特集●眼科小手術PearlsandPitfallsあたらしい眼科29(7):899.905,2012特集●眼科小手術PearlsandPitfallsあたらしい眼科29(7):899.905,2012内反症,睫毛乱生の手術SurgeriesforEyelidEntropionandTrichiasis高比良雅之*I眼瞼の解剖と病態睫毛が角結膜に触れている,いわゆる“さかまつげ(さかさまつげ)”の手術に際しては,眼瞼全体の向きが内方に反っている眼瞼内反症(eyelidentropion)か,眼瞼全体の向きは正常であるが一部の睫毛の生える方向や部位が異常な睫毛乱生(trichiasis)か,あるいは両者が合併しているのか,を見分ける必要がある.眼瞼内反症の成因は,①眼瞼前葉と後葉のアンバランスと,②瞼板の支持組織の弛緩とに大別される.瞼板を垂直方向に牽引する組織には,上方では眼瞼挙筋腱膜(levatoraponeurosis),下方では眼瞼牽引筋腱膜〔lower(eye)lidretractor:LERorLLR〕があり,一般にそれらよりも皮膚側を眼瞼の前葉,一方の結膜側を眼瞼後葉と呼称している(図1).眼瞼後葉に比較して前葉が余剰であると,眼瞼縁の皮膚が瞼板に覆いかぶさるようになり,すべての睫毛が眼表面に向かう.これが,小児・若年者にみられる睫毛内反症(先天眼瞼内反症)の病態である.瞼板を支持する組織には,眼瞼挙筋腱膜,眼瞼牽引筋腱膜の他,水平方向では内嘴靱帯,外嘴靱帯があり,間接的には眼輪筋と皮膚も加わる.これら組織の弛緩(退行性変化)により,上眼瞼下垂,下眼瞼内反症,下眼瞼外反症をきたしやすい.眼瞼挙筋腱膜(aponeurosis)眼瞼牽引筋腱膜(lowereyelidretractor:LER)下斜筋外嘴靱帯後葉前葉瞼板眼窩隔膜穿通枝内嘴靱帯眼瞼図1眼瞼の解剖下眼瞼では眼瞼牽引筋腱膜(lowereyelidretractor:LER)が瞼板を垂直方向に牽引する.内嘴靱帯,外嘴靱帯により瞼板が水平方向に支持されている.II睫毛内反症(先天眼瞼内反症)の手術1.病態と手術適応小児,若年者の“さかさまつげ”の疾患名は,睫毛内反あるいは先天眼瞼内反症で,英訳すればinverted*MasayukiTakahira:金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)〔別刷請求先〕高比良雅之:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(23)899eyelashes,congenitalentropionであるが,英語論文ではむしろepiblepharon(眼瞼贅皮)に“さかさまつげ”の意を含んで用いられることが多いようである.顔面の発育とともに自然に改善する傾向があるとされ,幼児で軽度であれば,それを期待して手術を見合わせる場合もある.手術適応は,以下のような点を考慮して決定する.まず,弱視が懸念されるような,矯正視力が1.0未満あるいは角膜乱視が1D以上の症例では,視能訓練の時期を逸する危惧から積極的に手術を行う.また,角膜混濁,輪部新生血管など重症な角膜所見がみられる症例は,やはり絶対適応である.一方,矯正視力が良好で,角膜上皮障害も軽度な症例では放置が可能であるが,異物感,流涙,充血,眼脂などの症状や,整容的な改善を望む場合には手術適応となる.アジア人種では眼瞼牽引筋腱膜からの眼瞼皮下への穿通枝が未発達とされ,これによって眼窩脂肪も前上方へ移動しやすく,相対的な眼瞼前葉余剰の一因となっていると考えられる.睫毛内反症の手術法は通糸法と,皮膚術前術終了時(surgeon’sview)術後1カ月を切開して余剰組織を切除する皮膚切開法に大別される.2.通糸法通糸法には,河本法に代表される非吸収糸埋没法や,ビーズ法のように絹糸で瘢痕形成を促し抜糸する方法がある.手技が簡便で合併症が少ないが,余剰な組織を切除しない分,必ず術後の戻りがある.すなわち,通糸法は再発率が高い方法であるので,比較的軽症な症例や,皮膚切開法に不慣れな術者が緊急避難的に実施する場合などが,その適応として妥当である.本稿では河本法を原法とした下眼瞼通糸埋没法につき解説するが,ビーズ法でも通糸位置は同様である.皮膚通糸点のデザインでは,瞼縁からの距離が最も重要である.通糸法では,皮膚の通糸位置に必ず皮膚溝が形成される(図2C).整容上好ましくない幅広の重瞼を避けるため,睫毛列から1mm下方に離れた平行線上に皮膚通糸点を置く(図2B).1本の通糸に対して通糸点を幅3mmで2箇所マーキングし,結紮が埋没するように,眼図2睫毛内反症に対する通糸法A:瞼板面に移行する直前の結膜から刺入し,瞼板の前面を通り,睫毛列から約1mm下方の皮膚を貫通する.B:2本通糸する場合のシェーマ(右眼瞼).糸の両端を結膜から皮膚の小切開創に向けて貫通し,さらに片端を皮下を通して,両端が同じ小切開創から出るようにして結紮し,結び目を埋没させる.C:術後の戻りを考慮し,過矯正気味に手術を終了する.術後の皮膚溝は睫毛列に近いと目立ちにくい.900あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(24)瞼皮膚小切開を行う.埋没させる7-0非吸収糸の両端を眼瞼円蓋部結膜から皮膚通糸点に向けて通糸する.両端の皮膚切開点から糸の両端が出たら(図2A,B),後に出したほうの皮膚切開点からもう一度針を皮下に浅く通し,もう一方の皮膚切開点から出し,糸の両端を一つの皮膚切開点から出して通糸し結紮する.術後は必ず戻りがあるので,結膜面が若干外反する程度まで過矯正になるよう結紮する(図2C).結紮断端を結び目に近い部分で切断し,皮膚切開点に埋没させる.通糸法で再発した場合には,再手術では皮膚切開法を選択する.Pearls&Pitfalls:睫毛内反症に対する通糸法では必ず術後の戻りがあり再発しやすいので,その適応は限定される.幅広の下眼瞼重瞼は整容上不自然であり,これを避けるように皮膚通糸点をデザインする.3.皮膚切開法俗に“Hotz法”とよばれる方法の変法である.以下,1.術前頻度の多い下眼瞼での皮膚切開法を解説するが,上眼瞼でも手技は同様である.余剰皮膚切除のデザインでは,睫毛列から2mm程度下方に瞼縁側の切開線を置く(図3B-2).過剰な皮膚切除は修正困難な眼瞼外反症をきたすので,最大幅(上下方向)で3mm程度にとどめる.皮膚切除後,切除部直下の眼輪筋も切除し,瞼板を露出する.眼瞼前葉を瞼縁に向かって瞼板から.離する(図3A).睫毛根が見えるまで.離し,その.離した眼瞼前葉を瞼板に再固定(repositioning)して外反させるというイメージである.7-0縫合糸で,瞼板の下縁付近で瞼板を通糸し,つぎに眼瞼前葉皮下組織をすくって結紮する.このとき睫毛の立ち方,前葉の外反程度を見て低矯正であればやり直す.一般に鼻側の数本は睫毛が立ちにくく,鼻側の1本は瞼縁埋没U字縫合(後述)とすることも有用である.皮膚切開法でも術後の戻りはあるので,若干の過矯正の仕上がり(図3B-7)にするほうが再発しにくい.皮膚縫合では,抜糸しやすいナイロン糸皮下連続縫合とするか,抜糸が困難な小児では8-0バ3.前葉.離2.皮膚切開デザイン5.瞼縁前葉に通糸6.前葉再固定9.術後1カ月8.術後1週4.瞼板に通糸7.皮膚縫合図3睫毛内反症に対する皮膚切開法A:手術シェーマ.瞼板から眼瞼前葉を瞼縁に向かって.離し(矢印),瞼板と前葉皮下に通糸して結紮する.B:手術前後と術中の写真.皮膚は鼻側を多めに切除する(2).前葉.離(3)のあと,必ず挟瞼器をゆるめて,止血し,前葉再固定に移る.睫毛の向きと瞼縁の外反程度を見ながら通糸・結紮を行い,赤い結膜面が幅1mm見える程度の過矯正で終了する.術後1週(8)では結膜面外反が残っているが,術後1カ月(9)ではシャープな瞼縁が形成されている.(25)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129019.術後1カ月8.術翌日2.LER通糸3.裏から針先が出たところ5.LERを瞼板に結紮6.LERをめくり上げたところ7.前葉を瞼板に再固定9.術後1カ月8.術翌日2.LER通糸3.裏から針先が出たところ5.LERを瞼板に結紮6.LERをめくり上げたところ7.前葉を瞼板に再固定1.術前4.瞼板に通糸図4退行性下眼瞼内反症に対する下眼瞼牽引筋腱膜(LER)短縮法A:手術シェーマ.退行性下眼瞼内反症の主因はLERの弛緩と考えられ(上),LER全層を.離して短縮し瞼板に固定する.B:手術前後と術中の写真.LER全層を.離して皮膚側から結膜側に通糸(2,3)し,瞼板の下縁付近をすくって(4),再度LERを貫通して,皮膚側で結紮する(5).結紮の前に必ず挟瞼器をはずす.短縮量が足りなければ結紮し直すが,通常LERを引っ張った状態で8.10mmの短縮量であり(6),挟瞼器で.離できるLER再下端での通糸で済むことが多い.本症例では睫毛乱生もあると判断し,埋没U字縫合(図6参照)で瞼縁前葉を固定した(7).術翌日(8),軽度の眼瞼外反がみられるが,1カ月では外反は消失し,シャープな瞼縁が形成されている(9).902あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(26)イクリル糸を用いる.Pearls&Pitfalls:睫毛内反に対する皮膚切開法でも再発する症例を経験する.縫合糸による矯正効果には限界があり,余剰な皮膚や眼輪筋の切除量が足りないことが主因であろう.しかし,皮膚に余裕のない若年者において,過剰な皮膚切除による眼瞼外反の修正は困難であり,“取り過ぎ”は極力避けるべきである.それなら,切除追加の再手術を行っているほうがましである.III退行性(加齢性)内反症の手術上眼瞼では退行性変化は眼瞼下垂となって現れることが多く,退行性眼瞼内反症は下眼瞼に多い.原因となる瞼板支持組織の弛緩をなくすような手術手技が必要である.Jones法に代表されるように,下眼瞼牽引筋腱膜(LER)を短縮し,垂直方向の弛緩を是正する方法と,lateraltarsalstrip法,Wheeler法や久冨法などに代表されるように,外嘴靱帯短縮,眼輪筋短縮,皮膚切除を行い,水平方向の弛緩を是正する方法とに大別され,いずれかが第一選択の術式となる.いわゆるHotz法を単独で加齢性下眼瞼内反症に対して行うことは,発症機序を考えれば誤りである.1.下眼瞼牽引筋腱膜(LER)短縮法下眼瞼牽引筋腱膜(以下,LER)の短縮には,眼輪筋側を露出してタッキングする方法(Jones変法)と,結膜側も含めLER全層を.離し短縮する方法(Kakizaki法)がある.本稿では,LERの同定とその短縮効果がより確実な全層.離による短縮法(図4)を解説する.LERの.離同定が本術式の要であり,LER.離までは挟瞼器使用を強く勧めたい.皮膚切開は,睫毛列より3mm程度で,それより下方皮膚を通常3.5mm程度の幅で切除する.LERが瞼板に付着する上端を見つけ,スプリング剪刃にて瞼板から.離し下方に進め,結膜から.離する.つぎに眼輪筋側の.離を行うと,LER全層が1枚の膜として.離される.挟瞼器をかけたまま最も奥で,眼輪筋側からLER-瞼板-LERと6-0非吸収糸を中央の1箇所に通糸し(図4B-3,4),結紮前に必ず挟瞼器をはずす.LERの短縮量は,LER上位端から中央をぴんと張った状態で8.10mm前後であり,Lockwood靱帯にまで短縮すると外反をきたしやすい.極端な外反や眼瞼の形態異常がないことを確認したら,左右にもLER-瞼板固定の縫合を追加し,余分なLERは切除する.LERの断端(あるいは瞼板)と瞼縁前葉皮下を縫合して,瞼縁前葉を瞼板に再固定し睫毛を立たせる.ついで7-0ナイロン糸で皮膚縫合を行う.Pearls&Pitfalls:LERはかなり薄い膜状組織であり,全層.離すると,ときに穴だらけの膜になる.しかしそのような場合でもその深部をたどればLockwood靱帯付近では厚みが増すので,その位置でしっかり縫合糸をかけ短縮する.タッキング法よりも一見面倒に思えるLER全層.離法のほうが,LERの同定に迷いがなく,実はより容易である.LERの固定位置は瞼板の下縁から1mm程度上とする.あまり上方に固定し前転効果を狙うと外反をきたしやすい.2.下眼瞼皮膚眼輪筋短縮術(Wheeler変法.久冨法併用術)瞼板の水平方向の弛緩を是正する術式を第一選択としている術者もあり,術後成績(再発率)もLER短縮手術とほぼ同様とされる.下眼瞼皮膚と眼輪筋を短縮するWheeler変法-久冨法併用術(図5)1)は,手技が容易でかつ再発率も低いようである.下眼瞼皮膚を切開後,眼輪筋束を.離し緊張するよう短縮し縫合する.ついで,切開した皮膚を外上方に引き上げ,余分な皮膚をトリミングして縫合する.IV睫毛乱生の手術いわゆる“さかさまつげ”には,眼瞼と眼球の位置関係が正常でも,一部の睫毛が眼表面に向かって生える睫毛乱生(trichiasis)や,本来睫毛のないマイボーム腺開口部付近から睫毛が生える睫毛重生(distichiasis)の病態が含まれる.睫毛重生はあまり聞き慣れない用語で,一般に睫毛乱生というとき,厳密な意味での睫毛重生を含んでいることが多く,以下ではまとめて睫毛乱生と称する.睫毛乱生の手術では,まず,その睫毛を残すか,毛1.眼輪筋.離2.眼輪筋短縮縫合3.余剰皮膚トリミング4.皮膚縫合図5退行性下眼瞼内反症に対する下眼瞼皮膚眼輪筋短縮術(Wheeler変法.久冨法併用術)A:手術シェーマ.(平山さをりほか:あたらしい眼科18:1543-1546,2001より改変,引用)B:術中写真.幅8mmほどの眼輪筋束を.離し(1),緊張するよう鑷子でつまんだ分を短縮して縫合する(2).切開より下方の皮膚を上耳側に引っ張り,余剰な皮膚をトリミング(3)して縫合する(4).(27)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012903根ごと除去するか,を選択する必要がある.睫毛を残せる場合とは,すなわち瞼縁前葉を瞼板へ再固定する手技(睫毛内反の項参照)により睫毛の向きを矯正できる場合である.皮下の縫合で対処できることもあるが,以下に述べる瞼縁埋没U字縫合もときに有用である.それでも対処できないような睫毛乱生では,睫毛列切除により睫毛を完全に除去する必要がある.睫毛電気分解は簡便な手技であるが,数多くの毛根を一度にすべて確実に破壊するのは困難であり,2.3本を除去したい場合が良い適応と思われる.重度睫毛乱生に対する手術法としては瞼板への粘膜移植法もあるが,手技が煩雑で,その適応症例はきわめてまれと思われるので,本稿では割愛する.1.瞼縁埋没U字縫合難治性の上眼瞼睫毛乱生症への対処法として,田邊らにより考案された手技である2).原法では瞼板にV字溝を作製するが,縫合法のみでも外反効果は強く,下眼瞼にも応用できる.皮膚を切開し瞼縁側の眼瞼前葉を.離するまでの手技は,睫毛内反のそれとまったく同様である.7-0モノフィラメント縫合糸(筆者は吸収糸7-0PDSIIRを使用)で瞼板に通糸したあと,瞼縁前葉の全層を貫いて睫毛の生え際の皮膚面(瞼縁の粘膜面)に一旦出し,Uターンして先の皮膚通糸点から1mmほど水平に移動した点から刺入し再度前葉を貫いて,皮下で結紮する(図6).瞼板に通糸する位置が瞼縁から離れるほど,また皮膚貫通位置が瞼縁に近いほど,外反効果は強くなる.皮膚面に糸が露出することになるが,1週間ほどで埋没してわからなくなる.2.眼瞼分割法による睫毛列切除(lidsplittingwithlashresection)3)睫毛を眼瞼全幅にわたりすべて除去する方法で,重度な場合のいわば最終手段である.Lid(eyelid)splitting(眼瞼分割)とは,眼瞼縁で睫毛列を含む皮膚と瞼板との間を水平に切開する,すなわち眼瞼前葉と後葉とを分割する手技である.全幅にわたる眼瞼分割により,睫毛列をすべて切除する(図7A).まず,瞼縁に円刃刀でlidsplittingを全幅にわたり行う.ついで,眼瞼皮膚を睫毛列から3mmほど離れて瞼縁に平行に切開し,それより瞼縁側の前葉を瞼板から.離し,先のlidsplittingの切開線に貫通させる.これで,睫毛列を含む眼瞼前葉1.瞼板に通糸3.Uターン2.前葉を貫通4.皮下で結紮図6睫毛乱生に対する瞼縁埋没U字縫合法A:手術のシェーマ.瞼縁埋没U字縫合法(赤)では,皮膚面に糸が幅1mm程度露出するが,結び目は皮下である.対比のため,通常の前葉-瞼板固定で用いる皮下縫合(青)も示す.B:術中写真.瞼縁前葉の中央を1糸瞼板に固定した部分の外反効果は強い(4).904あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(28)図7睫毛乱生に対する睫毛列切除法A:眼瞼分割法(lidsplitting)による睫毛列切除.睫毛を含む瞼縁前葉を全幅切除し,瞼板を約4mm幅で露出させて,皮膚を瞼板に固定する.B:眼瞼分割法による睫毛列切除を行った睫毛乱生(重生)の症例.睫毛乱生手術に続いて角膜移植を行い,視力は改善した.C:部分睫毛列切除法.毛根を含めて皮下の組織も切除する.が瞼板から遊離するので,両端を切断して除去する.むき出しになった瞼板前面には毛根が残っているので,瞼板前面を円刃刀で削りとる.切断面皮下の眼輪筋を3mm幅ほど切除して,皮膚断端を瞼板に瞼縁から3.4mm離して固定する.この露出する距離が短いと,術後に皮膚が覆いかぶさり,それが内反して,皮膚の産毛が眼表面に触れることになる.3.部分睫毛列切除睫毛乱生が部分的に見られるときに適応となる.切除したい睫毛列を含んで皮膚を船形にメスで切開し,毛根を含む皮下組織ごと切除する(図7C).睫毛の生え際からの切開のみでも切除できるが,瞼縁前葉を瞼板から.離しておくと,皮膚裏面からも確認でき,毛根除去が確実となる.毛根破壊の意味も含め,切除した毛根付近をバイポーラで凝固して止血する.欠損部はそのままopentreatmentとして上皮化を待つ.Pearls&Pitfalls:瞼縁埋没U字縫合の通糸部位が瞼縁に近い場合,通糸でできた窪みにより周囲の眼瞼前葉が倒れ込んで睫毛が触れることがある.したがって,通常の皮下の埋没縫合も併用して瞼縁から離れた眼瞼前(29)葉も瞼板に固定するとよい.瞼縁埋没U字縫合ではかなり重度の睫毛乱生でもとりあえずは睫毛が外反したことを確認して手術を終了することが可能である.ただし,やはり術後の“戻り”があるので,再発の際には睫毛を完全に除去する手技を選択する.おわりに眼瞼内反症,睫毛乱生の手術では,重度の合併症は考えにくいが,最も多い問題は残存,再発であろう.本疾患の手術で再発率がゼロということはありえないので,手術前に再発・再手術の可能性を十分に説明しておくことが大切である.文献1)平山さをり,西本浩之,伊藤裕子ほか:老人性下眼瞼内反症に対する手術法の検討─Wheeler変法-久冨法併用術─.あたらしい眼科18:1543-1546,20012)小出美穂子,星野彰宏,田邊吉彦ほか:難治性の上眼瞼睫毛乱生に対する埋没U字縫合法.臨眼63:1791-1795,20093)WojnoTH:Lidsplittingwithlashresectionforcicatricialentropionandtrichiasis.OphthalPlastReconstrSurg8:287-289,1992あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012905