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白内障手術前後の網膜血管酸素飽和度および血管径の測定

2015年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(4):587.590,2015c白内障手術前後の網膜血管酸素飽和度および血管径の測定中川拓也コンソルボ上田朋子林篤志富山大学附属病院眼科MeasurementofRetinal-VesselOxygenSaturationandVesselWidthbeforeandafterCataractSurgeryTakuyaNakagawa,TomokoUeda-ConsolvoandAtsushiHayashiDepartmentofOphthalmology,ToyamaUniversityHospital目的:白内障手術前後で網膜血管の酸素飽和度と血管径の測定を行い,白内障の影響を検討する.方法:健常人34名34眼を対象とし,OxymapT1TMを用いて網膜血管の酸素飽和度と血管径の健常人のデータを得た.また,白内障手術を施行した32名32眼を対象とし,術前後で同様に測定した.眼底を4象限に分け,白内障により網膜血管境界が不明瞭となった象限を除外した場合の白内障手術前後での測定結果も検討した.結果:健常眼では網膜血管の酸素飽和度および血管径ともに再現性は良好であった.白内障手術前後の比較では,網膜血管の酸素飽和度は術後に有意に高値であったが,血管径は有意差がなかった.白内障により網膜血管境界が不明瞭になった象限を除外した場合は,血管酸素飽和度および血管径ともに術前後で有意差がなかった.結論:OxymapT1TMは良好な結果の再現性を有する.白内障手術前後で網膜血管酸素飽和度と血管径は変化がなかった.Objective:Toexaminetheeffectsofcataractonthemeasurementsofretinal-vesseloxygensaturationandvesselwidth.Methods:Afunduscamera-basedoximeter(OxymapT1TM;Oxymapehf.,Reykjavik,Iceland)wasusedtomeasureretinal-vesseloxygensaturationandvesselwidthin34eyesof34healthyindividuals,andin32eyesof32patientsbeforeandaftercataractsurgery.Thefundusphotographofeachsubjectwasdividedintofourquadrants.Afterthequadrantswithobscuredretinalvesselsduetocataractwereexcluded,thepre-andpostoperativevalueswerecompared.Results:Retinal-vesseloxygensaturationandvesselwidthshowedgoodreproducibilityinthehealthyindividuals.Inthecataractpatients,thepostoperativeretinal-vesseloxygensaturationvaluesweresignificantlyhigherthanthepreoperativevalues,yettherewasnosignificantdifferenceinvesselwidth.Afterthequadrantswithobscuredretinalvesselswereexcluded,nosignificantdifferencebetweenthepre-andpostoperativevalueswasfound.Conclusions:TheresultsobtainedbyuseoftheOxymapT1TMshowedgoodreproducibility,andshowednosignificantdifferenceinretinal-vesseloxygensaturationorvesselwidthpreandpostcataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):587.590,2015〕Keywords:OxymapT1TM,酸素飽和度,網膜血管,網膜血管径,白内障.OxymapT1TM,oxygensaturation,retinalvessel,vesseldiameter,cataract.はじめに眼底網膜血管は高血圧や動脈硬化などの全身状態を反映し,それらの指標として臨床で使用されている1).近年,網膜血管の酸素飽和度を眼底写真より算出する方法が考案され,臨床研究が行われている2.5).Hardarsonらは,非侵襲的に網膜血管の酸素飽和度を測定するためにオキシヘモグロビンの吸光が高い波長である600nmとヘモグロビンの吸光が高い波長である570nmの2つの異なる波長で同時に眼底写真を撮像することにより,ヘモグロビンの酸素飽和度を算出し,網膜血管上にカラーマップで画像化し可視化できるOxymapT1TM(Oxymapehf.,Reykjavik,Iceland)を開発し,臨床使用している2.5).わが国では,OxymapT1TMは未承認の機器である.Geirsdottirらは,健常人のOxymapT1TMを用いた網膜〔別刷請求先〕中川拓也:〒930-0194富山市杉谷2630富山大学附属病院眼科Reprintrequests:TakuyaNakagawa,2630Sugitani,Toyama,Toyama930-0194,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(123)587 血管の酸素飽和度および血管径を報告したが3),対象被験者はすべて白人健常者であった.今回,筆者らは,OxymapT1TMを用いて日本人の健常者を対象とし,OxymapT1TMによる網膜血管の酸素飽和度および血管径を測定し,結果の再現性を検討した.また,中間透光体である水晶体の混濁によりOxymapT1TMの測定結果が影響を受ける可能性が考えられる.筆者らはOxymapT1TMによる網膜血管の酸素飽和度と血管径の測定に対する白内障の影響を検討するため,白内障症例の術前,術後で検討した.I対象日本人におけるOxymapT1TMの結果の再現性を検討するため,屈折異常以外に眼疾患のない15.70歳(平均年齢46.4±15.0歳)の男性21名,女性13名,計34名34眼を対象とした.また,白内障のOxymapT1TMの結果に与える影響を検討するため,富山大学附属病院において白内障手術を施行した白内障以外に眼底疾患のない59.82歳(平均年齢75.7±6.4歳)の男性15名,女性17名,計32名32眼を対象とした.すべての対象者に対してインフォームド・コンセントを行い,文書にて同意を得て研究を行った.II方法1.眼底写真撮像OxymapT1TMは,眼底カメラ(TRC-50-DX;トプコン社,東京)の本体に特殊なフィルターのあるカメラユニットを装着したものである.すべての症例で片眼のみを測定した.撮像前の散瞳にはトロピカミドとフェニレフリン塩酸塩の点眼液を使用し,散瞳を確認後に撮像した.撮像は暗室で図1OxymapT1で撮像した眼底写真の網膜血管の解析範囲A:1乳頭径.B:Aを基準とし,Aの直径1.5倍の円.C:Aを基準とし,Aの直径3倍の円.BとCの間にある白色の血管を解析した.行い,画角は50°,フラッシュ光量は50Wsに設定した.眼底写真は視神経乳頭が中央に位置するように撮像した5).再現性の検討には,健常眼を異なる日で2回撮像した.また,白内障手術症例は手術前と術後1カ月で眼底を撮像した.2.解析撮像した眼底写真を付属のソフトウェア(OxymapAnalyzer:version2.4.0)で解析した.血管酸素飽和度と血管径の解析には,既報に従い2.5),各眼底写真における視神経乳頭を円で囲み,その円を1乳頭径として,直径1.5乳頭径と3乳頭径の円を書き,1.5乳頭径と3乳頭径の円の間の6pixel以上の幅をもつ血管を選択し,解析した(図1).血管分岐部あるいは血管交叉部が選択範囲内にある場合は,その前後で15pixelの長さを除外した.選択した血管を上耳側,下耳側,上鼻側,下鼻側の4象限に分け,動脈と静脈のそれぞれで酸素飽和度および血管径を解析した.統計学的解析は,pairedt-testで行い,p<0.05を有意とした.III結果1.健常眼における再現性健常眼34眼での網膜4象限の網膜動脈の平均酸素飽和度は1回目99.1%±6.5%(平均±標準偏差),2回目98.1%±5.2%で有意な差はなかった(p=0.1,n=34).網膜動脈の血管径の平均値は1回目110.4μm±11.1μm,2回目112.8μm±12.8μmで有意な差はなかった(p=0.24,n=34).網膜静脈の酸素飽和度の平均値は1回目54.3%±6.0%,2回目53.5%±6.3%で有意差はなかった(p=0.21,n=34).網膜静脈の血管径の平均値は1回目146.0μm±12.8μm,2回目149.6μm±14.9μmで有意差はなかった(p=0.06,n=34).また,4象限それぞれの網膜血管の酸素飽和度および血管径の平均値を各眼で算出した.健常眼の各象限別の網膜動脈および網膜静脈の酸素飽和度と網膜動脈および網膜静脈の血管径は,各象限ですべて有意差はなかった.2.白内障手術前後における変化白内障手術症例32眼の網膜4象限の網膜動脈の酸素飽和度は,術前95.8%±9.5%,術後100.2%±6.5%(p<0.001,n=32)で有意差がみられた.網膜動脈血管径は術前110.2μm±15.8μm,術後112.4μm±13.1μm(p=0.19,n=32)で有意差はなかった.また,網膜静脈の酸素飽和度は,術前48.1%±9.0%,術後59.1%±6.5%(p<0.001,n=32)で有意差がみられた.網膜静脈血管径では,術前157.0μm±16.1μm,術後で157.4μm±16.3μm(p=0.88,n=32)で有意差はなかった(表1A).白内障手術全症例の各象限別の網膜動脈の酸素飽和度の術前後の比較では,4象限すべてで有意差がみられた.網膜静脈の酸素飽和度も同様にいずれの象限でも術前後で有意差がみられた(表2A).588あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(124) 表1白内障眼(A)と境界不明瞭な血管を除いた白内障眼(B)の網膜4象限を含めた平均酸素飽和度と血管径の比較酸素飽和度〔%〕血管径〔μm〕術前術後p術前術後p〔A〕網膜動脈(n=34)95.8±9.5100.2±6.5<0.001110.2±15.8112.4±13.10.19網膜血管(n=32)48.1±9.059.1±6.5<0.001157.0±16.1157.4±16.30.88〔B〕網膜動脈(n=23)98.4±8.999.7±7.50.54111.1±15.4111.6±12.30.76網膜静脈(n=9)55.8±6.757.2±6.20.21152.4±21.0150.2±19.10.54表2白内障症例(A)と境界不明瞭な血管を除いた白内障手術症例(B)の各象限における網膜血管酸素飽和度の術前後の比較網膜動脈網膜静脈酸素飽和度(%)術前術後p術前術後p〔A〕上耳側92.9±13.496.9±8.90.021(n=32)50.9±10.560.2±7.1<0.001(n=32)下耳側95.0±10.099.4±7.00.003(n=32)49.1±12.254.6±9.1<0.001(n=32)上鼻側101.4±10.9104.3±9.00.001(n=32)51.7±11.062.7±7.9<0.001(n=32)下鼻側93.8±14.5100.2±9.60.002(n=32)47.7±12.059.6±8.9<0.001(n=32)〔B〕上耳側95.3±12.195.9±8.90.59(n=24)55.3±5.357.5±3.80.07(n=10)下耳側98.0±10.298.5±7.50.66(n=22)51.1±4.452.1±5.50.47(n=5)上鼻側103.0±10.2103.6±9.00.41(n=27)58.5±7.958.5±7.40.98(n=11)下鼻側96.3±12.398.7±9.20.06(n=16)58.4±6.258.4±5.80.12(n=10)白内障手術症例の各象限別の網膜動脈の血管径の術前後の比較では,血管径はすべての象限で有意差はなかった.網膜静脈の血管径の術前後の比較も同様に,すべての象限で有意差はなかった.次に,白内障は4象限で均一に混濁しているわけではないため,570nmでの眼底写真を撮像し,その写真上で白内障により網膜血管境界が不明瞭となった象限を除外して網膜血管の解析を行い,術前後の比較を行った.網膜動脈の酸素飽和度は術前98.4%±8.9%,術後99.7%±7.5%(p=0.54,n=23)で有意差はなく,網膜動脈血管径も術前111.1μm±15.4μm,術後111.6μm±12.3μm(p=0.76,n=23)で有意差はなかった(表1B).また,網膜静脈の酸素飽和度は,術前56.7%±4.5%,術後58.9%±4.7%(p=0.21,n=9)で有意差はなく,網膜静脈血管径でも術前152.4μm±21.0μm,術後で150.2μm±19.1μm(p=0.54,n=9)で有意差はなかった(表1B).白内障手術前後でも境界が不明瞭な血管の象限を除いた場合の各象限別の網膜動脈および静脈の血管酸素飽和度,血管径は,術前後ですべての象限で有意差はなかった(表2B).IV考按Palssonらの報告によると,健常人26人の同一血管での反復測定による網膜血管酸素飽和度の標準偏差の差は動脈で1.0%,静脈で1.4%であり,繰り返しの測定でも高い再現性があることがわかっている6).また血管径については,健常(125)人12人に対しての反復測定の変動係数が第1分岐の動脈で3.5%,第2分岐の動脈で5.4%,第1分岐の静脈で2.8%,第2分岐の静脈で4.0%であり,高い再現性が確認されている7).今回,健常眼で異なる日に2回撮像した結果では,網膜動静脈の平均酸素飽和度の差が1.4%(p=0.06),静脈で0.8%(p=0.10)であった.血管径においては,2回測定の平均値の差が動脈で2.5μm(p=0.19),静脈で3.6μm(p=0.06)であり,OxymapT1TMは再現性が高いことが確認できた.また,健常眼の上下耳鼻側の4象限で各象限別に解析した結果も異なる日で撮像してもすべての象限において有意な差はなく,象限によって網膜血管酸素飽和度の解析に影響を受けることはないことが確認された.白内障症例においては,網膜動静脈の酸素飽和度の平均値は術前後で動脈で4.3%(p<0.001),静脈で11.0%(p<0.001)と有意差が認められ,白内障術後に網膜血管酸素飽和度の測定値が高くなることがわかった.網膜血管径においては,動脈で2.2μm(p=0.11),静脈で0.4μm(p=0.84)と有意な差はなく,白内障は網膜血管径の解析には影響が少ないことがわかった.人水晶体の可視光の透過曲線では,白内障がない場合は80%以上が透過することが知られているが8),加齢とともに白内障が進行してくると400nmから600nmにかけての波長は,それよりも長波長の光に比べ透過率がより低下することが知られている8).今回使用したOxymapT1TM眼底カメあたらしい眼科Vol.32,No.4,2015589 ラは570nmと600nmの波長を用いているが,白内障により570nmと600nmの光の透過が不均一に低くなったため,眼底写真上の差分から計算される血管酸素飽和度で白内障の影響が血管径よりも大きく出た可能性が考えられる.570nmで撮像した眼底写真上で白内障により血管境界が不明瞭な象限を除外して網膜血管酸素飽和度を測定すると白内障手術前後では有意差がなかったことから,白内障術後1カ月後では術前と比べ網膜血管酸素飽和度と血管径は変化しないと考えられる.今後の研究においてOxymapT1TMで解析する際,白内障により網膜血管が不明瞭な場合は網膜血管酸素飽和度が変化することを考慮に入れる必要がある.OxymapT1TMは,糖尿病網膜症や網膜血管閉塞症などの疾患において網膜血管酸素飽和度および血管径の変化を経時的に追うことができ,治療の評価や予後予測などに有用である可能性が考えられる.文献1)所敬,吉田晃敏,谷原秀信:網膜・硝子体疾患.現代の眼科学改訂第11版,p150-209,金原出版,20122)JorgensenCM,HardarsonSH,BekT:Theoxygensaturationinretinalvesselsfromdiabeticpatientsdependsontheseverityandtypeofvision-threateningretinopathy.ActaOphthalmol92:34-39,20143)VandewalleE,PintoLA,OlafsdottirOBetal:Oximetryinglaucoma:correlationofmetabolicchangewithstructuralandfunctionaldamage.ActaOphthalmol92:105110,20144)HardarsonSH,HarrisA,KarlssonRAetal:Automaticretinaloximetry.InvestOphthalmolVisSci47:50115016,20065)GeirsdottirA,PalssonO,HardarsonSHetal:Retinalvesseloxygensaturationinhealthyindividuals.InvestOphthalmolVisSci53:5433-5442,20126)PalssonO,GeisdottirA,HardarsonSHetal:Retinaloximetryimagesmustbestandardized:amethodologicalanalysis.InvestOphthalmolVisSci53:1729-1733,20127)BlondalR,SturludottirMK,HardarsonSHetal:Reliabilityofvesseldiametermeasurementswitharetinaloximeter.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1311-1317,20118)BoultonME,RozanowskaM,WrideM:Biophysicsandagechangesofthecrystallinelens,Albert&Jakobiec’sPrinciplesandPracticeofOphthalmology,Vol2,Canada:SaundersElsevier,p1365-1374,2008***590あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(126)

下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績

2015年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(4):583.586,2015c下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績加賀郁子*1城信雄*1南部裕之1.2)中内正志*1吉川匡宣*1越生佳代*3髙橋寛二*1松村美代*2*1関西医科大学眼科学教室*2永田眼科*3関西医科大学滝井病院Long-TermOutcomesforTrabeculotomywithSinusotomyCombinedwithPhacoemulsificationandAspirationwithIntraocularLensImplantationforGlaucomaIkukoKaga1),NobuoJo1),HiroyukiNambu1,2),TadashiNakauchi1),TadanobuYoshikawa1),KayoKoshibu3),KanjiTakahashi1)andMiyoMatsumura2)1)DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2)NagataEyeClinic,3)DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversityTakii目的:原発開放隅角緑内障(POAG),落屑緑内障(EG)に対する白内障手術を併用した下方サイヌソトミー併用トラベクロトミー(LOT+SIN)の眼圧下降効果について検討した.対象および方法:2004.2009年に白内障+下方LOT+SINを行ったPOAG22例31眼,EG20例23眼について眼圧経過および20または16mmHgの生存率を検討.結果:眼圧(POAG/EG)は術前19.8/22.7,術後3年13.4/13.1,術後5年11.5/13.0mmHgであった.術後7年の20mmHg以下の生存率(POAG/EG)は51.8/93.3%,16mmHg以下は46.5/72.8%であり,EGのほうが有意に良好であった(p<0.01).結論:白内障手術を併用した下方LOT+SINの成績は,過去の上方でのLOT+SINを行った報告と同等であった.POAGよりもEGのほうが成績は良好であった.Inthisstudy,weretrospectivelyanalyzedthelong-termsurgicaloutcomesofinferior-approachtrabeculotomyandsinusotomy(inferior-LOT+SIN)combinedwithphacoemulsificationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL).Wereviewed31primaryopen-angleglaucoma(POAG)eyesand23exfoliationglaucoma(EG)eyes.AllcaseshadundergoneinitialLOT+SIN,andwerefollowedupforatleast6-monthspostoperative.InthePOAGandEGeyes,themeanpreoperativeintraocularpressure(IOP)was19.8mmHgand22.7mmHg,respectively,whilethemeanIOPat3-and5-yearspostoperativewas13.4and11.5mmHgand13.1and13.0mmHg,respectively.Statisticallysignificantdifferencewasfoundbetweenthepre-andpostoperativeIOP.BytheKaplan-Meierlifetablemethod,thesuccessratebelow20/16mmHgwere51.8/46.5%inthePOAGeyesand93.3/72.8%intheEGeyesat7-yearspostoperative.ThesuccessrateofEGwasstatisticallyhigherthanthatofPOAG.Thesefindingsareidenticaltothoseofpreviousreportsonsuperior-LOT+SIN.ThefindingsofthisstudyshowthatPEA+IOL+inferior-LOT+SINiseffectiveforthecontrolofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):583.586,2015〕Keywords:トラベクロトミー,サイヌソトミー,白内障手術,開放隅角緑内障,落屑緑内障.trabeculotomy,sinusotomy,phacoemulcification+IOLimplantation,primaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucoma.はじめにことが知られ1.3),成人例ではLOT+SINを施行することがトラベクロトミー(trabeculotomy:LOT)は緑内障流出主流になっている.SINを行ってもトラベクレクトミーでみ路手術の代表格であるが,サイヌソトミー(sinusotomy:られるような濾過胞はできない1.4,7)ので,将来行う可能性SIN)を併用すると,LOT単独に比べて術後眼圧が低くなるのあるトラベクレクトミーのために上方の結膜を温存するこ〔別刷請求先〕加賀郁子:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学講座Reprintrequests:IkukoKaga,DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-5-1Shinmachi,Hirakata573-1191,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(119)583 とを考慮して,最近では下方でLOT+SINを行うことが多く,下方で行っても,上方で行ったLOT+SINの成績と同等であることが報告されている4).LOTに白内障手術を併用した場合,LOT単独手術と同等以上の成績であり6),LOT+SINでも同様の報告はあるが7,8),これらの報告は上方で手術を行った成績であり,白内障手術を併用して下方でLOT+SINを行ったものの報告は少ない5).今回,白内障手術を併用した下方でのLOT+SINの術後長期成績を,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)と落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EG)に分けてレトロスペクティブに検討したので報告する.I対象および方法2004.2009年に関西医科大学附属滝井病院および枚方病院において,LOT+SINと超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsificationandaspiration:PEA+intraocularlens:IOL)の同時手術を施行した,初回手術例48例61眼のうち,術後6カ月以上経過観察ができた42例54眼を対象とした(経過観察率89%).病型はPOAG22例31眼,EG20例23眼,男性24例29眼,女性18例25眼であった.平均年齢(平均値±標準偏差,以下同様)はそれぞれ70.0±10.3,77.6±8.6歳とEGのほうが有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p=0.0087).平均経過観察期間はPOAG48.9±22.1カ月,EG45.6±25.6カ月と同等であった(Mann-WhitneyU検定,p=0.7330)(表1).LOT+SINは8時方向で行った.4×4mmの二重強膜弁を作製し,Schlemm管を露出した.上方から角膜切開ないし19ゲージ(G)のバイマニュアルにてPEAを行い,IOLは表層強膜弁下より挿入した.LOT用プローブを挿入,回転し,深層強膜弁を切除して強膜弁を10-0ナイロン糸で2.4糸縫合閉鎖した後,SINすなわちSchlemm管上の強膜の一部をケリーデスメ膜パンチにて切除した.最後に前房内の粘弾性物質を吸引した.眼圧に関してはKaplan-Meier法を用いて20mmHgあるいは16mmHg以下への生存率の解析を行った.死亡の定義は,1)術後1カ月以降で目標眼圧あるいは術前眼圧を2回表1対象症例POAGEGp値症例22例31眼20例23眼平均年齢(歳)70.0±10.377.6±8.6p=0.0087平均観察期間(カ月)48.9±22.145.6±25.6p=0.7330POAG:primaryopenangleglaucoma,原発開放隅角緑内障,EG:exfoliationglaucoma,落屑緑内障.両群間で平均年齢に有意差はなかったが,平均観察期間に有意差はなかった.(Mann-WhitneyU検定)584あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015連続して超えた最初の時点,2)炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始した時点,3)新たな緑内障手術を施行した時点とした.ほかの内眼手術を行った場合は,その時点で経過観察打ち切りとした.Logrank検定を用いてPOAGとEGの病型別の生存率の比較も行った.II結果1.眼圧経過POAGの術前平均眼圧は19.8±4.4mmHgであった.術後1,3,5年の眼圧は13.9±4.1,13.4±3.2,11.5±1.6mmHgといずれの時点においても術前に比較して有意に下降した(術後1,3年p<0.0001,5年p=0.0269:pairedt-test).EGでも同様に,術前平均眼圧は22.7±9.7mmHg,術後眼圧は1,3,5年の眼圧は11.8±3.1,13.1±4.9,13.0±3.7mmHgであり,いずれの時点でも術前に比較して有意に下降した(術後1年p<0.0001,3年p=0.0037,5年でp=0.0180:pairedt-test)(図1).2.薬剤スコア緑内障点眼薬1点(ただし配合剤は2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.POAGでは術前平均2.1±0.9から術後3年で1.5±1.0と減少はみられたものの有意差は認めなかった(p=0.0979:pairedt-test).また,EGでは術前平均が2.2±1.2から,術後3年で0.9±1.0(p=0.0217:pairedt-test)と統計学的に有意に減少したが,術後5年では1.0±0.6と減少はみられたものの有意差は認めなかった(p=0.1025:pairedt-test)(図2).3.生存率20mmHg以下への生存率は,POAGは術後3年で73.6%,術後5年で51.8%,EGは術後3年以降で93.3%であり,EGのほうが有意に良好であった(p=0.0086,Logranktest)(図3).16mmHg以下への生存率も同様で,POAGは術後3年で60.9%,5年で46.5%,EGは術後3年で95.2%,5年で72.8%であり,EGのほうが有意に良好であった(p=0.0099,Logranktest)(図4).4.視力術前視力と最終観察時の視力を比較した.術前と比べ最終観察時の視力がlogMAR視力で0.3以上低下した症例をPOAGの1眼(3.2%)に認めた.術後に発症した裂孔原性網膜.離が視力低下の原因であった(図5).5.濾過胞濾過手術でみられるような濾過胞は全例みられなかった.6.合併症一過性眼圧上昇(術後7日以内に30mmHg以上を呈したもの)をPOAG5眼(16.1%),EG8眼(34.8%)に認めたが,いずれの症例も経過観察もしくは点眼追加で眼圧下降した.POAG1眼で術後4日に感染性眼内炎を生じ,硝子体手(120) 32*******POAGn=31n=28n=25n=20:POAG:EG******EGn=23n=21n=17n=15n=12n=7n=18n=6:POAG:EG*****眼圧値(mmHg)スコア(点)201510術前12345(年)図2薬剤スコア0術前12345(年)図1病型別眼圧経過経過とともに症例数が減少するため有意差は出なかった術前の眼圧と比べ,病型を問わず有意に眼圧下降が得られが,術前と比べPOAGでは術後2年まで,EGでは3年また(pairedt-test**p<0.0001,*p<0.05).で有意に薬剤スコアは下降した(pairedt-test*p<0.05).100100:EG:POAG(月)72.8%(90カ月)46.5%(84カ月):EG:POAG51.8%(90カ月)93.3%(90カ月)8080生存率(%)生存率(%)60604040202000020406080(月)最終観察視力020406080図320mmHg以下への生存率図416mmHg以下への生存率POAGと比べ,EGが有意に良好であった(Logrank検定POAGと比べ,EGが有意に良好であった(Logrank検定p=0.0086).p=0.0099).術で治癒した.この症例では術後濾過胞はみられなかった.37.再手術例POAG6眼,EG1眼で再手術を行った.POAG3眼,EG2.50.51眼では術後18,34,54,54カ月までは投薬下で18mmHg2以下にコントロールできていたが,その後眼圧上昇を認めた.明らかな視野の悪化はなく,術後20,36,57,57カ月1.5で,下方の別部位から再度LOT+SINを行った.1術後1カ月以降20mmHg以上の眼圧を示しLOTが無効:EGと考えられたPOAGの1眼と,術後9カ月以降に点眼2剤●:POAGと内服投薬下で14mmHgであったが視野進行を認めたPOAGの1眼,術後48カ月まで15mmHg以下であったが視野進行を認めたPOAGの1眼の合計3眼で,各々術後6,-0.5-0.50.511.522.5326,48カ月にトラベクレクトミーを上半周で行った.術前視力図5視力経過(logMAR視力)III考按POAGの1例で裂孔原性網膜.離をきたし,術後視力低LOT+SINは10mmHg台前半の眼圧をねらえる術式では下を生じた.ないため,長い人生には将来的に濾過手術が必要になる可能性を考えて,近年では下方で行われることが多い.下方(121)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015585 LOT+SINの成績は上方で行ったものと変わらないことがわかっている4).LOT+SIN+PEA+IOLに関しては,以前筆者らの施設で上方から行った成績が,術後1年の眼圧14.6mmHgであり,LOT+SIN単独と同等であったことを報告した7).松原ら8)は,上方LOT+SIN+PEA+IOLの長期成績を,術後5年の平均眼圧13.6mmHg,20mmHg以下への生存率86.8%と,単独手術よりもよかったと報告している.浦野ら5)は今回の筆者らと同様に,下方でLOT+SINを施行し耳側角膜切開でPEA+IOLを行った症例と,上方でLOT+SIN+PEA+IOLを行った症例について,術後12カ月での眼圧は上方14.4mmHg,下方13.6mmHgで差はなく,その眼圧は過去のLOT+SIN単独と同等であったと報告している.本報告では,下方LOT+SIN+PEA+IOLの長期成績を,POAGとEGの病型別に検討した.POAGでは術後4年の眼圧12.9mmHg,20mmHg以下への4年生存率が71.8%で,下方でのLOT+SIN単独手術(術後5年の眼圧14.6mmHg,20mmHg以下への8年生存率62.2%)の報告4)と同等であった.POAGでは下方LOT+SIN単独と下方LOT+SIN+PEA+IOLとの成績に差はないと考えてよさそうである.EGでは,下方LOT+SIN単独手術は,術後3年の平均眼圧17.8mmHg,20mmHg以下への生存率は25.2%(42カ月)と不良であるが,内皮網除去を併用した場合はPOAGと同等の成績であると報告されている4).今回の下方LOT+SIN+PEA+IOLでは,術後5年の眼圧13.0mmHg,20mmHg以下への生存率93.3%とPOAGより明らかに良好であり,Fukuchiら10)の上方からの成績とも同等であった.落屑症候群の症例では,緑内障の有無にかかわらずPEA+IOL術後に眼圧下降が得られることも報告されている11).白内障手術で落屑物質が吸引除去されること,水晶体がIOLに替わることで虹彩との摩擦が減少し,その後の落屑物質の浮遊が減少するであろうことから,EGにはPEA+IOLは有効に作用すると考えられる.実際,LOTにSINを併用していなかった時代から,EGにはLOT+PEA+IOLが有効であることがわかっていた9)が,今回の検討でEGにおける同時手術の有用性は下方で行っても同様であることが確認された.今回,下方でのLOT+SN+PEA+IOLの長期成績を検討して,POAGではLOT+SIN単独でもPEA+IOLを併用しても眼圧成績に差のないことが明らかになった.EGでは,LOT+SIN単独よりもPEA+IOLを併用するほうが成績は良好で,POAGと比較しても有意に高い眼圧コントロールができるという結果が示された.EGでは,LOT+SINを下方で行う場合でも積極的に白内障手術を併用することが推奨586あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015される.過去の報告では,LOT+SIN+PEA+IOLの成績がLOT+SIN単独と同等であったとされるものと5,7),同時手術のほうが単独手術よりよかったとされるもの8)がみられるが,今後は病型を考慮した検討が必須であると思われる.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicaleffectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycomparedtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmolScand78:191-195,20002)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,19963)安藤雅子,黒田真一郎,寺内博夫ほか:原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミー併用トラベクロトミーの長期経過.臨眼57:1609-1613,20034)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成績.日眼会誌116:740-750,20125)浦野哲,三好和,山本佳乃ほか:白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討.あたらしい眼科25:1148-1152,20086)TaniharaH,HonjoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsificationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimaryopenangleglaucomaandcoexistingcartaract.OpthalmicSurgLasers28:810-817,19977)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科8:813-815,20018)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,20029)TaniharaH,NegiA,AkimotoAetal:Surgicaleffectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,199310)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsification,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,201111)ShingletonBJ,HeltzerJ,O’DonoghueMW:Outcomesofphacoemulsificationinpatientswithandwithoutpseudo-exfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg29:10801086,2003(122)

Fusarium角膜炎2症例による初期治療の検討

2015年4月30日 木曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):577.581,2015cFusarium角膜炎2症例による初期治療の検討若月優稲田紀子庄司純日本大学医学部視覚科学系眼科学分野EvaluationoftheEfficacyofAntifungalTherapyinTwoCasesofFusariumKeratitisYuWakatsuki,NorikoInadaandJunShojiDivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicineピマリシン局所療法が有効であったFusarium角膜炎2症例を報告する.症例1:58歳,男性.病巣は,角膜中央部の集簇した不整形混濁から棍棒状混濁を伴う偽樹枝状病巣に進行した.角膜擦過物のpolymerasechainreaction(PCR)法でFusariumDNAが検出され,その後Fusarium属が培養された.ボリコナゾールによる治療からピマリシン局所投与に切り換え,約2カ月で治癒した.症例2:56歳,女性.病巣は小型の偽樹枝状病変であり,角膜擦過物のPCR法でFusariumDNAが検出された.ピマリシン眼軟膏を使用し,約4週間で治癒した.Fusarium角膜炎の早期診断に,偽樹枝状病変の棍棒状混濁とPCR法によるFusariumDNAの検出が有用であった.ピマリシン局所療法は,Fusarium角膜炎の初期治療として有用であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheeffectivenessofpimaricinophthalmicsolutionantifungaltreatmentin2casesofFusariumkeratitis.CaseReport:Case1involvedacornealulcerpatientwithafrequentoccurrenceofanirregular,club-typeopacityinthecentralcorneathathadprogressedtopseudodendritickeratitis.CultivationtestingofcornealabrasionspecimensobtainedfromthepatientrevealedFusarium,andpolymerasechainreaction(PCR)testingrevealedFusariumDNA.Thepatientwassuccessfullytreatedbychangingthetherapyfromvoriconazoleinjectiontotopicalpimaricinophthalmicsolutionandointment,yetthecornealabscessleftascarposthealing.Case2involvedacornealulcerpatientwithpseudodendritickeratitis.PCRtestingofacornealabrasionspecimenobtainedfromthepatientrevealedFusariumDNA.Theinfectiouskeratitiswassuccessfullyhealedbytreatingthepatientwithpimaricinophthalmicointment.Conclusions:Clinicalobservationofaclub-typeopacityinthecorneallesionanddetectionofFusariumDNAbyPCRwerefoundtobeusefulasanearlydiagnosticapproachfortreatingFusariumkeratitis,andtopicallyadministeredpimaricinophthalmicsolutionmayprovetobeavitalinitialpathwayfortreatingFusariumkeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):577.581,2015〕Keywords:Fusarium角膜炎,ピマリシン,初期治療,polymerasechainreaction,真菌性角膜炎.Fusariumkeratitis,pimaricin,empirictherapy,polymerasechainreaction,fungalkeratitis.はじめに感染性角膜炎の原因微生物は,細菌,真菌,ウイルスおよび原虫に大別される.感染性角膜炎の原因微生物に占める真菌の割合は6.20%と報告されている1).また,真菌性角膜炎の原因真菌として,酵母菌のCandida属,糸状菌であるFusarium属,Aspergillus属Penicillium属,Alternaria属などがあげられるが,近年,Fusarium属による症例が増加しているとされている.しかしながら,真菌性角膜炎を初期に診断することはむずかしく,その理由として多彩な臨床症状を示すことに加え,角膜病巣擦過による塗抹検査や分離培養検査の検出率が低値であることがあげられる.また,糸状菌においては抗真菌薬に対して抵抗性を示すことがあるため,治療診断という面からも難渋することがある.さらに,Fusarium属は臨床株によって薬剤感受性が異なることが指摘されており,初期の薬剤選択に苦渋することがある.今回,ピマリシンが奏効したFusarium角膜炎2例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕若月優:〒101-8369東京都千代田区神田駿河台1-6日本大学病院眼科Reprintrequests:YuWakatsuki,M.D.,DivisionofOphthalmology,NihonUniversityHospital,1-6KandaSurugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(113)577 I症例〔症例1〕58歳,男性.主訴:左眼視力低下,眼痛.既往歴:口唇ヘルペス,スポーツ時のみ1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用.現病歴:2013年5月に1日使い捨てSCL使用中,左眼に違和感を自覚した.翌日ゴルフを行った後に視力低下と眼痛が出現し,近医眼科を受診した.モキシフロキサシン塩酸塩点眼液および0.1%フルオロメトロン点眼液,セフポドキシムプリキセル錠を処方されるも改善傾向なく,発症後3日目に当院紹介受診した.初診時所見:視力は右眼(1.5),左眼(0.02)であり,眼圧は右眼13mmHg,左眼20mmHgであった.左眼は毛様充血を伴う結膜充血を認め,角膜中央部に不整形混濁の集簇がみられたが,角膜上皮に潰瘍はなかった(図1a).虹彩炎がみられるが,前房蓄膿はみられなかった.初診後2日目には,不整形混濁から棍棒状混濁を伴う偽樹枝状病変に進行し,前房内炎症も増加した(図1b).角膜病巣擦過を施行し,塗抹検査および細菌分離培養検査を施行したが,菌の検出はab図1症例1:左眼前眼部写真a:初診時.結膜・毛様充血,角膜中央部に不整形角膜混濁の集簇がみられる.b:初診後2日目.角膜病巣は拡大し,棍棒状混濁を伴う偽樹枝状病変がみられる.みられなかった.前医での治療は中止し,ピマリシン眼軟膏1日1回点入,ボリコナゾール静注液1日4回点眼,ゲンタマイシン点眼液1日3回点眼で加療開始したが,上皮欠損を伴う角膜混濁は円板状に進行し,角膜混濁の辺縁は棍棒状病変を伴っていた.初診後7日目に加療目的に入院となった.8日目(図2a)に2回目の角膜病巣擦過し,塗抹検査,分離培養検査(細菌,真菌,アカントアメーバ),herpessimplexvirus(HSV)およびアメーバDNRのpolymerasechainreaction(PCR)法を行った.塗抹検査で菌の検出はなく,細菌分離培養検査からCorynebacterium属,Propionibacteriumacnesが極少検出された.また,PCR法ではHSVDNAが陽性であったが,175copies/sampleであり,無症候性排出と判断した.アカントアメーバは,培養・PCR法ともに陰性であった.15日目には角膜混濁はさらに広がり,前房蓄膿も出現した(図2b).同日,アメーバ寒天培地よりFusarium属が疑われる菌糸と三日月形の大分生子を認め,分離培養検査,スライドカルチャーを施行後Fusarium属が同定された(図3a).また,2回目の角膜擦過時の検体をPCR法で再検査したところ,Fusarium属が陽性であった.Fusarium属のPCR法はEF1-a(140bp)をターゲット遺伝子に行った2).薬剤感受性試験ではすべての抗真菌薬に対して耐性を示したが(図4b),初診後17日目からはボリコナゾール静注液点眼を減量し,ピマリシン点眼液1日6回,ピマリシン眼軟膏1日1回とピマリシン局所投与を増量した治療内容に変更した.28日目には角膜混濁は部分的に消退しはじめ,前房蓄膿も消失し(図2c),47日目には角膜混濁は縮小した(図2d).その後,抗真菌薬は中止したが経過は良好であり,初診後約7カ月では左眼視力(0.6)であった.〔症例2〕患者:56歳,女性.主訴:左眼眼痛.既往歴:コンタクトレンズ装用歴なし現病歴:2014年1月,燃やしていた枯草の灰が左眼に入った後から主訴が出現し,その4日後に近医を受診した.モキシフロキサシン点眼液,ブロムフェナクナトリウム点眼液で加療するも所見の悪化を認め,発症後6日目に当科に紹介受診した.初診時所見:視力は,右眼(1.5),左眼(1.0)であり,左眼に軽度の結膜充血と毛様充血がみられた.角膜中央部に小型の棍棒状病変を伴う偽樹枝状病巣と前房内炎症を認めた(図4a).初診時に角膜病巣を擦過し,分離培養検査を行うとともに真菌感染を疑いFusarium属のDNA-PCRを施行した.分離培養検査結果からは,a-Streptocococcus属が極少検出されたのみで,真菌は検出されなかった.しかし,PCR法ではFusarium属DNAが陽性であったため,モキシフロキサシン点眼液1日3回点眼,ピマリシン眼軟膏1日3回点入で加療開始し,初診後1カ月で瘢痕治癒した(図578あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(114) abdcabdc図2症例1:左眼前眼部写真(経過)a:初診後8日目.病巣は円盤状に拡大している.b:初診後15日目.病巣はさらに拡大し,前房蓄膿がみられる.c:初診後28日目.ピマリシン局所治療12日目.円盤状病巣内の混濁が部分的に消退している.d:初診後47日目.角膜混濁は軽減している.4b).II考按Fusarium属は,土壌や植物の病原菌として自然界に広く分布している糸状真菌である.眼科領域では,真菌性角膜炎の原因菌として知られ,Fusariumsolaniによる真菌性角膜炎は1970年代以降増加傾向にあることが知られている3).Fusarium属をはじめとする糸状菌は農村型角膜真菌症であるとされ,草木や土壌関連の外傷によって糸状菌が角膜に侵入し感染すると考えられている.しかし,今回報告した2症例に外傷の既往はなく,症例1ではSCL装用時に違和感を自覚していることから,角膜上皮障害が存在していた可能性があるものの,その後に行ったゴルフとFusarium感染の関与は不明である.また,症例2では感染症発症までのエピソードとして燃やした灰の飛入があげられるが,今回の真菌感染症の主要な誘因であるか否かは不明であった.したがって,明確な外傷の既往がなくても,屋外活動の既往がみられる場合には,真菌性角膜炎も念頭に診断および検査を進めることが重要であると考えられた.今回の2症例に共通してみられた角膜所見としては,棍棒状病変を伴う偽樹枝状病巣があげられ,Fusarium角膜炎のabMIC:μg/mlMCFGAMPH-B5-FCFLCZ>16>2.0>64>64ITCZVRCZMCZPMR>8>4.0>16>8.0MCFG:ミカファンギンITCZ:イトラコナゾールAMPH-B:アムホテリシンBVRCZ:ボリコナゾール5-FC:フルシトシンMCZ:ミコナゾールFLCZ:フルコナゾールPMR:ピマリシン図3症例1:培養検査結果と薬剤感受性試験結果a:真菌肉眼所見(真菌分離培地),スライドカルチャー写真(フェノールコットンブルー染色),b:薬剤感性試験結果.すべての抗真菌薬に対して,耐性(R)の判定であった.初期病変の特徴的臨床所見であると考えられた.糸状菌による真菌性角膜炎の臨床所見としてKaufmanが提唱した1.病巣の大きさに比べ強い炎症反応,2.羽毛状病巣(hyphatelesion),3.硬く隆起した病巣,4.前房蓄膿,5.endothelial(115)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015579 abab図4症例2:左眼前眼部写真a:初診時.角膜中央部やや耳側に小型の棍棒状病変を伴う偽樹枝状病巣がみられる.b:初診後15日目.角膜病巣部は瘢痕化している.plaque,6.免疫輪の6徴が知られているが,感染初期に6徴を示すことは少ない.また,副腎皮質ステロイド(ステロイド)薬使用の有無,全身状態などによって角膜所見が非典型的な所見になるため,臨床診断に苦慮することが多いと考えられる.症例1では,ステロイド点眼薬の使用によって病態がマスクされていた可能性がある.さらに,1回目の角膜擦過物から真菌が検出されなかったことから確定診断に至らず,当科受診初期に抗真菌薬を中心にした治療を行う判断がつかなかった.また,真菌性角膜炎の進行速度は,細菌感染に比べ緩徐で,亜急性から慢性であるとされている.しかし,今回の2症例では自覚症状出現後約1週間の期間で急速に病巣は増悪しており,Fusarium角膜炎では棍棒状病変の有無とその病変の進行速度に関しても注意を要すると考えられた.真菌性角膜炎の確定診断には角膜病巣擦過物からの病原菌の同定が必要であり,微生物学的検査としては塗抹検査と分離培養検査を施行する.しかしながら,微生物学的検査は,同定までに時間を要し,初期病巣では採取できる擦過物の量が少ないため,検査項目が限定される.今回使用したPCR法は少量の検体で検査が可能であり,短時間で結果が得られるため,治療薬を選択する際の補助診断として有用であると580あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015考えられる.症例2については,初期病巣の検査にPCR法を組み入れることによって,培養検査が陰性であったにもかかわらず早期に診断が可能となり,治療も良好な結果が得られた.Fusarium属の抗真菌薬に対する薬剤感受性は,臨床分離株によって差がみられる4,5).わが国では1985年にピマリシン点眼液,1990年にピマリシン眼軟膏が発売され,真菌性角膜炎のおもな治療薬として使用されていた.ピマリシンはわが国で市販されている唯一の眼科用剤であり,真菌細胞膜のエルゴステロールと結合し膜透過性を変化させ,真菌細胞に対して殺菌効果を示す.さらに,角膜上皮.離眼では角膜組織への高濃度移行がみられるとされる一方で,結膜充血や使用時の刺激感といった副作用のために第1選択薬としては敬遠される傾向にあった.したがって,ピマリシンの副作用回避の手段として,Fusarium角膜炎への有効性が報告されているアンホテリシンB,ボリコナゾールなどを組み合わせる治療法などが試みられてきた6.9).しかし,近年ではボリコナゾールと比較し,ナタマイシン(ピマリシン)がFusarium角膜炎への治療効果が高いと報告されている4,10).症例1では,薬剤感受性試験結果がすべての抗真菌薬に対して耐性であったにもかかわらず,臨床効果はボリコナゾールが無効,ピマリシンは有効であった.したがって,本2症例の治療経過からも,Fusarium角膜炎を疑う症例におけるピマリシン局所投与(点眼・眼軟膏)は,初期治療として有効な治療薬であり,第1選択薬として有用であると考えられた.真菌性角膜炎は,発生頻度が少ない角膜炎であるものの,原因真菌が確定した症例の治療薬の効果判定を十分に行い,症例を集積していくことが,今後の治療法確立に有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)熊倉重人:角膜炎.眼科54:1272-1276,20122)ItahashiM,HigakiS,FukudaMetal:Detectionandquantificationofpathogenicbacteriaandfungiusingreal-timepolymerasechainreactionbycyclingprobeinpatientswithcornealulcer.ArchOphthalmol128:535540,20103)三井幸彦:角膜真菌症にフザリウム感染が増加した原因.あたらしい眼科7:127-130,19904)PrajnaNV,KrishnanT,MascarenhasJetal:Themycoticulcertreatment:arandomizedtrialcomparingnatamycinvsvoriconazole.JAMAOphthalmol131:422-429,20135)LalithaP,SunCQ,PrajnaNVetal:Invitrosusceptibilityoffilamentousfungalisolatesfromacornealulcerclinical(116) trial.AmJOphthalmol157:318-326,20146)平山雅俊,大口剛司,松本幸裕ほか:アムビゾームとブイフェンドによる治療を行った角膜真菌症の1例.あたらしい眼科28:115-122,20117)朝生浩,稲田紀子,杉本哲理ほか:コンタクトレンズ装用者に発症した真菌性角膜炎の2例.眼科54:1207-1212,20128)佐々木香る,樋口かおり,加来裕康ほか:フサリウムによる角膜真菌症におけるAmBisomeの使用経験.あたらしい眼科29:391-396,20129)稲田紀子:真菌性角膜炎・アカントアメーバ角膜炎.眼科55:1212-1218,201310)SunCQ,PrajnaNV,KrishnanTetal:ExpertpriorelicitationandBayesiananalysisoftheMycoticUlcerTreatmentTrialI.InvestOphthalmolVisSci54:4167-4173,2013***(117)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015581

レボフロキサシン1.5%点眼液による小児の眼科周術期における減菌化療法の検討

2015年4月30日 木曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):573.576,2015cレボフロキサシン1.5%点眼液による小児の眼科周術期における減菌化療法の検討貝田智子*1寺田裕紀子*2子島良平*1野口ゆかり*1宮田和典*1*1宮田眼科病院*2東京医科歯科大学ProspectiveStudyoftheEffectofPerioperativeInstillationof1.5%LevofloxacinontheOcularBacterialFloraofChildrenTomokoKaida1),YukikoTerada2),RyoheiNejima1),YukariNoguchi1)andKazunoriMiyata1)1)MiyataEyeHospital,2)TokyoMedicalandDentalUniversity2012年11月.2013年9月までに外眼部手術を行った小児33例52眼(平均年齢8.2±3.2歳)を対象に,レボフロキサシン1.5%点眼液(LVFX1.5%)を術前3日より術後14日まで1日3回点眼し,結膜.およびマイボーム腺の常在菌の減菌化効果と安全性について検討した.減菌化率は結膜.で術当日86.7%,術後14日80.0%,マイボーム腺で術後14日88.5%であった.点眼前の検出菌は,結膜.由来で41株,マイボーム腺由来で36株であり,Staphylococcusepidermidisがそれぞれ14株,7株,Corynebacteriumspp.が11株,17株であった.術後14日の検出菌は結膜.9株,マイボーム腺7株で,検出菌の内訳はPropionibacteriumacnes7株,Streptococcusspp.5株,coagulase-negativeStaphylococci2株であった.以上より,小児においてLVFX1.5%は周術期減菌化に有用であることが示唆された.Purpose:Toprospectivelyinvestigatetheeffectofperioperativeinstillationof1.5%levofloxacinontheocularbacterialfloraofchildren.SubjectsandMethods:Thisprospectivestudyinvolved52eyesof33childrenwithstrabismuswhowereprophylacticallydisinfectedwithtopicallevofloxacin3-timesdailyfrom3-daysbeforesurgeryto14-dayspostoperative.Results:Beforetheinstillation,bacterialculturefromtheconjunctivaandfrommeibomianglandswaspositivein30and26ofthe52eyes,respectively.Theconjunctivaculturebecamenegativein26eyes(86.7%)onthedayofoperationandin24eyes(80.0%)at14-dayspostoperative.Themeibomianglandculturebecamenegativein23eyes(88.5%)at14-dayspostoperative.Postinstillation,Corynebacteriumspp.,Staphylococcusaureus,Staphylococcusepidermidis,andHaemophilusinfluenzaedisappeared,however,Propionibacteriumacnes,Staphylococcusepidermidis,andStreptococcusspeciesremained.Conclusions:Perioperative1.5%levofloxacininstillationiseffectiveinpediatricpatientsforthereductionofthebacteriawithpotentialpathogenicityfromtheconjunctivalsacandmeibomianglands.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):573.576,2015〕Keywords:レボフロキサシン1.5%点眼液,小児斜視手術,周術期減菌化,結膜.,マイボーム腺.1.5%levofloxacinophthalmicsolution,pediatricstrabismussurgery,perioperativedisinfection,conjunctivalsac,meibomiangrands.はじめに眼科周術期における成人の感染性眼内炎の起因菌は,Staphylococcusepidermidisを含むcoagulase-negativeStaphylococci(CNS),Staphylococcusaureus,Enterococcusfaecalisなどであり,結膜.の常在菌が関与していると報告されている1.3).一方,小児における感染性眼内炎のおもな起因菌は,Streptococcispp.やStaphylococcispp.などに加え,StreptococcuspneumoniaeやHaemophilusinfluenzaeの検出頻度が成人に比し高いと報告されている4,5).これらの菌種は小児結膜炎のおもな起因菌6)であり,小児においても〔別刷請求先〕貝田智子:〒885-0051宮崎県都城市蔵原6-3宮田眼科病院Reprintrequests:TomokoKaida,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojoshi,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(109)573 眼表面の常在菌が術後眼内炎に関与していることが示唆される.また,術中の操作に伴うマイボーム腺内容物の排出は,マイボーム腺に存在する細菌を眼瞼縁から結膜.へと広げるため,マイボーム腺内常在菌の減菌化も術後感染症の予防に重要である.このため近年は,周術期の結膜.と眼瞼縁の減菌化を目的として抗菌点眼薬が広く使用されている.レボフロキサシン(LVFX)は第3世代のフルオロキノロン系抗菌薬で,2000年にレボフロキサシン0.5%点眼液(LVFX0.5%)として発売され,2011年には眼組織移行性を高め,耐性誘導しにくい7)レボフロキサシン1.5%点眼液(以下,LVFX1.5%)が発売された.LVFX1.5%は成人の白内障手術周術期について高い減菌効果が報告8,9)されているが,小児に対する報告はまだない.今回,筆者らは宮田眼科病院における小児の斜視手術患者を対象として,LVFX1.5%の周術期における減菌化効果と安全性を検討したので報告する.なお,本研究は事前に倫理委員会の承認を得て実施した.I対象および方法1.対象2012年11月.2013年9月に宮田眼科病院で斜視手術を行った15歳以下の小児で,親権者より文書同意を得た患者を対象とした.LVFX1.5%投与前3カ月以内に抗菌薬,免疫抑制作用(ステロイド含む)を使用した患者,試験開始3カ月以内に眼手術既往のある患者,フルオロキノロン製剤に重篤な副作用の既往を有する患者,細菌,真菌,ウイルスの感染が疑われる患者,眼部または全身にコントロール不良の基礎疾患,合併症を有する患者,眼科手術以外の理由で入院している患者および観察期間中にコンタクトレンズを装用した患者は除外した.2.方法LVFX1.5%は,手術前3日より術後14日目まで1日3回点眼した.検体は,結膜.では点眼開始前(点眼前),手術当日の皮膚消毒前(当日),手術後14日(14日)に,マイボーム腺では点眼前および14日に検体を採取した.検体の採取方法は,オキシブプロカイン塩酸塩(ミニムスR0.4%点眼液,千寿製薬)で表面麻酔した後,下方結膜.円蓋部を滅菌綿棒で擦過した.マイボーム腺は,有田式マイボーム腺鉗子で下眼瞼を圧排し圧出物を滅菌綿棒で採取した.検体はカルチャースワブ(日本ベクトン・ディッキンソン)に保存し,冷蔵条件下(4.8℃)にてLSIメディエンスに提出し,分離・培養同定を行った.好気培養は羊血液寒天培地M58およびCLED寒天培地で35℃40.48時間,嫌気培養はチョコレートII寒天培地およびアネロコロンビアウサギ血液寒天培地で35℃,10%CO2条件下40.48時間,嫌気条件下で60.72時間培養した.増菌培養はGAM半流動培地で35℃60.72時間培養した.574あたらしい眼科Vol.32,No.4,20153.評価方法当日および14日の減菌化率,菌種別消失率(点眼前に検出した菌種と同一菌種が点眼後に検出しなかった割合)および検出菌推移を評価した.減菌化率は(点眼前菌陽性かつ点眼後菌陰性眼数)/点眼前陽性眼数×100(%)とした.検出率の統計解析はc2検定を使用した.II結果脱落例を除いた33例52眼(男児19例,女児14例),平均年齢8.2±3.2歳(3.15歳)が試験終了した.アトピーの既往や罹患している患児はいなかった.試験期間中に術後感染症の発症はなく,LVFX1.5%による結膜充血や掻痒感などの有害事象は認めなかった.1.検出率および減菌化率培養による検出率は,結膜.では点眼前30/52眼(57.7%),当日7/52眼(13.5%),14日9/52眼(17.3%),マイボーム腺では点眼前26/52眼(50.0%),14日6/52眼(11.5%)であった.結膜.の減菌化率は,当日86.7%,14日80.0%,マイボーム腺の14日の減菌化率は88.5%で菌検出率は有意に減少した(各々p<0.001,p<0.01,p<0.001,c2検定).菌種別消失率は,結膜.当日のPropionibacteriumacnesで75%,14日のStreptococcusspp.で67%であり,他はすべて100%であった(表1).検出率,検出菌に季節により影響は認められなかった.2.検出菌推移検出菌は,結膜.で点眼前41株から当日8株,14日9株,マイボーム腺で点眼前36株から14日7株と減少した.結膜.のStreptococcusspp.,結膜.,マイボーム腺のPropionibacteriumacnes検出菌株数は減少しなかった(表2).点眼前に菌陰性で点眼後に菌陽性となったのは,結膜.で当日,14日ともに各々3/22眼(13.6%),マイボーム腺で3/26眼(11.5%)であった.3眼の検出菌内訳は,結膜.の当日でStreptococcusspp.2株,Staphylococcusepidermidis1株,Propionibacteriumacnes1株,14日でPropionibacteriumacnes2株,Staphylococcusepidermidis1株,マイボーム腺では14日のCNS2株,Streptococcuspneumoniae1株,Propionibacteriumacnes1株であった.III考按今回の検討では,対象を感染症や炎症性疾患のない斜視手術の小児としたことから,点眼前に検出された菌は小児の結膜.およびマイボーム腺の常在菌と考えられる.今回得られた小児結膜.からの菌検出率57.7%は,LVFX0.5%を使用し筆者らと同様に直接培養と増菌培養を実施した片岡ら10)の成人の検出率85.3%に比べ低値であった.マイボーム腺(110) 表1菌種別消失率結膜.マイボーム腺菌種検出菌株数消失率検出菌株数消失率点眼前当日14日当日14日点眼前14日14日グラム陽性球菌StaphylococcusaureusStaphylococcusepidermidisCoagulasenegativeStaphylococcusStreptococcusspp.Corynebacteriumspp.PropionibacteriumacnesHaemophilusinfluenzae24714─31142000─0010100─1000100%100%100%─100%100%75.0%100%95.8%100%100%─66.7%100%100%100%154713174─0000000100%100%100%100%100%100%100%─点眼前後で異なる菌種が検出された場合は点眼前検出菌種は消失とした.表2検出菌推移菌種点眼前株数%結膜.当日株数%14日株数%マイボーム腺点眼前14日株数%株数%点眼前菌陽性グラム陽性球菌StaphylococcusaureusStaphylococcusepidermidisCoagulase-negativeStaphylococcusStreptococcuspneumoniaeStreptococcusspp.Corynebacteriumspp.Propionibacteriumacnesその他のグラム陽性菌Haemophilusinfluenzae2458.5717.11434.124.912.41126.849.824.9450444.4444.4133.3111.11541.7411.1719.412.825.612.81747.2411.1342.9点眼前菌陰性グラム陽性球菌StaphylococcusepidermidisCoagulase-negativeStaphylococcusStreptococcuspneumoniaeStreptococcusspp.Propionibacteriumacnes337.5112.5225112.5111.1111.1222.2342.9228.6114.3114.3合計4189367については,荒川ら11)が直接培養のみの結果で,60.70歳で52.6%,80歳以上で77.8%と報告している.今回の検討では,増菌培養を含んだマイボーム腺からの菌検出率が50.0%であり,成人に比べ小児では低い結果となった.高齢者の結膜.内や眼瞼縁の常在菌検出率は若年者に比べ高いとの報告12,13)もあり,加齢が影響したためと考えられる.結膜.の減菌化率について,本検討では術当日の減菌化率は86.7%となった.これは成人を対象にした南らの報告93.3%8),鈴木らの報告86.7%9)(いずれも直接培養のみ)と同程度であり,矢口らのLVFX0.5%における成人の報告70.0%14)(直接培養と増菌培養を実施)より高かった.菌種別にみると,術当日のグラム陽性球菌の消失率は100%と成人のLVFX1.5%の報告9)と同等であり,LVFX0.5%での報(111)告14)より高い結果となった.これらの結果は,LVFXが1.5%と高濃度であり組織内移行性がLVFX0.5%より高く15),また菌との短時間接触後の殺菌効果(PABE)が高いこと16)によると考えられる.マイボーム腺における減菌化率についてこれまでに報告がないが,本検討では14日後86.5%であり,結膜.の減菌化率とほぼ同等の結果となった.点眼前陰性であり術当日陽性となった眼は,結膜.では13.6%で鈴木らの4.8%9)より高かったが,この理由としては増菌培養の結果が影響していると考えられる.また,本検討で点眼後に検出されたStreptococcuspneumoniaeを含むStreptococcusspp.は成人では検出されておらず8,9,14),小児の特徴であることが示唆された.これは小児では上気道にあたらしい眼科Vol.32,No.4,2015575 Streptococcusspp.が多く存在していることから,上咽頭から鼻涙管を経由して眼表面に広がったか,あるいは小児の手を介して広がった可能性が考えられる.Streptococcuspneumoniaeは,小児の眼科手術や外傷を含めた感染性眼内炎の起因菌として成人より割合が多いとの報告4,5)もある.今回,LVFX1.5%投与後においてもStreptococcusspp.が検出されたことから,LVFX1.5%の小児における長期投与はStreptococcusspp.の出現に注意が必要である.本研究では,健康小児においても成人と同様に結膜.およびマイボーム腺に常在細菌叢が存在し,LVFX点眼後の検出菌推移は,成人で検出されるCorynebacteriumspp.9)が消失し,検出されていないStreptococcusspp.が検出され成人とはやや異なることが示された.また,眼科周術期の小児に対するLVFX1.5%の使用は,良好な減菌化効果をもつことが示唆された.術後感染の発症リスクを軽減する目的として,小児の眼科周術期におけるLVFX1.5%の使用は有効であると考えられる.(本研究費の一部は参天製薬株式会社から助成を受けた)利益相反:宮田和典(カテゴリーF:参天製薬株式会社)文献1)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起炎菌.あたらしい眼科20:657-660,20032)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20063)SpeakerMG,MilchFA,ShahMKetal:Roleofexternalbacterialflorainthepathogenesisofacutepostoperativeendophthalmitis.Ophthalmology98:639-650,19914)KhanS,AthwalL,ZarbinMetal:Pediactricinfectiousendophthalmitis:areview.JPediatrOphthalmolStrabismus51:140-153,20145)ThordsenJE,HarrisL,HubbardGB:Pediatricendophthalmitis.A10-yearconsecutiveseries.Retina28:S3-S7,20086)堀由起子,望月清文,村瀬寛紀ほか:外眼部感染症における検出菌とその薬剤耐性に関する検討(1998.2006年).日眼会誌113:583-595,20097)長野敬,川上佳奈子,河津剛一ほか:Invitro眼組織中濃度シミュレーションモデルにおける黄色ブドウ球菌および緑膿菌の殺菌ならびにレボフロキサシン耐性化に対する0.5%あるいは1.5%レボフロキサシンの影響.あたらしい眼科18:646-650,20018)南雅之,長谷川裕基,藤澤邦見:レボフロキサシン点眼薬1.5%の周術期無菌化療法.臨眼67:1381-1384,20139)SuzukiT,TanakaH,ToriyamaKetal:Prospectiveclinicalevaluationof1.5%levofloxacinophthalmicsolutioninophthalmicperioperativedisinfection.JOculPharmacolTher29:887-892,201310)片岡康志,佐々木香る,矢口智恵美ほか:白内障手術予定患者の結膜.常在菌に対するガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの抗菌力.あたらしい眼科23:1062-1066,200611)荒川妙,太刀川貴子,大橋正明ほか:高齢者におけるマイボーム腺および結膜.内の常在菌についての検討.あたらしい眼科21:1241-1244,200412)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜.内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,200113)村上純子,下村嘉一:白内障術前患者の眼瞼縁における細菌検査の検討.あたらしい眼科26:1678-1682,200914)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科23:499-503,200615)長野敬,川上佳奈子,河津浩二ほか:InVitro眼組織中濃度シュミレーションモデルにおける黄色ブドウ球菌および緑膿菌の殺菌ならびにレボフロキサシン耐性化に対する0.5%あるいは1.5%レボフロキサシンの影響.あたらしい眼科30:1754-1760,201316)砂田淳子,上田安希子,坂田友美ほか:1.5%レボフロキサシン点眼薬と0.5%レボフロキサシン点眼薬のPostantibioticBactericidalEffect比較.あたらしい眼科29:854-858,2012***576あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(112)

長期臥床後の硝子体手術を契機に発症したMRSEによる眼内炎の1例

2015年4月30日 木曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):569.572,2015c長期臥床後の硝子体手術を契機に発症したMRSEによる眼内炎の1例馬詰和比古八木浩倫有本剛服部貴明若林美宏後藤浩東京医科大学眼科学分野ACaseofEndophthalmitisCausedbyMethicillin-ResistantStaphylococcusepidermisafterVitrectomyinaLong-TermBedriddenPatientKazuhikoUmazume,HiromichiYagi,GoArimoto,TakaakiHattori,YoshihiroWakabayashiandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity目的:テルソン(Terson)症候群に対する硝子体手術後に発症したmethicillin-resistantStaphylococcusepidermis(MRSE)を起因菌とする細菌性眼内炎を報告する.症例:61歳の女性.くも膜下出血のため入院し,脳神経外科で手術を施行された.集中治療室(ICU)で覚醒後に両眼の視力低下を自覚して当科紹介受診となり,くも膜下出血に続発したTerson症候群と診断された.一般病床へ転床後も視力改善がみられないため,白内障手術と25ゲージ硝子体手術が計画された.手術は問題なく終了したが,術後約48時間後に右眼の急激な視力低下を自覚した.その際の診察所見は,右眼の視力は30cm指数弁,前房細胞3+,眼内レンズ前後面にフィブリンの析出,Bモード超音波断層検査で濃厚な硝子体混濁を認め,術後眼内炎と診断した.ただちにセフタジジムおよびバンコマイシンの硝子体注射を行い,同日に硝子体手術を再度施行した.術中に採取した硝子体の培養検査によりMRSEが検出された.考按:Terson症候群に続発したMRSEを起因菌とする術後眼内炎を経験した.長期間ICUなどに入院している場合には,耐性菌による術後眼内炎の発症に留意する必要があることを再認識した.Purpose:Toreportacaseofendophthalmitiscausedbymethicillin-resistantStaphylococcusepidermis(MRSE)aftervitrectomyinalong-termbedriddenpatient.Casereport:A61-year-oldfemalewastreatedforsubarachnoidhemorrhage.Afterthesurgery,shebecameawareofblurredvisionduetodensevitreoushemorrhage.WediagnosedhersymptomsasTerson’ssyndromeandplanneda25-gaugevitrectomywithcataractsurgery.Thesurgerywasperformedwithoutcomplication,however,hervisionsuddenlydecreased48hoursaftertheinitialsurgery.Theocularconjunctivawasstronglyinjected,andtheanteriorchamberwasinflamedwith3+cellsanddensevitreousopacitywasrevealedbyB-modeultrasoundexamination.Finally,shewasdiagnosedwithseverepostoperativeendophthalmitis,andweimmediatelyinjectedceftazidimeandvancomycinintothevitreouscavity.Furthermore,areoperationwasperformedonthesameday.MRSEwasdetectedfromboththeaqueoushumorandvitreoushumor.Conclusion:Weshouldbeawareofendophthalmitiscausedbydrug-resistantbacteria,especiallyinlong-termbedriddenpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):569.572,2015〕Keywords:術後細菌性眼内炎,MRSE,テルソン症候群.postoperativeendophthalmitis,MRSE,Terson’ssyndrome.はじめにうになってきた.25ゲージ硝子体手術導入当初は,術後の近年,23ゲージ,25ゲージといった小切開硝子体手術低眼圧などを原因とする術後眼内炎の発症率が,従来の20(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)の適応拡大にゲージ硝子体手術に比べて高率であるとの報告も散見されよって,多くの症例で小切開無縫合硝子体手術が施されるよた1,2).しかし,MIVSが普及して約10年が経過し,25ゲー〔別刷請求先〕馬詰和比古:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:KazuhikoUmazume,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishi-Shinjyuku,Shinjyuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(105)569 ジ硝子体手術後の眼内炎発症率に差異はないとの報告もみられるようになった.国内でのShimadaら3)の報告では,術後眼内炎の発症率は,20ゲージ硝子体手術では0.0278%(1例/3,592例)であるのに対して,25ゲージでは0.0299%(1例/3,343例)であり,有意差は両者の間になかったとされている.今回筆者らは,Terson症候群に併発した硝子体出血に対する白内障手術同時25ゲージ硝子体手術の術後早期に,重篤な眼内炎を生じた1例を経験した.本症例における術中,術後の眼所見とともに原因究明,今後の対策について報告する.I症例63歳.女性.既往歴は特になし.2013年12月深夜に自宅で倒れているところ(意識レベルはJCSIII-300)を発見され,東京医科大学病院の救急救命センターへ搬送された.病着後,頭部CT検査で解離性右椎骨動脈瘤破裂によるくも膜下出血と診断され,同日に脳血管内手術が施行された.術後は集中治療室(ICU)に入院となり,術後2日には意識清明で神経脱落症状は認めなかったが,両眼の視力低下を自覚したため眼科を紹介受診となった.両眼ともに視力は30cm手動弁で矯正不能,眼圧は右眼13mmHg,左眼11mmHgであった.前眼部は軽度白内障(Emery-Little分類grade2)があり,眼底は両眼とも濃厚な硝子体出血のため透見不能であったが,Bモード超音波断層検査では明らかな網膜.離などの所見は認めなかった.ICUから一般病床に転出したが,視力の回復がみられなかったため,くも膜下出血発症37日後に,左眼に対して25ゲージ硝子体システム(アルコン社製Constellation)を用いて白内障手術同時硝子体手術を施行した.上方強角膜切開で白内障手術を行い,網膜アーケード血管に沿って存在していた増殖膜を.離し切除,濃厚な硝子体出血を除去し,9-0吸収糸でポートを縫合し手術終了とした.術後経過は良好で,左眼矯正視力1.2まで改善した.先行眼の手術から約1カ月後に,右眼の手術を左眼と同様に25ゲージ硝子体システムを用いて施行した.手術は型どおりに行い,濃厚な硝子体出血を除去した後に先行眼と同様,9-0吸収糸でポートを縫合し終了とした.術翌日は,創からの眼内液の漏出もなく,左眼眼圧は7mmHg,眼底の透見も良好で矯正視力は0.4まで改善していた.術後2日目早朝の診察時も前日と変わりなく経過良好であったが,同日の夕方,術後約48時間後に著明な視力低下(30cm手動弁)の訴えがみられた.高度の毛様充血,眼内レンズ前後面にフィブリンの析出を認め,前房蓄膿も伴っていた.眼底は透見不可能で,Bモード超音波断層検査で硝子体混濁と思われる所見を確認した.ただちに病棟内で前房洗浄を行い,セフタジシムとバンコマイシンの硝子570あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015体内注射を施行し,3時間後に緊急手術を開始した.再手術も初回手術と同様,25ゲージ硝子体システムを用いて施行した(図1).既報4)にあるように灌流液にはセフタジシムとバンコマイシンを注入したものを用いた.眼内レンズの前後面を覆っていたフィブリン膜を除去した後に硝子体カッターで後.を切除し,硝子体腔と前房との交通を確保した.眼底は白色の強い硝子体混濁のために透見不能であったが,混濁を吸引し,残存硝子体を可及的に切除した.硝子体混濁の除去後に眼底を観察すると,後極部を中心にフィブリンと思われる白色の膜様物が堆積し,網膜も一部蒼白で出血斑も散在していた(図2).後極部の膜様物も可及的に除去し,カニューラ挿入部は結膜を切開して8-0ナイロン糸で縫合し,手術を終了した.術後はセフタジシムとバンコマイシンの点眼を1時間ごとに施行し,セフェピム2g/日の全身投与を追加した.前房洗浄時および再手術時に採取した前房水,硝子体液の培養検査によりmethicillin-resistantStaphylococcusepidermis(MRSE)が検出された.薬剤感受性はMIC(μg/ml)では,通常筆者らの施設で術後に用いているレボフロキサシン(LVFX)4μg/ml以上で耐性であり,他にセファゾリン(CEZ)8g/ml以下,ゲンタマイシン(GM)8μg/ml以上でLVFXと同様に耐性であった.一方で,バンコマイシン(VCM)は2μg/mlと感受性を示し,他にアルベカシン(ABK)1μg/ml以下,ミノマイシン(MINO)2μg/ml以下と感受性は高かった.術中より使用していたVCMに対する感受性があったため,治療を継続とし,厳重な経過観察を行った.術後は徐々に炎症も消退し,術後6日目には前房蓄膿も消失した.眼内レンズの後面の混濁は緩徐ではあるが消退傾向を示し,術後10日目に眼底の透見もできるようになり,矯正視力は0.02となった.術後11日目には感染の増悪徴候がないことから退院とし,外来での経過観察とした(図3).退院後の術後16日目よりバンコマイシン点眼の回数を1日6回と減らし,さらに0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム液(1日4回)を追加した.その後の経過は良好で,眼内レンズ後面の混濁は残存しているものの,炎症の再燃はなく,術後40日目の矯正視力は0.4まで回復した(図3).眼底は下方に黒色の顆粒状混濁が残存している他は,検眼鏡的にはほぼ正常所見であった(図4).しかしながら,網膜電位図を術後40日後に施行したところ,singleflashでは両眼のa波の減弱,右眼のb波の減弱,photopicではb波の減弱を認めた.両眼の桿体機能の低下および左眼の錐体機能低下が示唆され,いずれも眼内炎による影響と考えられた(図5).なお,右眼の細菌性眼内炎の起因菌がMRSEであったことから,僚眼についても結膜.細菌検査を改めて施行したが,菌は検出されなかった.(106) 図1再手術直前の前眼部所見毛様充血と前房内のフィブリンの析出および前房蓄膿を認める.ABCD図3再手術後の前眼部写真A:術後2日目,B:術後6日目,C:術後16日目,D:術後40日目.術後6日目には前房蓄膿は消失し,徐々に眼内レンズ後面の混濁も消退している.図5再手術後に行ったERGSingleflashでは両眼のa波の減弱,右眼のb波の減弱,Photopicではb波の減弱を認めた.(107)図2再手術時の眼底所見後極部にフィブリン膜と網膜内出血を認める.図4再手術後40日目の眼底写真検眼鏡的には,視神経,黄斑ともにほぼ正常となっている.II考按25ゲージ硝子体手術施行後早期に,MRSEを起因菌とする細菌性眼内炎の症例を経験した.MIVSの普及から10年が経過し,術後の細菌性眼内炎の発症は導入当初より減少していると考えられ3),なかでもMRSE関連術後細菌性眼内炎は1例報告があるのみで5),非常に稀である.以前に丸山らは白内障手術前患者の結膜.内常在菌の検索を施行し,1,787眼中948眼(53.1%)に何らかの細菌が検出されたことを報告している6).そのうち337眼に対して薬剤耐性菌の検索を行ったところ,MRSEが8.5%,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が2.1%検出された.今回の症例と同様に長期入院をしていた患者に対して結膜.内常在菌の検索を行った調査では,細菌の検出率が77.1%と高あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015571 率であることが報告されている7).また,術前患者ならびに集中治療室入院患者における咽頭,下気道菌叢の検討によると,術前患者の咽頭からは正常細菌叢のみの検出であったのに対し,集中治療室患者の咽頭からは高率に耐性菌が検出されることが報告されている8).本症例の原疾患はくも膜下出血に続発するTerson症候群9)であったが,術後の細菌性眼内炎とTerson症候群の関連を示唆する報告はない.しかし,今回の症例はくも膜下出血に対する手術後に一定期間にわたって集中治療室に滞在しており,耐性菌感染などに対する感染のリスクが高くなっていた可能性が考えられる.集中治療室などに入院している患者の多くは,immunocompromisedhostであるということを念頭に置き,内眼手術を予定している場合にはあらかじめ結膜.内の細菌検査を施行し,薬剤耐性菌の検出がみられた際には除菌を行うなどの対策が必要であると考えられた.周術期における感染症対策として,術中にポビドンヨードを使用する試みが普及しつつある.当院でも最近は0.125%のポビドンヨードを術中に使用し,予防対策の一つとしているが,今回の症例の手術時にはまだ導入していなかった.ポビドンヨードに関しては角膜内皮細胞に対する影響も懸念されているが10),Shimadaら11)は周術期における感染予防への有用性について言及している.すなわち,25ゲージ硝子体手術時の術野廃液パックからの細菌検出率を,角膜保護目的に従来どおりの灌流液とポビドンヨードを用いて比較検討したところ,ポビドンヨード群では有意に細菌検出率が低かったことを報告している11).今回,不幸にして耐性菌を原因とする重篤な術後細菌性眼内炎を生じた症例を経験したが,経結膜小切開硝子体手術が主流となっている今日では,周術期における感染対策のみならず,状況に応じた術前の予防処置も重要であることが再認識させられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KunimotoDY,KaiserRS:Incidenceofendophthalmitisafter20-and25-gaugevitrectomy.Ophthalmology114:2133-2137,20072)ScottIU,FlynnHWJr,DevSetal:Endophtalmitisafter20-gaugeand25-gaugeparsplanavitrectomy:incidenceandoutcomes.Retina28:138-142,20083)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:Incidenceofendophthalmitisafter20-and25-gaugevitrectomy:causesandprevention.Ophthalmology115:2215-2220,20084)薄井紀夫:白内障術後眼内炎─危機を脱出するタイミングと方法.臨眼60:30-36,20065)MatsuyamaK,KunimotoK,TaomotoMetal:Earlyonsetendophthalmitiscausedbymethicillin-resistantStaphylococcusepidermidisafter25-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomy.JpnJOphtalmol52:508-510,20086)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜.内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,20017)MelaEK,DrimtziasEG,ChristofidouMKetal:Ocularsurfacebacterialcolonisationinsedatedintensivecareunitpatients.AnaesthIntensiveCare38:190-193,20108)吉富裕子,河野茂,光武耕太郎ほか:術前患者およびICU患者における咽頭および下気道菌叢の検討─特に気管内挿管の影響について.感染症学雑誌65:1569-1577,19919)TersonA:Del’hemorrhagiedanslecorpsvitreaucoursdel’hemorrhagiecerebrale.ClinOphthalmol6:309-212,190010)AlpB.N,ElibolO,SargonM.Fetal:Theeffectofpovidoneiodineonthecornealendothelium.Cornea29:546550,200011)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:Reducingbacterialcontaminationinsidefluidcatchbagin25-gaugevitrectomybyuseof0.25%povidone-iodineocularsurfaceirrigation.IntOphthalmol33:35-38,2013***572あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(108)

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌涙囊炎の検討

2015年4月30日 木曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):561.567,2015cメチシリン耐性黄色ブドウ球菌涙.炎の検討児玉俊夫*1山本康明*1首藤政親*2*1松山赤十字病院眼科*2愛媛大学総合科学研究支援センター重信ステーションAStudyofDacryocystitisDuetoMethicillin-ResistantStaphylococcusaureusToshioKodama1),YasuakiYamamoto1)andMasachikaShudo2)1)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,2)DepartmentofBioscience,IntegratedCenterforScience,ShigenobuStation,EhimeUniversity目的:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による涙.炎患者における年齢,手術治療と予後についての検討.方法:2004年4月1日.2014年9月30日に松山赤十字病院眼科において手術を施行したMRSA涙.炎13例と非MRSA涙.炎95例を比較,検討した.さらにMRSA感染症については治療および術後の転帰について検討した.結果:発症年齢を比較すると,MRSA涙.炎では84.2±6.2歳(平均±標準偏差),非MRSA涙.炎では72.1±12.5歳とMRSA感染者は有意に高齢であった(p<0.001).MRSA涙.炎の内訳は男性1例,女性12例,そのうち急性涙.炎は4例,慢性涙.炎は9例で,大多数の症例で抗菌点眼薬が処方されていた.手術は涙.切開1例,涙.摘出1例および涙.鼻腔吻合術(以下,DCR)11例で,DCRは観察期間1カ月.6年4カ月で涙.炎は再発していない.考按:MRSA涙.炎は発症背景として抗菌点眼薬を長期使用していた高齢者があげられるが,治療法としてDCRをはじめ手術治療が必要と考えられる.Purpose:ToreporttheaverageageofdacryocystitispatientsinfectedwithmethicillinresistantStaphylococcusaureus(MRSA)andtheresultsofsurgicaltreatments.PatientsandMethods:Inthisstudy,wereviewed13patientsofdacryocystitisduetoMRSA(MRSAgroup)and95patientsofdacryocystitisduetomicroorganismsotherthanMRSA(non-MRSAgroup)whoweretreatedbetweenApril1,2004andSeptember30,2014attheDepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,Matsuyama,Japan.Inaddition,weanalyzedtheresultsofsurgicaltreatmentsinMRSAgroup.Results:ThemeanpatientageintheMRSAgroup(84.2±6.2years,mean±standarddeviation)wassignificantlygreaterthanthatinthenon-MRSAgroup(72.1±12.5years(p<0.001).TheMRSAgroupconsistedof1maleand12females(4acutedacryocystitiscasesand9chronicdacryocystitiscases),andallpatientshadbeentreatedbylong-termtopicalantibioticinstillation.Surgicaltreatmentsconsistedoflacrimalsacincision(1case),dacryocystectomy(1case),anddacryocystorhinostomy(DCR,11cases).InthecasesthatunderwentDCR,norecurrenceofdacryocystitiswasobservedduringthefollow-upperiodthatrangedfrom1-monthto6-yearsand4-monthspostoperative.Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowthatMRSAdacryocystitisinelderlypatientsmayhaveinducedbytheprolongeduseofantibioticsandthatDCRisusefulfortreatingdacryocystitis〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):561.567,2015〕Keywords:メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA),涙.炎,涙.結石,バイオフィルム,涙.鼻腔吻合術.methicillinresistantStaphylococcusaureus(MRSA),dacryocystitis,dacryolith,biofilm,dacryocystorhinostomy(DCR).はじめに涙.炎は,鼻涙管閉鎖により涙液が涙.内に貯留して病原微生物が増殖すると涙.壁に炎症を生じて発症する.涙.炎治療の原則は原因微生物の除菌に尽きるが,問題は抗菌薬の局所および全身投与を行っても涙.への移行はわずかであるために病原微生物の排除が困難という点である.さらに抗菌薬を長期間,漫然と投与することは耐性菌を増殖させることにもつながり,慢性涙.炎の起炎菌としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)の検出例が増加している1.3)ことが問題となっ〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ToshioKodama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyo-cho,Matsuyama,Ehime790-8524,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(97)561 ている.MRSAは易感染性宿主において難治性感染症に移行しやすいが,涙.炎においてもMRSAは各種治療薬に抵抗性を示して重症化することが多いといわれている.今回,筆者らはMRSA起炎性涙.炎の治療成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は2004年4月1日から2014年9月30日の10年6カ月間に松山赤十字病院眼科(以下,当科)において,涙.切開,涙.摘出および涙.鼻腔吻合術鼻外法(以下,dacryocystorhinostomy:DCR)を施行した108例121側で,その内訳としてDCRは97例110側,涙.摘出3例3側,涙.切開8例8側であった.なお,涙.切開の症例とは,涙.切開のみで寛解したがその後受診しなかったか,全身の重篤な合併症のためにDCRなどが施行できなかった患者である.今回検討したMRSA涙.炎は初診時に涙.洗浄によって排出された涙.内貯留液よりMRSAが検出された12例と,DCRの術後に再閉塞して経過観察中にMRSAが検出された1例である.なお,非MRSA涙.炎については児玉の報告4)に詳細を記載した.涙.洗浄によって排出された涙.内貯留液の採取はあらかじめ皮膚をアルコール面で清拭した後,結膜からの菌混入がないように注意した.今回はMRSA涙.炎13例と他の病原微生物による非MRSA涙.炎95例の間に,初診時の年齢に差があるかどうかを検討した.今回の検討においてさらにMRSA涙.炎を急性および慢性涙.炎に分類し,それぞれ前医での治療期間および投与された抗菌点眼薬の種類,当科での手術術式および予後について比較検討した.手術成績については,涙道通水試験において鼻腔への通水が良好なものを手術成功例,通水が認められなかったものを不成功例とした.涙.結石表面の微細構造の解析は,摘出した涙.結石を3%グルタールアルデヒド/リン酸緩衝液で固定後,臨界点乾燥と白金蒸着を行って走査型電子顕微鏡で観察した.涙.内貯留物の細菌分離は当院微生物検査室において通常培養で行い,薬剤感受性検査はCLSI〔ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(臨床検査標準協会)〕が認定した微量液体希釈法によりMicroScanTM(Siemens社)を用いて測定した.薬剤感受性は被検菌の発育阻止最小濃度(MIC)より各薬剤の判定基準に従い,感受性あり(S),中間感受性(I),耐性(R)と判定した.検査薬剤は,ペニシリン系はペニシリンG(PCG),アンピシリン(ABPC),オキサシリン(MPIP),セファロスポリン系はセファゾリン(CEZ),セフォチアム(CTM),セフジニル(CFDM),オキサセフェム系はフロモキセフ(FMOX),カルバペネム系はイミペネム(IPM),アミノグリコシド系はアルベカシン(ABK),ゲンタマイシン(GM),マクロライド系はエリスロマイシン562あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(EM),リンコマイシン系はクリンダマイシン(CLDM),テトラサイクリン系はミノサイクリン(MINO),キノロン系はレボフロキサシン(LVFX),ST合剤はスルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST),グリコペプチド系はバンコマイシン(VCM)オキサゾリジノン系はリネゾリド(LZD),その他の抗生物質と(,)してテイコプラニン(TEIC),ホスホマイシン(FOM)である.なお,本論文におけるLVFX以外の抗菌点眼薬名と略語は以下のとおりである.オフロキサシン(OFLX),ガチフロキサシン(GFLX),シソマイシン(SISO),クロラムフェニコール(CP).II症例および結果〔症例1:急性涙.炎の症例〕患者:89歳,女性.数日前より左眼)涙.部を中心とした発赤,腫脹が始まり,近医で処方されたCFDN内服とLVFX頻回点眼で改善せず,増悪してきたため当科を紹介された.初診時所見として左眼)涙.部に発赤して膨隆した腫瘤を認め(図1a),上下涙点より涙管洗浄針を挿入したが涙小管は途中で閉塞していた.眼窩CT撮影を行ったところ,涙.部は混濁して蜂巣炎に進展しており,鼻骨から離れた位置に石灰化陰影を認めた(図1b).即日,涙.切開を行ったところ,排膿が認められ(図1c),CEZ点滴とLVFX頻回点眼を開始した.膿の塗抹標本では白血球に貪食されたグラム陽性球菌が検出された(図2a).第3病日に細菌培養検査で分離された細菌は薬剤感受性検査の結果,MRSAと同定されたためにMRSA急性涙.炎と診断し(表1),全身投与をCEZからLZDに変え,点眼もVCM点眼薬に変更した.MRSAを標的とした薬物治療に変更しても涙.部の蜂巣炎は改善しなかったので第9病日に涙.摘出を施行した.皮下は壊死組織と膿瘍で充満しており,さらに切開を進めると8mmの大きさの涙.結石とその周囲に数個の小結石を認めた(図1d).涙.を含め壊死組織を摘出し,皮膚縫合を行った.摘出組織の病理組織所見として一部に涙.上皮を伴う結合織がみられたものの,大部分は炎症細胞侵潤を伴う肉芽組織であった.小結石は好酸性の無構造な組織(図2b)で,結石の周囲にグラム陽性球菌が認められた(データは非呈示).大きな涙.結石表面の走査電子顕微鏡による観察では,直径0.8.1.0μmの大きさの球菌が結石表面に存在する線維状の物質や微細な沈着物の上に散在していた(図2c,d).左眼)涙.摘出後には同部位の発赤,腫脹は消失して術後7カ月で同部位の蜂巣炎は再発していない.〔症例5:慢性涙.炎の症例〕患者:73歳,女性.13年前より他院にて左眼)涙.炎と診断され,涙.洗浄が続けられていた.最近では涙.部を圧迫しても膿の排出ができなくなったために皮膚側より穿刺して排膿していた.DCRの適応について当科を紹介された.(98) abcdabcd図1症例1(急性涙.炎)a:術前の顔写真.左涙.部の蜂巣炎を認めた.b:眼窩CT撮影.涙.部は混濁しており,鼻骨から離れた位置に石灰化陰影(矢印)を認めた.c:涙.切開を行うと排膿が認められた.d:涙.摘出時,8mmの大きさの涙.結石(矢印)が認められた.患者は他院通院中に数種類の抗菌点眼薬を処方されていたが,最近ではLVFX点眼薬を継続して点眼していた.初診時,左眼涙.部の隆起性病変を認めた(図3a)ために眼窩CT検査を行ったところ,涙.部の隆起病変は比較的低吸収の内容物がみられた(図3b).涙.造影撮影では拡張した涙.が認められた(図3c)が,涙.より下方の鼻涙管は造影されなかった(図3d).涙.洗浄によって排出された涙.内貯留液よりMRSAが検出されたことより,MRSA慢性涙.炎と診断した(表2).左眼)涙.鼻腔吻合術を施行して術後1年5カ月後に通過を確認している.当科において,涙.切開,涙.摘出およびDCRを施行した非MRSA涙.炎95例の年齢分布は39.98歳であったが,MRSA涙.炎患者は72.93歳と高齢者に多く発症していた(図4).平均年齢を比較すると,MRSA涙.炎患者84.2±6.2歳(平均±標準偏差)で,非MRSA涙.炎では72.1±12.5歳であり,さらにWilcoxonの順位和検定でMRSA涙.炎は非MRSA涙.炎に比較すると有意に高齢であった(p<0.001).MRSA涙.炎の内訳は男性1例,女性12例で,そのうち急性涙.炎は4例,慢性涙.炎は9例であった.MRSA感染による涙.炎のうち,表3に急性涙.炎,表4に慢性涙.表1症例1のMRSAの薬剤感受性MICMIC薬剤(μg/ml)判定薬剤(μg/ml)判定PCG8REM>4RABPC>8RCLDM>2RMPIP>2RMINO<2SCEZ>8RLVFX>4RCTM>8RST<1SCFDN>2RVCM1SFMOX8RLZD<2SIPM2RTEIC<2SABK<1SFOM<4SGM<1S炎の症例を示す.前医の治療では抗菌点眼薬の治療が継続されていた例が12例存在していた.MRSAによる急性涙.炎のうちVCM点滴で寛解し,慢性涙.炎に移行したのは症例3,症例4の2例であった.涙.内に結石を認めた急性涙.炎(症例1)は涙.摘出を行ったが,症例2では涙.切開後,蜂巣炎は軽快したものの消炎には長時間を要した.急性涙.炎の寛解例2例を含む慢性涙.炎11例でDCRを行ったが,観察期間1カ月.6年4カ月で全例において涙.炎は再発しなかった.(99)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015563 ababcd図2症例1の病理組織a:涙.切開時の排膿塗抹標本.グラム染色で白血球に貪食されたグラム陽性球菌(矢印)が認められた.b:摘出した涙.の小結石.ヘマトキシリン・エオジン染色で好酸性の無構造な組織像を示した.バーは100μm.c:涙.結石の走査型電子顕微鏡写真(×4,500).線維素に絡みつくように散在する直径1μmの球菌を認めた.縮尺は10μm.d:涙.結石の走査型電子顕微鏡写真(×13,000).バイオフィルムの表面に球菌が付着していた.縮尺は4μm.表2症例5のMRSAの薬剤感受性MICMIC薬剤(μg/ml)判定薬剤(μg/ml)判定PCG8RGM>8RABPC8REM>4RMPIP>2RCLDM>2RCEZ>16RLVFX>4RCTM>16RST<2SCFDN>2RVCM<2SFMOX>16RLZD<2SIPM>8RTEIC<2SABK2SFOM>16R検出されたMRSA13株の薬剤感受性を調べると,PCG,ABPC,MPIP,CEZ,CTM,FDN,FMOX,IPM,LVFXはすべて100%の耐性率を示していた.逆に薬剤感受性を示していた抗菌薬としては図5に示すように,EMは7%,CLDNは23%,FOMは31%,GMは38%,MINOに対して60%の分離株が感受性を示していた.100%の感受性を示564あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015していたのはABK,TEIC,ST,VCM,LZDの5種類の抗菌薬であった.III考按MRSAと非MRSA涙.炎患者の平均年齢を比較すると,MRSA涙.炎は84.2±6.2歳,非MRSA涙.炎は72.1±12.5歳であり,MRSA涙.炎は非MRSAに比較すると有意に高齢であった(p<0.001).さらにMRSA涙.炎の年齢分布をみると85歳以上の超高齢者は,急性涙.炎では4例中3例,慢性涙.炎では9例中3例であり,免疫力の低下している超高齢者は易感染性宿主と考えられた.MRSA涙.炎の男女比をみると男性1例,女性12例で,ほとんどが女性であった.前報1)で考察したように,その理由として日本人では解剖学的に男性よりも女性のほうが鼻涙管の内径が狭く,鼻涙管と下鼻道のなす角度が小さいために涙.内に涙液が貯留しやすくなるためと考えられる5).MRSA涙.炎患者のうち紹介なしで受診した1例を除き,他院で抗菌点眼薬の(100) abbcdabbcd図3症例5(慢性涙.炎)a:術前の顔写真.左涙.部の隆起性病変を認めた.b:眼窩CT撮影.涙.部は被膜に包まれるように比較的低吸収の内容物(矢印)が認められた.c:涙.造影正面像.拡張した涙.(矢印)を認めた.d:涙.造影側面像.拡張した涙.(矢印)と途絶した鼻涙管が認められた.表3MRSA急性涙.炎の症例症例性別年齢患側前医の治療手術転帰189歳女性左数日前より急性涙.炎LVFX点眼涙.切開後,LZDが奏効せず,涙.摘出涙.摘出後7カ月で涙.周囲炎は認めず293歳女性左3カ月前より急性涙.炎の診断で前医にて涙.切開LVFX点眼涙.切開後,VCMを投与拡張型心筋症のため追加手術不能1年2カ月後は慢性涙.炎373歳女性左10年前から左眼)慢性涙.炎放置していたが,7日前より急性涙.炎で当科に直接受診VCM投与により急性涙.炎が寛解.DCRDCR後,6年6カ月で涙.洗浄にて通水可493歳女性左3カ月前より他院で急性涙.炎LVFX点眼VCM投与により急性涙.炎が寛解.DCRDCR後,3年10カ月で涙.洗浄にて通水可治療が継続されていたことより,長期間の抗菌点眼薬は涙.における常在菌の耐性化をもたらすと考えられた.ただしMRSA感染についは,涙.内で黄色ブドウ球菌が抗菌薬に対して多剤耐性化を獲得したのか,医療機関においてMRSAの二次感染を生じたのかは不明である.最近,一般社会の健常者からもMRSAが分離され,菌の性状をみると院内感染を起こすMRSAとは細菌学的に異なる特徴を有していることから,従来の院内感染型MRSAとは区別して市中感染型MRSAとよばれるようになった.多くの抗菌薬に耐性を有している院内感染型MRSAとは異なり,市中感染型MRSAの多くはマクロライドやフルオロキノロン系抗菌薬などに感受性を示す傾向があり,多剤耐性に至っていないことが特徴である6).市中感染型MRSAによる感染症はおもに皮膚や軟部組織に生じることが多いといわれている.今回検討したMRSA涙.炎のうち,皮膚および皮下に蜂巣炎を生じていた急性涙.炎のMRSA4株について,市中感染型MRSAである可能性について検討した.まず今回検出されたMRSA13株において薬剤感受性を示すかどうかをみたところ,ABK,TEIC,ST,VCM,LZDでは100%,MINOに対しては60%の分離株が感受性を有してい(101)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015565 表4MRSA慢性涙.炎の症例症例年齢性別患側前医の治療手術転帰573歳女性左13年前より左眼)涙.洗浄,最近は皮膚側より穿刺,吸引LVFX点眼DCR術後2年4カ月通水可685歳女性左約10年前より左眼)慢性涙.炎SISO,CP,LVFX点眼DCR術後2年7カ月通水可777歳女性右5年前より右眼)涙.洗浄LVFX点眼DCR術後6カ月通水可877歳女性左3年前より左眼)涙.洗浄LVFX点眼DCR術後3年11カ月通水可986歳女性左10年前より左眼)涙.洗浄GFLX点眼DCR術後3年10カ月通水可1081歳男性左当科にてDCR後,1カ月で閉鎖してMRSA検出.LVFX点眼DCR再手術再手術術後1年6カ月通水可1181歳女性左発症は不明.当科にて右眼)DCR術後,左眼)眼脂を認め,MRSA検出.LVFX点眼DCR術後4年10カ月通水可1288歳女性右3年前より左眼)涙.洗浄OFLX点眼DCR術後6カ月通水可1372歳女性右右眼)上下涙点閉鎖に対して涙点を開放すると慢性涙.炎が判明し,MRSA検出.DCR術後1カ月通水可05101520253035404550~10~20~30~40~50~60~70~80~90~100■:非MRSA■:MRSA症例数(人)年齢(歳)図4涙.炎の年齢分布涙.炎患者の年齢分布として30歳代より発症して70歳代をピークとしていたが,MRSA涙.炎では71歳以上の高齢者のみに発症を認めた.た.さらにEM,CLDN,FOM,GMに対しては7.38%が薬剤感受性を有していたために市中感染型MRSAが含まれている可能性が出てきたが,個々の症例をみると症例1ではGMに感受性を示していたが,EMやLVFXには耐性を示していた.症例2.4も同様にEMやLVFXには耐性を示していたことより,当科のMRSA涙.炎の分離株は市中感染型MRSAとは考えにくく,全例,院内感染型MRSAと考えられた.つぎにMRSAの増殖メカニズムについて考えてみたい.566あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%■:耐性■:感受性ABKSTVCMTEICLZDMINOGMFOMCLDMEM図5MRSA13菌株において抗菌薬に感受性を有する割合MRSAに対して,薬剤感受性を有する抗菌薬としてはEM,CLDN,GM,MINO,FOMがあげられ,7.60%のMRSAが感受性を示していた.100%の感受性を示していたのはABK,TEIC,ST,VCM,LZDの5種類の抗菌薬であった.細菌は液層中でプランクトンとして浮遊するよりも固相に付着,定着して集団として存在しているが,その際に固相─液層界面に形成されるのがバイオフィルムである7).症例1において涙.摘出時に摘出された涙.結石の表面を走査型電子顕微鏡で観察すると,多数のブドウ球菌が線維素や無構造物質から形成されるバイオフィルムに絡みつくように群生していた.涙.結石は内層のムコ蛋白質に石灰沈着を生じると,眼窩CT検査で周囲が高吸収となるために米粒様(ricekernelappearance)とも称される特徴ある画像を呈すると報告(102) されている8,9).すなわち,涙.結石における石灰沈着は細菌がより定着しやすくなるためにバイオフィルムの形成,成熟が容易となる.バイオフィルムの構成成分としては付着する細菌より産生される細胞外多糖類,蛋白質や死滅した細菌より放出された粘性の高いDNAが含まれておりいわゆる細胞外マトリックスとして存在している10).細菌にとってバイオフィルムを形成することは,生体の免疫作用や抗菌薬から逃れることができるためにMRSAをはじめ難治性の慢性感染症となりうる.その具体例として症例1があげられる.MRSAに対して薬物療法が奏効せず涙.を摘出せざるをえなかったのは,表層にバイオフィルムが形成された涙.結石を増殖の場としたことでMRSAは抗菌薬に対する防御が可能になったと思われる.今回は手術として涙.切開(1例),涙.摘出(1例)およびDCR(11例)を行ったが,DCRの手術成績として観察期間1カ月.6年4カ月で涙.炎は再発していない.MRSA涙.炎は発症背景として抗菌点眼薬を長期使用していた高齢者があげられるが,DCRの手術成績は良好であったことより通常の黄色ブドウ球菌感染症と病原性は変わらないと考えられる.いわゆる院内感染型MRSAは健常人ではその感染に対してかなり抵抗性を示すが,免疫機能の低下した高齢者ではMRSA涙.炎を発症すると考えられるために,眼科医を含めて医療スタッフは高齢者に対しMRSAの感染源になる可能性を常に念頭に置く必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)児玉俊夫,宇野敏彦,山西茂喜ほか:乳幼児および成人に発症した涙.炎の検出菌の比較.臨眼64:1269-1275,20102)KuboM,SakurabaT,AraiYetal:Dacryocystorhinostomyfordacryocystitiscausedbymethicillin-resistantStaphylococcusaureus:reportoffourcases.JpnJOphthalmol46:177-182,20023)田中朋子,小堀朗,吉田和代ほか:メチシリン耐性ブドウ球菌による急性涙.炎の2例.眼科手術13:629-632,20004)児玉俊夫:松山赤十字病院における涙.鼻腔吻合術の手術成績.松山日赤誌39:15-20,20145)ShigetaK,TakegoshiH,KikuchiS:Sexandagedifferencesinthebonynasolacrimalcanal.Ananatomicalstudy.ArchOphthalmol125:1677-1681,20076)松本哲哉:MRSA感染症(市中感染型MRSAを含む).最新医学63:1225-1239,20087)米澤英雄,神谷茂:バイオフィルム形成と細胞外マトリックス.臨床と微生物36:411-416,20098)YaziciB,HammadAM,MeyerDR:Lacrimalsacdacryoliths.Ophthalmology108:1308-1312,20019)AsheimJ,SpicklerE:CTdemonstrationofdacryolithiasiscomplicatedbydacryocystitis.AJNRAmJNeuroradiol26:2640-2641,200510)PerryLJP,JakobiecFA,ZakkaFR:Bacterialandmucopeptideconcretionsofthelacrimaldrainagesystem:Ananalysisof30cases.OphthalPlastReconstrSurg28:126133,2012***(103)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015567

アトピー性皮膚炎症例における細菌性角膜炎の検討

2015年4月30日 木曜日

556あたらしい眼科Vol.5104,22,No.3(00)556(92)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):556.560,2015cはじめにアトピー性皮膚炎は,「増悪,寛解を繰り返す掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている1).アトピー性皮膚炎の眼合併症として,円錐角膜,白内障および網膜.離などがあげられ,視力予後に関係する眼合併症として注意喚起されている2).一方,アトピー性皮膚炎のもう一つの合併症として皮膚感染症があげられる.アトピー性皮膚炎では皮膚の易感染性による感染性皮膚疾患として,ブドウ球菌,連鎖球菌による伝染性膿痂疹,単純ヘルペスウイルスによるカポジ(Kaposi)水痘様発疹症,伝染性軟属腫ウイルスによる伝染性軟属腫が多い.さらにこれらの感染性皮膚疾患から角結膜炎に波及し,伝染性膿痂疹ではカタル性結膜炎やブドウ球菌角膜炎3),カポジ水痘様発疹症では単純ヘルペス結膜炎および角膜炎4),伝染性軟属腫では濾胞性結膜炎がみられる5).しかしながら,アトピー性皮膚炎の易感染性を背景に発症する細菌性角膜炎の詳細については不明な点が多い.今回,筆者らは,アトピー性皮膚炎を有する症例に発症した細菌性角膜炎の特徴について検討した.〔別刷請求先〕庄司真紀:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MakiShoji,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-Kamichou,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPANアトピー性皮膚炎症例における細菌性角膜炎の検討庄司真紀*1,2稲田紀子*1庄司純*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2東京女子医科大学糖尿病センターStudyofBacterialKeratitisinPatientswithAtopicDermatitisMakiShoji1,2),NorikoInada1)andJunShoji1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicineアトピー性皮膚炎を有する細菌性角膜炎症例の臨床的特徴を検討する目的で,患者背景,誘因,角膜炎の臨床所見,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜擦過物からの検出菌および薬剤感受性について調査した.対象は,細菌性角膜炎に罹患したアトピー性皮膚炎患者34例(男性22例,女性12例)で,平均年齢は28.6歳±11.2歳(±標準偏差)である.角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は23例(68%)であった.角膜擦過物の細菌分離培養検査では19例23株で菌が検出され,methicillin-senstiveStaphylococcusaureus10株が最多であった.アトピー性皮膚炎患者の細菌性角膜炎の特徴は,CL装用者に発症するブドウ球菌角膜炎であった.Purpose:Toidentifytheclinicalcharacteristicsofmicrobialkeratitispatientswithatopicdermatitis.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved36patients(22malesand12females,meanage:28.6±11.2(±SD)years)withatopicdermatitiswhosufferedfrommicrobialkeratitis.Inallpatients,dataregardingpatientdemographics,precipitantsofkeratitis,clinicalobservationofkeratitis,presenceofallergicconjunctivaldiseases,andresultsofbacterialcultivationandantibioticsusceptibilitytestswereevaluated.Results:Forprecipitantsofkeratitis,contactlens(CL)wearwasmostcommon[17of34patients(50%)],andtheincidenceofcomplicationofallergicconjunc-tivaldiseaseswere23of34cases(68%).Inthecornealabrasionspecimensof19patients,23bacterialstrainsweredetectedbythebacterialcultivationtest,with10strainsofmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureusbeingtheonesmostisolated.Conclusions:Inthisstudy,theclinicalcharacteristicofbacterialkeratitisinthepatientswithatopicdermatitiswasfoundtobestaphylococcalkeratitisthatdevelopedduetoCLwear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):556.560,2015〕Keywords:アトピー性皮膚炎,細菌性角膜炎,黄色ブドウ球菌,アレルギー性結膜疾患.atopicdermatitis,bacte-rialkeratitis,Staphylococcusaureus,allergicconjunctivaldisease.(00)556(92)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):556.560,2015cはじめにアトピー性皮膚炎は,「増悪,寛解を繰り返す掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている1).アトピー性皮膚炎の眼合併症として,円錐角膜,白内障および網膜.離などがあげられ,視力予後に関係する眼合併症として注意喚起されている2).一方,アトピー性皮膚炎のもう一つの合併症として皮膚感染症があげられる.アトピー性皮膚炎では皮膚の易感染性による感染性皮膚疾患として,ブドウ球菌,連鎖球菌による伝染性膿痂疹,単純ヘルペスウイルスによるカポジ(Kaposi)水痘様発疹症,伝染性軟属腫ウイルスによる伝染性軟属腫が多い.さらにこれらの感染性皮膚疾患から角結膜炎に波及し,伝染性膿痂疹ではカタル性結膜炎やブドウ球菌角膜炎3),カポジ水痘様発疹症では単純ヘルペス結膜炎および角膜炎4),伝染性軟属腫では濾胞性結膜炎がみられる5).しかしながら,アトピー性皮膚炎の易感染性を背景に発症する細菌性角膜炎の詳細については不明な点が多い.今回,筆者らは,アトピー性皮膚炎を有する症例に発症した細菌性角膜炎の特徴について検討した.〔別刷請求先〕庄司真紀:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MakiShoji,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-Kamichou,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPANアトピー性皮膚炎症例における細菌性角膜炎の検討庄司真紀*1,2稲田紀子*1庄司純*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2東京女子医科大学糖尿病センターStudyofBacterialKeratitisinPatientswithAtopicDermatitisMakiShoji1,2),NorikoInada1)andJunShoji1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicineアトピー性皮膚炎を有する細菌性角膜炎症例の臨床的特徴を検討する目的で,患者背景,誘因,角膜炎の臨床所見,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜擦過物からの検出菌および薬剤感受性について調査した.対象は,細菌性角膜炎に罹患したアトピー性皮膚炎患者34例(男性22例,女性12例)で,平均年齢は28.6歳±11.2歳(±標準偏差)である.角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は23例(68%)であった.角膜擦過物の細菌分離培養検査では19例23株で菌が検出され,methicillin-senstiveStaphylococcusaureus10株が最多であった.アトピー性皮膚炎患者の細菌性角膜炎の特徴は,CL装用者に発症するブドウ球菌角膜炎であった.Purpose:Toidentifytheclinicalcharacteristicsofmicrobialkeratitispatientswithatopicdermatitis.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved36patients(22malesand12females,meanage:28.6±11.2(±SD)years)withatopicdermatitiswhosufferedfrommicrobialkeratitis.Inallpatients,dataregardingpatientdemographics,precipitantsofkeratitis,clinicalobservationofkeratitis,presenceofallergicconjunctivaldiseases,andresultsofbacterialcultivationandantibioticsusceptibilitytestswereevaluated.Results:Forprecipitantsofkeratitis,contactlens(CL)wearwasmostcommon[17of34patients(50%)],andtheincidenceofcomplicationofallergicconjunc-tivaldiseaseswere23of34cases(68%).Inthecornealabrasionspecimensof19patients,23bacterialstrainsweredetectedbythebacterialcultivationtest,with10strainsofmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureusbeingtheonesmostisolated.Conclusions:Inthisstudy,theclinicalcharacteristicofbacterialkeratitisinthepatientswithatopicdermatitiswasfoundtobestaphylococcalkeratitisthatdevelopedduetoCLwear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):556.560,2015〕Keywords:アトピー性皮膚炎,細菌性角膜炎,黄色ブドウ球菌,アレルギー性結膜疾患.atopicdermatitis,bacte-rialkeratitis,Staphylococcusaureus,allergicconjunctivaldisease. あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015557(93)I対象および方法1.対象対象は,2001年1月.2013年12月に日本大学医学部附属板橋病院眼科で加療し,かつ次の①および②の条件を満たした症例である(本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を得た).①アトピー性皮膚炎を発症している,もしくは既往を有する症例.②細菌性角膜炎と臨床診断し,角膜病巣部から細菌分離培養検査を施行した症例.2.方法本研究における検討項目は,患者背景,角膜炎の誘因,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜炎の臨床所見,角膜擦過物からの検出菌,薬剤感受性試験結果の6項目である.a.患者背景・角膜炎の誘因初診時に,角膜炎発症時の年齢および性別について調査するとともに,問診の記録から角膜炎の発症に関連する誘因について調査した.b.アレルギー性結膜疾患の有無初診時の細隙灯顕微鏡所見から,アレルギー性結膜疾患の合併の有無について検討した.アレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン6)に従って診断と病型分類を行った.c.角膜炎の臨床所見初診時の感染性角膜炎の所見として,角膜潰瘍の形状,角膜endothelialplaque,虹彩炎および前房蓄膿の有無について調査した.d.角膜擦過物からの検出菌・薬剤感受性試験細菌性角膜炎の原因菌検索として,角膜擦過物を直接チョコレート寒天培地に塗抹して細菌分離培養検査をするとともに薬剤感受性試験を行った.II結果1.年齢分布12年間の調査期間における対象症例数は,34例(男性22例,女性12例)であった.発症年齢は28.6±11.2歳(平均±標準偏差)で,発症のピークは25.29歳であり,おもに20代後半から30代前半に多く発症していた(図1).2.角膜炎の誘因細菌性角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,全体の半数を占めた.CLの種類の内訳は,ソフトCL装用が13例,ハードCL装用が4例(円錐角膜に対してハードCL装用3例を含む)であった.その他の誘因は,結膜異物2例,睫毛乱生1例,春季カタルの治療で免疫抑制薬点眼中の症例が1例であり,残りの13例(38%)は明確な誘因が判明しなかった(表1).3.合併するアレルギー性結膜疾患細菌性角膜炎に合併するアレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜炎16例(47%),春季カタル4例(12%),巨大乳頭結膜炎3例(9%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は34例中23例(68%)であった(図2).さらに,合併するアレルギー性結膜疾患を,CL装用の有無で比較した.CL装用者,すなわちCLが誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎10例(59%),巨大乳頭結膜炎3例(17%),春季カタル1例(6%)であり,アレルギー性結膜疾患の合併率は17例中14例(82%)であった.CL非装用者,すなわちCL以外の誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎6例(35%)と春季カタル3例(18%)であり,合併率は17例中9例(53%)であった(図3).4.角膜病巣部からの細菌分離培養検査結果角膜病巣部からの細菌分離培養検査の結果は,34例中19図1発症年齢発症年齢は25.29歳にピークがみられ,おもに20代後半から30代前半に多く発症している.012345678910■:女性■:男性症例数(例)発症年齢5~9歳10~14歳15~19歳20~24歳25~29歳30~34歳35~39歳40~44歳45~49歳50~54歳55~59歳60~64歳表1感染性角膜炎の誘因誘因症例数(例)頻度(%)コンタクトレンズ(CL)装用1750ソフトCL13ハードCL1円錐角膜+ハードCL3結膜異物26睫毛乱生13免疫抑制薬点眼中13誘因不明1338合計34100あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015557(93)I対象および方法1.対象対象は,2001年1月.2013年12月に日本大学医学部附属板橋病院眼科で加療し,かつ次の①および②の条件を満たした症例である(本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を得た).①アトピー性皮膚炎を発症している,もしくは既往を有する症例.②細菌性角膜炎と臨床診断し,角膜病巣部から細菌分離培養検査を施行した症例.2.方法本研究における検討項目は,患者背景,角膜炎の誘因,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜炎の臨床所見,角膜擦過物からの検出菌,薬剤感受性試験結果の6項目である.a.患者背景・角膜炎の誘因初診時に,角膜炎発症時の年齢および性別について調査するとともに,問診の記録から角膜炎の発症に関連する誘因について調査した.b.アレルギー性結膜疾患の有無初診時の細隙灯顕微鏡所見から,アレルギー性結膜疾患の合併の有無について検討した.アレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン6)に従って診断と病型分類を行った.c.角膜炎の臨床所見初診時の感染性角膜炎の所見として,角膜潰瘍の形状,角膜endothelialplaque,虹彩炎および前房蓄膿の有無について調査した.d.角膜擦過物からの検出菌・薬剤感受性試験細菌性角膜炎の原因菌検索として,角膜擦過物を直接チョコレート寒天培地に塗抹して細菌分離培養検査をするとともに薬剤感受性試験を行った.II結果1.年齢分布12年間の調査期間における対象症例数は,34例(男性22例,女性12例)であった.発症年齢は28.6±11.2歳(平均±標準偏差)で,発症のピークは25.29歳であり,おもに20代後半から30代前半に多く発症していた(図1).2.角膜炎の誘因細菌性角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,全体の半数を占めた.CLの種類の内訳は,ソフトCL装用が13例,ハードCL装用が4例(円錐角膜に対してハードCL装用3例を含む)であった.その他の誘因は,結膜異物2例,睫毛乱生1例,春季カタルの治療で免疫抑制薬点眼中の症例が1例であり,残りの13例(38%)は明確な誘因が判明しなかった(表1).3.合併するアレルギー性結膜疾患細菌性角膜炎に合併するアレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜炎16例(47%),春季カタル4例(12%),巨大乳頭結膜炎3例(9%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は34例中23例(68%)であった(図2).さらに,合併するアレルギー性結膜疾患を,CL装用の有無で比較した.CL装用者,すなわちCLが誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎10例(59%),巨大乳頭結膜炎3例(17%),春季カタル1例(6%)であり,アレルギー性結膜疾患の合併率は17例中14例(82%)であった.CL非装用者,すなわちCL以外の誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎6例(35%)と春季カタル3例(18%)であり,合併率は17例中9例(53%)であった(図3).4.角膜病巣部からの細菌分離培養検査結果角膜病巣部からの細菌分離培養検査の結果は,34例中19図1発症年齢発症年齢は25.29歳にピークがみられ,おもに20代後半から30代前半に多く発症している.012345678910■:女性■:男性症例数(例)発症年齢5~9歳10~14歳15~19歳20~24歳25~29歳30~34歳35~39歳40~44歳45~49歳50~54歳55~59歳60~64歳表1感染性角膜炎の誘因誘因症例数(例)頻度(%)コンタクトレンズ(CL)装用1750ソフトCL13ハードCL1円錐角膜+ハードCL3結膜異物26睫毛乱生13免疫抑制薬点眼中13誘因不明1338合計34100 例(56%)で菌が検出された.同一症例から複数菌の検出が認められた4例を含め,検出株数は23株であった.結果を図4に示す.検出菌は多い順に,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-senstiveStaphylococcusaureus:MSSA)10株,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)4株,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeStaphylococcus:CNS)3株であり,ブドウ球菌属が23株中17株を占めた.5.薬剤感受性試験結果角膜病巣部から分離された黄色ブドウ球菌14株(MSSA10株,MRSA4株)に対する薬剤感受性試験結果を表2に示す.今回の臨床分離株に対するセフェム系およびカルバペネム系抗菌薬の薬剤感受性は良好であり,また抗菌点眼薬として使用される抗菌薬のなかでは,ゲンタマイシンで4株,エリスロマイシンで2株,レボフロキサシンで1株の耐性菌がみられた.MRSAに対する治療薬として使用されているバンコマイシンでは全株に感受性があり,アルベカシンでは1株の耐性菌がみられた.16例(47%)4例(12%)3例(9%)11例(32%)34例■:アレルギー性結膜炎■:春季カタル:巨大乳頭結膜炎■:所見なし図2感染性角膜炎に合併するアレルギー性結膜疾患アレルギー性結膜疾患は,34例中23例(68%)に合併している.6.アトピー性皮膚炎症例に合併したブドウ球菌角膜炎の前眼部所見の特徴ブドウ球菌角膜炎と確定診断された17例について,前眼部所見の特徴から軽症から重症の4つのグループに分類した.分類は,角膜膿瘍の形状(小円形,不整形,角膜のびまん性混濁)と前房蓄膿の有無とで行った.小円形の角膜潰瘍を呈し前房蓄膿を伴わないグループをG1,不整形膿瘍に前房蓄膿を伴わないグループをG2,不整形膿瘍に前房蓄膿を伴うグループをG3,角膜のびまん性混濁を認めるグループをG4とした.G17例,G25例,G34例,G41例に分類された(図5).III考按アトピー性皮膚炎症例に発症した細菌性角膜炎は,12年間の観察期間で34例であり,おもな発症誘因はCL装用(17■:アレルギー性結膜炎■:春季カタル:巨大乳頭結膜炎■:所見なし1例3例(17%)3例(18%)6例(35%)3例(18%)3例(18%)8例(47%)10例(59%)CLあり(17例)CLなし(17例)(6%)図3コンタクトレンズ装用の有無とアレルギー性結膜疾患の有無コンタクトレンズ(CL)装用者では17例中14例(82%)にアレルギー性結膜疾患の合併がみられ,非CL装用者では17例中9例(53%)にアレルギー性結膜疾患の合併がみられる.検出菌株数(株)菌陰性15例(44%)菌検出19例(56%)ブドウ球菌属17/23株(74%)MSSA(methicillin-senstiveStaphylococcusaureus)MRSA(methicillin-resistantStaphylococcusaureus)CNS(coagulase-negativeStaphylococcus)GroupCStreptcoccus*a-Staphylococcus*Corynebacteriumsp.*Propionibacteriumacnes**Pseudomonasaeruginosa計10431112123株*MSSAと同時検出.**1株のみMSSAと同時検出.図4細菌分離培養結果角膜病巣部からの細菌分離培養から菌が検出された症例は,34例中19例(56%)である.同一症例から複数菌が検出された4例を含め,延べ23株の菌が検出され,17株(74%)がブドウ球菌属である.(94) 表2薬剤感受性試験結果(感受性株数/検体数)MSSA(感受性株数/検体数)SBT/IPM/PCGCEZABKGMEMCLDMMINOVCMSTLVFXTEICABPCCS8/81/810/108/99/107/105/79/109/1010/108/97/78/8MRSA(感受性株数/検体数)ABKGMCLDMMINOVCMSTLVFXTEIC4/42/32/32/34/44/41/22/2SBT/ABPC:スルバクタム/アンピシリン,PCG:ベンジルペニシリン,CEZ:セファゾリン,IPM/CS:イミペネム/シラスタチン,ABK:アルベカシン,GM:ゲンタマイシン,EM:エリスロマイシン,CLDM:クリンダマイシン,MINO:ミノサイクリン,VCM:バンコマイシン,ST:スルファメトキサゾール/トリメトプリム,LVFX:レボフロキサシン,TEIC:テイコプラニンG1G2G3G4角膜膿瘍の形状小円形不整形不整形びまん性混濁前眼部写真前房蓄膿××○透見不可その他Endothelialplaque形成(1例)Endothelialplaque形成(3例)症例数(例)7541図5アトピー性皮膚炎症例に合併したブドウ球菌角膜炎の前眼部所見の特徴(17例)角膜炎の病態を角膜膿瘍の形状と前房蓄膿の有無によって,G1.G4に分類した.G1,G2に分類される症例が多いが,前房蓄膿を伴うG3,非典型的なG4症例もみられる.例)であった.装用していたCLの種類は,ソフトCLが14例と多く,ハードCL装用者4例であった.アレルギー性結膜疾患の合併率は68%であったが,所見のない症例もあり,アレルギー性結膜疾患と細菌性角膜炎との関連は不明であった.しかしながら,CL装用が誘因となった感染性角膜炎症例では,CL装用以外を誘因とする感染性角膜炎症例と比較して統計学的有意差はみられなかったものの,アレルギー性結膜疾患を合併している症例が多かった.ソフトCL装用者の場合,アレルギー性結膜炎を合併することによりソフトCLの汚れや固着などが生じやすくなり,感染性角膜炎のリスクファクターになる可能性があり,CLの処方,ケア方法には注意を要する.また,ハードCL装用者4例のうち3例は円錐角膜患者であり,CLを使用せざるえない症例も多い.アトピー素因を有する円錐角膜患者がハードCLを装用する場合には,注意すべき合併症としてブドウ球菌角膜炎が以前から指摘されている.さらに黄色ブドウ球菌角膜炎を発症した場合には,急性水腫様の角膜所見を呈することが多いとされ7,8),鑑別に注意を要することが指摘されている.本症例においても円錐角膜患者から分離された細菌はMRSAであり,また感染性角膜炎の所見は小円形から類円形であり,既報と類似した所見であったと考えられた.アトピー性皮膚炎症例では,アレルギー性結膜疾患があっても視力矯正を優先してハードCLを装用する場合,およびアレルギー性結膜疾患,とくに軽症のアレルギー性結膜炎の合併が自覚されないままソフトCL装用を始める場合が,感染性角膜炎の重要な危険因子となりうると考えられた.角膜擦過物からの細菌分離培養検査では23株が検出されたが,23株中17株がブドウ球菌属であった.通常,CL関連角膜感染症の原因菌は緑膿菌が多いが,本検討で緑膿菌が検出された1例は免疫抑制薬使用中の春季カタル症例であり,CL装用者から緑膿菌は検出されなかった.アトピー性皮膚炎では,皮膚に黄色ブドウ球菌が定着(colonization)または感染(infection)することが多いとされている9).Parkら10)は黄色ブドウ球菌が皮膚に定着する頻度は,急性期の症例で74%,慢性期の症例で38%,健常対照で3%であったとし,黄色ブドウ球菌の定着が急性期の増悪(95)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015559 因子として注目すべきであるとしている.また,アトピー性角結膜炎症例における結膜.内細菌分離培養結果においてもブドウ球菌属が分離される頻度が高いことが報告されている11).したがって,アトピー性皮膚炎に合併する細菌性角膜炎の原因菌としてブドウ球菌属が多くみられたことは,皮膚からの持ち込み感染,結膜.内細菌の感染などの可能性があると考えられた.今回分離されたブドウ球菌属でかつ薬剤耐性であった菌株はMRSA4株であり,MRCNSはみられなかった.他の株ではセフェム系およびフルオロキノロン系抗菌薬が良好な感受性を示したが,ゲンタマイシンに耐性を示す株がみられた.感染性角膜炎診療ガイドライン12)では,グラム陽性菌による細菌性角膜炎に対する治療には,セフェム系抗菌薬とフルオロキノロン系抗菌薬との併用療法が推奨されているが,今回の臨床分離株の薬剤感受性試験結果からも同様の治療が推奨されると考えられた.また,MRSAに対しては,バンコマイシン軟膏が上市されているほかアミカシンやアルベカシンの自家製剤の使用も報告されている13).しかし,今回の臨床分離株のなかにもアルベカシンに対する耐性株が検出されていることから,耐性菌をさらに増やさないためにも,これらの薬剤の乱用は避けるべきであると考えられた.17例のブドウ球菌角膜炎の重症度は軽症から重症までみられ,4グループ(G1.G4)に分類した.ブドウ球菌角膜炎は表在性膿瘍を形成し,グラム陰性菌感染症に比べて比較的軽症であるとされ,病巣の特徴として円形,類円形または三日月状やひょうたん型の不整型潰瘍とその周囲を取り囲む細胞浸潤があげられている14.16).本検討では,12例が前房蓄膿のないG1,G2であったが,前房蓄膿がみられたG3が4例,もっとも重症であったG4の病巣は非典型的であった.G4の症例はシールド潰瘍に細菌感染した症例であり,基礎疾患の重症度によって修飾され重症化した症例であると考えられた.したがって,アトピー性皮膚炎に合併するブドウ球菌角膜炎は重症化する症例もみられることから,薬剤感受性検査を含めた細菌学的検査を行いながら注意して治療を進める必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌119:1515-1534,20092)ChenJJ,ApplebaumDS,SunGSetal:Atopickeratoconjunctivitis:Areview.JAmAcadDermatol70:569-575,20143)佐藤敦子,岩﨑隆,庄司純ほか:伝染性膿痂疹に合併した角膜膿瘍の1例.日眼会誌102:395-398,19984)塚本裕次,井上幸次,前田直之ほか:アトピー素因のある円錐角膜患者に発症した上皮型角膜ヘルペスの4例.眼紀50:229-232,19995)InoueY:Ocularinfectionsinpatientswithatopicdermatitis.IntOphthalmolClin42:55-69,20026)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,20107)西田幸二,井上幸次,中川やよいほか:両眼にAcuteHydrops様所見を呈した角膜感染症の1例.あたらしい眼科7:263-266,19908)遠藤純子,﨑元暢,嘉村由美ほか:急性水症様所見を呈する細菌感染を生じた円錐角膜の2症例.眼科42:711714,20009)菅谷誠:アトピー性皮膚炎と細菌感染.アレルギーの臨床32:497-501,201210)ParkHY,KimCR,HuhISetal:Staphylococcusaureuscolonizationinacuteandchronicskinlesionsofpatientswithatopicdermatitis.AnnDermatol25:410-416,201311)田渕今日子,稲田紀子,庄司純ほか:アトピー性角結膜炎におけるブドウ球菌の関与に関する検討.日眼会誌108:397-400,200412)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第2版).日眼会誌117:467-509,201313)大.秀行:眼感染症Now!薬剤耐性の問題点は?MRSAの治療を教えてください.あたらしい眼科26:139-141,201014)稲田紀子,庄司純,齋藤圭子ほか:アトピー素因を有する患者に合併した角膜感染症の4症例.眼科43:11111115,200115)田渕今日子,稲田紀子,庄司純ほか:アトピー性皮膚炎患者に発症したブドウ球菌性角膜潰瘍の2症例.眼科45:1469-1473,200316)庄司純:細菌性角膜潰瘍.臨眼57:162-169,2003***(96)

ラクトフェリンの抗アカントアメーバ活性に及ぼすリゾチームおよびムチンの影響

2015年4月30日 木曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):551.555,2015cラクトフェリンの抗アカントアメーバ活性に及ぼすリゾチームおよびムチンの影響鈴木智恵*1矢内健洋*1野町美弥*2今安正樹*2佐々木香る*3冨田信一*1*1玉川大学農学部*2株式会社メニコン*3JCHO星ヶ丘医療センターEffectsofLysozymeandMucinonAmoebicidalActivityofLactoferrinAgainstAcanthamoebasp.AA014ChieSuzuki1),KenyouYanai1),MiyaNomachi2),MasakiImayasu2),KaoruAraki-Sasaki3)andShinichiTomita1)1)FacultyofAgriculture,TamagawaUniversity,2)MeniconCo.,Ltd.,3)JCHOHosigaokaMedicalCenterアカントアメーバによる角膜炎は,しばしば治療に難渋する.本研究では,Acanthamoebasp.AA014臨床分離株の栄養体を用いて,涙液中に存在するリゾチームやムチンがラクトフェリン(LF)の抗アカントアメーバ活性に及ぼす影響について検討した.アメーバは,脱鉄ウシLF(apo-bLF)30μM,60分間処理によって不定形の状態で死滅し,その生存率は6.33±0.58%であった.apo-bLFはリゾチームとの共存で相加作用を示したが,この作用はムチンの共存で低下する傾向が認められた.また,フローサイトメトリー分析によると,apo-bLFとリゾチームで処理したアメーバはDiBAC4(3)によるピークが右へとシフトしたが,ムチンの共存によってピークは小さくなった.LFはアメーバ表層の負電荷部位との静電的な相互作用によって膜の脱分極を生じ,抗アメーバ活性を発揮しているものと推察した.MedicaltreatmentofAcanthamoebakeratitisisoftendifficult.Inthisstudy,weexaminedtheinfluenceoflysozymeandmucinontheamoebicidalactivityoflactoferrin(LF)againstAcanthamoebasp.AA014clinical-isolatetrophozoites.Inthecaseofthetreatmentwithiron-freebovineLF(apo-bLF)at30μMfor60minutes,themeanratioofcellviabilitywas6.3±0.58%.Themorphologyofdeadcellsshowedanalmostnon-globularform.Althoughtheamoebicidalactivityofapo-bLFincreasedinthepresenceoflysozyme,itdecreasedslightlyinthepresenceofmucin.FlowcytometryrevealedthepeakofAcanthamoebatreatedwithapo-bLFandlysozymewasshiftedtotheright,however,thepeakwassmallbycoexistenceofthemucin.ThedepolarizationofthecellmembranewascausedbyelectrostaticinteractionbetweentheLFmoleculeandthecellmembrane.ThefindingsofthisstudyindicatethattheamoebicidalactivityofLFisexertedbythedepolarizationofamoebacells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):551.555,2015〕Keywords:ラクトフェリン,リゾチーム,ムチン,アカントアメーバ,抗アメーバ活性.lactoferrin,lysozyme,mucin,Acanthamoeba,amoebicidalactivity.はじめにアカントアメーバは,土壌や水環境に生息する自由生活型アメーバであり,ライフサイクル中では栄養体とシスト体の二形態をとる1).栄養体は不定形であることが多いが,栄養源の枯渇などにより環境が悪化すると自己防御のために球形に変化し,さらに悪化するとシスト体へと形態変化する.通常,アカントアメーバによる角膜炎の治療として,角膜掻爬+抗真菌薬+消毒剤の併用療法が行われるが,病期が進み,アメーバがシスト化すると治療は困難となることが知られている2).また,汚染原因とされるソフトコンタクトレンズのケース内にシスト体として存在する場合,消毒剤に抵抗性となる.したがって,コンタクトレンズの保存液として安全に使用でき,かつシスト体に有効な薬剤の開発が必須である.すでにコンタクトレンズの洗浄保存液としては,この目的でヨード製剤が発売されているが,中和が必要である.また,長期使用によるレンズの劣化や眼に対する副作用なども未知〔別刷請求先〕冨田信一:〒194-8610町田市玉川学園6-1-1玉川大学農学部Reprintrequests:ShinichiTomita,Ph.D.,DepartmentofLifeScience,FacultyofAgriculture,TamagawaUniversity,6-1-1TamagawaGakuen,Machida,Tokyo194-8610,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(87)551 である.一方,ラクトフェリン(LF)は母乳,涙を含め,もともと生体内に存在する蛋白質である.これまでに筆者らは,牛乳由来のLFがアカントアメーバの類縁種であるHartmannella栄養体の増殖を抑制することを報告した3).その作用機序として,LFの鉄キレート能の関与以外に,LFとアメーバの特異的な結合から,鉄キレート能以外の作用機序,すなわち膜電位の変動と脱分極の可能性を報告した.このLFの将来的な臨床現場での応用を考えた場合,涙液の混和による影響は無視できない.涙液にはLFやリゾチームのような感染防御因子が存在し,外来微生物の定着や増殖を抑制している.また,ムチンは涙液保持を担うことで眼表面の保護の役割を果たしている4).そこで,本研究では涙液に存在するリゾチームやムチンがLFの抗アカントアメーバ活性に及ぼす影響について検討するとともに,LFの抗アメーバ活性における作用機序について考察した.I実験方法1.材料アメーバは,大阪大学から分譲されたAcanthamoebasp.AA014臨床分離株の栄養体を用いた.また,脱鉄ウシLF(apo-bLF,牛乳由来,森永乳業社製),リゾチーム(ニワトリ卵白由来,シグマ社製)およびムチン(ウシ顎下腺由来,TypeI-S,シアル酸含有量:9.17%,シグマ社製)を用い§§§§§§0204060801000102030405060生存率(%)†††††※※※※※※※※※※※※※※££†††時間(分)図1apo.bLFのリゾチームおよびムチン存在下におけるAcanthamoebasp.AA014の生存率●:Control,○:apo-bLF30μM,△:リゾチーム130μM,□:apo-bLF+リゾチーム,◇:apo-bLF+リゾチーム+ムチン0.2mg/mL.実験データの各時間における比較はANOVAで行い,差が認められた場合にSNK検定を行った.各時間での異なる記号において有意差あり(p<0.05)とした.552あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015た.2.生存性試験アメーバの生存性は,トリパンブルー法で評価した3).大腸菌抽出液を塗布した寒天培地で30℃,2日間培養したアメーバを回収後,ノイバウエル計算盤を用いて懸濁液(2×106cells/mL)を調製し,各種蛋白質溶液と等量混合した(1×106cells/mL).この混合液を10分間隔で採取して,0.25%トリパンブルー溶液(フルカ社製)と等量混合し,位相差顕微鏡(200倍,CX41,オリンパス社製)で形態およびトリパンブルー染色性を観察した.評価方法は冨田ら3)の報告に従い,染色陰性を生細胞,陽性を死細胞とし,それぞれ不定形および球形に分類した.また,各種蛋白質溶液は涙液中の濃度を想定して,apo-bLF30μM5),リゾチーム130μM6)およびムチン0.2mg/mL7)とした.3.細胞膜電位細胞膜電位の変動をフローサイトメトリーで検討した3).AC#6培地で25℃,5日間静置培養した栄養体を1/4Ringersolution(日本製薬社製)で回収し,洗浄後にノイバウエル計算盤を用いて懸濁液(2×106cells/mL)を調製した.この懸濁液と各種蛋白質溶液を等量混合し,37℃,60分間処理した後(1×106cells/mL),アニオン性膜電位感受性色素Bis(1,3-dibutylbarbituricacid)trimethineoxonol,sodiumsalt(DiBAC4(3),同仁化学研究所社製)で染色し,フローサイトメトリー(FACSCalibur,ベクトン・ディッキンソン社製)で蛍光強度を測定した(FL1チャネル,530nm,アメーバ数が10,000に達した時点で終了とした).II結果1.生存性に及ぼす影響apo-bLF,リゾチームおよびムチン処理におけるアカントアメーバの生存率を図1に示した.これによると,apo-bLF30μMの場合,60分後の生存率は6.33±0.58%となり未処理(Control)に比べて有意に低下した(p<0.01)ことから,apo-bLFの非常に高い抗アカントアメーバ活性が認められた.また,リゾチーム130μMでは,60分後の生存率は47.67±10.69%となり,約半数のアカントアメーバは死滅した.さらに,apo-bLFおよびリゾチームが共存した場合,60分後の生存率は4.67±4.62%となりapo-bLF単独と比べて有意差はなかったものの,それぞれ単独での処理よりも生存率は低い傾向であり,相加的な抗アカントアメーバ活性を示した.しかし,apo-bLF,リゾチームおよびムチンが共存した場合,生存率は16.00±9.54%となり,抗アカントアメーバ活性はわずかに低下傾向を示した.ついでapo-bLF,リゾチームおよびムチン処理によるアメーバの形態に及ぼす影響を観察した(図2).これによると,アメーバの形態はいずれの処理においても死細胞の90(88) %以上が不定形であり,LF,リゾチームおよびムチンがアメーバの形態変化に影響を与えることはほとんどなかった.2.細胞膜電位に及ぼす影響蛍光色素のDiBAC4(3)を用いてLFの細胞膜電位に及ぼす影響を検討した.この蛍光色素は,図3のように細胞膜が脱分極することで色素がアメーバ内に入り込み,蛍光強度が増加する.DiBAC4(3)を用いたフローサイトメトリーでの細胞膜電位の変動をヒストグラムで示した(図4).これによると,加熱処理(80℃,30分)のピークは,Controlのピークと比べて103付近にシフトし蛍光強度が増加したことから,アカントアメーバの脱分極が認められた.apo-bLFの場合,加熱処理と同様にピークシフトは103付近であり,蛍光強度が増加し,脱分極を生じた.また,リゾチームにおいても蛍光強度の増加は認められたが,ピークは102付近であり,完全な脱分極にまでは至らなかった.さらに,apo-bLFおよびリゾチームの共存では,それぞれ単独で処理した場合よりもDiBAC4(3)の取り込み量は増加し,蛍光強度は増加した.しかし,apo-bLF,リゾチームおよびムチンが共存した場合,ピークは102および103付近に分かれ,蛍光強度は低下した.III考察アカントアメーバ栄養体に対するLFの抗アメーバ活性は,apo-bLF30μMで高い活性を示し,栄養体がシスト化することなく死滅した.また,抗アメーバ活性はリゾチームとの共存で相加作用が認められた.同時に,アメーバ細胞膜はapo-bLFによって脱分極し,その程度はリゾチームの共に高い抗アカントアメーバ活性とともに,鉄キレート作用以外の静電的なアメーバ細胞膜への直接作用も示した8,9).さらに,LFは細胞膜からリポ多糖(LPS)の遊離を引き起こし,細胞膜を損傷することで細胞死を導く機序も報告されている.たとえば,Yamauchiら10)は,bLFがEscherichiacoliCL991-2のLPSを遊離させることを確認し,ヒトリゾチームによるグラム陰性菌の死滅率が増加したと報告している.また,Ellisonら11)は,ヒトLFがE.coli5448の膜透過性に影響を与えるだけでなく,LPSに直接結合することで抗菌活性に関与していることを示し,LFとリゾチームが相乗的にグラム陰性菌を死滅させることを報告している.すなわち,グラム陰性菌に対するLFの抗菌活性は,リゾチームによって増強される細胞膜への直接的な影響が示されている.本研究でも,アカントアメーバ栄養体の細胞膜電位は,apo-bLF処理において大きく変動し,脱分極を生じた.さらにリゾチームの共存によって,細胞膜の脱分極は増大した.このことから,LFが鉄のキレートのみではなく,LF.100800存在比(%)604020存下でさらに増大することが明らかとなった.しかし,これらの抗アメーバ活性は,ムチンが共存することによりわずかな低下傾向を示した.このLFの抗アメーバ活性は静電的な機序が推測される.従来,LFの抗微生物活性は,微生物の増殖に必須な鉄をキレート化し,増殖環境を鉄欠乏状態にすることで発揮され図2apo.bLF,リゾチームおよびムチン共存下におけると考えられてきた.しかし,筆者らがすでに報告したトリるAcanthamoebasp.AA014細胞の形態:不定形死細胞,パンブルー法およびLogreduction法を用いたapo-bLFの:不定形生細胞,:球形生細胞,:球形死細胞.抗アカントアメーバ活性の検討において,apo-bLFは非常処理時間:60分Ⅰ-AⅠ-BⅡ-AⅡ-B図3apo.bLF処理におけるAcanthamoebasp.AA014のDiBAC4(3)染色性I:Control,II:apo-bLF30μM.A:位相差顕微鏡,B:蛍光顕微鏡.観察条件:励起480nm,蛍光530nm,Bar=20μm.(89)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015553 100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103104100FL1-H200Events0101102103104100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103ABCDEF100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103104100FL1-H200Events0101102103104100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103ABCDEF図4apo.bLF,リゾチームおよびムチン共存下におけるAcanthamoebasp.AA014のDiBAC4(3)の取り込みによる蛍光強度の変動A:Control,B:加熱(80℃,30分),C:apo-bLF30μM,D:リゾチーム130μM,E:apo-bLF+リゾチーム,F:apo-bLF+リゾチーム+ムチン0.2mg/mL.処理時間:60分.アメーバ間の静電的な相互作用によって,アメーバ細胞膜の脱分極および膜損傷を引き起こしていることが明らかとなった.一方,リゾチーム130μM単独での処理でも,apo-bLFほどではないが,抗アカントアメーバ活性が認められた.リゾチームは,細菌細胞壁のペプチドグリカン成分であるNアセチルムラミン酸およびN-アセチルグルコサミン間のb-1,4結合を加水分解することで抗菌活性を示す.LeonSicairosら12)による報告では,リゾチームが赤痢アメーバ栄養体に対して抗アメーバ活性を示すことから,アメーバ細胞膜には細菌のペプチドグリカンと類似の成分を有している可能性を示唆している.このLFおよびリゾチームの抗アメーバ活性がムチンで阻害傾向を示したことにも静電的な機序が関与していると推測される.塩基性蛋白質であるLFおよびリゾチームは,反応系中では正に帯電しており,負に帯電している細胞膜と静電的に相互作用している.そのため,塩基性蛋白質であるapo-bLFおよびリゾチームの共存は,アメーバ細胞膜への静電的な相互作用を大きくしたと考えられる.一方,ムチン分子は糖鎖非還元末端のN-アセチルノイラミン酸によって分子表面が負に帯電している.したがって,正電荷を有するapo-bLFやリゾチームと,負電荷を有するムチンが共存することにより,それらが静電的に相互作用し合い,apo-bLFやリゾチームの細胞膜への相互作用が弱まったと考えられる.実験に用いた各種蛋白質の濃度は,既報5.7)に基づいて設定し,ウシ顎下腺ムチンのN-アセチルノイラミン酸含有量は9.17%であった.ムチンは250kDa以上の分子量でその50%以上が糖鎖によるものであるが,涙液ムチンのN-アセチルノイラミン酸の含有量は明確ではない.このようなことから,今回の結果が臨床症例の炎症状態の眼表面や涙が付着したソフトコンタクトレンズにおいて,どのように反映されているかは不明であるが,実際の臨床現場でも,涙液中のLF,リゾチーム,ムチンが互いに関与していると考えられる.しかし,本研究から,apo-bLFがアカントアメーバ栄養体に対して高い抗アメーバ活性を有することは明らかであり,アカントアメーバ角膜炎の予防や治療における応用の可能性が示唆される.今後は,臨床的に問題となるシスト体に対するLFの作用およびLFとリゾチーム,ムチンの相互作用について検討する予定である.最後に,アメーバを分譲していただいた大阪大学感染制御部浅利誠志先生ならびに砂田淳子先生に感謝申し上げます.また,bLFを提供していただいた森永乳業株式会社食品基盤研究所山内恒治博士ならびに若林裕之博士に感謝申し上げます.利益相反:野町美弥(カテゴリーE:(株)メニコン),今安正樹(カテゴリーE:(株)メニコン)554あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(90) 文献1)MaP,VisvesvaraGS,MartinezAJetal:NaegleriaandAcanthamoebainfections:review.RevInfectDis12:490513,19902)YokogawaH,KobayashiA,YamazakiNetal:Bowman’slayerencystmentincasesofpersistentAcanthamoebakeratitis.ClinOphthalmol6:1245-1251,20123)冨田信一,魚谷孝之,高野真未ほか:ラクトフェリンによるHartmannella細胞の増殖抑制作用.ラクトフェリン2009:137-141,20094)堀裕一:涙液層にかかわる眼組織と涙液層の層別機能.専門医のための眼科診療クオリファイ19ドライアイスペシャリストへの道(横井則彦編),p34-37,中山書店,20135)KijlstraA,JeurissenSHM,KoningKM:Lactoferrinlevelsinnormalhumantears.BrJOpthalmol67:199-202,19836)砂田順,松尾信彦,藤井洋子ほか:シェーグレン病における涙液および唾液リゾチーム濃度の研究.眼臨80:816819,19867)中村葉,横井則彦,徳重秀樹ほか:健常者における涙液中のシアル酸測定.日眼会誌104:621-625,20008)冨田信一,長谷川祥太,魚谷孝之ほか:ラクトフェリンのアカントアメーバ臨床株における抗アメーバ活性.ラクトフェリン2011:35-40,20119)冨田信一,鈴木智恵,野町美弥ほか:Logreduction法によるラクトフェリンの抗アカントアメーバ活性の評価.ラクトフェリン2013:115-120,201310)YamauchiK,TomitaM,GiehlTJetal:Antibacterialactivityoflactoferrinandapepsin-derivedlactoferrinpeptidefragment.InfectImmun61:719-728,199311)EllisonRT,GiehlTJ:Killingofgram-negativebacteriabylactoferrinandlysozyme.JClinInvest88:1080-1091,199312)Leon-SicairosN,Lopez-SotoF,Reyes-LopezMetal:Amoebicidalactivityofmilk,apo-lactoferrin,sIgAandlysozyme.ClinMedRes4:106-113,2006***(91)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015555

薬物粒子径変更に伴うブリンゾラミド懸濁性点眼液の眼内薬物移行性評価

2015年4月30日 木曜日

《第34回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科32(4):545.549,2015c薬物粒子径変更に伴うブリンゾラミド懸濁性点眼液の眼内薬物移行性評価長井紀章*1真野裕*1松平有加*1山岡咲絵*1吉岡千晶*1伊藤吉將*1岡本紀夫*2下村嘉一*2*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2近畿大学医学部眼科学教室NanosizingoftheParticleinBrinzolamideOphthalmicSuspensionEnhancesItsIntraocularPenetrationNoriakiNagai1),YuMano1),YukaMatsuhira1),SakieYamaoka1),ChiakiYoshioka1),YoshimasaIto1)Okamoto2)andYoshikazuShimomura2),Norio1)FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversitySchoolofMedicine本研究では,市販緑内障治療薬である炭酸脱水酵素阻害薬ブリンゾラミド(BLZ)懸濁性点眼液の薬物粒子径変更に伴う眼内薬物移行性について検討を行った.市販BLZ懸濁性点眼液(エイゾプトR)の薬物粒子微細化には,ビーズミルによる水中破砕法を用いた.市販BLZ懸濁性点眼液の平均粒子径は7.05±0.416μmであったが,ビーズミル法を用いることで,平均粒子径0.423±0.221μmまで微細化でき,ナノオーダーの粒子径を有するBLZ分散液が調製できた(Milled-BLZ分散液).これらMilled-BLZ分散液の眼内薬物移行性について評価したところ,薬物粒子径をナノオーダーにしたことで主薬の角膜透過性および薬物網膜到達量が有意に向上した.以上,微細化によりBLZ懸濁性点眼液の眼内薬物移行性が高まることが明らかとなった.本研究は,点眼用懸濁液の製剤設計およびバイオアベイラビリティー向上につながるものと考えられる.Inthisstudy,weinvestigatedtheeffectofparticlesizeinbrinzolamide(BLZ)ophthalmicsuspensionontheintraocularpenetrationofthedrug.AsuspensioncontainingBLZnanoparticles(BLZNPssuspension;particlesize:0.423±0.221μm)waspreparedbyuseofthebeadmillmethod.Next,theBLZNPssuspensionandanon-milledBLZsuspension(particlesize:7.05±0.416μm),respectively,wereinstilledinrateyes,andintraocularpenetrationofthedrugwasthenanalyzed.ThecornealpenetrationofBLZfromtheBLZNPssuspensionwasfoundtobesignificantlyhigherthanthatinthenon-milledBLZsuspension.Inaddition,theamountofBLZintheretinasofeyesinstilledwiththeBLZNPssuspensionwasapproximately2-foldhigherthanthatintheretinasofeyesinstilledwiththenon-milledBLZsuspension.TheseresultssuggestthatthenanosizingoftheparticleinBLZophthalmicsuspensionenhancestheintraocularpenetrationofthedrug,andthatanoculardrugdeliverysystemusingnanoparticlesmayexpandtheirusagefortherapyinthefieldofophthalmology.Thefindingsofthisstudyprovideimportantinformationthatshouldproveusefulfordesigningfurtherstudiestodevelopanti-glaucomadrugs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):545.549,2015〕Keywords:ブリンゾラミド,粒子径,ビーズミル,薬物眼内移行性,エイゾプトR.brinzolamide,particlesize,beadmill,drugintraocularpenetration,AzoptRophthalmicsuspension.はじめにであり,現在臨床現場ではb遮断薬,プロスタグランジン緑内障は,眼圧上昇により視神経・網膜が圧迫され,その製剤,炭酸脱水酵素阻害薬,選択的交感神経a1遮断薬,a,結果視神経障害がみられる眼疾患であり,先進国において失b受容体遮断薬,副交感神経作動薬など,異なる作用機序を明の第一要因である.この緑内障治療の第一選択は薬物療法有する緑内障治療薬の単剤または併用使用が行われている.〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(81)545 これら緑内障治療薬の一つである炭酸脱水酵素阻害薬の眼圧下降機序は,毛様体無色素上皮細胞においてH2O+CO2.H2CO3.H++HCO3.の反応を触媒している炭酸脱水酵素(carbonicanhydraseII)の働きを阻害し,HCO3.の生成を抑制することにより,Na+の能動輸送機構を抑え,その結果房水産生が抑制されるというものである.さらに,点眼により網膜や脈絡膜へ薬物が移行した際には,網膜のMuller細胞や網膜色素上皮細胞,脈絡膜毛細血管に存在する炭酸脱水酵素を阻害し網膜血流が増加するなど,眼圧下降作用のほかに眼循環に好影響を与える可能性が示唆されている1.3).一方,炭酸脱水酵素阻害薬点眼により網膜血流を高めるためには,血管拡張をきたすほどの十分な薬物濃度を網膜へ供給する必要があり1.5),現場では炭酸脱水酵素阻害薬の眼内移行性を高めることが期待されている.点眼薬の眼内移行性を高める方法として,粘稠化剤により薬物の結膜.内滞留性を向上させる手法が知られている.しかし,粘稠化剤により滞留性を高めただけでは網膜などの眼後部への到達はわずかである.一方,筆者らは近年“医薬品ナノ結晶点眼製剤”を提案し,点眼液中の薬物粒子サイズをナノオーダーにすることで角膜透過性や結膜からの体内移行性が飛躍期に上昇することを見出し報告している6).したがって,懸濁点眼薬の薬物粒子径をナノオーダーにすることでバイオアベイラビリティ向上が期待される.本研究では,市販緑内障治療薬である炭酸脱水酵素阻害薬ブリンゾラミド(BLZ)懸濁性点眼液の薬物粒子径変更に伴う眼内薬物移行性について検討を行った.I対象および方法1.実験動物実験には日本白色種雄性ウサギ(2.3kg)および雄性Wistarラット(7週齢)を用いた.これら実験動物は25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,CR-3,日本クレア)および水は自由に摂取させた.また,動物実験は近畿大学実験動物規定に従い行った.2.ビーズミル法によるブリンゾラミド懸濁液破砕処理市販緑内障治療薬BLZ懸濁性点眼液1%(エイゾプトR懸濁性点眼液1%,日本アルコン)の薬物粒子微細化は,直径0.1mmのジルコニアビーズおよびBeadSmash12(和研薬社製)を用いた水中破砕法(ビーズミル法)にて行い,BeadSmash12による破砕条件は冷却下(4℃)5,500rpmにて30sec×20回とした6).得られた分散液中BLZ濃度は0.91%であり(ビーズやチューブへの吸着率9%),分散液中のBLZ濃度を生理食塩水にて0.8%に調製したものを本研究ではMilled-BLZ分散液とした.また,BLZ懸濁性点眼液を生理食塩水にて0.8%に調製したものをBLZ分散液として用いた.薬物粒子径の測定はナノ粒子径分布測定装置SALD-546あたらしい眼科Vol.32,No.4,20157100(島津製作所)にて行い,平均値および標準偏差は内蔵の解析ソフトで算出した(屈折率1.95.0.05i).3.HPLC法によるBLZの定量試料40μlに,氷冷した0.1μg/mlp-オキシ安息香酸メチル(内標準物質,MeOHにて溶解)80μlを加え,この液をクロマトディスク4A(0.45μm,クラボウ)で濾過後高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に注入した.HPLC装置はLC-20AT(島津製作所)を使用した.カラムは,InertsilRODS-3(3μm2.1×50mm,ジーエルサイエンス)を用い,室温にて移動相(リン酸カリウム/アセトニトリル,80/20)で平衡化した.移動相の流速は0.25ml/minとし,255nmの紫外部吸収を測定した.4.Invitroウサギ角膜薬物透過実験実験にはメタアクリル樹脂製角膜透過セルを使用した6).日本白色種雄性ウサギをペントバルビタール(東京化成工業社製)過剰投与により安楽死後,眼球を摘出し,生理食塩水で洗浄した.角膜は,眼球後部の視神経の部位よりハサミを入れ,強膜部位を1.2mm残し切り取った.この角膜を角膜透過セルに装着し,リザーバー側(房水側)にリザーバー液としてHEPES(+Glc)緩衝液(10mMHEPES,136.2mMNaCl,5.3mMKCl,1.0mMK2HPO4,1.7mMCaCl2・2H2O,5.5mMGlucose,pH7.4)を3.0ml注加した.ドナー側(涙液側)にはBLZあるいはMilled-BLZ分散液を3.0ml注加した.角膜透過セルは,恒温槽中で35oCに保った.BLZ透過量は,リザーバー液を経時的に50μlずつ採取し,上記HPLC法により測定した.得られたデータは,次式に従い,非線形最小二乗法コンピュータプログラムMULTIを用いて当てはめ計算を行い,速度論的パラメータの算出を行った.t=d26D(1)JC=Km・D・CBLZ=KpCBLZd(2)Qt=Jc・A・(t.t)(3)ここで,JcはBLZの透過速度,Kmは角膜/製剤の分配係数,Dは角膜内での拡散係数,tlagはラグタイム,dは角膜の厚さ(平均0.0625cm),Aは用いた角膜の有効角膜面積(0.78cm2),Qはt時間にリザーバー側に透過した積算薬物量,CBLZはBLZ分散液中のBLZ濃度である.JCおよびtは(3)式に当てはめ算出した.角膜透過係数KpはJc/CBLZから算出した6).5.Invivoウサギ眼内薬物移行実験日本白色種雄性ウサギに,耳静脈よりペントバルビタール(0.6ml/kg)を投与し全身麻酔した.麻酔後,眼球に局所麻酔薬0.4%ベノキシール液を点眼し,マイクロシリンジで(82) ファイコンチューブ(0.5-1.0,冨士システムズ)と連結した29ゲージ注射針を角膜近傍の強膜部分より前眼房に挿入することによりカニューレを装着した.その後,片眼にBLZまたはMilled-BLZ分散液40μlを点眼し,定めた時間間隔でカニューレより房水を5μlずつ採取し,房水中BLZ濃度を上記HPLC法により測定した(図1).また,得られたデータから台形法を用い房水中BLZ濃度-時間曲線下面積(areaundertheBLZconcentration-timecurve:AUC)を算出した6).6.網膜中薬物到達量の測定BLZまたはMilled-BLZ分散液をWistarラットに点眼し,点眼1時間後にペントバルビタール(東京化成工業)を過剰投与することで安楽死させた.その後,眼球を摘出し,網膜を回収した.網膜中BLZ量は上記HPLC法にて測定した.7.統計解析データは,平均値±標準誤差(SE)として表した.各々の実験値の解析にはStudentのt-testを用い,p値が0.05以下を有意差ありとした.II結果1.ビーズミル処理に伴う市販BLZ懸濁液の薬物粒子径変化図2はBLZおよびMilled-BLZの粒度分布曲線を示す.BLZ分散液の平均粒子径は7.09±0.413μmであり,市販BLZ懸濁性点眼液1%の平均粒子径と比較し差はみられなかった(7.05±0.416μm,平均値±標準偏差).一方,MilledBLZ分散液の平均粒子径は0.423±0.221μmと,ナノオーダーまでBLZの粒子を微細化することが可能であった.2.BLZ懸濁液中薬物粒子径の違いが眼内薬物移行性に与える影響図3はBLZおよびMilled-BLZ分散液のinvitroウサギ角膜透過性を,表1は図3中のデータから算出した速度論的パラメータを示す.両分散液ともに実験開始1時間後から薬物図1Invivoウサギ眼内薬物移行実験操作写真Cumulativedistribution(%)Cumulativedistribution(%)8015601040520000.010.050.10.5151050100500Particlediameter(μm)10020100A:BLZsuspensions20Frequency(%)Frequency(%)80B:Milled-BLZsuspensions15601040520000.010.050.10.5151050100500Particlediameter(μm)図2BLZおよびMilled.BLZ分散液における粒度分布薬物粒子径はナノ粒子径分布測定装置SALD-7100にて測定した.実線は相対粒子量の頻度を,点線は相対粒子量の積算を示す.(83)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015547 の角膜透過が認められたが,粒子径の違いによる差はみられなかった.図4はBLZおよびMilled-BLZ分散液のinvivoウサギ角膜透過性について示す.Invitroウサギ角膜透過実験の結果と異なり,Milled-BLZ分散液処理群のラグタイム(t)は,BLZ処理群のそれより低かった.また,MilledBLZ分散液処理群のAUCは,BLZ処理群のそれの2倍高値であった(AUC,BLZ71±12,Milled-BLZ分散液142±4,μM・min,平均値±SE,n=6).図5にはBLZおよびMilledBLZ分散液点眼後の網膜中薬物含量を示す.Milled-BLZ分散液点眼1時間後の網膜中BLZ濃度は,BLZ分散液点眼後0120BLZconcentration(μM)80160100401406020:BLZsuspensions:Milled-BLZsuspensions0123456のそれと比較し有意に高かった.III考按炭酸脱水酵素阻害薬の点眼は眼圧降下作用だけでなく,網膜血流の改善効果が期待できる.本研究では,炭酸脱水酵素阻害薬であるBLZ懸濁性点眼液を用い,薬物粒子径変更に伴う眼内薬物移行性改善効果について検討を行った.まず初めに,ビーズミル法を用い市販BLZ懸濁性点眼液の薬物粒子微細化を試みた(図2).その結果,平均粒子径7.05±0.416μmであった市販BLZ懸濁性点眼液を,平均粒子径0.423±0.221μmとナノオーダーまで微細化することに成功した.一方,BLZ分散液中薬物濃度を測定したところ,破砕処理過程で使用したチューブやジルコニアビーズへの薬物の付着により,破砕処理前には1%であったBLZが破砕処理後には0.91%と減少が認められた.このため,本研究では生理食塩水にて0.8%に濃度調製した市販BLZ懸濁性点眼液(BLZ分散液)およびビーズミル法にて破砕後のBLZ懸濁液(Milled-BLZ分散液,0.8%)を比較検討に用いた.Invitroウサギ角膜透過実験にて,BLZおよびMilledBLZ分散液の角膜透過性を検討したところ,両分散液間で差はみられなかった(図3および表1).これらinvitroウサTime(h)図3BLZおよびMilled.BLZ分散液におけるinvitroギ角膜透過実験はドナー側(涙液側)にBLZあるいは角膜透過性(ウサギ)Milled-BLZ分散液を用いており,薬物の溶解を促進する因平均値±標準誤差,n=6羽6眼,n.s.(notsignificant).子である涙液がなく,角膜表面において薬物の供給が十分に表1Invitroウサギ角膜透過法におけるBLZおよびMilled.BLZ点眼液の速度論的パラメータJc(nmol/cm2/h)Kp(×10.4cm/h)Kmt(min)D(×10.5cm2/h)BLZ1.41±0.270.77±0.140.45±0.0960.7±1.01.07±0.02Milled-BLZ1.52±0.110.83±0.060.52±0.0765.1±5.71.02±0.08速度論的パラメータは式(1).(3)を用いて算出した.平均値±標準誤差,n=6.040103040506070BLZconcentration(μM)26351:BLZsuspensions:Milled-BLZsuspensions******BLZconcentration(nmol/g)*1612840BLZMilled-BLZsuspensionssuspensions20Time(min)図5BLZおよびMilled.BLZ分散液における薬物図4BLZおよびMilled.BLZ分散液におけるinvivo網膜移行性(ラット)角膜透過性(ウサギ)網膜は薬物点眼1時間後に回収した.平均値±標準誤平均値±標準誤差,n=6羽6眼,*p<0.05,vs.BLZsus-差,n=6羽6眼,*p<0.05,vs.BLZsuspensionspensions(Student’st-test).(Student’st-test).548あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(84) 満たされている条件下での薬物透過性を評価する方法である.したがって,本結果から瞬目などにより涙液代謝がみられない系では,粒子径の違いによる薬物の透過性に差はみられないことが明らかとなった.また,両分散液ともに角膜表面で溶解したBLZが角膜内部へ取り込まれ眼内へ移行することが示唆された.一方,これらinvitroウサギ角膜透過実験の結果と異なり,invivoウサギ角膜透過性実験では,Milled-BLZ分散液処理群のラグタイム(t)は,BLZ処理群のそれより低く,Milled-BLZ分散液処理群のAUCは,BLZ処理群のそれの2倍高値であった(図4).さらに,Milled-BLZ分散液点眼1時間後の網膜中BLZ濃度は,BLZ分散液点眼後のそれと比較し有意に高かった(図5).一般に,粒子径が小さいほど比表面積が高まり,薬物の溶解速度が高まることが知られている.本結果においても薬物粒子径の小さいMilled-BLZ分散液中のBLZ結晶はBLZ分散液中の結晶と比較し,点眼後涙液により速やかに溶解されるものと考えられる.これら角膜表面での溶解速度の向上は角膜内への薬物供給量の増加につながり,その結果Milled-BLZ分散液点眼時のtの短縮や眼房水および網膜への薬物到達濃度の増加がみられるものと示唆された.BLZ懸濁性点眼液と網膜血流改善に関してはこれまで多くの報告がなされている.Barnesら1)は家兎に7日間連続してBLZを点眼した際,視神経乳頭部血流が約10%増加したと報告している.また,ヒトに関する報告では,正常眼圧緑内障患者を対象とし,BLZを2週間連続点眼することで,網膜中心動脈で最低流速の上昇,末梢血管抵抗の低下がみられることを江見ら2)が示している.さらに,前田ら3)は,BLZは緑内障眼において,神経乳頭辺縁部および傍乳頭網膜組織血流を増加させることを報告している.一方,BLZ点眼後においても網膜血流改善がみられないとの報告もされており4,5),これら異なる結果の仮説として,BLZ点眼後の組織内CO2濃度が血管拡張をきたすレベルに達するかどうかが一つのキーとして考えられている.このように,BLZによる眼圧と網膜循環血流を同時標的とした治療には,十分な薬物量を網膜まで到達させることが必要である.本研究では,市販BLZ懸濁性点眼液の薬物粒子径を変更することで網膜への薬物到達濃度が増加することを明らかとした.これら粒子径を中心とした処方変更は今後の緑内障治療にきわめて有用であると考えられる.一方,市販点眼製剤を用いた今回の系では計20回ものビーズミル破砕処理が必要であり,より効率的な調製法の確立は今後の薬物への応用において重要な課題である.しかし,筆者らはすでにより破砕に適した添加物(デキストリンやセルロース系化合物など)を選択することで効果的かつ効率的な薬物破砕が可能であることを見出し報告している6).したがって,今後これらの添加物を用い,ナノオーダーの薬剤生成法の改良を試みる予定である.以上,本研究ではビーズミル法を用い市販BLZ懸濁性点眼液の薬物微細化を行うことにより,主薬の角膜透過性および薬物網膜到達量が向上すること見出した.本研究は,点眼用懸濁液の製剤設計およびバイオアベイラビリティ向上につながるものと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BarnesGE,LiB,DeanTetal:Increasedopticnerveheadbloodflowafter1weekoftwicedailytopicalbrinzolamidetreatmentinDutch-beltedrabbits.SurvOphthalmol44:S131-140,20002)江見和雄:正常眼圧緑内障におけるブリンゾラミドの眼血流に対する効果.あたらしい眼科21:535-538,20043)前田祥恵,今野伸介,清水美穂ほか:緑内障眼における1%ブリンゾラミド点眼の視神経乳頭および傍乳頭網膜血流に及ぼす影響.あたらしい眼科22:529-532,20054)前田祥恵,今野伸介,大塚賢二:ブリンゾラミド1回点眼の正常人傍乳頭網膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科21:271-274,20045)SampaolesiJ,TosiJ,DarchukVetal:Antiglaucomatousdrugseffectsonopticnerveheadflow:design,baselineandpreliminaryreport.IntOphthalmol23:359-367,20016)NagaiN,ItoY,OkamotoNetal:Ananoparticleformulationreducesthecornealtoxicityofindomethacineyedropsandenhancesitscornealpermeability.Toxicology319:53-62,2014***(85)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015549

My boom 39.

2015年4月30日 木曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第39回「菅原岳史」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第39回「菅原岳史」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介菅原岳史(すがわら・たけし)千葉大学大学院医学研究院眼科学以前,帰省先の田舎で小4男児が,家庭用打ち上げ花火が点火しないためにのぞきこみ,顔面直撃,救急搬送されました.両目の間が撃ちぬかれ,髪は焼けただれ,皮膚は火傷,角膜には無数の火薬が残存,一晩中麻酔され,両角膜異物除去を施行.翌日まで両眼帯でした.少年は,育ててくれた親への罪悪感,人生の喪失感を味わったそうです.私は日眼雑誌の談話室に「PMDAとレギュラトリーサイエンス」で何度か投稿しているのでご存知の方もいると思われますが,厚労省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に2年半在籍し,その後は千葉大学臨床試験部に異動したので,眼科医は通常経験しないことを多数経験しております.筑波大学の加治先生からのバトンを受け,薬事目線で記載します.興味を抱いてくれる眼科医がいれば,ぜひご連絡をお願いします.Letitgo的なmyboom現在,眼科の枠を超え,千葉大のみならず国家行政案件に関与しており,PMDA遠征?帰りというだけで,貴重なキャリアと人脈が増え続けております.相手をリスペクトし,理解しつつ,言いたいことは伝える,ありのまま的なmyboomをしているだけですが.グローバル的なmyboom世界眼科学会(WOC2014)時に日本を訪問されたFDAデバイス部門(眼科・耳鼻科)長官のMalvina先生(澤先生らとの宴席,写真1)と各国規制当局によるセミナーを実施,PMDAにも招いてセミナーをしても(63)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYらいました.WOCにはミシガン大学時代のボスであるSieving先生(現NIE長官)と奥様も来ていたので,スカイツリーの下でミシガン会(近藤&町田先生同席,写真2)をしました.今でも英語を使う機会は少なくないので,英語を使う2週間前から,「3倍速の英会話テープ」聴きまくりで英語スイッチ入れ,ゾーンに入るようにしているのが,以前からの英会話的なmyboomです.アカデミア的なmyboom眼科と二足の草鞋ですが,臨床試験部の業務はPMDAとはまったく異なっており,新鮮です.各科のプロトコールを見て,本質的に直させるのが主たる業務です.コピペ・一夜漬けで皆さん作成してきますが,プロトコール作成スキルはPMDAに数年いないと得られません.一流企業ですらプロトコール作成には何カ月もかかっており,それでもPMDA側にかなり修正させられます.プロトコール作成に関しては,2013年および2014年の日本臨床眼科学会インストラクションコース,千葉大学,東北大学および慶應大学の一部スタッフ,さらに神戸の臨床研究情報センター(TRI)で勉強会をいたしました.呼んでいただければ全国どこにでも講義に行きます.一般臨床医的にはまったく知らない,開発の世界を啓発する活動です.レギュラトリーサイエンス的なmyboomレギュラトリーサイエンスには二つの面があります.一つは承認審査上のモノサシです.開発はp値では決められず,左右するのは意義です.イメージとして,左が承認で,右が不可のシーソーとすると,左に倒して承認した科学的な判断の経緯を,シーソーに乗せた要因(さまざまな意義)を根拠として説明することです.レギュラトリーには,規制,調整,審査などの意味がありますので,社会を見据えた行政科学(判断材料)ともいえます.もう一方は哲学です.このレギュラトリーサイエンスあたらしい眼科Vol.32,No.4,2015527 写真1FDAのMalvina先生を囲んで世界眼科学会(WOC2014)に来日されたFDA(米国規制当局)の眼科デバイス部門長官,マルビーナ先生と夕食会.哲学はmyboomです.そもそも,わが国における臨床試験は空浮かぶサーキットのように,一般道を走れない治療法(DRUG,DEVICE)に対する研究が永遠に回り続けます.つまり,選ばれた学会サーキットを走り続けることだけでも業績は上がり研究費も獲得しますが,国民の利益に還元されず,実用化しない研究が目立つという解釈です.なぜそうなのかというと,それは薬事というカラクリを知らないからです.レギュラトリーサイエンス哲学で考えると,患者さんへの実用化への出口目線でロードマップを描き,研究プロジェクトを立ち上げ,PMDAと相談し,品質,非臨床,PI,PII,PIII,申請承認で,新しい最良の医療を真に届けられるのです.医学教育過程で薬事を習わなかった影響か,シーズ数は世界トップクラスでも,臨床応用数では激減し,改善傾向がありません.大多数の疾患領域でそうです.一方,わが国でも悪性腫瘍や循環器領域は進んでおり,学会として実用化するための術を知っています.遅れている分野の臨床研究医師が,どうやって実用化をみすえた研究をするのかには,レギュラトリーサイエンス哲学を学ぶ必要があります.僕を呼んでもらえば全国どこにでもレギュラトリーサイエンスの講義に行けます.講演的なmyboomです.ベタ,バカッコイイ的なmyboom仕事は忙しいですが,今が一番ハッピーです.いつの時代も,自分は今が一番.とくに,日本のために,大勢の患者のために,何かできるのは楽しいです.厳しい職場で仕事していても,すこしも寒くないわ♪ですね.罪悪感と喪失感のあと,どうやって生き抜くか2日間考え,幸運なことに失明しませんでした.冒頭の花火事故のおバカさんは僕自身ですが,あの時の後悔と恐怖を超える思いは,いまだに未経験です.絶望の中,どうしたら見えなくても生き抜けるか,必死で考えた2写真2米国留学時代のボスPaulSieving先生を囲んで世界眼科学会(WOC2014)に来日されたNIHの現NEI長官であるポール先生との夕食会.日間でした.千葉大眼科の治験で,最終来院日の網膜色素変性の女性患者さんに,「本当に治るようになるクスリができるのですか?私が治らないのはわかっています.」と言われぼう然,翌年の3月11日に東日本大震災が起こり,岩手医大の黒坂教授や大関先生に頼んでボランティアに駆けつけ,絶望の中で生き抜こうとしている子供たちの姿を見ました.千葉大眼科教授の山本先生にPMDAに行けといわれたのは数日後,大変な職場だったけど,行ってよかった.眼科学会の著名な先生方と親しくなりましたし,PMDA内で気が合う仲間数名と出会って,いつのまにか忘れかけていた,大事なスイッチが再び入りました.目が見えない不安をわずかな時間でも味わった者として,眼科をはじめ日本の臨床研究をレギュラトリーサイエンス哲学で実用化に導くため,ギアセカンドに入ります.貫くには,どこまでもブッ飛んでないと,限りなくポジティブじゃないと,世界は変えられません.両眼帯で車椅子の10歳のときですら,ネガティブにならないように必死で考えたのですから,ベタでバカッコイイ的な姿勢を,ブレることなく貫いて,先生たちの研究を実用化へ導くように牽引したいものです.レギュラトリーサイエンスの業界にも,myboom押し続けてくれる仲間が何人もいるから,これからも声を出して行きます.次のプレゼンターは,慶應義塾大学出身で東京歯科大学市川病院から,現在,厚生労働省に在籍中の許斐健二先生です.僕の大事な仲間の一人です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.528あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(64)