ヒト角膜内皮細胞の概日時計概日リズムとは地球の自転に伴う環境変化に適応するために,生物が自らの体内に組み込んできた約C24時間周期のリズムで,バクテリアからヒトに至るほとんどの生物が普遍的に有しています.哺乳類では概日時計の中枢は視交叉上核に存在しますが,末梢のほぼすべての臓器・細胞に概日時計があることが明らかになっています1).また,概日時計は細胞分化と密接に関連しており,概日時計が備わっていないCES細胞をCinvitroで分化誘導すると,約C2週間で概日時計の振動体が形成され,逆に時計が形成された細胞をリプログラミングしiPS細胞にすると,概日時計は再び消失します2).概日リズムの本態となっているのが時計遺伝子で,時計遺伝子群が構成する転写翻訳のネガティブフィードバックループが基本骨格となって遺伝子発現リズムが形成され,生理機能の概日リズム制御が行われています(図1).眼における概日時計眼においては,眼圧,脈絡膜厚,角膜厚などに日内変動が報告されています.角膜浮腫に至った水疱性角膜症患者では,起床時がもっとも見にくく,夕方にかけてだんだん見やすくなるという訴えをしばしば聞きますが,その病態メカニズムについてはこれまで明らかになっておらず,角膜厚の調節を担う角膜内皮細胞の概日性制御についても報告はありませんでした.そこで今回,筆者のグループはヒト角膜内皮細胞における概日リズム制御を解明するため,培養ヒト角膜内皮細胞に対してC2種類のプラスミドを用いたCTol2Ctranspo-sonsystemによってCBmal1-Lucレポーターを導入し,その発光リズムを観察する実験を行いました3).その結果Cn=20以上の細胞で発光リズムを確認でき,約C24時間周期の明瞭な振動を認めました.これによりヒト角膜内皮細胞に概日時計が備わっていることを初めて明らかにしました.また,培養ヒト角膜内皮細胞のリズムを同調させたのち,4時間ごとにC48時間にわたって細胞からCRNAを抽出し,RNAシークエンスを行いました.約C24時間周期の発現リズムをもつ遺伝子をC329個同定し,それらは解糖系,ミトコンドリア機能,エネルギー恒常性や酸化ストレス応答に関する遺伝子を多く含んでおり,ヒト角膜内皮の重要な機能を表していました.環境の日内変動に対する適応機構として,角膜内皮細胞に備わる概日時計が生理機能制御にかかわっていると考えられました.中井浩子京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学時計遺伝子のコア・フィードバックループCProteinmodi.cationCRNAeditingCRNAmodi.cationCetc…CBMAL1CCLOCKBCCICBmal1CmPer1,2,3CPERCCRYアウトプットCClock-controlledgenesmCry1,2CREVCRev-erbCE-boxCRORECE-boxアウトプット生理機能の概日リズム表出CClock-controlledgenes(metabolism,functionalactivities,cellcycle,etc..)図1時計遺伝子のコア・フィードバックグループ時計遺伝子群が構成する転写翻訳のネガティブフィードバックループが基本骨格となって遺伝子発現リズムが形成され,生理機能の概日リズム制御が行われている.(京都府立医科大学統合生理学・八木田和弘教授のご厚意による)今後の展望水疱性角膜症患者の内皮細胞では概日リズムに関する遺伝子群の発現が有意に低下しているという報告があり,正常な概日時計機能が細胞の健常性と密接にかかわっていることが示唆されます.そのため,時計遺伝子発現リズムの周期や振幅,安定性などのパラメータを,角膜内皮移植に用いる細胞の機能評価に用いることができる可能性が考えられます.謝辞本研究は,京都府立医科大学大学院医学研究科統合生理学・八木田和弘教授および土谷佳樹講師の指導のもとに行ったものです.この場を借りて御礼を申しあげます.文献1)YagitaCK,CTamaniniCF,CVanCDerCHorstCGTCetal:Molecu-larCmechanismCofCtheCbiologicalCclockCinCculturedC.broblasts.CScience292:278-281,C20012)YagitaK,HorieK,KoinumaSetal:Developmentofthecircadianoscillatorduringdi.erentiationofmouseembry-onicCstemCcellsCinCvitro.CProcCNatlCAcadCSciC107:3846-3851,C20103)NakaiH,TsuchiyaY,KoikeNetal:Comprehensiveanal-ysisCidenti.edCtheCcircadianCclockCandCglobalCcircadianCgeneexpressioninhumancornealendothelialcells.InvestOphthalmolVisSci63:16,C2022(79)あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024C1890910-1810/24/\100/頁/JCOPY