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眼科におけるStevens-Johnson症候群の病型ならびに遺伝素因

2015年1月30日 金曜日

特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):59.67,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):59.67,2015眼科におけるStevens-Johnson症候群の病型ならびに遺伝素因PhenotypeandGeneticPredispositionofOcularStevens-JohnsonSyndrome上田真由美*はじめに本項では,難治性眼表面疾患の一つであるStevensJohnson症候群について,以下の4項目,①重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群(SJS),②皮膚科で診断されるStevens-Johnson症候群/中毒性表皮融解症(SJS/TEN)における眼科のStevens-Johnson症候群の位置づけ,③諸外国におけるSJS/TENのHLA解析の報告からわかってきたこと,④重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群の遺伝子素因について記述する.I重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)は,突然の高熱,結膜炎,皮膚の発疹につづいて,皮膚・粘膜にびらんと水疱を生じる全身性の皮膚粘膜疾患である.発疹は,最初小さな数個の発疹で始まるが,急速に全身に拡大する.中毒性表皮壊死症(toxicepidermalnecrolysis:TEN)は,SJSの重症型を含んだ病型と考えられ,日本では皮疹の面積が10%未満のものをSJS,それ以上のものをTENと呼ぶ1).発症率は,1年あたり百万人に数人で,大変まれな疾患であるが,性差なく小児を含めあらゆる年齢に発症する.眼合併症を生じているSJSとTENの眼所見は類似し,急性期ならびに慢性期をとおして,眼所見より両者を鑑別することは困難である.SJS/TEN全体における重篤な眼合併症(偽膜ならびに角結膜上皮欠損の両方を認める)発生率は約40%であるが2),眼科では,瘢痕性角結膜上皮症に至った慢性期の患者を診ることが多く,SJSとTENを併せて広義のStevens-Johnson症候群(SJS)と呼称している3).SJS/TENは,薬物の投与が誘因となって発症することが多く,重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN患者を対象に行った調査では,約8割の患者が感冒様症状を最初に自覚し,感冒様症状に対する薬物投与が誘因となって発症していた4).1.重篤な眼合併症を伴うSJS.TEN(SJS)の急性期の眼所見眼後遺症を残す重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN(SJS)の急性期の眼所見の特徴は,皮疹,粘膜疹とほぼ同時に両眼性の重度の結膜充血,角結膜上皮欠損,偽膜形成を生じることである(図1).皮疹に気づく前に眼科を受診して,ウイルス性結膜炎と診断される患者も少なくない.SJSの結膜炎では結膜全体の充血,眼脂に加えて,眼瞼の発赤腫脹,広範囲な角結膜上皮障害,偽膜の形成,睫毛の脱落がみられる.広範囲な角結膜上皮欠損を生じる急性期の治療は,もっとも重要であり,患者の視力予後を決定すると考えらえる5).急性期に十分に眼表面の消炎がされないと急性期に角膜上皮幹細胞(輪部上皮の基底部に存在)が消失し,慢性期に角膜は結膜組織で被覆され混濁する(図2a).一方,急性期に十分に消炎ができて角膜上皮幹細胞が残存した場合には,角膜*MayumiUeta:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕上田真由美:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(59)59 60あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(60)*#abc図1眼後遺症を残す重篤な眼合併症を伴うSJS.TEN(SJS)の急性期の眼所見皮疹,粘膜疹とほぼ同時に両眼性の重度の結膜充血(a),角結膜上皮欠損(b),偽膜形成(c)を生じる.#:結膜上皮欠損,*:角膜上皮欠損.b.眼表面の上皮欠損が少なく角膜上皮幹細胞が残存した場合a.眼表面に広範囲の上皮欠損が生じ角膜上皮幹細胞が消失した場合図2急性期の角結膜上皮欠損と視力予後a:十分に眼表面の消炎がされないと急性期に角膜上皮幹細胞(輪部上皮の基底部に存在)が消失し,慢性期に角膜は結膜組織で被覆され混濁する.b:十分に消炎ができて角膜上皮幹細胞が残存した場合には,角膜はほぼ透明化する.*#abc図1眼後遺症を残す重篤な眼合併症を伴うSJS.TEN(SJS)の急性期の眼所見皮疹,粘膜疹とほぼ同時に両眼性の重度の結膜充血(a),角結膜上皮欠損(b),偽膜形成(c)を生じる.#:結膜上皮欠損,*:角膜上皮欠損.b.眼表面の上皮欠損が少なく角膜上皮幹細胞が残存した場合a.眼表面に広範囲の上皮欠損が生じ角膜上皮幹細胞が消失した場合図2急性期の角結膜上皮欠損と視力予後a:十分に眼表面の消炎がされないと急性期に角膜上皮幹細胞(輪部上皮の基底部に存在)が消失し,慢性期に角膜は結膜組織で被覆され混濁する.b:十分に消炎ができて角膜上皮幹細胞が残存した場合には,角膜はほぼ透明化する. aabcdef図3重篤な眼合併症を伴うSJS.TEN(SJS)の眼後遺症重篤な眼合併症(重度の結膜炎,角結膜上皮欠損,偽膜)を生じたSJS/TEN患者ほぼ全例に重篤なドライアイ(a)ならびに睫毛乱生(b)が生じる.瞼球癒着(c,d)や眼瞼の瘢痕化(e)を認めることも多い.重症例では,眼表面が皮膚のように角化する(f).~ 62あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(62)症例のすべてが,重篤な結膜炎を発症するわけではない.外園らが,皮膚科医と共同で調べたところ,急性期に偽膜形成ならびに角結膜上皮欠損を伴う重篤な眼合併症(図1)を伴う症例は,SJS/TEN全体の約40%であった.このように,眼科で診療されるSJSには,皮膚科で診断されるSJSとTENの両方を含み,かつ,重篤な眼粘膜障害を伴った症例だけが含まれる(図4).III諸外国におけるSJS.TENのHLA解析の報告からわかってきたこと諸外国のSJS/TENのHLA解析の結果報告から,原因薬物によりその遺伝子素因が異なることがわかってきた.たとえば,抗てんかん薬であるカルマバゼピンによるSJS/TEN発症には,漢民族ではHLA-B*15:02とSJSと診断することが多い.もう1一つのポイントは,慢性期に眼科を受診するような重篤な眼後遺症を生じるSJS患者は,皮膚科でSJSあるいはTENと診断される患者のうちの一部であるということである.SJSとTENの厚生労働省研究班の診断基準を表1,2に示す.SJSの診断には粘膜病変は必須であるが,TENの診断には粘膜病変は必須ではない.さらに粘膜病変を生じる表1Stevens-Johnson症候群の診断基準1.概念38℃以上の発熱を伴う口唇,眼結膜,外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹および皮膚の紅斑で,しばしば水疱,表皮.離などの表皮の壊死性障害を認める.原因の多くは,医薬品である.2.主要所見(必須)1)皮膚粘膜移行部の重篤な粘膜病変(出血性あるいは充血性)がみられる.2)しばしば認められるびらん若しくは水疱は,体表面積の10%未満である.3)38℃以上の発熱がある.3.副所見1)皮疹は非典型的ターゲット状多形紅斑である.2)角膜上皮障害と偽膜形成のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の非特異的結膜炎を認める.3)病理組織学的に,表皮の壊死性変化を認める.ただし,ライエル症候群(toxicepidermalnecrolysis:TEN)への移行があり得るため,初期に評価を行った場合には,極期に再評価を行う.主要項目の3項目をすべてみたす場合SJSと診断する.Stevens-Johnson症候群診断基準2005(厚生労働科学研究費補助金難治性.疾患克服研究事業重症多形滲出性紅斑に関する調査研究班)から引用表2中毒性表皮壊死融解症(TEN)の診断基準1.概念広範囲な紅斑と,全身の10%以上の水疱,表皮.離・びらんなどの顕著な表皮の壊死性障害を認め,高熱と粘膜疹を伴う.原因の大部分は医薬品である.2.主要所見(必須)1)体表面積の10%を超える水疱,表皮.離,びらん.2)ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)を除外できる.3)38℃以上の発熱がある.3.副所見1)皮疹は広範囲のびまん性紅斑および斑状紅斑である.2)粘膜疹を伴う.眼表面上皮(角膜と結膜)では,びらんと偽膜のどちらかあるいは両方を伴う.3)病理組織学的に,顕著な表皮の壊死を認める.主要3項目のすべてを満たすものをTENとする.○サブタイプの分類1型:SJS進展型(TENwithspots)*12型:びまん性紅斑進展型(TENwithoutspots)*23型:特殊型*1:SJS進展型TEN(TENwithspotsあるいはTENwithmacules):顔面のむくみ,発熱,結膜充血,口唇びらん,咽頭痛を伴う多形紅斑様皮疹.*2:びまん性紅斑型TEN(TENwithoutspotsあるいはTENonlargeerythema):発熱を伴って急激に発症する広汎な潮紅とびらん.○参考所見治療などの修飾により,主要項目1の体表面積10%に達しなかったものを不全型とする.Toxicepidermalnecrolysis(TEN)診断基準2005(厚生労働科学研究費補助金難治性.疾患克服研究事業重症多形滲出性紅斑に関する調査研究班)から引用びまん性紅斑進展型SJS進展型特殊型SJS眼粘膜病変合併型皮膚表皮.離の面積10%未満10%以上粘膜病変あり粘膜病変なし眼科で診療する広義のSJSSJSTEN図4皮膚科で診断されるStevens-Johnson症候群.中毒性表皮融解症(SJS.TEN)における重篤な眼合併症を伴うSJS.TEN(SJS)の位置づけ表1Stevens-Johnson症候群の診断基準1.概念38℃以上の発熱を伴う口唇,眼結膜,外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹および皮膚の紅斑で,しばしば水疱,表皮.離などの表皮の壊死性障害を認める.原因の多くは,医薬品である.2.主要所見(必須)1)皮膚粘膜移行部の重篤な粘膜病変(出血性あるいは充血性)がみられる.2)しばしば認められるびらん若しくは水疱は,体表面積の10%未満である.3)38℃以上の発熱がある.3.副所見1)皮疹は非典型的ターゲット状多形紅斑である.2)角膜上皮障害と偽膜形成のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の非特異的結膜炎を認める.3)病理組織学的に,表皮の壊死性変化を認める.ただし,ライエル症候群(toxicepidermalnecrolysis:TEN)への移行があり得るため,初期に評価を行った場合には,極期に再評価を行う.主要項目の3項目をすべてみたす場合SJSと診断する.Stevens-Johnson症候群診断基準2005(厚生労働科学研究費補助金難治性.疾患克服研究事業重症多形滲出性紅斑に関する調査研究班)から引用表2中毒性表皮壊死融解症(TEN)の診断基準1.概念広範囲な紅斑と,全身の10%以上の水疱,表皮.離・びらんなどの顕著な表皮の壊死性障害を認め,高熱と粘膜疹を伴う.原因の大部分は医薬品である.2.主要所見(必須)1)体表面積の10%を超える水疱,表皮.離,びらん.2)ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)を除外できる.3)38℃以上の発熱がある.3.副所見1)皮疹は広範囲のびまん性紅斑および斑状紅斑である.2)粘膜疹を伴う.眼表面上皮(角膜と結膜)では,びらんと偽膜のどちらかあるいは両方を伴う.3)病理組織学的に,顕著な表皮の壊死を認める.主要3項目のすべてを満たすものをTENとする.○サブタイプの分類1型:SJS進展型(TENwithspots)*12型:びまん性紅斑進展型(TENwithoutspots)*23型:特殊型*1:SJS進展型TEN(TENwithspotsあるいはTENwithmacules):顔面のむくみ,発熱,結膜充血,口唇びらん,咽頭痛を伴う多形紅斑様皮疹.*2:びまん性紅斑型TEN(TENwithoutspotsあるいはTENonlargeerythema):発熱を伴って急激に発症する広汎な潮紅とびらん.○参考所見治療などの修飾により,主要項目1の体表面積10%に達しなかったものを不全型とする.Toxicepidermalnecrolysis(TEN)診断基準2005(厚生労働科学研究費補助金難治性.疾患克服研究事業重症多形滲出性紅斑に関する調査研究班)から引用びまん性紅斑進展型SJS進展型特殊型SJS眼粘膜病変合併型皮膚表皮.離の面積10%未満10%以上粘膜病変あり粘膜病変なし眼科で診療する広義のSJSSJSTEN図4皮膚科で診断されるStevens-Johnson症候群.中毒性表皮融解症(SJS.TEN)における重篤な眼合併症を伴うSJS.TEN(SJS)の位置づけ あたらしい眼科Vol.32,No.1,201563(63)うSJSに特異的な遺伝素因であることを示唆している15,16).これに続いて,韓国人,インド人,ブラジル人SJSサンプルを用いてHLA-A*02:06またはHLA-B*44:03との関連についての検証を行ったところ,韓国人SJSでは,HLA-A*02:06と関連があり,インド人ならびにブラジル人(とくに欧米系ブラジル人)SJSでは,HLA-B*44:03と強い関連が示された(表3)17).インド人は,民族的には欧米人と同じCaucasianに属することより,HLA-B*44:03との関連は欧米人でも認められる可能性が高く今後の解析が急がれる.筆者らが行った感冒薬関連SJSのHLA解析の結果からも,原因薬物によりSJS/TENの遺伝素因が異なることは明らかである(図5)18).さらに,筆者らは,HLAに加えて,重篤な眼後遺症を伴うSJSを対象に遺伝子多型解析を行った.重篤な眼後遺症を伴うSJS患者では,薬物投与の前にウイルス感染症やマイコプラズマ感染症を思わせる感冒様症状を呈することが多く,また,急性期・慢性期ともにMRSA・MRSEを高率に保菌し,眼表面炎症と感染症を生じやすい3,16).そのため,筆者らは,重篤な眼後遺症を伴うSJS発症の素因として自然免疫応答異常が関与している可能性を考え,自然免疫関連遺伝子を候補遺伝子とした解析を行った.その結果,ウイルス感染に対する生体防御に関係するTolllikereceptor3(ウイルス由来の二本鎖RNAの受容体)の遺伝子多型との有意な関連が確認できた19).驚くことに,HLA-A*02:06とTLR3rs3775296T/Tの両方をもつとオッヅ比は,47.7にまで上昇することから(図6),複数の遺伝子多型の組み合わせがこの疾患の発症に大きく貢献している可能性が示唆されている20).また,全ゲノム関連解析では,プロスタグランジン(PG)E2の受容体の一つであるEP3の遺伝子PTGER3の遺伝子多型との関連が確認できた4).ヒト眼表面結膜組織のEP3の免疫染色を行ったところ,正常結膜ならびに結膜弛緩症,翼状片,化学外傷患者の結膜組織において,このEP3は結膜上皮に蛋白発現が強く認められるのとは対照的に,SJS患者の結膜では著しくその蛋白発現は減弱していた(図7)21).また,マウスモデルを用いた解析により眼表面上皮細胞や表皮細胞に発現しているEP3が皮膚粘膜炎症を抑制しの関連8),日本人,欧米人ではHLA-A*31:01と関連することが報告されている9,10).また,抗痛風薬であるアロプリノールによるSJS/TEN発症には,漢民族11),欧米人12),日本人13)でHLA-B*58:01と強い関連があることが報告されている.興味深いことに,アロプリノールによるSJS/TENでは,重篤な眼後遺症を認めることは大変珍しい14).また,京都府立医科大学で診療するSJS/TEN患者のうち抗てんかん薬による発症は,わずか5%であった14).一方,慢性期に重篤な眼後遺症のために京都府立医科大学で診療されているSJS/TEN患者の約8割は,感冒様症状に対する投薬に関連して発症していることが,約200名の患者を対象とした問診から明らかとなっている2,4).つまり,眼科で診療することが多い,感冒薬に関連して発症したSJS/TENは,皮膚科から多く報告されているアロプリノールやカルマバゼピンによって発症したSJS/TENとは,その発症に関与する遺伝子素因は異なることが推測された.また,諸外国のSJS/TENのHLA解析の報告は,皮膚科医が中心となって行っており,重篤な眼合併症に着目した報告はない.筆者の所属する京都府立医科大学眼科では,世界で初めて重篤な眼合併症を有する広義のSJSを対象にHLA解析ならびに遺伝子多型解析を行い,有意に関連する疾患関連遺伝子を多数同定している.IV重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群(SJS)の遺伝素因について筆者らは,重篤な眼後遺症を伴う感冒薬に関連して発症した日本人SJS患者151名ならびに健康コントロール639名を対象に,HLA解析を行った.その結果,HLA-A*02:06とHLA-B*44:03が有意に関連することが明らかとなった.とくにHLA-A*02:06では,p値2.7×10.20,オッズ比5.6と強い関連が確認された15,16).大変興味深いことに,HLA-A*02:06とHLA-B*44:03のSJSとの有意な関連は,同じ感冒薬に関連して発症していても,重篤な眼合併症を伴わない症例では関連を認めず,また,感冒薬以外の薬物による発症症例でも関連を認めなかった.このことは,HLA-A*02:06とHLA-B*44:03のSJSとの有意な関連は,感冒薬に関連して発症した重篤な眼合併症を伴 表3重篤な眼合併症を伴う感冒薬関連SJSとHLAとの関連(文献15,16を改変して転載)a.日本人の重篤な眼合併症を伴う感冒薬関連SJSと健常コントロールとの比較保持者頻度(%)HLAgenotype重篤な眼合併症を伴うOddsratio感冒薬関連SJS健常コントロールp(95%CI)A*02:0671/151(47.0%)87/639(13.6%)2.72E-205.63(3.81-8.33)B*44:0339/151(25.8%)95/639(14.9%)0.001251.99(1.30-3.05)b.国際サンプル(インド,ブラジル,韓国)を用いた検証HLA-A*02:06EthnicgroupCarrierfrequency(%)DominantmodelanalysisCM-SJS/TENwithSOCControlpOddsratio(95%CI)Indian1/20(5.0%)3/55(5.5%)0.9380.91(0.09-9.31)Brazilian0/39(0.00%)0/134(0.00%)──Korean11/31(35.5%)14/90(15.6%)0.01813.00(1.18-7.57)HLA-B*44:03EthnicgroupCarrierfrequency(%)DominantmodelanalysisCM-SJS/TENwithSOCControlpOddsratio(95%CI)Indian12/20(60.0%)6/55(10.9%)1.07.E-0512.25(3.57-42.01)Brazilian10/39(25.6%)15/134(11.2%)0.02362.74(1.12-6.71)Korean6/31(19.4%)18/90(20.0%)0.9380.96(0.34-2.69)BrazilianCaucasian.6.15(40.0%).6.62(9.6%).p=0.0037,OR=6.22SJS/TEN眼・粘膜障害無型では関連なし眼・粘膜障害無眼・粘膜障害有(眼科のSJS)カルバマゼピン漢民族でHLA-B*1502欧米人・日本人でHLA-A*31:01カルバマゼピンと強い関連アロプリノール漢民族,欧米人,日本人でHLA-B*58:01と強い関連感冒薬HLA-A*02:06日本人で強い関連,韓国人で関連HLA-B44:03欧米系ブラジル人,インド人で強い関連日本人でも関連(抗てんかん薬)アロプリノール(抗痛風薬)感冒薬(NSAIDsなど)被疑薬No.1図5原因薬物によりSJS.TENの遺伝素因が異なる64あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(64) オッズ比01020304050HLA-A*02:06+-+-+-+-+-+-TLR3SNPs図6SJS発症にかかわる遺伝子間相互作用HLA-A*02:06とTLR3rs3775296T/Tの両方をもつとオッズ比は,47.7にまで上昇する.結膜弛緩症患者の結膜慢性期化学外傷患者の結膜EP3isotypeEP3isotype慢性期SJS患者の結膜亜急性期SJS患者の結膜図7SJS患者の眼表面組織におけるEP3蛋白発現の減弱結膜弛緩症,化学外傷患者の結膜組織においてEP3蛋白は結膜上皮に強く認められるのとは対照的に,SJS患者の結膜では著しくその蛋白発現は減弱している.(65)あたらしい眼科Vol.32,No.1,201565 図8SJSの発症機序についての仮説発症の遺伝素因がない人では,何らかの微生物感染が生じても,正常の自然免疫応答が生じ,薬物服用後に解熱・消炎が促進され,感冒は治癒する.しかし,発症の遺伝素因がある人に,何らかの微生物感染が生じると異常な自然免疫応答が生じ,さらに薬物服用が加わって,異常な免疫応答が助長され,SJSを発症する. –

Fuchs角膜内皮ジストロフィの遺伝背景

2015年1月30日 金曜日

特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):53~57,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):53~57,2015Fuchs角膜内皮ジストロフィの遺伝背景GeneticsBackgroundofFuchsEndothelialCornealDystrophy奥村直毅*はじめにFuchs角膜内皮ジストロフィは,ErnstFuchsにより1910年に報告された,guttaeの形成を伴い角膜内皮が障害される,両眼性かつ進行性の疾患である.50歳代で発症し,20~30年かけてゆっくりと進行する.欧米では40歳以上の5%が罹患しているとされる.早期では,guttaeの形成や角膜内皮密度の低下が認められる.進行してくると,角膜内皮機能障害による角膜実質浮腫,角膜上皮浮腫を呈し,視力障害を生じる(図1).GuttaeはDescemet膜と角膜内皮の間に,Descemet膜から前房側に疣状に突出して形成される.細隙灯顕微鏡により観察される臨床的に特徴的な所見である(図2).スペキュラーマイクロスコープにより,角膜内皮密度の減少と,黒く抜けた像として認められるguttaeの形成が観察される(図3).進行し視力障害を生じると,角膜移植による治療が必要になるが,米国においては角膜内図1Fuchs角膜内皮ジストロフィの前眼部写真図2細隙灯顕微鏡により観察されるguttae軽度の角膜実質浮腫と角膜上皮浮腫を認める.Descemet膜が疣状に凸凹する.Descemet膜と角膜内皮(あたらしい眼科Vol.31.No.3,2014,p349より転載)の間に位置し,Descemet膜が前房側に疣状に突出したものであり,細胞外マトリックスにより構成される.(あたらしい眼科Vol.31.No.3,2014,p349より転載)*NaokiOkumura:同志社大学生命医科学部・京都府立医科大学眼科学〔別刷請求先〕奥村直毅:〒610-0321京都府京田辺市多々羅都谷1-3同志社大学生命医科学部0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(53)53 図3非接触スペキュラーマイクロスコープ像角膜内皮細胞密度の低下とguttae(写真で黒く抜けてみえる)が観察される. あたらしい眼科Vol.32,No.1,201555(55)る.2.ZEB1(zincfingerE.boxbindinghomeobox1gene)SLC4A11がFuchs角膜内皮ジストロフィに関連することが報告されたことにより,他の角膜内皮疾患の原因遺伝子がFuchs角膜内皮ジストロフィの原因となりうる可能性が持ち上がった.そこで,ZEB1遺伝子のフレームシフトが後部多形性角膜ジストロフィ(posteriorpolymorphouscornealdystrophy:PPCD)を生じることが明らかにされたことを受けて,Fuchs角膜内皮ジストロフィ患者を対象にZEB1の変異が調べられた9).結果は74名中2名においてZEB1遺伝子上のバリアントを認めたのみであったために,MehtaらはZEB1はFuchs角膜内皮ジストロフィの原因であるとはいえないと報告した9).しかし一方で,Riazuddinらは5種類のZEB1のミスセンス突然変異(p.N78T,p.Q810P,p.Q840P,p.A905G,p.P649A)を384名中7名の患者に認めたことを報告した10).7名中6名が散発性であった.p.Q840Pの変異を有する1名は家族性発症であり,家族を調査することで実に12名がFuchs角膜内皮ジストロフィであることが判明した.しかし,Fuchs角膜内皮ジストロフィであることが判明した12名のうち5名はp.Q840Pの変異を有してなかったために,さらなるGWASによる解析が行われ9番染色体短腕がp.Q840P変異とは独立して関係する可能性が示された.9番染色体短腕はFuchs角膜内皮ジストロフィに関与する4番目の遺伝子座としてFCD4と提唱された10).3.TCF4(transcriptionfactor4gene)LateonsetのFuchs角膜内皮ジストロフィにおいて,前述のようにごく一部の患者ではSLC4A11やZEB1の遺伝子変異が発症の原因となりうることが明らかとなった一方で,大多数の患者では原因となる遺伝子については依然不明であった.しかし2010年,BaratzらはGWASによる解析により,TCF4遺伝子におけるイントロン領域の一塩基多型(singlenucleotidepolymor-phism:SNP)(rs613872)がFuchs角膜内皮ジストロフィと関連することを報告した11).さらに,複数の研究onsetのFuchs角膜内皮ジストロフィの2家系から発見された4,5).Gottschらはp.Leu450Trpの家系のなかで,男女比が1:1であり,臨床的,組織的なguttaeの特徴がlateonsetのFuchs角膜内皮ジストロフィとはまったく異なることを指摘している4).さらにGWASによる解析によってもlateonsetのFuchs角膜内皮ジストロフィにおいてCOL8A2の関与は認められないことが報告された.これらのことから,現在はCOL8A2の複数のミスセンス突然変異がearlyonsetのFuchs角膜内皮ジストロフィの原因である一方,lateonsetの発症には関係がないと考えられている.IILateonsetのFuchs角膜内皮ジストロフィ1.SLC4A11(solutecarrierfamily4,sodiumboratetransporter,member11gene)SLC4A11遺伝子が先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(congenitalhereditaryendothelialdystrophy:CHED)の常染色体劣性遺伝型(CHED2)の原因遺伝子であることが特定されたことを受けて,VithanaらはFuchs角膜内皮ジストロフィにおいてもSLC4A11について検討を行った6).結果は89名中4名の患者においてSLC4A11のバリアント(ミスセンス3名,フレームシフト1名)が認められた.一方で,SLC4A11の遺伝という点からは,これら4患者すべてが散発性であり遺伝性を示す家族の発症は認められなかった.また,Riazuddinらは192名のFuchs角膜内皮ジストロフィ患者で検討を行い,7名がSLC4A11におけるミスセンス突然変異をヘテロ接合型(用語解説参照)として有することを続いて報告した7).7名に認められた7種類のミスセンス突然変異のなかで1種類では家族性の発症が認められた.これらのSLC4A11のバリアントがFuchs角膜内皮ジストロフィを生じるという報告がある一方で,SLC4A11がコードされる20番染色体は連鎖解析によりFuchs角膜内皮ジストロフィへの関連を認めておらず原因遺伝子としては懐疑的な意見もある2,8).また,SLC4A11の変異がどのように発症に関与しているかについては不明点も多く,今後の研究の進展が期待され 図4正常者の血液ゲノムのシークエンス解析結果第2イントロンにTGCの反復配列を認める.本例は正常者であり12回の繰り返しを認めるが,Fuchs角膜内皮ジストロフィ患者の多くでは繰り返し回数が50回以上と過伸展する. ■用語解説■ミスセンス突然変異:コドン内の塩基の変化または置換により,本来入るべきものとは別のアミノ酸が合成されたポリペプチド中に入り,異常蛋白質が作られる突然変異.ヘテロ接合型:二倍体生物のある遺伝子座がAa,Bbのように異なった対立遺伝子からなる状態.このような遺伝子型をヘテロ接合型といい,同じ対立遺伝子をもつ遺伝子型をホモ接合型という.’’

角膜内皮炎の治療

2015年1月30日 金曜日

特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):47.51,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):47.51,2015角膜内皮炎の治療TreatmentforCornealEndotheliitis小泉範子*はじめに角膜内皮炎は角膜内皮細胞に特異的な炎症を生じ,進行すると不可逆性の角膜内皮機能不全による重症の視力障害をきたす疾患である.本稿では,角膜内皮細胞について概説し,ウイルス性角膜内皮炎の臨床的特徴と診断,治療について述べる.また近年,その重要性が認識されつつサイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎については,特発性角膜内皮炎研究班が作成した診断基準を紹介する.I角膜内皮細胞の機能と特徴角膜内皮層は六角形を主体とする単層の角膜内皮細胞で構成され,バリア機能とポンプ機能をもつことによって角膜実質の含水率を一定に保ち,角膜の透明性を維持している.ヒトの角膜内皮細胞は生体内ではほとんど増殖することができないため,外傷や内眼手術,角膜内皮炎,Fuchs角膜内皮ジストロフィなどの疾患によって障害されると角膜内皮細胞の密度が低下する.正常の角膜内皮細胞の密度は2,000cells/mm2以上とされ,およそ500cells/mm2未満に低下すると角膜の透明性を維持することができなくなり水疱性角膜症による浮腫と混濁を生じる1)(表1).II角膜内皮炎の主たる原因はウイルスである角膜内皮炎は1982年にKhodadoustとAttarzadehによって初めて報告された2).最初の論文では,角膜移表1角膜内皮障害の重症度分類分類角膜内皮細胞密度病態正常2,000cells/mm2以上正常の角膜の機能を維持するうえで支障のない細胞密度が維持されている.Grade1(軽度)1,000cells/mm2以上2,000cells/mm2未満正常の角膜における生理機能を逸脱しつつある状態.Grade2(中等度)500cells/mm2以上1,000cells/mm2未満角膜の透明性を維持するうえで危険な状態.内因性あるいは外因性によるわずかな侵襲が引き金となって水疱性角膜症に至る可能性がある.Grade3(高度)500cells/mm2未満水疱性角膜症を生じる前段階.Grade4(水疱性角膜症)測定不能角膜が浮腫とともに混濁した状態.(日本角膜学会ワーキンググループ作成,文献1を改変)*NorikoKoizumi:同志社大学生命医科学部医工学科・京都府立医科大学眼科〔別刷請求先〕小泉範子:〒610-0321京都府京田辺市多々羅都谷1-3同志社大学生命医科学部医工学科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(47)47 48あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(48)による症例が多く存在することが報告されている5.9).一方,ムンプスや麻疹などの全身ウイルス感染症でも角膜内皮障害を起こすことが知られており,これらはウイルス血症に伴ってウイルスが直接角膜内皮細胞を攻撃することによって生じる一種の角膜内皮炎と考えられている.IIIウイルス性角膜内皮炎の臨床所見1.角膜後面沈着物と角膜浮腫角膜内皮炎では,角膜後面沈着物(keraticprecipi-tates:KPs)を伴った限局性の角膜浮腫を生じる.HSVによる角膜実質炎(円板状角膜炎など)でもKPsを伴う角膜浮腫を生じるが,実質炎では角膜実質に細胞浸潤による混濁や血管侵入を伴う.それに対して角膜内皮炎では,細胞浸潤や血管侵入を伴わないすりガラス状の角膜浮腫を生じることが特徴である.臨床病型の分類として大橋らの臨床分類が広く用いられている10,11).1型角膜内皮炎とよばれるもっとも典型的な角膜内皮炎では,病変は角膜周辺部から中心に向かって進行し,拒絶反応線に類似した線状のKPsや,円形に配列したKPsからなる衛星病巣(コインリージョン)を伴うことがあるとされる(図1,2).近年,コインリージョンと線状のKPsは,CMV角膜内皮炎で特徴的に認められる所見であることが多施設から報告されており,CMV角膜内皮炎の診断基準にも取り上げられている9)(表2).植の既往のない2例の患者に拒絶反応でみられるような線状に配列する角膜後面沈着物(khodadoustline)と角膜浮腫を生じたとされる.これらの症例はステロイド薬を用いた治療に反応したことから,当時は自己免疫が関与する病態と報告されていた.しかしその後,角膜内皮炎患者の前房水や組織から単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)のDNAや抗原が検出されるようになり3),現在ではHSVあるいは水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)によるウイルス性角膜炎の一病型と考えられるようになった.さらに2006年には,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)による角膜内皮炎の最初の症例が日本から報告され4),近年,原因不明で予後不良とされてきた特発性角膜内皮炎の中にCMV軽度の毛様充血周辺部から中心へ進行する角膜浮腫拒絶反応線様の線状に配列する角膜後面沈着物(KPs)ときに円形に配列するKPsからなる衛星病巣を認める(コインリージョン)図1典型的な1型角膜内皮炎の臨床像図2サイトメガロウイルス角膜内皮炎左:角膜後面沈着物を伴った角膜浮腫を認め,透明角膜の部分に円形に配列する角膜後面沈着物からなる衛星病巣(コインリージョン:矢印)が認められる.前房水からCMVDNAが検出された.右:角膜浮腫は比較的軽度な症例で,コインリージョン(矢印)と前房水を用いたPCRで確定診断される症例もある.(文献9より許可を得て転載)軽度の毛様充血周辺部から中心へ進行する角膜浮腫拒絶反応線様の線状に配列する角膜後面沈着物(KPs)ときに円形に配列するKPsからなる衛星病巣を認める(コインリージョン)図1典型的な1型角膜内皮炎の臨床像図2サイトメガロウイルス角膜内皮炎左:角膜後面沈着物を伴った角膜浮腫を認め,透明角膜の部分に円形に配列する角膜後面沈着物からなる衛星病巣(コインリージョン:矢印)が認められる.前房水からCMVDNAが検出された.右:角膜浮腫は比較的軽度な症例で,コインリージョン(矢印)と前房水を用いたPCRで確定診断される症例もある.(文献9より許可を得て転載) あたらしい眼科Vol.32,No.1,201549(49)けて,特発性角膜内皮炎研究班によるCMV角膜内皮炎のレトロスペクティブスタディが行われ,診断基準が作成された9)(表2).CMV角膜内皮炎の診断には,前房水中の原因ウイルスDNAの同定が必要であり,コインリージョンや拒絶反応線様のKP,眼圧上昇や虹彩毛様体炎の合併など,特徴的な臨床所見と合わせて診断される.VIウイルス性角膜内皮炎の治療ウイルス性角膜内皮炎は,ウイルスの再活性化とそれに伴う炎症によって角膜内皮障害を生じると考えられるため,抗ウイルス薬とステロイド薬を併用した治療を行う.ウイルス性角膜内皮炎はしばしば再燃する可能性のある疾患であり,再発を繰り返すと水疱性角膜症となることも稀ではない.初期治療として抗ウイルス薬の全身投与と局所投与を4.12週間程度行い,その後は維持療法として局所投与のみを継続する(表3).1.ヘルペス性角膜内皮炎の治療アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏(1日5回)と0.1%フルオロメトロン(0.1%フルメトロンR)などのステロイド点眼薬(1日4回),混合感染予防のために抗菌薬点眼(1日2.4回)を使用する.また,バラシクロビル(バルトレックスR)内服(1日1,000.2,000mg)を2.4週間行う.高度の角膜浮腫や虹彩炎を伴う症例では,ベタメタゾン(リンデロンR)内服(1日1.2mg)やプレドニゾロン(プレドニンR)内服(1日5.10mg)などのステロイド薬の全身投与を追加する場合がある.上記の治療により通常は2週間程度で角膜浮腫が軽減し,KPsが消失あるいは減少する.角膜の炎症所見が改善していることを確認し,アシクロビル眼軟膏とステロイド点眼薬を1日3回程度,バラシクロビル内服を500.1,000mgに減量して,さらに2.3週間程度投与を続ける.その後は局所投与のみを数カ月間継続し,再発の徴候がなければ投薬を中止する.再発症例や,すでに角膜内皮障害が進行している症例では,投薬の漸減はより慎重に行う.2.角膜内皮障害ウイルス性角膜内皮炎では,角膜内皮細胞の脱落による角膜内皮細胞密度の低下を生じることが特徴であり,進行すると不可逆性の角膜内皮障害によって水疱性角膜症となる.3.虹彩毛様体炎や続発緑内障の合併角膜内皮炎では,軽度の虹彩毛様体炎や眼圧上昇を伴うことが多いが,とくにCMV角膜内皮炎では高頻度にこれらの所見を合併する.角膜内皮炎と診断される以前から,眼圧上昇発作を伴う虹彩炎の既往や,Posner-Schlossman症候群と診断されている症例が多いことが報告されている9).IV診断と検査原因ウイルスを同定し治療方針を決定するためには,PCR(polymerasechainreaction)を用いた前房水中のウイルスDNAの検索が必要である.PCRは非常に感度が高いため病態とは無関係のウイルスDNAを検出する偽陽性を生じる可能性があることに注意する.とくにHSVやCMVなどのヘルペス属ウイルスは,健康な人でも無症候性に体液中に分泌されることが知られており,検査のタイミングやPCRの感度によっては病態とは関係のないウイルスDNAを検出することがある.ウイルスPCRの結果と臨床所見,抗ウイルス治療に対する反応などを総合的に判断してウイルス性角膜内皮炎と診断する必要がある.最近では,リアルタイムPCRによるウイルスDNAの定量が可能になり,病態の解明や治療効果の判定に有用な情報が得られることが期待される12.14).また,CMV角膜内皮炎ではコンフォーカル顕微鏡によってコインリージョンの部分の角膜内皮細胞にCMV感染細胞で特徴的なOwl’seye(ふくろうの目)所見が認められることが報告されており15,16),角膜内皮細胞へのCMV感染を示唆する所見であり,診断や治療効果の判定,病態の解明にも役立つことが期待される.VCMV角膜内皮炎の診断基準平成22.24年度の厚生労働省科学研究費の補助を受 表2サイトメガロウイルス角膜内皮炎診断基準(平成24年度特発性角膜内皮炎研究班)I.前房水PCR検査所見①cytomegalovirusDNAが陽性②herpessimplexvirusDNAおよびvaricella-zostervirusDNAが陰性II.臨床所見①小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(コインリージョン)あるいは拒絶反応線様の角膜後面沈着物を認めるもの.②角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,かつ下記のうち2項目に該当するもの.・角膜内皮細胞密度の減少・再発性・慢性虹彩毛様体炎・眼圧上昇もしくはその既往<診断基準>典型例Iおよび,II-①に該当するもの.非典型例Iおよび,II-②に該当するもの.<注釈>1.角膜移植術後の場合は拒絶反応との鑑別が必要であり,次のような症例ではサイトメガロウイルス角膜内皮炎が疑われる.①副腎皮質ステロイド薬あるいは免疫抑制薬による治療効果が乏しい.②host側にも角膜浮腫がある.2.治療に対する反応も参考所見となる.①ガンシクロビルあるいはバルガンシクロビルにより臨床所見の改善が認められる.②アシクロビル・バラシクロビルにより臨床所見の改善が認められない.表3ウイルス性角膜内皮炎に対する初期治療の例1)HSVあるいはVZV角膜内皮炎①アシクロビル眼軟膏1日5回②0.1%フルオロメトロン点眼1日4回③バラシクロビル(500mg錠)1日2.4錠,2.4週間④炎症による角膜浮腫,虹彩炎が高度な症例では以下を併用ベタメタゾン内服(1.2mg),またはプレドニゾロン(5.10mg)2)CMV角膜内皮炎①ガンシクロビル5mg/kgを1日2回点滴投与,2週間(保険適用外)あるいはバルガンシクロビル900mg1日2回内服,4.12週間(保険適用外)②0.5%ガンシクロビル点眼液(自家調整)1日4.8回(保険適用外)③0.1%フルオロメトロン点眼1日4回 あたらしい眼科Vol.32,No.1,201551(51)4)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmol141:564-565,20065)KoizumiN*,SuzukiT*,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,2008(*co-firstauthors)6)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendo-theliitisfollowingpenetratingkeratoplasty.Cornea26:370-372,20077)YamauchiY,SuzukiJ,SakaiJetal:Acaseofhyperten-sivekeratouveitiswithendotheliitisassociatedwithcyto-megalovirus.OculImmunolInflamm15:399-401,20078)CheeSP,BacsalK,JapAetal:Cornealendotheliitisasso-ciatedwithevidenceofcytomegalovirusinfection.Oph-thalmology114:798-803,20079)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Clinicalfeaturesandmanagementofcytomegaloviruscornealendotheli-itis:analysisof106casesfromtheJapancornealendo-theliitisstudy.BrJOphthalmol99:54-58,201510)大橋裕一,真野富也,本倉真代ほか:角膜内皮炎の臨床病型分類の試み.臨眼42:676-680,198811)SuzukiT,OhashiY:Cornealendotheliitis.SeminarsinOphthalmology23:235-240,200812)KandoriM,InoueT,TakamatsuFetal:Prevalenceandfeaturesofkeratitiswithquantitativepolymerasechainreactionpositiveforcytomegalovirus.Ophthalmology117:216-22,201013)MiyanagaM,SugitaS,ShimizuNetal:Asignificantassociationofviralloadswithcornealendothelialcelldam-ageincytomegalovirusanterioruveitis.BrJOphthalmol94:336-340,201014)KandoriM,MiyazakiD,YakuraKetal:Relationshipbetweenthenumberofcytomegalovirusinanteriorcham-berandseverityofanteriorsegmentinflammation.JpnJOphthalmol57:497-502,201315)ShiraishiA,HaraY,TakahashiMetal:Demonstrationof“Owl’sEye”patternbyconfocalmicroscopyinpatientwithpresumedcytomegaloviruscornealendotheliitis.AmJOphthalmol114:715-717,200716)KobayashiA,YokogawaH,HigashideTetal:Clinicalsignificanceofowleyemorphologicfeaturesbyinvivolaserconfocalmicroscopyinpatientswithcytomegalovi-ruscornealendotheliitis.AmJOphthalmol153:445-453,2012しながら定期的な経過観察を行う必要があると考える.CMV角膜内皮炎の全国調査では,前房水PCRと臨床所見からCMV角膜内皮炎と診断された症例の95%ではガンシクロビル,バルガンシクロビルの投与が行われ,その有用性を示唆する結果が報告された9).しかし,CMV角膜内皮炎に対する抗ウイルス薬の投与は保険適用がなく,各施設の倫理審査委員会の承認を受けて患者にインフォームド・コンセントを行ったうえで実施する必要があるなど,標準治療として定着させるためには課題が残されている.VII鑑別疾患KPsを伴う角膜浮腫を生じる病態として,角膜移植後の拒絶反応との鑑別が重要である.拒絶反応ではKPsが移植片内に限局するのに対して,角膜内皮炎では移植片のみならずホスト角膜側にも角膜浮腫やKPsが存在することが特徴であるが,周辺部に角膜混濁がある症例では観察が困難なこともある.一般的に拒絶反応では眼圧上昇を認めないが,ウイルス性角膜内皮炎では眼圧上昇を伴うことが多いことも参考になる.ステロイド薬や免疫抑制薬による拒絶反応に対する治療を行っても角膜浮腫が改善しない場合には,ウイルス性角膜内皮炎を疑って前房水を用いたウイルスPCRを行う.原因不明の水疱性角膜症や,複数回の角膜移植を繰り返しているような症例でも,ウイルス性角膜内皮炎を疑ってウイルス検索を行うことが望ましい.文献1)木下茂,天野史郎,井上幸次ほか:角膜内皮障害の重症度分類の提案.日眼会誌118:81-83,20142)KhodadoustAA,AttarzadehA:Presumedautoimmunecornealendotheliopathy.AmJOphthalmol93:718-722,19823)OhashiY,KinoshitaS,ManoTetal:DemonstrationofherpessimplexvirusDNAinidiopathiccornealendotheli-opathy.AmJOphthalmol112:419-423,1991

円錐角膜,屈折矯正術後の不正乱視の治療

2015年1月30日 金曜日

特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科31(1):39.45,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科31(1):39.45,2015円錐角膜,屈折矯正術後の不正乱視の治療TreatmentforIrregularAstigmatismCausedbyKeratoconusandRefractiveSurgery東原尚代*稗田牧**はじめに円錐角膜は角膜の中央部が菲薄化して突出する進行性の疾患であり,眼鏡では矯正できない不正乱視が生じる.治療はガス透過性ハードコンタクトレンズ(rigidgaspermeablecontactlens:RGPCL)の装用が第一選択で,進行例には角膜移植術が必要となる.近年,円錐角膜に対する新しい外科治療として角膜内リング挿入(intrastromalcornealringsegments:ICRS)術が注目されている1).ICRSは円錐角膜だけでなく角膜拡張症(keratectasia)に対しても施行されるようになり,その効果が確認されて以降,日本でも少しずつ普及している2.4).また,ICRS術後の不正乱視にも,さらなる視力改善をめざして積極的にRGPCLが処方される5,6).一方,屈折矯正手術は主として近視や乱視の矯正を目的として行われ,エキシマレーザーを用いたphotorefractivekeratectomy(PRK),laserinsitukeratomileusis(LASIK),epi-LASIKなどがあげられる.屈折矯正手術は矯正視力の良好な眼が対象であり,比較的安全な手術とされる7.9)が,稀に過剰照射や感染性角膜炎7,10)による合併症が生じ,不正乱視のために視力不良に陥ることがある.このような症例に対してもRGPCLの処方が行われるが11),屈折矯正手術により角膜中央部が扁平化しているためにRGPCL処方は非常にむずかしく眼科医の経験が必要となる.本稿では,円錐角膜および屈折矯正術後の不正乱視に対するRGPCL処方ならびに外科的治療法について解説する.I円錐角膜へのRGPCL処方円錐角膜は角膜中央部の曲率半径は小さいが,角膜周辺部(とくに上方)の形状は正常眼と同じか,むしろ,より大きくなっている(図1).したがって,円錐角膜にRGPCLを処方する場合,角膜周辺部(とくに上方)にあわせて球面レンズをフラットに処方するか(京都府立医科大学では“フラット・メソッド”と呼ぶ)12),もしくは,円錐角膜用の多段階カーブレンズを軽いアピカルタッチで合わせる13)ことが多い.後者のレンズの代表として,ニチコン社のローズK2がある.ローズK2のイニシャルトライアルレンズは,測定できたケラト値の平均から0.2mm程度小さいベースカーブを選択すると良い.フィッティングは瞬目直後の状態で評価するが,角膜中央に軽度にフルオレセインの貯留を認め,瞬目で角膜頂点がレンズに軽く接触するのが基本となる(図2).最周辺部のベベル幅は1mm弱が必要とされる.ローズK2のエッジリフトは,.1.0.+2.0の範囲内で作製が可能であり,トライアンドエラーの過程でデザインを選択する.ローズK2は非球面レンズでありセンタリングが重要であるが,固着に気をつけなければならない.中等度以上の円錐角膜やペルーシド角膜変性,角膜移植後などでは,ローズ2PGもしくはローズK2ICが推奨される.なお,ローズK2処方前に球面レンズなど他の種類のRGPCLを装用していた場合,角膜形状が変化している可能性が高く,処方後直ぐに視力は出にく*HisayoHigashihara:医療法人博吾会ひがしはら内科眼科クリニック/京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕東原尚代:〒621-0861京都府亀岡市北町57-13医療法人博吾会ひがしはら内科眼科クリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(39)39 図1円錐角膜の角膜形状解析(プラチドリング像:PR-8000にて撮影)左眼は中央部のリングが卵型を呈する軽度の円錐角膜であるのに対し,右眼は中央部のリングが小さく歪んだ進行した円錐角膜である.周辺の角膜を観察すると,右眼でリングの間隔が大きくなり,かなりフラットな形状をなすことがわかる.図2ローズK2を装用した円錐角膜の前眼部写真軽いアピカルタッチでレンズ中央部に薄く涙液が貯まる. 図3プラチドリングを基にした球面レンズの選択左から軽度,中等度,重度の円錐角膜.図4球面レンズを装用した円錐角膜の前眼部写真(フラット・メソッド)角膜中央部と上方が2点で接触したフィッティングであり,レンズ下方は浮いている. 図5角膜内リング挿入術後のRGPCL処方左上:術前のプラチドリング像.右上:術前の球面レンズによるRGPCL処方.左下:ICRS術後のプラチドリング像.術後には角膜中央部のリングの間隔が大きくなって角膜が扁平化しているのがわかる.右下:ICRS術後にツインベルタイプを処方.逆形状多段階カーブを選択すれば良好なフィッティングが得られる. 図6屈折矯正術後の不正乱視へのツインベルLVC処方ツインベルLVCの直径は10.0mmであり,台形化した角膜を安定してカバーすることができる.屈折矯正術後は強い角膜不正乱視ゆえに,瞬目によるレンズの動きが大きくなるため,センタリング改善を目的にレンズ周辺フロント側に溝加工を施している.図7図6の症例の角膜形状解析左:RGPCL装用前.右:RGPCL装用開始3カ月後.RGPCL装用により,角膜形状がきれいに改善した. 図8LASIK術後2週間に虫が目に入りフラップが断裂したのち5年経過した症例左:細隙灯顕微鏡所見.右:角膜形状解析.フラップ断裂による角膜瘢痕と不正乱視が明らかである.カスタム照射によるPRKで照射前視力0.3(1.0)が照射後1.2(1.5)に改善した.- あたらしい眼科Vol.32,No.1,201545(45)10)稗田牧:エキシマレーザー屈折矯正手術に伴う感染性角膜炎について教えてください.あたらしい眼科26(臨増):109-111,200911)山岸景子,東原尚代,百武洋子ほか:屈折矯正手術後の角膜感染症により生じた高度角膜不正乱視へのガス透過性ハードコンタクトレンズ処方.日コレ誌55:283-288,201312)東原尚代:不正乱視に対するハードコンタクトレンズ(HCL)処方.円錐角膜に対するHCL処方.日コレ誌53:180-185,201113)水谷聡,千賀勤,大堀伸ほか:円錐角膜に対するコンタクトレンズ処方傾向─RoseKTMを中心に─.日コレ誌46:190-195,200414)KrumeichJH,DanielJ,KnulleA:Live-epikeratophakiaforkeratoconus.JCataractRefractSurg24:456-463,199815)加藤浩晃,稗田牧.【円錐角膜の新たな治療】角膜内リング.眼科手術25:492-496,201216)植田喜一,山本達也,小玉裕司ほか:新しい多段カーブハードコンタクトレンズの試作.日本コンタクトレンズ学会誌49:166-170,200717)東浦律子,前田直之,中川智哉ほか:Laserinsituker-atomileusis術後のkeratectasiaに対するコンタクトレンズ処方.日コレ誌51:92-97,200918)山岸景子,東原尚代:角膜内リング挿入術後のハードコンタクトレンズ合わせ.あたらしい眼科32:屈折矯正セミナー.印刷中

眼表面疾患のマネージメント

2015年1月30日 金曜日

特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):31.38,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):31.38,2015眼表面疾患のマネージメントManagementforOcularSurfaceDisorders稲富勉*はじめに眼表面(ocularsurface)は角膜上皮と結膜上皮により構成され,角膜上皮は非角化重層扁平上皮に分化することで涙液と安定に接触し,屈折機能とバリア機能を提供できる.また,結膜上皮にはリンパ組織と杯細胞が存在し,眼表面の防御機構の主役を担っている.両者ともに幹細胞やprogenitorcellが存在し,継続的に上皮細胞を提供することで恒常性が維持され守られている.とくに角膜上皮の幹細胞は輪部基底部に存在し,その障害は角膜内への結膜侵入や角膜上皮幹細胞疲弊症につながり,進行例では角膜上皮移植が必要となる.眼表面疾患のマネージメントでは,角結膜上皮と眼表面環境の正常化がゴールとなる.すなわち,実際の診療では上皮障害の改善に加え,涙液,眼瞼機能,マイボーム腺などの,眼表面全体の環境を健常化する必要がある.I眼表面疾患の診かた眼表面疾患のマネージメントの第一歩は異常部位を把握することから始まる(図1).原疾患を診断すると同時に病期や進行状態を評価し,さらにはドライアイや眼瞼異常などの増悪因子を把握する.まずは肉眼的に眼瞼異常や瞬目異常を観察し,細隙灯顕微鏡検査では角膜全体から眼瞼縁まで広く観察する.フルオレセイン染色では上皮障害やドライアイのみならず表層上皮の異型性や隆起などの所見を丹念に観察する必要がある.上皮障害では障害範囲や分布が原因の同定や鑑別に重要である.角膜輪部の観察では表層血管侵入や結膜上皮侵入,角膜上皮幹細胞疲弊症の指標となるpalisadesofVogt(POV)の状態に注意する.結膜では上皮障害や炎症のみならず結膜下組織の増殖性変化や結膜.の短縮などの瘢痕所見を見逃さないようにする.結膜上皮障害や腫瘍性変化の観察に対してはローズベンガル染色やリサミングリーン染色などが有効である.II眼表面疾患での角膜上皮障害と創傷治癒眼表面疾患でもっとも問題となるのは角膜上皮の状態である(図2).角膜上皮異常が瞳孔領に至ると視機能障害の原因となり,また上皮欠損は角膜潰瘍や感染へと進行するため早期のマネージメントが必要となる.角膜上皮障害は,①表層上皮異常である点状表層角膜上皮症,②上皮全層の欠損である角膜上皮欠損,③上皮創傷機転が著しく障害された遷延性角膜上皮欠損,さらには④基底膜障害を伴う角膜潰瘍へと進行する(図3).眼表面疾患では正常な創傷治癒機転が障害されていることがほとんどであり,軽度な上皮障害でも遷延化し,急速に進化することも珍しくないため適切な治療を選択する必要がある.創傷治癒の異常のほかに,角化や錯角化などの分化異常,腫瘍化を含む細胞異型性変化,さらに幹細胞異常である角膜上皮幹細胞疲弊症が病態に含まれる.*TsutomuInatomi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稲富勉:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(31)31 眼瞼・瞬目異常角膜上皮・結膜上皮異常角膜輪部・POV・結膜侵入マイボーム腺機能不全・マイボーム腺炎涙液異常・メニスカス・結膜弛緩症図1眼表面全体の観察ポイント眼表面疾患の診察では角結膜上皮のみならず,瞬目異常,眼瞼異常,POVの有無,涙液状態やマイボーム腺まで眼表面全体の異常を捉えることが大切である.脱落亢進①上皮創傷治癒障害角膜表層上皮障害②上皮分化障害角膜上皮欠損増殖抑制伸展障害③輪部機能不全遷延性角膜上皮欠損図2眼表面疾患における角膜上皮異常の考え方眼表面疾患の角膜上皮障害では恒常性維持および創傷治癒④異型性変化角膜潰瘍のメカニズムである3要素のアンバランスを評価して治療方法を選択することが重要である.図3眼表面疾患での角膜上皮異常眼表面疾患では角膜上皮障害の病態に応じたマネージメントを選択する. 治療前治療後図4眼表面疾患での薬剤毒性眼表面疾患のマネージメントでは薬剤毒性について常に考慮することが重要である.原則として薬剤の休薬によりwashoutを図る.人工涙液によるドライアイ治療や消炎治療が早期改善に有効な症例が多い. 図5遷延性角膜上皮欠損遷延性角膜上皮欠損では円形の上皮欠損と断端上皮の肥厚が特徴である.欠損部表層は実質変性により上皮伸展が障害される.さまざまな病態が含まれるため増悪因子を見きわめたマネージメントを計画する必要がある. 図6一時的瞼板縫合難治性の遷延性角膜上皮欠損のマネージメントでは一時的な瞼板縫合が有効となる.とくに重症ドライアイや神経麻痺などが関与する場合には適応を検討する. 36あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(36)【眼類天疱瘡のマネージメント】眼類天疱瘡は上皮基底膜成分に対する自己免疫性疾患であり,BP160抗原,ラミニン5,インテグリンb4などが主要な抗原となり発症する.全身粘膜症状をもつ瘢痕性類天疱瘡(mucusmembranepemphigoid)のうち,眼表面のみに発症したものを眼類天疱瘡と定義する.慢性的な結膜炎から結膜下組織増殖,瞼球癒着,結膜.短縮などの結膜瘢痕が進行し,最終的には角膜上皮疲弊から結膜被覆される難治性疾患の一つである.が生じると結膜瘢痕化と輪部疲弊が進行し,さらに眼瞼異常や涙液減少の重症化に至るため,早期治療と眼表面全体をみすえたトータルな治療が必要となる.表1瘢痕性角結膜上皮症1.熱化学外傷2.Stevens-Johnson症候群3.眼類天疱瘡・偽眼類天疱瘡4.Graftversushostdisease(GVHD)5.放射線角膜上皮症受傷時受傷6日後受傷35日後図7輪部障害の評価と急性期マネージメント受傷後に輪部障害範囲の把握と残存上皮を観察し重症度分類(木下分類)を行う.急性期のマネージメントは消炎治療を行いながら残存輪部(矢頭)からの角膜上皮化をめざす.PEDPEDPEDmSCL/tarrsorphy上皮移植Medical(創傷治癒促進)Medical(瘢痕化抑制,創傷治癒促進))SuccessSuccess部分的輪部障害全輪部障害図8輪部障害と手術適応表1瘢痕性角結膜上皮症1.熱化学外傷2.Stevens-Johnson症候群3.眼類天疱瘡・偽眼類天疱瘡4.Graftversushostdisease(GVHD)5.放射線角膜上皮症受傷時受傷6日後受傷35日後図7輪部障害の評価と急性期マネージメント受傷後に輪部障害範囲の把握と残存上皮を観察し重症度分類(木下分類)を行う.急性期のマネージメントは消炎治療を行いながら残存輪部(矢頭)からの角膜上皮化をめざす.PEDPEDPEDmSCL/tarrsorphy上皮移植Medical(創傷治癒促進)Medical(瘢痕化抑制,創傷治癒促進))SuccessSuccess部分的輪部障害全輪部障害図8輪部障害と手術適応 図9早期眼類天疱瘡慢性結膜炎より結膜下固有層の線維性増殖をきたし,さらに進行すると結膜.短縮から瞼球癒着へ進行する.この時期よりステロイド点眼により進行を予防することが重要である.図10角膜上皮形成術眼表面腫瘍を切除後に0.04%マイトマイシンCを5分間原発部に作用させる.結膜断端を冷凍凝固処理した後に,新鮮角膜を用いた角膜上皮形成術を施行する.4.5つ程度のレンティクルを周辺角膜より作製し,輪部に縫着することで角膜再建を行う(上:術前,下:術後). 図11結膜悪性黒色腫球結膜限局の悪性黒色腫は完全切除により予後は比較的良好であるが,眼瞼結膜への伸展症例は予後不良である.-

角膜感染症治療の基本方針

2015年1月30日 金曜日

特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):25.29,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):25.29,2015角膜感染症治療の基本方針BasicTreatmentStrategyforInfectiousKeratitis外園千恵*はじめに角膜感染症の発症背景はさまざまであり,起炎菌によって眼所見も異なる.使える薬剤も多岐にわたることから,感染症の診断と治療は専門的でむずかしいと思われがちである.しかし,基本となる考え方を知っておくと,診断と治療を論理立てて進めることができる.感染の成立と進行にはホストの免疫反応が関係しており,ホストと病原体の関係をよく考えることが診断に役立つ.角膜は透明な組織であり,感染巣を直視下に観察できる.病原体によって感染巣の形態はさまざまであり,いくつかの特徴を知っておくと起炎菌をおよそ推測できる.病巣から検体を採取して起炎菌を同定できれば,迷いなく治療を進められる.考える,見る,確認するという,3つの作業が角膜感染症の的確な診断と治療につながる.Iホストと病原体の関係角膜感染症の診断は,もともと健康なホストに発症した感染か,日和見感染かを考えたい.図1Aは,結膜充血が高度,実質内膿瘍があり,前房蓄膿を伴う.病原体に対するホストの生体反応が強い.このような感染症は,外傷あるいはコンタクトレンズの不適切なケアにより発症し,起炎菌として緑膿菌や糸状型真菌が疑われる1).防御力の強いホストに,病原性の強い菌が感染した状態といえる(図2A)図1Bは,移植後の角膜感染症である.充血は軽度,前房の炎症所見も少なく,視力低下を伴っていない.全身あるいは眼表面が免疫不全状況にある患者に,病原性AB図1角膜感染症の2つのパターンA:コンタクトレンズ関連角膜感染症,B:移植後角膜感染症.*ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕外園千恵:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(25)25 AB防御力大病原性強防御力小病原性弱防御力大病原性弱C図2ホストと病原体の関係の弱い菌で感染が成立した日和見感染である(図2B).具体的にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillinresistantStaphylococcusaureus:MRSA)などの耐性菌あるいは酵母型真菌が起炎菌となりやすい.日和見感染を生じる全身的な背景としては,高齢,糖尿病,アトピー,入院,免疫抑制などであり,長期のステロイド点眼,長期の抗菌薬点眼,瘢痕性角結膜上皮症もリスク因子となる2).防御力の強いホストに,病原性の弱い菌で感染が成立することがある(図2C).外傷や角膜手術などにより角膜実質内に病原体が持ち込まれた場合である.強い生体反応を伴うが,病原体が角膜実質層間に存在するため抗菌薬が作用しにくく治りにくい.II発症の速さ・治り方発症の速さは病原体によって異なり,一般的に細菌,真菌,アカントアメーバの順に進行が速い.進行の速い病原体は,治療への反応も早い(図3).細菌性角膜炎は,たとえば「朝痛い,と思ったら夜には我慢できなくなった」というように急速に悪化する.後述するように抗菌薬の頻回点眼を要することも多いが,適切な抗菌薬により数日単位で速やかに改善する.一方,真菌,アカントアメーバによる感染は比較的ゆっくりと発症する.細菌のなかで非定型抗酸菌はきわめて緩徐に増殖し,非感染性の炎症所見と鑑別困難な場合26あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015進行速度速い遅い細菌<真菌<アカントアメーバ淋菌緑膿菌MRSA非定型抗酸菌糸状型真菌酵母型真菌治療効果の発現早い遅い図3病原体と進行速度がある.日和見感染の原因となる酵母型真菌は,外傷性感染の原因となる糸状型真菌よりも増殖が遅い.進行の遅い病原体ほど,感染かどうかがわかりにくく,ステロイドの局所投与がなされがちである.しかし,ステロイドにより感染所見がマスクされ,重篤化することに注意を要する.進行の遅い病原体は,治るのもゆっくりである.2.3日で改善しないからと焦ることはなく,少しずつでも改善すれば必ず治る.III治療の立ち位置初診時,起炎菌がわからない時点の治療(初期治療)では,あらゆる病原体に対処できるよう広域スペクトルの抗菌薬ないし異なる2系統の抗菌薬を用いることが多い.擦過検鏡や培養検査により起炎菌を同定できれば,感受性のある(その菌に有効な)抗菌薬による適正治療を行うことができる(図4).自分がどの段階の治療を行っているのか,その立ち位置がわからないときは,森の中で道に迷っているようなものである.そのような場合には,治療経験の豊富な医師に相談するなど,指針を仰ぐことが望ましい.IV手堅く調べておこう初期治療で治ればラッキーである.しかし,MRSAなどの薬剤耐性菌,真菌,アカントアメーバは一般的な初期治療では治らない.効かないときでも適正治療へ切(26) り替えられるように,病巣部を擦過して塗抹検鏡と分離培養を行うことが大切である3).いったん抗菌薬投与を開始したのちに培養検査を行うと陰性となりやすく,抗菌薬投与前に検体を採取することが望ましい.塗抹検鏡と分離培養には長所と短所があり,できれば両方を行う治療開始前の検査(擦過検鏡・培養)を実施病歴・臨床所見から原因微生物を推理初期治療通常,3~4日を要する適正治療(検出した病原体に対する治療)図4初期治療と適正治療とよい.薬剤感受性がわかれば,自信をもって適正治療を進めることができる.1.塗抹検鏡直接検鏡により病原体を認めれば,迅速診断につながる.菌量や好中球浸潤の程度も把握できる(図5).しかし,検鏡では菌種の確定ができず,薬剤感受性はわからない.2.培養検査分離培養で細菌が検出されれば菌種が確定し,薬剤感受性検査を実施できる.ただし,眼瞼や結膜の常在細菌を検出する可能性がある.また,培養条件によって増えやすい菌,増えにくい菌がある.検鏡の結果や角膜所見とあわせて起炎菌かどうかを判断する.図5は,いずれもリウマチ患者に生じた日和見感染であり,よく似た小さい感染巣を呈している.図5Aの症AB図5角膜感染症と検鏡所見いずれもリウマチ患者に生じた日和見感染であり,よく似た小さい白色感染巣がある(矢印).A:多数のグラム陽性球菌,好中球浸潤を認め,培養検査でMSSAを検出.B:検鏡で多数の酵母型真菌を認め,培養検査でCandidaparapsilosisを検出.(27)あたらしい眼科Vol.32,No.1,201527 28あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(28)a.細菌と真菌の違い細菌感染は好中球浸潤を伴い,感染巣の辺縁は「丸い」ことが多い.一方,真菌感染は菌糸が発育して「羽毛状」の辺縁を呈しやすい.b.細菌による違いブドウ球菌感染は円形ないし楕円形の形状を呈しやすく,周辺の角膜は比較的透明である.緑膿菌は典型的には輪状膿瘍を呈し,周辺の角膜実質はすりガラス状に混濁する.c.アカントアメーバの特徴初期には偽樹枝状病変あるいは放射状角膜神経炎を呈し,いずれかを認めることが診断に役立つ4).進行すると角膜ヘルペスに似た円板状の実質混濁となるが,角膜ヘルペスでは円形混濁を呈するのに対して,アカントアメーバ角膜炎では眼瞼の形状に添った楕円形を呈しやすい.VI薬剤の選択と投与法ブドウ球菌は,セフェム系およびキノロン系抗菌薬に感受性が良好である.b-ラクタム系抗菌薬はレンサ球菌によく効くが緑膿菌にはほぼ無効である.逆にアミノグリコシド系抗菌薬は,緑膿菌に有効だが連鎖球菌には効かない(表1).起炎菌の推測をもとにこれらの薬剤を使用し,検査結果から感受性を示す薬剤がわかれば,それを選択する5).投薬は局所投与が基本であり,重症な場合に前房内移行を考慮して点滴を併用することがある.若年者では反射性流涙による薬剤希釈を考慮し,重症度に応じて1日6回.1時間ごとの頻度で点眼する.VII効かないとき,どう考えるか治療への反応が乏しいときは,治療方針のチェックが原則である.そのほかの要因として以下を考慮する.1.コンプライアンス薬剤を処方したから治るとは限らない.点眼は患者任せであり,コンプライアンスをチェックする.症状が改善すると点眼をやめる若者もいれば,点眼が下手で治療できていない高齢者もいる.例では検鏡で多数のグラム陽性球菌,好中球浸潤を認め,培養検査でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus:MSSA)を検出した.MSSAによる角膜感染症と診断した.図5Bの症例は,検鏡で多数の酵母型真菌を認め,培養検査でCandidaparapsilosisを検出,Candidaparapsilosisによる角膜感染症と診断した.MSSA,Candidaparapsilosisともに,感染所見のない眼表面から検出されることもあり,培養検査だけでは起炎菌と言えない.検鏡での検出菌と培養結果が一致したことで,起炎菌と考えられる.図5Bの症例は検鏡で好中球浸潤がない.生体が反応していないことがわかり,高度の日和見感染といえる.V所見の取り方―病原体ごとに個性がある―肉眼的に眼瞼浮腫や発赤の程度を把握する.弱拡大で充血,感染病巣の形状を確認,強拡大で前房炎症,感染巣辺縁の形,細胞浸潤の程度などを検討する.1.感染巣の部位細菌性角膜炎は,角膜中央ないし中央付近に病巣を形成しやすい.角膜周辺とくに輪部に沿った潰瘍は,免疫反応の関与する病態(周辺部角膜潰瘍など)であることが多い.ただし外傷や角膜手術後の感染症では,この限りではない.2.感染巣の形2)病原体によって感染巣の形状が異なる.いずれの病原体であっても重症化すると実質内膿瘍を形成し,それぞれの特徴はわかりにくくなる.表1薬剤の選択グラム陽性グラム陰性ブドウ球菌レンサ球菌緑膿菌b-ラクタム系◎◎△キノロン系◎○.◎◎.○アミノグリコシド系○×◎◎感受性良好○感受性やや良好△感受性やや乏しい×感受性乏しい表1薬剤の選択グラム陽性グラム陰性ブドウ球菌レンサ球菌緑膿菌b-ラクタム系◎◎△キノロン系◎○.◎◎.○アミノグリコシド系○×◎◎感受性良好○感受性やや良好△感受性やや乏しい×感受性乏しい 表2薬剤毒性による角膜障害・角膜真菌症,アカントアメーバ角膜炎における薬剤毒性はわかりにくい患者背景,発症誘因,角膜所見などから起炎菌を推測.塗抹検鏡は迅速診断に有用.培養検査も併せて行う.・点眼回数,濃度が適切か・自家調整薬ではEBMがあるかどうか自問・細胞浸潤の増減・前房炎症の有無軽症では1剤,重症では作用機序の異なる2剤の抗菌点眼薬を使用.重症例では点滴併用.〈初期治療薬の例〉・グラム陰性桿菌疑い→キノロン系+アミノグリコシド系・グラム陽性球菌疑い→キノロン系+セフェム系・眼瞼縁の発赤,浮腫はどうか・薬をいったん止めてみるのも一つの方法有効無効菌の同定菌の同定不能菌の同定菌の同定不能初期治療を継続するか,感受性のある薬剤に変更感受性のある薬剤に変更起炎菌推定と治療方針の見直し図6細菌性角膜炎の治療手順(感染性角膜炎診療ガイドライン,第2版)

MGD,マイボーム腺炎の診療エッセンス

2015年1月30日 金曜日

特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):17~23,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):17~23,2015MGD,マイボーム腺炎の診療エッセンスPracticeofMGDandMeibomitis鈴木智*はじめにマイボーム腺は皮脂腺の一種で,上下眼瞼の瞼板内に存在し,その開口部は粘膜皮膚移行部(muco-cutaneousjunction:MCJ)のすぐ皮膚側に存在していることから,眼表面に近接している.また,マイボーム腺からの分泌脂(meibum)は涙液の最表層である油層を形成し,1)涙液の蒸発抑制,2)涙液の表面張力の低下,3)瞬目における潤滑作用,4)光学的に平滑な眼表面の形成,などの重要な作用を有している.そのため,マイボーム腺に異常を生じると,眼表面に異常が生じうるのである.逆に,眼表面に異常をみたら,必ず眼瞼縁,とくにマイボーム腺に異常がないかを確認することで,疾患の本態を把握し効果的な治療が可能になる.すなわち,マイボーム腺と眼表面を一つのユニットとして考えることが重要である.Iマイボーム腺観察のポイント1.スリットランプによる観察が基本前眼部をスリットランプで観察する際には,いきなり強拡大で眼表面の観察に入るのではなく,最初に拡散光を用いて弱拡大で眼瞼~眼瞼縁を含めて前眼部をひとまとめに観察する(図1a,b).マイボーム腺異常と眼表面の病変との関連がないかどうかを常に念頭に置きながら観察することが重要である.眼瞼縁の観察では,睫毛根部とともにマイボーム腺開口部の変化に注目する.睫毛根部に特徴的なcollaretteを認めればブドウ球菌性眼瞼炎が考えられるが,慢性的な炎症が持続すると二次的にマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)を生じていることがある(図2).マイボーム腺開口部周囲の観察では,血管拡張(vascularity),MCJの異常,眼瞼縁の不整(irregularity),meibumの分泌の有無や性状などがポイントとなる.近年,マイボーム腺の導管や腺房の構造を眼瞼結膜側から赤外光を用いて観察するマイボグラフィー法が普及してきている1)が,まずはスリットランプでの観察が基本である.2.マイボーム腺の分泌低下/分泌増加マイボーム腺の分泌異常は,分泌の「低下」(図3a)と「増加」(図3b)に大別できる.分泌「低下」には,腺房細胞におけるmeibumの産生そのものが低下している場合と,マイボーム腺開口部が閉塞することによる分泌障害による場合とがある.前者は,加齢に伴いアンドロゲン濃度が低下し腺房細胞が萎縮した状態であるが,後者はマイボーム腺開口部の過角化(hyperkeratinization)が先行し,産生されたmeibumが分泌されない状態である.逆に,分泌「過剰」とは,眼瞼縁を指で圧迫した際にmeibumが多量に分泌される状態で,脂漏性皮膚炎に合併することが多い.meibumの組成に変化が生じると涙液メニスカスに泡を形成する(foaming)ことがある.*TomoSuzuki:京都市立病院眼科〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生町東高田町1-2京都市立病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(17)17 18あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(18)4.眼瞼および眼瞼縁の隆起マイボーム腺内で急性化膿性炎症が生じたものが内麦粒種であり,慢性の肉芽腫性炎症が生じたものが霰粒腫,マイボーム腺内でmeibumが固化したものがマイボーム腺梗塞,そして腫瘍などで隆起や腫瘤が認められる.IIマイボーム腺機能不全マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)は,日本では2010年にMGDワーキンググループによって,「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快症状を伴う」疾患と定義された2).日本人に多い,分泌減少型MGDの診断には,自覚症状とともにスリットランプによる以下の所見1のa~cのうち少なくとも1つ,また所見2の陽性が必要である.1.マイボーム腺開口部周囲の異常所見a.血管拡張加齢とともにマイボーム腺開口部周囲の血管拡張は増加する傾向にあるが,MGDではさらに顕著な例が多い.b.MCJの前方あるいは後方移動MCJの位置は,フルオレセイン染色で涙液を染色す3.マイボーム腺の炎症/非炎症(図4a~d)マイボーム腺開口部の閉塞が認められる場合,開口部付近のみならず,マイボーム腺そのものに炎症がないかを注意して観察する必要がある.眼瞼を翻転してみると,開口部付近の瞼結膜に炎症所見が認められることがある(図5).マイボーム腺そのものに炎症があるかないかは,眼表面の所見に影響を及ぼし,治療方針も異なる可能性がある.ab図1マイボーム腺異常と角膜の異常の関係a:角膜浸潤部を強拡大・スリット光で観察した所見.b:aと同じ眼を弱拡大・拡散光で観察した所見.bでは,角膜の浸潤部の延長線上にマイボーム腺開口部の異常が認められる.図2前部眼瞼炎とMGD睫毛根部にフィブリンの膜様物質が認められる(collarette).二次性MGDによって下眼瞼縁の不正も認められる.ab図1マイボーム腺異常と角膜の異常の関係a:角膜浸潤部を強拡大・スリット光で観察した所見.b:aと同じ眼を弱拡大・拡散光で観察した所見.bでは,角膜の浸潤部の延長線上にマイボーム腺開口部の異常が認められる.図2前部眼瞼炎とMGD睫毛根部にフィブリンの膜様物質が認められる(collarette).二次性MGDによって下眼瞼縁の不正も認められる. あたらしい眼科Vol.32,No.1,201519(19)み,眼瞼縁が不整になる.2.マイボーム腺開口部の閉塞所見a.開口部の閉塞meibumの性状の変化による融点上昇によって,開口部付近の導管内でのmeibumの粘度上昇・固形化や,導管開口部上皮の過剰な角化を反映した所見が診られる際に容易に確認することができ,”MarxLine”と呼ばれている3).正常では,開口部より後方にまっすぐな染色ラインとして観察できるが,MGDでは染色ラインが前方(皮膚側)あるいは後方(粘膜側)にシフトしている場合がある.c.眼瞼縁の不整MGDが進行し腺組織が萎縮すると,開口部付近が凹ab図3マイボーム腺からの分泌の低下(a)と増加(b)abcd図4a,b:非炎症性・閉塞性MGD,c,d:炎症性・閉塞性MGD(マイボーム腺炎)ab図3マイボーム腺からの分泌の低下(a)と増加(b)abcd図4a,b:非炎症性・閉塞性MGD,c,d:炎症性・閉塞性MGD(マイボーム腺炎) 図5マイボーム腺炎眼瞼を翻転して眼瞼結膜側から観察することで,マイボーム腺開口部周囲の炎症が明らかとなる. あたらしい眼科Vol.32,No.1,201521(21)ある.角膜フリクテンの原因は,かつては,結核菌やブドウ球菌に対するアレルギーなどと考えられていたが,実際には患者からこられの病原体を検出することはまれである.患者のmeibumの培養結果7,8)および動物モデルの実験9)から,フリクテン型の原因はP.acnesの示す抗原に対する遅延型アレルギー反応(delayedtypehypersensitivity:DTH)の可能性が高く,開口部が閉塞したマイボーム腺内で嫌気性菌であるP.acnesが増殖してマイボーム腺炎を生じていると想像される.治療は,マイボーム腺内で増殖していると考えられる細菌の薬剤感受性に合わせた抗菌薬の内服治療が奏効する.とくに,若年者ではP.acnesに感受性の良い抗菌重症度と角膜障害の重症度は相関する.1.MRKC(フリクテン型)若年女性に圧倒的に多くみられる病態で,マイボーム腺開口部は閉塞しており,かつ開口部周囲の発赤・腫脹などの炎症所見が明らかである(図4a,b,7a).眼瞼を翻転して眼瞼結膜側から観察することで,マイボーム腺に沿った(とくに開口部周辺の)炎症所見を認める(図5).患者は,幼少時より霰粒腫を繰り返している場合が多く,特徴的なHLA(humanleukocyteantigen,ヒト白血球抗原)を認めることから,もともとマイボーム腺に異常をきたしやすい遺伝的素因があると考えられる7).フリクテン型が高齢者に認められることはまれでab図6非炎症性・閉塞性MGD(図4a)と同症例フルオレセイン染色で,角膜下方を中心としたSPKを認める.図7MRKC(フリクテン型)抗菌薬内服治療前(a)と治療後(b)a:角膜フリクテンの延長線上の眼瞼縁にマイボーム腺炎を認める.b:眼表面炎症とともにマイボーム腺炎も消退している.abab図6非炎症性・閉塞性MGD(図4a)と同症例フルオレセイン染色で,角膜下方を中心としたSPKを認める.図7MRKC(フリクテン型)抗菌薬内服治療前(a)と治療後(b)a:角膜フリクテンの延長線上の眼瞼縁にマイボーム腺炎を認める.b:眼表面炎症とともにマイボーム腺炎も消退している.ab 22あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(22)2.MRKC(非フリクテン型)マイボーム腺炎を認めるものの,角膜には結節性細胞浸潤は伴わず,SPKが主体となっている病態が存在する(図8a,b)5).この場合も,マイボーム腺炎の重症度と,眼表面炎症の重症度は相関しており,炎症が高度になると血管新生も伴うようになる.フリクテン型と同様に若年女性に多い印象ではあるが,性別や年齢に一定の傾向があることは未だ報告されていない.meibumの細菌培養では,主な検出菌が20~40歳代ではP.acnesであるのに対して,70歳代ではブドウ球菌であることから,非フリクテン型の起因菌も年齢によって変化している可能性が推測される.細胞浸潤が結節状になるかどうかについては宿主の免疫状態が関与している可能性が推測される,細菌増殖によるマイボーム腺炎が角膜障害の原因であると考えられるため,その治療が基本となる.若年者はP.acnesを,高齢者ではブドウ球菌を念頭に置いて,抗菌薬の内服治療を行う.文献1)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmeibographytodocumentage-relatedchangesofthemeibomianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,20082)天野史郎(マイボーム腺機能不全ワーキンググループ):マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20103)YamaguchiM,KutsunaM,UnoTetal:Marxline:薬,すなわち初期はセフェム系抗菌薬で殺菌的に菌量を減らし,その後クラリスロマイシンなどで静菌的に常在細菌をコントロールするという使用法が有効である(図7b).点眼もセフェム系抗菌薬が有用である,ステロイド薬については,初期に眼表面の炎症が強い場合には短期的な投与が必要になる場合があるが,眼表面の炎症が改善した時点で治療を終了すると再発しやすい.これは,マイボーム腺炎に関連していると考えられる細菌が十分に減菌・除菌されていないためと考えられる.再発を繰り返すと病態が非常に複雑になり,重度の視力低下を生じることもある.マイボーム腺炎の改善は,眼表面の炎症の鎮静化よりも少し遅れることに注意しなければならない.重症例および難治例にはマイボーム腺内の抗菌薬の濃度を高める目的で感受性のある抗菌薬の点滴を行うことも効果的である10).角膜周辺部での穿孔例や瘢痕の強い症例については角膜移植を行うが,原則として周辺部表層角膜移植を選択するべきである.フリクテン型の重症例とヘルペスウイルスによる壊死性角膜炎は,ともに角膜実質内に細胞浸潤や血管侵入が認められるが,壊死性角膜炎では通常マイボーム腺炎は認められず中高齢者に多いことなどが鑑別のポイントとなる.なお,亜熱帯地方では,類似の所見がDemodexでも生じるという報告があるが11),Demodexそのものが角膜炎の原因となりうるかどうかは現時点では不明である.図8MRKC(非フリクテン型)a:上眼瞼縁の中央部にマイボーム腺炎を認める.b:角膜上方にSPKとともに表層血管侵入を認める.ab図8MRKC(非フリクテン型)a:上眼瞼縁の中央部にマイボーム腺炎を認める.b:角膜上方にSPKとともに表層血管侵入を認める.ab

ドライアイの治療方針:TFOT

2015年1月30日 金曜日

特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):9~16,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):9~16,2015ドライアイの治療方針:TFOTTherapeuticGuidelineforDryEye:TearFilmOrientedTherapy(TFOT)横井則彦*はじめにわが国において,ドライアイは「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義される1)が,ここには3つのドライアイの骨子が含まれ,それらは階層構造をなす.すなわち,ドライアイとは,背景にあるさまざまな要因(ドライアイのリスクファクター)が,眼表面の涙液と上皮の関係に悪循環(コア・メカニズム)を引き起こし,結果として,眼不快感と視機能異常に総称される自覚症状を引き起こす疾患といえる.これまで,わが国においては,ドライアイのコア・メカニズムとして「涙液層の安定性の低下」が重視されてきた2)が,近年,眼表面に対する成分補充でこのメカニズムを改善しうる点眼液が登場し「涙液層の安定性の低下」を治療のターゲットする新しい眼局所治療の考え方,TFOT(tearfilmorientedtherapy,眼表面の層別治療,用語解説参照)(図1)が誕生した3~6).本稿では,日本のドライアイの最新の考え方を紹介しながら,TFOTの現状を解説する.Iドライアイのコア・メカニズム涙液をフルオレセインで染色してスリットランプで観察すれば,その違いは明確であるが,「涙液層の安定性の低下」は可視化しうるドライアイのもっとも重要な他覚所見である(図2).また,涙液層の安定性の低下は涙液層の破壊を引き起こし,涙液層の破壊はサブクリニカ【眼表面の層別治療】治療対象眼局所治療油層液層水分分泌型ムチン膜型ムチン上皮細胞(杯細胞)自己血清(レパミピド)ステロイドレパミピド**人口涙液,涙点プラグヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウム温罨法,眼瞼清拭少量眼軟膏,ある種のOTCジクアホソルナトリウム*ジクアホソルナトリウムレパミピドジクアホソルナトリウムレパミピド上皮眼表面炎症(監修:ドライアイ研究会)*ジクアホソルナトリウムは,脂質分泌や水分分泌を介した油層伸展促進により涙液油層機能を高める可能性がある**レパミピドは抗炎症作用によりドライアイの眼表面炎症を抑える可能性がある図1TFOTの概念図ドライアイ研究会のホームページhttp://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlからダウンロードできる.ルにせよ上皮の障害を引き起こす.そして,上皮の障害は,上皮の水濡れ性(用語解説参照)の低下を介して,涙液層の破壊を引き起こす.すなわち「涙液層の安定性の低下」は,ドライアイの眼表面における悪循環(コア・メカニズム)そのものを意味する.そのため,涙液層の液層(用語解説参照)の菲薄化(図2右図)を意味するフルオレセイン破壊時間(いわゆるBUT:breakuptimeoftearfilm,用語解説参照)は,ドライアイを評価するうえで有用な指標となる.また,「涙液層の安定性の低下」は,頻度の高いドライアイの症状をうまく説明する.すなわち,角膜表面における涙液層の破壊は,涙液の被覆を欠く上皮表面を生じるため,ドライアイの*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(9)9 図2健常眼(左図)とドライアイ(右図)の眼表面の違い涙液のフルオレセイン染色により,開瞼維持時の涙液層の安定性の低下(△:darkspot)がドライアイのもっとも重要な他覚所見であることがわかる. リスクファクターが関与し,これらが結果として涙液の異常を生み,ドライアイのコア・メカニズムを眼表面に生じせしめる(図3).「涙液層の安定性の低下」に関係する内因性のリスクファクターとしては,性,加齢,全身疾患,眼疾患,治療(薬)の影響などがあり,たとえば女性であること,糖尿病,兎眼,抗コリン作用薬の服用,b遮断薬の点眼,VDT(visualdisplayterminals)作業,コンタクトレンズ装用,低温・低湿度環境での作業などが関係しうる.一方,「瞬目時の摩擦亢進」に関係する内因性,外因性のリスクファクターとしては,加齢,涙液減少,眼瞼疾患,結膜疾患,眼瞼手術などがある.いずれにしてもドライアイの上流のリスクファクターは,対策の講じにくいものがほとんどであるため,ドライアイの治療は,おのずと眼表面に向けられるのが現状である.内因性・外因性のさまざまなリスクファクター角膜表層上皮障害油層涙液層の安定性の低下悪循環涙液層破壊ドライアイの眼表面の表現型眼瞼結膜(Thelidwiper)角結膜表面涙液悪循環瞬目時の摩擦亢進自覚症状(眼不快感・視機能異常)図32つのコア・メカニズムを導入したドライアイの階層構造ドライアイでは,さまざまな上流(背景)のリスクファクターによって,開瞼維持時は,「涙液層の安定性の低下」によって,瞬目時には,「瞬目時の摩擦亢進」によって悪循環を生じ,眼不快感・視機能異常に総括されるさまざまな自覚症状が引き起こされると考えられる.(文献6より引用改変)図4瞬目時の摩擦亢進を背景にもちうる眼表面疾患Lid-wiperepitheliopathy(左上),上輪部角結膜炎(右上),糸状角膜炎(左下),結膜弛緩症(右下)(上図は,リサミングリーン染色像,下図は,ブルーフリーフィルターを用いたフルオレセイン染色像).(11)あたらしい眼科Vol.32,No.1,201511 12あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(12)TFOTを活用するためには,眼表面に不足する成分を看破しうるドライアイの診断法,すなわち,TFOD(tearfilmorienteddiagnosis:眼表面の層別診断)が必要であり,現在,その方法が模索されている.そのような中で,筆者らは涙液層のブレイクパターンに基づくTFODを開発した2~6,13).以下には,筆者らのTFODとそれを用いたTFOTを紹介する.V涙液層のブレイクパターンに基づくTFOD涙液層の安定性にかかわる眼表面の構造として,涙液層〔表面から油層およびムチンゲル(水分+分泌型ムチン)〕と角膜最表層上皮が重要である.そして,最表層上皮は,その表面に膜型ムチンを発現して上皮の水濡れ性を維持している.涙液層の安定性を保つため,これらの眼表面の成分の不足を看破するTFODの1つとして,筆者らが考案した,開瞼に伴う涙液層の形成過程を考慮した涙液層のブレイクパターン分類は非常に有用と思われる.VIフルオレセインを用いた効果的なTFODのやり方フルオレセインを用いて効果的にTFODを行うためには,フルオレセインによる涙液の染色方法,瞬目の指示,所見の捉え方について以下の方法に従うと良い.まず,フルオレセイン試験紙に生理食塩水などを2滴落として,強く振り切り,余分な水分を除いた後,涙液貯留量を変えないように,下方メニスカスの水際を想定しながら,下眼瞼縁中央にフルオレセイン試験紙の中央を軽くあてるだけの操作で涙液染色を行う.次に,3回程度の軽い瞬目の後,いったん軽い閉瞼を指示した後パッと眼を開けてもらい(一種の負荷試験であり,ブレイクアップを引き起こしやすくする),角膜上でのフルオレセインの上方への動きを観察しながら,ブレイクパターンを分類する.なお,ブレイクパターンの分類においては,再現性の高いパターン(通常,フルオレセインBUTの3回測定における2回以上)をもって,病態の本質にかかわるブレイクパターンとしてとらえるのが良いと思われる.IIIドライアイの自覚症状とコア・メカニズムとの関係ドライアイの自覚症状としては,眼乾燥感以外に,霧視,羞明,眼精疲労といった視機能に関係する症状,異物感,眼痛といった眼刺激症状が聴取され,これらは,ドライアイの定義にある眼不快感,視機能異常に包括されうる.また,眼乾燥感,視機能異常は「涙液層の安定性の低下」により,異物感,眼痛(とくに眼表面の瞬目時の痛み)は「瞬目時の摩擦亢進」により説明できる場合が多いと考えられる.近年,涙液量に異常を認めず,上皮障害がほとんどないにもかかわらず,BUTの異常と強い自覚症状を呈する「BUT短縮型ドライアイ8~10)」が治療を要するドライアイのサブタイプとして注目されてきている.本疾患では,視機能に関係し,知覚の鋭い角膜中央寄りで涙液層の破壊が生じやすいことが強い症状に関係しているのではないかと考えられるが,近年,本疾患とムチンの異常との関連が示唆11)されるとともに,ムチンの分泌・産生を促進する新しい点眼液が日本に誕生12)したこともあり,本疾患への関心がますます高まっている.本疾患のコア・メカニズムは,まさしく「涙液層の安定性の低下」にあり,米国を中心とするドライアイの炎症説では,病態の説明はむずかしいと考えられるため,今後,本疾患の深い理解が,コア・メカニズムとしての「涙液層の安定性の低下」の理解の発展に大いに役立つと思われる.IVTFOT(tearfilmorientedtherapy:眼表面の層別治療)先に述べたように「瞬目時の摩擦亢進」のメカニズムの理解は,まだ十分ではない.しかし,わが国においては,2010年12月,2012年1月にそれぞれ,ムチン/水分分泌促進剤,ムチン産生促進剤がドライアイ治療薬として誕生したことを受けて,日本発,世界初の画期的なドライアイ治療の考え方─眼表面の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)─が誕生した2~6).これは,涙液と上皮からなる眼表面にその不足成分を補充して,涙液層の安定性を最大限に高め,ドライアイを治療しようとする眼局所治療のコンセプトである.しかし, あたらしい眼科Vol.32,No.1,201513(13)IXSpotbreak(図5b,6b,7)開瞼直後から観察される類円形のブレイクパターンである.早すぎて観察できないはずの第1ステップで,角膜表面に水がはじかれるかのごとくにブレイクが観察される.しかし,直径が比較的小さい場合や深度の浅いブレイクでは,第2ステップで油層が水分を上方に運んでくると消失する(フルオレセインの上方移動中にブレイクを乗り越える形で消失する).開瞼に伴う角膜表面への水分の塗りつけ過程で生じるため,角膜最表面上皮の水濡れ性低下(膜型ムチンの発現低下)が病態として推定され,その補充が治療となり,ジクアホソルやレバミピドといったムチン関連薬点眼12)の適応となる.ドライアイのタイプとしては,水濡れ性低下型ドライアイという新しい病型を提案することができ,BUTは0秒となるため,BUT短縮型ドライアイの最重症例に相当し,一般に角結膜上皮障害はないか,あっても軽微である.XLinebreak(図5c,6c,7)第1ステップは良好に行われるが,第2ステップにおいて,フルオレセインの上方移動中に,角膜下方で線状のブレイクパターンとして認められる(油層の上方伸展に伴う水分の上方移動と下方の涙液メニスカスの陰圧による液層の菲薄化の相互作用で生じる).中等度までのVII開瞼とその維持におけるブレイクパターンの出現様式(図5)開瞼後,涙液層が角膜表面に形成されるまでのステップは,大きく2つに分けられる.まず第1ステップは,開瞼に伴う角膜表面への涙液の水分の塗り付け過程(図5a,b)であり,第2ステップは,開瞼後の油層の上方伸展によってもたらされる角膜上での水分の上方移動(図5d)であり,この2つのステップを経て,角膜上に完全な涙液層が形成される(図5e).フルオレセインで涙液を染色し,3回程度の軽い瞬目と閉瞼の後,パッと眼を開てもらうと,第1ステップは速度が速いために観察できないが,第2ステップは開瞼後の角膜上でのフルオレセインの上方移動として観察することができる.そして,この2つのステップを考慮しながら,ブレイクパターンを観察することによって,ドライアイの病型分類,病態把握,TFOTに基づく眼局所治療の選択のすべてを行うことができる.以下には,TFODにおける5つのブレイクパターン(図5,6)とその病態に基づくTFOD(図7)を開瞼に伴う経時的な出現順に紹介する.VIIIAreabreak(図5a,6a,7)開瞼直後から観察される角膜上の広い範囲(典型例では全面)のブレイクパターンである.涙液の水分減少が高度であるために,第1ステップが不完全で,水分を足場とする油層の上方伸展も得られず,第2ステップも完遂されない.したがって,開瞼後のフルオレセインの上方移動がみられない(みられても角膜下方に限局する).高度の水分減少が病態の中心をなし,水分の確保が治療となる.涙液減少型ドライアイの最重症例に相当し,角結膜上皮障害は,非常に高度で,しばしば上皮障害とともに角膜上には,mucusの付着(patchySPK,cornealmucusplaque,用語解説参照)や角膜糸状物を伴う.SLK様の上方球結膜の上皮障害やlid-wiperepitheliop-athyも伴いうる.TFOTとしては,上・下の涙点プラグ挿入と塩化ベンザルコニウムフリーの人工涙液点入の適応となる.開瞼直後開瞼後開瞼中LinebreakRandombreakDimplebreakAreabreakacdeSpotbreakb図5開瞼とその維持におけるブレイクパターンの出現様式赤領域:涙液層破壊,黄色矢印:開瞼後の油層の上方伸展,上向き緑矢印:油層の上方伸展に伴う水分の上方移動,下向き緑矢印:下方メニスカスの陰圧による液層の菲薄化.開瞼直後開瞼後開瞼中LinebreakRandombreakDimplebreakAreabreakacdeSpotbreakb図5開瞼とその維持におけるブレイクパターンの出現様式赤領域:涙液層破壊,黄色矢印:開瞼後の油層の上方伸展,上向き緑矢印:油層の上方伸展に伴う水分の上方移動,下向き緑矢印:下方メニスカスの陰圧による液層の菲薄化. abcde図6フルオレセイン染色で認められるブレイクパターンAreabreakでは瞼裂部の角膜全面に,Linebreakではブレイク部に一致して上皮障害がみられるのに対して,Spotbreak,Dimplebreakでは,上皮障害はみられにくいことに注意したい.また,Linebreakがフルオレセインの薄い角膜下方で,Dimplebreakがフルオレセインの厚い角膜中央寄りで涙液層の破壊が生じることにも注目したい.BreakBreak開瞼後のフルオレセインのBreakのみられる上皮障害病態TFOTに基づく治療方針分類の形上方移動タイミング/部位角膜結膜Area面状×~△開瞼直後/典型例では全面++++++重症涙液減少水分確保Spot(類)円形◎開瞼直後/中央~上方.~+.~+角膜最表層上皮表面の水濡れ性低下膜型ムチン補充Line線状○フルオレセインの上方移動中/下方+~+++~++涙液減少(軽症~中等症)水分補充Dimple(類)線状◎フルオレセインの上方移動中/中央.~+.~+角膜最表層上皮表面の水濡れ性低下膜型ムチン補充Random不定形◎フルオレセインの上方移動が終了したのち/不定.~+.~+蒸発亢進油分/水分/分泌型ムチンのいずれかを補充フルオレセインの上方移動(◎:良好,○:あり,△:角膜下方に限局,×:なし)上皮障害(.:なし,+:軽症,++:中等症,+++:重症)図7フルオレセインとスリットランプによる観察に基づくTFODとTFOTのポイント(文献13より引用改変)14あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(14) あたらしい眼科Vol.32,No.1,201515(15)水分減少が病態の中心をなし,水分補充が治療となり,涙腺に依存せず結膜からの水分分泌を促進するジクアホソルナトリウム点眼は良い適応である.中等症までの涙液減少型ドライアイに相当し,一般に角膜上皮障害は,linebreakのみられる角膜下方領域に限局しやすく,水分減少が比較的高度であると,上皮障害はpatchySPKやcornealmucusplaqueの形をとりやすい.両側の球結膜に上皮障害を伴うことが多い.涙液クリアランスが悪く,炎症を伴いうるため,低力価ステロイド(0.1%フルオロメトロンなど)の点眼の併用が効果的である.XIDimplebreak9)(図5d,6d,7)第1ステップは良好に行われるが,第2ステップにおいて,フルオレセインの上方移動中に角膜下方ではなく,角膜中央で(類)線状のブレイクパターンとして認められる.これは,上方伸展中の油層の先進縁が窪み(dimple)を形成して,あたかも角膜表面の水濡れ性を走査するかのごとく上行してゆくためと考えられ,水濡れ性の悪い表層上皮表面に出合うと上方に移動中の厚いフルオレセインの領域でブレイクを生じる.現在までのところ,角膜表面上皮の水濡れ性低下(膜型ムチンの発現低下)が病態として疑われるため,その補充が治療になると考えられる.ドライアイのタイプとしては,spotbreakと同様,水濡れ性低下型ドライアイに相当し,BUT短縮型ドライアイの1型9)と考えられる.一般に,角結膜上皮障害はないか,あっても軽微である.治療はジクアホソルナトリウムやレバミピドといったムチン関連薬点眼12)が効果的と考えられる.XIIRandombreak(図4)第1ステップも第2ステップも良好に行われ,角膜上に完全な涙液層が形成されるが,開瞼維持に伴って涙液層の蒸発によって生じると考えられるブレイクパターンである.したがって,健常眼でもみられうる.ブレイクの形や部位は一定ではなく(形成される涙液層が瞬目ごとに異なるため,ブレイクが起こりやすくなる部位が違ってくることが原因と考えられる),涙液層の液層の水分蒸発が病態の中心をなすため,TFOTとしては蒸発によるブレイクを阻止しうる成分,すなわち,油分,水分,分泌型ムチンの補充が有効と考えられる.ヒアルロン酸ナトリウムは水分保持にすぐれ,このタイプのブレイクに効果的である.蒸発亢進型ドライアイに関係するブレイクではあるが,BUTが短い例は,BUT短縮型ドライアイにも分類されうる.一般に,角結膜上皮障害は軽微である.おわりにTFOTは,今のところ,水分分泌,ムチンの分泌・産生を促進し得る点眼液を有する,世界最先端を歩むわが国において最大活用しうるコンセプトであり,Ver1.と断り書きされているように,今後さらにバージョンアップされる可能性が十分にある.また,他国に行けば当然,ここに位置付けられる局所治療薬は変わりうる.現在のところ,TFODがあってこそのTFOTであり,筆者は,角膜表面の涙液層の動態と関係づけたブレイクパターンの観察,加えて,角結膜上皮障害の観察がその鍵を握っていると考えている.今後TFOT,TFOD,摩擦亢進のメカニズムの解明がさらなる発展を遂げ,日本のドライアイ診療がさらにグレードアップすることを期待している.■用語解説■TFOT:tearfilmorientedtherapy.日本語では眼表面の層別治療と訳す.涙液層の安定性の低下をドライアイのコア・メカニズムと考え,眼表面に対する成分補充で涙液層の安定性を最大限に高めてドライアイを治療しようとする日本発,世界初のドライアイの治療の新しい考え方.水濡れ性:眼表面上皮表面は,その表面に上皮由来の糖衣と呼ばれる親水性構造を有するが,糖衣の中には,膜型ムチンと呼ばれる糖蛋白質が含まれ,眼表面の親水性(水濡れ性)を維持していると考えられる.液層:涙液層は,油層,水層,ムチン層の3層構造とされてきたが,膜型ムチンの発見や水層がゲル構造をしている可能性が提唱されるに及んで,油層,液層(ムチンゲル)の2層構造のモデルがより適切と考えられるようになってきている.BUT:涙液層破壊時間.フルオレセインで評価しうるフルオレセイン破壊時間およびインターフェロメーターやトポグラファーを用いて評価しうる非侵襲的涙液層破壊時間がある.フルオレセインは,涙液の液層(水分を主体とする層)に広がるため,その層の菲薄■用語解説■TFOT:tearfilmorientedtherapy.日本語では眼表面の層別治療と訳す.涙液層の安定性の低下をドライアイのコア・メカニズムと考え,眼表面に対する成分補充で涙液層の安定性を最大限に高めてドライアイを治療しようとする日本発,世界初のドライアイの治療の新しい考え方.水濡れ性:眼表面上皮表面は,その表面に上皮由来の糖衣と呼ばれる親水性構造を有するが,糖衣の中には,膜型ムチンと呼ばれる糖蛋白質が含まれ,眼表面の親水性(水濡れ性)を維持していると考えられる.液層:涙液層は,油層,水層,ムチン層の3層構造とされてきたが,膜型ムチンの発見や水層がゲル構造をしている可能性が提唱されるに及んで,油層,液層(ムチンゲル)の2層構造のモデルがより適切と考えられるようになってきている.BUT:涙液層破壊時間.フルオレセインで評価しうるフルオレセイン破壊時間およびインターフェロメーターやトポグラファーを用いて評価しうる非侵襲的涙液層破壊時間がある.フルオレセインは,涙液の液層(水分を主体とする層)に広がるため,その層の菲薄 化を感度よく検出し,通常,開瞼維持開始から液層の菲薄化を意味するdarkspot(図2右図)出現までの時間を測定する.非侵襲的涙液層破壊時間には,油層と液層を含む涙液層の全層破壊が反映される.瞬目時の摩擦亢進:瞬目は涙液層形成に重要な契機となるばかりでなく,上皮のターンオーバの契機にもなっている.つまり,生理的な状況でも瞬目時の摩擦は存在し,重要である.しかし,これが増強すると異物感などの眼症状,上皮障害の原因となる.瞬目の主座は,眼瞼縁の結膜(異物溝前方から皮膚粘膜接合部にかけて)に存在し,Korbらによって,2002年に,その部は,thelidwiper,その部の上皮障害は,lidwiperepitheliopathyと名付けられている.PatchySPK,cornealmucusplaque:涙液減少型ドライアイでは,涙液クリアランスが低下し,ムチンの滞留を認める.その滞留したムチンがムチンゲルから析出し,上皮の障害部に付着すると,ムチンのからんだ上皮障害となり,程度の軽いものはpatchySPK(ドライアイ専門家の間の俗称)と,高度のものはcornealmucusplaqueと呼ばれる.

ドライアイの診断のポイント

2015年1月30日 金曜日

特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):3.8,2015特集●役に立つ角膜疾患診療の知識あたらしい眼科32(1):3.8,2015ドライアイの診断のポイントIndicationsfortheDiagnosisofDryEye小室青*はじめにわが国におけるドライアイ診断基準は,1995年にドライアイ研究会によって提唱されたものが,2006年に改訂された1)(表1,2).改訂よって自覚症状の有無が盛り込まれ,ドライアイの定義に,乾燥感や異物感といった眼不快感以外に,視機能異常も含まれるようになった.近年注目されているBUT短縮型ドライアイは,BUT(breakuptime)が短縮しており,非常に強い自覚症状を訴えるにもかかわらず,角結膜上皮障害を認めないことが多く,従来の診断基準では,ドライアイと診断されなかったが,2006年版の診断基準では,ドライアイ疑いとして診断されるようになった(表3).わが国のドライアイのコア・メカニズムは,涙液層の安定性の低下であり,すなわち,BUTの異常として評価しうる2).よってBUTを正確に評価する必要があるが,そのためには,適切に染色し,反射性流涙を生じないように,不要な侵襲を与えないことが重要である.このため検査は,侵襲が少ないものから行う必要がある.本稿では,ドライアイ検査の順にしたがって,検査のポイントについて述べる.I問診と視診1.自覚症状ドライアイの自覚症状は,目が乾燥するといったものだけではなく,目が疲れる,見えにくい,ごろごろする,目が赤い,涙がでるなどさまざまなものがある.複表1ドライアイの定義と診断基準(2006年,ドライアイ研究会)ドライアイとは,さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を疑う表2ドライアイ診断における確定例と疑い例(2006年,ドライアイ研究会)1.涙液の異常①Schirmer試験I法にて5mm以下②涙液破壊時間(BUT)5秒以下①②のいずれかを満たすものを陽性とする2.角結膜上皮障害*①フルオレセイン染色スコア3点以上(9点満点)②ローズべンガル染色スコア3点以上(9点満点)③リザミングリーン染色スコア3点以上(9点満点)①②③のいずれかを満たすものを陽性とする*生体染色スコアリングを臨床研究に用いる場合は,用いる治療法や薬剤の特性を考慮して,適宜改変して用いることが望ましい.表3角結膜上皮障害の2006年の診断基準①自覚症状○○×○②涙液異常○○○×③角結膜上皮障害○×○○ドライアイの診断確定疑い疑い疑い*AoiKomuro:四条烏丸眼科小室クリニック〔別刷請求先〕小室青:〒604-8152京都市中京区烏丸通蛸薬師下る手洗水町652四条烏丸眼科小室クリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(3)3 4あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(4)紙を下眼瞼のメニスカスのエッジに軽く触れて染色する(図1).フルオレセイン溶液が入りすぎ濃くなりすぎると,クエンチング(蛍光強度の減少)といった現象が生じ,涙液のbreakupおよび微細な上皮障害の観察や,涙液量の目安である涙液メニスカスの高さの正確な評価が困難となる3)(図2).フルオレセイン入り点眼による染色も外来で用いられている方法であるが,余剰な水分が入ってしまうため,正確な涙液のbreakupの把握には滴下量を最小限に留めるべきである(図3).また,フルオレセイン試験紙を用いる方法でも,試験紙が結膜に強く接触すると,刺激による反射性流涙を生じ,涙液の状態の正確な情報を得ることができないので,注意が必要である.b.観察のポイント染色後数回瞬目させ,フルオレセインを眼表面にまんべんなく拡散させるとともに,瞬目毎の涙液の上方への動きの速度を観察する.涙液量が十分にあると,移動速度は早く,涙液量が少ないと,移動速度が遅くなり,移動も上方まで十分に達しなくなる).次にbreakupを観察するが,breakupの部位と形に注目して観察する.Breakuppatternを観察するポイントは,患者に「まず目を軽く閉じてください.ぱっと目を開けて,そのまま目を開けたままにしてください」と指示し,完全閉瞼と素早い開瞼を促すことである.このことにより再現性よくbreakuppatternを観察することができる.Breakuppatternの観察とともに,BUTも測定する.BUTは,breakupが角膜全体のどこかに起きたときを電子メトロノームやストップウォッチを用いて正確に測定し,3回測定して平均をとる.観察時には,反射性流涙をさけるために,観察光や開瞼維持による刺激が起こらないように注意する.c.評価のポイントBreakuppatternの分類については,横井によって詳細な報告がなされており,少なくともspotbreak,linebreak,areabreak,randombreakに分類される4)(詳細は他項参照).Breakuppatternを観察することによって,表層上皮の水濡れ性が低下している,狭義のBUT短縮型ドライアイ(spotbreak),涙液減少型ドライアイ(linebreak,areabreak),蒸発亢進型ドライア数の自覚症状がある場合には,どの症状が一番気になっているか確認しておくと,治療開始後の効果の判定に役立つ.そしてその症状がどれくらい前からあるかも必ず聞くようにする.2.背景コンタクトレンズ(CL)装用の有無,VDT作業の時間,エアコンの使用,抗コリン作用のある内服薬(向精神薬,睡眠導入剤など)服用の有無,膠原病や糖尿病などの全身疾患の有無,眼科手術の既往(LASIK,白内障手術など)について確認する.また,現在使用している点眼の種類と,点眼回数についても確認する.3.眼瞼異常の有無の観察眼瞼下垂,眼瞼痙攣,眼瞼炎,眼瞼の変形などの眼瞼異常の有無や,兎眼,瞬目不全,瞬目過多などの瞬目異常がないか瞬目の状態についても,細隙灯顕微鏡での検査の前に観察しておく.II細隙灯顕微鏡検査1.フルオレセイン染色前の検査染色前に,涙液メニスカスの高さや,涙液中に分泌物や汚れがないか確認する.結膜弛緩症,瞼裂斑,翼状片などの隆起性病変や眼瞼内反や外反の有無についても確認しておく.眼瞼縁に触れると,マイボーム腺からの油の分泌や反射性分泌が生じることがあるので,眼瞼には触れないように診察する.2.フルオレセイン染色a.染色法フルオレセイン染色は,眼表面および涙液の観察において非常に重要であり,フルオレセイン染色するだけで,ドライアイの診断がほとんどできるといっても過言ではない.染色法には,フルオレセイン試験紙を用いる方法,フルオレセイン溶液の点眼,硝子棒を用いる方法など,さまざまな方法があるが,侵襲が少なく(反射性流涙を起こさない),簡便に外来で行える方法は,以下のとおりである.フルオレセイン試験紙に点眼液を2滴,滴下し試験紙をよく振って水分を十分に切り,試験 あたらしい眼科Vol.32,No.1,20155(5)イ(randombreak)に大きく分類することができる.Spotbreakは,開瞼直後に特徴的な類円形のbreakupがみられ,BUTは0秒であるが,上皮障害を認めないことが多く,適切なフルオレセイン染色や開瞼指示が行われていないと,spotbreakが観察されないことがあり注意が必要である(図3).d.角結膜上皮障害のスコアリングドライアイ診断基準では,生体染色色素のスフルオレセイン,ローズベンガル,リサミングリーンのいずれかを用いて,角膜,耳側および鼻側結膜に分け程度に応じて,0.3点でスコアリングし,合計が3点以上のものを陽性とする(図4).日常診療においては,フルオレセイン染色を用いることになるが,結膜上皮障害はわかり図1フルオレセイン試験紙を用いた染色法水分をよく切った試験紙を,メニスカスのエッジに軽く触れて染色する.ab図3フルオレセイン染色法による違いa:フルオレセイン試験紙による染色.b:フルレセフルオレセイン点眼による染色では,涙液量が増え,メニスカスが高くなるとともに,涙液の安定性も変化しspotbreakが観察できない.ab図2クエンチングa:通常投与.b:過剰投与.フルオレセインの過剰投与のために,フルオセインの蛍光が減弱しており,涙液のbreakupや微細な角膜上皮障害が,正確に観察できない.図1フルオレセイン試験紙を用いた染色法水分をよく切った試験紙を,メニスカスのエッジに軽く触れて染色する.ab図3フルオレセイン染色法による違いa:フルオレセイン試験紙による染色.b:フルレセフルオレセイン点眼による染色では,涙液量が増え,メニスカスが高くなるとともに,涙液の安定性も変化しspotbreakが観察できない.ab図2クエンチングa:通常投与.b:過剰投与.フルオレセインの過剰投与のために,フルオセインの蛍光が減弱しており,涙液のbreakupや微細な角膜上皮障害が,正確に観察できない. 6あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(6)3.眼瞼接触を伴う細隙灯顕微鏡検査マイボーム腺機能不全,lid-wiperepitheliopathy,上方の結膜弛緩,上輪部角結膜炎,眼類天疱瘡の有無について確認する.上眼瞼を翻転して,眼瞼結膜に結石や巨大乳頭などの異常所見がないかも確認する.IIISchirmerI法ドライアイの診断基準において,涙液減少を評価する際に行う.Reflexloop-涙腺システムが機能しているかどうかを調べる検査である.涙腺機能の低下もしくは,眼表面の知覚低下によって低値をとり,通常10mm以上が正常で,5mm以下を異常と判定する.点眼麻酔をせず,自然瞬目下で行うが,検査中に痛みから閉瞼したままの場合もあるので,検査中は,「目を開けておいてください.瞬きは普通にしてください」などと声かけをするのがポイントである.にくいため,結膜→角膜の順に上皮障害を観察する.ブルーフリーフィルター(BFF)を用いることのよって,結膜上皮障害をさらに詳細に観察することが可能である3,5)(図5).また,BFFは涙液層の厚みや動きを3次元的,経時的に観察することができるようになるため,breakupの観察や,BUTの測定にも有用である.図4角結膜上皮障害スコアリング(フルオレセイン,ローズベンガル,リサミングリーンによる染色)0~3点0~3点0~3点耳側結膜角膜鼻側結膜LGFLFL+BFFabc図5ブルーフリーフィルター(BFF)の有用性フルオレセイン(FL)染色では,リサミングリーン(LG)染色の所見と比較して結膜上皮障害の程度が少なくみえるが,BFFを用いることによって,より正確に上皮障害の程度を把握できる.a:リサミングリーン(LG)染色.b:フルオレセイン(FL)染色.c:FL+BFF.図4角結膜上皮障害スコアリング(フルオレセイン,ローズベンガル,リサミングリーンによる染色)0~3点0~3点0~3点耳側結膜角膜鼻側結膜LGFLFL+BFFabc図5ブルーフリーフィルター(BFF)の有用性フルオレセイン(FL)染色では,リサミングリーン(LG)染色の所見と比較して結膜上皮障害の程度が少なくみえるが,BFFを用いることによって,より正確に上皮障害の程度を把握できる.a:リサミングリーン(LG)染色.b:フルオレセイン(FL)染色.c:FL+BFF. 薬剤性角膜上皮障害角膜上皮障害>結膜上皮障害メニスカス高いドライアイ角膜上皮障害<結膜上皮障害メニスカス低い図6薬剤性角膜上皮障害の鑑別法ab図7薬剤性角膜上皮障害a:高度のSPKとepithelialcrackline(ひびわれ状の所見)を認める.結膜上皮障害は認めない.b:染色10分後の所見.Delayedstainingを認める. ab図8マイボーム腺角結膜上皮障害(13歳,女性)a:角膜全体に高度の点状表層角膜症を認める.b:瞼縁の充血とマイボーム腺の閉塞所見.

序説:役に立つ角膜疾患診療の知識

2015年1月30日 金曜日

●序説あたらしい眼科32(1):1.2,2015●序説あたらしい眼科32(1):1.2,2015役に立つ角膜疾患診療の知識TheUsefulKnowledgeofCornealandOcularSurfaceDiseases木下茂*この特集は「役に立つ角膜疾患診療の知識」と題して,京都府立医科大学眼科学教室における角膜診療のエッセンスを,それぞれの筆者にまとめていただいた.私が22年間在籍してきた眼科における角膜診療の見方と考え方を要約していただいたものであり,私の退職前の知識の整理ということでお願いした.本特集では,日常の角膜診療で,commonな疾患とrareながら知っておかねばならない重要な疾患について整理し,どのように診断・治療するかを簡潔に記載していただいた.したがって,新しい内容を満載するというよりは,日常の臨床に役立つ知識が満載されているはずである.さて,実際の内容を見てみよう.まずドライアイの診断のポイントを小室青氏にお願いした.小室氏は20年以上にわたり横井則彦氏の右腕となってドライアイ外来で診療を行ってきたドライアイスペシャリストであり,MayoClinicへの海外留学の経験者である.横井則彦氏にはドライアイの治療方針をお願いした.横井氏はOxford大学への留学でTonyBron氏に師事し,以後,ドライアイへの生理学的側面からの研究アプローチを精力的に行っており,とくに涙液層の動態について著名な業績を示してきたドライアイ研究家である.マイボーム腺に関する診療エッセンスは鈴木智氏にお願いした.鈴木氏はマイボーム腺炎角結膜上皮症という疾患概念を世界で初めて提唱し,Harvard大学への長期留学後もマイボーム腺と眼表面の炎症の病態関連について精力的に研究を行っている臨床医である.角膜感染症治療の基本方針については外園千恵氏にお願いした.外園氏はぶどう球菌感染症,とくにMRSAへの対処法に造詣が深く,バンコマイシン眼軟膏の発想は氏から発せられたものである.豊富な臨床経験に基づき的確な診療で難治例を治癒させている.稲富勉氏には眼表面疾患のマネージメントをお願いした.稲富氏はHarvard大学IleneGipson博士との眼表面のムチン研究に始まり,さまざまな角膜手術,とくに眼表面再建術のエキスパートである.円錐角膜,屈折矯正手術などの不正乱視への対処法については東原尚代氏と稗田牧氏にお願いした.コンタクトレンズフィッティング,エキシマレーザー屈折矯正手術,有水晶体眼内レンズなどについての豊富な臨床経験をもつお二人である.角膜内皮炎の治療は小泉範子氏にお願いした.小泉氏はケルン大学留学時から角膜再生医療に造詣が深く,現在は角膜内皮細胞にかかわるトランスレー*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(1)1 2あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(2)ショナル研究を行っているが,今回は氏が世界で最初に報告したサイトメガロウイルス角膜内皮炎について要約していただいた.奥村直毅氏にはFuchs角膜内皮ジストロフィの遺伝背景についてお願いした.日本では,それほど多くないと考えられている疾患であるが,欧米では緑内障とほぼ同頻度で生じている中途失明を生じる疾患であり,最近になって,病態について多くの事柄がわかってきた.奥村氏は海外との共同研究も精力的に行っているclinicianscientistである.上田真由美氏にはStevens-Johnson症候群の遺伝素因についての概要をお願いした.上田氏はSte-vens-Johnson症候群の発症機序について独自の仮説を展開し,今や世界全体でコンソーシアム研究を行うまでになった世界を飛び回る臨床研究者である.われわれが長年行ってきた培養粘膜上皮移植の研究開発は小泉範子氏から始まり,中村隆宏氏が大きく発展させた.とくに培養口腔粘膜上皮移植は中村氏のオリジナリティ溢れるトランスレーショナル研究であり,上皮研究の世界的権威であるYanBar-randon氏のもとでの留学経験がその内容をグレードアップさせた.角膜内皮移植,とくにDSAEKについては,われわれは2007年から開始したが,その臨床成績を中川紘子氏と宮本佳菜絵氏にわかりやすくまとめてもらった.最後に緑内障とのかかわりである.重症角膜疾患を治療する場合,ステロイド緑内障あるいは角膜疾患に基づく続発緑内障への対処法は必須である.そこで,緑内障スペシャリストの森和彦氏に豊富な経験を要約していただいた.森氏はNIHへの留学経験を生かし,緑内障遺伝子多型研究に取り組む臨床医でもある.今回の特集は,すべて一大学の筆者にお願いするという稀な企画であり,内容には若干のバイアスが含まれているかもしれない.しかしながら,豊富な臨床経験からできあがった実の世界の話であり,机上の空論は含まれておらず,かならずや読者のみなさまのお役に立つものであると信じている.なお,私は4月から感覚器未来医療学講座を開設し,当分のあいだ眼科トランスレーショナル研究と臨床を継続する予定であることを付け加えておく.