特集●眼科小手術PearlsandPitfallsあたらしい眼科29(7):913.917,2012特集●眼科小手術PearlsandPitfallsあたらしい眼科29(7):913.917,2012再発翼状片に対する対処法TherapeuticModalityforRecurrentPterygium木下茂*はじめに初発翼状片をいかに適切に処理するかが再発翼状片の発生頻度を減少させることと関係する.再発を抑制するということに関しては,結膜移植を加味した初発翼状片手術が,単純切除術よりも,より有効であるという報告が多い.しかし,筆者らの自験例では,その他の方法,たとえば単純切除術とマイトマイシンC処理,などもきわめて優れた手術成績を示している.初発翼状片手術のエッセンスは,翼状片に関係する結膜下線維性増殖をいかにコントロールするか,またコントロールできるかにあり,この点では緑内障濾過手術の場合と共通した問題点を包含している.さて,再発翼状片の手術方法においても,その成功の秘訣は,再発翼状片に関係した結膜下線維性増殖をコントロールするところにある.本稿では,再発翼状片の治療法について筆者らの自験例から得た臨床経験を,読者の皆様と共有することを目的として書き下してみた.I再発翼状片翼状片が再発する場合,早くは1カ月ぐらいから始まることがある.その多くは,翼状片組織の取り残しのように考えられているが,実際の再発機序は明らかになっていない.ただ,何かの刺激をトリガーとして生じた再発翼状片は,結膜下線維性増殖を合併していることは事実であり,これをマイトマイシンCのような細胞増殖抑制薬で処置することが必須なことは間違いない.翼状片は鼻側のみならず耳側にも生じ,再発では,より強い増殖を伴った翼状片となっている.この状態は,化学腐食や熱腐食にみられる結膜増殖とも類似している.II術前検査と手術計画再発翼状片に対して手術的な対処を考える場合には,3つの視点から術前検査を行うことが必要である.第1は眼表面の検査,特に瞼球癒着の有無である.鼻側の瞼球癒着は,1回の初発翼状片手術後にも生じえるし,逆に数回の翼状片手術が行われていても生じないことがある.瞼球癒着の生じる大きな原因は,翼状片を広範囲に切除しようとして,根部から幅広く切除し,かつ炎症が持続したような場合である.したがって,翼状片頭部だけをわずかに切除するような手術法では,翼状片の再発頻度はともかくとして,瞼球癒着は生じにくい.つぎに,結膜下線維性増殖の範囲の確認である.これは,どちらかというと翼状片単純切除術よりも遊離結膜移植,さらには結膜有形弁移植後で広範囲の結膜下線維性増殖を認めることになる.したがって,翼状片が再発したときの対処のし易さ難しさという観点からは,ある意味で有形弁移植は好ましくない方法ともいえる.第2は,複視の有無である.多くの場合,第一眼位で複視を訴える患者は少ないが,再発翼状片のある眼で耳側を注視させた場合には複視を訴える場合がある.外側のどの位置から複視を感じ始めるかをチェックすることは,術前検査として必須の項目である.第3は,周辺部角膜潰瘍などが基礎疾患として存在しないかどうかのチェックと問診である.頻度は低いが,*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕木下茂:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(37)913ときに,軽度のMooren角膜潰瘍やTerrien角膜変性に伴う偽翼状片も混在しており,その場合には,翼状片の下の角膜がかなり菲薄化していることがありえる.以上,3点の視点を整理して,複視がなければ再発翼状片切除とマイトマイシンC処置を標準治療法として行い,複視があれば羊膜移植を追加することになる.さらに重症の際,場合によっては角膜上皮形成術を併用することもある.III手術方法(図1参照)再発翼状片に対しての手術方法にはいくつかの手法があるが,ここでは筆者らが日常的に行っている長期成績の担保された手術方法を紹介する.1.麻酔法初発翼状片の多くは点眼麻酔で行うが,再発翼状片では癒着.離などを行うために強い疼痛を伴うことが多い.このため,球後麻酔を行うことが望ましい.球後麻酔のおもな目的は,疼痛緩和と眼筋のトーヌスを下げることにある.2.ドレーピング外眼部手術ではあるが,常在細菌のみならず睫毛根部のブドウ球菌などの常在細菌にも注意を払うために,綺麗なドレーピングを心がける.そして,手術直前には,眼表面をBSS(平衡食塩液),オペガードあるいは生理食塩水などで何度か洗い流し,眼脂などを完全に除去する.3.再発翼状片と線維性増殖の切除再発翼状片は,通常は,頭部から.離し,強角膜部へ向けて.離を進めていく.強膜最表層にはできるだけ切創などを作らずに.離する.その後に,斜視鈎を内直筋にかけて内直筋を目視し,その周囲にある結膜下線維性増殖組織を,綺麗に,そして完全に.離し除去する(いわゆる綿貫).そして,翼状片頭部の異常組織をあまり広範囲にならないように切除する.4.マイトマイシンC処理つぎにマイトマイシンC処理である.この処理の前に止血をすることは重要であり,筆者らは5,000倍希釈の外用ボスミンをベンシーツに浸し,これを内直筋の奥に挿入して止血する.その後に,ベンシーツに浸した0.04%マイトマイシンCを5分間,ボスミン入りシーツがあった部位に挿入する.この方式により,マイトマイシンCが血液により希釈されたり,効果が弱められることを防ぎ,いつも同様の効果が得られるようになる.最後に約200mlの生理食塩水でマイトマイシンCを洗浄する.マイトマイシンCを露出強膜の上に長時間接触させることは危険であり,強膜軟化を生じさせる誘因にもなりうる.なお,ベンシーツを用いる理由は,糸が付ているために,結膜下の奥まで十分に挿入できるところにある.5.翼状片断端部の縫合翼状片の切除断端は折り曲げて7-0絹糸で2糸縫合し,断端部にテンションをかける.6.羊膜移植広範な露出強膜の上を羊膜で被覆し,その周辺部を10-0ナイロン糸で丹念に縫合していく.羊膜は上皮側を上にして縫合するが,その上下を見きわめるにはスポンジで羊膜を触り,スポンジに良くくっつくほうが裏側である.羊膜移植は先進医療として認められており,可能であれば,この手続きのもとで行うことが望ましい.7.角膜上皮形成術これでも不安なような重症例の場合には,保存角膜から作製した薄層の角膜表層片(lenticule)を角膜輪部に10-0ナイロン糸で縫着する.8.コンタクトレンズ装着多くの例で,術後にソフトコンタクトレンズ装着を行い,疼痛緩和とともに上皮修復を円滑にさせる.IV術後管理と手術結果術後には,抗菌薬点眼とステロイド点眼を使用し,ソフトコンタクトレンズ装着は1週間程度までで中止する.7-0絹糸の抜糸は術後約2週間,10-0ナイロン糸の抜糸は術後約1.2カ月で行う.914あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(38)CABDEFCABDEF図1再発翼状片に対する手術A:手術直前の写真.B:再発翼状片を強膜から.離し,翼状片下の線維性増殖組織を切除している写真.C:内直筋を露出し,その周囲の線維性増殖組織を丹念に除去している写真.D:5,000倍希釈のボスミンに浸したスポンジで止血したのちに,0.04%マイトマイシンCを結膜下に作用させている写真(この写真では強調するために1つのスポンジが強膜上にあるが,他の4つのスポンジは結膜下にある.努めて露出強膜上にマイトマイシンCに浸したスポンジが接触することは避ける).E:再発翼状片の先端部組織を切除したのちに7-0絹糸でその組織を強膜に固定し,露出した強膜上を羊膜で被覆している写真.10-0ナイロン糸で縫合している.F:手術終了時の写真.(39)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012915A1A3B1B2A2B3A1A3B1B2A2B3図2再発翼状片の手術前と手術後の写真A1:症例1(左眼)の手術前の写真.数度の翼状片手術と再発により,瞼球癒着を伴う強い再発翼状片を生じており,外側への眼球運動障害による複視も自覚している.A2,A3:手術後は再発翼状片が綺麗に除去され,眼球運動制限もなくなっている.外側には手付かずの小さな翼状片が認められる.B1:症例2(右眼)の手術前の写真.2度の翼状片手術と再発により,大きな翼状片が再発している.B2,B3:手術後は再発翼状片が綺麗に処理され,内側の結膜には十分な余裕が認められる.眼球運動も正常である.筆者らの行った手術例では,ほぼ全例で長期間にわたおわりにって翼状片の再発を認めず,また複視は完全に消失して再発翼状片は,初発翼状片とはまったく異なった疾患いる.その2例の手術前後の写真を図2に示す.であると考えることが重要である.一旦再発した翼状片916あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(40)ABCDABCD図3強い角膜混濁を伴う再発翼状片の手術前と手術後の写真A:症例2(右眼)の手術前の写真.数度の翼状片手術と再発により,強い瞼球癒着を伴う再発翼状片を認める.さらに,角膜には強い混濁があり,瞳孔領は観察不能である.B:再発翼状片手術1年後の写真.再発翼状片手術により,鼻側は綺麗に再建されている.眼球運動障害も認められない.C:角膜移植5カ月後の写真.再発翼状片手術から約1年後に,角膜混濁に対して角膜移植をtripleprocedureで施行されている.D:角膜移植から約1年半後,再発翼状片手術から3年後の写真.下の線維芽細胞と上皮下線維性増殖はすでに活性化されPearls&Pitfalls:再発翼状片への対処法は難しく,ており,単純な切除だけでコントロールできるものでは適切な外科的治療法を行わないと,整容的な不満足をもない.マイトマイシンCやベータ線による放射線療法つのみならず眼球運動障害による複視に悩む患者を生みなどで活性化した線維芽細胞を抑制することは必須であ出すことになる.適切な治療法の第1は,結膜下線維性る.羊膜移植,角膜上皮形成術などは,線維性増殖を抑増殖組織を完全に切除・除去することにある.第2はマ制するという同様の考え方の治療法であり,相加的作用イトマイシンCの適切な使用である.第3は羊膜移植を目指している.また,翼状片に関係した角膜混濁で極などのオプションを上手く使用することである.特にマ端な視力障害に陥っている場合には,後に角膜移植を行イトマイシンCは両刃の剣であり,誤った使用法で強うことも可能である(図3).膜軟化を生じることもあるため,その使用法には習熟し患者の再発翼状片による整容的苦痛,そして複視によなければならない.る機能的苦痛は計り知れないものであり,再発翼状片を適切に治療することは,われわれ眼科医の使命ともいえる.(41)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012917