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緑内障:黄斑領域を標的とした緑内障診断

2011年12月30日 金曜日

●連載138緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也138.黄斑領域を標的とした緑内障診断谷戸正樹島根大学医学部眼科Spectral-domain(SD)-opticalcoherencetomography(OCT)の登場により,黄斑部内層厚測定が緑内障画像診断法の一つとして日常臨床に使われるようになってきている.黄斑領域のSD-OCT画像では,眼底写真では判定し難い神経線維層欠損(NFLD)も検出されるため,特に初期緑内障の診断に有用である.●緑内障画像診断法の種類(表1)緑内障は,網膜神経節細胞の特異的・特徴的脱落とそれに伴う機能障害(視野欠損)を呈する疾患である.緑内障の画像診断は,眼圧上昇の機構を検出するための隅角・眼球周囲構造に対する画像診断を除けば,網膜神経節細胞(GC)の軸索あるいは細胞体の量的変化を検出することを目的として行われる.これまで,緑内障の画像診断では,主として,視神経乳頭あるいは乳頭周囲におけるGC軸索を標的とした定性および定量的判定が行われてきた.近年,opticalcoherencetomography(OCT)の高機能化により,黄斑部のGC軸索・細胞体を標的とした緑内障診断が行われるようになっている.●黄斑部網膜厚測定による緑内障診断GCの核は,黄斑領域でのみ複数列で分布しており,傍中心窩における全網膜厚の30.35%を占める.また,黄斑の中心20°(6×6mm)の領域には眼底全体の約50%の神経節細胞体が存在する.2000年代になってから,RetinalThicknessAnalyzerやtime-domain(TD)OCTであるOCT1,OCT-3000などの機器により,黄斑部の網膜厚測定が緑内障の診断標的となりうることが報告されていた1)が,主として解像度の問題により,乳頭形状解析や乳頭周囲神経層(NFL)厚測定といった従来の画像診断法と比較して良好な診断力を得ることができなかった.しかし,より高解像度化・高速化したspectral-domain(SD)-OCTの登場により,黄斑部網膜厚測定が,乳頭周囲網膜神経線維層(RNFL)厚測定と同等で,乳頭形状測定と同等かあるいは良好な診断力を有するとする報告が複数なされるようになった.●SD.OCTによる黄斑部網膜厚測定TD-OCTの時代から,黄斑部の緑内障診断では,網膜全層厚よりもRNFL・GCLを含む網膜内層を分層し表1緑内障による神経障害の検出を目的とした画像診断法部位組織診断機器視神経乳頭神経節細胞軸索眼底写真,HRTII/III,OCT乳頭周囲神経節細胞軸索眼底写真,GDx,OCT黄斑神経節細胞軸索・眼底写真,OCT細胞体て解析するほうが診断力が高いことが知られていた.SD-OCTとして,初めて黄斑部診断ソフトウェアを標準搭載したRTVue-100(Optvue社)では,NFLとGCを含む網膜内層複合体がganglioncellcomplex(GCC)として提唱されたため,この言葉が一般的に用いられるようになった.黄斑部測定では,各社の機器によりそれぞれ違いがあるが,512ピクセル×128本程度のラインスキャン画像が解析に用いられ,ほぼ共通して,GCC厚の二次元分布マップ,一定の領域ごとの平均GCC厚,および正常データベースとの比較による危険率表示が行われる(図1.3).GCC厚マップでは,従来の眼底写真….B…………A………………A…………A……..H……….B図1SD.OCTによる黄斑分層RS-3000(ニデック社)による黄斑断層像.内蔵ソフトウェアにより,6層への分層が自動判定により行われる.ILM:internallimitingmembrane,NFL:nervefiberlayer,GCL:ganglioncelllayer,IPL:internalplexiformlayer,INL:innernuclearlayer,OPL:outerplexiformlayer,OML:outernuclearlayer,IS:innersegment,OS:outersegment,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Bruch’smembrane,GCC:ganglioncellcomplex.(57)あたらしい眼科Vol.28,No.12,201117190910-1810/11/\100/頁/JCOPY NFLマップGCマップNFL+GC(GCC)マップ図2SD.OCTによる黄斑分層厚マップSD-OCTによる,黄斑部NFL厚(ILMからNFL/GCL境界まで),GC厚(NFL/GCL境界からIPL/INL境界まで),NFL+GC厚(=GCC厚)(ILMからIPL/INL境界まで)の二次元分布表示.図3SD.OCT(RS.3000)による緑内障眼の解析結果網膜内層の厚みマップでは,NFLDが明瞭に検出されている.また,領域ごとの厚さ分布および正常データーベースとの比較結果が図示化される.では判定しづらいようなNFLDもしばしば描出され,初期の緑内障に対する定性的診断の価値が高い.RTVue-100では,正常データーベースとの比較でスキャンエリア全体の菲薄化を表すgloballossvolumeや局所的な菲薄化を表すfocallossvolumeといった診断パラメータも提唱されている.これらの定量化は,今後の緑内障進行診断にとっても重要になると予想される.●SD.OCTによる黄斑部網膜厚測定の利点と欠点視力にかかわる部位を測定対象とすることで,緑内障による組織障害を鋭敏かつ早期に検出できる可能性があ1720あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011る.また,黄斑部形状は,乳頭形状よりも個人差の影響が小さいと予想される.特に,わが国において問題となりやすい近視眼での緑内障診断では,乳頭形状測定あるいは乳頭周囲NFL厚測定と比較して診断力が高い可能性が指摘されている2).一方で,種々の黄斑疾患の影響を受けること,また,現行のOCTでは,測定領域が黄斑の直径6mmあるいは6×6mmが標準であり,最大の機器でも9×9mmであるため,乳頭周囲の解析のように,眼底を走行するすべての神経線維が測定領域に入っていない.そのため周辺部の視野欠損に関連した組織障害の検出力は,乳頭周囲NFL厚測定と比較して劣る3).●今後の展望OCTは,今後さらに高解像度化,広走査領域化する.高解像度化は神経節細胞数による緑内障判定,広走査領域化は眼底写真と同程度までの撮影範囲拡大(深さ情報をもった眼底写真)が,とりあえずの最終目標となる.撮影領域については,ごく近い将来,黄斑から乳頭鼻側までを同時に撮影できる機種が登場すると予想される.そのような状況では,現行の乳頭・乳頭周囲・黄斑と行った撮影部位ごとの解析ではなく,より総合的な緑内障診断パラメータが提唱されるようになると期待される.文献1)TanitoM,ItaiN,OhiraAetal:Reductionofposteriorpoleretinalthicknessinglaucomadetectedusingretinalthicknessanalyzer.Ophthalmology111:265-275,20042)ShojiT,SatoH,IshidaMetal:Assessmentofglaucomatouschangesinsubjectswithhighmyopiausingspectraldomeinopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:1098-1102,20113)SeongM,SungKR,ChoiEHetal:Macularandperipapillaryretinalnervefiberlayermeasurementsbyspectraldomainopticalcoherencetomographyinnormaltensionglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:1446-1452,2010(58)

屈折矯正手術:Intacs® SK

2011年12月30日 金曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載139大橋裕一坪田一男139.IntacsRSK加藤浩晃バプテスト眼科クリニック円錐角膜や円錐角膜疑い患者に対して近年,フェムトセカンドレーザーの広がりとともに角膜内リング治療が行われるようになってきた.2006年に進行性の円錐角膜とエクタジアに対して使用するためにIntacsRSKが開発され,IntacsRよりもより強い角膜の扁平化が期待されている.円錐角膜は角膜の中央.下方部が薄くなり,眼圧によって菲薄化した部位から前方に突出してくるため,角膜が円錐状の形態をきたす両眼性・進行性の疾患である.軽度から中等度までの進行例ではハードコンタクトレンズ(HCL)の装用によって視力矯正が可能であるが,高度の進行例ではHCLによっても視力矯正ができない.近年までは進行した円錐角膜に対する治療として角膜移植以外の選択肢はなかった.エキシマレーザー屈折矯正手術を希望する患者のなかに円錐角膜や円錐角膜疑いの患者がいることは無視できない.これらの患者に対して,エキシマレーザーによる屈折矯正手術は禁忌であり,コンタクトレンズ不耐症などによって矯正視力が不良な場合の治療として近年,角膜内リング(intracornealring:ICR)(図1)治療が行われるようになってきた.ICR治療は1997年にColinによって,それまで軽度近視の治療として用いられていたICRを円錐角膜眼の形状改善として使われたことから始まった1).円錐角膜やエクタジアに対しての効果が確認され2),1999年にFDA(米国食品医薬品局)により認可を受けたものの,トンネル作製時の手技の煩雑さからICR治療の普及は少しずつだったのだが,フェムトセカンドレーザーの出現により,トンネル作製がフェムトセカンドレーザーにより行うことができ手術の煩雑さが改善され,フェムトセカンドレーザーの広がりとともに角膜内リングの使用頻度も増加した.ICRは半円弧状のPMMA(ポリメチルメタクリレート)製のリングであり,もともとは1つの円形リングを挿入していたが,現在では2つの円形リングを挿入している.角膜強度を上げることで円錐角膜や屈折矯正手術後のケラテクタジアなどに対して不正乱視の軽減だけではなく,進行抑制も意図されている.(55)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY図1IntacsRSK挿入後3カ月の前眼部写真表1IntacsRとIntacsRSKの規格IntacsRIntacsRSK材質PMMAPMMAリング内径の角度150°150°断面形状八角形楕円リング外周径8.1mm7.3mmリング内周径6.8mm6.0mmリング直径0.65mm0.65mm種類としてはIntacsR(AdditionTechnology社)とKeraringR(Mediphacos社)に加えて,2006年に進行性の円錐角膜とエクタジアに対して使用するためにIntacsRSKが開発された.IntacsRとIntacsRSKはともにリングの直径は0.65mmであり,リングの角度としても150°と共通しているが,大きく異なる点もある(表1).IntacsRでは八角形だった断面形状がIntacsRSKでは楕円形になっており,またIntacsRで6.8mmであったリング内の周径が,IntacsRSKでは6.0mmと小さくなり,そのためIntacsRSKではIntacsRよりもより強い角膜の扁平化が期待されている.これら2種類のセグメントの選択に加え,それぞれのセグメントに0.25.0.45mmまでの厚さがあり,同サあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111717 図2AdditionTechnology社によるIntacsRSKの挿入アドバイス結果イズで2つのリングを挿入するか(symmetric),異なるサイズで挿入するか(asymmetric)という選択も必要である.これらの選択に関しては,屈折度や乱視度数,前後面角膜形状などの角膜の各データをIntacsRを製造しているAdditionTechnology社に送ると適切なセグメントを挿入方向とともにアドバイスしてもらうことができる(図2).実際に当院でIntacsRとIntacsRSKを挿入した症例の術前後における等価球面度数の変化を比較検討したところ図3に示すような結果が得られた.IntacsRもしくはIntacsRSKを挿入した全例での等価球面度数の変化は術前.4.89±3.20Dから術後6カ月で.2.96±1.57Dと約1.9Dの矯正効果だったのだが,IntacsRとIntacsRSKそれぞれにおいて検討すると,IntacsRでは術前.3.89±0.64Dから術後6カ月で.2.13±0.67Dと1.08±0.29Dの矯正効果であり,IntacsRSKでは術前.6.65±2.55Dから術後6カ月で.3.19±2.56Dと3.47±1.80Dの矯正効果が得られた.これより予想どおりIntacsRSKでのより強い角膜の扁平化が示唆された.術後6カ月度数(D):IntacsR:IntacsRSK--8.00-6.00-4.00-2.000.0012.00-10.000.00-2.00-4.00-6.00-8.00-10.00-12.00術前度数(D)図3IntacsRとIntacsRSKによる等価球面度数の変化ICRの利点は,角膜中央部に侵襲を加えない手術であり,セグメントをすべて除去した場合,角膜形状はほぼ元の状態に戻るために「後戻り」のできる手術でもある.また,コンタクトレンズ不耐症などの円錐角膜症例に対してはコンタクトレンズ装用時間の延長や眼鏡矯正視力の向上が期待され,矯正視力が不良の場合でも角膜移植をする前にICR治療を試してみる価値は十分あると考える3,4).さらに進んで,ICR治療によって眼鏡視力が良好になればPhakicIOL(眼内レンズ)を挿入して裸眼視力の向上も期待できる.文献1)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoconuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20002)SiganosCS,KymionisGD,KartakisNetal:ManagementofkeratoconuswithIntacs.AmJOphthalmol135:64-70,20033)HellstedtT,MakelaJ,UusitaloRetal:Treatingkeratoconuswithintacscornealringsegments.JRefractSurg21:236-246,20054)KymionisGD,BouzoukisD,DiakonisVetal:Long-termresultsofthincorneasafterrefractivelasersurgery.AmJOphthalmol144:181-185,2007☆☆☆1718あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(56)

多焦点眼内レンズ:海外の話題から

2011年12月30日 金曜日

●連載(最終回)多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子24.海外の話題から荒井宏幸みなとみらいクリニック分節状屈折型の多焦点眼内レンズがおもに欧州にて使用され始めている.加入部分を分節状に配置することで,多焦点レンズにおけるグレア・ハロー・waxyvisionの出現しにくいレンズとして注目されている.乱視矯正用のレンズもあり,その製作度数は100分の1Dステップのオーダー単位である.●分節状屈折型多焦点眼内レンズおもに欧州を中心として使用されているが,わが国では未承認である1).Oculentis社製LentisMPlusRの外観を図1に示す.レンズの光学部下方が,加入部分に相当する構造になっている.2重焦点の遠近両用眼鏡をイメージしやすいが,視線の移動によって近方視を確保するという理論ではない.屈折型として,近用部を集約して網膜上に結像させるアイデアは斬新である.他の多焦点レンズと同様に,網膜上には遠方・近方ともに集光されており,脳の選択によりどちらかの集光像を認識する.加入度数部分の面積は,全集光面積の約3分の1に相当する.素材は親水性アクリル(25%含水)であり,形状はプレート型である.切開創は2.0mmからの挿入が可能ということであるが,筆者は2.3mmの切開創にて行っている.レンズ長径は11mm,光学部は6.0mmである.球面度数の製作範囲0.+36Dである.加入度数は2種類あり,+3.0Dと+1.5D(どちらもレンズ面)が選択可能である.Toricレンズも用意されており,0.25.12Dまでの円柱レンズが対応可能となっている.●LentisMPlusRの光学的優位性現在,選択が可能な多焦点眼内レンズは,同心円状の屈折型レンズと回折型レンズである.屈折型には夜間のグレア・ハローの問題があり,回折型にはwaxyvisionという問題がある.基本的には,単焦点に比べれば近方視力は確実に確保できるのであるが,光学的なロスや散乱による見え方の不具合により,適応を狭めざるをえない.同心円状の屈折型多焦点眼内レンズには,遠方と近方(53)図1LentisMPlusRの外観近用部分が下方(6時方向)になるように.内に固定する.マーカーラインは水平方向を示している.のzone部分のgapがあり,その部分の散乱により光学的なロスが生じる.暗所にて瞳孔径が大きくなると,このgap部分が何周も表出されるため,より多くのロスが生じてしまう.回折型多焦点眼内レンズの場合には,回折構造の物理特性として,常に18%の入射光が減弱する.残りの82%を利用して遠方と近方に振り分けており,そのため鮮明度は甘くなり,これがwaxyvisionとして知覚される.術前にwaxyvisionに対する予測が可能であれば,非常に使い勝手の良いレンズであるが,それが難しいために躊躇することも多い.LentisMPlusRは光学的なロスを最小限に留めるように設計されている.レンズの中心部分および60%以上の部分が遠方焦点の単焦点レンズであるため,良好な遠方視は担保される.また,屈折型に特徴的なzone間のgapは1本のラインしかなく,したがって瞳孔径が大きくなっても表出するgapはラインの1部分のみである.そのgapも非常に精緻に作製されている.●2つの加入度数を使い分けるLentisMPlusRには2種類の加入度数が用意されてあたらしい眼科Vol.28,No.12,201117150910-1810/11/\100/頁/JCOPY 図3LentisMPlusRtoricの術後前眼部写真下方の加入部分の反射と上下のトーリックラインが観察される.図2LentisMPlusRtoricのオーダーフォーム100分の1D単位での推奨レンズ度数が示されている.乱視軸の角度によらず,レンズの固定は常に垂直方向である.いる.レンズ面にて+3.0Dと+1.5Dである.それぞれ眼鏡面では+2.5Dと+1.0Dに相当する.Oculentis社は優位眼に加入+1.5Dを,非優位眼に+3.0Dを選択してmodifiedmonovisionを作ることにより中間視力を確保するという提案をしている.●驚異的なtoricレンズの製作度数LentisMPlusRにはtoricレンズの設定がある.To-ricレンズの度数設定は,球面・円柱面ともに100分の1D単位である.図2のレンズのオーダーはおもにIOLマスター(CarlZeissMeditec社製)のデータを元に決定する.円柱面の軸方向は製作時点ですでに回転をつけて位置づけされており,挿入は球面レンズと同様に12時-6時の縦方向に固定すればよい.しかも納期は4週間である.●手術結果今回は誌面の関係上,術後結果は示さないが,通常の多焦点眼内レンズと同等の満足できる結果が得られている.最も安心できるのが,グレア・ハローやwaxyvisionの訴えがないことである.術後の細隙灯顕微鏡写真を図3に示すが,通常の光束で観察するかぎり単焦点レンズの様相である.すでに海外からも術後結果の報告がされはじめている2,3).●今後の展望このLentisMPlusRがほぼ単焦点に近い遠方視力と,日常的には十分な近方視力が安定して得られるものであれば,今後はこうした光学特性をもったレンズが多焦点眼内レンズの主流になりうると考えている.すでに調節力のない50歳以上の屈折異常眼に対しては,LASIKやPhakicIOLではなく,LentisMPlusRが良い適応になるかも知れない.文献1)McAlindenC,MooreJE:Multifocalintraocularlenswithasurface-embeddednearsection:Short-termclinicaloutcomes.JCataractRefractSurg37:441-445,20112)AlioJL,PineroDP,Plaza-PucheABetal:Visualoutcomesandopticalperformanceofamonofocalintraocularlensandanew-generationmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:241-250,20113)AlioJL,Plaza-PucheAB,PineroDPetal:Comparativeanalysisoftheclinicaloutcomeswith2multifocalintraocularlensmodelswithrotationalasymmetry.JCataractRefractSurg37:1605-1614,2011☆☆☆1716あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(54)

眼内レンズ:径結膜・強角膜一面切開

2011年12月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY循環」の考え方を裏付けるように,感染症の患者はレンズケアの不良な頻回交換ソフトコンタクトレンズとMPS(多目的用剤:multi-purposesolution)の使用者に頻発した.それから数年,眼科医によるレンズケア指導の徹底,マスメディアでの啓発,製品への注意喚起文の記載などが後押ししたのか,感染症の発生も少しずつ下火になってきているようであるが,何事にも油断は禁物である.そこで,今回,「コンタクトレンズケアを見直す」と題し,正しいレンズケアを普及させることの重要性を改めて伝えることを目的にこの特集を企画した.ここでは,レンズケアの基本原理を復習するとともに,先のoutbreakを契機に明らかとなったいくつかのエビデンスも紹介したいと思う.まずは,編者の一人(糸井素純)から,「安全性を優先したコンタクトレンズのケア」というタイトルで,本特集の基調メッセージを発信している.お読みになればおわかりのように,「装用後のこすり洗い」,「装用前のすすぎ」,「消毒剤開封後の速やかな使用」が,リスクを最小限にとどめるレンズケアのキーポイントである.引き続いて各論に移り,植田喜一先生には「ハードコンタクトレンズのケアの問題点とその対策(ハードコンタクトレンズのレンズケースの管理を含めて)」,樋口裕彦先生には「ソフトコンタクトレンズコンタクトレンズの歴史は,ロマンで語れば,ルネッサンスの昔に行われたレオナルド・ダ・ヴィンチの水槽実験に,実践面で語れば,19世紀後半,Fickによるガラス製強角膜レンズの装用実体験に始まる.その後,「角膜組織への酸素供給」という至上命題と闘うなかで,ハードコンタクトレンズ,ソフトコンタクトレンズが相次いで生み出され,現在では,そのハイブリッドともいえるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが登場し,大きなシェアを占めつつある.他方,遠近両用や乱視矯正などの特殊機能レンズや,1日使い捨てから定期交換型,そして従来型までの多様な装用形態も生み出され,個々のユーザーの生活様式に合わせたフレキシブルな処方が可能な時代となっている.このなかで,2週間交換型や1カ月交換型に代表される頻回あるいは定期交換型レンズでは,快適かつ安全な装用のために,日々の着実なレンズケアは不可欠である.たとえ,眼科専門医で処方されたコンタクトレンズであっても,不適切なレンズケアによってレンズが汚れていたりすると,快適な装用はもはや望めなくなり,一方で重篤な眼障害のリスクも高まる.2000年代の半ば頃より,アカントアメーバと緑膿菌を二大病原体とする重症のコンタクトレンズ関連角膜感染症が急増し,大きな社会的問題となったのは周知のとおりであるが,上述した「悪(1)1663*YuichiOhashi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)**MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院●序説あたらしい眼科28(12):1663?1664,2011コンタクトレンズケアを見直すContactwithImprovedLensCare大橋裕一*糸井素純**1664あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(2)ケアの現状」,岩崎直樹先生には「シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するレンズケアの注意点」というテーマで,個々のレンズが抱えるレンズケアの課題について解説していただいた.植田先生からは,消毒操作が義務づけられていないハードレンズにおいても重篤な障害が発生する可能性があるため,「洗浄」と「こすり洗い」,「すすぎ」が重要である点,樋口先生からは,ソフトコンタクトレンズケアの大半が消毒力の劣るMPSで行われている現状のなかで,手洗いを怠るようなユーザーやレンズケースへ気配りのないユーザーがいまだ多くみられる点,岩崎先生からは,女性に特有の化粧品(アイメイク,ファウンデーション)のレンズ付着が意外に厄介な問題で,「レンズ・ファースト」の考え方をユーザーに植え付ける必要がある点などが指摘された.さらに,コンタクトレンズを取り巻く環境因子として,レンズケースと消毒剤を採り上げ,稲葉昌丸先生には「レンズケースの汚染とその対策」,白石敦先生には「コンタクトレンズ消毒法の変遷と課題」について解説していただいた.稲葉先生からは,コンプライアンスの良好なユーザーでもレンズケースの汚染は避けられないため,地道なレンズケースのケアが欠かせないこと,白石先生からは,1日使い捨てレンズへの完全移行が望めないなか,MPSの消毒力不足を補う意味での教育指導の重要性が強調された.最後に,最も重篤な合併症である角膜感染症については,「角膜感染症からみたレンズケアの問題点」というタイトルで,宇野敏彦先生にスペシャリストの立場から解説していただき,レンズケース内の汚染がこうした感染症の温床であり,患者の不良なケア実態がそれを助長していることが示された.さて,コンタクトレンズユーザーは千差万別,実にさまざまなキャラクターの方がおられる.したがって,眼科医として,使用コンタクトレンズの種類,汚れの質と程度,ユーザーの性格などを考慮しつつ,それぞれのユーザーに適したレンズケアを選択,指導していく必要がある.「正しいコンタクトレンズのケア」とは,個々のコンタクトレンズ使用者が安全かつ快適に使い続けることができるレンズケアである.その人に合った「正しいレンズケア」を一緒にみつけることができれば,継続実行していくことも容易となるであろう.他方,消毒剤の主力であるMPSの認可基準の見直しは急務である.最近,複数の消毒剤を組み合わせた合剤MPSが相次いで登場し,アカントアメーバを含む病原体に比較的良好な効果が確認されている.わが国での認可が待たれるところであるが,その一方で,ハードコンタクトレンズの有用性を見直すとともに,コンタクトレンズの装用形態を1日使い捨てへと積極的にシフトさせていくような議論が必要だと考える.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 フルオレセインパターン判定法(4)

2011年12月30日 金曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】330.フルオレセインパターン判定法(4)今回は一般の眼科臨床医ではコンタクトレンズ(CL)の処方経験が少ないであろう円錐角膜,屈折矯正手術後について述べる.●円錐角膜円錐角膜と正常角膜で基本的なフルオレセインパターンの見方は大きく変わらない.正常角膜と異なるのは,トライアルレンズのベースカーブ(BC)選択にケラトメータが参考にならないこと,レンズ下方の浮きを重要視しないこと,上方のレンズエッジによる角結膜の圧迫に特に注意を払わなければならないことである.1.フルオレセインパターンの評価は必ず角膜中央部の位置で行う2.HCLの中央部,中間周辺部,最周辺部(ベベル部分)に分けて評価する(図1)円錐角膜では特に中間周辺部,最周辺部(ベベル部分)のフルオレセインパターンの評価が重要となる.筆者は領域ごとに重視する割合を中央部:中間周辺部:最周辺部(ベベル部分)=20:40:40と考えている.a.中央部原則としてアピカルタッチ(レンズ後面中央部が角膜中央部に接触した状態)で処方する.アピカルタッチで処方することにより,良好な矯正視力が得られ,オルソケラトロジー効果による円錐角膜の進行予防効果が期待できる.CL矯正視力が出にくい症例では,強めのアピカルタッチで処方すると視力向上が得られることがある.円錐頂点部の角膜上皮障害が強い場合は多段階カーブハードCL(HCL)を選択してパラレルで処方する.b.中間周辺部中間周辺部の評価は下方を除いた領域で行う.中間周辺部は,フラット,あるいはパラレルで処方する.レンズ下方の浮きは重要視しない(図2).c.最周辺部(ベベル部分)円錐角膜では最周辺部(ベベル部分)の評価はレンズ上方の四分の一に相当する部分が特に重要となる(図3).この部分のレンズエッジによる角結膜への圧迫が強いと,HCLは円滑に動かず,装用感が悪化し,長時間(49)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY装用ができなくなる.ベベル幅,リフトエッジが十分確保され,ブレンドが良好であることを確認する.●屈折矯正手術後術後の角膜不正乱視により,他の矯正手段では視力矯正が困難なときにHCLの適応となる.RK(radialkeratotomy)手術,PRK(photorefractivekeratectomy)手術,LASIK(laserinsitukeratomileusis)手術,ICR(intracornealring)挿入術などの屈折矯正手術後に共通あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111711図1フルオレセインパターンの評価中央部,中間周辺部,最周辺部(ベベル部分)に分けて部位別に評価する.図2円錐角膜のフルオレセインパターンの評価レンズの下方の浮きは重要視しない.図3円錐角膜のフルオレセインパターンの評価最周辺部(ベベル部分)はレンズ上方の四分の一に相当する部分の重視.糸井素純道玄坂糸井眼科医院 図4LASIK術後に対する球面図5LASIK術後に対するリバースジ図6LASIK術後に対するリバーHCLの処方オメトリックデザインのHCL〔サスジオメトリックデザインのンコンマイルドEpi(ツインベルHCL(RoseK2IC)の処方LVCタイプ)〕の処方する角膜形状は,角膜中央部がフラットで,角膜周辺部が中央部よりもスティープなことである.本来,角膜は角膜中央部がスティープで,周辺部に向かうに従って徐々にフラットになる.それにより通常の球面HCLを処方しても良好なセンタリングが得られる.しかし,屈折矯正手術後の角膜形状は中央部と周辺部の関係が正反対となり,球面HCLでは良好なセンタリングが得られにくくなり,処方が困難となる.1.球面HCL角膜中央部のフラットなゾーンと,周辺部のスティープなゾーンに移行する境界部分でHCLを保持するように処方する.フルオレセインパターンとしては,中央部がアピカルクリアランス(レンズ後面中央部が角膜中央部に接触していない状態),中間周辺部がパラレル.ややスティープ,最周辺部はリフトエッジが高めの処方となる(図4).この場合,最周辺部よりも中間周辺部のフィッティングを優先する.良好なセンタリングが得られにくいときはレンズ前面の周辺部に溝加工を行うと,上眼瞼にレンズが保持され,良好なセンタリングが得られやすい.2.リバースジオメトリックデザインのHCLリバースジオメトリックデザインのHCLは,中央部のBCよりも周辺部(ベベル部分を除く)がスティープになったレンズである.屈折矯正手術後用レンズとしては,日本ではサンコンタクトレンズ社のサンコンマイルドII(ツインベルLVCタイプ),サンコンマイルドEpi(ツインベルLVCタイプ),日本コンタクトレンズのRoseK2ICの3つがある.屈折矯正手術後の角膜形状は角膜中央部がフラットで,角膜周辺部がスティープな形状となっており,リバースジオメトリックデザインのレンズの良い適応となり,良好なセンタリングが得られやすい.フルオレセインパターンは,中央部はツインベルタイプではアピカルタッチ.パラレル(図5),RoseK2ICではアピカルクリアランス(図6)となる.最も優先するべきは中間周辺部のフィッティングで,ツインベルタイプもRoseK2ICも同様で,レンズの動きを妨げないようにして,この部分でレンズを軽く保持するようなフィッティングで処方する(図5,6).最周辺部(ベベル部分)はベベル幅,リフトエッジが十分確保されていることを確認する.1712あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(00)

写真:糖尿病角膜症における遷延性角膜上皮欠損

2011年12月30日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦331.糖尿病角膜症における薗村有紀子*1横井則彦*2*1公立山城病院眼科遷延性角膜上皮欠損*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学①②③④図2図1のシェーマ①:血管侵入.②:遷延性角膜上皮欠損.③:欠損部周囲の接着不良を伴う上皮.④:欠損部周囲の炎症性細胞浸潤による混濁.図1遷延性角膜上皮欠損(63歳,男性)角膜上皮欠損を認める.欠損部周囲はスリガラス状に混濁しており,上皮欠損周囲の上皮には接着不良を認める.糖尿病歴20年以上,HbA1C8.9.図3図1のフルオレセイン染色写真フルオレセイン染色により角膜上皮欠損部位が明らかに観察される.図43日後のフルオレセイン染色写真ソフトコンタクトレンズ装用,ステロイド点眼使用し,角膜上皮欠損は消失.(47)あたらしい眼科Vol.28,No.12,201117090910-1810/11/\100/頁/JCOPY 糖尿病では高血糖が長期間つづくことにより,代謝異常,血流障害が生じるために全身の組織が障害をうける.合併症が起こる機序にはさまざまな説があり,まだ明らかでないことも多い.おもな機序の一つには,ポリオール代謝経路の亢進がある.高血糖になり,細胞内のグルコース濃度が上昇すると,糖代謝の副経路であるポリオール代謝経路が亢進し,グルコースからソルビトール,フルクトースと変換される.ソルビトールなどのポリオール類の蓄積は細胞内浸透圧上昇,浮腫をひき起こすといわれている.また,それにつづくミオイノシトール減少,Na,K-ATPase低下は神経伝達低下を招く.この経路の活性化により使われる補酵素NADPHの減少はNO産生障害,還元型グルタチオンの減少をひき起こし,フリーラジカルが過剰となり血管内皮細胞異常,神経障害などにつながる.一方,もう一つのおもな機序はグリケーションである.長期に高血糖が持続することにより,グリケーション(グルコースが蛋白質のアミノ酸と非酵素的に結合)が生じ終末糖化産物(AGEs:advancedglycationend-products)が形成される.細胞外基質,細胞内の蛋白質,血中蛋白がAGE化され,AGE化された蛋白質は肥厚,多層化し,アポトーシスを誘導するため,さまざまな機能障害をひき起こす.糖尿病では角膜上皮でもそれらによる変化が認められており,角膜上皮細胞の機能異常,基底膜異常(肥厚,AGEs形成),基底膜異常による上皮接着能低下1.3)などが報告されている.また,末梢神経でもこれらの代謝障害による神経伝達低下,神経細胞内,血管内皮,周皮細胞でAGEs形成が認められ4),神経細胞脱落,血流障害による神経障害が生じるといわれており,角膜では角膜知覚低下5)が認められている.これらの変化により,糖尿病角膜症として,点状表層角膜症,角膜上皮びらん,遷延性角膜上皮欠損などさまざまな所見を呈すると考えられている.今回の症例は1カ月前より角膜上皮欠損を生じ,前医でヒアルロン酸ナトリウム点眼,0.02%フルオロメトロン点眼を処方されていたが,軽快せず,治癒過程で上皮細胞の接着低下により中央部の上皮が脱落して上皮欠損が遷延化した症例と思われた(図1,3).ソフトコンタクトレンズを治療用として装用することにより角膜上皮を保護し,防腐剤フリーのベタメタゾン点眼を使用し,消炎にて上皮の再生を促し,瞬目から保護することによって上皮の接着を促した(図4).角膜上皮に欠損ができると,周辺の上皮細胞が欠損部に伸展,移動して欠損部を被覆し,増殖して多層の上皮を形成することにより創傷治癒していくが,その過程のいずれかに問題が生じると角膜上皮欠損が治癒せず遷延化して,遷延性角膜上皮欠損となる.糖尿病では基底膜異常が生じることにより上皮細胞が接着不良となるため,上皮細胞の伸展が妨げられ,角膜知覚低下により涙液分泌が低下し,神経伝達物質が減少,上皮細胞伸展が低下することにより遷延性角膜上皮欠損の原因となる.遷延性角膜上皮欠損はまず,感染性角膜炎と鑑別し,原因を検討して治療方針を決定する必要があり,糖尿病はおもな原因の一つである.上皮の接着を保護して,薬剤毒性の可能性を除外し,上皮伸展を促すことが治療となる.文献1)SchultzRO,VanHornDI,PetersMAetal:Diabetickeratopathy.TransAmOphthalmolSoc79:180-189,19812)TaylorHR,KimseyRA:Cornealepithelialbasementmembranechangesindiabetes.InvestOphthalmolVisSci20:548-553,19813)KajiY,UsuiT,OshikaTetal:Advancedglycationendproductsindiabeticcorneas.InvestOphthalmolVisSci41:362-368,20004)SugimotoK,NishizawaY,HoriuchiSetal:LocalizationinhumandiabeticperipheralnerveofNe-carboxymethyllysine-proteinadducts,anadvancedglycationendproduct.Diabetologia40:1380-1387,19975)SchultzRO,PetersMA,SobocinskiKetal:Diabeticcornealneuropathy.TransAmOphthalmolSoc81:107-124,20091710あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(00)

角膜感染症からみたレンズケアの問題点

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1703.1707,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1703.1707,2011角膜感染症からみたレンズケアの問題点ContactLensCarefromtheStandpointofCornealInfection宇野敏彦*はじめにコンタクトレンズ(CL)装用による合併症は,アレルギー,角結膜上皮障害,感染症,角膜内血管侵入,内皮障害など多岐にわたる.本項では,まず各種疫学調査から角膜感染症症例のレンズケアの実態を把握し,実際の症例を提示しながらCL関連角膜感染症発症の経緯およびその予防について考察したい.なお,本項ではCLケア自体の現状および諸問題については他項と重複するため割愛させていただく.I疫学調査からみたレンズケアの実態1.重症CL関連角膜感染症全国調査入院加療を必要としたCL関連角膜感染症症例を対象とする全国調査が日本CL学会および日本眼感染症学会の主導で2007年4月から2年間実施された1).通常外来通院で対処することの多い本疾患であるが,入院を必要とする重症症例に限っての調査ということになる.参加承諾を得た224施設から350例が集積され,臨床所見・細菌学的検査結果・CL装用管理の状況などが調査されている.本調査の対象となった症例が感染症発症時に装用していたCLの種類を表1に示す.2週間頻回交換ソフトCL(FRSCL)が全症例の56%を占めていることが注目されるが,わが国におけるCLの種類別の装用人口(表2)2)と比較検討する必要がある.装用人口のデータによると,ハードCL(HCL)と1日使い捨てCLおよび表1角膜感染症発症時使用していたCL症例数%1日ディスポーザブルSCL267.41週間連続装用ディスポーザブルSCL41.12週間頻回交換SCL19656.0定期交換(1カ月,3カ月)SCL5616.0従来型SCL92.6カラーCL174.9ハードCL174.9オルソケラトロジーレンズ20.6無回答236.6(文献1の表7を改変)表2全国のCL装用推定人口性別男性666万人女性1,200万人CLの種別ハードCL(HCL)581万人従来型SCL(カラーCL除く)221万人1日使い捨てSCL660万人2週間交換SCL595万人定期交換(1カ月/3カ月)SCL111万人(文献2の表7を改変)FRSCLが600万人前後でおおむね一致していることがわかるが,重症の感染症を発症した症例ではFRSCLが圧倒的に多く,HCLおよび1日使い捨てCL装用者は対象症例の数%程度にとどまっていた.このことはレンズケアを必要とするFRSCLのリスクが高いことを示唆するものと考えられる.なお,1カ月,3カ月といった期間を決めて交換する定期的SCLはFRSCLの約1/6*ToshihikoUno:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕宇野敏彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(41)1703 無回答毎日こすり洗いしていたその他113.1%30608.6%6117.4%5317.1%4512.9%6719.1%15.1%週に4~6回こすり洗いしていたまったくこすり洗いしていなかった週に2~3回こすり洗いしていた236.6%ほとんどこすり洗いしていなかった時々こすり洗いしていた図1CLのこすり洗い(文献1の図7を改変)の装用人口であるにもかかわらず全国調査において56例(16.0%)みられていることにも注目すべきである.すなわち,定期的SCL装用はこれらのデータの比較においてFRSCLとほぼ同等,あるいはそれ以上のリスクを伴っていることをうかがわせる結果である.全国調査におけるCLのこすり洗い,CLケースの交換について図1,2に示す.CLのこすり洗いにおいて,「時々こすり洗いしていた」,「ほとんどこすり洗いしていなかった」「まったくこすり洗いしていなかった」の3つを合わせる(,)と全体の約1/2を占めており,毎日行われるべきこすり洗いがなされていない症例が目立つ結果であった.CLケースの交換についても特に交換までの期間を決めていないものが多く,「不定期に交換していた」「ほとんど交換していなかった」「まったく交換していなかった」の3つでやはり全体の約1/2であった.なお,この設問はCLの種別を問わず解答を求めた結果であり,1日使い捨てCLなどケアを必要としないCLを使用している症例に対してはそぐわないものである.ただ,このような例は少数であり,全体のおおまかな傾向には影響を与えないと考えられた.CLを安全に使用していくうえで専門的教育をうけた眼科医師による定期検査は必須である.この定期検査の受診状況について図3に示す.「3カ月に1回程度受けていた」など,一定の期間をきめて受診されていた症例は少数であり,「不定期に受けていた」,「ほとんど受けていなかった」,「まったく受けていなかった」など,特定の受診間隔を定めていなかった例がここでも約半数であった.1704あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011その他634118.0%424912.0%不定期に交換していた606517.1%18.6%14.0%11.7%無回答3カ月以内ごとに17交換していた4.9%まったく交換して6カ月以内ごとにいなかった交換していた1年以内ごとに交換していた13ほとんど交換して3.7%いなかった図2CLケース交換(文献1の図8を改変)1カ月に1回程度7722.0%4914.0%不定期に受けていた50689.7%4412.6%14.3%19.4%34受けていたその他無回答350.9%1.4%3カ月に1回程度受けていたまったく受けていなかった6カ月に1回程度受けていた1年に1回程度ほとんど受けて受けていたいなかった205.7%図3定期検査受診(文献1の図9を改変)2.国民生活センター発表内容から平成21年12月16日,独立行政法人国民生活センターより「ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─」が発表された(http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20091216_1.pdf).全32ページにわたる報告書であるが,そのごく一部のみマスコミに取り上げられ,その解釈が問題となったものである.この発表の主体は多目的用剤(multi-purposesolution:MPS)のアカントアメーバに対する効果であるが,健常のCLユーザーレンズおよびレンズケースの汚染状況についての調査もあった.これは18.29歳のFRSCL装用者385名から通常どおりの方法で2週間装用したCLをレンズケース内のケア用品に浸漬したままの状態で回収し,アカントアメーバ汚染の有無および緑膿菌をはじめとする細菌汚染を検討した(42) ものである.アカントアメーバについては培養によって2名(0.5%)で陽性であったが,polymerasechainreaction(PCR)法による検討では培養試験で陽性であった2名を含む40名(10.4%)からアカントアメーバのDNAが検出されている.これはCLおよびCLケースのアカントアメーバ汚染が予想以上に起こっていることを示唆するものであろう.一方,CLケースの細菌汚染の状況についてでは,まったく検出されなかったものが155例(40.3%)であり,6割でなんらかの細菌が検出されていた.なかでも104個以上といった多量の細菌が検出されたものは99例(25.7%)に上り,105個を上回る検出菌数の場合には臨床的に問題となる緑膿菌の検出が飛躍的に増加する結果であった.角膜感染症を起こしていない健常とされるCLユーザーを対象としたこの国民生活センターの調査は大変深刻なメッセージをわれわれに送っている.CLケースの細菌汚染はもとより,まれと考えられていたアカントアメーバによる汚染が普遍的にみられていることに注目する必要がある.II臨床症例から考える実際に角膜感染症を発症した症例を提示し,CLの汚れと発症について考察してみたい.まずアカントアメーバ角膜炎を右眼に発症した25歳,女性の症例である.FRSCL装用者であるが,CLのこすり洗いはほとんどしていなかったとのことであった.約1カ月前から右眼の視力低下と充血を自覚し近医にて抗菌点眼薬を中心とした加療を行うも軽快しないため,愛媛大学眼科(当科)初診となった.右眼に放射状角膜神経炎および散在する浅層実質の浸潤病巣を認め,“初期”に相当する典型的なアカントアメーバ角膜炎の所見を呈していた.また,角膜擦過物よりファンギフローラYR染色にてアカントアメーバシストを確認した.この患者が持参してきたCLの走査型電子顕微鏡(走査電顕)所見を図4に示す.多数の付着物が認められ(図4a),その拡大図(図4b)ではアカントアメーバのシストと思われる球形体が多数CLに付着していた.さらに桿菌(培養で緑膿菌を含む2種類のグラム陰性桿菌が確認さ(43)ab図4アカントアメーバ角膜炎症例が発症時装用していたCLa:多数の汚れがCLの角膜側に付着していた(矢印:CLのエッジ).b:aの一部の拡大図.円形のアメーバシストを思わせるものが図内に5つ確認できる.その周囲に多数の桿菌様のものも認められている.れている)と思われるものも多数みられた.アカントアメーバが多数付着したCLを装用することにより角膜炎が発症したことを示唆する症例であった.なお,本症例の僚眼のCLも同様の走査電顕所見であり,状況によって両眼にアカントアメーバ角膜炎が発症していた可能性を有していた.CLの微生物汚染により角膜に浸潤病巣を呈するも感染自体は成立していなかった症例を提示する.この症例は角膜中央部に淡い浸潤病巣をきたしていた(図5a).本症例が装用していたCL(図5b)にはその角膜側に白色沈着物を認め,ここから多数の糸状真菌が検出された.しかし幸いなことに本症例はCL装用を中止することにより速やかに消炎しており,真菌による感染は成立していなかった.このようにCL装用者の角膜炎には角膜内で感染が成立している病態とともに,汚染CLに付着している細菌などの微生物による二次的な非感染性の炎症も加味されていると考えられる.感染病巣は小さいが角膜実質表層に複数の淡い浸潤をきたし,結膜充血とときに角膜内血管侵入をきたしているような症例に遭遇することは多い.CLによる機械的,あるいはMPSによる化学的上皮障害の要因ももちろん否定はできないが,CLに付着している微生物より放出される“毒素”あるいは微生物に対する免疫反応が病態を修飾しているあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111705 ab図5CLの微生物汚染による非感染性角膜浸潤と考えられた症例a:角膜中央部に淡い境界不鮮明の浸潤病巣を認める.b:装用していたCLの角膜側に白色の沈着物を認めた.表3分離培養にて検出された主要菌菌種黄色ブドウ球菌表皮ブドウ球菌コリネバクテリウム緑膿菌セラチアその他のグラム陰性桿菌アスペルギルスアカントアメーバ角膜病巣3567034056結膜.13431100眼脂01181000CL4222051304CLケース235391734132その他01051301(文献1の表4を改変)1706あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(44)可能性が高いと考えられる(このような病態を“contactlens-inducedacuteredeye:CLARE,コンタクトレンズによる急性結膜充血”とよぶ向きもあるが,もう少し病態を反映した名称が望ましいと筆者は考える).III緑膿菌と角膜感染症先述の重症CL関連角膜感染症全国調査1)において角膜から微生物が培養で検出されたものは147例であった(表3).そのうち70例は緑膿菌であり,アカントアメーバ56例が続いていた.その他の菌種は数例以下であり,細菌としては緑膿菌が突出した結果であった.一方,CLおよびCLケースからは緑膿菌のほか,セラチアをはじめとするグラム陰性桿菌が多数検出されていた(CLなどを検体として細菌学的検査を行った症例数は少ないと想定されており,角膜病巣の検出数との比較は適当でない).CLおよびCLケースは緑膿菌を含め,環境菌である多種類のグラム陰性桿菌に汚染されるものの,角膜への感染成立となると緑膿菌が突出して多いことがわかる.緑膿菌は角膜上皮への接着性に長けていることが基礎的検討で明らかとなっている.Panjwaniら3)は黄色ブドウ球菌,大腸菌,レンサ球菌と比較して緑膿菌の角膜への接着性がきわめて大きいことを明らかにしている.また,緑膿菌がもつ線毛が角膜への接着に関与しているといった報告もある4).このような特性により重症のCL関連角膜感染症の起炎菌として緑膿菌が重要になってくるものと考えられる.一方,この事実はCL,CLケースから菌が検出された場合の臨床的意義についても 一つの示唆を与えてくれる.すなわち,ケースなどから緑膿菌が検出された場合は角膜炎の起炎菌の可能性が高いが,そのほかのグラム陰性桿菌の場合,起炎菌として考えることには慎重になるべきということである.CLケースなどに緑膿菌を混入させないことは感染症予防にとって重要なことであろう.先述の国民生活センターのデータによると,ケースなどの細菌汚染が高度になるにつれ緑膿菌汚染の確率が高くなっていた.正しいCLケアにより少しでも細菌汚染を回避することにより緑膿菌性角膜炎を予防でき,細菌を餌として増殖するアカントアメーバによる角膜炎も予防できることになる.文献1)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20112)稲葉昌丸,井上幸次,植田喜一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症調査からみた危険因子の解析.日コレ誌52:25-30,20103)PanjwaniN,ClarkB,CohenMetal:DifferentialbindingofP.aeruginosaandS.aureustocornealepitheliuminculture.InvestOphthalmolVisSci31:696-701,19904)HazlettL,RudnerX,MasinickSetal:Intheimmaturemouse,Pseudomonasaeruginosapilibinda57-kd(alpha2-6)sialylatedcornealepithelialcellsurfaceprotein:afirststepininfection.InvestOphthalmolVisSci36:634643,1995(45)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111707

コンタクトレンズ消毒法の変遷と課題

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1697.1702,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1697.1702,2011コンタクトレンズ消毒法の変遷と課題ChangesandChallengesinContactLensDisinfection白石敦*はじめにコンタクトレンズ(CL)の歴史は1508年にLeonardodaVinciが水を満たしたガラス球に直接眼をつける実験をしたことに始まるとされているが,実際にCLが普及したのはpolymethylmethacrylate(PMMA)製のハードコンタクトレンズ(HCL)が開発された1940年頃からである.PMMA製HCLはガス透過性コンタクトレンズ(RGPCL)が登場・普及するまで,約40年間にわたりCLの主流であった.PMMA製HCLは生体適合性が良く,汚れも付きにくいため一般的な洗浄剤でケアを行うだけで十分であった.一方,RGPCLは汚れが付きやすく,水濡れ性も良くないため,より強力な洗浄液や蛋白質や脂質を除去するための酵素洗浄剤,親水性を高める保存液が必要となってきた.しかしながら,これらのCLは含水性がないため微生物に対する消毒の必要性は求められなかった.1961年により快適な装用感を求めてOttoWichterleによりhydroxyethylmethacrylate(HEMA)を主成分とするソフトコンタクトレンズ(SCL)が開発された.SCLは含水性があるため,洗浄のみでは汚れ,特に微生物の除去が不完全であり,保存中に消毒を行う必要性が出てきた.ICLの変遷と消毒法の変遷(表1)1971年にSCLが販売されたときには煮沸消毒がおもに行われていた.煮沸消毒は強い消毒効果をもつが,SCLに付着した蛋白質などが加熱により固着,変性することによりSCLの変形をきたしたり,固着した成分に対するアレルギー反応で巨大乳頭結膜炎(GPC)をひき起こしたりする合併症の問題があった.煮沸消毒では,電源入れ忘れによる未消毒といった問題点もあった.1977年海外では煮沸消毒のコンプライアンスや簡便性を向上しようと,グルコン酸クロルヘキシジン,塩化ベンザルコニウム,チロメサールなどの消毒剤を使用した第一世代のSCL化学消毒剤が登場した.これらの消毒剤成分はSCL素材(HEMA)のポアサイズ(30.50A)よりも分子量が小さいためにSCL内に吸収,蓄積され,これら消毒剤成分が原因の角膜上皮障害が問題となり,わが国においては販売されるには至らなかった.同時期ヨウ素製剤も販売されていたが,煩雑さと,不適合SCLの存在のために広く普及するには至らなかった.1982年,安全性を求めて,比較的消毒効果が高く,過敏症などの反応もほとんどない過酸化水素製剤が登場した.1980年代には安全性,快適性を求めて高含水やイオン性SCLが登場し,これらのSCLは煮沸消毒により劣化してしまうため,過酸化水素消毒の需要は高まった.しかしながら,中和操作が必要であり,この操作を忘れることによる強い痛みと充血を伴う眼表面障害が多発し,より簡便な消毒システムが求められていた.そして,1988年洗浄・消毒・すすぎ・保存を1液で行える多目的用剤(multi-purposesolution:MPS)が登場し,わが国でも1996年より販売が開始され,現在最も*AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕白石敦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(35)1697 表1CLとCL消毒システムの変遷海外の変遷国内の変遷年CLの変遷ケアの変遷CLの変遷ケアの変遷1961OttoHEMA製SCL作製1971HEMA製SCL販売開始煮沸消毒NormanがRGPCL開発1972HEMA製SCL煮沸消毒1975ヨウ素消毒剤1977SCL化学消毒剤(第一世代)1982過酸化水素消毒(第二世代)1984ディスポーザブルSCL1988MPS(第三世代)1992過酸化水素消毒1994頻回交換型ディスポーザブルSCL19951日交換型ディスポーザブルSCL1996MPS1998SHCL2001ヨウ素消毒剤2004SHCL使用されるようになっている.わが国においては2001年より消毒効果が比較的高いヨウ素消毒製剤が販売されている.当初は一部のSCLで使用が不可能であったが,現在はすべてのSCL,シリコーンハイドロゲルCL(SHCL)で使用が可能となっている.II各消毒法の特徴(表2)1)1.煮沸消毒100℃以上で20分間加熱を行う.消毒効果は最も強く,CLケースの消毒も同時に行うことができるため消毒法としては最も有効である.生理食塩水にSCLをつけて加熱するため,添加薬剤などによる眼表面への影響を考慮する必要がない.一方で,SCLに付着した蛋白質などが加熱により固着,変性することによりSCLの変形をきたしたり,固着した成分に対するアレルギー反応で巨大乳頭結膜炎(GPC)をひき起こしたりする合併症の問題があり,酵素製剤による定期的な除去が必要である.煮沸消毒では,電源を入れなければ消毒効果はまったくなく,電源入れ忘れによる未消毒といった問題点もある.SCL販売当初の低含水・非イオン性であるHEMA製SCLでは使用が可能であったが,現在の主流であるイオン性SCL,高含水SCLでは加熱によるCLの劣化が著しく煮沸消毒は行われなくなった.1698あたらしい眼科Vol.28,No.12,20112.過酸化水素消毒煮沸消毒よりも消毒効果は劣るものの,比較的短時間で強い消毒効果をもつ.そのまま中和をしないで装用すると強い痛みとともに充血,角結膜上皮障害をひき起こすため,消毒後に中和操作が必要である.中和方法としては,金属触媒(白金),還元剤(チオ硫酸ナトリウム),酵素触媒(カタラーゼ)などがある.過酸化水素消毒のみでは汚れ除去効果は弱く,消毒液とは別に洗浄液によるこすり洗いが必要になる.消毒効果が比較的高く,薬剤アレルギーも少ないため適切に行えば有効な消毒方法であるが,操作の煩雑さが問題点となる.その一つは,中和操作を忘れることによる眼障害がある.この問題は各社が消毒剤と中和剤をまとめることでワンステップタイプのシステムを開発して過酸化水素による眼障害の頻度は低下してきた.ワンステップタイプでは消毒開始と同時に中和作用が始まるため消毒効果が不十分(特にアカントアメーバに対し)であるという問題が起こっている.もう一つは,消毒剤と洗浄剤が別ボトルであるため,取り間違いにより過酸化水素ボトルで洗浄し,そのまま装用するという誤使用の問題もある.3.ポビドンヨード消毒煮沸消毒には劣るものの,過酸化水素消毒と同等以上(36) 表2SCLの消毒方法の比較メカニズム簡便性安全性消毒力抗菌スペクトル保存時の殺菌効果細菌真菌アカントアメーバ煮沸消毒・100℃で20分煮沸・簡便であるが消毒機器が必要・レンズの劣化(特にグループⅣ)・変性蛋白質などがレンズに付着しやすい(GPC発症率が高い)・ほぼすべての細菌,真菌を死滅させる・アカントアメーバにも有効◎◎◎なし過酸化水素消毒・3%過酸化水素により細胞壁の蛋白質,脂質を変性させる・2.6時間・中和を行う必要あり・こすり洗いが必要・薬剤アレルギーはない・中和を忘れると角膜上皮障害を発症・グラム陽性菌,陰性菌に強い殺菌力をもつが,真菌,ウイルスに効果が弱い◎○△△×なしポビドンヨード消毒ヨウ素の酸化能により細胞内の蛋白質を破壊する・4時間・こすり洗いが不要・中和を行う必要がある・ヨードアレルギーには禁忌・細菌,真菌に強い殺菌作用をもつが芽胞には無効◎◎○△なしMPS・PolyquadRまたはPHMBが細菌の細胞膜に付着し,界面活性作用により細胞膜を破壊・ワンステップで簡便・こすり洗いが必要・薬剤によるアレルギー反応がみられる・アカントアメーバ,真菌に対する有効性が低い・殺菌効果が弱いため,消毒に長時間を要する○△××あり◎:有効,○:効果あり,△:効果弱い,×:効果なし.の消毒効果をもち,過酸化水素同様に中和操作が必要である.消毒剤自体が褐色をしており,中和されると無色になるため,中和忘れや,中和不十分時での誤装用の心配は少ない,結膜.洗浄としても用いられているため,眼表面への障害は過酸化水素に比べて少ない.ヨウ素アレルギー以外ではほとんどアレルギー反応がなく有用な消毒法である.1975年より煮沸消毒の煩雑さを簡便にしようと海外(ヨーロッパ)ではヨード製剤Pliacide/NutraflowSystem(P/Nシステム)が販売されていたが,広く普及するには至っていなかった.わが国においては,2001年よりポビドンヨード製剤が販売されている.当初は一部のSCLで使用が不可能であったが現在はすべてのSCL,SHCLで使用が可能となっている.CLケースを十分に洗浄しないと中和剤成分がケース内に残存し,消毒が不十分となってしまうため,CLケースの洗浄が必須である.(文献1より改変)4.Multi.purposesolution(MPS)MPSは1液でSCLの「消毒・洗浄・すすぎ・保存」を行えるという簡便さが特徴である.MPSには,レンズを消毒するための消毒剤やこれを補助する消毒助剤,レンズを洗浄するための界面活性剤,キレート剤や蛋白除去剤,さらに,pHを中性に保つ緩衝剤や浸透圧を調整する等張化剤などが基本成分として配合されている.さらに,最近のMPSでは快適性を上げるための潤い成分なども配合されている1).消毒剤成分としては,塩化ポリドロニウム(PolyquadR)と,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)があるが,いずれも低濃度で配合されており,細菌に対してはある程度の消毒効果は認めるが,真菌やアカントアメーバに対しての消毒効果は弱く,他の消毒法に比較して消毒効果が弱い.多くの成分が配合されているため,薬剤アレルギー反応を認めることがあり,特定のMPSとSHCLとの組み合わせで角膜上皮障害を認めることもある.(37)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111699 IIISCL消毒の評価法2)現在,SCL消毒剤の製造,輸入販売申請の際の消毒評価法としてスタンドアロンテストが採用されている.スタンドアロンテストとは,国際標準化機構(ISO)で採用されているSCL消毒評価試験(ISO14729standardduringdevelopmentoftheproducts)および米国食品医薬品局(FDA)で採用されている消毒評価試験〔premarketnotification(510(k))guidancedocumentforcontactlenscareproduct〕で実施される試験である.スタンドアロンテストでは,眼感染症の起因菌のなかから特にCL感染の原因となる5菌種(細菌3株・真菌2株)(表3)に対する消毒効果を評価しており,第一・第二の2つの基準がある.第一基準は細菌を3log,すなわち1/1,000に減少し,真菌を1log,すなわち1/10に減少することが要求され,合格であれば“ソフトコンタクトレンズ消毒液”として認められる.第一基準に合格しなかったMPSは,第二基準で判定されることとなる表3スタンドアロンテストに用いられる菌株微生物試験菌菌株細菌緑膿菌黄色ブドウ球菌セラチアATCC9027ATCC6538ATCC13880真菌カンジダフザリウムATCC10231ATCC36031ATCC:Americantypeculturecollection.─ISO/FDAスタンドアロン基準─適合適合適合試験不合格スタンドアロン主基準不適合不適合試験不合格不適合スタンドアロン二次基準レジメンテスト細菌:全て3log以上減少真菌:全て1log以上減少細菌:3種の合計が5log以上真菌:増殖させないすすぎ・こすり洗いで基準以下に減少CL消毒システムCL消毒剤発売図1スタンドアロンテストの流れ(図1).第二基準では細菌にのみ最低限の消毒効果:3種類の菌に対しそれぞれ1log以上,かつその和が5以上(1log+2log+2logなど)を示し,真菌に対しては増殖を認めないという条件をクリアすれば合格となるが,消毒効果が弱いため,さらにこすり洗い試験が必要となる.こすり洗い試験とは,十分なこすり洗いとすすぎを併用することで,レンズ上の微生物が取り除けるかを確認する試験で,これらに合格すれば“ソフトコンタクトレンズ消毒システム”として認められる.図2に主要MPSのスタンドアロンテストの結果を示すが,同じPHMBを消毒成分とする製品間でも消毒効果に差があることがわかる.MPSの消毒効果評価法に2つの基準“ダブルスタンダード”があることは,一般にはあまり知られておらず,市販MPSのパッケージにもこうした合格基準は書かれていないのが現状である.近年,問題となっているアカントアメーバに対する効果消毒効果Logreductionはまったく問題とされていないことからも,現在のSCL評価法は不完全といわざるを得ず,角膜感染症発症予防を念頭においた統一基準の策定が望まれる.IV課題CL装用者の増加とともに増加しつつあるCL関連角膜感染症は現在社会問題となっており,CL消毒方法に突き付けられた大きな課題といえる.その背景には,①不完全なSCL消毒剤評価法が原因で,消毒効果の異なる製品が同列に扱われて販売されていること,②ユー■:緑膿菌■:黄色ブドウ球菌■:セラチア■:カンジダ■:フザリウム6543210MPS1MPS2MPS3(PolyquadR)(PHMB)(PHMB)図2主要MPSのスタンドアロンテスト結果1700あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(38) ザーがCLケアの簡便さを求め,消毒システムがどんどん簡便化したものの,その消毒効果やケア方法についての理解が十分でないこと,があげられる.つまり,現在の課題はSCL,SHCL消毒剤の主流であるMPSにあるといえる.その消毒効果の違いをスタンドアロンテスト指摘菌種に対してみてみると,MPSは細菌に対しては一定の効果はあるというものの,ばらつきがあり,真菌に対しては一部まったく効果のない製剤も認められる(図2).MPSの消毒効果は弱いため,効果を発揮するには時間を要する,さらにはCLケースの洗浄乾燥を行わず,継ぎ足しながら使用すると,消毒効果はさらに減衰することが判明している3).一般的なCLケアの場所である洗面所では微生物汚染を防ぐことは不可能であり4),CLケースに消毒液を残存させたまま蓋を開けて放置し,継ぎ足しをすると容易に微生物が増殖してしまうことになる.このような情報を知らされていない一般のCLユーザーは“消毒剤”と書いてあれば,“そこに付けるだけですべての微生物は消毒される”と考えても不思議ではない.近年アカントアメーバ角膜炎の増加が大問題となっているが,MPSはアカントアメーバ栄養体に対してはある程度の効果がある製剤が存在するものの,まったく消毒効果のない製剤もあることが判明し,MPSにはアカントアメーバシストに対する効果はないという報告がな:4h■:8h■:24h543210消毒効果Logreduction’ssolution)(PHMB)(PHMB)1酸化水素消毒効果Logreductionされている(図3,4)5).アカントアメーバは結膜.に常在することもあり,増殖するには餌となる細菌を必要とし,容易に角膜炎をひき起こすわけではない.アカントアメーバ角膜炎発症の背景には,まず不適切なCLケアによりCLケース内での細菌の増殖があり,そこにアカントアメーバが混入し,増殖するという,2段階のステップを経る必要がある.もちろん,現在のMPSでも適切なCLケアをしていれば,感染をひき起こすような微生物の増殖は起こらないが,CLケースの乾燥をしない・MPSの継ぎ足しをするといった,一般CLユーザーにありがちな不適切なCLケアで,消毒剤であるはずのMPSが細菌やアカントアメーバの培養条件になってしまうということは大きな問題点といえる.他の消毒方法の課題であるが,煮沸消毒は最も有効な消毒方法ではあるものの,現在ほとんどのSCL,SHCLで使用できないため,現実的な選択肢にはならないだろう.過酸化水素消毒剤は誤使用防止と簡便さを求めて消毒開始と同時に中和が始まるワンステップタイプが主流になり消毒効果が低下したが,継ぎ足しなどのよほどの不適切なケア状況でなければ,細菌の増殖は起こらないであろう.課題とすれば,汚れ除去が行われないために,消毒液とは別の洗浄液が必要となり,その結果生じるボトルの誤使用であろう.:4h■:8h■:24h32.521.510.50ド1図3アカントアメーバ栄養体に対するSCL消毒製剤の効果図4アカントアメーバシストに対するSCL消毒製剤の効果(文献5より改変)(文献5より改変)(39)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111701 ポビドンヨード製剤に関しては,煮沸消毒よりも消毒効果は劣るものの,アカントアメーバに対してもある程度の消毒効果があり,適切に使用すれば,感染症の危険性はないと考えられる.蛋白除去も同時に行われ,誤使用などの心配もなく,信頼性の高い消毒方法であるが,問題点としては,CLケースの洗浄を適切に行わないと中和剤成分がケースに残存し,消毒が不十分となる危険性があることであろう.VまとめCLとCLケアの歴史は快適性・簡便性を求めて新製品が開発されてきた.最も簡便なSCLシステムは1日使い捨てSCL,SHCLであり,適切な装用をすれば安全性が高いシステムである.しかしながら,弱年齢層にとってコスト面の負担が大きく,コストは低いがCLケアが必要な頻回交換型SCL,SHCLの需要が高い.CLケアに関しても比較的安全な過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤は若干コストが高く,煩雑であるため,簡便でコストの低いMPSの需要が高いのが現実であろう.われわれCL医療に携わる者にとって必要なことは,CLユーザーの知識・常識を鵜呑みにすることなく,適切なCLケア教育・指導を行うしかない.しかしながら,インターネットショッピングなどの販売環境が便利すぎる現代社会で,眼科医や眼科医療スタッフがすべてのCLユーザーに適切なCLケア指導を行うことは不可能であり,MPSには本来の消毒効果を適切に発揮できるようなシステムを目指した開発が望まれる.文献1)金井淳,澤充,大橋裕一ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン.日眼会誌109:637-665,20052)岡田正司:CLケア教室ソフトコンタクトレンズの消毒の評価法(スタンドアロンテスト).日コレ誌48:93-97,20063)RosenthalRA,DassanayakeNL,SchlitzerRLetal:Biocideuptakeincontactlensesandlossoffungicidalactivityduringstorageofcontactlenses.EyeContactLens32:262-266,20064)鈴木崇,白石敦,宇野敏彦ほか:洗面所における微生物汚染調査.あたらしい眼科26:1387-1391,20095)KobayashiT,GibbonL,MitoTetal:EfficacyofcommercialsoftcontactlensdisinfectantsolutionsagainstAcanthamoeba.JpnJOphthalmol55:547-557,20111702あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(40)

レンズケースの汚染とその対策

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1691.1696,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1691.1696,2011レンズケースの汚染とその対策CurrentStatusandPreventionofContactLensContamination稲葉昌丸*ICLケース汚染の現状コンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症においてはCLケースの病原菌汚染の関与が疑われる例が多い.CL関連角膜感染症全国調査1)においても,CLケース内から検出された病原菌と,実際に角膜病巣から得られた病原菌がよく一致することが報告されている.機序としては,不適切なCLケアによってCLケース内が汚染され,そのケースに保存したCLに病原菌が付着して眼表面に移動し,感染を起こすという経路が考えられる(図1).CLケースの汚染には,CLケース内のケア用剤に浮遊する病原菌と,菌体やバイオフィルムの付着によるCLケース壁汚染の双方が関与する.浮遊菌は消毒剤に対しCLケースCL病原菌病原菌図1CLケース汚染とCL関連角膜感染症CLケース内の病原菌がCLを介して眼表面に侵入し,感染が起きる.て比較的脆弱であるが,付着菌に対しては,特にバイオフィルムを形成した場合は消毒剤が効きにくく2),多目的用剤による殺菌は困難になる.このためケア用品をある程度正しく使用していても,CLケースの汚染はかなり高率に発生する.ソフトCL(SCL)ケース汚染に関する過去の調査結果についてSzczotka-Flynnらがまとめたもの3)を図2に示す.12の調査のうち,3/4で50%以上の病原菌検出が報告されており,SCLケースの汚染がごく日常的に発生していることがわかる.国民生活センターによるわが国の調査4)でも,60%と同様の汚染率が報告されている.実際の角膜感染症発生率ははるかに低いから,SCLケCallenderetal.1986Donzisetal.1987Larkinetal.1990Wilsonetal.1990Fleiszigetal.1992Clarketal.1994Grayetal.1995Mayetal.1995Midelfartetal.1996Valasco1996Pensetal.2008(%)020406080100図2CLケース病原菌汚染調査の既報発表者・発表年と汚染率.過半数が50%以上の汚染率を報告している.Szczotka-Flynnら3)のデータをグラフ化.調査対象CLケース■:SCLケース,またはほとんどがSCLケース.■:SCLケース・HCLケース混在,または種類不明.■:HCLケース.*MasamaruInaba:稲葉眼科〔別刷請求先〕稲葉昌丸:〒530-0001大阪市北区梅田1-3-1大阪駅前第一ビル1F稲葉眼科0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(29)1691 ースが汚染されていても,菌の濃度,病原性,眼表面の状態などの条件が揃わないと,簡単には感染が成立しないと考えられる.SCLケースに細菌などが常在し,さらにそれを栄養としてアカントアメーバや真菌が繁殖する状態になると,感染の危険性は高まる.そのようなケア不良の状況ではSCLにも汚れが生じ,角膜表面を傷害して感染の可能性を高めることにもなるであろう.角膜感染症につながる危険な状態を防ぐためには,SCLケースを清潔に保つことが必要である.かつては,SCLはすべて煮沸器によって消毒されていたため,SCLケースも同時に加熱消毒されていた.しかし,現在の化学消毒剤,特に最も多く使用されている多目的用剤の消毒力はあまり強くないため,SCLケース汚染が高率に発生すると考えられる.しかし,煮沸消毒時代の梶田らの報告5)においてもSCLケース内液の65%から細菌が検出されている.梶田らは,使用者の多くが毎日の煮沸消毒を励行しておらず,平均消毒間隔は9.5日に1回であったと報告している.煮沸消毒は,クリーナーによる洗浄,生理食塩水によるすすぎと,専用の煮沸器を使用する煩雑な操作であり,電源も必要であるため,励行されにくかったと考えられる.いかに強力な消毒手段であっても,簡単確実に行われる方法でない限り,CLケース汚染を防ぐことはできないのである.多目的用剤の場合,SCLに付着した液がそのまま眼表面に入るため,あまり強力な消毒剤は使用できない.多目的用剤には,こすり洗いと十分なすすぎを行った後に残存する,わずかな菌を消毒する程度の効果しか期待できず,脱後そのままSCLケースに入れるような使用方法では消毒効果が不足することになる.こすり洗い,すすぎの併用なしで消毒力試験をクリアした,スタンドアローン基準に適合するような強力な多目的用剤は,浮遊菌に対しては有効と考えられるが,それでも,菌量が多い場合,多目的用剤の保管が悪く薬効が低下した場合には,消毒不全になる可能性がある.また,こすり洗い,すすぎを行わず,SCLケア前の手洗いも不十分な状態があれば,SCLに付着した汚れや細菌がそのままSCLケース内に入り,ケース壁にバイオフィルムが形成される可能性があり,さらに消毒効果は落ちる.このような状態で,SCLケースのケアが不十分,あるいは多目的用剤の注ぎ足し使用などの条件が加わると,SCLケースの汚染は高度かつ常態化し,角膜感染症発生のおそれが生じる.IIコンプライアンス良好例におけるCLケース汚染では,CLおよびCLケースの管理が十分であれば,CLケースの汚染は生じないのであろうか.この点を明らかにするために,国内5処方施設において,2010年表1CLケース汚染調査参加施設の患者指導内容─下表の指導に従っていると考えられる患者のCLケースを調査対象とした─参加した調査施設における,CLおよびCLケースケアの指導内容CL種別SCLHCL過酸化用剤種別多目的用剤水素剤多目的用剤,過酸化水素剤共通CLを脱後CLを装用前装用前装用後の装用後のCL定期的に装用後の装用後の装用後のCL定期的にケア内容にこすり脱後ににCLをにCLをCLケースケースをCLケースCLケースCLケースケースをCLケース洗いするすすぐすすぐすすぐをすすぐ乾燥させるを交換するを空にするをすすぐ乾燥させるを交換する施設A○○○○○○○○○○△施設B○○○○○○○○○○○施設C○○○△○○○○○△△施設D○○○△○○○○○○○施設E○○○○○○○○○○○○:必ず指導している,△:時々指導している.1692あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(30) 4003503002502001501005002591798092■:男性:女性5834全CLSCLHCL図3CLケース調査回収結果数字は例数(回収したCLケースの個数).6月から10月にかけてCLケース調査を行った.対象は,各施設でCLおよびCLケース管理について十分な指導(表1)を受け,それを守っていると考えられるSCL,ハードCL(HCL)使用者のなかで,定期検査に訪れた際に異常が認められなかった者,つまり模範的で順調なCL使用者のみとした.条件に当てはまる使用者が使用しているCLケース351個を,使用中の状態のまま回収し,細菌培養検査,アカントアメーバ培養検査などを行った.結果を図3,4に示す.国民生活センターによる一般使用者を対象とした調査4)では,CLおよびCLケース385検体中2例において,アカントアメーバが培養検出されたが,今回の調査では培養検出例は351例中ゼロであった.細菌検出率もSzczotka-Flynnら3)のまとめに比較して明らかに低い水準であった.特にSCLケースからの細菌検出率は医学生を対象としたMidelfartらの調査結果6)と比肩するレベルであり,適切な患者指導(表1)を行うことによってCLケースの汚染を減少させ,角膜感染症を予防することが可能であることが示された.1.HCLケースとSCLケースここで興味深いのは図4に示したHCLとSCLのケース汚染率の違いである.SCLケースの真菌または細菌による汚染率が28.7%であるのに対し,HCLケースの汚染率は50.9%に達し,その差は統計的にも有意であった(c2検定,p=0.000).SCLの消毒は現在ほとんどすべて多目的用剤や過酸化水素剤,ポビドンヨード剤による化学消毒で行われており,消毒剤には原則として(31)400350300250:検出なし200■:真菌のみ検出■:細菌検出*15010050012264584426116956全CLSCLHCL図4CLケース調査の培養検査結果アカントアメーバの培養検出はなかった.数字は例数.*:細菌と真菌の同時検出例を含む.SCLケースが同梱されている.このため,SCLケースについては,消毒剤購入のたびに自動的に新しいケースに交換されることが,この差の大きな原因と考えられる.また,今回対象としたSCL使用者の内訳は,237例中2週間交換SCL使用者が217例,1カ月交換SCL使用者が17例,3カ月交換使用者が3例であり,いずれも頻回,あるいは定期交換SCLの使用者であった.このため,定期的なSCL交換と同時に,SCL処方のための定期的な通院が行われ,指導も適切に行われやすかったと考えられる.HCL使用者の場合,来院は不定期なことが多く,診察間隔も空きやすい.特に問題なければ1つのHCLケースを長期間使い続け,装用後のHCLケースのすすぎと乾燥などの指導も不十分になりやすい.CLケースそのものも,SCLケースと違ってHCL保持用の爪などをもつ複雑な構造となっており,指導どおりすすいで蓋をせずに乾燥させても,なかなか完全には乾きにくく,不潔になりやすい.また,HCL保存液はSCLと違って消毒液として試験を受け,承認された製品ではない.これらが,今回のHCLケースにみられた高い汚染率の原因と考えられる.それでもなお,HCL装用者にCL関連重症角膜感染症が発症しにくい事実1)は,CLによる角膜感染症発症の機序を考えるうえでたいへん興味深い.SCLと違ってHCLは角膜の一部しか覆わないこと,HCL装用時の涙液交換率はSCL装用時に比べてはるかに大きいことなどがかかわっていると考えられる.とはいえ,HCLケースに細菌または真菌による汚染が多いこと自体は問あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111693 題であるから,HCLの保存にも消毒作用をもったケア用品を使用することが望ましい.すでに,SCLの消毒剤成分であるポビドンヨード剤や,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)を含んだHCL保存液が市販されており,今後さらに普及するものと思われる.SCL消毒剤のように,保存液のパッケージに新品のHCLケースを同梱することが望ましいが,SCLケースと違って構造の複雑なHCLケースは製造原価が高く,保存液1本ごとに1個添付することはコスト的に困難かもしれない.しかし,HCL使用者の最大の問題は,トラブルが生ずるまで眼科を受診しない者が多いという点である.このため上記のような指導もなかなか徹底しにくい.HCL処方時やHCL装用者の受診時には,定期的な検査と指導を受けることの重要性を強調する必要がある.2.SCLの素材,消毒用剤による違いSCL素材は,シリコーンハイドロゲルと,hydroxyethylmethacrylate(HEMA)などの従来から使用されてきた素材の2つに分けることができる.シリコーンハイドロゲル素材のほうが細菌が付着しやすいという報告7)もあるが,今回の調査ではどちらの素材についても,SCLケース汚染率に有意な差は認められなかった(図5).SCLについては237例中211例が多目的用剤を使用しており,他に過酸化水素剤使用が18例,ケア用品の種別が不明なものが8例であった.使用している多目的用剤の内訳は,PHMBを成分とするものが112例,140:汚染なし■:汚染あり12010080604020040249380シリコーン従来素材ハイドロゲル(HEMAなど)図5SCL素材とCLケース汚染率SCL素材の違いによる汚染率の差は認められない.数字は例数.PolyquadRを成分とするものが85例,消毒成分が不明な多目的用剤が14例であったが,過酸化水素剤と多目的用剤,あるいは多目的用剤の消毒成分間で,SCLケースの細菌または真菌汚染度に差は認められなかった.今回のように,良好なCLおよびCLケースケアを指導されている使用者においては,どのSCL消毒剤も同様に有効であると考えられた.3.CLケースの乾燥と細菌・真菌汚染今回回収したCLケースは,その乾燥状態によって「完全に乾燥している」「液体は入っていないが不完全な乾燥状態であり,液滴が認められる」「液体が入っている」の3者に分類された.この分類による細菌または真菌による汚染率の違いを表2に示す.SCLケース,HCLケースともに液滴が認められる,不完全な乾燥状態のCLケースの汚染率が高く,HCLケースにおいては統計的にも有意であった.完全に乾燥させれば菌は死滅し,消毒液が満たされていればその部分では細菌,真菌が繁殖しにくいが,不完全な乾燥状態では乾燥による消毒,消毒液による消毒とも不完全になり,細菌,真菌が生存しやすいと考えられる.したがって,装用後のCLケースをすすいで空にし,蓋をせずに乾燥させるよう指示する際には,乾燥が完全に行われるよう,ティッシュペーパーなどで拭いてから乾燥させる,水の溜まりにくい高所や風通しの良い場所にCLケースを置く,CLケースを2個用意して交互に使用し,使用しないCLケースを十分に乾燥させるなどの指導,工夫が必要と考えられる.ティッシュペーパーなどで拭くことや蓋をせず置くことによって,逆に汚染が生ずる,落下細菌表2CLケースの乾燥状態による,細菌または真菌汚染率の違いCLケースのSCLケースHCLケース乾燥状態例数汚染率例数汚染率完全に乾燥している20827.9%6053.3%*不完全な乾燥(液滴を認める)1747.1%17,*76.5%**液体が入っている1216.7%3745.9%**不完全な乾燥状態のCLケースが最も汚染率が高い.*:分散分析にて有意差あり(p=0.002).**:分散分析にて有意差あり(p=0.004).1694あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(32) 表3検出された菌種SCLケースではグラム陽性球菌のCNS,HCLケースではグラム陰性桿菌のS.marcescensが最多だった.SCLケース,HCLケースからの検出菌種と例数SCLHCL菌種例数菌種例数CNS27S.marcescens17Bacillussubtilis17CNS13Micrococcus8A.xylosoxidans10GNF-GNR7Bacillussubtilis10Acinetobactersp.7Chryseobacteriumsp.6Steno.maltophilia7Micrococcus6P.putida5GNF-GNR5S.paucimobilis5Alcaligenesdenitrificans4S.marcescens3E.cloacae3Chryseobacteriumsp.3K.pneumoniae3A.xylosoxidans2P.fluorescens3Moraxellasp.2P.putida3P.vesicularis2Steno.maltophilia3C.acidovorans2K.oxytoca2E.cloacae1Acinetobactersp.2K.oxytoca1C.acidovorans2P.fluorescens1Chryseo.meningosepticum2P.stutzeri1E.aerogenes2Alcaligenesdenitrificans1Bacilluscereus2Chryseo.meningosepticum1Flavimonasoryzihabitans1E.aerogenes1Ochrobacteriumanthropi1Bacilluscereus1Oligellaurethralis1P.aeruginosa1P.vesicularis1S.paucimobilis1B.cepacia1Bacillussp.1CNS:coagulase-negativeStaphylococcus.GNF-GNR:ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌.が入るというおそれもあるが,十分に乾燥させればそれらは死滅すると考えられるから,確実な乾燥を優先して指導すべきである.4.検出菌種CLケースから検出された細菌の菌種を図6および表3に示す.SCLケース,HCLケースともにグラム陰性桿菌が最も多く,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)やMicrococcusなどの常在菌も多く認められた.環境菌と常在菌の混入がCLケース汚染の主体となっていると考えられる.緑膿菌の検出はHCLケースの1例のみで66.7%13.5%19.8%*49.1%17.9%33.0%*SCLケースHCLケース図6CLケース調査:検出された菌種SCLケース,HCLケースともにグラム陰性桿菌が多いが,SCLケースにはグラム陽性球菌が目立つ.数字は検出例中の%.*:c2検定にて有意差あり(p=0.011).■:グラム陰性桿菌,■:グラム陽性桿菌,■:グラム陽性球菌.あった(表3).SCLケースとHCLケースの比較では,SCLケースにグラム陽性球菌の検出が目立った(図6).今後,SCL,HCLの消毒剤を開発する際にはこのような状況を考慮する必要がある.ただし,今回調査対象としたCLケースは,使用者から一旦調査施設に郵送され,冷蔵保存された後に,細菌検査施設に送られたものであるから,ここに示した検査結果と実際に使用中のCLケース内の状況が異なる可能性もある.IIIまとめ今回の調査結果は表4のようにまとめることができるが,CL関連角膜感染症予防のためには,眼鏡併用の必要性を追記すべきである.就寝直前までCLを装用すると,そのまま寝てしまう,外した後のCLケアがいい加減になるなどのおそれがある.入浴時には不潔な水からCLに病原菌が付着する可能性もあるから,入浴前,遅くとも入浴直後にはCLを外し,確実なCLケアを行って,就寝前は眼鏡で過ごさせるべきである.また,眼鏡に慣れていないと,不調時にもCLを装用して合併症を表4CLケースの汚染率と各因子の関係・SCL素材,消毒剤の違いによる汚染率の差はない・HCLケースの汚染率はSCLケースより高い・乾燥不十分なCLケースは汚染率が高い・正しいCLケア,CLケースケアによって汚染率を下げることができる(33)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111695 悪化させるおそれがある.枕元に眼鏡を置いて寝れば,災害時にすばやく行動することもできる.CL,CLケースの正しいケアと同時に,日常生活に支障のない度数の眼鏡を持ち,毎日使用することがさまざまな意味でCL装用者には必要である.文献1)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20112)工藤昌彦:レンズケアと感染症(バイオフィルム感染症).日コレ誌47:224-226,20053)Szczotka-FlynnLB,PearlmanEetal:Microbialcontaminationofcontactlenses,lenscaresolutions,andtheiraccessories:aliteraturereview.EyeContactLens36:116-129,20104)独立行政法人国民生活センター:ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─.http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20091216_1.pdf,報道発表資料平成21年12月16日,20095)梶田雅義,加藤桂一郎,小峯輝男:コンタクトレンズ装用者の追跡調査─細菌汚染を中心に─.日コレ誌27:197203,19856)MidelfartJ,MidelfartA,BevangerL:Microbialcontaminationofcontactlenscasesamongmedicalstudents.CLAOJ22:21-24,19967)BeattieTK,TomlinsonA,SealDV:Surfacetreatmentormaterialcharacteristic:thereasonforthehighlevelofacanthamoebaattachmenttosiliconehydrogelcontactlenses.EyeContactLens29:S40-S43,20031696あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(34)

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するレンズケアの注意点

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1687.1689,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1687.1689,2011シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するレンズケアの注意点KeyPointsofSiliconeHydrogelContactLensCare岩崎直樹*はじめにシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)を特徴づけるのは,高い酸素透過性と低い含水率,そして従来素材に比べより疎水性イコール親油性であることである.それ以外には,従来素材のソフトコンタクトレンズ(SCL)とケアにおいて特に変わりはない.本稿では,まずレンズケアの目的と基本手技について説明し,その後にSHCLの親油性からくる特別な問題としての化粧品との問題について触れたいと思う.ISCLケアを取り巻く環境最近のコンタクトレンズ(CL)学会の大きなトピックスは,SCLによる重症角膜感染症の増加である.2007年のCL学会と眼感染症学会の合同全国調査1)で,1年間で入院治療を必要とする重症例が226例231眼存在し,それをCLの種類別にすると,毎日使い捨てが7%,2週間交換型が55%,従来型が16%であった.同時期の装用者の母数は各社の売り上げなどから推計すると,毎日使い捨て:2週間交換型が4:6程度と考えられるので,それを考慮すると2週間交換型が,重症角膜感染症の圧倒的多数を占めることになる.眼障害全体でも,ケアが必要なSCL,すなわち従来型SCLと定期交換型(大多数は2週間交換型)SCLに頻発することは以前から知られている.この原因として,以前から指摘されていたMPS(多目的用剤)の消毒力の不十分さがクローズアップされてきている.そのうえ,MPSへの浸漬だけではなく,すすぎ洗い,こすり洗い,レンズケース交換などが重要であることが判明してきている.前述の合同全国調査ではSCLケアと使用期限とも守っている者が24%,守っていない者が76%であり,このように重症例ではケアが不十分な場合が多いことが判明した1).ここでは,よりよいレンズケアのために基本的な事項に立ち返り,まずケアの目的とそのための手段としてどのようなステップが必要かを考えることにする.IISCLケアの目的SCLケアの目的は,結膜.内で汚染されたSCLを,ケアによって元のきれいな状態に戻し,再使用に備えることである.そのためには物理的清潔さと生物学的清潔さを担保しなくてはならない.蛋白質,脂質やその他の異物を除去するのが物理的な清潔さであり,細菌,真菌,アカントアメーバなどの病原微生物を除去するのが生物学的清潔さである.そのためには,第一に眼表面に付いた汚れをこすり洗いとすすぎ洗いで物理的に清潔にすることである.第二にMPS浸漬とこすり洗いを併用して生物学的に清潔にすることである.第三として,レンズケース内でCLが汚染している可能性を考えて,ケースもすすぎ洗いと乾燥,そして1カ月をめどに定期交換することである.*NaokiIwasaki:イワサキ眼科医院〔別刷請求先〕岩崎直樹:〒542-0086大阪市中央区西心斎橋1-5-5アーバンBLD心斎橋3階イワサキ眼科医院0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(25)1687 IIISCLの居場所はどこにある?そこで考えたいのがSCLの居場所である.基本的にはSCLは角結膜上とレンズケースの中にしか長期には存在しない.StaphylococcusaureusやPropionibacteriumacnesのいる角結膜上で汚染されたレンズを,こすり洗いとすすぎ洗いを行いレンズケースに入れ,MPSでの浸漬を行う.レンズケースは水回りにあることが多く,そこにいるPseudomonasaeruginosaやセラチア菌に汚染される可能性がある.MPS自身の消毒力が弱いためそれらを完全に殺菌できないからである.また,それらを餌としてアカントアメーバが繁殖するのが最悪のシナリオである.その場合,SCLをケースから出した後,すすぎ洗いは必要である.また,細菌は乾燥させれ洗浄/消毒角結CL膜上ケース洗浄汚染(S.aureus,P.acnes)汚染(Pseudo.,Serratia)アカントアメーバ図1CLは二つの場所にしか居ない(文献2より)ば死滅するため,SCLを出した後のレンズケースは流水で洗浄し,乾燥させればよい.細菌を餌にするアカントアメーバも生育しないはずである.これらを概念図として考えると図1のようになる.IVSHCLのケア,ステップバイステップ以上の点を考慮に入れると,SHCLのケアには表1のようなステップが必要になる.これらがすべて必要なわけであるが,最低限としてはSCL脱後のこすり洗いとすすぎ洗い,レンズケースの流水による洗浄・乾燥と定期交換,そしてSCL装用前のすすぎ洗いを指導している.こすり洗いでの注意事項であるが,円を描くようにこすり洗いすると,SCLが捩れるため,図2の瞳孔領に表1SCLケアのステップバイステップ・まず手指の洗浄・SCL・外す→こすり洗い→すすぎ→保存・レンズケースから出す→すすぎ→装着・CLケース・ケース内の液を捨てる→流水ですすぎ→流水でこすり洗い→自然乾燥・月一度の交換(推奨)・MPS・開封後1カ月で使い切る(推奨)・アカントアメーバ角膜炎の患者では高率に汚染していた(文献2より)図2SHCLの微小な割れ(文献2より)図3輪状SPK1688あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(26) あるような微小な割れが惹起され,外すときに割れてしまう可能性がある.実際にレンズ破損をさせたユーザーにこすり方を聞いてみると,まず円を描いてこすり洗いしている.そこで手のひらで人差し指を横に動かすように一方向にこするよう指導する.また,MPSとSHCLの組み合わせにより,装用2時間後を最大として,6時間で消失する,輪状SPK(点状表層角膜炎)(図3)が起こることが知られている.主成分がPHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)のものに多いことが知られている3).できればレンズと同じくMPSも処方の一環と考え,患者には勝手に変更しないように指導しておきたい.また,そのためには,現用のケア用品が何であるかも問診時把握しておくようにスタッフ指導を行っている.ただし,装用者本人もケア用品が何かを知らないことが大多数である.これらはMPSを使用する場合の注意点であるが,最近消毒力の強さで過酸化水素やヨード剤による消毒が注目されている.中和方法が製品により異なるので,よく説明文書を読んでもらうこと,自院での説明でもかならず「消毒剤によるすすぎを行わず,滅菌保存液(すすぎ液)による装用前のすすぎを行うように」と注意することが必要である.当院では初めてSCLを装用する人はまず過酸化水素剤を使用して,中和が必要なより煩雑かと思われる方法でケアを立ち上がらせている.Vレンズケアに起因するトラブルの再発防止ケア不適切による眼障害を防ぐには,できれば毎回の診察時にこすり洗い・すすぎ洗い・レンズケースの洗浄/乾燥/交換を確認したいが,むずかしい場合はトラブル発生時やSCLの種類の変更時だけでも必ず確認したい.しかし,「煮沸消毒の昔から世界的に,ケアができない装用者は跡を絶たない」(稲葉昌丸先生の名言)という面もある.これだけ確認しても再発する患者に対しては,毎日使い捨てSCLや眼鏡への変更を指示するか,屈折矯正手術を勧めている.VISHCL特有の問題―化粧品SHCL装用者に装用中の曇り感を認めることは多い.脂質汚れを吸着しやすいSHCL特有の問題であり,アキュビューRアドバンスには多発する印象がある.最近の若い女性では「age嬢メイク」といわれる濃い化粧や,「インナーライン」と称するマイボーム腺開口部を塗りつぶすようなアイメイクがある.SHCLにはアイメイクや,化粧落としのクレンジングオイルが多量に付着することが,月山らの報告で明らかになっている4).それを防ぐには,まずSCLを触る前(外すとき,入れるとき両方)に石けんと流水でよく手を洗ってもらい,油分を取ることが大切であり,特にこれは男性でのSHCLの曇りの場合に多い.CLを外すときに,まず顔面や眼の廻りにクレンジングオイルを塗った後にSHCLを外してしまうと,曇らないはずがない.それを防ぐため,筆者は「レンズ・ファースト」を提唱している.CLを入れるときは,まずCLを装用してからメイクを行う.CLを外すときも,まずCLを外してからクレンジングなどの化粧落としを行う.「レンズ・ファースト」は覚えやすいので,月山先生も講演などで使用して下さっている.皆さんも使っていただければ幸いである.文献1)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症全国症例調査.あたらしい眼科26:1167-1171,20092)岩崎直樹:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズのレンズケア.日コレ誌,印刷中3)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20054)月山純子,宮本裕子,福田昌彦ほか:コンタクトレンズに対する化粧品とクレンジング剤の影響.日コレ誌52:100107,2010(27)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111689