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硝子体手術のワンポイントアドバイス 143.術中の脈絡膜下灌流(初級編)

2015年4月30日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載143143術中の脈絡膜下灌流(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに硝子体手術の術中合併症の一つとして,網膜下灌流あるいは脈絡膜下灌流がある.いずれもインフュージョンポートの先端が硝子体腔に正確に挿入されていない場合に生じる.先端から人工房水が毛様体無色素上皮下に灌流されると前者,脈絡膜と強膜の間(脈絡膜上腔)に灌流されると後者となる.以前の20G(ゲージ)硝子体手術のときにはときどきみられたが,近年のトロカールを使用するmicro-incisionvitrectomysurgery(MIVS)では,その頻度は激減している.しかし,トロカールを使用していてもまれに本合併症が生じることがある.●術中所見と対処法網膜下灌流では,インフュージョンポートが設置してある象限から胞状の網膜.離が生じる(毛様体無色素上皮と感覚網膜は解剖学に連続している).脈絡膜下灌流では脈絡膜.離が生じる.図1は脈絡膜下灌流をきたしたときの術中所見であるが,駆逐性出血との鑑別が必要である.通常,駆逐性出血では眼圧が上昇するが,脈絡膜下灌流では極端に上昇することはない.●術中の対処法術中にこのような所見を認めた場合には,まず灌流を止めてトロカールの状態を確認する.この症例ではトロカールが脱落しかけており(図2),強膜と脈絡膜の間に灌流液が迷入していた.インフュージョンポートを別の象限のトロカールに挿入しなおし,灌流を開始する(図3).通常は誤灌流した強膜創から脈絡膜上腔液が排出され,脈絡膜.離は速やかに消失する(図4).ついで誤灌流した強膜創の状態を確認し,必要に応じて眼内光凝固(61)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1脈絡膜下灌流をきたした症例術中に急速に拡大する脈絡膜.離を認める.図2トロカールの状態トロカールが脱落しかけている.図3インフュージョンポートの変更インフュージョンポートを別の象限のトロカールに挿入しなおし,灌流を開始する.図4再灌流後の眼底所見脈絡膜.離は速やかに消失している.図5眼内光凝固誤灌流した強膜創の状態を確認し,必要に応じて眼内光凝固を施行しておく.を施行しておく(図5).網膜下灌流でも同様の処置を行うが,脈絡膜下灌流よりも誤灌流された人工房水が排出されにくいことがある.また,しばしば毛様体無色素上皮.離をきたし,その部位に裂孔を形成していることが多いので,眼内光凝固に引き続き,必要に応じてガスタンポナーデを施行しておく.あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015525

眼科医のための先端医療 172.網膜光凝固と硝子体

2015年4月30日 木曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第172回◆眼科医のための先端医療山下英俊網膜光凝固と硝子体武山正行(愛知医科大学眼科学教室)はじめに網膜光凝固は網膜疾患治療に欠かせないものです.たとえば糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固の凝固条件は,網膜内層傷害を避けながら治療効果を得るために「血管と網膜出血を避け,照射直後に淡い白濁がみられる凝固」が適切とされています.しかしながら,出血や血管の上から照射してしまう誤凝固や,網膜や中間透光体の条件の違いによる過剰凝固を,たとえば2,000発の汎網膜光凝固において100%回避することはできません.少々?の誤凝固に配慮していたら,パターンスキャンレーザーで1照射25発凝固なんてまったく不可能です.硝子体手術中の汎網膜光凝固では,低倍率の観察下で施行するため,照準は不正確で誤凝固になることが多く,また過剰凝固にもなりやすいと思われます.網膜光凝固による内境界膜の変化光凝固条件と組織傷害というテーマについては多くの研究があります.網膜色素上皮で発生する熱エネルギーが大きく,照射時間が長いほど,網膜内層への傷害が大きくなります.過剰凝固では傷害が網膜内層に及び,網膜出血や網膜血管の上からの凝固では神経線維層や内境界膜が高度に傷害されます.筆者らはニワトリ眼に網膜光凝固を行い,硝子体を除去して網膜表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ,一部の凝固斑では内境界膜に円孔が観察されました1)(図1).同一条件で照射した全凝固斑にみられるわけで*ABDILMC図1走査型電子顕微鏡で観察した凝固斑の内境界膜一部凝固斑で内境界膜に円孔を認めた.A:凝固斑(*)の内境界膜表面.B:凝固斑の内境界膜表面の高倍率像.C:凝固斑の内境界膜にみられた円孔(→).D:円孔縁の高倍率像.倍率:A=180倍,B=600倍,C=700倍,D=1,300倍.ILM:内境界膜.(文献1より改変して転載)(57)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155210910-1810/15/\100/頁/JCOPY MMP-2HE染色2次抗体のみ2次抗体のみ光凝固前光凝固6時間後図2光凝固6時間後網膜のMMP.2免疫染色像凝固斑の内境界膜・網膜内層にMMP-2局在を認める(→).MMP-2は硝子体からの移行と考えられる.はないので,網膜厚の差や,照射角度や焦点合わせの微妙なずれにより,過剰凝固になった凝固斑に発生したものと思われます.この円孔が,熱変性によって起こるのか,隆起による物理的な伸展が関与するのか,あるいは硝子体除去など実験操作によるものか,明確な機序は不明です.図2は,硝子体に多量に含まれるmatrixmetalloproteinase-2(MMP-2)が,凝固斑の内境界膜に局在することを示します1).傷害を受けた内境界膜に硝子体からMMP-2が移行したと考えられます.これらは,光凝固の条件次第では内境界膜が傷害を受け,また硝子体から網膜への物質移行が発生する可能性を示しています.内境界膜を介した硝子体の影響糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固において,硝子体から移行したMMP-2が網膜内に拡散して活性型にな(文献1より改変して転載)ると,血管内皮のtightjunction傷害により黄斑浮腫を悪化させるかもしれません.反対に,内境界膜傷害により網膜から硝子体腔への物質拡散が容易となり,血管内皮細胞増殖因子など悪化因子が網膜で減少するならば,疾患に対し良い影響を与える可能性もあります.過剰凝固や誤凝固で発生した内境界膜傷害による影響は,後部硝子体.離の有無によっても異なると考えられます.多くの網膜疾患の病態において,硝子体は重要な役割を果たしています.網膜光凝固においても,硝子体はレーザーを透過してくれるだけの,寡黙な存在ではないのかもしれません.文献1)TakeyamaM,YonedaM,TakeuchiMetal:Increaseinmatrixmetalloproteinase-2levelinthechickenretinaafterlaserphotocoagulation.LasersSurgMed42:433441,2010522あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(58) ■「網膜光凝固と硝子体」を読んで■網膜光凝固が糖尿病網膜症の増悪防止に効果的な治療法であることについては異論がないと思いますが,そのメカニズムについては十分に解明されたわけではありません.たとえば,虚血網膜を壊死させることで,血管内皮増殖因子(VEGF)などの網膜症増悪因子の産生を抑制させるというのはわかりやすい説明ですが,それだけでは説明できない事象も多くありました.その一つが,網膜光凝固と硝子体との関係です.1980年代から,糖尿病網膜症眼に汎網膜光凝固を行うと,後部硝子体.離が起こるということが報告されていました1).その当時は後部硝子体.離自体があまり理解されていなかったため,注目を集めませんでした.しかし,1990年代になって,糖尿病網膜症の進展に後部硝子体が大きなかかわりをもつことが理解されると,光凝固による網膜硝子体界面の変化について関心が集まりました.多くの研究者によって,光凝固後に炎症が惹起されるため後部硝子体.離が起こると説明されましたが,炎症と後部硝子体.離を直接結びつける十分な証拠は不足していました.本稿で解説されたように,網膜光凝固によるMMP-2の活性化誘導という現象は,不足したパズルを埋めるために重要な証拠になりえます.網膜光凝固により炎症が惹起され,それによりMMP-2が活性化されると,コラーゲンが分解されます.コラーゲン分解はすなわち硝子体の液化ですから,後部硝子体.離を誘導することに矛盾はありません.現在,治療時の疼痛軽減や網膜傷害軽減のために新しい光凝固器具が登場していますが,MMP-2の活性化が網膜症改善に有効なことが証明されれば,光凝固の条件や器具も変化する可能性があります.本稿は,このような可能性をもつ重要な研究だといえます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二文献1)SebagJ,BuzneySM,BelyeaDAetal:Posteriorvitreousdetachmentfollowingpanretinallaserphotocoagulation.GraefesArchClinExpOphthalmol228:5-8,1990☆☆☆(59)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015523

眼瞼・結膜:結膜アレルギーの基礎知識

2015年4月30日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人4.結膜アレルギーの基礎知識上田真由美京都府立医科大学眼科学教室本稿では,まずアレルギー性結膜疾患の発症機序の基礎知識について記載し,その後,アレルギー性結膜疾患を診療していて感じていることをまとめてみた.●アレルギー性結膜疾患の発症機序現在,アレルギー性結膜疾患の発症機序は,I型アレルギー反応が主体と考えられている.結膜局所の抗原提示細胞により,Th2型リンパ球の感作が起こり,Th2型リンパ球から指示を受けたB細胞は,抗原特異的IgEを分泌する.抗原特異的IgEは,結膜肥満細胞に結合後,再び侵入した抗原により架橋され肥満細胞の脱顆粒を引き起こす.肥満細胞の脱顆粒により放出されたヒスタミンは,ヒスタミン受容体に結合し,抗原暴露数十分以内に生じる即時相の反応として結膜浮腫,充血,かゆみ,眼瞼浮腫,粘液性の眼脂を生じる.一方,抗原暴露8~24時間後に生じる結膜局所への好酸球の浸潤を主体とした遅発相の炎症反応には,肥満細胞の脱顆粒により放出されたロイコトリエン(LT),プロスタグランジンD(PGD2),血小板活性化因子(PAF)が関与していると考(2)えられている.また,遅発相の炎症反応には,肥満細胞だけではなく,線維芽細胞1),T細胞2),さらには,上皮細胞3)も関与していることが明らかとなってきている(図1).アレルギー性角結膜疾患の遅発相は,臨床において角結膜炎の病態形成に大きく関与する.春期カタルやアトピー性角結膜炎などの組織障害を伴うアレルギー性角結膜疾患は,I型アレルギー遅発相がその病態の主体と考えられている.●各臨床病型1.アレルギー性結膜炎図2に症例を示す.患者は20歳の女性で,眼の掻痒感を訴えて来院(図2a).毎年,春先になると痒くなる.上眼瞼結膜を拡大してよく観察すると,多数の小乳頭を認める(図2b).下眼瞼結膜には,多数の濾胞を認める(図2c).乳頭と濾胞の違いは,乳頭は浸潤細胞が集まり結合組織が増殖したもので,血管が隆起病変の中央部に存在し,一方,乳頭は増殖したリンパ球の集合体で,血管が隆起病変の周囲に存在するのが特徴とされる.筆者は,アレルギー性結膜疾患の患者に対して,血清中(55)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1アレルギー性結膜疾患の発症機序totalIgEと,抗原特異的IgE検査としてMAST33を施行しているが,結膜に大きな増殖性変化を認めないアレルギー性結膜炎の患者では,血清中totalIgEは正常範囲のことが多く,またMAST33では,スギなど原因と考えらえる抗原1つまたは少数の項目のみ陽性のことが多い.2.春季カタル春季カタルは,小児から青年期に多い.アトピー性皮膚炎を有しない患者も存在するが,多くは軽度から中等度のアトピー性皮膚炎を合併している.眼瞼型では,上眼瞼に巨大乳頭を認め(図3a),点状表層角膜炎,ときにシールド潰瘍を認める(図3b).輪部型では,角膜輪部に炎症を生じ,堤防状隆起やTrantas斑を認める(図3c).掻痒感や異物感とともに眼痛を訴えて来院することも珍しくない.眼脂も多く,ギムザ染色では好酸球が多く観察される.軽度から中等度のアトピー性皮膚炎を合併していることが多いことより,血清中totalIgEも正常380単位以下のところ,数百単位まで上昇しており,またMAST33でも複数項目陽性のことが多い.3.アトピー性角結膜炎重症のアトピー性皮膚炎,とくに顔面にアトピー性皮あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015519 abcab図2季節性アレルギー性結膜炎の症例20歳,女性.一見,前眼部は正常(a)であるが,眼瞼を翻してよく観察すると,上眼瞼には多数の小乳頭(b)が存在する.また,下眼瞼に多数の濾胞(c)が存在することも多い.図3春季カタルの症例7歳,男児.上眼瞼に多数の巨大乳頭(a)を認め,角膜上方にシールド潰瘍(b)を認める.別の輪部型の症例であるが,輪部に炎症が生じ,結節状のTrantas斑(c)を認める.膚炎を伴う患者にみられることが多い.春季カタルと同じように上眼瞼に巨大乳頭を伴う患者(図4ab)と,増殖性変化を伴わない患者(図5ab)の両方がいる.ともに眼瞼の充血,浮腫,ビロード状の肥厚を認める(図4c,5c).角膜には点状表層角膜症を認めることも多く,ときにシールド潰瘍を認める(図4de,5de).重症のアトピー性皮膚炎患者であることが多いため,血清中totalIgEが1万単位を超えることも珍しくなく,MAST33でも多くの項目が陽性のことが多い.ステロイド点眼,免疫抑制薬の点眼で症状は軽快するが,ヘルペス性角膜炎を発症しやすい患者も存在するので注意を要する.われわれ眼科医は,重症のアトピー性皮膚炎患者のほとんどがアトピー性角結膜炎を合併するように錯覚しがちだが,実はアトピー性皮膚炎の重症度とアトピー性角結膜炎の重症度は必ずしも相関しない.アトピー性皮膚炎患者における眼所見の重症度が何に起因しているかを調べることは,今後の課題であり,アトピー性角結膜炎の病態を考えるうえで重要である.●治療治療において,もっとも気をつけることとして,ステ520あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015abcde図4アトピー性皮膚炎の症例37歳,男性.上眼瞼に巨大乳頭(b)を認める.下眼瞼にも充血,浮腫,ビロード状の肥厚(c)を認め,角膜には大きなシールド潰瘍(d,e)を認めた.abcdec図5アトピー性皮膚炎の症例上眼瞼に増殖性変化は認めず,上下眼瞼ともに充血,浮腫,ビロード状の肥厚(b,c)を認め,角膜にはシールド潰瘍(d,e)を認めた.ロイド点眼は有効な治療薬である一方,ステロイド緑内障などの合併症を生じることをよく覚えておく必要がある.これは,とくに若年者に生じやすく,経過観察中の小児の眼圧検査は必須である.一方,タクロリムス点眼などの免疫抑制薬は,眼圧上昇の副作用がなく,使いやすい.ここでは,筆者がアレルギー性結膜疾患を診療して感じていることを簡単にまとめてみた.本稿で不十分な部分については,「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」を参照してほしい4).文献1)KumagaiN,FukudaK,FujitsuYetal:Roleofstructuralcellsofthecorneaandconjunctivainthepathogenesisofvernalkeratoconjunctivitis.ProgRetinEyeRes25:165187,20062)FukushimaA,OzakiA,JianZetal:Dissectionofantigen-specifichumoralandcellularimmuneresponsesforthedevelopmentofexperimentalimmune-mediatedblepharoconjunctivitisinC57BL/6mice.CurrEyeRes30:241-248,20053)UetaM,KinoshitaS:Ocularsurfaceinflammationisregulatedbyinnateimmunity.ProgRetinEyeRes31:551575,20124)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン:日眼会誌114:833-870,2010(56)

抗VEGF治療:難治性糖尿病黄斑浮腫に対する治療方針

2015年4月30日 木曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二15.難治性糖尿病黄斑浮腫に対する志村雅彦東京医科大学八王子医療センター治療方針抗VEGF治療に反応しにくい糖尿病黄斑浮腫に対しては,ステロイド,光凝固,硝子体手術といった別の局所治療が選択されることが多く,しばしば改善をみることもある.その一方で,腎機能低下など全身状態の悪化に起因している場合もあり,内科専門医との緊密な連携が治療の鍵となることも少なくない.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の病態は,血管透過性の亢進のみならず,炎症性組織障害や黄斑部牽引が複雑に絡みあっており,いまだによくわかっていない.したがって,DMEに対する治療として抗VEGF薬や抗炎症ステロイドに代表される保存的療法のほかに,局所光凝固,格子状光凝固,硝子体手術といった侵襲的療法が存在し,本来病態に合わせて選択すべきものであるが,臨床では治療選択の決め手がないのが実情である.すなわち,DMEそのものがすでに難治疾患であるだけに,「難治性」DMEの定義はむずかしいが,ここではDMEの主たる原因である血管透過性亢進を抑制する「抗VEGF薬に反応しないDME」として述べる.漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫DMEに対する治療の第1選択が抗VEGF薬であることは大規模スタディの結果から明らかとなっているものの1),すべてに効果があるわけではなく,病態によっては治療抵抗性の症例があることが報告されている2).形態別としては,漿液性網膜.離を伴うDMEは抗VEGF阻害薬に対して抵抗性の症例が多い.DMEにおいて漿液性網膜.離が引き起こされる理由は不明であるが,このような症例では炎症性サイトカイン濃度が上昇していることが最近報告され3),網膜血管の透過性亢進により,炎症性物質が外境界膜を傷害して,網膜色素上皮前面にまで漿液が貯留すると考えられている.したがって,このような症例では抗炎症ステロイドが有効とされ,自験例においても抗VEGF抗体の複数回投与によっても抵抗する症例に対し,抗炎症ステロイドTenon.下投与が有効であった症例がある(図1).(53)Beforetreatment①BeforeSTTA④(0M)VA=(0.3)(4M)VA=(0.2)After1stIVB②After2MSTTA⑤(1M)VA=(0.3)(6M)VA=(0.5)After3rdIVB③After4MSTTA⑥(3M)VA=(0.3)(8M)VA=(0.6)図1VEGF阻害薬治療に抵抗し,抗炎症ステロイド局所治療が奏効したDME症例62歳,女性.糖尿病歴10年.左眼の糖尿病黄斑浮腫にて加療目的に紹介受診.初診時視力:左眼(0.3).漿液性網膜.離を伴うびまん性浮腫であり(①),抗VEGF抗体ベバシズマブを毎月3回硝子体内投与(IVB)する(②)も浮腫は改善せず(③),抗炎症ステロイドのトリアムシノロンをTenon.下投与(STTA)する(④)と著明な改善がみられ(⑤),効果は4カ月持続し,視力は(0.6)まで改善した(⑥).一方,漿液性網膜.離を伴うDMEでは,蛍光眼底造影検査において周中心窩での蛍光漏出が有意に大きく,網膜厚とも相関することから,周中心窩への局所光凝固が有効である可能性もまた報告されている4).いずれにせよ,漿液性網膜.離を伴うDMEは比較的進行した病態であると考えられており,治療に難渋することが多く,抗VEGF薬のみで対応することはむずかしい.トリアムシノロンアセトニドのTenon.下あるいは硝子体内投与,さらには蛍光眼底造影検査をして周中心窩からの漏出血管を局所光凝固,という選択肢を検討する必あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155170910-1810/15/\100/頁/JCOPY VA=(0.2)VA=(0.1)①②VA=(0.1)VA=(0.1)③④VA=(0.2)VA=(0.1)⑤⑥VA=(0.3)VA=(0.1)⑦⑧BeforetreatmentAfter3timesofIVB3monthsafterHD12monthsafterHD3monthsafterSTTABeforetreatment3monthsafterHD12monthsafterHDVA=(0.2)VA=(0.1)①②VA=(0.1)VA=(0.1)③④VA=(0.2)VA=(0.1)⑤⑥VA=(0.3)VA=(0.1)⑦⑧BeforetreatmentAfter3timesofIVB3monthsafterHD12monthsafterHD3monthsafterSTTABeforetreatment3monthsafterHD12monthsafterHD図2局所薬物治療に反応せず,透析によって著明な改善が認められたDME症例59歳,男性.糖尿病歴14年.腎機能低下(Cr:4.8mg/dl,BUN:43.2mg/dl,eGFR:14.1%)により腎臓内科通院中,両眼の視力低下にて紹介受診.初診時視力は右(0.2),左(0.1)であり,両眼ともスポンジ様のびまん性黄斑浮腫を認め,中心窩網膜厚(CMT)は右432μm(①),左眼は542μm(②)であった.右眼はベバシズマブを毎月3回投与(IVB),左眼はトリアムシノロンをTenon.下投与(STTA)するも,3カ月後にCMTは右眼で596μm(③),左眼で576μm(④)と増悪した.腎機能の悪化により血液透析(HD)開始され,HD後3カ月にて黄斑浮腫は著明に改善し,CMTは右眼299μm(⑤),左眼314μm(⑥)まで改善するも視力は変わらず,12カ月後,右眼はCMT265μmで視力は(0.3)まで改善した(⑦)が,左眼は314μmで視力は(0.1)のまま(⑧)であった.要がある.全身状態の悪化した糖尿病黄斑浮腫DMEに対して保存的治療法,侵襲的治療法のいずれに対してもまったく反応しない症例をみることがある(図2).このような場合,腎機能が悪化していることが少なくない.われわれ眼科医は血糖コントロールをHbA1cの値で評価することが多いが,腎機能の悪化した症例では体内の水分量が多くなるため,血液量に対する糖化ヘモグロビン比であるHbA1cは低く出る傾向があり,あまりあてにならない.BUNやCrによる評価のほか,現在ではeGFRという指標を用いることが多い.腎機能の改善は腎臓内科専門医に任せるしかないが,DMEは腎透析の開始によって劇的に改善することが多い.一方,浮腫が長期にわたって遷延した場合は,すでに視細胞が不可逆的な損傷を受けていることがあり,形態的な浮腫の改善がみられながら視機能が改善しないこともある.局所の治療法に反応せず,腎機能が低下しているDME症例については,積極的に腎臓内科と連携し,腎透析とまではいかなくても,緊急血液浄化などで一時的に浮腫を改善させ,視細胞の不可逆変化を防止するという治療戦略も必要になるだろう.文献1)ArevaloJF:Diabeticmacularedema:Changingtreatmentparadigms.CurrOpinOphthalmol25:502-507,20142)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20133)SonodaS,SakamotoT,YamashitaTetal:Retinalmorphologicchangesandconcentrationsofcytokinesineyeswithdiabeticmacularedema.Retina34:741-748,20144)MurakamiT,UjiA,OginoKetal:Associationbetweenperifovealhyperfluorescenceandserousretinaldetachmentindiabeticmacularedema.Ophthalmology120:2596-2603,2013☆☆☆518あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(54)

緑内障:緑内障の進行解析

2015年4月30日 木曜日

●連載178緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也178.緑内障の進行解析三木篤也大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室進行の判定は,緑内障の治療方針決定に不可欠である.進行している症例に対しては治療の強化が必要になり,逆に長年進行を認めない症例では薬物を減量することも可能かもしれない.本項では,緑内障の進行解析法について概略を説明したい.●はじめに緑内障の3大要素は眼圧,視神経,視野であり,このうち視神経と視野が経時的に悪化するかどうかをみるのが進行解析である.検査にはばらつき(変動)があるので,検査パラメータが低下したとしても,低下の程度が小さければ真の進行か単なる変動かをみわけるのはけっして簡単ではない1.3).変動の影響を取り除いて真の進行を捉えるために,統計学的な手法が必要とされるのである.●トレンド解析とイベント解析(表1)進行解析の手法には,大きく分けてトレンド解析とイベント解析がある.トレンド解析とは,注目するパラメータの単位時間あたりの変化量(進行速度)を求めるもので,進行の速度がわかることが最大の利点である(図1).しかし,変動の影響を除くためには数回検査を繰り返す必要があり,結果を得るまでに時間がかかる.また,進行の有無は統計学的に有意であるかどうかで決定され,臨床的な意義が明確ではない.A一方,イベント解析では,最初の何回かの検査(ベースライン)からある一定以上低い閾値を決める.計測値が閾値を下回ったときにイベント発生とする.実際には,複数回閾値を下回って初めてイベント発生とすることが多い.一般的に,イベント解析はトレンド解析よりも短期間で進行の有無を判定できる.また,進行の有無についてはっきりした答えが出るので,介入の効果を検証する研究には向いている.一方,イベント解析の最大の欠点は,進行の速度がわからないことである.進行の指標とするパラメータとして何を選択するかという問題もある.視野では,meandeviation(MD)やvisualfunctionindex(VFI)などのグローバルインデッ表1トレンド解析とイベント解析トレンド優劣イベント経過観察長い<短い進行判定の基準曖昧<明確進行速度わかる>わからないBベースラインパラメータ(MDなど)イベント閾値時間図1トレンド解析とイベント解析A:トレンド解析では,パラメータ(MDなど)を縦軸に,時間を横軸にとって直線回帰し,単位時間あたりの変化(スロープ)を求める.B:イベント解析では,最初の何回かの検査をベースラインとし,ベースラインより統計学的に有意な減少を閾値と設定するフォローアップ検査の測定値が閾値を下回れば,イベント発生とする(実際には複数回下回ったときにイベントとすることのほうが多い).(51)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155150910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2GPAのフォローアップレポートの一例パターン偏差プロットにおいて,ベースラインよりも1度低下していれば△,2度連続して低下していれば,3度連続して低下していれば▲で示される.この場合▲が3カ所あるので,likelyprogression(日本語版では「進行の可能性が高い」)と判定される.クスを用いるほかに,各刺激点の閾値を対象とするポイントワイズ法,いくつかの刺激点をグループにして解析するクラスター法などがある.概して,グローバルインデックスを用いる方法は全体的な進行度が把握しやすく,信頼度の高い結果が得られやすいが,局所の変化に対する検出力が劣る.ポイントワイズ法はグローバルインデックスと反対の特徴があり,クラスターは両者の中間の性質をもっている.●視野の進行解析これまで緑内障進行の詳細な統計解析は,自動静的視野検査において普及,発展してきた.そのうち代表的なトレンド解析法はMDスロープである.自動静的視野検査のMD値を時系列でプロットし,1年あたりの下降速度を求める方法である.Humphrey静的視野計のguidedprogressionanalysis(GPA)でも測定可能であるし,電子カルテプログラムから自動で測定してくれるものもある.最近のバージョンのGPAではVFIスロープもある.ポイントワイズのトレンド解析プログラムも種々開発されている.GPAプログラムのglaucomachangeprobabilitymap(GCPM)は代表的なイベント解析法である.GPAではパターン偏差プロットを使用し,最初の2回の検査からベースラインを決定する.そして,フォローアップ検査において連続2回以上の進行が3カ所以上で認められると進行の可能性あり,連続3回以上の進行が3カ所以上認められると進行の可能性が高いと判定される(図2).GPAのほかにもさまざまなイベント解析の方法が開発されている.●構造的進行解析従来の視神経観察は眼底検査,眼底写真を中心として516あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015行われてきたが,これらの検査は主観的,定性的であるために統計学的な解析に不向きであった.しかし,最近の画像診断機器の発展により,視神経障害についても視野と同様の定量的進行解析が可能となった.視神経障害の定量解析として,現在もっとも期待されるのはOCTである.現時点では,OCTの進行解析は研究者が統計プログラムを用いて自ら解析するものが多く,臨床の現場に広く普及しているとはいえない.しかし,各OCTメーカーは進行解析プログラムを続々と開発,搭載しており,近い将来臨床の現場においてもOCTの進行解析が標準化するものと考えられる.●おわりに緑内障の進行解析は,最近急速に発展した分野の一つである.進行が緩徐な正常眼圧緑内障などでは,トレンド解析やイベント解析などの統計的な解析を用いないと正確な進行判定はほぼ不可能である.進行判定の原理を理解し,日常臨床に活かすことは緑内障のフォローアップを担当する眼科医にとって最低限の責務である.文献1)KeltnerJL,JohnsonCA,LevineRAetal:NormalvisualfieldtestresultsfollowingglaucomatousvisualfieldendpointsintheOcularHypertensionTreatmentStudy.ArchOphthalmol123:1201-1206.20052)TannaAP,BudenzDL,BandiJetal:Glaucomaprogressionanalysissoftwarecomparedwithexpertconsensusopinioninthedetectionofvisualfieldprogressioninglaucoma.Ophthalmology119:468-473,20123)HeijlA,BuchholzP,NorrgrenGetal:Ratesofvisualfieldprogressioninclinicalglaucomacare.ActaOphthalmol91:406-412,2013(52)

屈折矯正手術:オルソケラトロジーによる近視進行抑制効果

2015年4月30日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載179大橋裕一坪田一男179.オルソケラトロジーによる近視進行平岡孝浩筑波大学医学医療系眼科抑制効果オルソケラトロジーによる学童期の近視進行抑制効果が多数報告されるようになった.既報によれば32~63%の抑制効果が期待できる.過去にさまざまな近視進行抑制法が試みられたが,エビデンスが確認された手法は少なく,その中でもオルソケラトロジーは有効性と安全性のバランスに優れ,小児期に導入しやすい方法といえる.オルソケラトロジー(orthokeratology:OK)の近視進行抑制効果が学術論文として初めて報告されたのは2004年である.Cheungらは,左眼のみOK治療を受けていた11歳男児の眼軸長変化を2年間追跡調査したところ,左眼は0.13mmしか延長しなかったのに対して,治療を受けていない右眼は0.34mmの眼軸長伸長を認めたと報告した1).なお,OKにおける近視進行を評価する場合には眼軸長変化が指標として用いられる.なぜなら,OK治療中は角膜がフラット化しているため屈折は常に正視に近い状態となっているため,屈折変化を経時的に調べてもほとんど変化しないことになってしまうからである.その後,2つのパイロットスタディが施行され,2年間の観察期間においてOK治療群は眼鏡群やソフトコンタクトレンズ(SCL)群よりも50%前後の眼軸長伸長抑制効果を有することが示された(表1).そこで筆者らは日本人において類似の臨床研究を行ったところ,OK群は対照群よりも眼軸長伸長が36%抑制されたことを確認した2).最近では,香港でエビデンスレベルの高いランダム化臨床試験が施行され,その結果においてもOK群は眼鏡対照群よりも43%の眼軸長伸長抑制を示したと報告された3).上記にあげた臨床研究はいずれも2年間に限局されていたため,つぎに筆者らは5年間へと観察期間を延長して前向き研究を行ったところ,きわめて興味深い結果が得られた.まず,5年の長期にわたっても約30%の眼軸伸長抑制効果を有することが判明した.しかし,治療開始後3年間は有意な抑制効果がみられるものの,4年目以降はその効果が減弱することも明らかとなった4)(図1).また,治療開始年齢が早いほど近視進行抑制効果が強いこともわかり,この知見は他の研究でも確認されるようになっている.さらに最近では,partialreductionortho-kといって,強度近視眼に対してOKで4Dだけ部分的に近視矯正を行い,残存した近視度数に対して眼鏡を装用させるというスタディが施行され,眼鏡対照群よりもきわめて強い表1オルソケラトロジー(OK)の小児眼軸長伸長抑制効果著者(雑誌,発行年)年齢(歳)OK群の眼軸伸長(2年間)対象群の眼軸伸長(眼鏡orSCL)対照群と比較した抑制効果Choetal(CurrEyeRes.2005)7~120.29mm0.54mm(眼鏡)46%Wallineetal(BrJOphthalmol.2009)8~110.25mm0.57mm(SCL)56%Kakitaetal(InvestOphthalmolVisSci.2011)8~160.39mm0.61mm(眼鏡)36%Santodomingo-Rubidoetal(InvestOphthalmolVisSci.2012)6~120.47mm0.69mm(眼鏡)32%Choetal(InvestOphthalmolVisSci.2012)6~100.36mm0.63mm(眼鏡)43%CharmJetal(OptomVisSci.2013)8~110.19mm0.51mm(眼鏡)63%(49)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155130910-1810/15/\100/頁/JCOPY 眼軸長(mm)2726252423オルソケラトロジー眼鏡①*②*③*④⑤pre1Y2Y3Y4Y5Y経過(year)眼軸長伸長オ眼鏡群(mm)(mean±SD)ルソケラトロジー群(mm)(mean±SD)p値①0.38±0.200.19±0.090.0002*②0.33±0.180.26±0.130.0476*③0.29±0.160.19±0.150.0385*④0.24±0.180.18±0.170.0938⑤0.17±0.140.16±0.130.8633*対応のないt検定図1オルソケラトロジー群と眼鏡群における5年間の眼軸長変化両群とも年々眼軸長は伸長していくが,群間比較を行うと1~3年目(①~③)は眼軸長の変化量に有意差がみられ,オルソケラトロジー群で有意に伸びが抑制されている.4年目(④)もオルソケラトロジー群のほうが眼軸伸長が抑制されているが有意差は認められなかった.5年目(⑤)はほぼ同値であった.(文献4)より引用改変)眼軸伸長抑制効果(63%)が得られたと報告されている.OK開始時の近視度数が大きいほうが眼軸長伸長抑制効果は強いとの報告は他にも散見されており,この点に関しては今後の検証が必要である.また,乱視を有する近視眼を対象としてトーリックOKを施行した場合も有意な眼軸伸長抑制効果が確認されたと報告されており5),近視進行抑制治療を目的としたOKの適応が拡大している.上記のような効果が得られる理由として,周辺部遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)の改善がそのメカニズムであると推測されているが(図2),真のメカニズムは残念ながら解明されていない.過去にさまざまな近視進行抑制法が試みられてきたが,もっとも強い効果を示したのは1%アトロピン点眼である.これと比較するとOKの抑制効果は若干劣ることは否めないが,アトロピンがもたらす調節麻痺や散瞳,近方視力低下,さらには全身副作用出現などの危険性を考えると,OKは明らかに小児に導入しやすいといえる.また,アトロピン点眼は視機能を犠牲にして近視進行を抑制するという側面を有するのに対して,OKは514あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015周辺部遠視性デフォーカス結像面結像面遠視性デフォーカスの改善A.眼鏡(凹レンズ)による矯正B.オルソケラトロジー治療後図2眼鏡矯正とオルソケラトロジーでの網膜結像面の違いA:近視眼に対して通常の眼鏡で矯正すると,周辺部に遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)を生じ,これが眼軸を伸長(近視を進行)させるトリガーとなると考えられている.B:オルソケラトロジー治療後は角膜中央はフラット化し近視が軽減するが,周辺部角膜は肥厚・スティープ化するため周辺での屈折力が増し,周辺網膜像での遠視性デフォーカスが改善する.その結果,眼軸長伸長が抑制され,近視が進行しにくくなるという仮説が支持されている.裸眼視力を向上させるため,視機能の改善を図りながら,近視進行抑制効果を得るというメリットがある.ただし,CL装用に起因する感染性角膜潰瘍を発症した場合はきわめて重篤な視力障害をきたす可能性があり,レンズケアを含めた患者教育には細心の注意を払う必要がある.未解決の問題点としては,1)治療を中止するとリバウンド現象が出るのか,2)リバウンド現象を避けるためには,どの程度の治療継続が必要か,3)最大限の効果を得るための最適の治療開始年齢は何歳か,4)アトロピン点眼など他の治療法との併用療法の効果,などがあげられる.さらなる研究の蓄積が待たれる.文献1)CheungSW,ChoP,FanD:Asymmetricalincreaseinaxiallengthinthetwoeyesofamonocularorthokeratologypatient.OptomVisSci81:653-636,20042)KakitaT,HiraokaT,OshikaT:Influenceofovernightorthokeratologyonaxialelongationinchildhoodmyopia.InvestOphthalmolVisSci52:2170-2174,20113)ChoP,CheungSW:RetardationofmyopiainOrthokeratology(ROMIO)Study:a2-yearrandomizedclinicaltrial.InvestOphthalmolVisSci53:7077-7085,20124)HiraokaT,KakitaT,OkamotoFetal:Long-termeffectofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:a5-yearfollow-upstudy.InvestOphthalmolVisSci53:3913-3919,20125)CharmJ,ChoP:Highmyopia-partialreductionorthok:a2-yearrandomizedstudy.OptomVisSci90:530539,2013(50)

眼内レンズ:分節状屈折型多焦点眼内レンズ

2015年4月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋342.分節状屈折型多焦点眼内レンズ荒井宏幸みなとみらいアイクリニック欧州を中心に使用されている分節状屈折型多焦点眼内レンズLentisRMplusを紹介する.近用部を分節状に配置することで,光学的なロスを低減している.乱視用の度数設定は100分の1D単位となり,ほぼオーダーメイドである.最近は中間視力の向上を目的にLentisRMplusXが開発された.●分節状屈折型多焦点眼内レンズOculentis社製LentisRMplusはおもに欧州で発売されており,日本では未承認である.LentisRMplusの外観を図1に示す.レンズの光学部下方が加入部分に相当する構造になっている.2013年11月には中間視力をより重視した設計のLentisRMplusXが発売された.遠用部と近用部の接合部分の角度と形状が変化している(図2).屈折型として,近用部を集約して網膜上に結像させるアイデアは斬新である.他の多焦点レンズと同様に,網膜上には遠方・近方ともに集光されており,脳の選択によりどちらかの集光像を認識する.素材は親水性アクリル(25%含水)であり,形状はプレート型である.切開創は2.0mmからの挿入が可能で,レンズ長径は11mm,光学部は6.0mmである.球面度数の製作範囲は0D~+36Dであり,toricレンズにおいては0.25~12Dまでの円柱レンズが対応可能となっている.●LentisRMplusの光学的優位性現在,選択が可能な多焦点眼内レンズは,同心円状の屈折型多焦点レンズと回折型レンズである.同心円状の屈折型眼内レンズには,遠方と近方のzone部分のギャップがあり,その部分の散乱により光学的なロスが生じる.暗所にて瞳孔径が大きくなると,このギャップ部分が何周も表出されるため,より多くのロスが生じてしまう.回折型眼内レンズの場合には,回折構造の物理特性として,常に約20%の入射光が減弱する.残りの80%を利用して遠方と近方に振り分けており,そのため鮮明度は甘くなり,これがwaxyvisionとして知覚される.術前にwaxyvisionに対する予測が可能であれば,非常に使い勝手の良いレンズであるが,それがむずかしいために躊躇することも多い.LentisRMplusは光学的なロスを最小限に留めるよう(47)図1LentisRMplusの外観近用部分が下方(6時方向)になるように.内に固定する.マーカーラインは水平方向を示している.図2LentisRMplusとMplusXのシェーマMplusXでは中央の陥凹部が少し小さくなり,接合部の傾斜が水平方向に変更されている.中間視力を向上させるための設計変更である.LENTIS.LENTIS.に設計されている.レンズの中心部分および60%以上の部分が遠方焦点の単焦点レンズであるため,良好な遠方視が担保される.また,屈折型に特徴的なzone間のギャップは1本のラインしかなく,したがって,瞳孔径が大きくなっても表出するギャップはラインの1部分のみである.そのギャップも非常に精緻に作製されている.●驚異的なtoricレンズの製作度数LentisRMplusおよびMplusXにはtoricレンズの設定がある.Toricレンズの度数設定は,球面・円柱面ともに100分の1D単位である(図3).レンズのオーダーはおもにIOLマスター(CarlZeissMeditec社製)のデーあたらしい眼科Vol.32,No.4,20155110910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3LentisRMplustoricのオーダーフォーム100分の1D単位での推奨レンズ度数が示されている.乱視軸の角度によらず,レンズの固定は常に垂直方向である.1.61.41.21Lentis遠方LentisX遠方Lentis近方0.80.6LentisX近方0.40.20図5LentisRMplusとLentisRMplusXの術後裸眼視力の経過遠方視力はMplusが良好であり,近方視力はMplusXが優れている.n=149(Mplus:101,MplusX:48)タを元に決定する.円柱面の軸方向は製作時点ですでに回転をつけて位置づけされており,.内での固定位置は球面レンズと同様に12時.6時の縦方向に固定すればよい.納期は約5週間である(図4).●MplusとMplusXの使い分け現在の欧州における傾向は,より中間視を確保する方向にあり,すでに3重焦点の多焦点眼内レンズが発売されている.その傾向にあわせるようにLentisRMplusXが開発された.中間~近方への光学分布が強化される反術前1W1M3M6M1Y図4LentisRMplustoricの細隙灯顕微鏡写真下方の加入部分の反射とtoricラインが観察される.面,遠用部の面積が小さくなったため,遠方視力の立ち上がりはやや低下傾向にある(図5).瞳孔径の大きい場合には従来のMplusにても十分な近方視力が確保できるため,個々の症例での使い分けが必要であろう1).●今後の展望多焦点眼内レンズの使用頻度は,今後も増加することが予想される.それぞれのレンズには特性があり,個々の症例に応じたレンズの選択が重要である2).今回紹介したLentisRMplusは術後満足度の高いレンズとして重要な選択肢の一つになると思われる3).文献1)BerrowEJ,WolffosohnJS,BikhuPSetal:Visualperformanceofnewbi-aspheric,segmented,asymmetricmulti-focalIOL.JRefractSurg305:84-858,20142)Braga-MeleR,ChangD,DeweySetal:Multifocalintraocularlenses:relativeindicationsandcontraindicationsforimplantation.JCataractRefractSurg40:313-322,20143)VenterJA,PelouskovaM,CollinsBMetal:Visualoutcomesandpatientsatisfactionin9366eyesusingarefractivesegmentedmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg39:1477-1484,2013

コンタクトレンズ:製品選択

2015年4月30日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一11.製品選択●はじめに適正なコンタクトレンズ(CL)を処方するためには,特別な条件がある場合を除いて,眼科医がCLの適応者に対してハードCLとソフトコンタクトレンズ(SCL)のどちらの適応なのかを判断し,レンズの種類(表1)を選択する必要がある1).そして,処方可能なメーカーのCLを漠然と選択するのではなく,患者のさまざまな条件に応じて適当な製品を選択し処方する必要がある.本稿ではSCLの適応となった場合を想定した製品選択ついて解説する.●SCLの選択の考え方SCLの選択の考え方の流れは,まずSCLの使用期間分類からレンズの種類を選択し,乱視を考慮しSCLの機能分類からレンズの種類を選択する.ここで球面レンズを選択することになった場合には,調節補助の必要性の有無を考慮して焦点分類から種類を選択する.トーリックレンズを選択することになった場合には,円柱軸の安定化デザイン分類から種類を選択する.つぎに素材分類から種類を選択し,最終的に各メーカーの製品特性から具体的なSCLの製品を選択する(図1).●使用期間分類からの選択SCLはレンズの使用期間によって分類(使用期間分類表1コンタクトレンズの分類ハードコンタクトレンズ球面レンズ単焦点レンズ遠近両用レンズトーリックレンズ前面トーリックレンズ後面トーリックレンズ両面トーリックレンズ球面レンズ単焦点レンズソフトコンタクト遠近両用レンズレンズトーリックレンズ前面トーリックレンズ後面トーリックレンズ塩谷浩しおや眼科使用期間分類からの選択(1日交換)(1週間交換)(頻回交換)(定期交換)(従来型)機能分類からの選択(球面レンズ)(トーリックレンズ)焦点分類からの選択円柱軸の安定化デザインからの選択(単焦点レンズ)(遠近両用レンズ)(プリズムバラスト)(ダブルスラブオフ)素材からの選択(シリコーンハイドロゲル)(ハイドロゲル)製品選択図1ソフトコンタクトレンズの選択の考え方または装用スケジュール分類:1日交換,1週間交換,頻回交換,定期交換,従来型)されており,想定されるCLの使用スタイル(たとえば,スポーツやイベント時などの必要時のみの使用)を考慮し,簡便性を求めている場合,レンズの汚れに配慮する必要がある場合,若年者でレンズの扱いに不安がある場合,より高い安全性を求める場合には,使用期間が最短で常に一定のレンズ性能を期待できる1日交換SCLを選択する.コストを考慮する必要がある場合など状況に応じて,最長2週間までの使用期間の頻回交換SCLや1カ月あるいは3カ月と使用期間が長い定期交換SCLを選択する.より広いレンズ規格の製作範囲を必要とする場合や,より低いコストを考慮する必要がある場合には最長使用期間を設けていない従来型SCLを選択する.また,とくに連続装用を要する場合には1週間交換SCLを選択する.(45)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155090910-1810/15/\100/頁/JCOPY 510あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(00)●機能分類からの選択使用期間分類からレンズの種類を選択したら,通常は機能分類(球面レンズ,トーリックレンズ)から球面レンズを選択し,調節補助の必要性の有無を考慮して焦点分類から種類を選択する.角膜頂点間距離補正後の乱視が1.00D以上で球面レンズでの矯正視力が不良であったり,自覚的な見え方の質が不良となったりすることが想定される場合には,機能分類からトーリックレンズを選択し,円柱軸の安定化デザイン分類(プリズムバラストデザイン,ダブルスラブオフデザイン)から種類を選択する2).トーリック面の部位(前面,後面)を考慮して選択する場合もある.●焦点分類からの選択機能分類から球面レンズを選択したら,通常は焦点分類(単焦点レンズ,遠近両用レンズ)から単焦点レンズを選択する.加齢に伴い調節力の低下した老視患者,ときには近業による眼精疲労の訴えのある患者,眼内レンズ挿入眼の患者へは,調節補助を目的に遠近両用レンズを選択する.遠近両用レンズは製品により光学部特性が異なるため,それぞれの患者に合わせて適正なデザインのレンズを選択する.●素材分類からの選択焦点分類からレンズを選択したら,素材分類(シリコーンハイドロゲル,ハイドロゲル)から種類を選択する.想定される装用時間(1日の装用時間,装用を開始する年齢を考慮したCL処方後の延べ装用時間)が長い場合,装用スタイルが連続装用や不規則装用の場合,乾燥による角結膜変化がある場合,装用時に乾燥感が強い場合には,酸素透過性が高く乾燥しにくいシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)を選択する.SHCL装用時に素材の硬さやレンズ周辺部形状により異物感が強い場合,SHCLではフィッティングが不良の場合,SHCLで角結膜障害が発生しやすい場合(SHCL非適応眼)にはハイドロゲルレンズを選択する.●メーカーの製品特性からの選択素材分類からレンズを選択したら,各メーカーの製品特性からレンズを選択する.SHCLを選択した場合には,患者に応じて耐汚染性や耐乾燥性を考慮する必要がある場合には表面処理や表面加工の特性から製品を選択する.また,装用感を考慮する必要がある場合には,これに加えて素材の柔軟性,含水率,周辺部デザインから製品を選択する.ハイドロゲルレンズを選択した場合には,装用感や見え方の質,取り扱いの容易さなどを考慮する必要がある場合にはFDA分類,光学部デザイン(球面,非球面),周辺部デザイン,中心厚,UVカット,ハンドリング,レンズパッケージの特徴から製品を選択する.文献1)塩谷浩:はじめてのCL処方3HCLの適応・SCLの適応.日コレ誌56:67-69,20142)塩谷浩ほか:ソフトコンタクトレンズの乱視矯正効果.日コレ誌42:171-177,2000ZS941あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(00)●機能分類からの選択使用期間分類からレンズの種類を選択したら,通常は機能分類(球面レンズ,トーリックレンズ)から球面レンズを選択し,調節補助の必要性の有無を考慮して焦点分類から種類を選択する.角膜頂点間距離補正後の乱視が1.00D以上で球面レンズでの矯正視力が不良であったり,自覚的な見え方の質が不良となったりすることが想定される場合には,機能分類からトーリックレンズを選択し,円柱軸の安定化デザイン分類(プリズムバラストデザイン,ダブルスラブオフデザイン)から種類を選択する2).トーリック面の部位(前面,後面)を考慮して選択する場合もある.●焦点分類からの選択機能分類から球面レンズを選択したら,通常は焦点分類(単焦点レンズ,遠近両用レンズ)から単焦点レンズを選択する.加齢に伴い調節力の低下した老視患者,ときには近業による眼精疲労の訴えのある患者,眼内レンズ挿入眼の患者へは,調節補助を目的に遠近両用レンズを選択する.遠近両用レンズは製品により光学部特性が異なるため,それぞれの患者に合わせて適正なデザインのレンズを選択する.●素材分類からの選択焦点分類からレンズを選択したら,素材分類(シリコーンハイドロゲル,ハイドロゲル)から種類を選択する.想定される装用時間(1日の装用時間,装用を開始する年齢を考慮したCL処方後の延べ装用時間)が長い場合,装用スタイルが連続装用や不規則装用の場合,乾燥による角結膜変化がある場合,装用時に乾燥感が強い場合には,酸素透過性が高く乾燥しにくいシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)を選択する.SHCL装用時に素材の硬さやレンズ周辺部形状により異物感が強い場合,SHCLではフィッティングが不良の場合,SHCLで角結膜障害が発生しやすい場合(SHCL非適応眼)にはハイドロゲルレンズを選択する.●メーカーの製品特性からの選択素材分類からレンズを選択したら,各メーカーの製品特性からレンズを選択する.SHCLを選択した場合には,患者に応じて耐汚染性や耐乾燥性を考慮する必要がある場合には表面処理や表面加工の特性から製品を選択する.また,装用感を考慮する必要がある場合には,これに加えて素材の柔軟性,含水率,周辺部デザインから製品を選択する.ハイドロゲルレンズを選択した場合には,装用感や見え方の質,取り扱いの容易さなどを考慮する必要がある場合にはFDA分類,光学部デザイン(球面,非球面),周辺部デザイン,中心厚,UVカット,ハンドリング,レンズパッケージの特徴から製品を選択する.文献1)塩谷浩:はじめてのCL処方3HCLの適応・SCLの適応.日コレ誌56:67-69,20142)塩谷浩ほか:ソフトコンタクトレンズの乱視矯正効果.日コレ誌42:171-177,2000ZS941

写真:エルロチニブ内服により生じた角膜潰瘍

2015年4月30日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦371.エルロチニブ内服により生じた宮本佳菜絵*1,2外園千恵*2*1バプテスト眼科クリニック角膜潰瘍*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①結膜充血,②角膜潰瘍,③潰瘍周囲に淡い浸潤あり.図1初診時の前眼部所見図3初診時フルオレセイン染色周囲に淡い浸潤を伴った深い潰瘍を認める.図4睫毛の長毛化・乱生化を認める図51カ月後の前眼部所見図61カ月後のフルオレセイン染色菲薄化は残存しているものの良好な上皮化を得た.(43)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155070910-1810/15/\100/頁/JCOPY 症例は79歳,女性.3年前より肺癌を患い,エルロチニブを内服していた.内服開始の数カ月後より右眼の充血を認めていたが,近医にて結膜炎の診断を受け,経過観察となっていた.その1年後,右眼の眼痛を自覚し近医を再受診したところ,角膜潰瘍を指摘された.エルロチニブ内服による薬剤性角膜上皮障害を疑われ,エルロチニブの内服を中止して点眼・軟膏などの投薬を受けたが,角膜潰瘍を繰り返すため,当院へ紹介となった(図1~3).エルロチニブは,上皮成長因子受容体(epithelialgrowthfactorreceptor:EGFR)に作用してチロシンキナーゼを選択的に阻害し,癌細胞の増殖を抑制する内服抗癌剤である.同じくEGFR阻害薬であるゲフィチニブに続く分子標的治療薬として2007年に承認を受け,現在,広く進行および再発肺癌や膵癌の治療に用いられている.眼表面では,上皮成長因子(epithelialgrowthfactor:EGF)が角膜上皮の創傷治癒過程における細胞の増殖と層化に関係していることが知られている1).EGFR阻害薬ではこうしたEGFの働きが阻害されるため,角膜上皮の創傷治癒遅延が生じると考えられる.眼科領域ではこれまでにも,エルロチニブ内服による遷延性上皮欠損の報告2)や,同じくEGFR阻害薬であるセツキシマブでも遷延性上皮欠損が生じたとの報告3)がなされている.さらにEGFR阻害薬では,毛包におけるKeratin遺伝子の発現のレギュレーションが阻害される.これにより睫毛の乱生や長毛化といった睫毛変化が生じ4),また睫毛だけでなく,頭髪や眉毛もカールを有する太い毛に変化することが皮膚科領域で多く報告5)されている.本症例も,睫毛の長毛化・乱生化を認め,潰瘍部位に一致して睫毛の接触を認めた(図4).今回の症例は,長毛化・乱生化した睫毛が接触することにより角膜上皮障害が生じ,さらに角膜上皮の創傷治癒遅延により重篤な角膜潰瘍に至ったと考えられた.エルロチニブ内服を中止し,ガチフロキサシン点眼,フルオロメトロン点眼,オフロキサシン眼軟膏による局所治療に加え,睫毛抜去を行うことで,1カ月後に良好な上皮化を得ることができた.また,睫毛管理を継続して行うことにより,1年以上経過する現在まで,再発を認めていない(図5,6).癌治療中の患者において,睫毛の変化や遷延化する角膜上皮欠損を認めた場合には,EGFR阻害薬内服の有無を確認する必要がある.本症例のような眼障害を生じる頻度は決して高くはないが,重篤化すれば角膜穿孔をきたす可能性もあり,十分な注意が必要である.文献1)NakamuraY,SotozonoC,KinoshitaS:Theepidermalgrowthfactorreceptor(EGFR):roleincornealwoundhealingandhomeostasis.ExpEyeRes72:511-517,20012)JohnsonKS,LevinF,ChuDS:Persistentcornealepithelialdefectassociatedwitherlotinibtreatment.Cornea28:706-707,20093)FoersterCG,CursiefenC,KruseFE:Persistingcornealerosionundercetuximab(Erbitux)treatment(epidermalgrowthfactorreceptorantibody).Cornea27:612-624,20084)MethvinAB,GausasRE:Newlyrecognizedocularsideeffectsoferlotinib.OptjalPlastReconstrSurg23:63-65,20075)AlexandrescuDT,KauffmanCL,DasanuCA:PersistenthairgrowthduringtreatmentwiththeEGFRinhibitorerlotinib.DermatolOnlineJ15:15,2009508

眼表面からみた眼瞼下垂手術の術前・術後対策

2015年4月30日 木曜日

特集●完璧マスター!眼瞼下垂あたらしい眼科32(4):499~506,2015特集●完璧マスター!眼瞼下垂あたらしい眼科32(4):499~506,2015眼表面からみた眼瞼下垂手術の術前・術後対策Pre-andPostoperativeMeasuresforBlepharoptosisSurgeryfromtheAspectoftheOcularSurface横井則彦*はじめに近年,眼科において,眼瞼下垂の手術が盛んに行われるようになり,眼瞼下垂手術に関連したセミナーが活況を呈している.その背景として,高齢化や治療に積極的な患者と術者の増加が推察される.また,その増加に伴って,眼不快感を主訴に受診する眼瞼下垂手術後の紹介例が増えてきたように思われる.眼瞼は眼表面と表裏の関係にあり,一方の異常が他方に異常を引き起こしうる.そして,そうした症例の背景には,瞬目を介した眼瞼と眼表面の動的な関係が関与し,涙液や眼表面を専門とするわれわれにとっても,しばしば未解決の問題を提示する.しかし,その克服は,眼表面により優しい眼瞼下垂手術の方法を提案してくれるに違いない.本稿では,眼瞼下垂手術の術前・術後の諸問題とその対策について,眼表面の視点から述べる.眼瞼下垂の術者のみならず,第一線の眼科医にも役立てば幸いである.I眼瞼下垂手術後の眼不快感と眼表面の2つの悪循環眼不快感を訴える眼瞼下垂手術後の眼表面は,一般に,ドライアイの眼表面に類似しており(図1),その症状は,一般に,ドライアイの2つのコア・メカニズム(悪循環)すなわち開瞼維持時の「涙液層の安定性の低下」と「瞬目時の摩擦亢進」で説明しうる(図2).そして最新のドライアイの考え方1)によれば,ドライアイとは,さまざまな上流の要因(リスクファクター)が眼表面に流れ込み,これら2つのコア・メカニズムを介して,眼不快感・視機能異常を生じる疾患であり,眼瞼下垂手術も上流の要因の1つとなりうる.その一方で,眼瞼下垂手術の対象の多くは,高齢者であり,すでに既存の涙液異常を有する場合も多く,眼瞼下垂手術がドライアイを顕性化する最後の一打となっていると思われる例もある.眼不快感を訴える眼瞼下垂の術後眼には,手術と上記のコア・メカ二ズムを橋渡しするいくつかのメカニズムが存在する(図2).すなわち,「涙液層の安定性の低下」には,涙液減少,蒸発亢進,表層上皮の水濡れ性低下が関与しうる.なかでも,後述する涙液減少は,蒸発亢進に比べて,より大きく眼表面をドライアイにシフトさせるため,注目すべきメカニズムといえる.そして,術後に生じうる閉瞼不全に伴う夜間兎眼に涙液減少が合併すると,涙液減少と蒸発亢進による複合メカニズムを介して,難治性のドライアイを発症する可能性がある.一方,後述する眼瞼に隠れた「瞬目時の摩擦亢進」のメカニズムは,ドライアイにおいて,近年その理解が急速に進んで来ており,眼瞼下垂の術後眼においても注意すべきメカニズムといえる2~4).II眼瞼下垂手術後の涙液減少最近になって,眼瞼下垂手術後に涙液減少が生じうることがわかってきた.Watanabeらは,筆者らが共同開発したビデオメニスコメトリー法5,6)を応用して,眼瞼*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(35)499 500あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(36)abcdef図1眼不快感を訴える眼瞼下垂手術後の眼瞼所見と眼表面所見(上・下は同一症例)a,b:閉瞼不全による蒸発亢進型ドライアイ.c,d:瞬目時の摩擦亢進が推察される上輪部角結膜炎様角結膜上皮障害(d:リサミングリーン染色),e,f:瞬目時の摩擦亢進が推察されるlid-wiperepitheliopathy.表層上皮障害悪循環知覚神経眼瞼水濡れ性低下水濡れ性低下目が乾く,目が疲れる,物が見えにくい症状目がゴロゴロする,痛い症状+涙液層の安定性低下炎症涙液減少(術後は涙小管ポンプ機能亢進が関与)悪循環瞬目時の摩擦亢進涙液層表層上皮蒸発亢進[術後は閉瞼不全(兎眼)が関与](術後の上皮障害も関与?)術後の眼瞼圧上昇図2眼瞼下垂手術後の眼不快感において推定される眼表面のメカニズム眼不快感を訴える眼瞼下垂手術後眼では,開瞼維持時の涙液層の安定性の低下や瞬目時の摩擦亢進が悪循環を生み,炎症も関与して知覚神経を刺激し,症状が引き起こされていると考えられる.また,それぞれの悪循環に術後のメカニズムや既存のメカニズムの術後の増強が関与しうる.abcdef図1眼不快感を訴える眼瞼下垂手術後の眼瞼所見と眼表面所見(上・下は同一症例)a,b:閉瞼不全による蒸発亢進型ドライアイ.c,d:瞬目時の摩擦亢進が推察される上輪部角結膜炎様角結膜上皮障害(d:リサミングリーン染色),e,f:瞬目時の摩擦亢進が推察されるlid-wiperepitheliopathy.表層上皮障害悪循環知覚神経眼瞼水濡れ性低下水濡れ性低下目が乾く,目が疲れる,物が見えにくい症状目がゴロゴロする,痛い症状+涙液層の安定性低下炎症涙液減少(術後は涙小管ポンプ機能亢進が関与)悪循環瞬目時の摩擦亢進涙液層表層上皮蒸発亢進[術後は閉瞼不全(兎眼)が関与](術後の上皮障害も関与?)術後の眼瞼圧上昇図2眼瞼下垂手術後の眼不快感において推定される眼表面のメカニズム眼不快感を訴える眼瞼下垂手術後眼では,開瞼維持時の涙液層の安定性の低下や瞬目時の摩擦亢進が悪循環を生み,炎症も関与して知覚神経を刺激し,症状が引き起こされていると考えられる.また,それぞれの悪循環に術後のメカニズムや既存のメカニズムの術後の増強が関与しうる. あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015501(37)味するとともに,涙液層の安定性低下を導いて,涙液減少型ドライアイとなる.そして,涙液減少型ドライアイは,反射性涙液分泌が得られにくいために,比較的重症のドライアイとなりやすい.しかし,Watanabeらの症例では,挙筋短縮術の術後は,後述するメカニズムで涙液貯留量の減少は生じるものの,反射性涙液分泌は保たれるため,顕性の涙液減少型ドライアイになりにくいのではないかと筆者は考えている.III挙筋短縮術後の涙液減少のメカニズムところで,挙筋短縮術がなぜ涙液貯留量を低下させるのであろうか.この機序を考察する前に,涙液メニスカスにおける涙液動態2)(図3)について考えてみたい.涙液メニスカスには,毛細管の原理によって陰圧Δp(毛管圧Δp=g/R:g:涙液の表面張力,R:涙液メニスカス曲率半径)が発生するが,涙道に流れ込む涙液量(V)は,上・下の涙液メニスカスに発生する陰圧(2Δp)と開瞼時に涙小管内に発生する陰圧(涙小管ポンプ:ΔP)との引き合い(圧差)で決まり,V=K(ΔP.2Δp)(Kは比例定数)で与えられる9).そして,この関係式から,下垂手術(挙筋短縮術)の前・後で涙液メニスカス曲率半径(R,mm:眼表面全体の涙液貯留量に一次相関するパラメータ6))を計測し,36例59側中,31例46側(78%)で,術1.5カ月後の時点において,涙液貯留量が有意に減少すること,および,術前のRが大きいほど,術後のRが小さくなることを世界で初めて示した7).また,彼らはその続報において,挙筋短縮術後は,術1.5カ月のみならず,術3カ月および6カ月後においても継続的に涙液貯留量が減少していること,術前の涙液量が多いほど術後の減少が大きいこと,および眼瞼下垂手術の別法である眼瞼皮膚切除術の前・後では涙液貯留量に有意な変化がないことを示した.そして,眼瞼挙上の程度と涙液貯留量の減少程度に相関がなかったことから,挙筋短縮術それ自体が涙液貯留量を減らす可能性があることを示した.しかし幸いなことに,涙液層の安定性の指標となる涙液層破壊時間(breakuptime;BUT)には,術1.5カ月,3カ月,6カ月後のいずれの時点においても有意な悪化はみられず,術後に新たに発症したドライアイ症状も術6カ月後までに解消したと述べている.一般に涙液貯留量の低値は,反射性涙液分泌量の低値を意Δ涙液メニスカスの陰圧(2p)Δ涙小管ポンプによる陰圧(P)涙道に流れ込む涙液量(V)図3涙道に流れ込む涙液量(V)を決定する上・下涙液メニスカスの毛管圧(Δp)と涙小管ポンプ(ΔP)上・下涙液メニスカスの陰圧Δp(Δp=g/R:g:涙液の表面張力,R:涙液メニスカス曲率半径)と開瞼時に涙小管内に発生する陰圧(涙小管ポンプ:ΔP)との圧差で,涙道に流れ込む涙液量(V)[V=K(ΔP.2Δp)(Kは比例定数)]9),ひいては,涙液クリアランスが決定される.Δ涙液メニスカスの陰圧(2p)Δ涙小管ポンプによる陰圧(P)涙道に流れ込む涙液量(V)図3涙道に流れ込む涙液量(V)を決定する上・下涙液メニスカスの毛管圧(Δp)と涙小管ポンプ(ΔP)上・下涙液メニスカスの陰圧Δp(Δp=g/R:g:涙液の表面張力,R:涙液メニスカス曲率半径)と開瞼時に涙小管内に発生する陰圧(涙小管ポンプ:ΔP)との圧差で,涙道に流れ込む涙液量(V)[V=K(ΔP.2Δp)(Kは比例定数)]9),ひいては,涙液クリアランスが決定される. 502あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(38)る眼輪筋涙.部ともよばれ,瞼板前眼輪筋の一部であるHorner筋の収縮(閉瞼時)と弛緩(開瞼時)による10)涙小管容量の差に基づく涙小管のポンプ機能に由来すると考えられる.そのため,挙筋短縮術後は開瞼時に瞼板が上方に移動しやすく,瞼板を起始部とするHorner筋の至適筋長(最大の張力が発揮できる適切な筋の長さ)が得られるようになり,ポンプ機能が術前に比べて増強するのではないかと考えられる.したがって,涙液分泌量が挙筋短縮術の前・後で変わらないとすると,ΔPの増強によりメニスカスの涙液がより多く吸引されるようになることで,涙液貯留量の減少を招くのではないかと推察される.この考えに方に立てば,涙液量の多い例(Rの大きい例)では,Δpが小さいために,より涙液量が減りやすかった(術後のRの減少が大きい)理由も理解できる.しかし,挙筋短縮術後の涙液減少は欠点ばかりではない.すなわち,Watanabeらも述べているように8),流涙を訴える眼瞼下垂の例では,眼瞼下垂手術が流涙の改善に奏効する可能性があり,流涙症治療のための眼瞼下垂手術という選択肢が示唆され,興味深い.IVドライアイに対する挙筋短縮術の注意点挙筋短縮術後に涙小管ポンプ機能が回復あるいは増強する可能性を考慮すると,術前から点眼治療を行っている顕性のドライアイにはとくに,注意が必要である.すなわち,術後に点眼液が容易に吸引されやすくなることで,その滞留時間が短くなり,術前ほどの点眼効果が得られなくなる可能性があるからである.そのため,点眼管理可能であったドライアイが挙筋短縮術後に涙点プラグの挿入を必要とする場合もある(図4).さらに,挙筋短縮術後に涙小管ポンプ機能が増強すると,通常は有効なサイズのプラグが奏効しなくなる場合もある.すなわち,適切なプラグが選択されてもポンプ機能の増強のために,涙点と涙点プラグの間隙から点眼液が吸引されて,通常のサイズでは十分な閉塞効果が得られなくなってしまう場合がある(図5).つまり,挙筋短縮術後には,一過性の閉瞼不全による涙液の蒸発亢進が起こりうることに加えて,涙液減少が術後のドライアイの発症に大きく関与しうることに注意する必要があるであろう.涙液メニスカスの陰圧ΔpはRが小さいと大きいため,涙液減少眼ではVが減少して,涙液クリアランスが悪くなることや,ΔPが変わらない条件下では,Rが大きいとΔpが小さいため,導涙されやすいことも容易に理解できる.ここに,ΔPは,瞼板内側から後涙.稜に至abc図4点眼治療で良好に治療されていたドライアイが術後に増悪し(a),上・下涙点プラグ挿入(b)によって改善(c)した症例術前からのドライアイが挙筋短縮術により増悪したと推測される.点眼治療で管理できていた例が上・下の涙点プラグ挿入を必要としている点に注目したい.abc図4点眼治療で良好に治療されていたドライアイが術後に増悪し(a),上・下涙点プラグ挿入(b)によって改善(c)した症例術前からのドライアイが挙筋短縮術により増悪したと推測される.点眼治療で管理できていた例が上・下の涙点プラグ挿入を必要としている点に注目したい. あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015503(39)の球結膜との間に,健常眼では過剰摩擦を生じないKessingspaceとよばれる13)(図6)空隙を形成する.しかし,結膜の巨大乳頭,重瞼術後に脱出してきた縫合糸の影響,上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratocon-junctivitis:SLK)14)や加齢に基づく上方の結膜弛緩症などで,このKessingspaceにおいても過剰な摩擦が生じることがある.そして,以上のような瞬目時の摩擦亢進に基づく角結膜上皮障害は,Cherによってblink-relatedmicrotrauma(BRMT)と総称され12),Korbらが報告したLWE11)もこの一部として捉えることができる12).興味深いことに,挙筋短縮術を初めとする眼瞼下垂手術は,この瞬目時の摩擦亢進に対して両刃の剣的作用をもつ.すなわち,組織学的検討から瞬目時の摩擦亢進がV眼瞼下垂手術と瞬目時の摩擦亢進先に述べたように,眼不快感を有する眼瞼下垂手術後の眼表面のもう一つのコア・メカニズム(悪環境)として瞬目時の摩擦亢進がある.瞬目時に眼表面と摩擦を生じる眼瞼結膜部位は,Korbらによって,lidwiperと名付けられ11)(図6),この部は,生理的には,角膜上皮との適度な摩擦を通じて上皮のターンオーバに寄与すると考えられるが,角膜との間で過剰な摩擦を生じるとlidwiperの上皮障害(lid-wiperepitheliopathy:LWE,図1f)や,それと対峙する角膜上方の上皮障害の原因となり,眼瞼の背後で悪循環が形成されて(図2),異物感を初めとする慢性の眼不快感の原因となりうる2~4,11,12).一方,lidwiperより後方の眼瞼結膜は,対峙する上方染色直後3分後15分後60分後abcd図5挙筋短縮術後に上・下涙点にプラグを挿入する(a)も無効(b)で,よりサイズの大きなプラグを挿入(c)することで改善をみた症例(d:挿入後1カ月)涙点径の計測に基づく適切なサイズの涙点プラグが挿入されていても,連続写真(中段)から,点眼されたフルオレセイン液が徐々に消失してゆくことが分かる(下方の涙液メニスカスの高さに注目したい).染色直後3分後15分後60分後abcd図5挙筋短縮術後に上・下涙点にプラグを挿入する(a)も無効(b)で,よりサイズの大きなプラグを挿入(c)することで改善をみた症例(d:挿入後1カ月)涙点径の計測に基づく適切なサイズの涙点プラグが挿入されていても,連続写真(中段)から,点眼されたフルオレセイン液が徐々に消失してゆくことが分かる(下方の涙液メニスカスの高さに注目したい). 閉瞼閉瞼開瞼lidwiperと摩擦を生じる角膜部位角膜lidwiperKessingspace眼瞼図6瞬目時の摩擦亢進を理解するための背景上眼瞼は閉瞼時と開瞼時に摩擦力(閉瞼時>開瞼時)を眼表面に及ぼし,下眼瞼は閉瞼時に擦り上げるような摩擦力を眼表面に及ぼす(左)(文献11より改変).上,下眼瞼縁には,lidwiperとよばれる眼表面との間に摩擦を生じる上皮の肥厚部位を認め,眼瞼結膜と球結膜との間には,Kessingspaceとよばれる,生理的には摩擦を生じにくい空隙が存在する12).abcdef図7眼瞼下垂手術後の兎眼に対し挙筋延長術を受け,閉瞼可能となったが,その後強い眼刺激症状を訴えている症例上方球結膜に上輪部角結膜炎(SLK)様の充血(a)と上皮障害(b:リサミングリーン染色)および結膜弛緩(c)を認め,上方眼瞼結膜も充血(c)を認める.上方球結膜に対するSLK手術の結果,球結膜と眼瞼結膜の充血およびリサミングリーン染色所見は大幅に軽減し(それぞれd,f,e),症状も消失した. あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015505(41)そのメカニズムとして推定される15)角膜糸状物の形成にしばしば眼瞼下垂が関与しており,眼瞼下垂手術がその治療に有効であることが知られる16,17).その一方で,眼瞼手術の既往眼に難治性の角膜糸状物が生じたり,SLK様の病変が生じることがある(図7).おそらく,複数回手術を含む過度の眼瞼への侵襲は,術後の瘢痕形成を介して,眼瞼と眼表面の接触面積を増やして,瞬目時の摩擦亢進を導くのではないかと考えられる.実際,挙筋短縮術の術後に慢性的な異物感,眼痛を認める例で,上眼瞼の反転が非常に困難な例を経験することがある.こうした例では,しばしば角膜の上方や上方の球結膜の上皮障害,あるいは摩擦を示唆するコイル状の血管異常(cork-skrewsignとよばれる)が球結膜に認められ,瞬目時の摩擦亢進が所見や症状の原因になっていることがある.球結膜の弛緩は,加齢性に進行するものであるが,上方の結膜弛緩が進行することで,過去に受けた眼瞼下垂手術によるタイトな眼瞼との過剰な摩擦が生じはじめ,眼瞼下垂手術から数年以上経過してSLK様の病変を示してくる例もある.そしてこのような例は,本来空隙であるべきKessingspaceが弛緩結膜とタイトな眼瞼により狭められた結果生じる,新たな病変として捉えることができるだろう.一般に,下方の結膜弛緩症を高度に認める例では,上方の結膜弛緩も強いため,それを参考に眼瞼下垂手術の前に,上方の結膜弛緩症の有無も確認しておき,手術においては,侵襲を最小限にして,タイトな眼瞼とならないよう注意することが大切と思われる.また,涙液減少眼では,Kessingspaceにクッションとしての役割を果たす涙液が減少しているため,摩擦が増強しやすいことも覚えておくべきである.瞬目を介した眼瞼と眼表面の動的関係(図6)は,その研究の歴史も浅く,まだまだ解明すべき問題が多く残されていると思われる.VI眼瞼下垂手術の術前対策眼瞼下垂の術前には,涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進の観点から,眼表面をくまなくチェックしておくことが重要である.まず,涙液層の安定性低下の観点からは,術前の涙液減少にはとくに注意し,角膜下方の上皮障害,3時9時方向の球結膜上皮障害,角膜下方の筋状の涙液層の破壊(linebreak18))は,涙液減少型ドライアイの存在を示唆するため,術後に悪化する可能性を伝えておく必要がある.可能であれば,Schirmerテスト1法を施行しておくことも有用であろう.次に,瞬目時の摩擦亢進の観点からは,術前からの結膜弛緩症(とくに上方の結膜弛緩症)の存在やSLKおよびLWEを初めとするBLMTの存在を確認し,それを適切に治療しておくこと,および術後にそれが増悪する可能性を患者に伝えておくことが重要と思われる.VII眼瞼下垂手術の術中・術後対策これまで述べてきたように,眼瞼下垂手術を行う際には,術後に涙液層の安定性の低下,瞬目時の摩擦亢進が生じうることを念頭に置き,術前よりそのメカニズムの関与が眼表面に見られる場合はもとより,それが見られなくとも,可能な限り低侵襲の手術を心がけることが大切である.そして,術後にそれらのメカニズムの増強により予期しない症状が生じた場合は,適切な対応を行う.ときには涙点プラグ挿入術やSLKの手術に準じた外科手術14)が必要になることもあり,それらが奏効しない場合は,眼瞼に対する再手術が必要となる場合もあると思われる.しかし,近年のドライアイの点眼治療の進歩により1,18),わが国においては,ジクアホソルナトリウムやレバミピド点眼液が,それぞれ涙液層の安定性低下,および瞬目時の摩擦亢進に対して効果的に利用できるため,それらの活用も考えると良いであろう1).おわりに眼瞼,涙液,涙液層,眼表面上皮は,動的な関係を保ちながら,互いの健常性を維持し合い,眼の快適性と視機能の維持に貢献している.眼瞼下垂そのものも,眼瞼下垂手術も,これらの組織の均衡のとれた動的関係に障害を及ぼす可能性があり,眼不快感や難治性の上皮障害の原因となることがある.眼瞼下垂手術を行う際には,日頃から術眼や僚眼の眼表面や眼瞼の状態を良く観察し,これらの組織の良好な動的関係を崩すことのないよう,眼に優しい手術を心がけたいものである. 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