特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):739.743,2013特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):739.743,2013眼振をみたらHowtoTreatNystagmus木村亜紀子*はじめに眼振患者のqualitativestudyにおいて,眼振患者は大きく6つの点で悩んでいることが報告された1).視力,行動の制限,目立つこと/溶け込めないこと,内なる自分の感情,将来や人間関係への悲観である.これらは,眼振患者が日常生活のうえで視力不良による障害(車の運転や職業の制限など)と眼振による整容面での引け目,自己否定によるものの表れである.眼振患者に対する治療において,視力向上は医療側が積極的に取り組むべきものとして当然であるが,今後は,新たに整容面での改善にも重きをおき,積極的に取り組むべきではないかと考えている.I眼振とは眼振は,規則的に繰り返す不随意な眼球運動であり,眼球のリズミカルな振動様の往復運動と定義される.先天性と後天性があるが,その判断に迷うことは少ない.動揺視がなく,両親が生後まもなくから眼振に気付いていれば先天性である.ただ,先天眼振でも周期性交代眼振(periodicalternatingnystagmus:PAN)は動揺視を自覚していることが多いので注意を要する.また,一般に先天眼振とよぶ場合には,視力がきわめて不良なoculocutaneousalbinism(眼皮膚白子症)や視神経低形成,網膜異常など器質的疾患を伴っている場合は除外されている.PAN以外で動揺視がある場合は後天性を考えるが,後天性の場合には原因精査が重要となる.特にupbeatnystagmus,downbeatnystagmusなどの上下方向の眼振は脳幹部腫瘍など重大な疾患が潜んでいることがある.II眼振の分類水平眼振,回旋性眼振,垂直眼振,これらが組み合わさったものがある.急速相をもつものは律動眼振(jerkynystagmus),急速相と緩徐相がほぼ同等のものは振り子様眼振(pendularnystagmus)とよばれる.眼振には眼振の振幅が小さくなる,もしくは眼振が止まる静止位をもつ頭位眼振(この場合は代償頭位をとる)と静止位のない眼振の2種類に分類できる.静止位の有無により,治療法や視力予後が異なるため静止位の有無での分類も重要である.III先天眼振1.特徴先天眼振は,輻湊,暗所,閉瞼により眼振の振幅の抑制がみられ,注視により増強する特徴がある.また,注視方向を眼振の急速相に向かわせるに従って眼振の強度が増大するAlexanderの法則も知られている.屈折異常としては乱視の合併が高いことが指摘されており2),厳密な屈折矯正は眼振患者の治療の第一歩である.*AkikoKimura:兵庫医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕木村亜紀子:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(17)7392.視力が良好な先天眼振先天眼振で,潜伏眼振,静止位をもつ頭位眼振,周期性交代性眼振(PAN)では比較的視力は良好である.潜伏眼振は片眼を遮閉することで眼振が出現する.両眼視しているときは眼振は認められない.そのため,両眼視力は良好であるが,学校の健診や運転免許の際の視力検査でしばしば視力不良を指摘される.自分が潜伏眼振を左への顔回し(faceturntoleft)図1眼振の代償頭位a.Versionprism:静止位が右方向にあり,左への顔回しの場合もっており,片眼ずつの視力検査では引っかかる可能性があることを知っておいたほうが良い.頭位眼振は静止位が正面にくるように代償性頭位をとっている(図1).そのため,治療の目的は異常頭位の改善である.保存的治療としては,静止位が正面にくるようなプリズム眼鏡(versionprism療法:図2a),手術療法としてはAnderson法,Kestenbaum変法などがある(図3d,f).一方,PANは,急速相がある一定の時間(通常は数分)をもって逆方向に急速相の向きが変わる眼振で,急速相が変化するときに静止位をもつため比較的視力は良好である.異常頭位はあるときとないときがあったり,一定でなかったりする(図4).比較的視力は良好にもかかわらず,眼振が外観上目立つため,整容目的で手術治療を希望する患者が多い.術式は眼振の振幅減弱を目的とした水平4直筋大量後転術である(図3e).この術式により,異常頭位の消失も得られることが報告されている3).左眼右眼Faceturntoleftb.輻湊抑制頭位矯正+輻湊抑制R:15base-inR:20base-inΔΔL:15base-outΔL:20base-outΔ図2眼振のプリズム療法a:15Δでは異常頭位が残存し,20Δで異常頭位は消失している.b:Vergenceprism療法は輻湊させることで眼振の振幅減弱を目的とする.Compositeprism療法は異常頭位の改善に加え輻湊努力もさせるため,左右のプリズムの量は等量ではなく外転位を取るようにする.VergenceprismCompositeprism740あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(18)RLRLRLRLa.Anderson法:静止位と同側の水平とも向き筋の後転術RLc.Kestenbaum法:Anderson法と後藤法の併用で短縮量と後転量は等量RLe.水平4直筋大量後転術:水平の内外直筋を赤道部へ後転する3.視力が不良な先天眼振静止位のない先天眼振では,中心窩でものをとらえるfoveationtimeが少ない場合,律動眼振,振り子様眼振にかかわらず一般的に視力は不良である.そのため,治療の目的は視力向上であるが,劇的な改善は期待できない.先天眼振の治療の第一は,屈折矯正であるが,調節麻痺薬を用いた精密な屈折検査を行い完全矯正の眼鏡を常用することが大切である.コンタクトレンズは,乱視矯正効果が優れることから眼振にとっては良い適応である.コンタクトレンズの効果としてのバイオフィードバック説に関しては意見が分かれるところである.保存的治療として,先天眼振が輻湊により眼振の振幅減弱を認めることから,プリズム(Δ)をbase-outに入れたvergenceprism療法がある(図2b).プリズム眼鏡は8Δくらいまで製作可能であるが,実際には5Δ以内が臨床的に適していると思われる.また,10Δ以上の外転位をとらせることは,眼精疲労をひき起こす原因b.後藤法:静止位と反対側の水平とも向き筋の短縮RLd.Kestenbaum変法(ストレートフラッシュ法):短縮量と後転量に差をつけている左外直筋短縮8mm,右内直筋短縮7mm左外直筋後転5mm,右外直筋後転6mmfKestenbaum変法(ストレートフラッシュ法):術前:左への顔回し施行後の自由頭位手術により静止位を正面にもってくる静止位が右方向にあるため,左への顔回しの場合(faceturntoleft)図3眼振に対する手術治療a~dは異常頭位に対する手術.eは静止位のない眼振の振幅減弱を目的とした手術.となるため,vergenceprismは両眼にそれぞれ3.4Δbase-outが適当と考えられる.手術治療としては,正面視での眼振の振幅減弱を目的とした水平4直筋大量後転術(図3e)の適応となるが,(19)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013741FaceturntorightFaceturntoleftChinup図4周期性交代性眼振(PAN)異常頭位は変動する.視力向上に関しては劇的ではない.成人してから水平4直筋大量後転術を施行すると,術後に複視を訴えることがあり,経験的には小学校低学年までに施行することが望ましいと考える.成人してから整容目的にこの術式を施行する場合には,術前から術後に複視が生じる可能性と眼位矯正の再手術の可能性を伝えておく必要がある.IV後天眼振1.小児での原因検索乳幼児では動揺視を訴えることはないが,生後4カ月以降の眼振の出現,asymmetricな眼振,うっ血乳頭を伴う場合や嘔吐を伴っている場合の眼振などは後天性と考えられる.頻度が高いものでは,視神経膠腫(opticnervegliomas)などの視覚経路の前半での障害,ほかには脳幹部や小脳病変,代謝異常があげられる.Spasmusnutansでも認められることがある.2.成人での原因検索問診でまず薬剤性を念頭に,副作用として眼振をきたす内服薬の服用の有無を確認する.バルビタール,抗ヒスタミン薬,抗痙攣薬などのほか,シンナー中毒などでも眼振は認められる.ビタミンB12欠乏症やWernicke脳症(ビタミンB1欠乏症)などの報告もあり,栄養状態もチェックしておく.薬剤性や栄養障害は最初に確認しておかなければ,不必要な検査を続けることになり注意が必要である.頻度の高い原因としては,多発性硬化症(MS),脳幹病変,小脳病変(Arnold-Chiari奇形:小脳の一部が脊柱管内に落ち込む)であることから,頭部742あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013MRI(磁気共鳴画像)での精査は必須である.MSでは振り子様眼振が一般的で,視神経脊髄炎や片眼性の眼振で初発した視交叉部での視神経膠腫なども報告がある4).Downbeatnystagmusは,多くは小脳変性,小脳の虚血で生じるが,約4割は原因不明である.しかし,MRIは正常な場合でも,両側のvestibulopathy,多発神経炎,小脳失調を伴っている頻度が高い.3.保存的治療(内服治療)わが国では眼振に対して認可が下りていないが,海外では内服治療は積極的に行われている5).MSにはgabapentine,memantineが,PANにはbaclofen,4aminopyridineが,後天性の振り子様眼振にはgabapentin,memantineが,downbeat,upbeatnystagmusにはaminopridines,4-aminopyridine,3,4-diaminopyridine,clonazepamが,torsionalnystagmusにはgabapentineが,そしてseesawnystagmusにはclonazepam,memantineが有効とされている.おわりに患者には,保存的治療でも手術治療でも眼振を完全には消失させることはできない,ということをあらかじめよく理解しておいてもらう必要がある.たとえば,異常頭位に対する手術後に,「左を見たときに眼振がまだ残っている」という保護者の発言は,術前の説明不足,患者の理解不足と考えなければならない.眼振は外眼筋手術で消失するものではない.治療の目的は,個々における最良の視力を獲得させることと整容的な改善を試みる(20)ことで,眼振患者のQOL(qualityoflife)の向上を目指すものである.文献1)McLeanRJ,WindridgeKC,GottlobI:Livingwithnystagmus:aqualitativestudy.BrJOphthalmol96:981-986,20122)WangJ,WyattLM,FeliusJetal:Onsetandprogressionofwith-the-ruleastigmatisminchildrenwithinfantilenystagmussyndrome.InvestOphthalmolVisSci51:594601,20103)GradsteinL,ReineckeRD,WizovSSetal:Congenitalperiodicalternatingnystagmus.DiagnosisandManagrment.Ophthalmology104:918-928,19974)HageRJr,MerleH,JeanninSetal:Ocularoscillationsintheneuromyelitisopticaspectrum.JNeuroophthalmol31:255-259,20115)MehtaAR,KennardC:Thepharmacologicaltreatmentofacquirednystagmus.PractNeurol12:147-153,2012(21)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013743