0910-1810/11/\100/頁/JCOPYIMALTリンパ腫すべての悪性リンパ腫に占めるMALTリンパ腫の割合は7?8%とされるが,眼付属器リンパ増殖性疾患のなかでは最も頻度が高い.MALTリンパ腫は節外性のB細胞リンパ腫であり,比較的小型な胚中心細胞様細胞(centrocyte-likecell)と中型で明るい胞体を示す単球様細胞(monocytoidcell)によって構成されるリンパ濾胞辺縁帯に存在する細胞に由来する.Dutcherbodyとよばれる免疫グロブリン貯留のために起こる核内偽封入体がしばしばみられる.結膜MALTリンパ腫では,腫瘍細胞が結膜上皮に浸潤し,上皮の変性と構造の破壊を伴うリンパ上皮病変(lymphoepitheliallesion)とよばれる所見を呈する.眼付属器のMALTリンパ腫は,病理組織学的にリンパ腫細胞がびまん性に増殖している場合(図1a)と,胚中心を有する二次濾胞が散在し,その濾胞間に異型リンパ球が増殖している場合の2つのパターンに分けることができる.リンパ腫細胞のほとんどが抗CD20抗体陽性細胞,すなわちB細胞由来である(図1b)が,抗CD3抗体陽性細胞であるT細胞の浸潤もみられる(図1c).MALTリンパ腫に限らず眼付属器悪性リンパ腫の大半がB細胞由来であることから,増殖するB細胞が腫瘍性病変に特有の単クローン性を示すか判断するうえで,免疫グロブリン遺伝子再構成を検索することが重要である.サザンブロッティング(Southernblotting)法はじめに眼付属器は結膜,眼瞼,涙器および眼窩組織から構成され,リンパ増殖性疾患の発生母地となりうる.眼付属器に発生するおもなリンパ増殖性疾患としては,粘膜関連リンパ組織(mucosa-associatedlymphoidtissue:MALT)リンパ腫や反応性リンパ組織過形成,また近年注目を浴びている免疫グロブリン(Ig)G4関連リンパ増殖性疾患があげられ,まれにみられるものとしてはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫,濾胞性リンパ腫,マントル細胞リンパ腫,NK(naturalkiller)/T細胞リンパ腫,木村氏病などがあげられる.近年の分子生物学的技法の進歩により,これら疾患の分子基盤が明らかにされつつある.リンパ増殖性疾患の生物学的性状を形態学的観察のみで判断することは困難なことも多いため,フローサイトメトリーによる細胞表面抗原の検索や,遺伝子検査,染色体分析などを行い,多くの検査所見を踏まえた総合的判断が重要となってくる.これらを理解することは,同じ病型でも予後が著しく異なる症例の機序解明に役立つ.眼付属器リンパ増殖性疾患の病態を理解することは,必要な検査のみを最小限組み合わせて診断を行い,効果的な治療を実施するうえで重要である.本稿では,日常診療において役に立つような視点から,各々の眼付属器リンパ増殖性疾患の病態と診断の実際について概説したい.(29)1397*YoshihikoUsui:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕臼井嘉彦:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1397?1403,2011眼付属器リンパ増殖性疾患の病態PathophysiologyinLymphoproliferativeDiseaseofOcularAdnexa臼井嘉彦*1398あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(30)る.フローサイトメトリーにおいても,B細胞における免疫グロブリン軽鎖(k鎖あるいはl鎖)の偏りを解析することによりB細胞の単クローン性増殖を証明することができる.生検組織の免疫染色でもある程度判定が可能であるが,複数の細胞表面抗原を迅速に定量解析できるフローサイトメトリーがより有用と思われる(図3).リンパ腫細胞はB細胞のマーカーであるCD19やCD20の発現が高い.単クローン性にB細胞が増殖しているとはいえ,組織中には腫瘍細胞のほか,腫瘍の抗原性により反応性T細胞や濾胞樹状細胞など多種の炎症細胞が混在し,解析方法によっては結果が大きく影響を受けるため解釈に注意を要する.最近,腫瘍組織に浸潤する炎症細胞の発現プロファイルが予後指標として有用であると報告1,2)されており,腫瘍周囲に浸潤する炎症細胞の解析も今後重要になっていく可能性がある.微量の腫瘍成分と反応性のリンパ球浸潤を伴っているような症例においても,PCR法により免疫グロブリン遺伝子再構成を検出できるが偽陰性も多い.これは反応性リンパ球が混在して腫瘍細胞の割合が少なくなっているためと考えられる.一方,図4に示すように,フローサイトメトリーでは微量の腫瘍成分の検出が可能である.MALTリンパ腫に特徴的な染色体異常としてトリソミー3の変化とt(11;18)(q21;q21),t(14;18)(q32;q21)およびt(1;14)(p22;q32)転座が報告されているが,眼付属器MALTリンパ腫に関しては一定の見解が得られておらず今後の検討が必要である3).による検索はB細胞においてはIgH遺伝子のJ領域(JH)をプローブとして用いることが多く,比較的多くの検体量を必要とする(図2).遺伝子を増幅し検出するPCR(polymerasechainreaction)法はSouthernblotting法よりも精度は低いものの,少量の検体で調べることができるため結膜悪性リンパ腫の検索に有用であabc図1眼窩MALTリンパ腫a:HE染色,b:抗CD20抗体による免疫染色,c:抗CD3抗体による免疫染色.異型性の少ない小型?中型のリンパ腫細胞がびまん性に増殖している.免疫染色より浸潤するリンパ腫細胞のほとんどがB細胞(CD20陽性細胞)であることがわかる.また,B細胞より数は少ないものの,反応性によるT細胞(CD3陽性細胞)浸潤もみられる.図2サザンブロット法による免疫グロブリン遺伝子H鎖JHの再構成の検索摘出した検体からB細胞の腫瘍性増殖によるバンド(矢印)がみられる.(31)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111399まれではあるが,自己免疫性甲状腺中毒症やSjogren症候群があると報告されている5).Sjogren症候群ではリンパ球が導管内に浸潤し破壊した後,lymphoepitheliallesionを形成し,それがリンパ腫の発生母地になることが推測されている.前述したように,本疾患の多くの症例ではCD20陽性のB細胞が単クローン性に増殖しているため,抗ヒトCD20モノクローナル抗体(rituximab)の局所注射による有用性が相ついで報告されている6,7).MALTリンパ腫は慢性炎症を基盤として発症すると推定されており,難治性の結膜炎では鑑別診断として必ず念頭に置いておく必要がある.また,眼付属器MALTリンパ腫の原因の一つとして感染症が考えられており,ピロリ菌,クラミジア,C型肝炎ウイルスとの関連が報告されている4).しかしながら,これについては否定的な追試報告もあり,わが国における検討が必要と思われる.さらに,MALTリンパ腫は自己免疫性疾患を基盤に発症することも示唆されている.欧米においては眼付属器MALTリンパ腫を発生する背景として,図3MALTリンパ腫におけるフローサイトメトリーによる細胞表面抗原解析この症例の腫瘍検体は細胞表面抗原解析の結果からCD19とCD20陽性細胞が80%以上を占め,l鎖に隔たりがあることがわかる.1400あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(32)構成を認め,そのため当初はMALTリンパ腫と診断した症例があったと報告している8).したがって,血清IgG4値やフローサイトメトリーを組み合わせて総合的にIgG4関連リンパ増殖性疾患の診断を行うことが重要である.フローサイトメトリーでは,多クローン性のCD19およびCD20陽性B細胞が多く検出されるが,免疫グロブリン軽鎖(k鎖あるいはl鎖)の偏りはみられない.眼付属器MALTリンパ腫と比較して,免疫染色の結果と同様にCD3やCD4陽性T細胞の割合が多いのも特徴的である(図6).IgG4関連リンパ増殖性疾患の腫瘍内ではヘルパーT細胞(Th)1サイトカインであるIFN(インターフェロン)-gとTh2サイトカイン〔IL(インターロイキン)-4,IL-5,IL-10,IL-13〕のmRNAの発現が高く,CD25陽性調節性T細胞が多く浸潤している.CD25陽性調節性T細胞はIL-10やTGF(transforminggrowthfactor)bを産生し,IL-10を介するB細胞のIgG4産生誘導の可能性や,線維化誘導のサイトカインであるTGFbによる線維化の機序が推測されている9).また,Th2サイトカインは好酸球浸潤やIgE産生に関与しており,IIIgG4関連リンパ増殖性疾患眼付属器に発生するIgG4関連リンパ増殖性疾患の病態は,膵臓,胆管,唾液腺,肺,乳腺および後腹膜などにも発生し,IgG4関連の一連の病態として近年注目されている.結膜に原発するIgG4関連リンパ増殖性疾患の報告はなく,発生しない理由は不明である.眼付属器では涙腺が両側対称性に腫大し,病理組織学的所見としては濾胞形成を伴うリンパ球と形質細胞の浸潤が多くみられ,間質には線維性硬化像が認められる(図5a).好酸球の浸潤も多いことから,木村氏病や好酸球性血管リンパ球増殖症(angiolymphoidhyperplasiawitheosinophilia)との鑑別も重要である.免疫染色ではIgG4陽性形質細胞が多数浸潤していることも特徴的である(図5b).また,血清IgG4値の上昇に加え血清IgEやIgG2値の上昇がみられる.抗CD20抗体陽性細胞(B細胞)が圧倒的に多いが,抗CD3抗体陽性細胞(T細胞)も比較的多くみられる(図5c,d).IgG4関連リンパ増殖性疾患では通常免疫グロブリン遺伝子再構成はみられないが,Satoらは17例中2例で免疫グロブリン遺伝子の再図4腫瘍細胞が検体中にわずかしか存在していないリンパ腫悪性リンパ腫の微小病変を検出するためにはgatingが必要であり,gatingをかけなければ腫瘍細胞を見落としてしまうことがある.本症例では,少数ではあるがB細胞のモノクローナリティがみられる〔gate(1)〕.(33)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111401多く,悪性リンパ腫と適切に鑑別することが臨床的に大切である.鑑別疾患である反応性リンパ組織過形成に副腎皮質ステロイド薬の効果がある他,MALTリンパ腫であっても前述のように炎症細胞の浸潤があるためステロイド治療により一時的に軽快することがあり,診断があいまいな状態でステロイド治療をはじめることは危険な可能性がある.III反応性リンパ組織過形成反応性リンパ組織過形成は,多クローン性のB細胞とT細胞を主体とした増殖により起こる.CheukらはIgG4関連リンパ増殖性疾患の組織像として反応性リンこれは病変部に多数の好酸球浸潤がみられ血清IgE値が上昇するというIgG4関連リンパ増殖性疾患の病態発生を支持するものである.しかし,IgG4関連リンパ増殖性疾患における血清IgG4やIgE値の上昇やIgG4陽性細胞浸潤は病態の結果である可能性もあり,その病態には謎が多く今後のさらなる研究が望まれる.IgG4関連リンパ増殖性疾患を基盤に悪性リンパ腫が発生したという報告8,10)やIgG4陽性細胞自体がリンパ腫となりうる可能性もある8).さらに他臓器病変の併発を念頭に置いた全身管理が必要なこともあるため注意深い経過観察が必要である.IgG4関連リンパ増殖性疾患は副腎皮質ステロイド薬により劇的な改善をみることがabcd図5眼窩IgG4リンパ増殖性疾患a:HE染色.濾胞形成と線維化を伴った密なリンパ球・形質細胞の浸潤がみられる.ところどころ好酸球の浸潤もみられる.b:IgG4免疫染色.IgG4陽性形質細胞の浸潤がびまん性かつ多数みられる.c:抗CD20抗体による免疫染色.CD20陽性細胞(B細胞)もたくさんみられる.d:抗CD3抗体による免疫染色.CD3陽性細胞(T細胞)の浸潤もみられる.1402あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(34)ン遺伝子再構成の検索なしに診断することは不可能である.わが国において反応性リンパ組織過形成症例中の約半数で自己免疫疾患(Sjogren症候群,Basedow病,全身性エリテマトーデス,水疱性類天疱瘡)を併発していたという報告13)があり,反応性リンパ組織過形成の病態に自己免疫的機序が推察され興味深い.IVびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫大型のリンパ腫細胞(その核が組織球の核より大きい,あるいは小型リンパ球の核の2倍以上)がびまん性に増殖し,胚中心あるいは胚中心後細胞の腫瘍である.パ濾胞過形成を示すものがあると報告11)しており,このような症例をHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色による病理組織学的検索で反応性リンパ過形成症例と鑑別することは困難である.IgG4関連リンパ増殖性疾患との鑑別は,免疫グロブリン遺伝子再構成やフローサイトメトリーによる検索では困難で,血清IgG4値や病理組織検索(IgG4陽性形質細胞浸潤の有無)により鑑別を行う.MALTリンパ腫の発生は反応性リンパ過形成を基盤とすることもあるため12),病理組織学的およびフローサイトメトリーによる細胞表面抗原の検索や免疫グロブリ図6眼窩IgG4リンパ増殖性疾患におけるフローサイトメトリーによる細胞表面抗原解析モノクローナルなB細胞集団は検出できず,k鎖およびl鎖陽性細胞の両者が混在している.あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111403びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫は成人の悪性リンパ腫では最も頻度の高い非Hodgkinリンパ腫であるが,眼付属器リンパ増殖性疾患ではまれである.遺伝子発現プロファイリングにより非常にheterogenousで不均一な疾患群であることが明らかにされており,そのため,B細胞マーカーであるCD19,CD20,CD22およびCD79aの発現がみられないことがあることに注意を要する.また,化学療法にrituximabを併用した治療経過中,CD20が腫瘍細胞表面に発現されなくなることもあるため,rituximab投与前にCD20が発現していることを確認する必要がある.おわりに代表的な眼付属器リンパ増殖性疾患の病態と診断に発症機序を踏まえてこれまでの報告を中心に概説した.眼付属器リンパ増殖性疾患における病態を把握することは,診断や治療を行ううえで非常に重要である.リンパ増殖性疾患の分子基盤が明らかになれば原因療法が可能になると考えられるので,検体の免疫学的形質や免疫グロブリン遺伝子再構成を検索することの臨床的な意義は非常に大きいと思われる.文献1)LenzG,WrightG,DaveSSetal:Stromalgenesignaturesinlarge-B-celllymphomas.NEnglJMed359:2313-2323,20082)DaveSS,WrightG,TanBetal:Predictionofsurvivalinfollicularlymphomabasedonmolecularfeaturesoftumor-infiltratingimmunecells.NEnglJMed351:2159-2169,20043)FrancoR,CamachoFI,CaleoAetal:Nuclearbcl10expressioncharacterizesagroupofocularadnexaMALTlymphomaswithshorterfailure-freesurvival.ModPathol19:1055-1067,20064)VermaV,ShenD,SievingPCetal:Theroleofinfectiousagentsintheetiologyofocularadnexalneoplasia.SurvOphthalmol53:312-331,20085)DecaudinD,deCremouxP,Vicent-SalomonAetal:Ocularadnexallymphoma:areviewofclinicopathologicfeaturesandtreatmentoptions.Blood108:1451-1460,20066)FerreriAJ,GoviS,ColucciAetal:Intralesionalrituximab:anewtherapeuticapproachforpatientswithconjunctivallymphomas.Ophthalmology118:24-28,20117)LaurentiL,DePaduaL,BattendieriRetal:IntralesionaladministrationofrituximabfortreatmentofCD20positiveorbitallymphoma:Safetyandefficacyevaluation.LeukRes,inpress8)SatoY,OhshimaK,IchimuraKetal:OcularadnexalIgG4-relateddiseasehasuniformclinicopathology.PatholInt58:465-470,20089)ZenY,FujiiT,HaradaKetal:Th2andregulatoryimmunereactionsareincreasedinimmunoglobinG4-relatedsclerosingpancreatitisandcholangitis.Hepatology45:1538-1546,200710)CheukW,YuenHK,ChanACetal:OcularadnexallymphomaassociatedwithIgG4+chronicsclerosingdacryoadenitis:apreviouslyunderscribedcomplicationofIgG4-relatedsclerosingdisease.AmJSurgPathol32:1159-1167,200811)CheukW,YuenHK,ChuSYetal:LymphadenopathyofIgG4-relatedsclerosingdisease.AmJSurgPathol32:671-681,200812)JakobiecFA:Ocularadnexallymphoidtumors:progressinneedofclarification.AmJOphthalmol145:718-720,200713)KubotaT,MoritaniS:HighincidenceofautoimmunediseaseinJapanesepatientswithocularadnexalreactivelymphoidhyperplasia.AmJOphthalmol144:148-149,2007(35)