特集●眼感染症診断の温故知新あたらしい眼科32(5):643.647,2015特集●眼感染症診断の温故知新あたらしい眼科32(5):643.647,2015ウイルス編-2:単純ヘルペスウイルス免疫クロマトグラフィ法検査キットの有用性TheUsefulnessoftheHerpesSimplexVirusImmunochromatographicAssayKit星最智*はじめに上皮型角膜ヘルペスは,典型的にはterminalbulbを伴う樹枝状病変を呈することから,角膜所見から診断を行うことが多いと思われる(図1).しかしながら,単純ヘルペス角膜炎は上皮型単独で発症するだけではない.実質型や内皮型角膜ヘルペスに合併する場合や,白内障などの内眼手術後1),さらには真菌性角膜炎など他の角膜炎の治療中に樹枝状病変が出現することもある2,3).このような複数の病態が重なった状況では,樹枝状病変が本当に角膜ヘルペスによるものかどうかの判断を迫られることになる.角膜ヘルペスの確定診断は,もっとも確実なのは病変部からのウイルスの分離であるが,時間や設備などの問題から臨床現場では実際的な方法ではない.PCR(polymerasechainreaction)法は感度が高く有用ではあるが,初診時にすぐに結果を出すことは多くの施設では困難である.したがって,診断に迷ったときにすぐに治療方針の決定につながり,なおかつ多くの医療機関で簡便に行うことができる検査ツールが求められていた.I原理上皮型角膜ヘルペスを対象とした初めての免疫クロマトグラフィ法検査キットとして,チェックメイトRヘルペスアイが2011年8月に発売された4)(図2).角膜上皮細胞中の単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)抗原を検出することを目的としており,図1上皮型角膜ヘルペスの樹枝状病変上皮型角膜ヘルペスに特徴的なterminalbulbを認める.操作が簡便であり迅速に結果を得ることができる.HSV抗原検査キットに用いられる抗体は,glycoproteinDに対するモノクローナル抗体である.このglycoproteinDは,HSVが宿主細胞に感染する際に必須な蛋白であることがわかっている5).HSV免疫クロマトグラフィ法の原理を図3に示す.検体を試料滴下部に滴下すると,金コロイドで標識された抗HSVマウスモノクローナル抗体と検体中のHSV抗原が免疫複合体を形成する.この免疫複合体は毛細管現象によって展開部を移動し,判定部Sに固相化された抗HSVマウスモノクローナル抗体に補足され,判定部Sに金コロイドによる赤紫色の判定ラインを形成する.検体中のHSV抗原の有無にかかわらず,免疫複合体を形成しなかった金コロイド標識抗HSV抗体は,判定部Cに固相化された抗マウスIgGヤギポリクローナ*SaichiHoshi:国立長寿医療研究センター眼科〔別刷請求先〕星最智:〒474-8511愛知県大府市森岡町7-430国立長寿医療研究センター眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(33)643滴下展開展開試料滴下部SCHSV抗原抗マウスIgG抗体金コロイド標識抗HSV抗体図2チェックメイトRヘルペスアイ図3単純ヘルペスウイルス免疫クロマトグラフィ法の原理・キャップ付きノズルを付ける・上下に数回強く振る・点眼麻酔・手袋着用スワブを抽出液に浸す・スワブで数回擦過陰性陽性HSVSC・4滴,滴下・15分以上待って判定図4チェックメイトRヘルペスアイの使用法ル抗体に補足され,判定部Cに赤紫色のラインを形成する.II使用方法以下に具体的な使用方法について示す(図4).1)点眼麻酔を行う.644あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(34)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015645(35)見に加えて,抗原検査を行うことでより診断を確実なものにすることができる.その他,検査結果を視覚的に患者に示すことができるのも利点である.ゾビラックス軟膏Rによる治療は患者にとっても取り扱いがむずかしく,コンプライアンスが悪い場合は角膜炎が遷延することもありうる.診断キットが陽性であることを患者に示すことによって,治療への意識を高める効果も期待できる.最後に他の眼疾患を治療中に上皮型角膜ヘルペスを発症した場合である.以下にチェックメイトRヘルペスアイが治療方針の決定に有用であった2症例を示す.1.症例180歳代の男性.近医眼科で右眼の感染性角膜炎を発症し抗菌点眼薬などで治療されるも改善を認めないため紹介受診となった.角膜に円形の白色病巣と強い前房炎症を認めた.実質型角膜ヘルペスの既往があり普段から低濃度ステロイド点眼薬を使用していたことや,前医での抗菌点眼薬の頻回点眼に反応しなかったことから真菌性角膜炎を疑い,抗真菌薬の局所および全身投与を開始した.角膜擦過物の培養検査でカンジダ属が検出され,カンジダ角膜炎と確定診断した.抗真菌薬治療により徐々に結膜充血や前房炎症は減少していった.角膜潰瘍部もゆっくりと縮小していったため抗真菌薬の減量を考慮していたところ,急に異物感の増強と結膜充血の悪化を認めた.そのときの前眼部写真を図5に示す.スリット写真では真菌病巣は上皮化して角膜浸潤と浮腫を認めるのみであるが,真菌病巣の辺縁から角膜中央部に伸びる淡い線状病変を認めた.フルオレセイン染色像では弱々しい樹枝状病変を認めるがterminalbulbはわかりにくい.このような状況に遭遇した際,主治医としては真菌性角膜炎の治療に専念していることもあり,新たに角膜ヘルペスが出現したのか,あるいは真菌病巣の再燃なのかの判断が非常にむずかしくなってくる.角膜ヘルペスの場合は薬剤毒性にも配慮しながら,抗真菌薬の種類や回数を減らしたうえで抗ヘルペス薬を投与することになる.一方,真菌性角膜炎の再燃であれば抗真菌薬の変更をするなどの判断を迅速に行わなければならない.本症例ではチェックメイトRヘルペスアイを施行したところ陽性であったため,上皮型角膜ヘルペスと診断し2)手袋を着用後,付属するスワブを用いて角膜病変部を数回擦過する.角膜を擦過することを心配する医師もいるかも知れないが,アデノウイルス抗原検査のように強く擦過する必要はない.樹枝状病変の辺縁にある脆弱な角膜上皮部分が採取できていることを確認しながら,やさしく撫でるように擦過するとよい.3)スワブを検体抽出液が入った検体抽出容器に入れ,付属のキャップ付きノズルを検体抽出容器にしっかりと装着する.4)検体抽出容器を上下に数回強く振った後,白いキャップをはずして反応シートの試料滴下部に4滴(150μl相当)滴下する.5)15分間放置し,判定部のラインを確認する.注意点としては必ず15分以上放置することである.15分近く経過してようやく陽性となることをしばしば経験する.判定は,判定部のSとCの両方にラインを認めた場合に陽性と判定する.その際,判定部Sに少しでもラインを認める場合であっても陽性とする.判定部Sにラインを認めず判定部Cのみラインを認めた場合は陰性と判定する.判定部Cにラインが認められない場合は,操作や試薬の問題が考えられるため検査不成立となる.HSV免疫クロマトグラフィ法の臨床成績であるが,臨床診断と比較した場合の感度は55%,特異度は100%となっている6).また,HSV免疫クロマトグラフィ法の結果に影響を与える因子として,ウイルスDNA量が多いとHSV免疫クロマトグラフィ法は陽性になりやすく,抗ウイルス薬が投与されていると偽陰性になりやすい6).III実際の使用経験角膜炎の治療経験が豊富でない眼科医の場合は,とくに典型的なterminalbulbを有する樹枝状病変であっても,前眼部所見と微生物学的検査の一致を確認するという意味でチェックメイトRヘルペスアイを施行することを薦める.言うまでもなく感染症診療は診断がもっとも重要であり,診断の判断材料となる情報はできる限り多いほうがよい.単純ヘルペス角膜炎を疑う場合は,過去の角膜炎の既往,角膜知覚の左右差,特徴的な角膜所)手袋を着用後,付属するスワブを用いて角膜病変部を数回擦過する.角膜を擦過することを心配する医師もいるかも知れないが,アデノウイルス抗原検査のように強く擦過する必要はない.樹枝状病変の辺縁にある脆弱な角膜上皮部分が採取できていることを確認しながら,やさしく撫でるように擦過するとよい.3)スワブを検体抽出液が入った検体抽出容器に入れ,付属のキャップ付きノズルを検体抽出容器にしっかりと装着する.4)検体抽出容器を上下に数回強く振った後,白いキャップをはずして反応シートの試料滴下部に4滴(150μl相当)滴下する.5)15分間放置し,判定部のラインを確認する.注意点としては必ず15分以上放置することである.15分近く経過してようやく陽性となることをしばしば経験する.判定は,判定部のSとCの両方にラインを認めた場合に陽性と判定する.その際,判定部Sに少しでもラインを認める場合であっても陽性とする.判定部Sにラインを認めず判定部Cのみラインを認めた場合は陰性と判定する.判定部Cにラインが認められない場合は,操作や試薬の問題が考えられるため検査不成立となる.HSV免疫クロマトグラフィ法の臨床成績であるが,臨床診断と比較した場合の感度は55%,特異度は100%となっている6).また,HSV免疫クロマトグラフィ法の結果に影響を与える因子として,ウイルスDNA量が多いとHSV免疫クロマトグラフィ法は陽性になりやすく,抗ウイルス薬が投与されていると偽陰性になりやすい6).III実際の使用経験角膜炎の治療経験が豊富でない眼科医の場合は,とくに典型的なterminalbulbを有する樹枝状病変であっても,前眼部所見と微生物学的検査の一致を確認するという意味でチェックメイトRヘルペスアイを施行することを薦める.言うまでもなく感染症診療は診断がもっとも重要であり,診断の判断材料となる情報はできる限り多いほうがよい.単純ヘルペス角膜炎を疑う場合は,過去の角膜炎の既往,角膜知覚の左右差,特徴的な角膜所(35)見に加えて,抗原検査を行うことでより診断を確実なものにすることができる.その他,検査結果を視覚的に患者に示すことができるのも利点である.ゾビラックス軟膏Rによる治療は患者にとっても取り扱いがむずかしく,コンプライアンスが悪い場合は角膜炎が遷延することもありうる.診断キットが陽性であることを患者に示すことによって,治療への意識を高める効果も期待できる.最後に他の眼疾患を治療中に上皮型角膜ヘルペスを発症した場合である.以下にチェックメイトRヘルペスアイが治療方針の決定に有用であった2症例を示す.1.症例180歳代の男性.近医眼科で右眼の感染性角膜炎を発症し抗菌点眼薬などで治療されるも改善を認めないため紹介受診となった.角膜に円形の白色病巣と強い前房炎症を認めた.実質型角膜ヘルペスの既往があり普段から低濃度ステロイド点眼薬を使用していたことや,前医での抗菌点眼薬の頻回点眼に反応しなかったことから真菌性角膜炎を疑い,抗真菌薬の局所および全身投与を開始した.角膜擦過物の培養検査でカンジダ属が検出され,カンジダ角膜炎と確定診断した.抗真菌薬治療により徐々に結膜充血や前房炎症は減少していった.角膜潰瘍部もゆっくりと縮小していったため抗真菌薬の減量を考慮していたところ,急に異物感の増強と結膜充血の悪化を認めた.そのときの前眼部写真を図5に示す.スリット写真では真菌病巣は上皮化して角膜浸潤と浮腫を認めるのみであるが,真菌病巣の辺縁から角膜中央部に伸びる淡い線状病変を認めた.フルオレセイン染色像では弱々しい樹枝状病変を認めるがterminalbulbはわかりにくい.このような状況に遭遇した際,主治医としては真菌性角膜炎の治療に専念していることもあり,新たに角膜ヘルペスが出現したのか,あるいは真菌病巣の再燃なのかの判断が非常にむずかしくなってくる.角膜ヘルペスの場合は薬剤毒性にも配慮しながら,抗真菌薬の種類や回数を減らしたうえで抗ヘルペス薬を投与することになる.一方,真菌性角膜炎の再燃であれば抗真菌薬の変更をするなどの判断を迅速に行わなければならない.本症例ではチェックメイトRヘルペスアイを施行したところ陽性であったため,上皮型角膜ヘルペスと診断しあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015645646あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(36)があることから,地図状角膜炎の可能性も考えてチェックメイトRヘルペスアイを施行したが陰性であった.チェックメイトRヘルペスアイの感度は55%であるので角膜ヘルペスの可能性は否定できないが,今までの治療経過や眼瞼の所見から難治性後部眼瞼炎による角膜合併症の可能性が高いと考えられた.そこでミノサイクリン内服を処方したところ,眼瞼結膜炎の沈静化と上皮欠損の改善が得られた.その2カ月後,今までとくに治療を要しなかった左眼に樹枝状角膜炎を発症した(図6).チェックメイトRヘルペスアイを施行したところ陽性であったため,左眼には抗ヘルペス治療を行った.本症例の右眼のように,チェックメイトRヘルペスアイが陰性であっても他の所見から総合的に判断して,適正な治療方針を決定することが重要である.た.抗真菌薬の種類と回数を減らしたうえで,ゾビラックス軟膏Rとバラシクロビル内服を処方したところ,樹枝状病変は数日で消失した.2.症例260歳代の女性.近医にて右眼の難治性角結膜炎の治療中に角膜沈着物が出現したため紹介受診となった.数年前に両眼の角膜ヘルペスと虹彩炎として治療されていた既往があった.角膜沈着物は,遷延する角結膜上皮障害の状態にリン酸ベタメタゾン点眼を使用していたことが影響して,リン酸カルシウムが沈着した可能性が考えられた.まずは薬剤毒性の影響をなくすため人工涙液の頻回点眼を行ったところ,右眼の角結膜充血は改善を認めた.しかしながら,その後しばらくすると再び角結膜炎が悪化し上皮欠損の拡大を認めた(図6).その際,上眼瞼を反転すると上眼瞼結膜に強い充血,細かい乳頭増殖および粘膜浮腫を認めた.過去に角膜ヘルペスの既往ab図5症例1の前眼部所見a:矢頭は真菌感染病巣,矢印は樹枝状病変を示す.b:フルオレセイン染色像.矢印の樹枝状病変は弱々しく,terminalbulbがわかりにくい.ab図6症例2の前眼部所見a:右眼.角膜中央部の沈着物(失頭)と,その辺縁に上皮欠損(矢印)を認めた.b:左眼.一部地図状病変を伴う樹枝状角膜炎を認めた.ab図5症例1の前眼部所見a:矢頭は真菌感染病巣,矢印は樹枝状病変を示す.b:フルオレセイン染色像.矢印の樹枝状病変は弱々しく,terminalbulbがわかりにくい.ab図6症例2の前眼部所見a:右眼.角膜中央部の沈着物(失頭)と,その辺縁に上皮欠損(矢印)を認めた.b:左眼.一部地図状病変を伴う樹枝状角膜炎を認めた.あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015647(37)型角膜ヘルペスを発症した2症例.眼臨紀6:363-367,20132)阿部真知子,田村修,高岡裕子:角膜ヘルペスに真菌(Fusarium)感染を合併した角膜潰瘍の1症例.臨眼40:154-155,19863)四宮加容,山中清香,福本幸司ほか:角膜ヘルペスと角膜真菌症を合併した1例.あたらしい眼科15:117-119,19984)梶山博文:単純ヘルペスウイルスキット.小児眼科65:2719-2724,20125)JohnsonDC,LigasMW:HerpessimplexviruseslackingglycoproteinDareunabletoinhibitviruspenetration:quantitativeevidenceforvirus-specificcellsurfacerecep-tors.JVirol62:4605-4612,19886)InoueY,ShimomuraY,FukudaMetal:Multicenterclini-calstudyoftheherpessimplexvirusimmunochromato-graphicassaykitforthediagnosisofherpeticEpithelialkeratitis.BrJOphthalmol97:1108-1112,2013まとめチェックメイトRヘルペスアイは,免疫クロマトグラフィ法を用いた単純ヘルペス検査キットであり,上皮型角膜ヘルペスの診断補助として保険収載された検査である.本キットは操作が簡便で迅速に行うことができることが利点であるが,実質型や内皮型角膜ヘルペスの診断はできないことに注意する.感度は55%と高くはないが,特異度は100%であるため,陽性の場合は自信をもって診断することができる.真菌性角膜炎などの難治性角膜炎の治療経過中に上皮型角膜ヘルペスを合併することがあり,複雑な治療経過のなかで適切な投薬を行う必要がある症例では積極的に使用したい検査である.文献1)谷口ひかり,堀裕一,柴友明ほか:白内障術後に上皮