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Leber 先天盲(Leber 先天黒内障)

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYるもの(RDH12,LRAT,RPE65),視細胞の発生や構造に関連するもの(CRX1,CRB1),視細胞内の蛋白輸送(transportacrossthephotoreceptorconnectingcilium)に関連するもの(TULP1,RPGRIP1,CEP290,LCA5),その他(IMPDH1,MERTK,RD3,SPATA7)に分けられる(LCA9はまだ詳細がわかっていない).遺伝子変異の検索方法としては,AsperOphthalmics社(エストニア)のLCAmutationchipを使用したマイクロアレイ解析が最も汎用されている.I疾患概念レーバー先天黒内障(Leber’scongenitalamaurosis:LCA)は,1869年Leberによって報告された網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)の類縁疾患で,生後早期(多くは生後6カ月以内)より高度に視力が障害される1).これまでに16種類の原因遺伝子が同定されており,ほとんどが常染色体劣性遺伝の形式をとる2,3).80,000出生に1?2人の頻度で認められ,先天盲の約20%を占めるとされている4).近年,LCAの原因遺伝子の一つであるRPE65を欠損した患者に対する遺伝子治療が英国,ならびに米国の3つの施設において臨床応用(phaseI)され,安全性に大きな問題がなく,さらに一部の被験者で治療効果が認められたと報告された5~7).II病因:原因遺伝子LCAは遺伝的異質性をもつ疾患であるが,全患者の約70%がこれまでに同定された16種類の原因遺伝子(表1)のいずれかにより発症している2).原因遺伝子の中で最も頻度が高いのが,CEP290で全体の約15%を占める.報告により差があるものの,以下,GUCY2D(約12%),CRB1(約10%),RPE65,AIPL1,RPGRIP1などの頻度が高いとされている2,3).これらの遺伝子を機能で分類すると,phototransductionに関連するもの(AIPL1,GUCY2D),レチノイドサイクルに関連す(17)921*YasuhiroIkeda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕池田康博:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):921?925,2011Leber先天盲(Leber先天黒内障)Leber’sCongenitalAmaurosis池田康博*表1LCAの原因遺伝子LCAtype遺伝子染色体部位遺伝形式LCA1GUCY2D17p13.1ARLCA2RPE651p31ARLCA3SPATA714q31.3ARLCA4AIPL117p13.1ARLCA5LCA56q14.1ARLCA6RPGRIP114q11ARLCA7CRX19q13.3ADLCA8CRB11q31-q32.1ARLCA9LCA91p36ARLCA10CEP29012q21.3ARLCA11IMPDH17q31.3-q32ADLCA12RD31q32.3ARLCA13RDH1214q23.3ARLCA14LRAT4q31ARMERTK2q14.1ARTULP16p21.3ARAR:常染色体劣性遺伝,AD:常染色体優性遺伝.922あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(18)ある.LCAでは,oculodigitalsign(指眼現象)という拳や指を眼球に繰り返し押しつける行動がよく観察される8)(図1).この行動は,盲児に認められる共通の行動(blindism)で,LCAだけに認められるものではないが特徴的である.視力は,ほとんどの症例が0.1以下である.しかしながら,原因遺伝子がRDH12,RPE65,CRB1である症例のなかには,視力が比較的良好なものも認められ,平均視力が他の原因遺伝子の症例よりも良いと報告されている9).また,まれではあるが視力が改善する症例があったことが報告されている10,11).一般に高度な遠視眼が多く,円錐角膜や白内障が高頻度に合併するため,視機能はさらに障害される.眼底所見は,症例によりさまざまであるが,血管狭小化,視神経萎縮,黄斑部の変性,骨小体様色素沈着,胡麻塩状網膜,などの所見が認められる2)(図2).一方で,視機能が高度に障害されている症例でも新生児期には検眼鏡的に眼底の変化がほとんどないものも認められる.網膜電図は,初期より消失型もしくは著しい減弱を示す.光干渉断層計(OCT)の所見は,原因遺伝子によりさまざまであるとされている.RPE65遺伝子異常により発症した幼少時期より視機能異常のある患者の所見は,視細胞の消失を一部は示しているものの比較的正常に近い構造であったと報告されている11).さらにこれまでの報告をまとめると,RPE65遺伝子異常の症例では,年齢が進むにつれて黄斑部の網膜構造が壊れていく傾向にあるようである11~15).GUCY2D遺伝子異常の場合,黄III診断:臨床的特徴,症状,検査所見LCAは遺伝的異質性のみでなく,臨床所見も多様性に富むが,つぎの4つの臨床的な特徴を有する.生後早期からある高度な視機能障害,感覚性眼振(sensorynystagmus),対光反応の欠如,もしくは高度障害(黒内障瞳孔:amauroticpupil),網膜電図の異常(消失型もしくは著しい減弱)である.鑑別疾患としては,幼少時発症の網膜色素変性,Alstrom症候群,Batten病などがある.LCAにはしばしば,精神発達遅滞,自閉症,てんかん,水頭症,難聴などの全身合併症を伴う場合が図1Oculodigitalsign(指眼現象)(文献8を改変)ABC図2LCAの眼底写真A:CEP290,B:GUCY2D,C:CRB1.(文献2を改変)AB図3GUCY2D遺伝子異常により発症した症例のOCT像黄斑部網膜の層構造は保たれており,正常眼と大きな違いがない.(文献15を改変)(19)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011923斑部網膜の層構造は保たれており,正常眼と大きな違いがないとされている15)(図3).また,CEP290遺伝子異常の症例では,黄斑部の層構造は乱れているものの,外顆粒層に相当する部分は保たれているとされている15).病理組織学的所見も症例によりさまざまであると報告されており,網膜変性が進行して瘢痕化しているものから,網膜の構造が保たれているものまである2).RPE65遺伝子異常のあるヒト胎児網膜(胎生33週)の病理組織学的検討では,同時期の胎児網膜と比較して網膜の菲薄化が生じおり,視細胞の変性のみでなく,網膜色素上皮細胞や脈絡膜血管の構造変化などがすでにあると報告されている16)(図4).IV治療:遺伝子治療RPE65(LCA2)は網膜色素上皮細胞に発現し11-cis-retinalの産生に関わるが,RPE65遺伝子に変異があると11-cis-retinalが産生されず,視細胞(杆体)が光に反応できなくなり,最終的に視細胞は死に至ってしまう.Aclandらは,このLCA2に対する遺伝子治療法として,AAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターを用いた網膜色素上皮細胞(RPE)への正常RPE65遺伝子導入という方法を試み,イヌのLCA2モデルにおいて著明ONLONLAB図4胎生33週のヒト正常網膜(A)とRPE65遺伝子異常のあるヒト胎児網膜(B)の病理組織像網膜全体が菲薄化しており,特に外顆粒層(ONL)は薄くなっている.(文献16を改変)図5LCA2に対する遺伝子治療臨床研究の結果A:臨床研究のサマリー,B:症例3のマイクロペリメトリー検査.治療眼である右眼の網膜感度が上昇している.(文献5より)PatientNo.VisualAcuity(LogMAR)MicroperimetryVisualMobility(TravelTime)1StudyeyeControleye1.16→0.860.88→0.78変化なし42→50sec44→38sec2StudyeyeControleye1.52→1.521.62→1.58変化なし42→35sec37→35sec3StudyeyeControleye0.76→0.760.54→0.44投与部位の感度改善77→14sec37→13secABCopyrightc2008MassachusettsMedicalSociety.Allrightsreserved.924あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(20)おわりにLCAは非常にまれな疾患であり,筆者自身も1症例のみの経験しかない.しかしながら,上記のような新しい治療法により視機能の改善が望める疾患となりつつあるので,診断を誤らないように疾患の特徴をしっかりと把握する必要がある.文献1)LeberT:UberRetinitispigmentosaundangeboreneAmaurose.GraefesArchKlinOphthalmol15:1-25,18692)denHollanderAI,RoepmanR,KoenekoopRKetal:Lebercongenitalamaurosis:genes,proteinsanddiseasemechanisms.ProgRetinEyeRes27:391-419,20083)LiL,XiaoX,LiSetal:Detectionofvariantsin15genesin87unrelatedchinesepatientswithlebercongenitalamaurosis.PLoSOne6:e19458,20114)PerraultI,RozetJM,GerberSetal:Lebercongenitalamaurosis.MolGenetMetab68:200-208,19995)BainbridgeJW,SmithAJ,BarkerSSetal:EffectofgenetherapyonvisualfunctioninLeber’scongenitalamaurosis.NEnglJMed358:2231-2239,20086)MaguireAM,SimonelliF,PierceEAetal:SafetyandefficacyofgenetransferforLeber’scongenitalamaurosis.NEnglJMed358:2240-2248,20087)HauswirthW,AlemanTS,KaushalSetal:PhaseItrialofLebercongenitalamaurosisduetoRPE65mutationsbyocularsubretinalinjectionofadeno-associatedvirusgenevector:Short-termresults.HumGeneTher19:979-990,20088)安達惠美子(編著):網膜色素変性症,p64-65,医学書院,19989)WaliaS,FishmanGA,JacobsonSGetal:VisualacuityinpatientswithLeber’scongenitalamaurosisandearlychildhood-onsetretinitispigmentosa.Ophthalmology117:1190-1198,201010)KoenekoopRK,LoyerM,DembinskaOetal:VisualimprovementinLebercongenitalamaurosisandtheCRXgenotype.OphthalmicGenet23:49-59,200211)VanHooserJP,AlemanTS,HeYGetal:Rapidrestorationofvisualpigmentandfunctionwithoralretinoidinamousemodelofchildhoodblindness.ProcNatlAcadSciUSA97:8623-8628,200012)SimonelliF,ZivielloC,TestaFetal:ClinicalandmoleculargeneticsofLeber’scongenitalamaurosis:amulticenterstudyofItalianpatients.InvestOphthalmolVisSci48:4284-4290,200713)JacobsonSG,CideciyanAV,AlemanTSetal:RDH12andRPE65,visualcyclegenescausingLebercongenitalamaurosis,differindiseaseexpression.InvestOphthalmolVisSci48:332-338,2007な治療効果が得られることを報告した17).さらに,小型・中型動物を用いてAAVベクター網膜下投与の安全性を確認した18).2007年2月より英国のグループによって,また2007年9月より米国ペンシルバニア大学のグループによって,ヒトLCA2患者に対する遺伝子治療臨床研究が開始されており,その途中経過が報告された(図5)5~7,19,20).英国での臨床研究では,17?23歳のLCA2患者3名に対して,硝子体切除後に耳上側のアーケード血管周囲から黄斑部を含むよう遺伝子が網膜下投与された.その結果,1名(症例3)では,投与部位に一致した感度の改善を認め,さらに暗所下での行動の著しい改善を認めたと報告されている.米国の臨床研究でも同様に,19?26歳の3名の患者を対象に遺伝子治療が行われ,治療を受けた3名とも対光反応および視野に改善を認め,うち2名では視力の改善も認めたと報告されている5).米国ペンシルバニア大学のグループからの報告6,19)では,初期に低濃度のベクターを投与された3症例(19?26歳)の1.5年の長期経過観察の結果,投与後早期に軽度の免疫反応は生じた(血清中のAAV2に対する抗体が上昇したが,その後ベースラインまで低下した)ものの,重篤な副作用は認めなかったとされている(症例2では,術後14日目に黄斑円孔が生じたが,その形態は1.5年間変化していない.).視力はすべての症例で有意に改善したと報告されている.同様に,米国フロリダ大学とペンシルバニア大学の共同研究グループからの報告7,20)でも,1年間の経過観察期間に重篤な副作用がないこと,光に対する感度が上昇した症例があることが示されている.このように,LCA2に対する遺伝子治療は安全性と治療効果が複数の施設で確認され,症例も着実に積み重ねられているようだ.より若年の症例を適応とすることにより,さらに高い治療効果が期待されるようだ.同様のアプローチでRPE65以外の原因遺伝子により発症するLCAをターゲットした遺伝子治療臨床研究も計画されているようだ.LCA2に対する遺伝子治療の成功は,LCAのみでなく,難治性の網膜変性疾患に対する遺伝子治療の発展を十分に期待させる内容であった.(21)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011925NatGenet28:92-95,200118)AclandGM,AguirreGD,BennettJetal:Long-termrestorationofrodandconevisionbysingledoserAAVmediatedgenetransfertotheretinainacaninemodelofchildhoodblindness.MolTher12:1072-1082,200519)SimonelliF,MaguireAM,TestaFetal:GenetherapyforLeber’scongenitalamaurosisissafeandeffectivethrough1.5yearsaftervectoradministration.MolTher18:643-650,201020)CideciyanAV,HauswirthWW,AlemanTSetal:Vision1yearaftergenetherapyforLeber’scongenitalamaurosis.NEnglJMed361:725-727,200914)JacobsonSG,CideciyanAV,AlemanTSetal:PhotoreceptorlayertopographyinchildrenwithLebercongenitalamaurosiscausedbyRPE65mutations.InvestOphthalmolVisSci49:4573-4577,200815)PasadhikaS,FishmanGA,StoneEMetal:DifferentialmacularmorphologyinpatientswithRPE65-,CEP290-,GUCY2D-,andAIPL1-relatedLebercongenitalamaurosis.InvestOphthalmolVisSci51:2608-2614,201016)PortoFB,PerraultI,HicksDetal:PrenatalhumanoculardegenerationoccursinLeber’scongenitalamaurosis(LCA2).JGeneMed4:390-396,200217)AclandGM,AguirreGD,RayJetal:Genetherapyrestoresvisioninacaninemodelofchildhoodblindness.

錐体(杆体)ジストロフィ

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYな症状となる.錐体杆体ジストロフィではこれらに加えて杆体機能障害が進むと視野狭窄や暗順応障害をきたしうるが,黄斑機能の低下による中心視野の異常が前面に出るので暗順応障害や周辺視野異常などは晩期以外にはさほど自覚されず,したがって注目されないことが多い.静的視野検査では中心暗点に加えて周辺視野感度の低下が検出される.II色覚異常色覚異常については青黄異常,赤緑異常のいずれの異常も示されることがあるが,これらの混合した異常をきたすことも多い.石原式や東京医大式などの仮性同色表による色覚検査はいずれも先天色覚異常を検出するための検査であり,このような錐体ジストロフィや錐体杆体ジストロフィなどによる色覚異常に対してはうまく対応できずに全色盲のパターンをとることが多い.一方でパネルD-15による色相配列検査では正常パターンをとることも多い.III眼底所見眼底所見としては黄斑部の変性をきたす症例が多いため,黄斑ジストロフィに分類されることが多い.錐体ジストロフィにはかねてから標的病巣(bull’s-eyemaculopathy)という所見が代表的とされているが,この所見は錐体ジストロフィに特異的ではなく,網膜色素変性,クロロキン網膜症,他の黄斑ジストロフィや加齢黄斑変はじめに錐体ジストロフィ(conedystrophy)と錐体杆体ジストロフィ(cone-roddystrophy)は,いずれも錐体の遺伝性変性に伴う錐体機能の低下を初発とする進行性疾患であるという点が共通しているが,その障害が錐体機能に限局する病型を錐体ジストロフィと定義し,錐体障害が先行しやがて杆体が障害される病型を錐体杆体ジストロフィと一般にはよんでいる.前項で述べられた網膜色素変性ではまず杆体障害が先行してやがて錐体機能も障害される杆体錐体ジストロフィ(rod-conedystrophy)の病態をとることが定型的と理解されているが,錐体杆体ジストロフィではその逆の進行様式をきたす.しかし両者とも晩期まで進行した例では臨床所見上の区別がつかなくなることも多い.いずれにしてもこれらの疾患群は錐体ないし杆体視細胞を原発とする進行性疾患であり,その診断には錐体機能や杆体機能を別々に評価できる網膜電図(ERG)が必須である.錐体ジストロフィも錐体杆体ジストロフィもその定義上網膜全体に及ぶびまん性の錐体機能障害であることから,全視野刺激で記録した錐体系ERGや30HzフリッカERGの振幅は少なくとも進行期以降は必ず低下する.この点を理解することが診断のポイントとなる.I自覚症状錐体機能障害に伴う視力低下,色覚異常,羞明がおも(9)913*MitsuruNakazawa:弘前大学大学院医学研究科眼科学講座〔別刷請求先〕中澤満:〒036-8562弘前市在府町五番地弘前大学大学院医学研究科眼科学講座特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):913?919,2011錐体(杆体)ジストロフィCone(-Rod)Dystrophy中澤満*914あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(10)IV黄斑ジストロフィと錐体ジストロフィの用語上の相違黄斑ジストロフィは遺伝性疾患で黄斑部に限局した変性をきたす疾患と定義され,Stargardt病や卵黄様黄斑ジストロフィなどを代表としてさまざまな疾患が含まれる.一方,錐体ジストロフィは網膜全体の錐体の変性ないし機能低下をきたす疾患であることが原則である.換言すれば,黄斑ジストロフィが眼底所見に基づく疾患概念であるのに対し,錐体ジストロフィはERG所見に基づく疾患概念である.確かに多くの錐体ジストロフィ症例で臨床的に黄斑変性をきたすため黄斑ジストロフィと性でもみられるものでいわば黄斑変性の一つの代表的眼底所見と捉えられるべきものである.また,錐体ジストロフィであってもまったく眼底所見に異常をきたさない例もときに存在する(図1).その他,多くの症例では非特異的あるいは非定型的な黄斑萎縮をきたす(図2).錐体杆体ジストロフィでは初期には黄斑部の変性のみが目立つ変化であったものが,長年の経過とともに次第に周辺部眼底の粗造化が進み黄斑変性に周辺部網膜変性が合併したような所見を呈してくる(図3).AB正常症例ononon図1眼底所見の正常な錐体ジストロフィ症例23歳,女性,矯正視力は「両眼とも0.6,徐々に進行しており羞明も自覚している.A:眼底所見.正常な眼底所見を呈している.左右差はない.B:全視野刺激による錐体杆体ERGではa波の振幅が保たれているが,30HzフリッカERGでは振幅が低下しており,この所見から杆体機能は正常であり,錐体機能のみが選択的に低下していることがわかる.RIGHTRLONLEFTAB図2黄斑萎縮を示す錐体ジストロフィ症例21歳,男性,矯正視力は両眼とも0.2,徐々に低下しており羞明も自覚している.A:眼底には黄斑部に非特異的な萎縮性変化を認める.左右差はない.B:全視野刺激による30HzフリッカERGでは振幅が非常に低下しておりほとんど検出できない.この所見から眼底所見は黄斑部に限局しているが,細胞レベルでは網膜全体の錐体視細胞の異常であることがわかる.(11)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011915BCNormalTyr184Ser35yoTyr184Ser65yoScotopicblueWhiteflashPhotopicred30Hzflicker20ms200μV10ms200μV20ms200μv10ms100μvonononA図3錐体杆体ジストロフィの蛍光眼底所見の1例ペリフェリン・RDS(PRPH2)遺伝子変異(Tyr184Ser)が確認されている家系の1症例(35歳,男性).黄斑部の萎縮性変化に加えて中間周辺部のびまん性の網膜色素上皮レベルの異常がみられる.A:眼底写真ではあまりはっきりしないが黄斑部の類円形の萎縮性変化と中間周辺部のびまん性萎縮がみられる.B:眼底写真の変化は蛍光眼底造影によってよりはっきりと観察される.C:網膜電図所見では本症例(35yo)は錐体系ERG(photoicredと30Hzflicker)の振幅が消失しているのに対し,杆体系ERG(scotopicblueとwhiteflash)の反応は保たれている.本症例の父親(65yo)は錐体系および杆体系ERGともに反応は消失している.916あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(12)たとしても全視野刺激による錐体系ERGの振幅の低下は高々10%でしかなく,見かけ上錐体機能は正常範囲にとどまると判定されてしまう.黄斑ジストロフィでも全視野刺激錐体系ERGで異常が検出できない症例があるのはこのような解剖学的な理由による.多局所ERGないし黄斑部局所ERGにて限局性の錐体障害を検出できるオカルト黄斑ジストロフィは局所的な錐体変性であり,その異常は光干渉断層像でもCOSTオーバーラップし,黄斑ジストロフィに分類することが可能であるが,基本的には錐体系ERGの振幅の低下を確認することなしには診断は不可能である.ここで注意したいことは,錐体は中心窩に高密度で存在するもののその分布は網膜全体に及ぶことからその面積効果が大きく,実際に中心窩に存在する錐体細胞の数は網膜全体の錐体細胞の約10%でしかない,したがって中心窩に限局した変性があってその部位の錐体細胞がすべて消失し表1これまでに判明している錐体ジストロフィ・錐体杆体ジストロフィの原因遺伝子常染色体優性錐体ジストロフィ・錐体杆体ジストロフィ遺伝子略号臨床病型コードされる蛋白質とその機能AIPL1CORD,RP,LCA杆体分子シャペロン,輸送蛋白CRXCORD,RPLCA錐体杆体の分化GUCA1ACD,CORD錐体グアニルシクラーゼ活性化蛋白GUCY2DCORD網膜グアニルシクラーゼPITPNM3CORDフォスファチジルイノシトール輸送膜蛋白PROM1CORD,MD,RP+MDプロミニン1,杆体外節膜陥入PRPH2CORD,RP,MDペリフェリン・RDS,錐体杆体外節円板膜構造維持RIMS1CORD網膜,脳のリボンシナプスに存在SEMA4ACORD,RPセマフォリン4A,T細胞活性化UNC119CORD視細胞リボンシナプスに存在常染色体劣性錐体ジストロフィ・錐体杆体ジストロフィABCA4CORD,RP,STGD全トランスレチナールの視細胞外節からの輸送ADAM9CORDインテグリン関連接着因子CACNA2D4CD電位依存性カルシウムチャネルa2サブユニットCDHR1CORD細胞接着因子,視細胞外節円板発生CEKLCORD,RP網膜神経節細胞特異的神経細胞保護と細胞死CNGB3杆体1色覚,CD錐体cGMP依存性陽イオンチャネルb3サブユニットKCNV2CD電位依存性カリウムチャネルサブユニットPDE6CCD錐体cGMPフォスフォジエステラーゼコンポーネントRAX2CORD網膜ホメオボックス2転写因子RDH5白点状眼底,CD網膜色素上皮細胞レチノールデヒドロゲナーゼGDGRIP1CORD,LCARPGTPaseregulator-interactingprotein1X染色体劣性錐体ジストロフィ・錐体杆体ジストロフィCACNA1FCSNB,CORD電位依存性カルシウムチャネルa1サブユニットRPGR(RP3)CD,RPRPGTPaseregulator〔臨床病型略語〕CORD:錐体杆体ジストロフィ(coneroddystrophy),CD:錐体ジストロフィ(conedystrophy),RP:網膜色素変性(retinitispigmentosa),LCA:レーバー先天盲(Leber’scongenitalamaurosis),STGD:Stargardt病(Stargardtdisease),CSNB:先天性停止性夜盲(congenitalstationarynightblindness).(13)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011917変化すればbull’s-eyemaculopathyを伴った網膜色素変性となることが筆者らにより報告されている5,6).このような例はこれらの家系にとどまらず,これまでに判明している錐体杆体ジストロフィ家系や錐体ジストロフィ家系の原因遺伝子もかなり網膜色素変性の原因遺伝子とオーバーラップしていることがわかる(表1).このようにかつては独立した疾患であると厳格に考えられてきた錐体杆体ジストロフィと網膜色素変性は実は遺伝子レベルではかなり共通の原因からなることが理解されてきている.つまりいずれも視細胞原発性の疾患であり,錐体が先か(より重症か)あるいは杆体が先か(より重症か)の別でしかなく,その両者の別は遺伝子レベルではきわめて微妙な差でしかない例が多いということである.その微妙な差についてはまだ筆者らは十分に説明できる段階にないのが現状ではある.VI錐体ジストロフィと先天色覚異常との異同錐体ジストロフィの原因遺伝子異常の検索によってこの疾患の原因は例外はあるにせよおもに錐体に特異的に発現する遺伝子の異常によって起こる進行性の疾患であることが明らかになってきている(表1).同様に先天色覚異常にも錐体に特異的に発現するいくつかの遺伝子異常が明らかになっている.両者の異同をどう考えるかについて筆者の私見を述べる.通常,高頻度でみられる異常3色覚と2色覚の先天色覚異常では長波長錐体オプシン(L-オプシン)や中波長錐体オプシン(M-オプシン)遺伝子の相同組換えによる異常錐体オプシンの発現によることが最も多いが,これらの変異錐体オプシン蛋白質は恐らく錐体細胞の構造に支障をきたさないものと推定され,錐体変性や視力低下,羞明の原因となることはなく,しかも非進行性であることには疑いがない.これに対して低頻度ではあるが1色覚の一つである杆体1色覚では非進行性の色覚異常と低視力が特徴とされ,原因遺伝子としてCNGA3(錐体サイクリックヌクレオチド関連イオンチャネルa3サブユニット,杆体1色覚の20?30%),CNGB3(錐体サイクリックヌクレオチド関連イオンチャネルb3サブユニット,同40?50%)およびGNAT2(錐体トランスデューシンaサブユニット,同少数)の3者が現在知ら(coneoutersegmenttip)ラインの消失やIS/OS(innersegment/outersegment)ラインの異常として検出可能(安田俊介ら,角田和繁ら,石龍鉄樹ら,第64回日本臨床眼科学会,2010)であるが,その分子レベルでの異常はRP1L1遺伝子の変異1)であり錐体全体に及ぶであろうことが近年証明された.しかし,臨床上本疾患では全視野刺激錐体系ERGでの異常は検出できない.この疾患を錐体ジストロフィの範疇に含めるか黄斑ジストロフィにとどめるかは今後の議論になると思われる.同様に黄斑ジストロフィの代表的疾患であるStargardt病でもその分子レベルでの異常はABCA4遺伝子変異(表1)であり視細胞全体に及ぶのであるから,その本態はびまん性視細胞原発疾患ともいうべきものである2).今後このような臨床病型上の疾患分類と遺伝子検索から明らかになった分子レベルからの疾患分類の使い分けが議論されてゆくものと思われる.V錐体杆体ジストロフィと網膜色素変性との異同錐体杆体ジストロフィについての疾患分類はかつて臨床所見である眼底像やERG所見のみからなされていた3,4).これらの臨床分類により錐体杆体ジストロフィとはいくつかの独立した疾患からなる疾患グループとして理解されていたが,その後の遺伝子検索により視細胞に関連して発現するいくつかの遺伝子異常が発見されるにつれ,同じ視細胞原発性疾患である網膜色素変性の原因遺伝子異常とかなりオーバーラップすることが明らかになった.これはたとえば錐体細胞と杆体細胞とに共通に発現する遺伝子に異常が存在する場合,どちらかというと錐体に障害をより強く及ぼす変異であれば錐体杆体ジストロフィの病型をとり,逆の場合には杆体錐体ジストロフィつまり網膜色素変性の病型をとると推測すればわかりやすい.実際にペリフェリン2(ペリフェリン・RDS,PRPH2)遺伝子のコドン244(AAC,Aはアデニン,Cはシトシン塩基の略)は正常ではペリフェリン・RDS蛋白質のN末端から244番目のアミノ酸であるアルギニンをコードするが,これが点変異でヒスチジン(CAC)に変化すれば錐体杆体ジストロフィとなり,同じ部位が別の点変異によってアスパラギン(AAA)に918あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(14)考えられていたものが,後に錐体外節円板膜にも存在することが明らかになった例もあり,このような新しい知見によって錐体杆体ジストロフィの分子病態を考えるうえで理にかなった説明が可能となった経験が筆者らにはある.したがって,必ずしも現在の知見のみを金科玉条のごとくに考える必要はないと思われる.また,表1にも示したように錐体ジストロフィや錐体杆体ジストロフィの原因遺伝子は一方では網膜色素変性などの他疾患の原因遺伝子となりうることが報告されており,臨床的な疾患概念がかなりのオーバーラップを示すことがわかる.これらの新しい知見を概観すると,これまで臨床所見のみから分類されていた遺伝性網膜変性に対して新たな視点ないし座標軸といったものが導入されつつあることが理解される.おわりに錐体ジストロフィや錐体杆体ジストロフィの臨床的所見を示すとともに,臨床医にしばしば混同される錐体ジストロフィと黄斑ジストロフィの用語上の使い分け,最近の分子遺伝学の進歩に伴う錐体杆体ジストロフィと網膜色素変性の新しい理解の仕方,ないし錐体ジストロフィと錐体杆体ジストロフィの原因遺伝子として現段階で判明しているものなどを筆者なりに整理して解説した.本拙文が少しでも臨床眼科医の参考になれば幸いである.文献1)AkahoriM,TsunodaK,MiyakeYetal:DominantmutationsinRP1L1areresponsibleforoccultmaculardystrophy.AmJHumGenet87:424-429,20102)AllikmetsR,SinghN,SunHetal:AphotoreceptorcellspecificATP-bindingtransportergene(ABCR)ismutatedinrecessiveStargardtmaculardystrophy.NatGenet15:236-246,19973)YagasakiK,JacobsonSG:Cone-roddystrophy:Phenotypicdiversitybyretinalfunctiontesting.ArchOphthalmol107:701-708,19894)SziylJP,FishmanGA,AlexanderKRetal:Clinicalsubtypesofcone-roddystrophy.ArchOphthalmol111:781-788,19935)NakazawaM,KikawaE,ChidaYetal:Autosomaldominantcone-roddystrophyassociatedwithmutationsincodon244(Asn244His)andcodon184(Tyr184Ser)oftheれている7).しかし,これまで報告されている対象家系の臨床所見からは症例によっては黄斑の萎縮性変性をきたしている例もみられ8),観察期間中は非進行性であっても長期間にはわずかな進行をきたしている例も存在しているものと考えられる.私見ではあるが,そのような例では広義の錐体ジストロフィや黄斑ジストロフィと理解してもよいのではないかと考えられる.実際に錐体ジストロフィの原因としてCNGB3遺伝子変異が発見された家系も報告9)されているのでそれらを総合すると杆体1色覚と錐体ジストロフィとは互いにオーバーラップした病気であると考えられる.ただ,現在のところ教科書的には,杆体1色覚とは非進行性の錐体異常であり,錐体ジストロフィや黄斑ジストロフィとは区別して考えられている.今後はこの点についての理解がさらに進むものと期待される.VII錐体ジストロフィおよび錐体杆体ジストロフィの分子遺伝学錐体ジストロフィおよび錐体杆体ジストロフィのうちこれまで原因が明らかになっているものについて表1にまとめた.この表はRetNet:GenesandMappedLociCausingRetinalDiseases(http://www.sph.uth.tmc.edu/retnet/disease.htm)のサイトからの引用であるので,興味のある方は参照して欲しい.これによると錐体ジストロフィについてはGUCA1A(グアニル酸シクラーゼ活性化蛋白1,GCAP1)遺伝子,PDE6C(錐体cGMPフォスフォジエステラーゼ)遺伝子,CACNA2D4(電位依存性カルシウムチャネルa2サブユニット)遺伝子,および前述の杆体1色覚の原因遺伝子でもあるCNGB3遺伝子など錐体に特異的に発現する遺伝子の異常が代表的である.錐体杆体ジストロフィについては数が多くなるためここには記さないので表1を参照していただきたい.原因遺伝子のなかにはAIPL1やPROM1のように現在のところ杆体にしかその存在が報告されていない蛋白質もあり,まだその遺伝子変異がどのような分子機構で錐体ジストロフィや錐体杆体ジストロフィを起こすのかは不明な点が多い.しかし,ペリフェリン・RDSのように当初は杆体外節円板膜に特異的に存在する蛋白質とあたらしい眼科Vol.28,No.7,2011919peripherin/RDSgene.ArchOphthalmol114:72-78,19966)NakazawaM,KikawaE,KamioKetal:Ocularfindingsinpatientswithautosomaldominantretinitispigmentosaandtransversionmutationincodon244(Asn244Lys)oftheperipherin/RDSgene.ArchOphthalmol112:1567-1573,19947)KohlS,BaumannB,RosenbergTetal:MutationsintheconephotoreceptorG-proteinalpha-subunitgeneGNAT2inpatientswithachromatopsia.AmJHumGenet71:422-425,20028)NishiguchiKM,SandbergMA,GorjiNetal:ConecGMP-gatedchannelmutationsandclinicalfindingsinpatientswithachromatopsia,maculardegeneration,andotherhereditaryconediseases.HumMutat25:248-258,20059)MichaelidesM,AligianisIA,AinsworthJRetal:ProgressiveconedystrophyassociatedwithmutationinCNGB3.InvestOphthalmolVisSci45:1975-1982,2004(15)

網膜色素変性とUsher症候群の遺伝子診断

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYで多く発現している遺伝子異常による網膜色素変性(Leber先天盲)に対して,欧米ではアデノ随伴ウイルスベクターによる遺伝子治療がヒトの患者に対して行われている.ごく最近では,新世代のシークエンサーを用いて,網膜色素変性患者のすべてのエクソンの塩基配列を決めることによって原因遺伝子DHDDSが発見された1).高度な技術により,網膜色素変性の原因遺伝子解明が加速している.膨大な遺伝子検索による知見の集積により,遺伝子異常や,原因遺伝子の世界的な共通点もわかると同時に,地域により,その原因遺伝子の比率はじめに網膜色素変性は言うまでもなく眼科領域では最も重篤で,失明に至ることが多い疾患なので,眼に関する研究機関では最重要課題として取り組むべきと考える.最近では,視細胞のiPS細胞のシートによる治療や,プロスタグランジン点眼薬による疾患の進行の予防効果が期待されているが,この20年間の原因遺伝子についての理解が急速に進んでいることはあまり話題にならない.表1に現時点で明らかにされている常染色体劣性網膜色素変性の原因遺伝子を示す.RPE65という網膜色素上皮(3)907*YoshihiroHotta:浜松医科大学眼科学講座**HiroshiNakanishi:浜松医科大学耳鼻咽喉科学講座〔別刷請求先〕堀田喜裕:〒431-3192浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学眼科学講座特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):907?912,2011網膜色素変性とUsher症候群の遺伝子診断GeneticDiagnosisofRetinitisPigmentosaandUsherSyndrome堀田喜裕*中西啓**表1常染色体劣性網膜色素変性の原因遺伝子(症候群は除く)常染色体優性網膜色素変性常優BEST1CA4CRXFSCN2GUCA1BIMPDH1KLHL7NR2E3NRLPRPF3PRPF8PRPF31PRPH2RDH12RHOROM1RP1RP9SEMA4ASNRNP200TOPORS常染色体劣性網膜色素変性常劣ABCA4BEST1C2ORF71CERKLCLRN1CNGA1CNGB1CRB1DHDDSEYSFAM161AIDH3BIMPG2LRATMERTKNR2E3NRLPDE6APDE6BPDE6GPRCDPROM1RBP3RGRRHORLBP1RP1RPE65SAGSPATA7TTC8TULP1USH2AZNF513X連鎖性網膜色素変性XRP2RPGRLeber先天盲常優CRXIMPDH1OTX2Leber先天盲常劣AIPL1CABP4CEP290CRB1CRXGUCY2DIQCB1LCA5LRATRD3RDH12RPE65RPGRIP1SPATA7TULP1常優:常染色体優性遺伝,常劣:常染色体劣性遺伝,X連鎖性遺伝.(2011年5月現在)908あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(4)するUsher症候群の原因遺伝子についての報告は少ないのが現状である.「原因遺伝子を調べて何か意味があるのか」ということをいわれたことがある.本稿では,総花的なまとめ方を避け,網膜色素変性とUsher症候群の遺伝子診療の可能性に絞り,筆者の個人的見解を押し出して述べる.一般の眼科医に理解していただくためになるべく平易な言葉を使い,わかりやすい記述に努めるため,専門家にはもの足らないかもしれない.図1はよく使われる疾患に関わる遺伝性要因の割合を示した概念図である.網膜色素変性や,小口病などの遺伝性疾患は,たった一つの遺伝子の異常によってほぼ100%罹患する.一方で,加齢黄斑変性や,中等度の近視では,いくつかの遺伝性素因が重なって疾患をひき起こすと考えられている.後者の「多因子疾患」についての知見も増えているが,本稿では,前者の「単一遺伝子疾患」に絞って述べる.遺伝子異常の記載はややこしく,筆者もときどきわからなくなるほどなので,表5では,大まかに欠失,挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス変異と述べ,その後の()内にHumanGenomeVariationSociety(http://www.hgvs.org/rec.html)による記載を入れた.本稿で述べる変異については,表2に説明したので参考にされたい.I網膜色素変性とUsher症候群の遺伝本稿を書いている現在,網膜色素変性について50以上の原因遺伝子が知られている(表1).優性遺伝する原因遺伝子が21個,劣性遺伝する原因遺伝子が34個,X連鎖性遺伝する原因遺伝子が2個である.このほかに難聴を伴うUsher症候群,Bardet-Biedl症候群,ミトコや,多い変異(ある特定の異常が多いときにはfoundereffect:創始者効果という)が明らかにされつつある.一方,インターネットで遺伝子検索会社のウェブサイトを見ると,たとえば米国のGeneDxという会社の常染色体劣性網膜色素変性の検索は,USH2A,EYS,PDE6A,PDE6B,RPE65,CRB1,ABCA4という7遺伝子の236エクソンを対象としている.新規患者の検索には約8週間,3,375ドルかかる.ARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)などの海外の学会に行くと,網膜色素変性や関連疾患についての遺伝子検索の発表は多く,欧米はもちろんであるが,中国,韓国,シンガポールだけでなく,中南米や,東南アジアからの発表もあり,わが国だけが取り残されているのではと心配になる.わが国では,常染色体優性の網膜色素変性に対しての研究や,X連鎖性遺伝の網膜色素変性の症例報告2?5)はあるが,わが国の網膜色素変性の大半を占める孤発例を含めた常染色体劣性遺伝の網膜色素変性や,難聴も合併表2遺伝子異常の種類Iミスセンス変異点変異異なるアミノ酸に変化し,異常蛋白質が産生されるナンセンス変異点変異変異部位で終止コードとなり,短い蛋白質が産生されるか,まったく産生されなくなるフレームシフト変異欠失,挿入欠失や挿入により,変異部位から遺伝子暗号がずれる変異で,蛋白質の機能がほとんどなくなるスプライス変異点変異,欠失,挿入スプライシングの行われる部位の近くでの変異により正常なスプライシングが行われず,結果として異常蛋白質が産生されるか,まったく産生されなくなる環境的要因色覚異常中等度の近視斜視外傷網膜変性遺伝的要因遺伝子・ゲノム図1眼疾患の遺伝的素因についての概念図(5)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011909網膜色素変性が発症する.表3に示すように,難聴の程度と前庭機能障害の有無によって3型に分類するのが一般的である.表4に示すように,Usher症候群だけで12座位が知られ,このうち9個の遺伝子がすでに明らかにされている.浜松医科大学では,耳鼻咽喉科学教室と光量子医学研究センター(現メディカルホトニクス研究センター)が中心になり,眼科学教室が協力して,わが国のUsher症候群のタイプ1患者5人と,タイプ2患者10人に対してUSH2A(アッシャリン),CDH23,MYO7A遺伝子を検討し,表5,6に示すような原因遺伝子異常を明らかにした6~8).注目していただきたいのンドリア遺伝子異常によるKearns-Sayer症候群なども,その原因遺伝子の多くが明らかにされている.ここではUsher症候群を例にとって述べる.Usher症候群は,感音難聴に視覚障害を合併する常染色体劣性遺伝性疾患である.感音難聴が出現してから数年~10年後に表3Usher症候群の3型型聴覚障害前庭機能障害治療割合(%)1先天性欠損人工内耳25~442中等~高度正常補聴器56~753進行性さまざま経過観察0~2それぞれのタイプにより難聴に対する治療法が異なる.表5わが国のUsher症候群におけるUSH2A遺伝子異常患者年齢性別アレル1アレル2聴覚障害聴覚障害発症年齢夜盲発症年齢網膜色素変性発症年齢C71224F点変異ミスセンス変異(p.Ser180Pro)欠失(c.5158delC)高度31321C11640M欠失(c.3891delT)欠失(c.7883delC)中等度61325C15247F点変異スプライス変異(c.6485+5G>A)点変異スプライス変異(c.8559-2A>G)中等度61426C45232F点変異スプライス変異(c.8559-2A>G)点変異ミスセンス変異(p.Asp3515Gly)中等度61718C55750M点変異スプライス変異(c.8559-2A>G)点変異ミスセンス変異(p.Thr3571Met)中等度71628C23722M点変異スプライス変異;点変異ナンセンス変異(c.8559-2A>G;p.Trp3150X)高度31316C21233F点変異ミスセンス変異(p.Cys691Tyr;p.Gly2752Arg;p.Tyr3747Cys)中等度61226文献6のTable1の英語表記部分を和訳し,変異の種類を説明して掲載した.表4Usher症候群の遺伝子座位と原因遺伝子サブタイプ遺伝子座位遺伝子蛋白質1B11q13.5MYO7AMyosinVIIa1C11q15.1USH1CHarmonin1D10q22.1CDH23Cadherin231E21q21Unknown1F10q21.1PCDH15Protocadherin151G17q25.1USH1GUshersyndrometype-1Gprotein1H15q22-q23Unknown2A1q41USH2AUsherin2C5q14.3GPR98G-proteincoupledreceptor982D9q32DFNB31Whirlin3A3q25.1CLRN1Clarin13B20qUnknown910あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(6)は,血族結婚でない場合には,同じ遺伝子の異常でも,父方と,母方の異常が異なることが多いという点である.図2Cに示すように,これを複合ヘテロ接合体(compoundheterozygote)という.図3に示すように,わが国では前世紀の間に急速に近親結婚が減少した.近表6わが国のUsher症候群におけるその他の遺伝子異常患者年齢・性別アレル1アレル2聴覚障害診断年齢(歳)網膜色素変性診断年齢(歳)CDH23遺伝子異常C51726M欠失エクソン44-46欠失エクソン44-4623C72013Fナンセンス変異p.Arg2107Xナンセンス変異p.Arg2107X212MYO7A遺伝子異常C31236Fナンセンス変異p.Arg150Xミスセンス変異p.Arg1883Gln210文献8のTable1の英語表記部分を和訳し,変異の種類を説明して掲載した.1927~19521952~19571957~19621962~19671967~19721972~19771977~198311.525.444.212.852.612.310.965.712.261.230.790.870.8900.222468101214(%)(年)図3わが国における近親結婚実線:すべての血族結婚の比率,点線:いとこ結婚(1stcousin)の比率.??X染色体ABCD????????図2遺伝子異常の種類II○×は遺伝子変異を模式的に表す.A:ヘテロ接合体,B:ホモ接合体,C:複合ヘテロ接合体,D:ヘミ接合体.ⅠⅡⅢⅣⅤ図4大きな欠失を認めたUsher症候群の家系図(文献8より)図5大きな欠失を認めたUsher症候群患者の右眼眼底写真網膜血管は細く,びまん性の網膜萎縮,周辺部には骨小体様色素沈着を認める.(7)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011911III劣性遺伝病における遺伝子診療のストラテジー先ほど示したUsher症候群家系において,遺伝子検査のもたらすことを考えてみる.図4に示す家系の2人の子供は,先天聾であるのに加えて網膜色素変性に罹患している.親族からすると,遺伝を心配するのは当然のことであろう.近親婚を避けることは最も簡単な方法であるが,ほぼ100%予防できるとしたらどうであろうか.まずこの大きな欠失が遺伝しているかどうかを調べる.遺伝していなければ罹患する確率はほとんどなくなる.この欠失がある場合には,配偶者にUSH2A遺伝子の異常がないかを調べる.USH2A遺伝子に異常を認めなければ,100%近い確率(注:決して100ではない,denovo変異といって,親にはない異常が片方のアレルにひき起こされることがまれにある)で予防可能になる.現在のところ,障害になっているのは,遺伝子検査の費用である.特に,エクソンが72個もあるUSH2Aでは,遺伝子検査は容易ではない.しかし,遺伝子検索の技術の進歩は著しいので,こうした問題が克服されれば,患者や家族に重要な情報を与えることが可能となる.こうした遺伝情報の取り扱いにはカウンセリングが必要といわれており,これを「遺伝カウンセリング」とよんでいる.2011年2月,日本医学会から「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」が出ている.遺伝子異常はすでに明らかにされていれば,新たな遺伝子解析のコストはそれほどでもないが,新規に探す場合には網膜色素変性の場合には表1に示すように原因となる可能性のある遺伝子が多いので悩ましい.リンパ球や,毛根にも発現している場合には,そのmRNAから目的となる遺伝子のcDNAを解析できるので,作業量を大きく減らすことができる7).しかし,網膜色素変性の原因遺伝子は,一部の例外を除いて眼組織にしか発現しておらず,眼の組織を取るわけにいかないので,DNAのエクソンをすべて検討するしかないことが多い.また,すでに明らかにされている遺伝子異常をすべてのせたマイクロアレイの応用も期待されている.しかし,こちらのほうも,結局は新たな異常の可能性は否定できないので,精度の高い遺伝子検索をするためには,結局親結婚をすると,同じ遺伝子の同じ異常が重なり,遺伝性疾患罹患の危険が増える.この場合には,図2Bのホモ接合体という状態になる.先天聾のUsher症候群タイプⅠの症例の家系を図4に示す.複雑な家系図であるが,近親婚が原因で兄妹が重篤な疾患に罹患したことは明らかである.このうち妹は,先天聾で,右眼視力0.1(0.2),左眼視力0.1(0.3),眼球振盪を認める.25歳時の右眼眼底写真を図5に示す.視野は,わずかな周辺視野と,右中心7°,左中心8°の残存視野しかない.この家系の患者は,CDH23遺伝子のエクソン44から46までの5078塩基の欠失をホモ接合体で認める.II網膜色素変性とEYS,USH2A(アッシャリン)遺伝子異常常染色体劣性網膜色素変性の原因遺伝子として最も多く注目されているのが,EYS遺伝子である.この遺伝子は2Mbと現在知られている眼で発現している遺伝子のなかでも最も大きい遺伝子の一つであり,ショウジョウバエのspacemaker(spam)として知られていた.2008年にヒトの遺伝子が明らかにされ,常染色体劣性患者における遺伝子異常が報告された9).現在に至るまでにフランス,イギリス,スペイン,オランダ,イスラエル,米国,中国,パキスタン,インドネシアなどの患者コホートに対しての報告がある.遺伝子の欠失,挿入,ナンセンス変異や,スプライス変異による産生蛋白質が切断されてしまうような変異が多いが,ミスセンス変異も少し報告されている.アレルの片側しか異常がみつからない症例も少なからず報告されており,これが片方のアレルの大きな欠失によるのか,他の遺伝子が関与しているのか,まだ明らかにされていないエクソンがあるのか現時点では不明である.報告によって異なるが,常染色体劣性網膜色素変性の5%~約2割という報告があり,わが国でも検討が必要である.USH2Aは前項でも述べたように,タイプ2のUsher症候群の原因遺伝子である.しかし,Usher症候群ではなく,聴覚障害の合併のない常染色体劣性網膜色素変性でもUSH2Aの異常の報告があり,その割合は米国では常染色体劣性網膜色素変性の約8%と比較的多いことが知られている10).912あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(8)優性網膜色素変性患者のロドプシン遺伝子の分子生物学的検討.日眼会誌96:237-242,19923)和田裕子,玉井信:カラーアトラス網膜の遺伝病─遺伝子解析と臨床像─.医学書院,20054)JinZB,MandaiM,YokotaTetal:Identifyingpathogenicgeneticbackgroundofsimplexormultiplexretinitispigmentosapatients:alargescalemutationscreeningstudy.JMedGenet45:465-472,20085)JinZB,LiuXQ,HayakawaMetal:MutationalanalysisofRPGRandRP2genesinJapanesepatientswithretinitispigmentosa:identificationoffourmutations.MolVis12:1167-1174,20066)NakanishiH,OhtsuboM,IwasakiSetal:Identificationof11novelmutationsinUSH2AamongJapanesepatientswithUshersyndrometype2.ClinGenet76:383-391,20097)NakanishiH,OhtsuboM,IwasakiSetal:HairrootsasanmRNAsourceformutationanalysisofUshersyndrome-causinggenes.JHumGenet55:701-703,20108)NakanishiH,OhtsuboM,IwasakiSetal:MutationanalysisoftheMYO7AandCDH23genesinJapanesepatientswithUshersyndrometype1.JHumGenet55:796-800,20109)AudoI,SahelJA,Mohand-SaidSetal:EYSisamajorgeneforrod-conedystrophiesinFrance.HumMutat31:E1406-1435,201010)HartongDT,BersonEL,DryjaTP:Retinitispigmentosa.Lancet368:1795-1809,2006すべてのエクソンの塩基配列を決めたほうが望ましいと考える.おわりにちょうど25年前に網膜変性疾患の最初の遺伝子異常が明らかにされたが,現在では遺伝子治療が行われている.ヒトゲノムに対する加速度的な理解,その検出方法の進歩は新たな医療の可能性を秘めている.筆者は,遺伝子治療に対しては,リスク,遺伝的異質性と,それによる臨床応用のためのコストの点からまだ懐疑的ではあるが,遺伝子診断,適切な遺伝カウンセリングによる網膜色素変性の予防については,一般臨床に応用される日は近いと考えている.メディカルホトニクス研究センター(旧光量子医学研究センター)長,蓑島伸生先生のご協力と,ご校閲に深謝いたします.文献1)ZuchnerS,DallmanJ,WenRetal:Whole-exomesequencinglinksavariantinDHDDStoretinitispigmentosa.AmJHumGenet88:201-206,20112)堀田喜裕,塩野貴,早川むつ子ほか:日本人の常染色体

序説:遺伝性網膜・黄斑ジストロフィ アップデート

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0910-1810/11/\100/頁/JCOPY見の大きなニュースの一つは,occultmaculardystrophy(Miyakedisease)の原因遺伝子であるRP1L1の同定であった.疾患の発見および命名に加えて,原因遺伝子の同定も同一グループが成し遂げたというのは,これまでの眼科の歴史でも例がない快挙である.この話題については,角田氏の総説を参照されたい.2.病態メカニズムの進歩多くの網膜・黄斑ジストロフィの原因遺伝子が発見され,疾患の病態メカニズムがさらに解明されてきている.たとえば,家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)のおもな原因遺伝子としてFZD4,NDP,LRP5などが同定されているが,これらの遺伝子は細胞の増殖や分化を制御しているWNTシグナルネットワークに関わる遺伝子である.FEVRはこのWNTシグナルの障害による網膜血管の発育不全と理解されてきている(近藤氏の総説を参照).また,卵黄状黄斑ジストロフィにおいても,原因遺伝子であるBEST1がコードする網膜色素上皮のイオンチャンネルの役割が徐々に明らかにされ,本疾患の病態が解明されてきている.また,この疾患の2010年の大きなニュースとして,常染色体劣性遺伝形式で類似した臨床像を示すBEST1網膜症が報告されたことがあげられる.卵黄状黄斑ジストロ今月の《あたらしい眼科》では,網膜・黄斑ジストロフィの専門研究者にお願いし,10項目にわたる各疾患のreviewと最新のトピックスについてわかりやすく解説していただいた.1.遺伝子解析の進歩網膜・黄斑ジストロフィは基本的に遺伝子の異常に起因する.以前は遺伝子解析に膨大な労力と時間が費やされていたが,最近は既知の遺伝子異常部位を用いてDNAマイクロアレイでスクリーニングするという手法が広く用いられている.さらに,次世代シークエンサーを使って患者の全エクソンを高速に解析して正常者と比較し,その結果から新規の原因遺伝子を次々と発見するという技術が可能になってきている.網膜色素変性(RP)の原因遺伝子は現在50を超えている.しかし,わが国で最も多い孤発例(多くは常染色体劣性遺伝と考えられる)の原因遺伝子はほとんどわかっていない.この点で最近注目をされているのがEYS遺伝子であり,人種によっては孤発例RPのかなりの原因がこの遺伝子変異で説明できるという.将来の治療に結びつきうるトピックスであり,わが国での解析結果に期待したい(堀田氏・中西氏の総説を参照).昨年における網膜・黄斑ジストロフィの遺伝子発(1)905*MineoKondo:名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座●序説あたらしい眼科28(7):905?906,2011遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートNewTopicsofInheritedRetinalandMacularDystrophy近藤峰生*山下英俊**906あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(2)フィは,分子遺伝学に基づいた再分類がなされつつある(町田氏・私近藤の総説を参照).多くの努力にもかかわらず,いまだ詳細な病態メカニズムが不明のものも多い.たとえば,錐体ジストロフィでは錐体視細胞の光伝達に重要なチャンネルをコードする遺伝子異常を原因とするものが多いが,杆体にしか発現していないと考えられているAIPL1やPROM1の遺伝子異常でも錐体ジストロフィとなる.そのメカニズムは依然不明である(中澤氏の総説を参照).Occultmaculardystrophyにおいても,確かにRP1L1の産物は霊長類では杆体および錐体視細胞に発現しているが,どうして黄斑部にのみ機能低下を生ずるのかという本質的な疑問はまだ解決されていない.3.臨床検査法の進歩数年前と比較すると,網膜・黄斑ジストロフィの診断や評価に用いる眼科臨床器機の性能は格段に進歩した.まずOCT(光干渉断層計)の解像度が飛躍的に上昇し,黄斑部の層構造の変化を精密に捉えることができるようになった.記録時間も短いため,小児でも使いやすい.心因性視力障害としばしば誤診されていた軽度の黄斑ジストロフィの小児も,OCTをきっかけに診断されることが多くなった(上野氏の総説を参照).また,杆体一色覚の症例で眼底がまったく正常の症例であっても,OCTによって視細胞層の微妙な形態変化が観察できると報告されている(林氏の総説を参照).眼底自発蛍光も,造影剤注射という侵襲なしに網膜色素上皮の変化を鋭敏に捉えることができる.その威力は特にStargardt病で発揮され,以前はフルオレセイン蛍光眼底造影のdarkchoroidで診断していたが,最近では眼底自発蛍光があればよいといわれるほどである.わが国における皮膚電極ERG(網膜電図)の普及も,今後さらに小児の電気生理学的診断に寄与すると考えられる.OCTや自発蛍光の所見をもとに最近報告された興味深い所見の一つに,Stargardt病における,「peripapillarysparing」がある.これは,Stargardt病では視神経乳頭周囲の網膜および色素上皮は特別に温存されるという所見である.ABCA4遺伝子異常による網膜機能障害がどうしてこの部位だけ特異的にspareされるのか謎である(藤波氏の総説を参照).4.治療研究の進歩網膜・黄斑ジストロフィの治療についても多くの新しい話題がある.2008年にLeber先天盲(LCA)に対する遺伝子治療が成功して以来,欧米ではさらにさまざまな段階におけるLCAの遺伝子治療が進められている.現時点では長期でも重篤な副作用はないようであり,持続的な効果が確認されている(池田氏の総説を参照).欧米では同様の遺伝子治療の計画が,一部の網膜色素変性,先天網膜分離症,全色盲,Stargardt病などに対しても進んでいる(篠田氏の総説を参照).細胞・再生治療は網膜・黄斑ジストロフィの治療研究のなかで最も期待されている手法である.最近のNature誌に掲載された,日本の研究チームによる網膜再生の成果に感激した眼科医も多かったであろう.人工視覚の分野では,日本を含む各国の研究チームが独自の方法で安全性と解像度を向上させる努力を続けている.その他の話題として,網膜色素変性に対するウノプロストン点眼治療,Stargardt病に対する視サイクル抑制剤,神経栄養因子を放出する細胞を封入したカプセル移植治療(残念ながら米国の臨床試験で最終的に効果は確認されなかったが),チャンネルロドプシンを用いた視覚獲得などがある.網膜・黄斑ジストロフィの治療を目指した研究は今後も困難な道のりが予想されるが,それでも10年前と比較すると驚くべき進歩である.さらなる研究の発展を期待したい.

Synoptophore を用いたListing 平面の3D 表現の試み

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(143)895《原著》あたらしい眼科28(6):895.898,2011cはじめに正面位から任意の眼位へ至る眼球運動は,赤道面上の1つの軸まわりの回転運動で行われるという法則をListingの法則という1).この軸上平面をListing平面という.Listingの法則によれば,平面上の軸まわりの回転運動には,回旋運動が混入しない.最近の研究では,サーチコイルを用いて上下,水平,回旋成分の3要素を取り入れてListing平面を解析する方法が登場しており2),滑車神経麻痺や外転神経麻痺ではListing平面が耳側へ回転することが報告されている3.5).また,健常者においても輻湊と上下転運動に伴いこの平面が傾斜することが示されている6,7).しかし,サーチコイルは電極を埋め込んだコンタクトレンズを直接角膜に接着させて計測するので侵襲が大きく,また限られた施設でのみ検査可能であるという問題がある.Synoptophoreは多くの施設で日常診療に用いられており,回旋偏位を測定できる器械である.Somaniら8)はsynoptophoreを用いて輻湊と上・下転運動が及ぼす回旋偏位を解析し,両眼間のListing平面の差を解析し,興味ある結果を報告している.この方法は侵襲もなく簡便に行えるが,Somani〔別刷請求先〕宮田学:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学教室Reprintrequests:ManabuMiyata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2-5-1Shikata-cho,Kita-ku,Okayama700-8558,JAPANSynoptophoreを用いたListing平面の3D表現の試み宮田学長谷部聡大月洋岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学教室PilotStudyof3DGraphicalRepresentationofListing’sPlaneUsingaSynoptophoreManabuMiyata,SatoshiHasebeandHiroshiOhtsukiDepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences目的:上斜筋麻痺のListing平面が傾斜しているという報告があり,これを検証するために,synoptophoreを用いて健常者と上斜筋麻痺の回旋偏位を測定し,Listing平面を3Dで解析したので報告する.方法:健常者2例,先天上斜筋麻痺1例を対象とした.被検者にsynoptophoreを用いて25カ所の眼位で片眼ずつ上下にずらした水平線の視標を平行になるように回転させるよう指示し,そのときの偏位を記録した.遠見と近見で測定した.各眼位における偏位(水平,垂直,回旋)のデータを,三次元曲面で回帰した.結果:健常者ではListing平面は遠見で鉛直な平面となったが,近見では傾斜した.上斜筋麻痺では,遠見・近見ともListing平面の傾斜を認めた.結論:synoptophoreを利用してListing平面を3Dで表現できた.上斜筋麻痺では健常者と異なり,遠見・近見ともにListing平面の傾きが観察され,異常な傾き知覚(スラント感覚)が生じている可能性がある.Purpose:Ithasbeenreportedthatpatientswithsuperiorobliquepalsy(SOP)showatiltedListing’splane(LP).WemeasuredthetorsionaldeviationsofonepatientwithSOPandtwohealthysubjects,usingasynoptophoretorepresenttheLPsin3D.Methods:Thesubjectsrotatedthetarget,withahorizontallineshiftedverticallyineacheye,tobeinparallelatfarandneardistanceusingasynoptophorein25gazepoint;wethenrecordedthedeviationandregressedhorizontal,verticalandtorsionalelementstoacurvedsurface.Results:Thehealthysubjects’Listing’splaneswereperpendicularatfardistanceandtiltedatneardistance.TheplaneoftheSOPpatientwastiltedatbothfarandneardistances.Conclusions:WewereabletorepresentListing’splanesin3Dusingasynoptophore.TheListing’splaneoftheSOPpatientdifferedfromthoseofthehealthysubjects.TheSOPpatientmighthaveanabnormalslantperception.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):895.898,2011〕Keywords:Listing平面,回旋偏位,スラント感覚,シノプトフォア,上斜筋麻痺.Listing’splane,cyclodeviation,slantperception,synoptophore,superiorobliquepalsy.896あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(144)らは上下20°,0°の3点の正中位における30°,20°,10°,0°の各輻湊角で回旋偏位を測定している.しかし水平方向眼位については計測していない.筆者らは,健常者および上斜筋麻痺患者を対象に水平方向の偏位も含め,上下水平偏位における回旋偏位をsynoptophoreで測定し,測定点を曲面に回帰させることで,Listing平面の両眼間の差の測定を試みたので報告する.I対象および方法1.対象健常者2例(A:男性,32歳,B:男性,48歳),両眼先天上斜筋麻痺1例(C:女性,40歳)を対象とした.A,Bの正面位における遠見眼位は正位,近見眼位はそれぞれ4°,3°外斜位であった.Cの正面位における遠見眼位は内斜偏位5°,右眼上斜偏位1°,回旋偏位0°であり,近見眼位は上下水平偏位はなく,外方回旋偏位2°であった.全症例に検査の目的・方法を詳細に説明し,同意を得た.2.方法使用した器具はsynoptophoreR(model2001,Haag-Streit,UK)と,筆者らが作成した視標であった.視標は,融像刺激の円と固視点,片眼ずつ上下にずらした水平線で構成した(図1).水平線の長さは6.2cm(視角に換算すると22.7°)でSomaniら8)が使用した視標に準じた.上下,水平方向それぞれ±20°,±10°,0°の組み合わせ,計25カ所(5×5)を注視させ,それぞれの位置での回旋偏位を測定した.回旋偏位の測定は,被検者が右眼の視標をsynoptophoreのノブを回転させることにより,左眼の水平線に平行になるように調整し,ちょうど水平になった時点での回旋偏位を検者が記録した.測定は遠見と近見(3D調節負荷,3MA輻湊)で実施し,試行回数はトータルで50回であった.各向き眼位における偏位(水平:H°,垂直:V°,回旋:T°)データに対し,三次元曲面を回帰し,両眼間のListing平面の差を求めた.ただし,Listing平面は眼球運動における回転軸の集合であり,このように単純にプロットしたものではないが,Listing平面と同等のものと考えた.解析ソフトはJMP(version5.0.1a,SASInstituteInc,USA)を使用した.II結果全症例において注視方向すべてで視標の融像が可能であった.被検者3名の回帰曲面の計算式は,T=k1*H2+k2*V2+k3*H*V+k4*H+k5*V+k6(T:torsionaldeviation[deg.],H:horizontaldeviation[deg.],V:verticaldeviation[deg.],k1-6:constant)で表現できた.各被検者の係数を表1に示す.この回帰曲面を図2に示す.これらの曲面は左眼を基準としたListing平面の両眼間の差とみなすことができる.健常1.健常者A2.健常者BHTVHTV3.患者CTHV図2a遠見時における回旋偏位の回帰曲面T:回旋偏位(右:内方,左:外方),V:上下偏位(上:上方,下:下方),H:水平偏位(手前:左方,奥:右方).1.健常者A2.健常者B3.患者CTHVTHVTHV図2b近見時における回旋偏位の回帰曲面T:回旋偏位,V:上下偏位,H:水平偏位.表1各被検者における回帰曲面の計算式の係数k1k2k3k4k5k6A遠見時.0.0012.0.000400.00044.0.018.0.0044.1.1A近見時.0.001.0.000730.000840.00140.090.1.8B遠見時0.001.0.000220.000590.0032.0.011.0.67B近見時.0.00061.0.000410.00044.0.0290.12.0.45C遠見時0.00033.0.000300.000260.00620.0480.010C近見時0.0013.0.00071.0.000340.000600.14.1.5図1視標左:左眼の視標,右:右眼の視標.(145)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011897者では遠見時に回帰曲面は第一眼位に鉛直な平面となったが,近見時(輻湊時)には回帰曲面の傾きが観察された.つまり,上転時には内方回旋偏位,下転時には外方回旋偏位が生じていることがわかった.しかもこの偏位の大きさは垂直方向の角度の大きさに依存しており(elevation-dependent),水平方向の角度には依存しない.一方,上斜筋麻痺患者では,遠見時にも健常者と同様の傾きが観察され,近見時ではこの傾向が増大した.III考按筆者らは,synoptophoreを用いた方法で,両眼単一融像ができている状況下では,健常者に回旋視差刺激を提示するとスラント感覚が生じることを報告した9).すなわち,垂直線条に外方回旋視差を与えると上端が奥に傾くスラント感覚が生じ,逆に内方回旋視差を与えると上端が手前に傾くスラント感覚が生じる.今回の結果は,健常被検者でも輻湊すると上転時に内方回旋偏位,下転時に外方回旋偏位が生じることを示している.もし回旋視差0°の垂直線条を提示すれば上転時には外方回旋視差が与えられた状況と類似し,上端が奥へ傾くスラント感覚が生じ,逆に下転時には内方回旋視差が与えられた状況と類似し,上端が手前に傾くスラント感覚が生じると考えられる.上斜筋麻痺では遠見時にもこのelevation-dependentの回旋偏位が生じるため,常に異常なスラント感覚が生じている可能性がある.このことから上斜筋麻痺では,健常者とは異なる視空間覚を構築していると想定される.Listingの法則を保つ機序として2つ考えられている.眼窩プリーによる機械的機序10)と神経学的順応機序11)である.健常者では輻湊をすると,直筋のプリーが1.9°外方回旋するが,Listing平面が耳側へ傾斜することとは矛盾すると報告されている12).このことから,斜筋の神経支配がこの傾斜へ関与しているとされている.本研究でも健常者における輻湊時のListing平面は耳側に傾斜しており,原因としてはこの点があげられると考える.サーチコイルにより得られるListing平面は片眼ずつであり,synoptophoreにより得られるListing平面は両眼間の差であるので,単純に比較することはできないが,今回の上斜筋麻痺症例の結果はサーチコイルを用いた研究と同様の結果が得られたと考えられる.つまり,下方視で外方回旋偏位を認め,上方視により減少傾向を認めた.これは,下方視において上斜筋のともひき筋である下直筋が大きく寄与したためである.つまり,下方視では下直筋の外方回旋作用のほうが麻痺した上斜筋の内方回旋作用を上回っているのである.一方,上方視では麻痺した上斜筋が内方回旋作用に寄与しないため,外方回旋偏位が小さくなったと考えられる5).今回の計測方法について考察する.まず,上下にずらした水平な線条を平行に合わせる方法と,左右にずらした垂直な線条を平行に合わせる方法は同等であったという報告8)があり,時間的効率を考慮して,今回採用した視標は上下にずらした水平な線条のみとした.つぎに,Listing平面は両眼視ではなく,単眼視の眼球運動に関わる法則の基本をなすものである.サーチコイル法は片眼の絶対的なListing平面を測定可能であるが,synoptophoreでは両眼間のListing平面の差を計測することになる.Listing平面の差が0となるのは,両眼に回旋偏位がない場合と,片眼に内方回旋,反対眼に外方回旋が起こる場合が考えられるが,実際にはこのようなことは起こりえない.日常診療における回旋偏位の測定では両眼間の差が測定されるので,今回の方法で問題はないと考える.今後の臨床応用を見すえた場合,synoptophoreを用いたほうがより現実的である.3点目に,計測の再現性の問題がある.遠見と近見を合わせて50回の試行が必要であり,1シリーズの検査のみで長時間を要したためである.症例数が不足しているが,今回の研究により水平方向の偏位は回旋に影響を及ぼさないことが示唆された.Somaniらのように水平方向の計測は行わず,上下方向のみの計測とすれば,検査時間を短縮できるので,再現性を評価することもできるし,臨床応用も可能であると考える.4点目に,頭位固定の課題がある.顎と前額部をしっかり固定されているので,前後・左右の傾きはないといえる.また斜め方向の傾きはsynoptophoreの接眼レンズを覗いている限りほとんどないと考えられる.斜め方向にずれて,これが眼球の反対回旋を誘発させていたとしても両眼間の回旋偏位の差は生じないし,反対回旋運動は頭部傾斜の約1/10と小さいので無視できる.5点目に,この方法では3Dで視覚化した曲面により,感覚的に回旋偏位の変化を容易にとらえられるようになる点で有用であるといえる.結論として,synoptophoreを用いて健常者と上斜筋麻痺のListing平面を解析し,3Dで表現したところ,異なるListing平面を認めた.上斜筋麻痺では,異常なスラント感覚が生じている可能性がある.本研究は科学研究費補助金(22591964)の援助を受けた.本論文の内容は第62回日本臨床眼科学会で発表した.文献1)VonNoordenGK,CamposEC:BinocularVisionandOcularMotility.6thed,p60-62,CVMosby,StLouis,20022)FermanL,CollewijnH,VandenBergAV:AdirecttestofListing’slaw-II.Humanoculartorsionmeasuredunderdynamicconditions.VisionRes27:939-951,19873)WongAM,TweedD,SharpeJA:AdaptiveneuralmechanismforListing’slawrevealedinpatientswithsixthnervepalsy.InvestOphthalmolVisSci43:112-119,2002898あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(146)4)WongAM,SharpeJA,TweedD:AdaptiveneuralmechanismforListing’slawrevealedinpatientswithfourthnervepalsy.InvestOphthalmolVisSci43:1796-1803,20025)SteffenH,StraumannDS,WalkerMFetal:Torsioninpatientswithsuperiorobliquepalsies:dynamictorsionduringsaccadesandchangesinListing’splane.GraefesArchClinExpOphthalmol246:771-778,20086)MokD,RoA,CaderaWetal:RotationofListing’splaneduringvergence.VisRes32:2055-2064,19927)MikhaelS,NicolleD,VilisT:RotationofListing’splanebyhorizontal,verticalandobliqueprism-includeeyevergence.VisRes35:3243-3254,19958)SomaniRAB,HutnikC,DeSouzaJFXetal:UsingasynoptophoretotestListing’slawduringvergenceinnormalsubjectsandstrabismicpatients.VisionRes38:3621-3631,19989)MiyataM,HasebeS,OhtsukiHetal:Assessmentofcyclodisparity-inducedslantperceptionwithasynoptophore.JpnJOphthalmol49:137-142,200510)DemerJL:Theorbitalpulleysystem-arevolutioninconceptsoforbitalanatomy.AnnNYAcadSci956:17-32,200211)SchorCM,MaxwellJS,McCandlessJetal:Adaptivecontrolofvergenceinhumans.AnnNYAcadSci956:297-305,200212)DemerJL,KonoR,WrightW:Magneticresonanceimagingofhumanextraocularmusclesinconvergence.JNeurophysiol89:2072-2085,2003***

Posner-Schlossman 症候群に対する緑内障手術

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)891《原著》あたらしい眼科28(6):891.894,2011cはじめにPosner-Schlossman症候群は,1948年に初めてPosnerとSchlossmanにより紹介された疾患で,片眼性で,再発性に眼圧上昇を伴う軽い非肉芽腫性虹彩炎を発作性に起こし,自然寛解し,開放隅角で,視野,視神経乳頭には異常をきたさない予後良好な疾患と考えられてきた1).しかし,近年,Posner-Schlossman症候群を長期にわたって経過をみていると,緑内障性変化をきたし,視機能障害をきたすこともあるという報告がみられるようになってきている2.6).今回,筆者らは,当院でPosner-Schlossman症候群と診断され,緑内障に対する手術が必要となった症例8例を経験し,その術式について考案したので報告する.I対象および方法1990年3月から2008年3月の間に,眼圧下降薬で眼圧コントロールが得られず,手術が必要なため,名古屋市立大学病院眼科へ紹介となった8例8眼について検討した.全8例の内訳を表1に示す.発症年齢は13.50歳(平均36.8±14.2歳),男性5眼,女性3眼であった.手術加療が必要になるまでの罹病期間は1.15年(中央値7.0年),手術までに起こった発作の回数は2.17回(平均7.2±5.3回)であった.経過観察期間は2カ月.17年(中央値2.0年)であった.〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPANPosner-Schlossman症候群に対する緑内障手術森田裕野崎実穂高瀬綾恵吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学GlaucomaSurgeryforPosner-SchlossmanSyndromeHiroshiMorita,MihoNozaki,AyaeTakase,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences予後良好と知られているPosner-Schlossman症候群と診断された症例で,濾過手術が必要となった8例を経験したので報告する.発症年齢は13.50歳(平均36.8歳),手術加療が必要になるまでの罹病期間は1.15年(中央値7.0年)であった.初回手術の内訳は,非穿孔性線維柱帯切除術が1眼,線維柱帯切開術が3眼,線維柱帯切除術が4眼であった.非穿孔性線維柱帯切除術および線維柱帯切開術をうけた4眼は術後1.8年後(中央値1.8年)に発作を起こし,薬物療法で眼圧下降が得られなかったため,線維柱帯切除術が必要となった.線維柱帯切除後,3眼に発作が認められたが,いずれも眼圧上昇は起こさなかった.Posner-Schlossman症候群において,視野進行症例や薬物療法に抵抗する症例を経験した.これらの症例に対して,流出路再建術は無効であり,全例,濾過手術が必要となった.Posner-Schlossmansyndrome(PSS)isaself-limiting,benignconditioncharacterizedbyunilateral,recurrentattacksofmild,non-granulomatousiritiswithelevatedintraocularpressures(IOP)duringtheacuteattack,openangles,normalvisualfield,andopticdiscs.Wereport8casesofPSSthatrequiredglaucomasurgerytocontrolIOP(5males,3females;meanageatonset:36.8years;mediandurationofPSS:7.0years).Oneeyeunderwentnon-penetratingdeepsclerectomy,3eyesunderwenttrabeculotomyabexternoand4eyesunderwentglaucomafilteringsurgerywithantimetabolites.All4eyesthatdidnotreceivefilteringsurgerycontinuedtohaveepisodesofiritisaftersurgery,withelevatedIOPduringtheepisodes,andrequiredfilteringsurgerywithantimetabolitestocontrolIOP.InPSSpatients,glaucomadevelopsovertime,andfilteringsurgeryisneededtocontrolIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):891.894,2011〕Keywords:Posner-Schlossman症候群,線維柱帯切開術,非穿孔性線維柱帯切除術,線維柱帯切除術,流出路再建術.Posner-Schlossmansyndrome,trabeculotomyabexterno,non-penetratingdeepsclerectomy,trabeculectomy,canalsurgery.892あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(140)全例,入院時,前房内炎症は認めず,隅角は開放隅角で虹彩後癒着はなく,色素沈着は僚眼に比べ少なかった.視神経乳頭陥凹拡大を認めたものは,8眼中5眼(62.5%)であった.初回手術の内訳は,非穿孔性線維柱帯切除術を施行された症例が1眼,線維柱帯切開術が3眼,マイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術が4眼であった.非穿孔性線維柱帯切除術および線維柱帯切開術をうけた4眼は術後1.8年後(中央値1.8年)に発作を起こし,薬物療法で眼圧下降が得られなかったため,線維柱帯切除術が必要となった.線維柱帯切除後,3眼に発作が認められたが,いずれも眼圧上昇は起こさなかった(表1).以下に代表症例を提示する.症例:54歳,女性.現病歴:2000年に近医で左眼Posner-Schlossman症候群と診断され,以後発作をくり返していたが,点眼や内服で眼圧下降する一過性のものであった.2006年の発作後,遷延性の眼圧上昇が起こり,0.5%チモロール点眼,炭酸脱水酵素阻害薬点眼では眼圧コントロールがつかず,炭酸脱水酵素阻害薬内服も処方された.その後も炭酸脱水酵素阻害薬の内服を中止すると眼圧が上昇し,眼圧下降薬だけでは眼圧のコントロールができなくなったため,当科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.7(1.2×sph.0.75D(cyl.0.5DAx150°),左眼0.2(1.2×sph.1.50D(cyl.0.25DAx160°),abcd図1代表症例(54歳,女性)の2006年受診時所見6年前に左眼Posner-Schlossman症候群と診断され,以後発作をくり返していたが,眼圧のコントロールがつかなくなったため,当科へ紹介受診となった.視神経乳頭/陥凹比は,右眼0.5(a),左眼0.9(b)と左眼で著明に陥凹拡大がみられた.Goldmann視野検査では,右眼(d)に特記する異常はなかったが,左眼(c)は鼻側階段状の視野欠損とBjerrm暗点を認めた.表1全症例の内訳発症年齢(歳)発症から手術までの期間(年)術前発作回数最高眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)初診時乳頭陥凹比最終乳頭陥凹比初回術式初回手術後発作回数追加術式初回手術から追加手術までの期間LET後経過観察期間術前矯正視力術後最終矯正視力1507856100.50.5NPT2LET3年1年1.00.42456173490.90.9LOT2LET8カ月8カ月1.20.83435245150.60.6LOT3LET7カ月2年0.81.042314N/A58170.60.9LOT4LET8年8年0.61.5548N/AN/A6514N/A0.9LET──2カ月0.060.96131352140.6N/ALET──4カ月1.01.572515638140.51LET──8年0.0130cm手動弁84777511011LET──7カ月30cm手動弁50cm手動弁NPT:非穿孔性線維柱帯切除術,LOT:線維柱帯切開術,LET:線維柱帯切除術,N/A:データなし.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011893眼圧は0.1%フルオロメトロン点眼,0.5%チモロール点眼,炭酸脱水酵素阻害薬内服下で,右眼12mmHg,左眼10mmHgであった.両眼前眼部に特記する異常はなく,左眼前房は清明,隅角は開放隅角で,虹彩前癒着はなく,色素沈着は右眼に比べ少なかった.視神経乳頭/陥凹比は,右眼0.5,左眼0.9と左眼で著明に陥凹拡大がみられた(図1).Goldmann視野検査では,右眼に特記する異常はなかったが,左眼は鼻側階段状の視野欠損とBjerrum暗点を認めた(図1).経過:2006年左眼線維柱帯切開術を施行.術後,眼圧コントロールは良好であったが,2007年から左眼発作時に眼圧コントロール不良となり,0.5%チモロール点眼,2%ピロカルピン点眼,ウノプロストン点眼,ベタメタゾン点眼および炭酸脱水酵素阻害薬内服でも眼圧コントロールがつかないため,MMC併用線維柱帯切除術を施行した.現在濾過胞は扁平で,0.5%チモロール,ウノプロストン,ドルゾラミドの眼圧下降薬3剤を点眼しており,視力は右眼1.0(1.5×sph.0.50D),左眼0.5(1.0×sph.2.25D(cyl.1.00DAx60°),眼圧は右眼11mmHg,左眼9mmHgとコントロールは良好で,視野,視神経乳頭所見とも2006年受診時と比べ変化はなかった(図2).II考按従来比較的予後良好と考えられてきたPosner-Schlossman症候群であるが,最近,緑内障性変化をきたすこともあるという報告2.6)がいくつかみられるようになってきた.その原因として,Posner-Schlossman症候群のなかに,原発開放隅角緑内障(POAG)を併発している症例がある7,8)といわれており,報告によっては,Posner-Schlossman症候群の45%もの症例でPOAGを併発していたというもの8)もある.POAGを併発している症例は,発作のない期間でも高眼圧を呈していたが,今回筆者らが検討した8例では,POAGを併発していた症例はみられなかった.Japら3)は,Posner-Schlossman症候群のうち,4分の1の症例で,緑内障性変化をきたし,POAGの併発は認めなかったとしている.また,Posner-Schlossman症候群で緑内障性変化をきたす症例は,罹病期間と相関していた,と報告している.筆者らの症例8例のうち,発症から手術までの期間をみると,不明であったものが1例,1年であったものが1例であるが,それ以外の6例は5.17年(平均10.6年)と比較的長期経過している症例が多かったといえる.一方,緑内障を発症したPosner-Schlossman症候群に対する術式であるが,隅角所見からは,開放隅角であり周辺虹彩前癒着もみられないことから,流出路再建術の適応もあると考え,当科では,1例に非穿孔性線維柱帯切除術,3例に線維柱帯切開術を行った.Posner-Schlossman症候群2例に対して線維柱帯切開術を行ったという過去の報告9)では,ステロイド緑内障を併発しており,術後眼圧コントロールは良好であった.この報告は線維柱帯切開術後の経過観察期間が9.11カ月と比較的短いため,その後の経過中に眼圧が図2代表症例の2007年受診時所見左眼線維柱帯切開術を施行後,眼圧コントロールは良好であったが,2007年から左眼発作時に眼圧コントロール不良となり,MMC併用線維柱帯切除術を施行した.視神経乳頭所見(a:右眼,b:左眼),Goldmann視野検査所見(d:右眼,c:左眼)とも,2006年受診時(図1)と比べ,変化はなかった.abcd894あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(142)上昇している可能性もあるが,ステロイド緑内障自体に対しては線維柱帯切開術の有効性はすでに確立されており10),この2例の眼圧上昇機序が,Posner-Schlossman症候群によるものではなく,ステロイド緑内障が背景にあれば,線維柱帯切開術で眼圧コントロールが良好となったという結論に納得できる.Posner-Schlossman症候群での眼圧上昇機序についてはまだ不明な点が多いが,小俣ら6)は,Posner-Schlossman症候群で,線維柱帯切除術を施行した1例の線維柱帯を病理組織学的に検討し,線維柱帯間隙,Schlemm管,集合管周囲にマクロファージが認められ,傍Schlemm管結合組織は厚く,間隙は細胞外物質で満たされていたと報告している.今回,Posner-Schlossman症候群に対して,流出路再建術では眼圧コントロールが得られず,濾過手術で眼圧コントロールが良好となった筆者らの結果からも,線維柱帯,Schlemm管より後方の集合管や傍Schlemm管結合組織といった周囲組織の変化がPosner-Schlossman症候群の眼圧上昇機序に大きく関与していると思われる.また,発作をくり返し,眼圧コントロール不良なPosner-Schlossman症候群に対して,線維柱帯切除術を行ったところ,眼圧が下降するだけでなく,発作頻度も減少したという報告がある3,4).その機序として,濾過手術で作製した濾過胞によって,炎症細胞が眼外に排出されるため,濾過手術により発作頻度が減少するという可能性が提言されている3).また,線維柱帯切除術が奏効している場合,発作時の眼圧上昇がないため,炎症が起きても自覚症状がなく,眼科受診しないため,みかけの発作頻度が減少するためとも考えられる.今回検討した8例は,眼圧コントロール良好となり,前医に戻り経過観察をうけている症例がほとんどのため,全例の検討はできなかったが,初回から線維柱帯切除術を行った4例では,その後発作をきたした症例はみられなかった.従来Posner-Schlossman症候群は,比較的予後の良い疾患と考えられており,発症年齢も比較的若年が多いため,できるだけ点眼や内服薬で保存的な治療を続ける傾向があるが,今回検討した8例中5例ですでに視神経乳頭陥凹が拡大し,視野異常がみられていた.今回の結果からも,眼圧コントロール不良なPosner-Schlossman症候群に対しては,時期を逃すことなくMMC併用線維柱帯切除術を施行することが必要と考えられた.また,罹病期間が長くなるほど緑内障性変化を呈する症例が多くなるため,Posner-Schlossman症候群に対して,慎重な経過観察が必要と思われる.文献1)PosnerA,SchlossmanA:Syndromeofunilateralrecurrentattacksofglaucomawithcycliticsymptoms.ArchOphthalmol39:517-535,19482)繪野亜矢子,前田秀高,中村誠:手術治療を要したポスナー・シュロスマン症候群の3例.臨眼54:675-679,20003)JapA,SivakumarM,CheeSP:IsPosner-Schlossmansyndromebenign?Ophthalmology108:913-918,20014)DinakaranS,KayarkarV:TrabeculectomyinthemanagementofPosner-Schlossmansyndrome.OphthalmicSurgLasers33:321-322,20025)地庵浩司,塚本秀利,岡田康志ほか:緑内障手術を行ったPosner-Schlossman症候群の3例.眼紀53:391-394,20026)小俣貴靖,濱中輝彦:Posner-Schlossman症候群における線維柱帯の病理組織学的検討─眼圧上昇の原因についての検討─.あたらしい眼24:825-830,20077)RaittaC,VannasA:Glaucomatocycliticcrisis.ArchOphthalmol95:608-612,19778)KassMA,BeckerB,KolkerAE:Glaucomatocycliticcrisisandprimaryopen-angleglaucoma[casereport].AmJOphthalmol75:668-673,19739)崎元晋,大鳥安正,岡田正喜ほか:ステロイド緑内障を合併したPosner-Schlossman症候群の2症例.眼紀56:640-644,200510)TheJapaneseSteroid-InducedGlaucomaMulticenterStudyGroup:Successratesoftrabeculotomyforsteroidinducedglaucoma:acomparative,multicenter,retrospective,cohortstudy.AmJOphthalmol,2011,inpress***

プロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響

2011年6月30日 木曜日

886(13あ4)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(6):886.890,2011c〔別刷請求先〕井上順:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:JunInoue,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANプロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響井上順*1岡美佳子*2井上恵理*1徳田直人*1竹鼻眞*2上野聰樹*1*1聖マリアンナ医科大学眼科学教室*2慶應義塾大学薬学部分子機能生理学講座EffectofProstaglandinAnaloguesonRabbitCornealEpithelialCellsJunInoue1),MikakoOka2),EriInoue1),NaotoTokuda1),MakotoTakehana2)andSatokiUeno1)1)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofMolecularFunctionandPhysiology,KeioUniversityFacultyofPharmacyプロスタグランジン(PG)関連薬の角膜への影響を検討するため,ウサギ角膜上皮細胞を用いて細胞毒性および細胞増殖に対する抑制作用を比較した.96ウェルプレートにウサギ角膜上皮細胞を5,000cells/mlで播種し,24時間培養後2倍希釈系列(2.512倍)になるように希釈したPG関連薬(ラタノプロスト0.005%,トラボプロスト0.004%,タフルプロスト0.0015%,ビマトプロスト0.03%)を各ウェルに分注し,一定時間培養後LDH(lactatedehydrogenase)assay法またはMTT〔3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide〕assay法を行い,各薬剤の細胞障害率および細胞増殖抑制率を算出した.薬剤濃度を横軸に,細胞増殖抑制率または細胞障害率を縦軸にとり近似曲線を求めた.LDHassay法による細胞障害率50%となる希釈濃度はラタノプロスト(12.2倍)>タフルプロスト(7.1倍)>ビマトプロスト(3.7倍)>トラボプロスト(1.2倍)の順で高く,MTTassay法による細胞増殖抑制率50%となる希釈濃度はラタノプロスト(25.5倍)>タフルプロスト(21.8倍)>ビマトプロスト(10.6倍)>トラボプロスト(1.1倍)の順で高かった.培養ウサギ角膜上皮細胞に対する影響はラタノプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト,トラボプロストの順で強かった.Thecytotoxicityandinhibitoryeffectsofvariousprostaglandin(PG)analogueeyedropsoncornealepithelialcellgrowthwerecomparedinculturedrabbitcornealepithelialcells.Thecellswerespreadona96-wellplate.Afterincubation,thePGanalogues(0.005%latanoprost,0.004%travoprost,0.0015%tafluprost,and0.03%bimatoprost)weredilutedtoprepareserial2-folddilutions(2-512fold),andeachwaspouredintoeachwell.LDH(lactatedehydrogenase)assayor3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide(MTT)assaywereperformed,andthecytotoxicityrateandcellgrowthinhibitionratewerecalculatedforeachdrug.Anapproximatecurvewasobtainedforeachdrugandcomparativeinvestigationwasconductedbyplottingtheconcentrationofeachdrugonthehorizontalaxisandthegrowthinhibitionrateorcytotoxicityrateonthelongitudinalaxis.Thecytotoxicityrate,asdeterminedbyLDHassay,washighest(50%)forthe12.2-folddilutionoflatanoprost,followedinorderbythe7.1-folddilutionoftafluprost,the3.7-folddilutionofbimatoprostandthe1.2-folddilutionoftravoprost.Thegrowthinhibitionrate,asdeterminedbyMTTassay,washighestforthe25.5-folddilutionoflatanoprost,followedinorderbythe21.8-folddilutionoftafluprost,the10.6-folddilutionofbimatoprostandthe1.1-folddilutionoftravoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):886.890,2011〕Keywords:角膜上皮細胞,プロスタグランジン関連薬,LDHassay法,MTTassay法.cornealepithelialcell,prostaglandinanalogues,LDHassay,MTTassay.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011887はじめに緑内障治療では,一般的にまず点眼薬治療が行われる.現在では多くの抗緑内障点眼薬が登場し,治療の選択肢が増えてきている.そのなかでも,プロスタグランジン(PG)関連薬は強力な眼圧下降効果を有し,しかも全身的な副作用が少ないことから,緑内障薬物療法の第一選択薬となっている.一方,緑内障は疾患の性質上,一度,抗緑内障点眼薬が投与されると長期にわたり投与が継続される場合や,眼圧コントロールを得るために複数の薬剤が同時に併用投与される場合もある.点眼薬が最初に接触するのは角膜,結膜などのオキュラーサーフェスであり,この部位での副作用発現の可能性があり,考慮する必要がある.実際に点眼薬の眼局所副作用として角膜上皮障害が多く報告されており,さらに長期連用により重篤化することもある1).また,その角膜上皮障害の程度も点眼薬により異なる.この角膜上皮障害は一旦発症すると,点眼治療を中止しなければならない場合や,自覚症状のためにアドヒアランス低下の原因となる場合もあり,治療を行ううえで大きな影響を及ぼす可能性がある.本研究では,PG関連薬の角膜上皮細胞に対する影響について培養ウサギ角膜上皮細胞を用いて,細胞障害性をLDH(lactatedehydrogenase;乳酸脱水素酵素)活性を指標に検討し,さらにはMTT〔3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide〕assay法により,細胞増殖に及ぼす影響について検討した.I実験材料および方法1.実験材料培養細胞は凍結正常ウサギ角膜上皮細胞(NRCE2)(クラボウ),培地はM-StarA(KeratinocyteGrowthMedium)(アルブラスト)を用いた.LDH活性測定には,LDH-細胞毒性テストキット(和光純薬)を使用した.MTTassay法は,MTT(SIGMA)をPBS(phosphate-bufferedsaline)にて最終濃度5mg/mlになるように調製し,呈色液として用いた.MTT溶解液には0.04NHCl-isopropanol液(和光純薬)を用いた.PG関連薬はラタノプロスト0.005%(ファイザー),トラボプロスト0.004%(日本アルコン),タフルプロスト0.0015%(参天製薬),ビマトプロスト0.03%(千寿製薬)の市販製品を使用した2).いずれも2009年11月に購入したもので,タフルプロストについては2010年1月の防腐剤濃度変更以前のものを用いた(表1).2.実験方法a.ウサギ角膜上皮細胞の培養法凍結正常ウサギ角膜上皮細胞を60mmペトリディッシュに播種し,37℃インキュベーターで5%CO2の条件下で培養した.細胞がサブコンフルエント(80%)になった時点で,1.0×105cells/mlの細胞浮遊液を作製し,96ウェルプレートに細胞浮遊液50μl(5,000cells/ml)を分注した.各ウェルに培養液を加え全量100μlとした.b.LDH活性の測定96ウェルプレートに播種したウサギ角膜上皮細胞は24時間培養後,培養液で洗浄し,最後に培養液50μlを各ウェルに分注した.各PG関連薬を2倍希釈系列(2.512倍)になるように培養液で希釈したものを各ウェルに50μlずつ分注した.15分間室温で放置後,各ウェルから50μlとり,別のプレートに移し,発色液(ニトロブルーテトラゾリウム)50μlを分注し,45分間室温で放置した.反応停止液(0.04NHCl)100μlを各ウェルに加え,マイクロプレートリーダーを用いて570nm波長の吸光度を測定した.各薬剤とも各希釈濃度について4サンプルずつ吸光度を測定した.検体(S),ネガティブコントロール(NC;PBS),およびポジティブコントロール(PC;PBSで溶解した0.2%Tween20)の平均吸光度から,以下に示す計算式で細胞障害率を算出した.細胞障害率(%)=(S.N/P.N)×100各PG関連薬の細胞障害作用に有意差があるか否かは,ANOVA(analysisofvariance;分散分析法)検定後,Bonferroni/Dunn法の多重検定を行い,危険率p<0.05をもって有意差ありとした.50%細胞障害希釈倍率は,各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞障害率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数の近似曲線を求めることによって算出した.c.細胞増殖抑制率の測定96ウェルプレートを24時間培養後,培養液を取り除き,各PG関連薬をそれぞれ2倍希釈系列(2.512倍)になるように培養液で希釈したものを各ウェルに100μlずつ分注し,48時間培養した.各ウェルにMTT溶液(5mg/ml)10μlを加え,37℃で4時間インキュベートした.MTT溶解溶液100μlを加え,マイクロプレートリーダー(LabsystemsMultiskanMS;Labsystems)を用いて570nm波長の吸光度を測定した.各薬剤とも各希釈濃度について4サンプルずつ吸光度を測定した.薬剤無添加のウェルを対照とし,以下に示す計算式で細胞増殖抑制率を算出した.細胞増殖抑制率(%)=100.(薬剤添加ウェルの平均吸光度/薬剤無添加ウェルの平均吸光度)×100各PG関連薬の細胞増殖抑制作用に有意差があるか否か表1各種プロスタグランジン関連薬の主剤濃度と防腐剤濃度主剤防腐剤ラタノプロスト0.005%ベンザルコニウム塩化物0.02%トラボプロスト0.004%sofZiaRタフルプロスト0.0015%ベンザルコニウム塩化物0.01%ビマトプロスト0.03%ベンザルコニウム塩化物0.005%888あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(136)は,ANOVA検定後,Bonferroni/Dunn法の多重検定を行い,危険率p<0.05をもって有意差ありとした.50%増殖抑制希釈倍率は,各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞増殖抑制率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし,対数近似曲線を求めることによって算出した.II結果1.LDH活性の測定LDH検出法を用いて測定した吸光度から細胞障害率を算出し,細胞障害に対するPG関連薬の影響を検討した.Bonferroni/Dunn法による多重検定を行った結果,各薬剤間に有意差は認めなかったが,最も高い細胞障害性を認めたのはラタノプロスト0.005%であり,細胞障害率は2倍希釈で114%,4倍希釈で66%であった.ついでタフルプロスト0.0015%において,2倍希釈で100%,4倍希釈で48%の細胞障害を認めた.ビマトプロスト0.03%の細胞障害率は,2倍希釈で95%,4倍希釈で37%であった.細胞障害性が最も低かったのがトラボプロスト0.004%であり,細胞障害率は2倍希釈で60%と他の3剤と比較し細胞障害率は低値であり,4倍希釈で35%であった.256倍希釈ではいずれの薬剤も細胞障害率は10%以下となり,512倍希釈では,細胞障害はほとんど認めなかった(図1).各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞障害率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数近似曲線を求めることによって50%細胞障害希釈倍率を算出した.50%細胞障害時希釈倍率は,ラタノプロスト12.2倍,タフルプロスト7.1倍,ビマトプロスト3.7倍,トラボプロスト1.2倍であった(図2).2.細胞増殖抑制率の測定MTTassay法を用いて測定した吸光度から細胞増殖抑制率を算出し,細胞増殖に対するPG関連薬の影響を検討した.細胞増殖抑制率は,ラタノプロストにおいて8倍希釈まで80%以上,32倍希釈でも49%であり,いずれの希釈倍率でも最も抑制率は高かった.ついでタフルプロストにおいて,4倍希釈で83%,16倍希釈で65%,32倍希釈で45%と高い細胞増殖抑制率を認めた.ビマトプロストの細胞増殖抑制率は,4倍希釈で72%,16倍希釈で53%,32倍希釈で30%であった.最も低い細胞増殖抑制率を示したのはトラボプロストであり,抑制率は4倍希釈で66%,16倍希釈で35%,32倍希釈で28%となった(図3).Bonferroni/Dunn法による多重検定を行った結果,トラボプロストは,4倍希釈および8倍希釈濃度で他の薬剤に対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.さらにトラボプロストは,4倍希釈から64倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示し,16倍希釈160140120100806040200-20512256128643216842希釈濃度(倍)細胞障害率(%):ラタノプロスト0.005%:タフルプロスト0.0015%:ビマトプロスト0.03%:トラボプロスト0.004%図1PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する細胞障害率の比較LDH検出法を用いて各種薬剤の細胞障害率を算出した.各希釈系列における薬剤間の有意差は認めなかった.細胞障害性はトラボプロスト0.004%が最も低かった.n=4,平均±標準偏差.希釈濃度(倍)00.10.20.30.40.50.6細胞障害率(%):ラタノプロスト0.005%(LAT):タフルプロスト0.0015%(TAF):ビマトプロスト0.03%(BIM):トラボプロスト0.004%(TRA)120100806040200LATy=0.1582Ln(x)+0.8959TAFy=0.1458Ln(x)+0.7855BIMy=0.1227Ln(x)+0.6619TRAy=0.0899Ln(x)+0.5147図2各種PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞障害率の近似曲線100806040200-20251625612864321684希釈濃度(倍)細胞増殖抑制率(%)###**###**###***#######***:ラタノプロスト0.005%:タフルプロスト0.0015%:ビマトプロスト0.03%:トラボプロスト0.004%図3PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する細胞増殖抑制率の比較MTTassay法を用いて各種薬剤の細胞増殖抑制率を算出した.ラタノプロスト0.005%で最も強い細胞増殖抑制効果を認めた.細胞増殖抑制効果はトラボプロスト0.004%が最も弱かった.n=4,平均±標準偏差.#p<0.05ラタノプロストvsトラボプロスト.*p<0.05タフルプロストvsトラボプロスト.##p<0.05ビマトプロストvsトラボプロスト.**p<0.05タフルプロストvsラタノプロスト.###p<0.05ラタノプロストvsビマトプロスト.***p<0.05タフルプロストvsビマトプロスト.(ANOVAおよびBonferroni/Dunn法)(137)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011889から64倍希釈濃度でタフルプロストに対しても,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.タフルプロストは,32倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.ビマトプロストは,16倍希釈および32倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示し,64倍希釈濃度でタフルプロストに対しても,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.各薬剤の希釈濃度を横軸にとり,細胞増殖抑制率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数近似曲線を求めることによって50%細胞増殖抑制希釈倍率を算出した.50%増殖抑制希釈倍率は,ラタノプロスト25.5倍,タフルプロスト21.8倍,ビマトプロスト10.6倍,トラボプロスト1.1倍であった(図4).III考按緑内障の薬物治療は長期にわたることが多い.そのため,眼圧下降効果のみならず,副作用や使用感,経済的負担などを考慮し,患者に応じた最適な薬剤の選択が望まれる.薬剤の選択肢が広がることは,より最適な薬剤処方の実現に寄与するとともに,近年,わが国における薬剤の選択肢は大きな変化を示している.イソプロピルウノプロストン点眼液およびラタノプロスト点眼液が発売されて以降,これらのPG関連薬が薬物治療のおもな第一選択薬として使用されてきた.近年にはトラボプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液およびビマトプロスト点眼液が登場し,PG関連薬の選択肢が大きく広がった.さらに最近,一部のPG関連薬とチモロールマレイン酸塩の配合点眼液が発売され,さらに薬剤の選択肢が広がっている.各種のPG関連薬の眼圧下降効果については多くの報告がある3.6).また,副作用については緑内障患者のアドヒアランスへの影響が大きいとされる結膜充血に関する報告が多い7,8).その一方で,緑内障患者が角膜疾患を併発しているケースも少なくないなかで,わが国で使用されているPG関連薬を使用した角膜障害性に関する報告はほとんどない.そこで,今回は4種のPG関連薬の角膜障害性についてウサギ角膜上皮細胞を使用して比較検討することにした.本研究では,各種PG関連薬およびその希釈液を使用して,細胞死の指標であるLDHassay法9.11)と細胞増殖の指標であるMTTassay法12)で角膜上皮細胞に対する障害性を調べた.その結果,各種PG関連薬でウサギ角膜上皮細胞に対する影響に差が認められ,さらにLDHassay法およびMTTassay法ともに同様の傾向が認められた.ウサギ角膜上皮細胞に対して最も強い毒性を示したのはラタノプロスト点眼液で,続いてタフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液であり,トラボプロスト点眼液はウサギ角膜上皮細胞に対して最も影響が少ない薬剤であることが明らかとなった.点眼薬は主薬のほかに等張化剤,緩衝剤,可溶化剤,安定化剤,防腐剤,粘稠化剤などが含まれており,点眼薬による角膜上皮障害を考えるうえで,これら添加剤の影響も十分に考慮する必要がある.特に防腐剤のなかではベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAK)による角膜上皮障害については多くの報告があり13.16),今後,抗緑内障点眼薬中の薬効成分以外の成分に関する検討も必要であると考えられる.各種PG関連薬の主薬の細胞障害性については,Guenounらがヒト結膜上皮細胞を使用した結果を報告している17).その結果では,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストの順で障害性が高かったことを示している(タフルプロストは非使用).本研究に用いたPG関連薬に含まれる主薬の濃度は,ビマトプロスト:0.03%,ラタノプロスト:0.005%,トラボプロスト:0.004%,タフルプロスト:0.0015%の順で高いが,BAKを含まないトラボプロストが最も細胞毒性が少なく,BAKを含む薬剤のなかでは主薬の濃度が最も高いビマトプロストが最も細胞毒性が少なかった.Guenounらの主薬の細胞障害性の報告と,今回筆者らが実施した製剤の細胞障害性の結果が相関しなかった理由については,BAKの影響が少なからず関与している可能性があると考えられた.BAKは陽イオン界面活性剤であり,その作用は細菌の細胞膜を溶解し,細胞質の変成を起こすことである.本研究で用いたわが国で発売となっているPG関連薬のなかで,BAKを含有するものは,ラタノプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液であり,BAKの含有量2)はラタノプロスト点眼液が0.02%,タフルプロスト点眼液は0.01%,ビマトプロスト点眼液は0.005%と報告されている.一方,トラボプロスト点眼液に含まれる防腐剤はsofZiaRである.sofZiaRはホウ酸/ソルビトール存在下で塩希釈濃度(倍)0.10.20.30.40.50.6細胞障害率(%)100806040200-20:ラタノプロスト0.005%(LAT):タフルプロスト0.0015%(TAF):ビマトプロスト0.03%(BIM):トラボプロスト0.004%(TRA)LATy=0.1721Ln(x)+1.0575TAFy=0.157Ln(x)+0.9837BIMy=0.1466Ln(x)+0.8467TRAy=0.1112Ln(x)+0.5078図4各種PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞増殖抑制率の近似曲線890あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(138)化亜鉛が保存効果を示す防腐剤であり,BAKよりも細胞障害性が低いことが報告されている18.21).今回の筆者らの結果では,製剤の細胞障害性がトラボプロスト点眼液を除くとBAKの含有濃度に依存すること,また既報のとおりBAKよりもsofZiaRが細胞障害性を誘発しにくいことが示唆された.以上,各種PG関連薬についてinvitroでウサギ角膜上皮細胞障害性について検討した.実際の臨床では個々の症例について,涙液動態,角膜知覚,糖尿病などの基礎疾患を併発する場合など,角膜および点眼薬にまつわる環境はさまざまであり,薬剤そのものの細胞障害性だけでは副作用の発現を予測できない場合もある.しかし,本研究のモデルは,PG関連薬の臨床で用いられている製品を,ウサギ角膜上皮細胞に接触させたときの細胞障害性を比較したものであり,各薬剤の細胞障害性のポテンシャルを把握するうえでは有用であると考える.ただし,本試験系では製剤中の主薬および添加物の代謝などの要因が加味されないため,実際の緑内障患者における点眼時の各々の眼表面の挙動とは相違すること,さらにタフルプロスト点眼液が最近,BAKの濃度を低減していることも併せて考慮する必要がある.緑内障治療は,その患者にとってほぼ生涯にわたり治療が継続されることが多いことから,各点眼薬の特性,眼圧下降効果および副作用などを十分理解したうえで,その患者に最も適した薬剤を選択することは不可欠である.そのことが患者のアドヒアランスの向上に繋がり,継続可能でより効果的な治療が行えることになるであろうと考える.文献1)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19922)青山裕美子:緑内障点眼薬の基剤と防腐剤.臨眼63(増刊):252-259,20093)ChengJW,CaiJP,LiYetal:Ameta-analysisoftopicalprostaglandinanalogsinthetreatmentofchronicangleclosureglaucoma.JGlaucoma18:653-657,20094)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:A12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20035)StewartWC,KonstasAGP,NelsonLAetal:Meta-analysisof24-hourintraocularpressurestudiesevaluatingtheefficacyofglaucomamedicines.Ophthalmology115:1117-1122,20086)OrzalesiN,RossettiL,BottoliAetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncircadianintraocularpressureinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology113:239-246,20067)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20088)EyawoO,NachegaJ,LefebvrePetal:Efficacyandsafetyofprostaglandinanaloguesinpatientswithpredominantlyprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension:ameta-analysis.ClinOphthalmol3:447-456,20099)DeckerT,Lohmann-MatthesML:Aquickandsimplemethodforthequantitationoflactatedehydrogenasereleaseinmeasurementsofcellularcytotoxicityandtumornecrosisfactor(TNF)activity.JImmunolMethods115:61-69,198810)KorzeniewskiC,CallewaertDM:Anenzyme-releaseassayfornaturalcytotoxicity.JImmunolMethods64:313-320,198311)MurphyTH,MaloufAT,SastreAetal:Calcium-dependentglutamatecytotoxicityinaneuronalcellline.BrainRes444:325-332,198812)HansenMB,NielsenSE,BergK:Re-examinationandfurtherdevelopmentofapreciseandrapiddyemethodformeasuringcellgrowth/cellkill.JImmunolMethods119:203-210,198913)PfisterRR,BursteinN:Theeffectsofophthalmicdrugs,vehicles,andpreservativesoncornealepithelium:ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmolVisSci15:246-259,197614)BursteinNL,KlyceSD:Electrophysiologicandmorphologiceffectsofophthalmicpreparationsonrabbitcorneaepithelium.InvestOphthalmolVisSci16:899-911,197715)LiangH,BaudouinC,FaureMOetal:Comparisonoftheoculartolerabilityofalatanoprostcationicemulsionversusconventionalformulationsofprostaglandins:aninvivotoxicityassay.MolVis15:1690-1699,200916)WhitsonJT,CavanaghHD,LakshmanNetal:Assessmentofcornealepithelialintegrityafteracuteexposuretoocularhypotensiveagentspreservedwithandwithoutbenzalkoniumchloride.AdvTher23:663-671,200617)GuenounJM,BaudouinC,RatPetal:Invitrostudyofinflammatorypotentialandtoxicityprofileoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostinconjunctiva-derivedepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci46:2444-2450,200518)HorsleyMB,KahookMY:Effectsofprostaglandinanalogtherapyontheocularsurfaceofglaucomapatients.ClinOphthalmol3:291-295,200919)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.02%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,200820)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepitherialcellculturesystem.AdvTher23:511-519,200621)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudyofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,2007

ハードコンタクトレンズの動きの経時的変化

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0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)883《原著》あたらしい眼科28(6):883.885,2011cはじめにハードコンタクトレンズ(HCL)は,ソフトコンタクトレンズ(SCL)と比較して,酸素透過性が高い,光学性に優れる,耐久性が高い,および,重篤な角膜障害を生じにくいなど多くの利点を有している1).しかしながら,使い捨てSCLや頻回交換SCLの急速な普及に伴い,近年HCLの処方頻度は減少傾向にある.HCLが敬遠される最大の原因の一つに初装時の異物感があげられ2),イニシャルのトライアルレンズを装用した時点で強い異物感によりドロップアウトする症例も多い.このため,特にイニシャルのトライアルレンズには異物感の極力少ないレンズを選択することが大変重要である3).異物感の原因には,レンズの大きさ,べベル部分のデザイン,角膜の神経終末の分布などさまざまな要因が関与している.レンズの動きが大きすぎることも,異物感の大きな原因となり,見え方の安定感を欠く原因にもなる.逆に,レンズの動きが小さすぎることは,レンズの固着,涙液交換の低下,装用感の悪化およびレンズの外しにくさにつながり,角膜障害の原因となることもある.このように,瞬目時のレンズの動きを正確に評価することは大変重要であると考えられる.しかし,レンズの動きは,細隙灯顕微鏡により,mm単位で測定されているのが現状であり,検者個人の感覚によるところが大きく,これまで適切な評価方法がなかった.そこで今回筆者らは,画像解析を用いて,レンズの動きの新しい評価方法を考案し,HCL装用時の瞬目に伴うレンズの動きを経時的に検討した.また,レンズ処方時にレンズの動きを評価するタイミング,および,人工涙液によるレンズの動きの変化についても検討した.I対象および方法被検者はHCLの装用歴があり,近視または近視性乱視以外に眼疾患を有しない5例10眼(男性1例2眼,女性4例〔別刷請求先〕藤田博紀:〒270-1132千葉県我孫子市湖北台1-1-3藤田眼科Reprintrequests:HirokiFujita,Ph.D.,FujitaEyeClinic,1-1-3Kohoku-dai,Abiko-shi,Chiba270-1132,JAPANハードコンタクトレンズの動きの経時的変化藤田博紀*1,2馬場富夫*2田中直*2佐野研二*3*1藤田眼科*2桑野協立病院眼科*3あすみが丘佐野眼科TimeCourseChangesinHardContactLensMovementHirokiFujita1,2),TomioBaba2),TadashiTanaka2)andKenjiSano3)1)FujitaEyeClinic,2)KuwanoKyoritsuHospital,3)AsumigaokaSanoEyeClinicハードコンタクトレンズ(HCL)装用者5例10眼において,レンズ装用時のレンズの動きを録画し,1/30秒ごとに解析処理して,レンズの動きを数値的に評価した.HCL装用後のレンズの動きは,徐々に小さくなり,特に装用5分後までは,レンズの動きは急激に変化した.しかし,装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなかった.HCLのフィッティングの評価は,装用直後には避け,装用30分経過した後が望ましいと考えられた.また,人工涙液点眼により,レンズの動きは,人工涙液点眼前と比較して有意に大きくなった.Changesinthemovementofhardcontactlenses(HCL)duringwearwereanalyzedbymonitoringtheHCLevery1/30secondin10eyesof5HCLwearers.ResultsshowedthatalthoughHCLmovementdecreasedwithtimeafterHCLinsertion,significantchangeinmovementwasobservedwithin5minutesafterinsertion.However,therewasnostatisticallysignificantdifferencebetweenlensmovementat30minutesandat8hoursafterHCLinsertion.TheanalyticalresultsindicatethatinHCLwearers,HCLfitshouldnotbeevaluatedimmediatelyafterlensinsertion,butatleast30minutesafter.HCLmovementwassignificantlyincreasedbyuseofartificialtears.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):883.885,2011〕Keywords:ハードコンタクトレンズ,レンズの動き,人工涙液.hardcontactlens,lensmovement,artificialteardrops.884あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(132)8眼)であり,平均年齢は35.2±11.2歳(25.47歳)であった.被検者には十分なインフォームド・コンセントを行った.今回用いたHCLは,サンコンマイルドIIR(サンコンタクトレンズ社製)で,直径8.8mmの球面レンズである.レンズの周辺部の6カ所にMETORONMARKER(PermanentInks社製)を用いてマーキングを施した(図1).ベースカーブについては,オートレフケラトメーターにて測定した角膜曲率半径をもとにトライアルエンドエラーでパラレルフィッティングに決定した.レンズ度数は+3.25..9.00Dであった.本レンズを用いて,レンズ装用直後,5分後,10分後,20分後,30分後,および8時間後のレンズの動きを録画した.この録画した画像を,デジモ社の画像解析ソフトであるイメージトラッカー(PTV)を用いて1/30秒ごとに解析処理し,レンズの動きを数値的に評価した(図2).レンズの動きは,以下のようにして求めた.まず,図2のように任意のマーキングした2点AとBの中点であるCをレンズ上の固定点とした.瞳孔中心(D)を眼球上の固定点とし,レンズの位置Eは座標C─Dにより求めた.画像を1/30秒ごとにコマ送りすることにより,レンズの最も高いレンズ位置Emaxと最も低いレンズ位置Eminを求め,EmaxとEminの距離を測定した(図3).最後に,眼瞼にスケールを置いて撮影し,EmaxとEminの距離を実際の長さに換算し,レンズの動きと定義した(図4).また,長時間レンズ装用後における人工涙液点眼直後のレンズの動きについても,同様の方法にて検討した.図1マーキングしたレンズレンズの周辺部の6カ所にマーキングを施した.0.00.51.01.52.0直後5分10分20分30分長時間***NS経過時間レンズの動き(mm)図4レンズの動きの経時的変化装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなかった.*p<0.05,**p<0.01,NS:notsignificant.ABCD図2レンズの位置の決定方法任意のマーキングした2点AとBの中点であるCをレンズ上の固定点とした.瞳孔中心(D)を眼球上の固定点とし,レンズの位置Eは座標C─Dにより求めた.EminEmax図3レンズの動きの量の測定方法レンズの最も高いレンズ位置Emaxと最も低いレンズ位置Eminを求め,EmaxとEminの距離を測定した.(133)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011885II結果レンズ装用直後,5分後,10分後,20分後,30分後,および8時間後のレンズの動きは,それぞれ1.59±0.67mm,1.15±0.59mm,1.01±0.50mm,0.98±0.50mm,0.76±0.37mm,0.58±0.25mmであり,経時的に小さくなった(図4).装用直後と5分後,および,装用20分後と8時間後では,pairedt検定にて,それぞれレンズの動きに有意差があった.しかし,装用30分後と8時間後ではレンズの動きに有意差がなかった.また,人工涙液点眼により,レンズの動きは1.70±0.62mmであり,人工涙液点眼前と比較して有意に大きくなった(図5).III考察現在HCLのフィッティングマニュアルでは,レンズの動きに関しては,適正な数値が示されていないことも多い.今回筆者らは,直径8.8mmの球面というわが国では一般的なデザインであるHCLのレンズ周辺に特殊な色素でマーキングを施し,そのマーキングを1/30秒で追随するという新しい方法で,レンズの動きを精密に測定した.今回得られたデータでは,レンズの動きは経時的に徐々に小さくなり,特に装用5分後までは,レンズの動きは急激に変化した.また,装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなくなった.臨床の現場では,HCL処方の際,レンズの動きの評価は,装用して間もなく行われることもある.しかし,以上の結果から,トライアルレンズ装用時のフィッティングの評価は,装用直後には避け,装用30分経過した後が望ましいと考えられた.特に,装用後短時間でフィッティングを評価し,実際に装用を開始してから装用感の不良などを訴える症例に対しては,定期検査の際,長時間装用した状態でのフィッティングも再評価する必要があると考えられた.ところで,HCL装用者のなかには長時間の装用や乾燥感に伴い,レンズが取り外しにくいと訴える症例が多い.その対処方法として,人工涙液点眼が推奨されている.人工涙液点眼がレンズの動きへ及ぼす影響については,SCLの装用時には,レンズの中心厚が厚くなり,また,レンズ下の涙液層が薄くなることによって,レンズの動きは小さくなるという報告もある4).しかし,今回の結果から,HCLの装用時には,人工涙液点眼はレンズの動きを大きくする効果があることが確認された.このため,HCLの動きの少なかったり,固着しやすかったりする症例に対し,積極的に人工涙液の点眼を指導しても良いと考えられた.ただし,人工涙液点眼のレンズの動きへの影響は,一時的な対処法にすぎず,レンズの修正など根本的な対処も必要である.今回のように,レンズの動きを正確に評価できる方法を確立することはCLの研究において大変意義深く,本方法はさまざまなレンズの評価研究に応用できると考えている.今後の課題としては,1)レンズのデザイン(直径や球面,非球面など),2)涙液交換率,3)レンズの装用感,4)qualityofvision,および5)角膜形状(角膜乱視),それぞれとレンズの動きとの関係などについても精査の予定である.使い捨てSCLや頻回交換SCLが主流となった現在でも,HCLにおいても,さまざまなレンズが開発され,装用感やqualityofvisionの改善が図られている.これらのレンズの動きを評価する際にも,本方法は新しい方法として大変有用である.ただし,本方法は,解析に多大な時間を要するため,マーキングなしで解析できる簡便な方法を開発する必要もある.文献1)藤田博紀:ハードコンタクトレンズ.眼科診療プラクティス27,標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p262-272,文光堂,20092)FujitaH,SanoK,SasakiSetal:Oculardiscomfortattheinitialwearingofrigidgaspermeablecontactlenses.JpnJOphthalmol48:376-379,20043)藤田博紀,馬場富夫,佐野研二ほか:非球面大直径ハードコンタクトレンズの初装時における異物感の評価.あたらしい眼科24:835-837,20074)NicholsJJ,SinnottLT,King-SmithPEetal:Hydrogelcontactlensbindinginducedbycontactlensrewettingdrops.OptomVisSci85:236-240,2008***0.00.51.01.52.0長時間点眼後*レンズの動き(mm)図5人工涙液点眼によるレンズの動きの変化人工涙液点眼により,レンズの動きは有意に大きくなった.*p<0.01.

赤外線画像を用いた強膜弁の観察

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)879《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):879.882,2011cはじめに人間が視覚化することのできる電磁波は,紫外線より長く赤外線より短い0.4.0.75μmの間の波長域である.波長がおよそ0.75.1,000μmの電磁波を赤外線という.そのうち,近赤外線はおよそ0.75.2.5μmの電磁波であり,赤色の可視光線に近い波長をもっている.可視光線に近い特性をもつため,人間には感知できない光として,赤外線カメラや情報機器などに応用されている1).医療領域では,その組織深達度を利用した赤外線カメラシステムによる乳癌のセンチネルリンパ節生検への応用が知られる2.4).眼科領域ではインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査が加齢黄斑変性症などの脈絡膜疾患に広く利用されている5~8).緑内障領域で赤外線を利用した研究としては,Kawasakiらの,サーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の報告がある9)が,赤外線画像を利用して,強膜弁の位置を確認しよう〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦三丁目9番地横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN赤外線画像を用いた強膜弁の観察野村英一*1伊藤典彦*1野村直子*1安村玲子*1武田亜紀子*1遠藤要子*2杉田美由紀*3水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2横浜労災病院眼科*3蒔田眼科クリニックInfraredRayImagingofScleralFlapsafterGlaucomaSurgeriesEiichiNomura1),NorihikoItoh1),NaokoNomura1),ReikoYasumura1),AkikoTakeda1),YokoEndo2),MiyukiSugita3)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)YokohamaRosaiHospital,3)MaitaEyeClinic目的:濾過胞再建術の前に,以前の緑内障手術による強膜弁の位置が確認できることは有用であるが,可視光の所見では確認が困難なことがある.赤外線画像(IR画像)を用いて強膜弁の位置の確認を試みたので報告する.対象および方法:濾過胞機能不全もしくは漏出濾過胞の10例10眼(男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳)の強膜弁19カ所を対象に後ろ向きに検討した.可視光画像(眼底カメラによるカラー前眼部撮影)とIR画像(ハイデルベルグ社,スペクトラリスのscanninglaserophthalmoscope:SLO画像)で,四角形の強膜弁の輪部を除いた3辺のうち何辺が見えるかを比較した.結果:可視光画像では1.26±0.26(standarderrorofmean:SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(p<0.005Wilcoxon符号順位和検定).結論:IR画像は強膜弁の位置確認に有用であった.MaterialsandMethods:Nineteen(19)scleralflapsfrom10eyesafterglaucomasurgery(10cases,averageage64±16years)wereobservedretrospectively,basedonmedicalrecords.Thenumberofquadrangularscleralflapsidesthatwerevisibleusinginfraredray(IR)imageswascomparedwiththenumbervisibleusingvisiblerayimages.IRimagesofscleralflapsweremadeusingascanninglaserophthalmoscope(SLO)(Heidelberg,Spectralis);visiblerayimagesweremadeusingafunduscamera(KOWA,Vx-10i)incolorphotographingmodefortheanteriorsegmentoftheeyeball.Results:1.26±0.26(SEM)sidesofaquadrangularscleralflapweredetectedusingvisiblerayimages,and2.21±0.26(SEM)sidesweredetectedusingIRimages.ThenumberofscleralflapsidesvisibleusingIRimageswassignificantlyhigherthanthenumbervisibleusingvisiblerayimages(p<0.005Wilcoxonsignedranktest).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):879.882,2011〕Keywords:赤外線,緑内障,緑内障手術,強膜弁,画像化.infraredrays,glaucoma,glaucomasurgery,scleralflap,imaging.880あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(128)とした試みはない.強膜弁は,通常は結膜に覆われているため,細隙灯顕微鏡などによる可視光で正確に確認するのはむずかしいことが多いが,濾過胞再建術の術前に,以前に行われた緑内障手術による強膜弁の位置が確認できることは,手術の方法を考えるうえで有用である.今回筆者らは,赤外線画像(IR画像)を用いることで,近赤外線の組織深達性により,緑内障手術の強膜弁の位置を知ることができないか検討したので報告する.I対象および方法濾過手術後に眼圧上昇により点眼,あるいは内服の追加治療が必要となった濾過胞機能不全,もしくは漏出濾過胞で,2009年6月から2010年8月に当科において濾過胞のカラーの可視光画像とIR画像の撮影が行われた,10例10眼(男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳)の強膜弁19カ所を対象に,診療録をもとに後ろ向きに検討した.対象の緑内障の病型の内訳は,慢性閉塞隅角緑内障(CACG)3例,原発開放隅角緑内障(POAG)2例,ぶどう膜炎による続発緑内障2例,血管新生緑内障(NVG)2例,先天緑内障1例であった.また,カラー画像取得の方法は眼底カメラによるもの19カ所であった.IR画像取得の方法はハイデルベルグ社のスペクトラリスの走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)によるIR画像によるもの19カ所であった.観察した強膜弁の各部位における最終の術式の内訳は,線維柱帯切除術8カ所,濾過胞再建術2カ所,不明9カ所であった.診療録より手術日が確定した強膜弁は9カ所あり,手術から撮影日までの期間は平均32.0±12.3(SEM)カ月であった(表1).なお,濾過手術を対象としているが,同一眼に含まれる強膜弁に濾過手術以外のものを含んでいた場合は調査対象とした.カラーの可視光画像の取得にあたっては,眼底カメラ(KOWA,Vx-10i)による前眼部撮影を用いた.IR画像の取得にあたっては,ハイデルベルグ社のスペクトラリスのSLOによるIR画像(光源は波長820nmのダイオードレーザー)を用いた.すべての画像は電子カルテの画像ファイリングソフト(PSC,Clio)に取り込み,四角形の強膜弁の輪部を除いた3辺のうち何辺が見えるかを,検者1名により電子カルテの液晶モニター上で比較した.また,この19カ所の強膜弁を対象に可視光画像とIR画像で確認できた強膜弁の辺の数の相関関係について検討した.II結果可視光画像よりもIR画像で強膜弁が良好に透見できた典型例を図1に示した.AB図1ハイデルベルグ製スペクトラリスのIR画像で良好に強膜弁が観察できた1例10時方向の強膜弁は,眼底カメラの可視光画像(A)では0辺,ハイデルベルグのIR画像(B)で3辺(白矢印)が確認できた.表1可視光画像とIR画像の比較検討の対象とした症例の内訳.10例10眼男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳の強膜弁19カ所.CACG3例,POAG2例,ぶどう膜炎による続発緑内障2例,NVG2例,先天緑内障1例.カラー画像取得の方法眼底カメラ19カ所.IR画像取得の方法スペクトラリス19カ所.術式の内訳線維柱帯切除術8カ所濾過胞再建術2カ所不明9カ所.撮影までの期間平均32.0±12.3カ月(129)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011881図1の症例は70歳,男性.2007年3月,右眼の虹彩毛様体炎,虹彩に新生血管がみられ,眼圧38mmHg,眼底のCoats病様の血管病変にて当科初診.血管病変の強いぶどう膜炎による血管新生緑内障と診断された.2007年11月ベバシズマブの硝子体注射,2008年2月から汎網膜光凝固術を施行された.2008年4月,10時方向に円蓋部基底で線維柱帯切除術を施行された.2010年5月,緑内障点眼薬併用下に,右眼眼圧は14mmHgとなった.強膜弁は眼底カメラの可視光画像(図1A)では0辺,ハイデルベルグ社のIR画像(図1B)で3辺(白矢印)が確認できた.強膜弁の辺が確認できたのは,カラーの可視光画像では1.26±0.26(SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(p<0.005Wilcoxon符号順位和検定)(図2).可視光で確認できる辺の数とIRで確認できる辺の数には,正の相関関係がみられ有意であった(n=19,同順位補正相関係数=0.665,同順位補正p値(両側確率)=0.00478,Spearman順位相関係数の検定)(図3).III考察可視光画像で確認できる強膜弁の辺の数より,IR画像で確認できる辺の数は有意に増加していた.近赤外光は可視光よりも組織深達性があるため,結膜下の強膜弁の位置を知ることができたと考えられる.可視光で検出できる辺の数と赤外線で検出できる辺の数に正の相関がみられたのは,近赤外光が可視光に近い波長特性があるため,結膜の厚みや結膜下組織の影響を同様に受けることを示唆していると考えられた.可視光でも確認できる強膜弁の辺は,IR画像では確認できる辺の数自体の増加はないが,より強膜弁の状態を詳細に確認できた.しかし,可視光でもIR画像でも検知できない強膜弁も一部にみられた.結膜の厚みや,強膜弁の隙間の治癒の程度などにより描出状態が影響を受けると考えられた.線維柱帯切除術と線維柱帯切開術で,ハイデルベルグ社のスペクトラリスを用いたIR画像による強膜弁の描出態度を比較してみた.線維柱帯切除術8カ所,線維柱帯切開術2カ所を対象とした.本研究が濾過手術を対象としていたため,同時期に撮影された線維柱帯切開術と比べた限定的な結果であるが,線維柱帯切除術では1.75±0.52(SEM)辺,線維柱帯切開術では3.00±0.00(SEM)辺がみられ,有意差はみられなかった(Mann-Whitney’sU検定).線維柱帯切開術の結膜は平滑であるため,強膜面の焦点は合いやすいのに対して,線維柱帯切除後の結膜は厚みがあることが多く,強膜面の焦点は合いにくかった.また,線維柱帯切除術の結膜には,網状の模様がみられることがあった.これは,線維柱帯切除後は,結膜表面が不整であること,結膜下組織の増生があること,内部に小さなcyst様構造があること,濾過胞内の水分が存在することなどの影響が考えられた.近年,前眼部OCT(光干渉断層計)のように,近赤外光で断層像を作成する機器が登場している10).今回,すでに普及している機器を利用しても二次元的な像ではあるが強膜弁の位置が確認できた.赤外線による強膜弁の観察は,濾過胞再建術の術前検査に役立つ可能性が示唆された.IV結論IR画像は強膜弁の位置確認に有用であった.濾過胞再建術の術前検査として役立つ可能性が示唆された.3210可視光IR確認できた辺の数(辺)*図2可視光画像とIR画像によって確認できた強膜弁の辺の数の比較対象画像をカラーの可視光画像を眼底カメラの前眼部撮影画像,IR画像をハイデルベルグのIR画像とした場合,カラーの可視光画像では1.26±0.26(SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(n=19,p<0.005Wilcoxon符号順位和検定).311124124y=0.6311x+1.4133R2=0.407401230123IRで確認できた辺の数(辺)可視光で確認できた辺の数(辺)図3可視光画像とIR画像で確認できた強膜弁の辺の数の相関関係n=19,同順位補正相関係数=0.665,同順位補正p値(両側確率)=0.00478,Spearman順位相関係数の検定,可視光で確認できる辺の数とIRで確認できる辺の数は正の相関があり有意であった.なお,バブル内中央の数字は,強膜弁の数を表している.882あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(130)文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiT,InomotoT,MiwaMetal:Fluorescencenavigationwithindocyaninegreenfordetectinglymphnodesinbreastcancer.BreastCancer12:211-215,20053)小野田敏尚,槙野好成,橘球ほか:インドシアニングリーン(ICG)蛍光色素による乳癌センチネルリンパ節生検の経験.島根医学27:34-38,20074)鹿山貴弘,三輪光春:赤外観察カメラシステム(PDE)の開発と医用応用.MedicalScienceDigest34:78-80,20085)米谷新,森圭介:ICG蛍光眼底造影─読影の基礎.脈絡膜循環と眼底疾患(清水弘一監修),p9-18,医学書院,20046)FlowerRW,HochheimerBF:Clinicaltechniqueandapparatusforsimultaneousangiographyoftheseparateretinalandchoroidalcirculations.InvestOphthalmolVisSci12:248-261,19737)林一彦:赤外線眼底撮影法.眼科27:1541-1550,19858)YannuzziLA,SlakterJS,SorensonJAetal:Digitalindocyaninegreenangiographyandchoroidalneovascularization.Retina12:191-223,19929)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationoffilteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmol93:1331-1336,200910)LeungCK,YickDW,KwongYYetal:AnalysisofblebmorphologyaftertrabeculectomywithVisanteanteriorsegmentopticalcoherencetomography.BrJOphthalmol91:340-344,2007***

多施設による緑内障患者の実態調査2009 年度版 ―薬物治療―

2011年6月30日 木曜日

874(12あ2)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):874.878,2011c〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN多施設による緑内障患者の実態調査2009年度版―薬物治療―井上賢治*1塩川美菜子*1増本美枝子*1野口圭*1澤田英子*1南雲はるか*1若倉雅登*1添田尚一*2富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西井上眼科病院*3東邦大学医学部眼科学第二講座CurrentStatusofTherapyforGlaucomaatPrivatePracticesandPrivateOphthalmologyHospitalsin2009KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MiekoMasumoto1),KeiNoguchi1),HidekoSawada1),HarukaNagumo1),MasatoWakakura1),ShoichiSoeda2)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine緑内障患者の治療に関する実態を本試験の趣旨に賛同した施設で調査し,2007年に行った前回調査と比較する.本試験の趣旨に賛同した30施設に2009年11月24日~30日に外来受診した緑内障,高眼圧症患者3,074例3,074眼を対象とした.緑内障病型,手術既往歴,使用薬剤を調査した.緑内障病型は,正常眼圧緑内障45.4%,(狭義)原発開放隅角緑内障32.4%,原発閉塞隅角緑内障8.6%であった.使用薬剤数はなし9.9%,1剤48.4%,2剤24.3%,3剤12.8%,4剤3.9%,5剤0.7%であった.単剤例(1,489例)はラタノプロスト37.6%,タフルプロスト10.0%,トラボプロスト8.0%,ウノプロストン7.7%,ゲル化チモロール7.2%であった.2剤例(749例)はプロスタグランジン(PG)関連薬+b遮断薬58.6%,PG関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬20.0%であった.前回調査と比較して単剤例はPG関連薬が増加し,b遮断薬が減少した.2剤例はPG関連薬+b遮断薬が最多であったが,今回はPG関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が増加した.Weinvestigatedthecurrentstatusofglaucomatherapyatprivatepracticesandophthalmichospitals.Includedinthisstudywere3,074patientswithglaucomaandocularhypertensionwhovisited30privatepracticesandhospitalsduringtheweekofNovember24,2009.Theresultswerecomparedwiththoseofapreviousstudyperformedin2007.Ofthesepatients,45.4%hadnormal-tensionglaucoma,32.4%hadprimaryopen-angleglaucomaand8.6%hadprimaryangle-closureglaucoma.Onedrugalonewasprescribedin48.4%ofcases,2drugsin24.3%,3in12.8%,4in3.9%and5in0.7%.Inpatientsreceivingmonotherapy,latanoprost(37.6%),tafluprost(10.0%),travoprost(8.0%),unoprostone(7.7%)andgel-formingtimolol(7.2%)wereprescribed.Prostaglandinanalogandbeta-blockingagentwereusedincombinationin58.6%ofcases.Topicalcarbonicanhydraseinhibitorwasusedasanadjuncttoprostaglandinanalogin20.0%ofcases.Inpatientsreceivingmonotherapy,prostaglandinanalogswereincreasedandbeta-blockingagentsweredecreased.Inpatientsreceivingcombinationtherapy,prostaglandinanalog+carbonicanhydraseinhibitorwasincreased.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):874.878,2011〕Keywords:眼科診療所,眼科専門病院,緑内障治療薬,治療の実際.privatepractice,ophthalmichospital,glaucomamedication,currentstatus.(123)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011875はじめにわれわれ眼科医師は,日本緑内障学会が作成した緑内障診療ガイドライン1)に基づいて緑内障を診断し,病型を分類し,治療を開始し,その治療の効果を判定し,治療法の見直しを行っている.緑内障治療として現在のところ唯一根拠が明確に示された治療法が眼圧下降である2~5).眼圧下降療法の第一選択は薬物治療である.そのため緑内障患者に対して薬物を投与する際に日本における緑内障の頻度や薬物治療の現状を知ることは重要である.日本の緑内障の疫学調査として多治見スタディの報告がある6).また過去に,国立大学病院や公的中核病院での緑内障治療の実態に関する報告がなされた7,8).さらに慢性疾患診療支援システム研究会に登録された緑内障患者と国立大学病院で加療中の緑内障患者の新規処方の報告が近年なされた9).眼科医療の前線である一般眼科診療所や眼科専門病院においての緑内障ならびに高眼圧症に対する治療の実態は不明であったので,筆者らは2007年に調査を行い報告した10).前回調査より2年8カ月間が経過し,新しい緑内障点眼薬も使用可能になった.そこで今回,一般眼科診療所ならびに眼科専門病院での緑内障治療の実態について再調査を行った.I対象および方法この調査は,調査の趣旨に賛同した30施設において,2009年11月24日から同30日までの間に行った.調査に参加した施設を表1に示す.この調査期間内に,調査施設の外来を受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.緑内障の診断と治療は,緑内障診療ガイドライン1)に則り,各施設の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合は右眼を調査対象眼とした.これらの各施設にあらかじめ調査票を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤,緑内障手術既往を調査した.各施設からすべての調査票を集計センター(井上眼科病院内)に回収し集計を行った.使用薬剤については,単剤,2剤に分けて検討した.すべての結果を2007年に行った前回調査の結果10)と比較した(c2検定).II結果対象は3,074例3,074眼(男性1,264例,女性1,810例),年齢は66.9±13.1歳(平均±標準偏差,15~99歳)であった.病型は,正常眼圧緑内障1,396例(45.4%),(狭義)原発開放隅角緑内障996例(32.4%),原発閉塞隅角緑内障265例(8.6%),続発緑内障224例(7.3%),高眼圧症162例(5.3%)などであった(図1).緑内障手術は231例(7.5%)が行っていた.術式は線維柱帯切除術が198例(6.4%),線維柱帯切開術が14例(0.5%),線維柱帯切除術と線維柱帯切開術の両方の手術が5例(0.2%),隅角癒着解離術が5例(0.2%),周辺虹彩切除術が4例(0.1%),隅角癒着解離術と線維柱帯切除術と線維柱帯切開術の両方の手術が1例(0.03%)であった.何らかの眼圧下降手術を行ってあるものの,術式不明の症例が4例(0.1%)あった.緑内障および高眼圧症に対する薬剤数は,平均1.5±1.0剤で,その内訳は1剤が1,489例(48.4%),2剤が749例(24.3%),3剤が393例(12.8%),4剤が120例(3.9%),5剤が20例(0.7%)であった(図2).正常眼圧緑内障で経過観察中の症例,高眼圧症で緑内障性視神経症を認めず,視野が正常であるため経過観察のみ行っている症例,すでに濾過手術などの眼圧下降手術を施行してある症例などで,無投薬表1参加施設北海道ふじた眼科クリニック宮城県鬼怒川眼科医院埼玉県石井眼科クリニックやながわ眼科東京都お茶の水・井上眼科クリニックえづれ眼科江本眼科おおはら眼科おがわ眼科駒込みつい眼科とやま眼科中沢眼科医院西葛西井上眼科病院はしだ眼科クリニックみやざき眼科もりちか眼科クリニック後藤眼科社本眼科菅原眼科クリニック千葉県あおやぎ眼科おおあみ眼科のだ眼科麻酔科医院吉田眼科金山眼科高根台眼科神奈川県さいとう眼科眼科中井医院中川眼科熊本県むらかみ眼科クリニック沖縄県ガキヤ眼科(順不同・敬称略)NTG1,396例45.4%POAG996例32.4%PACG265例8.6%続発緑内障224例7.3%OH162例5.3%その他31例1.0%図1病型の内訳876あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(124)であったものが303例(9.9%)であった.使用薬剤の内訳は,プロスタグランジン関連薬が2,164例と圧倒的に多く,ラタノプロスト1,450例,タフルプロスト284例,トラボプロスト204例,ウノプロストン145例,ビマトプロスト81例で使用されていた(表2).すべてのb遮断薬ならびにab遮断薬合わせて1,493例で使用されていた.ゲル化チモロール411例,水溶性チモロール325例,持続型カルテオロール251例,カルテオロール122例,ニプラジロール121例などであった.炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬はブリンゾラミド392例,ドルゾラミド324例で使用されていた.炭酸脱水酵素阻害薬の内服薬は98例で使用されていた.単剤のみ使用している症例の使用薬剤は,ラタノプロスト560例(37.6%),タフルプロスト149例(10.0%),イオン応答ゲル化チモロール123例(8.3%),トラボプロスト119例(8.0%),ウノプロストン114例(7.7%),水溶性チモロール102例(6.9%)などであった(図3).2剤併用症例の組み合わせは,プロスタグランジン関連薬+b遮断薬が最も多く439例(58.6%),プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬は150例(20.0%),b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬は54例(7.2%)などであった(図4).今回の調査の結果を2007年の前回調査の結果10)と比較すると,病型(前回は正常眼圧緑内障47.4%,原発開放隅角緑内障34.3%,原発閉塞隅角緑内障7.2%,続発緑内障6.1%,表2使用薬剤の内訳PG関連薬ラタノプロストタフルプロストトラボプロストウノプロストンビマトプロスト1,450眼284眼204眼145眼81眼(2,164眼)b遮断薬(ab遮断薬含む)ゲル化チモロール水溶性チモロール持続型カルテオロールカルテオロールニプラジロールチモロールレボブノロール塩酸ベタキソロールb後発品ニプラジロール後発品411眼325眼251眼122眼121眼104眼75眼43眼26眼15眼(1,493眼)炭酸脱水酵素阻害薬ブリンゾラミドドルゾラミドアセタゾラミド392眼324眼98眼a1遮断薬塩酸ブナゾシン209眼副交感神経刺激薬ピロカルピン21眼交感神経遮断薬ジピべフリン25眼4剤120例3.9%5剤20例0.7%1剤1,396例48.4%2剤996例24.4%3剤393例12.8%0剤303例9.9%図2使用薬剤数PG関連薬+b遮断薬58.6%PG関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬20.0%その他21.4%図42剤併用例の内訳PG関連薬65.6%b遮断薬30.4%その他ベタキソロール1.3%4.0%カルテオロール1.6%持続性カルテオロール5.6%水溶性チモロール6.9%ゲル化チモロール8.3%ビマトプロスト2.4%トラボプロスト8.0%タフルプロスト10.0%ラタノプロスト37.6%ウノプロストン7.7%レボブノロール2.3%ニプラジロール3.7%b後発品0.7%図3使用薬物内訳(単剤例)(125)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011877高眼圧症3.7%)に違いはなかった.使用薬剤数(前回は平均1.5±1.0剤で,なし11.9%,1剤44.7%,2剤27.5%,3剤12.1%,4剤3.3%,5剤0.4%,6剤0.1%)に違いはなかった.単剤例の内訳は,前回はプロスタグランジン関連薬53.4%(ラタノプロスト47.6%,ウノプロストン5.8%),b遮断薬(ab遮断薬を含む)36.3%(カルテオロール9.7%,チモロール7.3%,ゲル化チモロール7.1%,ニプラジロール6.2%など)で,今回はプロスタグランジン関連薬(65.6%)が有意に増加し,b遮断薬(30.4%)が有意に減少した(p<0.0001).2剤併用例の内訳は,前回はプロスタグランジン関連薬+b遮断薬54.5%,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬15.6%で,今回はプロスタグランジン関連薬+b遮断薬58.6%は同等であったが,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬20.0%が有意に増加した(p<0.01).III考按今回の調査の緑内障病型は広義の原発開放隅角緑内障が約80%を占めた.正常眼圧緑内障は45.4%,狭義の原発開放隅角緑内障は32.4%であった.2000年から2001年に行われた多治見スタディ6)においても広義の原発開放隅角緑内障が約80%を占めており,今回と同様であった.広義の原発開放隅角緑内障の頻度は前回調査(2007年)と同様であり,広義の原発開放隅角緑内障患者が圧倒的に多く,10年間においてもその頻度が変わっていないことが判明した.緑内障の眼圧下降療法として薬物(点眼薬,内服薬),レーザー,手術があげられる.眼圧下降効果と副作用(合併症)を考えると,通常第一選択は薬物治療となる.しかし点眼薬の種類は非常に多種にわたりその選択は容易ではない.強力な眼圧下降作用と1日1回点眼の利便性を有するプロスタグランジン関連薬が第一選択薬として使用されることが近年多くなっている7~10).単剤を使用して眼圧下降効果が不十分な場合は,他剤に切り替えるか,他剤を追加投与することになる1).これをくり返していくと多剤併用症例となる.石澤らは大学病院における正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,偽落屑緑内障に対する薬物治療の実態を報告した7).使用薬剤数は1剤39%,2剤33%,3剤20%,4剤7%,5剤1.5%で,薬物数は3剤までで92%であった.平均使用薬剤数を計算すると2.0±1.0剤である.清水らは大学病院およびその関連病院における薬物治療の実態を正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,その他の緑内障の3つの群に分けて調査した8).使用薬剤数は正常眼圧緑内障では1剤60.6%,2剤29.8%,3剤9.6%で,原発開放隅角緑内障では1剤25.6%,2剤32.7%,3剤31.0%,4剤以上10.7%で,その他の緑内障では1剤23.0%,2剤37.8%,3剤31.1%,4剤以上8.1%で,薬物数は3剤までで90~100%であった.柏木らは慢性疾患診療支援システム研究会に登録された緑内障患者と国立大学病院で加療中の緑内障患者の2000年1月から2008年6月までの9年間の新規処方の実態を報告した9).患者当たりの年間緑内障点眼薬は検討期間中において1.5種類から2.2種類であった.今回と前回の調査から点眼薬を使用していない患者を除外すると,平均使用薬剤数は今回が1.7±0.9剤,前回が1.7±0.9剤である.大学病院やその関連病院と比べると平均使用薬剤数は一般眼科診療所や眼科専門病院では同等かやや少ない可能性がある.その理由として一般眼科診療所では緑内障手術を行っておらず,多剤併用例で手術適応の患者を紹介していることが考えられる.2剤併用例については,石澤らはプロスタグランジン関連薬+b遮断薬65.5%,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬12.6%,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬6.9%などと報告した7).清水らは正常眼圧緑内障ではプロスタグランジン関連薬+ab遮断薬42.2%,プロスタグランジン関連薬+b遮断薬29.7%,プロスタグランジン関連薬+a1遮断薬23.3%,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬6.7%,原発開放隅角緑内障ではプロスタグランジン関連薬+b遮断薬47.3%,プロスタグランジン関連薬+a1遮断薬20.0%,プロスタグランジン関連薬+ab遮断薬12.7%,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬12.7%などと報告した8).b遮断薬にab遮断薬を含めて考えると,前回調査の結果10)と過去の報告7,8)とは同様であった.今回の調査ではプロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が増加していた.その理由として,高齢化社会を迎え,b遮断薬にみられる呼吸器系や循環器系への全身性副作用が出現する心配が少ない炭酸脱水酵素阻害薬が使用されつつあることがあげられる.また,プロスタグランジン関連薬に追加投与した際の夜間の眼圧下降効果は,炭酸脱水酵素阻害薬がb遮断薬より強力である11,12)ことも一因と考えられる.前回と今回の調査の間に2年8カ月間の期間があり,この間に持続型カルテオロール(2007年7月発売),トラボプロスト(2007年10月発売),タフルプロスト(2008年12月発売),ビマトプロスト(2009年10月発売)が使用可能となった.柏木らはプロスタグランジン関連薬のうち2006年まではラタノプロストが全体の約90%を占めていたが,2008年ではラタノプロストは72.5%に低下し,トラボプロストが20%となったと報告した9).2007年に行った筆者らの前回調査10)においても単剤例でのプロスタグランジン関連薬のうち,ラタノプロストは89%で,今回はラタノプロスト67.0%,タフルプロスト13.1%,トラボプロスト9.4%であった.多種のプロスタグランジン関連薬が使用可能となり,プロスタグランジン関連薬全体の使用頻度は今後も増加することが,しかしラタノプロストの使用頻度は今後も減少することが予想されるが,最終的にどの点眼薬が最も使用される878あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(126)かは不明である.井上眼科病院(1,468例)と他の29施設(1,606例)を比較すると,男女比は井上眼科病院(男性46.3%,女性53.7%)のほうが他の施設(男性36.4%,女性63.6%)に比べ男性が多かった.平均年齢は井上眼科病院(64.7±13.3歳)のほうが他の施設(68.9±12.7歳)に比べ若かった.病型は井上眼科病院で原発開放隅角緑内障が,他の施設で原発閉塞隅角緑内障が多かった.緑内障手術既往例は井上眼科病院のほうが他の施設に比べ多かった.単剤使用例では井上眼科病院ではゲル化チモロール,ラタノプロストが,他の施設ではイソプロピルウノプロストン,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストが多かった.2剤併用症例では井上眼科病院と他の施設の間に差はなかった.井上眼科病院と他の施設の間に病型や使用薬剤に差がみられたが,その原因として緑内障手術を施行している井上眼科病院では重症例が多い可能性,井上眼科病院の患者は通院歴が長いために古くから使用されている薬剤が依然として使用されている可能性などが考えられる.今回は3,074症例全体の使用薬剤について調査を行った.緑内障の病型の違いによる使用薬剤に関しては前回調査13)同様に今回も現在解析中である.対象患者の眼圧については,各施設で眼圧の測定方法が異なるため,調査項目には入れなかった.今回の実態調査をまとめると,一般眼科診療所や眼科専門病院における緑内障患者の典型的患者像は(広義)原発開放隅角緑内障が多い,手術既往がない,プロスタグランジン関連薬単剤による治療を行っていることがわかった.2年8カ月前に行った前回調査と比較すると,単剤例ではプロスタグランジン関連薬がますます使用され,2剤併用例ではプロスタグランジン関連薬+b遮断薬の使用頻度が相変わらず高いが,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が増えてきた.謝辞:本調査に参加し,診療録の調査,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に,深く感謝します.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:fortheCIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,20014)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19985)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20026)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:fortheTajimiStudyGroupandJapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20047)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20068)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20069)柏木賢治,慢性疾患診療支援システム研究会:抗緑内障点眼薬に関する最近9年間の新規処方の変遷.眼薬理23:79-81,200910)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─.あたらしい眼科25:1581-1585,200811)TamerC,OksuzH:Circadianintraocularpressurecontrolwithdorzolamideversustimololmaleateadd-ontreatmentsinprimaryopen-angleglaucomapatientsusinglatanoprost.OphthalmicRes39:24-31,200712)LiuJH,MedeirosFA,SlightJRetal:Comparingdiurnalandnocturnaleffectsofbrinzolamideandtimololonintraocularpressureinpatientsreceivinglatanoprostmonotherapy.Ophthalmology116:449-454,200913)塩川美菜子,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼62:1699-1704,2008***