連載②現場発,病院と患者のためのシステム連載②現場発,病院と患者のためのシステム杉浦和史*紙カルテを単純に電子化したのでは,使い勝手で紙を超えられない.問題提起紙カルテの時代は長く,院内諸業務すべてがこれを前提にして動いていた.この中で,作業実態を踏まえない電子カルテが登場すれば拒否反応がでてくるのは当然である.しかし,そうかといって,紙カルテの使い勝手をそのまま電子化すればよいということではない.電子化する際には新たな発想が必要である.長年使い慣れ,約束事なく何でも書け,メモ類を貼り付けられ,イレギュラーな場面にも問題なく対応できた紙のカルテに対し,習熟に時間を要し,約束事が多い電子カルテに不都合が多いと感じる医師は多い.そこを狙って,できるだけ紙カルテの感覚で使えることをアピールする電子カルテが出回っている.紙カルテはそのままに,1号,2号用紙,検査データをスキャンして保存し,参照できるというものまで現れ,ペーパーレスだし,代診の医師でも問題なく対応できるという触れ込みである.紙カルテを残しておいてペーパーレスとは驚きだが,敷居を低くして,電子カルテに二の足を踏んでいる多くの医師に,その気になってもらう苦肉の策といえる.一方,ITだからこそ可能な特長を活かそうと,一つの画面から何でもできるという,見るからに使いづらく見える煩雑な画面レイアウトのものもある.いずれも問題であるが,一般的に,システムを設計する際には,業界・業種・業務を問わず,そのシステムが対象とする業務を調査し,業務の目的に沿って,必要となる機能,情報を洗い出し,無理無駄を省いてから,仕様を決める.紙カルテの使い勝手を電子的に実現するという発想や,何でもできるという仕様は,このステップを踏んでいるか疑問である.紙と鉛筆の世界から,ディスプレイとキーボード,マウス,手書き,音声という表現手段への変化を踏まえ,根本的に見直した発想による設計が必要になると思われる..紙と画面,鉛筆と,電子的入出力,表示手段の違いを踏まえたユーザーインターフェイス手段の違いを理解すると,今までの仕事の仕方をそのままにシステムに写し取ることの問題が浮上する.1.ぺージめくり(図1)診察時には,紙カルテをパラパラとめくり,しばし見てから,戻ったり,めくったりする.この動作はどのような意味があるのか.これを考えず,単に画面上に表示されたカルテを,紙カルテのようにパラパラ感をもって見られるようにすることを競っているのが,今の電子カルテのユーザーインターフェイス.最近の電子ブックは,あたかも本物の紙をめくるような動きをするものがあるが,これと同じようにできたらよいと思う医師もいることと思われる.紙と人の手の動きをもってパラパラとめくり,少し戻って,まためく図1診療現場におけるカルテのページめくり*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO(81)あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123690910-1810/12/\100/頁/JCOPYるという動作を電子的に実現することに知恵を絞るのは結構だし,技術者には興味を引くテーマといえる.しかし,どうしてめくったり戻ったりするのかの本質を考えるべきではないか.そのうえで,必要とされる場合には,できるだけ自然な感じでパラパラできる機能を開発し,実装して欲しい.では,めくったり,戻ったりするのはどうしてか.視力,眼圧などの推移であり,その時の処方,指示に関する情報を見たいからである.紙カルテは,情報と媒体が一体になっていて切り離せないが,情報を電子的に取り扱えるシステムは,それらの情報を抽出して時系列に表示することができる.数字ではなくイメージで捉えたかったら一瞬でグラフにもできるし,関連する情報を並列表示することも容易にできる.検査結果,所見,処方・指示を同時に表示し,何世代も遡って見たいという場合には,操作性よくめくる機能は必要になるが,通常の使い方では,時系列表示機能があれば,パラパラめくる機能はいらないということである.2.カルテ添付のメモ類(図2)紙のカルテには多種多様なメモが貼り付けてあり,重なっている場合も珍しくない.見落とされないよう,紙の色,字の大きさ,体裁を工夫するなどしている.当院では,カルテに添付しているメモ類を調べたが,300種類を超えていた.メモに対応するために,紙のポストイットを電子的に実現した電子ポストイットがあるが,これもぺージめくり機能同様,紙を電子に置き換えただけの単純な発想である.この機能を使って約300種類もあるメモをそのまま電子化したらどうなるか.メモの目的を明確にしてから,重複しているものを排除し,次に重要性,緊急性を調べ,誰に見て欲しいのか,見て欲しいタイミングなどを分類し,整理するところから始めなければならない.とかく,今使っているこのメモはどう電子化されるかを気にするが,このようなことに気を配らなければならない.確実にドクターに見てもらわなければならない重要なメモについては,補足的な意味合いがあるメモという位置づけではなく,正規の機能として整備すべきである.図2カルテに貼り付けられているメモ類相互に関係するメモや,同じような目的をもったメモはあちこちに点在するのではなく,ひとまとめにして入力,指定できるようにするなど,電子化に際しては,根本的な見直しを行わなければならない.紙時代の仕事の習慣をそのまま投影したシステムでは,電子化の効果は出にくい.当院では,メモを見直し,分類整理した結果,約300種類以上あったメモを4分の1以下に減らすことができた.そのうえで,電子的に処理できるようにする計画である.3.作業環境を考えた機能医師,看護師などコメディカルが,常に画面の前に座ってはいない,ということを想定した仕様になっているか.メッセージを画面に表示しても,それをタイムリーに見る人がいなければ,伝えようとした情報の価値は大幅に減少してしまう.頻繁に画面をのぞくようにするという躾もあるが,それではストレスがたまるし,見落としもある.通常の作業をしつつ,メッセージをキャッチする方法はないか.メッセージ到着を知らせる音を鳴らすことはもちろん可能だが,音声合成技術を使ってメッセージの内容を発声させれば,他の作業をしながらでも,メッセージの到着とその内容を知ることができる.単にメッセージを表示させて機能を果たしたと思わず,そのメッセージをどのような目的で表示し,どのようなアクションを期待するかを考えれば,このような処理は当然組み込まれるべきである.☆☆☆370あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(82)