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抗VEGF治療:未熟児網膜症と抗VEGF薬

2012年9月30日 日曜日

●連載④抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二2.未熟児網膜症と抗VEGF薬福島慶美直井信久宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野未熟児網膜症(ROP)に対する治療の第一選択は,光凝固であることはいうまでもないが,適切と思われる時期に光凝固を行っても予後不良な症例がある.2011年に米国から発表されたBEAT-ROPstudyの結果では,zoneI網膜症に対するbevacizumabの有効性が示された.本稿ではROPに対する抗VEGF薬による治療効果について概説する.未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)の発症には,網膜無血管領域からの血管内皮増殖因子(VEGF)を始めとする血管増殖因子が強く関与していると考えられており,近年,抗VEGF薬の硝子体内投与による治療が試みられている.抗VEGF薬治療として最もよく行われているのは,bevacizumabを1眼あたり0.625mg,上方の角膜輪部より0.75.1.5mm程度離れた位置より水晶体を避けて硝子体内に注入する方法である.抗VEGF薬の使用法は治療目的によりSalvagetherapy,Combinationtherapy,Monotherapyの3つに大別され,Salvagetherapyでは光凝固後に黄斑部を含む部分網膜.離や全網膜.離に進行した例に対し追加治療として,Combinationtherapyではそれより前の段階で光凝固と同時か後に投与される.Monotherapyは光凝固の代替治療として光凝固を行わずに本治療を行うもの投与前である.筆者らの施設ではETROPstudy1)の治療基準をもとに2009年11月から全身麻酔下でMonotherapyを行っている.2012年7月までに67眼に治療を行い,全例でROPの鎮静化が得られている.治療後に共通する眼底所見としては,光凝固後にみられるような炎症反応が起こらないため治療翌日から眼底が明瞭に観察でき,かつ網膜血管の拡張・蛇行といったplusdiseaseの所見が著明に改善する(図1).StageIIIでみられる血管外増殖組織は数日のうちに消失していき,治療3,4週後より網膜血管が周辺へと伸展していく様子(図2)が観察されるが,その後数カ月たつとまだ無血管網膜を残す症例でも血管の伸展はみられなくなる.合併症としては,治療前の血管最先端部付近やその後伸展した部分の網膜血管が横走して,治療2カ月後頃より静脈蛇行が出現し,その後半年ほど蛇行が増強すると投与翌日図1Plusdisease所見の改善Bevacizumab投与翌日には静脈拡張(黒矢印)・動脈蛇行(白矢印)の明らかな改善傾向を認める.(67)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212430910-1810/12/\100/頁/JCOPY 投与前投与25日目図2網膜血管の伸展黒矢印は同部位を示す.投与25日後には白矢印分の血管の伸展を認める.いった血管の走行異常を認めている.治療前の血管外増殖組織が輪状にうっすらと残ったり,伸展した網膜血管の先端付近に治療から1年以上経過して網膜滲出物を認める例が数例ある.いずれの症例もROPのくすぶり所見と思われるが,蛍光眼底造影検査で血管外漏出など高い活動性を認めた症例はなく,今までのところROPの再治療例は経験していない.一方,BEAT-ROPstudy2)などでは一旦鎮静化したROPがしばらくした後に再燃し,網膜.離に至った症例も報告されており,治療後も密な経過観察が必要である.元来VEGFには神経保護効果があることや,硝子体内に投与したbevacizumabが血行性に全身へ移行する3)ことも知られており,成長段階にある児への影響が懸念される.今後症例を重ねて視機能や全身への影響,投与量について検討する必要がある.なお,ROPに対する抗VEGF薬治療は適用外使用となるため,各施設の倫理委員会の承認と保護者への文章によるインフォームド・コンセントの取得が必須である.文献1)EarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityCooperativeGroup.Revisedindicationsforthetreatmentofretinopathyofprematurity:resultsoftheearlytreatmentforretinopathyofprematurityrandomizedtrial.ArchOphthalmol121:1684-1694,20032)Mintz-HittnerHA,KennedyKA,ChuangAZ;BEATROPCooperativeGroup:Efficacyofintraviteralbevacizumabforstage3+retinopathyofprematurity.NEnglJMed364:603-615,20113)SatoT,WadaK,ArahoriHetal:Serumconcentrationsofbevacizumab(avastin)andvascularendothelialgrowthfactorininfantswithretinopathyofprematurity.AmJOphthalmol153:327-333,2012☆☆☆1244あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(68)

緑内障:Humphrey視野検査C10-2の有用性

2012年9月30日 日曜日

●連載147緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也147.Humphrey視野検査C10.2の内藤知子岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学有用性緑内障性視野障害の重症度評価には一般的にHumphrey視野計の中心30°(C30-2)が用いられるが,中心視野障害の詳細な評価には測定ポイントがより密に配置されている中心10°(C10-2)を用いることが望ましい.●グレースケールの成り立ちC30-2の実測値とそれに対応したグレースケールを示す(図1).測定ポイントごとにマス目をかぶせてみると,一つの実測値にそのままグレースケールのマス目が対応しているわけではない.ある部分のグレースケール部分を拡大してみると,1マスと思われる中には実は9マス存在している.実際,この部位の実測値は0dBであるが,それに対応しているのは,この中央の1箇所だけであり,他は推測値で埋めて作成されている.C30-2のグレースケールはイメージの把握にとどめることが大切である.●実際の中心10°に相当する視野日常生活において,上下10°以内の視野とはどのくらいの範囲であろうか.たとえば,喫茶店で誰かと向き合っていると仮定する(図2).その際,相手との距離が85cmとした場合,中心10°の範囲に相当するのは30cm,ちょうど相手の顔がすっぽり入るくらいの部分に相当する.10°以内,すなわち中心視野領域はQOV(qualityofvision)にかかわる非常に大切な領域であることが理解できる.●C10.2はどのような場合に有用か①中心視野障害の疑われる症例②後期緑内障症例①正常眼圧緑内障症例(図3)視神経乳頭には4時にnotchと,黄斑線維束に近い部10°10°85cm図2中心10°以内の視野15cmtan10°(=0.17633)≒15cm/85cm15cmシンボル表示dB>40>35>30>25>20>15>10>5>0.0C30-2C10-2図1グレースケール実測値以外は推測値で埋めて作成されている.図349歳,女性:正常眼圧緑内障眼圧11mmHg,点眼1剤で加療中.(65)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212410910-1810/12/\100/頁/JCOPY C10-22008.6.22.2009.1.22.2009.7.16.2009.2.25.C30-2C10-22008.6.22.2009.1.22.2009.7.16.2009.2.25.C30-2分まで明瞭な網膜神経線維層欠損(NFLD)がみられる.この症例をC30-2で測定した際には,中心10°以内に暗点は認めないが,C10-2では暗点が検出された.C30-2の測定点は6°間隔で76点,一方C10-2の測定点は2°間隔で68点,両者がかぶっているのはC30-2の中心4点のみである.C30-2で測定したポイントには,たまたま暗点がなかったため,その間に存在していた暗点は測られないまま,正常に白く塗り込められてしまっているのである.乳頭耳側にNFLDのある症例や中心視野障害を生じやすい近視眼1)などでは,C30-2で暗点が検出されなくても,C10-2で確認する意識をもつことが大切である.②原発開放隅角緑内障症例(図4)治療経過中,C30-2で中心4点のうちの鼻下側のグレースケールが濃くなった.グレースケールだけで判断すると進行?と疑いたくなるが,C10-2を検査すると,悪化が疑わしかった部分には感度が残っていることがわ図453歳,女性:原発開放隅角緑内障眼圧13mmHg,点眼3剤で加療中.かる.この症例,この後にもう一度C30-2を検査すると,中心鼻下側部分はグレースケールでは白くなり,感度も戻っていた.後期緑内障症例はC10-2でもfollowすることが必要である.おわりにC30-2では,中心視野障害を見逃したり,後期緑内障においては評価が困難であったりする.C10-2は固視点近傍に及ぶ視野障害の程度を正確に把握することができるので,症例に応じて積極的にC10-2を取り入れることが望ましいと考える.文献1)AraieM,AraiM,KosekiNetal:Influenceofmyopicrefractiononvisualfielddefectsinnormaltensionandprimaryopenangleglaucoma.JpnJOphthalmol39:60-64,1995☆☆☆1242あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(66)

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーによるフラップ作製の術中合併症

2012年9月30日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載148大橋裕一坪田一男148.フェムトセカンドレーザーによる北澤世志博神戸神奈川アイクリニックフラップ作製の術中合併症フェムトセカンドレーザーによるLASIK(laserinsitukeratomileusis)のフラップ作製はきわめて安全であるが,サクションリングを吸着させアプラネーションレンズで角膜を圧平しながらレーザーを照射するという方式のため,サクションが外れたり,レーザーにまつわる術中合併症がときとして起こる.しかし,いずれの合併症もマイクロケラトームでの術中合併症に比べると軽微であり,術後視機能に影響することはない.LASIK(laserinsitukeratomileusis)のフラップ作製は,その正確性と安全性からマイクロケラトームからフェムトセカンドレーザー(FSレーザー)に移行してきた.実際FSレーザーになってマイクロケラトームでときとして術中に起きていたフリーフラップや,ボタンホールのような手術を中止しないといけない重篤な合併症はなくなったが,FSレーザー特有の術中合併症がある.また,近年FSレーザーもさまざまなメーカーから出ており合併症の頻度も機種ごとに若干異なるが,一般的には下記の合併症が起こる.1.サクションブレイク(図1a,b)瞼裂が狭かったり結膜がゆるく吸引が不完全である場合や,レーザー照射中に閉瞼しようとするなど強い眼球運動が起こるとサクションが外れることがある.レーザーがラスター(フラップ面作製)中ならば再度最初からレーザーを施行し,ラスター終了後のサイドカット(フラップのエッジ作製)中ならばサイドカットのレーザー照射のみを行えばよい.その際,同一のアプラネーションレンズを使用すれば初回とほぼ同じ深さにレーザーがあたるが,まれに段差になることもある.ただし,そのような場合もごくわずかの段差であり視力には影響しない.2.OBL(opaquebubblelayer)(図2)レーザーの設定状況(スポットの大きさと間隔やエネルギー)によって起こるほか,アプラネーションレンズによる圧平が強い場合,フラップ作製中のガスが上手く抜けないときに起こる.強いOBLができた場合には,フラップリフト時に抵抗があったり,エキシマレーザー鈍的なもので擦るとOBLは薄くなる.またはフラップ照射時にアイトラッキングやIR(irisregistration:虹を開けずに10分程度待てばOBLの白濁は自然に消失彩紋理認証機能)がかかりにくいことがある.その場合し角膜は透明となるので,アイトラッキングやIRも通は,フラップ翻転後にベッドをフラップリフターなどの常に作動する.(63)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212390910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1aサクションブレイクの瞬間サクションが外れたところ.直ちにレーザーを中止する.図1bサクションブレイク後の再レーザー再度レーザーをし直すと問題なくフラップができる. 図2OBL(opaquebubblelayer)強いOBLが生じている.フラップリフトに抵抗がありアイトラッキングがかかりにくい可能性がある.図3前房内ガス迷入前房内に迷入したガスがみられる.この程度の大きさのガスならば照明を少し暗くする程度でアイトラッキングは問題なく入る.3.前房内へのガス迷入(図3)明らかな原因と前房への迷入経路は依然として不明であるが,角膜径が小さい場合やフラップが角膜輪部寄りにずれた場合に生じやすい.迷入したガスバブルが多いとエキシマレーザー照射時にアイトラッキングやIRがかかりにくいことがある.その場合はレーザー照射時に照明を暗くして散瞳させるとアイトラッキングをかけることができる.または直ぐにフラップを翻転せずに20~30分待つとバブルが小さくなるので,アイトラッキングやIRも通常に作動する.4.VGB(verticalgassbreakthrough)とcoldspot(図4)作製したフラップが薄く,角膜に混濁がある場合やエ1240あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012図4VGB(verticalgassbreakthrough)によるcoldspotヒンジ近くに比較的大きいcoldspotが生じている.直ちにレーザーを中止して角膜厚に余裕があれば30μmほど深いところにフラップを作り直せばよい.ネルギーが強すぎる場合に起きる.FSレーザーで生じたガスがフラップの薄い部分から角膜上皮を突き抜けて上に出てくる状態をVGBといい,このガスが広がりラスターのレーザーが当たらない部分(切開ができていない部分)をcoldspotという.VGBでは薄いフラップを開けるときに注意しないと亀裂ができる可能性があり,またcoldspot部分はレーザーが当たっていないので,そのサイズが大きい場合や瞳孔領にかかる場合は手術の中止が必要になってしまう.そこでcoldspot発生時には直ちにレーザーを中止して30μmほど深い位置に再度フラップを作製すれば手術を中止しなくて済む.5.角膜上皮スリップと上皮.離40歳以降の年齢が高い症例やコンタクトレンズ未経験者に多く,フラップ作製時の乾燥や過度の圧平が原因となる.このような症例では,フラップ翻転にストレスをかけないようにそっとフラップを開ける必要があるが,万一角膜上皮のスリップや.離が起きた場合もコンタクトレンズを装用すればよい.参考文献1)北澤世志博:IntraLASIK─LASIKの新しい手技─.眼科手術19:332-334,20062)北澤世志博:フェムトセカンドレーザー.IOL&RS21:426-429,20073)中村友昭:LASIK導入の注意点.IOL&RS25:27-31,20114)福岡佐知子:フェムトセカンドレーザーフラップの特徴.あたらしい眼科28:509-510,2011(64)

眼内レンズ:水晶体嚢真性落屑のOCT所見

2012年9月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎313.水晶体.真性落屑のOCT所見湧田真紀子宇部興産株式会社中央病院眼科水晶体.真性落屑は,水晶体.から前房内に立ち上がる膜状組織である.組織像では水晶体.の層間分離がみられ,これまでは術中に採取された前.の病理組織による検討がなされてきた.今回は,前眼部光干渉断層計を用いることで生体内における真性落屑の形態が詳細に観察でき,さらに病理所見と比較検討した.●疾患概説水晶体.真性落屑は,細隙灯顕微鏡で水晶体.から前房側に立ち上がる薄いセロファン様の膜状組織として認められる.組織像では水晶体.の層間分離がみられ,1922年にElschnigが前.に.離を認める症例として報告し1),1932年にVogtが前.表層の.離であることを明らかにした2)..の分離する程度や部位には個人差があり,瞳孔領に明らかな膜状物がみられる場合もあれば,散瞳下にて部分的に膜の立ち上がりを認める場合もあり,注意深く観察しなければ判別が困難であったり,白内障術中に初めて判明することも多い.当初は長期にわたる赤外線や熱線への曝露が発症原因とされ,疫学的にガラス工などの作業者にみられる比較的まれな疾患とされてきたが,近年では明らかな曝露歴のない特発性の症例も報告されており,発症機転はいまだ不明である.鑑別すべき疾患として偽落屑があるが,1954年にTheobaldが両者は病態の異なる別の疾患であると提唱しており3),真性落屑は緑内障の発症には関与しない.真性落屑では視力低下は生じないとされるが,.の分離が水晶体赤道部まで及んでいる症例ではZinn小帯の脆弱化が起こり,白内障術中のZinn小帯断裂や術後の眼内レンズ偏位を生じるとの報告がある4).白内障手術に際してその他に注意すべき点としては,連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorhexis:CCC)の際,分離した前.の各層がずれて切開されるために切開縁が二重円を呈する,doubleringsignとよばれる所見がある.このため真の切開線を見誤り,CCCが完成していないのにhydrodissectionや核処理を行ってしまい,Zinn小帯断裂や.破損をきたすことがある.真性落屑における組織構造の検討には,これまで術中に採取された前.組織の病理組織が用いられてきた.しかし今日では,前眼部光干渉断層計(opticalcoherence(61)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYtomography:OCT)を用いることで生体内での形態を観察することが可能となった.●症例両眼白内障手術目的で紹介された右真性落屑の81歳男性.眼外傷や眼内炎症,熱線曝露の既往はない.術前,細隙灯顕微鏡にて右眼の水晶体前.から前房側へ挙上する高さ約0.5mm,直径約5mmの円形・透明なフリル状の膜状組織が全周性に観察された(図1).術前に前眼部OCTを用いて生体内での形態評価を行ったのち,術中に採取した前.の病理組織との比較検討を行った.白内障手術は合併症なく施行可能であった.●水晶体.真性落屑の前眼部OCT像前眼部OCT(CirrusOCT,カールツァイス社)を用いて右眼水晶体前.の断層像を観察した結果を図2に示す.水晶体前.が表層4分の1で分離し,水晶体の周辺側から中央側に向けて前房内に.離・挙上して,膜状組織を形成していた.前.の厚さは分離部の中央側よりも周辺側のほうが菲薄化していた.虹彩に近い部位には表層が不連続な部位(図2中矢印)がみられ,表層が.離した辺縁であると考えられた.また,前.内のより深層には連続した低輝度の層(図2中矢頭)が認められ,分図1水晶体.真性落屑の前眼部写真水晶体前.から前房側へ挙上する高さ約0.5mm,直径約5mmの円形・透明なフリル状の膜状組織が全周性に観察された.あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121237 離部から周辺側にはこの層の付近に高輝度の点状構造物が散在してみられた.●水晶体.真性落屑の組織構造採取した前.組織のヘマトキシリン・エオジン染色像を図3に示す.水晶体前.に層間分離に連続した染色性の低い硝子膜様組織がみられ,挙上していた膜状組織と考えられた.一方,前.の内部は均質・無構造で,前眼部OCTでみられた低輝度層や点状構造物に合致する所見は確認できなかった.水晶体.真性落屑の組織学的特徴は.の層間分離である.病理組織を検討した過去の報告では.離部位の深さ20μm図3水晶体.真性落屑のヘマトキシリン・エオジン染色所見水晶体前.には層間分離に連続した染色性の低い硝子膜様組織がみられ,挙上していた膜状組織と考えられた.前.の内部は均質・無構造であった.図2水晶体.真性落屑の前眼部OCT所見水晶体前.が表層で分離し,膜状組織を形成.周辺側の前.は菲薄化し,表層に断裂部(矢印)がみられた.深層の低輝度層(矢頭)の周辺側には高輝度の点状構造物が散在.画面上:前房,下:水晶体,左:水晶体中央,右:鼻側.は症例によって異なり,数層の分離が同時に認められるとの報告や,分離した真性落屑組織に線維芽細胞様細胞がみられたという報告もあり5),前眼部OCTで前.の深層にみられた低輝度層や高輝度構造物がこれらの組織変化を示唆しているのかもしれない.また,病理組織を用いた検討では標本の作製時にアーチファクトを生じる可能性があるが,今回は前眼部OCTを用いることで生体内での組織形態を詳細に観察することができた.前眼部OCTで捉えられた形態の変化は病理組織像と類似していたが,前眼部OCTのみで確認された所見もあり,今後の病態解明の一助になると考えられる.文献1)ElschnigA:AblosungderZonulalamellebeiGlasblasern.KlinMonatsblAugenheilkd69:732-734,19222)VogtA:WeiterehistologischeBefundebeisenilerVlrderkapselabscilferung.KlinMonatsblAugenheilkd89:581-586,19323)TheobaldGD:Pseud-exfoliationofthelenscapsule.Relationto“true”exfoliationofthelenscapsuleasreportedintheliteratureandroleintheproductionofglaucomacapsulocuticulare.AmJOphthalmol37:1-12,19544)YamamotoY,NakakukiT,NishinoKetal:Histologicalandclinicalstudyofeyeswithtrueexfoliationandadouble-ringsignontheanteriorlenscapsule.CanJOphthalmol44:657-662,20095)朝蔭博司,伊地知洋,石綿丈嗣ほか:特発性水晶体.真性落屑の2例─病理組織学的検討─.日眼会誌98:664671,1994

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 ハードコンタクトレンズのデザインについて考える(2)

2012年9月30日 日曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】339.ハードコンタクトレンズのデザインについて考える(2)ハードコンタクトレンズ(HCL)の外面の光学領にはレンズの度数によって決まった曲率半径のカーブを有しているが,その周辺部にはレンズ固有のデザインが設計されている(図1).そこで,レンズ外面の周辺部形状,特にフロントベベルの厚さ(図2)が,上眼瞼との関係でHCLのフィッティングにどのような影響を及ぼすかについて述べる.比較的大きなサイズのHCLでは,フロントベベルのエッジリフトエッジベベルPCICPCブレンドICブレンドベースカーブフロントカーブフロントベベルIC:intermediatecurvePC:peripheralcurve植田喜一ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学厚いレンズのほうが上眼瞼による保持を強く受け,瞬目後もレンズは過度に下がることなく角膜中央付近に静止するが,比較的小さなサイズのHCLでは,フロントベベルの厚みが増すと瞬目でレンズはいったん下方に押し下げられた後に,上眼瞼によって上方に引き上げられる動きになると考えられる.一方,フロントベベルの薄いHCLは,上眼瞼の下にスムーズに滑り込んだ後に上方に引き上げられる(図3).特に,上眼瞼の張り出している症例や下三白眼の症例,眼瞼圧の強い症例では,フロントベベルの影響はより顕著であると予想される.したがって,眼瞼の形状,眼瞼圧,瞬目の状態により,フロ薄い標準厚い図1HCLの周辺部デザイン図2フロントベベルの厚さ図3外面周辺カーブとレンズサイズA:厚い外面周辺カーブa:大きなレンズサイズではレンズは上眼瞼による保持を強く受け,瞬目後もレンズが角膜中央に静止する.b:小さなレンズサイズではレンズは上眼瞼によって押し下げられてそのまま角膜下方に安定することが多い.B:薄い外面周辺カーブa:大きなレンズサイズではレンズは上眼瞼による保持を受けるが,周辺部が厚いレンズほどではないため,時間の経過とともにレンズが下がることがある.b:小さなレンズサイズではレンズは上眼瞼の下にすべり込む.周辺部が薄い小さなレンズでは重心が後方に位置するため,角膜中央に安定しやすい.ABabab(59)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212350910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4HCLの周辺部に施したMZ加工ントベベルの厚みを考慮したフィッティングが重要になる.HCLの下方固着,下方安定の症例に対する手段として,フロントベベルに溝を作る修正(MZ加工)を行うことがある(図4)が,ときにレンズが破損しやすい,溝に汚れが付着しやすい,異物感を生じるということがある.●HCLのデザインがくもりに及ぼす影響レンズ内面のベベル幅とエッジリフトはHCLのくもりにも影響を及ぼす.具体的な例を以下に記す.エッジリフトが高いと涙液層が破綻しやすくなる.ベベル幅が広いとエッジ下に涙液がプールしやすくなる.このため,鏡に息を吹きかけたときに生じるドライなくもりが,HCLの表面に生じる(図5).エッジリフトの高さとベベル幅の修正をするとドライなくもりは改善する.エッジリフトが低く,ベベル幅が狭いHCLは,角膜中央の曲率とHCLのBCとの関係がパラレルであっても,タイトフィッティングになりやすい.また,エッジやベベルが角膜の周辺部を刺激するため,結膜からの分泌物が増えて,HCL表面にウェットなくもりが生じやすくなる(図6).エッジリフトの高さとベベル幅の修正をするとウェットなくもりは改善する.一方,レンズ外面は眼瞼結膜に接するが,厚いフロントベベルのHCLでは結膜に対して刺激を与えて,結膜からの分泌物が増し,HCL表面にオイリーなくもりが生じやすくなる.こうした場合には,フロントベベルを薄くカットするとウェットなくもりは改善する.図5高いエッジリフト,広いベベル幅のHCLの装用によるドライなくもり図6低いエッジリフト,狭いベベル幅のHCLの装用によるウェットなくもり1236あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(60)

写真:Descemet膜前角膜ジストロフィ

2012年9月30日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦340.Descemet膜前角膜ジストロフィ近間泰一郎広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)実質深層に限局する高輝度の点状混濁図2図1のシェーマ図145歳,男性の左眼角膜視力は矯正1.0と良好.スリット光を用いた観察で,角膜実質深層1/3~1/4に微細な輝度の高い陰影が散在していた.強膜散乱法を用いた観察(右下挿入図)では,さまざまな形をした微細な灰白色の混濁がより明瞭に観察された.図3前眼部OCT(SS-1000CASIAR,TOMEY)による角膜断層像の観察(図1と同一症例)角膜実質深層にほぼ均一に高輝度な領域が観察された.図4生体レーザー共焦点顕微鏡(HRTIIIR-RCM,HeidelbergEngineering,Germany)による観察(図1と同一症例)角膜実質深層に細胞質内に高輝度の微細な顆粒をもつ異常な角膜実質細胞がみられた.顆粒状物質は細胞質内に限局してみられた(深さ:角膜表面から485μm).これらの変化は実質浅層・中層の実質細胞にはみられなかった(1辺:400μm).(57)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212330910-1810/12/\100/頁/JCOPY Descemet膜前角膜ジストロフィは,Descemet膜直上の角膜実質深層に微細な点状や線状の混濁がみられる疾患である1,2).病変は両眼性で左右差はほとんどなく,30歳代以降に生じることが多い.混濁は細隙灯顕微鏡の反帰光線で明瞭に観察できるが,その局在は細隙灯顕微鏡では困難で,滴状角膜などの内皮の異常と診断されることがあるが,Descemet膜や角膜内皮は正常である.本疾患では,通常視力低下はなく自覚症状も乏しいため積極的な治療は不要である.角膜実質深層に点状混濁を有する疾患群として,粉状角膜(corneafarinata),Fleck角膜ジストロフィ(Fleckdystrophy),多形性アミロイド変性(polymorphicamyloiddegeneration:PMD)などがあり,鑑別を要する.粉状角膜は,細隙灯顕微鏡検査では多数の微細な粉末状の混濁がDescemet膜直上の実質深層にみられる.加齢性の変化で遺伝性はないとされている.病変は両眼性で左右差はほとんどない.Descemet膜前角膜ジストロフィと非常に類似した所見を呈するが,Descemet膜前角膜ジストロフィの混濁のほうがやや大きく不均一であり,より多様な形状の混濁が観察されるといわれている3).生体共焦点顕微鏡による観察では,Descemet膜前角膜ジストロフィでみられる所見と酷似している4).Fleck角膜ジストロフィは,常染色体優性遺伝形式をとるまれな疾患で,出生時から存在する角膜全層にわたる孤立性で多発性の混濁がみられる.病変はほとんど進行することはなく,両眼性で,ときに左右差があることがある2).視力障害を含め自覚症状を伴う症例はほとんどないが,ときに羞明を訴えることがある.多形性アミロイド変性は50歳代以降の症例にみられることが多く,角膜中央部の実質内にアミロイドの沈着として点状や線状の角膜全層にわたる混濁がみられる.遺伝性はなく他の疾患との関連もない5~7).Descemet膜前角膜ジストロフィの症例における病理組織学的検討では,角膜実質深層にPAS(periodicacid-Schiff)染色陽性の顆粒を含む空胞をもち,細胞質が拡大した異常角膜実質細胞が認められた.この顆粒は色素が変性したリポフスチンであり,細胞内に存在することが報告されている8).レーザー生体共焦点顕微鏡を用いた観察では,顆粒状物質は実質細胞内のみに存在しているように観察され,前述の病理組織所見と矛盾しない所見であった.文献1)ArffaRC:Dystrophiesoftheepithelium,Bowman’slayer,andstroma.In:ArffaRC(ed):Grayson’sDiseaseoftheCornea.4thed,p413-463,Mosby,StLouis,19972)deSousaLB,MannisMJ:Thestromaldystrophies.In:CrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ(eds):Cornea.2nded,p907-927,Mosby,StLouis,20053)GraysonM,WilbrandtH:Pre-descemetdystrophy.AmJOphthalmol64:276-282,19674)KobayashiA,OhkuboS,TagawaSetal:Invivoconfocalmicroscopyinthepatientswithcorneafarinata.Cornea22:578-581,20035)ChangRI,ChingSST:Cornealandconjunctivaldegenerations.In:CrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ(eds):Cornea.2nded,p987-1004,Mosby,StLouis,20056)MannisMJ,KrachmerJH,RodriguesMMetal:Polymorphicamyloiddegenerationofthecornea.Aclinicalandhistopathologicstudy.ArchOphthalmol99:1217-1223,19817)NirankariVS,RodriguesMM,RajagopalanSetal:Polymorphicamyloiddegeneration.ArchOphthalmol107:598,19898)CurranRE,KenyonKR,GreenWR:Pre-Descemet’membranecornealdystrophy.AmJOphthalmol77:711(s)716,19741234あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(00)

抗VEGF療法の合併症

2012年9月30日 日曜日

特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1229.1232,2012特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1229.1232,2012抗VEGF療法の合併症ComplicationsAssociatedwithIntravitrealAnti-VEGFTherapy山本亜希子*はじめに4540硝子体内注射は血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)阻害薬であるペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR)が認可されたとともに飛躍的に増加している.そこで注意しなければならないのは合併症である.合併症には手技に伴うものと薬剤による影響がある.まずは手技的な問題であるが,結膜下出血,角膜障害,水晶体損傷,網膜裂孔,網膜.離,眼内炎などがあげられる.I網膜裂孔網膜裂孔についてはジェット流により裂孔形成が起こりやすくなるとの報告があり,薬剤注入の際には比較的ゆっくりと注入することが望ましいとされている.また,同じ部位での投与を避け,注射時の結膜移動による硝子体脱出の予防が推奨されている1).硝子体嵌頓が起こると注射部位の対側の網膜に牽引がかかる可能性があり,投与後の経過観察の際には注意深く観察する必要がある.もし硝子体脱出が起きた場合にはスプリングハンドル剪刀にて切除するのも一つの方法である.II一過性眼圧上昇すべての薬剤に言えることだが,薬剤を投与することで一過性の眼圧上昇をひき起こすことがある.0.05mlの硝子体内投与は1.25%の硝子体容積に相当し,一過眼圧(mmHg)35302520151050図1硝子体内投与後の眼圧変動対象は新生血管黄斑症を有する33例33眼であった.ベバシズマブ0.05ml注入後の投与眼の眼圧を注射前,注射直後,注射30分後に非接触式眼圧計にて測定した.平均眼圧の推移は,注射前が13.44±2.99mmHg,注射直後は28.17±10.27mmHg,注射30分後は16.94±4.45mmHgであった.30分後の眼圧は全例30mmHg以下になっていた.性眼圧上昇は硝子体容積の増大が原因である.筆者らの検討では33眼のベバシズマブ(アバスチンR)投与後は眼圧を測定し,投与直後は上昇するものの30分後には全例で30mmHg以下にまで低下していた(図1).しかし,一部の症例では眼圧が急激に上昇し,場合によっては網膜動脈閉塞を起こす可能性も考えられるため,特に緑内障患者など眼圧上昇傾向がみられる場合には注意を要する.過去の報告ではアバスチンR投与3日後に急性の眼圧上昇をきたした報告もあり2),投与直後でなくとも注意は必要である.注射前注射直後注射30分後*AkikoYamamoto:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山本亜希子:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(53)1229 III眼内炎最も重大な問題は眼内炎である.2011年にBascomPalmer眼研究所と関連施設で行ったVEGF阻害薬を用いた60,322硝子体内注射をまとめた報告では眼内炎の頻度は0.02%でアバスチンR0.018%,ルセンティスR0.027%と有意差はなく3),多施設より報告されたアバスチンR12,585例とルセンティスR14,320例においてもそれぞれ0.02%と差はみられていない4).CATTStudyにおいてもアバスチンR0.04%,ルセンティスR0.07%と有意差はみられなかった5).白内障手術後の眼内炎は約0.05%とされており頻度は近似しているが,硝子体内注射では1人の患者に対し複数回の投与が必要となるためより注意が必要となる.眼内炎対策についてわが国と異なる点は米国では滅菌手袋が58%,滅菌ドレープが12%でしか使用されていない点である1).ルセンティスRについては硝子体内注射ガイドラインが作成されており,滅菌手袋,ドレープ使用が推奨されている.ドレープについては睫毛がしっかりドレープし,薬剤を注入する際,針先に睫毛が当たらないように注意することが大切である.術前術後点眼についても記載があり,筆者らの施設でも投与前後3日間抗生物質点眼を使用しているが,術前点眼の必要性については考え方がまだ定まってはいない.術前の抗菌点眼薬投与が結膜.の菌を減らしたとする報告があるが,耐性菌による白内障術後眼内炎の報告もあり6),術後眼内炎の発生率を下げるという明確なevidenceはない.術前抗菌薬投与というのは眼科特有の事項であり点眼の容易さによるところも大きいと思われるが,少なくともマクジェンRとルセンティスRでは取り扱い文書に術前3日前からの抗菌薬点眼が記載されており,特別な事情がない限り抗菌薬点眼の術前からの使用が望ましいと考える.一方で近年硝子体注射に伴う抗生物質の使用に関する耐性菌の報告も増えてきており,治療が長期に及んだ場合の耐性菌への配慮も今後必要となってくるであろう7,8).注射後眼内炎の危険因子に関する研究が進んでお1230あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012り9),有意差がないのは開瞼器の有無,注射時の結膜の移動,注射部位(上方・下方結膜),ルセンティスR・アバスチンRなどの薬剤の違い,術後抗生物質点眼の有無と報告している.一方,有意差があったのは,①ポビドンヨードの有無,②マスクの有無,③マスク非使用時の会話の有無であり,口腔内細菌が硝子体内注射後の眼内炎に関与する可能性を示唆している.処置中に患者が話すこともリスクになると考えられ,患者本人はマスクを装着していなくともドレープを使用することで患者自身による汚染を予防できると考える.硝子体内注射後眼内炎52眼(105,536注射中)のmetaanalysisでは,細菌培養陽性52%,陰性48%としており,レンサ球菌属の比率が通常の内眼手術より高いとされている10).この結果からも口腔常在菌が影響していると考えられ,注射を行う際にはマスクをし,会話をできる限り避けることが望ましい.眼内炎の診断のポイントは自覚症状,他覚的所見の悪化である.一般的には眼痛,羞明,視力低下を訴えることが多いが,実際には眼痛を伴わない症例もあり糖尿病を併発している場合などは特に注意が必要である.米国のEndophthalmitisVitrectomyStudy(EVS)でも25%の症例では眼痛を伴っていない.他覚的所見としては毛様充血,前房内の細胞,フレアの出現,進行例では前房蓄膿,フィブリン析出,虹彩癒着,角膜浮腫,硝子体混濁が出現する.眼内炎のリスクがあることを患者に理解してもらい,変化があった場合にはできるだけ早く診察を受けるよう指示をしておくことも重要である.米国の硝子体内注射ガイドラインでは注射部位にポビドンヨード点眼をしてから注射することを推奨している.結膜常在細菌はひだ構造に潜んでいるため十分な消毒が必要となる.ポビドンヨードの安全で殺菌効果の高い濃度は0.05.0.5%である.この濃度であれば網膜への障害のリスクもないとされている.洗浄量に関して5%ポビドンヨードの2滴点眼よりも10ml洗浄のほうが殺菌効果が高いとされており,殺菌に要する時間は0.1.1.0%で15秒間に対して2.5.10%ポビドンヨードでは30.120秒間と長くかかる.欧米で使用されている5%ポビドンヨード点眼では角膜障害が生じやすく,殺菌までの時間も30.120秒間を要する.また,点眼のみ(54) では結膜の構造上十分な洗浄を行えない可能性があり,内眼手術と同様に希釈したポビドンヨードで洗浄したほうが安全かつ効率的といえよう.感染性眼内炎が発症した場合の治療法についてであるが,選択肢は大きく二つあり,一つは抗菌薬の点眼,硝子体内投与などによる保存的方法,もう一つは硝子体手術の施行である.基本的には病変が前眼部に限局している場合には抗菌薬の局所投与を試み,硝子体腔に炎症が及んでいる場合には硝子体手術を選択する.しかし,眼内炎に対する治療の遅れは取り返しのつかない結果をもたらすことがあるため,硝子体手術ができない施設では無理に保存療法を選択するよりは,速やかに手術可能な施設に紹介することも必要であると考える.つぎに薬剤自体による合併症について述べる.IV無菌性眼内炎アバスチンRでは2009年にGeorgopoulosらが投与を行った2,500例中8例に無菌性眼内炎を発症したと報告されている11).いずれも投与後2日以内に疼痛のない霧視を自覚し,前房内炎症と硝子体混濁がみられたが,前房蓄膿は認めなかった.FabフラグメントにFc部分が付加され蛋白質積荷が大きいことなどが炎症をひき起こす可能性を指摘している.この場合副腎ステロイドが有効なことが多く,抗生物質に反応しない(図2a,b).特発性無菌性眼内炎はtoxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)として知られている.TASSは使用した薬剤のpH,防腐剤,洗浄剤,酸化,細菌の毒素,眼内レンズなどに対する免疫反応とされており,無菌性であり,術後12.48時間で発症し前房蓄膿を伴い強い前眼部炎症をひき起こす12).TASSも副腎ステロイド薬が有効であるが,前房蓄膿を伴う炎症の場合にはまず感染を念頭に対処すべきであると考える.V全身合併症薬剤の影響において最も議論されるのは脳梗塞の発症リスクについてだろう.脳梗塞を含めた全身合併症の発症リスクが危惧される報告が散見される13,14)が,一方では関連性の低さを指摘する論文もある15,16).また,薬剤(55)ab図2抗VEGF薬投与後の無菌性眼内炎61歳,男性.抗VEGF薬投与2週間後に毛様充血と前房内炎症を認めた.一度目の投与であった.0.1%ベタメタゾン点眼6回/日と0.5%レボフロキサシン点眼を開始し,2週間後,毛様充血,前房内炎症ともに改善傾向がみられた.前房水培養からは起因菌は検出されなかった.a:発症時の前眼部所見,b:ステロイド点眼治療後.による差についてはCATTStudyの結果からルセンティスR,アバスチンR間での全身への影響には大きな差がないと考えていいのではないかと考える3).筆者らの施設ではそれぞれの報告について患者へ説明し,特に脳梗塞発症後2年以内の症例についてはより注意深く対応している.病状の進行の程度や本人の価値観によっても選択が変わってくると思われ,患者とのコミュニケーションが大切である.慢性疾患であり,患者自身が納得したうえで治療を継続することが重要なのではないかと考える.あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121231 アバスチンRについては若年者の症例への投与例もあり,特に女性では生理周期へ影響を及ぼす場合がある.また,胎児への影響が明らかではなく安全性が確立していないため,治療中の妊娠は避けたほうがよいと考えられ,出産後の授乳も控えるのが望ましいと考えられる.おわりに最近では視力良好例へも抗VEGF薬を投与する機会も多くなっており,合併症への配慮が必要である.合併症のリスクをより低くし,効率よく適切な治療ができるように今後もさまざまな点での検討や工夫が必要と考える.文献1)Green-SimmsAE,EkdawiNS,BakriSJ:SurveyofintravitrealinjectiontechniquesamongretinalspecialistsintheUnitedStates.AmJOphthalmol151:329-332,20112)JalilA,FenertyC,CharlesS:Intravitrealbevacizumab(Avastin)causingacuteglaucoma:anunreportedcomplication.Eye21:1541,20073)MoshfeghiAA,RosenfeldPJ,FlynnHWJretal:Endophthalmitisafterintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactorantagonists:asix-yearexperienceatauniversityreferralcenter.Retina31:662-668,20114)FintakDR,ShahGK,BlinderKJetal:Incidenceofendophthalmitisrelatedtointravitrealinjectionofbevacizumabandranibizumab.Retina28:1395-1399,20085)CATTResearchGroup,MartinDF,MaguireMG,FineSLetal:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularizationage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,20116)DeramoVA,LaiJC,FastenbergDMetal:Acuteendophthalmitisineyestreatedprophylacticallywithgatifloxacinandmoxifloxacin.AmJOphthalmol142:721-725,20067)KimSJ,TomaHS:Antibioticresistanceofconjunctivaandnasopharynxevaluationstudy:aprospectivestudyofpatientsundergoingintravitrealinjections.Ophthalmology117:2372-2378,20108)MilderE,VanderJ,ShahCetal:Changesinantibioticresistancepatternsofconjunctivalfloraduetorepeateduseoftopicalantibioticsafterintravitrealinjection.Ophthalmology119:1420-1424,20129)ShahCP,GargSJ,VanderJFetal:Post-InjectionEndophthalmitis(PIE)StudyTeam:Outcomesandriskfactorsassociatedwithendophthalmitisafterintravitrealinjectionofanti-vascularendothelialgrowthfactoragents.Ophthalmology118:2028-2034,201110)ChenE,LinMY,CoxJetal:Endophthalmitisafterintravitrealinjection:theimportanceofviridansstreptococci.Retina31:1525-1533,201111)GeorgopoulosM,PolakK,PragerFetal:Characteristicsofsevereintraocularinflammationfollowingintravitrealinjectionofbevacizumab(Avastin).BrJOphthalmol93:457-462,200912)MamalisN,EdelhauserHF,DawsonDGetal:Toxicanteriorsyndrome.JCataractRefractSurg32:324-333,200613)UetaT,YanagiY,TamakiYetal:Cerebrovascularaccidentsinranibizumab.Ophthalmology116:362,200914)EnseleitF,MichelsS,RuschitzkaF:Anti-VEGFtherapiesandbloodpressure:Morethanmeetstheeye.CurrHypertensRep12:33-38,201015)CampbellRJ,BellCM,PatersonJMetal:Strokeratesafterintroductionofvascularendothelialgrowthfactorinhibitorsformaculadegeneration:Atimeseriesanalysis.Ophthalmology[Epubaheadofprint]201216)CurtisLH,HammillBG,SchulmanKAetal:Risksofmortality,myocardial,infarction,bleeding,andstrokeassociatedwiththerapiesforage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol128:1273-1279,20101232あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(56)

光線力学的療法(PDT)との併用療法

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特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1223.1228,2012特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1223.1228,2012光線力学的療法(PDT)との併用療法CombinedTherapyofAnti-VEGFTreatmentandPhotodynamicTherapy(PDT)永井由巳*I抗VEGF療法滲出型加齢黄斑変性(exudativeage-relatedmaculardegeneration:AMD)をはじめ,黄斑部中心窩下に生じる脈絡膜新生血管(CNV)に対する治療法として,最近は抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法が中心となった.国内ではAMDに対してのみ承認されている薬剤として,pegaptanib(MacugenR)とranibizumab(LucentisR)とが投与されており,その他のCNVに対しては,各施設の倫理委員会の審議承認の下でbevacizumab(AvastinR)が使用されている.抗VEGF薬の単独投与の成績については国内外で臨床試験を含めて報告1.4)があり,どの報告もCNVに対して効果的に作用し,視機能の維持,改善を認めている.そのため,中心窩下CNVに対して2004年に承認され多くの施設で行われていた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の実施数は,抗VEGF療法の出現とともに減少し,PDTは過去の治療になるとさえ言われはじめていた.抗VEGF薬単独療法は,疾患により差は認めるものの,複数回にわたる硝子体内投与を行わなくてはならない.AMDにおける臨床試験である,MARINA試験1)(minimallyclassicCNVとoccultCNVに対するranibizumab投与試験)やANCHOR試験2)(predominantlyclassicCNVに対するranibizumab投与試験)では,ranibizumabを毎月24カ月投与することで視力の改善効果を得ている.しかしながら,臨床の現場でAMD患者を全例毎月診察して毎月投与するということは,患者側,医療側双方にとって物理的,経済的負担が大きい.その後,ranibizumab導入期の3カ月は毎月投与で,その後の維持期は視力や検眼鏡所見,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の結果で治療の適応がある際にのみ再投与(prorenata:PRN)するPrONTO試験3)が行われ,24カ月後に導入期の視力改善を維持することができ,毎月連続投与を行って得られた治療成績と同等の結果を得た.上記のPrONTO試験の結果に基づき,わが国でもranibizumabの維持期における再投与ガイドラインも作成され,視力や眼底所見,OCT所見でもって投与の判断を行う基準4)が示された.また,海外における維持期の投与方法の臨床試験の結果5)からも,診察時の所見に応じてPRNする方法であれば,毎月24カ月連続投与したときと同等の視力改善効果を得ることができることが示され,現在は多くの施設でranibizumabの維持期における投与はPRNで行っている.AMDに対して,抗VEGF薬を上記のとおりPRNで投与することで,12カ月後,24カ月後における滲出抑制および視力の改善効果を得た報告が国内でも散見されるようになった6,7).どの報告でも平均視力は最初の導入期で改善した状態で維持されており,AMDに対する治療の第一選択となっている.しかしながら,多くの症例で滲出抑制の効果を認める反面,ranibizumabを投与*YoshimiNagai:関西医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕永井由巳:〒573-1191枚方市新町2-3-1関西医科大学附属枚方病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(47)1223 してもまったく反応を認めない症例(non-responder)や,投与し始めた頃は滲出抑制効果を認めていたものの次第に効果が減弱して効かなくなる症例(tachyphylaxis)も認められる.当教室での自験例8)では,12カ月経過観察できたAMDの症例〔典型AMDとポリープ状脈絡膜血管症(PCV)〕のなかで10.1%(22眼/218眼)が導入期の投与で無反応を示し(non-responder),1眼を除きすべてフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)におけるCNVの分類でocculttypeを示していた.この結果は,抗VEGF薬の網膜色素上皮下病変への作用が弱い可能性を示唆しているのと同時に,同じような症例でも効果を認めるものと反応がみられない症例とが混在することからgenotypeの差異9,10)を含めた他の原因によることも考えられる.II光線力学的療法(PDT)との併用療法上記のとおり,現状では抗VEGF療法がCNVに対する第一選択となっているが,前述のようなnon-responderやtachyphylaxisの存在,CNVのサブタイプによって効果に差異が認められることなどから,結果的に投与回数が多くなることもある.そのため,治療効果を高める,あるいは抗VEGF薬の投与回数を減らす目的でPDTを併用することもある.RanibizumabとPDTを併用した海外での試験では,AMDにおける病型により反応に差異が認められている.まず,AMDのすべてのCNVサブタイプを対象にしたMONTBLANC試験11)において,治療開始から12カ月後の視力は,predominantlyclassicCNVではranibizumab併用PDT群とPDT単独治療群でほぼ同等の成績で,occultCNVとminimallyclassicCNVではranibizumab単独治療群が併用群より良かった.視力以外の評価では,導入期を含めて12カ月間のranibizumab投与回数が単独治療群より併用群が若干少ないこと(単独治療群:5.1回,併用群:4.8回),治療後の中心窩網膜厚の減少は併用群のほうが良好であったことがあげられる.これらのことから,滲出抑制効果は併用群のほうが強いが,視力の改善についてはranibizumab単独群よりやや劣るといえ,PDT併用の抗VEGF療法1224あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012を行う際には症例選択を慎重に行う必要がある.日本人のAMDにおいて30.50%を占めるとされる12,13)PCVに対するPDTは良好な成績を示しており14),抗VEGF療法よりもPDTのほうが短期的には治療効果が高い.しかしながら,PDT単独では視力の改善度という点では,抗VEGF療法の成績に比べ見劣りする.特に複数回のPDTを行うと,網膜の菲薄化を起こし視力の改善も小さくなることが多い.これらの抗VEGF療法とPDTの弱点を補う意味でPDTを併用した抗VEGF療法を行うと,抗VEGF療法の抗血管新生作用と抗透過性亢進作用にPDTの血管内皮傷害による血管閉塞作用が合わさり,また,PDT後の一過性の滲出増加(血管外漏出)やPDT後のVEGF増加などの副作用を抗VEGF薬が抑制することにより,より効果的に滲出抑制効果を得ることができる.PCVについてPDT単独治療,ranibizumab単独投与,併用療法の3群で投与後の成績を比較したEVEREST試験15)では,視力はどの群も改善したが,ポリープ状病巣の完全閉塞を得た症例はPDT単独群,併用療法群がranibizumab単独投与群よりも有意に多い結果であった.この結果は,このようなPDTとranibizumabの作用機序の相乗効果によるものと考えられる.AMDのなかでも治療抵抗性が高いとされている,網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)については,これまで光凝固や硝子体手術下での流入血管切断,PDT,triamcinolone(KenacortR)のTenon.下あるいは硝子体内注射などさまざまな治療が行われてきたがいずれも再発率が高い.抗VEGF薬が登場する前はtriamcinoloneを投与してから10日前後時間をあけてPDTを行う併用療法を施行することが多かった(pharmacology,pause,photodynamictherapy:PPP)16).抗VEGF薬を使用するようになり,ranibizumab単独療法の報告も散見されるが,Hemeidaらはbevacizumab,ranibizumab投与後12カ月で視力を維持できた症例は73.3%で,再燃傾向が強く75%の症例で24カ月間に再投与を行ったにもかかわらず視力を維持できた症例は62.5%であったと報告している17).このように抗VEGF薬単独療法では十分な治療効果を得られないことから,病巣が網膜内新生血管に限局して(48) いるstage1よりも進行したstageの症例にに対しては,PDT群,bevacizumab併用PDT群の6カ月での視力多くの施設で抗VEGF薬併用PDTかさらにtriamcino成績は,PDT単独治療群が55.6%で視力維持(視力悪loneも併用したトリプル療法を行っている.筆者らの化が44.4%)をしたのに対し,triamcinolone併用群,自験例で,PDT単独治療群と,triamcinolone併用bevacizumab併用群ともに87.5%の症例で視力を維持b図1RAPに対するranibizumab,triamcinolone併用PDTの症例(治療前)症例は81歳,男性.左眼の中心暗点,変視症,視力低下で受診.矯正視力は0.5.FA….a:治療前眼底:左眼眼底には網膜表層出血と網膜色素上皮.離(PED),癒合性軟性ドルーゼンを認めた.b,c:FA.PEDの部位は早期(b)から淡い過蛍光を示し,後期(c)になるとPEDは均一な過蛍光を呈していた.黄斑部耳側に新生血管を示唆する蛍光漏出を認めた.…………….CME..Bumpsign……..PEDdLV..0.5……FA……………………………………………………PED..a……..cd:OCT.ドーム状のPEDを2箇所認め,その間に漿液性網膜.離を認める.耳側のPEDにはbumpsignを認め,網膜には網膜浮腫(CNE)を認めていた.e:治療前IA.PEDは終始低蛍光を示し,その内部に矢印で示す流入血管と流出血管から成るRAP病巣を認めた.f:PDTの際のGLDとレーザー照射域.トリプル療法実施時のPDTは,GLD(病巣最大直径)が5,024μm,レーザー照射径はPDTの手順どおり1,000μmを加えて6,024μmで行った.GLD5024μmRAP病巣PEDefIAトリプル療法実施Ranibizumab,triamcinolone,PDT(49)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121225 していた18).また,治療から12カ月の経過をみた成績として,Saitoらはbevacizumab併用PDT群で100%の症例で視力を維持し,46.0%で改善したと報告し19),Leeらはranibizumab併用PDT群で100%の症例で視力を維持,改善は54.5%と報告している20).筆者らはRAPに対してはトリプル療法を行っているが(図1,2),この場合も12カ月後の視力は100%で維持していた21).PED….CME…………….PEDCME..PED….LV..0.6..LV..0.8..de……….Ranibizumab4……..PED….CME….cLV=..0.5..CME….PED……aLV=..0.5..Ranibizumab2……..PED….bLV=..0.5..Ranibizumab3……..これらの結果より,現在のところ,RAPに対しては,ranibizumab併用PDT,あるいはtriamcinoloneも併用したトリプル療法がスタンダードな治療となっている.以上の国内外の報告や自験例の治療成績から,当科ではRAPを除くAMDに対しては原則として抗VFGF薬投与を第一選択と考えているが,視力が0.6.0.7以下で大きな漿液性網膜色素上皮.離(PED)を伴うような図2RAPに対するranibizumab,triamcinolone併用PDTの症例(治療後経過)a:初回治療1カ月後.ranibizumab2回目投与.PEDは平坦化し,CMEは消失した.視力は0.5.b:初回治療2カ月後.ranibizumab3回目投与.PED,CMEは完全消失した.矯正視力は0.5.c:初回治療3カ月後.PEDとCMEは消失したままで,視力も0.5を維持していた.d:初回治療7カ月後.PEDとCMEが再発した.視力は0.6.滲出再燃のためranibizumabの追加投与を行った(4回目).e:初回治療8カ月後.PED,CMEは完全に吸収消失した.矯正視力は0.8.1226あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(50) occultCNVのAMDやPCVについては,初回治療時からPDT併用抗VEGF療法を採用している.特に,occultCNVのなかでも抗VEGF薬の反応が弱いfibrovascularPEDに対しては併用療法を行うことが多い.RAPは前述のとおり,triamcinoloneも用いたトリプル療法を行っている.また,抗VEGF薬投与とPDTの間隔については,議論の余地があり,どのタイミングで行うかは現状では各施設の判断で行われている.当科では,抗VEGF薬を投与してあまり時間を経てからPDTを行うのはPDTの効果を弱める可能性があると考え,同日(PDTを行ってから,無灯火顕微鏡下での抗VEGF薬投与)に行っている.AMD以外のCNVに対してはType2のCNV(FAにおけるclassicCNVとほぼ同一)であることが多く,抗VEGF薬単独療法が第一選択治療であり,PDTの併用療法を行うことはほとんどない.おわりにCNVに対する抗VEGF単独療法は,滲出を抑制し視力の維持改善効果を認める治療法であり,現在のCNV治療の主流である.しかしながら,なかには効果の弱いCNVのタイプもあり,また,まったく効果を認めないあるいは効果の減弱する症例も認められる.このような症例にはPDTを併用した抗VEGF薬投与を行うことで,治療効果を高めることが可能となったと同時に,抗VEGF薬の投与回数減少や硝子体内注射による合併症のリスク軽減などの物理的な面や治療費の負担軽減などにも寄与している.しかしながら,PDT併用療法のほうが視力の改善が弱いという報告もあるので,どのような症例に行うべきかは,今後も慎重に適応を検討する必要があると思われる.文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20062)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed44:1432-1444,20063)LalwaniGA,RosenfeldPJ,FungAEetal:Avariable-dosingregimenwithintravitrealranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:year2ofthePrONTOStudy.AmJOphthalmol148:43-58,20094)田野保雄,大路正人,石橋達朗ほか:ラニビズマブ(遺伝子組換え)の維持期における再投与ガイドライン.日眼会誌113:1098-1103,20095)MitchellP,KorobelnikJF,LanzettaPetal:Ranibizumab(Lucentis)inneovascularage-relatedmaculardegeneration:evidencefromclinicaltrials.BrJOphthalmol94:2-13,20106)NakamuraT,MiyakoshiA,FujitaKetal:One-YearResultsofPhotodynamicTherapyCombinedwithIntravitrealranibizumabforExudativeAge-RelatedMacularDegeneration.JOphthalmol.2012:154659,20127)HikichiT,HiguchiM,MatsushitaTetal:One-yearresultsofthreemonthlyranibizumabinjectionsandas-neededreinjectionsforpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanesepatients.AmJOphthalmol154:117-124,20128)尾辻剛,永井由巳,正健一郎ほか:加齢黄斑変性に対するラニビズマブ無反応例の検討.厚生労働省難治性疾患克服研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班平成21年度報告書,p153-156,20109)TeperSJ,NowinskaA,PilatJetal:Involvementofgeneticfactorsintheresponsetoavariable-dosingranibizumabtreatmentregimenforage-relatedmaculardegeneration.MolVis16:2598-2604,201010)Kloeckener-GruissemB,BarthelmesD,LabsSetal:GeneticassociationwithresponsetointravitrealranibizumabinpatientswithneovascularAMD.InvestOphthalmolVisSci52:4694-4702,201111)LarsenM,Schmidt-ErfurthU,LanzettaPetal:Verteporfinplusranibizumabforchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration:twelve-monthMONTBLANCstudyresults.Ophthalmology119:9921000,201212)UyamaM,WadaM,NagaiYetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:naturalhistory.AmJOphthalmol133:639-648,200213)ShoK,TakahashiK,YamadaHetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy.ArchOphthalmol121:1392-1396,200314)SaitoM,IidaT,NagayamaD:Photodynamictherapywithverteporfinforage-relatedmaculardegenerationorpolypoidalchoroidalvasculopathy:comparisonofthepresenceofserousretinalpigmentepithelialdetachment.BrJOphthalmol92:1642-1647,200815)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTSTUDY:EfficacyandSafetyofVerteporfinPhotodynamicTherapyinCombinationwithRanibizumaborAloneVersusRanibizumabMonotherapyinPatientswithSymptomaticMacularPolypoidalChoroidalVasculopathy.Retina32:1453(51)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121227 1464,201216)FreundKB,KlaisCM,EandiCMetal:Sequencedcombinedintravitrealtriamcinoloneandindocyaninegreenangiography-guidedphotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.ArchOphthalmol124:487492,200617)HemeidaTS,KeanePA,DustinLetal:Long-termvisualandanatomicaloutcomesfollowinganti-VEGFmonotherapyforretinalangiomatousproliferation.BrJOphthalmol94:701-705,201018)永井由巳,五味文,沢美喜ほか:網膜血管腫状増殖に対して行った薬物併用の光線力学的療法.日眼会誌112(臨時増刊号):255,200819)SaitoM,ShiragamiC,ShiragaFetal:Comparisonofintravitrealtriamcinoloneacetonidewithphotodynamictherapyandintravitrealbevacizumabwithphotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.AmJOphthalmol149:472-481,201020)LeeMY,KimKS,LeeWK:CombinationtherapyofranibizumabandphotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferationwithserouspigmentepithelialdetachmentinKoreanpatients:twelve-monthsresults.Retina31:65-73,201121)有澤章子,永井由巳,西川真生ほか:網膜血管腫状増殖に対するPDTトリプル療法の1年成績.第65回日本臨床眼科学会抄録集,p65,20111228あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(52)

血管新生緑内障に対する抗VEGF治療

2012年9月30日 日曜日

特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1217.1221,2012特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1217.1221,2012血管新生緑内障に対する抗VEGF治療Anti-VEGFTreatmentforNeovascularGlaucoma広瀬真希*稲谷大*はじめに血管新生緑内障に対する濾過手術として,わが国ではマイトマイシンC(MMC)を併用したトラベクレクトミーが行われているが,その手術成績は他の緑内障病型と比較して予後不良である.最近,抗vascularendothelialgrowthfactor(VEGF:血管内皮増殖因子)阻害薬であるベバシズマブ(アバスチンR)を用いたMMC併用トラベクレクトミーが試みられ,予後の改善,合併症の軽減がはかられている.I血管新生緑内障の発症機序血管新生緑内障の発症には,網膜虚血が大きく関わっており,増殖糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,眼虚血症候群が3大原因疾患となっている.その他には網膜中心動脈閉塞症,網膜.離,硝子体切除術後,虹彩や網膜の腫瘍,放射線,ぶどう膜炎などの炎症性疾患でも血管新生緑内障が起こりうることが報告されている1).VEGFが血管新生の鍵となる分子で,網膜の虚血病変から産生され,前眼部に拡散することによって,隅角線維柱帯組織で血管新生をひき起こし,隅角表面が線維膜で覆われたり周辺虹彩前癒着が形成されたりして,房水流出抵抗が増大し,眼圧が上昇するのである.II診断と検査患者の基礎疾患として,糖尿病がないかを聴取する.散瞳して眼底検査を行う前に,細隙灯顕微鏡で,虹彩表面や瞳孔縁のルベオーシスの観察と隅角鏡による隅角新生血管と周辺虹彩前癒着の観察を済ませておく.新生血管の多くは瞳孔縁に初発するが,網膜中心静脈閉塞症の12%に虹彩の新生血管は認められなかったが隅角に新生血管を認めたという報告もあり,疑わしかったら隅角鏡も用いて精査するのが大切である.散瞳後に,眼底検査を行い,網膜虚血の原因となる眼疾患を鑑別する.眼底所見に乏しく,片眼性の血管新生緑内障の場合は,眼虚血症候群を疑う.頸動脈エコー検査を行い,内頸動脈の狭窄がないかをチェックする.網膜虚血病変を評価するために,蛍光眼底造影を行う.蛍光眼底造影は,前眼部の血管新生の評価にも有効な手段であり,明らかな新生血管がなくても瞳孔縁や隅角に蛍光漏出がみられることがある2).III治療1.網膜虚血への対処血管新生緑内障の治療は,虚血網膜に対する治療が最優先される.網膜の虚血を解除する手段として,汎網膜光凝固術が第一選択である.凝固数が少ないと,血管新生緑内障が進行するリスクが高く,なるべく早くトータルで3,000発以上の密な汎網膜光凝固術を心がけるべきである.網膜の血管新生からの出血のために硝子体出血をきたし,眼底が透見できない症例に対しては,硝子体手術を施行し,術中に眼内レーザーを用いて,汎網膜光凝固術を完成させる.冷凍凝固術は,術後の結膜瘢痕が*MakiHirose&MasaruInatani:福井大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕広瀬真希:〒910-1193福井県吉田郡永平寺町松岡下合月23-3福井大学医学部眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(41)1217 強くなり,将来,濾過手術を行うのが困難となるため,濾過手術や硝子体手術ができない症例などに限定して選択すべきである.2.眼圧に対する薬物治療汎網膜光凝固術を行っても眼圧下降が不十分であれば,緑内障点眼薬を処方する.眼圧を下降させるために用いる点眼薬は,緑内障の薬物治療に準ずる.プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,a2受容体作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬を用いる.縮瞳薬は,眼底の虚血病変に対する対応が困難になるため,使用すべきでない.内服薬では,炭酸脱水酵素阻害薬であるアセタゾラミドが用いられる.著しい高眼圧で角膜浮腫が強い場合には,高浸透圧薬を点滴し,眼圧を一時的に下げると,角膜の透明性が改善し,汎網膜光凝固術を行いやすい.3.観血治療a.血管新生緑内障に対する濾過手術汎網膜光凝固術を完成させ,薬物治療で眼圧下降を行トミーの手術成績を後ろ向きに調査したところ,おもに眼圧値で成功を判定すると,1年生存率が62.6%,2年生存率が58.2%,5年生存率が51.7%であった3).つまり,5年間で約半数の症例で再発し,そのうち4分の3が1年以内に再発する計算になる(図1).過去に5-フルオロウラシル併用トラベクレクトミーでは50歳以下の血管新生緑内障患者の手術予後はきわめて不良であると指摘されていた4)が,MMC併用トラベクレクトミーでも若年者の手術予後は不良であった(図2).また,血管新生緑内障を両眼発症している糖尿病網膜症患者では,片眼だけ血管新生緑内障を発症している糖尿病網膜症患者よりも手術予後が悪い,硝子体手術の既往のある症例は,MMC併用トラベクレクトミーの成績が有意に10080>50歳≦50歳生存率(%)6040っても,高眼圧が持続する場合には,観血治療を選択する.わが国では,MMCを併用したトラベクレクトミーを施行するのが一般的である.しかし,術後の眼圧コントロールは,原発開放隅角緑内障に対するトラベクレクトミーに比較すると予後がかなり悪いようである.筆者らは,血管新生緑内障に対するMMC併用トラベクレク200012345トラベクレクトミー術後(年)図2血管新生緑内障に対するマイトマイシンC併用トラベクレクトミーにおける手術予後の年齢での比較50歳以下の手術予後はきわめて不良である.(文献3より許可を得て転載)100硝子体手術の既往なし硝子体手術の既往あり1008080生存率(%)60生存率(%)60404020200012345001234トラベクレクトミー術後(年)5トラベクレクトミー術後(年)図3血管新生緑内障に対するマイトマイシンC併用トラベ図1101例101眼の血管新生緑内障に対するマイトマイシンクレクトミーにおける手術予後の硝子体手術の既往の有C併用トラベクレクトミーの生命表解析無での比較22mmHg以上の眼圧値が2回連続,光覚弁視力喪失,再手術硝子体手術の既往のある症例は,ない症例に比べて予後不良でを不成功と定義している.(文献3より許可を得て転載)ある.(文献3より許可を得て転載)1218あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(42) 悪い(図3),周辺虹彩前癒着が生じている症例は手術予後が悪い5),などの予後因子が明らかになった.硝子体手術後のトラベクレクトミーが予後不良である理由としては,硝子体手術をする症例はそうでない症例と比べて疾患がより重篤であるから,大きな侵襲の内眼手術を受けている症例は濾過胞形成に不利であるから,硝子体手術による結膜切開が濾過胞の形成維持を阻害しているから,などの理由が考えられ,トラベクレクトミーの前に硝子体手術をすることを控えるべきかどうかに関しては,議論の余地がある.b.VEGF阻害薬血管新生緑内障の治療に保険で認められているVEGF阻害薬はないが,現状では,ベバシズマブが,各診療施設の倫理委員会で審議され承認を受け使用されている.投与法は,1.25mg(50μl)を硝子体内注射するのが一般的である.上松・古賀氏硝子体内注射ガイドを用いて行うと,有水晶体眼でも水晶体に針を接触させず安全に注射できる(図4).ベバシズマブを投与することで,隅角の新生血管が退縮し,房水流出抵抗が改善し,眼圧が下降する.著しい高眼圧をきたし角膜浮腫をきたしている症例では,ベバシズマブを投与すれば,角膜浮腫が改善し,汎網膜光凝固術を行いやすい.ベバシズマブと汎網膜光凝固術を併用することで,血管新生緑図4ベバシズマブの投与法(図の下方が上側)トラベクレクトミーの術前2日前に,1.25mg(50μl)のベバシズマブを30ゲージ針で上松・古賀氏硝子体内注射ガイドを用いて硝子体内に注射する.内障の進行を抑制させることができる6).また,汎網膜光凝固術を急いでいるときに,ベバシズマブを投与しておくと,レーザーによる黄斑浮腫の合併を予防できる効果もある.しかし,ベバシズマブの効果は永続的ではなく,投与後1.4カ月で新生血管の再発がみられることが少なくない.血管新生緑内障にベバシズマブを硝子体内注射すると,投与後1カ月では40眼(74%)に虹彩隅角の新生血管の完全退縮,14眼(26%)に新生血管の不完全な退縮が認められた.投与後1カ月において不完全退縮であった群も2.9カ月で完全退縮を示した.そして完全退縮した群では43%に新生血管の再発がみられ,完全退縮しなかった5眼においてはすべて血管新生緑内障の再発を認めた.ベバシズマブ硝子体内注射は,血管新生の抑制に非常に効果的ではあるが,1年後には85%に血管新生の再発がみられた.それに比べてベバシズマブ投与後トラベクレクトミーを施行した群では1年たっても再発率は27%と有意に抑えることができた7).c.ベバシズマブを用いたMMC併用トラベクレクトミー最近,VEGFに対する中和抗体であるベバシズマブを硝子体内注射した後にMMC併用トラベクレクトミーを行う治療がなされている.トラベクレクトミーの問題としては,虹彩や線維柱帯を切除する際に,新生血管を切ってしまうので,術中に前房出血をきたし,術後に前房出血が遷延して,患者の視機能を大きく損なってしまう点がある.ベバシズマブをトラベクレクトミーの術中かその数日前に,1.25mg硝子体内注射を行う.当院ではMMC併用トラベクレクトミーの2日前にベバシズマブを結膜を温存する意味で下方から硝子体注射している.隅角や虹彩の新生血管が退縮し,術中の前房出血を抑えることができ手術経過は良いとの症例報告が発表されている8,9).ベバシズマブを投与すると,血管侵入が少ない濾過胞が形成されやすいようである(図5).しかし,その後,ベバシズマブの効果は一過性であるため,術数カ月後に血管新生が再発する症例もある.Takiharaら10)の報告では,ベバシズマブを投与した全例に新生血管の退縮が認められたが,MMC併用トラベクレクトミー後1年の経過観察中35.3%に虹彩新生血管の再発を認めた.再発の平均期間は102.2±60.5日(43)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121219 図5ベバシズマブ投与したトラベクレクトミーのブレブ左:ベバシズマブを投与しなかったブレブ.ブレブに多数の血管がみられる.右:ベバシズマブを投与したブレブ.術後早期に血管の侵入の少ないブレブが形成される(OphthalmicForesight14(3):12-13,2009より許可を得て転載)10080604020トラベクレクトミー術後(日)図6血管新生緑内障に対するベバシズマブ硝子体注入後マイトマイシンC(MMC)併用トラベクレクトミーとMMC併用トラベクレクトミーの比較IVB群:MMC併用トラベクレクトミーの2日前にベバシズマブを硝子体内注射した群.コントロール群:MMC併用トラベクレクトミーを施行した群.術後1年では両群の成功率に有意差を認めない.(文献10より許可を得て転載)(29日から205日)であった.ベバシズマブを硝子体内注射した後にMMC併用トラベクレクトミーを施行した群24眼と従来のMMC併用トラベクレクトミー群33眼を比較したスタディでは,手術の合併症として前房出血がベバシズマブ群では5眼(20.8%),従来群では19眼(57.6%)と有意にベバシズマブ群で前房出血が抑えられたと報告されている.また,術後眼圧の比較では,ベバシズマブ群では術後7日目10.1±5.1mmHg,10日目8.9±3.0mmHg,従来群では術後7日目14.4±8.600:IVB群:コントロール群成功率(%)120240360mmHg,10日目12.7±7.8mmHgとベバシズマブ群で術後短期眼圧が有意に低いという結果が出ている.しかし,長期の手術成功率は,ベバシズマブ群が術後120日で75.0%,240日で71.9%,360日で65.3%,従来群では術後120日で87.5%,240日で79.2%,360日で65.2%と,初めはベバシズマブ群のほうがやや成功率は高いようだが(有意差は認めない),1年後には差がなくなってしまった10)(図6).d.チューブシャント手術血管新生緑内障に対するトラベクレクトミーの手術成績は不良であり,再手術が必要になる症例がある.トラベクレクトミーが不成功に終わった症例に対する治療として,Baerveldt緑内障インプラントを用いたチューブシャント手術が選択される(図7).2012年から,わが国でもチューブシャント手術が保険診療で行うことが可能となった.米国では古くからトラベクレクトミーが不成功に終わった症例に対しては,チューブシャント手術を行うのが一般的である.米国で行われたチューブシャント手術の臨床試験では,血管新生緑内障のような難治性の緑内障患者に対しては,初回手術にチューブシャント手術が行われている.しかし,EveryとMoltenoらが2006年に報告したMoltenoインプラントを用いた130人145眼の血管新生緑内障に対する手術成績は,1年生存率72%,2年生存率60%,5年生存率40%であ1220あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(44) 図7Baerveldt緑内障インプラントを用いたチューブシャント硝子体手術の既往のある網膜中心静脈閉塞症の症例.12時方向から水晶体再建術,10時方向からトラベクレクトミーの既往がある.Baerveldt緑内障インプラント後房タイブを挿入している.り11),チューブシャント手術が,筆者らの報告したMMC併用トラベクレクトミーよりも劇的に良いという印象はない.今後,わが国でも長期的な手術予後や対照群との比較結果など詳細な報告が期待される治療法である.4.毛様体破壊術上記の観血治療でも眼圧上昇が再発する症例に対しては,毛様体破壊術が行われる.最近では,経強膜的に,半導体レーザーで毛様体破壊術を行う方法が一般的である.おわりに血管新生緑内障は,網膜の虚血病変の治療と眼圧下降のための手術治療を行っても,治療抵抗性を示すことが多い.抗VEGF療法は根本的に網膜虚血を解消するわけではないが,ルベオーシス退縮や一時的に眼圧を下降させるためには即効性があるため,汎網膜光凝固術を完成させるまでの時間を稼ぐことができるという利点があり,術前処置としては前房出血や硝子体出血などの合併症予防になる.抗VEGF療法は,血管新生緑内障の治療に対する補助療法といえる.文献1)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDetal:Evidencebasedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1776,20012)OhnishiY,IshibashiT,SagawaT:Fluoresceingonioangiographyindiabeticneovascularisation.GraefesArchClinExpOphthalmol232:199-204,19943)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:TrabeculectomywithmitomycinCforneovascularglaucoma:Prognosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmol147:912-918,20094)TsaiJC,FeuerWJ,ParrishRK2ndetal:5-Fluorouracilfilteringsurgeryandneovascularglaucoma.Long-termfollow-upoftheoriginalpilotstudy.Ophthalmology102:887-892,19955)KiuchiY,SugimotoR,NakaeKetal:TrabeculectomywithmitomycinCfortreatmentofneovascularglaucomaindiabeticpatients.Ophthalmologica220:383-388,20066)EhlersJP,SpirnMJ,LamAetal:Combinationintravitrealbevacizumab/panretinalphotocoagulationversuspanretinalphotocoagulationaloneinthetreatmentofneovascularglaucoma.Retina28:696-702,20087)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Clinicalfactorsrelatedtorecurrenceofanteriorsegmentneovascularizationaftertreatmentincludingintravitrealbevacizumab.AmJOphthalmol149:964-972,20108)MikiA,OshimaY,OtoriYetal:Efficacyofintravitrealbevacizumabasadjunctivetreatmentwithparsplanavitrectomy,endolaserphotocoagulation,andtrabeculectomyforneovascularglaucoma.BrJOphthalmol92:14311433,20089)CornishKS,RamamurthiS,SaidkasimovaSetal:Intravitrealbevacizumabandaugmentedtrabeculectomyforneovascularglaucomainyoungdiabeticpatients.Eye23:979-981,200910)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:CombinedintravitrealbevacizumabandtrabeculectomywithmitomycinCversustrabeculectomywithmitomycinCaloneforneovascularglaucoma.JGlaucoma20:196-201,201111)EverySG,MoltenoAC,BevinTHetal:Long-termresultsofMoltenoimplantinsertionincasesofneovascularglaucoma.ArchOphthalmol124:355-360,2006(45)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121221

近視性脈絡膜新生血管に対する抗VEGF治療

2012年9月30日 日曜日

特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1209.1215,2012特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1209.1215,2012近視性脈絡膜新生血管に対する抗VEGF治療Anti-VEGFTherapyagainstMyopicChoroidalNeovascularization大野京子*はじめに近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)は,病的近視眼の約10%に生じ1),病的近視患者の視力予後を左右する最も重要な合併病変である.近視性CNVは,加齢黄斑変性(AMD)のCNVに比較すると,小さく,活動性も低いことから,AMDのCNVに対する従来の治療法の多くが,近視性CNVに対してより効果的であることが知られている.なかでも,bevacizumabに代表される抗VEGF(血管内皮増殖因子)療法は,近視性CNVの視力予後を著明に改善し,特に中心窩下以外のCNVにおいては,治療後にCNVが消失し,長期的にも近視性CNV特有の合併病変である黄斑部萎縮が発生せず永久治癒を得ることが可能となってきている.このような背景をもとに,現在,ranibizumabとafliberceptの2種類の抗VEGF療法が近視性CNVに対して臨床試験中であり,近い将来,近視性CNVに対し抗VEGF療法が保険適用になる.そこで本稿では,近視性CNVに対する抗VEGFの適応とその効果について,多数の自験例を提示しながら詳しく解説したい.I近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)の頻度と自然経過病的近視は,50歳以下の若年者のCNVの原因として60%を占め,最も多い原因である2).病的近視全体ではCNVは約10%に生じ1),その30%は両眼性に至る1).以上から,近視性CNVは若年者の視覚障害の原因として非常に重要である.近視性CNVはAMDによるCNVに比較し,小型で活動性も低いことが多い.小型であるために傍中心窩のCNVも多く,おおよそ8割が中心窩下,2割が中心窩下以外である3).活動性が低いため,無治療でも徐々に自然退縮し,瘢痕期(Fuchs斑ともよばれる)を経て,CNV周囲に網膜脈絡膜萎縮を形成する萎縮期に至る.しかし無治療では,CNV発症後5.10年を経過すると,ほとんどの症例で矯正視力は0.1以下に低下し,その原因はCNV周囲に形成される萎縮病巣による3).したがって,近視性CNVの予後を考える場合には,単にCNVのみならず,退縮したCNV周囲に形成される黄斑部萎縮の影響を考える必要がある.II近視性CNVに対する抗VEGF療法の適応(活動性の判断)近視性CNVは活動性が低いために,AMDのCNVと異なり,漿液性網膜.離,網膜浮腫,出血などの滲出性変化が軽微であることが多い.そのため光干渉断層計(OCT)では,CNVを示唆する網膜下隆起病巣以外に,網膜浮腫などの滲出性変化を検出できないことが多い(図1).また,網膜脈絡膜の菲薄化により眼底が赤い色調に見えるため,検眼鏡所見においても,軽微な出血は見逃されやすい.したがって,近視性CNVの診断および活動性の有無の判断にはフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)が非常に*KyokoOhno:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕大野京子:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(33)1209 ABCABCABC図1小型の近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)の眼所見A:眼底では灰色の色素沈着を伴う線維血管組織がみられる(矢印).B:フルオレセイン蛍光眼底造影では,色素漏出がみられる(矢印).C:光干渉断層計では網膜下の隆起病巣としてみられる.本症例では周囲網膜に浮腫などの滲出性変化はない.有用である.病的近視の患者が,「中心が見づらい,ゆがんで見える」などの症状を訴える場合には,小型の近視性CNVが生じている可能性も考え,FAを行う必要がある.幸い,近視性CNVはほとんどすべてがいわゆるclassicCNVであり,網膜が薄いためか,出血がCNVの上に覆いかぶさってしまうこともない.したがって,FAでは近視性CNVは造影早期から明瞭な過蛍光を呈することから診断される(図1).また,造影後期の色素漏出の有無を確認することにより,活動性の有無も比較的容易に観察できる.以上から,OCT全盛時代においても,AMDとは異なり,近視性CNVの診断や治療適応の判断にはFAが必要であると考えている.III単純型黄斑部出血との鑑別近視性CNVとよく間違われやすい病態に単純型黄斑部出血がある(図2).これは,Bruch膜の機械的断裂であるlacquercrack形成に伴い,脈絡膜毛細血管が障害されて生じる出血で,CNVはなく,無治療でも出血は徐々に吸収され,視力は改善することが多い.OCTでは,CNVと同様の網膜下隆起病巣を呈するが,FAで1210あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012図2単純型黄斑部出血A:黄斑部に円形の出血斑がみられる(矢印).出血内に線維血管膜を示唆する灰白色の組織はみられない.出血の周囲にlacquercrackがみられる.B:フルオレセイン蛍光眼底造影では,出血によるブロックの低蛍光がみられる(矢印).C:光干渉断層計では網膜下の隆起病巣としてみられ,OCTのみからでは近視性脈絡膜新生血管との鑑別はむずかしい.は出血によるブロックのみであり,出血内部にCNVに由来する過蛍光を認めないことから鑑別可能である.病的近視では,黄斑部出血の原因として,この単純型出血が少なからずあるため注意が必要である.IV近視性CNVに対する抗VEGF療法の報告(2年以上のみ)表1に,抗VEGF療法を施行し2年以上経過観察された近視性CNVのおもな報告をまとめた.Bevacizumab硝子体内投与(IVB)の投与方法は,導入期に3回連続もしくは初回から単回投与であとは必要時のみ,と違いがみられるが,単回投与の研究では,2年間の投与回数は1.2回程度,3回連続投与群では,2.3回導入期以後に追加されている.したがって,導入期から単回投与もしくは3回連続投与のどちらを選択しても,その後の追加回数に大きな差はないようであり,近視性CNVでは初回から単回投与で良いのではないかと思われる.最近,Wakabayashiら4)は,近視性CNVにおいて,初回から単回投与と3回連続投与の間に最終視力に有意差がないことから,やはり単回投与で良いのではないかと(34) 表1近視性脈絡膜新生血管に対するbevacizumab硝子体内投与の報告(2年以上)経過観察眼数先駆投与平均投与最高矯正視力報告者報告年期間(月)(症例数)平均年齢CNVの位置治療方法回数治療前最終時中心窩下(67%),Baba20102412(12)62.8傍中心窩(33%)なし単回1.60.18logMAR0.32logMARIkuno20102411(11)67中心窩下(78%),なし単回2.90.21logMAR0.28logMAR傍中心窩(27%)Voykov20102421(19)60.1中心窩のみPDT単回2.90.23logMAR0.28logMARRuiz-Moreno20102419(18)50中心窩のみPDT3回連続N/A0.29logMAR0.34logMARNakanishi20112423(23)65.1中心窩下(61%),なし単回1.350.74logMAR0.46logMAR傍中心窩(39%)Iacono20112436(36)60.6中心窩のみなし3回連続5.955ETDRS文字数59ETDRS文字数Gharbiya201224to3632(30)56.2中心窩下(56%),なし3回連続5.230.1ETDRS文字数45.4ETDRS文字数傍中心窩(44%)60.8(中心窩下),中心窩下(35%),Hayashi20122475(69)56.1(傍中心窩)傍中心窩(65%)なし単回1.80.53logMAR0.29logMARABCDABCD図3傍中心窩の近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)に対するbevacizumab硝子体内投与(IVB)A:発症時の眼底写真.中心窩の下方に小型のCNVを認める(矢印).視力(0.7).B:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,CNVに一致した過蛍光がみられる(矢印).C:IVB1回施行1年後.眼底所見では変化は目立たない.D:IVB1回施行1年後のFA所見では,軽度の網膜脈絡膜萎縮があるのみでCNVを示唆する過蛍光は消失した.視力(1.0).報告している.再投与の判断基準は,報告された施設により異なっているが,最近ではOCTで判断されることが多いようである.ただ前述したように,近視性CNVはOCTでは滲出性変化に乏しい症例が多いため,矯正視力の低下,(35)図4傍中心窩の近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)に対するbevacizumab硝子体内投与(IVB)A:発症時の眼底写真.中心窩の耳側に小型のCNVを認める(矢印).視力(0.7).B:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,CNVに一致した過蛍光がみられる(矢印).C:IVB1回施行4年後.CNVを示唆する組織はみられない.D:IVB1回施行4年後のFA所見では,軽度の網膜脈絡膜萎縮があるのみでCNVを示唆する過蛍光は消失した.視力(1.0).(文献6から許可を得て改変)自覚症状,検眼鏡的な出血の有無など,OCTだけでなく補助材料による傍証を必要とすることが多い.可能な限り,FAを施行しておくことが最も理想的である.あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121211 VCNVの位置によるIVB治療効果の違いIVBによる近視性CNVの効果には,CNVの位置により顕著な違いがあり,傍中心窩CNVには著効し,しばしばCNVが検眼的にもFAでもOCTでも検出されなくなるほどに消失し,長期的にもCNV周囲に萎縮病巣は生じない(図3,4).つまりほぼ永久的な治癒を得ることができる.IVB施行前にはこのような著効例は光線力学的療法(PDT)でときに経験された5)が,IVBではより多い症例で傍中心窩CNVの消失をみることがABCDE図5中心窩下の近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)に対するbevacizumab硝子体内投与(IVB)A:発症時の眼底写真.中心窩を含むCNVを認める(矢印).視力(0.2).B,C:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,造影早期からCNVに一致した過蛍光がみられ(B,矢印),造影後期には(C)色素漏出がみられる(矢印).D:IVB1回施行2年後.CNVは色素沈着を伴い瘢痕化した.E:IVB1回施行2年後の眼底自発蛍光写真.CNV周囲に広範囲の網膜脈絡膜萎縮が形成されている(矢頭).視力(0.1).1212あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012できる.一方,中心窩下CNVも同様にIVBに良好に反応し,治療後早期にCNVは収縮して瘢痕化するが,その周囲に徐々に網膜脈絡膜萎縮が発生,拡大し(図5,6),最終的には一旦上昇した視力が,萎縮病巣の拡大とともに低下し,最終的には治療前視力のレベルまで低下してしまうことがしばしば経験される.実際,CNVの位置別に治療後視力の経過を検討すると,傍中心窩CNVでは治療後2年まで有意な視力改善が維持されるが,中心窩下CNVでは治療前視力と2年後視力の間に有意差はなかった(図7)6).以上から,病的近視の中心窩下CNVに対するIVBの効果はまだ満足できるものではなく,今後は瘢痕を残さずに中心窩下CNVを退縮させる方法と,退縮したCNV周囲の網膜脈絡膜萎縮をターゲットとした新たな治療の開発が望まれる.ABCD図6中心窩下の近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)に対するbevacizumab硝子体内投与(IVB)A:発症時の眼底写真.中心窩を含むCNVを認める(矢印).視力(0.3).B:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,CNVに一致した過蛍光がみられる(矢印).C:IVB1回施行4年後.CNVは色素沈着を伴い瘢痕化した(矢印)が,CNV周囲に網膜脈絡膜萎縮が形成された.視力(0.08).D:IVB1回施行4年後の眼底自発蛍光写真.CNV周囲に広範囲の網膜脈絡膜萎縮が形成されている(矢頭).(36) Baseline1YafterIVB2YafterIVBlogMAR10**Baseline1YafterIVB2YafterIVBlogMAR1.510.50Baseline1YafterIVB2YafterIVBlogMAR10**ABC図7近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)に対するbevaci-zumab硝子体内投与(IVB)の2年間の視力予後全症例(A)および中心窩下以外のCNV(C)では,発症時に比較し,2年後まで有意な視力改善がみられるが,中心窩下のCNV(B)では発症時に比べて1年後,2年後とも視力改善に有意差はない.*p<0.05.(文献6から許可を得て転載)Baseline1YafterIVB2YafterIVBlogMAR10**Baseline1YafterIVB2YafterIVBlogMAR1.510.50Baseline1YafterIVB2YafterIVBlogMAR10**ABC図7近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)に対するbevaci-zumab硝子体内投与(IVB)の2年間の視力予後全症例(A)および中心窩下以外のCNV(C)では,発症時に比較し,2年後まで有意な視力改善がみられるが,中心窩下のCNV(B)では発症時に比べて1年後,2年後とも視力改善に有意差はない.*p<0.05.(文献6から許可を得て転載)VI注意すべき合併症もともと正常眼に多く生じるAMDとは異なり,病的近視眼では近視性眼底病変をすでに有している眼にCNVが生じることが多く,抗VEGF療法を施行するに際しては,治療がほかの眼底病変に与える影響も同時に(37)注意する必要がある.なかでも問題になるのが,IVB投与後の近視性牽引黄斑症(myopictractionmaculopathy:MTM)の進行である.MTMは病的近視眼の9.34%7,8)にみられるため,MTMとCNVの両方を有している症例は臨床上しばしばみられる.IVB投与後のCNVの収縮は急激かつ高度に生じる.その際に,元々MTMを有している眼では,CNVの急激な収縮が網膜組織の乖離を促進し,黄斑.離に進行することがある(図8,9)9).したがって,IVB治療前には必ずOCTでMTMの合併をチェックし,IVB治療後も詳細な経過観察が必要である.硝子体牽引が高度で,MTMの悪化が予測される症例には,事前に患者に十分リスクを説明し,場合によっては,急激なCNVの収縮を起こさない他の治療法(PDT,triamcinoloneacetonideの硝子体内もしくは後部Tenon.下投与など)を選択する.また,AMDに比較し,近視性CNVは若年で発症し,ときに20.30歳代の女性にもみられる.筆者らの施設ではこれまで経験はしていないが,若年女性にIVB投与すると月経異常が生じることが報告されており10),事前に十分説明しておく必要がある.また,妊娠の有無も必ず聞いておき,妊娠が疑われる症例には投与は避けるべきと考えられる.おわりに以上,近視性CNVに対する抗VEGF療法について,主としてIVBの結果を中心に,治療適応の判定や鑑別診断,2年までの治療効果について概説した.特に,AMDとは異なり,近視性CNVではCNV以外の近視性眼底病変が同時に存在する場合があり,抗VEGF療法により他の近視性眼底変化が増悪する可能性があることに留意して治療を行う必要がある.また,今回は詳述しなかったが,病的近視では視神経障害を合併する頻度も高く11),近視性CNVではしばしばCNVの治療に集中しているうちに見過ごされた視神経障害が進行してしまっている例もときにみられる.したがって,近視性CNVに対する治療においては,CNVとその周囲に生じる網膜脈絡膜萎縮に加え,他の近視性眼底病変の合併も常に念頭におき治療することが望ましいと思われる.あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121213 発症時IVB1カ月後発症時IVB1カ月後図8近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)に対するbevacizumab硝子体内投与(IVB)後の黄斑.離の発生左:発症時には中心窩にCNVがみられ(矢印),フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)で過蛍光を呈する(矢印).OCTではCNVを示唆する網膜下隆起病巣(矢印)と周囲に網膜分離を認め,CNV周囲にごく小範囲の黄斑.離を認める(*).右:IVB1カ月後.眼底およびFAにて,CNVは著しく縮小した(矢印).OCTではCNVが著しく縮小した(矢印)が,その上に黄斑.離が生じた(*).黄斑.離の周囲に2個の外層円孔が生じた(矢頭).(文献9から許可を得て転載,一部改変)発症時IVB1カ月後IVB9カ月後図9近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)に対するbevacizumab硝子体内投与(IVB)後の黄斑.離の発生左:発症時には中心窩にCNVがみられ(矢印),フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)で過蛍光を呈する(矢印).OCTではCNVを示唆する網膜下隆起病巣(矢印)と周囲に網膜分離を認める.中央:IVB1カ月後.眼底およびFAにて,CNVは著しく縮小した(矢印).OCTではCNVが著しく縮小した(矢印)が,その周囲に黄斑.離が生じた(*).黄斑.離の周囲に外層円孔が生じた(矢頭).右:IVB9カ月後.眼底写真ではCNVは色素沈着を呈し(矢印),FAでは過蛍光はみられない(矢印).OCTでは,黄斑.離(*)は拡大し,それとともに外層分層円孔の拡大もみられる(矢頭).(文献9から許可を得て転載,一部改変)1214あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(38) 文献1)Ohno-MatsuiK,YoshidaT,FutagamiSetal:Patchyatrophyandlacquercrackspredisposetothedevelopmentofchoroidalneovascularisationinpathologicalmyopia.BrJOphthalmol87:570-573,20032)CohenSY,LarocheA,LeguenYetal:Etiologyofchoroidalneovascularizationinyoungpatients.Ophthalmology103:1241-1244,19963)YoshidaT,Ohno-MatsuiK,YasuzumiKetal:Myopicchoroidalneovascularization:a10-yearfollow-up.Ophthalmology110:1297-1305,20034)WakabayashiT,IkunoY,GomiF:Differentdosingofintravitrealbevacizumabforchoroidalneovascularizationbecauseofpathologicmyopia.Retina31:880-886,20115)HayashiK,Ohno-MatsuiK,ShimadaNetal:Long-termresultsofphotodynamictherapyforchoroidalneovascularizationinJapanesepatientswithpathologicmyopia.AmJOphthalmol151:137-147el,20116)HayashiK,ShimadaN,MoriyamaMetal:TwoyearoutcomesofintravitrealbevacizumabforchoroidalneovascularizationinJapanesepatientswithpathologicalmyopia.Retina32:687-695,20127)BabaT,Ohno-MatsuiK,FutagamiSetal:Prevalenceandcharacteristicsoffovealretinaldetachmentwithoutmacularholeinhighmyopia.AmJOphthalmol135:338342,20038)TakanoM,KishiS:Fovealretinoschisisandretinaldetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaphyloma.AmJOphthalmol128:472-476,19999)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,IwanagaYetal:Macularretinaldetachmentassociatedwithperipapillarydetachmentinpathologicmyopia.IntOphthalmol29:99-102,200910)ShimaC,SakaguchiH,GomiFetal:Complicationsinpatientsafterintravitrealinjectionofbevacizumab.ActaOphthalmol86:372-376,200811)Ohno-MatsuiK,ShimadaN,YasuzumiKetal:Longtermdevelopmentofsignificantvisualfielddefectsinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol152:256-265e1,2011(39)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121215