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屈折矯正手術:後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼に生じた裂孔原性網膜剥離

2012年5月31日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載144大橋裕一坪田一男144.後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼に生じた山村陽バプテスト眼科クリニック裂孔原性網膜.離後房型有水晶体眼内レンズであるICLTM挿入眼に生じた裂孔原性網膜.離に対し,ICLTMと水晶体を温存した25ゲージ硝子体手術を施行した.術中,ICLTMの形状により網膜周辺部の視認性は低下していたが網膜は復位し,術後約2年以上経過した現在までの経過は良好である.術式の選択を慎重に行う必要はあるが,同手術は有用な治療法の一つと考えられる.後房型有水晶体眼内レンズであるICLTM(implantablecollamerlens:STAARSurgical社)は,2010年2月にわが国で唯一承認を受けた有水晶体眼内レンズであり,LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの角膜屈折矯正手術が不適応の強度近視眼のみならず,軽度の円錐角膜眼への応用や偽水晶体眼へのピギーバックとしての応用も報告されている.さらに2011年11月には乱視矯正用のICLTMも認可され,ICLTM挿入術は有用な眼内屈折矯正手術として今後も症例数の増加が予想される.しかし,日本眼科学会による屈折矯正手術のガイドライン1)では,術後の経過観察について以下の術後合併症に留意しなければならないと記載されている.すなわち,①術後感染性眼内炎,②ハロー・グレア,③角膜内皮障害,④術後一過性眼圧上昇およびステロイド緑内障,⑤白内障,⑥閉塞隅角緑内障,⑦網膜.離,⑧近視性脈絡網膜萎縮,⑨虹彩切開あるいは虹彩切除による光視症である.本稿では,ICLTM挿入眼に生じた裂孔原性網膜.離に対し,ICLTMと水晶体を温存した25ゲージ硝子体手術図1術前眼底写真左眼底耳側深部に硝子体出血を伴うスリット状の巨大裂孔を認め,黄斑を含まない約1象限の網膜が.離していた.を施行した症例を経験したので紹介したい2).●症例患者:43歳,男性.現病歴:2008年3月,網膜周辺部に明らかな変性巣がない両眼の強度近視に対し,ICLTM挿入術を当院にて施行し術後経過は良好であったが,9カ月後に左眼の霧視を自覚し受診となる.再診時所見:視力は右眼1.0(n.c.),左眼1.2(n.c.)眼圧は右眼14mmHg,左眼13mmHg,角膜内皮細胞(,)密度はそれぞれ2,551/mm2,2,833/mm2であった.前眼部,中間透光体に異常はなく,ICLTMの位置も特に問題はみられなかった.左眼の耳側深部に硝子体出血を伴うスリット状の巨大な網膜裂孔を認め,黄斑を含まない約1象限の網膜が.離していた(図1).手術:網膜周辺部に明らかな変性巣のない深部裂孔であり,水晶体の混濁はなかったため,ICLTMと水晶体を温存した25ゲージ硝子体手術を選択し,通常の観察システム下で型通りに手術を施行した.ICLTMと水晶体接触の危険性を抑えるため,強膜の圧迫操作は最低限にと(57)あたらしい眼科Vol.29,No.5,20126370910-1810/12/\100/頁/JCOPY 光学部径全長エッジ光学部フットプレート光学部径全長エッジ光学部フットプレート図3ICLTMの形状矯正度数によって光学部径(4.65,5.00,5.25,5.50mm)は異なり,角膜横径に応じて全長(11.5,12.0,12.5,13.0mm)は選択される.どめた.術中の視認性について後極部は問題なかったが,周辺部はICLTMの形状による影響を受け著明に低下していた.具体的には,光学部とエッジと水晶体それぞれの境界部分では硝子体カッターの先端が多重に見えるなどの現象を経験した(図2).術後経過:術後約2年以上経過した現在も網膜は復位しており,視力1.0(1.2×cyl.0.5DAx180°)で,明らかな白内障の進行や角膜内皮細胞密度(2,618/mm2)の減少およびICLTMの位置異常も認めていない.当院では,2006年11月から2011年12月までの期間に110眼の症例に対し,ICLTM挿入術を施行してきたが,現在までに網膜.離を生じたのは本症例のみである(発症率約0.9%).Martinez-Castilloら3)の771眼で検討した報告によると,術後約5年の経過では2.07%の割合で網膜.離が発症し,時期は平均29.12カ月で,選択した術式は強膜バックリング術が62.5%,ICLTMと水晶体を温存した硝子体手術が31.25%であったとしている.発症原因と638あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012abc図2術中の眼底視認性ICLTMの光学部,エッジと水晶体それぞれの境界部分では,硝子体カッターの先端が多重に見えるなど周辺部の視認性は低下していた(a,b).後極部の視認性については問題なかった(c).して,硝子体基底部前後の硝子体に働く牽引力の関与や毛様体との物理的な接触による炎症の関与などが指摘されている4,5).術中の視認性を低下させる要因としてICLTMの形状が考えられる.ICLTMの矯正範囲は.3.0..23.0D(等価球面度数では.1.75..19.0D)と広いが,矯正度数によって光学部径(4.65,5.00,5.25,5.50mm)が異なり,矯正度数が大きいほど光学部径は小さくなる.さらに,光学部周囲にはエッジとよばれる長方形様の形状をしたプレート構造があり,角膜横径に応じて全長(11.5,12.0,12.5,13.0mm)が選択される(図3).ICLTMと水晶体を温存した25ゲージ硝子体手術は,術中の網膜周辺部の視認性低下や術後の核白内障進行や角膜内皮細胞密度減少の問題はあるが,適切に症例を選択すれば有用な治療法の一つであると考えられる.文献1)屈折矯正手術のガイドライン─日本眼科学会屈折矯正手術に関する委員会答申─.日眼会誌114:692-694,20102)山村陽,稗田牧,木下茂:後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼に生じた裂孔原性網膜.離の1例.眼科手術24:333-337,20113)Ruiz-MorenoJM,MonteroJA,delaVegaCetal:Retinaldetachmentinmyopiceyesafterphakicintraocularlensimplantation.JRefractSurg22:247-252,20064)PanozzoG,ParoliniB:Relationshipsbetweenvitreoretinalandrefractivesurgery.Ophthalmology108:1663-1668,20015)RizzoS,BeltingC,Genovesi-EbertF:Twocasesofgiantretinaltearafterimplantationofaphakicintraocularlens.Retina23:411-413,2003(58)

眼内レンズ:灌流つきトーリック眼内レンズマニピュレーター

2012年5月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎309.灌流つきトーリック眼内レンズ根岸一乃慶應義塾大学医学部眼科マニピュレータートーリック眼内レンズ(IOL)の回旋を,粘弾性物質除去後,灌流液下で行うために工夫された灌流つきトーリックIOLマニピュレーター(Duckworth&Kent社)を紹介する.通常の皮質および粘弾性物質吸引の条件下でサイドポートまたは超音波創口から挿入して十分な灌流量を確保しつつ利き手で操作が可能である.粘弾性物質除去後のトーリックIOL軸合わせに有用である.白内障手術時の乱視矯正法として,トーリック眼内レンズ(intoraocularlens:IOL)は安全性および有効性が高い方法として定着しつつある.トーリック眼内レンズによる乱視矯正精度向上のための重要なポイントとしては,①正確な生体計測,②正確な乱視軸の術前マーキング,③正確なIOLの軸固定(術前マーキングとIOLの軸マークの一致)があげられる.正確なIOLの軸固定は,IOL挿入後,Purkinje-Sanson像を利用して眼球が正位であることを確認しながらIOLを回旋して,マーキングとIOLの軸マークを合わせる.安全に眼内レンズを回旋し,位置合わせを行うためには粘弾性物質下で前房を保ちながら行うべきであるが,粘弾性物質下でIOLの位置を正確に固定しても,IOL裏(後.との間)の粘弾性物質を除去する際にIOLが回旋し,固定軸とのずれの原因となることがある.一方,IOLを挿入し,先に粘弾性物質を除去してからIOLを回旋するには,I/A(irrigationandaspiration)チップで前房内を灌流しながらIOLを回旋する(図1)か,片手で灌流しながら片手でフックなどによってIOLを回旋する(図2)ことが必要であり,前者では創口にやや負担がかかる可能性があり,後者では利き手以外でフックを行う場合,操作が煩雑で初心者には困難な場合もある.Kazuno灌流つきトーリックIOLマニピュレーター(Duckworth&Kent社)(図3)は,トーリックIOLの回旋を粘弾性物質除去後,灌流液下で行う際に工夫された器具で,サイドポートまたは,超音波創口より挿入し,利き手でIOL回旋が可能な器具である.先端は20ゲージ(外径0.7mm),鈍で,長さが0.8mmあり,灌流口は下向きで灌流口の長径は0.9mmである.この器具で,切開幅1.4.2.8mmにて通常の皮質および粘弾性物質吸引の条件(例:ペリスタルティックポンプでボトル高65cm,吸引圧160mmHg)で十分な灌流量を確保でき,粘弾性物質除去後でも.内の眼内レンズの回旋が可能であることは確認されている(図4).本器具の特長は以下のとおりである.・利き手のみで操作が可能であり,熟練者でなくても灌流下でのIOL回旋が可能.…………………………………………図1I/AチップによるIOL回旋操作図2フックによるIOL回旋操作図3Kazuno灌流つきトーリックIOLマニピュ回旋の際に創口に負担がかかることがあ利き手で操作できない場合,初心者にはレーター(Duckworth&Kent社)(a)とそる.やや煩雑.の先端形状(b)(55)あたらしい眼科Vol.29,No.5,20126350910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4Kazuno灌流つきトーリックIOLマニピュレーターによるIOL回旋操作(2.2mm1面切開)・灌流が前下方に向いているため,前房を保ちながら,.を後方に押し下げZinn小帯を適度に伸展させ,粘弾性物質なしにIOL回旋が可能.・粘弾性物質の使用なしにIOLの位置調整が可能であるため,余分なコストが省ける.・主創部,サイドポートのどちらからも使用可能.・下向きに大きな灌流口があることから操作中の十分な前房保持が可能である(図3).・器具の全曲面は滑らかで,創からのスムーズな出し入れが可能である(図3).・先端は粗面で,先端をIOL光学部に押し当ててもすべらないので,光学部保持によるIOL回旋も可能である(図3,4).一方,灌流下でIOL回旋が可能であるといっても,以下のような症例では,Zinn小帯断裂の危険があるため,使用すべきではない.・トーリックIOL挿入術後眼の回旋ずれに対する軸再調整(.収縮・癒着がすでにある場合).・Zinn小帯脆弱例.トーリック眼内レンズを回旋する際は,状況に合わせて最も安全な手段を選択すべきであり,本器具は選択肢の一つとなりうると考えられる.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズ装用指導の実際(1)

2012年5月31日 木曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】335.コンタクトレンズ装用指導の実際(1)ハードコンタクトレンズ(HCL)を処方された患者が,合併症を起こすことなく快適にHCLの装用を続けるためには,適正な処方が必要であることは,コンタクトレンズ(CL)の処方をする者であれば誰でも理解していることである.しかし,それとともにHCLの使用を開始する前に,患者が医療従事者から適切な装用指導を受けることの重要性は,あまり認識されていなのが現状であろうと思われる.そこで本稿では,HCL処方後に医療施設で行う基本的な装用指導の実際について,「装用指導前の準備と装脱練習前の準備」,「装脱練習」,「レンズのケア」の3回に分けて解説する.●装用指導前の準備装用指導は医療従事者と患者とのコミュニケーションを十分に取ることができて,患者が理解,装脱練習に専念できるように,個別に日時を予約して行うことが望ましい.時間を決めずに長時間の指導を漫然と行うことは,かえって患者の集中の妨げになるため,筆者のクリニックでは装用指導に1時間の制限時間を設けている.時間内に装脱の仕方を習得できそうにない場合でも練習を急がせず,再度予約を取って装用指導を行っている.装用指導前の準備として,装用指導を予定した日までHCLに添付されているCLメーカーのレンズとケア用品の取り扱い説明書を患者に読んできてもらい,装用指導全体の流れと大まかな内容をあらかじめ把握しておいてもらう(図1).この準備によって,患者のモチベーションは高まり,装用指導の説明を理解しやすく,疑問や質問も出やすくなる.さらに限られた時間内で装脱練習を完了できる患者が多くなる.CLの使用が初めての患者への装用指導では,HCLの使用にかかわる基本的なことを順序立てて型通りに説明してから装脱指導をするので,どの患者の場合でも指導内容に違いはなく問題は少ない.しかし,HCLの使用経験者では,患者が自己流の誤ったレンズの使用方法,装脱方法,レンズケアの方法を身に着けていたり,間違(53)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY塩谷浩しおや眼科図1コンタクトレンズとケア用品の取り扱い説明書患者が取り扱い説明書をあらかじめ読むことで装用指導が円滑に進む.った理解をしていたり,指導を受けた内容を忘れてしまっていたりすることがある.たとえば,一日の最長装用時間を意識せずに使用する,短時間あるいは夜間就寝時間に装用したまま睡眠する,レンズをはずさずに球結膜にずらして睡眠する,手を十分に洗わない,口に入れて唾液で濡らす,HCL専用のクリーナや保存液を使用しない,水道水中で保存する,定期検査を受けない,などの患者が実際にいる.そこでHCLの使用経験者では患者がどこまで正しく理解しているのか聴き取ってから基本的なことをもれなく説明し,指導を開始することが必要となる.●装脱練習前の準備装脱練習前の準備として,まずは使用するHCLについて患者に説明する.患者が購入して持参したレンズの規格(処方データ)を確認し,左右の区別の仕方を理解してもらう.ケースからレンズを出して,実際のレンズに異常がないかどうかの確認のポイント(変色,変形,きず,欠け,ひび割れのチェック)を説明する(図2).ここで安全に快適に装用するためには装用前に毎回レンあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012633 図2ハードコンタクトレンズの確認装用前にレンズの変色,変形,きず,欠け,ひび割れのチェックを行う.図3凹面鏡の準備遠視や強度の混合乱視の患者,老視の症状の出現した中高年の患者で,近方視が不良となる可能性のある場合には装脱時に凹面鏡を使用する.ズの状態を確認することの必要性を認識してもらう.つぎに,装脱を円滑に進めるために必要となる道具と準備について説明する.装脱には患者自身の眼を映す鏡が必要である.通常の患者では洗面台の鏡やテーブルに立てることのできる平面鏡を準備すれば十分であるが,遠視や強度の混合乱視の患者,さらに老視の症状の出現した中高年の患者(片眼に遠用の単焦点HCLを装着す図4レンズ流失防止マットの準備レンズの排水口からの流出防止のためにレンズ流失防止マットを使用する.ると近方視が不良となる患者)では拡大率3.5倍程度の凹面鏡を準備することを説明する(図3).凹面鏡は顔を焦点距離内に近づけると眼が拡大して見えるため,近方視が不良となる可能性のある場合には有用である.その使用方法を説明するとともに,自分用に準備することを薦める.また,レンズのずれやトラブル時にすぐに対応できるようにHCLの購入時の備品にあるコンパクトケースの他に携帯型の凹面鏡があると便利であることも説明する.最後に装脱前に以下のことを準備して装脱練習に入る.1)手の指の爪を短く切る,2)前髪が長い場合はヘアピンやヘアバンドで留める,3)水道水によるレンズの流出防止のため洗面台の排水口の栓を閉じるか,市販されているレンズ流失防止マットを使用する(図4),4)レンズが落下しても紛失しにくい体制をとる(タオルなどを敷く),5)石けんなどを使って手指の汚れと脂を洗浄する,6)手指の洗浄後に指先に繊維が付着するのを防止するため,布のタオルではなくてペーパータオルで手指の水分を除去する.☆☆☆634あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(54)

写真:水泡性角膜症の上皮下線線維性組織形成

2012年5月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦336.水疱性角膜症の上皮下線維性組織形成森重直行山口大学大学院医学系研究科眼科学①②図2図1のシェーマ①:瘢痕病変.②:涙液反射から表面が不整であることがわかる.図1Fuchs角膜内皮ジストロフィを原因とする水疱性角膜症(63歳,女性)角膜全体の実質浮腫は顕著ではないが,角膜中央部に実質浮腫が存在し,同部位に淡い実質混濁を認める.図3分娩時外傷を原因とする水疱性角膜症(49歳,男性)スリット光で実質浅層に混濁が存在しているのがわかる.図4水疱性角膜症の病理組織写真(ヘマトキシリン-エオジン染色)角膜上皮層とBowman膜との間に細胞成分を含む異常組織の形成を認める(矢印).Bar=20μm.(51)あたらしい眼科Vol.29,No.5,20126310910-1810/12/\100/頁/JCOPY 水疱性角膜症は,さまざまな原因で内皮細胞が障害されその機能が代償不全に陥り,不可逆性の角膜実質浮腫をきたした病態と定義できる.臨床所見は,Descemet膜皺襞を伴う角膜実質浮腫や上皮浮腫が主であるが,角膜上皮びらんを発症したり血管侵入を伴ったりすることもある.水疱性角膜症に移行した初期では,角膜実質浮腫はさほど顕著ではないにもかかわらず,角膜実質に淡い混濁を認めることがある.淡い混濁の周囲には細胞浸潤を伴わず,病変も角膜実質浅層に限局する瘢痕性病変は,病理組織学的には上皮下線維性組織形成(subepithelialfibrosis)とよばれる1).病理組織学的にはまた,上皮層とBowman膜の間に異常組織が形成される病態であり,V型やXII型コラーゲン,テネイシンなどの細胞外マトリックスが異常蓄積していることが報告されている2,3).水疱性角膜症の治療は,角膜組織を上皮から内皮まで置換する全層角膜移植から,角膜内皮機能のみを補充する角膜内皮移植に移行してきている.水疱性角膜症患者の角膜に上述の組織学的変化が存在している場合,角膜内皮移植を行っても実質混濁が残存し術後視力に影響する可能性がある.そこで,水疱性角膜症患者の角膜が実質浮腫にさらされる期間に着目し,組織変化の出現の時期について検討した.全層角膜移植で得られた水疱性角膜症検体を,コラーゲン線維・線維束を特異的に検出できる第二次高調波発生顕微鏡を用いて観察したところ,水疱性角膜症でみられる上皮下線維性組織形成は,角膜実質浮腫期間(角膜実質浮腫発生から角膜移植までの期間)が長くなると観察される傾向がみられた4).また,実質浅層に存在する角膜実質細胞を観察すると,上皮下線維性組織形成の出現と同様に,角膜実質浮腫期間が長くなると実質浅層の瘢痕病変に筋線維芽細胞が出現していることが明らかとなった5).さらに,角膜内皮移植を行った症例群の術後早期の視力を検討したところ,角膜内皮移植手術前に長期間にわたり実質浮腫期にさらされていた症例群では,術後の早期視力の回復が悪いことも明らかとなった6).これらの知見は,水疱性角膜症の角膜実質病変は浮腫期間,すなわち水疱性角膜症の罹病期間依存性に出現することを示唆している.水疱性角膜症に対する治療が角膜内皮移植に移行してきている現在では,角膜実質に病変を残さず術後の良好な視力を回復するためには,角膜内皮移植術前の角膜管理および適切な手術時期の決定が重要であると考えている.文献1)EagleRCJr,LaibsonPR,ArentsenJJ:Epithelialabnormalitiesinchroniccornealedema:ahistopathologicalstudy.TransAmOphthalmolSoc87:107-119;discussion119-124,19892)LjubimovAV,BurgesonRE,ButkowskiRJetal:Extracellularmatrixalterationsinhumancorneaswithbullouskeratopathy.InvestOphthalmolVisSci37:997-1007,19963)LjubimovAV,SaghizadehM,SpirinKSetal:Increasedexpressionoffibrillin-1inhumancorneaswithbullouskeratopathy.Cornea17:309-314,19984)MorishigeN,YamadaN,TeranishiSetal:Detectionofsubepithelialfibrosisassociatedwithcornealstromaledemabysecondharmonicgenerationimagingmicroscopy.InvestOphthalmolVisSci50:3145-3150,20095)MorishigeN,NomiN,MoritaYetal:Immunohistofluorescenceanalysisofmyofibroblasttransdifferentiationinhumancorneaswithbullouskeratopathy.Cornea30:1129-1134,20116)MorishigeN,ChikamaT,YamadaNetal:Effectofpreoperativedurationofstromaledemainbullouskeratopathyonearlyvisualacuityafterendothelialkeratoplasty.JCataractRefractSurg38:303-308,2012632あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(00)

早発型発達緑内障の眼圧上昇機序とその対策

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):627.630,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):627.630,2012早発型発達緑内障の眼圧上昇機序とその対策MechanismofElevatedIntraocularPressureinEarlyOnsetDevelopmentalGlaucomaandItsManagement久保田敏昭*田原昭彦**I発達緑内障とは発達緑内障は前房隅角の形成異常によって発症するもので,形成異常が隅角に限局する早発型発達緑内障と遅発型発達緑内障,および他の先天異常を伴う発達緑内障に分類される.このうち早発型発達緑内障は3.4歳以前に発症して角膜径の拡大を伴い,遅発型発達緑内障はそれ以後に緑内障が発症する.3.4歳以前に眼圧が高くなると,眼球組織が柔らかいために角膜径の拡大がみられる.そのために眼圧測定値はそれほど高くないこともある.早発型あるいは遅発型発達緑内障の隅角鏡検査では隅角底の形成が不良で,毛様体帯が透見できない,あるいは非常に狭い所見がみられ,この隅角鏡所見は隅角の形成が不良(隅角形成不全)であることを示す1,2).組織学的には,線維柱帯に,傍Schlemm管結合組織様の構造を示すコンパクトな組織がSchlemm管下に厚く存在している.コンパクトな組織は細胞突起の短い線維柱帯細胞,コラーゲンとエラスチン線維とからなる線維成分および基底板様の形態を示す大量の無定形物質で構成されていて,層板状の構造はみられない(図1).この組織が厚く存在していて,線維柱帯の細胞間隙を占めていることが,発達緑内障の眼圧上昇と関係していると考えられる3.5).早発型発達緑内障に関わる遺伝子としてCYP1B1が発見され,その異常は隅角の形態的,機能的障害につながるものと推測される6).Schlemm管図1早発型発達緑内障の線維柱帯切除術による線維柱帯組織標本線維柱帯組織の発育が未熟であり,Schlemm管下にコンパクトな組織がみられ,層板構造が未発達.II早発型発達緑内障の臨床所見角膜径が大きく,前房は著しく深い.高眼圧,角膜浮腫,Descemet膜断裂などの所見を認める.乳幼児では眼圧測定や隅角検査は覚醒下では困難で不正確なので,睡眠下や全身麻酔下での検査が必要になる.隅角検査はKoeppe型隅角鏡と手持ちの細隙灯顕微鏡を使用する.手術顕微鏡を使用すれば隅角鏡を角膜に乗せての観察も可能である.虹彩付着部の状態を観察すると,早発型発達緑内障では重度の隅角形成不全が認められる.つまり虹彩根部の高位付着が認められ,線維柱帯の構造が隅角鏡で十分には観察できない.視神経乳頭陥凹は全体的に*ToshiakiKubota:大分大学医学部眼科学講座**AkihikoTawara:産業医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕久保田敏昭:〒879-5593由布市挾間町医大が丘1-1大分大学医学部眼科学講座0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(47)627 大きく,深い陥凹になる.これは,乳頭組織および周囲組織が柔らかいため,視神経管が牽引され,laminacribrosaが後方に移動するためと説明されている7).乳頭組織および周囲組織が弾性に富むため,視神経乳頭陥凹の変化は眼圧が上昇すると早期に出現する.眼圧が正常化すれば,視神経乳頭陥凹は縮小化する症例がある.眼圧の正常化とともに生じる乳頭陥凹の縮小は特に1歳未満で明瞭である.III前房隅角の発達と隅角形成不全発達緑内障の隅角所見である,隅角形成不全を理解するには,前房隅角の発達の理解が必要である.前房隅角組織の発達は3つの要素からなる.つまり,隅角の開大,線維柱帯の発達,Schlemm管の発達である.前房隅角の開大は,隅角陥凹(隅角の周辺端)が外後方に位置を変えることで進行する.Schlemm管との相対的な位置関係において,隅角陥凹は胎生6カ月でSchlemm管の内前方に位置するが,胎生8カ月ではSchlemm管の中央に位置するようになる.出生時には,隅角陥凹はSchlemm管のほぼ後方端に位置する.隅角の発達は4歳頃までに完了し,隅角陥凹はSchlemm管のやや外後方に位置する.隅角陥凹の完成に伴って,隅角陥凹と毛様体筋とが接近する.胎生8カ月頃には隅角陥凹の後方に存在していた毛様体筋は,出生時には隅角陥凹の近くに位置して,隅角陥凹を幅広く占めるようになる(図2).線維柱帯は,発達初期には短い細胞突起を有する未熟な細胞と細胞外成分が混在する構造を示している.胎生6カ月頃から線維柱層板の形成がはじまり,それとともに線維柱間隙も発達する.線維柱層板の形成は前房側からはじまり,順次Schlemm管側に向かって進む.最後まで層板状構造に発達せずにSchlemm管下に残った組織が傍Schlemm管結合組織である.IV隅角鏡所見と発達緑内障隅角形成不全の診断基準は隅角鏡検査で毛様体帯が透見できない,あるいは非常に狭い所見であるが,非常に狭いとはどこまでを指すのか明確ではない.毛様体帯が強膜岬より狭い場合を隅角形成不全の診断基準とする報628あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012Schlemm管Schlemm管Schlemm管Schwalbe線毛様体筋毛様体筋毛様体筋線維柱帯6カ月8カ月出生時線維柱帯線維柱帯ABC隅角陥凹図2隅角の発生チャート前房隅角の発達に伴って隅角陥凹(隅角の周辺端)が外後方に位置を変える.A:隅角陥凹は胎生6カ月でSchlemm管の内前方に位置する.B:胎生8カ月ではSchlemm管の中央に位置する.C:出生時には,隅角陥凹はSchlemm管のほぼ後方端に位置する.隅角の発達は4歳頃までに完了し,隅角陥凹はSchlemm管のやや外後方に位置する.告もある1).強膜岬の幅は隅角鏡検査ではわかりにくいので,毛様体帯の幅が線維柱帯の幅の1/3程度を目安にし,これ未満だと隅角形成不全があるとするほうがわかりやすいが,この幅の比率は隅角を観察する角度で変化するので注意が必要である.また,眼圧は正常で緑内障を発症していない患者にも隅角形成不全は観察されることがある.しかし発達緑内障の隅角を観察すると,必ず隅角形成不全はみられる(図3).前述したように発達(48) 図3遅発型発達緑内障の隅角鏡写真隅角の形成が不良(隅角形成不全)で,毛様体帯がわずかしか観察されない.緑内障と隅角形成不全は密接な関係があるのは間違いないが,隅角鏡所見だけで発達緑内障を診断できるものではない.発生の段階で隅角陥凹が後外方に移動するのと同時に線維柱帯組織の発達も起こるが,片方の発達が遅れることがありうる.隅角陥凹の発達が遅れて,線維柱帯組織の発達が正常であれば,隅角形成不全は隅角鏡検査で認めるが,緑内障は発症しない.反対に隅角陥凹の発達が正常で,線維柱帯組織の発達が遅れれば,隅角鏡検査で隅角形成不全は認めないが,緑内障は発症することになる.V発達緑内障の前眼部画像診断臨床的に隅角陥凹の発育状態を観察する指標は,隅角鏡でみえる毛様体帯の幅で判断される.隅角部を観察する機器に超音波生体顕微鏡(UBM)と前眼部光干渉断層計(OCT)がある.前眼部OCTは非接触的に短時間で,容易に前眼部を観察することができ,隅角の開放状態を定量的に計測することができる.三次元表示も可能であり,ゴニオスコピックビューでは隅角部を三次元で観察できる.ITC(irido-trabecularcontact)では周辺虹彩前癒着の範囲を計測することができる.正常開放隅角眼の前眼部OCTでは,隅角陥凹が深く観察され,線維柱帯およびSchlemm管の存在部位が推定できる像が得られる.一方,隅角陥凹は隅角鏡で観察困難と思われる虹彩前面よりかなり後方まで広がっていることが前眼部(49)AB図4前眼部OCTの隅角陥凹部A:正常開放隅角眼.B:早発型発達緑内障眼.隅角陥凹の形成が正常眼に比べて不良である.OCTでわかる.発達緑内障眼では前眼部OCTで,開放隅角であるが,隅角陥凹が浅いことが観察できる.虹彩付着部は毛様体帯に向かって直線的に伸びており,前眼部OCTでは隅角陥凹の形成不良がある.前眼部OCTを用いることにより,角膜非接触状態での隅角陥凹を観察可能である(図4).VI早発型発達緑内障の治療原発性の発達緑内障は,眼圧コントロールが薬物療法では困難であり,発症年齢が若年であることから手術治療が第一選択になる.形成不全のある線維柱帯を切開する,線維柱帯切開術などの房水流出路再建術を選択するほうが理にかなっている.■用語解説■隅角形成不全:Goniodysgenesis隅角の発達が未熟なことを指す.発達緑内障の隅角はその未熟性から緑内障が発症すると考えられるので,隅角形成不全を使用した.文献1)TawaraA,InomataH,TsukamotoS:Ciliarybodybandasanindicatorofgoniodysgenesis.AmJOphthalmol122:790-800,19962)田原昭彦,猪俣孟:前房隅角の発達.臨眼51:14201421,1997あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012629 3)TawaraA,InomataH:Developmentalimmaturityofthetrabecularmeshworkincongenitalglaucoma.AmJOphthalmol92:508-525,19814)Luetjen-DrecollE,RohenJW:Morphologyofaqueousoutflowpathwayinnormalandglaucomatouseyes.TheGlaucomas(2nded),edbyRitchR,ShieldsMB,KrupinT,p89-123,Mosby,StLouis,19965)久保田敏昭:房水流出路の解剖,病理と流出路再建術.眼科手術21:147-151,20086)HollanderDA,SarfaraziM,StoilovIetal:Genotypeandphenotypecorrelationsincongenitalglaucoma:CYP1B1mutations,goniodysgenesis,andclinicalcharacteristics.AmJOphthalmol142:993-1004,20067)QuigleyHA:Thepathogenesisofreversiblecuppingincongenitalglaucoma.AmJOphthalmol84:358-370,1977630あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(50)

続発緑内障の眼圧上昇機序とその対策-閉塞隅角の場合

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):621.626,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):621.626,2012続発緑内障の眼圧上昇機序とその対策─閉塞隅角の場合MechanismandTreatmentofSecondaryAngleClosureGlaucoma石田恭子*はじめに続発閉塞隅角緑内障に至る機序は,瞳孔ブロック,虹彩水晶体面の前方移動による直接閉塞や水晶体より後方に存在する組織の前方移動,前房深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着によるものの3つに分類でき1),それぞ表1続発閉塞隅角緑内障に至る機序Ⅰ瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障1.膨隆水晶体による緑内障2.小眼球症に伴う緑内障,虹彩後癒着による緑内障3.水晶体脱臼による緑内障4.前房内上皮増殖による緑内障などⅡ虹彩水晶体面の前方移動による直接閉塞や水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障1.悪性緑内障2.網膜光凝固後の緑内障3.強膜短縮術後の緑内障4.眼内腫瘍による緑内障5.後部強膜炎・原田病による緑内障6.網膜中心静脈閉塞症による緑内障7.眼内充.物質による緑内障8.大量硝子体出血による緑内障9.未熟児網膜症による緑内障などⅢ前方深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着による続発閉塞隅角緑内障1.前房消失あるいは浅前房後の緑内障2.ぶどう膜炎による緑内障3.角膜移植後の緑内障4.血管新生緑内障5.ICE症候群6.虹彩分離症に伴う緑内障など(日眼会誌116:3-46,2012より抜粋,改変引用)れの機序に至る原因疾患を表1に示すとともに,代表的な疾患について以下に解説する.I瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障瞳孔領における虹彩-水晶体間の房水の流出抵抗の上昇に引き続く,瞳孔ブロックの増大とともに虹彩は高い後房圧により前に凸の形状となり,隅角の閉塞が発生する(図1).1.膨隆水晶体による緑内障白内障の進行により水晶体が液状化し,膨化することがある(図2).水晶体の前後径が大きくなることで瞳孔ブロックが増大し虹彩を機械的に前方へ移動させ,閉塞隅角緑内障をきたす.老人性のものでは徐々に隅角が閉図1瞳孔ブロック瞳孔領における虹彩-水晶体間の房水の流出抵抗の上昇に引き続く,瞳孔ブロックの増大とともに虹彩は高い後房圧により前に凸の形状となり,隅角の閉塞が発生する.*KyokoIshida:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学分野〔別刷請求先〕石田恭子:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(41)621 図2過熟白内障塞するが,若い症例や外傷例では急激に水晶体膨化が進行し,急性閉塞隅角緑内障と同様の症状を呈することがあり注意を要する.慢性的な原発閉塞隅角緑内障との鑑別が必要で,前房深度や隅角の開大度,白内障の状態を他眼と比較する.治療は,膨隆した水晶体により隅角が閉塞しているので,白内障手術を行うことが必須であるが,手術時の散瞳にはマンニトール点滴を併用し,緑内障発作を予防する.隅角の器質的閉塞が広範囲にわたる場合は,水晶体摘出に加え,隅角癒着解離術などの緑内障手術が必要である.2.小眼球症に伴う緑内障,虹彩後癒着による緑内障真正小眼球症(図3a.c)は,小眼球以外の眼異常や全身異常を伴わず,角膜径10mm以下の小角膜,眼軸20mm以下の短眼軸,遠視眼を特徴とし,若年時より浅前房を呈し,30.40歳代には水晶体の肥厚に伴い閉塞隅角緑内障を合併する.眼圧上昇がなくても周辺虹彩前癒着形成時期には,レーザー虹彩切開術およびレーザー隅角形成術施行のうえで経過観察する.眼圧上昇期には,降圧点眼薬を使用する.視野障害が進行する場合は早めに手術治療を考慮する.小眼球症では,眼球容積に比して水晶体容積が大きいことが狭隅角の原因であるため,原因除去のために水ab図3真正小眼球症a:レーザー隅角形成術痕と虹彩切除痕を認める.b:前房は非常に浅い.c:同症例の眼軸長.両眼とも18mm弱で真正小眼球症である.622あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(42) 晶体摘出を行う.さらに,周辺虹彩前癒着が多い場合は隅角癒着解離を併用したトリプル手術を検討する.視野障害が高度で,低い目標眼圧を達成する必要がある症例では,線維柱帯切除術が考慮されるが,小眼球症では強膜が厚く,術後uvealeffusionや悪性緑内障を起こす危険性が高いため注意を要する.3.水晶体脱臼による緑内障脱臼や偏位した水晶体による瞳孔ブロックのため,急性または慢性の閉塞隅角緑内障をきたす.また,脱臼した水晶体が原因となり直接隅角が閉塞することもある.水晶体の前房偏位では,水晶体振盪,虹彩振盪,前房深度の変動などがみられる.隅角鏡検査により部位による隅角開大度の差を確認し,前眼部光干渉断層計や超音波生体顕微鏡(UBM)で脱臼や偏位した水晶体と隅角閉塞や瞳孔ブロックを診断する.さまざまな要因により水晶体が偏位するが,外傷,落屑症候群,遺伝性疾患(図4)などに認められる.ピロカルピンの使用は,亜脱臼例ではZinn小帯を弛緩させ,さらに水晶体偏位を悪化させるため禁忌である.レーザー虹彩切開術で瞳孔ブロックは解除できるが,水晶体偏位は抑制できず,最終的に水晶体摘出を行うが,眼内レンズ縫着が必要となる場合が多い.II虹彩水晶体面の前方移動による直接閉塞や水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障1.悪性緑内障原発閉塞隅角緑内障では濾過手術後の発症頻度が高く,白内障術後,まれに周辺虹彩切除後やレーザー虹彩切開術後の報告もあるが,毛様体・水晶体・硝子体ブロックにより,本来の房水流路が阻害され,房水が硝子体腔側へ流れ(aqueousmisdirection),虹彩・水晶体が前方に圧排され,極度の浅前房および隅角の閉塞が生じ眼圧上昇をきたす(図5a).術後の浅前房・高眼圧は悪性緑内障を疑い,UBMで診断を確定する.UBMでは毛様体の前方回旋や毛様体突起の扁平化(図5b),水晶体と毛様突起の接触を認める.臨床所見,UBM所見にて悪性緑内障と診断したら,アトロピン点眼により毛様(43)図4水晶体前方脱臼Marfan症候群に合併した水晶体前方脱臼例.ab図5悪性緑内障a:先天緑内障に対する2回目の手術後に悪性緑内障きたした.前房は消失している.b:UBMでは,毛様体の前方回旋,毛様体突起の扁平化を認める.あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012623 体筋を弛緩させ水晶体を後方へ戻し,毛様体と水晶体間隙を拡大させる.同時に高浸透圧薬により硝子体容積を軽減し,水晶体の後方移動を促す.硝子体腔へ流入していた房水の流れが後房-前房側へ戻ることで,前房深度が改善し,隅角閉塞が解除され眼圧が正常化する.上記のような内科的治療で効果が得られない場合,偽水晶体眼や無水晶体眼では,Nd:YAGレーザーにて周辺部の後.を切除後,前部硝子体膜を切開する.Nd:YAGレーザーが無効な場合は前部硝子体切除を行う.また,有水晶体眼の場合は前部硝子体切除の適応(白内障手術を併用したほうが一般に治療効果が高い)となる.2.網膜光凝固後の緑内障網膜光凝固の治療間隔が短い場合や,1回の凝固に多数の照射を行った場合,まれに続発閉塞隅角緑内障をきたすことがある.毛様体の強い浮腫,脈絡膜-毛様体.離に伴い虹彩根部が前方へ圧迫されること,加えて毛様小帯の弛緩による水晶体の膨隆・前方移動による瞳孔ブロックが関与していると考えられる.治療は,アトロピンによる毛様体筋の弛緩,ステロイド薬による消炎,高浸透圧薬,アセタゾラミド(ダイアモックスR)内服,b遮断薬を使用する.3.強膜短縮術後の緑内障強膜短縮術後に閉塞隅角緑内障を生じる頻度は1.4.4.4%と報告されている.発症機序は,脈絡膜の血行障害が毛様体充血と浮腫をひき起こし,毛様体の前方回旋および,水晶体-虹彩隔膜の前方移動により,隅角閉塞が生じる.自然寛解することが多いため,まず薬物療法を行う.アトロピン,ステロイド薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬などを投与する.ピロカルピンは炎症を強くし,前房をさらに浅くする可能性があるため避けるべきである.薬物投与後も眼圧がコントロールできない場合や,広範な周辺虹彩前癒着形成が懸念される症例では,レーザー外科的虹彩切開や隅角形成,あるいは外科的虹彩切除を選択する.4.眼内腫瘍による緑内障腫瘍に併発する続発緑内障は一般的に片眼性で,眼圧624あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012上昇メカニズムとしては腫瘍自体による直接浸潤,播種,炎症,色素散布,出血,あるいは,水晶体より後方に腫瘍が存在する症例では,水晶体・虹彩組織・硝子体を後方から前方に圧排して生ずる間接的な隅角閉塞,周辺前および後癒着,隅角新生血管などがあげられる.悪性の原因腫瘍としては,脈絡膜悪性黒色腫,網膜芽細胞腫,転移性脈絡膜腫瘍が最も多いが,臨床的に続発緑内障を呈するほど増大した眼内悪性腫瘍病変の治療では,生命予後を考慮し眼球摘出を余儀なくされることが多い.治療法については,病期,病理診断などによって決定する.良性の原因疾患としては,虹彩の黒色細胞腫,太田母斑,虹彩メラノーシス,虹彩.腫などがあり,色素散布による線維柱帯の閉塞や,多数の虹彩.腫が存在する症例では,全周に隅角閉塞を生じる場合があり,UBMが診断上有用となる..腫が増大し,眼圧上昇をきたしたものはNd:YAGレーザーにより膨大部を穿孔し.腫の縮小を図る.5.後部強膜炎・原田病による緑内障毛様体の強い浮腫,滲出性網膜・脈絡膜.離による毛様体前方回旋に伴い閉塞隅角緑内障をきたす.ステロイド薬による消炎に加え,アトロピンによる毛様体筋の弛緩を図る.炎症が長期遷延する場合は,周辺虹彩前癒着あるいは後癒着の形成,瞳孔ブロック,血管新生に至ることがある.6.眼内充.物質による緑内障網膜裂孔閉鎖や網膜タンポナーデなどの目的で硝子体内に注入された膨張性ガスは,水晶体-虹彩隔膜の前房移動をひき起こし続発閉塞隅角緑内障を発症することがある.膨張性ガスによる眼圧上昇は術後24時間以内に始まり,数日持続する.b遮断薬などの房水産生抑制薬や高浸透圧薬を投与するが,高度な眼圧上昇例では,ガスを吸引し前房を形成することが必要になる.また,瞳孔ブロックが関与する場合はレーザー虹彩切開術を行う.難治性網膜.離や増殖糖尿病網膜症手術に併用されるシリコーンオイルが原因となり,瞳孔ブロック,前房内(44) へのシリコーンオイル迷入,炎症,器質的隅角閉塞により続発緑内障を生ずることがある.瞳孔ブロックが懸念されるような例では,あらかじめ硝子体術中に下方に周辺虹彩切除をおく.積極的な薬物治療で改善しない場合は,外科的手術を行う.その場合は,隅角と視神経の状態,網膜原疾患の状況を加味して,シリコーンオイルを除去するのみとするか,緑内障手術を併用するか検討が必要である.7.未熟児網膜症による緑内障進行した未熟児網膜症では硝子体内で増殖膜が収縮し,虹彩や水晶体隔膜を前方へ偏位させ,瞳孔ブロックや閉塞隅角緑内障をひき起こす.水晶体摘出,硝子体手術,虹彩切除が有効な症例がある.また,網膜.離に続発して血管新生緑内障に至ることがある.III前房深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着による続発閉塞隅角緑内障1.ぶどう膜炎による緑内障ぶどう膜炎では眼内の炎症により血液房水柵が破壊され,房水産生能や房水流路が障害され眼圧がしばしば上昇する.ぶどう膜炎に伴う緑内障の発症機序としては開放隅角と閉塞隅角で異なる(表2).消炎によりぶどう膜炎の活動性を低下させることが肝要であるが,虹彩後癒着による瞳孔ブロック例では,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩(ミドリンPR)の頻回点眼で癒着が解除されない場合,レーザー虹彩切開術や周辺虹彩切除を行う.原田病など毛様体の前房回旋に表2ぶどう膜炎に伴う続発緑内障の発症機序閉塞隅角a)虹彩後癒着による瞳孔ブロックb)周辺虹彩前癒着c)毛様体の前房回旋d)血管新生緑内障開放隅角a)房水産生亢進b)漿液成分や沈着物による線維柱帯の機械的閉塞c)線維柱帯炎d)ステロイド緑内障混合メカニズムよる続発閉塞隅角緑内障に対しては,ステロイド薬による消炎とともにアトロピンにより毛様体の前房回旋を抑制する.すでに広範な癒着が形成され,眼圧下降薬の点眼や内服にても眼圧がコントロールできない場合は濾過手術を行うが,手術後も十分なぶどう膜炎の管理が必須である.2.角膜移植後の緑内障角膜移植後の続発緑内障の発症頻度は約30%である.眼圧上昇のメカニズムとしては移植後の時期によって異なっており,移植早期には,前房内残留物質,出血,炎症,角膜浮腫や浅い前房による周辺虹彩前癒着,瞳孔ブロック,悪性緑内障などがある.一方,移植後後期の眼圧上昇原因としては,ステロイド緑内障,拒絶反応に伴う炎症や虹彩前癒着の進行,悪性緑内障などがある.まず角膜障害に注意し点眼薬や内服薬によって眼圧下降を図るが,難治性の閉塞隅角緑内障例に対しては,マイトマイシン併用線維柱帯切除術やインプラント手術を考慮する.なお,5-フルオロウラシルは角膜移植片の上皮障害と創傷治癒遅延が懸念されるため禁忌とされる.3.血管新生緑内障糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症などによる眼底虚血が原因となり,網膜グリア細胞から血管内皮増殖因子新生血管線維柱帯は見えない図6血管新生緑内障隅角:新生血管を認め,高い位置で周辺虹彩前癒着が形成され閉塞している.(45)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012625 (vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が産生され前房に到達して虹彩や隅角に新生血管を促す.通常,新生血管や隅角閉塞の進展程度から3期に分類される.第1期では,眼圧上昇はなく,瞳孔縁や隅角に新生血管が認められる.進行し第2期に至ると,眼圧上昇を認めるが,隅角は広く開放しており虹彩前癒着はあってもわずかのみである.さらに病期が進み3期では,隅角は虹彩前癒着によって広く閉塞し,閉塞隅角となる(図6).また,瞳孔縁にぶどう膜外反を認める.治療は,抗VEGF抗体注射と網膜汎光凝固を併用し眼底虚血を改善する.新生血管が消退した後の閉塞隅角緑内障では,薬物療法によって十分な眼圧下降が得られなければ増殖阻害薬併用線維柱帯切除術を行う.新生血管が消退しない場合の閉塞隅角緑内障では,濾過手術を行っても濾過胞の長期生存は期待できす,硝子体手術を併用したインプラント手術が必要となることがある.4.ICE症候群(虹彩角膜内皮症候群,iridocornealendotherialsyndrome)ICE症候群は,通常片眼性で,若年から中年期に発症し女性に多い傾向がある.原因は不明であるが,異常な角膜内皮細胞が角膜浮腫を生じさせるとともに,細胞性の膜(Descemet膜様物質)を産出し隅角や虹彩に向かって伸展する.その膜の収縮によって,周辺虹彩前癒着,瞳孔偏位,ぶどう膜外反,虹彩結成,虹彩孔形成などが起きる.緑内障は約50.80%に発症する2).症状によって,進行性虹彩萎縮(図7),Chandler症候群,Cogan-Reese症候群(図8)の3タイプに分かれる.進行性虹彩萎縮は,瞳孔偏位や虹彩孔形成などの虹彩の変化が強く,周辺虹彩はしばしばSchwalbe線を越えて前方に付着し隅角を閉塞する.Chandler症候群は,角膜内皮機能障害が強く,軽度の眼圧上昇でも角膜浮腫が生じることが特徴であるが,瞳孔偏位や虹彩の萎縮は軽度である.Cogan-Reese症候群は,虹彩母斑症候群ともよばれ,虹彩の色素病変(有茎性虹彩結節や平坦な虹彩色素斑)を認める.Descemet膜様物質や虹彩組織が隅角を覆い,続発緑内障を発症するため,房水産生抑制薬図7進行性虹彩萎縮瞳孔偏位,虹彩孔形成,周辺虹彩癒着を認める.図8Cogan.Reese症候群鼻側虹彩に虹彩結節,下方瞳孔にぶどう膜外反を認める.が有効とされるが,本疾患自体が進行性のため,しだいに薬物コントロールが不良となり,濾過手術が必要となる.しかしDescemet膜様物質によって流出路が覆われてしまい数年で濾過胞が機能しなくなることがある.文献1)日本緑内障学会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)北澤克明監修:緑内障.p240-242,医学書院,2004626あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(46)

続発緑内障の眼圧上昇機序とその対策-開放隅角の場合

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):613.619,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):613.619,2012続発緑内障の眼圧上昇機序とその対策─開放隅角の場合MechanismofElevatedIntraocularPressureinSecondaryOpenAngleGlaucoma芳野高子*福地健郎*はじめに続発緑内障は原発緑内障に対し,他の眼疾患,全身疾患あるいは薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる緑内障と定義されている.日常診療の場においてしばしば遭遇し治療に苦慮することも多く,今日多治見スタディによる有病率は0.5%と報告されており,決して少なくはない.続発緑内障の治療は原因疾患に対する治療と眼圧上昇に対する治療が併用して行われる.隅角が開放しているにもかかわらず,どのような機序で眼圧が上昇するのかを理解することは,病態ごとにより的確な治療を選択するために重要である.以下に緑内障診療ガイドライン(第3版)(表1)1)の順に沿って,代表的な疾患の眼圧上昇機序について概説する.I続発開放隅角緑内障とは緑内障診療ガイドラインにおける続発緑内障の分類は眼圧上昇機序により分類されているが,たとえば血管新生緑内障のように,病因によっては眼圧上昇機序が変化,進展することがあるということを念頭におく必要がある.眼圧上昇を起こす原因主座は,①血管新生緑内障に代表される,線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座があるもの,②ステロイド緑内障,落屑緑内障,ぶどう膜炎による緑内障に代表される,線維柱帯に房水流出抵抗の主座があるもの,③何らかの原因により上強膜静脈圧が亢進することにより生ずる,Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座があるもの,④房水過分泌によるもの,と分類される.特に続発開放隅角緑内障の大半を占める①と②においては,診断のための隅角検査は不可欠であり,それぞれの典型的な所見を確実に捉えることと,さらに眼圧上昇の場である線維柱帯の解剖,組織像を正しく把握し理解することで,理に適った治療の対策を立てることができる.線維柱帯は前房隅角に存在する網目状の組織で,Schlemm管への主要房水流出路である.解剖学的には,線維柱帯は前房側から順にぶどう膜網(uvealmeshwork),角強膜網(corneoscleralmeshwork:CSM),傍Schlemm管結合組織(juxtacanalicularconnectivetissue:JCCT)の3部に分けられ,線維柱帯の網目はぶどう膜網では比較的粗いが,角強膜網では線維柱帯細胞は突起を有し,Schlemm管に近づくにつれて細くなっている.特に,傍Schlemm管結合組織では線維柱間隙(intertrabecularspace)が狭くなり,はっきりしなくなる.正常眼では線維柱帯における主要な房水流出抵抗はこの傍Schlemm管結合組織にあると考えられている.組織学的には,線維柱帯はコラーゲン,弾性線維,線維性結合組織とその表面に存在する線維柱帯細胞からなり,房水は線維柱帯の網目の線維柱間隙を通過する.続発開放隅角緑内障は,線維柱帯に生じるさまざまな異常によりこの房水流出抵抗が上がり,眼圧が上昇する.*TakaikoYoshino&TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕芳野高子:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(33)613 表1緑内障の分類II.続発緑内障(secondaryglaucoma)1.続発開放隅角緑内障A.線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:pretrabecularform)例:血管新生緑内障,異色性虹彩毛様体炎による緑内障,前房内上皮増殖による緑内障などB.線維柱帯に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:trabecularform)例:ステロイド緑内障,落屑緑内障,原発アミロイドーシスに伴う緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,水晶体に起因する緑内障,外傷による緑内障,硝子体手術後の緑内障,ghostcellglaucoma,白内障手術後の緑内障,角膜移植後の緑内障,眼内異物による緑内障,眼内腫瘍による緑内障,Schwartz症候群,色素緑内障,色素散布症候群などC.Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:posttrabecularform)例:眼球突出に伴う緑内障,上眼静脈圧亢進による緑内障などD.房水過分泌による続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:hypersecretoryform)2.続発閉塞隅角緑内障A.瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglaucoma:posteriorformwithpupillaryblock)原因疾患:膨隆水晶体,水晶体脱臼,小眼球症,ぶどう膜炎の虹彩後癒着による虹彩ボンベなどB.瞳孔ブロックによらない虹彩─水晶体の前方移動による直接閉塞(secondaryangleclosureglaucoma:posteriorformwithoutpupillaryblock)原因疾患:膨隆水晶体,水晶体脱臼などC.水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglaucoma:posteriorform)原因疾患:小眼球症,汎網膜光凝固後,強膜短縮術後,眼内腫瘍,後部強膜炎,ぶどう膜炎,原田病による毛様体脈絡.離,悪性緑内障,眼内充.物質,大量硝子体出血,未熟児網膜症D.前房深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着によるもの(secondaryangleclosureglaucoma:anteriorform)原因疾患:ぶどう膜炎,角膜移植後,血管新生緑内障,虹彩角膜内皮(ICE)症候群,前房内上皮増殖,虹彩分離症などII続発開放隅角緑内障の眼圧上昇機序と対策および治療1.血管新生緑内障(図1)a.眼圧上昇機序血管新生緑内障は,隅角に生じた線維血管膜により房水流出抵抗が増大し,眼圧上昇が起こる難治性の続発緑内障である2).網膜が虚血をきたすと網膜の細胞から血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が産生され,VEGFは硝子体内から前房に拡散し,虹彩や隅角に新生血管と線維血管膜を形成する.網膜虚血をきたすすべての眼疾患が原因となる可能性があり,網膜中心静脈閉塞症,増殖糖尿病網膜症,眼虚血症候群が代表的であるが,日本では増殖糖尿病網膜症の頻度が最も高い.虹彩や隅角に新生血管がみられるだけでは眼圧上昇はみられない(前緑内障期)が,隅角の新生614あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(日眼会誌116:3-46,2012より抜粋引用)血管が著明となり,線維血管膜が形成されると房水流出抵抗が増大し,隅角が開いているにもかかわらず眼圧上昇をきたす(開放隅角緑内障期).さらに進行すると,線維血管膜が収縮して周辺虹彩前癒着を生じ,隅角線維柱帯を閉塞して著明な眼圧上昇をきたす(閉塞隅角緑内障期).b.対策と治療血管新生緑内障は,ほとんどの場合で網膜虚血が原因で発症するため,原因となった網膜疾患の状態を確認する必要がある.特に増殖糖尿病網膜症においては網膜症ばかりに目を奪われがちになるため,散瞳剤使用前の細隙灯顕微鏡検査,隅角鏡検査を定期的に行い,新生血管の発見が遅れないよう常日頃心がけることが重要となる.血管新生緑内障を発症してしまったら,まずは網膜虚血を解消して前眼部新生血管の消退を目指すと同時に,(34) SCCD34……..PAS100μmNV5μm100μmABCDSCCD34……..PAS100μmNV5μm100μmABCD図1血管新生緑内障の隅角所見(A,B)と病理所見(C,D)A:開放隅角期.毛様体帯から線維柱帯に向かって多数の新生血管がみられる.B:閉塞隅角期.進行すると新生血管を伴う線維性血管膜が収縮し,周辺虹彩前癒着(PAS,矢頭)を生ずる(A,Bとも糖尿病網膜症による血管新生緑内障).C:網膜中心静脈閉塞症に伴って生じた血管新生緑内障における線維柱帯の光学顕微鏡所見.すでにPASを生じている.HE染色像の長方形の領域に対するCD34免疫染色によって,おもに線維柱帯表層部に多数の新生血管が検出(青矢頭)される.D:糖尿病網膜症による血管新生緑内障における線維柱帯の電子顕微鏡所見.左下の光学顕微鏡写真の四角部分を透過型電子顕微鏡で観察すると,線維柱帯間隙に新生血管(NV)が確認される.(C,Dは日赤医療センター・濱中輝彦先生のご厚意による.SC:Schlemm管)眼圧下降療法を並行して速やかに行うことが治療の基本となる.網膜虚血の解消には,経瞳孔的汎網膜光凝固術が主体となる.眼圧下降療法は,薬物・手術治療ともに他の緑内障病型と基本的に共通であるが,薬物治療では効果が不十分な症例が多く,薬物により眼圧が一時的に下降しても,新生血管が残存していれば隅角閉塞が進行して再び高眼圧となる.トラベクレクトミーをはじめとする緑内障手術は,新生血管の活動性がある状態では,術中・術後出血や遷延する術後炎症により,濾過胞の維持が困難となり,手術成績は不良であった.このような問題点によって,従来の治療法では高眼圧が遷延し,視機能予後が不良な症例が少なくなかったが,2006年Avery3)の報告以降,抗VEGF薬の治療効果が多数報告され,現在ではベバシズマブをはじめとする抗VEGF薬は新生血管の退縮効果目的として血管新生緑内障の治療に新しい選択肢を与えた.その位置づけは,あくまで汎網膜光凝固術に対する補助療法と,緑内障手術での周術期の出血性合併症の抑制目的であり,何よりも適応外使用薬剤であるため,使用に際しては慎重な適応決定と長期にわたる経過観察が必要である.2.ステロイド緑内障(図2)4)a.眼圧上昇機序ステロイド投与による眼副作用のうち,緑内障は1950年代からすでに報告されており5),全身投与および点眼治療を受けている患者で常に注意の必要な眼合併症の一つである.その眼圧上昇機序は,ステロイドが線維柱帯細胞のステロイド受容体に作用して,細胞外マトリックスの産生亢進や貪食機能低下を惹起させ,傍Schlemm管結合組織から角強膜網深層の線維柱帯組織への細胞外マトリックスの異常蓄積による房水流出抵抗の増大がひき起こされているためと考えられている.原発開放隅角緑内障(POAG)や発達緑内障においても,線維柱帯に細胞外マトリックスが蓄積して房水の流出が障害されるため眼圧上昇が生じるとの説がある6,7).この細胞外マトリックスは指紋様あるいは基底板様組織とよばれ,細胞基底膜に似た構造をしている物質と細線維様物質からなる.臨床上,隅角や前房に特徴的な所見は認められないが,ステロイド緑内障の線維柱帯の組織像には傍Schlemm管結合組織から角強膜網深層に細胞外マトリックスが沈着している像がみられる.(35)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012615 AJCTCSMBCSC……1μm1μm図2ステロイド緑内障の病理所見A:光学顕微鏡で観察すると,傍Schlemm管結合組織(JCT)から角強膜網深層(CSM)にかけて均質な細胞外物質が沈着し,線維柱帯の間隙が閉塞している(矢頭).B,C:透過型電子顕微鏡で観察すると,JCTからCSMに沈着した細胞外物質は,線維柱帯細胞の基底膜に連続する基底膜様物質(fingerprint-likematerial,Bの☆)と,均質無構造の顆粒状物質(Cの*)などを含んでいる(SC:Schlemm管).b.対策と治療ステロイド緑内障を疑った場合には,まずステロイド投与を中止することが原則である.ステロイドによる眼圧上昇は可逆的であるとされるが,長期間の眼圧上昇により隅角が二次的な変化をきたすと,投与を中止しても眼圧は下降しなくなることもある.原疾患の治療上やむを得ずステロイドの投与を継続しなければならない場合や眼圧下降しない症例では,眼底所見および視野障害の程度により目標眼圧を検討し,薬物治療,手術治療を選択する必要がある.薬物治療はPOAGに準じるが,眼616あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012圧下降効果が不十分であれば,観血的手術に踏み切らざるを得ない.わが国では,ステロイド緑内障に対するトラベクロトミーが長期にわたって眼圧下降効果が得られることが報告されており8),視神経障害が著明でなければ観血的手術の第一選択とする考えもある.ステロイド緑内障の眼圧上昇機序から考えると,線維柱帯組織の細胞外マトリックスの異常蓄積が房水流出抵抗の本質であるため,その部分を切り開くトラベクロトミーは理に適った手術といえる.過去の報告をみても,POAGに対するトラベクロトミーよりも手術成績は良いようである9,10).一方,海外ではトラベクレクトミーが選択されることが多いようであり,その手術成績も良好である11).しかし,トラベクレクトミーは濾過胞感染のリスクがあり,その適応は視野障害の進行程度により十分に検討する必要がある.3.落屑緑内障(図3)a.眼圧上昇機序眼内に落屑物質の沈着がみられる落屑症候群は落屑に関連した病理学的機序によって続発性の開放隅角緑内障を示すことがあり,これを落屑緑内障とよぶ.落屑緑内障はPOAGと比較すると視神経視野障害の進行が速く,眼圧も高いことが多く,変動幅も大きいことが知られている12).その眼圧上昇機序は,線維柱帯への落屑物質の沈着により流出抵抗が増加することにある.詳細には,落屑物質の線維柱間隙,傍Schlemm管結合組織,Schlemm管周囲への沈着に加えて,落屑物質が線維柱帯細胞で産生されること,虹彩色素上皮細胞から遊離した色素顆粒が房水の流れに従って前房隅角に到達し,線維柱帯細胞に貪食されることによる線維柱帯細胞の機能不全,傍Schlemm管結合組織と線維柱層板の構造変化にあると考えられている.b.対策と治療現時点では原因にあたる落屑物質に対する治療方法はなく,したがって高眼圧型POAGに準じた治療を行う.薬物治療では眼圧下降率の大きさと眼圧変動幅の抑制の点から,また落屑緑内障は高齢者ほど多いことから全身的副作用のないプロスタグランジン関連薬が第一選択として望ましい.第二選択としても全身的副作用の点から(36) ASC..JCTCSM.BSC.JCTC図3落屑緑内障の隅角所見と病理所見A:典型的には隅角(特に下方)に高度の色素沈着を示す.Schwalbe線を越えて線状に沈着した色素沈着はSampaolesi線とよばれる(矢頭).B:落屑緑内障の線維柱帯切片を光学顕微鏡で観察すると,落屑物質と考えられる物質が傍Schlemm管結合組織(JCT)から角強膜網(CSM)に沈着しているのが観察される(*).C:同様に透過型電子顕微鏡によって観察すると,おもにJCTに落屑物質が観察される.写真は線維柱帯細胞による空隙(vacuole)が落屑物質によって満たされている所見を示している(*).(B,Cは産業医科大学・田原昭彦教授のご厚意による.SC:Schlemm管,JCT:傍Schlemm管結合組織,CSM:角強膜網)b遮断薬より炭酸脱水酵素阻害薬が勧められる.しかし,落屑緑内障の患者はPOAGより眼圧が高く変動幅が大きいため,視野障害の進行例も多く,さらに高齢者が多いことからアドヒアランスが不良であることもあり,薬物治療では十分な眼圧下降が得られないことが多い.Pohjanpeltoは,10年間の経過観察ではPOAGよりも手術治療に踏み切るケースが多く,POAG患者では18%の手術率に対して,落屑緑内障患者の35%が手術治療を受けたと報告している13).したがって,実際の臨床においては,薬物治療で治療を開始し,眼圧下降効果が不十分もしくは目標眼圧値に達しない場合は進行が速いことを予測し,観血的手術へと早めに切り替えることが必要である.落屑緑内障に対する観血的手術は,高眼圧による視野障害進行例にはトラベクレクトミーが第一選択と考えられている.しかし,トラベクレクトミーの術後管理や合併症のリスク,患者の背景などから検討した場合,術後に緑内障点眼薬を併用する前提でのトラベクロトミーの選択も推奨される.トラベクロトミーの場合,落屑緑内障の眼圧上昇が落屑物質の房水流出路への蓄積および線維柱間隙の消失によるものから,線維柱帯を切開し,Schlemm管を開放する方法は理に適った術式と考えられている.トラベクロトミーの成績はこれまで多数報告されているが,Taniharaら9)は生命表分析による5年後の生存率を73.5%と報告しており,これはPOAG(58.0%)に対し有意に良好な成績であった.Fukuchiら14)は,66眼の落屑緑内障の初回手術として,トラベクロトミー+白内障同時手術群,トラベクレクトミー+白内障同時手術群,マイトマイシン併用トラベクレクトミー単独手術群を術後36カ月間比較し,術後3カ月以降はいずれの群も術後眼圧に有意差がなかったと報告した.さらに,術後最高視力に達するまでの期間は,トラベクロトミー+白内障同時手術群が有意に早く,トラベクロトミー+白内障同時手術はトラベクレクトミー+白内障同時手術と同等の眼圧下降効果があるとして,落屑緑内障の初回手術として勧めている.しかし,2例はトラベクレクトミーの追加手術を要し,目標眼圧が10mmHg以下を要する視野障害進行例に対してはトラベクレクトミーを検討すべきとしている.したがって,実際の臨床においては,落屑緑内障は視野障害進行例や進行した白内障を合併している例が多いため,視機能の状態と平均眼圧,目標眼圧を十分に検討し,いずれの術式を選択すべきかが,術後の視機能を悪化させないためにも重要となる.4.ぶどう膜炎による緑内障a.眼圧上昇機序臨床的にしばしば眼圧上昇が問題となる非感染性ぶど(37)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012617 う膜炎としては,サルコイドーシス,Behcet病,炎症の遷延化したVogt・小柳・原田病,ヒト白血球抗原(HLA)-B27関連ぶどう膜炎の急性期,若年性関節リウマチに伴うぶどう膜炎の慢性期,Posner-Schlossman症候群などがあげられる.ぶどう膜炎による炎症はさまざまな形で眼圧に影響を及ぼし,おもに虹彩後癒着や周辺虹彩前癒着などの房水流出路の遮断という二次的かつ解剖学的障害に起因する眼圧上昇機転のほか,線維柱帯局所における房水流出抵抗の増大が眼圧を上昇させる.開放隅角における房水流出抵抗の増大には炎症細胞やフィブリンなどの炎症産物が線維柱帯間隙を閉塞すること,細胞外マトリックスが増加することなどが関与する.また,房水分泌過多,線維柱帯および内皮の障害,ステロイド緑内障などの要素が複雑に関与して眼圧上昇をきたしていると考えられる.b.対策と治療ぶどう膜炎に続発する緑内障の治療は,ぶどう膜炎に対するステロイド療法による消炎治療と薬物治療による眼圧下降療法との2本立である.まずは消炎治療を先行し,活動性の炎症を消炎することにより眼圧上昇の原因が除去されれば眼圧下降が期待できる.前房内に炎症細胞がみられなくとも,隅角検査で結節などの炎症所見が確認されることも多く,隅角検査は常に必須の検査である.眼圧下降目的に用いる薬剤は,POAGに対する治療方針と基本的には同様であるが,プロスタグランジン関連薬はuveoscleraloutflowを介した強力な眼圧下降作用を有し,同時に血液房水柵を破綻する可能性もあることから,ぶどう膜炎症例における使用には慎重を要する.ぶどう膜炎の眼内炎症の程度や推移により状況に応じて眼圧下降薬を開始,変更,あるいは中止して治療を行っていくが,慢性の炎症による線維柱帯およびSchlemm管の瘢痕化などの不可逆的な障害が房水流出抵抗を増大させると,活動性の炎症がなく,眼圧下降薬を投与しても眼圧が下降しなくなることもある.また,治療目的に用いたステロイド薬の副作用としての眼圧上昇の可能性も常に念頭に置く必要があり,消炎治療と眼圧治療のどちらを優先すべきか判断がむずかしく,両者のバランスをとることが容易ではないことも多い.活動性炎症の有無にかかわらず,緑内障視神経障害が明らかに進行していく場合には,消炎療法を行いつつ,観血的治療に切り替えることが必要である.症例の房水流出障害がどこにあるのかを十分に検討し術式を選択すべきであるが,トラベクレクトミーは房水流出障害の部位にかかわらず効果を発揮するため,第一選択とされることが多い.5.外傷による緑内障(鈍的眼外傷)(図4)a.眼圧上昇機序外傷性緑内障は発生機転により鈍的眼外傷と穿孔性眼外傷に大別される.鈍的眼外傷において障害されやすい前眼部の部位と病態は,瞳孔裂傷,虹彩離断,隅角後退,毛様体解離,隅角線維柱帯の裂傷,Zinn小帯の断裂,鋸状縁での網膜の断裂の7つであるが,なかでも隅角後退と隅角線維柱帯の裂傷の隅角損傷は房水の眼外への流出が妨げられ,眼圧上昇をきたす原因となる.隅角後退は,受傷後から年余を経て隅角後退部の隅角線維柱帯内皮網内の硝子膜を形成し,線維柱帯を被覆することにより房水流出が障害される.隅角線維柱帯の裂傷も治癒機転において発生する線維症が線維柱帯の細孔を被覆することにより眼圧が上昇する.b.対策と治療鈍的眼外傷の後には,前房出血や虹彩炎とともに眼圧上昇がみられることがあるが,隅角に恒久的障害がなければ時間の経過とともに眼圧は正常化する.隅角検査に図4鈍的外傷による続発緑内障眼の隅角所見この症例では全周にわたって外傷性隅角後退(traumaticanglerecession)がみられた.しばしば外傷性散瞳,隅角離断,隅角裂傷,虹彩離断,周辺虹彩前癒着などさまざまな所見が混在する.618あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(38) おいて180°以上の隅角後退があれば将来的に10%以上の確率で緑内障に移行するといわれており15),長期的な眼圧検査が必要である.眼圧下降療法はPOAGの治療に準じて行うが,薬物治療に抵抗する場合は,トラベクレクトミーなどの濾過手術が必要となる.文献1)日本緑内障学会緑内障ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDetal:Evidencebasedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1776,20013)AveryRL:Regressionofretinalandirisneovascularizationafterintravitrealbevacizumab(Avastin)treatment.Retina26:352-354,20064)桜川真智子,岩田和雄:Steroidglaucomaにおける隅角の微細構造.日眼会誌83:1337-1353,19795)SternJJ:Acuteglaucomaduringcortisonetherapy.AmJOphthalmol36:389-390,19536)田原昭彦,高比良健市,山名敏子ほか:内服によるステロイド緑内障隅角組織の形態学的および組織化学的検索.あたらしい眼科10:1181-1187,19937)JonsonD,GottankaJ,FlugelCetal:Ultrastructualchangesinthetrabecularmeshworkofhumaneyestreatedwithcorticosteroids.ArchOphthalmol115:375-383,19978)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabeculotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,20009)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicaleffectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,199310)IwaoK,InataniM,TaniharaHetal:Successratesoftrabeculotomyforsteroid-inducedglaucoma:Acomparative,multicenter,retrospectivecohortstudy.AmJOphthalmol151:1047-1056,201111)SihotaR,KonkalVL,DadaTetal:Prospective,long-termevaluationofsteroid-inducedglaucoma.Eye22:26-30,200812)RitchR,Schlotzer-SchrehardtU,KonstasAG:Whyisglaucomaassociatedwithexfoliationsyndrome?ProgRetinEyeRes22:253-275,200313)PohjanpeltoP:Influenceofexfoliationsyndromeonprognosisinocularhypertensiongreaterthanorequalto25mm.Along-termfollow-up.ActaOphthalmol(Copenh)64:39-44,198614)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsification,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,201115)KaufmanJH,TolpinDW:Glaucomaaftertraumaticanglerecession.Aten-yearprospectivestudy.AmJOphthalmol78:648-654,1974(39)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012619

第4の機序:悪性緑内障vs.毛様体因子:原発閉塞隅角緑内障の発症機序としてのUveal Effusion

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):607.612,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):607.612,2012第4の機序:悪性緑内障vs.毛様体因子:原発閉塞隅角緑内障の発症機序としてのUvealEffusionLevel4:MalignantGlaucomavs.CiliaryBodyFactor:UvealEffusion酒井寛*はじめに日本緑内障学会において作成された緑内障診療ガイドラインの第3版において原発閉塞隅角緑内障の隅角閉塞機序は1.相対的瞳孔ブロック,2.プラトー虹彩,3.水晶体因子,4.毛様体因子の4つに分類された.この4つは原発閉塞隅角緑内障において現在確認された機序であり,これに毛様体因子が新たに加わった1)(表1).(注記:発表当時に原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角症疑いという診断名が一般的でなかった事柄が多いので,ここでは原発閉塞隅角緑内障に統一して記述する.)I毛様体因子,UvealEffusion毛様体脈絡膜.離(uvealeffusion)が毛様体の前方回旋や浅前房化をひき起こし悪性緑内障を含む“続発性表1緑内障診療ガイドライン(2012)―原発閉塞隅角緑内障:隅角閉塞機序の分類―1.瞳孔ブロック2.プラトー虹彩:虹彩の形態異常3.水晶体因子:水晶体の前進,膨隆,加齢による増大も原発性の隅角閉塞発症に関与.瞳孔ブロックにも関与4.毛様体因子:uvealeffusionが原発閉塞隅角緑内障に存在し,浅前房と毛様体ブロックと関連注記)すべて原発性の閉塞隅角の機序.の”閉塞隅角をひき起こすことは古くから知られていた(図1).一方,“原発性の”閉塞隅角緑内障において,超音波生体顕微鏡(UBM)を用いて診断されるuvealeffusion(図2)は数例の報告があった.これが,広く存在することはSakaiらによってはじめて明らかにされ図1LevelIV:malignantglaucoma悪性緑内障に観察されたuvealeffusionの超音波生体顕微鏡写真.Uvealeffusionは著明であり毛様体自体が浮腫性に肥厚している.C:角膜,AC:前房,CB:毛様体,S:強膜,*:uvealeffusion.(AIGSコンセンサスブック,文献12より)*HiroshiSakai:琉球大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部附属病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(27)607 強膜毛様体扁平部図2毛様体因子原発閉塞隅角緑内障に観察されたuvealeffusionの超音波生体顕微鏡写真.比較的明瞭なuvealeffusionが毛様体扁平部に観察される.毛様体の形態にはあまり変化がなく,毛様体脈絡膜.離であることに注意.(文献22より)強膜毛様体扁平部図2毛様体因子原発閉塞隅角緑内障に観察されたuvealeffusionの超音波生体顕微鏡写真.比較的明瞭なuvealeffusionが毛様体扁平部に観察される.毛様体の形態にはあまり変化がなく,毛様体脈絡膜.離であることに注意.(文献22より)た2).Uvealeffusionは,原発閉塞隅角緑内障の急性発作眼(治療後:50%以上),発作僚眼(20%)に高頻度に存在し,慢性閉塞隅角緑内障眼においても9%の症例に存在し開放隅角眼(1%)より頻度が高かった(図3).Uvealeffusionと浅前房との関連も示されており,原発閉塞隅角緑内障における浅前房化の機序として注目されている2.6).この研究は海外(シンガポールの中国系住民)から追試が行われ,頻度は異なるが同様の結果が示されている7).従来,原田病,線維柱帯切除術後,レーザー後,悪性緑内障,真性小眼球などにおいて観察される7.11)続発閉塞隅角緑内障の機序と考えられていたuvealeffusionが原発閉塞隅角緑内障の機序の一つであることが示された(図2).II第4の機序:悪性緑内障一方,第4の機序:悪性緑内障(LevelIV:malignantglaucoma)は続発性を含む閉塞隅角緑内障の分類として提唱された.2006年,Foster,He,LiebmannはAIGS(AssociationofInternationalGlaucomaSocieties)コンセンサスの中で閉塞隅角緑内障の機序としてレベル1:虹彩と瞳孔(瞳孔ブロック),レベル2:毛様体608あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%急性発作急性発作の僚眼慢性原発閉塞隅角開放隅角:Uvealeffusion(-):Uvealeffusion(+)図3原発閉塞隅角緑内障におけるuvealeffusion超音波生体顕微鏡で観察されるuvealeffusionは,原発閉塞隅角緑内障の急性発作眼,発作僚眼に高頻度に存在し,慢性閉塞隅角緑内障眼においても開放隅角眼より頻度が高い.(文献4から作図,文献22より)表2AIGS(WGA)コンセンサスによる隅角閉塞のレベルAIGSコンセンサス(2006)LevelI:虹彩と瞳孔(Irisandpupil):瞳孔ブロックLevelII:毛様体構造(Ciliarybodyarchitecture):プラトー虹彩LevelIII:水晶体起因性緑内障(Lens-inducedglaucoma):水晶体亜脱臼,水晶体膨隆LevelIV:悪性緑内障(Malignantglaucoma):毛様体ブロック注記)LevelI,IIは原発性,III,IVは続発性の閉塞隅角の機序.構造(プラトー虹彩),レベル3:水晶体起因性緑内障,レベル4:悪性緑内障と分類した.第3,第4の機序は続発性の機序として分類されている.特に第4の機序“悪性緑内障”(図1)は,通常内眼手術後に生じる前房消失を伴う高眼圧を指し,非常にまれな病態である12)(表2).III悪性緑内障のメカニズムの理解の歴史1915年,Heerfordtは渦静脈と脈絡膜のうっ血による毛様体の前方回転が悪性緑内障の発症機序ではないかという仮説を提唱した13).1954年にShafferは術中所見から房水が硝子体へ回り込むという機序(aqueousmisdirection)を提唱した.Chandlerは悪性緑内障の手術(28) 術式として水晶体摘出の有効性を報告し,後に1.前後房開放の確認,2.強膜開窓,3.硝子体吸引,すなわち瞳孔ブロックの確認,脈絡膜下液の排出を行ってから硝子体液の吸引を行うという3ステップ手術を提唱した14,15).硝子体容積縮小を最終ステップとしながらも,瞳孔ブロックや脈絡膜下液の存在(脈絡膜.離)も念頭において手術を行うという点が要諦である.このように,臨床的に悪性緑内障と診断された症例に脈絡膜.離のある症例が存在することは古くからよく知られていた.1997年,UBMの開発者の一人であるPavlinらは臨床的に悪性緑内障と診断される症例のなかに通常のBモードエコーでは発見できないeffusionを伴う症例が存在することをUBMにより示した16).しかしながら,uvealeffusionや脈絡膜出血に続発する閉塞隅角を悪性緑内障から除かれる,という考え方17,18)が主流であった.現在でもBモードエコーや眼底検査,または臨床経過から明らかな脈絡膜.離や脈絡膜出血は悪性緑内障の診断からは除外される.最近では,UBMにより診断される軽度のuvealeffusionは悪性緑内障の診断に含まれるとする考え方が広まっている.IV悪性緑内障=毛様体ブロック現在では,悪性緑内障の発症メカニズムは“毛様体ブロック”という概念で理解されている.毛様体ブロックは毛様体と水晶体,眼内レンズ,前部硝子体膜,硝子体などとの間に起こる房水の流出障害と考えることができる19).虹彩と水晶体が一体となって挙動すると考え,この二つの組織を合わせた構造を虹彩-水晶体面(lens-irisdiaphragmまたはiris-lensdiaphragm:直訳は虹彩-水晶体隔膜)と表現することがある.この虹彩-水晶体面がuvealeffusionや毛様体突起の前方回旋に伴い毛様小帯が緩み前方に押し出される.さらに毛様体と水晶体の間で房水の流出障害が起こる“毛様体ブロック”が生じて硝子体圧が上昇(房水の硝子体への回り込み)する.すると虹彩-水晶体面がさらに前進するという悪循環をきたす12,13).UBM検査によって前方に偏位して硝子体に圧排され扁平化した毛様体の形状として読影することができる(図1).発症機序は症例ごとに異なる可能性もあり形態(29)のみからは実際の機序をすべて理解することは不可能である.しかしながら,水晶体が前方に脱臼して虹彩を押し付けている水晶体起因性緑内障とは毛様体の形状が異なることから異なる病態として分類することが可能である.V悪性緑内障と原発閉塞隅角緑内障そもそも,悪性緑内障と原発閉塞隅角緑内障には深い関係がある.悪性緑内障は,1869年にVonGraefeにより周辺虹彩切除後の前房消失と高眼圧の症例としてはじめて報告された20).100年近く後,Chandlerはいずれも原発閉塞隅角緑内障の術後に発症した悪性緑内障の6症例を報告し,その後治療法として水晶体摘出と硝子体吸引を報告した14,15).歴史的には悪性緑内障とは原発閉塞隅角緑内障の術後に発症する前房消失を伴う眼圧上昇と考えられていた.Ritchらもその著書のなかで悪性緑内障の背景として以前の急性・慢性閉塞隅角緑内障の存在,浅前房,水晶体の前方偏位,水晶体または硝子体による瞳孔ブロック,毛様小帯の脆弱,毛様体の前方偏位と浮腫,前部硝子体膜の肥厚,硝子体容積の拡張,後部硝子体腔への房水の回り込みを列記している18).以前の急性・慢性閉塞隅角緑内障の存在はそのものであるが,浅前房,水晶体の前方偏位,水晶体による瞳孔ブロックは原発閉塞隅角緑内障の本態的なメカニズムである.毛様体浮腫(=uvealeffusion)も原発閉塞隅角緑内障眼に潜在することが確認された4).現代の医療レベルにおいては悪性緑内障の発症そのものが少なく,緑内障病型の差による緑内障手術後の合併症の違いはないとの報告もある.悪性緑内障が原発閉塞隅角緑内障に特有の疾患であるというわけではない.しかし,原発閉塞隅角緑内障のメカニズムが悪性緑内障と共通する,と考えれば過去に多くの悪性緑内障が原発閉塞隅角緑内障の術後に発症した原因を推測することができる2,4,21,22).VI悪性緑内障への対策悪性緑内障の治療は,縮瞳薬の中止とアトロピン点眼,有水晶体眼においては水晶体摘出(多くの場合は超音波乳化吸引術と眼内レンズの挿入),人工的水晶体眼ではYAGレーザーによる後.切開,前部硝子体膜切開あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012609 を試みる.また,有水晶体,無水晶体眼ともに硝子体切除術が根治的手術として行われる.明らかな脈絡膜.離や脈絡膜出血による続発閉塞隅角緑内障は悪性緑内障から除外され,治療は強膜開窓術など脈絡膜下液や出血の排出も選択肢となる.VII毛様体因子への対策悪性緑内障への治療法は必ずしも原発閉塞隅角緑内障の毛様体因子を解除するために行われるわけではない.水晶体摘出,硝子体切除術は浅前房を解除することができるが,毛様体そのものを目標とした治療ではない.縮瞳薬の中止とアトロピン点眼は毛様体因子を減らすと考えられる.一方,縮瞳薬の使用は虹彩の菲薄化により隅角の開放をもたらすので,毛様体の前方回旋,浅前房化という毛様体因子とは隅角において相反する作用をもつ.通常,原発閉塞隅角緑内障においては微少なuvealeffusionが存在してもピロカルピンが作用すれば隅角は開大する.そのため原発閉塞隅角緑内障においては毛様体因子に関して治療を行うことは通常ない.悪性緑内障ではピロカルピンは禁忌であるのでこの点はまったく異なる.水晶体摘出は原発閉塞隅角緑内障の毛様体の前方回旋も軽減する23).毛様体の前方回旋に伴う水晶体の前進による隅角閉塞を解除すると考えれば,水晶体摘出は毛様体因子を直接,間接的に除去すると考えることができる.また,uvealeffusionが存在する急性発作後の眼に水晶体を取らずに濾過手術を行うことはuvealeffusionの悪化により悪性緑内障をきたす可能性がある,ということが術前に理解できるようになった意義も大きい.VIII脈絡膜容積の評価Quigleyは悪性緑内障と閉塞隅角緑内障の発症機序として脈絡膜膨張(choroidalexpansion)がその容積効果により硝子体圧を上昇させて後方から水晶体を押し上げる,という仮説を提唱した24).ぶどう膜の影響による水晶体の前進と浅前房化を原発閉塞隅角緑内障の発症機序にも適応できるかもしれないという仮説であり,この点は原発閉塞隅角緑内障におけるuvealeffusionにより証明された機序2,4)と同様である.Uvealeffusionは毛様体610あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012扁平部に顕著であるが,脈絡膜膨張仮説では脈絡膜全体の容積が増加すると仮定した点は異なる.脈絡膜容積の測定は従来困難であったが,光干渉断層計(OCT)の技術の進歩により中心脈絡膜厚の測定として実現された.Quigleyらのグループによる最近の研究により中心脈絡膜厚は短眼軸眼で厚いが,加齢とともに減少することが示された25).また,拡張期眼灌流圧に影響されることも明らかになった25).中心脈絡膜厚は短眼軸眼で厚いことは興味深いが,長眼軸眼では眼球構造すべてが薄くなるので,これは理解しやすい結果である.一方,原発閉塞隅角緑内障を含む緑内障との関連は認められなかった.中心脈絡膜厚の測定による原発閉塞隅角緑内障における脈絡膜膨張仮説の立証はいまだなされていない.今後,研究の進展が望まれる分野である.IX続発性と原発性の相似ぶどう膜炎による虹彩後癒着は完全瞳孔ブロックをきたすが,加齢による水晶体厚の増加は不完全な瞳孔ブロックである相対瞳孔ブロックをひき起こす.虹彩分離症や毛様体.腫などの虹彩,毛様体の形態異常も虹彩の形状に由来する隅角閉塞をきたしうる.一方,原発性の隅角閉塞機序であるプラトー虹彩も虹彩の形態異常によるものである.水晶体脱臼,亜脱臼は瞳孔ブロックの増加を伴って,または伴わずに直接的に隅角閉塞をきたし水晶体起因性緑内障の原因となることがある.同様に,原発閉塞隅角緑内障においても水晶体の厚みや曲率,前方偏位などが原因となる手術後に生じる前房消失と高眼圧というまれな病態である悪性緑内障は,uvealeffusionの存在,毛様体の扁平化,前方偏位などによる毛様体ブロックであることが明らかになりつつあるが,原発閉塞隅角緑内障においてもuvealeffusionの存在から毛様体因子の関与が明らかになった.このように,続発性の機序は極端な状況でありより明瞭であるが,原発閉塞隅角緑内障においても同様の機序がより軽微な状況で潜在していて,ときにはその境界はあいまいであると考えることができる.(30) X原発閉塞隅角緑内障の発症機序の重層原発閉塞隅角緑内障の発症機序として確認されている1.相対的瞳孔ブロック,2.プラトー虹彩,3.水晶体因子,4.毛様体因子の4つの因子は単に多因子であるというだけでなく重層的な構造をもつ.瞳孔ブロックやプラトー虹彩による隅角閉塞も加齢により発症する.なぜだろうか?水晶体は胎生期に陥入した表層外胚葉由来の上皮組織であり,終生分裂を止めない.そのため,水晶体の容積,おもに厚みは加齢とともに増加する.結果として前房は浅くなり,虹彩との接触も強くなり瞳孔ブロックが増強される.このように,水晶体因子は瞳孔ブロックやプラトー虹彩機序よりも深層にある因子である.毛様体因子も毛様体突起を前方回旋させ水晶体を前方に押し出す.これらは,結果として浅前房化,隅角の狭細化をもたらしていると考えられる.近年,新たに発見された原発閉塞隅角緑内障の毛様体因子は,重なり合う多くの因子のなかでも表に現れにくい深い位置に存在し,通常の診察で気がつかれることが少ない機序である.おわりに原発閉塞隅角緑内障の発症機序として,従来から瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子が関与することはよく理解されていた.一方,悪性緑内障は特殊な病型であると考えられてきた.原発閉塞隅角緑内障における毛様体因子,uvealeffusionの発見は悪性緑内障と共通する機序が原発閉塞隅角緑内障にも当てはまることを示した.これは,日本の臨床研究から生まれた成果の一つである.今後,国際的な分類にも正当な評価とともにこの新しい概念が取り入れられることを望む.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)SakaiH,Morine-ShinjyoS,ShinzatoMetal:Uvealeffusioninprimaryangle-closureglaucoma.Ophthalmology112:413-419,20053)酒井寛,佐喜眞孝子,仲村佳巳ほか:レーザー虹彩切開術後のCiliochoroidalEffusionの1例.あたらしい眼科18:237-240,20014)酒井寛,澤口昭一:原発閉塞隅角緑内障の発症に毛様体の果たす役割.あたらしい眼科20:973-980,20035)SakaiH,IshikawaH,ShinzatoMetal:Prevalenceofciliochoroidaleffusionafterprophylacticlaseriridotomy.AmJOphthalmol136:537-538,20036)KumarRS,QuekD,LeeKYetal:ConfirmationofthepresenceofuvealeffusioninAsianeyeswithprimaryangleclosureglaucoma:anultrasoundbiomicroscopystudy.ArchOphthalmol126:1647-1651,20087)KawanoY,TawaraA,NishiokaYetal:UltrasoundbiomicroscopicanalysisoftransientshallowanteriorchamberinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.AmJOphthalmol121:720-723,19968)SugimotoK,ItoK,EsakiKetal:Supraciliochoroidalfluidatanearlystageaftertrabeculectomy.JpnJOphthalmol46:548-552,20029)GentileRC,StegmanZ,LiebmannJMetal:Riskfactorsforciliochoroidaleffusionafterpanretinalphotocoagulation.Ophthalmology103:827-832,199610)BrockhurstRJ:Nanophthalmoswithuvealeffusion:anewclinicalentity.TransAmOphthalmolSoc72:371403,197411)UyamaM,TakahashiK,KozakiJetal:Uvealeffusionsyndrome:clinicalfeatures,surgicaltreatment,histologicexaminationofthesclera,andpathophysiology.Ophthalmology107:441-449,200012)FosterP,HeM,LiebmannJ:AngleClosureandAngleClosureGlaucoma:ReportsandConsensusStatementsofthe3rdGlobalAIGSConsensusMeetingonAngleClosureGalucoma.ed:WeinrebRN,FriedmanDS,KuglerPublications,Amsterdam,200613)HyamsS:Angle-closureglaucoma.AComprehensiveReviewofPrimaryandSecondaryAngle-ClosureGlaucoma.Kugler,Amstelveen,199014)ChandlerPA:Anewoperationformalignantglaucoma:apreliminaryreport.TransAmOphthalmolSoc62:408424,196415)ChandlerPA:Malignantglaucoma.TransAmOphthalmolSoc48:128-143,195016)PavlinCJ,FosterFS:UltrasoundBiomicroscopyoftheEye.Springer-Verlag,NewYork,199517)SimmonsRJ,MaestreFA:Malignantglaucoma.InTheGlaucomaas3rded,RitchR,BruceShieldsMed,p841855,Mosby,StLouis,199618)LiebmannJM,WeinrebRN,RitchR:Angle-closureglaucomaassociatedwithoccultannularciliarybodydetachment.ArchOphthalmol116:731-735,199819)RitchR,LoweRF:Angle-ClosureGlaucoma:MechanisimsandEpidemiology.InTheGlaucomas3rded,RitchR,BruceShieldsMed,p801-820,Mosby,StLouis,199620)VonGraefeA:BeitragezurPathologieundTherapiedesGlaucoma.ArchOphthalmol15:108-252,1869(31)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012611 21)酒井寛:毛様体脈絡膜.離と悪性緑内障.あたらしい眼科24:627-628,200722)酒井寛:急性原発閉塞隅角症と毛様体脈絡膜.離.あたらしい眼科23:1575-1576,200623)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocessconfigurationaftercataractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalmology113:437-441,200624)QuigleyHA,FriedmanDS,CongdonNG:Possiblemechanismsofprimaryangle-closureandmalignantglaucoma.JGlaucoma12:167-180,200325)MaulEA,FriedmanDS,ChangDSetal:Choroidalthicknessmeasuredbyspectraldomainopticalcoherencetomography:factorsaffectingthicknessinglaucomapatients.Ophthalmology118:1571-1579,2011612あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(32)

原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序とその対策-プラトー虹彩と水晶体機序

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):601.605,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):601.605,2012原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序とその対策─プラトー虹彩と水晶体機序MechanismsandTreatmentofPlateauIrisandLensFactorsinPrimaryAngleClosureGlaucoma広瀬文隆*I眼圧上昇機序1.プラトー虹彩による眼圧上昇原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)または原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)のメカニズムとして(相対的)瞳孔ブロック,プラトー虹彩,そして水晶体そのものに起因する水晶体因子と,水晶体より後方の毛様体,脈絡膜,硝子体などに起因する水晶体後方因子(第4の機序)の4つがあげられ,マルチメカニズムな疾患であることが知られている.すべてのメカニズムに共通する眼圧上昇機序は,最終的に虹彩周辺部と線維柱帯の接触(機能的閉塞隅角)または癒着(器質的閉塞隅角)により隅角が閉塞し,房水流出が阻害されて眼圧が上昇する.これらのメカニズムのなかで瞳孔ブロックと第4の機序の詳細については他稿に譲り,本稿ではプラトー虹彩と水晶体機序の眼圧上昇機序とその対策について検討したい.プラトー虹彩形態とは虹彩の中央部が平坦で,前房の中央は浅くないが,虹彩根部が前方に屈曲した形態異常を指す.そしてプラトー虹彩形態による狭隅角を認め,特に散瞳時に隅角を閉塞する機序をプラトー虹彩機序とよぶ.そのプラトー虹彩機序による眼圧上昇と緑内障性視神経症をプラトー虹彩緑内障またはプラトー虹彩症候群と定義されている〔緑内障ガイドライン第3版,日眼会誌116(1),2012より〕.近年,超音波生体顕微鏡(UBM)や前眼部光干渉断層図1プラトー虹彩形態の超音波生体顕微鏡画像毛様体突起の前方回旋,毛様溝の消失と虹彩根部厚の増大を伴う隅角閉塞を認める.計(AS-OCT)などの前眼部画像検査装置が発展するにつれて,前眼部構造の断面像を記録し,定量的な生体計測が可能となった.PavlinらはUBMを用いた検討により,プラトー虹彩形態では毛様体が前方に回旋,偏位することにより虹彩根部が前方に押し出されて隅角が閉塞されるという病態生理を提唱した1).特に暗所の散瞳時には,周辺虹彩はカーテンのように圧縮されて虹彩根部厚が増大するため隅角底のスペースが虹彩根部によって占拠されて角膜に近接し,隅角閉塞が促進されて眼圧上昇に至る(図1,2A).2.水晶体機序による眼圧上昇原発閉塞隅角における水晶体機序では,水晶体の前進,膨隆,加齢による増大などの水晶体の形態異常が原*FumitakaHirose:神戸市立医療センター中央市民病院眼科〔別刷請求先〕広瀬文隆:〒650-0047神戸市中央区港島南町2丁目1-1神戸市立医療センター中央市民病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(21)601 AAB図2プラトー虹彩症例の前眼部光干渉断層計画像(白内障手術前後)A:白内障手術前.プラトー虹彩形態と軽度の瞳孔ブロックによる隅角閉塞を認める.B:白内障手術後.術前と比較して前房が深くなり,隅角が開大している.因で水晶体前面自体が前方へ移動して浅前房になることにより,その前に位置する虹彩を角膜側に圧排し,隅角閉塞を起こす(図3A).この水晶体機序を認める症例ではZinn小帯が脆弱になっていることが多く,広義では軽度の水晶体亜脱臼や偽落屑症候群に伴う水晶体の前方移動もこの機序に含まれると考える.II検出法1.プラトー虹彩の検出法プラトー虹彩は自覚症状に乏しい慢性閉塞隅角緑内障の病型を取ることも多く,他覚所見も必ずしも明らかではないことから,発見が遅くなる傾向があり注意が必要である.プラトー虹彩形態を検出するために,まず細隙灯顕微鏡検査,隅角鏡検査を用いて狭隅角,平坦な虹彩面と比較的深い中心前房深度という所見が重要である.これらの所見に加えて,特徴的な所見としてdoublehumpsignが知られている.プラトー虹彩形態の隅角を隅角鏡で圧迫して観察したときに,虹彩前面は瞳孔縁の水晶体による隆起に続いて水晶体赤道部で後方に窪602あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012B図3水晶体機序症例の前眼部光干渉断層計画像(白内障手術前後)A:白内障手術前.水晶体虹彩隔壁の前方移動による隅角閉塞を認める.B:白内障手術後.術前と比較して前房が深くなり,隅角が開大している.図4Doublehumpsignプラトー虹彩形態の虹彩が二峰性(矢印)になっている.み,虹彩周辺部で再度毛様体突起の部位で盛り上がる二峰性の所見を呈する(図4).このdoublehumpsignは,前方回旋した毛様体による虹彩の隆起は圧迫しても押し(22)A 0.7暗所明所0.7r=-0.320,p=0.002r=-0.369,p<0.0010.60.6図5原発閉塞隅角眼における虹彩根部厚と虹彩膨隆度の関係(n=89)虹彩根部厚と虹彩膨隆度は,暗所,明所ともに負の相関関係を認める.虹彩膨隆度(mm)虹彩膨隆度(mm)0.50.40.30.50.40.30.20.20.10.10.10.20.30.40.50.10.20.30.40.5虹彩根部厚(mm)虹彩根部厚(mm)下げられにくいためにみられる所見である.ただし,細隙灯顕微鏡検査や隅角鏡検査の問題点として主観的な要素が強く,定量的評価が困難であることがあげられるが,UBMやAS-OCTによる前眼部画像検査を活用すればより確実に閉塞隅角メカニズムの判定が可能となる.特に瞳孔ブロックの指標として虹彩の前方膨隆度の評価が知られているが,筆者らのAS-OCTを用いた検討では,虹彩の前方膨隆度と虹彩根部厚の間に有意な負の相関を認めた(図5).この結果から虹彩根部が厚いほど瞳孔ブロックによる虹彩の前方膨隆が起こりにくく,プラトー虹彩機序が起こりやすいと推測される.プラトー虹彩機序は,一般的にはレーザー虹彩切開術(LI)などによる瞳孔ブロック解除後に診断されるとされている.しかしLIには水疱性角膜症のリスクがあり,長期的な治療成績は必ずしも良くないことから,診断だけのために安易にLIをすることは慎むべきであろう.一方,プラトー虹彩形態の評価のためには,前方回旋などの毛様体の形態異常を確認できるUBM検査がきわめて有効である.KumarらはUBMを用いたプラトー虹彩形態の診断基準として,A.(機能的)隅角閉塞,B.毛様体突起の前方回旋,C.毛様溝の消失,D.虹彩根部の急峻な立ち上がり,E.平坦な中央部虹彩のすべてを満たす象限が2象限以上存在することをあげている.しかし実際の症例のなかには,上記すべての基準を満たすわけではないが,隅角閉塞の4つのメカニズムのなかでは「プラトー虹彩」に分類せざるをえないと考えられる症例も散見されるため,注意が必要である(図6).また,プラトー虹彩において暗室うつむき試験または(23)図6原発閉塞隅角症の超音波生体顕微鏡画像原発閉塞隅角の4つのメカニズムのなかではプラトー虹彩形態に相当すると考えられるが,毛様溝は存在し(矢印),毛様体の前方回旋も認めないため,「UBMを用いたプラトー虹彩形態の診断基準」は満たさない.散瞳負荷試験による負荷検査を活用して,機能的隅角閉塞による眼圧上昇のリスク評価も重要である.2.水晶体機序の検出法閉塞隅角眼における水晶体機序を検出するために,まず細隙灯顕微鏡検査で狭隅角を伴う浅前房を確認する.さらに僚眼との中心前房深度を比較して左右差が大きい場合は,水晶体亜脱臼や水晶体偏位などを含めた水晶体機序による閉塞隅角の可能性が高いと判断できる.しかし,瞳孔ブロック機序も水晶体が深く関与するため,多くの症例で水晶体機序と瞳孔ブロック機序が混合しており,完全に区別することは困難である.浅前房のあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012603 症例ではUBMやAS-OCTによって虹彩,水晶体,毛様体などの前眼部構造を把握し,虹彩の前方への膨隆が強い場合は瞳孔ブロック機序,弱い場合は水晶体機序の要素が高いと考えられる(図3A).そして,プラトー虹彩と同様に,機能的閉塞隅角による眼圧上昇を評価するためには,暗室うつむき試験または散瞳負荷試験による負荷検査が有効である.III対策1.プラトー虹彩の対策PACGの治療は虹彩の線維柱帯への接着の予防および解除を目的とした隅角の解剖学的修正が第一選択となり,隅角閉塞のメカニズムに応じた治療法の選択が重要である.LIは瞳孔ブロックを解除する効果は認めるが,プラトー虹彩機序や水晶体機序などの非瞳孔ブロックメカニズムには無効であり,これらに対するLIの治療効果は不良であると考えられる.特にプラトー虹彩形態で虹彩根部厚が増大している症例(図1,6)では,虹彩切開のために必要なレーザーのエネルギー量がより多くなり,水疱性角膜症のリスクが高まるのに加えて,LIによる隅角開大効果は小さいと予想できるため,LIの適応は非常に少ないと思われる.プラトー虹彩形態による機能的隅角閉塞に対する治療として,薬物治療ではピロカルピン点眼,レーザー治療ではレーザー隅角形成術(レーザー周辺虹彩形成術)が選択肢としてあげられる.ピロカルピン点眼は縮瞳により隅角を開大させる効果があるが,長期の縮瞳点眼により散瞳不良あるいは虹彩後癒着が起こりやすいことに注意が必要である.また,レーザー隅角形成術は前方へ突出した形状の虹彩の最周辺部にアルゴンレーザーで照射を行い,熱凝固により照射部の虹彩を収縮させ平坦にすることにより隅角を開大する術式である.プラトー虹彩に対するレーザー隅角形成術の効果は長期にわたり持続するとも報告されているが,必ずしもコンセンサスを得られていない2).ただし,すでに周辺虹彩前癒着を形成した部位には無効であるとされている.閉塞隅角眼での水晶体の存在は隅角を閉塞させる最大の原因とした考えが認知されてきており,この水晶体を摘出することが非瞳孔ブロックメカニズムを含めた閉塞604あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012隅角の原因を解消する手段として広まりつつある.プラトー虹彩機序に対する白内障手術では,プラトー虹彩形態の原因となる毛様体突起の前方回旋を軽減し,白内障手術後の毛様体突起の位置は隅角開大度と相関することから3),プラトー虹彩形態にも治療効果が見込まれる.また,LI後に残存した機能的閉塞隅角を解除する手段として,白内障手術は非常に効果が高いことも報告されている4).これらの知見から,白内障手術はプラトー虹彩機序の機能的閉塞隅角を解除する強力な隅角開大の手段であるといえる.ただし,器質的閉塞隅角が広範囲に残存し,眼圧上昇の原因となっている症例は隅角癒着解離術の適応となる.2.水晶体機序の対策原発閉塞隅角眼の水晶体機序に対する白内障手術の意義は明白であろう.白内障手術を施行すると厚い水晶体が薄い眼内レンズに置換され,虹彩水晶体隔壁の前方移動による水晶体機序は解消される(図3B).悪性緑内障など硝子体が影響する特殊な状況を除けば,白内障手術で前房が深くなり水晶体機序による閉塞隅角は解決すると考えられる.ただし,水晶体機序による原発閉塞隅角眼に対して白内障手術を施行する際には,特に水晶体亜脱臼などを合併したZinn小帯の脆弱な症例が多い点に注意すべきである.原発閉塞隅角眼ではZinn小帯が脆弱であっても術前に水晶体振盪を認めることはまれであり,手術中の前.切開のときに前.に皺襞が寄ることから判明することが多い.このときには,Zinn小帯断裂のリスクが高まるので,その後の手術操作を慎重に行う必要がある.おわりにPACGまたはPACに対する白内障手術についてしばしば議論になるのは,水晶体の混濁を認めないかあるいは非常に軽度で視力低下の自覚がない場合に,白内障手術を選択するべきなのか否かという点である.安全性の面から考えれば,もちろん白内障手術自体が内眼手術であり,LIや周辺虹彩切除術よりも侵襲の強い治療であるとみなされることに加えて,閉塞隅角眼特有の浅前房に伴う白内障手術手技のむずかしさという問題を十分に(24) 考慮する必要がある.しかし,前眼部画像診断で瞳孔ブロックが認められず,プラトー虹彩や水晶体機序主体の閉塞隅角に関しては,治療効果を優先してLIよりも白内障手術を積極的に選択すべきであると考える.また,閉塞隅角眼の多くは遠視による裸眼視力の低下を伴っており,水晶体を眼内レンズに置換することで屈折矯正による裸眼視力の向上という副次的効果も期待できる.実際にプラトー虹彩や水晶体機序の原発閉塞隅角眼に対して白内障手術を施行すると,ほとんどの症例で安心感をもって術後のフォローアップを行うことができるだろう.機能的閉塞隅角を完全に解除するとともに,器質的閉塞隅角の進行をまず予防でき,術後長期的に眼圧下降効果が期待できるので,閉塞隅角についてはマネージメントフリーといっても過言ではない.しかし,あくまでも合併症なく安全に手術を遂行することが前提であり,閉塞隅角の治療目的に白内障手術を選択する際は特に慎重に行わなければならないことを強調したい.文献1)PavlinCJ,FosterFS:Plateauirissyndrome:changesinangleopeningassociatedwithdark,light,andpilocarpineadministration.AmJOphthalmol128:288-291,19992)RitchR,ThamCC,LamDS:Long-termsuccessofargonlaserperipheraliridoplastyinthemanagementofplateauirissyndrome.Ophthalmology111:104-108,doi:10.1016/j.ophtha.2003.05.001(2004)3)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocessconfigurationaftercataractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalmology113:437-441,doi:S0161-6420(05)01422-3[pii]10.1016/j.ophtha.2005.11.018(2006)4)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Cataractsurgeryforresidualangleclosureafterperipherallaseriridotomy.Ophthalmology112:974-979,doi:S0161-6420(05)00136-3[pii]10.1016/j.ophtha.2004.12.042(2005)(25)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012605

原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序とその対策-瞳孔ブロック

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):595.599,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):595.599,2012原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序とその対策─瞳孔ブロックMechanismandTreatmentofPupillaryBlockinPrimaryAngleClosureGlaucoma栗本康夫*はじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)もしくは原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)の眼圧上昇機序は周辺部虹彩が線維柱帯に接触もしくは癒着して房水流出主経路を閉塞することによる.一般に,隅角が閉塞しているかどうかは線維柱帯(より正確には線維柱帯後部の色素帯)が虹彩で覆われているかどうかで判定されるが,通常は虹彩が線維柱帯を閉塞するのに伴って,あるいはそれよりも先に,隅角底の毛様体帯も虹彩で覆われてぶどう膜強膜路も閉塞されている.かくて隅角の閉塞によりすべての房水流出路が閉塞されることになる.虹彩の線維柱帯への接触はPAC(G)において眼圧上昇に至るファイナルコモンパスウェイといえるが,そこに至るパスウェイは一つではなく,虹彩を線維柱帯に接触させるメカニズムにはさまざまなものがある.かつては,Gorinの記載に基づき1),瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体虹彩膈膜の前進の3つのメカニズムに分類するのが一般的な考え方であったが,最近は,AIGS(AssociationofInternationalGlaucomaSocieties)のコンセンサスブックで採用された4つのメカニズム,瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子,悪性緑内障因子(第4のメカニズム)に分類されている2).この4つのメカニズムのうち,プラトー虹彩,水晶体因子,および第4のメカニズムについては本特集の他稿に譲り,本稿では瞳孔ブロックのメカニズムとその対策について述べる.I瞳孔ブロックとは瞳孔ブロックとは,房水の流れが瞳孔でブロックされることである.毛様体で産生された房水は後房から瞳孔を通って前房に流れ前房隅角から眼外へ流出するが,虹彩と水晶体が接触する瞳孔部においては房水流出に抵抗が生じる.この抵抗が強くて房水の前房への流れがブロックされると,後房にうっ滞した房水により後房圧は前房圧に対して高くなり,虹彩は前方に膨隆する(図1,2).房水流の瞳孔でのブロックが解消しないと前方膨隆した虹彩がついには線維柱帯に押しつけられ,瞳孔ブ房水の流れがブロック…………………………………………………………図1房水の流れと瞳孔ブロック毛様体上皮で産生された房水は後房から瞳孔を通って前房に流れるが,瞳孔部においては虹彩と水晶体が接触しており房水流出に抵抗が生じる.この抵抗により房水の前房への流れがブロック(瞳孔ブロック)されると,房水が後房にうっ滞して後房圧が前房圧に対して高くなり,虹彩が前方に膨隆する.前方に膨隆した虹彩はついには線維柱帯に押しつけられ,瞳孔ブロックによる隅角閉塞が成立する.*YasuoKurimoto:神戸市立医療センター中央市民病院眼科〔別刷請求先〕栗本康夫:〒650-0047神戸市中央区港島南町2丁目1-1神戸市立医療センター中央市民病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(15)595 ロックによる隅角閉塞に至る.瞳孔ブロックにおいて虹彩が水晶体に押しつけられる(あるいは水晶体が虹彩を前方に押すとも言い換えられる)力の強さは,Mapstoneのモデルで説明される(図3).瞳孔部において虹彩を後方に押しつける力のベクトルは水晶体前面が虹彩起始部よりも前方にあることに起因するものであり,水晶体の前面が虹彩起始部よりも前方に位置するほど,瞳孔ブロックの力は強くなる.水晶図2瞳孔ブロックの超音波生体顕微鏡画像瞳孔ブロックにより後房に房水がうっ滞し虹彩が前方に膨隆,隅角が非常に狭小化している.D+E虹彩虹彩Scosa水晶体b(D+E)cosb水晶体Sa図3瞳孔ブロックをひき起こす力〔図左〕S:虹彩括約筋による力のベクトル.Scosa:虹彩括約筋の力により虹彩が水晶体に押しつけられる力のベクトル,中等度散瞳状態で最も強い力が働く.〔図右〕D:虹彩散大筋による力のベクトル.E:虹彩の伸展により発生する力のベクトル.(D+E)cosb:虹彩散大筋の力と虹彩の伸展の力により虹彩が水晶体に押しつけられる力のベクトル,水晶体が前方に位置するほど強い力が働く.瞳孔ブロックをひき起こす力はScosaと(D+E)cosbの和であり,PACにおいては後者が主たる瞳孔ブロック力となる.(MapstoneR:BrJOphthalmol,1974より改変して引用)596あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012体が虹彩を前方に圧排することにより瞳孔ブロック力が発生するといってもよい.一般に,中心前房深度が浅いほど瞳孔ブロック力は強くなる.したがって,瞳孔ブロックメカニズムは他稿で述べられる水晶体メカニズムとは不可分の関係にある.II瞳孔ブロックの検出瞳孔ブロックは,細隙灯顕微鏡による観察では虹彩中腹部の前方膨隆として観察される.瞳孔ブロックによる虹彩の前方膨隆は中等度の散瞳時に最も大きくなる場合が多いが,虹彩の厚さや性状によっても異なる.細隙灯顕微鏡による瞳孔ブロックの所見は虹彩の前方膨隆が軽度な場合には必ずしも明らかではなく,瞳孔ブロックの有無と程度を検出するのに最も有用な方法は超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)の実施である.前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)検査をUBMに代えてもよいが,AS-OCTでは撮像の条件が悪いと虹彩Irisconvexity0mmIrisconvexity(虹彩膨隆度)0.4mm図4瞳孔ブロックの定量的評価虹彩裏面の虹彩起始部と瞳孔縁をつなぐ直線から前方に膨隆した虹彩裏面までの距離の最大値を測定しirisconvexity(白の両矢印)として瞳孔ブロックによる虹彩膨隆の程度を定量評価する方法.(NonakaA,KurimotoY:AmJOphthalmol,2007より改変して引用)(16) の裏面や水晶体の表面が明瞭ではなく,瞳孔ブロックの程度の評価がむずかしい場合もある.UBMを用いると虹彩膨隆の程度を定量的に評価することも可能である(図4).また,瞳孔ブロックによる眼圧上昇のリスクを評価する検査として,意図的に瞳孔ブロックを誘発する負荷試験がある.暗室試験および散瞳試験は瞳孔ブロックが一般に中等度散瞳下で強くなることを利用した試験であるが,散瞳によるプラトー虹彩メカニズムによる眼圧上昇のリスクと併せて評価される.うつむき試験は水晶体の前方移動により瞳孔ブロック力が強くなることを利用する試験であるが,水晶体メカニズムのリスクも同時に評価していることになる.散瞳と水晶体前方移動の両方を同時に検査する方法として暗室うつむき試験があり,隅角閉塞リスクの検出力がより高い.なお,これらの負荷試験の感度は必ずしも高くないので,負荷試験が陰性である場合のリスク評価には慎重でなければならないが,試験が陽性の場合には隅角閉塞の治療適応があると考えるべきである.III隅角閉塞における瞳孔ブロックメカニズムの意義瞳孔ブロックは,3つあるいは4つに分類される隅角閉塞のメカニズムのなかでも常に筆頭にあげられ,最も重要な隅角閉塞メカニズムと考えられている.そればかりか,しばらく前までは,瞳孔ブロックがPACGの隅角閉塞メカニズムのほぼすべてとも考えられ,PACGイコール瞳孔ブロック緑内障とする考え方もあった.しかしながら,UBMの登場により虹彩や毛様体の形態の詳細な観察が可能になり,現在ではPACの隅角閉塞は複数のメカニズムが重なって成立するマルチメカニズムであると理解されている.PACGの隅角閉塞メカニズムに瞳孔ブロック以外の要素が関与することは古くから教科書に記載されてはいたのだが,1980年代にレーザー虹彩切開術が普及し多くのPACG症例を比較的容易に治療できるようになったことが,その後の瞳孔ブロックメカニズムの極端な偏重に影響したのかもしれない.一時は,早期にレーザー虹彩切開術さえすればPACGは基本的に解決するとの眼科教育が行われていたが,そ(17)の後の長期経過の報告により,実際にはレーザー虹彩切開術の成績はそれほど良くはないことも明らかとなっている.PAC(G)はその臨床像により急性と慢性に分けられるが,急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangleclosure:APAC)あるいは急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangleclosureglaucoma:APACG)では,瞳孔ブロックメカニズムが支配的で,瞳孔ブロックによらない急性発作はまれである.プラトー虹彩形状による隅角閉塞は隅角底から緩やかに進行し,線維柱帯の全域が閉塞に至ることはまれであるのに対し,瞳孔ブロックでは線維柱帯の全幅が容易に閉塞しうる.瞳孔ブロックによる線維柱帯全幅の閉塞が隅角全周にわたって生ずると,急激な眼圧上昇をきたしてAPACを発症する.APACの早期自然寛解や隅角全周の閉塞にまでは至らないマイナー発作を繰り返す病態は亜急性PAC(G)と称されるが,やはり眼圧の上昇時には瞳孔ブロックが隅角閉塞メカニズムの主役となっていると考えられる.一方の慢性原発閉塞隅角症(chronicprimaryangleclosure:CPAC)あるいは慢性原発閉塞隅角緑内障(chronicprimaryangleclosureglaucoma:CPACG)は急激な眼圧上昇には至らないものの間欠的あるいは部分的な虹彩と線維柱帯の接触により隅角閉塞が慢性化した病態であるが,多くの場合はプラトー虹彩形状など,瞳孔ブロック以外のメカニズムを合併している.瞳孔ブロックの解消だけでは必ずしも隅角閉塞が解消しないのはこのためである.歴史的に閉塞隅角緑内障の病型がAPAC(G)の記載から始まったこともあり,かつては,自覚症状を伴う急性あるいは亜急性がPAC(G)の代表的な病型と考えられていたが,近年の研究によりPACGの大多数は,自覚症状に乏しい慢性の経過をとることが明らかとなっている.注目される病型の主体がAPACからCPACに移行したことが,PACの病態における瞳孔ブロックメカニズムの重要度の見直しと関係しているといえるかもしれない.IV瞳孔ブロックによる眼圧上昇への対策緑内障の診療にあたっては,治療できる原因があればあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012597 原因治療という大原則がある3).PAC(G)の眼圧上昇には隅角閉塞という明確な原因があり,瞳孔ブロックによる隅角閉塞には房水の瞳孔でのブロックという明確な原因がある.したがって,この原因への対策が治療の第一義である.当座の眼圧が高ければ薬剤による非特異的な眼圧下降治療も行う必要があるが,これはあくまでも補助的な治療手段と考えるべきである.PACは早期にその原因たる隅角閉塞メカニズムを解消してやれば事実上の根治が可能な緑内障病型であるので,この原因治療を決してなおざりにしてはいけない.瞳孔ブロックの解消を目的とした治療で最も広く行われてきたのはレーザー虹彩切開術である.レーザー虹彩切開術は長年にわたってPACの第一選択治療とされてきたし,現在も多くの教科書や診療ガイドラインで第一選択治療と位置づけられている.レーザー虹彩切開と観血的周辺虹彩切除は房水の後房から瞳孔を通る前房への流路をバイパスする治療法である.したがって厳密に言えば瞳孔ブロックを解消する治療法ではないが,瞳孔ブロックメカニズムに対しては根治的治療となる.瞳孔ブロックそのものを解消するためには瞳孔における房水流図5水晶体再建術による瞳孔ブロックの解消水晶体再建術前(左)には虹彩は瞳孔部において水晶体と接しているが,水晶体再建術後(右)には虹彩は眼内レンズとは離れ,瞳孔ブロックは完全に解消している.(KurimotoY:AmJOphthalmol,1997より改変して引用)出抵抗を解消することが必要であるが,水晶体再建術はほぼこれを達成できる治療法である(図5).また,レーザー虹彩形成術も瞳孔ブロックを解消する作用があるがその効果は必ずしも十分ではないので,APAC症例で一時的に瞳孔ブロックを解消する目的など補助的な治療法として用いられる.隅角閉塞のメカニズムがほぼ瞳孔ブロックのみに限定される症例については,治療が簡易に行えて患者負担も軽いレーザー虹彩切開術を第一選択治療としてよい.早期に正しく診断して早期に治療を行うことができれば根治的治療となる.APACの予防的治療についてもほぼ同じことがいえる.ただし,わが国ではレーザー虹彩切開術の長期的な合併症として進行性の角膜内皮減少が多数報告されており,このリスクについての配慮は必要である.瞳孔ブロックに限定すれば上述のごとくレーザー虹彩切開術で事足りるが,実際の臨床症例では,事はそれほど簡単ではない.多くの症例は瞳孔ブロック以外にプラトー虹彩形状など他のメカニズムを合併しているし,前述のごとく,瞳孔ブロックには水晶体メカニズムが不可分である.レーザー虹彩切開術がリスクフリーであれば,瞳孔ブロックを認める症例にはまず同治療を施行すればよいともいえるが,頻度は低いものの進行性の角膜内皮減少による遅発性水疱性角膜症という重大な合併症のリスクを無視することはできない.プラトー虹彩メカニズムや水晶体因子を合併していることが明らかな症例に対しては,両者の治療効果を併せ持つ水晶体再建術の適用を検討すべきである.表1に各種治療方法と隅角閉塞メカニズムに対する治療効果の関係をまとめたが,水晶体再建術はプラトー虹彩メカニズムを緩和でき,水晶体メカニズムも解消できるので,原発閉塞隅角の治療としては最も優れた治療方法である.特に加齢白内障の治表1機能的隅角閉塞の治療法と効果悪性緑内障因子瞳孔ブロックプラトー虹彩形状水晶体因子(第4のメカニズム)レーザー虹彩切開術◎×××レーザー虹彩形成術×.○○××水晶体再建術◎○◎×.?◎:著効,○:有効,×:無効.598あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(18) 療適応がある症例では第一選択治療とすべきであるし,PAC(G)に多い遠視かつ老視の症例については屈折矯正のメリットを併せて考慮すべきである.最終的にどの治療方法を選択するかは,その治療法のデメリットやリスクを吟味したうえで閉塞隅角治療上のベネフィットとのバランスを検討し,総合的な判断が必要となる.隅角閉塞は,虹彩が線維柱帯に接触しているだけの機能的隅角閉塞と,虹彩と線維柱帯が癒着してしまった器質的隅角閉塞の2つの状態に分けられる.通常は,機能的隅角閉塞が先行し,閉塞が持続することにより器質的閉塞を生じると考えられている.瞳孔ブロックの解除を含めて隅角閉塞メカニズムの解消治療はいずれも機能的隅角閉塞の解消にほかならない.機能的隅角を解消してもすでに器質的隅角閉塞をきたしてしまっている症例では,隅角癒着解離術による器質的隅角閉塞の解消を図る必要がある.さらに,機能的にも器質的にも隅角閉塞を解除しても,虹彩が線維柱帯に長期にわたり接触あるいは癒着していたために線維柱帯が二次的な変化をきたして房水流出能が低下することがある.このために隅角解放後も高眼圧が残る状態を残余緑内障とよび,二次的な開放隅角緑内障といえる.このような病態が残った場合には,開放隅角緑内障に準じて薬物治療を行い,薬物治療で十分な眼圧コントロールが得られなければトラベクロトミーあるいはトラベクレクトミーなどの緑内障手術治療が必要となる.おわりにPAC(G)は早期に正しく診断して正しく原因治療を行えば治癒させることが可能な緑内障病型である.一方で,適切な治療が行われなければ失明のリスクが高い病型でもある.瞳孔ブロックが存在する眼では,一見,点眼治療で眼圧がコントロールされているようであっても,何らかのきっかけで瞳孔ブロックが強くなれば点眼治療による眼圧下降作用では到底追いつかない.PAC(G)の症例にはその原因治療である隅角閉塞の解除を,瞳孔ブロックが存在する症例には瞳孔ブロックの解除を可及的に行わなければならないことを強調して本稿を終える.文献1)GorinG:Diagnosisandclassificationofangle-closureglaucoma.In:GorinG:ClinicalGlaucoma,p171-208,MarcelDekkerInc,NewYorkandBasel,19772)FosterP,HeM,LiebmannJ:Epidemiology,classificationandmechanism.In:WeinrebRN,FriedmanDS(eds):AngleClosureandAngleClosureGlaucoma.p1-20,KuglerPublication,Netherlands,20063)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,2012(19)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012599