特集●眼鏡の最近の話題あたらしい眼科30(8):1101~1107,2013特集●眼鏡の最近の話題あたらしい眼科30(8):1101~1107,2013学校での眼外傷とスポーツ用眼鏡EyeInjuryandSportsEyewearinSchool宇津見義一*はじめに眼は情報の80%を得ているといわれているが,学校現場のみならず一般のアスリートたちにとってスポーツ眼外傷が生じた場合に失明など取り返しのつかないことも少なくない.スポーツ用眼鏡は視力矯正ばかりでなく,見やすさの改善のほか保護目的の役割がある.米国眼科学会はスポーツ眼外傷の90%は適切なアイプロテクターで防ぐことができるため,アイプロテクターの使用を強く推奨している1).スポーツ用眼鏡は子どもたちからプロのアスリートまで多くの目的で使用されているが,眼科医はどのようなスポーツ用眼鏡が適切であるか判断しなければならない.今回,学校での眼外傷の実際と一般での状況との比較,そして,スポーツ用眼鏡について述べる.I学校での外傷1.スポーツ災害給付制度独立行政法人日本スポーツ振興センター(JapanSportCouncil:JSC)では,義務教育諸学校,高等学校,高等専門学校,幼稚園および保育所の管理下における災害に対して,災害共済給付を行っている.災害共済給付制度は学校の管理下で生じた負傷,疾病,障害,死亡などの災害に対して,JSCと学校の設置者,児童生徒の保護者間の契約により,児童生徒などの災害に対して医療費,障害見舞金,死亡見舞金などの災害給付が行われる制度である.その運営経費は国,学校の設置者,保護者の3者が分担する互助制度の性格をもつ共済制度である.2.学校での外傷学校における外傷に係わる災害状況としてJSCの平成18年度の全国統計結果とその対応を述べる2~5).a.被災率と障害の発生件数学校での外傷の被災率は,軽度な疾病を含め年々増加しており,中学校が最も多く,高校が最も少なかった(図1).しかし,障害の発生件数は重症例を含め徐々に減少している.これまでは高校がやや多いが,平成18年では小中高校で差は少ない(図2).b.負傷の男女差負傷の男女差は,全体では男性が多く,男性は小学校が62.3%,中学校が62.1%,高校が65.4%であり,高校が最も多い(図3).c.負傷における部位別発生率負傷における部位別発生率では,顔部(眼部)は,幼稚園が46.8%(11.4%),小学校が23.9%(8.9%),中学校が13.6%(7.4%),高校が13.1%(5.0%)であり,成長とともに発生率が低下している(図4).成長により心身の危険を避ける能力が発達すると理解できる.d.負傷発生時の状況別割合負傷発生時の状況で最も多いのは,小学校は,休憩時間が51.2%であり,内容は「遊び」「ふざけ合い」などであった.中学校,高校は課外指導((,)部活)が最も多*YoshikazuUtsumi:宇津見眼科医院〔別刷請求先〕宇津見義一:〒231-0066横浜市中区日ノ出町2丁目112宇津見眼科医院0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(57)1101(%)頭部顔部体幹上肢下肢46.8(11.4%)23.9(8.9%)13.6(7.4%)13.1(5.0%)幼稚園27,043小学校463,814中学校392,178高校213,32015.410.35.74.73.65.68.49.622.434.535.828.911.825.736.543.70%20%40%60%80%100%1412108642:小学校:中学校:高校0図4負傷における部位別発生率(平成18年度)元年平3平5平7平9平11平13平15平17()は眼部の負傷発生率.図1学校での外傷の被災率(全国)(日本スポーツ振興センター全国集計)(日本スポーツ振興センター全国集計)各教科特別活動学校行事休憩時間通学中小学校463,814課外指導中学校392,178高校213,32026.100.10.224.45.19.42.651.27.33.54.924.87.24.052.86.05.045.417.22.80%20%40%60%80%100%:各教科■:特別活動■:学校行事■:課外指導■:休憩時間■:通学中■:寄宿舎図5負傷発生時の状況別割合(平成18年度)件数40035030025020015010050:小学校:中学校:高校平10平11平12平13平1415平16平17平18平09平8平7平6平5平図2学校での障害の発生件数(全国)(日本スポーツ振興センター全国集計)(日本スポーツ振興センター全国集計)男女e.スポーツの種類別負傷率スポーツの種類別負傷率では,球技が最も高く,中学校が76.3%,高校が80.4%であった.武道は中学校が7.5%,高校が4.2%,陸上は中学校が6.8%,高校が7.5%と続いて高く,器械運動,体操が続いた(図6).球技62.362.165.437.737.934.6小学校中学校高校の競技人口と相対的に比較すると,武道と陸上の負傷率は高いものと捉えられる.0%20%40%60%80%100%図3負傷の男女の比率(平成18年度)(日本スポーツ振興センター全国集計)く,中学校が45.4%,高校が52.8%であり,スポーツによる負傷が多かった(図5).1102あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013以上のように球技による負傷率が顕著に高く,球技の種目別では,中学校,高校ともに上位4種目はバスケット,サッカー,バレーボール,野球(含ソフトボール)であり,球技による負傷全体の約80%に達していた(図7).f.球技種目と顔部(眼部)の負傷割合球技種目と部位別の負傷割合で顔部(眼部)の負傷を(58)球技武道陸上1.176.37.56.84.23.480.44.27.50.90.71.40.45.2中学校275,240高校175,9200%20%40%60%80%100%■:球技:武道■:陸上■:器械運動■:体操■:水泳■:その他図6スポーツの種類別負傷率(平成18年度)(日本スポーツ振興センター全国集計)ハンドボール中学校210,067バスケットサッカーバレーその他テニスラグビーバドミントン野球・ソフト高校141,4590%20%40%60%80%100%34.127.820.612.418.44.04.56.32.717.615.815.45.92.82.43.30.95.1:バスケット■:サッカー■:バレーボール■:野球・ソフト■:テニス■:ハンドボール■:バドミントン■:ラグビー■:その他図7球技の種目別負傷率(平成18年度)(日本スポーツ振興センター全国集計)生じやすい種目は,中学校,高校ともに上位3種目はテニス,野球(含ソフトボール),バドミントンであった(図8,9).バドミントンは競技人口が少なく,その危険度については,十分に認識されていない傾向にあり,今後の啓発が必要である.一方,総負傷数の多かったバスケット,サッカー,バレーボールでは顔部(眼部)の発生率は低かった.g.重症眼外傷について平成18年度に発生した負傷のうち,JSCより障害見舞金が支給された重症眼外傷は,小中高校を合わせて111件で,そのうち73例(65.8%)が「スポーツ」を原因としたものであった(図10).さらにそのうちの67例は球技種目による重症眼外傷であり,野球(含ソフト(59)顔部頭部体幹上肢下肢テニス12,396野球・ソフト35,078バドミントン5,081卓球3,873ラグビー1,918サッカー37,063ハンドボール5,888ドッジボール3,322バスケット71,6280%20%40%60%80%100%30.924.822.620.010.710.09.99.47.4:顔部■:頭部■:体幹■:上肢■:下肢図8球技種目と顔部の負傷割合.中学校:部位別負傷発生率(平成18年度)(日本スポーツ振興センター全国集計)顔部頭部体幹上肢下肢野球・ソフト25,965テニス5,685バドミントン4,708ラグビー8,952ハンドボール6,414卓球20%40%60%80%100%26.925.115.814.311.911.611.510.06.6871サッカー29,211バスケット39,360バレーボール17,5060%:顔部■:頭部■:体幹■:上肢■:下肢図9眼外傷の多いスポーツ種目.高校:部位別負傷発生率(平成18年度)(日本スポーツ振興センター全国集計)スポーツ遊び・ふざけけんかアクシデント他小学校28中学校51高校3232.135.770.69.87.113.35.987.59.43.121.90%20%40%60%80%100%:スポーツ■:遊び・ふざけ■:けんか■:アクシデント他図10重症眼外傷の発生状況(平成18年度)(日本スポーツ振興センター全国集計)ボール)が38例(56.7%)と過半数を占め,2位がサッカーの13例(19.4%),3位がバドミントンの8例(11.9%)であった.学校別にみると,中学校での発生が33あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131103表1球技種目と重症眼外傷の件数(平成18年度)球技種目(障害件数*)小学校中学校高校合計野球・ソフトボール(84)3191638サッカー(26)47213バドミントン(13)0358バスケットボール(20)0213ラグビー(7)0123バレーボール(7)0101水球(11)0011卓球(3)0000テニス(2)0000ハンドボール(1)0000合計(174)7332767*各球技種目により平18年度に障害給付を受けた総数(眼障害を含む).(日本スポーツ振興センター全国集計)例(49.3%)と最も多かった(表1).h.外傷への対応顔部(眼部)の負傷が多い種目は,テニス,野球(含ソフトボール),バドミントン,卓球である.重傷眼外傷が生じる種目は野球(含ソフトボール),サッカー,バドミントンである.スポーツにおける安全管理について,宮浦は1.練習は基礎練習から始め,段階的に高い練習を実施する,2.個々の技能,体力に配慮した指導,過剰な練習は慎む,児童生徒の健康管理,ルールの遵守,設備,用具の安全点検,グランド,体育館の使用管理を徹底するなどがあると報告している5).眼の外傷に対する特別な対応はむずかしいが,保護目的として使用するスポーツ眼鏡などの対策はある.しかし,学校での使用目的としては,費用の問題などがあり,一律に学校側としての対応は困難であり,子どもたち,保護者の選択に頼るところが大きい.II一般の競技別のスポーツ眼外傷と原因公益財団法人スポーツ安全協会は,スポーツ活動および社会教育活動における安全の確保に関する事業,活動に伴って生じる障害や各種事故に対処するための事業を行っている.スポーツ安全保健は,アマチュアスポーツ活動,文化活動,ボランティア活動,地域活動などを行う社会教育関係団体を対象として傷害保険,賠償責任保1104あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013険などを扱っている.平成22年度の加入者は9,887,231名であり,全年齢が対象であるが,少年スポーツクラブ(23.3%),地域スポーツクラブ(18%),スポーツ少年団(10.7%)の加入が全体の52%(5,143,268名)であり,学校以外の団体がほとんどである.おもにスポーツの傷害に対して有用である.公益財団法人スポーツ安全協会の平成22年度の傷害部位別事故発生状況は,頭部が10.6%,眼部が2.8%と前述のASC報告の眼部負傷発生率の高校が5.0%より減少している6).成長により眼の危険を避ける能力が発達すると理解できる.公益財団法人スポーツ安全協会の平成22年度の傷害保険支払件数は,187,748件であった.JSCと比較してその傷害部位別事故発生状況では,眼の障害が5,350件で全体の2.8%であった.種目別事故発生率では,アメリカンフットボールが10.9%,ドッジボールが6.50%,ラグビーが5.38%,柔道が4.75%,硬式野球が4.34%,バスケットボールが3.83%,レスリングが3.61%,自転車競技が3.43%,バレーボールが3.39%,サッカーが2.79%であり,球技以外の種目も上位に入っており,高校までの学校を対象としたJSCの報告とは異なる6).III米国でのスポーツ眼外傷2004年(平成16年)に米国小児科学会と米国眼科学会は共同で提言を行った5).その提言とは,眼に障害が生じるスポーツをする人に,アイプロテクターの使用を強く奨めた.さらに,アイプロテクターは,機能的に片目の人や眼の手術後,眼外傷後に眼科医に眼の保護を奨められているアスリートに強制的にアイプロテクターの使用を奨めている.以下,その概要につき述べる1).1.スポーツ眼外傷2000年(平成12年)にスポーツとレクリエーションなどによる眼外傷が42,000件以上報告された.眼外傷の72%は25歳以下に生じており,43%は15歳以下で,8%が5歳以下で生じていた.若年の子どもや思春期の子どもたちはレクリエーションでの攻撃的なプレー,競技の未熟性,力量不足の指導者により傷害を生じやすい可能性がある.野球とバスケットボールは5歳から24(60)歳までのアスリートの多数の眼障害に関係していた.2.スポーツ眼外傷のリスク分類スポーツ眼外傷の危険性は怪我によって生じる程度と相関がある.危険性は衝突,接触,非接触のカテゴリーに分類されない.無防備なプレーヤーの眼外傷のリスクは,「危険性が高い」,「中等度なリスク」,「低いリスク」そして「眼には安全」なカテゴリーに大まかに分類される.「危険性が高い」の種目はペイントボール,バスケットボール,野球(含ソフトボール),クリケット,ラクロス,スカッシュ,ラケットボール,フェンシング,ボクシングなど,「中等度なリスク」の種目はテニス,バドミントン,バレーボール,水球,サッカー,釣り,ゴルフなど,「低いリスク」の種目は水泳,ダイビング,スキー(雪山,水上),非接触武道,レスリング,自転車など,「眼には安全」な種目は陸上(やり投げと円盤投げを除く),体操などがある.表2各種スポーツ別アイプロテクタースポーツアイプロテクターコメント野球,ソフトボール(若い打者と走者)ASTM*F910のポリカーボネートレンズ付きスポーツフレームヘルメットに付けたフェイスガード野球,ソフトボール(野手)ASTMF803のポリカーボネートレンズ付きスポーツフレームASTMが年齢指定したものバスケットボールASTMF803のポリカーボネートレンズ付きスポーツフレームASTMが年齢指定したもの自転車ストリート用かファッション用眼鏡とヘルメットボクシング使用不可片目の人は禁忌フェンシング首前掛けの付いた防護プロテクターホッケー(男性,女性)女性ラクロス用ASTMF803のポリカーボネートレンズ付きスポーツフレーム女性用ラクロスで使用するプロテクターはホッケーでも使用可能アメリカンフットボールポリカーボネートアイシールドはワイヤー・フェース・マスクの付いたヘルメットに付ける格闘技使用不可片目の人は禁忌アイスホッケーASTMF513のフェイスマスクが付いたヘルメット,ゴールキーパーはASTMF1587許可のものHECC**かCSA***が保証するフルフェイスシールドラクロス(男性)ラクロスヘルメット,フェイスマスク付きラクロス(女性)女性ラクロス用ASTMF803のポリカーボネートレンズ付きスポーツフレームヘルメットを着用するが選択できるようにすべきであるペイントボールペイントボール用ASTMF1776のフルフェイスゴーグルバドミントン,テニス,パドルテニス,ハンドボール,スカッシュ,ラケットボールASTMF803のポリカーボネートレンズ付きスポーツフレームサッカーASTMF803のポリカーボネートレンズ付きスポーツフレームストリートホッケーASTMF513のフェイスマスクが付いたヘルメットHECCかCSAの保証が必須陸上競技ポリカーボネートレンズ付きストリート用かファッション用眼鏡ASTMF803の眼鏡は,衝撃のあるスポーツにストリート用眼鏡より安全水球,水泳ポリカーボネート製水泳ゴーグルレスリング標準はないカスタムメイド保護眼鏡は作製可能*ASTM:AmericanSocietyforTestingandMaterials.**HECC:HockeyEquipmentCertificationCouncil.***CSA:CanadianStandardsAssociation.ASTMF803許可の眼鏡は衝突の可能性のあるすべてのスポーツにとってストリート用の眼鏡より安全である.(文献1より改変)(61)あたらしい眼科Vol.30,No.8,201311053.眼を保護するスポーツ眼鏡眼の保護を推奨する眼鏡のタイプは,「ポリカーボネート」が最も耐破損性のクリアレンズ材料であり,すべての安全眼鏡に使用されるべきであり,ファッションサングラスは眼外傷のリスクを伴うスポーツには推奨されていない.アイプロテクターの使用により完全にリスクをなくすことは不可能であるが,眼外傷の少なくとも90%は適切なアイプロテクターの使用により防ぐことができる.4.各種スポーツ別アイプロテクター米国では,表2に示す各種スポーツのアイプロテクターは米国材料試験協会(AmericanSocietyforTestingandMaterials:ASTM)などが定めた素材を使用すべきであるとしている.コンタクトレンズ(CL)は眼を保護しないので,表に示す基準を奨める.片目の人はすべてのスポーツに眼の保護をすべきである.片目の人や眼の障害を受けた人,眼手術後の人は,ボクシング,格闘技に参加してはならない.IVスポーツ用眼鏡スポーツにおいて適切な視力矯正はスポーツ技能の向上ばかりでなく,誤った判断・事故の減少に繋がる.スポーツ用眼鏡は視力矯正ばかりでなく,特殊レンズによる眩しさ・ギラツキの軽減,コントラストの向上,紫外線7)・ブルーライトからの防御など,さらにスポーツでの身体接触,ボール・器具などによる衝撃,埃・塵,プール水に含まれる塩素,化学物質などから眼を保護する.前述のように米国では眼科医の専門家である学会による提言や各競技で望ましいアイプロテクターの基準を提唱している.しかし,わが国では多くの企業からスポーツ眼鏡として多くの種類のアイプロテクターが販売されているが,整合性のとれた基準がない(図11).今後,スポーツ団体は眼鏡学会など眼鏡関係者,眼科医の意見を取り入れて規格の統一を図るようお願いしたい.Vスポーツ眼外傷の予防スポーツ眼外傷の予防には前述の報告1)やつぎに述べ1106あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013図11眼鏡型アイプロテクター(オーダーメイド度付き)〔山本光学(株)提供〕る保科ら8)の報告などがある.わが国でのスポーツ医学での視機能,眼外傷の予防などには眼科医の関わりが非常に少ない.米国と同様にスポーツ医学に各眼科学会,眼科医の参入が望まれる.1.アイプロテクター前述のように米国小児科学会と眼科学会は,スポーツ眼外傷の9割はアイプロテクターで防ぐことができ,アスリートには強制的にアイプロテクターの使用を奨めている.わが国でも同様に奨めて欲しい.2.ルールの厳守ルールを遵守しないラフプレーなどでは当然,眼外傷のリスクは高くなる.ルールの厳守は必須である.3.グランド,競技器具の管理平成19年11月2日文部科学省は運動場のラインなどに使用する石灰の取り扱いについて全国の学校関係者に通知した9).その内容は平成19年9月に実施した「学校での消石灰に関するアンケート調査」において,47都道府県の29地区(61.7%)が学校で運動場のラインなどに水酸化カルシウム(消石灰)が使用され,18地区(38.3%)が事故例を経験している10).消石灰は強アルカリ性で眼に入ると重症な視力障害を生じる危険性がある.したがって,グランドや競技器具の使用管理の徹底が必要である.4.競技能力のレベルを合わせる運動能力の差がある選手同士の練習,試合では外傷が(62)生じやすいために,競技能力のレベルを合わせることは必要である.5.競技への集中力の徹底海外の報告では,競技に参加していない選手の外傷も多いことが報告されている.参加している選手ばかりでなく参加していない選手も,注意が散漫にならないよう指導すべきである.6.指導者への啓発指導者が知っていて欲しいことには,1.選手の視機能(視力,視野,色覚特性など),2.屈折異常の矯正方法,ケア方法(眼鏡,CL),3.選手の運動・感覚・競技能力,4.眼外傷の基礎知識,選手への教育,5.アイプロテクターを含めた保護具の基礎知識などがある.積極的な指導者は自らそれを求めるが,やはり限界がある.眼科学校医を含めてすべての眼科医は眼の専門家として眼科に関する適切な情報をもとに指導者を啓発して欲しい.日本のある地区ではバスケットボールの部活動の試合で眼鏡の使用が認められないからCLを使用するようにと指導者から指示されたとの保護者からの報告があった.日本バスケットボール協会に尋ねたところ,地区バスケットボール協会が日本バスケットボール協会の規則を無視していたことがわかった.保護者には日本バスケットボール協会の規則を伝えた.協会の競技規則第4条では,プレイヤーが負傷しないように,破損の防止に配慮してある眼鏡であれば日本国内は眼鏡の装用は可能であるとのことであり,ガラスレンズや折れるフレームなど破損の恐れのある眼鏡は不可である.つまり,前述のポリカーボネート素材のレンズを使用することなど,各競技団体の規則を指導者は熟知すべきであり,競技団体でスポーツ眼鏡の規則が定まっていないのであれば改善して欲しい.7.今後の問題アイプロテクターの重要性には異論がないが,実際にそれを装用すると視野が狭くなる,曇る,汚れる,キズつきやすい,費用が高いなど問題点が多い.アイプロテクターが普及しない背景には,スポーツ眼外傷の実態に関する情報があまりにも少ないことも原因としてある.今後,スポーツ指導者,眼科医はスポーツ眼外傷の情報とアイプロテクターの有用性について選手を積極的に啓発する必要がある.おわりにスポーツ眼外傷の治療は診療において日常茶飯事であるが,その予防については筆者を含めて眼科医の知識は乏しい.その理由はスポーツ医学について眼科医のかかわりが少ないためであると考えている.眼科医は積極的にスポーツ医学の分野に参画して欲しいし,その情報をフィードバックしていただきたい.文献1)JointPolicyStatement:Protectiveeyewearforyoungathletes.TheCoalitiontoPreventSportsEyeInjuries.Ophthalmology111:600-603,20042)学校管理下の災害.21.独立行政法人日本スポーツ振興センター,20083)学校下の死亡・障害事例と事故の留意点.独立行政法人日本スポーツ振興センター,20084)宮浦徹:学校における眼外傷.日本の眼科80:206-208,20095)宮浦徹:学校での眼外傷,学校保健のエッセンス,第64回日本臨床眼科学会インストラクションコース講演ハンドアウトデータ,2010年(平成22年)11月14日,神戸市6)公益財団法人スポーツ安全協会:スポーツ安全保険の加入者・傷害保険.公益財団法人スポーツ安全協会要覧,p5-7,20127)柴田奈央子,初坂奈津子,坂本保夫ほか:中学生を対象とした紫外線蛍光撮影法による瞼裂斑の検討.第65回日本臨床眼科学会学術展示,2011年10月,東京8)保科幸次,山縣祥隆:スポーツ眼外傷とその予防.臨床スポーツ医学18:905-916,20019)作花文雄:運動場のラインなどに使用する石灰の取り扱いについて.文部科学省スポーツ・青年局学校健康教育課長通知(19ス学健第19号),2007年(平成19年)11月2日10)日本眼科医会学校保健部:学校での消石灰使用に関するアンケート調査結果報告.日本の眼科78:1731-1732,2007(63)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131107