特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1789.1795,2014特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1789.1795,2014硝子体の「OCTを読む」DiagnosticImagingoftheVitreousbyOpticalCoherenceTomography板倉宏高*はじめに黄斑部には黄斑円孔,黄斑前膜,硝子体黄斑牽引症候群など,発症に硝子体による牽引の関与した疾患が好発し,これらを網膜硝子体界面病変という.界面病変を理解するためには,黄斑部硝子体の特殊構造を知る必要がある.しかし,硝子体は透明であるため,細隙灯顕微鏡のみで網膜との関係を観察するのはむずかしい.一方,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は透明な硝子体でも描出することができる.最近ではスペクトラルドメインOCT(spectral-domainOCT:SDOCT),さらにはスウェプトソースOCT(swept-sourceOCT:SS-OCT)の登場で硝子体のより精密な観察が可能になった.IOCTで硝子体を撮影するコツOCTで硝子体を撮影するコツは,網膜を画面のなるべく下方に位置させ,ピントを網膜前方の硝子体に合わせることである.また,スキャンする長さをできるだけ長く設定すると後部硝子体の全貌を把握しやすい.シラスSD-OCT(Zeiss社)では,scanlengthを9mmに設定することができる.また,画像の重ね合わせ(加算平均)によるスペックルノイズの除去によって,より鮮明な画像が得られる.SS-OCTは深さ方向の信号低下が少ないため,さらに硝子体の観察に優れている.DRIOCT-1(トプコン社)は,水平・垂直方向で最大12mmの広角スキャンが2Dおよび3Dで検索可能な最新のSS-OCT装置であり,後極全体の硝子体画像を明瞭に描出できる.撮影した硝子体が不明瞭な場合でも,撮影後にコントラストを調節することで,硝子体ゲルや皮質の輪郭が浮き出てくる.II黄斑部硝子体の特殊構造ヒトの眼の硝子体には,黄斑前に生理的な液化腔がある.1990年に岸らは,剖検眼を染色することでこれを観察し,『ArchivesOphthalmology』誌に報告した.「Posteriorprecorticalvitreouspocket:後部硝子体皮質前ポケット(通称,岸ポケット)」である1).岸ポケットの後壁をなす皮質が黄斑部を牽引することで,さまざまな黄斑疾患に関与する.2002年,硝子体手術にトリアムシノロン染色が導入されると,生体眼の岸ポケットを術中に観察できるようになった2).2009年,SD-OCTのimageを加算平均することで硝子体ゲルが描出可能となり,やや不鮮明なものの正常眼でも岸ポケットを断面で観察できるようになった(図1)3).岸ポケットは左右の眼でほぼ対称の扁平な舟形の形状であり,その前壁は硝子体ゲルで,後壁は薄い後部硝子体皮質からなる.水平断で観察すると,視神経乳頭から前方にのびるクローケ管(Cloquet’scanal)と岸ポケットとの間には隔壁がある.垂直方向でスキャンすると岸ポケットは上方が下方よりも膨らんだ形状をしている.2012年にSS-OCTが登場すると,さらに岸ポケットの詳細が明らかとなった(図2)4).SS-OCTで観察すると,Clo*HirotakaItakura:前橋赤十字病院眼科/群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野〔別刷請求先〕板倉宏高:〒371-0014群馬県前橋市朝日町3-21-36前橋赤十字病院眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(51)17891790あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(52)る.強度近視眼では,中心窩から岸ポケット前壁までの距離が正視眼よりも大きい(図6)8).また,岸ポケットとCloquet管との隔壁も高い傾向がある.一方で,岸ポケットの幅は近視が強くてもあまり変わらない.眼軸が長くなるほど,岸ポケットも眼軸方向に大きくなるものと考えられる.III網膜硝子体界面疾患への新しい治療法最近,黄斑円孔などの網膜硝子体界面疾患の新しい治療法として,酵素的硝子体融解薬の硝子体注射が行われはじめている9).これは,不完全に.離した後部硝子体皮質と網膜との癒着を薬剤によって融解し,硝子体手術をせずに硝子体の牽引を解除する治療法である.この治療の適応判断にはOCTによる硝子体画像診断が必須となる.特に重要なのは,後部硝子体.離(posteriorvit-reousdetachment:PVD)のステージを診断することである.ステージによって,黄斑への牽引の掛かり方がquet管と岸ポケットとの間には連絡通路がある.抗酸化物質や酸素などに富んだ房水が,Cloquet管を介して岸ポケットへと流入し,黄斑に何らかの影響を及ぼしているのかもしれない(図3).岸ポケットは,体位によって変形する.OCT検査は通常,座位で行うが,手持ち式のSD-OCT,iVue-100(Optovue社)を用いて仰臥位で検索すると,岸ポケットの前壁は仰臥位では座位よりも前方に移動する(図4)5).岸ポケットは生後,裂隙のごとく出現し,成長とともに深さ方向に膨らんで船形を呈する(図5)6,7).岸ポケットとCloquet管との連絡通路は3.4歳では観察できないが5歳から出現し,成長とともに観察頻度は増加し,11歳で50%となる.岸ポケットとCloquet管の連絡通路は後天的に形成されると推測される.硝子体ゲルの密度が低く,SD-OCTでは見えづらかった強度近視眼の岸ポケットもSS-OCTなら観察でき右眼(水平断)右眼(垂直断)左眼(水平断)左眼(垂直断)耳側鼻側pc鼻側耳側pc下方上方p下方上方p図1スペクトラルドメインOCT(シラスSD-OCT,Zeiss社)による岸ポケットの観察35歳,男性.岸ポケットは左右の眼で対称的な形状をしている.その前壁は硝子体ゲル(矢印)で,後壁は薄い後部硝子体皮質からなる.岸ポケットとCloquet管との間には隔壁がある.垂直断では,岸ポケットの上方は下方よりも前方に膨らんでいる.p:岸ポケット,c:Cloquet管.右眼(水平断)右眼(垂直断)左眼(水平断)左眼(垂直断)耳側鼻側pc鼻側耳側pc下方上方p下方上方p図1スペクトラルドメインOCT(シラスSD-OCT,Zeiss社)による岸ポケットの観察35歳,男性.岸ポケットは左右の眼で対称的な形状をしている.その前壁は硝子体ゲル(矢印)で,後壁は薄い後部硝子体皮質からなる.岸ポケットとCloquet管との間には隔壁がある.垂直断では,岸ポケットの上方は下方よりも前方に膨らんでいる.p:岸ポケット,c:Cloquet管.あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141791(53)図2スウェプトソースOCT(DRIOCT-1,トプコン社)による岸ポケットの観察30歳,男性.岸ポケットの前壁をなす硝子体ゲル(黄矢印)がスペクトラルドメインOCT(SD-OCT)よりもさらに鮮明に描出される.黄斑と視神経乳頭を通る付近を水平断で観察すると,岸ポケットとCloquet管との隔壁の前方には両者を連絡する通路(白矢印)がある(A).垂直断では,岸ポケットの上方は下方よりも前方に膨らんでいる(B).視神経乳頭部を垂直にスキャンするとCloquet管は前方に伸びている(C).p:岸ポケット,c:Cloquet管.右眼耳側鼻側pcpc左眼鼻側耳側A上方下方pp右眼左眼上方下方Bcc右眼左眼上方下方上方下方CスOCT(DRIOCT-1,トプコン社)による岸ポケットの観察30歳,男性.岸ポケットの前壁をなす硝子体ゲル(黄矢印)がスペクトラルドメインOCT(SD-OCT)よりもさらに鮮明に描出される.黄斑と視神経乳頭を通る付近を水平断で観察すると,岸ポケットとCloquet管との隔壁の前方には両者を連絡する通路(白矢印)がある(A).垂直断では,岸ポケットの上方は下方よりも前方に膨らんでいる(B).視神経乳頭部を垂直にスキャンするとCloquet管は前方に伸びている(C).p:岸ポケット,c:Cloquet管.A右眼pcpc左眼p右眼耳側鼻側鼻側耳側Bp左眼上方下方上方下方Ccc右眼左眼上方下方上方下方(53)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141791pcpcpcpc図3Cloquet管を介した岸ポケットへの房水の流入(推測)左図は房水流入経路のシェーマ.右図は後極のスウェプトソースOCT画像.連絡通路(黄矢印)を介して房水が岸ポケットに流入している可能性がある.p:岸ポケット,c:Cloquet管.座位仰臥位pp下方上方下方上方図4体位による岸ポケットの変形手持ち式のSD-OCT,iVue-100(Optovue社)による観察.岸ポケットの前壁は仰臥位では座位よりも前方に移動する.あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141793(55)3歳5歳8歳cpcpcp図5小児の岸ポケット(スウェプトソースOCT画像)岸ポケットは生後,裂隙のごとく出現し(黄矢印),成長とともに深さ方向に膨らんで船形を呈する.岸ポケットとCloquet管との連絡通路は3.4歳では観察できないが5歳くらいから出現し(白矢印),成長とともに観察頻度が増す.岸ポケットとCloquet管の連絡通路は後天的に形成されると推測される.pc耳側鼻側図6強度近視眼の岸ポケット(スウェプトソースOCT画像)31歳,男性,右眼.-13Dの強度近視.硝子体ゲルは,強度近視眼では液化が強く,正視眼よりも反射が弱い.強度近視眼では,網膜から岸ポケット前壁(黄矢印)までの距離が大きく,岸ポケットは前方に大きい形状をしている.また,岸ポケットとCloquet管との隔壁(白矢印)も高い.その一方で,岸ポケットの幅は近視が強くてもあまり変わらない.Stage0Stage1Stage2Stage3Stage4pppp部分PVD=PVDなし=完全PVD=図7後部硝子体.離(PVD)の進展(スウェプトソースOCT画像)岸ポケットの後壁(黄矢印)は加齢とともに黄斑周囲で厚みを増し,徐々に.離する(stage1:paramacularPVD).やがて傍中心窩PVD(stage2:perifovealPVD)となり,さらに岸ポケットごと中心窩から離れ(stage3:vitreofovealseparation),最後に視神経乳頭から.離して完全PVD(stage4:completePVD)となる.Stage1.3が完全PVDに至る前段階の部分PVD.完全PVDを生じると,細隙灯顕微鏡検査でWeissringが観察され,OCTでは網膜の前方から硝子体ゲルの反射がなくなる.cp3歳cp5歳cp8歳図5小児の岸ポケット(スウェプトソースOCT画像)岸ポケットは生後,裂隙のごとく出現し(黄矢印),成長とともに深さ方向に膨らんで船形を呈する.岸ポケットとCloquet管との連絡通路は3.4歳では観察できないが5歳くらいから出現し(白矢印),成長とともに観察頻度が増す.岸ポケットとCloquet管の連絡通路は後天的に形成されると推測される.図7後部硝子体.離(PVD)の進展(スウェプトソースOCT画像)岸ポケットの後壁(黄矢印)は加齢とともに黄斑周囲で厚みを増し,徐々に.離する(stage1:paramacularPVD).やがて傍中心窩PVD(stage2:perifovealPVD)となり,さらに岸ポケットごと中心窩から離れ(stage3:vitreofovealseparation),最後に視神経乳頭から.離して完全PVD(stage4:completePVD)となる.Stage1.3が完全PVDに至る前段階の部分PVD.完全PVDを生じると,細隙灯顕微鏡検査でWeissringが観察され,OCTでは網膜の前方から硝子体ゲルの反射がなくなる.pc耳側鼻側図6強度近視眼の岸ポケット(スウェプトソースOCT画像)31歳,男性,右眼.-13Dの強度近視.硝子体ゲルは,強度近視眼では液化が強く,正視眼よりも反射が弱い.強度近視眼では,網膜から岸ポケット前壁(黄矢印)までの距離が大きく,岸ポケットは前方に大きい形状をしている.また,岸ポケットとCloquet管との隔壁(白矢印)も高い.その一方で,岸ポケットの幅は近視が強くてもあまり変わらない.PVDなし=Stage0Stage1部分PVD=Stage2Stage3完全PVD=Stage4pppp(55)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141793A■:完全PVD■:部分PVD■:PVDなし0%25%50%75%100%1001189296924543134314438017320~2930~3940~4950~5960~6970~79歳(n=60)(n=36)(n=48)(n=56)(n=93)(n=70)B■:完全PVD■:部分PVD■:PVDなし0%25%50%75%100%624702647264621322617571538396420~2930~3940~4950~5960~6970~79歳(n=17)(n=19)(n=28)(n=23)(n=40)(n=24)図8後部硝子体.離(PosteriorVitreousDetachment:PVD)と年齢分布正常眼(A)では,50.60歳代で部分PVDが好発する.一方,強度近視(B)では,より若年から部分PVDを生じ,完全PVDへと進展する.症例もあったが,SS-OCTでは,ほぼ全例でPVDを診断できる.硝子体手術前にPVDの有無を確認したい場合,SS-OCTで岸ポケットが描出されれば硝子体は未.離だと診断できる.Stage1.3のいわゆる部分PVDから完全PVDへの進展は50.60歳代にピークを迎え,黄斑円孔や裂孔原性網膜.離の好発年齢と一致する(図8A).強度近視眼では,若いうちから硝子体の液化が進み,PVDの発症年齢も若い(図8B).Spaideらは,黄斑円孔の僚眼をOCTで観察し,岸ポケットの後壁と中心窩との接着面積が少ないほど,中心1794あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014窩を挙上させる力が強く,黄斑円孔のリスクが高まると報告した11).このようなリスクがある状態を,黄斑円孔を生じる前段階で検出し,治療することで発症を予防できるようになるかもしれない.■用語解説■網膜硝子体界面病変:黄斑円孔,黄斑前膜,硝子体黄斑牽引症候群など.加齢に伴い硝子体が液化し,後部硝子体皮質が黄斑を牽引することで発症する疾患群.後部硝子体皮質前ポケット(posteriorprecorticalvitreouspocket=通称,岸ポケット):ヒトの目の硝子体に存在する,黄斑前の生理的な液化腔.網膜硝子体界面病変の発症に関与するが,その生理的機能はこれまで不明であった.クローケ管(Cloquet'scanal):硝子体中を,視神経から水晶体後面に向かって伸びる管腔.1次硝子体の遺残として存在し,胎生期には硝子体動脈が通っている.文献1)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19902)SakamotoT,MiyazakiM,HisatomiTetal:Triamcinolone-assistedparsplanavitrectomyimprovesthesurgicalproceduresanddecreasesthepostoperativeblood-ocularbarrierbreakdown.GraefesArchClinExpOphthalmol240:423-429,20023)ItakuraH,KishiS:Agingchangesofvitreomacularinterface.Retina31:1400-1404,20114)ItakuraH,KishiS,LiDetal:Observationofposteriorprecorticalvitreouspocketusingswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:3102-3107,20135)ItakuraH,KishiS:Alterationsofposteriorprecorticalvitreouspocketswithpositionalchanges.Retina33:14171420,20136)YokoiT,ToriyamaN,YamaneTetal:Developmentofapremacularvitreouspocket.JAMAOphthalmol131:1095-1096,20137)LiD,KishiS,ItakuraHetal:Posteriorprecorticalvitreouspocketsandconnectingchannelsinchildrenonswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:2412-2416,20148)ItakuraH,KishiS,LiDetal:Vitreouschangesinhighmyopiaobservedbyswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:1447-1452,20149)StalmansP,BenzMS,GandorferAetal:MIVI-TRUST(56)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141795(57)StudyGroup:Enzymaticvitreolysiswithocriplasminforvitreomaculartractionandmacularholes.NEnglJMed367:606-615,201210)ItakuraH,KishiS:Evolutionofvitreomaculardetach-mentinnormalsubjects.JAMAOphthalmol131:1348-1352,201311)SpaideRF,WongD,FisherYetal:Correlationofvitre-ousattachmentandfovealdeformationinearlymacularholestates.AmJOphthalmol133:226-229,2002