(89)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111149た時に,将来像として,抽象的でもいいですけれども,リサーチ&ディベロップメントに関して方向性とかありますか.天野そうですね.一つ核にしたいと思っているのは,私自身がこれまでずっとやってきた角膜再生医療です.臨床は,木下先生の教室をはじめ,日本の角膜をリードしてこられた先生方のおかげだと思うんですけれども,私も再生医療に携わってきたもので,これは一つの柱にして,ただ角膜に限らず,網膜とかも,まだ臨床はすぐというわけにはいかないかもしれませんが,再生医療というのは,教室の一つの大きな柱として研究のメインテーマとしていきたいとは思っています.アンチエイジング(抗加齢医学)というのも一つ,すごく最近興味をもっていて,これと私の専門にしている角膜,結膜,あるいは,それだけに限らず,そういった切り口で何か新しい方向性で,研究をやっていくことができるのではないかというようなことを考えて今,少しずつ動かしをしているところではあります.あまり自分の専門だけに凝り固まらないで,眼科全域の指導というか,舵とりとしてやっていけるような形でいろいろ提案していきたいとは思っております.今後,徐々に方向性を打ち出していきたいと思っています.木下特に抗加齢医学というのは,ある意味で,当初は少しうさんくさいというか,そういう話のなかから出てきましたけれども,しかし基礎研究のほうから言うと,すごく新しい話が,NatureやScience誌に出ている,そういう一面があり,その一方で,民間療法的なものがありという,そんな混在しているところですよね.眼科からも面白い話が出てきていると思いますので,ぜひやっていただけるとありがたいなと思います.臨床はいかがですか.天野臨床は,まずは角膜手術,いろいろな角膜移植木下天野先生,東京大学眼科の教授,ご就任おめでとうございます.天野どうもありがとうございます.木下東大は非常に伝統があり,日本の眼科をつくってこられた教室ですね.教室には河本重次郎先生以来の歴代の教授の銅像がありますし重厚ですね.天野はい,教授室の前にあります.木下かつては国公立大学はみな,東大か京大の先生が教授として来られましたね,そういう伝統のある大学の教授というのは,いかがですか.天野本来は何か大局観をもって仕事,あるいは研究にじっくりあたるべきなのですが,残念ながらまだそういう雰囲気になっておりません.この頃ようやく日本の眼科の中でどういうふうにわれわれの教室をもっていくか,さらに日本の眼科全体がどういうふうに発展していったらいいのかといった,そういう大所高所からの考え方をもって少しずつやっていきたいと思っております.教室については今まで新家眞先生がトップでやっていたのが,今回から私がということで,トップの専門領域が緑内障から角膜に変わったわけですけれども,幸い東大はスタッフにもすごく恵まれていて,各領域のスペシャリストがそれぞれしっかりと外来でも手術でも研究でもすべて今までどおり取り組んできていますので,私としては,まず自分の専門として角膜の領域をしっかり引っ張っていって,それと共に,微力ながら,ほかの領域の,東大の今までの伝統としている緑内障とかぶどう膜炎とか,あるいは網膜・硝子体もそうなんですけれども,少しでも引っ張っていきたいと思っております.木下東大は,やはり日本のなかで,研究をリードする,もちろん教育も臨床もなんですけれども,そういうところが,すごく強いと思うんですけれど.先生の個人的のみならず教室のスコープも含めて考えインタビュー木下茂本誌編集主幹のインタビューに答えてShigeruKinoshita東京大学大学院教授(眼科学)天野史郎先生ShiroAmano1150あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(90)年ほど経つのですが,この10年間,本当に自分としてはハッピーな視生活というか,視る生活が送られてこられたので,私自身は屈折矯正手術は非常に肯定的に捉えております.ただ,屈折矯正手術も,本当にいろんな新しい手術が玉石混淆のように発表され,淘汰されて,例えば今のレーシックなり,あるいは有水晶体眼に対する眼内レンズとかも,いろんなものが提案され,淘汰されて,いいのが残ってきているという段階で,なんでも新しければいいというわけではなくて,やはりそれを,自分で見極める目をもって,これはいけるだろうというものに取り組んでいくというようなことは大切だと思います.患者さんは,自分の周りで,本当に見えるようになったという人がたくさんいると,例えばレーシックなんかも,それだったら自分も受けようかという気になってきていると思うのですけれども,どちらかというとドクターのほうがまだまだ慎重なように見受けられます.それは,医学的な意味もあるし,経済的な意味もあると思いますけれど,日本はリフラクティブサージェリーに関しては少し遅れているというのは,アジアの国と比べても感じられますけどね.木下リフラクティブサージェリーには,無謀と英知が混在していて,あるものはものすごく無謀だし,あるものはものすごく英知を使ったものであって,そこの見極めというのが,その人がもっている医学倫理感でどっちかに揺れるような気がするんですけどね.特に教育的なことで,若い人には少なくとも,屈折矯正手術というものについての現時点までの適切な知識,過去の歴史などをある程度教えてあげないといけないなと思うんですけどね.天野なるほど.最近だと老視に対する手術に関しても,先生のおっしゃるように,本当に効果は出ていないんじゃないかというようなものが発表されていたり,あるいは有効なものがあるのかもしれませんけれども,まだまだこれからいろいろ自分なりの目をもって評価していかないといけないんじゃないかなと思いますね.木下天野先生は高校の時からサッカーとかをかなりやっていて,大学でもクラブに入っていたというスポーツマンだから,多分すごくチームワークとか,そういうことも大事にされる人じゃないかなと思うんですけれども,そういうスポーツとか,趣味的なことというのはどうですか,何をしたらリラックスするというか.ですね.昔,僕が入ったころは角膜移植というともう全層移植と表層移植だけみたいな,ほとんど十年一日のごとく変わらない手術みたいな感じがあったんです.しかし,最近は,それこそラメラー・サージェリーになっているので,DSAEKとかDLEKとか,あるいは上皮の再建であるとか,いろんな手術が出ております.あと例えばボストンケープロ(BostonKeratoprosthesis)などの人工角膜もあれば,あるいはクロスリンキングといった,新しい手術が今,出つつあるところです.それらのすべてが今後生き残っていくかどうかはわかりませんけれども,これを見極めて,新しい人工角膜にしても,再生医療にしても,新しい自分なりの手術を提案していけるようにしたいと思っています.僕は角膜の専門家なので,臨床で何をやるのかと言われるとやはり,角結膜の診療になりますけれども,教室全体としては,もともと得意にしている緑内障であるとか,網膜硝子体も今後伸びていってほしいと思っています.木下天野先生だからあえてお聞きします.屈折矯正手術ということについて,日本は結構アレルギーがあるように思うのですが,それの臨床,あるいは教育的なところで,何か思っておられることはありますでしょうか.天野確かに日本はどちらかと言うと,ドクターも患者さんも,コンサーバティブなほうが主流で,同じアジアでも韓国とかほかの国々と比べても,かなり慎重という感じです.慎重というのはすごくいいとは思うのですが,本当はいい手術なのに,あまりにもそれをあえて受けないとか,あるいはしないというのは,僕はちょっとどうかなっていう気がしています.自分自身もレーシック(laserinsitukeratomileusis:LASIK)を受けて10木下茂先生天野史郎先生(91)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111151いる考えになるから.それを一言で表すような是というものが必要なんじゃないでしょうか.たぶん東大にもあるでしょうけれども,天野先生自身が思っておられることを,一言の言葉にして出すと,みんな,教室の中の人は,非常にわかりやすいのかなあと思います.私は堀場製作所の堀場雅夫さんと結構親しくさせていただいて話しをするんですけれども,堀場製作所の社是は,「おもしろおかしく」なんです.だからなんでもおもしろおかしくないと,うまいこといかん,それが社是や,といわれるんですね.もう一つ,東大を頂点として,日本眼科学会百周年の時に,増田寛次郎先生がされたように,日本の眼科をどのように引っ張っていくかについて何かお考えはありますか.天野それは日本の眼科,ほかの医学の世界の,ほかと比べてということですか.木下そうですね,ほかの科と比べてというか,そういうなかでですね.天野僕はまだちょっと経験不足で,自分の方針とか,いま打ち出せる考えは特にもっていませんけれども,ただ,眼科というのは医学界のなかで占める地位と言われると,なかなかまだ本来やっている仕事と言いますか,本来認められるべき分をまだ認められていないかなということは思いますね.木下医学部の学生を含めて,たくさんの人達に眼科へ興味をもっていただきたいのですが,学生,あるいは一般の人に対して,眼科をアピールして,ポジションをさらに上げていこうというふうに考えておられると思うんですけれども,抽象的でも具体的でもいいですが,何かお考えはありますか.天野最近の調査でいうと,昔は国内全体で年間に400人とか500人入局していたのが,今は300人を切っているというような状況で,スーパーローテートの導入以後,眼科の希望者が減っているというのは,やはり科全体としての勢いがどんどん低下していくというか,人数が減ることはよくないことだと僕は思っています.ですから,できるだけ若い人,特にスーパーローテートで回ってくるような人とか,あるいは学生とかに対して,授業なり臨床実習なりにおいて,教育に力を入れる.特に教育を楽しくやっているというか,あるいは教天野最近はさすがに,なかなか….例えばサッカーとか,人がたくさんいないとできないようなスポーツはちょっとできないですね.木下あと,世界と日本という観点から見た時に,特に東大の教授として,そして天野先生個人として,海外に対していろいろなメッセージを出していくという必要があると思うのですが,アジア等を含めて,いかがでしょうか.天野その点に関しては,僕は木下先生をお手本としたいと思っています.木下先生が教室を立ち上げる時に,BeInternationalというのを一つの方針で掲げられたと,昔からよくお聞きしているんですけれども,そのまま僕たちの教室にもそれをちょっと応用させていただいて,せっかく東大は角膜だけじゃなくて各領域ですごくレベルの高い研究をされている先生方がおりますので,その先生方にもっと国内の学会だけじゃなくて,自分も含めてですけど,ARVOとかAAOとか,アメリカ,ヨーロッパ,いろんなところの学会に自ら出ていって,あるいは向こうの先生方といろいろなコネクションを,いろんな人を通じてもてるようにして,論文のうえだけじゃなく自分たちが,国際的に認知されるようになってほしいと思っております.論文は結構,日本人は,僕たちの教室もそうなんですけど,それなりにたくさん出して,ある程度認められていると思うんですが,だからといって向こうの学会に行って例えばこの論文を書いた人間だといっても,なかなか向こうの人と面識がなかったり,コネクションがないとか,いろんなつながりがないと,やっぱり国際的にも認めてもらえないと思いますので,そういったところも大切にしたいと考えております.それこそ本当に木下先生を模範にして,インターナショナルにぜひいろいろなメッセージを発信していけるような教室にと思っております.もともと東大は,例えば三島濟一先生をはじめ,これまで各先生方は,そういうことにももちろん非常に神経を注がれてきたところだとは思うんですけれども,さらに少しでも国際的に認められるように,頑張っていきたいというふうに思っています.木下なるほど.今のBeInternationalではないですけれども,私は「社是」とか「国是」とか,「是」ってすごく大事だと思っています.それが,その組織のもって1152あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(92)育に本当に力を入れてくれる人とそうでもない人がどうしても分かれてしまうので,そういった教育熱心にやってくれる人を高く評価してあげる.もちろん研究実績とか臨床で手術を何件やったとか,そういったものも非常に重要ですが,それとは別に教育を熱心にやってくれる人を評価してあげるというようなシステムといいますか,あるいは自分のなかでの心づもりとか,そういったところで高く評価してあげるというようなことで,教室全体で,教育に目を向けさせるというようなことに取り組んでいきたいと思っています.木下はい.話が多少前後しましたけれども,本日は本当にありがとうございました.これからも大いにご活躍ください.天野どうもありがとうございました.天野史郎先生プロフィール1986年東京大学医学部卒業1986年東京大学医学部眼科入局1989年武蔵野赤十字病院眼科1995年ハーバード大学研究員1998年東京大学医学部眼科講師2002年東京大学角膜移植部助教授2010年東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学教授現在に至る専門:角膜,角膜移植,再生医学☆☆☆