と置いたとき後部硝子体.離のある眼の濃度(*:p<0.05).多変量解析を行ったところ,後部硝子体.離はサイトカイン濃度を12%減少させる効果があったと発表された.IL-10CXCL1MCP-1CCL11IL-6CXCL12MMP-9CXCL13IP-10386あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015反応させ,洗浄することで測定対象物質の量に応じた検出抗体がビーズに残留します.検出抗体の蛍光強度を測ることで濃度がわかります.したがって,測定分子に特異的に結合する物質が不純物として含まれていると測定値が低く出る可能性があります(図2).最初に検体を捕捉抗体に反応させるときから競合物質が捕捉抗体と測定分子の奪い合いをしてしまいます.三者間で奪い合いになるので,最終的な測定値は測定分子全体の濃度でもなければ競合物質から遊離している測定分子の濃度でもない値になると考えられます.さらに,捕捉抗体は受容体と構造がまったく違いますので,捕捉抗体と検出抗体の両方に結合した物質の量が測れているからといって,受容体に結合しうる物質の量,その物質の生物学的活性が測れているということもできません.測定への影響は競合の強さによると考えられますので,Multiplexcytokineassayを行う際は,影響がどの程度であるのか,予備的検討が必要と考えられます.眼科領域ではBehcet病に用いられる抗腫瘍壊死因子a抗体や滲出型加齢黄斑変性などに用いられる抗血管内皮増殖因子薬などがそれぞれのサイトカインに競合しうると考えられますが,その他のサイトカインなどは問題なく研究が可能と思われます.(76) 新たな検査・治療の可能性新たな検査・治療の可能性そして,これらを利用して近年さまざまな眼内サイトカインの研究結果が報告されています.後部硝子体.離は前房中サイトカイン濃度を12%減少するとの学会発表もあります(図3)5).過去の疫学研究報告を裏付けるものであり,今後治療法に発展するかも知れません.今後さらに微量の検体で多数の物質濃度を測定する系が実用化されることで,研究が一層進展し,さまざまな眼科疾患に対して日常的に眼房水を採取して診断・治療に役立てる時代が来るかもしれません.文献1)西村葉子,林英之,大島健司ほか:硝子体液化に伴うFluorescein-Naの拡散速度の変化.日眼会誌90:13131316,19862)WuWC,ChenCC,LiuCHetal:Plasmintreatmentacceleratesvascularendothelialgrowthfactorclearancefromrabbiteyes.InvestOphthalmolVisSci52:6162-6167,20113)NomuraY,UetaT,IriyamaAetal:Vitreomacularinterfaceintypicalexudativeage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.Ophthalmology118:853-859,20114)IkedaT,SawaH,KoizumiKetal:Parsplanavitrectomyforregressionofchoroidalneovascularizationwithage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmolScand78:460-464,20005)TakahashiH,TanX,NomuraYetal:Associationsbetweenposteriorvitreousdetachmentandconcentrationsofvariouscytokinesineyeswithage-relatedmaculardegenerationandnormalcontroleyes.AssociationforResearchinVisionandOphthalmology4992,2013■「後部硝子体.離と眼内サイトカイン濃度」を読んで■以前から,後部硝子体.離は網膜疾患の発生や進行トカインの測定が可能になると,後部硝子体.離眼でに重要な影響を及ぼす現象であるとされてきました.は(おそらく眼内クリアランスが向上することで)眼後部硝子体.離に伴う網膜裂孔の形成は,網膜.離の内サイトカイン濃度が減少することが初めてわかりま原因になりますし,後部硝子体.離のない糖尿病網膜した.硝子体中の炎症性サイトカイン濃度が減少すれ症眼においては,硝子体皮質を足場にして細胞が増殖ば,疾患の病勢が衰えるという現象と矛盾しません.し線維性増殖膜が形成されます.線維性増殖膜は黄斑今まで漠然と推測されていた現象にはっきりとした道前膜の原因となり,はなはだしい場合はきわめて難治筋がついたことは大変重要なことです.すでにこれらの増殖硝子体網膜症へと進行します.以前の硝子体手の事実を踏まえて,プラスミンを用いて後部硝子体.術においては,必ず人工的後部硝子体.離を起こさな離を起こして糖尿病網膜症を治療しようという試みがくてはならないとされたのは,主にその理由からで始まっています.す.しかし,硝子体手術を行わなくても,後部硝子体基礎研究の場合,単体では意義が明らかではないも.離後に糖尿病網膜症の進行が抑制されたり,加齢黄のもありますが,それらが合わさることで,大きな臨斑変性の病勢が衰えたりする症例が報告されるように床的意義をもつことは少なくありません.今回の研究なりました.その理由として,後部硝子体膜が眼球運は,今までの後部硝子体.離と網膜疾患の進行という動に伴って網膜を前方牽引しますので,それが解除さ臨床上の謎を解くための大きなカギを提供して,新たれるためであると説明されました.しかし,それ以上な治療に結びつけたものであり,大変重要な研究であは推測の域を出ませんでした.るといえます.ところが,本稿で述べられている方法で眼内のサイ鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆(77)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015387

新しい治療と検査シリーズ 226.PPF試験(PMMA涙液可視化試験)

2015年3月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.32,No.3,20153830910-1810/15/\100/頁/JCOPY.新しい検査法(原理)Krehbielflowを観察するために,筆者らもMauriceや長嶋が用いた炭素粒子混合溶液を用いて追試行ったが,炭素粉末では,定性的な流れは観察可能なものの,粒子の流速を測定するのには,視認性においてやや不向きであると思われた.そこで,筆者らは直径40μmの白色PMMA微粒子をフルオレセイン水溶液に混合した溶液,5%PMMA(Polymethylmethacrylate)微粒子+0.2%フルオレセイン混合液(PolymethylmethacrylateParticlesSuspendedinFluoresceinSolution:PPF)を作製し,視認性をアップさせてKrehbielflowの定量を行った3)..方法涙液動態への影響を最小限に抑えるために,PPFをマイクロピペットで5μlのみ点眼してKrehbielflowを観察する.Krehbielflowの定量には,スリットランプの倍率12倍で録画し,MotionAnalyzerR(キーエンス新しい治療と検査シリーズ(73).バックグラウンド涙液は,瞬目直後に急速に涙点へと吸い込まれ,開瞼を維持しているとその流れはしだいに緩やかになる.この涙液メニスカスにおける涙液の流れは発見者の名前にちなんで“Krehbielflow(クレービエル・フロー)”と呼ばれ,前者を「急流相」,後者を「緩流相」として区別している.長嶋は,Mauriceの炭素粒子(lampblack)混合溶液1)を改良し,Krehbielflowの検討を行っている2).その検討によれば,急流相は涙小管閉塞例において,緩流相は涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)後例において1例も観察されなかったという事実から,急流相は涙小管ポンプ,緩流相は涙.ポンプによって生じる可能性があるとしている.このように,涙液メニスカスにおける涙液の流れ,すなわちKrehbielflowを観察することによって涙液クリアランスを動的に評価することが可能になる.226.PPF試験(PMMA涙液可視化試験)abc図1PPF(PolymethylmethacrylateParticlesSuspendedinFluoresceinSolution)試験a:PPF溶液のPMMA粒子は沈殿している.b:撹拌により懸濁液となる.c:76歳,女性にPPFを5μl点眼した状態.加齢に伴って上眼瞼が外反ぎみになり,上方涙液メニスカスのPPFの流れも観察しやすくなる.プレゼンテーション:山口昌彦愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野コメント:横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学あたらしい眼科Vol.32,No.3,20153830910-1810/15/\100/頁/JCOPY.新しい検査法(原理)Krehbielflowを観察するために,筆者らもMauriceや長嶋が用いた炭素粒子混合溶液を用いて追試行ったが,炭素粉末では,定性的な流れは観察可能なものの,粒子の流速を測定するのには,視認性においてやや不向きであると思われた.そこで,筆者らは直径40μmの白色PMMA微粒子をフルオレセイン水溶液に混合した溶液,5%PMMA(Polymethylmethacrylate)微粒子+0.2%フルオレセイン混合液(PolymethylmethacrylateParticlesSuspendedinFluoresceinSolution:PPF)を作製し,視認性をアップさせてKrehbielflowの定量を行った3)..方法涙液動態への影響を最小限に抑えるために,PPFをマイクロピペットで5μlのみ点眼してKrehbielflowを観察する.Krehbielflowの定量には,スリットランプの倍率12倍で録画し,MotionAnalyzerR(キーエンス新しい治療と検査シリーズ(73).バックグラウンド涙液は,瞬目直後に急速に涙点へと吸い込まれ,開瞼を維持しているとその流れはしだいに緩やかになる.この涙液メニスカスにおける涙液の流れは発見者の名前にちなんで“Krehbielflow(クレービエル・フロー)”と呼ばれ,前者を「急流相」,後者を「緩流相」として区別している.長嶋は,Mauriceの炭素粒子(lampblack)混合溶液1)を改良し,Krehbielflowの検討を行っている2).その検討によれば,急流相は涙小管閉塞例において,緩流相は涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)後例において1例も観察されなかったという事実から,急流相は涙小管ポンプ,緩流相は涙.ポンプによって生じる可能性があるとしている.このように,涙液メニスカスにおける涙液の流れ,すなわちKrehbielflowを観察することによって涙液クリアランスを動的に評価することが可能になる.226.PPF試験(PMMA涙液可視化試験)abc図1PPF(PolymethylmethacrylateParticlesSuspendedinFluoresceinSolution)試験a:PPF溶液のPMMA粒子は沈殿している.b:撹拌により懸濁液となる.c:76歳,女性にPPFを5μl点眼した状態.加齢に伴って上眼瞼が外反ぎみになり,上方涙液メニスカスのPPFの流れも観察しやすくなる.プレゼンテーション:山口昌彦愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野コメント:横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学 6420-2-49080706050403020Age(years)Lowervelocity(mm/second)9-39080706050403020Age(years)Uppervelocity(mm/second)7531-16420-2-49080706050403020Age(years)Lowervelocity(mm/second)9-39080706050403020Age(years)Uppervelocity(mm/second)7531-1図2PPF試験の加齢性変化上下涙液メニスカスにおいて,涙点側へ向うPPFの流速は加齢に伴い有意に遅くなる(上方:r2=0.214,p<0.0001,下方:r2=0.195,p<0.0001).製)によって瞬目間の下方および上方涙液メニスカスにおけるPMMA粒子速度を計測する(図1)..本法の利点正常者のKrehbielflowは,上下涙液メニスカスにおいて,加齢とともに低下し(図2),各年代で下方よりも上方のほうが速く,内方視すると有意に速くなることがわかった.これらの結果の臨床的意義についてはさらに考察と検討を要するが,PPFテストを施行することで,涙液メニスカスを中心とする眼表面の涙液動態を可視化することが可能になる.もちろん,PPFテストのみで涙液クリアランスを語ることはできないが,その他の涙液クリアランステストの結果を組み合わせることによって,これまでとは異なった視点から機能的流涙症を含む涙液動態関連疾患の病態解明に役立つと思われる.文献1)MauriceDM:Thedynamicsanddrainageoftears.IntOphthalmolClin13:103-116,19732)長嶋孝次:炭素粒子試験.涙の流れ,とくにKrehbielflowについて.臨眼30:651-656,19763)YamaguchiM,OhtaK,ShiraishiAetal:NewmethodforviewingKrehbieflowbypolymethylmethacrylateparticlessuspendedinfluoresceinsolution.ActaOphthalmol92:e676-e680,2014.「PPF試験(PMMA涙液可視化試験)」へのコメント.開瞼は,眼表面の涙液を瞼裂部の涙液層とメニスカれを直接示す涙液クリアランステストというには限界スの涙液にコンパートメント化するとともに,涙液層があるが,その流れを反映する情報を可視化でき,かの形成,涙液クリアランスにおいて重要な働きをもつ,定量化しうる点において,画期的な方法といえるつ.メニスカスにおける涙液の流れは,開瞼により涙だろう.また,歴史的なKrehbielflowを再考した生小管を包むHorner筋が弛緩して涙小管内に陰圧が発理学的意義も大きいと思われる.内方視における微粒生し,この陰圧がメニスカスの毛管圧に打ち勝つこと子の流速の上昇は,メニスカスにおいて微粒子の流れで生まれる.筆者も述べているように,本論文で報告を遮断しうる弛緩結膜や半月ヒダの影響も考える必要されたPPF試験は,直径40μmのPMMA微粒子をがあると思われるが,本法のさらなる発展が楽しみで用いているために,メニスカスにおける涙液の水の流ある.☆☆☆384あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(74)

眼瞼・結膜:結膜上皮染色の意義

2015年3月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人3.結膜上皮染色の意義加藤弘明横井則彦京都府立医科大学眼科学教室眼表面疾患を診察するうえで,結膜の観察は重要であるが,近年,とくに結膜上皮障害を評価する必要性が高まっている.結膜上皮障害の観察には,病態を考えながら明確な目的をもって観察すること,およびフルオレセインやリサミングリーンといった生体染色色素の特性をよく理解して,それらを最大活用することが大切である.●はじめに眼表面疾患の診察をする場合,眼不快感や視機能異常の舞台となる角膜上皮や角膜上の涙液層に注目しがちであるが,病態の主座が角膜上皮よりもむしろ結膜上皮にある場合や,角膜上皮障害と結膜上皮障害の両者を比較しながら観察することで鑑別診断が行える場合がある.よって,眼表面疾患の診療において結膜上皮の観察は欠かせない.結膜上皮の健常性やその障害を詳細に評価するには生体染色が必須であるが,日常診療において使用可能な染色色素には,フルオレセイン,ローズベンガル,リサミングリーンの3種類がある.このなかで,ローズベンガルは光毒性を有し眼刺激が強く,点眼麻酔を行わないと眼表面の染色に使用できないことや,濃度が高いと染色範囲が広がるために,近年使われない傾向にある.そのため,ローズベンガルは同様の染色特性を有するリサミングリーンに取って代わられるようになってきている.そこで本稿では,フルオレセインとリサミングリーンを用いた結膜上皮の観察とその意義について述べる.●フルオレセインによる結膜上皮の観察フルオレセインは,細胞間のバリアの障害を検出する色素としての特徴をもち1),結膜上皮障害は,一般に点状染色という形で観察される.フルオレセインを用いて結膜上皮障害を観察する場合,フルオレセインの励起光であるコバルトブルー光の結膜表面での反射光や,それによって励起される強膜の自発蛍光が,フルオレセインからの蛍光のコントラストを低下させて,明瞭に障害上皮を観察するうえでの障害となる.そこで,高いコントラストをもって結膜上皮障害を観察するために,励起光を選択し,かつ,その反射光を防ぐためのフィルターの組み合わせ(ブルーフリーフィルタ)が用いられている2).また,球結膜には加齢性に結膜弛緩が生じ,弛緩(71)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY結膜間にフルオレセインが貯留すると結膜上皮障害が観察しにくくなるので注意が必要である.しかし,この色素の貯留を逆利用して,結膜弛緩症の程度評価にフルオレセイン染色を活用する方法は非常に有用である(図1).結膜上皮障害の観察は,Sjogren症候群を代表とする涙液減少型ドライアイ(図2)と薬剤性角膜上皮障害(図3)の鑑別に有用であり,前者では角膜に比べて結膜の上皮障害が,後者では結膜に比べて角膜の上皮障害が強くなりやすいという特徴がある3).一方,結膜上皮が角膜上皮に比べてバリア機能が弱いことを利用して,フルオレセインを用いて,角膜に侵入した結膜上皮の境界を追うことができる.結膜の侵入範囲は,5分ほど時間を置いて観察すると色素がしみこんだような所見を呈する(delayedstaining).●リサミングリーンによる結膜上皮の観察リサミングリーンは,先に述べたようにローズベンガルと同等の染色特性を有するが,光毒性がないために,染色濃度が濃くなっても染色範囲は変わらない.緑色であることもあって,フルオレセインに比べて結膜上皮の障害部位の検出にすぐれ,死細胞や変性細胞のような細胞膜が障害された上皮細胞を染色しうる1).しかし,背景の虹彩色の影響を受けるために,フルオレセインに比べて,角膜上皮障害の観察には適さない.瞬目時の摩擦は,結膜上皮障害を引き起こすが,これを背景にもつ疾患群,すなわち上輪部角結膜炎(図4)やlid-wiperepitheliopathy(図5),ソフトコンタクトレンズによる結膜上皮障害の検出に,リサミングリーンは有用である.●おわりに点眼液を処方する機会の多い日常診療において,ドライアイと薬剤性角膜上皮障害を鑑別することは,しばしば重要であり,そこに結膜上皮障害の観察の意義が大きあたらしい眼科Vol.32,No.3,2015381 図1結膜弛緩症弛緩した結膜の趨壁にフルオレセインが貯留し,結膜の趨壁が浮き彫りにされることで,結膜弛緩症の範囲や程度が評価しやすくなっていることがわかる.図2涙液減少型ドライアイほとんど角膜上皮障害がみられないのに対し,結膜上皮障害は強い(フルオレセイン染色後,ブルーフリーフィルタによる観察).図3薬剤性角膜上皮障害結膜にまったく上皮障害がみられないのに対し,角膜上皮障害は強い(フルオレセイン染色後,ブルーフリーフィルタによる観察).く存在する.また,新しい点眼治療薬の登場により,上輪部角結膜炎やlid-wiperepitheliopathyなどの瞬目時382あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015図4上輪部角結膜炎角膜輪部から上方結膜にかけてリサミングリーンで染色される上皮障害が認められる.図5Lid.wiperepitheliopathy上眼瞼結膜のlidwiper領域(異物溝前方の眼瞼縁の眼瞼結膜)にリサミングリーンで染色される上皮障害が認められる.の摩擦亢進に関連したドライアイ関連疾患を観察する機会が増えており,結膜上皮障害を積極的に観察する必要性が増している.眼科医にとって,先に述べた生体染色色素の特性や,それらの染色の有効な対象を良く理解し,結膜上皮障害の評価を的確に行えることが,日常の一般診療においても重要になってきていると思われる.文献1)BronAJ,ArguesoP,IrkecMetal:Clinicalstainingoftheocularsurface:Mechanismsandinterpretations.ProgRetinEyeRes44:36-6,20142)KohS,WatanabeH,HosohataJetal:Diagnosingdryeyeusingablue-freebarrierfilter.AmJOphthalmol136:513-519,20033)YokoiN,KinoshitaS:Importanceofconjunctivalepithelialevaluationinthediagnosticdifferentiationofdryeyefromdrug-inducedepithelialkeratopathy.AdExpMedBiol438:827-830,1998(72)

抗VEGF治療:ラニビズマブとアフリベルセプトの使い分け

2015年3月31日 火曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二14.ラニビズマブとアフリベルセプトの大中誠之関西医科大学医学部眼科学教室使い分け現在,ラニビズマブとアフリベルセプトはともに,加齢黄斑変性(AMD),近視性脈絡膜新生血管,網膜中心静脈閉塞症および糖尿病に伴う黄斑浮腫の4つの疾患に適応がある.難治性AMDに対してはアフリベルセプトの投与が有効とされるが,他の疾患においては明確な使い分けの基準はない.本稿では,それぞれの特徴をまとめ,AMD治療を中心に,現時点での2剤の使い分けについて述べる.わが国では,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対して2009年にラニビズマブ,2012年にアフリベルセプトが承認された.その後,両薬剤ともに適応が拡大され,治療の選択肢が増えたことは喜ばしい.しかし,両薬剤ともに滲出型AMD,近視性脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV),網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)に伴う黄斑浮腫,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に適応があり,現時点では使い分けに関する明確な基準はなく,その選択は診察医に委ねられている(表1).これまでの大規模臨床試験を単純に比較すると,滲出型AMD,近視性CNV,DMEにおいてはラニビズマブとアフリベルセプトの間で視力の予後に差はなく,CRVOに伴う黄斑浮腫においてはアフリベルセプトがやや視力の改善効果が良いようである.一方,眼内の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を抑制する期間については,ラニビズマブ(平均36日)1)よりアフリベルセプト(平均71日)2)のほうが長く,AMD治療の維持期においては,アフリベルセプトの2カ月毎投与の有効性はラニビズマブの毎月投与に対して非劣性であることが確認されており,アフリベルセプトのほうが少ない回数で治療が行える可能性がある.さらに,最近の研究において,ラニビズマブは血中VEGFに与える影響が少なく,アフリベルセプトは投与後1カ月間は血中VEGFを抑制すると報告されている3)ことから,理論上はラニビズマブのほうが全身合併症のリスクが低いと考えられる.近年,滲出型AMDに対する抗VEGF薬硝子体内投与の大規模臨床試験4,5)の結果,眼局所の合併症として,長期にわたる継続した治療により地図状萎縮(geographicatropathy:GA)が進行することが報告され,維持期表1ラニビズマブとアフリベルセプトの特徴ラニビズマブアフリベルセプト日本での発売薬価2009年4月17万6,235円2012年11月15万9,289円創薬デザインヒト化抗VEGF抗体断片VEGF受容体融合糖蛋白分子量48kDa115kDaブロックする分子VEGF-AVEGF-A,VEGF-B,PlGFVEGF165に対する解離定数46.192pM0.5pM(結合親和性高い)1回投与量0.5mg(0.05ml)2.0mg(0.05ml)硝子体内半減期7.1日(ヒト)3.3.2日(サル)2.6.2.88日(ウサギ)4.5.4.7日(ウサギ)ヒト血清中半減期0.25日18日適応疾患滲出型加齢黄斑変性近視性脈絡膜新生血管網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫糖尿病黄斑浮腫滲出型加齢黄斑変性近視性脈絡膜新生血管網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫糖尿病黄斑浮腫(69)あたらしい眼科Vol.32,No.3,20153790910-1810/15/\100/頁/JCOPY の管理や薬剤の選択に関心が集まっている.維持期の管理としては,AMD治療において最近TreatandExtend法を取り入れる施設が多くなっているが,長期成績の報告は少なく6),過剰投与の問題も含め,今後PRN(prorenata)投与との比較試験など,さらなる検討が必要であると思われる.AMD治療における薬剤選択としては,ラニビズマブに抵抗性を示す網膜色素上皮下病巣に対してアフリベルセプトが有効であったとする報告が多く,導入期治療の第一選択はアフリベルセプトで問題はないと考える.しかし,AMDは慢性疾患であり,長期かつ頻回の抗VEGF薬硝子体内投与を必要とするため,全身合併症およびGAを含む眼局所の合併症の発症を念頭に置いて治療方針を決めるべきであろう.これまでの滲出型AMDの大規模臨床試験の結果からは,ラニビズマブとアフリベルセプトの間で全身合併症の発症リスクに差はないとされているが,血中VEGFを長期間抑制するアフリベルセプトの投与回数を少なくすることにより全身合併症の発症リスクをさらに下げることができる可能性があり,維持期の薬剤選択についてはさらに詳細な検討が必要と考える.また,ラニビズマブとアフリベルセプトはともにinvitroの実験では細胞毒性がないと報告されている7)が,サルを用いたinvivoの実験では,アフリベルセプトにより網膜色素上皮細胞死が誘導され,ラニビズマブと比較して脈絡膜毛細血管板に強く影響することから,GAの発症リスクを上げる可能性が指摘されている8).今後の長期成績の報告に注目しながら,現状においては漫然と投与し続けるのではなく,できる限り少ない投与回数で病状の安定化が図れるように投与方法を工夫しながら治療を進めるべきである.現在当院では,滲出型AMDに対しては,脳・心血管イベントの有無,年齢に応じて抗VEGF薬の使い分けをしており,半年以内に脳・心血管イベントがあった場合はペガプタニブ,85歳以上ではラニビズマブ,それ以外はアフリベルセプトを第一選択としている(図1).維持期には多くの症例でTreatandExtend法を採用しているが,オリジナルの方法では過剰投与になることがあることから,滲出性所見の消失後に一度経過観察を行い,再度滲出性所見を認めた時点からTreatandExtend法を採用するという独自の方法を取り入れている.近視性CNVに対しては,治療前から強い網脈絡膜萎縮が存在する場合は,アフリベルセプトによる萎縮の進行の可能性を考慮してラニビズマブを第一選択としているが,明確なエビデンスは存在しない.CRVOとDMEに関してはまだ決まった方針はない380あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015半年以内に脳・心血管イベントの既住があるいいえはい85歳以上であるPegaptaniborPegaptanib+PDTいいえはいAfliberceptRanibizumab図1関西医大枚方病院における滲出型AMDに対する薬剤選択基準が,これらの2疾患をもつ患者にはもともと高血圧と糖尿病が存在し,脳・心血管イベントの準備状態が高い状態にあると考えてよいため,riskとbenefitを十分に検討したうえで,個別に抗VEGF薬の適切な使用方法を考慮する必要があると考えている.文献1)MuetherPS,HermannMM,DrogeKetal:Long-termstabilityofvascularendothelialgrowthfactorsuppressiontimeunderranibizumabtreatmentinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol156:989-993,20132)FauserS,SchwabeckerV,MuetherPS:Suppressionofintraocularvascularendothelialgrowthfactorduringaflibercepttreatmentofage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol158:532-536,20143)WangX,SawadaT,SawadaOetal:Serumandplasmavascularendothelialgrowthfactorconcentrationsbeforeandafterintravitrealinjectionofafliberceptorranibizumabforage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol158:738-744,20144)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:SEVEN-UPStudyGroup:Seven-yearoutcomesinranibizumab-treatedpatientsinANCHOR,MARINA,andHORIZON:amulticentercohortstudy(SEVEN-UP).Ophthalmology120:2292-2299,20135)GrunwaldJE,DanielE,HuangJetal:CATTResearchGroup:Riskofgeographicatrophyinthecomparisonofage-relatedmaculardegenerationtreatmentstrials.Ophthalmology121:150-161,20146)RayessN,HoustonSK3rd,GuptaOPetal:Treatmentoutcomesafter3yearsinneovascularage-relatedmaculardegenerationusingatreat-and-extendregimen.AmJOphthalmol159:3-8,20157)SchnichelsS,HagemannU,JanuschowskiKetal:Comparativetoxicityandproliferationtestingofaflibercept,bevacizumabandranibizumabondifferentocularcells.BrJOphthalmol97:917-923,20138)JulienS,BiesemeierA,TaubitzTetal:Differenteffectsofintravitreallyinjectedranibizumabandafliberceptonretinalandchoroidaltissuesofmonkeyeyes.BrJOphthalmol98:813-825,2014(70)

緑内障:サイトメガロウイルスに関連する続発緑内障

2015年3月31日 火曜日

●連載177緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也177.サイトメガロウイルスに関連する松下賢治大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室続発緑内障サイトメガロウイルス(CMV)前眼部感染症は多彩な炎症反応を示し,鑑別診断が容易でない.合併する緑内障も不安定な眼圧経過をたどり,原因を特定できず高眼圧のため濾過手術に至ることがある.近年,前房水PCRによりCMVが検出できるシステムが構築された.CMVに関連する続発緑内障の診断治療の現在について概説する.CMV(cytomegalovirus)が前眼部炎症に独自に関与することを最初に示したのは,2006年のKoizumiらによる角膜内皮炎の報告である1).この発見は免疫不全に伴う網膜炎の一亜型ととらえられていたCMV前眼部感染が,健眼に前眼部炎症のみを起こしうることを示した.翌年,Yamauchiらは角膜浮腫を伴う前眼部炎症,つまり角膜ぶどう膜炎の高眼圧症例について,CMV感染を示し,治療により改善したことを報告している2).同年,KawaguchiらによりCMVウイルス量が病態を反映する可能性が示唆され,病因として認識されたCMV関連前眼部炎症の治療法の方針が固まった3).すわなち,CMVの検出とそれに続く抗CMV薬(ガンシクロビル:GCV)による治療である.さらに2008年にはCheeらによる大規模解析において,Posner-Schlossmansyndrome(PSS)とFuchsheterochromaticiridocyclitis(FHI)の一部にCMV感染を示すという報告がなされ,CMV感染が前眼部炎症において多彩な所見を示す広いスペクトラムをもつ症候群である可能性が示唆された4,5)(表1).筆者らも,約10年にわたり眼圧が20台後半程度まで上昇する慢性炎症性続発緑内障で,ステロイドで改善し非結節性線維柱帯炎として経過観察されていた症例表1サイトメガロウイルス前眼部感染症のプロファイル比較CMV角膜内皮炎自験例(線維柱帯炎)CMV虹彩毛様体炎FHIPSS角膜内皮炎高度高度軽度なしなし虹彩異色・萎縮なしーありなし萎縮異色・萎縮萎縮虹彩毛様体炎軽度軽度あり軽度-中等度軽度虹彩結節なしなしなし高頻度なし虹彩後癒着なしなしありなしなし角膜後面沈着物色,サイズ白,小型白・色素性,小型色素性,中型白,小型(星針)白,小型-中型位置中央中央中央び慢性中央数多数数個から多数多数多数少数coinlesioncentralperipheralなしなしなし眼圧上昇軽度-中等度軽度から高度軽度-中等度軽度高度隅角色素―脱色素脱色素脱色素完全脱色素虹彩前癒着なしありありありなし新生血管なしなしなし高頻度なし白内障あり高度中等度高度なし両眼・片眼片眼・両眼片眼片眼・両眼片眼片眼(67)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYに,角膜輪部近くに円形状白濁所見を検出していたが,Koizumiらの報告するcoinlesionに極似していた(図1).その後,急激な角膜内皮減少から(図2),前房水PCRでCMVを検出し,GCV治療を開始し,所見消失と高眼圧改善を示した.PSS症例からもCMVを検出しGCVにより改善をみた(図3)(2010年日本眼科学会,2011年日本緑内障学会).この経験から,筆者らはCMV関連性角膜ぶどう膜炎の中に独特の特徴を有し,GCV治療に反応する症例があると考えていた(表1).2010年にHwangらはCMV前部ぶどう膜炎の3つのプロファイルを提唱した6).Japらは自然寛解するとされるPSSの中に緑内障への進行例が多数あるという問題点をすでに2001年に指摘していたが7),2014年PSSへのCMV内服治療で改善例が報告され,ウイルス治療により緑内障発症を抑制しうる可能性が示唆された8).2008年頃の学会で角膜内皮炎に角膜内皮局所感染が関与する仮説が話題となったが,Kobayashiらにより解明図1coinlesionに極似した所見角膜内皮炎の既報で報告されているよりも線維柱帯に近い周辺部角膜の内皮面に円形状白濁所見がある症例が複数あり,角膜瘢痕と考えて重要な所見と考えていたが,Koizumiらの報告するcoinlesionに極似していたことから,現在ではperipheralcoinlesionと呼んでいる.あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015377 2001R20062008200920102011劇症期角膜内皮細胞密度は劇症期以降著明に減少(1,000個/mm2以下)図2慢性炎症の経過中,角膜内皮減少悪化期慢性的な眼圧上昇と下降を繰り返し,慢性線維柱帯炎としてフォローしていた患者が,あるとき,急激な角膜内皮が減少と眼圧上昇を示した.その際に前房水PCRを行い,CMVを検出したことから,GCV治療を開始した.治療が奏効し発作性の高眼圧も改善した.された9).この疾患群の発症部位がneuralcrest由来細胞に限局されている点は興味深く,今後全体像の解明が期待される.疾患の存在を疑うことから診断は始まる.反復性で自然寛解傾向,ステロイド易反応性,長期的には再発性治療抵抗性を示す前眼部炎症は前房水PCRによって確定診断されるべきで,治療は局所ないし全身へのGCV投与が選択されるが,高眼圧レベルは実にさまざまで,来院時の緑内障病期によっては猶予のない症例もあり濾過手術が有効とされる.しかし,Schlemm管機能が残存するという考えもあり,線維柱帯切開術などが奏効したとの報告もある.筆者らも切開術での改善例を経験した.2014年Koizumiらは角膜内皮炎の多施設スタディにて診断治療の指針を示した10).しかし,CMV感染は角膜のみの疾患ではなく,前眼部全体に及ぶ.それゆえ,疾患群の実体に迫るには角膜内皮炎,虹彩毛様体炎,線維柱帯炎など全領域をまたぐ多施設によるコホート研究が必要で,眼圧管理を含め連携した総合治療指針が示されることが待望される.文献1)KoizumiN.YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovirusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmol141:564-565,20062)YamauchiY,SuzukiJ,SakaiJetal:Acaseofhypertensivekeratouveitiswithendotheliitisassociatedwithcytomegalovirus.OcurImmunolInflamm15:399-401,20073)KawaguchiT,SugitaS,ShimizuNetal:Kineticsofaqueousflare,intraocularpressureandvirus-DNAcopiesinapatientwithcytomegalovirusiridocyclitiswithoutretinitis.IntOphthalmol27:383-386,20074)CheeSP,JapA:Clinicalfeaturesofcytomegalovirusanterioruveitisinimmunocompetentpatients.AmJOphthalmol145:834-840,20085)CheeSP,JapA:Presumedfuchsheterochromiciridocy-378あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015A非発作時CMV陽性発作眼発作時KPの拡散逆に綺麗非発作眼治療眼の眼圧推移B眼圧(mmHg)1%GCV点眼1日6回治療1年目治療2年目治療3年目図3Posner.Schlossmansyndrome(PSS)のCMV陽性例PSS症例の眼圧上昇時に前房水を採取し,定量式PCRにてCMVを検出した.そののち,CMV治療により改善したが,再発が減少するまで数年を要した.A:発作時はKPが散在する.PSS症例の隅角は健常眼に比べ,色素沈着が少ない.B:GCV点眼開始により長年続いていた眼圧上昇発作の頻度は減少した.clitisandPosner-Schlossmansyndrome:comparisonofcytomegalovirus-positiveandnegativeeyes.AmJOphthalmol146:883-889,e1,20086)HwangYS,ShenCR,ChangSHetal:Thevalidityofclinicalfeatureprofilesforcytomegaloviralanteriorsegmentinfection.GraefesArchClinExpOphthalmol249:103-110,20117)JapA,SivakumarM,CheeS:IsPosnerSchlossmansyndromebenign?Ophthalmology108:913-918,20018)SobolewskaB,DeuterC,DoychevaDetal:Long-termoraltherapywithvalganciclovirinpatientswithPosner-Schlossmansyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol=AlbrechtvonGraefesArchivfurKlinischeundExperimentelleOphthalmologie,2014.doi:10.1007/s00417-013-2535-99)KobayashiA,YokogawaH,HigashideTetal:Clinicalsignificanceofowleyemorphologicfeaturesbyinvivolaserconfocalmicroscopyinpatientswithcytomegaloviruscornealendotheliitis.AmJOphthalmol153:445-453,201210)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Clinicalfeaturesandmanagementofcytomegaloviruscornealendotheliitis:analysisof106casesfromtheJapancornealendotheliitisstudy.BrJOphthalmol,bjophthalmol-2013304625(2014).doi:10.1136/bjophthalmol-2013-304625(68)

屈折矯正手術:分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTIS Mplus X

2015年3月31日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載178大橋裕一坪田一男178.分節状屈折型多焦点眼内レンズ岡義隆岡眼科クリニックLENTISMplusX「LENTISMplusX」シリーズはユニークな分節状構造をもち,球面度数,円柱度数ともに0.01D刻みで作製可能で,幅広い明視域をもった高精度な次世代型多焦点眼内レンズである.瞳孔位置や検査精度などに配慮し適応を選べば,非常に高い患者満足を得ることも可能である.Oculentis社「LENTISMplusX」は「LENTISMplus」の新型モデルで,レンズ光学部に遠用部と近用部を分節状に配置した個性的なデザインのシングルピースプレート型アクリル製多焦点眼内レンズである(図1).主な変更点は,中心遠用部をやや小さくして近用部の割合を増やし近見視力を向上し,遠近移行部をスムーズにして中間視力を向上させたことである.「LENTISMplusX」には,non-ToricとToricモデルがあり,Toricモデルでは着色タイプも選択できる.特筆すべきはレンズの精度で,Toricモデルでは球面度数は0~+36.0Dの範囲で0.01D刻み,円柱度数は+0.25~+12.0Dの範囲で0.01D刻み,乱視軸は1°刻みに依存することなく効率的に遠近に光が配分されている.2mm以上の瞳孔径があれば問題なく多焦点眼内レンズとして機能する.また,デザイン上,遠近移行部が少ないので光損失が5~8%と少ない.つぎにコントラスト感度(図4)だが,単焦点眼内レンズ症例と比較しても全周波数領域において有意差なく良好である.乱視は12.0Dまで矯正が可能であり,乱視のある症例に対してLENTISplusXToricを挿入し,術後乱視量が減少している(図5).10090遠方セクター近方セクター光損失光エネルギー(%)80706050403020で患者の目にあわせてオーダーが可能である.図2に示すように遠近の術後視力は良好で,中間距離での視力も0.7程度あり,明視域が広いことがわかる.自験例でも術後平均視力で遠見1.07,近見(眼前4010cm)0.84,中間(眼前100cm)0.67であった.このように2重焦点の多焦点眼内レンズでありながら,中間視力もそこそこ確保していることも大きな利点といえる.瞳孔径による遠近光エネルギー量の関係を図3に示す.多焦点眼内レンズは瞳孔径によって遠近の視力が変動する場合があるが,「LENTISMplusX」では瞳孔径遠用部近用部図1LENTISの構造光学部の上方に遠用,下方に近用レンズが配置されている.00.00.51.01.52.02.5瞳孔径(mm)図2距離と視力3.03.54.0中間領域の落ち込みが少なく,広い明視域をもつ.(BerrowEJ,WolffsohnJS,BilkhuPSetal:Visualperformanceofanewbi-aspheric,segmented,asymmetricmulti-focalIOL.JRefractSurg30:584-588,2014より改変)視力1.251.00.80.630.50.40.320.250.20.160.130.1近方中間遠方-4.0-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.0デフォーカス(D)図3瞳孔径と光エネルギー光配分が瞳孔径に依存しにくい.(AuffarthGU,etal:OculentisLENTISMplus:aninnovativemultifocalintraocularlenstechnology.Cataract&RefractSurgTodayEurope34-35,2010より改変)(65)あたらしい眼科Vol.32,No.3,20153750910-1810/15/\100/頁/JCOPY 2.5両眼LENTISMplus2.0両眼単焦点レンズ1.51.0Spatialfrequency0.5[CPD]図4コントラスト感度単焦点レンズと比べ,大きな低下はない.(ShahS(Ed),BuckhurstPJ,WolffsohnJSetal:Assessmentofvisualfunctionusingdefocuscurves.OphthalmicResearchGroup,SchoolofLifeandHealthSciences,AstonUniversity,Birmingham,UK,2013より改変)361218術前術後図5術前後の乱視変化どの乱視軸でもよく収束している.(VenterJ,PelouskovaM:Outcomesandcomplicationsofamultifocaltoricintraocularlenswithasurface-embeddednearsection.JCataractRefractSurg39:859-866,2013より改変)レンズの後面の光学部,支持部ともにシャープエッジ構造(図6)で,後発白内障の発生が少ない.このレンズを適正に使用するにあたり,私が注意している点を列挙する.まず,0.01D刻みの精度に対応するために正確な術前検査が必要になる.筆者の施設では光学的眼軸長測定を測定日と機種を変えて通常5回行っている(補足であるがOculentis社はハーグストレイト社製レンズスターでの眼軸測定を推奨).IOL定数は計算式によりnonToricとToricモデルで違うので注意を要する.光学的に瞳孔径による影響は少ない設計になっているが,瞳孔偏位などがある場合レンズの多焦点性が低下する場合があるので,術前に瞳孔位置も確認しておく必要がある.術後のレフ値は信頼性が低い.患者には以下の4点を説明しておく.ハローグレアが出にくい構造だがゼロではない.近方+3D加入なので新聞や辞書などがみえにくい可能性がある.術後のニューロアダプテーション(脳の順応)はすべての多焦376あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015図6他社との電顕比較シャープエッジ構造である.(WernerL,TetzM,FeldmannIetal:Evaluatinganddefiningthesharpnessofintraocularlenses:Microedgestructureofcommerciallyavailablesquare-edgedhydrophilicintraocularlenses.JCataractRefractSurg35:556-566,2009より転載)点眼内レンズに共通する問題である.CEマーク取得済みだが厚生労働省未承認なので保険外診療となる.手術時の注意点として,全長11mmのプレート型眼内レンズであるので確実に.内に固定するのに若干のコツが必要である.また,1°刻みの乱視軸に対応した精度の高い手術が求められる.CCCは大きめにしたほうがレンズ挿入がやりやすい(筆者はフェムトセカンドレーザーを用いて6.0mmの前.切除を行い,術中乱視軸とレンズ中心をサージカルガイダンスで確認している).破.した場合のレンズ挿入は困難であり,その場合の対処法を事前に決めておくほうが良い.「LENTISMplusX」は遠中近と幅広い明視域をもち,光学的にも優れた高精度多焦点眼内レンズであり,いくつかのポイントを押さえれば,非常に高い患者満足度を得ることができる.文献1)VenterJA,PelouskovaM,CollinsBMetal:Visualoutcomesandpatientsatisfactionin9366eyesusingarefractivesegmentedmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg39:1477-1484,20132)VenterJ,PelouskovaM:Outcomesandcomplicationsofamultifocaltoricintraocularlenswithasurface-embeddednearsection.JCataractRefractSurg39:859-866,20133)Alio.JL,PineroDP,Plaza-PucheABatal:Visualoutcomesandopticalperformanceofamonofocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:241-250,20114)AraiH,WandersB,RauMetal:ExpertsuncoverthenextgenerationofLENTISIOLs.Cataract&RefractiveSurgeryTodayEuropeFebruary(supplment),2014(66)

眼内レンズ:フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術

2015年3月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋341.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術杉田威一郎眼科杉田病院フェムトセカンドレーザー白内障手術では,水晶体前.切開,核分割,角膜切開,乱視矯正切開を前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)ガイド下にレーザーで施行できる.この技術を用いることで従来の白内障手術よりも精度の高い前.切開,超音波発振時間の短縮が可能である.さらなる安全性の向上,質の高い術後視機能が期待される.フェムトセカンドレーザーは,フェムト秒(1秒の千兆分の1)という超短時間に凝集されたレーザーパルスにより非熱加工で組織を切断できる.そのため生体組織内での熱の発生はほとんどなく,低侵襲で安全性の高い医療技術である.以前よりLASIKのフラップ作製や角膜移植に使用されてきた.欧米では2008年ごろから白内障手術に応用され,急速に普及してきている.わが国では2012年に初めて導入された.保険診療では使用できず,一部の自由診療患者のみが対象となる.フェムトセカンドレーザー白内障手術(femtosecondlaser-assistedcataractsurgery:FLACS)では,水晶体前.切開,水晶体核分割,角膜切開,乱視矯正切開が可能である.従来の白内障手術よりもレーザーで施行するため精度が高く,再現性に優れる.実際の手術の流れについて説明する.なお当院では倫理委員会の承認を得てAlcon社LenSxRを採用しているため,この機種で例示する.術前の処置は従来の白内障手術と同様である.大まかな流れとして,洗眼前にレーザー照射を行い,ついで洗眼し,手術顕微鏡下に移動して残りの操作を施行する.施設の事情により異なるが,当院ではレーザー照射と手術顕微鏡が別々の部屋のため移動に少々時間を費やすが,これを除けば従来の手術と手術時間は変わらない.フェムトセカンドレーザー照射は以下の手順で施行する.操作にむずかしい手技はなく,一連の操作は2~3分で終了する.はじめに患者情報,予定前.切開径や核分割パターンなど各種パラメータの入力を行う.ついでpatientinterface(PI)を装着する.PIは機種により方式が異なり,接触式(ソフトタイプ)と浸水式がある.初期の接触式PIはやや硬く,圧迫で角膜に皺ができレーザー照射にムラがあった.現在はソフトタイプに改(63)良され,この問題は解消されている.PI装着後はモニターの前眼部OCT(図1)を確認しながら前.切開の位置(センタリング),水晶体核分割の範囲(後.の位置の確認),角膜切開の位置の順に設定する.現在はこれらがほぼ自動で設定される.設定が終了したのちフットペダルでレーザーを照射する(図2).機種により違いはあるが,通常30秒前後でレーザー照射は終了する.つぎに各手技の利点,問題点について説明する.なお問題点ではないが,角膜混濁の強い症例はレーザー照射ができないため原則適応外である.前.切開は正確な大きさの正円な前.切開が可能である.多焦点眼内レンズ(IOL)などの付加価値IOL挿入予定症例では,より精度の高い前.切開が要求されるが非常に心強い.電子顕微鏡レベルで前.切開縁はマニュアル操作のものと比べて不整である(図3).しかし実際の手術で,亀裂が入るなどの強度面での問題は生じていない.成熟白内障など難症例での有効性も学会報告されている.水晶体核分割は術者の好みに合わせさまざまな形状に分割できる.分割パターンは機種により違いがある.より細かく核を分割することで,超音波の発振なし,吸引のみで水晶体核を処理するいわゆるZeroPhacoも可能である(図4).筆者も従来の白内障手術に比べ有意にeffectivephacotimeの短縮が得られている.これにより術後炎症の軽減,角膜内皮細胞保護が期待される.角膜切開に関しては,確実に予定位置に手術創が作製できる.老人環の強い症例などでレーザー照射が不完全になる可能性があり,注意が必要である.FLACSはまだまだ新しい技術で課題もある.しかし,付加価値IOLの普及に伴い,より質の高い術後視機能の要求される現在の白内障手術においてFLACSの役割は必ず大きくなるものと確信している.あたらしい眼科Vol.32,No.3,20153730910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図1前眼部OCT画面PI装着後,予定照射位置(前.切開位置や後.の位置)をOCT画面を見ながら設定する.これら設定は自動で行われるため実際,術者は確認するのみである.図3前.切開断面の電子顕微鏡像左:マニュアル操作によるもの.右:フェムトセカンドレーザーによるもの.いずれも×1,000で観察.文献1)NagyZZ:Newtechnologyupdate:femtosecondlaserincataractsurgery.ClinicalOphthalmology8:1157-1167,20142)ビッセン宮島弘子:LenSx.IOL&RS28:233-238,20143)AbellRG,KerrNM,VoteBJ:Towardzeroeffectivephacoemulsificationtimeusingfemtosecondlaserpretreatment.Ophthalmology120:942-948,2013図2レーザー照射時画面(左)とレーザー照射のイメージ(右)左:レーザー照射中の画面である.前.切開が終わり,水晶体核分割中である.この症例では400μm四方(Frag)×水平に3分割(Horiz×2)している.その形状よりマンゴーカットと呼ばれる.右:左図症例の分割イメージ図である.図4ZeroPhaco症例左:水晶体核硬度はGradeⅡ.レーザーで同心円状分割(Cylinder)8本×分割(Chop)6本=48分割されている.右:超音波発振なし,吸引のみで水晶体核の処理ができている.正円な前.切開も確認できる.4)Conrad-HengererI,HengererFH,SchultzTetal:Effectoffemtosecondlaserfragmentationoneffectivephacoemulsificationtimeincataractsurgery.JRefractSurg28:879-883,20125)DonaldsonKE,Braga-MeleR,CabotFetal:Femtosecondlaser-assistedcataractsurgery.JCataractRefractSurg39:1753-1763,20136)FriedmanNJ,PalankerDV,SchueleGetal:Femtosecondlasercapsulotomy.JCataractRefractSurg37:1189-1198,2011