《第12回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科41(6):717.721,2024c眼底イメージングの進化─さらによく見える─松井良諭三重大学大学院医学系研究科臨床医学講座眼科学,中部眼科CTheEvolutionofFundusImagingYoshitsuguMatsuiCDepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,ChubueyeclinicCはじめに眼底写真や光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)がわれわれに提供してくれる情報は現在の眼科臨床および研究に欠かすことができない.とくに,この十数年において,これらの眼底画像を巡る撮影装置のテクノロジーの進歩は著しい.観察対象の拡大が起こり,網膜を中心にその前後の硝子体や脈絡膜の画像化が容易になり,撮影の侵襲性も低下し,さらに生成される画像がもたらす情報の粒度は加速度的に増大している.その恩恵として,患者の診断精度の向上,治療成績の改善につながっている.本稿では,①CWide.eldCFundusImaging,②COCT,③CArti.cialIntelligence(AI)inCFundusImagingのC3つのポイントに着目し,これらのテクノロジーの進歩と今後の発展について述べたい.CIWide.eldFundusImaging眼底から情報を得る営みは,1851年に直像鏡を開発したCvonHelmholtzにより始まり,その後,1886年に眼底撮影が可能となり,1926年にCZeiss社から市販機の眼底カメラが登場した.その後,1枚の撮影範囲はC35.60°程度のものとなった.眼底全体の広さに対して限られた範囲であったが,視神経や黄斑を中心とした後極を記録可能な画角は非常に有用であった.2011年に超広角走査型レーザー検眼鏡のCOptos200Txが市販され,検眼鏡は網膜全体を見る機械へと進化した.眼球中心からC1画像でC200°の画像を取得可能となり,焦点深度が非常に深く,周辺の病変の記録が容易となった.しかし,Optos画像の色調は赤と緑のレーザーで取得した走査レーザー検眼鏡(scanningClaserophthalmoscope:SLO)画像を合成する.このため,通常の眼底カメラから青成分を除いた緑色の強い擬似カラー画像であり,網膜表面の微細な病変の観察には不十分であった.この色調に対する改善を光源の変更により実現したCTruecolorの超広角検眼鏡装置が登場した.まず,CRALUSC500.は,走査型レーザー検眼鏡で光源は赤色CLED,緑色LED,短波長の青色CLEDのC3色を用いてカラー画像を作成するため,網膜の深層から表面までさまざまのレイヤーの病変の描出が可能となり,検眼鏡でじかに眼底を観察した際に認識する眼底に近い色調の画像が得られる.また,解像度が7Cμmと高く,画像取得後に画像拡大による微小変化の観察評価が可能となった.なお,撮影範囲はC2画像の自動モンタージュにより,眼球中心C200°の撮影が可能であり,共焦点技術により周辺部のアーチファクトも除外可能となった.Optosと比較して,それぞれの画像中心が異なる点と周辺部の焦点深度の差からCCRALUSは鼻側の周辺部評価がより広いことが判明している(図1)1).つぎに,EidonはC3画像の自動モンタージュにて最大C163°の画角を完全に自動撮影で得られる.そして,Miranteは眼球中心から最大C270°のモンタージュ画像を取得可能であり,血管造影,眼底自発蛍光,OCTやCOCTCangiography(OCTA)も可能な複合機である.これらの新たな検眼鏡装置の出現から考えられる今後の進化の方向性として,画像の高解像度化,撮影の自動化,広角化,多機能化にあると思われる.CIIOCT眼底写真の情報は二次元の網膜情報であるが,OCT画像は微細な三次元の網膜情報をわれわれに与え,病状,病態および治療効果の評価において欠かすことができない検査装置である.1980年代にCFujimotoらがフェムトセカンドレーザーで得た知見と短コーヒレンス長干渉の技術を組み合わせて,反射率の低い網膜からの反射光の測定に成功したことに〔別刷請求先〕松井良諭:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学講座眼科学Reprintrequests:YoshitsuguMatsui,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-shi,Mie514-8507,JAPANC図1OptosとCRALUSの画質,周辺部の比較aはCLARUS500の200°画像(Ultra-Wide),bはCOptosC200TxのC200°画像.ともに眼球中心のC200°の範囲であるが,周辺部の血管視認性をみるとCCLARUSはアーチファクトが少なく,また,画像の中心が黄斑鼻側にあることもあり,鼻側の周辺部がCOptosより広いことがわかる.色調はCCRALUSが通常の眼底検査のときと同じ,自然な色調であり,網膜表面の視認性が高い.端を発し,1996年にCZeiss社から市販機のCOCT装置が販売された2).その後,時間分解能と空間分解能の改善があり,臨床での利活用にてCOCT画像の網膜形態と視機能の関係の理解が深まった.とくに網膜外層の高輝度反射帯の形態は視機能を反映しており,その連続性に着目する定性的な評価は臨床で非常に有用である.スペクトラルドメイン干渉光干渉断層計(SD-OCT)の深さ解像度は高いが,7Cμ程度の装置ではCinterdigi-tationzone(IZ)の反射帯は正常者においての検出率はC88.96%程度の検出率となる3).このため,黄斑ジストロフィの一種の三宅病や急性帯状潜在性網膜外層症(acuteCzonalCoccultCouterretinopathy:AZOOR)complexの初期の変化としてのCIZの反射帯の連続性の変化を評価する際には注意が必要である.そこでCKOWA社製の超高解像度CSD-OCTは解像度がC2Cμを使用した知見を共有する.この画像では,7Cμ程度の装置と比較して網膜の各層の境界が明瞭となり,IZも鮮明となる(図2a,b).それぞれの装置における網膜外層の輝度値のプロファイルでは,高解像度画像ではCellip-soidzone(EZ)やCIZのプロファイルの高さに変化はないが,それらのピークは細く,また,それらの間の谷の部分も深かった(図2c,d).この結果,主観的にも評価困難なCIZの視認性は改善することが判明した4).この一例から,見えるという主観は装置の解像度による限界がある点に留意する必要があること,そして,解像度の進化により,疾患眼を含めて網膜各層のアライメント評価はさらに改善する可能性があると思われる.また,画像鮮明化技術も進歩している.画像鮮明化装置のMIErは,撮影されたデジタル画像のC1画素単位に対して解析を行い,注目画素の周囲の明度分布から近傍のダイナミックレンジを求め,ダイナミックレンジが最大になる明度を算出する技術である.この装置の応用はすべてのデジタル画像,さらには動画への適応が可能である.OCT画像へのMIErの応用について,筆者らは黄斑円孔(macularhole:MH)のCOCT画像に対して,この画像鮮明化技術を適用した.MHでは円孔周囲の網膜内液の貯留により,その後方の組織からの反射が減弱し網膜外層の状態評価が困難となる.この装置の使用により,外境界膜-網膜色素上皮間の面積とCphotoreceptorCoutersegment(PROS)面積ともに鮮明化後にともに有意に増大することが判明した(図3,4).不鮮明なCOCT画像から評価困難な長さや面積などのベクトル情報を抽出する方法として,この技術の可能性を感じる結果であった.CIIIAIinFundusImaging前述のように検眼鏡とCOCTは現在も進歩の途上にあり,画像装置が得た情報量と複雑性が増大している.これらの画像情報は臨床医が読影をしてこそ臨床的な価値をもつが,それらの解釈に要するコストの増大は,日々の診療における時間の有限性から困難な課題となりうる.そこで,膨大な眼底情報を最適に利活用するために,AI技術への期待が高まっている.第三次CAIブームの到来により,医療分野でもCAIを用いた研究や技術開発が盛り上がっており,①物体検出による注目領域を示唆するカメラの登場,②領域抽出で病勢を判断するアルゴリズムの登場,③臨床予後予測,これらへのCAIの応用が期待されている.筆者らは網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinCocclu-sion:BRVO)の黄斑浮腫への抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthfactor:VEGF)治療の維持治療前のOCT画像情報と患者情報から,維持治療期間の経時的な視機能が良好な群と,その他を分類する課題に取り組み,その図2SD-OCTの比較aは深さ分解能が7μmのSPECTRALISのhighCresolutionmodeのSD-OCT画像,CbはC2μmのCbi-μのSD-OCT画像.CcはCSPECTRALISの網膜外層の輝度値のプロファイル,CdはCbi-μの網膜外層の輝度値のプロファイル.accuracyはC80%で可能であることを報告した5).その経験から機械学習を用いて予後予測をするうえで重要な二つの点について説明する.1点目は,AIアライメントを考慮する点である.AIアライメントとは,AIシステムを利用者である人間の意図する目的や嗜好に合致させるとこを目的とする研究領域である.臨床予後予測においては,患者の治療意思決定を支援し,かつ治療モチベーションの向上に寄与するモデルデザインが重要と考え,実験では予後良好群に高適合し,予後不良群への適合率は低くても許容するモデル設計を行った.その結果,予測モデルが予後良好と予測した場合,「この場合,ほぼ確実に回復するので頑張って治療していきましょう」と励ますことが可能となる.一方で,予測モデルが予後不良と予測した場合,「この場合,40%の確率で外れるかもしれません.頑張ってみませんか?」と治療を促すこと,あるいは今回の実験データで用いたC1+prorenata(PRN)の治療アルゴリズム以上の強度の治療を提案することも可能となる.2点目はモデルの予測結果への説明可能性の重要性である.臨床予測が信頼可能となるかは,その説明可能性に依存する.すでにCBRVOの黄斑浮腫への抗CVEGF治療における予後因子について,多くの特徴量が報告されている.しかし,それらを統合して個別の患者の予測をすることはむずかしい.そこで,ShapleyCAdditiveexPlanations(SHAP)値を利用することで,予測に貢献した特徴量の交互作用も包含図3画像鮮明化技術aは鮮明化処理前のCOCT画像,Cbは鮮明化処理後のCOCT画像.した評価を行った.SHAP値とはゲーム理論に由来するShapley値の概念を基にしており,機械学習モデルの解釈可能性を高めるための一手法で,複雑なモデルが出力する予測に対して,入力特徴がどれだけ影響を与えたのかを定量的に評価することが可能である.モデル情報として,解析対象の各患者の各説明変数の値とCSHAP値をCbeeswarmplotで視覚化し,説明変数ごとの予測への貢献の大きさと方向を明示2,500外境界膜-網膜色鮮明化前vs鮮明化後素上皮間の画素数1,400PROS鮮明化前の画素数vs鮮明化後2,0001,2001,000鮮明化後1,5001,000鮮明化後800600500400200005001,000鮮明1,500化前02,0002,5000200400600鮮明8001,0001,2001,400化前図4画像鮮明化技術網膜外層における外境界膜から網膜色素上皮層の間の画素数の鮮明化前後の分布とCPROSの画素数の鮮明化前後の分布.ともに鮮明化前後において,検定で有意差を認めた(p<0.01).横軸と縦軸の単位はpixel.CHigh浮腫消失時logMAR視力ELMの輝度値治療前logMAR視力年齢左右病型EZの輝度値性別ELMの輝度値_org発症から治療までの期間視細胞面積EZの輝度値_orgEZの連続性ELMの連続性治療~浮腫消失の期間病変位置(上下)不良群のほうに寄与良好群のほうに寄与FeaturevalueLow-6-4-202SHAPvalue(impactonmodeloutput)図5Beeswarmplot各説明変数の値が低いものは青で,高いものは赤でドットの色調で表現し,説明変数のCSHAP値の横軸の分布が大きいものが上位にある.この場合,浮腫消失時のClogMAR視力がもっとも予測に大きく貢献していること,そして,相関の方向がわかる.した(図5).さらに,患者個人への予測過程をCwaterfall報とするための眼底画像はめざましい進化を遂げている.眼plotで視覚化した(図6).このように詳細なモデルの説明底カメラやCOCTの進化の方向として,広角化,高解像度化,可能性により,臨床予後予測が患者の臨床意思決定システム自動化,リアルな色調の再現,複合化が進んでいる.また,の補助となる可能性を感じている.その画像のベクトル情報を増加させる画像鮮明化技術が登場している.そして,眼底からの情報は,「より見える」環境まとめにおいて情報過多ともなり,AIの利活用がこの課題への解眼底から情報を得ることはC1851年のCHelmholtzの眼底観決となる可能性がある.AIシステムの臨床導入には,シス察に起源があり,主観的な眼底検査からそれらを客観的な情テムデザインや説明可能性など配慮すべき点がある.図6Waterfallplotaはある症例の予測過程を視覚化したCwaterfallplot.訓練データの平均値のベースレートから最終的な出力までの,各説明変数のCSHAP値の貢献がわかる.Cbはその出力を分類閾値と比較する過程を示す.この場合は,ベースレートのC.2.595から説明変数のCSHAP値から出力がC.3.708となり,シグモイド関数に代入後に分類閾値のC0.639未満であったため,最終的に予後不良と分類された.文献1)MatsuiCY,CIchioCA,CSugawaraCACetal:ComparisonsCofCe.ectiveC.eldsCofCtwoCultra-wide.eldCophthalmoscopes,COptos200TxandClarus500.BioMedResInt:20192)HuangCD,CSwansonCEA,CLinCCPCatal:OpticalCcoherenceCtomography.ScienceC254:1178-1181,C19913)Terasaki,CH,CShirasawaCM,CYamashitaCTCetal:Compari-sonCofCfovealCmicrostructureCimagingCwithCdi.erentCspec-traldomainopticalcoherencetomographymachines.Oph-thalmologyC119:2319-2327,C20124)MatsuiCY,CKondoCM,CUchiyamaCECetal:NewCclinicalCultrahigh-resolutionCSD-OCTCusingCA-scanCmatchingCalgorithm.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC257:255-263,C20195)MatsuiCY,CImamuraCK,COokaCMCetal:Classi.cationCofCgoodvisualacuityovertimeinpatientswithbranchreti-nalveinocclusionwithmacularedemausingsupportvec-torCmachine.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC260:C1501-1508,C2022C***