考える手術.監修松井良諭・奥村直毅白内障手術渡邉敦士大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)現代の白内障手術は,基本的なプロセスが標準化されている.しかし,その中にも術者ごとの工夫や特徴がみられ,完全に同じ手術は存在しない.前提として術式に正解はなく,個々の術者が生涯にわたり各々の術式に改良を重ねていくべきものと考える.これを踏まえたうえで,筆者の手術の要点を述べる(動画①).まず,mainport(MP)をBENT角膜切開(2.4mm)で作製する.次に,sideport(SP)を2時方向に作製する.SPとMPは最低でも90°以上離し,超音波破砕(以下,US)中の核回転操作性の低下を防ぐ.次に,を狙い,前.をすくい上げるように針先をスライドさせながら少し持ち上げ,水を発射する.この操作は通常2カ所で行い,必要に応じて回数を増やす.次に,hydrodelineationを行うが,ここではゴールデンリングが出ない程度に少量追加する.(=“Half-delineation”)(図1).USの段階では,チップのベベル方向とそれによって発生する水流の方向を利用する.ベベルアップで核中央をsculptし,この溝にベベルアップでチップ先端を深く置き,チョッパーでホリゾンタルチョップを行う.最少の手数で核を完全遊離させることが重要である.4分割後はベベルライト(ベベルを右に向ける)で遊離核を吸引する.この際,チョッパーは反転させてベベル背後のスペースに配置し,遊離核吸引効率の向上と後.への保護として活用する(図2).通常,US終了直後は皮質が残らないことが多い(図1).眼内レンズ挿入前のOVD注入はSP経由で前房形成する.これはUS中の核片がSPに挟まることが多いためである.最後に,OVD除去の際は前房維持性を考慮し,IAチップの先端が外に出る直前で連続灌流をOFFとし,素早くチップを外に出す.MPの閉創はトンネルの上壁のみで十分であり,ヨード点眼を用いて各portの閉創を確認する.聞き手:先生の術式でとくに重要と考える過程はありまし,epinucleusが後.に対する保護作用を果たし,安全すか?性を高めます.また,epinucleusが核と同時に回転する渡邉:手術中の動作にはすべて意味がありますが,そのことで生じるpolish効果により,US終了時には皮質が中でもとくに重要なプロセスは,hydrodissectionと水晶体.に付着せず,すでに除去されます.これら二つhydrodelineationだと考えています.私の方法では,超の現象を意図的に再現できるように工夫しています.音波破砕(以下,US)の後半に核とepinucleusが分離(83)あたらしい眼科Vol.40,No.9,202312050910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:US終了時点で皮質がなくなる現象をまれに経験しますが,意図的に行えるものなのでしょうか?渡邉:まず前提としてhydrodissectionを前.直下のスペースに回し,皮質と水晶体.をより厳密に分離します.この状況で,hydrodelineationを行わず(核とepi-nucleusを分離せず)にUSを行うと,この現象を容易に再現できます(図1パターン3).これは仮説ですが,US中に核を回転させる過程で,epinucleusが核と一緒に回転した結果,epinucleusが皮質をpolishし,水晶体.から皮質を分離すると考えています.逆に,hydrodissectionとhydrodelineationを完全に行うと,US中にepinucleusは核と一緒に回転せず,上述のpolish効果を再現しづらいと考えられます(図1パターン1).パターン1はepinucleusがUS中に分離し安全性が高いですが,US終了時に皮質がなくなることはありません.逆に,パターン3はUS終了時に皮質がなくなりますが,epinucleusは分離せず,後.に対する保護が弱く,また連続円形切.が小さい場合には核片が大きくなり遊離しづらくなります.そこで,パターン1とパターン3の両方の利点をもつパターン2(図1)をめざしています.パターン2では,hydrodelineationを少量行い(ゴールデンリングが見えない程度),核とepinucleusをあえて中途半端に分離します.この中途半端に核とepinucleusを分離することがポイントです.この場合,US中に核を回転させると,epinucleusと核は完全に分離していないため,皮質に対するpolish効果が期待できます.また,US後半では核とepinucleusはより分離していき,最終的にはepinu-cleusが自然に遊離し,後.に対する保護となります.私はこの中途半端に行うhydrodelineationを“half-delineation”とよんでいます.聞き手:なるほど,先生の提唱するパターン2は利点が多いわけですね.しかし,すべてのケースでこれは再現可能なのでしょうか?渡邉:この手法は一般的な場合,つまり70歳以上で核硬度2.5以下の症例に有効です.白内障手術は標準的な症例であっても,年齢による水晶体の粘り具合と核硬度により,さまざまな組み合わせがあります.たとえば,60歳代で核硬度2の症例では,動画2のようになります.動画1と同様に,「前.直下のhydrodissection+half-delineation」を行っていますが,US終了時に皮質が残ってしまいます.60歳代では皮質の粘りが高いためです.聞き手:US中,とくに遊離核吸引時の器具の配置が独特に見えますが,何かポイントはありますか?渡邉:US中はチップのベベル方向を意識的に使い分け,それにより生じる水流を活用しています.核分割はベベルアップで行い,遊離核吸引はベベルを右方向(ベベルライト)に向けて行います.核片がベベルの背後のスペースに迷い込むと,核吸引効率が悪くなると考えています.そのため,図2のようにUSとチョッパーで「八の字」を作り,核片をベベル背後のスペース以外に追い込んでいます.このような水流を利用し,またこのスペースに遊離核を追い込むHydrodissection水晶体.Hydrodelineation“Half-delineation”Epinucleusパターン1パターン2パターン3Hydrodissection+HydrodelineationHydrodissection+”Half-delineation”HydrodissectiononlyUS中のepinucleus分離:○US中のepinucleus分離:○US中のepinucleus分離:.反転させたチョッパー遊離核処理中はUS終了時の皮質polish効果:.US終了時の皮質polish効果:○US終了時の皮質polish効果:○ベベル背後のスペースベベルライト図1Hydrodissectionとhydrodelineationの3パターン図2べべルライトによる水流を利用した遊離核処理1206あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023(84)