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タブレット型PCの眼科領域での応用 15.デジタルコミュニケーションツールとしての活用-その1-

2013年8月31日 土曜日

シリーズ⑮シリーズ⑮タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第15章デジタルコミュニケーションツールとしての活用─その1─■タブレット型PCのコミュニケーションツールとしての意義第15章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PC“iPadmini(米国AppleInc.)”とiPhone5(米国AppleInc.)のiOSバージョン6.1.3です.この章ではタブレット型PCやスマートフォンの色覚異常者に対するデジタルコミュニケーションツールとしての活用法とその意義について,患者の声とともに紹介していきます.■私のデジタルコミュ二ケーションツール活用法「色覚異常者編」タブレット型PCを臨床業務へ導入する以前,私は色覚に異常をもつ患者やその家族に対して色覚異常の分類や遺伝形式の説明,就職に関して色覚検査が必要とされる職業の存在や日常生活上の注意点などの情報提供を中心としたケアを行ってきました.それ以上患者の生活に介入した具体的なアドバイスなどの積極的なアプローチを,行う手段をもっていませんでした.しかし,タブレット型PCやスマートフォンの臨床業務への導入後は,色覚異常の患者や患者家族に対するアプローチの方法は大きく変化しました.2013年6月現在,私の外来ではタブレット型PCやスマートフォンの色覚異常者向けのアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)を,患者や患者家族とのデジタルコミュケーションツールとして紹介しています.①「色覚異常患者に対するアプリ紹介」タブレット型PCやスマートフォンにはカメラ機能を利用した,色識別機能を有する安価なアプリが多数存在しています.色の同定精度が高いとはいえませんが,色(85)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1スマートフォンの色識別アプリを用いて,色の識別を行っている様子(ColorSay-世界をカラーで聞こう!:開発WhiteMarten)覚異常者が日常生活で使用する,簡易的な色の識別器具としては十分に機能します(図1).これらのアプリを色覚異常の患者に紹介することで,色の誤認識に由来する不便さを軽減することが可能です.アプリの利用を始めた患者の声には以下のようなものがあります.「これまでは理解できなかった色の違いが,アプリをとおしてはじめて実感できました.」「書類に張られた付箋の色を自分一人で判断できるようになって,仕事に対するモチベーションが上がりました.」すでに手元にある日用品のスマートフォンを色覚異常者用のエイドとして活用できることで,患者自身で色の識別を行えることは患者の日常生活上の不便さの改善に大きく貢献します.また,ある患者の以下のような言葉に驚かされました.あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131129 図2タブレット型PCの色覚異常シミュレーションのアプリを用いて,料理の色調の変化を対比することが可能となる(色のシミュレータ:開発KazunoriAsada)「靴下の組み合わせが正しいか,判断するのに使っている.同じ色かどうか判断するだけだから,色の正確さは必要ないからとっても使えるよ.」色識別アプリを洗濯後の靴下の色の違いを確認するのに利用している患者の言葉です.アプリの実際の使い方は患者の生活上の不便さのなかにあり,私は日々眼科医としての患者の言葉のなかに新しい学びと驚きを実感しています.②「色覚異常者の家族に対するアプリ紹介」色覚に異常をもつ患者と暮らす家族には色覚異常をシミュレーションできるアプリを紹介します.これらのアプリではタブレット型PCやスマートフォンのカメラ機能を利用して,簡易的に色覚異常者の目から見た風景をリアルタイムに体験することが可能です(図2).これらのアプリを利用する患者の家族の声には以下のようなものがあります.「子供の見ている世界を,少しだけ感覚的にも理解できた気がします.」「服を選ぶときとか,子供の目から見ても単色にならないように一緒に色合いを話合えるようになりました.」色覚異常の患者やその家族が抱える不便さやすれ違いは,日常生活のなかで両者が感覚的に色の認識を共有することが困難なために生じて来ました.しかし,色識別や色覚異常シミュレーションのアプリを生活に導入することで,これまで理解し得なかった色覚の違いによる障壁を軽減させることが可能です.積極的に患者の生活のなかに存在する不便さに対して介入することで,色覚異常に対する患者との相互理解を深めることが可能となります.本章では色覚異常の患者や患者家族に,タブレット型PCやスマートフォンを用いた色覚異常者用のアプリの紹介とその意義について簡単に紹介しました.色覚異常という共感することの難しい障害に対して,適切なアプリの導入を行うことで患者と患者家族,そして医師患者間の相互理解は格段に向上します.私は自身の外来や活動のなかで積極的にアプリを紹介することで,患者の言葉にさまざまな気づきを享受しています.色覚異常者にタブレット型PCやスマートフォンの活用を紹介することは彼らの生活をより快適にし,彼らの生活に介入したアドバイスを行うことこそがより質の高い色覚異常に対するケアの提供であると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆1130あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(86)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 123.前嚢収縮による眼底視認性の低下(初級編)

2013年8月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載123思われる.123前.収縮による眼底視認性の低下●接触型コンタクトレンズは前.収縮の影響を受けやすい(初級編)筆者の経験では,中程度の前.収縮例で,特に前.切開を拡大せずにそのまま手術が施行できると思われる症池田恒彦大阪医科大学眼科例でも,意外と視認性の確保に苦慮することがある(図1,2).このようなケースでは思い切って前.切開を拡大すると,予想以上に良好な視認性が確保できることがある(細かい光学的なことは専門書に譲る)(図3~5).はじめに最近は23ゲージや25ゲージなどを用いたMIVS(mini人工的偽水晶体眼の硝子体手術を施行する場合,前.mallyinvasivevitreoussurgery)が主流なので,これ収縮をきたしている症例では眼底の視認性確保に苦慮すらのカッターを角膜輪部から挿入して前.切開縁を拡大ることがある.近年普及してきたワイドビューイングシすることは比較的容易で侵襲も少ない.前.縁が硬くてステムでは,小瞳孔でも比較的良好な視認性が確保できカッターによる切除が困難な症例では,適宜硝子体剪刀るので,中程度までの前.収縮眼であれば,特に無処置を用いて短冊状に切開を加え,その後に硝子体カッターで硝子体手術を施行することは比較的容易である.しかで切除する.眼底視認性の確保が不十分なまま,黄斑疾し,黄斑上膜や黄斑円孔などで,黄斑部の繊細な操作を患の手術を強行することは,網膜損傷など視力に重大な要求される症例では,良好な立体視が得られやすい接触影響を及ぼす合併症を生じるリスクが高くなるので,極型の拡大コンタクトレンズを使用する術者が多いものと力避けるべきである.←図1前.収縮を有する特発性黄斑上膜例中程度の前.収縮で,前.切開を拡大しなくても十分な眼内操作が可能と考えられた.→図2硝子体手術の術中所見(1)接触型の拡大コンタクトレンズを使用して眼底をみると,予想以上に視認性が不良であった.図3前.切開拡大図4前.切開拡大後の所見図5硝子体手術の術中所見(2)25ゲージ硝子体カッターで上方の前.上方の前.切開が拡大されている.眼底の視認性は予想以上に向上してお切開縁を切除し拡大した.り,黄斑上膜の.離が容易かつ安全に施行できた.(83)あたらしい眼科Vol.30,No.8,201311270910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 152.神経麻痺性角膜症に対する最新の治療法

2013年8月31日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第152回◆眼科医のための先端医療山下英俊神経麻痺性角膜症に対する最新の治療法柳井亮二西田輝夫(山口大学大学院医学系研究科眼科学)疾患概念神経麻痺性角膜症はさまざまな原因により角膜知覚を司る三叉神経が障害されて生じる角膜疾患です1).特異的な臨床所見はなく,一見角膜に異常のみられない症例から,遷延性角膜上皮欠損や角膜潰瘍,角膜穿孔などさまざまな程度の角膜障害を生じます.角膜は無血管のため血球系や液性因子による調節を受けにくく,神経系の重要性が古くから認識されていました.歴史的には1824年に三叉神経を切断すると角膜に変性がみられること2),1892年に三叉神経痛術後の角膜障害3)が報告され,1938年に初めてneuroparalytickeratitis〔神経麻痺性角膜炎(症)〕という用語が用いられました4).神経麻痺性角膜症は大変古い疾患概念ですが,その病態の解明はいまだ不十分で根治的な治療法はなく,特効薬の開発という課題も残されています.病態神経麻痺性角膜症の病態は,角膜への軽微な侵襲を契機に発症する角膜上皮の創傷治癒の遅延です1,5).神経麻痺性角膜症は,安静時には角膜の恒常性は保たれていますが,角膜に外傷を受けた場合,たとえば通常では容易に治癒するような軽い外傷や通常の内眼手術など,些細な角膜への侵襲を契機に角膜上皮障害が治癒せず遷延化します.特異的な他覚的所見は角膜知覚検査で知覚低下がみられることですが,神経麻痺性角膜症の診断基準などについてはいまだ整備されていません.原因神経麻痺性角膜症は,三叉神経終末の末梢性障害と,ニューロンが存在する三叉神経節あるいはその中枢側が障害される中枢性障害に分類されます(図1).白内障手術や角膜移植などの角膜に切開が加わるような手術後や角膜化学熱傷,b遮断薬や点眼麻酔薬の濫用による中毒性角膜症などでは,三叉神経終末が障害されて角膜知覚(79)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY三叉神経脊髄路核三叉神経節視床中枢枝末枝(眼神経V1)長後毛様体神経脳疾患角膜ヘルペス・先天性内眼手術後角膜移植術後薬剤性(点眼)糖尿病角膜ヘルペス痛覚・温覚触覚(粗)SubstanceP枯渇聴神経腫瘍摘出術三叉神経減圧術局所性中枢性図1神経麻痺性角膜症の原因部位が低下します.また,糖尿病による末梢神経障害として角膜知覚が低下することによる角膜上皮障害も問題となります6).三叉神経のニューロンは三叉神経節に存在し,その中枢枝は聴神経核や後小脳動脈などが混在する脳幹の三叉神経脊髄路核に達します.このため,脳外科手術後に中枢枝が傷害されたり,角膜ヘルペスでは三叉神経節のニューロン自体に炎症が波及していると考えられます.家族性自律神経失調症(Riley-Day症候群)は,三叉神経核あるいは神経節レベルの中枢性障害により先天的に角膜知覚が低下しています.治療〈従来の治療法〉神経麻痺性角膜症の治療法は,角膜神経を再生させる有効な治療法がないため,対症療法が基本となります7,8).神経麻痺性角膜症では角膜知覚低下により二次的に涙液分泌が抑制されるため,涙液分泌,眼瞼あるいは結膜など角膜を取り巻く環境を改善する治療を行うことは角膜の創傷治癒に有効ですが,これらは角膜の自然治癒力に依存した受動的な治療法で,積極的に角膜の創傷治癒を促進する治療法はいまだ開発されていません.〈神経伝達物質を用いた新しい治療法〉筆者らは神経麻痺性角膜症による角膜上皮修復を積極的に促進する治療法を開発するため,神経伝達物質,ホルモン,サイトカインなどをスクリーニングし,サブスタンスPとインスリン様成長因子(IGF-1)の同時添加が角膜上皮修復を促進することを見いだしました.1)サブスタンスPの最小必須配列の同定角膜には三叉神経第1枝の知覚神経が分布しており,その神経終末から角膜知覚を司る神経伝達物質サブスタンスPが放出されています.サブスタンスPは11個のアミノ酸からなるポリペプチドで,タキキニンファミあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131123 BdomainAdomainCdomainDdomainLCAEPRFVAREPCRSYARCSYAKDRIGQFLPTLVGCSYAREDCGGFSLPGFGKPMLGKNTSAEDCLQTVDSSSRLM-NH2FMLG+-NH2ssssss図2角膜上皮修復を促進するサブスタンスPとIGF.1の最小必須ペプチド(文献12,15,16より)SSSRLM-NH2FMLG+-NH2ssssss図2角膜上皮修復を促進するサブスタンスPとIGF.1の最小必須ペプチド(文献12,15,16より)リーに属するニューロペプチドです.筆者らはサブスタンスPと増殖因子であるIGF-1が相乗的に角膜上皮の伸びを促進することを見いだしました9,10).この効果は角膜器官培養系で発見され,家兎のinvivo系においても認められました11).しかし,サブスタンスPとIGF-1による点眼治療の臨床応用にあたっては,サブスタンスPの眼刺激性,縮瞳,難溶性などが問題でした.そこで,IGF-1との相乗効果に必須であるサブスタンスPの最小必須ペプチドの同定を試みました.11アミノ酸のサブスタンスPから4アミノ酸のフェニルアラニン-グリシン-ロイシン-メチオニン:FGLM-NH2を同定し,IGF-1との相乗効果を維持しながら,副反応を回避することに成功しました12).これにより,神経伝達物質を用いた新しい治療法を臨床応用することが可能となり,従来の治療法でまったく反応しなかった神経麻痺性角膜症の症例の治療に成功しました13,14).2)IGF-1の最小必須配列の同定IGF-1は70個のアミノ酸からなる蛋白質で,細胞膜表面の受容体に結合して,AktやMAPキナーゼなどの細胞内信号伝達系を介して,細胞増殖,蛋白合成,生存,分化などさまざまな作用を発揮します.IGF-1を点眼薬として使用することは,その副作用として腫瘍や血管新生を生じる危険性があることが予想されました.また,IGF-1などのサイトカインには多機能性や機能重複などの特徴があります.このため,相補機能がある反面,一つの因子を投与してもその作用が打ち消されたりすることで,生体内では効果が発揮されないこともあります.以上の理由からIGF-1の最小必須配列の同定も試みました.インスリンファミリーのアミノ酸構造の比較からCドメインが重要であることを突き止め15),最終的に4つのアミノ酸からなるペプチド(セリン-セリン-セリン-アルギニン:SSSR)が最小必須配列であることを見いだし,副作用の回避に成功しました16).11アミノ酸のサブスタンスPからはFGLM-NH2の4ペプチド,偶然にも70アミノ酸のIGF-1からも4アミノ酸のSSSRが同定され,これらの合成ペプチドを用いることによって臨床応用が可能となりました(図2).3)サブスタンスPによる上皮修復促進因子の感受性促進効果神経麻痺性角膜症に対するFGLM-NH2+SSSR点眼療法の臨床研究を進めると同時に,神経麻痺性角膜症の病態について,特にサブスタンスPがどのように作用して角膜上皮の修復に効果を発揮しているのかについても検討しました.サブスタンスPの上皮修復促進作用1124あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013FGRPKPQQFはカルシウム/カルモジュリンリン酸化系を介する細胞内蛋白質の活性化によることを見いだしました17)が,サブスタンスP単独投与では角膜上皮の創傷治癒の促進効果はみられませんでした.そこで,筆者らはIGF-1の感受性に着目して研究を進め,サブスタンスPによってIGF-1に対する感受性が亢進して,角膜上皮の修復を促進していることを突き止めました17).同様にサブスタンスPはフィブロネクチンやインターロイキン(IL)-6など角膜上皮修復を促進する因子の感受性を亢進させる働きがあることもわかりました.つまり,神経麻痺性角膜症において難治性の角膜上皮欠損が生じる発生機序の一つとして,角膜知覚神経の障害によりサブスタンスPが枯渇した状態では,上皮修復促進因子に対する感受性が低下していると考えられ,これらの因子が働かないことで軽微な外傷であっても角膜上皮の修復が遅延すると考えられました.創薬に向けて臨床応用では,FGLM-NH2+SSSR点眼療法を,神経麻痺性角膜症による遷延性角膜欠損症例25例26眼を対象に施行した結果,19眼(73%)の症例が平均10.5日で上皮欠損が完全に修復し,全例で有害事象はみられませんでした18).2009年9月より角膜知覚が低下した遷延性角膜上皮欠損を対象とした第2相多施設二重盲検比較試験が開始されています.近い将来,サブスタンスPとIGF-1由来のペプチド点眼療法が市販化されることが期待されます.文献1)NishidaT,YanaiR:Advancesintreatmentforneurotrophickeratopathy.CurrOpinOphthalmol20:276281,20092)MagendiePA:Del’influencedelacinquiemepairede(80) nerfssurlanutritionetlesfonctionsdel’oeil.JPhysiol(Paris)4:176-177,18243)RoseW:Surgicaltreatmentoftrigeminalneuralgia.Lancet1:295-302,18924)JaffeM:Neuroparalytickeratitis.ArchOphthalmol20:688-689,19385)OkadaY,ReinachPS,KitanoAetal:Neurotrophickeratopathy;itspathophysiologyandtreatment.HistolHistopathol25:771-780,20106)LockwoodA,Hope-RossM,ChellP:Neurotrophickeratopathyanddiabetesmellitus.Eye(Lond)20:837-839,20067)LambiaseA,RamaP,AloeLetal:Managementofneurotrophickeratopathy.CurrOpinOphthalmol10:270276,19998)PushkerN,DadaT,VajpayeeRBetal:Neurotrophickeratopathy.ClaoJ27:100-107,20019)NishidaT,NakamuraM,OfujiKetal:SynergisticeffectsofsubstancePwithinsulin-likegrowthfactor-1onepithelialmigrationofthecornea.JCellPhysiol169:159166,199610)NishidaT:Neurotrophicmediatorsandcornealwoundhealing.OculSurf3:194-202,200511)NakamuraM,NishidaT,OfujiKetal:SynergisticeffectofsubstancePwithepidermalgrowthfactoronepithelialmigrationinrabbitcornea.ExpEyeRes65:321-329,199712)NakamuraM,ChikamaT,NishidaT:SynergisticeffectwithPhe-Gly-Leu-Met-NH2oftheC-terminalofsubstancePandinsulin-likegrowthfactor-1onepithelialwoundhealingofrabbitcornea.BrJPharmacol127:489-497,199913)ChikamaT,FukudaK,MorishigeNetal:Treatmentofneurotrophickeratopathywithsubstance-P-derivedpeptide(FGLM)andinsulin-likegrowthfactorI.Lancet351:1783-1784,199814)NishidaT,ChikamaT,MorishigeNetal:Persistentepithelialdefectsduetoneurotrophickeratopathytreatedwithasubstancep-derivedpeptideandinsulin-likegrowthfactor1.JpnJOphthalmol51:442-447,200715)YamadaN,YanaiR,NakamuraMetal:RoleoftheCdomainofIGFsinsynergisticpromotion,withasubstanceP-derivedpeptide,ofrabbitcornealepithelialwoundhealing.InvestOphthalmolVisSci45:1125-1131,200416)YamadaN,YanaiR,KawamotoKetal:Promotionofcornealepithelialwoundhealingbyatetrapeptide(SSSR)derivedfromIGF-1.InvestOphthalmolVisSci47:32863292,200617)YamadaN,YanaiR,InuiMetal:SensitizingeffectofsubstancePoncornealepithelialmigrationinducedbyIGF-1,fibronectin,orinterleukin-6.InvestOphthalmolVisSci46:833-839,200518)YamadaN,MatsudaR,MorishigeNetal:Openclinicalstudyofeye-dropscontainingtetrapeptidesderivedfromsubstancePandinsulin-likegrowthfactor-1fortreatmentofpersistentcornealepithelialdefectsassociatedwithneurotrophickeratopathy.BrJOphthalmol92:896900,2008■「神経麻痺性角膜症に対する最新の治療法」を読んで:ノーヒット・ノーラン達成!!!■広い意味での神経原性機能障害には,顔面神経麻治療薬の開発に成功しました.栄養因子の同定だけで痺,脊髄損傷による麻痺,脳梗塞後の麻痺が含まれまも素晴らしい発見ですが,治療に際しての痛みが治療す.対象患者数が多いにもかかわらず,治療法が存在上の障害になることを見抜いた慧眼は,常に患者さんしないので,大きな社会問題になっています.眼科領の側に立った診療をしていなければ出てこない発想で域においても神経原性の機能障害は多数ありますが,しょう.疾患の病態解明,原因物質の同定,治療薬のやはり治療法がないために患者さんのみならずわれわ開発,臨床治験による効果の実証という行程には,通れ眼科医を苦しめていました.ところが,そのなかの常20年以上の時間がかかりますが,これをわずか7神経麻痺性角膜症の治療について,理想的な治療法が.8年で達成されたことは驚きです.日本で開発されました.今回,柳井亮二先生・西田輝未知の病態を解明して,その治療法を開発するとい夫先生が書かれているのがそれです.神経麻痺性角膜うことは,医学研究者の皆がもつ夢ですが,そのほと症の存在は古くから知られていましたが,原因は不明んどは見果てぬ夢に終わります.これを成し遂げるこでした.最近,神経栄養因子の枯渇という概念も提案とは,野球でいえばノーヒットノーランの達成にあたされましたが,原因因子が具体的に同定されておらるのではないでしょうか.網膜の三宅養三先生のお仕ず,また同定されたにしてもどの程度の重要性がある事がそれに該当すると思いますが,今回の柳井先生・のか不明でした.しかし,西田輝夫先生に率いられた西田先生のお仕事は,角膜におけるノーヒットノーラ山口大学のグループは,その栄養因子を同定したのみン達成といっても過言ではありません.本文には,そならず,栄養因子補給により症状が改善すること,栄のことがわかりやすく解説されています.養因子補給療法の問題点の描出と解決,栄養因子一般鹿児島大学医学部眼科学坂本泰二(81)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131125

私の緑内障薬チョイス 3.タフルプロスト(タプロス®

2013年8月31日 土曜日

連載③私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載③私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也3.タフルプロスト(タプロスR)久保田敏昭大分大学医学部眼科学講座タフルプロストは,防腐剤の塩化ベンザルコニウムの濃度がプロスタグランジン関連薬のなかでもっとも低い.正常眼圧緑内障への眼圧下降効果は十分期待できる.点眼容器は容器中央部にくぼみがあるディンプルボトルRで,持ちやすく点眼しやすい.容器の使いやすさ,差し心地の良さはアドヒアランスを高める効果がある.はじめにわが国で使用されている緑内障点眼薬は数多いが,第一選択薬として用いられるのはプロスタグランジン関連薬である.プロスト系プロスタグランジン関連薬は,1日1回点眼で終日持続する強力な眼圧下降・日内変動抑制効果を有し,連用による減弱や全身副作用がない優れた薬剤である.わが国では4種類の薬剤が使用可能である.それぞれの薬剤の眼圧下降効果は海外のメタ解析1,2)では,ラタノプロスト≒トラボプロスト≦ビマトプロストの傾向にあるとされる.ラタノプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの3剤を比較した自験例では,ビマトプロストがもっとも眼圧下降が良好であった3).個人的にはラタノプロスト=タフルプロスト≦トラボプロスト≦ビマトプロストと思っている.副作用には眼瞼・虹彩色素沈着,睫毛成長,眼周囲皮膚の多毛,結膜充血,角膜上皮障害,deepeningofuppereyelidsulcus(DUES)などがある.結膜充血は,ラタノプロスト<トラボプロスト≒ビマトプロストの傾向1,4)とされ,自験例ではラタノプロスト≒タフルプロスト<ビマトプロストであった.タフルプロストの利点タフルプロスト(タプロスR)の利点には,防腐剤の塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)の濃度がプロスタグランジン関連薬のなかでもっとも低いことがあげられる.また,タフルプロストの点眼容器は容器中央部にディンプル(くぼみ)があるディンプルボトルRで,持ちやすく点眼しやすい.容器の使いやすさ,差し心地の良さはアドヒアランスを高める効果がある.ラタノプロストとトラボプロストは,開封後は室温保存,開封前の保管は冷蔵保存であるのに対して,タフルプロストは室温で3年間安定とされ,冷蔵保存不要で(77)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1タフルプロスト(タプロスR)容器中央部にデインプル(くぼみ)があるディンプルボトルRで,持ちやすく点眼しやすい.ある.治療継続率を調べた報告5)でタフルプロストは良好な値が報告されており,臨床現場での印象と一致している.正常眼圧緑内障での眼圧下降効果正常眼圧緑内障患者でラタノプロストからタフルプロストに変更して,有意な眼圧下降が報告されている6).自験例でも正常眼圧緑内障患者でラタノプロストからタフルプロストに変更して,有意な眼圧下降が得られ,さらにタフルプロストからラタノプロストにswitchbackして,下降した眼圧が上昇したことを観察した7).眼圧下降は有意であったが,平均で1mmHg程度の眼圧の本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131121 表1プロスト系プロスタグランジン関連薬の比較一般名ラタノプロストトラボプロストタフルプロストビマトプロスト主な国内製剤キサラタンR0.005%トラバタンズR0.004%タプロスR0.0015%ルミガンR0.03%点眼回数1日1回1日1回1日1回1日1回pH6.5~6.9約5.75.7~6.36.9~7.5防腐剤BAC0.02%sofZiaRBAC0.001%BAC0.005%貯法遮光,2~8℃1~25℃室温室温国内発売1999年2007年2008年2009年ジェネリック医薬品ありなしなしなしその他ディンプルボトルR動きであったので,まだ今後の検討が必要と考えている.正常眼圧緑内障に対するタフルプロストの有効性の報告はほかにも散見され,タフルプロストの正常眼圧緑内障への眼圧下降効果は十分期待できる.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)中野聡子,久保田敏昭:ラタノプロストからタフルプロストへの切り替えによる長期効果.あたらしい眼科27:1727-1730,20104)HonrubiaF,Garcia-SanchezJ,PoloVetal:Conjunctivalhyperaemiawiththeuseoflatanoprostversusotherprostaglandinanaloguesinpatientswithocularhypertensionorglaucoma:ameta-analysisofrandomisedclinicaltrials.BrJOphthalmol93:316-321,20095)吉田紳一郎:タフルプロスト使用患者における1年間の治療継続率に関する調査結果.臨眼66:287-289,20126)NakanoT,YoshikawaK,KimuraTetal:Efficacyandsafetyoftafluprostinnormal-tensionglaucomawithintraocularpressureof16mmHgorless.JpnJOphthalmol55:605-613,20117)中室隆子,中野聡子,清崎邦洋ほか:正常眼圧緑内障に対するタフルプロストとラタノプロストの眼圧下降効果と安全性の比較.あたらしい眼科30:113-116,2013●1122あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(78)

抗VEGF治療:黄斑下血腫への抗VEGF薬の使用方法

2013年8月31日 土曜日

●連載⑮抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二5.黄斑下血腫への抗VEGF薬の使用方法馬場隆之山本修一千葉大学大学院医学研究院眼科学滲出型加齢黄斑変性(AMD)に伴う黄斑下血腫は大きな視力低下をきたしうる.程度が軽ければ抗VEGF薬や光線力学的療法など通常の治療法でよいが,高度の黄斑下血腫に対しては硝子体腔内ガス注入による血腫移動を行い,原疾患の治療のための抗VEGF薬の投与も早期に行う.はじめにによるpneumaticdisplacement(PD)が適応となる2).滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-器質化した出血は適応外であるが,発症後2週間以内でtion:AMD),特にポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalあれば血腫移動の効果が十分期待できる.choroidalvasculopathy:PCV)では,比較的出血量のPDの実際多い黄斑下血腫を生じることがある.網膜下出血が中心窩を含む場合,著しい視力低下をきたし,遷延すれば不点眼麻酔,消毒薬を用いた洗眼後に処置を行う.前房可逆性の網膜傷害は避けられない.脈絡膜血管が透見で穿刺により眼圧を低下させ,100%の六フッ化硫黄(SF6)きる程度の,比較的軽度の出血であれば抗VEGF薬単ガスを毛様体扁平部より27.30G針にて0.3.0.5ml程独治療が有効である1).一方,多量の出血が中心窩を含度注入する.眼圧を十分低下させ,一定のスピードでやんでみられるような黄斑下血腫の場合,硝子体腔内ガスやゆっくりと注入する.指数弁を確認し,眼圧上昇の予図1黄斑下血腫に対する抗VEGF薬併用ガス注入53歳,女性.左上:中心窩を含む黄斑下に約3乳頭径大の黄斑下血腫を認める.視力0.2.中上:フルオレセイン蛍光眼底造影ではclassicpatternを示す病変.右上:インドシアニングリーン蛍光眼底造影にてポリープ病変を確認.左下:SF6ガス+bevacizumab硝子体注入翌日の眼底.網膜下出血は下方へ移動.視力0.7.中下:治療1カ月後のフルオレセイン蛍光眼底造影.組織染がみられる.右下:インドシアニングリーン蛍光眼底造影にてポリープ病巣からの漏出減少.本症例ではこの後にポリープ病変に対して光凝固を行った.(75)あたらしい眼科Vol.30,No.8,201311190910-1810/13/\100/頁/JCOPY 防のため炭酸脱水酵素阻害薬の内服を行う.患者にはうつむき姿勢をとってもらう.抗VEGF薬併用PD組織プラスミノーゲンアクチベータ(tissueplasminogenactivator:tPA)の硝子体注入をPDに組み合わせる方法が以前から報告されているが,tPAを使用しなくても血腫移動の効果は十分に得られる3).むしろtPAではなくAMD病変自体の活動性を低下させる目的で,抗VEGF薬硝子体注入をPDに併用するほうが望ましい(図1).AMDによる黄斑下血腫の場合,PD自体はあくまで出血に対する対症療法であるので,原疾患の治療を早急に開始する目的で抗VEGF薬を併用する.これには,PD後の再出血を抑制する目的もある.抗VEGF薬の注入はガス注入に引き続き行う.当院ではbevacizumabおよびranibizumabを用いて,抗VEGF薬併用PDを2004年から行っているが,PD単独に比べて抗VEGF薬併用PDでは有意に術後6カ月までの視力経過が良好であり,再治療の回数も少なかった.合併症出血が網膜下から硝子体腔へ移動し,硝子体出血が生じることがある.吸収が遅い場合,眼底観察が困難であり,その後のAMD治療に支障をきたすため硝子体手術を行う.ただし,無硝子体眼では抗VEGF薬のクリアランスが上がるため,その後の抗VEGF薬による治療効果が低下することが危惧される.文献1)ShienbaumG,GarciaFilhoCA,FlynnHWJretal:Managementofsubmacularhemorrhagesecondarytoneovascularage-relatedmaculardegenerationwithanti-vascularendothelialgrowthfactormonotherapy.AmJOphthalmol155:1009-1013,20132)OhjiM,SaitoY,HayashiAetal:Pneumaticdisplacementofsubretinalhemorrhagewithouttissueplasminogenactivator.ArchOphthalmol116:1326-1332,19983)FujikawaM,SawadaO,MiyakeTetal:Comparisonofpneumaticdisplacementforsubmacularhemorrhageswithgasaloneandgasplustissueplasminogenactivator.Retina,inpress☆☆☆1120あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(76)

緑内障:AhmedTM緑内障バルブ

2013年8月31日 土曜日

●連載158緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也158.AhmedTM緑内障バルブ井上立州オリンピア眼科病院AhmedTM緑内障バルブは弁機能をもつチューブシャントである.術後の合併症の頻度が軽減され,術翌日から眼圧下降が得られる.チューブシャント術後に眼圧再上昇がみられた場合,プレート周囲の結合組織の除去により,眼圧を再度下降させることができる.BaerveldtR緑内障インプラントと比較すると眼圧コントロールは劣る可能性があるため,適応には十分注意する必要がある.●AhmedTM緑内障バルブ緑内障チューブシャントの種類には,弁があるAhmedTM緑内障バルブ(AhmedTMGlaucomaValve,以下AGV)と弁のないBaerveldtR緑内障インプラント(BaerveldtRGlaucomaImplant,以下BGI),MoltenoTMインプラントがある.AGVには術後の過剰濾過を防ぎ,低眼圧,合併症を軽減する目的で弁機能がある.AGVには,プレートのサイズが2種類,プレートの材質が2種類ある.プレートのサイズは,表面積が184mm2のものと小児用の96mm2のものがある.プレートの材質はポリプロピレンとシリコーンがあり,ポリプロピレン製では,プレートの大きいS2と小児用のS3,シリコーン製ではFP7とFP8がある.硝子体腔挿入用のparsplanaclipが付いたタイプもある.プレートの素材の違いによる術後成績では,シリコーン製のほうが良好という報告もある1).AGVの手術方法は,弁があるため,BGIで必要な,チューブの結紮やチューブ内に挿入するステントや,チューブに縫合針で穴をあけて早期に房水を漏出させるためのSherwoodslitは必要ない.AGVはBGIと比較するとプレートのサイズが小さく,プレートは直筋の間に収まるため,90°程度の輪部結膜切開で挿入できる.結膜下を.離し,チューブの露出を防ぐために,強膜弁を作製する.保存強膜が使用できる場合は,チューブを被覆する.バルブは挿入前に通水を確認する.プレートを結膜下に挿入し,輪部から8.10mmの位置に非吸収糸で2カ所固定する.チューブの長さを調節し,23ゲージ針で前房穿刺し,粘弾性物質を前房に注入し,チューブを前房内に挿入する.AGVは術直後より,チューブが機能するため,粘弾性物質は前房内に残したままでよ(73)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1AGV術翌日の前眼部写真前房内の炎症も軽度で,前房も深く保たれている.い.粘弾性物質により,術後も前房は安定しやすい.弁機能をもつAGVの場合,チューブに対する処置が不要なため,手術手技が簡便で,手術時間も短時間ですむため,術後の炎症も軽度である(図1).AGVでは,術直後から房水がチューブを通して流れるため,術翌日より,眼圧下降が得られ,前房も安定しやすい.●チューブシャント手術後の眼圧上昇に対する処置チューブシャント手術後に眼圧再上昇がみられることがある.チューブシャント後の眼圧上昇の原因として,プレート周囲の結合組織によるTenon.の被膜化がある.眼圧再上昇例に対しては,毛様体破壊術,濾過手術,被膜の除去,新たなチューブシャント手術などの方法がある.被膜の切除は既存のチューブシャントを利用して眼圧を下降させることができる.AGVの場合,弁機能があるため被膜を切開した際にも前房が保たれる(図2).あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131117 図2AGVの被膜切除プレート上の結膜を切開し,プレート周囲の被膜を切除する.AGVのプレートが露出している(矢印).被膜の切除を行っても,再度眼圧上昇がみられる場合もある.この場合は2つめのチューブシャント手術が有効なことがある.AGVの場合,プレートが直筋の間に収まるため,別の象限に2つめのチューブシャントを挿入できる.●AhmedTM緑内障バルブとBaerveldtR緑内障インプラントの術後成績現在わが国では,チューブシャント手術としてBGIが認可されている.海外ではこれまでにAGVとBGIの多施設の前向き無作為比較試験(RCTstudy)が報告されている.AhmedBaerveldtComparisonStudy(ABCstudy)ではAGVFP-7とBGIのプレート面積350mm2の比較で,術後眼圧は,1日目,1週目はAGVで眼圧が低く,1カ月,3カ月,1年後でBGIが低くなっている2,3).生命表解析では,眼圧5.14mmHgを成功と定義すると,BGI群で有意に成功率が高かった.再手術例は緑内障に対する手術はAGV群で多かった.術後の視力は両群とも手術前と比較すると有意な悪化がみられ,BGI群でより視力低下が強かった.術後3カ月以内の早期合併症は,BGIでチューブ閉塞と角膜浮腫が多く,3カ月以降の晩期合併症の頻度に差はなかった.再手術と2段階以上の視力低下は,BGIで多かった.同じように,AGVFP-7とBGI350mm2を比較したAhmedVersusBaerveldtStudy(AVBstudy)では,術後眼圧は2週目まではAGVで低く,12カ月後はBGIで低くなっている4,5).生命表解析では,5.18mmHgを生存と定義すると,BGIで成功率が高かった.術後合併症の頻度は両群で差はなかった.AGVではencapsulatedblebの頻度が高く,BGIでは角膜浮腫が多かった.ABCstudyとAVBstudyの結果は,眼圧下降はBGIでより低い眼圧にコントロールされ,合併症はAGVで少なかった.この結果は,AGVで弁機能があることが,BGIでプレート表面積が大きいことが影響していると考えられる.現在わが国ではBGIしか使用できないが,今後AGVが使用可能になれば,より眼圧を下げる必要がある例ではBGIを選択し,高度な視神経・視野障害例で,術後早期に眼圧下降が必要な症例や術後の合併症を回避したい症例ではAGVを選択するなど,症例による使い分けが可能となる.文献1)IshidaK,NetlandPA,CostaVPetal:ComparisonofpolypropyleneandsiliconeAhmedglaucomavalve.Ophthalmology113:1320-1326,20062)BartonK,GeddeSJ,BudenzDLetal:TheAhmedBaerveldtComparisonStudymethodology,baselinepatientcharacteristics,andintraoperativecomplications.Ophthalmology118:435-442,20113)BudenzDL,BartonK,FeuerWJetal:TreatmentoutcomesintheAhmedBaerveldtComparisonStudyafter1yearoffollow-up.Ophthalmology118:443-452,20114)ChristakisPG,TsaiJC,ZurakowskiDetal:TheAhmedVersusBaerveldtStudy:Design,baselinepatientcharacteristics,andintraoperativecomplications.Ophthalmology118:2172-2179,20115)ChristakisPG,KalenakJW,ZurakowskiDetal:TheAhmedVersusBaerveldtStudy:One-yeartreatmentoutcomes.Ophthalmology118:2180-2189,2011☆☆☆1118あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(74)

屈折矯正手術:カラテクタジアへのクロスリンキング

2013年8月31日 土曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載159大橋裕一坪田一男159.ケラテクタジアへのクロスリンキング脇舛耕一*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学レーザー屈折矯正術後ケラテクタジアはまれではあるが進行性で不可逆的な視機能の低下をきたす重篤な合併症である.角膜クロスリンキングは角膜実質コラーゲン線維間の架橋構造を増強して角膜強度を高める方法であり,ケラテクタジアの進行を停止できる治療法としてその効果が期待されている.ケラテクタジア(角膜拡張症)はレーザー屈折矯正手術における重篤な術後合併症の一つである.レーザー屈折矯正術後に,特に角膜下方を中心とした角膜の急峻化,菲薄化をきたす病態で,円錐角膜様の角膜形状となる.ケラテクタジアの発症率は0.04%とされている1)が,不可逆性であり,進行とともに近視,不正乱視が増大し裸眼および矯正視力が低下する症例も認められる.ケラテクタジア発症に関する最も重要なリスクファクターは角膜形状異常であり,円錐角膜やペルーシド角膜変性のほか,formfrustkeratoconus(FFK)とよばれる,いわゆる円錐角膜疑いである.FFKの判定法は様々であるが,TMSR(TOMEY)での円錐角膜自動診断プログラムやOrbscanR(Bosch&Lomb)での角膜後面形状評価でカラーコード4色以上2),OPD-ScanR(NIDEK)のCornealNavigatorRでの診断などの方法がある.そのほかのリスクファクターとしては,過剰な切除による残存角膜厚不足や年齢などがある.ケラテクタジアが発症する術式としては,レーザー屈折矯正手術のなかでもlaserinsitukeratomileusis(LASIK)の術後が多いが,なかにはphotorefractivekeratectomy(PRK)術後に発症した報告もある3).また,ケラテクタジアの発症時期は数カ月から数年後にわたる症例もあり3),レーザー屈折矯正術後長期にわたる経過観察が必要である.このケラテクタジアに対する治療法として,近年角膜クロスリンキングが注目されてきた.角膜クロスリンキングは円錐角膜の進行を停止させる治療法として2003年に初めて報告された方法であり4),現在では日本を含め多数の国で施行されている.角膜クロスリンキングの原理は,角膜実質のコラーゲン線維間に存在する架橋構造を人為的に増加させ,角膜の強度や剛性を高め変形を起こりにくくするものである.具体的には,リボフラビン(ビタミンB2)を角膜実質内に浸透させ,そこへ370(71)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYnmの長波長紫外線(ultravioletA:UVA)を照射すると活性酸素が発生し,その作用により角膜実質コラーゲン線維間に架橋構造が形成され,角膜の強度が増す.この方法により円錐角膜のほか,ケラテクタジアの進行停止を図ることができるようになったが,UVAによる角膜内皮細胞障害を防ぐため角膜実質厚が400μm以上(角膜上皮を合わせると全体で450μm以上)必要とされている5).角膜クロスリンキングの基本的な手順は「ドレスデンプロトコール」とよばれる方法であり4),この方法に基づいたバプテスト眼科クリニックでの手技を以下に述べる.最初に超音波パキメトリーで角膜厚を確認後,4%キシロカインR点眼を角膜上皮に90秒浸透させたのち,専用の上皮擦過ブラシで角膜上皮を8mm径.離する.上皮.離後に再度角膜厚を測定し,等浸透圧リボフラビンを点眼して角膜実質内に浸透させる.2分ごとに30分間点眼した後,上皮.離範囲を越えた角膜実質および前房水が黄色く染色されていることでリボフラビンが十分浸透したことを確認し,また角膜厚を再測定する.この時点で最薄部の角膜厚が400μm未満となっていた場合,低浸透圧リボフラビンを点眼して角膜実質を膨潤させる.角膜厚が400μm以上となることが確認できたら,その後リボフラビン点眼を継続しながら370nmのUVAを3.0mW/cm2で30分間照射して終了する.施行後は疼痛軽減目的に角膜上皮が治癒するまでソフトコンタクトレンズを装用し,また術後の感染やhaze(図1),角膜実質混濁発生の予防に抗菌薬や低濃度ステロイド薬などの点眼を継続する.具体的な症例を提示する.LASIK後に左眼のケラテクタジアを発症した38歳の女性で,28歳のときにLASIKを施行.施行前の視力はVS=0.1(1.5×sph.3.5D(cyl.0.5DAx90°),角膜厚は513μmであり,あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131115 〈1週間後〉〈3カ月後〉〈LASIK3年後〉〈LASIK5年後〉〈LASIK10年後〉VS0.6(1.2×S1.5C0.5A120)VS0.8(1.2×S1.5C-3.0A110)VS0.1(0.8×S0.5C-6.0A110)〈3カ月後〉〈6カ月後〉〈1年後〉VS0.1(0.7×S2.0C4.0A110)VS0.1(0.9×S2.5C5.0A110)VS0.3(1.0×S1.5C5.0A110)〈1週間後〉〈3カ月後〉〈LASIK3年後〉〈LASIK5年後〉〈LASIK10年後〉VS0.6(1.2×S1.5C0.5A120)VS0.8(1.2×S1.5C-3.0A110)VS0.1(0.8×S0.5C-6.0A110)〈3カ月後〉〈6カ月後〉〈1年後〉VS0.1(0.7×S2.0C4.0A110)VS0.1(0.9×S2.5C5.0A110)VS0.3(1.0×S1.5C5.0A110)特に角膜形状異常は認めなかった.術後2年ではVS=1.2(1.5×sph.0.5D(cyl.0.5DAx120°),3年ではVS=0.6(1.2×sph.1.5D(cyl.0.5DAx120°)で明らかな角膜形状異常は認めなかったが,4年目の視力がVS=0.4(1.2×sph.1.0D(cyl.2.5DAx110°)となり,乱視の増強と角膜形状異常の出現を認めた.その後も経年的に角膜形状異常が増強し,10年目にVS=0.1(0.8×sph.0.5D(cyl.6.0DAx110°)となった時点で角膜クロスリンキングを施行した(図2).施行後は乱視度数の増加を認めず,角膜形状異常の進行も停止し,施行後1年の時点ではVS=0.3(1.0×sph.1.5D(cyl.5.0DAx110°)であり,施行前よりやや形状の改善を認めた(図3).このように,ドレスデンプロトコールによるケラテクタジア進行停止効果の有効性が認められるが,弱点として角膜実質厚が400μm未満の症例には施行できないこと,患者に長時間の仰臥位継続を強いることなどがある.これらの弱点を克服するため,近年では上皮を.離せずに角膜厚を確保してクロスリンキングを施行する方法や,UVAの照射時間を短縮した方法も開発されてき1116あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013図1角膜クロスリンキング後のhaze角膜クロスリンキング後合併症の一つであり,施行1週間後ではまだ強いものの,多くの症例では1.3カ月で著明な改善を認める.図2LASIK術後ケラテクタジアの経過LASIK施行3年後では明らかな角膜形状異常を認めないが,5年後では角膜中央やや下方を中心とした突出を認め,経年的に増強を認めた.図3図2に対する角膜クロスリンキング施行後の経過施行後はケラテクタジアの進行は停止し,経時的に突出の改善を認めている.ているが,これらの方法の有効性については今後確認が必要である.また,角膜クロスリンキング単独では視機能の改善効果は期待できないため,今後他の治療法との組み合わせなどによる,さらなる視機能改善法の確立が期待される.文献1)RandlemanJB,RussellB,WardMAetal:RiskfactorsandprognosisforcornealectasiaafterLASIK.Ophthalmology110:267-275,20032)TanabeT,OshikaT,TomidokoroAetal:Standardizedcolor-codedscalesforanteriorandposteriorelevationmapsofscanningslitcornealtopography.Ophthalmology109:1298-1302,20023)RandlemanJB,WoodwardM,LynnMJetal:Riskassessmentforectasiaaftercornealrefractivesurgery.Ophthalmology115:37-50,20084)WollensakG,SporlE,SeilerT:Riboflavin/ultraviolet-ainducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkeratoconus.AmJOphthalmol135:620-627,20035)WollensakG,SporlE,ReberFetal:Cornealendothelialcytotoxicityofriboflavin/UVAtreatmentinvitro.OphthalmicRes35:324-328,2003(72)

眼内レンズ:多焦点眼内レンズ強膜内固定術

2013年8月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎太田俊彦324.多焦点眼内レンズ強膜内固定術順天堂大学医学部附属静岡病院眼科最近新しい眼内レンズ(IOL)二次挿入術として,IOL強膜内固定術が報告された.IOL強膜内固定術は従来のIOL縫着術と比較して,術後にIOLの偏心や傾斜をほとんど認めないために,多焦点IOLの二次挿入に適した術式と考えられる.使用する多焦点IOLは,回折型の3ピースタイプを用いる.本術式により,多焦点IOLの適応が広がる可能性がある.●多焦点眼内レンズ(IOL)の二次挿入多焦点IOLの普及に伴い,IOLを固定する.のない術後無水晶体眼に対する多焦点IOLの二次挿入が問題となっている..のない術後無水晶体眼に対するIOL二次挿入は,現在IOL縫着術が一般に行われている.しかし,本術式はIOLの偏心や傾斜を高率に認めるため,特に多焦点IOL縫着眼では術後の視機能が劣ることが懸念される.実際,多焦点IOL縫着術に関する報告は少なく1,2),ほとんど行われていないのが現状である.適当な多焦点IOLの二次挿入法がないことが,多焦点IOLの適応を狭め,その普及の足かせともなっている.しかし,新しいIOL二次挿入術であるIOL強膜内固定術の登場により,状況は大きく変わろうとしている.●IOL強膜内固定術とはIOL強膜内固定術の基本術式は,眼内に挿入したIOLの支持部を硝子体鑷子などで把持して強膜創より眼外へ抜き出し,その支持部先端を強膜トンネル内に挿入して固定するというものである.強膜内固定術では支持部を直接強膜内に固定するために,煩雑な縫合操作がなく,IOLの偏心や傾斜をほとんど認めず,通常の3ピースIOLも利用可能である(図1).さらに,縫着術では挿入後にIOL偏位を認めても整復は困難であるが,強膜内固定術では容易に整復が可能である.IOL強膜内固定術の概念は,2007年にGaborら3)により初めて報告されたが,筆者はより簡便で安全な「Y-fixationtechnique」を考案し,実際の臨床例において良好な術後成績を得ている4.6).さらに,本術式を多焦点IOLの二次挿入時にも用いて,良好な結果を得ている.図1IOL強膜内固定術IOL支持部が直接強膜内に固定されるために,術後にIOLの偏心や傾斜をほとんど認めない.図2回折型マルチピース多焦点IOL(ReSTORR,MN6AD1,アルコン社)●多焦点IOLの選択と度数二次挿入においては,.内固定と異なりIOLの偏心が危惧されるために,屈折型よりも偏心に強い回折型が望ましい.現在わが国においては,おもに破.時のバックアップ用として,アルコン社とAMO社より回折型の3ピースタイプのIOLが発売されている.挿入IOL度数は基本的に.内固定IOL度数より1D減じたものを用いている.●多焦点IOL強膜内固定術施行例症例:51歳,男性.原因不明の右眼の水晶体落下により,近医より当科紹介受診.右眼眼底下方に落下水晶体を認め,視力は右眼0.07(1.2×+9.0D),左眼0.08(1.2×.5.25D)であった.両眼に多焦点IOLの挿入を希望したため,右眼は,硝子体切除と硝子体カッターによる水晶体切除後に,「Y-fixationtechnique」による多焦点IOL強膜内固定術を施行し,回折型マルチピース多焦点IOL(ReSTORR,MN6AD1,アルコン社)(図2)を用いた.左眼は超音波水晶体乳化吸引術後に回折型シングルピース多焦点IOL(ReSTORR,SN6AD1,アル(69)あたらしい眼科Vol.30,No.8,201311130910-1810/13/\100/頁/JCOPY abab定は良好である.コン社)の.内固定を行った.術後経過は良好で,術後6カ月の遠方視力は両眼ともに1.2(矯正不能),近方視力も両眼ともに0.8(矯正不能)であった(図3).前眼部光干渉断層計(OCT)検査では,右眼の強膜内固定術施行眼において多焦点IOLの偏心,傾斜を認めず,眼内での固定は良好であった(図4).波面収差解析装置による高次収差解析結果やコントラスト感度においても,両眼の間にほとんど差は認めなかった.患者は遠方視力,近方視力ともに満足しており,グレア,ハローの訴えもなかった.おわりにIOL強膜内固定術は,術後にIOLの偏心や傾斜をほとんど認めず,多焦点IOLの二次挿入に適した術式であると考えられる.問題点として,強膜内固定術の長期予後が不明な点があげられるが,筆者の4年間における約180眼の経験では特に問題を認めていない.IOL強膜内固定術は多焦点IOLの適応を拡大する可能性があ図3術後前眼部写真a:強膜内固定眼(右眼)b:.内固定眼(左眼強膜内固定眼は,.内固).(,)定眼と同様に多焦点IOLの偏心や傾斜を認めず固ab図4前眼部光干渉断層計(OCT)所見a:強膜内固定眼(右眼),b:.内固定眼(左眼).OCT所見でも,強膜内固定眼は.内固定眼と同様に多焦点IOLの偏心や傾斜を認めず固定は良好である.り,今後の発展が期待される.文献1)JacobiPC,DietleinTS,JacobiFK:Scleralfixationofsecondaryfoldablemultifocalintraocularlensimplantsinchildrenandyoungadults.Ophthalmology109:2315-2324,20022)中村邦彦,吉野健一:多焦点眼内レンズ毛様溝縫着.あたらしい眼科28:1131-1132,20113)GaborSGB,PavlidisMM:Suturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlensfixation.JCataractRefractSurg33:1851-1854,20074)OhtaT:Y-fixationtechnique.GluedIOL.p88-96,JaypeeBrothersMedPub,NewDelhi,20125)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術.あたらしい眼科29:1513-1514,20126)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術.IOL&RS27:13-20,2013

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン③

2013年8月31日 土曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②3本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.ソフトコンタクトレンズによる角膜感染症にはどんなものがありますか?講師稲田紀子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野角膜感染症は原因病原体により,細菌性角膜炎,真菌性角膜炎,アカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakeratitis:AK)に分類されるが,ソフトコンタクトレンズ(SCL)に関連する代表的な角膜炎は,細菌性角膜炎とAKで,真菌性角膜炎の発症頻度は少ないとされる.感染性角膜炎におけるAKの占める割合は多くはないが,AK発症の原因のほとんどがCL装用で,注意すべきSCL関連角膜感染症にあげられる.細菌性角膜炎,AKともに,CLの取り扱いやケアに問題のある装用者に発症する.ケア不良として,長時間装用や毎日交換および2週間頻回交換SCLの装用期間の延長,CLの擦り洗い不良,レンズケースの洗浄・交換不足などがあげられる.細菌性角膜炎のおもな原因菌は,グラム陽性菌であればブドウ球菌属,グラム陰性菌であれば緑膿菌,セラチア菌である.特に緑膿菌角膜炎は,重篤で進行が速く,角膜穿孔に至ることがある.緑膿菌角膜炎の初期病巣は,類円形の膿瘍であるが,病巣に比較して角膜実質の細胞浸潤が強く(スリガラス状混濁),前房蓄膿を伴う虹彩炎がみられ,その後輪状膿瘍へと進行する(図1).また,緑膿菌が産生するプロテアーゼなどによる角膜実質の融解や,ブラシ状混濁といわれる膿瘍周囲にみられる線状の白色混濁は,緑膿菌角膜炎の特徴的所見とされる.緑膿菌角膜炎と診断,あるいは疑われた症例には,早急に感受性のある抗菌薬を投与することが必要である.局所投与にはアミノグリコシド系,フルオロキノロン系抗菌点眼薬を,全身投与には第三,四世代セフェム系抗菌薬などを使用する.AKは,進行は比較的緩慢であるが,確定診断までに時間を要することが多く,診断しても特効薬が存在しないため,治療に苦慮する疾患である.感染初期にみられる偽樹枝状角膜炎は,単純ヘルペスウイルスによる樹枝状角膜炎との鑑別が重要で,時間の経過とともに輪状膿瘍,円板状膿瘍に進展する.AKに特異的で,診断に有用な所見は,感染初期からみられる放射状角膜神経炎である(図2).AKの診断は,角膜病巣擦過物から塗抹染色標本を作成するとともに培養検査を施行して,アメーバシストあるいはトロホゾイトを検出することが必要である.治療は,角膜病巣擦過と消毒薬点眼が有効である.←図1緑膿菌角膜炎前房蓄膿を伴う強い虹彩炎と円形の角膜膿瘍がみられる.角膜全面は角膜実質の細胞浸潤のためにスリガラス状を呈している.→図2アカントアメーバ角膜炎角膜中央部に偽樹枝状病巣がみられ,周辺部に放射状角膜神経炎が多発している.(67)あたらしい眼科Vol.30,No.8,201311110910-1810/13/\100/頁/JCOPY ソフトコンタクトレンズ装用を中止してほしいのに,止めてくれない患者にはどのような対処をしたらよいでしょうか?講師稲田紀子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野患者に対してSCLの装用中止を勧告しなくてはならない前眼部の病態として,角結膜上皮障害,感染症および巨大乳頭結膜炎などがあげられる.角結膜に強い炎症を生じる疾患の場合には,異物感や眼痛,充血といった自覚症状が出現するため,SCL装用が困難となり自己中止していることがほとんどである.それと比較して,巨大乳頭結膜炎(図3)や角膜周辺部にみられる角膜血管新生,pigmentedslide(図4)などは自覚症状に乏しく,治療上SCLの中止を指示しても,中止の指示が守られない場合がある.SCLの中止には,まず,どのような理由でSCLの中止を指示するのかを明確にしなければならない.患者へは,①現在の病態,②適切な処置をしない場合にどのような状態に陥るのか,③治療目標を説明する.説明に図3巨大乳頭結膜炎は,平易でわかりやすい言葉を選び,本人の角結膜の状態をモニターで提示しながら,増悪した場合の話をするのも良い方法である.治療目標として,改善した際の症状や所見を説明するのも一つだが,治療見込み期間を提示するような方法で,患者に治療を継続させる工夫が必要となる.SCLを装用しながら薬物治療をしなければならない場合には,SCLの装用時間を短縮して,可能な限りSCL非装用時に点眼薬を使用するように指示する.点眼薬の種類によっては,点眼回数の少ない薬剤を選択することもアドヒアランスの観点から有用である.SCL上からの点眼は注意が必要であり,1日使い捨てSCLにpHの低い抗アレルギー薬を点眼するとSCLの含水率が低下して,タイトフィッティングになることが報告されている.また,フルオロキノロン系抗菌点眼液の種類によっては,成分がCL表面に析出・沈着することがある.さらに,SCL上からの副腎皮質ステロイド薬の点眼は,角膜感染症をひき起こす可能性が高く,避けるべき処方である.ただし,医師からの注意がなければ,患者はCLを装用したまま点眼してよいと判断するため,その危険性を説明して処方しなければならない.図4Pigmentedslide(提供:植田喜一先生)1112あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(00)

写真:ポリープ状脈絡膜血管症(フィブリン沈着)

2013年8月31日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦351.ポリープ状脈絡膜血管症寺尾信宏(フィブリン沈着)京都府立医科大学眼科学/市立福知山市民病院眼科①②③④図2図1のシェーマ①:橙赤色隆起性病変.②:白色病変(フィブリン沈着).③:漿液性網膜.離.④:網膜色素異常(atrophictract).図1ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)約3乳頭径大の漿液性網膜.離(SRD)内に橙赤色病変,その周囲にはフィブリン沈着によると考えられる結節状の白色病変を認める.黄斑から下方にかけて網膜色素上皮(RPE)障害に伴う網膜色素異常(atrophictract)を認める.図3フルオレセイン蛍光眼底造影(左:FA早期,右:FA後期)造影早期から蛍光漏出を認め,後期にはこれがより強い結節状の過蛍光所見となる(矢印).この変化はフィブリンによる組織染であり,classicCNV(脈絡膜新生血管)との鑑別を要する(pseudoclassicCNVともよばれる).黄斑から下方にかけてのびまん性過蛍光所見はRPE障害によるwindowdefectである.図4インドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)FAでの過蛍光巣はICGAでも強い過蛍光を示している.ポリープ状病巣である(矢印).異常血管網も検出されている(白破線丸囲み).(65)あたらしい眼科Vol.30,No.8,201311090910-1810/13/\100/頁/JCOPY ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvas-culopathy:PCV)は,1990年にYannuzziらが最初に報告した疾患であり1),日本人を含むアジア人に高頻度に認められる加齢黄斑変性(AMD)の特殊型である2).PCVは脈絡膜内層から網膜色素上皮(RPE)直下の異常血管網とポリープ状病巣で構成される.検眼鏡的所見ではポリープ状病巣は橙赤色隆起病巣として確認され,光干渉断層計(OCT)ではポリープ状病巣は急峻な網膜色素上皮(RPE)の隆起性変化として,異常血管網はRPEおよびその下方に異常血管網+Bruch膜による高反射の2層化(doublelayersign)として観察され3),確定診断にはインドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)によるポリープ状病巣の検出が有用である.検眼鏡的に白色結節病巣がある症例で(図1),その病巣のなかにICGAにてポリープ状病巣が検出されることがある(図4).PCVのポリープ状病巣は網膜下への透過性亢進のために網膜下にフィブリンが析出することがあり,結節所見は網膜下のフィブリン沈着と考えられる.このような病巣のフルオレセイン蛍光眼底造影ではフィブリンの組織染によって網膜下に進展した脈絡膜新生血管(CNV)(Gass分類type2CNV)に類似したclassicCNVのパターンを示すことがあり(図3)4),とりわけこれを‘pseudoclassicCNV’とよぶ.フィブリン沈着があると,その後方はブロックのため不明瞭となるが,spectral-domainOCTではフィブリン下のポリープの検出率が高くなり,フィブリンは網膜下の中.高反射像として,ポリープ病巣は急峻な立ち上がりを示すRPEの隆起として観察される(図5).図5光干渉断層計像(OCT)水平断網膜外層にはフィブリン沈着が中等度から比較的高度な反射像を示している(白矢印).その下には急峻な立ち上がりを示す網膜色素上皮(RPE)の隆起が認められる.その内部には中等度反射像があり,血管成分を含んでいると考えられ,ポリープ状病巣本体と考えられる.ICGAで確認された異常血管網はdoublelayersignを呈する(赤矢頭).文献1)YannuzziLA,SorensonJ,SpaideRFetal:Idiopathicpolypoidalchoroidalvasculopathy(IPCV).Retina10:1-8,19902)UyamaM,WadaM,NagaiYetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:naturalhistory.AmJOphthalmol133:639-648,20023)SatoT,KishiS,WatanabeGetal:Tomographicfeaturesofbranchingvascularnetworksinpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina27:589-594,20074)TamuraH,TsujikawaA,OtaniAetal:Polypoidalchoroidalvasculopathyappearingasclassicchoroidalneovascularisationonflruoreseinangiography.BrJOphthalmol91:1152-1159,20071110(00)あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013