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硝子体手術のワンポイントアドバイス 92.増殖糖尿病網膜症における後部硝子体皮質下の新生血管(初級編)

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011890910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに増殖糖尿病網膜症で,一見すでに後部硝子体.離が生じているように見えても,トリアムシノロン塗布後に網膜全面に薄い膜状の硝子体皮質が残存していることは,日常臨床でしばしば経験する.トリアムシノロンによる硝子体の可視化が普及する以前には,完全後部硝子体.離が生じている単純硝子体出血例で明らかな出血源が確認できなかったり,十分な硝子体切除を行ったにもかかわらず術後に再増殖をきたす例をときどき経験することがあった.このような症例の多くは,薄い残存硝子体皮質下の新生血管を見落としていたためと考えられる.●薄い膜状の硝子体皮質下に認める新生血管トリアムシノロン塗布後に網膜面に残存した薄い膜状の硝子体皮質をダイアモンドダストイレーサーで.離除去している際に,網膜静脈に沿って硝子体皮質下に小さな新生血管を発見することがある(図1.a,b,c).白色の小さな線維血管性増殖膜を伴っている症例では確認は比較的容易だが,裸の新生血管のみの例では見落とすことがありうるので注意が必要である.このような症例では,ダイアモンドダストイレーサーで丁寧に硝子体皮質を.離し,網膜との癒着を確認することで新生血管を確実に検出することができる.通常,新生血管の部位では網膜硝子体癒着が強固なので,その周囲に硝子体皮質を集め,硝子体カッター(あるいは硝子体剪刀)で切除した後,適宜眼内ジアテルミー凝固で止血しておく.新生血管を薄い硝子体皮質ごと残存させると,術後にその部位に再増殖が生じたり(図2),術後の硝子体牽引により再出血をきたすことがある1).文献1)池田恒彦:糖尿病網膜症の硝子体手術.臨眼52:452-457,1998(89)硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載92増殖糖尿病網膜症における後部硝子体皮質下の新生血管(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科a:一見,後部硝子体.離が生じているように見える硝子体出血例.b:トリアムシノロン塗布後にダイアモンドダストイレーサーで薄い硝子体皮質を.離する.c:硝子体皮質下に小さな新生血管を認める.図1薄い膜状硝子体皮質下の新生血管図2術後の再増殖例上下の血管アーケードに沿って再増殖を認める.初回硝子体手術時に血管アーケード周囲の薄い硝子体皮質下の新生血管を処理していなかったためと考えられる.

眼科医のための先端医療 121.中心性漿液性脈絡網膜症に対する光線力学的療法の有用性と課題

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011850910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)は従来から予後良好な疾患と位置づけられており,実際に多くの症例において数カ月で網膜.離が消失します.しかし,なかには網膜.離が吸収せず慢性化し,視機能が低下する症例も少なくありません.CSCは自覚症状発現から数カ月間は無治療で経過観察し,網膜.離が吸収しなければフルオレセイン蛍光眼底造影でみられる蛍光漏出点に対しレーザー光凝固を行いますが,蛍光漏出点が中心窩の近くにある場合,蛍光漏出点が特定できない場合,蛍光漏出点が多数存在する場合,網膜色素上皮からびまん性に蛍光漏出がみられる場合には経過観察を余儀なくされます.しかし近年,このような症例に対し光線力学的療法(PDT)が行われるようになり,その有用性については多数の報告があります1~3).本症は脈絡膜血管障害が本態で,二次的に網膜色素上皮が障害されバリア機能が破綻し網膜.離が生じることを考えると,脈絡膜のうっ血を解除するPDTは理にかなった治療といえます.CSCに対するPDTPDTは眼科領域では加齢黄斑変性に対して行われる治療であり,本症に対しては保険適用がなく,PDT施行に際しては各施設の倫理委員会の承認を得ることと患者への十分なインフォームド・コンセントが必要です.筆者らはそれらの手続きを経て,現在おもに慢性CSCに対しPDTを行っています.加齢黄斑変性で用いる通常量(6mg/m2)の光感受性物質を用いて行うPDTでは,照射部に一致して脈絡膜血管の閉塞がみられます4).この閉塞により,血管内皮増殖因子およびその受容体の産生が促され,脈絡膜新生血管が発生する可能性があります.実際CSCに対して通常量でのPDTを行い,脈絡膜新生血管が発生した報告があります5).そこで低侵襲のPDTが模索され始め,Laiらは光感受性物質を半量の3mg/m2にしたPDTを行い良好な成績が得られたことを報告1),さらにChanらは通常量と半量PDTのランダム化比較試験を行い,半量でも十分効果が得られることを報告2)しました.これらの結果から,現在は低侵襲のPDTが主流になってきており,当科でも半量PDTを行っております.しかし,いくら低侵襲とはいえ実際に良好な視力を有する症例の黄斑部にレーザー照射することには抵抗があり,常に不安がつきまといます.そこで視機能面での安全性をさらに検証する目的で,PDT前後での網膜.離部およびPDT照射野の網膜感度を検討しました.その結果,網膜.離は1カ月後16眼中14眼で消失し,網膜.離が持続した2眼も含めてPDT1カ月後,3カ月後にPDT照射野および網膜.離部の感度低下はみられませんでした.また,網膜.離消失眼ではPDT後に網膜感度の有意な改善が認められました6)(図1).PDT12カ月後も網膜.離部,PDT照射野ともに網膜感度の低下は認められませんでした.(85)◆シリーズ第121回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊藤田京子(駿河台日本大学病院眼科)中心性漿液性脈絡網膜症に対する光線力学的療法の有用性と課題図1PDT前,3カ月後の光干渉断層計(OCT)所見と網膜感度左上:PDT前のOCT.左下:PDT3カ月後のOCT.網膜.離は消失している.右上:PDT前の網膜感度.網膜.離部に一致して感度の低下がみられる.右下:PDT3カ月後の網膜感度.網膜.離消失に伴い,感度は改善.86あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011治療のタイミングでは,どの時点でPDTを考えればよいのでしょうか?これにはまだ明確な答えがないのが現状です.本症は網膜.離が持続していても視力が保たれることや自然軽快の可能性があることから,治療のタイミングを決めることが困難です.PDT後に網膜.離が消失し網膜感度の改善は得られても,改善幅が少なく,正常値まで回復しない例も経験します.これは遷延化した網膜.離により網膜色素上皮,視細胞に不可逆性の障害が生じた結果と考えられます.Ojimaらは網膜.離吸収後の網膜感度と光干渉断層計(OCT)所見を検討し,網膜色素上皮の不整,IS/OS(視細胞内節外節接合部)lineの欠損などと網膜感度低下との関連を報告しています7).OCTから微細な形態の変化を捉え,さらに視機能との関連づけができるようになってきたことで,網膜に不可逆性の変化が起こる前の段階がつかめるようになるのもそう遠くないと思われます.おわりにCSCに対してPDTを行えるようになり,遷延する網膜.離に手をこまねくことはなくなりましたが,PDT後に良好な視機能が得られなければ意味がありません.前述のように治療のタイミングをはかる指標の確立は急務です.CSCが真の意味で予後良好な疾患といえるように今後も知見の集積が必要と考えます.文献1)LaiTY,ChanWM,LiHetal:Saftyenhancedphotodynamictherapywithhalfdoseverteporfinforchroniccentralserouschorioretinopathy:ashorttermpilotstudy.BrJOphthalmol90:869-874,20062)ChanWM,LaiTY,LaiRYetal:Half-doseverteporfinphotodynamictherapyforacutecentralserouschorioretinopathy:one-yearresultsofarandomizedcontrolledtrial.Ophthalmology115:1756-1765,20083)CardilloPiccolinoF,EandiCM,VentreLetal:Photodynamictherapyforchroniccentralserouschorioretinopathy.Retina23:752-763,20034)Schmidt-ErfurthU,MichelsS,BarbazettoIetal:Photodynamiceffectsonchoroidalneovascularizationandphysiologicalchoroid.InvestOphthalmolVisSci43:830-841,20025)ChanWM,LamDS,LaiTYetal:Choroidalvascularremodellingincentralserouschorioretinopathyafterindocyaninegreenguidedphotodynamictherapywithverteporfin:anoveltreatmentattheprimarydiseaselevel.BrJOphthalmol87:1453-1458,20036)FujitaK,YuzawaM,MoriR:Retinalsensitivityafterphotodynamictherapywithhalf-doseverteporfinforchroniccentralserouschorioretinopathy:shorttermresults.Retina,2010Sep30[.Epubaheadofprint]7)OjimaY,TsujikawaA,HangaiMetal:Retinalsensitivitymeasuredwiththemicroperimeter1afterresolutionofcentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol146:77-84,2008(86)■「中心性漿液性脈絡網膜症に対する光線力学的療法の有用性と課題」を読んで■今回は藤田京子先生(日本大学駿河台病院)に,中心性漿液性脈絡網膜症(CSC),特に慢性のCSCの治療法として光線力学的療法(PDT)の有用性についてわかりやすく解説していただきました.CSCは,その急性期の臨床的な研究から網膜色素上皮の疾患というイメージが強いが,実は脈絡膜血管障害が本態で,二次的に網膜色素上皮が障害されバリア機能が破綻し網膜.離が生じることを考えると,脈絡膜のうっ血を解除するPDTは理にかなった治療といえることを解説していただきました.疾患の本態を考えるうえで動物実験モデルについての研究は大変重要な役割を果たしています.しかし,最後まで消えないジレンマは,「本当にこのモデルはヒトにみられる疾患と同じものなのか?」という疑問です.ヘルシンキ宣言を待つまでもなく患者さんに実験的な治療を試みることは厳に慎む必要がありますが,慢性のCSCにPDTが治療効果があるとの発想は,本当に素晴らしいものです.有意な効果がみられたことから,逆に慢性のCSCの病態の主座が脈絡膜血管である可能性を強く支持することになります.同じように,糖尿病黄斑浮腫にステロイド治療で有効な例が多くみられることから,糖尿病黄斑浮腫には炎症の分子メカニズムが作用していることがわかりました.また,加齢黄斑変性に抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬が有効であることから,加齢黄斑変性の病態にVEGFが主たる因子として関与していることが明らかになりました.臨床医の業績が基礎医学の研究成果を利用しつつ,病態の基礎研究に重要な情報をfeedbackするというとても大切で魅(87)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201187力的な研究のシステムです.これは第一に患者さんの治療を優先するという,精密な臨床研究からしか導き出せないものです.新しい治療薬を開発する臨床医,基礎研究者などは「本当に有効で安全な治療法であるか」ということをその基礎研究により十分に詰めてから新薬を治験します.それに加えて,臨床医が新たな発想で新しい治療対象を生み出した成果をお示しいただいた今回の解説から,臨床医が病態,病像を丁寧にきちんと観察し,勉強して新しい治療法を開発していく際のとても大切な役割を果たしていることがわかります.新しい治療法を日本からたくさん生み出し,世界に貢献するためには,われわれ臨床医のたゆまぬ努力と,有能な臨床医であり基礎研究にも造詣の深いclinicianscientistの育成を眼科領域でも精力的に行う必要があると考えます.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆

緑内障:抗VEGF薬併用による血管新生緑内障治療の変化

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011830910-1810/11/\100/頁/JCOPY●血管新生緑内障治療の基本的考え方血管新生緑内障は,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などによる眼内虚血に起因して発症する難治性の緑内障であり,血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が血管内皮細胞に作用することで虹彩・隅角新生血管が形成され,房水流出路を閉塞するために眼圧上昇をきたす1,2).眼圧が上昇すると,それに伴って眼内虚血が増悪,新生血管が増加,さらに眼圧上昇するという悪循環に陥ると加速度的に病状が増悪する.そのため,治療として可及的早期に眼内虚血に対する網膜光凝固術や硝子体手術,眼圧上昇に対する薬物治療および線維柱帯切除術が施行されてきたが,新生血管の活動性が高い状態での外科的処置は,種々の合併症との戦いであった.それに対して,新生血管に直接作用する抗VEGF薬が応用されたことで3),本症の初期治療および線維柱帯切除術の周術期管理に変化をもたらした(図1).●抗VEGF薬現在,国内で血管新生緑内障に対して認可されている抗VEGF薬がないため,一般にbevacizumab(AvastinR)硝子体内投与が施行されている.しかし,bevacizumabの使用は適応外使用であり,治療を行うには事前に各所属施設の倫理委員会などによる承認を受けること,患者に効果・副作用および適応外使用であることを伝えて文書で同意を得ることが不可欠である.●初期治療における変化血管新生緑内障に対する抗VEGF薬の効果を表1にあげる.初期治療における効果について特筆すべきは,新生血管に対する効果の発現が速やかなこと,緑内障手術の緊急度が低下したことである.抗VEGF薬投与により虹彩・隅角新生血管は,肉眼的には翌日から数日中に消退する(図2).それに伴い,開放隅角期の症例では投与後に眼圧が下降することが期待できる4)ことから,緑内障手術の適応は眼圧下降効果の確認後に決定し,一部の症例では手術を中止できるようになった.また,隅角における活動性の低下により閉塞隅角期への進行を抑制することで,網膜光凝固,硝子体手術や緑内障手術に(83)●連載127緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也127.抗VEGF薬併用による血管新生緑内障治療の変化馬場哲也香川大学医学部眼科血管新生緑内障に対する抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)薬併用は,本症における初期治療および線維柱帯切除術の周術期管理に変化をもたらした.初期治療では,効果の即効性と眼圧下降効果から閉塞隅角期への進行が抑制され,緑内障手術の緊急度が低下した.また,線維柱帯切除術における術中・術後合併症が減少し,周術期管理が容易になった.表1血管新生緑内障に対する抗VEGF薬の効果1.虹彩・隅角新生血管の消退2.眼圧下降3.閉塞隅角期への進行抑制4.線維柱帯切除術の術中・術後合併症減少5.線維柱帯切除術の術後成績向上の可能性…………………………………………………………………………….図1血管新生緑内障の病態と抗VEGF抗体の作用部位抗VEGF抗体は,新生血管に直接作用してVEGF活性を抑制するとともに,線維柱帯切除術,硝子体手術,網膜光凝固術による出血や術後炎症を抑制する.一部の症例では眼圧下降も期待できる.84あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011よる永続的な効果が発現するまでの時間かせぎができるようになった.●線維柱帯切除術の周術期管理における変化従来の線維柱帯切除術は,術中出血への対応に追われ,術野の視認性の悪さから結膜合併症のリスクが高く,強膜弁縫合の強さや程度も勘に頼るところが大きかった.それに対して,抗VEGF薬により術中出血が減少し,ほぼ通常どおりに手術が施行できるようになった.また,術後前房出血や強膜弁内の凝血塊による術後早期の眼圧上昇の頻度が減少し5),レーザー切糸術の時期や効果判定も的確にできるようになった.それに伴い,患者にとっては治療中の精神的・肉体的苦痛が軽減され,眼科医にとっても一連の治療が一段落するまでの(84)精神的負担・肉体的労力も軽減された.●今後の課題抗VEGF薬の効果は即効性があるものの一過性のものであり,その効果持続期間は2.4カ月程度で4),症例によっては新生血管が再燃する.そのような症例に対する抗VEGF薬の反復投与の適応をはじめ,血管新生緑内障に対する長期的な治療戦略が確立されることで,本症の長期成績の向上につながることに期待したい.文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEngJMed331:1480-1487,19942)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDMetal:Evidencebasedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1778,20013)OshimaY,SakaguchiH,GomiFetal:Regressionofirisneovascularizationafterintravitrealinjectionofbevacizumabinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.AmJOphthalmol142:155-158,20064)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitrealbevacizumabtotreatirisneovascularizationandneovascularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasein41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,20085)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,2009☆☆☆図2Bevacizumab投与前後の前眼部写真a:投与前には瞳孔領に著明な新生血管を認める.b:投与7日目には新生血管はほぼ消失している.ab

屈折矯正手術:ハロー・グレアの点眼治療

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011810910-1810/11/\100/頁/JCOPY●ハロー・グレアのメカニズム多焦点眼内レンズ(multi-focalimplantedintraocularlens:以下,多焦点IOL)の術後ハロー・グレア,コントラスト感度低下など術後視機能には瞳孔径が関与する1).多焦点IOLには屈折型と回折型がある.屈折型IOLは同心円状に遠用と近用が交互に構成される光学部をもつため,ハロー・グレアは瞳孔径が大きいほどその影響は大きく,夜間の見え方に注意が必要となる2).回折型IOLはレンズ表面に作った多数の溝で回折させる光学部をもち,入射光を遠方と近方に2分する.そのため,瞳孔径に依存しないといわれているが,逆にコントラスト感度の低下に注意が必要となる3).その際,瞳孔径が非常に小さいと,よりコントラスト感度の低下を自覚する場合があるので注意が必要となる.TecnisRmultifocal(AMO社)は瞳孔径に左右されず,常に遠方と近方が半々の分布であり,瞳孔径に左右されない.ReSTORR(Alcon社)は瞳孔径3.6mmまでは遠方と近方と配分するが,それ以上では遠方優位となる.したがって,瞳孔径が大きい場合,遠方はよく見えるが,近方が見えにくくなる.具体的には,夜間,車を運転するときに良好な遠方視力とハロー・グレアの軽減が望めるが,薄暗いところで読書するときには見づらい可能性がある.また,多焦点IOL挿入眼では原因不明の“ぼやけ,かすみ”といったwaxyvisionを生じることがある4).多焦点IOL(特に屈折型多焦点IOL)を挿入する症例の場合,術前,術後の瞳孔径を予測評価することが求められるが,その評価はむずかしい.これまでの瞳孔径の評価は十分な暗順応後に被検査眼遮閉下の単眼視で行われてきたが,測定条件を明所,両眼解放下,近方視という日常条件に近い条件下にする必要がある5).われわれが日常で観察できる角膜面上の瞳孔(入射線)は,実際の瞳孔径(実瞳孔径)より角膜,前房水の屈折のため,約13%拡大されている6).多焦点IOLを使用する際には,上記のことを常に念頭におく必要がある.●ハロー・グレア,コントラスト感度低下,waxyvisionへの対応多焦点IOLの光学特性によるハロー・グレアは,順応により時間とともに自覚症状が軽減するので,訴えがあっても可能な限り3.6カ月程度は経過観察する.多焦点IOL挿入眼では原因不明の“ぼやけ,かすみ”といったwaxyvisionを生じることがある.多少のwaxyvisionがあっても順応期間などの説明をして,少なくとも3.6カ月程度は経過観察する4).●ハロー・グレアの点眼治療多焦点IOL挿入して,術後3.6カ月経過しても,ハロー・グレアやwaxyvisionが軽減されない場合,ピロカルピンの点眼が有効である場合がある(特に屈折型多焦点IOL).ピロカルピンは点眼により速やかに眼内に移行し,副交感神経支配の瞳孔括約筋に直接作用してこれを収縮させ,縮瞳する.毛様体筋を収縮させることにより線維柱帯が広がり,房水流出が促進され,眼圧が下降する.縮瞳により,暗黒感を生じることがあるが,逆に多焦点IOL挿入眼では,ハロー・グレアやwaxyvisionを軽減させる効果が期待できる.同時に縮瞳により焦点深度が深くなるため,点眼中は近方の見え方には影響しない.暗黒感や点眼時の刺激を強く感じるときがあるので,使用前に患者に説明が必要である.(81)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載128監修=木下茂大橋裕一坪田一男128.ハロー・グレアの点眼治療草場喜一郎真野富也多根記念眼科病院LASIK(laserinsitukeratomileusis)や多焦点眼内レンズ(multi-focalimplantedintraocularlens)の術後ハロー・グレア,コントラスト感度低下など術後視機能には瞳孔径が関与する.今回,LASIK術後の白内障症例に対して多焦点眼内レンズ(IOL)を挿入し,waxyvisionを訴えた症例にピロカルピン点眼を処方し症状が改善した症例を経験したので紹介する.82あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011●症例右眼視力低下にて,当院受診した.既往に8年前に両眼LASIKを受けている.受診時,VD=0.5(0.6×sph+0.5D(cyl.2.0DAx40°),VS=0.7(1.0×sph+0.5D(cyl.2.0DAx95°)で,右眼に皮質白内障を認めた.多焦点IOLを希望され,右眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL施行し,回折型多焦点IOLであるTecnisRmultifocal+26.5Dを挿入した.術2週間後に,VD=0.3(0.8×sph.3.25D(cyl.1.75DAx135°)と屈折度数が近視寄りになったため,TecnisRmultifocal+21.5DにIOLの入れ替えを施行した.術後,炎症が強かったが,2週間後には消炎した.術2カ月後,VD=0.4p(0.4p×sph+0.5D(cyl.1.5DAx100°),近見VD=0.4(0.4×sph+1.5D(cyl.1.5DAx100°)で,IOLのcenteringは良好だが,瞳孔はやや散瞳しており,明らかなハロー・グレア症状はなく,全体のかすみ,IOLの回析構造が見えると訴えがあった.術3カ月後には暗所は見にくく,明所はまぶしいという訴えがあった(図1).ハロー・グレアやコントラスト感度低下の訴えとは関係なく,waxyvisionが生じていると判断した.症状改善が得られなかったため,術後6カ月に右眼1%ピロカルピン2.3/日を処方した.処方1カ月後,VD=0.9(1.0×sph+0.75D(cyl.1.25DAx100°)と視力改善し,瞳孔は縮瞳し,上記の症状は軽減し,ほぼ訴えは消失した(図2).まとめ多焦点IOLを挿入する場合,術後の視機能やIOLの特性を生かすために,術前の瞳孔径の評価が重要である.術後,ハロー・グレア,コントラスト感度低下,waxyvisionなどを訴えた場合,ピロカルピン点眼が有効な場合がある.ただ,多焦点IOLを希望される患者は術後視機能のこだわりが強い傾向にあり,患者のライフスタイルを考慮し,瞳孔径測定を含めた十分な術前検査や,術前にハロー・グレアなどの症状など十分なインフォームド・コンセントを行うことが重要である.文献1)稗田朋子,稗田牧:瞳孔径の多焦点眼内レンズへの影響.あたらしい眼科26:1075-1076,20102)吉野真未,ビッセン宮島弘子:多焦点眼内レンズ3.屈折型多焦点眼内レンズ.眼科52:757-763,20083)南慶一郎,宮田和典:多焦点眼内レンズ4.屈折型多焦点眼内レンズ.眼科52:765-772,20084)根岸一乃:多焦点眼内レンズ5.特性と合併症への対処.眼科52:773-777,20105)飯田嘉彦:手術と瞳孔屈折型多焦点レンズと瞳孔.IOL&RS23:185-188,20096)西信元嗣:眼光学の基礎第Ⅳ章眼光学.p135-136,金原出版,1990(82)☆☆☆図1ピロカルピン点眼前スリット写真IOLのcenteringは良好で,瞳孔はやや大きめである.図2ピロカルピン点眼後スリット写真縮瞳を認める.

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズ片眼挿入

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011790910-1810/11/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズの適応拡大多焦点眼内レンズ(IOL)には,屈折型と回折型がありそれぞれ特徴的な見え方を有することにより,一般に両眼かつ同種のものを挿入するのが理想的とされている.しかし実際には片眼性白内障や,すでに片眼に単焦点IOLが挿入されているが,より良好な近方視力を得るために多焦点IOL挿入を希望する例がある.多焦点IOLの情報が患者に広まるとともに,両眼性白内障例以外では片眼挿入を希望する例が増えることが予想される.屈折型,回折型どちらを選択するかは僚眼の状態,患者の年齢,ライフスタイルによって変わってくる(図1).僚眼に単焦点IOLが挿入されている症例正視狙いで単焦点IOLを挿入した場合,IOL度数決定の精度向上や小切開白内障手術の導入による医原性乱視軽減により格段に良好になった.しかし単焦点IOL挿入後,きわめて良好な遠方視力が得られても,近方視で眼鏡に依存することに不満をもつ例がある.片眼に単焦点IOLがすでに挿入されている例では,もう片眼に多焦点IOLを挿入すると左右の見え方の違いや両眼視への影響が危惧され,多焦点IOL挿入を見合わせることが以前は多かった.現在国内で使用可能な回折型は光学部の改良,すなわちAbbott社製TecnisRmultifocalは非球面,Alcon社製ReSTORRはapodizationによりコントラスト感度の改善が図られており,以前のものより遠方の見え方について,単焦点IOLとの見え方の違いを感じなくなっている可能性が高いと思われる.実際に片眼のみ回折型IOLを挿入した症例では,単焦点IOLとの遠方の見え方の違いを自覚しているが,良好な近方視力に満足することが多い.片眼に単焦点IOLが挿入されていて近方視の向上を望む症例への対処法として,回折型挿入以外としては,屈折型の選択と,単焦点IOLによるモノビジョン法がある.まず屈折型は,近方視力は単焦点IOLに勝るが,回折型より劣り,またグレア,ハローについて,以前よりも改善しているが単焦点IOL,回折型より自覚しやすい傾向がある.片眼に単焦点IOLが挿入され僚眼に多焦点IOLを希望する症例では近方視への要求度が高いので,屈折型では,近方視に物足りなさを覚えるのに加え,グレア,ハローを強く自覚し,単焦点IOLの見え方と比較して利点を感じにくいことが危惧される.単焦点IOLによるモノビジョン法については,不同視を生じるので左右で3Dの差をつけて挿入することは困難で,両眼同時期の手術で計画的に行う場合と比較して近(79)●連載⑬多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子13.多焦点眼内レンズ片眼挿入中村邦彦たなし中村眼科クリニック片眼性白内障や,すでに片眼に単焦点眼内レンズ(IOL)が挿入されているが,より良好な近方視力を希望して多焦点IOLの片眼挿入を希望する例の増加が予想される.多焦点IOLには屈折型と回折型がありそれぞれ特徴的な見え方を有することにより,どちらを選択するかは僚眼の状態,患者の年齢,ライフスタイルによって変わってくる.図1片眼挿入で推奨される多焦点IOLのタイプ屈折型,回折型のどちらが推奨されるかは僚眼の状態,患者の年齢,ライフスタイルによって変わってくる.示されているのは,あくまで指標であり,実際の選択にあたっては患者個々に瞳孔径を含め十分に所見を把握し,ライフスタイルと本人の希望に鑑みて行うことが望まれる単焦点IOL回折型有水晶体眼高齢若年回折型正視屈折型近視回折型を近方狙い僚眼年齢僚眼の屈折推奨される多焦点IOL近視眼だが常時CL装用屈折型80あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011方視への不満が生じる可能性が高いと思われる.屈折型にてモノビジョン法を施行することも考えられるが,屈折型を近方視狙いにて挿入することになるので,グレア,ハローの自覚が強くなることが危惧される.したがって,単焦点IOL挿入後,良好な裸眼近方視力を要求する症例に対しては,回折型で対処するのが,患者にとって最も受け入れやすい方法と思われる.僚眼が有水晶体眼である症例片眼が透明水晶体で屈折が正視に近く,僚眼の白内障に対して多焦点IOLを検討する場合は,患者の年齢によって屈折型が良いか回折型が良いかは異なってくる.片眼が透明水晶体で,片眼性白内障に対し回折型を挿入した症例は,回折型挿入眼にわずかにコントラスト感度の低下に起因すると思われる症状を自覚するものの,良好な遠方視力と近方視力に満足することが多い.しかし回折型の特徴として遠方と近方にピークがあるため,中間距離が見えにくく感じやすい.瞳孔径が十分に確保できる症例では屈折型の近用ゾーンが有効に機能して回折型と比べても遜色のない近方視が得られるので,屈折型を選択したほうが中間視も良好で良い可能性がある.特に若年者では僚眼の有水晶体眼に調節機能が十分にあり近方視に困らないので,IOL眼での近方視を強く求めない限り屈折型を挿入したほうが自然な見え方で満足度が高いと思われる.一方,加齢とともに瞳孔径は縮小することが知られており,高齢者では十分な瞳孔径を得られず,屈折型については不利となる.現在使用されている屈折型,Abbott社製ReZoomRでは2.1mm以下の瞳孔径では近用ゾーンが機能せず単焦点IOLとほぼ同じ機(80)能になり,日本人の場合60歳以上ではReZoomRを挿入する利点はあまりないことが多い(図2).また,若年者であっても僚眼が近視の場合は,日常生活で常時コンタクトレンズにてほぼ完全矯正をしている症例では正視の場合と同様に屈折型を正視狙いで挿入することが適応となりうるが,眼鏡を中心に生活している症例では不同視を避けて回折型を選択して近方視狙いに挿入するほうが良いと思われる.これは,屈折型は回折型に比べはっきりした近方焦点が存在するわけではないので,近方視狙いとすると眼鏡依存度が減少した実感はあまりない一方で,前述のごとくグレア,ハローの自覚が強くなり,患者は不満を訴えやすいことによる.このように有水晶体眼が正視でない症例の僚眼に多焦点IOLを選択する際は,どのような屈折状態にするか術前に十分検討する必要があると思われる.☆☆☆図2明室,近方視時瞳孔径加齢とともに瞳孔径は縮小し,60歳以上では平均値は2.1mm以下となる.43210年齢(歳)瞳孔径(mm)2.1mm80~70~7960~6950~5930~3940~4920~29~19

眼内レンズ:核白内障と水晶体屈折力

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011770910-1810/11/\100/頁/JCOPY一般に近視の原因には眼軸長(axiallength:AL)と角膜全屈折力(cornealpower:CP)の2因子が大きく影響するとされているが,実際は水晶体屈折力(lenspower:LP)も大きくかかわっている.核混濁眼ではLPの増加により近視化し,混濁進行眼では強く近視化することが報告されている1,2).強度近視眼は核白内障の合併が多いことが知られている3)が,40歳以降では核混濁増加に伴うLPの増加が近視の進行の原因になることが多い.同程度の核白内障であっても,近視化への影響は症例により異なることは臨床でよく経験する.図1に核白内障眼と正常眼の前眼部解析装置(EAS-1000,ニデック)によるスリット画像を示す.核白内障はWHO(世界保健機関)分類での程度2であり,ALはIOLマスター(ツァイス),SE,CPはオートレフラクトケラトメータでの測定値である(SE=等価球面度数).LPはOlsen,Sasakiら4)の方法に準じて,LP=(110.0.2.43×AL.0.89×CP.SE)/0.62から求めた.核白内障眼,正常眼ともにALは25.3mm,CPは43.38Dと同じであるが,LPは正常眼(18.36D)に比べ,核白内障眼(25.35D)で約7D大きく,LPの増加が近視化の原因であることがわかる.LPは核混濁の程度と相関し,混濁進行に伴い近視化が進む.同じ程度の核白内障であってもLPは異なることがあり,これにはALの違いが大きく関与している.Olsen,Sasakiら4)は,50歳以上のアイスランド人正常眼において,ALとLPには有意な負の相関(ALが長いほどLPは小さい)があることを報告している.図2にALの異なる正常眼の水晶体屈折力を示す.LPは正常眼軸眼(21.01D)に比べ長眼軸眼(19.25D)で小さい.長眼軸眼と屈折力の小さい水晶体,短眼軸眼と屈折力の大きい水晶体の組み合わせは理にかなっている.(77)初坂奈津子佐々木洋金沢医科大学眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎293.核白内障と水晶体屈折力核白内障では混濁の進行に伴い,「核性近視」を生じることが知られている.しかし,核白内障の程度が同じであっても,近視化を生じる場合とそうでない場合がある.水晶体屈折力増加に伴う近視化は正常眼軸眼に比べ,長眼軸眼でみられることが多い.長眼軸眼では薄い水晶体に小さな核がみられることが多く,このような水晶体では核白内障による近視化が強いと考えてよい.図1核白内障眼と正常眼のLPの比較両症例ともAL,CPは同じ.図2正常眼の眼軸別によるLPの比較長眼軸眼のほうがLPは小さい.図3核白内障眼の眼軸長別によるLPの比較LPは正常眼軸眼に比べ長眼軸眼で強くなる.ALが異なる眼に同程度の核白内障を生じた場合,その屈折への影響は大きく異なる.図3に代表例を示すが,いずれも程度2の核白内障である.LPは正常眼軸眼(23.77D)に比べ,長眼軸眼(25.34D)で強くなっている.長眼軸眼は正常眼軸眼に比べ水晶体厚が薄い.核混濁の形態は正常眼軸眼では厚い水晶体に大きな核がみられるのに対して,長眼軸眼では薄い水晶体にコンパクトに押しつぶされたような形状を呈する核がみられることが多い.小さな核をもつ水晶体眼では,近視化の進行が強いと考えてよい.長眼軸眼の水晶体は薄く屈折力が弱いため,核混濁進行による屈折力増加の影響が現れやすいのかもしれないが,核の混濁形態の違いがどのようなメカニズムでLPに影響しているかについては,いまだ明らかではなく,今後さらに検討が必要である.文献1)SamarawickramaC,WangJJ,BurlutskyGetal:Nuclearcataractandmyopicshiftinrefraction.AmJOphthalmol144:457-459,20072)FotedarR,MitchellP,BurlutskyGetal:Relationshipof10-yearchangeinrefractiontonuclearcataractandaxiallengthfindingsfromanolderpopulation.Ophthalmology115:1273-1278,1278e1,20083)PraveenMR,VasavadaAR,JaniUDetal:PrevalenceofcataracttypeinrelationtoaxiallengthinsubjectswithhighmyopiaandemmetropiainanIndianpopulation.AmJOphthalmol145:176-181,20084)OlsenT,ArnarssonA,SasakiHetal:Ontheocularrefractivecomponents:theReykjavikEyeStudy.ActaOphthalmolScand85:361-366,2007

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法 ロート「iQ14 バイフォーカル」

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011750910-1810/11/\100/頁/JCOPY現在すでに多くの種類の遠近両用ソフトコンタクトレンズ(SCL)が提供されており,それぞれの特徴は多く異なっている.今回のテーマで扱う「iQ14バイフォーカル」が他のレンズと最も異なっているのは中央部が単焦点で,その周囲に累進屈折力部分を設けているところである.さらに,中央の単焦点部分が遠用度数を提供するDタイプと近用度数を提供するNタイプの2種類が準備されている.それぞれが単焦点SCLの性格を強く発揮するため,単焦点SCLの見え方にこだわる症例には他の遠近両用SCLでは提供できない快適な視力を提供できる.その一例を示してみよう.●症例患者:54歳,女性.主訴:遠近両用SCLを使用したい.現病歴:数年前からSCLを装用中に手元が見づらくなった.最近,数カ所の施設で老視用SCLを試したが,満足した見え方が得られなかった.結局,現在は2週間頻回交換単焦点SCLを装用し,近方視が必要なときだけ,老眼鏡を重ねて使用している.友達は遠近両用SCLで快適だといっている.私の眼に合う遠近両用SCLを処方して欲しい.現症:視力VD=0.03(1.2×.5.75D(cyl.0.25DAx180°)VS=0.03(1.2×.5.50D(cyl.0.50DAx180°)装用中の2週間頻回交換SCL:R)B.C.8.70mm/PS.5.50D/Size14.0mmL)B.C.8.70mm/PS.5.50D/Size14.0mmSCL装用状態で重ねて装用する近用眼鏡の度数:右眼sph+2.00D,左眼sph+2.00DSCL装用中のコンタクトレンズによる矯正視力:VD=1.2×自己SCL(1.5×自己SCL=sph+0.75D)VS=1.2×自己SCL(1.5×自己SCL=sph+0.75D)《私の独り言》単焦点SCLで快適な遠方視力が得られた人に遠近両(75)用SCLを処方するのはとてもむずかしい.通常ならば,SCLの処方には触れないで,使用中のSCLと重ねて使用する眼鏡を左右ともにsph+0.50Dadd+1.50Dで処方したいところである.しかし,この症例は遠近両用SCLを使用したいという気持ちは十分に強い.これまでに試した老視用SCLで満足できなかった理由を分析してみよう.1.使用中の単焦点SCLは過矯正である.このままで累進屈折力レンズを用いても強い加入度数が要求されて,快適な矯正はできない.2.使用中の眼鏡レンズ度数は+2.00Dであるが,SCLが.0.75D過矯正なので,近方視に使用している度数は+1.25Dしか機能していない.遠方矯正度数を適正にすれば,近用加入度数は+1.50Dあれば十分足りる.これまでに試した遠近両用の加入度数は+2.00D以上のものが用いられた可能性が高い.3.とりあえず,通常の処方を行ってみよう.最初に選択した累進屈折力タイプのSCLR)B.C.9.0mm/PS.4.75D/Size14.5mmadd+1.50DL)B.C.9.0mm/PS.4.75D/Size14.5mmadd+1.50D患者さんのコメント:手元は良いが,遠くがはっきり見えない.不満.2回目は遠方の度数を上げた累進屈折力タイプのSCLR)B.C.9.0mm/PS.5.00D/Size14.5mmadd+1.50DL)B.C.9.0mm/PS.5.00D/Size14.5mmadd+1.50D患者さんのコメント:手元は前よりも見づらく,遠くの見え方は改善していない.《私の独り言》累進屈折力レンズの見え方に不満が生じている.単焦点の見え方が必要な眼なのだろう.梶田雅義梶田眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法319.ロート「iQ14バイフォーカル」76あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(00)3回目は中央遠用単焦点周辺部累進屈折力タイプのSCLR)B.C.8.7mm/PS.5.00D/Size14.5mmadd+1.50D[Dタイプ]L)B.C.8.7mm/PS.5.00D/Size14.5mmadd+1.50D[Dタイプ]患者さんのコメント:遠くは少しゴーストが気になるが前のSCLほどではなく,不満はない.手元は週刊誌くらいの文字は見えるが,細かい辞書の文字は見づらい.《私の指導》:近くが見づらいときにはこれまで通り現在使用している眼鏡を重ねて使用しましょう.患者さんのコメント:以前試した老視用SCLのときも,同じように近用眼鏡を重ねて使用してみましたが,辞書の文字は見づらかった.《私の指導》:このSCLは真ん中が単焦点になっているので,これまで使用していた単焦点SCLに近い見え方になると思います.試してみてください.患者さんのコメント:(眼鏡を掛けて)確かにこのレンズだと細かい文字も見えますね.《私の指導》:とりあえず1週間試してみましょう.1週後の患者さんのコメント:日常生活のほとんどをコンタクトレンズだけで過ごすことができるようになりました.買い物のレジでも眼鏡を使わなくてもよく,とても快適です.一口に遠近両用コンタクトレンズといっても,デザインの違いによって,見え方の鮮明さと安定性が異なる.患者さんの苦情をイメージして把握し,最適なデザインのレンズを選択してあげることが,遠近両用SCL処方成功のコツである.図1焦点深度をイメージするa.単焦点レンズ:50歳代では他覚的な調節力はほとんどなくなっている.遠方視用に完全矯正した場合には近くを見たときにはデフォーカス状態で,かなりぼけた網膜像になる.もちろん単焦点の近用眼鏡を追加装用すれば,近方にはピントがあうが,遠方を見たときの網膜像はぼける.b.累進屈折力レンズ:累進屈折力タイプの遠近両用レンズは球面収差を増した状態を作るので,ピントはあまく少しぼけた網膜像が得られる.しかし,ある程度ぼけた網膜像を大脳が処理して,視認識しようとする.この見え方に不満を感じなければ,焦点深度が深くなったように感じ,遠方から近方まで不自由なくそれなりに明視することができる.一般的な眼の場合は,3.00Dが1mmに相当するので,焦点深度が0.67mm得られれば,無限遠からおよそ50cmまで明視することができることになる.しかし,このタイプのレンズが作るぼけた網膜像に不満を感じる場合には矯正視力は低下して,快適さはまったく得られない.c.中央遠用単焦点周辺部累進屈折力レンズ:レンズの中央部分は単焦点なので,遠方は鮮明な網膜像が得られる.その周りの累進屈折力レンズが近方視のために少しぼけた網膜像をつくる.単焦点レンズで近方視をしたときの網膜像のぼけ方に比べればかなり鮮明であるため,大脳の処理が進み,近方視時にある程度の満足感を与える.中央部は焦点レンズであるため,これまでの老視用眼鏡を合わせて用いれば,近方視時に鮮明な網膜像が得られる.鮮明な網膜像浅い焦点深度少し不鮮明な網膜像深い焦点深度鮮明な網膜像に少し不鮮明な網膜像が重なる深い焦点深度a.単焦点レンズb.累進屈折力レンズc.中央遠用単焦点周辺部累進屈折力レンズ

写真:前眼部OCTによる急性水腫の観察

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011730910-1810/11/\100/頁/JCOPY(73)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦320.前眼部OCTによる急性水腫の観察東原尚代京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学図1初診時の円錐角膜急性水腫症例(33歳,男性)のVisanteTMOCT(光干渉断層計)所見裂けたDescemet膜が前房側へ離解し実質浮腫を生じている.①②図2図1のシェーマ①:裂けたDescemet膜.②:角膜実質にみられるpseudocysts.図3初診から1週間後の前眼部OCT所見Descemet膜断端がロールして対側のDescemet膜との間隙が広がっている.実質浮腫はやや軽減している.図4初診から2週間後の前眼部OCT所見Descemet膜は皺を形成して厚みを増しながら短縮し,その断端は塊状になって対側のDescemet膜断端との距離がさらに広がった.この後,Descemet膜は実質側に接着して治癒した.74あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(00)円錐角膜の急性水腫発症時には角膜は強い浮腫と混濁のために詳細な観察は困難である.近年,前眼部OCT(光干渉断層計)を用いた急性水腫の観察に関する報告がなされており,角膜実質やDescemet膜の治癒過程を把握するのに有用な検査法と考えられている1).本症例においても,初診時から経時的にVisanteTMOCTを撮影し,避けたDescemet膜と角膜浮腫の変化を詳細に観察することができた(図1~4).初診時の前眼部OCT所見(図1)では,角膜浮腫および実質内のpseudocystを認めた.また,裂けたDescemet膜は前房側へ捲れ上がり断端は丸まっていた.さらに,初診から1週間後には,角膜実質の浮腫はやや軽減し,裂けたDescemet膜の断端はロールしているのがわかる(図3).さらに2週間後には,実質内のpseudocystは消失して浮腫は消退したものの,Descemet膜は皺を形成しながら短縮し,断端は塊状になって対側のDescemet膜断端との距離がさらに広がっているのが観察できた(図4).急性水腫発症後には角膜後面に強い瘢痕を残すことがある(図5)が,裂けたDescemet膜を前眼部OCTで観察することにより,急性水腫後に生じる角膜後面の瘢痕形成の過程を推察することができた.また,Descemet膜が前房側に離れた状態にもかかわらず,実質浮腫が徐々に消退していったことから,裂けたDescemet膜領域に周辺角膜から内皮細胞が伸展・被覆して内皮細胞のポンプ機能が再構築されるのではないかと考えられた.一般に円錐角膜の急性水腫の治療は,コンタクトレンズの装用中止と感染予防のため抗菌薬眼軟膏の点入を行い圧迫眼帯で保存的に経過をみるが,早い治癒が望まれる場合には前房内に空気注入を行って角膜浮腫の早期軽減を図る.その際にも治療効果の判定や治癒過程の観察に前眼部OCTが有用と報告されており2,3),急性水腫のように角膜混濁のある状況下においては,前眼部OCTは診断や治療判定に欠かせない検査法となっている.文献1)KucumenBR,YenerelNM,GorgunEetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomographyfindingsofacutehydropsinapatientwithkeratoconus.OphthalmicSurgLesersImaging41:S114-116,20102)RamamurthyB,MittalV,RaniAetal:Spontaneoushydropsinpellucidmarginaldegeneration:documentationbyOCT-III.ClinExperimentOphthalmol34:616-617,20063)VanathiM,BeheraG,VengayilSetal:IntracameralSF6injectionandanteriorsegmentOCT-baseddocumentationforacutehydropsmanagementinpellucidmarginalcornealdegeneration.ContLensAnteriorEye31:164-166,2008図5急性水腫発症後の角膜後面に残った瘢痕

DRS, ETDRS, DRVS

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYで,4年目では光凝固群12%,対照群29%であり,光凝固群で有意に低率であった2).3年経過で,高度の視力低下は,アルゴンレーザーで13.3%,キセノンで18.5%,経過観察群で26.4%であり,キセノンとアルゴンレーザーとの間に治療効果に有意差はなかった.なお,5年経過で光凝固療法により視力の悪化するリスクは50%に減少している.一方,光凝固による合併症は,視力低下がキセノン19.1%,アルゴンレーザー9.3%で,周辺視野狭窄がキセノン41%,アルゴンレーザー7%であった.ほかに暗順応低下や色覚異常などが検討されている.DRSでは,増殖網膜症のなかでも危険な兆候(highriskcharacteristics)が認められた場合に,高度の視力障害(視力0.025以下)をきたす頻度が汎網膜光凝固により有意に減少したという結果が得られた(表1).危険な兆候とは,①1/4乳頭面積以上の乳頭新生血管,②硝子体出血または網膜前出血を伴う1/4乳頭面積未満の乳頭新生血管,③硝子体出血または網膜前出血を伴うはじめに糖尿病網膜症に対する眼科的治療は,網膜光凝固と硝子体手術が主体的に行われている.糖尿病網膜症に対する網膜光凝固と硝子体手術に関して,大規模のHospital-basedstudyが行われ,その有用性が示されている.この結果から,糖尿病網膜症の眼科的治療は,広く普及し,さらなる発展がくり広げられている.大規模のHospital-basedstudyは,評価項目の比較検討のみならず,診断基準および検査方法の確立,危険因子の把握,さらには,治療ガイドラインの構築に大きく貢献している.本稿では,糖尿病網膜症を対象に行われた大規模のHospital-basedstudyについて解説する.ITheDiabeticRetinopathyStudyDiabeticRetinopathyStudy(DRS)1.7)は,1971年から1975年にかけて取り込まれた無作為多施設臨床治験である.糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固の有効性と実施時期,キセノンとアルゴンレーザーによる効果と副作用の差異を検討するため,少なくとも1眼に増殖網膜症を有するか,両眼に重症の非増殖網膜症を有し,矯正視力が0.2以上の糖尿病患者1,758名を,片眼にキセノンまたはアルゴンレーザーで汎網膜光凝固を施行し,他眼は経過観察を行った.高度の視力低下(severevisualloss:矯正視力0.025以下が,4カ月以上の間隔をあけた経過観察で2回以上続いたもの)は,2年目では光凝固群6%,対照群14%(65)65*ShigehikoKitano:東京女子医科大学糖尿病センター眼科〔別刷請求先〕北野滋彦:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学糖尿病センター眼科特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):65.71,2011糖尿病についての疫学研究─Hospital-basedStudy:DRS,ETDRS,DRVSDRS,ETDRS,DRVS北野滋彦*表1DRSにおける視力0.025以下まで悪化した率観察期間凝固群経過観察群重症の非増殖網膜症2年2.8%3.2%4年4.3%12.8%危険な兆候を認めない増殖網膜症2年3.2%7.0%4年7.4%20.9%危険な兆候を認める増殖網膜症2年10.9%26.2%4年20.4%44.0%66あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(66)中等症から重症の非増殖網膜症または早期増殖網膜症で,かつ黄斑浮腫を伴わず矯正視力0.5以上の症例,または,軽症から重症の非増殖網膜症または早期増殖網膜症で,かつ黄斑浮腫を伴う矯正視力0.1以上の症例を以下の3群に分けた.I.黄斑浮腫を認めないものII.黄斑浮腫を伴う軽症・中等症の非増殖網膜症(lesssevereretinopathy)III.黄斑浮腫を伴う重症の非増殖網膜症または早期増殖網膜症(moresevereretinopathy)それぞれの群で,片眼にただちに汎網膜光凝固を行う群(early群)と,他眼はハイリスク網膜症を認めた時点で汎網膜光凝固を行う群(deferral群)に割り付け,さらに早期に光凝固を行う場合は,凝固総数が1,200発を超える密凝固(completescatterphotocoagulation)群と超えない粗凝固(mildscatterphotocoagulation)群,加えて局所光凝固を併用させるか否かに細分された(図1).また,アスピリン650mg/日とplaceboが投与された.評価項目として,高度の視力低下,中等度の視力低下(視力が半分以下に低下),ハイリスク増殖網膜症(乳頭1/2乳頭面積以上の網膜新生血管のいずれかがみられるものをいう.危険な兆候が認められる増殖網膜症では,汎網膜光凝固による利益が損失を明らかに上回るため,汎網膜光凝固を遅らせてはならない.重症の非増殖網膜症と危険な兆候が認められない増殖網膜症では,ただちに汎網膜光凝固を行っても,注意深い経過観察を行って,危険な兆候が認められた時点で汎網膜光凝固を行ってもどちらでもよいという結論に至った.すなわち,DRSにおいては,危険な兆候を定められたことに大きな意義が認められている.IITheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)9.32)は,1980年から1985年にかけて,22施設において取り込まれた無作為多施設臨床治験である.光凝固の実施にあたり生じてきた疑問である,①汎網膜光凝固をどの時期に施行するのが最も有効か,②黄斑浮腫に対する局所光凝固は有効か,③アスピリン内服は網膜症治療に有効か,が検討された.図1ETDRSにおける症例の割り付け法ETDRS症例黄斑浮腫(-)いずれの非増殖網膜症または早期増殖網膜症黄斑浮腫(+)軽症または中等度非増殖網膜症非光凝固非光凝固非光凝固早期光凝固粗光凝固密光凝固粗光凝固密光凝固黄斑凝固→粗光凝固黄斑凝固→密光凝固早期光凝固黄斑浮腫(+)重症非増殖網膜症または早期増殖網膜症粗光凝固密光凝固黄斑凝固→粗光凝固黄斑凝固→密光凝固早期光凝固(67)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201167には局所光凝固は考慮すべきである.すなわち,黄斑浮腫を伴う軽症または中等症の非増殖網膜症の場合は,まず黄斑浮腫に対する光凝固を行って経過を観察し,ハイリスクな増殖網膜症に移行した時点で汎網膜光凝固を行うのがよいとしている.アスピリン650mg/日とplaceboの比較検討において,アスピリン内服の有効性は認められなかった15).ETDRSでは,汎網膜光凝固の施行時期,黄斑光凝固,アスピリン内服の有効性以外に,以下にあげる多様な検討が行われ,第26報まで報告されている.①ETDRSの実施要項ETDRSの実施要項と観察時の背景因子14),立体眼底写真による糖尿病網膜症分類17),蛍光眼底所見による病期分類18)②糖尿病黄斑浮腫糖尿病黄斑浮腫の検眼鏡所見と眼底写真による同定法12),糖尿病黄斑浮腫に対する光凝固の治療手技と臨床ガイドライン9),糖尿病黄斑浮腫に対する光凝固の効果8,11),黄斑浮腫に対する局所光凝固の予後因子26),黄斑浮腫における網膜下線維増殖の特徴と危険因子29)③汎網膜光凝固糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固と局所凝固の手技10),糖尿病網膜症に対する早期網膜光凝固の効果16)④全身因子ETDRSにおけるC-peptidと糖尿病病型13),脂質異常と黄斑沈着28),重度の視力低下の原因30),腎移植における危険因子32)⑤アスピリン糖尿病網膜症に対するアスピリン治療効果15),アスピリン内服による死亡率と心血管疾患や腎疾患の罹病率21),アスピリン内服の白内障進展に対する効果23),硝子体および網膜前出血に対するアスピリン内服の影響27)⑥危険因子眼底所見の危険因子19),蛍光眼底所見の危険因子20),色覚異常の危険因子22),ハイリスク増殖網膜症と重度の視力低下の危険因子25)⑦手術予後白内障手術成績31),硝子体手術の背景と予後因子24)以上に関する検討のなかで,ETDRSによって確立さ新生血管や1/4乳頭面積以上の網膜新生血管を伴った硝子体出血または網膜前出血を有する網膜症)への進展があげられた.5年間の経過観察で,ハイリスクな増殖網膜症への進展率は,各群とも非凝固群で高く,III群のmoresevereretinopathyにおいては61.3%にのぼった.しかしIII群で密凝固を行った群では,ハイリスクな増殖網膜症への進展率は27.6%に抑えられた.一方,5年間の経過観察における視力0.025以下まで悪化した率(severevisualloss)は,黄斑浮腫を認めないI群では差はみられなかったが,黄斑浮腫を認めるII群のlesssevereretinopathy,III群のmoresevereretinopathyでは,非凝固群に比し粗凝固群,密凝固群ともに抑制されていた16)(表2).汎網膜光凝固は黄斑浮腫を悪化させ,中等度の視力低下や視野障害を生じることがあり,粗光凝固より密光凝固でその頻度は高い.軽度や中等度の非増殖網膜症における汎網膜光凝固は,視野狭窄などの合併症をきたす頻度が著しい視力障害への抑制効果を上回っていた.これらの結果から,ETDRSの推奨する網膜症に対する光凝固は,注意深い経過観察が可能であれば,軽症・中等度の非増殖網膜症に汎網膜光凝固は推奨されない.重症あるいは超重症非増殖網膜症,さらに初期増殖網膜症において危険因子が伴う場合に汎網膜光凝固が施行され,ハイリスクな増殖網膜症に至ってからただちに汎網膜光凝固が施行されるという治療指針が示されている.黄斑浮腫に対する局所光凝固は,中等度の視力低下のリスクを減少させる効果がある8).また,黄斑浮腫の局所光凝固は視力向上の可能性を増加させ,浮腫の遷延を減らす.中心窩を含むか,中心窩に迫っている黄斑浮腫表2ETDRSにおける5年経過観察後の視力0.025以下まで悪化した率密凝固粗凝固非凝固I群黄斑浮腫(.)583眼590眼1,179眼2.7%2.6%2.2%II群黄斑浮腫(+)Lesssevereretinopathy718眼730眼1,429眼1.0%1.7%2.9%III群黄斑浮腫(+)Moresevereretinopathy542眼548眼1,103眼4.2%4.0%6.5%68あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(68)グ・センターで一括して行われる.②ETDRS視力表小数視力表の通常測定では,低視力領域の微妙な視力変化が測定困難であるため,ETDRSのために開発された視力表である.視力を判別可能な文字数で表している.③ETDRS病期分類DRSでは,Airlie分類を改変して,AmodificationoftheAirlieHouseclassificationofdiabeticretinopathy(DRS分類)が報告された.毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,軟性白斑,静脈異常,網膜内細小血管異常,新生血管,硝子体出血・網膜前出血,網膜線維増殖,網膜.離などの15項目について基準写真を用いて3.6段階に程度分類し,重症度を定めた.ETDRSでは,さらにDRS分類を改変し,AnextensionofthemodifiedAirlieHouseclassificationofdiabeticretinopathy(ETDRS分類)を報告した.④ClinicallySignificantMacularEdema(CSME)(図2)ETDRSでは,治療の対象となる糖尿病黄斑浮腫をCSMEと定義している.1)中心窩または中心窩から500μm以内の網膜の肥厚2)中心窩または中心窩から500μm以内にあり,隣れたGoldstandardがあり,糖尿病網膜症の診断および治療において重要な指針となっている.①写真撮影法眼底撮影は,画角30°,7方向のステレオカラー写真と取り決められている.眼底写真の評価は,リーディン図2CSME1:中心窩または中心窩から500μm以内の網膜の肥厚(白色1).2:中心窩または中心窩から500μm以内にあり,隣接した網膜の肥厚(白色2)を伴う硬性白斑(青色).3:1乳頭面積以上の網膜の肥厚(白色3)があり,その一部が中心窩から1乳頭径内に存在する.表3国際重症度分類網膜症重症度眼底所見網膜症なし異常所見なし軽症非増殖網膜症毛細血管瘤のみ中等度非増殖網膜症毛細血管瘤以外の所見も認めるが,重症非増殖網膜症よりも軽症重症非増殖網膜症以下のいずれかの所見を認める1)4象限のすべてに20個以上の網膜内出血を認める2)2象限以上で明らかな静脈の数珠状拡張を認める3)1象限以上で明確な網膜内細小血管異常を認める増殖網膜症以下のいずれかの所見を認める1)新生血管2)硝子体出血あるいは網膜前出血黄斑浮腫重症度眼底所見黄斑浮腫なし網膜肥厚や硬性白斑なし軽症黄斑浮腫後極部に網膜肥厚や硬性白斑が認められるが黄斑部から離れている中等度黄斑浮腫網膜肥厚や硬性白斑が黄斑部の中心を含んでいない重症黄斑浮腫網膜肥厚や硬性白斑が黄斑部の中心を含んでいる(69)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201169後においては,視力0.5以上をはじめ,0.2以上,0.025以上,光覚なし,のいずれの視力の頻度においても両群間に有意差は認められなかった.なお,DRVSでは,振り分け3カ月以内に網膜光凝固が実施されている場合や,重度の虹彩新生血管,黄斑を含む網膜.離は除外されていて,経過観察中の網膜光凝固の施行に制限があり,現行の治療と相違があるので注意が必要である.0.05以上で活動性の新生血管・線維血管性増殖を伴うもの370例を,ただちに硝子体手術を施行する早期手術群と,視力0.1以下や,黄斑.離,硝子体出血による重症視力低下が6カ月継続する場合のみ手術を行う経過観察群に振り分けた.4年後の高度の視力低下は,早期手術群で30%,経過観察群で36%と差はみられなかったが,視力0.5以上は早期手術群が44%で,経過観察群28%に比し有意に高かった.重症増殖網膜症の硝子体出血で早期に硝子体手術を行うことで良好な視力(0.5以上)を維持できる可能性があることが示された35).近年の硝子体手術の機器と技術の進歩により術後成績は向上している.DVRSにおいて,光覚なしは約25%と高く,そのおもな原因は,血管新生緑内障であった.DVRSでは,眼内光凝固もなく,経過観察中の網膜光凝固にも制限があったため,現行の硝子体手術が行われるならば,早期手術の有効性はさらに明確になると思われる.したがって,糖尿病網膜症に対する硝子体手術の適応も変遷しているのは当然のことと言える.文献1)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Preliminaryreportoneffectsofphotocoagulationtherapy.AmJOphthalmol81:383-396,19762)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy:thesecondreportofdiabeticretinopathystudyfindings.Ophthalmology85:82-106,19783)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Fourriskfactorsforseverevisuallossindiabeticretinopathy.Thethirdreportfromthediabeticretinopathystudy.ArchOphthalmol97:654-655,19794)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy:relationshipofadversetreatmenteffectstoretinopa接した網膜の肥厚を伴う硬性白斑3)1乳頭面積以上の網膜の肥厚があり,その一部が中心窩から1乳頭径内に存在するCSMEは上記のうちいずれかを一つ以上有するものをいう.⑤黄斑光凝固実施要項直接凝固中心窩から500μm以遠,2乳頭径以内の孤立性の網膜過蛍光点・漏出点(おもに毛細血管瘤)を50.100μm,0.05.0.1秒で凝固部の明確な白色化が得られる強さで凝固する.(第1回目の凝固の4カ月後に視力が0.5以下で,浮腫や漏出があれば,中心窩から300μm以遠を再凝固する.)格子状凝固中心窩から500μm以遠,2乳頭径以内(乳頭黄斑線維束も凝固可)の網膜内びまん性漏出部,網膜毛細血管床閉塞を50.200μm,0.05.0.1秒で1凝固斑以上の間隔で中等度の強さで凝固する.⑥国際重症度分類(表3)国際重症度分類は,2002年にAmericanAcademyofOphthalmologyより提唱された糖尿病網膜症の病期分類であり33),ETDRSやWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy(WESDR)から得られたエビデンスをもとに作成されている.IIIDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyDiabeticRetinopathyVitrectomyStudy(DRVS)34.38)は,1976年から1983年に実施された無作為多施設臨床治験である.早期の硝子体手術により,硝子体出血と視力障害がある重症糖尿病網膜症が,さらに視力低下を起こす可能性を低下させるのか,または,重症糖尿病網膜症の視力良好例が視力低下を起こす可能性を,硝子体手術により軽減できるのかが検討された.硝子体出血の持続が6カ月以下で,光覚以上かつ0.025以下の視力低下が少なくとも1カ月続いた600例を,ただちに硝子体手術を施行する早期手術群と1年待ってから施行する経過観察群に振り分けた.2年後において,視力0.5以上は早期手術群の25%に対し,経過観察群は15%で有意差がみられた34)が,4年70あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(70)reportnumber9.Ophthalmology98:766-785,199117)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Gradingdiabeticretinopathyfromstereoscopiccolorfundusphotographs─anextensionofthemodifiedAirlieHouseclassification.ETDRSreportnumber10.Ophthalmology98:786-806,199118)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Classificationofdiabeticretinopathyfromfluoresceinangiograms.ETDRSreportnumber11.Ophthalmology98:807-822,199119)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Fundusphotographicriskfactorsforprogressionofdiabeticretinopathy.ETDRSreportnumber12.Ophthalmology98:823-833,199120)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Fluoresceinangiographicriskfactorsforprogressionofdiabeticretinopathy.ETDRSreportnumber13.Ophthalmology98:834-840,199121)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Aspirineffectsonmortalityandmorbidityinpatientswithdiabetesmellitus.ETDRSreportnumber14.JAMA268:1292-1300,199222)FongDS,BartonFB,BresnickGH:Impairedcolorvisionassociatedwithdiabeticretinopathy:EarlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportNo.15.AmJOphthalmol128:612-617,199923)ChewEY,WilliamsGA,BurtonTCetal:Aspirineffectsonthedevelopmentofcataractsinpatientswithdiabetesmellitus.Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreport16.ArchOphthalmol110:339-342,199224)FlynnHWJr,ChewEY,SimonBDetal:Parsplanavitrectomyintheearlytreatmentdiabeticretinopathystudy.ETDRSreportnumber17.Ophthalmology99:1351-1357,199225)DavisMD,FisherMR,GangnonREetal:Riskfactorsforhigh-riskproliferativediabeticretinopathyandseverevisualloss:Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreport#18.InvestOphthalmolVisSci39:233-252,199826)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Focalphotocoagulationtreatmentofdiabeticmacularedema.Relationshipoftreatmenteffecttofluoresceinangiographicandotherretinalcharacteristicsatbaseline:ETDRSreportnumber19.ArchOphthalmol113:1144-1155,199527)ChewEY,KleinML,MurphyRPetal:Effectofaspirinonvitreous/preretinalhemorrhageinpatientswithdiabetesmellitus.EarlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportNo.20.ArchOphthalmol113:52-55,199528)ChewEY,KleinML,FerrisIIIFLetal:Associationofelevatedserumlipidlevelswithretinalhardexudatesindiabeticretinopathy.Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreport22.ArchOphthalmol114:1079-1084,199629)FongDS,SegalPP,MyersFetal:Subretinalfibrosisinthyseverity.Diabeticretinopathystudyreportno.5.DevOphthalmol2:248-261,19815)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Diabeticretinopathystudyreportnumber6.Design,methods,andbaselineresults.Reportnumber7.AmodificationoftheAirlieHouseclassificationofdiabeticretinopathy.Preparedbythediabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci21:1-226,19816)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Clinicalapplicationofdiabeticretinopathystudyfindings,Diabeticretinopathystudyreportnumber8.Ophthalmology88:583-600,19817)EdererF,PodgorMJ:Assessingpossiblelatetreatmenteffectsinstoppingaclinicaltrialearly:acasestudy.DiabeticretinopathystudyreportNo.9.ControlClinTrials5:373-381,19848)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportnumber1.ArchOphthalomol103:1796-1806,19859)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Treatmenttechniquesandclinicalguidelinesforphotocoagulationofdiabeticmacularedema.Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportnumber2.Ophthalmology94:761-774,198710)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Techniquesforscatterandlocalphotocoagulationtreatmentofdiabeticretinopathy:Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportno.3.IntOphthalmolClin27:254-264,198711)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema:Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportno.4.IntOphthalmolClin27:265-272,198712)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Detectionofdiabeticmacularedema─Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportnumber.5.Ophthalmology96:745-750,198913)PriorMJ,ProutT,MillerDetal:C-peptideandtheclassificationofdiabetesmellituspatientsintheearlytreatmentdiabeticretinopathystudy.Reportnumber6.AnnEpidemiol3:9-17,199314)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Earlytreatmentdiabeticretinopathystudydesignandbaselinepatientcharacteristics.ETDRSreportnumber7.Ophthalmology98:741-756,199115)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Effectsofaspirintreatmentondiabeticretinopathy.ETDRSreportnumber8.Ophthalmology98:757-765,199116)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Earlyphotocoagulationfordiabeticretinopathy.ETDRSあたらしい眼科Vol.28,No.1,201171diabeticmacularedema.ETDRSreport23.ArchOphthalmol115:873-877,199730)FongDS,FerrisIIIFL,DavisMDetal:Causesofseverevisuallossintheearlytreatmentdiabeticretinopathystudy:ETDRSreportNo.24.AmJOphthalmol127:137-141,199931)ChewEY,BensonWE,RemaleyNAetal:Resultsafterlensextractioninpatientswithdiabeticretinopathy:earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportnumber25.ArchOphthalmol117:1600-1606,199932)CusickM,ChewEY,HoogwerfBetal:RiskfactorsforrenalreplacementtherapyintheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy,EarlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportNo.26.KidneyInternational66:1173-1179,200433)WilkinsonCP,FerrisIIIFL,KleinREetal:Proposedinternationalclinicaldiabeticretinopathyanddiabeticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmology110:1675-1676,200334)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Two-yearcourseofvisualacuityinsevereproliferativediabeticretinopathywithconventionalmanagement.Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport#1.Ophthalmology92:492-502,198535)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Earlyvitrectomyforseverevitreoushemorrhageindiabeticretinopathy.Two-yearresultsofarandomizedtrial.Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport2.ArchOphthalmol103:1644-1652,198536)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Earlyvitrectomyforsevereproliferativediabeticretinopathyineyeswithusefulvision.Resultsofarandomizedtrial─Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport3.Ophthalmology96:1121-1123,198937)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Earlyvitrectomyforsevereproliferativediabeticretinopathyineyeswithusefulvision.Clinicalapplicationofresultsofarandomizedtrial─Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport4.Ophthalomology95:1321-1334,198838)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Earlyvitrectomyforseverevitreoushemorrhageindiabeticretinopathy.Four-yearresultsofarandomizedtrial:Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport5.ArchOphthalmol108:958-964,1990(71)

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2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYDRCR.netがすでに終了した研究を,表2に現在進行中の研究を示す.結果が発表されている研究について,以下簡単に紹介したい.なお,研究のデザインやプロトコールについてはDRCR.netのウェブサイト(http://drcrnet.jaeb.org/)に詳しいが,結果については論文を参照しなければならない.はじめにDRCR.netとは,アメリカにあるDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetworkという組織の略称である.糖尿病網膜症およびその関連病態における多施設共同研究を円滑に進めることを目的として,2002年9月に設立された.糖尿病網膜症を対象とした多施設研究の発案,デザインから遂行までサポートしてくれる.基本的には臨床研究を対象としているが,疫学研究その他もサポート対象である.特に糖尿病黄斑症(黄斑浮腫)に重点を置いているのが特徴である.現在,DRCR.netには全米で227カ所の施設と797人の研究者が参加している.中央事務局はJohnsHopkinsにある.その財源は,アメリカ国立衛生研究所(NationalInstitutesofHealth)に属する研究所の一つ,国立眼病研究所(NationalEyeInstitute:NEI)である.国の研究機関という位置づけだが,大学病院およびその関連施設だけでなく地域の医療機関を積極的に活用しており,産業界との協力も積極的に行っている.事務局運営のための固定メンバーがいるが,研究のプロトコールを作成したり論文を作成したりする際には,随時必要なメンバーが集められる.参加している研究者の側から新しい研究のデザインを提案することもできる.招集された検討会でその提案が認められると,そのままプロトコールが練られ,実施へ向けて動き出す.設立からまだ10年に満たない組織だが,精力的に研究を行い,すでに多くの成果を発表している.表1に(61)61*HarumiFukushima:JR東京総合病院眼科**SatoshiKato:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学・視覚矯正学〔別刷請求先〕福嶋はるみ:〒151-8528東京都渋谷区代々木2-1-3JR東京総合病院眼科特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):61.64,2011糖尿病についての疫学研究─Hospital-basedStudy:DRCR.netDRCR.net福嶋はるみ*加藤聡**表1DRCR.netの研究一覧(終了したもの)プロトコール1.APilotStudyofLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema2.ARandomizedTrialComparingIntravitrealTriamcinoloneAcetonideandLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema3.EvaluationofVitrectomyforDiabeticMacularEdemaStudy4.APilotStudyofPeribulbarTriamcinoloneAcetonideforDiabeticMacularEdema5.TemporalVariationinOpticalCoherenceTomographyMeasurementsofRetinalThickeninginDiabeticMacularEdema6.APhase2EvaluationofAnti-VEGFTherapyforDiabeticMacularEdema:Bevacizumab(Avastin)7.AnObservationalStudyoftheDevelopmentofDiabeticMacularEdemaFollowingScatterLaserPhotocoagulation8.SubclinicalDiabeticMacularEdemaStudy9.TheCourseofResponsetoFocalPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema62あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(62)固を施行した群の成績が一番良かった.また,トリアムシノロンを投与した群では,眼圧上昇や白内障の進行が高率に認められた.糖尿病黄斑浮腫に対する治療としては古典的な網膜光凝固のほうがトリアムシノロンの硝子体投与よりも長期的効果に優れ,かつ合併症が少ないことが示された.プロトコール3:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の効果3)硝子体黄斑牽引を伴う糖尿病黄斑浮腫に対して硝子体手術を施行し,その効果を検討した.多施設スタディのため術者は複数であり,硝子体手術の手技(黄斑前膜の除去,内境界膜.離,ステロイド硝子体注などを行うかどうかの判断も含めて)は各々の術者にまかされた.硝子体手術から1年後にはほとんどの症例で網膜厚の減少をみたが,視力改善した症例は全体の38%にとどまり,22%は逆に視力低下した.プロトコール4:糖尿病黄斑浮腫に対する,トリアムシノロンTenon.下投与の効果4)視力0.5以上の比較的視力良好の糖尿病黄斑浮腫の対象患者を5群に分け,各々に①局所光凝固施行,②トリアムシノロン20mgをTenon.下投与,③局所光凝固施行4週間後にトリアムシノロン20mgをTenon.下投与,④トリアムシノロン40mgをTenon.下投与,⑤局所光凝固施行4週間後にトリアムシノロン40mgをTenon.下投与,の治療を施行した.その結果,術後早期にはトリアムシノロンを使用した群で網膜厚が減少する傾向はあったものの,長期的には視力も網膜厚も5群間でまったく差がなかった.さらにトリアムシノロン使用群では,眼圧上昇と眼瞼下垂の合併症も認められた.よって比較的視力良好な糖尿病黄斑浮腫に対して,トリアムシノロンのTenon.下投与は局所光凝固併用の有無にかかわらず効果はなさそうであるとの結論に至った.プロトコール5:糖尿病黄斑浮腫における,OCT上の網膜厚の日内変動5)糖尿病黄斑浮腫の8時および16時のOCT上の網膜プロトコール1:糖尿病黄斑浮腫に対する網膜光凝固方法の比較1)糖尿病黄斑浮腫に対する網膜光凝固の施行方法として,標準的に行われているETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)に準拠した方法(標準療法)と,それより低出力で,ただし凝固数を多くした凝固法(マイルド格子状凝固)を比較した.結果,凝固1年後の時点で光干渉断層計(OCT)上の網膜厚は標準療法のほうが薄く,視力は両法で差がなかった.新しい凝固法として注目されていたマイルド格子状凝固であったが,標準療法に勝るものではないという結果となり,DRCR.netはマイルド格子状凝固の効果についてそれ以降の研究は組まないと宣言した.プロトコール2:糖尿病黄斑浮腫に対する,トリアムシノロンの硝子体投与と網膜光凝固との効果の比較2)糖尿病黄斑浮腫に対し,網膜光凝固を施行した群と,トリアムシノロン1mgを硝子体投与した群と,トリアムシノロン4mgを硝子体投与した群でOCT上の網膜厚と視力の予後を比較した.視力も網膜厚も,治療4カ月後の時点ではトリアムシノロン4mgを硝子体投与した群の成績が一番良かったが,治療2年後では網膜光凝表2DRCR.netの研究一覧(現在継続中のもの)1.IntravitrealRanibizumaborTriamcinoloneAcetonideinCombinationwithLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema2.IntravitrealRanibizumaborTriamcinoloneAcetonideasAdjunctiveTreatmenttoPanretinalPhotocoagulationforProliferativeDiabeticRetinopathy3.EvaluationofVisualAcuityMeasurementsinEyeswithDiabeticMacularEdema4.ComparisonofTimeDomainOCTandSpectralDomainOCTRetinalThicknessMeasurementinDiabeticMacularEdema5.APilotStudyinIndividualswithCenter-InvolvedDMEUndergoingCataractSurgery6.AnObservationalStudyinIndividualswithDiabeticRetinopathywithoutCenter-InvolvedDMEUndergoingCataractSurgery7.AnEvaluationofIntravitrealRanibizumabforVitreousHemorrhageDuetoProliferativeDiabeticRetinopathy(63)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201163研究は終了しているが,結果がまだ発表されていない.厚を比較した.平均値でみると16時の網膜厚のほうが8時のそれより薄い結果ではあったが,逆に網膜厚が増加する症例も多々みられ,全体として意味のある差は検出されなかった.プロトコール6:糖尿病黄斑浮腫に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法の評価:ベバシズマブ(アバスチンR)について6)糖尿病黄斑浮腫の対象患者を5群に分け,①最初に網膜光凝固を施行,②最初および6週間後にそれぞれベバシズマブ1.25mgを硝子体投与,③最初および6週間後にそれぞれベバシズマブ2.5mgを硝子体投与,④最初にベバシズマブ1.25mgを硝子体投与し,6週間後に偽の注射,⑤最初および6週間後にそれぞれベバシズマブ1.25mgを硝子体投与するのに加え,3週間目に網膜光凝固を施行,と治療を行った.その結果,①群と比較すると②群と③群のほうが網膜厚の減少が大きく,視力が良好となった.しかし②~⑤群では網膜厚も視力も有意差が出なかった.よってベバシズマブの硝子体投与は糖尿病黄斑浮腫の一部には確実に効果があることが示されたが,どのような投与法が最良かについては結論が出なかった.プロトコール7:汎網膜光凝固(PRP)を1回ないし4回で完成させた後の,糖尿病黄斑浮腫の経過7)重症非増殖糖尿病網膜症ないし増殖糖尿病網膜症で,黄斑浮腫はないかごく軽度で比較的視力のよい症例を対象とした.1回でPRPを完成させた群と4回に分けてPRPを施行した群とで,その後の黄斑浮腫の状態を観察した(表3).その結果,PRP直後から1カ月後くらいまでは,1回でPRPを行った群のほうがより網膜厚が大きく視力低下していた.しかし,PRPの34週後になると,逆に4回に分けてPRPを施行した群のほうが網膜厚が大きく視力低下する結果となった.PRPを1回で完成させても4回に分けて施行しても,黄斑浮腫に対する臨床的な影響は差がはっきりしないという結論となった.プロトコール8:Subclinicalな糖尿病黄斑浮腫の経過表3汎網膜光凝固後のOCTによる網膜厚1回でPRPn=844回に分けてPRPn=71p値中心窩領域術前の平均網膜厚(μm)207198≧250.2993(4%)1(1%)術前と比較した網膜厚の変化(μm)3日後+9+50.014週間後+13+50.00317週間後+14+150.0834週間後+14+220.06術前と比較して網膜厚が25μm以上変化した症例3日後7(9%)3(5%)0.324週間後14(18%)5(8%)0.0417週間後13(17%)26(41%)0.00134週間後18(25%)25(45%)0.005術前網膜厚が250μm以上あり,かつ術後25μm以上変化した症例3日後1(1%)2(3%)0.404週間後8(10%)3(5%)0.1417週間後5(6%)11(17%)0.00334週間後9(13%)13(24%)0.02(文献7より改変)表4糖尿病黄斑浮腫に対する局所光凝固の長期的効果:OCT上の網膜厚全症例n=128#解析不適格6#16週までに加療1#16週以前に通院中断6#16週後の解析可能症例115局所光凝固16週後n=115中心窩網膜厚改善率(加療前と比較して)≧10%.54(47%)中心窩網膜厚<250μm26中心窩網膜厚≧250μm2816週時点で改善はしたが中心窩網膜厚が≧250μmの症例n=28#32週までに加療4#32週以前に通院中断2#32週後の解析可能症例22局所光凝固32週後(24週目で加療した症例含む)n=26中心窩網膜厚改善率(16週目と比較して)>10%11(42%)中心窩網膜厚<250μm8中心窩網膜厚≧250μm3(文献8より改変)64あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(64)tonideandfocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Ophthalmology115:1447-1449.e1-10,20083)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093.e3,20104)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Randomizedtrialofperibulbartriamcinoloneacetonidewithandwithoutfocalphotocoagulationformilddiabeticmacularedema:apilotstudy.Ophthalmology114:1190-1196,20075)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Diurnalvariationinretinalthickeningmeasurementbyopticalcoherencetomographyincenter-involveddiabeticmacularedema.ArchOphthalmol124:1701-1707,20066)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:AphaseIIrandomizedclinicaltrialofintravitrealbevacizumabfordiabeticmacularedema.Ophthalmology114:1860-1867,20077)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Observationalstudyofthedevelopmentofdiabeticmacularedemafollowingpanretinal(scatter)photocoagulationgivenin1or4sittings.ArchOphthalmol127:132-140,20098)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Thecourseofresponsetofocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Retina29:1436-1443,2009プロトコール9:糖尿病黄斑浮腫に対する局所光凝固の長期的効果8)糖尿病黄斑浮腫に対して局所光凝固を施行し,網膜厚が減少して効果が認められた症例が,長期的にはどうなるかを観察した.その結果,42%の症例は追加治療がなくても32週後まで網膜厚減少効果が持続した(表4).以上,DRCR.netが過去に施行した研究を概説した.糖尿病黄斑浮腫の症例を,視力やOCTによる網膜厚で条件を揃えたうえで,3桁のオーダーで集めるのは一つの施設ではきわめて困難である.多施設研究でしかなしえない,貴重な成果が次々と発表されつつある.今後の成果に期待したい.文献1)WritingCommitteefortheDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:ComparisonofthemodifiedEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyandmildmaculargridlaserphotocoagulationstrategiesfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol125:469-480,20072)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Arandomizedtrialcomparingintravitrealtriamcinoloneace