●連載176緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也176.線維柱帯切除術後の眼瞼下垂丸山勝彦東京医科大学医学部医学科眼科学分野線維柱帯切除術後1カ月.半年で約1割の症例に眼瞼下垂が生じる.視野異常を有する緑内障患者にとって,眼瞼下垂による視野障害が加わることはqualityofvisionの低下に直結する.眼瞼下垂は線維柱帯切除術後の主要な合併症として留意する必要がある.●原因線維柱帯切除術の術後合併症としては角膜乱視やdellen,白内障,濾過胞関連感染症などがよく知られているが,眼瞼下垂(図1)も生じることがわかっている1.4).眼科手術後に生じる眼瞼下垂には,一般的に,麻酔作用による筋原性,神経原性の要因,眼瞼の浮腫や血腫による機械的要因,そして眼瞼挙筋腱膜が牽引され腱板から離開する解剖学的要因が関与するが5,6),筋原性要因や神経原性要因,機械的要因による影響は術後次第に解消するため,恒常的な眼瞼下垂は解剖学的要因に起因する.眼瞼挙筋腱膜の牽引は,制御糸や鑷子による上直筋の牽引や開瞼器による牽引,過度な下転などにより生じるが7.9),線維柱帯切除術ではこれらの操作が多いため,他の術式と比較して術後眼瞼下垂の発症頻度が高いと考えられる.また,代謝拮抗薬の使用,術後の眼球マッサージやニードリングによる侵襲,濾過胞による眼瞼への慢性的な刺激なども影響している可能性がある.●頻度線維柱帯切除術後に眼瞼下垂が生じる頻度は,術後1カ月から数年で8.12%と報告されているが1.4),定量的かつ前向きに検討した報告は唯一である1).この報告では,片眼のみにマイトマイシンC併用線維柱帯切除術単独手術を行った36例36眼(レーザーを含む内眼手術歴なし.眼窩,眼瞼の外眼手術歴なし.眼瞼の形態に影響する内科的,神経学的疾患なし)を対象として,術前と術後3,6カ月目にmarginalreflexdistance(MRD,患者に50cm離れたペンライトを注視させたときの角膜反射から上眼瞼縁までの距離)を計測している.その結果,術眼のMRDは,術前後の比較でも,非術眼との比較でも有意に減少し,眼瞼下垂を「術眼のMRDが術(75)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1線維柱帯切除術後に生じた眼瞼下垂(右眼)線維柱帯切除術と白内障との同時手術後4年で生じた眼瞼下垂.角膜反射が上眼瞼により遮蔽されており,marginreflexdistanceは.1.5mmである.前と比較して術後2mm以上減少した場合」と定義すると,眼瞼下垂の頻度は術後6カ月目で19%であったとしている.この報告は単一施設,比較的少数例での結果であるが,多施設,多数例での検討としては,線維柱帯切除術と点眼治療の開放隅角緑内障に対する第一選択治療としての有効性を比較した無作為比較試験CollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudyにエントリーした症例の中で,線維柱帯切除術が施行された症例の術後早期合併症の頻度を検討した報告がある2).この報告では眼瞼下垂は術後1カ月目で12%に生じたとされているが,465眼というきわめて多数の症例を対象とした研究である反面,眼瞼下垂の判定を検者の主観的な判断により行っており,明確な診断基準が定められていないという欠点がある.なお,長期的な検討はこれまで行われていない.●どのような症例に眼瞼下垂が生じやすいか眼瞼下垂発症の危険因子に関しては,年齢,屈折,術あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015247abab図2線維柱帯切除術後の眼瞼下垂に対する眼瞼下垂症手術後,結膜損傷をきたした症例a:無血管性濾過胞を有する症例.b:眼瞼下垂症手術時に結膜損傷を生じた.前のMRD,術後6カ月目の眼圧,眼圧下降幅(術前の眼圧と術後6カ月目の眼圧の差)といった背景因子と術前から術後6カ月目のMRDの変化量の関連性を検討したところ,有意な相関はなかったとする報告があるのみで1),十分検討されていない.ハードコンタクトレンズ装用歴,開瞼器の種類,麻酔方法,制御糸を置くか否か,置くとしたらどこに置くか(上直筋付着部か角膜輪部か),結膜切開方法,強膜弁の形状や大きさ,代謝拮抗薬併用の有無,眼球マッサージやニードリングなどの術後処置の方法や頻度などの影響を受ける可能性があり,今後,検証が必要である.●対応線維柱帯切除術後でも通常の眼瞼下垂と同様に,下垂の程度,自覚症状,患者の希望などを総合的に判断して眼瞼下垂症手術を適応する.ただし,無血管性濾過胞を有する症例の場合には,手術操作で結膜損傷を起こさないように注意する必要がある(図2).また,術後の兎眼248あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015図3線維柱帯切除術後の眼瞼下垂に対して眼瞼下垂症手術を行った症例(右眼)右眼の上眼瞼拳上に伴い上耳側の無血管性濾過胞が瞼裂に露出しており,結膜上皮障害が危惧される.は,濾過胞が瞼裂に露出することで結膜上皮障害を引き起こし,濾過胞関連感染症の原因となる可能性もあるので留意する(図3).さらに,Heringの法則により片眼の眼瞼下垂症手術後に僚眼の眼瞼下垂が生じる可能性があるが,僚眼の視野障害が高度な症例では自覚症状が強く生じることがあり,術前の十分な説明が必須である.文献1)TsuchisakaN,MaruyamaK,ArimotoGetal:IncidenceofpostoperativeptosisfollowingtrabeculectomywithmitomycinC.JGlaucoma2014[Epubaheadofprint]2)JampelHD,MuschDC,GillespieBWetal:Perioperativecomplicationsoftrabeculectomyinthecollaborativeinitialglaucomatreatmentstudy(CIGTS).AmJOphthalmol140:16-22,20053)SongMS,ShinDH,SpoorTC:Incidenceofptosisfollowingtrabeculectomy:acomparativestudy.KoreanJOphthalmol10:97-103,19964)AltieriM,TruscottE,KingstonAE:Ptosissecondarytoanteriorsegmentsurgeryanditsrepairinatwo-yearfollowupstudy.Ophthalmologica219:129-135,20055)MehatMS,SoodV,MadgeS:Blepharoptosisfollowinganteriorsegmentsurgery;anewtheoryforanoldproblem.Orbit31:274-278,20126)BeardC:Typeofptosis.In:Ptosis3rdedition(edbyBeardC),p39-76,Mosby,StLouis,19817)LoefflerM,SolomonLD,RenaudM:Postcataractextractionptosis,effectofthebridlesuter.JCataractRefractSurg16:501-504,19898)KaplanLJ,JaffeNS,ClaymanHM:Ptosisandcataractsurgery,amultivariantcomputeranalysisofaprospectivestudy.Ophthalmology92:237-242,19859)AlparJJ,JaffeNS,ClaymanHM:Ptosisfollowingcataractandglaucomasurgery.Glaucoma4:66-68,1982(76)