眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人佐竹良之5.アレルギー性結膜炎のエッセンス東京歯科大学市川総合病院眼科アレルギー性結膜疾患は,日常診療で診察することが多い眼表面疾患の一つであり,根治することが難しい疾患でもある.治療の中心は点眼薬でのメディカルケアであるが,予防として抗原を回避するセルフケアも非常に重要である.●はじめにアレルギー性結膜疾患は,日常診療で診察する機会も非常に多く,眼表面の炎症にとどまらずQOLの低下を招くことも多々ある.近年,抗原特異的免疫療法が食物アレルギーや耳鼻科領域のスギ花粉症に対する唯一の根治的治療法として臨床応用されているが,眼科領域ではまだ普及していないのが現状である.治療の中心はメディカルケア(薬物療法)となるが,あくまでも対症療法であり,抗原回避などのセルフケアも非常に重要である1).メディカルケア,セルフケアを効果的に行うためには,医師と患者が十分なコミュニケーションをとることが重要となる.●メディカルケア薬物療法を進めるうえで,疾患の病態の把握ならびに点眼薬の特徴を十分に理解し,病態に即した点眼薬を選択することが重要である.1.抗アレルギー薬ヒスタミンH1受容体拮抗薬は,マスト細胞から放出されたヒスタミンがその受容体と結合することを阻害する.効果発現は即効性であり,ヒスタミンにより引き起こされる眼.痒感,充血,浮腫(図1)を主症状とするスギ花粉症(季節性アレルギー性結膜炎)などで第一選択薬となる.メディエーター遊離抑制薬は,マスト細胞の膜安定化作用だけでなく,種々の炎症細胞の組織への集積や活性化も抑制する.ヒスタミンH1受容体拮抗薬とは異なり,その効果発現は緩やかで1週間ほど時間を要することから,花粉飛散開始1,2週間前から始める初期療法2)や,炎症細胞がより病態に関与する春季カタル,アトピー性角結膜炎などでよりその効果を発揮する.2.免疫抑制薬免疫抑制薬は,巨大乳頭増殖(図2)を伴う春季カタルやアトピー性角結膜炎が適応疾患となる.結膜組織に浸潤し,炎症の司令塔であるT細胞の働きを抑制し,その影響下にある炎症細胞の働きを制御することでアレルギー炎症をコントロールする.3.ステロイド薬ステロイド薬は,炎症細胞の結膜組織への浸潤やその図1結膜充血と浮腫(スギ花粉症,季節性アレルギー性結膜炎)図2巨大乳頭増殖(春季カタル)(65)あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156750910-1810/15/\100/頁/JCOPY図3落屑様角膜上皮障害図4シールド潰瘍活性化の抑制,血管透過性抑制など広汎な抗炎症作用を示す.抗アレルギー点眼薬で効果不十分の場合や,春季カタルやアトピー性角結膜炎で上皮障害(図3,4)を併発するほど瞼結膜の炎症が強い状況で併用する.副作用として眼圧上昇や感染症の誘発,白内障があり,とくに小児や若年者でその頻度が高いので,定期的な診察が必要となる.●セルフケアアレルギー性疾患は,原因抗原との接触の回避や除去を効果的に行うことで発症予防や症状緩和が期待できる.患者自身がセルフケアとして抗原の回避,除去を効果的に行うためには,日常診療の場で医師と患者が十分なコミュニケーションをとり,患者の状況にあった医療情報を提供することが重要である.そこではじめて適切な対応が可能となる.花粉症では,原因植物の花粉飛散時期だけでなく,飛散範囲などその花粉の特徴を理解することが重要である.スギなどの樹木花粉は飛散距離が長く,広範囲に飛散するが,雑草類やイネ科などの花粉は飛散距離が短く,生息地域に限局する.これらを基にして屋外で花粉防止眼鏡やマスクを装用することは,花粉抗原との接触を減らし,症状を軽減するものとして効果的である.一方,ハウスダスト,ダニなど室内抗原に対しては,室内の環境,掃除を年間を通して工夫する必要がある.とくに,夜間に眼.痒感が強く,よく目を擦る場合には,寝具の対策が重要となる.●近未来の治療概念感作時の抗原の侵入経路には議論の余地はあるもの676あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015の,結膜での抗原暴露がアレルギー反応の直接の誘因になっていることは明白である.近年,自然免疫から獲得免疫までの一連の免疫応答の過程で,上皮細胞が抗原侵入の初期段階で重要な役割を担っていることが明らかになっている3).結膜上皮に関連するバリア機能には,涙液やムチンによる機能的バリアと,結膜上皮そのものによる物理(構造)的バリアがある.アレルギー炎症が発症していない時期でも,結膜上皮の細胞間接着機能が脆弱であったり4),杯細胞数が減少しているとの報告5)もあり,臨床的に正常と判断される段階でも組織学的には障害されていることを示している.この潜在的な結膜上皮障害が結膜のバリア機能を低下させ,抗原の侵入を容易にすることで,アレルギー反応の誘因となる可能性も考えられる.結膜上皮を常に健全な状態にしておくことは,アレルギー性結膜疾患などの眼表面疾患の発症予防に繋がるものとして期待される.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:833-870,20102)高村悦子:アレルギー性結膜炎の治療・初期治療,季節前投与.アレルギーの臨床14:650-654,19943)CayrolC,GirardJP:IL-33:analarmincytokinewithcrucialrolesininnateimmunity,inflammationandallergy.CurrOpinImmunol31:31-37,20144)HughesJL,LackiePM,WilsonSJetal:Reducedstructuralproteinsintheconjunctivalepitheliuminallergiceyedisease.Allergy61:1268-1274,20065)DogruM,Asano-KatoN,TanakaMetal:OcularsurfaceandMUC5ACalterationsinatopicpatientswithcornealshieldulcers.CurrEyeRes30:897-908,2005(66)