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My boom 40.

2015年5月31日 日曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第40回「許斐健二」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第40回「許斐健二」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介許斐健二(このみ・けんじ)厚生労働省私は平成10年から東京歯科大学市川総合病院眼科および角膜センターアイバンクで,おもに角膜移植に関連する臨床や研究に携わってきました.また,平成15年9月から平成17年12月末まで,米国マサチューセッツ州ボストンにあるスケペンス眼研究所に留学し,角膜内皮細胞の研究をさせていただきました.帰国後は臨床業務を主体に行っておりましたが,平成25年3月から平成27年5月まで,厚生労働省で医系技官として行政に携わることとなり,現在に至っています.臨床のMyboom角膜移植医療に携わるようになって15年以上経ちましたが,その間に技術はどんどん進歩し,今では角膜移植術といってもさまざまな術式が選択できるようになりました.移植が必要な部分だけを移植する,いわゆるパーツ移植は正しい方向ですが,究極はできるだけ移植をせずに治すことだと考えています.角膜移植が必要となる疾患の一つである円錐角膜は比較的若年で発症し,その進行状況はさまざまで重症例では移植の適応がありますが,進行を抑制あるいは停止させることができれば,角膜移植が不要になります.この進行の抑制および停止を目的として,欧米では約10年前からリボフラビン(VitaminB2)と紫外線Aを用いた角膜クロスリンキングが行われています.角膜のコラーゲン間の架橋を増やして角膜の強度を上げるイメージで,治療効果は100(73)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY%とはいえませんが,改良が加えられながら定着しつつある療法です.わが国でも少しずつ症例を増やし,有効性と安全性を確認しながら,新しい治療法として確立していきたいと考えています.行政のMyboomこの2年間は厚生労働省大臣官房厚生科学課と医政局研究開発振興課および経済課に勤務し,医療行政に携わってきました.とくに臨床研究関係の仕事として,「遺伝子治療臨床研究に関する指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の改定など,また,「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」の施行のための作業などをしてきたわけですが,普段の眼科臨床の業務とはまったく違う仕事内容でした.さらに,現在の日本が抱えている問題,とくに少子高齢化社会を今後どのように乗り越え,社会保障制度を保っていくのか,国や行政機関に任せるだけでなく,医師一人一人が(本当は国民全員で)もっと真剣に考えないといない時代に突入していることを肌で感じた期間でもありました.これまで角膜移植医療に携わってきましたので,「臓器の移植に関する法律」に関連する仕事をしたいと思い勤務してきましたが,結果的に配属された課は臓器移植とほとんど関係していませんでした.ですので,myboomとしてできなかったことがいくつかありますが,それらは今後もmyboomのリストに載せておきます.ちなみに日本の眼科医数は約1万4千人(医師数は約30万人)ですが,厚生労働省に勤務している眼科医はわずか2名(2015年3月末)ですので,人数だけでしたら眼科教授より希少です.プライベートのMyboom国家公務員は24時間,公務員としての自覚をもってあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015683 写真1厚生労働省で執務中の筆者医局のように間仕切りはなく,積み上がった書類が間仕切りの代わりになることも.夏場は28度以上にならないと冷房が入りません.よって半袖です.また,昼休みは省エネのために部屋の明かりが消えます….右下は義眼台.薬事承認されたものはありません….行動しなくてはなりませんので(これが以外と大変です…),プライベートでも言動などを含めて留意した2年間でした.海外旅行に行くにも事前に届出が必要で,結局私用では海外に一度も行かずに過ぎてしまいました.ちなみに公務で海外出張する際は公務用のパスポートが発給されますが,1回限りで色も違います.また,国会会期中(読者の多くは通常国会や臨時国会の期間を気にされないと思われますが)は終業時間後の夜も待機(帰れない)などがかかり,翌日に帰宅することもしばしばありました.公務員というと定時に仕事を終えて家に帰るイメージかもしれませんが,少なくとも中央省庁はそんなイメージとは大分異なっています.そんななか,プライベートでやりたいこと(myboom)がいくつかありました.今のところ思うように進んではいませんが,達成したいと思っています.1.義眼台を!角膜移植後の転倒などによって角膜創離開が生じた場合,状態によってはやむなく眼球内容除去術を行うことがあります.その際の義眼床を形成するために用いる義眼台が,実は薬事承認されていないことを厚生労働省に勤務して初めて知りました.薬事承認されていない医療機器(義眼台は医療機器扱い)を用いた医療技術は通常,保険請求ができないのですが,義眼台包埋術はすでに術式として診療報酬の点数が付いているという不思議な状況に以前からなっています.この問題を解決すべく,日684あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015写真221年前のマサイマラ国立保護区と厚生労働省から見える日比谷公園本眼腫瘍学会などの先生方が厚生労働省の「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」に,義眼台についての要望書を提出してくださいました.結果として,ニーズの高い医療機器として一定の理解が得られましたので,義眼台の製造販売について,どこかの医療機器メーカーが手を上げてくれるとよいのですが,現状はなかなか見つからず良い方法を模索しています.いつかmyboomのリストから消したいと思っています.2.本当のプライベート医師になった頃は海外に出かけて動物写真をとったり,ダイビングをしたりと動きまわっていましたが,気がつくと動物写真は家族写真やビデオに代わり,ダイビングはたまの温泉となり,「趣味は○○で,これにハマっています!」と言えるものが,myboomのコーナーにもかかわらず今はない状況です.世の中,アンチエイジングや健康長寿といった言葉が目につくなか,40代後半に入ってきましたので,ここは再び体を動かすためにもミラーレス一眼でもぶら下げて,フラフラしようかなと思っております.次のプレゼンターは群馬大学の山田教弘先生です.山田先生は本当に多趣味で,網膜硝子体がご専門ですが,なぜか東京歯科大学市川総合病院に来てくださったことのある先生です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(74)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 144.網膜細動脈瘤に対する硝子体手術(初級編)

2015年5月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載144144網膜細動脈瘤に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに中高年の硝子体出血の原疾患の一つに網膜細動脈瘤からの破綻性硝子体出血がある.片眼性の硝子体出血で僚眼に目立った眼底変化がみられないときには,裂孔原性硝子体出血と並んで,鑑別診断の一つとして念頭においておくべき疾患である.●網膜細動脈瘤からの破綻性出血の臨床的特徴網膜細動脈瘤では通常,網膜細動脈瘤周囲の網膜下および網膜前両方に出血が生じる.眼底透見可能で網膜下出血が中心窩に及んだ場合には,ガスタンポナーデによる網膜下血腫移動術を施行するのが一般的である.しかし,多量の硝子体出血をきたした場合には硝子体手術の適応となる.●硝子体手術のポイント網膜細動脈瘤の破裂による硝子体出血例は,単純硝子体切除のみで視力改善が得られることが多いため,難易度は比較的低いとされているが,なかにはやや複雑な症例が存在する.本疾患の硝子体手術のポイントは,網膜細動脈瘤周囲の出血がどの深さに存在しているかを的確に同定することである.通常は網膜細動脈瘤に硝子体ゲルが癒着しているので,まずその周囲の硝子体を切除する(図1).筆者の経験では,この癒着はほぼ全例にみられるが,網膜細動脈瘤の破裂に硝子体牽引が関与しているのか,あるいは網膜細動脈瘤破裂の結果として癒着が形成されるのは不明である(図2).ついで,網膜細動脈瘤周囲の網膜前出血を除去するが,内境界膜下血腫になっていることも多く,その場合には内境界膜を.離除去して血腫を吸引する必要がある(図3).出血が厚い図1術中所見(1)まず網膜細動脈瘤周囲の硝子体を切除し,人工的後部硝子体.離を作成する.図2術中所見(2)網膜細動脈瘤部位には通常,硝子体が癒着している.図3術中所見(3)網膜細動脈瘤周囲の網膜前出血を吸引除去する.内境界膜下血腫になっていることも多い.図4術中所見(4)網膜下出血が中心窩に及んでいなければ自然吸収を待つ.と,このときに誤って医原性裂孔を形成することがあるので注意が必要である.網膜下出血は中心窩に及んでいないか,ぎりぎりかかっている程度であれば自然吸収を待つ(図4).中心窩を含む広範囲に網膜下血腫をきたしている症例は比較的まれだが,もしそのような症例に遭遇した場合には,ガスタンポナーデによる血腫移動術を併用するか,意図的裂孔から血腫を除去する.(71)あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156810910-1810/15/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 173.白内障とサーチュイン

2015年5月31日 日曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第173回◆眼科医のための先端医療山下英俊白内障とサーチュイン近藤亜紀・三村達哉・松原正男(東京女子医科大学東医療センター眼科)サーチュインとはサーチュインはヒストン脱アセチル化酵素で,ヒストンとDNAの結合に作用し,遺伝的な調節を行うことで寿命を延ばすと考えられています.ヒトのサーチュインにはSIRT1(silentinformationregulatorT1)からSIRT7まで7種類あり,このなかでSIRT1が細胞老化にかかわる重要な分子です.また,サーチュインのなかで酵母から初めて見つかったSIRT2と構造や機能が類似しているものとしてSIRT1に注目が集まっています.サーチュインの機能不全と加齢疾患が関係しており,悪性腫瘍,2型糖尿病,肥満に伴う代謝性疾患,神経変性,心疾患,環境ストレスに対する反応などとも関連があります.動物実験レベルでは,SIRT1の発現上昇によって白内障,網膜変性症,視神経炎,ぶどう膜炎など,さまざまな眼疾患を防ぐ効果があります.したがってSIRT1は,白内障,加齢黄斑変性症,緑内障患者の視神経変性など,酸化ストレスが引き起こす眼障害が関係する疾患を防ぐ効果がある可能性が示唆されます.SIRT1の眼内局在マウス眼においてSIRT1は角膜,水晶体,虹彩,毛様体,網膜などほぼすべての正常眼構造を構成する細胞核,細胞質に存在しています(図1).角膜では,SIRT1は上皮細胞の核と細胞質,実質細胞と内皮細胞の核に存在します.一方,角膜実質の無細胞部分には存在しませ図1マウス眼におけるSIRT1の局在SIRT1は角膜,水晶体(上皮細胞),虹彩,毛様体,網膜,とほぼすべての眼組織に存在する.角膜では上皮細胞,実質細胞,内皮細胞に存在する.網膜では網膜色素上皮(RPE),外顆粒層(ONL),内顆粒層(INL),神経節細胞層(GCL)に存在する.(文献1,Fig.3を許可を得て転載)(67)あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156770910-1810/15/\100/頁/JCOPY 2.521.510.50SIRTI(μg/ml)y=0.2236x+0.5599R2=0.13582.521.510.50SIRTI(μg/ml)y=0.171x+0.3176R2=0.08832.521.510.50SIRTI(μg/ml)y=0.2236x+0.5599R2=0.13582.521.510.50SIRTI(μg/ml)y=0.171x+0.3176R2=0.08832.521.510.50-0.5術前logMAR視力図2前房水中SIRT1濃度と術前logMAR視力の関係術前視力が低いほど前房水中SIRT1濃度は高い.ん.毛様体では,SIRT1はおもに毛様体突起,毛様体無色素上皮層,毛様体色素上皮層の細胞核に存在しています.成人マウス水晶体では,SIRT1は水晶体.には存在していませんが,水晶体核,水晶体上皮細胞,水晶体線維内には存在しています.マウスの網膜では,SIRT1は網膜色素上皮細胞の核と,脈絡膜血管内皮細胞の細胞質に存在しています.また,insituhybridizationでは網膜外顆粒層,内顆粒層,神経節細胞層にも存在します.ヒト眼において,SIRT1は老人性白内障患者の水晶体上皮細胞中と網膜に存在します.正常ヒト角膜上皮において,SIRT1は50%は認められず,30%はわずかに認め,20%は有意に認めます1).白内障と前房水中SIRT1濃度白内障手術時に前房水を採取してSIRT1濃度を測定し,年齢,性別,全身疾患(高血圧,糖尿病,高脂血症,心疾患,脳血管疾患,抗血栓薬内服の有無),白内障の程度(術前logMAR視力,水晶体厚,核硬度,皮質白内障,後.下混濁,前.下混濁),眼軸長,術前角膜内皮細胞数,術前前房深度との関連性を検討すると,結果は術前logMAR視力と核硬度で正の相関を認めました.つまり,術前視力が低いほど,また核硬度が高いほど前房水中SIRT1濃度は高い,という結果が得られます(図2,3)2).水晶体上皮細胞中でのSIRT1発現率は,白内障を有する患者では,51歳以上のグループのほうが50歳以下のグループより少なく,年齢と負の相関をするという報告があります3).これは,水晶体上皮細胞中のSIRT1の減少が,白内障の程度と患者の年齢に関連する可能性678あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015012345核硬度図3前房水中SIRT1と核硬度の関係核硬度が高いほど前房水中SIRT1濃度は高い.を示唆します.一方,水晶体上皮細胞中SIRT1は年齢とともに減少するが,50歳以上に限定すると,白内障を有する患者では,白内障がない患者よりも増加しているとの報告があります4).まだ結論は定まりませんが,以上より,SIRT1が老人性白内障の形成になんらかのかかわりをもつ可能性が考えられます.レスベラトロールと白内障レスベラトロールはおもにブドウの皮に存在するポリフェノールの一種です.レスベラトロールはSIRT1と相互作用し,その活性を著しく増加させます.ラットの白内障モデルでレスベラトロールはサーチュインを活性化し,PGC-1a(peroxisomeproliferatoractivatedreceptorgammacoactivator-1a)を脱アセチル化させて白内障の形成を抑制します.レスベラトロールを与えられた成人マウスは加齢疾患と白内障形成が著明に減少しました.この結果は,レスベラトロールによってSIRT1が活性化され,白内障形成が抑制されている可能性を示します.現在,すでにSIRT1活性化剤として,レスベラトロールより数千倍の活性をもつ薬剤(SRT1720など)が同定され,糖尿病治療薬などとして開発が進められています5).今後の展望SIRT1は眼加齢を調節し,酸化ストレスから眼組織を守ることが多数の動物実験によって示されています.これらのデータより,SIRT1は眼加齢を防ぐ治療法の魅力的な候補であるといえます.しかし,どの動物実験データがヒトの眼疾患に適応可能かは現段階でははっき(68) りしません.心血管疾患,悪性腫瘍,糖尿病,アルツハイマー病などにおけるSIRT1活性化物質の臨床試験はすでに進められています.眼疾患についても,眼加齢におけるSIRT1の役割をより明らかにし,より多くの臨床試験が行われることで,SIRT1が白内障などを防ぐ治療薬となる可能性があります.文献1)MimuraT,KajiY,NomaHetal:TheroleofSIRT1inocularaging.ExpEyeRes116:17-26,20132)近藤亜紀,三村達哉,松原正男ほか:白内障における前房水中SIRT1濃度.臨床眼科学会学術展示,20143)LinTJ,PengCH,ChiouSHetal:Severityoflensopacity,age,andcorrelationofthelevelofsilentinformationregulatorT1expressioninage-relatedcataract.JCataractRefractSurg37:1270-1274,20114)ZhengT,LuY:ChangesinSIRT1expressionanditsdownstreampathwaysinage-relatedcataractinhumans.CurrEyeRes36:449-455,20115)太田秀隆:長寿遺伝子Sirt1について.日老医誌47:1116,2010■「白内障とサーチュイン」を読んで■今回は近藤亜紀先生,三村達哉先生,松原正男教授ていることになります.なぜ,老化が起きるのか,なにより,遺伝的な調節を行うことで寿命を延ばすサーぜ白内障が起きるのか,生物にとってとても一般的なチュインという酵素のお話です.この酵素は老化と関問いですが,とてもむずかしい問題です.この方面か連していること,酸化ストレスから細胞を守ることらの研究が老化のメカニズム解明の大きなブレイクスで,加齢に伴う疾患を抑制する可能性を秘めた大変魅ルーになる可能性があります.力的な蛋白質です.この蛋白質は2つの意味で本当に2つ目の期待は,レスベラトロールというポリフェ魅力的です.ノールがサーチュインと相互作用し,その活性を著1つ目は,サーチュインがヒストン脱アセチル化酵しく増加させることが解明されているので,疾患治療素で,ヒストンとDNAの結合に作用し遺伝子発現への応用(近藤先生の総説では糖尿病治療薬としてのを調節すること,つまり疾患の病態生理をエピジェネ期待)がすぐ手の届くところにあることです.有効でティックスの面から解明するキーになる可能性があり安全な薬剤が開発されると,その機能を解析することます.遺伝子異常に伴う疾患は現在の進んだ核酸配列でヒトの老化の研究がさらに進み,また新たな治療薬検査により検出することが可能になってきましたが,が開発される可能性が考えられます.近藤先生のご提遺伝子配列のとくに蛋白質に読まれる部分には異常が示になった最先端の研究成果は,眼科疾患の病態と治なく,遺伝子発現を調節する部分が機能異常を起こす療戦略を変えるブレイクスルーになるのではないかと場合,とても検出しにくいものです.サーチュインの考えます.変化が老化,酸化ストレスと関連した疾患になること山形大学眼科山下英俊が解明されていることは,いわば出口がきちんと見え☆☆☆(69)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015679

眼瞼・結膜:アレルギー性結膜炎のエッセンス

2015年5月31日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人佐竹良之5.アレルギー性結膜炎のエッセンス東京歯科大学市川総合病院眼科アレルギー性結膜疾患は,日常診療で診察することが多い眼表面疾患の一つであり,根治することが難しい疾患でもある.治療の中心は点眼薬でのメディカルケアであるが,予防として抗原を回避するセルフケアも非常に重要である.●はじめにアレルギー性結膜疾患は,日常診療で診察する機会も非常に多く,眼表面の炎症にとどまらずQOLの低下を招くことも多々ある.近年,抗原特異的免疫療法が食物アレルギーや耳鼻科領域のスギ花粉症に対する唯一の根治的治療法として臨床応用されているが,眼科領域ではまだ普及していないのが現状である.治療の中心はメディカルケア(薬物療法)となるが,あくまでも対症療法であり,抗原回避などのセルフケアも非常に重要である1).メディカルケア,セルフケアを効果的に行うためには,医師と患者が十分なコミュニケーションをとることが重要となる.●メディカルケア薬物療法を進めるうえで,疾患の病態の把握ならびに点眼薬の特徴を十分に理解し,病態に即した点眼薬を選択することが重要である.1.抗アレルギー薬ヒスタミンH1受容体拮抗薬は,マスト細胞から放出されたヒスタミンがその受容体と結合することを阻害する.効果発現は即効性であり,ヒスタミンにより引き起こされる眼.痒感,充血,浮腫(図1)を主症状とするスギ花粉症(季節性アレルギー性結膜炎)などで第一選択薬となる.メディエーター遊離抑制薬は,マスト細胞の膜安定化作用だけでなく,種々の炎症細胞の組織への集積や活性化も抑制する.ヒスタミンH1受容体拮抗薬とは異なり,その効果発現は緩やかで1週間ほど時間を要することから,花粉飛散開始1,2週間前から始める初期療法2)や,炎症細胞がより病態に関与する春季カタル,アトピー性角結膜炎などでよりその効果を発揮する.2.免疫抑制薬免疫抑制薬は,巨大乳頭増殖(図2)を伴う春季カタルやアトピー性角結膜炎が適応疾患となる.結膜組織に浸潤し,炎症の司令塔であるT細胞の働きを抑制し,その影響下にある炎症細胞の働きを制御することでアレルギー炎症をコントロールする.3.ステロイド薬ステロイド薬は,炎症細胞の結膜組織への浸潤やその図1結膜充血と浮腫(スギ花粉症,季節性アレルギー性結膜炎)図2巨大乳頭増殖(春季カタル)(65)あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156750910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3落屑様角膜上皮障害図4シールド潰瘍活性化の抑制,血管透過性抑制など広汎な抗炎症作用を示す.抗アレルギー点眼薬で効果不十分の場合や,春季カタルやアトピー性角結膜炎で上皮障害(図3,4)を併発するほど瞼結膜の炎症が強い状況で併用する.副作用として眼圧上昇や感染症の誘発,白内障があり,とくに小児や若年者でその頻度が高いので,定期的な診察が必要となる.●セルフケアアレルギー性疾患は,原因抗原との接触の回避や除去を効果的に行うことで発症予防や症状緩和が期待できる.患者自身がセルフケアとして抗原の回避,除去を効果的に行うためには,日常診療の場で医師と患者が十分なコミュニケーションをとり,患者の状況にあった医療情報を提供することが重要である.そこではじめて適切な対応が可能となる.花粉症では,原因植物の花粉飛散時期だけでなく,飛散範囲などその花粉の特徴を理解することが重要である.スギなどの樹木花粉は飛散距離が長く,広範囲に飛散するが,雑草類やイネ科などの花粉は飛散距離が短く,生息地域に限局する.これらを基にして屋外で花粉防止眼鏡やマスクを装用することは,花粉抗原との接触を減らし,症状を軽減するものとして効果的である.一方,ハウスダスト,ダニなど室内抗原に対しては,室内の環境,掃除を年間を通して工夫する必要がある.とくに,夜間に眼.痒感が強く,よく目を擦る場合には,寝具の対策が重要となる.●近未来の治療概念感作時の抗原の侵入経路には議論の余地はあるもの676あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015の,結膜での抗原暴露がアレルギー反応の直接の誘因になっていることは明白である.近年,自然免疫から獲得免疫までの一連の免疫応答の過程で,上皮細胞が抗原侵入の初期段階で重要な役割を担っていることが明らかになっている3).結膜上皮に関連するバリア機能には,涙液やムチンによる機能的バリアと,結膜上皮そのものによる物理(構造)的バリアがある.アレルギー炎症が発症していない時期でも,結膜上皮の細胞間接着機能が脆弱であったり4),杯細胞数が減少しているとの報告5)もあり,臨床的に正常と判断される段階でも組織学的には障害されていることを示している.この潜在的な結膜上皮障害が結膜のバリア機能を低下させ,抗原の侵入を容易にすることで,アレルギー反応の誘因となる可能性も考えられる.結膜上皮を常に健全な状態にしておくことは,アレルギー性結膜疾患などの眼表面疾患の発症予防に繋がるものとして期待される.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:833-870,20102)高村悦子:アレルギー性結膜炎の治療・初期治療,季節前投与.アレルギーの臨床14:650-654,19943)CayrolC,GirardJP:IL-33:analarmincytokinewithcrucialrolesininnateimmunity,inflammationandallergy.CurrOpinImmunol31:31-37,20144)HughesJL,LackiePM,WilsonSJetal:Reducedstructuralproteinsintheconjunctivalepitheliuminallergiceyedisease.Allergy61:1268-1274,20065)DogruM,Asano-KatoN,TanakaMetal:OcularsurfaceandMUC5ACalterationsinatopicpatientswithcornealshieldulcers.CurrEyeRes30:897-908,2005(66)

抗VEGF治療:臨床におけるベバシズマブ(アバスチン®

2015年5月31日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二16.臨床におけるベバシズマブ木村雅代名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学(アバスチンR)VEGFは血管新生や血管透過性亢進に関与するサイトカインであり,現在,加齢黄斑変性,近視性脈絡膜新生血管,網膜静脈閉塞症および糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫などに抗VEGF薬が臨床応用されている.これまではベバシズマブがoff-labelで使用されていたが,ラニビズマブおよびアフリベルセプトの登場と適応拡大により,今後はベバシズマブを使用すべき症例は限られる.ベバシズマブを使用する最大の利点は,患者の経済的負担が軽減されることである.その一方,眼科的使用としては認可されていない薬剤であるため,使用に際しては各施設での倫理委員会での承認と十分なインフォームド・コンセントが必要であり,また眼内炎や全身合併症に十分に注意が必要である.加齢黄斑変性加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対して,2009年にラニビズマブ(ルセンティスR)が国内でも認可され,AMDの治療の主体はベバシズマブ(アバスチンR)からラニビズマブへと移ったが,承認薬の薬価が高額であるため,施設によってはベバシズマブのoff-labelな使用は継続されている.米国では保険制度の違いもあって,低所得層にはおもにベバシズマブが用いられている.このような背景から,米国NationalEyeInstituteの助成により医師主導の臨床研究であるComparisonofAMDTreatmentsTrials(CATT)studyが実施され,AMDに対するラニビズマブとベバシズマブの比較および毎月投与と必要時(asneeded)投与の比較が行われた.結果は,毎月投与のほうが,必要時投与よりもわずかに改善した視力の維持に優れていた.薬剤の比較では,視力改善においては薬剤間に有意差は認めなかった.ただ,必要時投与での注射回数はベバシズマブのほうが多く,全身的な副作用もベバシズマブのほうが多かった1).以上のように,AMDに対してベバシズマブは費用対効果に優れる治療薬であるが,眼内炎の集団発生の報告もあり,眼内炎や脳血管障害などの全身合併症のリスクを念頭において使用すべきであろう.黄斑浮腫網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)に伴う黄斑浮腫や糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対しても,ラニビズマブやアフリベルセプト(アイリーアR)が適応拡大されてきて,治療の選択肢が増えたことは喜ばしいが,DMEなどではますます医療(63)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY経済の圧迫が懸念される.RVOに伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブとラニビズマブの後ろ向き比較研究では,視力改善および網膜厚減少に有意差はなく,ベバシズマブからラニビズマブへの変更群では,変更後の視力改善および網膜厚減少に有意差は認めないと報告されている2).また,アフリベルセプトはラニビズマブやベバシズマブより有効である可能性がある.DMEに対してもベバシズマブとラニビズマブの効果は同等であるが,ベバシズマブのほうが少ない投与回数ですむという報告もある3).最近では,アフリベルセプトのほうが平均視力の改善効果に優れる可能性が示されている.増殖糖尿病網膜症と血管新生緑内障黄斑浮腫のない増殖糖尿病網膜症や血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に対して抗VEGF薬で承認されたものはなく,ベバシズマブの適応外使用は意義をもつ.増殖糖尿病網膜症に対しては,手術の数日前のベバシズマブ硝子体内注射により手術時の出血を減少させて増殖膜処理を容易にし,術後の再出血も減らすことができる4).しかし,抗VEGF薬は増殖膜の線維化を促進し,牽引性網膜.離を増悪させると報告されており,その適応と注射のタイミングに関して慎重な判断が必要である.NVGに対する線維柱帯切除術は,術中・術後の出血や炎症の遷延などにより術後成績は良好とはいえない.ベバシズマブ硝子体内注射は,隅角新生血管を強力かつ速やかに退縮させ,汎網膜光凝固を完成させれば手術しなくても眼圧下降が得られる場合がある5).また,線維柱帯切除術前にベバシズマブ硝子体内注射を行うことにあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015673 治療前治療後1カ月治療後1.5年治療前治療後1カ月治療後1.5年図1網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対しベバシズマブが著効した1例上段:初診時.矯正視力0.06.RVOに伴う黄斑浮腫を認め,ベバシズマブ硝子体内注射を施行した.中段:1カ月後.矯正視力0.6.黄斑浮腫は軽快した.下段:初診時から1.5年後.矯正視力1.2.網膜無灌流域に網膜光凝固術および必要時投与でベバシズマブ硝子体内注射を合計4回施行し,最終投与から10カ月後,黄斑浮腫の再発を認めない.(金沢大学井尻茂之先生のご厚意による)より,術後の前房出血の軽減や術後の濾過胞生存の向上も報告されている6).しかし,眼虚血症候群によるNVGに対するベバシズマブ硝子体内注射または前房内注射によって,網膜中心動脈閉塞症を併発したという報告があり,ベバシズマブ使用に際し,リスク・ベネフィットを十分考慮する必要がある7).未熟児網膜症未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)の発症にもVEGFが重要な役割を果たし,その治療法は網膜光凝固術が一般的である.しかし,網膜光凝固術に伴う全身麻酔の負担や,黄斑近くまで網膜光凝固が必要な症例での将来的な視機能への懸念など,多くの問題が存在する.そこで,ベバシズマブ硝子体内注射の併用もしくは単独療法が注目されている.2011年に報告されたBevacizumabEliminatestheAngiogenicThreatforROP(BEAT-ROP)studyでは,ベバシズマブ硝子体内注射はzoneI症例には増殖組織の再発が有意に少なかったが,zoneII後極症例では網膜光凝固術と同等であった8).未熟児の発育や網膜への影響など,全身および局所的674あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015ABCD図2増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対しベバシズマブの硝子体内注射を施行した1例投与前(A,B),虹彩ルベオーシスを認める.ベバシズマブ投与後(10日後:C,D),速やかに新生血管の消退を得た.その後,汎網膜光凝固術を施行した.(文献5より引用)な副作用に関して長期的な観察が必要であり,また適応外治療となるため慎重な判断が求められるが,今後有用な治療法となる可能性があると思われる.文献1)MartinDF,MaguireMG,FineSLetal;ComparisonofAge-relatedMacularDegenerationTreatmentsTrials(CATT)ResearchGroup:Ranibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularage-relatedmaculardegeneration:two-yearresults.Ophthalmology119:13881398,20122)YuanA,AhmadBU,XuDetal:Comparisonofintravitrealranibizumabandbevacizumabforthetreatmentofmacularedemasecondarytoretinalveinocclusion.IntJOphthalmol7:86-91,20143)EkinciM,CeylanE,CakiciOetal:Treatmentofmacularedemaindiabeticretinopathy:comparisonoftheefficacyofintravitrealbevacizumabandranibizumabinjections.ExpertRevOphthalmol9:139-143,20144)SharmaS,MahmoudT:Surgicalmanagementofproliferativediabeticretinopathy.OphthalmicSurgLasersImagingRetina45:188-193,20145)木村雅代,東出朋巳:続発緑内障.眼科54(臨増):13181324,20126)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,20107)HigashideT,MurotaniE,SaitoYetal:Adverseeventsassociatedwithintraocularinjectionsofbevacizumabineyeswithneovascularglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol250:603-610,20128)Mintz-HittnerHA,KennedyKA,ChuangAZ;BEATROPCooperativeGroup:Efficacyofintravitrealbevacizumabforstage3+retinopathyofprematurity.NEnglJMed364:603-615,2011(64)

緑内障:吉と出るか? 凶と出るか? エクスプレス手術

2015年5月31日 日曜日

●連載179緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也179.吉と出るか?凶と出るか?丸山勝彦東京医科大学医学部医学科眼科学分野エクスプレス手術アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイス(以下,エクスプレス)を用いた緑内障チューブシャント手術(以下,エクスプレス手術)の適応は線維柱帯切除術と一部重複する.本稿ではエクスプレス手術を適応したことが吉と出た症例と凶と出た症例を供覧し,同手術の実態を考えてみたい.●眼球虚脱を生じなかった無水晶体眼水晶体.内摘出術後無水晶体眼,続発緑内障の症例.眼球虚脱に伴う硝子体脱出や駆逐性出血を防ぐためエクスプレス手術を行った.強膜弁にあらかじめ10-0ナイロン糸を通糸し,エクスプレス挿入後,ただちに強膜弁縫合を行ったところ(図1),眼球虚脱は生じず,合併症なく手術を終了した.●ニードリング後に駆逐性出血をきたした症例原発閉塞隅角緑内障の症例.白内障手術時に核落下し,硝子体手術,眼内レンズ縫着が行われている.その後高眼圧となりエクスプレス手術施行.濾過胞不全となったためニードリングを行い,眼圧が急激に下降した.同日の夜,激しい眼痛が生じ再診,駆逐性出血を生じていた(図2).●出血や過度な炎症反応が生じなかった血管新生緑内障症例増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障,硝子体術後図1無水晶体眼に対するエクスプレス手術強膜弁にあらかじめ10-0ナイロン糸を通糸し,エクスプレス挿入後,ただちに強膜弁縫合して眼球虚脱を予防した.(61)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY眼内レンズ挿入眼の症例.出血や術後炎症を防ぐためエクスプレス手術を行った.術後,前房出血や過度な炎症反応はなく(図3),型通りの術後管理が可能であった.●エクスプレス手術でも前房出血を生じた症例原発開放隅角緑内障,眼内レンズ挿入眼の症例.エクスプレス手術を行ったところ,術中に前房出血を生じ(図4),凝血塊による管腔閉塞のため術後に眼圧が上昇した.ab図2ニードリング後に生じた駆逐性出血a:前眼部写真.b:超音波Bモード.あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015671 図3血管新生緑内障に対するエクスプレス手術後1日目の前眼部写真前房出血や過度な炎症反応は認めない.図4エクスプレス手術中に前房出血を生じた症例凝血塊による管腔閉塞のため,術後に眼圧が上昇した.●レーザー照射で虹彩嵌頓を解除した症例原発開放隅角緑内障に対する白内障とエクスプレス手術の同時手術後の症例.虹彩がエクスプレスに陥頓して高度な眼圧上昇が生じたが(図5a),レーザー照射で解除した(図5b).●管腔内閉塞のためエクスプレスを摘出した症例落屑緑内障に対する白内障とエクスプレス手術の同時手術1年後,濾過胞不全を生じた.ニードリングやエクスプレス管腔へのYAGレーザー照射を行ったが奏効せず,観血的濾過胞再建術を施行した.強膜弁を開放してエクスプレスのプレート部を露出したが濾過は認めず(図6),管腔内閉塞が示唆された.●おわりにエクスプレス手術のメリットを生かして同手術を適応してもすべての症例に有効なわけではなく,管腔閉塞が672あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015ab図5白内障とエクスプレス手術の同時手術後に生じた虹彩陥頓a:高度な眼圧上昇を生じた.b:レーザー照射後.図6エクスプレス術後に管腔内閉塞が示唆された症例強膜弁を開放してエクスプレスのプレート部を露出したが,濾過は認めなかった.解除できない場合にはエクスプレスの摘出を余儀なくされる.また,エクスプレスの診療報酬点数は線維柱帯切除術より約1万点高いことからも,同手術の適切な適応決定,患者への説明は必須と考える.(62)

屈折矯正手術:角膜移植後のPhakic IOL

2015年5月31日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載180大橋裕一坪田一男180.角膜移植後のPhakicIOL福井正樹南青山アイクリニック,国立病院機構東京医療センター角膜移植術後の屈折変化・異常はしばしば角膜移植術後に起こる問題の一つである.角膜移植後の屈折異常への対応法はいくつかあるが,完全に問題を解決する方法は確立されていない.角膜移植後の屈折矯正法の一つとしてphakicIOLがあるので紹介する.●はじめに角膜移植は1905年にEduardZirmが初めて行って以来の歴史があり,もともとは角膜の透明性の改善を目的に行われた.しかし,術式の向上や術式の多様性に伴い,角膜移植後の屈折精度も求められるようになってきた.角膜移植後に矯正視力が良くても,不同視や高度な近視化や遠視化は日常生活上でのqualityofvision(QOV)を低いものとしてしまう.これらを解決するために,術式の選択,縫合糸での調節,眼鏡矯正,コンタクトレンズ矯正,白内障手術・眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入による矯正,乱視矯正角膜切開術やcompressionsuture,エキシマレーザーによる屈折矯正手術などがある1)が,それぞれにメリットとデメリットがある.●角膜移植後の屈折・乱視矯正法術式の選択では,角膜内皮移植術であるDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),non-Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(nDSAEK),Descemt’smem-brane(DMEK)はgraftが縫合不要である点から,角膜の屈折を大きえ変えることなく手術を行える方法ということで大きな意義をもつ手術である.しかし,lamellarkeratoplastyやdeepanteriorkeratoplastyなど縫合を要する角膜移植では屈折や乱視の問題が残っている.縫合糸による屈折・乱視調節も理論的には可能である.術中に縫合を強く行えば遠視化し,緩く行えば近視化する.また,ネビアスライトRやケラトリングを用いて術終了時に乱視を調節して終わることで軽減化を図っている.しかし,実際には術後の屈折は予想できず,乱視も大きく出てしまうこともしばしばである.端端縫合糸を術後に抜糸したり縫合を追加したり,連続縫合糸をずらして乱視を調節することで術後にある程度の乱視調節も行うことができるが,定量的に行うこと(59)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYはできない.眼鏡矯正は不同視や乱視が強く,完全矯正眼鏡が作製困難になることがある.コンタクトレンズは矯正力が強いが,ときにフィッティングが悪かったり,コンタクトレンズ不耐症に処方しづらかったりする.角膜移植後の白内障手術の際のIOLでの屈折の調整は実際によく行う方法である.しかし,前提として白内障があること,また角膜移植術が再移植の必要になりうる術式であること,術中の屈折測定検査が一般的ではないことから,toricIOLを挿入するかは患者の状態を考慮しなくてはならない.Photorefractivekeratectomy(PRK)やlaser-assistedinsitukeratomileusis(LASIK)といったエキシマレーザーによる屈折矯正手術は,角膜移植後に可能な屈折矯正法として知られている.しかし,角膜厚による制限や角膜収差の増加,経年的な戻りなど短所も有する.●有水晶体IOL有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:phakicIOL)は屈折矯正幅が広いこと,角膜収差に影響がないことから,LASIKなどの屈折矯正手術の適応にならない場合にも適応となりえる屈折矯正法である2).PhakicIOLは前房型と後房型に分類され,さらに前房型は隅角支持型と虹彩支持型に分類される.筆者の施設では隅角支持型を多く使用してきたことから,角膜移植術後の屈折異常に対し,他の屈折矯正法で治療が困難,抵抗性であると判断した際に虹彩支持型phakicIOLを行った症例があるので紹介する.当院では平成20年12月~平成22年12月の2年間に6例6眼(男性4例4眼,女性2例2眼)の虹彩支持型phakicIOLの挿入を行った(図1,表1).原疾患は全員が円錐角膜であり,5例が全層角膜移植,1例が深層層状角膜移植を行っていた.PhakicIOL術前の平均矯正視力がlogMAR視力で.0.06±0.13,少数視力で0.87と良好の視力であったが,裸眼視力はlogMAR視あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015669 abab図1角膜移植術後のPhakicIOL(表1の症例No.5)a:円錐角膜に対し全層角膜移植後,photorefractivekeratectomy(PRK)を2回行ったが,屈折異常の戻りにより再度屈折矯正手術を希望された.b:PhakicIOL術後.前房内に虹彩支持型phakicIOLが挿入されている.表1角膜移植後にphakicIOLを行った症例症例年齢性別手術年月phakicIOL原疾患移植術式裸眼視力矯正視力SphCylAxsS.E.123男H20.12ArtisanToric円錐角膜右)PKP後0.051.01.01.0.7.000.00.6.250.001800.10.130232女H21.2ArtisanToric円錐角膜右)PKP後0.601.01.21.2+0.750.00.7.00.1.25180100.2.75.0.625332男H21.4Artiflex円錐角膜右)PKP後0.050.80.81.2.13.500.50.2.50.1.00170180.14.750417男H21.7ArtisanToric円錐角膜左)PKP後0.30.50.50.9+3.750.75.6.00.6.00175170+0.75.2.25539男H22.12ArtisanToric円錐角膜右)PKP後0.031.00.91.0.11.000.00.4.500.00700.13.250641女H22.12Artiflex円錐角膜左)DALK後0.21.01.01.0.2.500.00.1.000.00400.3.000PKP:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植,Sph:球面度数,Cyl:乱視度数,Axs:乱視軸(°),S.E.:等価球面度数,■術前データ,□術後データ.術前のデータは手術直前のデータを,術後のデータは術後の最高矯正視力時のデータを用いた.力で.0.93±0.52,少数視力で0.12であった.術後は平均矯正視力がlogMAR視力で+0.02±0.05,少数視力で1.0と有意差はなかったが,裸眼視力ではlogMAR視力で.0.07±0.12,少数視力で0.86と有意差をもって向上していた(Mann-WhitneyUtest).それを裏付けるかのように,phakicIOL術前後で等価球面度数,乱視度数が改善していた.●角膜移植術後の有水晶体IOLの考察当院で行った角膜移植術後のphakicIOLでは裸眼視力の向上が明らかであり,非常に良い成績であった.今回の症例はすべて円錐角膜が原疾患であり,円錐角膜は一般的に予後が良いが,移植後の屈折異常が強い可能性がある.また,年齢が比較的若いことも裸眼視力・矯正視力が出やすかった理由の一つである可能性がある.また,今回のデータは術後の最高視力をもとに比較してい670あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015る.長期の安定性など今後検討すべき点がある.しかし,phakicIOLであれば角膜移植片に侵襲を与えることがなく,エキシマレーザー後のような屈折の戻りも理論的には起きないと考えられる.また,全層角膜再移植の際にもphakicIOLの取り出しが容易に行えるのも利点となる.また,当院では虹彩支持型のphakicIOLを行ったが,今後は後房型レンズも適応となりえる.文献1)FaresU,SarhanAR,DuaHS:Managementofpost-keratoplastyastigmatism.JCataractRefractSurg38:20292039,20122)MoshirfarM,BarsamCA,ParkerJW:ImplantationofanArtisanphakicintraocularlensforthecorrectionofhighmyopiaafterpenetratingkeratoplasty.JCataractRefractSurg30:1578-1581,2004(60)

眼内レンズ:眼内レンズ強膜内固定術

2015年5月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋343.眼内レンズ強膜内固定術秋元正行大阪赤十字病院眼科カテーテル針の内針と外筒の間に眼内レンズハプティックを固定して導出する強膜内固定術(Lock&Lead法)を考案した.ハプティックスの強膜内トンネル埋没方法についても,ガイド針を用いることでより細く長いトンネル内に挿入できる.特別な器具を必要としないため,どこでも対応できるなどの特長がある.●はじめに2007年にGaborとPavlidisによって眼内レンズ強膜内固定術が発表1)されてから,縫着術に代わる手術方法として注目され,国内でも太田らのY-fixation2),山根らのDouble-Needle法3)などさらなる変法がつぎつぎと報告されているが,専用鉗子などの器具が必要であったり,熟練した介助者のアシストが必要だったりする.また,縫合糸などの支えのない眼内レンズは,術中に硝子体内落下のリスクがあった.筆者らは従来の強膜内固定術には足りない縫着術の長所である対面通針による単純な眼内操作,縫合糸による眼内レンズの落下防止について再考し,それらを強膜内固定術にも導入するために,カテーテル針の内針と外筒の間に眼内レンズハプティックを固定して導出する本法(Lock&Lead法)を考案した4~6).●方法1.用意するもの24Gカテーテル針(Jelco4053,SmithsMedical,Dublin,OH):2本30G肉薄針(TSK社)または27G針:2本22G針3mmスリットナイフステリストリップカリパー,縫合鑷子,持針器など眼内レンズは3ピースタイプが適している.本法の利点を最大限に生かすためには,PVDFなど柔らかい材質のハプティックスを有する眼内レンズが使いやすく,筆者らはNX70(参天)を第一選択としている.2.カテーテル針の準備スリットナイフを彫刻刀のように使用して,外筒に横(57)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY穴を作製して曲げる.横穴の位置はスリットナイフの横幅全幅または中央までを目安に,先行ハプティック用は先端から3mmの位置,後行ハプティック用は先端から1.5mmの位置としている.3.強膜穿刺部位のデザイン強角膜創が12時として,4時-10時,角膜輪部から1.5mm後方に,輪部と平行方向に22G針で強膜を穿刺する.4.眼内レンズの準備眼内レンズをインジェクター先端ぎりぎり,先行ハプティックが解放されるまで押し込む.5.先行ハプティックの処理(IOL挿入まで)先行ハプティック用カテーテル針を,左強膜穿刺部位より刺入.強角膜創へ穿通させる.インジェクターにセットした眼内レンズの先行ハプティックをカテーテル針外筒の先端から挿入し,先行ハプティックを固定する.インジェクターの先端を差し込み眼内レンズ光学部を挿入.カテーテル針が先行ハプティックを固定しているため,眼内レンズ落下を防止できる(図1).6.後行ハプティックの処理4時に作製した角膜ポートから後行ハプティック用カテーテル針を刺入し,強角膜創へ穿通.後行ハプティックを横穴からカテーテル針先端に向かって挿入し,固定する(図2).22G針を10時の強膜穿刺部位から瞳孔下まで刺入して,対面通針にてカテーテル針と後行ハプティックを眼外へ導出.先行ハプティックも眼外へ導出し,カテーテル針を緩めて固定をはずす.7.ハプティックの埋没先端から4mm程度に曲げた肉薄30G針または27G針を強膜穿刺創から反時計回りに穿刺して強膜トンネルを作製し,先端は強膜外へ露出させる.1本目の針をガイドに2本目の針を対面通針する(図3).2本目をガイあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015667 図1先行ハプティックの処理カテーテル針内針と外筒の間に眼内レンズハプティックが強固に固定されている.図3ハプティックの埋没①肉薄30G針を強膜に対面通針することで,強膜トンネルを作成しながら,ハプティック挿入のガイドとして留置する.ドにハプティックを強膜トンネル内に挿入する(図4).●まとめ眼内レンズの偏位や傾斜由来の乱視は,他の強膜内固定術と同様に同一術者の縫着術と比べて良好であった.本術式は介助者による積極的介入がなくとも施術可能である,強膜弁を作製せず,縫合糸も使用しないため,習熟すると比較的短時間に手術を完遂できる,特別な器具を必要としないため,多くの手術室においてすぐに対応できる,などの特長があり,数ある強膜内固定術変法の中の選択肢の一つとなりうると考える.一方で,カテーテル針は加工が必要であり,その外径は22Gと他の方法と比べてやや太い.また,太さの近い2本の針を用いた対面通針は,縫着術の対面通針と異なり,一定の習練が必要である.現在,これらの問題を解決する新しい用具を開発中である.図2後行ハプティックの処理眼内レンズ先行ハプティックは眼内でカテーテル針に支えられている.後行ハプティックもカテーテル針に固定して挿入する.図4ハプティックの埋没②留置した2本目の針をガイドに,ハプティックスを強膜内に挿入する.文献1)GaborSG,PavlidisMM:Suturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlensfixation.JCataractRefractSurg33:1851-1854,20072)OhtaT,ToshidaH,MurakamiA:Simplifiedandsafemethodofsuturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlensfixation:Y-fixationtechnique.JCataractRefractSurg40:2-7,20143)YamaneS,InoueM,ArakawaAetal:Sutureless27-gaugeneedle-guidedintrascleralintraocularlensimplantationwithlamellarscleraldissection.Ophthalmology121:61-66,20144)AkimotoM,TaguchiH,TakahashiT:Usingcatheterneedlestodeliveranintraocularlensforintrascleralfixation.JCataractRefractSurg40:179-183,20145)AkimotoM,TaguchiH,TakahashiT:Reply.JCataractRefractSurg40:854-855,20146)AkimotoM,TaguchiH,TakayamaKetal:Intrascleralfixationtechniqueusingcatheterneedlesand30-gaugeultrathinneedles:lock-andleadtechnique.JCataractRefractSurg41:257-261,2015

コンタクトレンズ:患者指導1(レンズ取り扱い,装用時間,装用期間)

2015年5月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156650910-1810/15/\100/頁/JCOPYはじめに初めてコンタクトレンズ(CL)を使用する患者に対しては,レンズの取り扱い方法,装用時間および装用期間について説明する必要がある.レンズの種類によって内容は異なるが,最初にしっかり指導しておくことが重要である.●レンズ取り扱いの指導①―レンズに触れる前にまず,爪が伸びていてレンズの取り扱いに支障をきたすようなら,用意した爪切りを用いてその場でご自身で切っていただく.その後,レンズケースを開封する.そして,石鹸でしっかり手を洗う.針谷1)は,手洗い方法として,①流水ですすぐ,②石鹸を泡立てる,③手の甲をこすり洗いする,④指先を洗う,⑤指の間を洗う,⑥親指と手のひらをねじり洗いする,⑦手首を洗う,⑧流水ですすぐ,ということを順に示している.この時,CLに触れる指はとくに念入りに洗う.⑧の後で手を拭くとき,CLに触れる指と手のひらの一部は拭かずに自然乾燥のほうが望ましいと考える.ハードコンタクトレンズ(HCL)には水道水が使用可能であるが,ソフトコンタクトレンズ(SCL)には水道水が使用できないことを説明する.SCLでは,レンズの中に水道水が入り込んでしまうことなど,水道水を使用できない理由も説明(55)するとよい.水場は常に清潔に保ち,排水口には図1のような蓋をしておくと便利である.●レンズ取り扱いの指導②―レンズに触れるHCLは,注文すると保存液の中に入れて送られてくるものもあるが,ドライの状態で送られてきたHCLは,すぐに保存液につけて置いておくほうがよい.ドライの状態のままで保存しておき装着すると,レンズ表面の水濡れ性が悪くなっていることがある.ホルダーにはめたまますすぎを行い,前述のように,爪切りと手洗いを行って,レンズを取り出す.SCLの場合は,HCLのときと同様に爪切りと石鹸での手洗いを行ってから,ケースからトライアルレンズを取り出す(手洗いの前にケースの蓋は開けておく).その時,爪を立てずに指の腹で行うことが重要である.手のひらの上に液とともに出してもよい.取り出したレンズを指の腹に載せ,表と裏を確認する.レンズのエッジが図2aのようにお椀状になっていれば正しく,図2bのようにエッジが反り返るようであれば逆である.●レンズ取り扱いの指導③―レンズの装着の仕方指先にレンズを載せ,表裏(SCLの場合)とレンズに問題がないかを確認後,上眼瞼と下眼瞼を大きく開いて角膜にレンズを装着させる.レンズが目の前に近づくと自然に閉瞼してしまう人がいるが,鏡を使ってしっかり自分の目を見て確実にレンズが載るまで閉瞼しないようコンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一提供12.患者指導1(レンズ取り扱い,装用時間,装用期間)宮本裕子アイアイ眼科医院図1排水口の蓋の例排水口に蓋(→)をして,レンズが流れ出ないようにする.ab図2SCLの表裏の確認a:表裏が正しい状態.b:裏返しの状態.あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156650910-1810/15/\100/頁/JCOPYはじめに初めてコンタクトレンズ(CL)を使用する患者に対しては,レンズの取り扱い方法,装用時間および装用期間について説明する必要がある.レンズの種類によって内容は異なるが,最初にしっかり指導しておくことが重要である.●レンズ取り扱いの指導①―レンズに触れる前にまず,爪が伸びていてレンズの取り扱いに支障をきたすようなら,用意した爪切りを用いてその場でご自身で切っていただく.その後,レンズケースを開封する.そして,石鹸でしっかり手を洗う.針谷1)は,手洗い方法として,①流水ですすぐ,②石鹸を泡立てる,③手の甲をこすり洗いする,④指先を洗う,⑤指の間を洗う,⑥親指と手のひらをねじり洗いする,⑦手首を洗う,⑧流水ですすぐ,ということを順に示している.この時,CLに触れる指はとくに念入りに洗う.⑧の後で手を拭くとき,CLに触れる指と手のひらの一部は拭かずに自然乾燥のほうが望ましいと考える.ハードコンタクトレンズ(HCL)には水道水が使用可能であるが,ソフトコンタクトレンズ(SCL)には水道水が使用できないことを説明する.SCLでは,レンズの中に水道水が入り込んでしまうことなど,水道水を使用できない理由も説明(55)するとよい.水場は常に清潔に保ち,排水口には図1のような蓋をしておくと便利である.●レンズ取り扱いの指導②―レンズに触れるHCLは,注文すると保存液の中に入れて送られてくるものもあるが,ドライの状態で送られてきたHCLは,すぐに保存液につけて置いておくほうがよい.ドライの状態のままで保存しておき装着すると,レンズ表面の水濡れ性が悪くなっていることがある.ホルダーにはめたまますすぎを行い,前述のように,爪切りと手洗いを行って,レンズを取り出す.SCLの場合は,HCLのときと同様に爪切りと石鹸での手洗いを行ってから,ケースからトライアルレンズを取り出す(手洗いの前にケースの蓋は開けておく).その時,爪を立てずに指の腹で行うことが重要である.手のひらの上に液とともに出してもよい.取り出したレンズを指の腹に載せ,表と裏を確認する.レンズのエッジが図2aのようにお椀状になっていれば正しく,図2bのようにエッジが反り返るようであれば逆である.●レンズ取り扱いの指導③―レンズの装着の仕方指先にレンズを載せ,表裏(SCLの場合)とレンズに問題がないかを確認後,上眼瞼と下眼瞼を大きく開いて角膜にレンズを装着させる.レンズが目の前に近づくと自然に閉瞼してしまう人がいるが,鏡を使ってしっかり自分の目を見て確実にレンズが載るまで閉瞼しないようコンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一提供12.患者指導1(レンズ取り扱い,装用時間,装用期間)宮本裕子アイアイ眼科医院図1排水口の蓋の例排水口に蓋(→)をして,レンズが流れ出ないようにする.ab図2SCLの表裏の確認a:表裏が正しい状態.b:裏返しの状態. 666あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(00)にして行う.図3のように片手で上眼瞼を上げ,レンズを載せたほうの手の他の指で下眼瞼を下げながら装着してもよいし,反対の手で上下の眼瞼を開いてもよい.●レンズ取り扱いの指導④―レンズのはずし方HCLの場合は図4aのようにして,目尻側を外方向に引っ張って上下の眼瞼でレンズを挟み込んではずす.両手で各上下の眼瞼を押して,レンズの一方を浮かしてはずす方法もある.レンズが飛び出てなくさないように,手のひらで受け止めるようにする.SCLの場合は,図4bのようにレンズの下方をつまんではずす.最近は表面が滑りやすいSCLもあるので,はずしにくい場合はレンズを下方にずらしてはずすとよい.●装用時間の指導装用時間は,最初は4~6時間くらいから開始し,毎日1~2時間ずつ延長して必要な時間だけ装用するように指導する.必要以上に装用時間を延ばすことはしない.●装用(使用)期間の指導現在処方可能なHCLの装用期間は製品の寿命が来るまでであるが,その期間は使用者によって多少の差がある.通常,2年くらいでキズや汚れが付きやすくなってくるので,新しいレンズに変更する必要性が出てくる.レンズによっては研磨などの処置によってそれ以上の期間使用可能な場合もあるので,定期検査を受け,指示に従うように伝える.また,オルソケラトロジーレンズの場合はデザインが複雑で汚れが付きやすいので,1年に1回くらいの割合で新しいレンズに変更するほうが望ましいと考える.使い捨てSCLは一度はずしたら二度と装着できないものであることや,従来型のSCLは寿命が1~2年であるが,頻回交換あるいは定期交換レンズは,最高その期間まで再使用可能という意味であることを説明する.定期検査のときに,装用中のレンズが何日目かを確認し,汚れの強い場合はその期間より早く交換する必要があることも説明する.おわりにレンズの取り扱いについては,写真や図を見せながら説明したほうがわかりやすいので,各メーカーが作成した図などを活用するとよい.文献1)針谷明美:装用指導とレンズケアソフトコンタクトレンズ.眼科プラクティス27標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p91-94,文光堂,2009ZS942図3SCLの装着の仕方ab図4CLのはずし方a:HCLの例.b:SCLの例.あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(00)にして行う.図3のように片手で上眼瞼を上げ,レンズを載せたほうの手の他の指で下眼瞼を下げながら装着してもよいし,反対の手で上下の眼瞼を開いてもよい.●レンズ取り扱いの指導④―レンズのはずし方HCLの場合は図4aのようにして,目尻側を外方向に引っ張って上下の眼瞼でレンズを挟み込んではずす.両手で各上下の眼瞼を押して,レンズの一方を浮かしてはずす方法もある.レンズが飛び出てなくさないように,手のひらで受け止めるようにする.SCLの場合は,図4bのようにレンズの下方をつまんではずす.最近は表面が滑りやすいSCLもあるので,はずしにくい場合はレンズを下方にずらしてはずすとよい.●装用時間の指導装用時間は,最初は4~6時間くらいから開始し,毎日1~2時間ずつ延長して必要な時間だけ装用するように指導する.必要以上に装用時間を延ばすことはしない.●装用(使用)期間の指導現在処方可能なHCLの装用期間は製品の寿命が来るまでであるが,その期間は使用者によって多少の差がある.通常,2年くらいでキズや汚れが付きやすくなってくるので,新しいレンズに変更する必要性が出てくる.レンズによっては研磨などの処置によってそれ以上の期間使用可能な場合もあるので,定期検査を受け,指示に従うように伝える.また,オルソケラトロジーレンズの場合はデザインが複雑で汚れが付きやすいので,1年に1回くらいの割合で新しいレンズに変更するほうが望ましいと考える.使い捨てSCLは一度はずしたら二度と装着できないものであることや,従来型のSCLは寿命が1~2年であるが,頻回交換あるいは定期交換レンズは,最高その期間まで再使用可能という意味であることを説明する.定期検査のときに,装用中のレンズが何日目かを確認し,汚れの強い場合はその期間より早く交換する必要があることも説明する.おわりにレンズの取り扱いについては,写真や図を見せながら説明したほうがわかりやすいので,各メーカーが作成した図などを活用するとよい.文献1)針谷明美:装用指導とレンズケアソフトコンタクトレンズ.眼科プラクティス27標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p91-94,文光堂,2009ZS942図3SCLの装着の仕方ab図4CLのはずし方a:HCLの例.b:SCLの例.

写真:小児の淋菌性結膜炎

2015年5月31日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦372.小児の淋菌性結膜炎加藤久美子三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学図2図1のシェーマ①白色膿性眼脂②瞼結膜の充血と浮腫図1初診時の前眼部所見結膜.内に黄白色の眼脂が認められる.結膜の発赤,腫脹が著明である.図3初診時に撮影した眼窩CT右眼周囲の軟部組織の密度上昇を認めた.図4眼脂の塗抹検鏡所見(グラム染色)比較的大型のグラム陰性双球菌で,ソラマメ状あるいは腎臓状の形をしており,淋菌感染症と考えられた.(53)あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156630910-1810/15/\100/頁/JCOPY 淋菌性結膜炎は,産道感染による新生児膿漏眼と,淋菌感染者との性行為を介して発症する成人型に分類される.成人型は,以前は20~30代の男性に多かったが,近年では小児や老人での発症も報告されている1,2).淋菌は環境の変化に弱い菌で,患者の粘膜から離れると数時間で感染性を失い,日光や乾燥,温度の変化,消毒剤により簡単に死滅する.そのため,通常の接触では感染は起きにくく,主として性行為を介して感染するとされる.小児の場合,家族内での感染が第一に考えられるが,保育園や小学校,スイミングスクールなどで他人から手指やタオルなどを介した感染の可能性も考えられている3).淋菌性結膜炎では非常に強い眼瞼の発赤腫脹,結膜の浮腫と充血,多量の白色膿性眼脂が出現する.眼窩蜂巣炎のような著明な前眼部炎症を呈することが多い.淋菌は正常な角膜上皮内に侵入するため,急速に進行して重篤な角膜障害を引き起こし,早期に適切な治療を行わないと,角膜潰瘍,角膜穿孔をきたす症例もある4,5).淋菌性結膜炎は著明な結膜充血と粘性膿性眼脂が特徴的ではあるが,特異的な臨床所見ではないため,診断のためには塗抹検鏡や培養検査が必要になる.日本性感染症学会の「性感染症診断治療ガイドライン」によると,眼脂の塗抹検鏡でグラム陰性双球菌を認めた場合は確定診断となる6).ただし,淋菌の抗菌薬耐性化が進んでおり,感受性検査の結果に応じた薬剤変更の必要があるため,眼脂培養検査も必須である.「性感染症診断治療ガイドライン」では,淋菌性結膜炎の治療として既存の点眼薬でもっとも効果が期待できるのはセフェム系点眼薬(セフノキシム:ベストロンR点眼液)であるとしており,これを1時間おきに点眼する6).全身投与も有効と考えられており,スぺクチノマイシン(トロビシンR)筋注2.0g単回投与,セフォジジム(ケニセフR,ノイセフR)静注1.0g単回投与,セフトリアキソン(ロセフィンR)静注単回投与も推奨されている.淋菌性結膜炎は性感染症であり,反復感染を防ぐためにパートナーの感染の有無を精査,治療する必要がある.本例のような小児の淋菌性結膜炎では,先に述べたように感染源はいくつか考えられるが,性的虐待の可能性も念頭におかなければならない.患児の生活背景調査と家族内での淋菌感染者の有無の把握,必要に応じて児童相談所に通告するなどの介入を行うことが望ましい.本例では家族内に淋菌感染者はおらず,明らかな性的虐待は存在しなかったが,退院後はソーシャルワーカーと医療施設が連携し,経過観察を行った.文献1)花谷あき,坂内優子,塩田睦記ほか:小児淋菌感染症発症の背景性的虐待との関連性を疑った1例.東女医大誌83:E399-E403,20132)荒川奈央子,柏井聡,正井宏和ほか:小児淋菌性眼窩隔膜前部蜂巣炎の1例.臨眼63:987-990,20093)中川尚:小児の淋菌性結膜炎.日本性感染症学会誌22:151-152,20114)南田一枝,酒井雪枝,田中宣彦ほか:角膜潰瘍を伴った淋菌性結膜炎の成人例.眼科24:1113-1115,19825)平山久美子,塩沢啓,沼慎一郎ほか:治療的・整形的全層角膜移植術が奏効した淋菌性角膜潰瘍穿孔の2症例.臨眼56:167-171,20026)日本性感染症学会:性感染症診断・治療ガイドライン2011.日性感染症会誌22(Suppl):6-13,2011664