特集●神経眼科―最新の話題あたらしい眼科29(6):750.756,2012特集●神経眼科―最新の話題あたらしい眼科29(6):750.756,2012乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定MeasurementofPeripapillaryRetinalNerveFiberLayerThickness宮本和明*はじめに網膜神経線維層は,網膜神経節細胞から出た軸索で構成されている.つまり,網膜神経線維層を観察することで,間接的に網膜神経節細胞を評価することが可能である.特に視神経乳頭周囲の網膜神経線維層は,視神経乳頭縁を通過する神経線維の数を反映し,これはすなわち,網膜神経節細胞の数とほぼ同じと考えられるので,乳頭周囲網膜神経線維層の評価は視神経疾患の病態診断に有用である.網膜神経線維層は,網膜神経線維層の厚みを測定することで評価できるが,非侵襲的に網膜神経線維層厚を測定できる診断機器が開発され,技術の進歩と相まって,神経線維層厚をμm単位の正確さで簡便に評価することが可能となった.これにより,網膜神経線維層の評価が容易となったが,測定する機器ごとに測定原理が異なるため,そのことをよく理解して測定結果を検討しないと,病態によっては誤った評価をしてしまう可能性がある.本稿では,乳頭周囲網膜神経線維層厚を測定する機器について,測定原理とその特性について概説し,その機器を用いての視神経疾患の評価,特に視神経乳頭が腫れている場合の測定結果とその測定結果の差異から乳頭腫脹の原因疾患を鑑別できるかどうか,その臨床応用の可能性について述べる.I乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定機器について乳頭周囲網膜神経線維層厚を測定する代表的な機器として,現在おもに,GDx(GarlZeissMeditecInc.,Dublin,CA)に代表される走査レーザーポラリメータ(scanninglaserpolarimeter:SLP)と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の2つがあげられる.1.走査レーザーポラリメータ(scanninglaserpolarimeter:SLP)SLPは,神経節細胞軸索の有する構造性複屈折を利用し,偏光レーザーの眼底照射後に返ってくる速度の異なる2つの反射光の位相差(遅延)を測定することで,網膜神経線維層厚を数値化している1).複屈折とは,光線がある物質を透過したときに,その偏光の状態によって,2つの光線に分けられる性質のことをいう.細い管状のものが同じ方向に規則正しく配列している構造は複屈折性を有し,眼底では網膜神経線維内に存在する細胞骨格(特に微小管)や細胞膜,ミトコンドリアがそれに相当する2).その規則正しい配列の方向へは光線を入射しても光線が分かれず,その方向を光学軸という.この光学軸に垂直な光線を入射した場合,その光線が直交する2つの成分をもっていると,それぞれの反射光が位相差を生じる.SLPはこの位相差の量を測定し,一定の*KazuakiMiyamoto:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕宮本和明:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(00)750750750(28)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY比率で変換して網膜神経線維層厚を評価する.ここで注意しなければならないのは,SLPによる網膜神経線維層厚の評価の対象は神経線維の「複屈折」であり,太さそのものではないということである3).2.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)OCTは,近赤外光によって眼底組織を走査し,反射光の干渉現象によって網膜神経線維層厚を測定する.具体的には,光源として波長850nmの近赤外線低干渉光を用い,これを測定光と基準光に二分して,眼組織で反射した反射測定光とリファレンスミラーで反射した反射基準光の光エコーの時間的ずれとエコー波の強度を検出する.この光学的干渉測定によって得られた眼底の二次元的組織断層像をコンピュータ処理して画像化し,この断層像から網膜神経線維層を抽出してその厚みを測定する4).すなわち,OCTによる網膜神経線維層厚の評価の対象は,神経線維の太さそのものであるといえる5).このようにSLPとOCTは,測定原理の違いにより,網膜神経線維の評価対象が異なるため,測定結果による網膜神経線維層の評価の際には,十分注意する必要がある.II網膜神経線維層が薄くなっている場合の乳頭周囲網膜神経線維層厚について緑内障や視神経萎縮など,網膜神経線維層が薄くなる疾患の乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定については,SLPの代表的機器であるGDxとOCTはともにその威力を発揮する.図1は,緑内障症例の眼底写真であるが,矢尻で示している位置に網膜神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)がみられている.この症例の乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定をGDxを用いて行うと,図2に示すように,矢印の箇所に眼底のNFLDの存在する部位に対応して,網膜神経線維層の菲薄化がみられる.OCTでも同様に,同じ部位に網膜神経線維層の菲薄化がみられる(図3).このように,網膜神経線維層が薄くなっている場合は,GDxでの測定結果とOCTでの測定結果は非常によく似たパターンを示す.(29)図1緑内障症例の眼底写真(症例1)矢尻で示している位置に,網膜神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)がみられる.RightFundusImageRightNerveFiberThicknessMapRightDeviationMap(fromNormal)RightNerveFiberLayer図2症例1のGDxで測定した乳頭周囲網膜神経線維層厚矢印で示す箇所に,眼底のNFLDの存在する部位に対応して網膜神経線維層の菲薄化がみられる.ちなみに,網膜神経線維層が正常もしくは薄くなっている症例において,GDxとOCTのそれぞれで測定した乳頭周囲網膜神経線維層厚の平均値をプロットすると,図あたらしい眼科Vol.29,No.6,20127512001000TSNIT図3症例1のOCTで測定した乳頭周囲網膜神経線維層厚GDxでの測定結果と同様,矢印で示す箇所に,眼底のNFLDの存在する部位に対応して網膜神経線維層の菲薄化がみらTUSTSNNUNLINITTLれる.706050403020GDxによる測定値r=0.89406080100120140OCTによる測定値図4網膜神経線維層が正常もしくは薄くなっている症例におけるGDxとOCTで測定した乳頭周囲網膜神経線維層厚の平均値両者の測定値は強い正相関を示し,両者による乳頭周囲の網膜神経線維層の評価はほぼ同じと考えられる.4に示すように,両者の測定値は強い正相関を示す(自験例).III網膜神経線維層が厚くなっている場合の乳頭周囲網膜神経線維層厚について網膜神経線維層が薄くなる疾患に比べて,うっ血乳頭や虚血性視神経症,乳頭炎など,視神経乳頭が腫脹することによって網膜神経線維層が厚くなる疾患の乳頭周囲図5虚血性視神経症症例の眼底写真(症例2)視神経乳頭全体に腫脹と周囲に網膜出血を認める.網膜神経線維層厚の測定についてはあまり議論がなされていない.網膜神経線維層が薄くなる場合は,神経線維の数の減少はただちに神経線維層の厚みに反映されるため,神経線維の数の測定と神経線維層の厚みの測定はほぼ同義と考えて問題ないが,網膜神経線維層が厚くなる場合,その原因は個々の網膜神経線維の太さが太くなることであって,神経線維の数が増加するためではない.752あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(30)Microns3002001000TEMPSUPRightFundusImageRightNerveFiberThicknessMapRightDeviationMap(fromNormal)RightNerveFiberLayer図7症例2のGDxで測定した乳頭周囲網膜神経線維層厚ほぼ全周で95パーセンタイル値より小さい値を示し,視神経乳頭が腫脹しているとは言い難い結果である.すなわち,網膜神経線維層が厚くなる場合の網膜神経線維層の評価において,神経線維の「数」を測定して評価するGDxでの測定結果と神経線維の「太さ」を測定して評価するOCTでの測定結果には,乖離が生じるであろうことは容易に予想される.実際の症例を示す.図5は前部虚血性視神経症の症例で,視神経乳頭全体に腫脹と周囲に網膜出血を認める.この症例の乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定をOCTを用いて行うと,図6に示すように,全周にわたり95パーセンタイル値を超えて神経線維層厚が厚くなっているというデータを示し,視神経乳頭の外観をよく反映している結果となる.つぎに,020406080100120140160180200220240図6症例2のOCTで測定した乳頭周囲網膜神経線維層厚全周にわたり95パーセンタイル値を超えて神経線維層厚が厚くなっているというデータを示し,視神経乳頭の外観をよく反映している.NASINFTEMP同症例の乳頭周囲網膜神経線維層厚をGDxを用いて測定すると,図7に示すように,ほぼ全周で95パーセンタイル値より小さい値を示し,到底視神経乳頭が腫脹しているとは言い難い結果となった.両測定機器の結果には明らかに乖離があり,特に乳頭の上方と下方では,GDxではむしろ薄くなっているというまったく正反対の結果となっていた.乳頭腫脹の症例をもう1例示す.図8はうっ血乳頭の症例で,両眼に頭蓋内圧亢進による乳頭腫脹がみられる.この症例の乳頭周囲網膜神経線維層厚をOCTを用いて測定すると,図5の症例と同様に,両眼ともほぼ全周にわたって95パーセンタイル値を超えて神経線維層厚が厚くなっているというデータを示し,視神経乳頭の外観をよく反映している結果となる(図9).ところが,GDxを用いて測定すると,図5の症例同様,神経線維層厚が厚くなっているという所見は得られず,両眼ともほぼ全周にわたって95パーセンタイル値より小さい値を示し,ごく普通の神経線維層厚であるかのような結果となった(図10).このように,OCTとGDxの測定結果に乖離が生じる理由は,上で述べたように両者の測定原理の違いにある.視神経乳頭が腫れるということは,軸索輸送のうっ滞による神経軸索の腫脹がその本態で,軸索は太くなるが,GDxが測定対象とする神経線維内の細胞骨格などが増えるわけではない.つまり乳頭腫脹時の乳頭周囲網膜神経線維層厚は,GDxで測定すると,評価対象が軸索の「数」なのでその値は不正確となり,OCTで測定すると,評価対象が軸索の「太さ」なので,測定値は実際の値に近いということになり,乳頭腫脹時の乳頭周囲網膜神経線維層厚の評価には,OCTを用いるべきと考えられる6).(31)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012753右眼右眼左眼図8うっ血乳頭症例の眼底写真(症例3)両眼に頭蓋内圧亢進による乳頭腫脹がみられる.右眼左眼図9症例3のOCTで測定した乳頭周囲網膜神経線維層厚症例2と同様に,両眼ともほぼ全周にわたって95パーセンタイル値を超えて神経線維層厚が厚くなっているというデータを示し,視神経乳頭の外観をよく反映している.754あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(32)RightDeviationMap(fromNormal)90RightNerveFiberLayer90RightNerveFiberLayer80GDxによる測定値160701406012050100806040304020200501001502002503003504004500右眼OCTによる測定値LeftDeviationMap(fromNormal)図11乳頭腫脹症例(虚血性視神経症12眼,うっ血乳頭27LeftNerveFiberLayer眼)におけるGDxとOCTで測定した乳頭周囲網膜神160経線維層厚の平均値140データの分布に一定の傾向はなく,網膜神経線維層が正常もし120くは薄い症例にみられたような相関関係は弱いように見える.1008090604080GDxによる測定値7020060左眼50図10症例3のGDxで測定した乳頭周囲網膜神経線維層厚40症例2のGDxで測定した結果と同様に,神経線維層厚が厚く30なっているという所見は得られず,両眼ともほぼ全周にわたって95パーセンタイル値より小さい値を示し,ごく普通の神経線維層厚であるかのような結果である.IV乳頭腫脹症例において,GDxとOCTの測定結果の差異からその原因疾患を鑑別できるか?図11に,乳頭腫脹症例においてGDxとOCTのそれぞれで測定した乳頭周囲網膜神経線維層厚の平均値をプロットしたものを示す.乳頭腫脹症例の内訳は,虚血性視神経症12眼,うっ血乳頭27眼である.データの分布に一定の傾向はなく,図4の網膜神経線維層が正常もしくは薄い症例にみられたような相関関係は弱いように見える.このデータは,虚血性視神経症とうっ血乳頭という2つの異なる病態が一緒になっているので,それぞれを区別してプロットすると,図12のようになる.それぞれの症例ごとで回帰直線を引くと,虚血性視神経症による乳頭腫脹では,GDxとOCTによる測定結果の乖離の程度がよりひどくなる傾向が見て取れる.これは,両疾患の乳頭腫脹発症メカニズムの差や,微小管などの細胞骨格の破綻,ミトコンドリアの腫大の程度の差な(33)20050100150200250300350400450OCTによる測定値図12図11のデータを虚血性視神経症とうっ血乳頭を区別してプロットしたGDxとOCTによる乳頭周囲網膜神経線維層厚の平均値●:うっ血乳頭,△:虚血性視神経症.実線はうっ血乳頭の,破線は虚血性視神経症の回帰直線.虚血性視神経症による乳頭腫脹では,GDxとOCTによる測定結果の乖離の程度がよりひどくなる傾向が見て取れる.ど,病理学的異常の差が原因である可能性がある.いずれにしても,乳頭が腫れている場合,GDxでは乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定値は正確ではないが,OCTでの測定値と比較することで,その測定値の乖離の程度の大きさによって,乳頭腫脹の原因疾患を鑑別できる可能性が示唆される.おわりに乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定は,視神経の状態を客観的に評価することができ,視神経疾患の病態の理解に大きく貢献する.その測定には,おもにSLPを代表するGDxとOCTが用いられるが,それらの測定原理あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012755とその特性を十分に理解して結果を検討しないと,誤った解釈をしてしまう可能性がある.結論として,網膜神経線維層が薄くなる疾患については,GDxとOCTのどちらを用いて評価しても問題はないが,網膜神経線維層が厚くなる疾患については,その評価にはOCTを用いるべきで,GDxは用いるべきではない.ただし,網膜神経線維層が厚くなっているときのGDxによる乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定値をOCTで測定した値と比較することで,その原因を特定できる可能性がある.文献1)WeinrebRN,DreherAW,ColemanAetal:HistopathologicvalidationofFourier-ellipsometrymeasurementsofretinalnervefiberlayerthickness.ArchOphthalmol108:557-560,19902)HuangXR,KnightonRW:Microtubulescontributetothebirefringenceoftheretinalnervefiberlayer.InvestOphthalmolVisSci46:4588-4593,20053)BanksMC,Robe-CollignonNJ,RizzoJF3rdetal:Scanninglaserpolarimetryofedematousandatrophicopticnerveheads.ArchOphthalmol121:484-490,20034)SchumanJS,HeeMR,PuliafitoCAetal:Quantificationofnervefiberlayerthicknessinnormalandglaucomatouseyesusingopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol113:586-596,19955)SchumanJS,Pedut-KloizmanT,PakterHetal:Opticalcoherencetomographyandhistologicmeasurementsofnervefiberlayerthicknessinnormalandglaucomatousmonkeyeyes.InvestOphthalmolVisSci48:3645-3654,20076)SaviniG,BellusciC,CarbonelliMetal:DetectionandquantificationofretinalnervefiberlayerthicknessinopticdiscedemausingstratusOCT.ArchOphthalmol124:1111-1117,2006756あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(34)