特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1223.1228,2012特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1223.1228,2012光線力学的療法(PDT)との併用療法CombinedTherapyofAnti-VEGFTreatmentandPhotodynamicTherapy(PDT)永井由巳*I抗VEGF療法滲出型加齢黄斑変性(exudativeage-relatedmaculardegeneration:AMD)をはじめ,黄斑部中心窩下に生じる脈絡膜新生血管(CNV)に対する治療法として,最近は抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法が中心となった.国内ではAMDに対してのみ承認されている薬剤として,pegaptanib(MacugenR)とranibizumab(LucentisR)とが投与されており,その他のCNVに対しては,各施設の倫理委員会の審議承認の下でbevacizumab(AvastinR)が使用されている.抗VEGF薬の単独投与の成績については国内外で臨床試験を含めて報告1.4)があり,どの報告もCNVに対して効果的に作用し,視機能の維持,改善を認めている.そのため,中心窩下CNVに対して2004年に承認され多くの施設で行われていた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の実施数は,抗VEGF療法の出現とともに減少し,PDTは過去の治療になるとさえ言われはじめていた.抗VEGF薬単独療法は,疾患により差は認めるものの,複数回にわたる硝子体内投与を行わなくてはならない.AMDにおける臨床試験である,MARINA試験1)(minimallyclassicCNVとoccultCNVに対するranibizumab投与試験)やANCHOR試験2)(predominantlyclassicCNVに対するranibizumab投与試験)では,ranibizumabを毎月24カ月投与することで視力の改善効果を得ている.しかしながら,臨床の現場でAMD患者を全例毎月診察して毎月投与するということは,患者側,医療側双方にとって物理的,経済的負担が大きい.その後,ranibizumab導入期の3カ月は毎月投与で,その後の維持期は視力や検眼鏡所見,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の結果で治療の適応がある際にのみ再投与(prorenata:PRN)するPrONTO試験3)が行われ,24カ月後に導入期の視力改善を維持することができ,毎月連続投与を行って得られた治療成績と同等の結果を得た.上記のPrONTO試験の結果に基づき,わが国でもranibizumabの維持期における再投与ガイドラインも作成され,視力や眼底所見,OCT所見でもって投与の判断を行う基準4)が示された.また,海外における維持期の投与方法の臨床試験の結果5)からも,診察時の所見に応じてPRNする方法であれば,毎月24カ月連続投与したときと同等の視力改善効果を得ることができることが示され,現在は多くの施設でranibizumabの維持期における投与はPRNで行っている.AMDに対して,抗VEGF薬を上記のとおりPRNで投与することで,12カ月後,24カ月後における滲出抑制および視力の改善効果を得た報告が国内でも散見されるようになった6,7).どの報告でも平均視力は最初の導入期で改善した状態で維持されており,AMDに対する治療の第一選択となっている.しかしながら,多くの症例で滲出抑制の効果を認める反面,ranibizumabを投与*YoshimiNagai:関西医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕永井由巳:〒573-1191枚方市新町2-3-1関西医科大学附属枚方病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(47)1223してもまったく反応を認めない症例(non-responder)や,投与し始めた頃は滲出抑制効果を認めていたものの次第に効果が減弱して効かなくなる症例(tachyphylaxis)も認められる.当教室での自験例8)では,12カ月経過観察できたAMDの症例〔典型AMDとポリープ状脈絡膜血管症(PCV)〕のなかで10.1%(22眼/218眼)が導入期の投与で無反応を示し(non-responder),1眼を除きすべてフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)におけるCNVの分類でocculttypeを示していた.この結果は,抗VEGF薬の網膜色素上皮下病変への作用が弱い可能性を示唆しているのと同時に,同じような症例でも効果を認めるものと反応がみられない症例とが混在することからgenotypeの差異9,10)を含めた他の原因によることも考えられる.II光線力学的療法(PDT)との併用療法上記のとおり,現状では抗VEGF療法がCNVに対する第一選択となっているが,前述のようなnon-responderやtachyphylaxisの存在,CNVのサブタイプによって効果に差異が認められることなどから,結果的に投与回数が多くなることもある.そのため,治療効果を高める,あるいは抗VEGF薬の投与回数を減らす目的でPDTを併用することもある.RanibizumabとPDTを併用した海外での試験では,AMDにおける病型により反応に差異が認められている.まず,AMDのすべてのCNVサブタイプを対象にしたMONTBLANC試験11)において,治療開始から12カ月後の視力は,predominantlyclassicCNVではranibizumab併用PDT群とPDT単独治療群でほぼ同等の成績で,occultCNVとminimallyclassicCNVではranibizumab単独治療群が併用群より良かった.視力以外の評価では,導入期を含めて12カ月間のranibizumab投与回数が単独治療群より併用群が若干少ないこと(単独治療群:5.1回,併用群:4.8回),治療後の中心窩網膜厚の減少は併用群のほうが良好であったことがあげられる.これらのことから,滲出抑制効果は併用群のほうが強いが,視力の改善についてはranibizumab単独群よりやや劣るといえ,PDT併用の抗VEGF療法1224あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012を行う際には症例選択を慎重に行う必要がある.日本人のAMDにおいて30.50%を占めるとされる12,13)PCVに対するPDTは良好な成績を示しており14),抗VEGF療法よりもPDTのほうが短期的には治療効果が高い.しかしながら,PDT単独では視力の改善度という点では,抗VEGF療法の成績に比べ見劣りする.特に複数回のPDTを行うと,網膜の菲薄化を起こし視力の改善も小さくなることが多い.これらの抗VEGF療法とPDTの弱点を補う意味でPDTを併用した抗VEGF療法を行うと,抗VEGF療法の抗血管新生作用と抗透過性亢進作用にPDTの血管内皮傷害による血管閉塞作用が合わさり,また,PDT後の一過性の滲出増加(血管外漏出)やPDT後のVEGF増加などの副作用を抗VEGF薬が抑制することにより,より効果的に滲出抑制効果を得ることができる.PCVについてPDT単独治療,ranibizumab単独投与,併用療法の3群で投与後の成績を比較したEVEREST試験15)では,視力はどの群も改善したが,ポリープ状病巣の完全閉塞を得た症例はPDT単独群,併用療法群がranibizumab単独投与群よりも有意に多い結果であった.この結果は,このようなPDTとranibizumabの作用機序の相乗効果によるものと考えられる.AMDのなかでも治療抵抗性が高いとされている,網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)については,これまで光凝固や硝子体手術下での流入血管切断,PDT,triamcinolone(KenacortR)のTenon.下あるいは硝子体内注射などさまざまな治療が行われてきたがいずれも再発率が高い.抗VEGF薬が登場する前はtriamcinoloneを投与してから10日前後時間をあけてPDTを行う併用療法を施行することが多かった(pharmacology,pause,photodynamictherapy:PPP)16).抗VEGF薬を使用するようになり,ranibizumab単独療法の報告も散見されるが,Hemeidaらはbevacizumab,ranibizumab投与後12カ月で視力を維持できた症例は73.3%で,再燃傾向が強く75%の症例で24カ月間に再投与を行ったにもかかわらず視力を維持できた症例は62.5%であったと報告している17).このように抗VEGF薬単独療法では十分な治療効果を得られないことから,病巣が網膜内新生血管に限局して(48)いるstage1よりも進行したstageの症例にに対しては,PDT群,bevacizumab併用PDT群の6カ月での視力多くの施設で抗VEGF薬併用PDTかさらにtriamcino成績は,PDT単独治療群が55.6%で視力維持(視力悪loneも併用したトリプル療法を行っている.筆者らの化が44.4%)をしたのに対し,triamcinolone併用群,自験例で,PDT単独治療群と,triamcinolone併用bevacizumab併用群ともに87.5%の症例で視力を維持b図1RAPに対するranibizumab,triamcinolone併用PDTの症例(治療前)症例は81歳,男性.左眼の中心暗点,変視症,視力低下で受診.矯正視力は0.5.FA….a:治療前眼底:左眼眼底には網膜表層出血と網膜色素上皮.離(PED),癒合性軟性ドルーゼンを認めた.b,c:FA.PEDの部位は早期(b)から淡い過蛍光を示し,後期(c)になるとPEDは均一な過蛍光を呈していた.黄斑部耳側に新生血管を示唆する蛍光漏出を認めた.…………….CME..Bumpsign……..PEDdLV..0.5……FA……………………………………………………PED..a……..cd:OCT.ドーム状のPEDを2箇所認め,その間に漿液性網膜.離を認める.耳側のPEDにはbumpsignを認め,網膜には網膜浮腫(CNE)を認めていた.e:治療前IA.PEDは終始低蛍光を示し,その内部に矢印で示す流入血管と流出血管から成るRAP病巣を認めた.f:PDTの際のGLDとレーザー照射域.トリプル療法実施時のPDTは,GLD(病巣最大直径)が5,024μm,レーザー照射径はPDTの手順どおり1,000μmを加えて6,024μmで行った.GLD5024μmRAP病巣PEDefIAトリプル療法実施Ranibizumab,triamcinolone,PDT(49)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121225していた18).また,治療から12カ月の経過をみた成績として,Saitoらはbevacizumab併用PDT群で100%の症例で視力を維持し,46.0%で改善したと報告し19),Leeらはranibizumab併用PDT群で100%の症例で視力を維持,改善は54.5%と報告している20).筆者らはRAPに対してはトリプル療法を行っているが(図1,2),この場合も12カ月後の視力は100%で維持していた21).PED….CME…………….PEDCME..PED….LV..0.6..LV..0.8..de……….Ranibizumab4……..PED….CME….cLV=..0.5..CME….PED……aLV=..0.5..Ranibizumab2……..PED….bLV=..0.5..Ranibizumab3……..これらの結果より,現在のところ,RAPに対しては,ranibizumab併用PDT,あるいはtriamcinoloneも併用したトリプル療法がスタンダードな治療となっている.以上の国内外の報告や自験例の治療成績から,当科ではRAPを除くAMDに対しては原則として抗VFGF薬投与を第一選択と考えているが,視力が0.6.0.7以下で大きな漿液性網膜色素上皮.離(PED)を伴うような図2RAPに対するranibizumab,triamcinolone併用PDTの症例(治療後経過)a:初回治療1カ月後.ranibizumab2回目投与.PEDは平坦化し,CMEは消失した.視力は0.5.b:初回治療2カ月後.ranibizumab3回目投与.PED,CMEは完全消失した.矯正視力は0.5.c:初回治療3カ月後.PEDとCMEは消失したままで,視力も0.5を維持していた.d:初回治療7カ月後.PEDとCMEが再発した.視力は0.6.滲出再燃のためranibizumabの追加投与を行った(4回目).e:初回治療8カ月後.PED,CMEは完全に吸収消失した.矯正視力は0.8.1226あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(50)occultCNVのAMDやPCVについては,初回治療時からPDT併用抗VEGF療法を採用している.特に,occultCNVのなかでも抗VEGF薬の反応が弱いfibrovascularPEDに対しては併用療法を行うことが多い.RAPは前述のとおり,triamcinoloneも用いたトリプル療法を行っている.また,抗VEGF薬投与とPDTの間隔については,議論の余地があり,どのタイミングで行うかは現状では各施設の判断で行われている.当科では,抗VEGF薬を投与してあまり時間を経てからPDTを行うのはPDTの効果を弱める可能性があると考え,同日(PDTを行ってから,無灯火顕微鏡下での抗VEGF薬投与)に行っている.AMD以外のCNVに対してはType2のCNV(FAにおけるclassicCNVとほぼ同一)であることが多く,抗VEGF薬単独療法が第一選択治療であり,PDTの併用療法を行うことはほとんどない.おわりにCNVに対する抗VEGF単独療法は,滲出を抑制し視力の維持改善効果を認める治療法であり,現在のCNV治療の主流である.しかしながら,なかには効果の弱いCNVのタイプもあり,また,まったく効果を認めないあるいは効果の減弱する症例も認められる.このような症例にはPDTを併用した抗VEGF薬投与を行うことで,治療効果を高めることが可能となったと同時に,抗VEGF薬の投与回数減少や硝子体内注射による合併症のリスク軽減などの物理的な面や治療費の負担軽減などにも寄与している.しかしながら,PDT併用療法のほうが視力の改善が弱いという報告もあるので,どのような症例に行うべきかは,今後も慎重に適応を検討する必要があると思われる.文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20062)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed44:1432-1444,20063)LalwaniGA,RosenfeldPJ,FungAEetal:Avariable-dosingregimenwithintravitrealranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:year2ofthePrONTOStudy.AmJOphthalmol148:43-58,20094)田野保雄,大路正人,石橋達朗ほか:ラニビズマブ(遺伝子組換え)の維持期における再投与ガイドライン.日眼会誌113:1098-1103,20095)MitchellP,KorobelnikJF,LanzettaPetal:Ranibizumab(Lucentis)inneovascularage-relatedmaculardegeneration:evidencefromclinicaltrials.BrJOphthalmol94:2-13,20106)NakamuraT,MiyakoshiA,FujitaKetal:One-YearResultsofPhotodynamicTherapyCombinedwithIntravitrealranibizumabforExudativeAge-RelatedMacularDegeneration.JOphthalmol.2012:154659,20127)HikichiT,HiguchiM,MatsushitaTetal:One-yearresultsofthreemonthlyranibizumabinjectionsandas-neededreinjectionsforpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanesepatients.AmJOphthalmol154:117-124,20128)尾辻剛,永井由巳,正健一郎ほか:加齢黄斑変性に対するラニビズマブ無反応例の検討.厚生労働省難治性疾患克服研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班平成21年度報告書,p153-156,20109)TeperSJ,NowinskaA,PilatJetal:Involvementofgeneticfactorsintheresponsetoavariable-dosingranibizumabtreatmentregimenforage-relatedmaculardegeneration.MolVis16:2598-2604,201010)Kloeckener-GruissemB,BarthelmesD,LabsSetal:GeneticassociationwithresponsetointravitrealranibizumabinpatientswithneovascularAMD.InvestOphthalmolVisSci52:4694-4702,201111)LarsenM,Schmidt-ErfurthU,LanzettaPetal:Verteporfinplusranibizumabforchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration:twelve-monthMONTBLANCstudyresults.Ophthalmology119:9921000,201212)UyamaM,WadaM,NagaiYetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:naturalhistory.AmJOphthalmol133:639-648,200213)ShoK,TakahashiK,YamadaHetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy.ArchOphthalmol121:1392-1396,200314)SaitoM,IidaT,NagayamaD:Photodynamictherapywithverteporfinforage-relatedmaculardegenerationorpolypoidalchoroidalvasculopathy:comparisonofthepresenceofserousretinalpigmentepithelialdetachment.BrJOphthalmol92:1642-1647,200815)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTSTUDY:EfficacyandSafetyofVerteporfinPhotodynamicTherapyinCombinationwithRanibizumaborAloneVersusRanibizumabMonotherapyinPatientswithSymptomaticMacularPolypoidalChoroidalVasculopathy.Retina32:1453(51)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212271464,201216)FreundKB,KlaisCM,EandiCMetal:Sequencedcombinedintravitrealtriamcinoloneandindocyaninegreenangiography-guidedphotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.ArchOphthalmol124:487492,200617)HemeidaTS,KeanePA,DustinLetal:Long-termvisualandanatomicaloutcomesfollowinganti-VEGFmonotherapyforretinalangiomatousproliferation.BrJOphthalmol94:701-705,201018)永井由巳,五味文,沢美喜ほか:網膜血管腫状増殖に対して行った薬物併用の光線力学的療法.日眼会誌112(臨時増刊号):255,200819)SaitoM,ShiragamiC,ShiragaFetal:Comparisonofintravitrealtriamcinoloneacetonidewithphotodynamictherapyandintravitrealbevacizumabwithphotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.AmJOphthalmol149:472-481,201020)LeeMY,KimKS,LeeWK:CombinationtherapyofranibizumabandphotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferationwithserouspigmentepithelialdetachmentinKoreanpatients:twelve-monthsresults.Retina31:65-73,201121)有澤章子,永井由巳,西川真生ほか:網膜血管腫状増殖に対するPDTトリプル療法の1年成績.第65回日本臨床眼科学会抄録集,p65,20111228あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(52)