0910-1810/10/\100/頁/JCOPY×.2.0D).初診時トポグラフィ(図1a):弱主経線=右眼43.05D,左眼42.45D.トライアルレンズ:右眼43D,左眼42.5Dを選択.トライアルレンズ装用30分後,視力=右眼0.6,左眼0.5.トライアルレンズ貸し出しする.トライアルレンズ3日間使用後トポグラフィ(図1b):視力=右眼0.4p,左眼0.4p,明らかにレンズが下方に偏位しており裸眼視力に影響している.トライアルレンズ:右眼43.5D,左眼43.0Dに変更.レンズ変更後のトポグラフィ(図1c):視力=右眼0.8,左眼1.0.レンズのセンタリングもよくなり本人の満足も得られる.これを元にレンズを注文する.現在のトポグラフィ(図1d):視力=右眼0.9,左眼0.8,両眼1.2.近方視力=右眼0.9,左眼1.0.症例1総括:この症例では,レンズが下方に偏位していたためベースカーブの変更を行った.最後に示したトポグラフィを見ると,強く矯正されているようにはみられないが,本人はこの状態で遠近両方快適に見ることができ,非常に満足されている.〔症例2〕37歳,女性,看護師(3交代),眼疾患なし.初診時視力:右眼0.1(1.2×.5.0D),左眼0.1(1.5×.4.25D).初診時トポグラフィ(図2a):弱主経線=右眼42.67D,左眼42.61D.トライアルレンズ:右眼42.5D,左眼42.5Dを選択.はじめにオルソケラトロジーレンズが認可されわが国においても今後普及していくことが予測される.すでにオルソケラトロジーを始められている方,これから始められる方の参考になるよう,実際の症例を提示して効果判定とレンズケアについて解説する.I実際の症例オルソケラトロジー適応範囲は限定されるという認識をもって処方に臨んだほうがいい.オルソケラトロジーによってひき起こされる角膜の変化を考えても,角膜上皮による矯正効果と考える以上,矯正範囲がLASIK(laserinsitukeratomileusis)などその他の屈折矯正法に比較して乏しいのは当然といえる.ガイドラインで発表されている矯正量を守って処方すれば,たいていの場合うまくいくことが多い.オルソケラトロジーレンズは選択幅も少なく,基本的に初回のトライアルで適応不適応を明確に判断して無理をしなければ,かなりスムーズによい矯正が得られる.しかしながらここでは敢えて処方に苦慮,工夫した症例を提示して詳細を述べることとする.それらを参考に今後の経過観察に参考にしていただけたらと思う.すでに“適応と処方の実際”については解説されているので,ここでは通常の症例提示は割愛させていただくこととする.〔症例1〕40歳,女性,教師,眼疾患なし.初診時視力:右眼0.2(1.5×.2.25D),左眼0.1(1.5(31)1513*TomokoGoto:鷹の子病院眼科〔別刷請求先〕五藤智子:〒790-0925松山市鷹子町525番地1鷹の子病院眼科特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1513.1518,2010効果判定とレンズケア対策Orthokeratology:EvaluationofEfficacyandLensCare五藤智子*1514あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(32)位が著しく,特に右眼は適当な矯正効果が得られず困った.ベースカーブを変更して試みも行ったが,院内で静かに寝てもらうのと自宅で就寝時のセンタリングに差があり,かなり苦慮した.この段階までくると,不適応としてオルソケラトロジーを中止することも考慮したほうがいい.しかし,当症例においては希望が強く最終的にはレンズ径を大きくすることで良好な矯正が得られた.左眼についても今後レンズ径を大きくすることを検討している.〔症例3〕32歳,女性,教師,アレルギー性結膜炎,ドライアイ加療中.1dayCL使用.右角膜下方にはスマイルマークパターンSPK(点状表層角膜炎)を認め,両眼とも軽い充血がある.初診時視力:右眼0.06(1.5×.6.25D),左眼0.15トライアルレンズ装用30分後(図2b):視力=右眼0.1,左眼0.2.視力はほとんど変わらなかったものの,トポグラフィ上矯正が得られたと判断し,レンズ注文とする.オルソレンズ使用1カ月後(図2c):視力=右眼0.3,左眼1.2.“起床時右眼のレンズがかなり内側に偏位している”との訴えあり,見え方も左眼と比べると悪い.3交代勤務のため装着時間が不規則である.トポグラフィ上は両眼とも偏位がみられるが,自覚症状の悪い右眼だけレンズを大きくして再処方する.再処方後(図2d):視力=右眼1.2p,左眼1.2p,両眼1.2.症例2総括:トライアルレンズ使用時は比較的センタリングが良かったのに,注文レンズ装用後はレンズ偏acbd図1症例1のトポグラフィa:初診時トポグラフィ,b:トライアルレンズ3日使用後,c:レンズベースカーブ変更後,d:センタリングの改善がみられる.(33)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101515うまくいった.昼間裸眼で過ごせるため点眼を効果的に使用することができ,アレルギー,ドライアイ症状が容易にコントロールできるようになった.本人もこれまで悩んできた充血が解消したことを非常に喜んだ.IIレンズケア対策海外におけるオルソケラトロジーレンズ普及は,わが国とは比べ物にならないほどである.それと同時に重大な眼感染症の報告も散見され,従来のコンタクトレンズ使用に比べてよりリスクが高いことや,オルソケラトロジーレンズへの菌の付着などがつぎつぎと報告されている.用いるレンズ素材はこれまで長年われわれが処方してきたものと同等であるので,そのレンズの安全性はあ(1.5×.3.0D).初診時トポグラフィ(図3a):弱主経線=右眼43.55D,左眼43.32D.トライアルレンズ:右眼43.5D,左眼43.0Dを選択.30分装用後(図3b):視力=右眼0.4p,左眼0.7p.注文レンズ使用3カ月後(図3c):視力=右眼1.5p,左眼1.0p.症例3総括:右眼矯正量が多いため起こりうる合併症について注意深く説明した.この症例はアレルギー性結膜炎とドライアイに悩みながらCLを使用しており,CLを使用せずきっちり点眼すれば一連の症状は軽快するも,職業柄眼鏡装用はむずかしいことよりオルソケラトロジーの希望が強かった.マニュアルどおりに矯正はacbd図2症例2のトポグラフィa:初診時トポグラフィ,b:トライアルレンズ装用30分後,c:注文レンズ使用1カ月後,d:レンズ径を変更した後.1516あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(34)ンズ周囲に汚れが付着しやすいのに対して,オルソケラトロジーレンズは涙液貯留部位であるリバースカーブの部分に汚れが付着しやすい傾向がある.レンズ保存液に浸して汚れがふやければ従来のこすり洗いだけで十分だる程度担保されているといえるが,就寝中,つまり閉瞼下での使用ということでは決定的に異なり,正しく安全にオルソケラトロジーを施していくためには,注意深い眼の観察と患者へのケア指導が必要不可欠である.まずレンズの取り扱いは従来のハードコンタクトレンズ(ガス透過性レンズ)と同様で,違いは昼夜逆転することである.昼レンズを装用する従来の使い方ではその間,つまり昼にレンズケースを乾燥させるが,オルソケラトロジーの場合は夜装着するので,就寝中にレンズケースを空にしてきっちり乾燥させておく必要がある.使用したレンズをケースに戻すときには,必ず丁寧にこすり洗いをしてケースに戻す.しかし本当に従来の洗浄の仕方でいいのだろうか?これは今後わが国でも注意深く観察していくべき問題である.レンズの汚れ方の違いを図4a,bに示す.従来のハードコンタクトレンズはレacb図3症例3のトポグラフィa:初診時トポグラフィ.b:トライアルレンズ装用30分後.c:注文レンズ使用3カ月後.図4a通常ガス透過性コンタクトレンズ汚れを染色したもの図4bオルソケラトロジーレンズリバースカーブに汚れが目立つ.(35)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101517性格など個人差があるということと,使用し始めて長年が経過するとケアがおざなりになりやすいということである.これはオルソケラトロジーに限らず言えることだが,処方時のケア法の指導はもちろんのこと,その後の定期的なケアの再教育もぜひ継続していただきたい.IIIレンズケア用品について従来のハードコンタクトレンズと素材は同じであることからこれまで使用されてきたもので十分対応できる.しかしレンズ内面の構造が多段カーブとなっており構造上汚れが蓄積されやすい.定期検査で汚れが目立つようであればこれまでの洗浄法,洗浄液などの見直しや工夫が必要となる.これらは今後学会などを通じてそれぞれの施設がデータや症例を集積し,より良い特殊レンズケアがなされるようフィードバックしていかなければならない事項である.わが国ではオルソケラトロジー使用者であっても感染リスクが通常レンズと変わらないということになっていけば,まさに非常に管理の行き届いた優良な医療が行われていることの証明にもなりうる(ちょっと言い過ぎか…).また,研磨剤単独での使用はレンズへの影響を考えて控えるよう指導されている.今後は動向をみて特殊レンズについてはハードレンズといえども消毒の必要性も含めて見解の見直しをしていく必要があるかもしれない.IVアレルギー性結膜炎で点眼を使用している症例においてオルソケラトロジーレンズの装用は就寝中であることより,日中の点眼が処方箋どおり十分可能となる.特にコンタクトレンズを昼間装着していた症例では,オルソケラトロジーに移行することでしっかりした点眼が可能となり,充血,かゆみなどの症状が軽くなる場合が多い.しかしこれらはあくまでも軽症例に当てはまることであり,重症のアレルギー性結膜炎や活動性の高い乳頭が大きく育っているような症例ではそちらの加療を優先して治療目的以外のコンタクトレンズ装用は差し控えたほうがいい.というならいいが,実際に使用したレンズの残留した汚れをみると,ここに菌が付着増殖し薄くなった角膜上皮に毎日接種されているのだと思うと気持ちのいいものではない.このようなレンズの形状の特徴は使用者にも十分理解させ,たとえば細めの綿棒を用いた洗浄法などの工夫も必要と思われる.つぎに,レンズケースの汚染状況を調べたデータを示し,もう少し考察を加えてみる.図5aに示すのが従来のハードコンタクトレンズ使用者のレンズケースを回収し汚染状況をみたもので,図5bがオルソケラトロジー使用者のものである.一見してわかるようにこのグラフを単純に比較するとオルソケラトロジーのほうが圧倒的に菌の検出が少ないということになりそうだが,筆者らはまったくそのように考えていない.従来のCL使用者は使用年数が長年にわたっており,処方された場所もばらばらであり,たまたま別の疾患で当院を訪れた人と定期検査に来ている人とが混ざっている.一方,オルソケラトロジーのほうは,すべて当院で処方され管理されている症例である.つまりレンズケース汚染は,使用者の■:Negative■:CandidaCandidaNegative図5bオルソケラトロジー使用者レンズケース汚染状況NegativeCNSSerratia■:Negative■:CNS(コアグラーゼ陰性菌)■:Serratia■:Klebsiella■:PseudomonasKlebsiellaPseudomonas図5a通常ガス透過性CL使用者レンズケース汚染状況1518あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(36)も近視矯正のなかの一部を担うものであり,その範囲はかなり限定されるという認識をもって取り扱うことが正しく広めるために不可欠である.おわりに新しい施術や概念が導入されたとき,われわれはどうするか?どんな事柄にでも弱点はつきものである.わが国ではオルソケラトロジーを眼科専門医が扱うこととなっている.ぜひ注意深い観察をしていただき,今後の見解にフィードバックしていただけたら幸いである.文献1)KimEC,KimMS:BilateralAcanthamoebakeratitisafterorthokeratology.Cornea29:680-682,20102)WattK,SwarbrickHA:Microbialkeratitisinovernightorthokeratology:reviewofthefirst50cases.EyeContactLens31:201-208,20053)ChooJD,HoldenBA,PapasEBetal:AdhesionofPseudomonasaeruginosatoorthokeratologyandalignmentlenses.OptomVisSci86:93-97,20094)LadagePM,YamamotoN,RobertsonDMetal:Pseudomonasaeruginosacornealbindingafter24-hourorthokeratologylenswear.EyeContactLens30:173-178,2004Vコンタクトレンズをすると乾燥感がある症例涙液減少型の重症ドライアイとして加療を受けている場合はコンタクトレンズ装用自体が向かない.しかしコンタクトレンズ装用時のみに乾燥感がある程度であれば十分オルソケラトロジーをすることはできる.あくまでも検査,診察したうえでの判断となる.オルソケラトロジーは閉瞼下での装用であることより,瞬目に伴う涙液の動態,角結膜とコンタクトレンズの摩擦はかなり減る.日中は裸眼となるので,軽度のドライアイやコンタクトレンズ下での乾燥感をもつ程度の症例ではかえって楽になる場合が多い.しかし就寝中の乾燥には配慮がいる.起床してレンズを外す場合かなり固着していることもあるので,人工涙液を点眼してから外すほうが角膜上皮への負担が軽減される.十分に個々の病態や問題点を把握したうえで医師の裁量権の下処方されることは新たな恩恵をもたらす結果ともなりうる.しかしながら改めて申し上げるが,ガイドラインに沿った処方を徹底することが,スムーズな矯正,診療の助けとなる.オルソケラトロジーはあくまで