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ソフトコンタクトレンズ装用眼にみられた巨大乳頭結膜炎に対する0.1%シクロスポリン点眼液の臨床効果

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(109)109《原著》あたらしい眼科29(1):109?112,2012cはじめに巨大乳頭を形成する結膜炎には大きく春季カタル(VKC)と巨大乳頭結膜炎(GPC)があり,GPCは機械的刺激により上眼瞼結膜に増殖性変化を伴う結膜炎と定義されている.一般臨床においてGPCの大部分はコンタクトレンズ(CL)装用者にみられ,アレルギー炎症の症状や所見に加え,瞬目に伴うCLの上方移動が問題となる.結膜巨大乳頭の治療には抗アレルギー薬以外に,ステロイド薬の使用(点眼・内服・徐放性ステロイドの注射など),VKCに対する乳頭切除,GPCに対するCL装用の中止が行われる.ステロイド薬は効果的であるが対症療法であり,副作用出現の観点から若年者には安易に処方されるべきではない.GPC,VKCともに若年者に多いことから,ステロイドに代わる治療薬が望ましい.シクロスポリン(CyA)は強力な免疫抑制薬として臓器移植拒絶反応予防薬として用いられてきた.CyAは細胞内の〔別刷請求先〕山田潤:〒629-0392京都府南丹市日吉町保野田ヒノ谷6番地1明治国際医療大学眼科学教室Reprintrequests:JunYamada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine,6-1HonodaHinotani,Hiyoshi-cho,Nantan-city,Kyoto629-0392,JAPANソフトコンタクトレンズ装用眼にみられた巨大乳頭結膜炎に対する0.1%シクロスポリン点眼液の臨床効果寺井和都山田潤明治国際医療大学眼科学教室Efficacyof0.1%CyclosporineOphthalmicSolutionforTreatingContactLens-InducedGiantPapillaryConjunctivitisKazutoTeraiandJunYamadaDepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine目的:コンタクトレンズ装用による巨大乳頭結膜炎(GPC)に対する0.1%シクロスポリン点眼の効果につき検討した.対象および方法:倫理委員会の承認を得たのち臨床研究を承諾したGPC症例20例を対象とし,二重盲検2群比較試験を行った.被験者はコンタクトレンズ装用を継続したまま2週間,実薬眼側に0.1%シクロスポリン点眼液を,プラセボ薬眼に人工涙液を1日2回点眼した.点眼開始後1週間,2週間の時点で自覚症状,他覚所見につきスコア化した.結果:自覚症状はいずれの項目も両群間に有意差を認めなかったが,他覚所見においては,眼瞼結膜充血・眼瞼結膜腫脹・眼瞼結膜濾胞・眼瞼結膜乳頭に関してプラセボ薬眼と比較して有意な改善を認めた.結論:0.1%シクロスポリン点眼がコンタクトレンズ装用眼におけるGPCに対しても有効な治療法として提供できる可能性が示された.Purpose:Thepurposeofthisstudywastoexaminewhethertopicallyapplied0.1%cyclosporineeyedropswouldalleviatecontactlens-inducedgiantpapillaryconjunctivitis(GPC),andtoevaluateanyallergicsymptoms.Methods:In20GPCpatients,0.1%cyclosporineeyedropswereinstilledtooneeyeandartificialtearstothefelloweyetwicedailyfortwoweeks,withcontinuationofcontactlenswear.Allergicsymptomsandobjectivefindingswereassessedclinicallyandscoredinadouble-blindplacebo-controlledstudy.Results:Thoughanysignificantdifferencewasalleviatedinsubjectivesymptoms,objectivefindings,includingpalpebralconjunctivalhyperemia,palpebralconjunctivalswelling,palpebralconjunctivalfolliclesandpalpebralconjunctivalpapillae,weresignificantlyimprovedinthecyclosporine-treatedeyes,ascomparedwiththecontroleyes.Conclusions:Thefindingsofthisstudysuggestthattheuseofcyclosporineeyedropsmightgreatlycontributetothetreatmentofcontactlens-inducedGPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):109?112,2012〕Keywords:ソフトコンタクトレンズ,巨大乳頭結膜炎,シクロスポリン.softcontactlens,giantpapillaryconjunctivitis,cyclosporin.110あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(110)シクロフィリンと複合体を形成し,nuclearfactorofactivatedT-cells(NFAT)の脱リン酸化阻害により,IL(インターロイキン)-2やIFN(インターフェロン)-gなどのサイトカイン産生を抑制するだけでなく,IL-3,IL-4,IL-5などの産生も抑制することでTh(Thelper)1応答もTh2応答も双方ともに抑制する.同時にTNF(腫瘍壊死因子)-a,IL-1b,IL-6の産生も抑制し,抗炎症の効果も併せ持つ.現在,CyAはBehcet病,全身型重症筋無力症,再生不良性貧血,ネフローゼ症候群,乾癬,アトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患やアレルギー疾患にも幅広く応用されている.近年,VKCの治療薬として防腐剤を含まないCyA点眼薬(パピロックRミニ点眼液0.1%)が上市され,良好な治療効果が得られている.VKCに類似した病態であるGPCにおいてもCyA点眼薬が治療効果を認めるかどうかについて,二重盲検試験を用いて検証した.I対象および方法1.対象本検討は明治国際医療大学の研究倫理委員会の承認を得て開始した.2008年11月から2009年1月の間に明治国際医療大学附属病院眼科で眼の健診を行ったソフトCL(ディスポーザブルソフトCL含む)装用者のうちで乳頭所見がみられ,かつ,無治療で経過している症例をエントリーした.十分な説明を行い,本試験への参加について患者本人より自由意志による同意を書面にて得られた20例(男性15名,女性5名,平均年齢25.4±8.9歳)40眼を対象とした.除外基準として,(1)肝・腎・心・呼吸器疾患,糖尿病,アトピー疾患,その他重篤な疾患を有する症例,(2)妊婦または妊娠している可能性のある症例,および授乳中の症例,(3)現在,抗アレルギー薬,ステロイド薬で治療中の症例,(4)担当医師が試験対象として不適当と判断した症例,を設けた.2.方法二重盲検2群比較試験を行った.実薬にはパピロックRミニ点眼液0.1%を,プラセボ薬にはティアーレRCLを用いた.被験者は右眼,左眼各々に実薬かプラセボ薬かのいずれかを診察後2週間,1日3回,1回1滴,CLを装用したまま点眼した.左右眼の点眼内容はコントローラーにより選定され,被験者,験者ともに知らされなかった.検査項目および観察項目と時期は,(1)患者背景として性別,生年月日,CLの種類,合併症の有無,疾患眼,既往歴を聴取,(2)投与開始前(初回診断時)と投与1週後,2週後に自覚症状の程度と細隙灯顕微鏡所見による他覚所見の程度を評価し(表1),スコア化して集計した.結膜の評価においては,上眼瞼結膜における充血・腫脹・乳頭と下眼瞼結膜における濾胞とを観察した.乳頭径の測定にはフルオレセイン染色を行い,細隙灯顕微鏡を用いて計測した.すべての項目において,集計時に前眼部写真による他覚所見の再確認を行った.(3)投与期間中に悪化した症状・所見を含む,副作用に関する評価を行った.統計学的検討にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた.表1自覚症状・他覚所見の目安自覚症状の目安?++++++?痒感かゆくない少しかゆいががまんできるかゆいかゆくてがまんできない眼脂ない目やには出るが困らない目やにが多くて困る目やにが多くて目が開けられない異物感ないときどきゴロゴロするゴロゴロするが努力すれば目が開くたえずゴロゴロして目が開けられない羞明感まぶしくない少しまぶしいまぶしい大変まぶしくて目が開けられない流涙気にならない少し目が潤む涙が出る涙が溢れてとまらない点眼刺激しみない少ししみるしみるが我慢できる大変しみて我慢できない角結膜所見の目安?++++++眼瞼結膜充血所見なし数本の血管拡張多数の血管拡張個々の血管の識別不能腫脹所見なしわずかな腫脹びまん性の薄い腫脹びまん性混濁を伴う腫脹濾胞所見なし1?9個10?19個20個以上認める乳頭所見なし直径0.1?0.2mm直径0.3?0.5mm直径0.6mm以上眼球結膜充血所見なし数本の血管拡張多数の血管拡張全体の血管拡張浮腫所見なし部分的腫脹びまん性の薄い腫脹胞状腫脹(111)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012111II結果エントリーした20例すべてがディスポーザブルソフトCL装用者であり,点眼状況・ソフトCL使用状況・受診状況に問題なく,副作用も認められず,脱落例なしと判断した.1.自覚症状(図1)各症状の比較では実薬群とプラセボ群と有意差はなかった.各群における,点眼前後での症状改善について記載する.掻痒感ではCyA点眼を2週間点眼した実薬群のみで,投与前と比較して有意なスコア改善がみられた(前0.80±0.70,後0.30±0.57,p<0.037).眼脂に関しては,実薬群とプラセボ群の双方ともに有意な改善がみられた(実薬群:前0.75±0.55,後0.35±0.49,p<0.016)が,実薬群とプラセボ群とに違いは認められなかった.異物感に関しては実薬群とプラセボ群の双方ともに有意なスコア改善がみられた.羞明感,流涙,眼痛に関してはいずれの群も統計学的に有意な変化を認めなかった.2.他覚所見(図2)眼瞼結膜充血に関しては実薬群で投与前と比較して投与後1週の時点でスコアの有意な低下を認め(p<0.020),投与後1週(p<0.009)および2週(p<0.018)の時点で両群間に有意差を認めた.眼瞼結膜腫脹に関しては投与後1週(p<0.008)および2週(p<0.016)の時点で両群間に有意差を認めた.眼瞼結膜濾胞に関しては実薬群で投与前と比較して投与後1週(p<0.004)および2週(p<0.016)の時点でスコアの有意な低下を認め,投与後1週(p<0.010)および2週(p<0.004)の時点で両群間に有意差を認めた.実薬群で投与前と比較して投与後1週(p<0.004)および2週(p<0.0005)の時点でスコアの有意な低下を認め,投与後1週(p<0.012)および2週(p<0.0007)の時点で両群間に有意差を認めた.眼球結膜充血,眼球結膜浮腫に関してはいずれの時点でも,また群間にも有意差を認めなかった.角膜輪部トランタス斑,角膜輪部腫脹,角膜上皮障害に関しては経過中に所見を認めた症例はなかった.III考察VKCに対するCyAの効果に関しては多数の報告があるのに対し1),CL装用によるGPCに対する免疫抑制薬投与の効果に関する報告は乏しい.今回,ヒト二重盲検試験によってGPCに対するCyA点眼の効果が立証された.GPCはCL装用年齢と関連して若年者から成人に多く,ステロイド薬使用による副作用に注意が必要である.この点,CyA点眼は若年者に対する長期投与の安全性が種々報告されており2),また,重症AKC(アトピー角結膜炎)に対してはステロイド点眼より症状・病態が改善したとも報告されている3).すなわち,GPC治療に適した薬剤と考えている.GPCはVKCと同様,免疫グロブリン(Ig)EによるTh2応答だけが原因ではなく,サイトカインやケモカインを介した各種免疫系細胞と常在細胞間の相互作用,つまりエオタキシン,Mcellの関与,T型肥満細胞(MCT)とTC型肥満細胞(MCTC)の双方の増加や脱顆粒,好酸球,eosinophilcationicprotein(ECP)などのケミカルメディエーターなどが深く絡んで病態を形成している4,5).CyAは抗原特異的なT細胞を抑制するだけでなく,肥満細胞の脱顆粒抑制作用を有しており,ベタメタゾンや抗アレルギー薬よりも血管透過性を制御して急性アレルギー応答を制御できるとの報告がある6).結膜の線維化やコラーゲン含有,およびT細胞や好酸球の炎症性細胞浸潤をも抑制し,遅発層にも効果が示されている7,8).ただ,ベタメタゾンと異なり,トランスホーミング成長因子(TGF)-b1は抑制されないこと,上皮-間葉形質?痒感0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼脂0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0異物感0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0羞明感0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0流涙0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼痛0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0*CyAのみCyA点眼プラセボ点眼***図1CyA点眼前後の自覚所見変化(*p<0.05)眼瞼結膜充血0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼瞼結膜腫脹0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼瞼結膜濾胞0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼瞼結膜乳頭0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼球結膜充血0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼球結膜浮腫0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0CyA点眼プラセボ点眼*CyAのみ*CyAのみ**CyAのみ*CyAのみ**CyAのみ*************図2CyA点眼前後の他覚所見変化(*p<0.05,**p<0.01)112あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(112)転換(EMT)から産生されるprofibroticfactorsによる線維化が危惧されること9),サイトカインが誘導するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-9を抑制すること10)なども知られており,GPCに対する長期投与の成績などに関しては今後の検討が必要である.近年,CyAより効果が得られるタクロリムスが検討されているが,CyAより分子量が小さいため,高い組織移行が期待できる反面,薬剤効果が眼表面にとどまらない可能性があることに注意が必要である.GPCは角膜上皮障害が生じにくく,CL装用による角膜知覚の鈍麻もあるため,自覚症状が軽度であり有意な効果を示すことができなかった.実際には,CyA点眼側ではCLずれの軽減や装用感向上を述べる被験者が多く,CLフィッティングの改善の検討など,新たな比較検討を行う意義はある.今回,CL装用下でもCyA点眼の効果が得られるほど著明な効果がみられたが,CL装用下の点眼治療を推奨する報告ではないことを付記したい.文献1)UtineCA,SternM,AkpekEK:Clinicalreview:topicalophthalmicuseofcyclosporinA.OculImmunolInflamm18:352-361,20102)PucciN,CaputoR,MoriFetal:Long-termsafetyandefficacyoftopicalcyclosporinein156childrenwithvernalkeratoconjunctivitis.IntJImmunopatholPharmacol23:865-871,20103)AkpekEK,DartJK,WatsonSetal:Arandomizedtrialoftopicalcyclosporin0.05%intopicalsteroid-resistantatopickeratoconjunctivitis.Ophthalmology111:476-482,20044)MoschosMM,EperonS,Guex-CrosierY:Increasedeotaxinintearsofpatientswearingcontactlenses.Cornea23:771-775,20045)ZhongX,LiuH,PuAetal:Mcellsareinvolvedinpathogenesisofhumancontactlens-associatedgiantpapillaryconjunctivitis.ArchImmunolTherExp55:173-177,20076)ShiiD,OdaT,ShinomiyaKetal:CyclosporineAeyedropsinhibittheearly-phasereactioninatype-Iallergicconjunctivitismodelinmice.OculPharmacolTher25:321-328,20097)ShiiD,NakagawaS,ShinomiyaKetal:CyclosporinAeyedropsinhibitfibrosisandinflammatorycellinfiltrationinmurinetypeIallergicconjunctivitiswithoutaffectingtheearly-phasereaction.CurrEyeRes34:426-437,20098)ShiiD,NakagawaS,YoshimiMetal:Inhibitoryeffectsofcyclosporineaeyedropsonsymptomsinlatephaseanddelayed-typereactionsinallergicconjunctivitismodels.BiolPharmBull33:1314-1318,20109)SlatteryC,CampbellE,McMorrowTetal:CyclosporineA-inducedrenalfibrosis:aroleforepithelial-mesenchymaltransition.AmJPathol167:395-407,200510)DollerA,Akoolel-S,MullerRetal:MolecularmechanismsofcyclosporinAinhibitionofthecytokine-inducedmatrixmetalloproteinase-9inglomerularmesangialcells.JAmSocNephrol18:581-592,2007***

抗アレルギー薬によるマスト細胞からのメディエーター 遊離抑制効果の比較

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(103)103《原著》あたらしい眼科29(1):103?108,2012cはじめにスギ花粉症をはじめとする季節性アレルギー性結膜炎では,アレルギー反応の即時相を抑えることが重要である.初期療法はヒスタミン,ロイコトリエン(LT)といったアレルギー反応の主要なメディエーターの遊離を抑制する抗アレルギー点眼液を花粉飛散時期の2週間前から点眼することにより,飛散期におけるマスト細胞の脱顆粒を抑制し,痒みをはじめとする自覚症状を軽減できる治療法である1?4).近年,メディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗点眼液を使用した初期療法も効果的であると報告されている5).初期療法に関して,メディエーター遊離抑制点眼液またはメディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗点眼液のいずれがより効果的であるのか,同一試験下で比較検討した報告はない.本研究では,現在市販されている抗アレルギー点眼液の主薬を使用して,invitroにおける同一試験下でのメディエーター遊離抑制効〔別刷請求先〕福島敦樹:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮高知大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AtsukiFukushima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KochiMedicalSchool,Kohasu,Oko-cho,Nankoku-city,Kochi783-8505,JAPAN抗アレルギー薬によるマスト細胞からのメディエーター遊離抑制効果の比較角環*1山田美絵*2高橋佑次*2今井俊佑*2葛西洋芳*2石田わか*1福島敦樹*1*1高知大学医学部眼科学教室*2わかもと製薬株式会社相模研究所ComparisonofInhibitoryEffectsofAnti-AllergicDrugsonMastCellReleaseofMediatorsTamakiSumi1),MieYamada2),YujiTakahashi2),ShunsukeImai2),HiroyoshiKasai2),WakaIshida1)andAtsukiFukushima1)1)DepartmentofOphthalmology,KochiMedicalSchool,2)SagamiResearchLaboratory,WakamotoPharm.Co.,Ltd.目的:抗アレルギー薬のマスト細胞からのメディエーター遊離抑制効果を比較すること.方法:ラット腹腔滲出細胞,モルモット肺切片およびマウス骨髄由来マスト細胞にcompound48/80または抗原で刺激を加え,遊離メディエーター量(ヒスタミン・ロイコトリエン)を測定した.抗アレルギー点眼液の主薬(アシタザノラスト水和物,クロモグリク酸ナトリウム,トラニラスト,オロパタジン塩酸塩およびレボカバスチン塩酸塩)を添加し,メディエーター遊離抑制能を比較した.結果:アシタザノラスト水和物とクロモグリク酸ナトリウムはヒスタミン遊離を有意に抑制した.アシタザノラスト水和物,トラニラストとオロパタジン塩酸塩はロイコトリエンの遊離を有意に抑制した.結論:アシタザノラスト水和物は優れたメディエーター遊離抑制能を有することが明らかとなった.Purpose:Tocomparetheinhibitoryeffectsofanti-allergicdrugsonmastcellsreleaseofmediators.Method:Ratperitonealexudatecells,guineapiglungfragmentsandmousebonemarrow-derivedmastcellswerestimulatedwithcompound48/80orantigenandtheamountsofreleasedmediators(histamineandleukotrienes)weremeasured.Majorcomponentsofanti-allergicdrugs(acitazanolasthydrate,sodiumcromoglycate,tranilast,olopatadinehydrochlorideandlevocabastinehydrochloride)wereaddedtotheincubationtoevaluatetheinhibitoryeffectsofthesemoleculesonmediatorrelease.Result:Acitazanolasthydrateandsodiumcromoglycatesignificantlyinhibitedthereleaseofhistamine.Acitazanolasthydrate,tranilastandolopatadinehydrochloridesignificantlyinhibitedthereleaseofleukotrienes.Conclusion:Itappearsthatacitazanolasthydrateissuperiortoothertesteddrugsintermsofinhibitingmediatorrelease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):103?108,2012〕Keywords:抗アレルギー薬,初期療法,メディエーター遊離抑制薬,ヒスタミンH1受容体拮抗薬.anti-allergicdrug,preventivetherapy,mediatorreleaseinhibitor,histamineH1-receptorantagonist.104あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(104)果を比較検討することを目的とした.I実験材料および実験方法1.実験動物実験にはSD(Sprague-Dawley)系雄性ラット(日本チャールス・リバー株式会社),Hartley系雄性モルモット(株式会社日本医科学動物資材研究所)およびBDF1(C57BL/6とDBA/2のF1)系雄性マウス(日本エスエルシー株式会社)を使用した.動物は,温度23±3℃,湿度50±20%(わかもと製薬株式会社)または温度23±3℃,湿度55±5%(高知大学医学部)に設定した動物室で飼育し,飼料および飲料水は自由に摂取させた.なお,動物実験は,「ARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)ガイドライン」,「高知大学動物倫理規定」または「わかもと製薬における動物を用いる試験の実施指針」に基づき実施した.2.使用薬物実験には抗アレルギー薬として,メディエーター遊離抑制作用のみをもつアシタザノラスト水和物(わかもと製薬株式会社),クロモグリク酸ナトリウム(東進ケミカル株式会社),トラニラスト(和光純薬工業株式会社),ヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の両者をもつオロパタジン塩酸塩(和光純薬工業株式会社),ヒスタミンH1受容体拮抗作用のみをもつレボカバスチン塩酸塩(和光純薬工業株式会社)を用いた.5-リポキシゲナーゼ阻害薬としてザイリュートン(Sigma-Aldrich社)を使用した.いずれもジメチルスルホキシド(DMSO)で一旦溶解後,10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)で希釈し1,10および100μg/mL(最終濃度)で使用した.なお,DMSO濃度は0.2%以下(最終濃度)に調製した.実験に使用した試薬は,compound48/80(Sigma-Aldrich社)および卵白アルブミン(ovalbumin:OA,Sigma-Aldrich社)であり,それぞれ生理食塩液で溶解し1および10μg/mL(最終濃度)で使用した.また,マウス骨髄液採取には,RPMI(RosewellParkMemorialInstitute)Glutamax(Invitrogen社)に非働化させたウシ胎児血清(最終濃度10%,CellCultureTechnologies社),ピルビン酸ナトリウム(最終濃度1mM,Sigma-Aldrich社),非必須アミノ酸(最終濃度0.1mM,Sigma-Aldrich社)を添加した培養液を使用し,細胞継代には培養液に2-メルカプトエタノール(最終濃度50μM,Sigma-Aldrich社),リコンビナントマウスinterleukin-3(最終濃度10ng/mL,Peprotech社)およびリコンビナントマウス幹細胞因子(最終濃度50ng/mL,Peprotech社),ペニシリン-ストレプトマイシン(最終濃度100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン,Invitrogen社)を添加した培養液を使用した.3.実験方法a.ラット腹腔滲出細胞(PEC)からのヒスタミン遊離に対する各抗アレルギー薬の効果ペントバルビタールナトリウム溶液にて全身麻酔を施したラットを,頸動脈より放血致死させた.ラットの腹腔内にTyrode液を10mL投与し,腹部をマッサージ後,開腹し,PECを回収した.さらに2?3回同様な操作を繰り返した.得られたPECは10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)で懸濁した後,0.05%トルイジンブルー染色でマスト細胞を計数後,5×104個/tubeとなるように分注し,37℃でインキュベートした.5分後,各抗アレルギー薬(最終濃度1,10および100μg/mL)およびcompound48/80(最終濃度1μg/mL)を同時添加し,さらに37℃でインキュベートした.15分後,氷冷した10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)を加え反応を停止させた.4℃で10分間,1,200rpmにて遠心分離して得た上清中のヒスタミン濃度を,蛍光法(励起波長/蛍光波長:360/450nm)にて測定した.各抗アレルギー薬のヒスタミン遊離に対する効果を,ヒスタミン遊離率により比較した.ヒスタミン遊離率は,各群の上清中ヒスタミン濃度を煮沸により細胞を破壊したときに放出された上清中ヒスタミン濃度で除し,百分率で表した.b.モルモット肺切片からのLT遊離に対する各抗アレルギー薬の効果モルモットに抗OAモルモットIg(免疫グロブリン)E血清(受身皮膚アナフィラキシー,力価256倍)1mLを静脈内投与し受動感作した.48時間後にペントバルビタールナトリウム溶液にて全身麻酔を施し,放血致死させ,開胸し肺動脈よりTyrode液を灌流した.肺を摘出して気管を除去した後,ハサミで細切し,肺切片を作製した.続いて,この肺切片を大量のTyrode液で洗浄した後,濾紙で余分な水分を除去した.肺切片浮遊液は,湿重量で0.1g/tube10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)になるよう分注し,37℃でインキュベートした.5分後,各抗アレルギー薬(最終濃度1,10および100μg/mL)を加えさらに5分間インキュベートし,OA(最終濃度10μg/mL)を添加した.15分後,氷冷したメタノールを加え反応を停止後,4℃で10分間,3,000rpmにて遠心分離して得た上清中のLTB4およびCysteinyl(Cys)-LTs濃度をそれぞれenzymeimmunoassay(EIA)Kit(Cayman社およびAssayDesigns社)を使用して測定した.c.マウス骨髄由来マスト細胞(BMMC)からのLT遊離に対する各抗アレルギー薬の効果マウスを頸椎脱臼後,大腿骨を摘出した.無菌的に大腿骨両側骨端部を切断し,断端から注射針で培養液を注入し,骨髄液を採取後,骨髄細胞を分離した.採取した骨髄細胞はCO2インキュベーター(37℃,5%CO2)で継代培養して(105)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012105BMMCに分化させた.骨髄液採取から10週間以上経過したBMMCに抗OAラットIgE血清(受身皮膚アナフィラキシー,力価256倍)を培養液の10分の1量加え一晩受動感作させた.感作させたBMMCを10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)で懸濁した後,0.05%トルイジンブルー染色でマスト細胞を計数後,1×105個/tubeとなるよう分注し,37℃でインキュベートした.5分後,各抗アレルギー薬(最終濃度1,10および100μg/mL)を加えさらに5分間インキュベートし,OA(最終濃度10μg/mL)を添加した.15分後,氷冷したメタノールを加え反応を停止させた.4℃で10分間,1,200rpmにて遠心分離して得た上清中のLTB4およびCys-LTs濃度をそれぞれEIAKit(Cayman社およびAssayDesigns社)を用いて測定した.4.統計処理実験結果はすべて平均値±標準誤差で示した.無処置群と対照群との2群間においてF検定を行い,いずれの試験においても不等分散であったので,Aspin-Welchのt検定を行った.対照群と抗アレルギー薬群の4群間において各々Bartlett検定を行い,等分散であればDunnett検定,不等分散であればノンパラメトリックなDunnett検定を行った.いずれの検定も有意水準5%および1%で実施し,検定統計量が有意水準5%における棄却限界値以上である場合を有意とした.II実験結果1.ラットPECからのヒスタミン遊離に対する各抗アレルギー薬の効果ラットPECをcompound48/80で刺激することにより,無刺激群と比較して有意なヒスタミン遊離が認められた.これに対し,アシタザノラスト水和物は10および100μg/mL,クロモグリク酸ナトリウムは100μg/mLの濃度で有意なヒスタミン遊離抑制効果を示した(図1).一方,トラニラスト,オロパタジン塩酸塩およびレボカバスチン塩酸塩はヒスタミン遊離に対して抑制効果を示さなかった(図1).2.モルモット肺切片からのLT遊離に対する各抗アレルギー薬の効果抗OAモルモットIgE血清で受動感作したモルモットから摘出した肺切片を,OAで刺激することにより無刺激群と比較して有意なLTB4およびCys-LTs遊離が認められた(図2,3).これに対し,アシタザノラスト水和物およびザイリュートンは,いずれのLT遊離に対しても有意な抑制効果を示した(図2,3).一方,アシタザノラスト水和物以外の抗アレルギー薬はいずれのLT遊離に対しても抑制効果を示さなかった(図2,3).3.マウスBMMCからのLT遊離に対する各抗アレルギー薬の効果抗OAIgEラット血清で受動感作したBMMCを,OAで刺激することにより無刺激群と比較して有意なLTB4およびCys-LTs遊離が認められた(図4,5).これに対し,アシタザノラスト水和物およびザイリュートンは,いずれのLT遊806040200対照Compound48/80(1μg/mL)無刺激110100110100110100110100110100(μg/mL)ヒスタミン遊離率(%)アシタザノラストトラニラスト水和物レボカバスチン塩酸塩オロパタジン塩酸塩クロモグリク酸ナトリウム##******図1ラット腹腔滲出細胞からのヒスタミン遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは5例の平均値±標準誤差で表示.##:p<0.01,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).106あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(106)離に対しても抑制効果を示し,アシタザノラスト水和物は100μg/mL,ザイリュートンは10および100μg/mLの濃度で有意な抑制効果を示した(図4,5).また,オロパタジン塩酸塩はLTB4に対し,トラニラストはCys-LTsに対し,いずれも100μg/mLの濃度で有意な抑制効果を示した(図4,5).一方,クロモグリク酸ナトリウムおよびレボカバスチン塩酸塩はいずれのLT遊離に対しても抑制効果を示さなかった(図4,5).III考察今回指標としたメディエーターは,ヒスタミンおよびLT(LTB4およびCys-LTs)であり,これらのメディエーターはマスト細胞から遊離される.ヒスタミンはアレルギー性結膜炎患者の多くが自覚症状を訴える痒みや充血に関与しており6),LTB4は白血球の遊走・活性化作用,Cys-LTsは好酸球遊走作用および血管透過性亢進作用を有しており7,8),そ2.52.01.51.00.50卵白アルブミン(10μg/mL)無刺激対照110100110100110100110100110100110100(μg/mL)LTB4遊離量(ng/0.1gtissue)レボカバスチンザイリュートン塩酸塩オロパタジン塩酸塩アシタザノラスト水和物クロモグリク酸ナトリウムトラニラスト##********図2モルモット肺切片からのLTB4遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは5例の平均値±標準誤差で表示.##:p<0.01,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).*:p<0.05,**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).卵白アルブミン(10μg/mL)無刺激対照110100110100110100110100110100110100(μg/mL)レボカバスチンザイリュートン塩酸塩オロパタジン塩酸塩アシタザノラスト水和物クロモグリク酸ナトリウムトラニラスト8.06.04.02.00Cys-LTs遊離量(ng/0.1gtissue)****#図3モルモット肺切片からのCys?LTs遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは5例の平均値±標準誤差で表示.#:p<0.05,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).*:p<0.05,**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).(107)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012107れぞれアレルギー疾患において重要な役割を果たしていると考えられる.これらのメディエーター遊離を抑制することは初期療法を含めたアレルギー性結膜炎の治療において重要であると考えられるため検討した.抗アレルギー薬のメディエーター遊離抑制効果をメディエーター遊離抑制薬の薬効評価で報告されている試験系9,10)を参考にして比較した結果,メディエーター遊離抑制薬であるアシタザノラスト水和物は,今回実施したすべての試験において抑制効果を示し,クロモグリク酸ナトリウムはラットPECからのヒスタミン遊離に対して,トラニラストはマウスBMMCからのCys-LTs遊離に対して抑制効果を示した.一方,メディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗薬であるオロパタジン塩酸塩はマウスBMMCからのLTB4遊離に対してのみ抑制効果を示したが,レボカ卵白アルブミン(10μg/mL)無刺激対照110100110100110100110100110100110100(μg/mL)レボカバスチンザイリュートン塩酸塩オロパタジン塩酸塩アシタザノラスト水和物クロモグリク酸ナトリウムトラニラストLTB4遊離量(pg/105cells)10008006004002000##******図4マウスBMMCからのLTB4遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは5例の平均値±標準誤差で表示.##:p<0.01,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).*:p<0.05,**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).Cys-LTs遊離量(pg/105cells)5004003002001000##******卵白アルブミン(10μg/mL)無刺激対照110100110100110100110100110100110100(μg/mL)レボカバスチンザイリュートン塩酸塩オロパタジン塩酸塩アシタザノラスト水和物クロモグリク酸ナトリウムトラニラスト図5マウスBMMCからのCys?LTs遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは4例の平均値±標準誤差で表示.##:p<0.01,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).*:p<0.05,**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).108あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012バスチン塩酸塩はいずれの試験においても抑制効果を示さなかった.試験系により抑制の程度は異なったが,アシタザノラスト水和物はいずれの試験系でもメディエーターの遊離を抑制したことから,他の抗アレルギー薬に比してメディエーター遊離抑制能が優れていると考えられた.アレルギー反応の最も主要なメディエーターはヒスタミンである.その遊離抑制にはさまざまなメカニズム(細胞内のカルシウム上昇抑制や膜安定化など)3,11)が考えられているが,薬物ごとの抑制メカニズムについては詳細には検討されていない.したがって,今回の抑制作用の差がどのようなメカニズムによるのかについては明らかではない.いずれの試験においても,ザイリュートンでは濃度依存的に最も強い抑制効果を認めた.ザイリュートンはすべての細胞に対しLT産生抑制作用を示す.気管支ではLTB4を産生する主要細胞は好中球であると考えられていること,またFceRIを発現している細胞はマスト細胞のみではないことが知られている.抗アレルギー薬の効果と比較し,ザイリュートンの効果が強いことから,いずれの試験系においてもマスト細胞以外の細胞が関与している可能性を念頭に置く必要がある.ただし,マスト細胞単独で評価したマウスBMMC実験系の結果とモルモット肺切片実験系の結果で同様の結果が得られたことから,いずれの実験系においてもマスト細胞に対する効果を主に評価していると考えられる.メディエーター遊離抑制作用に関して,メディエーター遊離抑制薬またはメディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗薬を同一試験下で比較した報告がなかったため,その効果の優劣についてはこれまでは不明であった.今回,同一試験下で比較した結果,メディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗薬であるオロパタジン塩酸塩やレボカバスチン塩酸塩と比較し,アシタザノラスト水和物はメディエーター遊離抑制能が高いことが確認された.今回,いずれの試験においてもメディエーター遊離抑制効果を示したアシタザノラスト水和物は優れたメディエーター遊離抑制効果を示しており,アシタザノラスト水和物を主薬とした点眼液は初期療法を含め,マスト細胞を治療ターゲットとする治療においてより効果的である可能性が考えられた.文献1)庄司純:季節性および通年性アレルギー性結膜炎の診療指針.あたらしい眼科22:725-732,20052)山岸哲哉,奥村直毅,中井孝史ほか:アシタザノラスト水和物点眼液の季節性アレルギー性結膜炎に対する季節前投与の効果.臨眼61:313-317,20073)福島敦樹:アレルギー性結膜疾患─点眼治療薬と作用機序─.あたらしい眼科22:749-753,20054)海老原伸行:抗アレルギー薬点眼の現在.あたらしい眼科27:1371-1376,20105)ShimuraM,YasudaK,MiyazawaAetal:Pre-seasonaltreatmentwithtopicalolopatadinesuppressestheclinicalsymptomsofseasonalallergicconjunctivitis.AmJOphthalmol151:697-702,20116)FukushimaY,NabeT,MizutaniNetal:Multiplecedarpollenchallengediminishesinvolvementofhistamineinallergicconjunctivitisofguineapigs.BiolPharmBull26:1696-1700,20037)MinamiK,FujiiY,KameiC:Participationofchemicalmediatorsinthedevelopmentofexperimentalallergicconjunctivitisinrats.IntImmunopharmacol4:1531-1535,20048)新井基央,中川武正:アレルギー発症の機序と病態.医学と薬学55:5-14,20069)橋本光正,枝浪謙一,内藤聡ほか:Tazanolast(WP-833)代謝物の抗アレルギー作用.日薬理誌95:159-166,199010)KusnerEJ,DubnickB,HerzigDJ:Theinhibitionbydisodiumcromoglycateinvitroofanaphylacticallyinducedhistaminereleasefromratperitonealmastcells.JPharmacolExpTher184:41-46,197311)石崎道治:アレルギー性結膜炎発症のメカニズム.実地医科のためのアレルギー性結膜炎・春季カタル─病因から治療まで─(小暮文雄),p1,12-25,ライフ・サイエンス,1993(108)***

白内障術後のモキシフロキサシン結膜下注射の安全性と有効性―モキシフロキサシン結膜下注射後の前房内薬剤濃度の変化

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)99《第50回日本白内障学会原著》あたらしい眼科29(1):99?102,2012cはじめに白内障をはじめとする眼手術後の感染予防のための抗菌薬投与法としてはおもに点眼が用いられるが,患者自身が点眼することが多くコンプライアンスによる影響を強く受ける.また,手術直後にすでに前房内に10?20%細菌を認める1,2)とされており,術後早期から有効な薬剤濃度を保つことが重要とされる3,4)が,マンパワーなどの面でも早期から全員に点眼を徹底できる施設は限られている.一方,前房内投与5?7)は高い薬剤濃度を達成できるが,持続時間や誤投与の問題8)がある.手術終了時の抗菌薬の結膜下注射ならば患者のコン〔別刷請求先〕松浦一貴:〒683-0854米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学講座Reprintrequests:KazukiMatsuura,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishimachi,Yonago,Tottori683-0854,JAPAN白内障術後のモキシフロキサシン結膜下注射の安全性と有効性―モキシフロキサシン結膜下注射後の前房内薬剤濃度の変化松浦一貴*1魚谷竜*1井上幸次*2*1野島病院眼科*2鳥取大学医学部視覚病態学講座SafetyandEffectofMoxifloxacinSubconjunctivalInjectionforPreventingEndophthalmitisafterCataractSurgeryKazukiMatsuura1),RyuUotani1)andYoshitsuguInoue2)1)DepartmentofOphthalmology,NojimaHospital,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity白内障術後早期から抗菌薬点眼を徹底できる施設は限られている.前房内投与には持続時間や誤投与の問題がある.白内障術後眼内炎予防目的にてモキシフロキサシン結膜下注射後の前房内濃度を測定し安全性,有効性を検討した.家兎結膜下に原液,2倍,4倍モキシフロキサシン0.3mlを注射し,30分,3時間,6時間後に前房水採取した.濃度測定は高速液体クロマトグラフィーを用いた.また,結膜の薬液によるふくらみをスコア化しヒトでのスコアと比較した.原液,2倍では腸球菌の最小発育阻止濃度(0.5μg/ml)に対し3時間値は超えていたが,6時間値は下回っていた.4?5時間までは最小発育阻止濃度を維持できると想定された.結膜のふくらみは家兎では3時間で消失していたが,ヒトでは6時間でも保たれていた.結膜スコアを考慮すれば,ヒトでは結膜下から眼内への薬液補充が行われ,結膜下注射によって有効な抗菌薬濃度を長時間保てる可能性がある.Wereportthesafetyandeffectofmoxifloxacin(MFLX)subconjunctivalinjectionforpreventingendophthalmitisaftercataractsurgery.Following0.3mlMFLXinjectiontothesubconjunctivaof36rabbits,anterioraqueoushumorwasobtainedat30minutes,3hoursand6hoursafterinjectionandexaminedwithhighperformanceliquidchromatography.WecomparedtheconditionofremainingsubconjuntivalMFLXintheanimalstothatinclinicalpatients,usingscoringindex.TheconcentrationintheanterioraqueoushumorwasfoundtoexceedtheminimuminhibitoryconcentrationofEnterococcusfaecalis(0.5g/ml)until4-5hoursafterinjection.Thescoringindexoftheclinicalpatientwasmuchlongerthanthatoftheanimals.ThesubconjunctivalinjectionofMFLXispresumedtobesafeandeffectiveinrabbituntil4-5hoursafterinjection.Theeffectofsubconjunctivalinjectioncanlastlongerinclinicalpatientsthaninanimals.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):99?102,2012〕Keywords:モキシフロキサシン,結膜下注射,眼内炎,白内障手術,前房水.moxifloxacin,subconjunctivalinjection,endophthalmitis,cataractsurgery,anterioraqueoushumor.100あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(100)プライアンスや施設の性質に頼らず安全に術後早期より感染予防に十分な薬剤濃度を長く保てる可能性がある.抗菌薬の結膜下注射は従来から行われているが眼内の薬液動態に関する報告は少ない.そこで,モキシフロキサシン1回の結膜下注射の有効時間と安全性の検討を目的として実験を行った.I方法ペントバルビタール静脈内および腹腔内投与によって麻酔した家兎の結膜下にモキシフロキサシン0.3mlを注射した.結膜下注射する薬液は原液,2倍希釈,4倍希釈の3つの濃度を用いた.結膜下注射後30分,3時間,6時間後に29ゲージ針を用いて経角膜的に前房水0.1mlを採取した.検体は凍結保存し,高速液体クロマトグラフィーにて励起波長(Ex:290nm),蛍光波長(Em:470nm)における蛍光強度を測定した.対数曲線を用い腸球菌の最小発育阻止濃度(0.5μg/ml)を上回る時点までを有効時間と考えた.また,結膜の薬液によるふくらみの状態をスコア化し,ヒトでのスコアと比較した.ヒトでは通常の白内障手術予定患者の術前または術直後にモキシフロキサシンを結膜下注射しその時間経過を観察した.スコア値の定義は薬液によるふくらみが明らかあるいは十分に大きいものを2点,ある程度のふくらみが確認可能なもの1点,ふくらみがないとは言い切れないもの0.5点,ふくらみのないもの0点とした(図1a,b).II結果原液,2倍希釈では腸球菌の最小発育阻止濃度(0.5μg/ml)に対して3時間値は超えていたが,6時間値は下回っていた.4?5時間までは最小発育阻止濃度を維持できると想定される(図2a,b).4倍希釈では3時間値で最小発育阻止濃度程度となった(図2c).ヒトでの結膜スコアは6時間でも1.09点であったが,家兎では3時間で0.41点,6時間では確認不能であった(図3).III考按モキシフロキサシンは,AQCmax(房水内最高濃度値)も高く,抗菌スペクトルも広いため感染予防に対して現在選択可能な最も理想的な点眼液の一つといえる.福田ら9)は,モキシフロキサシンのAQCmaxが9.04μg/mlと高く,点眼後4時間以上にわたって有効濃度が保たれたことを示しているが,これは理想的な環境でのデータである.手術終了時のような浮腫,炎症,出血や流涙などが亢進している環境下で,1滴の点眼が十分に結膜?に留まり実際に有効な前房内濃度を実験的環境下と同様に保てる保証はない.さらに,白内障手術の対象となる患者は高齢者が多く患者自身での点眼指導を徹底することはむずかしい.患者自身あるいは感染に対する知識の浅い医療従事者による早期点眼はかえって新たなリスクとなりかねない.近年,注目されているモキシフロキサシンをはじめとする抗菌薬の前房内注入は,術者自身によっa:ヒトb:家兎2点1点0.5点0点図1スコア値の定義2点:薬液によるふくらみが明らかあるいは十分に大きいもの.1点:ある程度のふくらみが確認可能なもの.0.5点:ふくらみがないとは言い切れないもの.0点:ふくらみのないもの.(101)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012101て術直後に十分な薬液濃度を確実に達成することができる.しかし,結膜?や結膜下に薬液がまったく投与されていないことから,注入直後が最高濃度になり速やかに代謝され作用時間は短いのかもしれない.家兎の前房内投与で4時間以上有効濃度を上回ったとの報告があるが,最初の濃度が750μg/mlとかなりの高濃度である(OwenG,Berna-PerezLF,BrooksAC:Theoculardistributionandkineticsofmoxifloxacinfollowingprophylacticdosingregimensandanintracameralinjectioninrabbits.学会抄録.TheMicrobiologyandImmunologyGroupMeeting,AmericanAcademyofOphthalmology,NewOrleans,Louisiana,USA,November2007).また,前房内投与では高濃度(原液,10倍希釈)を少量(0.1ml)注入する5?7)ため,誤投与の可能性8)や非感染性の物質が前房内に注入されたときに生じる無菌性の眼内炎ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)の発症リスクも懸念される10).筆者らは,結膜下注射された薬剤が数時間にわたって結膜下にとどまって作用することを経験的に知っている.そこで,手術終了時に抗菌薬を結膜下注射すれば患者のコンプライアンスに頼らず術後早期の感染予防に十分な薬剤濃度を安全に長く保てる可能性があると考えた.本実験では,手術終了時の1回の注射が1)最低有効濃度を何時間保つことができるか,2)薬効,安全性の評価のため最高濃度がどの程度まで上昇するかを検討することを目的とした.1.有効時間の検討原液,2倍希釈を用いた場合,約4?5時間まで最小発育阻止濃度を上回るとみられる(図2a).希釈倍率を変えても最高濃度の差はあるものの有効時間の差はそれほどでもなかった.これは長時間にわたる結膜下から眼内への薬液の補充(リザーバー効果)によるものと思われる.結膜のふくらみは家兎では3時間で消失していたが,ヒトでは6時間でも十分に保たれていた.ヒトと家兎の前房内濃度を単純比較できないが,結膜のふくらみの残留状態を考慮すれば,ヒトでは6時間を超えて結膜下からの薬液の補充が行われ,単回の結膜下注射によって十分な抗菌薬濃度を長く保てる可能性がある.2.薬効,安全性の評価(最高濃度)原液の30分値の平均は12.16μg/mlであり,最高値でも024681012012345678房水採取時間(h)モキシフロキサシン(μg/ml)a:原液y=-4.96Ln(x)+8.53モキシフロキサシン(μg/ml)00.511.522.533.544.5012345678房水採取時間(h)b:2倍希釈y=-1.81Ln(x)+3.36モキシフロキサシン(μg/ml)00.511.522.533.544.5012345678房水採取時間(h)c:4倍希釈y=-1.12Ln(x)+1.98図2モキシフロキサシン濃度の時間経過原液,2倍希釈では腸球菌の最小発育阻止濃度MIC90(0.5μg/ml)に対して3時間値は超えていた(a,b)が,6時間値は下回っていた.4倍希釈では3時間値で最小発育阻止濃度以下となった(c).n=55111111n=111200.51.01.52.00.5h2h3h4h5h6h:ヒト:家兎結膜スコア結膜下注射後時間図3結膜下の薬液スコアヒトでの結膜スコアは6時間でも1.09点であったが,家兎では3時間で0.42点,6時間では確認不能であった.102あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(102)20.10μg/mlであった.福田ら9)は15分ごと3回点眼後30分で最高値10.16μg/mlであったとしている.ベガモックスR0.5%点眼液(モキシフロキサシン5,000μg/ml)を前房内に0.1ml注入した場合,前房内で5?10倍希釈されたとして1,000?500μg/mlというかなりの高濃度になるが,この濃度でも安全であったとされている.また10倍希釈を0.1ml注入する報告もあるが,その場合の前房内濃度は100?50μg/mlと想定される.これでもまだ高濃度すぎる印象をぬぐえない5?7).筆者らの結膜下注射の値は種差こそあるもののおおむね頻回点眼と同等であり,十分安全かつ有効であるといえる.抗菌薬を結膜下注射すれば結膜がリザーバーとなり眼内の薬液が代謝,消失しても結膜下から逐次薬液が補充され長時間にわたり高濃度の前房内濃度が維持されるであろうと予想した.早期(30分)での濃度は,頻回点眼と同等もしくはやや高濃度であり,安全かつ有効なレベルといえる.薬液の消失時間が4?5時間程度とさほど長くないことは意外なことであったが,種差による影響が大きいと考える.仮にヒトでの最高濃度が家兎の数倍まで上昇するとしても,過去の前房内注入の報告を考慮すれば危険濃度とは考えられない.今後は,モキシフロキサシン結膜下注射をヒトに応用しその結果を検討したい.文献1)JohnT,SimsM,HoffmanC:Intraocularbacterialcontaminationduringsutureless,smallincision,single-portphacoemulsification.JCataractSurg26:1786-1792,20002)TervoT,LjungbergP,KautiainenTetal:Prospectiveevaluationofexternalocularmicrobialgrowthandaqueoushumorcontaminationduringcataractsurgery.JCataractRefractSurg25:65-71,19993)WadaT,KozaiS,TajikaTetal:Prophylaticefficacyofophthalmicquinolonesinexperimentalendophthalmitisinrabbits.JOculPharmacolTher24:278-289,20084)WallinT,ParkerJ,JinYetal:Cohortstudyof27casesofendophthalmitisatasingleinstitution.JCataractRefractSurg31:735-741,20055)RamonCG,EspirituCR,CaparasVLetal:Safetyofprophylacticintracameralmoxifloxacin0.5%ophthalmicsolutionincataractpatients.JCataractRefractSurg33:63-68,20076)EndophthalmitisSurgeryGroup,EuropeanSocietyofCataract&RefractiveSurgeons:Prophylaxisofpostoperativeendophthalmitisfollowingcataractsurgery:ResultoftheESCRSmulticenterstudyandidentificationofriskfactors.JCataractRefractSurg33:978-988,20077)KimSY,ParkYH,LeeYC:Comparisonoftheeffectofintracameralmoxifloxacinandcefazolinonrabbitcornealendothelialcells.ClinExperimentOphthalmol36:367-370,20088)LockingtonD,FlowersH,YoungDetal:Assessingtheaccuracyofintracameralantibioticpreparationforuseincataractsurgery.JCataractSurg36:286-289,20109)福田正道,佐々木洋,大橋裕一:モキシフロキサシン点眼薬の家兎眼内移行動態─房水内最高濃度値(AQCmax)の測定─.あたらしい眼科23:1353-1357,200610)MamalisN,EdeihauserHF,DawsonDGetal:Toxicanteriorsegmentsyndrome.JCataractRefractSurg32:324-333,2006***

前眼部OCT を用いた白内障術前後での隅角形状変化の解析

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(95)95《第50回日本白内障学会原著》あたらしい眼科29(1):95?98,2012cはじめに近年,眼科手術では小切開化が進み,白内障手術においては極小切開超音波乳化吸引術が可能となっており,術前の前房深度の評価は白内障手術において予想される合併症を含めた術前評価に重要である1).また,狭隅角眼は,急性原発閉塞隅角緑内障をひき起こす可能性があることから,従来は予防的にレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)が行われてきた.近年,LIにかわって白内障手術を行うことにより,隅角開大効果,眼圧下降が得られることが多く報告されている2?5).また,原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)に対して白内障手術を行うことにより眼圧下降が得られることも多く報告されている6?8).〔別刷請求先〕竹前久美:〒232-0024横浜市南区浦舟町4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科Reprintrequests:KumiTakemae,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityMedicalCenter,4-57Urafune-cho,Minami-ku,Yokohama232-0024,JAPAN前眼部OCTを用いた白内障術前後での隅角形状変化の解析竹前久美渡邉洋一郎三條さなえ石戸岳仁光武智子小林志乃ぶ井上麻衣子山根真荒川明門之園一明横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科AnalysisofChangesinAnteriorChamberafterCataractSurgeryUsingAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyKumiTakemae,YoichiroWatanabe,SanaeSanjo,TakehitoIshido,TomokoMitsutake,ShinobuKobayashi,MaikoInoue,ShinYamane,AkiraArakawaandKazuakiKadonosonoDepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityMedicalCenter目的:前眼部三次元光干渉断層計(OCT)SS-1000(CASIA)を用いて白内障手術の術前後の前房形状の変化を解析する.対象および方法:平成22年9月から平成23年3月までの間に当科にて白内障手術を施行した37例48眼(男性14例19眼,女性23例29眼)を対象に,前眼部OCTを用いて術前後の隅角,前房深度を測定した.水平耳側のangleopeningdistance(AOD)500,trabecular-irisangle(TIA)500,前房深度(ACD)を計測し,術前後で比較検討した.また,術前に超音波Aモード検査で測定した水晶体厚,眼軸長と術前後のTIA500,ACDとの相関についても比較検討した.結果:耳側のAOD500は術前0.37mmが術後0.62mmとなり,TIA500は26.89°が42.05°に,ACDは2.58mmが4.38mmに有意に開大した.いずれのパラメータでも術前後で有意差を認め(p<0.0001),術前が狭隅角であるほど術後の隅角開大率は大きかった.また,水晶体厚,眼軸長と術前後のTIA500,ACDとの間には有意な相関関係がみられた(p<0.01).結論:白内障手術は隅角を開大する効果があり,その形態変化は前眼部OCTで客観的に定量できる.Purpose:Toevaluatetheangle-wideningeffectofcataractsurgeryusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography(AS-OCT).Methods:Enrolledinthisstudywere48eyesof37patientswhounderwentcataractsurgery.Temporalangleopeningdistanceat500μm(AOD500),trabecular-irisangleat500μm(TIA500)andcentralanteriorchamberdepth(ACD)weremeasuredpre-andpost-operativelyusingAS-OCT.Lensthicknessandaxiallengthwerecalculatedbeforesurgeryandcomparedwithanteriorsegmentchangesaftersurgery.Results:Allparametersincreasedgreatlyaftercataractsurgery.AOD500was0.37mmbeforesurgeryand0.62mmaftersurgery.Atthesamerespectivetimepoints,TIA500was26.89and42.05°andACDwas2.58and4.38mm.Thechangesweremoresignificantineyeswithnarrowangle.Conclusion:Trabecular-irisangleandanteriorchamberdepthincreasedgreatlyaftercataractsurgery,asimagedandobjectivelyquantifiedbyAS-OCT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):95?98,2012〕Keywords:前眼部OCT,前房形状,隅角開大効果,白内障手術,狭隅角.anteriorsegmentOCT,anteriorchamber,anglewideningeffect,cataractsurgery,narrowangle.96あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(96)これまで,前房深度の評価は古くは検眼鏡所見に始まり,近年では超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)の登場により客観的,定量的に評価できるようになった.しかし,UBMは接触式であるため特に術後は感染のリスクがあり,アイカップに水を満たして行うなど患者の負担は少なくない.また,精度の高い画像,数値を得るためには検者の熟練,技術を要する.最近登場した前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)は,従来のUBMに比較して解像度が向上し,撮像時間も短縮され,低侵襲で外来でより多数の症例を測定できるようになった.今回,筆者らは三次元前眼部OCTであるCASIA(TOMEYCorp.Company,Tokyo,Japan)を用いて,白内障手術前後での前房形状の変化を定量的に解析したので報告する.I対象および方法対象は,2010年9月から2011年3月までに横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科にて,同一術者によって白内障手術〔超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ(以下IOL)挿入術〕を施行された37例48眼で,内訳は男性14例19眼,女性23例29眼であった.患者の年齢は53?91歳で,平均は73.5±8.3(平均値±標準偏差:以下同様)歳であった.硝子体術後や線維柱帯切除術後などの内眼術後の症例,プラトー虹彩症例,ぶどう膜炎に伴う白内障症例および,術中術後の重篤な合併症を併発した症例は今回の対象から除外した.手術は,点眼麻酔下に2.8mmの上方強角膜切開で行った.ソフトシェル法で角膜内皮保護を行い,超音波水晶体乳化吸引術を施行し灌流吸引術を行った.その後,インジェクターを用いて光学径6.0mmのアクリル製折り畳み式IOLを?内固定した.測定はCASIAを用いて術前日と術後1日目に行った(図1a,b).スキャンモードはAnteriorSegmentでHorizontal解析を屈折補正し,耳側隅角についてangleopeningdistance(AOD)500,AOD750,trabecular-irisangle(TIA)500を測定し(図2),中心前房深度(ACD)は角膜後面から水晶体(術後はIOL)前面を測定した.ここで,AOD500は強膜岬から500μm離れた角膜後面から虹彩までの距離を表しており,同様にAOD750は強膜岬から750μm離れた角膜後面から虹彩までの距離を表している.また,TIA500は強膜岬から500μm離れた角膜後面,虹彩と隅角底とのなす角度を表している.測定環境はいずれも同一の明室にて無散瞳下にて行った.TIA500,ACDは(術後パラメータ/術前パラメータ)×100(%)を開大率として計算した.各パラメータの術前後の変化と,TIA500,ACDの開大率を検討項目とした.また,術前のTIA500とTIA500開大率との相関,TIA500,ACDの開大率と術前Aモードで測定した水晶体厚,眼軸長との相関を検討した.II結果37例48眼を対象に,術前後の耳側AOD500,TIA500は術前,術後の順でそれぞれ(0.37,0.62mm),(26.89±11.0,図1a術前の前眼部OCT所見図1b術後の前眼部OCT所見表1白内障術前後の各パラメータの変化術前術後*p値AOD500(mm)0.37±0.180.62±0.20<0.0001AOD750(mm)0.50±0.260.88±0.27<0.0001TIA500(°)26.89±11.042.05±9.31<0.0001開大率(%)171.5±45.7ACD(mm)2.58±0.494.38±0.42<0.0001開大率(%)173.6±22.4*Mann-WhitneyUtest.図2前眼部OCTでの計測(97)あたらしい眼科Vol.29,No.1,20129742.05±9.31°)であり,TIA500開大率は171.5±45.7%であった.ACDは2.58±0.49,4.38±0.42mmとなり,ACD開大率は173.6±22.70%であった.測定したすべてのパラメータが術前後で有意に増加した(表1).術前の水晶体厚の平均値は4.58±0.61mm,眼軸長は23.00±1.19mmであった.術前TIA500と術後TIA500開大率との間には有意な相関がみられ(相関係数,以下r=?0.87,p<0.01),術前の隅角が狭いほど術後により開大する結果となった(図3).また,術前の水晶体厚とTIA500開大率との間,術前水晶体厚とACD開大率との間にも,また眼軸長とTIA500開大率との間,眼軸長とACD開大率との間のいずれにも有意な相関関係がみられた(図4).III考按筆者らは,今回の研究により術前水晶体厚が厚く,眼軸長が短い症例ほど,術後の隅角は開大しやすいという結果を得た.筆者らが対象とした症例は術前のTIA500が11.4?59.7°であり,狭隅角眼のみを対象としたものではなかったが,先に示した結果は,PentacamR(Oculus社)を用いて白内障術前後での前房深度の変化を検討した草野らの報告10)と比較してほぼ同等のものであった.これは,同じくTIA500が25°以下の症例を対象に前眼部OCTVisanteTM(CarlZeissMeditec社)を用いて白内障術前後の前房形状の変化を解析した橋本らの報告11),狭隅角眼を対象にUBMにて白内障手術による隅角開大効果を検討したNonakaらの報告5)とも同様の結果となった.今回の結果の要因としては,過去の報告と同様に水晶体をIOLに置換することで術前よりも虹彩が後方移動してより平坦に近い形状となり,隅角も開大することが考えられる.また,水晶体に比べIOLは非常に薄いこと,IOLのループの角度などにより前房深度が深くなるといったことが理由と考えられた12).従来,非接触型の前眼部解析装置で,前眼部を三次元に解析できるものとしては,回転式Scheimpflugカメラの原理を採用したPentacamRが用いられてきた.PentacamRは短時間で非侵襲的に前房深度,前房容積,隅角の測定が可能であるが,強角膜輪部付近での乱反射が起こることによって,隅角底および毛様体の描出は不可能である.原発閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC),PACG,原発閉塞隅角緑内障疑い(primaryangle-closureglaucoma:PACS)に対する治療および予防的治療を選択するうえで,相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩の鑑別が重要であるが,PentacamR図4相関関係(Spearmanrankcorrelationcoefficientすべてp<0.05)10015020025030023456水晶体厚(mm)TIA500開大率(%)r=0.5310015020025023456ACD開大率(%)水晶体厚(mm)r=0.751001502002503002022242628TIA500開大率(%)眼軸長(mm)r=-0.261001502002502022242628ACD開大率(%)眼軸長(mm)r=-0.47a:水晶体厚とTIA500開大率との相関関係b:水晶体厚とACD開大率との相関関係c:眼軸長とTIA500開大率との相関関係d:眼軸長とACD開大率との相関関係1001502002503000204060TIA500開大率(%)r=-0.87術前TIA500(°)図3術前TIA500と術後TIA500開大率(Spearmanrankcorrelationcoefficientp<0.01)98あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(98)ではそれがむずかしい.一方,今回筆者らが測定に用いたCASIAはスエプトソースOCTであり,2.4秒の撮像時間で三次元画像を構築可能である.同じく前眼部OCTであるタイムドメイン方式のVisanteTMと比較すると,両者とも非侵襲的で簡便であることは同等であるが,軸方向の分解能がVisanteTMが18μmであるのに対しCASIAは8μm,横方向の分解能はVisanteTMが60μmに対しCASIAは30μmで,CASIAのほうが分解能が高くより鮮明な画像が得られ,三次元画像が構築できることも大きな相違点である.また,CASIAは隅角底,毛様体の描出も可能であるうえ,同じく隅角底,毛様体の描出に優れており従来から広く使われているUBMと比較しても解像度の点でもすぐれており,強膜岬の描出がUBMより鮮明である.先述したようにCASIAとUBMとの一番の相違点は,接触型か否かである.UBMでは患者を仰臥位にしてアイカップに水を満たし,直接患者の眼球に触れて測定するのに対して,CASIAは座位にて短時間で簡便に行え,眼球に直接触れないため測定時に前房の形状に影響を与えにくい.今回の検討のように,術後の前房形状を測定するには感染の心配もなく,優れているといえる.術前の前房形状の解析は,破?,眼圧上昇,内皮障害など一般的な白内障手術の術中術後合併症の予測や,PAC,PACG,PACSなどの疾患などに対する予防的治療を行うためにも非常に有用である.今回筆者らが用いたCASIAは,狭隅角眼や白内障術前後の前房形状を評価するのに非常に有用な機器である.従来の方法よりも非侵襲的でより正確な定量化が可能なCASIAを用いての前房の評価が,今後は主流になっていくのではないかと思われた.今回の検討では,白内障手術は隅角を開大する効果があり術前水晶体厚が厚く眼軸長が短い症例ほど,術後の隅角開大率が高いという結果となった.隅角の狭い症例で白内障手術を行う時期を決める際には,水晶体厚,眼軸長を計測し,水晶体が厚く眼軸長の短い症例の場合は早期の手術適応の可能性が高いと思われた.文献1)岡奈々:ペンタカムR.眼科手術18:365-367,20052)DawczynskiJ,KoenigsdoerfferE,AugstenRetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomographyforevaluationofchangesinanteriorchamberangleanddepthafterintraocularlensimplantationineyeswithglaucoma.EurJOphthalmol17:363-367,20073)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsificationversusperipheraliridotomytopreventintraocularpressureriseafteracuteprimaryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,20084)HataH,YamaneS,HataSetal:Preliminaryoutcomesofprimaryphacoemulsificationplusintraocularlensimplantationforprimaryangle-closureglaucoma.JMedInvest55:287-291,20085)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocessconfigurationaftercataractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalomology113:437-441,20066)ActonJ,SalmonJF,ScholtzRetal:Extracapsularcataractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinprimaryangle-closureglaucoma.JCataractRefractSurg23:930-934,19977)GunningFP,GreveEL:Lensextractionforuncontrolledangle-closureglaucoma:Long-termfollow-up.JCataractRefractSurg24:1347-1356,19988)RobertsTV,FrancisIC,LertusumitkulSetal:Primaryphacoemulsificationforuncontrolledangle-closureglaucoma.JCataractRefractSurg26:1012-1016,20009)MemarzadehF,TangM,LiYetal:Opticalcoherencetomographyassessmentofangleanatomychangesaftercataractsurgery.AmJOphthalmol144:464-465,200710)草野真央,上松聖典,築城英子ほか:白内障単独手術,白内障硝子体同時手術における術前後の前房深度の変化.臨眼62:351-355,200811)橋本尚子,原岳,成田正也ほか:狭隅角眼に対する白内障手術の隅角開大効果.あたらしい眼科27:1133-1136,201012)新井三樹,雑喉正泰,久野理佳ほか:後房レンズ?内固定眼における術後前房深度の経時的変化.臨眼48:207-210,1994***

多焦点眼内レンズ不満足症例の検討

2012年1月31日 火曜日

90(90あ)たらしい眼科Vol.29,No.1,20120910-1810/12/\100/頁/JC(O0P0Y)《第50回日本白内障学会原著》あたらしい眼科29(1):90?94,2012cはじめに多焦点眼内レンズ挿入術は通常高い患者満足をもたらす1,2)が,なかには術後に不満を訴える症例がある3,4).そのような症例を未然に防ぐべく患者適応についてさまざまな工夫がこらされている5)が,不満足症例は根絶されていない.そこで筆者らは多焦点眼内レンズ挿入例における不満足症例の発生率を調べ,その患者背景と不満足の原因を検討したので報告する.I対象および方法横浜南共済病院において,平成20年7月から平成23年3月までの間に十分な説明と同意のもと同一術者により多焦点眼内レンズを挿入された連続症例62例118眼〔男性22例40眼,女性40例78眼,年齢:33?90歳(平均64.4±17.6歳)〕を対象とした.術後1カ月の時点で患者アンケートを実施し,多焦点眼内レンズの満足度を5段階(大変満足,満足,どちらでもない,不満,大変不満)で評価してもらい,不満例については患者背景や術前後の視力について検討し,不満足の理由について別途詳細な聞き取りを行った.なお,タッチアップを行った症例に関しては,タッチアップ後1カ月の時点で評価した.II結果患者アンケートの結果を図1に示す.大変満足,満足が56例(90.3%),どちらでもないが1例(1.6%),不満,大変不満が5例(8.1%)であり,全体としては,90%以上の症例〔別刷請求先〕樋口亮太郎:〒236-0037横浜市金沢区六浦東1-21-1横浜南共済病院眼科Reprintrequests:RyotaroHiguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinami-KyosaiHospital,1-21-1Mutsuura-higashi,Kanazawa-ku,Yokohama236-0037,JAPAN多焦点眼内レンズ不満足症例の検討樋口亮太郎翁長正樹竹内正樹横浜南共済病院眼科EvaluationofUnsatisfiedPatientsafterMultifocalIntraocularLensImplantationRyotaroHiguchi,MasakiOnagaandMasakiTakeuchiDepartmentofOphthalmology,YokohamaMinami-KyosaiHospital目的:多焦点眼内レンズ挿入例における不満足症例の発生率を調べ,その患者背景と不満足の原因を検討すること.対象および方法:横浜南共済病院において多焦点眼内レンズを挿入された62例118眼.術後1カ月の時点で患者アンケートを実施し,多焦点眼内レンズの満足度を5段階で評価してもらい,不満例についてはその理由について詳細な聞き取りを行った.結果:62例中5例(8.1%)が不満足であった.術後の両眼裸眼遠方視力は0.7?1.2,両眼裸眼近方視力は0.3?1.0であった.不満足の理由は,新聞が読めない,だぶって見える,どこも見えず憂鬱,など多彩であった.1例では,タッチアップにより裸眼視力が大きく向上したにもかかわらず,満足度の改善が得られなかった.結論:不満足症例は全例神経質な患者であったが,術後の視機能にはばらつきがあり,必ずしも術後裸眼視力が悪いために満足度が低いという傾向はみられなかった.どんなに厳密な術前検査や患者教育を行って潜在的な不満足リスク症例を除外しても,一定の頻度で不満足症例は発生するものと思われた.Westudiedtheproportionofpatientswhowereunsatisfiedaftermultifocalintraocularlensimplantation,andinterviewedthem.Of62patientswhohadundergoneimplantation,5(8.1%)wereunsatisfied.Theiruncorrectedvisualacuityrangedfrom0.7to1.2,uncorrectednearacuityfrom0.3to1.0.Theirreasonsforbeingunsatisfiedwerevaried.Onepatientwasunsatisfiedevenaftertouch-uptherapy,withuncorrectednearacuitymuchimproved.Wefoundnocommontendencyamongthosepatientswhowereunsatisfied.Nomatterhowattentivewearetoavoidingpotentialunsatisfiedpatients,wearestilllikelytoencounterthem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):90?94,2012〕Keywords:多焦点眼内レンズ,不満足症例.multifocalintraocularlens,unsatisfiedcases.(91)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201291で満足が得られた.満足群と不満足群の比較を表1に示す.年齢,性別,瞳孔径,Schirmerテスト,ハロー,グレアの比率に大きな差はみられなかった.不満足症例の患者背景を表2にまとめた.全例皮質混濁を伴い術前視力は低下していた.挿入された眼内レンズはSN6AD3が3例,ZMA00が2例であった.術後角膜乱視は0?1.50Dであり(1例はタッチアップ後),残余乱視が強い傾向もみられなかった.不満足症例5例の術前後の視力を図2に示す.裸眼遠方視力は全表1満足群と不満足群の比較年齢(歳)男女比(男:女)瞳孔径(mm)Schirmer(秒)術後屈折誤差(D)グレア,ハロー(%)Waxyvision(%)満足群(n=57)33~90(64.4±17.7)16:411.5~4.5(3.41±0.60)*2~15(7.90±0.33)*0~0.75(0.22±0.18)*82.35.2不満足群(n=5)61~80(69.8±9.41)2:33.0~4.0(3.40±0.39)*3~18(9.80±5.28)*0~0.50(0.24±0.23)*8020*平均±標準偏差.大変満足,満足90.3%どちらでもない1.6%不満,大変不満8.1%図1多焦点眼内レンズの満足度0.11術前術後0.11術前術後裸眼遠方視力裸眼近方視力視力視力全例で0.7以上1例を除き0.8以上図2不満足症例の視力変化表2不満足症例の患者背景症例年齢性別術前視力白内障(核硬化度,混濁)眼内レンズ術後視力180歳女性VD=0.3(0.6×?0.50cyl?1.00Ax70)VS=0.4(0.6×?0.50cyl?1.00Ax90)NVD=0.2(0.2×+2.50cyl?1.00Ax70)NVS=0.1(0.1×+2.50cyl?1.00Ax90)2.5,皮質混濁2.5,皮質混濁SN6AD3(両眼)VD=0.7(0.9×+0.50cyl?1.00Ax100)VS=0.7(1.0×+0.50cyl?1.25Ax70)NVD=0.4(0.7×0.50cyl?1.00Ax100)NVS=0.3(0.6×+0.50cyl?1.25Ax70)261歳女性VD=0.1(0.5×cyl?2.00Ax90)VS=0.3(0.6×cyl?0.75Ax50)NVD=0.2(0.3×cyl?2.00Ax90)NVS=0.1(0.2×cyl?0.75Ax50)1.5,皮質混濁,後?混濁1.5,皮質混濁,後?混濁SN6AD3(両眼)VD=1.0(1.0×cyl?1.00Ax90)VS=1.0(1.0×cyl?0.50Ax50)NVD=0.6(0.6×cyl?1.00Ax90)NVS=0.5(0.8×cyl?0.50Ax50)365歳女性VD=0.2(0.6×+1.25cyl?0.50Ax100)VS=0.15(0.8×+2.50cyl?1.50Ax90)NVD=0.2(0.2×+2.50cyl?1.00Ax70)NVS=0.1(0.1×+2.50cyl?1.50Ax90)2.0,皮質混濁2.0,皮質混濁SN6AD3(両眼)VD=0.7(1.0×+0.50)VS=1.0(n.c.)NVD=0.5(0.7×+0.50)NVS=0.7(0.8×+0.50)480歳男性VD=0.6(0.9×+1.75cyl?2.25Ax90)VS=0.6(1.0×+1.00cyl?2.50Ax90)NVD=0.1(0.6×+4.75cyl?2.25Ax90)NVS=0.1(0.6×+4.75cyl?2.50Ax90)2.5,皮質混濁3.0,皮質混濁ZMA00(両眼)VD=1.2(n.c.)VS=1.0(n.c.)NVD=1.0(n.c.)NVS=0.8(n.c.)563歳男性VD=0.15(0.5×?2.75cyl?0.50Ax30)VS=0.06(1.2×?4.00)NVD=0.6(0.6×+0.25cyl?0.50Ax30)NVS=0.6(0.8×?1.00)2.0,皮質混濁2.0,皮質混濁ZMA00(両眼)VD=1.0(1.2×+0.50)VS=0.5(1.2×+0.50)NVD=0.7(0.8×+0.50)NVS=0.6(0.8×+0.50)92あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(92)例で術前より改善し0.7以上を得ていた.裸眼近方視力も同様に全例で術前より改善し,1例を除き0.8以上を得ていた.表3は不満足症例の詳細である.不満足症例5例はすべてやや不満(2/5)であり,大変不満と回答した症例はなかった.ハロー,グレアはほとんどの症例で認められ,かつ気になると回答したが,それが不満足の直接の原因かと聞くと全員がそうではないと回答した.Waxyvisionは症例3のみに認められたが,この訴えは大変に強く不満の主因であった.以下に代表症例を提示する.〔症例1〕80歳,女性.白内障手術目的で近医から紹介された.術前の両眼裸眼視力は遠方,近方それぞれ0.5と0.2であった.白内障はEmeryLittle分類(E-L)G2.5と皮質混濁を認めた.院内ポスターで多焦点に興味をもち挿入希望となった.高齢で慣れるまでに時間がかかること,角膜乱視が1.25Dのため,タッチアップの可能性を十分に説明したうえで多焦点眼内レンズを選択し,耳側2.8mm切開でSN6AD3を挿入した.術後両眼裸眼視力は遠方,近方それぞれ0.7と0.3となった.残余乱視と矯正視力を示しタッチアップの必要性を改めて説明したが,「怖いからやりたくない」「検査も受けたくない」と拒否的なため施行できていない.〔症例2〕61歳,女性.白内障手術目的で近医から紹介された.術前の両眼裸眼視力は遠方,近方それぞれ0.4と0.2であった.白内障はE-LG1.5と皮質および後?下混濁を認めた.院内ポスターで多焦点に興味をもった.極端に神経質な患者だったため,面談で多焦点の欠点を強調して単焦点を選択させるように誘導したが,多焦点の希望が強く適応となった.耳側2.2mm切開にてSN6AD3を挿入した.術後両眼裸眼視力は遠方,近方それぞれ1.0と0.7と著明に改善したが,「全然よくならない」「近くも遠くも見えない」「毎日が憂鬱」と訴えた.ハロー,グレアのため見えないのか尋ねると,そうではないと回答するものの,詳細に理由を聞こうとしても質問自体を受け付けてくれない拒否的な態度に終始した.〔症例4〕80歳,男性.白内障手術目的で近医から紹介された.術前の両眼裸眼視力は遠方,近方それぞれ0.6と0.2であった.白内障はE-LG2.5/3.0と皮質混濁を認めた.白内障手術説明会で多焦点に興味をもち,挿入希望となった.高齢で慣れるまでに時間がかかること,角膜乱視が2.25D/2.50Dのため,タッチアップが必ず必要になることを十分に説明したうえで,多焦点眼内レンズを選択した.耳側2.8mm切開にてZMA00を挿入した.術後両眼裸眼視力は遠方,近方それぞれ0.7と0.6となった.3カ月後にタッチアップを施行し,遠方,近方それぞれ1.2と1.0となった.しかし,なんとなくすっきりしない,見づらいと訴えつづけた.III考按平成20年にわが国でも認可された多焦点眼内レンズは,当初は一部の限られた医療機関でのみ挿入されていたが,今日では広く普及している.コントラスト感度改善やneuroadaptationのしやすさなどから両眼挿入が勧められているが,近年では片眼症例でも良好な成績が報告され6),その適応は徐々に拡大している.しかし,症例数が増加すれば,多焦点眼内レンズが本来含有する欠点が露呈し不満足を訴える症例に遭遇するケースも増える.当院でも症例数が増加するにつれ不満足症例を経験したため,その発生率と原因について検討し,患者背景などで一定の傾向がつかめれば当該症例の不満解決への道筋が立てやすくなるばかりでなく,今後の患者説明や患者選択の一助になりうると考えて当研究を行った.そもそも当院では白内障手術患者全員に多焦点眼内レンズの存在を告知してはいるものの,それほど積極的に推奨してはいない.多焦点眼内レンズの希望者は,外来主治医による表3不満足症例の詳細症例満足度ハロー,グレアWaxyvision眼鏡装用不満の詳細12/5────近くが見えないタッチアップは怖いからやりたくない22/5+:気になる+:気になる──全然よくならない,毎日憂鬱検査も受けたくない32/5+:気になる+:気になる+:気になる─曇りガラスごしに見ているみたい新聞が読めない42/5+:気になる+:気になる──なんとなく見づらいだぶった感じが取れない52/5+:気になる+:気になる──コントラストが悪い感じ(93)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201293多焦点の適応判断とおおまかな患者説明の後,視能訓練士(ORT)が行う多焦点眼内レンズ勉強会に必ず参加する.これは多焦点眼内レンズ挿入に必要な種々の視力検査,瞳孔径検査,Schirmerテストなどに加え,患者用の説明ビデオ供覧,患者アンケート,ORTによる患者ライフスタイルの詳細な聞き取りや多焦点眼内レンズの長所,短所の説明からなり,約1.5時間程度を要する.その後眼科部長診察にて,前述のデータをもとにしてさらに詳細な説明と問診を行い,最終的に手術適応を判断する.この結果,当院における多焦点眼内レンズ挿入者の割合は,同時期に眼内レンズ挿入術を施行された2,754例3,123眼の2.3%にすぎなかった.このように厳重な手術適応のもとでも不満足症例は5例8.1%にみられた.乱視などで術後視力が悪い症例や,眼鏡装用症例に多いであろうとの予想をしていたが,術前角膜乱視などの患者背景は一定しておらず,術後の視機能にもばらつきがあり,必ずしも術後裸眼視力が悪いために満足度が低いという傾向もみられなかった.眼鏡装用率とも無関係であった.この5例の不満足の原因をおおまかに分類すると,症例3のようにwaxyvisionという回折型眼内レンズ特有の欠点に起因するものと,症例1,2,4のような患者の性格に起因するもの,とに分けられた.要求水準が異常に高い(症例4)症例や,いったん「見えない」と感じると,以後の検査や医療行為に非協力的,拒否的になる(症例1,2)など,その後の検査,診察,面談で非常に難渋した症例であった.しかし両者は互いにオーバーラップしており,症例3も術前からくり返しレンズの性能限界は説明していることから,結局は性格に起因するものがほとんどであった.症例3は術前から皮質混濁を有し術前矯正視力も低下しており,なぜ術後にwaxyvisionで強い不満を訴えたのかは不明である.草場らは,回折型多焦点眼内レンズ挿入後にwaxyvisionを訴えた症例にピロカルピン点眼を処方し症状が改善した症例を報告している7)が,屈折型レンズのハロー,グレアに対してピロカルピン点眼は有効かもしれないが,回折型レンズにおけるwaxyvisionに対してピロカルピン点眼が有効となる作用機序ははっきりしない.では,今後いかにしてこれらの不満足症例をなくしていけるかだが,大きく分けて「潜在的な不満足症例をあらかじめ除外する」ことと「それでも生じた不満足症例をできるだけ満足させる」ことになる.今回の結果と現在のレンズ性能を前提に考えると,神経質な患者はすべて禁忌とするのは有効と思われる.今回の5症例はいずれもアンケートで「自分は神経質なほうか否か」との問いに対して「神経質なほう」と答えていた.しかし,神経質でも高い満足を得られている症例も多いことから,それだけではいたずらに多焦点眼内レンズ挿入の適応を狭めてしまう.そこでつぎに,「神経質」かつ「多焦点の見え具合に満足できない」患者群を選別する必要がある.多焦点眼内レンズによる見え具合を仮体験できるような装具(たとえば,ハロー,グレア眼鏡,waxyvision眼鏡など)があれば,多少の助けにはなるであろうが,術前には当然白内障があるので,これにも限界がある.詳細な術前インタビューで特異なキャラクターをもつ患者を峻別するのは大変重要だが,30分程度の面談で当研究の5症例のようなケースを選別するのは非常に困難であるうえ,症例2のように禁忌と判定して単焦点眼内レンズへ誘導しても,患者自身が頑なに多焦点を希望するケースもある.ついで,生じてしまった不満足症例をできるだけ満足させる方法であるが,これには経過観察,タッチアップや眼内レンズの交換などがあげられる.飯田らは,優位眼のみの単焦点への交換で良好な結果を報告している8).しかし,当研究では,症例4のようにタッチアップ後も強い不満が残存した例や,症例1,2のように,タッチアップやレンズ交換など,外科的処置そのものを拒否する症例がみられたことから,外科的処置にも限界がある.つまり,どんなに厳密な術前検査や患者教育,患者説明を行って潜在的な不満足リスク症例を除外しても,一定の頻度で不満足症例は発生するものと思われた.当研究の問題点は,1つ目は当院にはコントラスト感度計がないため,コントラスト感度のデータがないことである.ただし,症例3,5については,借用したコントラスト計(CGT-2000,TAKAGI製)にて術後のみ測定できた.いずれも薄暮下,グレアランプオフでは,正常範囲内であったことから,必ずしもコントラスト低下が患者満足度低下の直接的な要因とはいえないと考えられた.大内は潜在的な不満足患者の出現の原因について,回折型多焦点眼内レンズによる視覚安全域の狭小化と個々の患者の視覚ポテンシャルの高低の関係で生じうるという興味深い概念を提唱している9)が,術前から視覚ポテンシャルの低下した患者を選別するのはやはり困難である.2つ目は,満足度の判定が術後1カ月でなされており,その後の経過がないことである.Neuroadaptationには長期間を要することが知られており,今後,長期経過を報告していく予定である.今回の筆者らの結果でも,多焦点眼内レンズの患者満足度は高く,多焦点眼内レンズの有用性は十分に確認されたことから,筆者らは今後とも多焦点眼内レンズ挿入手術を継続していき,不満足症例がさらに増加した際はその原因について統計学的解析も行っていく予定である.文献1)SouzaCE,MuccioliC,SorianoESetal:VisualperformanceofAcrysofReSTORapodizeddiffractiveIOL:Aprospectivecomparativetrial.AmJOphthalmol141:94あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(94)827-832,20062)Gierek-CiaciuaS,CwalinaL,BednaskiLetal:Acomparativestudyofthevisualresultsbetweenthreetypesofmultifocallenses.GraefesArchClinExpOphthalmol248:133-140,20103)藤田善史:多焦点眼内レンズレストアの術後成績.あたらしい眼科25:1071-1075,20084)根岸一乃:白内障手術後多焦点眼内レンズ挿入眼の術後視機能に対する不満とその対処方法.IOL&RS23:34-37,20095)柴琢也:多焦点眼内レンズセミナー8.多焦点眼内レンズ術前アンケート調査.あたらしい眼科27:1085-1086,20106)樋口亮太郎,平田菜穂子,竹内正樹:多焦点眼内レンズの片眼挿入例と両眼挿入例の比較検討.臨眼65:843-846,20117)草場喜一郎,真野富也:屈折矯正手術セミナースキルアップ講座-128.ハロー,グレアの点眼治療.あたらしい眼科28:81-82,20118)飯田嘉彦,清水公也:多焦点眼内レンズの問題点.眼科53:649-654,20119)大内雅之:多焦点眼内レンズ,光と陰.IOL&RS23:54-58,2009***

後期臨床研修医日記 15.京都大学医学部付属病院眼科学教室

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012750910-1810/12/\100/頁/JCOPYholeを見逃さない,PVD(後部硝子体?離)を見逃さない,を目標に励んでいます.外来―専門外来の数だけ謎がある―毎週水曜と金曜が手術日で,それ以外は半日,外来のどこかに組み込まれています.視力測定の日,視野検査の日,外来補助の日,検査室の日などなど.京大眼科の外来の特徴は検査機器が多いことで,OCT(光干渉断層計)だけで9台もあり,また視細胞を観察するAO-SLO,AO(補償光学)カメラなんてのもあります.外来はdutyworkですが,カルテ・所見の書き方,多様な疾患の画像所見,眼底所見とOCTの照合,など,検査を回しながらも勉強させていただいています.もう少し余裕が出てきて,専門外来や各カンファランスの見学などもできたら楽しいだろうなぁと目論んでいます.(75)京都大学医学部附属病院眼科学教室では,今年(2011年)の4月から5名の後期修練医が新しく加わり,眼科医の卵として日々研鑽に励んでいます.多種多様な分野に分かれた多くの先生方に囲まれて,毎日病棟に外来にと大忙しですが,充実した研修生活を送っている私たちの日常の様子を少しだけ紹介させていただきたいと思います.病棟―朝の敵は患者さんの朝食―私たちの朝は病棟から始まります.朝7時にナースステーションへ行くと,看護師さんたちは朝の巡回中で誰もおらず,7時半に行くと巡回が終わってバタバタしている看護師さんが多くなります.8時に行くと申し送り中で厳かな雰囲気を醸し出し,8時半では申し送りが終わって再度バタバタしている,そんな病棟です.出勤時間は人によって幅があり6時半?9時と自由な感じです.例年は修練医が10人近くいるので8時過ぎが当たり前!だったのですが,今年は5人と少ないため1人当たりの担当が多く,7?8時にはほぼ到着しています(それでも昔に比べると随分遅い…?).診察―これが一番重要―現在病棟暗室のスリット台は,2部屋に分かれて合計9台〔回診用スリット,EKC(流行性角結膜炎)診察用スリット,レーザースリット含む〕とかなり充実しています.2年前に暗室が改装されており,ゆとりある快適空間です.台数も修練医の数より圧倒的に多いので,取り合いや空き待ちがなくゆっくり診察できます.お気に入りはHaagのスリット台.倒像鏡の解像度が高いため前房内のcellが見やすく,またステレオバリエータをオンにすれば,オフ時の3倍という双眼視野で眼底観察を楽しんでいます.マイレンズはハ○ットプレシビューEV100Dという国産の珍しいものを使っていて,V○LKSuperfieldNCより視野が広く見えます.Periの●シリーズ⑮後期臨床研修医日記京都大学医学部附属病院眼科学教室吉川宗光▲広くなった暗室にて(左より順に吉川,高橋,吉武,三輪,大田)76あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(76)カンファランス―簡潔をモットーに―毎週月木は夕方からカンファランスがあります.教室全員で手術予定患者さんの病態把握,治療方針の最終決定が行われるため,カンファランスまでにスケッチ,必要な検査,現病歴を準備して臨みます.眼科の特徴は,現病歴がとにかく短いこと.「見れば分かる」というスタンスで,そのためスケッチが大事になってきます.「絵心がない」と嘆かれることもありますが,運が良いと自分の担当症例についてスタッフの先生方が最新の知見を交えて熱く議論されたりと,とても勉強になります.手術―MEさんがいるから安心―毎週水金は手術日です.朝から晩まで,2列で手術の介助をします.ひたすら水掛け…ではなく,目的をもって介助をしていないと叱られます.ちなみに使用機器はほとんどディスポ扱い!レーザーもディスポ扱いなので,真新しい機器で贅沢に手術しています.すべてのオペにME(臨床工学技師)さんが入ってくれるのは少々過保護な気がしないでも….今年は5人しかいないので介助に入っている率が高く,遅いときには11時頃まで手術をしています.もちろん入院患者さんも担当しますので,手術の合間に診察できなければ,すべてが終わってから夜遅くに「はじめまして」と挨拶をすることに.しかし,これまた昔は夜中の3時まで手術をしていたこともあったとか?!今年の修練医―少なくても楽しい毎日―今年は男性3人,女性2人で,全員血液型A型という珍事態?です.性格は几帳面であること以外は本当に多様で,土曜の朝から医局の冷蔵庫を丸洗いしている人,病棟のフローレス試験紙を半割にしないと気が済まない人,救急救命から思い切って転科して来た人,マイ倒像鏡を買おうか真剣に悩んでいる人…勿論,超しっかり者のお姉さんもいます.数は少なくても多種多様,将来立派な研究者or「Godhand」Surgeonになるべく,これからも研鑽に励んでいきますので,どうぞよろしくお願いいたします.吉川宗光(よしかわむねみつ)京都大学医学部卒業,北野病院にて初期臨床研修,平成23年4月より京都大学医学部附属病院眼科学教室後期修練医.〈プロフィール〉入院―回転は早くないのでゆっくりできる―多い日では10人ほどの入院があり,修練医1人当たりに1?3人が割り当てられます.フリーな時間に診察して,カルテを書き,治療方針を上級医の先生に教えていただきます.眼底観察がメインですが,かなり時間をかけてゆっくり見るのが京大眼科の特徴です.市中病院とは違い,京大病院では入院時の患者さんはoraserrat(鋸状縁)近傍の追える所まで血管を追ってスケッチをすることになっているので,とにかく長いです.?離の患者さんの血管走行を夢中で追っていると,気付けば1時間以上経っていたなんてことも.また,患者さんの入退院がゆっくりしていて,両眼白内障手術なら2週間程度,ガスを注入した人はガスがなくなるまで入院しているというのも特徴です.回診―眼科は患者さんが来てくれるから楽だ―毎週月木は教授,准教授回診です.入院中の患者さんを全員診察されるので,それまでにサマリーを書いてプレゼンの準備をします.モニターに映像が映るので全員で見られるのですが,?離の患者さんなどでは私たちに見えてなかった穴や薄い?離を指摘されたりするので,回診前は眼底所見に見落としがないか,入念なチェックは欠かせません.でも,1時間かけても穴が見つからなかったときや,カルテに自信満々attachedと書いた患者さんのときに,「ん?」と仰られることや数十秒で「こことここに開いていますね」「これ浮いてますね」と言われることもあり,「きわめればこうなるのか」と只々感激する日々を送っています.▲修練医室の窓からの風景(京都五山も一望できます)(77)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201277☆☆☆指導医からのメッセージ今年も個性的でやる気あふれる5名の新人を迎えることができて大変喜んでいます.研修医時代は大変だと思います.私も朝から晩まで病棟,外来,手術室と駆け回って毎日ヘトヘトになって過ごしていたことが思い出されます.しかし,この時期に見て,聞いて,触れて体験したことは今でも鮮明に記憶しています.同期の仲間と同じ時間を過ごしてお互いに学びあい,また兄貴分,姉貴分の先生方から御指導を賜ったことは,今の眼科医としての私の基礎を作っているものであり,一生の財産となっていることに疑いの余地はないと確信しています.今まさに私たちの仲間となった皆さんにも同じ経験をしていただきたいし,そのための環境づくりに貢献できれば私は嬉しく思います.ぜひ,濃密でしかし短いこの研修医時代を謳歌してください!(京都大学大学院医学研究科眼科学・助教宇治彰人)

眼研究こぼれ話 25.網膜血管の研究 落葉の栞にヒント

2012年1月31日 火曜日

(73)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201273網膜血管の研究落葉の栞にヒントもう15年も前のことだが,網膜の血管をなんとかして簡単に研究したいものだと考えていた.血管を顕微鏡で見る場合,普通の薄い切片を材料とすると,数百枚の標本を調べても1ミリの数分の一くらいの範囲しかわからない.また昔からよく用いられる墨汁注入法であるが,これで見ると,注入された墨汁が見えるのであって,血管そのものは見えない.また墨汁の入って行かない病変部は見ることが出来ない.なんとかして広い範囲の血管そのものを,一望のもとに観察したいと念じていたのである.腐りかけた落ち葉の葉肉がすっかり無くなり,筋だけが残っているのを見ることがある.また,土産物屋などで,きれいな色づけをした筋ばかりの木の葉の栞(しおり)を売っている.網膜が,約0.5ミリ前後の薄い膜状の組織であること,またその中に血管が木の葉脈のように広がっていることに思い当たり,網膜から血管以外の物質を,そっとふり落とせばどうだろうと考えついた.それには,トリプシンというタンパク質を分解する膵(スイ)臓の分泌物を薄めて使えばいいに違いないと考えた.実は,ものごとはこんなに簡単に進んだわけではない.内証の話だが,ある日,冷蔵庫に入れ忘れたサルの網膜が水の中でふやふやになって,血管が組織から離れているのに気がつくまでには,約1年以上もいろいろの工夫を重ねていたのである.出来上がってみると万事実に簡単で,今まで重要であることはわかっていながら,積極的に手をつけることの出来なかった網膜血管系の研究が,どんどんと出来るようになった.取り出された血管系は顕微鏡の下で,全貌(ぼう)を細部にわたって見せてくれ,今まで不明であった病変やその発生過程をはっきりと提供してくれた.特に,血管そのものの細胞変化を高い倍率で観察出来るのが強みで,現在,世界中の人々が,この方法を盛んに利用している.その年の夏にはこの成果を全米医学会に出して,メダルを受賞したり,なんともその後,2,3年は苦労なしに,次々と面白い学説をたて,人々の喝采(かっさい)を受けたりした.そんなとき,この道の大家であるロンドン大学のアシュトン教授を訪れてみた.この純イギリス式の偉い先生が私に前もって,とってくれていた面会時間は30分であったが,私の血管標本を見た老大家はとび上がるように驚0910-1810/12/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載▲筆者の考案で作られた網膜の血管標本.上は弱拡大で広い場所の血管網を見せている.大きな黒い線は動脈.網の目は毛細管.下の写真は約500倍に拡大した毛細管.細胞の核が黒々と見える.2種類の異常細胞のあるのがわかる.74あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012眼研究こぼれ話(74)き,ついにその日の夜遅くまでとりこになったばかりでなく,その翌日も彼の研究室にとどめられた.そのため娘に約束していたベーカー街のシャーロック・ホームズの家の写真を撮ることがふいになった.学者生活でこのような経験を得ることはまれである.私は腐った落ち葉から拾ったアイデアで全く予期しない幸運に恵まれたのである.この技術はだれにでも出来るとはいっても,細い指先のコツを必要とするので,指が野球グローブのようなアメリカ人の男たちには,大変難しい様子であった.その点,日本の学者にとっては容易と見えて,ずいぶんたくさんの研究業績が日本の眼科学会雑誌に発表されているのは,私にとって,大変な光栄と思っている.私自身の現在の技術員にはこの落ち葉栞を作ることができないので,現在,高血圧網膜の実験では,ボストン大学の日系美人,オーク夫人のお世話になっている.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆

インターネットの眼科応用 最終回 医療のIT化で可能になること(6)-教育への応用-

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012710910-1810/12/\100/頁/JCOPY教育心理学の観点から本シリーズでは毎号インターネットの眼科応用について紹介してきましたが,今回で最終章となります.ぜひ,最後までお付き合いください.インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.前章までに,医療知識・医療情報がインターネット上で共有される事例を数多く紹介してきました.本章では,インターネットの教育ツールとしての可能性とその限界について紹介します.教育業界においては古くよりインターネットを含むメディアの影響について研究されてきました.しかし実験モデルが作りにくく,データが豊富なわけではありません.メディアをもっと活用すべし,という意見もあれば慎重な反対論もあります.安藤玲子らによると,情報系専門学校の男子生徒を対象としてインターネット使用が社会性に及ぼす影響を検討しています.この研究では,インターネットのさまざまなアプリケーションのなかで,電子メールとネットワークゲームの利用が社会的スキルを高めることが示されています1).一方,文部科学省の資料によると,現在のわが国における小学校高学年の時期における子育ての課題としては,インターネットなどを通じた擬似的・間接的な体験が増加する反面,人やもの,自然に直接触れるという体験活動の機会の減少があげられています2).視覚障害教育の専門家の氏間和仁(広島大学教育学部)は,発達心理学の観点からすると教育の初期段階はデジタルに依存してはいけない,と説きます.たとえば,視覚障害者の児童教育において,画像で見るリンゴよりも実物のリンゴのほうが重要であって,教科書にしても重量感やページをめくる際の質感を先に体験すべきで,電子教科書は早くても高校生から使用すべきである,と説きます.この教育業界の議論を眼科医の手術教育に置き換えることができます.モニターや介助者として多くの手術を見た眼科修練医は,目が肥えて他人の手術を評価できるようになります.他人の手術は評価できるけど,自分の手は思うようには動かない,という時期が必ずあります.このときに必要な教育ツールはインターネットではありません.直接的な経験で直感を養うことが重要です.教育業界がインターネットをどう捉えているか,興味深い考察があります.吉見俊哉や水越伸は,現在の子どもが有している想像力,身体感覚,共同性を前提としたメディア・リテラシー教育を提唱しており,単に情報メディア機器の使い方を学ぶだけでなく,メディアを媒介として成立する世界のあり方を自覚し,能動的に再編していく方法を身につける必要性を主張しています.技術が使い方を規定するのではなく,人が技術の使い方を規定すると捉え,メディアへ能動的にかかわっていくメディア・リテラシーの必要性を主張しています3,4).医療教育におけるインターネットのかかわりについて考えると,示唆に富む見解です.メディア・リテラシーとはインターネットに限っていえば,インターネットで情報収集をしましょう,インターネットに情報発信をしましょう,インターネットで建設的な情報交流をしましょう,という3つの行動を指します.Medical2.0という考え方インターネットの医療教育への限界を教育心理学の観点から説明しました.初期教育にはインターネットは不向きです.ですが,中級者以上の教育にはインターネットは大きな力をもちます.医療教育を3つのパターンに分類します.一つ目は,情報の流れが師匠から弟子へ直(71)インターネットの眼科応用最終章医療のIT化で可能になること⑥─教育への応用─武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ72あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012接伝わるOnetoOne形式.これは従来の徒弟制度です.二つ目は,教科書,講演,手術動画のインターネット配信によって伝えられるOnetoMass形式.インターネットの通信技術の向上に伴い格段に情報量が増え,動画が容易に閲覧できるようになり,医療教育に用いられるようになりました.三つ目が多くの参加者によってインターネット上に情報が蓄積されるMasstoMass方式.交流サイトもしくはソーシャルメディアとよばれます.言い換えれば,インターネットを使った大きなキャンパスに,多数の医師が教科書を共同執筆します.彼らは執筆者であり同時に読者にもなります.このMasstoMassの医療教育は果てしない可能性をもちます.私は,インターネット上の医療情報が医師からの情報発信によって更新され続ける世界を,Medical2.0と定義しました5).一人の医師が,医療動画を見て何かのコツを得て,実際の臨床の現場で患者に還元することができれば,インターネットは医療水準の向上に寄与したことになります.情報の流れは,DatabaseからBedsideへ伝わって,デジタルな情報がアナログな医療行為に変換されます.この流れは,従来は専門書・教科書が果たしていた役割を,インターネットが代替できることを意味します.加えて,インターネットは,専門書・教科書にない,その先の力をもちます.われわれ医療者が,臨床現場で得られた医療情報をインターネットに再び投稿することで,医療情報がBedsideからDatabaseへ還元されます.アナログな情報が,デジタルな情報に再び置換されます.このように,DatabaseとBedsideを往復し,新しく更新された医療情報が,世界の誰かの医療を動かします.この繰り返しによって,インターネットの医療情報は常に更新され続け,世界全体の医療水準は向上し続けます.この双方向性と可塑性は,専門書にはない力です.インターネットの潮流とわれわれ眼科医の緩やかな意識の変容を統合しますと,Medical2.0を具現化したサイトの情報量が増し,専門書に並ぶ価値をもつでしょう.Medical2.0の世界では,価値をもつのは,ハードウェアでもなくソフトウェアでもなく,ユーザーである参加する医師です.“Peopleware”がキーワードとなります.医師が,インターネットに向けて医療情報を発信することの社会的価値はきわめて大きく,積もり積もれば,世界の誰かの医療を動かして,患者の喜びとなります.医療情報の巨大なデータベースを世界の医療人が創(72)造し,シェアできる環境というのは,非常に魅力的ではないでしょうか.インターネットで知的交流を行うのは時代の流れです.医療の世界でも,大学や病院,学会といった組織からの情報発信だけでなく,医師個人が情報を発信し,意見を投稿し,集合知を創るのが次の10年に起こる流れです.国民皆保険制度が全国の市町村で始まったのが1961年です.それから50年が経ち,医療崩壊・医療費の増大という局面のなか,各方面で制度の改革が叫ばれるようになりました.ただ,この国民皆保険制度によって,それまで自費診療を受けていた自営業者やその従業員が「誰でも」「どこでも」「いつでも」保険医療を受けられるようになりました.画期的な出来事です.皆保険制度の開設当時,その光のなかで現在の苦境を予想することは不可能です.クラウドコンピューティングを応用した電子カルテや自動診断ソフトなどのIT技術がこれらの難題を解決する可能性をもつことを紹介してきました.これから半世紀先,医療環境がどのように変化するかを予測するのは非常に困難です.医療制度は変わります.手術方法も変わります.診断基準も変わります.医師と患者の気質も変わります.国境を越えて診療することも日常になります.ただ,われわれが医療者として,自己研鑽を積む教育は変わらず重要です.インターネットを含めたメディアを活用し,医療者自身の手でメディアを育てることが,次の10年,20年の医療教育の新しい柱になるでしょう.【追記】3年間にわたる連載にお付き合いいただきました読者の皆さんと,執筆の機会をくださいました編集委員の先生方に御礼申し上げます.特に木下茂先生には最後の1年間を続けるモチベーションをいただきました.この場を借りて御礼申し上げます.ありがとうございました.文献1)http://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/13/1/21/_pdf/-char/ja/2)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/gaiyou/attach/1286156.htm3)吉見俊哉:メディア環境のなかの子ども文化.共生する社会,p1-34,東京大学出版会,19954)水越伸:遊具としてのメディア.新版デジタル・メディア社会,p52-89,岩波書店,20025)武蔵国弘:インターネットの眼科応用第24章Medical2.0①.あたらしい眼科28:91-92,2011

硝子体手術のワンポイントアドバイス 104.駆逐性出血に対する硝子体手術(中級編)

2012年1月31日 火曜日

(69)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012690910-1810/12/\100/頁/JCOPYはじめに駆逐性出血は内眼手術における最も重篤な合併症の一つであり,大きな強角膜創を作製するかつての水晶体?外(あるいは?内)摘出術や全層角膜移植の術中に発症すると,即失明につながることもあった.近年では自己閉鎖創による小切開白内障手術が主流なので,たとえ本症が発症しても失明に至ることは稀になったが,術中発症が皆無になったわけではない.また,緑内障濾過手術などの低眼圧に起因するdelayedexpulsivehemorrhageはいまだにときどき遭遇する合併症である.●駆逐性出血の診断と処置内眼手術の術中に駆逐性出血が生じると眼圧が急激に上昇し,強角膜創から硝子体が脱出する.このときにはまず強角膜創を閉じて,眼底を観察する.通常は出血性脈絡膜?離が観察される.ゴルフ刃で強膜に切開を加え,脈絡膜上腔出血を排除しようとしても,急性期では出血はたいてい凝血しており排出が困難である.このような場合には一旦手術を終えて,脈絡膜上腔出血が溶血するのを待ったうえで,硝子体手術を施行する必要がある.術翌日には超音波Bモード検査で出血性脈絡膜?離の有無を確認する(図1).Delayedexpulsivehemorrhageでも,超音波Bモード検査が診断に有用である.●駆逐性出血に対する硝子体手術教科書的には溶血に要する期間は約2週間とされているが,筆者の経験では1週間で溶血していることが多い.硝子体手術の際には,インフュージョンカニューレは出血性脈絡膜?離のため硝子体腔内に先端を出すことは困難なので,まずは27ゲージ針で硝子体腔内に人工房水注入をくり返しながら,強膜創から可能なかぎり出血を排除する(図2).インフュージョンカニューレ設置後は先端が硝子体腔内に出ていることを確認のうえ灌流を開始する.毛様体上皮が先端を覆っている場合には,強膜創から硝子体カッター(あるいは眼内照明)を挿入し,しごくようにして先端を硝子体腔に出す.その後は通常の方法で硝子体切除を行う.駆逐性出血では多くの症例で硝子体出血も併発しており,出血性脈絡膜?離の存在していた部位には網膜皺襞や脈絡膜皺襞が残存していることが多い(図3).周辺部まで硝子体を十分に切除したうえで,手術を終了する.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載104104駆逐性出血に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科←図2硝子体手術の術中所見(1)強膜創から溶血した赤褐色の脈絡膜上腔出血を排除する.→図3硝子体手術の術中所見(2)出血性脈絡膜?離が存在していた部位には網膜皺襞や脈絡膜皺襞が残存していることが多い.図1駆逐性出血の超音波Bモード所見胞状の出血性脈絡膜?離を認める.

眼科医のための先端医療 133.遺伝子(ゲノム)研究は加齢黄斑変性医療の未来を変えるか?

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012650910-1810/12/\100/頁/JCOPYはじめに現在,医学会ではヒトゲノム計画の是非についての議論が活発化しています.巨額の投資をかけたヒトゲノム計画が実際は医学的な成果をほとんど上げていないとの批判があるためです.そもそもこの計画は糖尿病や高血圧などのありふれた疾患には共通する遺伝子変異が存在するというcommondisease-commonvariant仮説からスタートしたものでしたが,実際にはそのような決定的な変異(あるいはその組み合わせ)はほとんどみつかっていません.そのような議論のなかでも加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)における遺伝子研究の成果はゲノム研究の最大の成功例として捉えられています.確かにAMDに関連する遺伝子変異では一塩基の変化における疾患に対するオッズ比や寄与度がその他の疾患に比べて群を抜いています.一方,眼科を含めた医学会ではゲノム計画で得られた遺伝情報を用いた個別化医療の展開がますます期待されています.今後のゲノム研究およびゲノム応用医療のためにAMDの遺伝子研究はどのような役割を果たすことができるのでしょうか?AMDの感受性遺伝子複数の症例-対照間ゲノムワイド解析の結果,AMDとの関連がほぼ間違いない遺伝子としては炎症カスケードの代替経路における液性調節因子である補体H因子(complimentfactorH:CFH)や細胞内のエネルギー代謝や細胞外マトリックスの調整および炎症に関与している可能性のあるage-relatedmaculopathysusceptibility2(ARMS2)およびhigh-temperaturerequirementfactorA1(HTRA1),あるいはその周辺の領域があげられます.これらは日本人を含め,今までに検証されたすべての人種でAMDとの関連が証明されており1),またその後のさまざまな基礎実験によっても病態への関与が確認されています.つまり,AMD患者ではCFHの働きが弱まり,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)基底膜における慢性炎症が亢進した状態にあると考えられ,一方ではHTRA1の発現が増加することで炎症の亢進とともにマトリックス分解による細胞間接着の低下を招き,病巣の拡大をひき起こすメカニズムが考えられています.実際にHTRA1を過剰に発現させたマウスではAMDの一型と考えられているポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)の眼底所見が発現しました2).このような分子が発見されたことは眼科領域のみならず人類のゲノム研究における最大の成功でした.AMDゲノム研究はこれで終わったのか?それでは前述の2,3の遺伝子でAMDの病態がすべて説明できるのでしょうか?答えは否です.おそらくAMDほど人種間の多様性が大きい疾患も珍しいのではないかと思われますが,それをこれらの遺伝子と環境要因だけで説明するのは到底不可能です.この人種間の多様性はAMDのサブタイプ(狭義AMD,PCV,網膜血管腫状増殖:RAP,萎縮性AMDなど)の人種による分布の違いにも関係すると思われますが,これらのAMDサブタイプに特異的な感受性遺伝子が存在することも考えられています.たとえば,Bruch膜や脈絡膜血管の強度にかかわると思われるエラスチンのイントロン遺伝子多型において狭義AMDとPCV間で関連性が有意に異なることが複数報告されています3,4).また自験例では,黄斑に多く存在し,酸化LDL(低比重リポ蛋白)など脂質酸化に関与するCD36の遺伝子多型において狭義AMDとPCV間で関連性が有意に異なることも明らかになり(論文投稿中),これは最近になってCD36遺伝子欠損マウスにおけるドルーゼンの蓄積とAMD病態への関与が報告されています5).これからのゲノム研究が向かうべき道これまで行われてきた全ゲノム相関研究(GWAS)は共通変異仮説に基づいて展開されましたが,何十?何百万という一塩基多型(SNP)を調べた結果,見つかったのはほんのわずかな,しかも疾患寄与度の弱いものばかりでした.これは今までの仮説や研究手法に問題があった可能性を示唆しています.つまり頻度の高いSNPに(65)◆シリーズ第133回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊遺伝子(ゲノム)研究は加齢黄斑変性医療の未来を変えるか?本田茂(神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野)66あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012は生物学的なインパクトは少なく,本当はもっと稀な変異に目を向けるべきだということかも知れません.また,最近では蛋白質をコードしない遺伝子や遺伝子の修飾因子にも注目する必要があるとされています.確かに頻度の高い変異は疾患への寄与度が少なく,稀な変異のなかに疾患と強く結びつくものがあるという理論には一理あります.ただし,それは疾患が単一分子(蛋白質など)の異常で起こる場合の話で,疾患を一つのカスケードとして捉えた場合には,たとえ一つの分子による影響は小さくても複数の分子の異常が重なった場合には全体として疾患にかかわる生物学的機能の障害をひき起こす可能性もあるのではないでしょうか?したがって,次世代シーケンサーによってすべての疾患-対照者の全塩基配列決定を行うのもよいでしょうが,もっと先人達が残してくれた生化学的な知識をもとに幾つかの標的分子を選定し,それらを詳細に調べること,そしてその結果を一つひとつ生化学的な検証で確認していくほうが確実にゴールに近づくようにも思います.前述のエラスチン遺伝子,CD36遺伝子もそのようなアプローチからみつかったものです.未来のAMD治療について病態解明における遺伝子研究は前述のように大きな転換期を迎えているといえますが,一方で臨床における遺伝子研究の役割にはまた別の考え方があると思われます.たとえ病態解明と直結しないSNPのデータでも仮にある治療法の効果と高い相関を示すような場合には,それは大変貴重な情報となります.最近の報告ではAMDの感受性遺伝子は疾患へのかかりやすさ以外に光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)や抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体の硝子体内注入療法(抗VEGF療法)などの治療に対する感受性にも関連しているとされています.たとえば,日本人を対象にした研究ではARMS2/HTRA1における特定のSNPとPDTの効果には強い相関が認められます(図1)6).また,補体H因子における特定のSNPがPDTおよび抗VEGF療法の効果に対して相反する関連をもつことが明らかになり7,8),これは治療選択において遺伝情報が重要な要素になることを示唆しています.現在わが国ではAMDに対する抗VEGF療法の効果に関連するSNPを網羅的に探索するため,全国レベルの多施設研究が進行中であり,将来的には治療方針の決定における遺伝情報の応用gene-basedmedicine(遺伝情報に基づいた個別化医療)が患者のbenefit/riskを高めることが可能になるかも知れません.また一方で,疾患ゲノム研究の成果を生かして補体系などを直接の標的にしたAMD治療法も試みられており,今後の展開に期待が寄せられています.文献1)KondoN,HondaS,IshibashiKetal:LOC387715/HTRA1variantsinpolypoidalchoroidalvasculopathyandage-relatedmaculardegenerationinajapanesepopulation.AmJOphthalmol144:608-612,20072)JonesA,KumarS,ZhangNetal:Increasedexpressionofmultifunctionalserineprotease,HTRA1,inretinalpigmentepitheliuminducespolypoidalchoroidalvasculopathyinmice.ProcNatlAcadSciUSA108:14578-14583,20113)KondoN,HondaS,IshibashiKetal:Elastingenepolymorphismsinneovascularage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.InvestOphthalmolVisSci49:1101-1105,20084)YamashiroK,MoriK,NakataIetal:Associationofelastingenepolymorphismtoage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.InvestOphthalmolVisSci52:8780-8784,20115)PicardE,HoussierM,BujoldKetal:CD36playsanimportantroleintheclearanceofoxLDLandassociatedage-dependentsub-retinaldeposits.Aging(AlbanyNY)2:981-989,20106)BesshoH,HondaS,KondoNetal:TheassociationofARMS2polymorphismswithphenotypeintypicalneovascularage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.MolVis17:977-982,20117)BesshoH,HondaS,KondoNetal:PositiveassociationofcomplementfactorHgenevariantswiththeeffectofphotodynamictherapyinpolypoidalchoroidalvasculopathy.J(66)治療前矯正視力LogMARの変化3カ月6カ月12カ月:GG:GT:TT-0.3-0.25-0.2-0.15-0.1-0.0500.050.10.150.20.25図1ARMS2遺伝子多型による光線力学的療法(PDT)後の視力変化ARMS2遺伝子の一塩基多型rs10490924における遺伝子型がGGの患者はPDT後に平均視力が上昇し,一方TTの患者は平均視力が低下する.GTの患者の平均視力は横ばいとなる.(67)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201267intravitrealbevacizumabinexudativeage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol89:e344-349,2011ClinicExperimentOphthalmol2:122,20118)NischlerC,OberkoflerH,OrtnerCetal:ComplementfactorHY402Hgenepolymorphismandresponseto■「遺伝子(ゲノム)研究は加齢黄斑変性医療の未来を変えるか?」を読んで■今回は神戸大学の本田茂先生に加齢黄斑変性(AMD)の遺伝子多型と病態についてわかりやすく解説していただきました.むずかしい研究内容を本当に臨床医の視点からわかりやすく解説された本田先生の研究者としての力量に敬服します.れわれ眼科医にとって,遭遇することが多く,かつ難治の疾患であるAMDの有効で安全な治療にどのようにして到達するか?これから高齢化社会を迎える社会的なニーズにきわめて重要な役割を眼科医が期待されている分野です.これまでの治療戦略とまったく異なった考え方が要求されています.それがテーラーメイド医療です.予防医学的な見地からいうと,発症,進展のリスクの高い人をどのようにしてより分けるか?この場合,そのリスクをどのようにして回避するかが問題で,これは今後,解決していく必要があります.そして,どのようにして適切な治療(有効で安全な治療)を選択するか?今,われわれは光凝固による治療(PDT),抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬による治療などいろいろな治療法が開発された状態で眼科診療を行っていますが,単一の治療法ではAMDに対抗できません.効果の大きな治療法を患者のそれぞれで選択する必要があり,それがより精巧になることにより無駄な治療を行わないことで患者の負担を軽減することができます.本田先生の解説により,このような先端的な医学は眼科領域で大変進んでいることがわかりました.われわれ眼科医にとって大変心強いばかりです.今後の問題は,やはり,ゲノム医学の次のステップを目指すことと考えられます.ゲノム医学の成功と進歩により,個々の症例での遺伝子多型を詳細に検討することができるようになってきました.しかし,AMDのようにゆっくりと進行する疾患の病態の全体像を調べるためには,多くの正常人の老化のメカニズムについて解明していく必要があります.これにはまだまだ時間がかかりそうです.また,commondiseasesの一つであるAMDには遺伝子と環境因子の相互作用が関与している可能性もあります.情報を集積することはゲノム医学の方法の急速な進歩により可能になってきたことを本田先生は指摘しておられます.が,それを解析する方法論がとてもむずかしいと聞いたことがあります.膨大な遺伝子多型の情報〔たとえば,一塩基多型(SNP)のみだけで数万?数十万の情報がある一個人について収集可能です〕をどのように疾患と関連づけるか,さらにこれに環境因子がかかわってくるのです.今後の基礎的な研究方法論の発展が期待されます.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆