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眼内レンズ:サイドポート用ナイフと鑷子

2013年10月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎326.サイドポート用ナイフと鑷子大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科適切な形状のサイドポートを作製し利用するためのナイフと鑷子を開発した.ナイフはサイドポートナイフ・トラペゾイドで,短い刺入距離で最適な大きさの台形の創口を作ることができ,また浅前房の患者でも前.を損傷する危険性が少なくなるようデザインされている.鑷子は突起付ジュエラー鑷子で,サイドポートに押し込むことにより,リークを防ぎながら,眼球の位置と方向をコントロールすることができる.二手法手術においては,たかがサイドポート,されどサイドポートである.サイドポートをうまく使うことにより,白内障手術をより洗練されたものとすることができる.サイドポートナイフ・トラペゾイド(カイインダストリーズ)は,台形(トラペゾイド)のサイドポートを作製するためのナイフである(図1).これで作製されたサイドポートに,突起付ジュエラー鑷子を押し込むことにより(図2),サイドポートからのリークを防ぎ,眼球の位置方向をコントロールし(図3),また眼球運動を抑制することができる(図4).図は経結膜強角膜一面切開1)での写真を示しているが,角膜切開であっても強角膜切開であっても,同様に活用することができる.●サイドポートナイフ・トラペゾイドサイドポートを台形にすることによって(図5),フックの操作性を確保しつつ,灌流液のリークを減らすことができる.また,自己閉鎖性も高まる.本サイドポートナイフ・トラペゾイは,そうような台形サイドポートを容易に作製できる先端形状になっている(図6).一般に使用されている15°や22.5°のストレートナイフと比べ(49)あたらしい眼科Vol.30,No.10,201313930910-1810/13/\100/頁/JCOPY図7サイドポートナイフ・トラペゾイドの外観て,短い刺入距離で最適な大きさの台形創口を作ることができる.ナイフを深く差し込む必要がないので,浅前房の患者でも前.を損傷する危険性が少ない.左右両方向に十分な長さの刃が付いており(図6),創口を拡大する際は,どちらの方向に向かっても容易に行うことができる.ヘッドはコンパクトな設計になっており,また30°の角度で曲がっているので(図7),奥目や瞼裂の狭い眼でも使用しやすい.●突起付ジュエラー鑷子台形サイドポートにちょうど差し込める形状となっている(図8).それによってサイドポートからのリークを防ぎつつ,眼球の位置方向を調整したり,また眼球運動を抑制したりすることができる.突起部は丸まった形状をしているので,創口組織を損傷することはない.鑷子で把持するよりも,組織に対して優しいと考えられる.文献1)大鹿哲郎:経結膜・強角膜一面切開.眼手術学5「白内障」(大鹿哲郎編),p147-156,文光堂,2012

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン⑤

2013年10月31日 木曜日

提供コンタクトレンズ診療のギモン②本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.カラーコンタクトレンズでトラブルを起こした患者さんにはどのように指導しますか?講師植田喜一ウエダ眼科カラーコンタクトレンズ(カラーCL)装用者の急増によって,カラーCLによるトラブル例を診察することが多くなった.カラーCLに限らずCLの装用でトラブルを生じた患者を診る場合,必ず原因を究明して対処しないと再発をくり返す.ほとんどの例でCL自体,フィッティング,取り扱い,レンズケアに問題がある.CLによるトラブルは特徴的な角膜所見を呈することが多いが,詳細な問診を行って,CLの汚れ,破損,欠損などをチェックして問題点を明らかにする.カラーCLは色素の着色が問題視されるが,酸素透過率の低い素材で,厚く,サイズが大きい製品が多いので酸素不足を生じやすい.さらに,フィッティングはタイトになりやすいので,トラブルが改善した後に,カラーCLを装着してフィッティングを確認することも大切である.カラーCL装用者は概して,眼科医の処方に基づかずに購入したため,自分の眼に適合していない製品を装用していることがある.眼科医の指導を受けていないことやカラーCL,ケア用品の添付文書を熟読していないことに加えて,定期検査を受けていないことも多い.こうしたコンプライアンス不良の患者に対しては,あらためてCLの使用にあたっての説明をていねいにしなければならない.日本眼科医会,日本コンタクトレンズ学会,日本コンタクトレンズ協会,各メーカーなどが作成した資料を利用するとよい.カラーCLについては日本コンタクトレンズ学会が記者発表した資料がホームページ(47)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(URL:http://www.clgakkai.jp/pdffiles/color_cl_mondai.pdf)(図1)に掲載されているので活用している.自分が装用しているカラーCLのメーカー,製品名を知らない患者も多い.こうした場合には医療機関のパソコンやタブレット,患者のスマートフォンなどで装用している製品を調べる必要がある.ときに,未承認の製品を個人輸入していることがある.カラーCL装用者のなかには病識に乏しく,再来を指示しても受診しない者がいるので,いかに患者とうまくコミュニケーションをとるかが眼科医の腕の見せ所でもある.単にカラーCLは眼に悪いというだけでは患者は納得しないので,どうしてこのようなトラブルが起こったのかを説明して,どのようにしたらカラーCLが装用できるかを指導することが求められる.こうした説明や指導をしないまま患者を帰すと,患者はほかの医療機関を受診したり,眼科医の診察を受けずにカラーCLを購入するので,懇切ていねいな対応が求められる.トラブルが改善した後には,患者の眼に適合するカラーCLを処方するが,患者によっては残念ながらカラーCLの装用の適応外で,断念してもらわなければならないこともある.あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131391カラーコンタクトレンズでトラブルを起こした患者さんにはどのように指導しますか?講師稲田紀子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野カラーコンタクトレンズ(カラーCL)装用者にみられる眼障害の原因として注目されているのは,色素による酸素透過性の低下と色素による機械的刺激である.これは製品の差異によるところが大きく,酸素透過性の高い素材で,適当な大きさと厚みのCLであること,色素がサンドイッチ構造で封入されている製品を選択することで,カラーCLによるトラブルをある程度抑制することが可能であると考えられている.しかし,カラーCL装用者の多くが,眼科医の処方を受けずにCLを購入しており,CLおよびCLの装用方法やケア方法の知識に図1頻回交換カラーCL(circlelens)装用者にみられた角膜炎図21日使い捨てカラーCL(opaquelens)装用者にみられた細菌性角膜炎乏しい.したがって,カラーCLの製品特性に加え,CL装用に対する基本的な教育がなされていないことが,眼障害の発症に大きく影響しており,CL装用の基本的事項を遵守させることが,まず行うべき対策と考えられる.症例1は,頻回交換カラーCL(circlelens)を装用していた20歳女性である(図1).左眼角膜中央部の浸潤病巣に向かって下方から角膜実質深層の血管が侵入しており,角膜全周には表在性の角膜パンヌスもみられる.所見から慢性の経過をとった角膜炎であると考えられるが,本人は視力障害を自覚して眼科を受診するまでは,角膜の変化に気がつかずにCL装用を継続していたため,発症時期は不明である.カラーCLは通販で購入し,定期検査はまったく受けていなかった.CLの使用期限は遵守せず,装用したまま就寝することもたびたびであった.症例2は,1日使い捨てカラーCL(opaquelens)を装用していた16歳,女性である(図2).左眼に毛様充血を伴う結膜充血と強い虹彩炎がみられ,上方周辺部角膜に円形膿瘍が形成されていることから,細菌性角膜炎と診断した.カラーCLは雑貨店で購入し,長時間装用やCLを装用したままでの就寝をくり返していた.定期検査はまったく受けていなかった.2症例の角膜障害の直接の原因はCLの長時間装用と考えるが,カラーCL装用者の場合には定期検査を受けていないことが多く,CL障害を防止するための啓発を行えないのが現状である.したがって,加療後に“これからどうするか”の指導を十分に行わなければならない.もし,カラーCLの継続を希望したとしても,まずカラーCLの使用の適否を決定したうえで,CLの種類の選択,フィッティングの確認,使用方法・ケア方法の指導,定期検査などについては,新規購入者と同様の指導が必要である.また,これらの点が遵守されているかどうか経過観察する必要がある.

写真:アトピー性角結膜炎に伴う落屑様角膜上皮障害

2013年10月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦353.アトピー性角結膜炎に伴う横井桂子横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科落屑様角膜上皮障害視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①:角膜全面の上皮障害があり,角膜表面の水濡れ性が悪い.②:結膜皺襞と貯留する涙.③:高い涙液メニスカス.④:浮腫を伴う下眼瞼結膜.(45)あたらしい眼科Vol.30,No.10,201313890910-1810/13/\100/頁/JCOPYアトピー性角結膜炎は,アトピー性皮膚炎を伴う通年性,慢性のアレルギー性結膜炎で,春季カタルとともに増殖性アレルギー性結膜疾患として分類され,重症例では眼瞼結膜の充血,浮腫,乳頭増殖とともに角膜病変がしばしば認められる.角膜上皮障害は軽症のものでは点状表層角膜症として認められるが,重症化するに伴い落屑様角膜上皮障害,角膜びらん,シールド潰瘍となり,プラークが形成されることもある.その発症のメカニズムは未だ不明な点も多いが,Th2細胞,好酸球,肥満細胞などの浸潤と,IL-5,IL-13などのサイトカインやエオタキシン,TARC(thymusandactiva-tion-regulatedchemokine)などのケモカインの相互作用で眼局所の炎症が形成され,好酸球から放出される各種細胞障害性蛋白や肥満細胞から放出されるプロテアーゼなどにより,角膜障害が生じると考えられている1).角膜障害は,フルオレセイン生体染色を用い,従来はコバルト励起フィルターを通した青色光を当て細隙灯顕微鏡で観察してきたが,530nm付近の緑色光を選択的に透過させるブルーフリーフィルター2)を用いると眼表面の涙液の分布や角結膜上皮の状態をより鮮明に観察することができ,角膜と結膜の上皮障害が同程度のコントラストで観察できることから,角結膜上皮を障害する疾患の診断に有用である.たとえば涙液減少型ドライアイにおいては,涙液メニスカス高や涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の異常などの涙液の所見とともに,角膜に比べて結膜の上皮障害が強いとういう特徴的な所見が観察できる.さらに,重症例では角膜上皮表面の水濡れ性の悪さやcornealmucusplaqueがしばしば観察される.アトピー性角結膜炎による落屑様角膜上皮障害でも,細胞残渣やひからびた粘液の付着を伴いながら落屑様に障害された非常に水濡れ性の悪い角膜表面が観察され,これは,涙液減少型ドライアイの重症例の角膜表面に類似している(図1,2).しかし,ドライアイと明らかに異なる点は,炎症に伴う刺激性流涙で涙液量が多く,結膜上皮の障害は認められず,これは薬剤性角膜上皮障害の所見に類似している3).症例は28歳,男性で,幼少時よりアトピー性皮膚炎,喘息があり,結膜炎もたびたび生じていたが,重症化を自覚したのは約2年前からで,増悪時のみ近医で点眼加療されていた.アトピー性皮膚炎に対しては,ステロイドにより悪循環が生じたとのことで自己判断で転院し,漢方薬のみを使用していた.初診時視力,右0.15(n.c),左0.4(n.c).前医よりステロイド点眼液が処方されているにもかかわらず,眼脂,充血,疼痛,視力障害が進行していた.眼瞼結膜の充血,浮腫,巨大乳頭増殖が認められ,落屑様角膜上皮障害(図1,3)が生じていたため,プレドニゾロン10mgの内服とタクロリムス点眼液(タリムスR点眼液0.1%)を追加した.角結膜所見の改善とともに,長年コントロール不良であったアトピー性皮膚炎の状態が改善し,皮膚科とともに皮膚所見のリバウンドも考慮しながらステロイド内服を漸減した.約10日で結膜所見の改善とともに角膜上皮障害はほぼ消失し,同時に角膜の水濡れ性は正常となった(図4).この時点でステロイド点眼液も中止し,タクロリムス点眼液のみを継続し,現在もアトピー性角結膜炎は安定した状態を維持している.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,20102)KohS,WatanabeH,HosohataJetal:Diagnosingdryeyeusingablue-freebarrierfilter.AmJOphthalmol136:513-519,20033)YokoiN,KinoshitaS:Importanceofconjunctivalepithelialevaluationinthediagnosticdifferentiationofdryeyefromdrug=inducedepithelialkeratopathy.AdExpMedBiol438:827-830,1998

特殊なデザインのハードコンタクトレンズ 3.多段カーブハードコンタクトレンズ-強度円錐角膜攻略法

2013年10月31日 木曜日

特殊なデザインのハードコンタクトレンズ3.多段カーブハードコンタクトレンズ─強度円錐角膜攻略法SpeciallyDesignedHardContactLens3.Multi-CurveHardContactLens─SevereKeratoconus糸井素純*I多段カーブハードコンタクトレンズ(HCL)の処方イメージ強度円錐角膜に対して多段カーブHCLを処方するイメージは,自分の頭のサイズに合った着心地の良い帽子をかぶるイメージである.決して,きつくなく,圧迫をせず,かといって,風で簡単に飛んで行ってしまうようなことがない,そのようなイメージのコンタクトレンズ(CL)である.II多段カーブHCLのレンズデザイン強度円錐角膜では中央部と周辺部の角膜曲率半径が大きく異なり,球面HCLではレンズが不安定,あるいは,装用感が悪化し,眼痛を生じ,処方が困難となることがある.そのような場合,円錐角膜用多段カーブHCLを用いると処方可能となることがある.円錐角膜用多段カーブHCLは,一般にオプティカルゾーンを5~6mmと狭くし,周辺部に複数の異なる球面カーブを設計したレンズデザインのHCLである(図1).円錐角膜の角膜形状は,円錐に相応する中心部ではスティープで,周辺部に向かうに従って徐々にフラットになり,周辺部の角膜カーブは,ほぼ正常角膜と変わらない.円錐角膜に用いる多段カーブHCLはオプティカルゾーンに相当するベースカーブ(BC)が最もスティープで,周辺部カーブが複数存在し,周辺に行くに従っ第2周辺カーブて,カーブがよりフラットになるように設計されており,このようなレンズを用いることにより,円錐角膜の角膜形状の変化に合わせてHCLを処方することが可能となる1).日本ではRoseK,RoseK2(日本コンタクトレンズ),メニコンE-1(メニコン),KCレンズ(シード),Mカーブ(サンコンタクトレンズ)などが円錐角膜用多段カーブHCLとして販売されている.ただし,多段カーブHCLといっても,レンズの種類ごとにレンズデザインは異なり,同一眼に同一BCのものを処方しても,レンズの種類(レンズデザイン)が異なれば,レンズフィッティングはまったく異なる(図2~4).同一眼であっても,多段カーブHCLの種類ごとに適切なBCは異なり,種類ごとに適切なBCを選択していく必要がある2).*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(37)1381III多段カーブHCLのメリットとデメリット多くの円錐角膜では,球面HCLをパラレルフィッティング,3点接触法,あるいは,2点接触法で処方することにより,日常生活を送るのに十分なCL矯正視力を得ることができる.しかし強度円錐角膜では,球面HCLの装用により,レンズがずれたり,はずれたり,HCL後面による円錐頂点部の角膜上皮障害やレンズエッジによる圧迫が生じ,装用感が悪化して,装用時間を十分に確保できなくなることがある.そのような場合,多段カーブHCLの良い適応になる.多段カーブHCLの装用により,レンズのフィッティングが安定し,HCL後面と円錐頂点部の過度のこすれ,レンズエッジによる圧迫を軽減することができる1).自覚症状も改善し,結果として装用時間も延長する.当院では円錐角膜眼の14%に多段カーブHCLを処方している(図5).決してすべての円錐角膜眼に多段カーブHCLを処方しているわけではない.多段カーブHCLにもデメリットがある.一番大きなデメリットはCL矯正視力が球面HCLよりも劣ることである.処方時だけではなく,処方後の経時的なCL矯正視力の低下にも注意が必要である.筆者は角膜後面に対するオルソケラトロジー効果が球面HCL(図6)よりも劣ることが矯正視力効果の弱い原因ではないかと考えている.もう一つは価格である.球面HCLよりも明らかに高価であり,患者の経済的負担は大きい.筆者は球面HCLの処方,あるいは,装用がむずかしい症例に対して多段カーブHCLを処方して0.1%n=4,821眼14.0%レンズのタイプ■:球面HCL■:多段HCL■:SCL85.9%図5道玄坂糸井眼科医院における円錐角膜眼に対するCL処方(平成16年4月~平成24年5月)85.9%を球面HCL,14.0%を多段カーブHCLが占めている.1382あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(38)いる.IV多段カーブHCLの処方方法のコツ前述したように多段カーブHCLのデザインはメーカーによって大きく異なり,一律に処方方法を述べることはできない.レンズメーカーのパンフレットにはケラトメータ値を利用した処方方法が記載されていることが多いが,多段カーブHCLが適応となる円錐角膜ではケラトメータが測定不可能であることが多い.つまりケラトメータ値を利用できない.そのため実際のフルオレセインパターンの評価が非常に重要となる.多段カーブHCLは円錐角膜の角膜形状に近いレンズデザインであり,原則としてパラレルフィッティングに近い3点接触法を目指して処方をする(図7).しかし,円錐角膜といっても,角膜形状は千差万別であり,場合によっては2点接触法で処方することもある.フルオレセインパターンで処方するレンズのBCを決定していくが,最初に選択したトライアルレンズのBCはあくまで目安であり,スティープ,あるいは,フラットであれば,2回目のトライアルレンズはBCを0.3~0.5mm変更する.自分が目標としているフルオレセインパターンに近づけば,あとは微調整して,処方するレンズの規格(BC,レンズ(39)図7円錐角膜眼の多段カーブHCLによるフルオレセインパターン3点接触法だが,弱主経線方向は,パラレルフィッティングに近い.径,リフトデザイン)を決定する.理想的なレンズフィッティングを目指すためには,トライアルレンズの変更は少なくとも2~3回行うことになる.CL矯正視力が不良な場合は,多少フラットなフィッティングで処方すると視力が向上することがある.V既存の多段カーブHCLを処方した症例1.症例1:26歳,男性T.I.両眼ともに重度の円錐角膜(図8)で,多くの病院を受診したが,処方されたHCLは両眼ともにすべてずれたり,はずれたりしてしまった.眼鏡では良好な矯正視力が得られず,単独では外出が困難な状況であった.多くの病院で角膜移植術を薦められたが,本人,家族ともに手術を受けたくないということであった.VD=0.15(n.c.),VS=0.01(0.04).当院にて4段カーブHCL(右眼5.10/.29.25/9.0,左眼4.90/.32.25/9.0)を処方した結果,軽度のスティープフィッティングであったが,右眼(0.9p),左眼(0.8p)のCL矯正視力が得られ,単独での外出も可能となり,運動もできるようになった(図9).2.症例2:65歳,女性H.K.両眼ともに顕著な角膜上皮過形成を伴う円錐角膜(図あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131383図8重度の円錐角膜眼:プラチドリング像球面HCLではレンズの安定性が不良で装用不可能であった.10)で,大学病院を複数受診したが,処方されたHCLすべてにおいて装用すると眼痛が出現するという理由のために1日4時間以上の装用ができなかった.当院にて4段カーブHCL(右眼6.00/.10.25/9.0,左眼6.40/.7.75/9.0)を両眼ともにPBS(8.5/.0.5/14.21日使い捨てSCL)で処方した結果,1日8時間の装用が可能となった(図11)3).1384あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図10顕著な角膜上皮過形成を合併した円錐角膜眼HCL単独では眼痛が出現するため1日4時間以上の装用ができなかった.VIカスタムデザインの多段カーブHCL既製の多段カーブHCLはオプティカルゾーン,BC,周辺カーブが多くの円錐角膜眼で対応ができるように各メーカーが考えて設計しているが,角膜形状は千差万別である.一つのデザインが無理でも,大概,複数のデザインの多段カーブHCLを用いることで対応が可能となる.しかし,強度円錐角膜で非常にまれではあるが,ど(40)の種類の多段カーブHCLを用いても,安定性が悪く,処方が困難なことがある.そのようなケースでは,オプティカルゾーンの大きさ,BC,周辺カーブの数と,それぞれの幅・カーブを,処方者が決定してメーカーにオーダーすることにより,カスタムデザインの多段カーブHCLの処方が可能となる.現在,多くの国内メーカーが所有しているHCL切削器は4段カーブまで可能である.1.前眼部OCT(光干渉断層計)CASIAを利用したカスタムデザインa.前眼部OCTCASIA前眼部OCTCASIAのcorneamodeでは,直径10.2mmと非常に広い範囲の角膜前面の形状を正確に把握することができる.まず32経線方向の角膜前面の高さ(sagittaldepth)データを平均し,オーダーするレンズデザインに応じて,中央(0.0mm)から周辺(5.1mm)までの間の必要な位置での高さデータを算出する.b.TLT(tearlayerthickness)の設定角膜前面の高さデータのままカスタムデザインの多段カーブHCLを作製すると,帽子でいえば,あまりにも頭の形にぴったりとした帽子となり,動きがないものとなってしまう.HCLでは瞬目に伴うレンズの動きによるレンズ下の涙液交換が必要であり,そのために,レンズ後面と角膜前面の間に適正な涙液層を意図的に設けなくてはならない.これがTLT(tearlayerthickness)である.TLTを設けるためには,4段カーブHCLであれば,オプティカルゾーンの直径,第1周辺カーブから第3周辺カーブの幅をまず決定する.そして中央部,オプティカルゾーンと第1周辺カーブの接合部,第1周辺カーブと第2周辺カーブの接合部,第2周辺カーブと第3周辺カーブ(ベベル)の接合部,エッジ部分におけるTLT(予定する涙液層の平均の高さ)を決定する.c.レンズ後面のデザインの決定平均化された角膜前面の高さデータとそれぞれの位置でのTLTが決定すれば,自動的にBC,第1~第3周辺カーブが決定される.オプティカルゾーン6mm,BC5.50mm,第1周辺カーブ6.23mm(幅0.6mm),第2周辺カーブ7.12mm(幅0.4mm),第3周辺カーブ8.90(41)mm(幅0.5.mm)といった具合に決定される.d.レンズ度数決定決定されたレンズのBCに最も近い既製の多段カーブHCLのトライアルレンズを使用して,矯正視力検査を行い,オーダーするレンズの度数を決定する.この場合,トライアルレンズと実際にオーダーするレンズのデザインが大きく異なると,実際にオーダーしたレンズでは視力が出にくいことがある.この場合は,出来上がったレンズを一定期間使用して,ある程度なじんでから,再度矯正視力検査とフィッティング検査を実施し,最終的なレンズ規格を決定する.e.レンズ規格の記載方法海外ではカスタムオーダーの多段カーブHCLの処方は一般的である.筆者は海外の方法に準じて,下記のように記載している.〔4段カーブHCLの記載例〕BC(OZ:opticalzone)/第1周辺カーブ/第2周辺カーブ/第3周辺カーブ/レンズ度数/レンズ径〔5.50.mm(6mm)/6.23mm(0.6mm)/7.12mm(0.4mm)/8.90mm(0.5.mm)/.25.0D/9.0mm〕なお海外ではBC,各周辺カーブの値は,mmの表示ではなく,屈折力(D)の値に変換(337.5/カーブ値mm)して,表示することが多い.f.カスタムデザインの多段カーブHCLを処方した症例20歳,男性.4年前に当院を受診し,両円錐角膜(図12)の診断で,右眼4.70/.30.00/9.0サンコンiカーブ(4段カーブHCL),左眼7.40/.8.0/9.4typeサンコンマイルドIを処方した.当時のHCL矯正視力は右眼0.5,左眼1.0pであった.その後,本人の判断でHCLを装用せず,その結果として,円錐角膜が進行し,視力低下を自覚したため,再度,HCL処方を希望して当院を受診した.再診時の角膜形状は図13である.初診時に比べて円錐角膜の進行が確認できる.右眼は既存の多段カーブHCLのトライアルレンズを装着したが,最もスティープなトライアルレンズでも,安定したフィッティングが得られず,前眼部OCTCASIAを利用した直径10mmのカスタムデザインの4段カーブHCLを作製した.左眼も球面HCLでは,トライアルレンズでさえ,すぐにはずれてしまうため,多段カーブHCLのあたらしい眼科Vol.30,No.10,20131385図12初診時の角膜形状(症例は図13と同一)(instantaneousradius像)右は重度,左は中等度の円錐角膜.右眼に対しては既存の4段カーブHCL,左眼は球面HCLを処方した.図13再診時の角膜形状(初診から4年後,症例は図12と同一)(instantaneousradius像)初診時に比べて円錐角膜の進行が確認できる.初診時に処方したHCLはほとんど装用していなかった.→図14既存のHCLではレンズの安定が得られなかった重度の円錐角膜眼カスタムオーダーした多段カーブHCL〔4.60mm(6mm)/5.95mm(1.0mm)/7.20mm(0.5mm)/9.35mm(0.5.mm)/.30.0D/10.0mm〕によるフルオレセインパターン.適応と判断し,既存の4段カーブHCL(4.80/.28.0/9.0サンコンiカーブ)をオーダーした.レンズが非常に脱落しやすい症例であったために,右眼のカスタムデザインのTLTの設定は,中央部,オプティカルゾーンと第1周辺カーブ,第1周辺カーブと第2周辺カーブの境の部分のTLTの設定をゼロと設定し,第2周辺カー1386あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(42)ブと第3周辺カーブ(ベベルカーブ)の境で13μm,エッジ部分で100μmと設定した.各カーブの大きさはオプティカルゾーンを6mm,第1周辺カーブを1mm,第2,3周辺カーブを0.5.mmとした.カスタムオーダーした多段カーブHCLの規格4.60mm(6mm)/5.95mm(1.0mm)/7.20mm(0.5mm)/9.35.mm(0.5.mm)/.30.0D/10.0mm上記のHCLにより,右眼はほぼ理想的なフィッティング(図14)を得ることができ,現在は週7日の1日平均15時間の装用ができるようになった.最終受診時のHCL矯正視力は右眼0.5,左眼0.4であった.本人に角膜移植術の希望はなく,左眼は既存の多段カーブHCLで処方可能であったが,右眼は既存の球面HCLや多段カーブHCLでは処方が不可能であった重度の円錐角膜の症例であった.文献1)糸井素純:多段階カーブハードコンタクトレンズ.あたらしい眼科19:411-417,20022)糸井素純:コンタクトレンズセミナー.私のコンタクトレンズ選択法.ローズK/ローズK2(日本コンタクトレンズ).あたらしい眼科27:1081-1082,20103)佐野研二:円錐角膜に対するディスポーザブルSCLとHCLの組み合わせ処方.眼科36:1613-1620,1994(43)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131387

特殊なデザインのハードコンタクトレンズ 2.べベルトーリックハードコンタクトレンズ-強度角膜乱視攻略法

2013年10月31日 木曜日

特殊なデザインのハードコンタクトレンズ2.ベベルトーリックハードコンタクトレンズ─強度角膜乱視攻略法SpeciallyDesignedHardContactLens2.TheBevel-toricHardContactLens─FittingApproachforSevereCornealAstigmatism小玉裕司*はじめに最近の乱視矯正用ソフトコンタクトレンズ(以下,トーリックSCL)は材質面でもデザイン面でも非常に進化して,中程度までの乱視に対しては十分対応ができるようになってきている.しかしながら,強度乱視に対してはトーリックSCLでの対応はむずかしく,ハードコンタクトレンズ(HCL)がその適応となる1).また,中程度までの乱視であってもHCLの経済性,簡便性,安全性,光学的優秀性などを考慮して,トーリックSCLよりもHCLを希望するユーザーもいる.ただ,乱視が強度になるにつれ視力が不安定になる,あるいは装用感が悪くなるという不具合が出る場合が多い.それは,レンズの静止位置や動きの不安定さによってもたらされるものであるが,そのおもな原因としては,弱主経線におけるベベル幅が極端に狭くなることや強主経線でのエッジの浮き上がりが過度になるということが考えられる.そこで多段カーブを有するツインベルRI2)の2つのベベル部分にトーリック差を設けて,レンズ全周におけるベベル幅とエッジの浮き上がりをできるだけ均一にしたいというコンセプトで製作されたのがベベルトーリックハードコンタクトレンズ(以下,ベベルトーリックHCL)3)である.I角膜乱視の分類角膜乱視の形状をカラーコードマップで見ると3つのタイプに分類できる.角膜乱視が角膜周辺部にまで及んでいれば周辺部型(タイプI,図1),中心部に限局していれば中心部型(タイプI,図2),両者が混在していれば混合型(タイプI,図3)とする3).図1~3は直乱視での分類であるが,倒乱視においても上記のように分類することができる.IIベベルトーリックHCLのデザイン通常の屈折異常眼に,よりソフトな装用感と良好な涙*YujiKodama:小玉眼科医院〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(31)1375液交換をもたらすことを目指して開発された多段カーブデザインのHCLがある.このレンズはツインベルRIとして市販されているが,この多段カーブをなす二重のベベル部分をトーリック状にデザイン変更をしたレンズがベベルトーリックHCLである(図4).強度乱視では直乱視の場合,水平方向のベベル幅が狭く,垂直方向のエッジの浮き上がりは過度になる.そこで,ツインベ1376あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図4ベベルトーリックHCLのシェーマルRIのデザインをベースとして,垂直方向と水平方向のベベル形状に差をトーリック状に持たせている(図5).たとえば,ベースカーブ(BC)が8.00mmでトーリック差を0.4にした場合,水平方向はBC8.00mmのツインベルRIのベベル形状となり(図5における水色の部分),垂直方向のベベル形状は8.00mmより0.4mm小さいBC7.60mmのときのベベル形状となる(図5における赤茶色の部分).IIIベベルトーリックHCLの処方1.球面HCLによる角膜乱視矯正軽度の角膜乱視や中程度から強度の乱視であっても中心部型(タイプI)であれば,通常の球面HCLで対応することができる.ただし,後者においては乱視の及ん(32)でいない範囲にベベル部分が来るようにラージサイズのレンズを選択しなければならない(図6,7).2.ベベルトーリックHCLの処方例実際の症例でベベルトーリックHCLによる強度角膜(33)図7ラージサイズ球面HCLによる強度角膜乱視矯正全周のベベル幅が均一に出ている.乱視矯正の仕方を解説する.症例は13歳,女性で角膜乱視の分類ではタイプIの周辺部型になる(図8,9).自覚的屈折値はVD=0.03(0.8×sph.1.0D(cyl.4.5Dあたらしい眼科Vol.30,No.10,20131377Ax170°),VS=0.04(1.0p×sph.41.5D(cyl.3.25DAx5°),角膜曲率半径は右眼8.09mm(41.75D)170°,7.31mm(46.25D)80°,左眼8.00mm(42.25D)5°,7.67mm(46.00D)95°である.この症例に通常の球面HCLを処方してみると,矯正視力はVD=(1.2p×7.90/.1.5/8.8I),VS=(1.2p×7.95/.1.5/8.8I)と良好であったが,水平方向のベベル幅が狭くて異物感が強くHCLの装用は不可能であった(図10,11).そこで,この症例にベベルトーリックHCLを処方してみると,矯正視力はVD=(1.2×8.10/.0.75/9.3I.I,トーリック差0.4),VS=(1.2×8.00/.1.25/9.3I.I,トーリック差0.3)と良好で,全周のベベル幅はほぼ均一となり,異物感は激減してレンズの装用が可能となった(図12,13).1378あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図11球面HCL装用上の左眼のフルオレセインパターン水平方向のベベル幅が狭い.IVベベルトーリックHCL処方のコツ角膜乱視が周辺部型(タイプI)では上述した症例のように,やや大きめのサイズのベベルトーリックHCLにて対応する.中心部型(タイプI)では角膜乱視の及んでいる範囲にベベルが来るようにやや小さめのサイズのベベルトーリックHCLにて対応する.混合型(タイプI)では角膜乱視が及んでいる範囲にベベルが来るように小さめのサイズのベベルトーリックHCLで対応するか,角膜乱視が及んでいない範囲にベベルが来るように大きめのサイズのベベルトーリックHCLにて対応するが,レンズのサイズは瞼裂幅,角膜径,瞳孔径などを参考に決定すればよい.ベベルトーリックHCLはサイ(34)ズが8.5mmから10.0mm,ベベルトーリック差が0.1から0.7まで用意されており,前述したことを踏まえてサイズやトーリック差を選択すれば,さまざまなタイプの角膜乱視眼に対して良好な装用感と矯正視力を提供することができる.おわりに中程度以上の角膜乱視眼の矯正にはHCLが不可欠であるが,角膜乱視のタイプによって処方するHCLの種類を選択する必要がある.角膜乱視が角膜中央部に限局しているタイプIはラージサイズ球面HCLによっても対応できるが,乱視が限局している領域に応じたやや小さいサイズのベベルトーリックHCLによっても対応できる.角膜乱視が中央部に限局した部位と周辺部まで及んだ部位とが混在するタイプIでは,バックトーリックHCLにても対応できるが,ベベルトーリックHCLのほうがレンズ全周のベベル幅を均一にして装用感とレンズの動きをよくするといった意味では有利であるように思われるし,処方が容易である.角膜乱視が周辺部まで及んだタイプIはベベルトーリックHCLの最も良い適応だと考える.中程度以上の角膜乱視眼の矯正に苦慮する眼科医にとって,ベベルトーリックHCLは救世主になりうる存在である.文献1)小玉裕司:ハードコンタクトレンズ.日コレ誌47:256-260,20052)植田喜一,山本達也,小玉裕司ほか:新しい多段カーブハードコンタクトレンズの試作.日コレ誌46:31-34,20043)小玉裕司:ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:861-865,2006(35)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131379

特殊なデザインのハードコンタクトレンズ 1.ダブルべベルハードコンタクトレンズ-ペルーシド角膜辺縁変性攻略法

2013年10月31日 木曜日

特殊なデザインのハードコンタクトレンズ1.ダブルベベルハードコンタクトレンズ─ペルーシド角膜辺縁変性攻略法SpeciallyDesignedHardContactLens1.Rigid-GasPermeableContactLenswithDual-Bevels─UseofContactLenswithDual-BevelsforPellucidMarginalDegeneration柳井亮二*Iダブルベベルハードコンタクトレンズ:マイルドII(ツインベルタイプ)(サンコンタクトレンズ)マイルドI(ツインベルタイプ)は円錐角膜の3点接触法を模倣して開発されたダブルベベルハードコンタクトレンズ(HCL)で,正常角膜においても初期の円錐角膜のような3点接触のフルオレセインパターンがみられる(図1)1).このレンズの特徴はベースカーブの周辺にあるダブルベベル構造である.ベースカーブ(BC)は通常の球面レンズよりフラットに処方し,角膜に広くフィット(アライメント)する.BCの外側にBCよりもスティープな第1中間カーブ,さらにその外側にフラットな第2中間カーブが設置されている.フラットなBCと第2中間カーブ(角膜接触ゾーン,図1)がレンズのセンタリングや視力補正に関わっている.さらに,第1中間カーブと周辺カーブで涙液を保持し(涙液ゾーン),効率良く涙液交換を行うことで,装用感が良くなるという利点がある.レンズ径を大きくしても,ダブルベベルのスティープな構造が眼瞼への接触を軽減するため,違和感が少なくなる.大きなレンズ径を用いることで,角膜形状異常や乱視眼に対するセンタリングも安定しやすくなり,円錐角膜や角膜移植後などのHCLに有用である2).IIペルーシド角膜辺縁変性とは?ペルーシド角膜辺縁変性は,角膜の周辺部に菲薄化(図2,矢頭),突出をきたす進行性の拡張性角膜疾患である3~6)(表1).円錐角膜に類似した眼疾患であるが,図1マイルドII(ツインベルタイプ)のデザインと正常眼のフルオレセイン染色像(3点接触)*RyojiYanai:山口大学大学院医学研究科情報解析医学系学域眼科学分野〔別刷請求先〕柳井亮二:〒755-8505山口県宇部市小串1144山口大学大学院医学研究科情報解析医学系学域眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(25)1369円錐角膜が思春期に発症するのに対し,ペルーシド角膜辺縁変性は30代以降に発症する.スリットランプでは軽度の症例の角膜は健常眼と変わりなく,病期が進行してくるにつれて角膜の菲薄化が顕著になってくる(図2右).中等度の症例では,角膜菲薄化の部位が円錐角膜よりも周辺に観察されるため円錐角膜との鑑別は容易であるが,進行例では角膜の菲薄化が広範囲に及ぶため鑑別がむずかしくなる.トポグラフィの所見はペルーシド角膜辺縁変性の診断に有用で,軽度の症例では鳩がキスをしている像(KissingDove,図2中央),中等度ではカニの爪様のカラーマップ所見を呈し(図2左),さらに重度になると不整形となる.また,教科書的には両眼性の疾患と記載されているが,わが国では片眼性が約30%にみられると報告されている.症例数が少ないため,正確な患者数,頻度,性差,人種差などはわかっていないのが現状である.表1ペルーシド角膜辺縁変性の特徴・定義:非炎症性に角膜周辺部の菲薄化をきたす角膜拡張症・診断基準①視力1.0未満,1.0以上では疑い②スリットでの菲薄化:下方>>上方>耳側,鼻側(まれ)③トポグラフィ所見:カニの爪様,下方突出など・両眼性>片眼性(わが国では30%,欧米,インドではまれ)30~50歳代に視力低下,進行性・倒乱視>斜乱視・不正乱視および高次収差の増加(眼鏡による視力補正不能)・急性水腫,穿孔・輪部と菲薄部の間に正常角膜が存在(2mm)・性差(男性の割合):50%(欧米)~75%(日本,インド)・頻度,人種差など実態は不明(文献3,4,10より)1.治療方針ペルーシド角膜辺縁変性は根治的な治療法がなく,軽度では眼鏡やソフトコンタクトレンズ(SCL)による視力補正が可能であるが,中等度以降では眼鏡では補正できない不正乱視が増加するため7),HCLによる視力補正が行われる(表2).しかしながら,中等度以降ではレンズの動きが悪くなったり,左右に偏位しやすくなったりしてレンズ装用が困難になる.角膜移植は,角膜中央部に異常が限局する円錐角膜と異なり,ペルーシド角膜辺縁変性では周辺部角膜まで移植する必要があるため,拒絶反応のリスクが高くなる.このためペルーシド角膜辺縁変性においてはHCL装用の可否が治療方針の決定に重要になる.近年,進行予防を目的とした角膜コラーゲン・クロスリンキングや,角膜実質内に弧状PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂,poly-methylmethacry-late)リングを挿入する角膜内リング,近視矯正用眼内レンズ挿入術や角膜熱形成など新しい治療が試みられている5,7,8).しかしながら,長期的な効果や安全性に関するデータはいまだ報告されていない.2.ペルーシド角膜辺縁変性に対するダブルベベルHCLの有用性ペルーシド角膜辺縁変性に対するHCL処方においては,角膜下方の急峻な倒乱視化した角膜形状が問題となる.球面HCLではレンズの光学部が突出部に強く接触し,レンズの下方のエッジが浮き上がるため,レンズが左右に偏位する(シーソー現象).従来,レンズ径を大きくすることでセンタリングを安定させるフィッティング方法が試みられているが,Try&Errorを繰り返しカニの爪様KissingDove図2ペルーシド角膜辺縁変性症例のスリットランプ観察像とカラーマップ(文献9より)1370あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(26)表2ペルーシド角膜辺縁変性の程度と治療方針矯正方法程度補足初期のペルーシド角膜辺縁変性では角膜中央部は異常になりにくいため,眼鏡眼鏡軽度による視力補正が可能.倒乱視,斜乱視を呈する症例が多い.SCL軽度乱視の補正が必要な場合にはレンズ厚が厚いレンズデザインを選択する.一般的にはシリコーンハイドロゲルレンズの視力補正効果が高い.乱視補正に優れるため,眼鏡やSCLで視力補正が不十分な症例にも有効.進HCL中等度行例ではレンズのセンタリングがむずかしくなる.鼻側,耳側に偏位するシー球面レンズソー現象がみられる.大きめのサイズのレンズを選択して,フィッティングを安定させるのがコツ.HCL中等度~球面レンズでフィッティングがむずかしい症例でも,センタリングを安定させダブルベベルることが可能.サイズを大きくして角膜突出部と周辺の角膜に広くフィッティタイプ高度ングさせても,違和感が少ないため装用しやすい.レンズ不耐症などで考慮されるが,周辺の角膜を含めた移植となるため,拒絶角膜移植超高度反応のリスクが高い.術後乱視,血管新生も問題となる.通常は適応外.根治的な治療法がないため,視力補正によるqualityofvisionの確保が重要.表3マイルドII(ツインベルタイプ)のトライアルレンズセットトライアルレンズトライアルレンズ処方レンズのセット1セット2製作可能範囲BC(mm)7.50~8.657.00~9.507.00~9.50(0.05mmステップ)(0.20mmステップ)(0.05mmステップ).30.00~+10.00度数(D).1.000(0.25Dステップ)レンズ径(mm)9.010.08.8~10.0てもなかなかむずかしいのが現実である.ダブルベベルHCLは,レンズ径9.0mm以上の大きなデザインで(表3),倒乱視化した角膜形状においてもレンズのセンタリングが安定しやすくなる9).さらに,フラットなBCとスティープな第1中間カーブのデザインにより角膜突出部とレンズ後面との過度な接触を軽減して,装用感を改善することができる.3.ペルーシド角膜辺縁変性に対するHCLの実際症例1:ペルーシド角膜辺縁変性疑い(30歳,男性)従来眼鏡を装用していたが,右眼の見えにくさを訴え,近医より角膜突出の精査・加療目的で当院を紹介された.スリットランプでは,両眼の角膜下方の菲薄化がみられ,マイヤー像は縦長に変形し,右眼は下方のマイヤーリングが断裂している(図3).トポグラフィによるカラーマップは軽度のKissingDoveを呈していた.視力は右眼0.3(1.0D×cyl.2.5DAx70°),左眼0.2(1.2×sph.2.5Dcyl.1.5DAx90°)であったが,右眼の角膜形状をFourier解析すると,球面成分,正乱視成分に加え,眼鏡では視力補正できない非対称成分(下方が急峻)や不正乱視成分もみられる.本症例に球面レンズを装用すると,角膜突出部とレンズ後面の接触が強くなり,レンズ下の涙液の過剰な貯留がみられた(図4).瞬目の際に上眼瞼で球面HCLを下方に押しこむ傾向にあり,一旦レンズが下方安定となるとレンズが動かなくなったが,ダブルべベルタイプHCLに変更すると,角膜とレンズ後面のアライメントが広くなり,ベベル部に涙液の貯留がみられた(図4).瞬目によるレンズの動きも良くなり,球面レンズの場合よりレンズの安定位置が高くなって,センタリングが改善された(図4).本症例はダブルベベルHCLにより視力は右眼(1.2×HCL)に改善した.(27)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131371右眼左眼図3ペルーシド角膜辺縁変性疑い(30歳,男性)症例の前眼部,マイヤー像,カラーマップ(右眼)(文献9より)球面HCLダブルベベルHCL図4ペルーシド角膜辺縁変性疑い症例に対するHCLのフィッティング(右眼)(文献9より)症例2:中等度ペルーシド角膜辺縁変性(40歳,男性)長年,SCLを装用していたが,4~5年前よりSCLを装用しても見えにくいことを自覚していた.屈折矯正手術を希望して近医を受診し,ペルーシド角膜辺縁変性を疑われて精査目的で当院を紹介された.スリットランプでは両眼の下方角膜の菲薄化,突出がみられ,右眼のカラーマップはカニの爪様を呈していた(図5).視力は右眼0.03(0.7×sph.5.0Dcyl.10.0DAx90°),左眼0.05(1.2×sph.5.5Dcyl.5.0DAx90°)であった.本症例1372あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013に球面HCLを装用すると,レンズのセンタリングが安定せず,耳側角膜輪部からレンズ縁までの距離が大きくなり(図6,両矢印),鼻側のエッジが結膜に接触していた(図6,矢印).レンズと角膜突出部の接触は強く,レンズ下の涙液の貯留量も過剰であったが,ダブルベベルHCLの装用により,レンズのセンタリングが改善され,耳側角膜輪部からレンズ縁までの距離が小さくなった(図6,両矢印).瞳孔領がレンズ光学部で覆われてレンズ下の涙液量も適量となり,視力は右眼(1.0×HCL)に(28)図5中等度ペルーシド角膜辺縁変性疑い症例の前眼部,カラーマップ(文献9より)球面HCLダブルベベルHCL図6中等度のペルーシド角膜辺縁変性疑い症例に対するHCLのフィッティング(右眼)(文献9より)改善した.IIIまとめダブルベベルHCLは特殊なデザインのレンズであるが,正常角膜に処方するために開発された市販レンズである.このため,トライアルレンズセットの準備や処方レンズなども充実しており,処方のみならず経過観察においても,他の特殊レンズより容易な点も実際の臨床の場では有用である.本レンズの処方を始めるにあたっては,球面レンズとフルオレセインパターンが異なることが問題となるかもしれない.まずは,正常角膜で本レンズでのフルオレセインパターンの判断には慣れておくことが,ペルーシド角膜辺縁変性のような角膜形状異常へ対処するための第一歩になると思う.厚生労働省難病情報センターよりペルーシド角膜辺縁変性の診断基準が公表されたことから4),ペルーシド角膜辺縁変性と診断される症例が増加する可能性があり,今後,ダブルベベルレンズの必要な症例も増加するのではないかと考えられる.文献1)植田喜一,山本達也,小玉裕司ほか:新しい多段カーブハードコンタクトレンズの試作.日コレ誌46:31-34,20042)柳井亮二,石田康仁,植田喜一ほか:角膜移植後角膜に対する多段カーブハードコンタクトレンズの有用性.日コレ誌49:166-170,20073)FederRS,KshettryP:Nonin.ammatoryectacticdisor-ders.In:KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ(eds)Cornea─Fundamentals,DiagnosisandManagement.,p955-974,Elsevier,London,20054)島﨑潤,坪田一男,稗田牧ほか:ペルーシド角膜辺縁変性の実態調査と診断基準作成.平成22年度厚生労働省(29)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131373研究費補助金難治性疾患克服研究事業総括研究報告書.p1-9,20115)JinabhaiA,RadhakrishnanH,O’DonnellC:Pellucidcor-nealmarginaldegeneration:Areview.ContLensAnteri-orEye34:56-63,20116)BelinMW,AsotaIM,AmbrosioRJretal:What’sinaname:keratoconus,pellucidmarginaldegeneration,andrelatedthinningdisorders.AmJOphthalmol152:157-162e151,20117)KamiyaK,ShimizuK,HikitaFetal:Posteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationforhighmyopicastigmatismineyeswithpellucidmarginaldegeneration.JCataractRefractSurg36:164-166,20108)BelinMW,KhachikianSS,AmbrosioRJr:Theuseofintracornealringsforpellucidmarginaldegeneration.AmJOphthalmol151:558-559;authorreply559,20119)柳井亮二,植田喜一,園田康平:ペルーシド角膜辺縁変性に対するツインベルタイプハードコンタクトレンズの有用性.日コレ誌.印刷中10)SridharMS,MaheshS,BansalAKetal:Pellucidmargin-alcornealdegeneration.Ophthalmology111:1102-1107,20041374あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(30)

遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニック

2013年10月31日 木曜日

遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニックPrescriptionTechniqueforBifocalSoftContactLenses塩谷浩*はじめに遠近両用ソフトコンタクトレンズ(BF-SCL)は,光学的に単焦点ソフトコンタクトレンズ(SCL)と異なった特徴を持っており,BF-SCLの処方時には,その特徴を十分に理解して対応することが必要である.以下にBF-SCL(主として1日交換BF-SCL,2週間頻回交換BF-SCL)の特徴とともに,レンズメーカーから出ている処方マニュアルとは違った角度からアプローチした実践的なBF-SCLの処方テクニックを解説する.I遠近両用ソフトコンタクトレンズの特徴BF-SCLにはレンズの中心が遠用光学部で同心円状に囲む周辺が近用光学部の中心遠用タイプ(図1)と,レンズの中心が近用光学部で同心円状に囲む周辺が近用光学部の中心近用タイプ(図2)の2種類の光学部デザインがある.いずれの光学部デザインであっても,遠用と近用の光学部の中心が同一中心線上にあり,光学的機能は同時視型である.そのためレンズメーカー,レンズの種類によって光学部形状デザインは多少異なっているものの,一般的にどのBF-SCLにおいても同様に,近用光学部の加入度数が高くなるにつれて,遠用光学部の光学的機能は低下する方向に影響を受けるため,遠方視が不良になる特徴がある.しかしBF-SCLは,単焦点SCLと比べると遠方視,近方視とも片眼視力より両眼レンズ中央の遠用部を通った光が結像する.遠方視時レンズ周辺の近用部を通った光が結像する.*HiroshiShioya:しおや眼科〔別刷請求先〕塩谷浩:〒960-8034福島市置賜町5-26しおや眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(19)1363レンズ周辺の遠用部を通った光が結像する.遠方視時18近方視時図2遠近両用SCL(中心近用タイプ)20レンズ中央の近用部を通った光が結像する.片眼は眼数両眼は人数16141210864200.30.40.50.60.70.80.91.0以下以上視力図3遠近両用SCLの遠方視力視力が良好な傾向があり(図3,4),眼鏡と比べると近方視では両眼であれば低い加入度数でも患者の満足が得られる傾向があり(図5),初期老視ばかりでなく中期老視まで低加入度数で対応できる.そこでBF-SCLの処方では,この特徴を十分に活かすようにすることが処方を成功に導きやすいと言える.II処方前の注意点BF-SCLの処方時には適応を正しく選択することが必要である.一般的な適応では,40歳代から50歳代で,SCLの使用動機が強く,SCLを問題なく装用できることが条件となる.そこに近方視に不満や不自由を感じて1364あたらしい眼科Vol.30,No.10,20130視力図4遠近両用SCLの近方視力おり,視力の必要度や要求度が低い場合が適応となる(表1).老視が出現する年齢のSCLの適応が,必ずしもそのまま適応になるのではないことに注意する必要がある.使用するトライアルレンズが実際の処方レンズと同じ規格になる可能性のある1日交換BF-SCLや頻回交換BF-SCLの処方では,患者がBF-SCLの見え方に慣れる前のテスト装用時に,単焦点SCLの見え方との違いに不安を持つことがある.言い訳にならぬようテスト装用開始前にBF-SCLの見え方の特徴(遠近両用眼鏡との(20)1412片眼は眼数両眼は人数108642近方矯正加入度遠近両用SCLの加入度302520151053025201510501.001.502.002.50眼数0加入度(D)加入度(D)図5遠近両用SCLの処方加入度数近方矯正加入度数は+2.00D以上が多いのに対し,遠近両用SCLの処方加入度数は+1.00Dが多かった.表1遠近両用SCLの適応・40.50歳代のCL使用動機の強い老視眼・SCLを問題なく装用可能・現在の近方の見え方に不満・不自由・使用中の視力補正方法に不満・遠近とも視力の必要度・要求度が低い者違い,視線の移動,見え方の仕組み,見え方の質)を説明し,BF-SCLに対する理解を得て,過度の期待を抑えるようにすることも必要である.またBF-SCLの処方の基本では両眼視機能を重視するが,ケースによっては両眼視機能が維持できる範囲で利き目と非利き目の度数を調整することがある.トライアルレンズを装用させる前に利き目の確認(図6)をしておくことを忘れないようにしなければならない.III処方方法1.加入度数の設定BF-SCLは,前述のとおり加入度数が高くなると遠用光学部の光学的機能は低下し,遠方視へ影響が出やすくなる.そこでBF-SCLの加入度数の設定時には,遠方視への影響を抑えるため,年齢や近方矯正加入度数(最良近方視力の得られる最小加入度数)の程度にかかわらず,処方しようとするBF-SCLの規格にある最も低い加入度数のトライアルレンズを最初に選択することを原則とする(表2).図6遠方視での利き目の確認法:覗き孔法(Hole.in.cardtest)表2トライアルレンズの選択・加入度数の設定年齢や最良近方視力の得られる最小加入度数の程度にかかわらず,最初に最も低い加入度数を選択・球面度数の設定自覚的屈折度数※よりプラス側の度数(+0.50.+1.00D)を選択※角膜頂点間距離補正後の等価球面度数.近方視の評価は,トライアルレンズを装用して15分程度してから,片眼ではなく両眼で,視力検査ではなく新聞,雑誌,携帯電話など実際のものの自覚的な見え方で行う.近方視力では検者ばかりでなく患者も視力の値(21)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131365に惑わされ,こだわるようになることが多い.そのため近方視力検査を行ったとしても患者に視力の値をあえて知らせないことで患者の満足度が低下しないように配慮する.0.72.球面度数の設定BF-SCLの処方では遠方視への影響を抑えるため加入度数を低く設定することが基本であるため近方視が不良となる可能性があり,BF-SCLの球面度数の設定時に処方球面度数差(D)0.60.50.40.30.20.1は,近視の過矯正や遠視の低矯正の状態を避けるよう0処方SCL:中心遠用・遠近両用SCL対象:44名88眼・平均51.9歳(43~64歳)自覚的屈折度数※:平均-4.16D処方レンズ球面度数:平均-3.68Dに,より慎重に処方手順を進めていかなければならない.そこで球面度数の設定時には,自覚的屈折度数(角自覚的屈折度数※(D)※角膜頂点間距離補正後の等価球面度数図7自覚的屈折度数と遠近両用SCLの処方球面度数差図8見え方の確認と度数調整況に近い環境で見え方を確認したり,装用前の視力補正方法と比較(実際に装用前の眼鏡あるいは単焦点コンタクトレンズを装用させて見え方を比較)したりして対応法を慎重に検討する.そして両眼での遠方視と近方視(処方手順からほとんどのケースで近方視に問題がないことが多い)の他覚的評価と自覚的評価から総合的に判断してBF-SCLの処方規格をそのまま決定するのか,度数調整を行うのかを判断する(図8).2.遠方が見えにくい場合の度数調整遠方が見えにくい場合には,まず利き目の球面度数を(22)膜頂点間距離補正後の等価球面度数)に+0.50D.+1.00Dを加えた球面度数(図7)のトライアルレンズを最初に選択することを原則とする(表2).この方法により,BF-SCLの処方経験の多少にかかわらず近視の過矯正や遠視の低矯正を起こしにくくなり,トライアルレンズの装用開始時に,確実に単焦点SCLよりも近方を見やすい状態に設定していることになる.近視の過矯正や遠視の低矯正により近方視が不良の場合と比べると,遠方視が不良の場合は球面度数をマイナス側に追加矯正することだけで対応が可能であり度数調整が容易である.遠方視の評価は,トライアルレンズを装用して15分程度してから,近方視と同様に片眼ではなく両眼で,視力検査ではなく壁の時計,カレンダー,ポスター,テレビの画面,窓の外の風景,運転時の見え方など実際のものの自覚的な見え方で行う.また視力検査を行っても視力の値にこだわらず,あくまでも患者の自覚的な満足度で見え方の評価を行う.IV処方後の対応の仕方1.度数調整のタイミングトライアルレンズの装用開始後,1週間程度経ちBF-SCLの見え方に慣れた時期に,見え方,装用感,ハンドリング,ケア方法などに問題がないか聴取する.見え方の確認には十分な時間をとって状況を把握する必要がある.問題がある場合でも,すぐに度数調整や処方レンズの変更をしないことを原則とし,BF-SCLの使用状1366あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013表3遠方が見えにくい場合の対応例・49歳,女性事務員1日交換遠近両用SCLの処方を希望して受診CL装用歴:SCL20年15年前に中止・自覚的屈折:VD=(1.2×.5.00D)VS=(1.2×.4.75D)利き目:右眼遠近両用SCLの球面度数の選択R)8.7/.3.75DLowaddL)8.7/.3.50DLowaddBV=(0.9×SCL)NBV=(1.0×SCL)・装用1カ月後,遠方が見えにくい訴えがあり,利き目(右眼)の球面度数を変更R)8.7/.4.00DLowaddL)8.7/.3.50DLowaddBV=(0.9×SCL)NBV=(0.9×SCL)改善がみられないため,左眼の度数も変更R)8.7/.4.00DLowaddL)8.7/.3.75DLowaddBV=(1.0×SCL)NBV=(0.8×SCL)遠方視,近方視とも患者の満足が得られた..0.25Dずつ追加していき,両眼での遠方視を確認する.遠方視に満足が得られる度数が決まったら近方視を確認し,問題がなければ度数調整を終了する.利き目のみでの度数調整で遠方視に満足が得られない場合には,非利き目の球面度数も.0.25Dずつ追加し,同様に両眼での遠方視と近方視を確認し,問題がなければ度数調整を終了する(表3).遠方が見えにくい場合の度数調整は,まずは利き目,つぎに両眼の順で球面度数の変更を試みると近方視に影響することが少なく,処方が成功しやすい.球面度数の調整で遠方視に満足が得られない場合には,利き目のみを単焦点SCLに変更(モディファイド・モノビジョン)して,両眼での遠方視と近方視を確認し,問題がなければ度数調整を終了する.3.近方が見えにくい場合の度数調整近方が見えにくい場合には,まず非利き目の球面度数を+0.25Dずつ追加していき,両眼での近方視を確認する.近方視に満足が得られる度数が決まったら遠方視を確認し,問題がなければ度数調整を終了する.非利き目の球面度数調整で近方視に満足が得られない場合には,(23)表4近方が見えにくい場合の対応例・55歳,女性事務員頻回交換遠近両用SCLの処方を希望して受診CL装用歴:SCL30年・自覚的屈折:VD=(1.2×.5.00D)VS=(1.2×.4.50D)利き目:左眼遠近両用SCLの球面度数の選択R)8.6/.3.75DLowaddL)8.6/.3.25DLowaddBV=(1.2×SCL)NBV=(0.4×SCL)・装用テスト1週間後,近方が見えにくい訴えがあり,非利き目(右眼)の球面度数を変更R)8.6/.3.50DLowaddL)8.6/.3.25DLowaddBV=(1.2×SCL)NBV=(0.4×SCL)近方視に改善がみられないため球面度数を元に戻し,加入度数を変更R)8.6/.3.75DHighaddL)8.6/.3.25DLowaddBV=(1.0×SCL)NBV=(0.5×SCL)近方視に患者の満足が得られた.・装用6カ月後,近方が見えにくくなったという訴えがあり,利き目(左眼)の加入度数を変更R)8.6/.3.75DHighaddL)8.6/.3.25DHighaddBV=(0.9×SCL)NBV=(0.6×SCL)近方視に改善がみられたが,遠方が見えにくくなったため,利き目の球面度数を変更R)8.6/.3.75DHighaddL)8.6/.3.50DHighaddBV=(1.0×SCL)NBV=(0.6×SCL)遠方視,近方視とも患者の満足が得られた.非利き目の球面度数を元に戻し,加入度数を高いものに変更し,同様に両眼での近方視と遠方視を確認し,問題がなければ度数調整を終了する.それでも近方視に満足が得られない場合には,両眼の加入度数を高いものに変更し,同様に両眼での近方視と遠方視を確認し,問題がなければ度数調整を終了する(表4).近方が見えにくい場合の度数調整は,まずは非利き目の球面度数の変更,つぎに加入度数の変更,最後に両眼の加入度数の変更の順序で試みると,遠方視に影響することが少なく,処方が成功しやすい.以上の調整でも遠方視と近方視に,同時に満足が得られない場合には,BF-SCLの種類を変更し,同様の手順あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131367を試みる.レンズ処方例の検討.日コレ誌44:103-107,20023)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換型遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方成績─二重焦点型と累進屈折力型の比較─.文献日コレ誌48:226-229,20061)塩谷浩:各種バイフォーカルコンタクトレンズの選択.4)塩谷浩:遠近両用コンタクトレンズの処方─適応の判断あたらしい眼科18:463-468,2001から処方に至るまで─.日コレ誌51:47-51,20102)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換遠近両用ソフトコンタクト1368あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(24)

遠近両用ソフトコンタクトレンズの進化

2013年10月31日 木曜日

遠近両用ソフトコンタクトレンズの進化EvolutionoftheBifocalSoftContactLens藤田博紀*佐野研二**はじめにコンタクトレンズ(CL)が日本で市販されて50年以上が経過し,CL装用者の年齢層も中高年の割合が高くなっている.そのため,今後,CL装用者の老視矯正に対するニーズは高まり,遠近両用CLの需要が増加していくことは間違いない.各メーカーの試行錯誤の研究によって十分に装用に耐えうる多くの種類の遠近両用CLが開発され,特に近年,その進化は著しい.ところで,わが国でもディスポーザブルソフトCL(SCL)や頻回交換SCLの普及に伴い,ハードCL(HCL)と比較して,SCL装用者の割合が高くなっている.また,CL装用が未経験であったり,SCLの装用経験しかなかったりする中高年者にとって,異物感の強いHCLは装用の継続が困難となる場合が少なくない.このため,遠近両用CLのなかでもSCLの必要性と重要性はますます高くなると予想される.遠近両用SCLには70年以上の歴史があるが,本稿では,遠近両用SCLの進歩について,これまで考案されたCL1),現在市販されているCL,そして,これから期待されている最新のCLについて,3つに分けて順次述べる.Iこれまで考案されたCL1.ピンホールCL(図1)1950年代,レンズの中央部に直径1~2mmのピンホールを設け,その周りに遮光材を配した同時視型SCL図1ピンホールCL中央部のピンホールを通った光は,焦点深度が深くなるため,遠近両方の像を網膜上に結ぶことが可能になる.が作製された.中央部のピンホールを通った光は,水晶体の中心を通過し,屈折や収差の影響を受けずに,焦点深度が深くなるため,遠近両方の像を網膜上に結ぶことが可能になる.本CLは度数を持たずに,老視だけではなく,遠視,近視,および乱視のあらゆる組合せの視力矯正効果を得ることができるため,処方が簡便であった.しかしながら,本CL装用時には,暗く視野が狭くなるという致命的な欠点があり,一般化されることはなかった.2.回折型2焦点CL光の屈折だけでなく,光の回折を利用した遠近両用CLである.レンズの中央部に遠用度数が入っており,これを囲む数mm直径のレンズ面に多数の近用の同心円状の回折ゾーンがあり,さらにその外側は遠用部になっている.回折とは,光線が図2のような格子を通過するとき,*HirokiFujita:藤田眼科**KenjiSano:あすみが丘佐野眼科〔別刷請求先〕藤田博紀:〒270-1132我孫子市湖北台1-1-3藤田眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(13)1357図2回折回折とは,光線が格子を通過するとき,進行方向に伝播するだけでなく一部は方向を変える現象をいう.Di.raxPolycon0.010.10Modulationthreshold0.51.05.0102050Spatialfrequency(Cycles/deg)図3回折型2焦点CLのコントラスト感度(所敬:回折二焦点コンタクトレンズ.日コレ誌35:8-11,1993より)進行方向に伝播するだけでなく一部は方向を変える現象をいう.回折現象では,方向を変える角度の少ないほうから,1次回折像,2次回折像というように多数の像をつくる.本CLは,レンズの後面に同心円状の回折格子を刻んだレンズであり,遠方像はレンズの前面の球面部の屈折による0次回折像として,また近方像はレンズの後面に同心円状に設けられた回折ゾーンによる1次回折像として網膜上に結像する仕組みである.本CLは瞳孔径の影響は受けにくく見え方は安定しており,日本でも製品化された.しかし,像が暗くなることや,コントラスト感度の低下などの理由から広く実用には至らなかった.図3に筆者らが測定した回折型レンズ(Di.rax)のコントラスト感度を示した.1358あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013遠用部近用部図4照準線共軸型CLレンズの光軸が照準線と重なるように,各々の症例ごとにレンズ光学部の位置を鼻上側に移動した設計である.3.照準線共軸型CL(図4)本CLは,プリズムバラストを用いてレンズの回転を制御し,レンズの光軸が照準線と重なるように,各々の症例ごとにレンズ光学部の位置を鼻上側に移動した照準線共軸型CLである.一般にSCLの安定位置は角膜中心部からやや耳下側に偏位する場合が多く,また,同心円型遠近両用CLでは,照準線と角膜の交点は角膜の地理的中心よりもわずかに鼻側にある.このため,同心円型遠近SCLでは,照準線とレンズの光軸にずれを生じ,照準線と角膜の交点からレンズの光学中心は1mm偏位しているとされている.この偏位による光学性の低下やゴースト現象の発生が同心円型遠近SCLの成功率低下の原因と考えられていた.本CLは近用光学部の中心を入射瞳中心に一致させることにより,この問題点を解消した.本CLは有効性を十分にみせたものの,処方システムにコストがかかることや,処方が煩雑であることから,現在は製造中止になっている.図5および図6は,筆者らが測定した照準線共軸型SCLの遠方および近方のコントラスト感度である.光学部を偏心させることの意義が示され興味深い.II現在市販されているCL現在,各メーカーからさまざまな遠近両用SCLが市販されている(表1)が,単焦点SCLやトーリックSCLと同様に,遠近両用SCLもディスポーザブルSCLや頻回交換するSCLが主流になっている.素材においては,ハイドロゲル素材にシリコーンを共重合させて酸素透過性を高めたシリコーンハイドロゲルレンズも遠近両用SCLに用いられ始めている.(14)*100☆*100***コントラスト感度☆コントラスト感度*10101110100(Cycles/degree)図5照準線共軸型CLの遠方のコントラスト感度光学部偏心タイプと同心円タイプの遠方のMTF(modula-tiontransferfunction).グラフは各周波数のコントラスト感度を対数化したものの平均値を再び小数で表したものであるが,偏心タイプのほうが同心円タイプのレンズに比べて特に中周波数領域で有意に良好であった.n=30.☆<0.05.*p<0.01.●:偏心タイプ.▲:同心円タイプ.(文献1より)1110100(Cycles/degree)図6照準線共軸型CLの近方のコントラスト感度光学部偏心タイプと同心円タイプの近方のMTF.近方視においては遠方視に比べて光学部偏心タイプの優位性はさらに高まり,中および高周波数領域では優位に同心円タイプに比べてコントランス感度は良好となった.n=30.*p<0.01.●:偏心タイプ.▲:同心円タイプ.(文献1より)表1現在日本で販売されているおもな遠近両用SCLメーカー製品名中央度数シリコーンタイプアイミーアイミーバイフォーカルソフト近従来型J&J2ウィークアキュビューバイフォーカル遠2WロートiQ14バイフォーカル遠2Wメニコン2WEEKメニコン遠近両用近2WHOYAHOYAマルチビュー遠従来型チバビジョンデイリーズプログレッシブ近1Dエアオプティクスアクア遠近両用近○2Wボシュロムメダリストマルチフォーカル近2Wメダリストプレミアマルチフォーカル近○2Wシードワンデーピュアマルチステージ遠1D2ウィークピュアマルチステージ遠2Wまた,デザインにおいては,形状の面ではすべて同心円状に分類され,レンズの屈折力により,2重焦点レンズと累進屈折力レンズに分かれる.光学的な機能の面ではすべて同時視型に分類される.同時視型は,レンズの回転による視力の影響を受けにくく,フィッティングが比較的容易である.しかし,同一光学面に遠用と近用の度数が分布しているため,網膜上の遠方像と近方像の光量がそれぞれ低下し,コントラスト感度の低下をきたしやすい.1.2重焦点レンズ2ウィークアキュビューRバイフォーカル(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)は,他のレンズと異なり,遠用と近用の度数が中央から交互に設定されている5多重同心円デザインである.たとえば中央が近用部,周辺が遠用部のデザインの遠近両用CLの場合,日中,急に明るい光の下で縮瞳が起こるとおもに中心部にある近用の度数しか使えないことになり,遠方視に支障をきたす恐れがある.これに対し本CLのような多重同(15)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131359遠用近用遠用二重焦点累進屈折力J&J2WアキュビューRバイフォーカルチバビジョンデイリーズRプログレッシブボシュロムメダリストRプレミアマルチフォーカルHIGHチバビジョンエアオプティクスRアクア遠近両用MEDロートi.Q.R14バイフォーカルDtypeロートi.Q.R14バイフォーカルNtype(ロート製薬社より提供)図7おもな遠近両用SCLの屈折力の分布(イメージ像)心円型CLでは,瞳孔上における遠用部と近用部の面積比の変化を小さくすることができ,瞳孔径の変化にかかわらず,見え方が大きく変化することがない2).2.累進屈折力レンズレンズの屈折分布については,中心部を遠用,周辺部を近用としたレンズと,中心部を近用,周辺部を遠用としたレンズがある.遠方の見え方を重視したい患者では,前者のレンズを選択すると良い場合がある.多くの遠近両用SCLは後者の構造を持っているが,これは,近見反応による調節性の縮瞳が起きることから,このデザインが効果的であるという考え方のためである.ただし,同じタイプのレンズでも,図7のように,中間部の累進屈折力の分布など各々のデザインにより度数の分布の特徴が大きく異なることに留意すべきである.3.モディファイドモノビジョン法ロートi.Q.R14バイフォーカル(ロート製薬社)は,中心遠用または近用,周辺はその逆の2つの異なる光学デザインを持つ.片眼に遠用重視型,もう片眼に近用重視型の左右異なる設計のデザインのレンズを装用する方法はモディファイドモノビジョン法とよばれ,成功率を高1360あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013遠用部近用部近用部と遠用部と中間部中間部レンズエッジレンズエッジ図8マルチフォーカル・トーリックSCL中心部遠方度数設計と中心部近方度数設計の2種類があり,黄色が遠方度数を,紺色が近方度数を表している.める方法の一つである.IIIこれから期待されている最新のCL1.マルチフォーカル・トーリックSCL(図8)現在,日本ではSCL装用者のうち,乱視用レンズの装用者の割合は11%である.乱視用SCLの装用者が高齢化し,老視を生じた場合,SCLはHCLよりも乱視の矯正効果が少なく,良い矯正方法がなかった.ProclearmultifocaltoricSCL(クーパービジョン・ジャパン株式会社)はこの問題点を解消するCLであり,日本での販売時期は未定であるが,すでに海外では一定の評価を得ている3).本CLは,中心部遠方度数設計と中心部近方度数設計(16)の2種類があり,遠近両用度数はレンズ前面に,また,乱視度数は後面に設計している.トーリックレンズとしての設計は,3時と9時方向が厚くなっているダブルスラブオフであり,1カ月交換レンズである.本CLの製作範囲については,乱視の度数は.0.75~.5.75D(0.50Dステップ),乱視軸は5°~180°(5°ステップ),加入度も+1.00~+4.00D(0.50Dステップ)であり,多くの症例に対応できるため,日本での発売が待たれる.2.両眼視融像型多焦点レンズシステム1項のマルチフォーカル・トーリックSCLのように乱視を矯正するのではなく,逆に,人工的に乱視を持ち込むというまったく別の発想で,老視を矯正する方法である.トーリックレンズを利用して,左右眼それぞれに軸が90°異なる近視性単乱視を人工的に作製し,両眼で融像して見るという試みである4).図9のように,乱視眼に平行光線が入射すると,前焦線から後焦線に分散して結像する.すなわち近視性単乱視眼においては,遠方視における無調節状態での後焦線と平行な線および,近方視における調節時で網膜上に前焦線が位置したときの前焦線と平行な線はボケることはない.トーリックレンズを用いて,人工的に右眼に直乱視を,左眼に倒乱視を作製し,遠方は後焦線で,近方は前焦線を使って見ることになる.図10は遠方視における画像で,近方視時には左右の画像が逆転する.左右の画像は視覚中枢で融像され遠方視および近方視が可能となる.本レンズシステムは,軸は90°と180°で,優位眼に直乱視を作ると成功率が高い.利点としては,中間距離も最少錯乱円付近で見られるため,遠方視と近方視の間で像がジャンプせず,比較的自然に移行できることがあげられる.欠点としては,処方が煩雑であることや,乱視を元々持っている症例は成功しやすいが,強い老視では,強い乱視を入れるため対応できない点がある.また,本レンズシステムは,SCLよりも光学性の高いHCLを用いて乱視を作製したほうが高い成功率を得られる.倒乱視前焦線後焦線直乱視図9倒乱視と直乱視における光線の結像状態図は遠方視における画像で,近方視時には左右の画像が逆転する.左右の画像は視覚中枢で融像され遠方視および近方視が可能となる.3.ピンホールCLの再評価近年,ピンホールCLが見直され,再評価されている.Garcia-LazaroSらの報告5)では,非優位眼にのみピンホールCLを装用し,モノビジョンと比較したところ,ピンホールCL装用時には中間距離視力は良好であったものの,近方視力は不良であった.このため,明らかなピンホールCLの片眼装用の有用性は確認されなかった.しかし最近,これまでのピンホールCLを改良したレンズが新しく開発された(図11).ピンホールCLは,遮光材の中心部分のみにピンホールを配したことにより,視野が暗くなるという欠点があったが,本CLは,中心穴の周辺に,より多数の細かい穴を配置することによってこの欠点を解消した.本CLは光量を増やし,視野の明るさを確保できるため,今後の製品化が待たれている.(17)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131361おわりに遠近両用SCLは,遠近両用眼鏡や遠近両用HCLに比べると見え方が劣る6)が,各メーカーから次々に新しい遠近両用SCLが開発されており,適切なレンズを選択すれば満足な視機能が得られる場合も多い.遠近両用SCLのデザインは多様化しているが,遠近両用SCLには決定的なデザインのレンズがまだなく,確立されていないのが現状である.瞳孔径,瞳孔反応,レンズの動きや偏心,および,装用する際の照度は個々の症例によってさまざまであるため,最適な遠近両用SCLは症例ごとに異なる.そのため,なるべく多くの種類のデザインのトライアルレンズを準備し,積極的に多くのレンズをトライできる環境を作ることが重要である.遠近両用SCLのフィッティング自体は煩雑ではなく,難度が高いわけではない.遠近両用SCLの処方の成功率は,眼科医が積極的にトライアルレンズを多く提供できるかにも委ねられている.文献1)佐野研二:多焦点コンタクトレンズ.日コレ誌39:22-28,19972)藤田博紀,佐野研二,北澤世志博ほか:多重同心円型バイフォーカルコンタクトレンズの有用性.あたらしい眼科17:273-277,20003)Madrid-CostaD,TomasE,Ferrer-BlascoT:Visualper-formanceofamultifocaltoricsoftcontactlens.OptomVisSci89:1627-1635,20124)佐野研二,藤田博紀,北澤世志博ほか:人工的近視性単乱視を利用した両眼視融像型多焦点レンズシステム.日コレ誌43:53-56,20015)Garcia-LazaroS,Ferrer-BlascoT,RadhakrishnanH:Visualcomparisonofanarti.cialpupilcontactlenstomonovision.OptomVisSci89:E1022-1029,20126)植田喜一:コンタクトレンズによる老視治療.あたらしい眼科28:623-631,20111362あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(18)

遠近両用ハードコンタクトレンズの処方テクニック

2013年10月31日 木曜日

遠近両用ハードコンタクトレンズの処方テクニックPrescriptionTechniqueforPresbyopicRigidContactLenses梶田雅義*はじめに屈折矯正の基本は眼鏡レンズの処方である.快適な矯正視力を提供できる眼鏡レンズ度数を求めることができれば,その矯正度数を眼光学的に等価なハードコンタクトレンズ(HCL)に置き換える操作を行うだけで,HCLで適切な矯正度数を提供できる.遠近両用HCLの処方で大切なのは,HCLのフィッティングである.眼の動きや眼瞼の動きによって,遠用部と近用部を利用できるフィッティングを提供することである.処方の成功は,処方者が遠近両用HCLの特性を十分に理解して処方し,装用者にそれを正しく伝え,装用者が遠近両用HCLの特徴を適切に利用するスキルを身につけるか否かにかかっている.I遠近両用HCLのタイプと特徴現在提供されている遠近両用HCLデザインは同心円型であり,すべてが中心遠用でその周囲に近用度数を配置したものである(図1).セグメントタイプの提供は2013年8月で終了した.レンズ度数は二重焦点タイプと累進屈折力タイプがある.二重焦点タイプは遠用部と近用部に移行部が存在するが,矯正効果は持たない.累進屈折力タイプは,遠用部から近用部にかけて累進的にレンズ度数を連続して変化させているタイプと,近用部と遠用部の間に累進部を持つタイプがある.累進部を持つタイプにも,遠用部と近用部がそれぞれ単焦点であるタイプ,遠用部と近用部がそれぞれ累進屈折であるタイプがある1,2).遠用部と近用部のデザインおよびその移行部のデザインの違いは遠く,中間距離と近くの見え方に大きく影響する.IIレンズのタイプとフィッティング二重焦点タイプは完全な交代視で使用し,累進屈折力タイプは同時視で使用する.中間累進部を持つタイプでは交代視と同時視の両方が利用できるが,近用部と遠用部が累進屈折力レンズのものではやや同時視の特徴が強く,近用部と遠用部が単焦点レンズのものではやや交代視の特徴が強くなる印象がある.交代視を狙う場合にはレンズが適切に動き,正面視ではレンズ中心部分が瞳孔領に安定し,下方視においては,下眼瞼がレンズを突き上げて,レンズの中間周辺部分が瞳孔領に位置することが望ましい(図2).同時視を期待する場合には,レンズの中央が瞳孔中心に位置して,瞬目で大きな動きが生じないことが望ましい(図3).角膜の形状によって異なることもあるが,一般にはHCLの動きを小さくするためにはレンズサイズを大きくし,HCLの動きを大きくするためにはレンズサイズを小さくする.また,レンズを下方安定させるためにはベースカーブをスティープにし,レンズの上方への引き上げを強めるためにはベースカーブをフラットにする.正面視と下方視時にHCLの位置を観察し,交代視を期待する場合には遠用部と近用部が適切に瞳孔領に位置するように,同時視タイプではHCLが大きく動きすぎな*MasayoshiKajita:梶田眼科〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(7)1351交代視型交代視同時視型同時視型セグメント型同心円型遠用近用アイミー:サプリームメニコン:メニフォーカルZエイコー:マルチ-1シードバイフォーカルサンコン:マイルドⅡエスタージュEXタイプMFマルチフォーカルO2(バイフォーカルタイプ)レインボー:クレールコンフォクレール東レ:プレリーナプレリーナⅡニチコン:プラスビューHOYA:マルチビューEXマルチビューEX(L)アイミー:クリアライフシード:マルチステージO2ノア図1遠近両用ハードコンタクトレンズのデザインセグメントタイプはすでに生産が終了している.図3同時視のイメージソフトレンズはすべてこのタイプであるが,ハードレンズでも累進屈折力のタイプでは利用できる.安定した視力を提供するためには,レンズのセンタリングが良く,動きが少ないほうが良い.1352あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(8)いようにベースカーブとレンズサイズを調整する.III遠近両用HCLのタイプと見え方の特徴1.二重焦点タイプ遠用度数と近用度数付近に明瞭にピントが合う.その間の距離にピントがあまいところがあるが,加入度数が小さい場合にはそれほどギャップは大きくない.瞬目した瞬間にレンズが上方に引き上げられ,近用度数が瞳孔中心に位置する瞬間が生じ,遠方視時には瞬目直後に見づらくなる瞬間が生じる.この見え方に妥協ができれば,快適な見え方を提供できる.2.レンズ光学部全体が累進屈折力のタイプ鮮明にピントが合う距離は存在しないが,見え方に妥協できれば,どの距離もそれなりにピントが合う.中間距離が最も快適に見えるデザインである.鮮明な遠方視力を要求する人に処方しようとすると,適正な矯正であれば中間距離に位置する矯正度数で遠方を矯正する度数が要求されることになる.その結果,近視過矯正の状態になり,近方視力が不足する.反対に鮮明な近方視力を要求する場合には,中間距離に位置する度数で近方度数を提供することになって,遠方視力が不足する.これに対処するため,加入度数を大きくすれば,どの距離も快適には見えなくなってしまう.過矯正に特に注意が必要である.3.レンズ光学部の遠用部と近用部が累進屈折力レンズのタイプすべての距離に比較的安定した視力を提供できるデザインである.しかし,遠くの見え方にも近くの見え方にも累進屈折力レンズ特有のコントラスト低下がある.このコントラスト低下に対して矯正度数を強くして解決しようとすると,遠くのコントラストは多少解消されるものの,近方の見え方は不良になる.4.レンズ光学部の遠用部と近用部が単焦点レンズのタイプ遠方と近方のどちらも安定した視力が提供できる反面,中間距離の見え方に物足りなさを感じる.これを解消するために,遠用度数を強めて,中間距離の見え方を改善しようとして,遠方矯正度数を強めると,近用度数で中間距離を見ることになり,中間距離の見え方は改善するが,近方視は損なわれ,かつ遠方は過矯正のために疲れやすくなる.また,トライアルレンズの度数が矯正度数よりも強い場合には,トライアルレンズを装用した状態で,近視過矯正状態になっているため,プラスレンズの検眼レンズで追加補正することに抵抗が生じ,近用度数で遠方を見るような矯正を要求される傾向が強くなる.IVレンズタイプの選択屈折矯正を行うときに,見えにくさを解決するために矯正度数を強めればよいと思っている人が少なくない.確かに,過矯正状態になると屈折値に強い震え(調節微動)が生じるため(図4),矯正視力が向上したかのように感じることがある3).しかし,近視が過矯正状態になれば,調節を緩めたときには遠方にも近方にもピントが合わない.過矯正に慣れている眼は疲れを訴えることが多いが,矯正度数を少し弱めただけでも遠方視力が低下し,苦情が生じる.そのため,過矯正を経験している眼の対応は容易ではない.遠近両用HCLを処方するときには,患者の視環境を考慮してレンズデザインを選択し,適正な矯正度数を提供したときの見え方を受け入れてもらうように導くこと-4視標位置-5D屈折値[D]-3視標位置-3D-2-1視標位置-1D0010203040時間[sec]図4屈折値の震え(調節微動)調節に努力を要すると毛様体筋に震えが生じて,屈折値が揺れ動く.屈折値が振動すると網膜の映像が震えるために,固視微動が強まったときと同じように,大脳では映像をより鮮明に認識できる.毛様体筋の振動の持続は眼の疲れを生じる.(9)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131353がとても大切である.レンズタイプの選択は,安定した視力を求める症例には二重焦点タイプあるいは遠用部と近用部が単焦点タイプの累進屈折力レンズが望ましく,眼精疲労の訴えがあり,眼の疲れを予防するためには全体が一つの累進屈折力になっているタイプあるいは遠用部と近用部のそれぞれも累進屈折力になっているタイプのレンズが望ましい.後者のタイプでは,単焦点レンズに比べて,遠方のコントラストがかなり低下するので,この特性を十分に理解して,決して過矯正にならないように気をつける.このタイプで遠方視力に不満が生じる場合には,矯正度数を強める操作を行うよりも,二重焦点タイプに変更したほうが快適な矯正が得られる.V処方の手順1.適正矯正度数の決定適切な他覚的屈折検査に続いて,自覚的屈折検査を行う.その後に両眼同時雲霧法を使用して,眼鏡レンズで快適な矯正度数を求める4).HCLの処方には眼鏡レンズで快適な矯正度数の球面度数だけを用いる.2.頂点間距離補正眼の屈折値は眼前12mmに置かれた眼鏡レンズ度数で定義されているため(図5),角膜表面で矯正するCLで同じ矯正度数を提供するレンズの度数が異なる.すなわち角膜頂点間距離による補正が必要である.眼鏡レンズ度数をDsp[ジオプトリ]とし,角膜からレンズまでの距離をd[メートル]とするとき,コンタクトレンズ度数[Dcl]は次式で求めることができる.DspDcl=1.d・Dsp通常はコンタクトレンズフィッティングマニュアルの裏表紙やメーカーが提供する定規などに補正表が記されているので,それを参照すると良い(表1).3.ベースカーブと加入度数の選択内面が球面のHCLでは,単焦点のHCLと同様に,トライアルレンズを装用して,フルオレセインで涙液を染色し,フィッティングがパラレルになるベースカープ1354あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013-3.00D∞12mm図5屈折値の定義調節休止状態にある眼に,ある光学レンズを眼前12mmに置いたときに,無限遠から発した光束が網膜面で収束するとき,その眼の屈折値をその光学レンズの屈折力(度数)で示す.マイナス符号は近視,プラス符号は遠視を示す.たとえば,眼前12mmの位置に.3.00Dの球面レンズを置いたときに,平行光束が網膜面上で収束する眼の屈折値は.3.00Dである.表1頂点間距離補正表眼鏡度数CL度数眼鏡度数CL度数.10.00.8.9310.0011.36.9.75.8.739.7511.04.9.50.8.539.5010.72.9.25.8.339.2510.40.9.00.8.129.0010.09.8.75.7.928.759.78.8.50.7.718.509.47.8.25.7.518.259.16.8.00.7.308.008.85.7.75.7.097.758.54.7.50.6.887.508.24.7.25.6.677.257.94.7.00.6.467.007.64.6.75.6.246.757.34.6.50.6.036.507.05.6.25.5.816.256.76.6.00.5.606.006.47.5.75.5.385.756.18.5.50.5.165.505.89.5.25.4.945.255.60.5.00.4.725.005.32.4.75.4.494.755.04.4.50.4.274.504.76.4.25.4.044.254.48.4.00.3.824.004.20.3.75.3.593.753.93.3.50.3.363.503.65を見つけてベースカーブを決定する.近用加入度数は,初めて遠近両用HCLを処方する場合には+1.00D.+1.50Dの低加入度数のレンズを用いたほうが良い.単焦点レンズの見え方に慣れている装用(10)abc図6涙液レンズHCLと角膜が作る涙液レンズはフィッティングがフラット(a)ならばマイナス度数,パラレル(b)ならば度数なし,スティープ(c)ならばプラス度数である.者では,高加入度数の見え方に対する不満が強い.低加入度数のレンズで遠近両用HCL特有の不安定な見え方に慣れた後に,必要に応じて徐々に高加入度数に変更するのが望ましい.低加入度数でも単焦点から変更したときには近方の見え方に改善が得られたことが実感してもらえるはずである.4.ベースカーブによる涙液レンズ効果による補正HCLと角膜の間にできる涙液はレンズとしての機能を持つ.角膜に対してフラットであればマイナスレンズを持ち,スティープならばプラスレンズを持つ(図6).涙液レンズの屈折力は角膜弱主経線曲率半径K1[mm]とHCLのベースカーブBC[mm]の差が0.05[mm](HCLのベースカーブ差1段階)に対して,0.25[D](眼鏡レンズの1段階)で近似できる.5.トライアルレンズに追加する検眼レンズ度数トライアルレンズを装用した状態で,眼鏡度数による適正矯正度数に頂点間距離補正と涙液レンズ補正を行ったHCLで適正な矯正度数Dajcl[D]からトライアルレンズの度数を減じた値Dcad[D]を求める.さらに頂点間距離補正を逆に使用して,Dcadを眼鏡レンズ度数に逆補正し,検眼レンズで追加に必要な矯正度数Dgad[D]を求める.この値がトライアルレンズを装用したときに適正な矯正度数を提供する追加検眼レンズの度数になる.6.見え方の指導と処方の判定トライアル中の遠近両用HCLの見え方の特徴を説明し,遠近両用HCLは単焦点レンズのようにクリアに見えるものではなく,片眼の見え方はかなり不安定であることを十分に伝える.片眼の見え方は不安定であっても,両眼で見ると割とクリアに見えること,さらに装用に慣れることによって見え方が改善してくることをしっかり伝えた後に,トライアルレンズを装用した状態で,追加検眼レンズDgad[D]を検眼枠に装入して,両眼で遠くや近くを見てもらう.その際,遠近両用HCLの見え方がこの程度であることを伝えて,遠くや近く,日常生活で必要な見え方が確保されているかチェックをしてもらう.見え方に妥協ができて,装用できそうであれば,Dajcl[D]の度数で処方する.近くの見え方は妥協できるが,遠くが少し見づらいと訴える場合には.0.25Dを加えてみる.反対に遠くの見え方には妥協できるが,近くが少し見づらいと訴える場合には.0.25Dを減じてみる.遠くも近くも見え方に妥協できそうにないと訴える場合には,トライアル中の遠近両用HCLの適応ではないと判断し,別のタイプの遠近両用HCLの処方を試みるか,あるいは遠近両用HCLの装用を諦めてもらい,これまで使用している単焦点レンズを装用した上に合わせて使用する眼鏡を勧めたほうが良い.一例を挙げて説明する.46歳の女性,事務職.主訴:視力低下.現病歴:22歳からHCLを使用している.45歳を過ぎた頃から,薄暗いところで,手元が見づらいと感じるときが出てきた.現症:視力値VD=0.07(1.2×.6.00D(cyl.1.25DAx180°)VS=0.07(1.2×.6.50D(cyl.1.00DAx180°)近方RNV=0.4(1.0×.5.00D(cyl.1.25DAx180°)LNV=0.5(1.0×.5.50D(cyl.1.00DAx180°)前眼部,中間透光体および眼底:異常なし角膜曲率右眼8.05mm/7.90mm左眼8.05mm/7.95mm両眼同時雲霧法による矯正視力(11)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131355Vbl=1.2[右眼.6.00D(cyl.1.25DAx180°,左眼.6.25D(cyl.1.00DAx180°]頂点間距離補正(HCLでは球面度数のみで良い)右眼Dcl.5.50D,左眼Dcl.5.75Dトライアルレンズの選択加入度数+1.00D(後面球面,遠用部と近用部が累進屈折力レンズのタイプ)R)BC8.10/P.3.00D/S9.3L)BC8.10/P.3.00D/S9.3フィッティングは良好涙液レンズによる補正右眼Dajcl.5.25D,左眼Dajcl.5.50Dトライアルレンズに追加必要な度数右眼Dcad.2.25D,左眼Dcad.2.50D検眼レンズに必要な追加矯正度数(±4.00D未満では補正の必要なし)右眼Dgad.2.25D,左眼Dgad.2.50D検眼レンズを掛けて,見え方の確認患者さんのコメント:遠くも今までよりも良く見えるし,近くは非常に良く見える.患者さんへの説明「このレンズは累進屈折力レンズで,中央部から周辺に向かって徐々に度数が変わっています.1枚のレンズでいろいろな距離にピントが合っていますから,網膜には今までの単焦点レンズよりもぼんやりした像が映っています.単眼では少しぼけているという感じがしますが,両眼で見るとくっきりしてきます.試し装用中には,絶対に左右眼の見え方を比べないで下さい.」視力値を確認:片眼視力は測定しない.遠方Vbl=1.0[R:HCL=S.2.25D,L:HCL=.2.50D]近方BNV=0.8[R:HCL=S.2.25D,L:HCL=.2.50D]遠近両用HCL処方データR)BC8.10/P.3.00D/S9.3add+1.00L)BC8.10/P.3.00D/S9.3add+1.001カ月後:片眼視力は測定しない遠方Vbl=1.2×遠近両用HCL近方BNV=1.0×遠近両用HCL患者さんのコメント:最初の2週間は見え方が少し不安定でしたが,その後は遠くも近くもすっきり見えるようになりました.おわりに遠近両用HCLの処方は,トライアル遠近両用HCLを装用した状態で追加矯正度数を求めようとすると,遠近両用特有の見え方の悪さを,度数を加えれば単焦点レンズと同じ見え方になるのではないかという期待が邪魔をして,過矯正になりがちで,追加矯正度数が適切に求められないことも少なくない.適正眼鏡矯正度数そのままをHCL度数に置き換えてみると,簡単に処方を行うことができる.文献1)梶田雅義:二重焦点コンタクトレンズ.眼科44:1065-1072,20022)植田喜一:遠近両用コンタクトレンズ.眼科プラクティス27.標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),文光堂,p208-212,20093)梶田雅義:屈折矯正における調節機能の役割.視覚の科学33:138-146,20124)梶田雅義:眼鏡処方完全マニュアル②視力・屈折検査の手順.眼科ケア13:14-18,20111356あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(12)

遠近両用ハードコンタクトレンズの進化

2013年10月31日 木曜日

遠近両用ハードコンタクトレンズの進化ProgressionofBifocalHardContactLenses東原尚代*はじめに遠近両用ハードコンタクトレンズ(HCL)の歴史は古く,1930年代に米国のFeinbloomWが強膜レンズの二重焦点および三重焦点デザインを考案したのが最初と言われている1).当時の製作技術では複雑な構造のHCLを作製することはできなかったが,遠近両用HCLデザインの概念の礎を形成したと考えられている.その後,1950年代に入りHCLの中心部に同心円の近用部あるいは遠用部をもつバイフォーカルHCLが開発されたが,処方成功率は25.50%と低かった2).また,1952年にFreemanはレンズの中央部に1.2mmのピンホールをあけ,その周囲を黒くして近方を見るHCLを開発したが,視野が狭いために普及しなかった.日本では1961年に秋山が矩形の遠近両用HCLの臨床成績について報告し,その成功率は66%であったという3).その後,1987年にFreemanとStoneが回折型のバイフォーカルを作製した4).レンズの中心に数mm直径の多数の円環状回折ゾーンを設けた遠近両用HCLで,遠方視時は光線がレンズ中央部の屈折で網膜に結像され,近方視時はレンズ内面に加工された回折ゾーンで網膜に結像するという画期的なデザインであった.この回折型HCLはコントラスト感度こそ低いが,遠近両用HCLとしての光学領配置は理想的なデザインと評価された.その後もデザインは進歩を遂げ,現在,遠近両用HCLは光学的機能の点から,遠近の像が視線の移動で別々に網膜に結像することで遠近を見分ける交代視型と,遠近の像が同時に網膜に結像する同時視型に分類されるようになった(表1).デザインの変遷で見る遠近両用HCLの進化1.交代視型(セグメントタイプ)遠近両用HCLセグメントタイプは古くからあった遠近両用HCLで表1遠近両用ハードコンタクトレンズの種類機能焦点形状中心光学部商品名(メーカー)二重焦点セグメント型遠用アイミーサプリームバイフォーカル(旭化成アイミー)交代視型二重焦点同心円型遠用メニフォーカルZ(メニコン)サンコンマイルドⅡ/Epiバイフォーカルタイプ(サンコンタクトレンズ)同時視型(交代視)累進多焦点型非球面型遠用マルチビューExa(HOYA)プラスビュー(ニチコン)シードマルチフォーカルO2(シード)レインボークレール/コンフォクレール(レインボーオプチカル)プレリーナ/プレリーナⅡ(TORAY)など*HisayoHigashihara:ひがしはら内科眼科クリニック/京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕東原尚代:〒621-0861京都府亀岡市北町57番13号ひがしはら内科眼科クリニック0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)1347マイナス度数加入度遠用近用図1セグメント型(交代視)遠方視近方視図2交代視型HCLの遠近の見え方あるが,近年は製造中止が相次いでいる.二重焦点の眼鏡のように,レンズ上方部に遠用光学部,下方部に近用光学部が配置されている(図1).遠方視するときに正面視してHCL上方の遠用光学部を,近方視するときには下方視することでHCLが上方に持ち上がってHCL下方の近用光学部を通してものを見ることができる(図2).このように,視線を移動させて見るために視軸移動型ともよばれる.通常,HCLでは瞬目でレンズが動いて涙液交換を行うが,セグメント型は常に近用部が下方に安定するようにプリズムバラストなどでレンズを重くして回転しないように設計されている.近用光学部は三日月型や半円形など,その形状や位置はメーカーによってさまざまである.セグメントタイプでは交代視して見ることになるた1348あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013マイナス度数遠用光学部近用移行部遠用近用光学部近用め,単焦点レンズ並に遠近ともにはっきり見ることができるが,瞬目直後にレンズが多少上方へ引き上がることで遠近の境界領域が瞳孔領にかかって見え方が大きく変化(像のJump)しやすく,慣れるまでに時間がかかるのが短所である.HCLの光学部が瞳孔から大きくずれる,あるいは,HCLの動きが安定しない,強い乱視がある場合には処方は不適応となる.また,セグメントラインは瞬目した後の静止位置が瞳孔の下縁と同程度にするのが望ましく,セグメントラインの調整がむずかしいのも処方に難渋しやすい点である5.7).セグメントタイプの遠近両用HCLとして「アイミーサプリームバイフォーカル」(旭化成アイミー株式会社)が最近まで処方できたが,残念なことに2013年7月をもって製造中止となった.交代視型には,光学部が同心円状に区分されたデザインもある(図3).「メニフォーカルZ」(メニコン)などがこれにあたるが,中央が遠用部,その外側に移行部,さらに外側に近用部が配列され,遠用部と近用部がそれぞれ単焦点レンズになった二重焦点レンズである.つぎに述べる同時視型(累進多焦点型)と比較して鮮明に像が見えるのが特徴である.2.同時視型(コンセントリックタイプ)遠近両用HCL遠近両用HCLで主流となっているのは同時視型であり,これは形状から同心円型とも分類される.ソフトコンタクトレンズの同時視型とは異なり,HCLの場合は瞬目でレンズが動くために,近方視時に少し下方視して見ることで交代視型の効果も得られやすく,機能面から(4)必ずしも同時視型とは言えない点がある.そのため,HCLの場合は中心部が遠用で周辺部に近用光学部が同心円状に配列されているのが主流である(図4).一方,中心から周辺にかけて累進屈折で度数が変化するタイプもあり(図5),遠方から中間,近方にかけてスムーズに見えるのが特徴である.一般に,交代視型に比較してレ遠方視近方視図4同時視型HCLの遠近の見え方(中心が遠用の場合)マイナス度数遠用近用図5累進多焦点(非球面型)ンズの回転や瞳孔径に影響を受けにくく処方は比較的容易である8).同時視型の欠点は,遠用部および近用部を通過した光線が同時に網膜に到達するため(図4),暗所ではコントラストが低下しやすく像の鮮明度が落ちること9)や,近見の加入度数が大きくなると遠方あるいは近方の映像のどちらを選択するかを脳が処理しづらくなり,どちらかの像が優先されやすいことである(表2).また,近用加入度については各社レンズのデザインの違いによって有効な度数が異なることも知っておかなければならない10).このように,同時視型の遠近両用HCLはメーカーによってデザインが異なるため,それぞれの特徴を把握して処方する必要がある.できれば数種類のメーカーのトライアルレンズを準備しておき,患者の角膜径や瞳孔径を見ながら,レンズの動きや静止位置が安定して視力がよく出るデザインを選択するのが望ましい.おわりに理想的な遠近両用HCLが登場するまで,長年にわたり何度も試行錯誤が繰り返されてきた.近年は実用に耐えうる遠近両用HCLが登場し,われわれ眼科医も処方しやすくなってきたと思われる.遠近両用CLは,ソフトコンタクトレンズも含めるとさまざまなタイプがあり,処方を成功させるためには,まずレンズのデザインを十分に把握するとともに,それぞれのレンズの長所・短所を熟知することがポイントになると思う.文献1)FeinbloomW:Contactlens.USPatent2,129,305.Sept.6,1938表2交代視型と同時視型の特徴長所短所交代視型・遠方と近方が鮮明に見える・見る距離に応じて視線を移動させなければならない・瞬目で像がJumpする・レンズの回転や目の動き,瞳孔径に影響を受ける・処方に経験を要する同時視型・視線の移動を必要としない・交代視型と比較して処方が容易・遠方と近方の像が同時に網膜に結像するためコントラスト感度が低下・加入度数が大きくなると遠方あるいは近方の映像を脳が処理しにくく,どちらかの像が優先されやすい(5)あたらしい眼科Vol.30,No.10,201313492)WesleyNK:ConcentricAsphericLens.日コレ誌17:69-80,19753)秋山晃一郎:矩形二重焦点レンズの研究.臨床成績について.日コレ誌3:103-106,19614)FreemanM,StoneJ:Anewdi.ractivebifocalcontactlens.TransactionsBCLAConference:15-22,19875)和田修,岡崎咲穂,保谷卓男ほか:交替視型バイフォーカルコンタクトレンズのセグメントラインの高さに関する研究(第1報).日コレ誌37:229-233,19956)保谷卓男,瀬川雄三,和田修ほか:交替視型バイフォーカルコンタクトレンズのセグメントラインの高さに関する研究(第2報).日コレ誌38:45-52,19967)江口甲一郎,若林憲章,蟻山敏之ほか:交替視型バイフォーカルコンタクトレンズのセグメントラインの高さに関する研究(第3報).日コレ誌39:44-50,19978)宗司西美,宇津見義一,山田昌和ほか:累進多焦点遠近両用ハードコンタクトレンズ(クレールR)の臨床処方成績の検討.日コレ誌41:191-196,19999)洲崎朝樹,前田直之,不二門尚ほか:遠近両用ハードコンタクトレンズのコントラスト感度.日コレ誌47:42-47,200510)上田哲生,櫻井寿也,原嘉昭ほか:バイフォーカルコンタクトレンズにおける近用加入度数について.日コレ誌42:142-145,20001350あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(6)