あたらしい眼科28(11):1599.1601,2011わたしの工夫とテクニックあたらしい眼科28(11):1599.1601,2011わたしの工夫とテクニック豚眼による白内障モデルの試作と使用経験要約ジアテルミーを用いて,豚眼による白内障モデルを試作した.短時間で,ジアテルミー凝固による混濁を,水晶体中央部に適当な範囲の広さで,簡単に作製することができた.この模擬白内障を使って手術の練習を行った.水晶体中央部に限局した混濁なので,超音波乳化吸引術による水晶体の処理は容易であった.しかし,I/A(irigation/aspiration)チップと新川橋フックを利用して核片を吸引処理するなど,手術の練習方法を工夫すれば,2手法の上達につながると考えた.はじめに一般的に,白内障手術の練習にウェットラボ用の豚眼を使用するが,豚眼の水晶体は硬い核や混濁がなく,手術の練習は比較的容易に行える.これまでに,豚眼による白内障手術の練習効果を向上させるため,薬品などを使用した硬い水晶体核の作製や代用核素材などを用いた報告がある1.5).そのうち,電子レンジを利用する方法2)以外は,白内障モデル眼を作製するのに少々手間と時間を要する.今回,ジアテルミーを利用して,比較的短時間で豚眼の水晶体に混濁を作る方法を開発し,実際に手術の練習を行ったので報告する.I水晶体混濁の作製方法ウェットラボ用の豚眼を用意し,ジアテルミーを用いて水晶体の混濁を作製した.1.ジアテルミー装置今回使用したジアテルミーは,超音波白内障手術器械の一つであるOS3R(Oertli社,スイス)に標準装備されている装置である6,7).ジアテルミーの電極は結膜止血用バイポーラ鑷子を用いた.TrialManufactureofCataractModelinPigEyes上甲覚*2.豚眼の水晶体混濁作製方法1:スリットナイフで角膜切開を行い,前房内を粘弾性物質で満たした.連続円形切.術(continuouscurvilinearcapsulorhexis:CCC)を行った後に,バイポーラ鑷子電極のab図1水晶体混濁の作製方法(その1)a:前房内を粘弾性物質で満たし後にCCCを行い,バイポーラ鑷子を水晶体に挿入して,ジアテルミー凝固を行った.バイポーラ鑷子周囲の水晶体が白濁しているが,切開創も白濁してきている.b:水晶体の中央部に模擬白内障ができたが,角膜切開創も強く白濁して,皺ができている.水晶体の混濁部位では,CCCの切開縁の視認性が悪くなっている.*SatoruJoko:武蔵野赤十字病院眼科〔別刷請求先〕上甲覚:〒180-8610武蔵野市境南町1-26-1武蔵野赤十字病院眼科0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(87)1599abab図2水晶体混濁の作製方法(その2)a:角膜サイドポートから灌流を行いながら,バイポーラ鑷子で水晶体をジアテルミー凝固した.b:模擬白内障が水晶体の中央部にできた.角膜切開創は,ジアテルミー凝固の影響をあまり受けていない.dabc図3模擬白内障の核分割と核片に対する処理a:模擬白内障に超音波チップで溝を掘り,新川橋フックを利用して核を2分割できた.b:模擬白内障の一部を意図的に残し,I/Aチップで核片の吸引を試みた.吸引圧を600mmHgにして,小さな核片を約1分間吸引したが,吸引口に残存している.c:大きい核片をI/Aチップで吸引し,新川橋フックでチップの吸引口に押しつける操作をくり返して,粉砕しながら吸引した.d:I/Aと新川橋フックで,大きい核片の処理が完了した.先端を水晶体内に挿入して,フットスイッチを押し凝固したい皺ができる欠点がある(図1b).その欠点を避ける方法を(図1a).約2分で,ジアテルミーによる水晶体の混濁を作つぎに述べる.ることができた(図1b).方法2:角膜にサイドポートを作り灌流用カニューラを挿ただし,角膜切開創も熱凝固により強く白濁し,角膜に強入し,灌流を行いながらバイポーラ鑷子の先端を水晶体内に1600あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(88)挿入して混濁を作製した(図2a).挿入して混濁を作製した(図2a).II模擬白内障の使用経験1.超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsificationaspiration:PEA)による練習使用した超音波白内障手術器械はOS3Rである.超音波チップで,模擬白内障の中央部に溝を掘り,新川橋フックで核を2分割することができた(図3a).水晶体全体は硬くないので,PEAによる処置は容易であった.2.Irigation/Aspiration(I/A)チップと新川橋フックを利用した練習方法実際の手術では,ごくまれに小さな核片が残存して,I/A中にその処理を行う必要性が生じる.そのときの対処法の練習も行った.まず,PEAでは模擬白内障全体を処置せず,意図的に核片を残してI/Aチップのみで吸引除去できるか試した.小さな残存した核片は,最大吸引圧600mmHgで1分以上吸引しても,I/Aチップのみでは処理できなかった(図3b).模擬白内障は,ある程度の硬度があることがわかる.つぎに,新川橋フックを併用して,残存した核片の処理を行った.サイドポートから挿入した新川橋フックで,I/Aチップで吸引した大きな核片をチップの吸引口に押しつける操作をくり返した.核片を細かく粉砕しながら吸引処理することができた(図3c,d).実際の手術では,大きな核片はPEAで処理を行うのが一般的で,本来の新川橋フックを利用した2手法とは操作が異なる.しかし,顕微鏡下で,このような練習をくり返すことで,新川橋フックの使い方に慣れると考えた.おわりにジアテルミーを使用し短時間で,豚眼の水晶体中央部に,ヒト眼の白内障に類似した水晶体混濁を作製することができた.この混濁の影響で,徹照が悪くなることも確認できた.ただし,水晶体全体に混濁を作製するのは困難であった.この白内障モデル眼では,硬くて大きな核に対するPEAの練習はできないが,溝掘り,2分割といった基本的な手技の練習は可能であった.また,I/Aチップと新川橋フックを併用して,核片を吸引処理するなどの練習方法を工夫すれば,2手法の上達につながると考えた.したがって,本法で作製した模擬白内障は,初級者が手術の練習をするのに,有用なモデル眼の一つになると考えた.文献1)黒坂大次郎,杉浦毅,植月康:豚眼を用いた白内障手術練習法の改良─硬い核を作る試み─.眼科40:109-114,19982)VanVreeswijkH,PameyerJH:Inducingcataractinpostmortempigeyesforcataractsurgerytrainingpurposes.JCataractRefractSurg24:17-18,19983)八田史郎,松浦一貴,長田正夫ほか:代用核素材(昆布豆)と摘出豚眼を用いた超音波水晶体乳化吸引術の練習方法.眼科41:815-821,19994)MekadaA,NakajimaJ,NakamuraJetal:Cataractsurgerytrainingusingpigeyesfilledwithchestnutofvarioushardness.JCataractRefractSurg25:622-625,19995)德田芳浩:豚眼実習における模擬核の作り方─カートンNRによる核の作製─.眼科手術20:85-87,20076)上甲覚:白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの試作.あたらしい眼科27:83-84,20107)上甲覚:白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの作製と使用経験.臨眼64:465-469,2010☆☆☆(89)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111601